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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20240228BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240228BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20240228BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20240228BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20240228BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240228BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20240228BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240228BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20240228BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20240228BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20240228BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240228BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/10 900
B60W10/30 900
B60W20/00 900
F02D29/06 D
F16H61/02
F16H61/68
F16H59/68
F16H59/44
B60L15/20 K
B60L1/00 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021058719
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155290
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 正弥
(72)【発明者】
【氏名】楫山 勇次
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055337(JP,A)
【文献】特開2010-266026(JP,A)
【文献】特開2004-036670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0108388(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
F02D 29/06
F16H 61/02
F16H 61/68
F16H 59/68
F16H 59/44
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、
入力部材と、車輪に駆動連結された出力部材と、を有し、前記入力部材と前記出力部材との間の変速比を変更可能な変速機構と、
前記回転電機と前記入力部材との間に介在され、係合圧の給排によって前記回転電機と前記入力部材との動力伝達を接断可能な摩擦係合要素を有する摩擦係合装置と、
前記回転電機と前記摩擦係合装置とを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記係合圧を、前記摩擦係合要素が係合を開始する係合開始圧となるように制御しつつ、前記回転電機を駆動させて前記摩擦係合要素が係合開始した際の前記回転電機の駆動状態の変化により前記係合開始圧を学習する学習制御を、前記入力部材が回転不能に固定された状態である場合に実行し、
前記摩擦係合装置は、シリンダ部材と、前記シリンダ部材に対して軸方向に移動可能に配置され、前記シリンダ部材との間に作動油室を形成し、前記作動油室に供給される油圧により前記摩擦係合要素を押圧可能なピストン部材と、を有する油圧サーボを有し、
前記油圧サーボは、前記ピストン部材に対して軸方向の一方側に対向配置され、前記作動油室に生じる遠心油圧に対向する対向油室を形成する対向部材を有し、
前記制御装置は、
前記摩擦係合要素が係合した状態から前記学習制御を実行する場合において、前記係合圧を、学習されていた前記係合開始圧よりも所定圧低い圧になるように調整する準備フェーズと、前記係合圧を、徐々に上昇して前記摩擦係合要素を係合開始させることで前記係合開始圧の学習を行う学習フェーズと、を実行し、
前記対向油室に油を充填してから前記学習フェーズを実行する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記入力部材が回転不能に固定された状態は、前記変速機構において前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路が形成された状態で、かつ、車両が停車している状態である、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機により駆動される機械式オイルポンプと、
前記機械式オイルポンプとは独立して駆動可能な電動オイルポンプと、
前記電動オイルポンプにより発生した油圧がライン圧に用いられる第1状態と、前記機械式オイルポンプにより発生した油圧が前記ライン圧に用いられ、かつ、前記電動オイルポンプにより発生した油圧が前記摩擦係合要素の潤滑に用いられる第2状態と、に切替可能な油圧制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
車両の発進時に前記摩擦係合要素を係合する場合に、前記油圧制御装置を前記第2状態として、前記電動オイルポンプの吐出量を第1吐出量とし、
前記学習制御により前記係合開始圧の学習を行う場合に、前記油圧制御装置を前記第2状態として、前記電動オイルポンプの吐出量を前記第1吐出量より少ない第2吐出量とする、
請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、例えば自動車等の車両に搭載される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンと、モータ・ジェネレータ(以下、単に「モータ」という)と、エンジンとモータとの間に介在されたエンジン接続クラッチと、モータ及び前輪の間に介在された変速機構と、を備えた所謂1モータパラレル式のハイブリッド車両が開発されている(特許文献1参照)。このハイブリッド車両では、エンジン接続クラッチの係合開始圧を学習するために、以下のような制御を行っている。
【0003】
まず、車両がEVモードであって、変速機構がPレンジ又はNレンジで停車している状態とする。この状態において、モータを回転速度制御し、エンジンを回転させない程度のモータトルクの範囲内で回転させ、エンジン接続クラッチに差回転を発生させる。そして、エンジン接続クラッチを解放状態から徐々に係合状態に変化させ、係合した時点でのモータのトルクの変化量に基づいて、エンジン接続クラッチの係合開始圧を学習する学習制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-213704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、1モータパラレル式のハイブリッド車両において、モータと変速機構との間に、例えば摩擦係合要素からなる発進クラッチを備えたものが開発されている。この場合、発進クラッチについても、エンジン接続クラッチと同様の手法によって係合開始圧を学習することが望まれる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッド車両では、変速機構がPレンジ又はNレンジで停車している状態でエンジン接続クラッチの係合開始圧の学習制御を実行しているので、それを発進クラッチに適用すると、学習制御中のモータの回転時に発進クラッチで発生した引き摺りトルクによって変速機構の入力部材が連れ回ってしまう虞がある。入力部材が連れ回ってしまうと、発進クラッチの係合開始時におけるモータのトルクの変化を得ることが困難になり、発進クラッチの係合開始圧を学習できない可能性があった。
【0007】
そこで、発進クラッチの係合開始圧を学習可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本車両用駆動装置は、回転電機と、入力部材と、車輪に駆動連結された出力部材と、を有し、前記入力部材と前記出力部材との間の変速比を変更可能な変速機構と、前記回転電機と前記入力部材との間に介在され、係合圧の給排によって前記回転電機と前記入力部材との動力伝達を接断可能な摩擦係合要素を有する摩擦係合装置と、前記回転電機と前記摩擦係合装置とを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記係合圧を、前記摩擦係合要素が係合を開始する係合開始圧となるように制御しつつ、前記回転電機を駆動させて前記摩擦係合要素が係合開始した際の前記回転電機の駆動状態の変化により前記係合開始圧を学習する学習制御を、前記入力部材が回転不能に固定された状態である場合に実行し、前記摩擦係合装置は、シリンダ部材と、前記シリンダ部材に対して軸方向に移動可能に配置され、前記シリンダ部材との間に作動油室を形成し、前記作動油室に供給される油圧により前記摩擦係合要素を押圧可能なピストン部材と、を有する油圧サーボを有し、前記油圧サーボは、前記ピストン部材に対して軸方向の一方側に対向配置され、前記作動油室に生じる遠心油圧に対向する対向油室を形成する対向部材を有し、前記制御装置は、前記摩擦係合要素が係合した状態から前記学習制御を実行する場合において、前記係合圧を、学習されていた前記係合開始圧よりも所定圧低い圧になるように調整する準備フェーズと、前記係合圧を、徐々に上昇して前記摩擦係合要素を係合開始させることで前記係合開始圧の学習を行う学習フェーズと、を実行し、前記対向油室に油を充填してから前記学習フェーズを実行する。
【発明の効果】
【0009】
本車両用駆動装置によると、発進クラッチの係合開始圧を学習することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る車両用駆動装置を示すブロック図である。
図2】本実施の形態に係る発進クラッチの油圧サーボを示すスケルトン図である。
図3】本実施の形態に係る小潤滑状態における油圧制御装置の一部を示す油圧回路図である。
図4】本実施の形態に係る大潤滑状態における油圧制御装置の一部を示す油圧回路図である。
図5】本実施の形態に係る車両用駆動装置における学習制御の処理手順を示すタイムチャートである。
図6】本実施の形態に係る車両用駆動装置における学習制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態を図1図6を用いて説明する。まず、図1に沿って、車両用駆動装置の一例であるハイブリッド駆動装置1の概略構成について説明する。本実施形態では、駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、あるいはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
【0012】
図1に示すように、ハイブリッド駆動装置1は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプの車両に用いて好適であり、駆動源としてのエンジン2に入力軸1Aが駆動連結されている。また、ハイブリッド駆動装置1は、ケース6の内部に、ステータ3a及びロータ3bを有する駆動源としての回転電機(モータ・ジェネレータ)MGと、エンジン2及びモータMGと車輪9との間の動力伝達経路上に設けられる変速機構5と、動力伝達経路上のエンジン2とモータ・ジェネレータ(以下、単にモータという)MGとの間に配置され、エンジン2を切離すことが可能なエンジン接続クラッチとしてのクラッチK0と、動力伝達経路上のモータMGと変速機構5との間に配置され、エンジン2及びモータMG(つまり駆動源)と変速機構との動力伝達を接断可能であって、特に車両の発進時に係合される摩擦係合装置の一例である発進クラッチWSCと、制御装置(ECU)31と、を備えている。尚、ハイブリッド駆動装置1は、FRタイプの車両に適用することには限られず、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの車両に用いるようにしてもよい。
【0013】
モータMGと発進クラッチWSCとの軸方向の間には、モータMGに駆動連結された回転軸1Bに駆動連結され、クラッチK0が係合されることによってエンジン2にも駆動連結されることで、モータMGとエンジン2との少なくとも一方で駆動される機械式オイルポンプ21が備えられている。また、回転軸1Bは、ケース6に支持された支持壁6aに対してベアリングB1によって回転自在に支持されている。なお、図示を省略したが、通常、エンジン2とクラッチK0との間には、エンジン2の脈動を吸収しつつその回転を伝達するダンパ装置等が備えられている。
【0014】
変速機構(T/M)5は、入力部材の一例である入力軸5aと、車輪9に駆動連結された出力部材の一例である出力軸5bと、を有し、入力軸5aと出力軸5bとの間の変速比を変更可能である。変速機構5は、複数の摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)の係合状態に基づき伝達経路を変更し、例えば前進6速段及び後進段を達成し得る変速機構からなる。本実施の形態では、変速機構5は、シフトレンジとして、前進レンジ(Dレンジ)及び後進レンジ(Rレンジ)の走行レンジ、パーキングレンジ、ニュートラルレンジを有している。変速機構5の入力軸5aは、連結部材101(図2参照)を介して発進クラッチWSCに駆動連結されている。変速機構5の出力軸5bにはプロペラシャフト8が駆動連結されており、プロペラシャフト8に出力された回転は、ディファレンシャル装置等を介して左右の車輪9に伝達される。
【0015】
なお、変速機構5としては、例えば前進3~5速段や前進7速段以上を達成する有段変速機構であってもよく、また、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機などの無段変速機構であってもよく、つまりどのような変速機構であっても構わない。
【0016】
制御装置31は、CPU32と、データを一時的に記憶するRAM33と、処理プログラムを記憶するROM34と、を備えており、油圧制御装置40の各ソレノイドバルブへの制御信号、エンジン2の制御装置(不図示)への制御信号、モータMGへの制御信号等、各種の信号を出力ポートから出力するようになっている。また、制御装置31の入力ポートからは、後述する油圧スイッチ62(図3参照)等の各種センサからの検出信号が入力されるように構成されている。例えば、制御装置31は、モータMGの回転軸1Bの回転速度、つまりモータ回転速度を検出する不図示のモータ回転速度センサ71に接続されている。また、制御装置31は、変速機構5の入力軸5aの回転速度を検出する不図示の入力回転速度センサと、変速機構5の出力軸5bの回転速度、つまり出力回転速度を検出する不図示の出力回転速度センサに接続されており、出力回転速度センサの検出値を用いて車速を検出することができる。
【0017】
制御装置31は、不図示のエンジン制御装置を介してエンジン2に指令し、エンジン回転速度やエンジントルクを自在に制御する。制御装置31は、油圧制御装置40に指令し、クラッチ油圧を調圧制御することでクラッチK0の摩擦係合状態を自在に制御する。即ち、制御装置31は、クラッチK0の係脱を電気指令により制御する。制御装置31は、モータMGを電力制御し、回転速度制御によるモータ回転速度の制御やトルク制御によるモータトルクの制御を自在にする。制御装置31は、油圧制御装置40に指令し、クラッチ油圧を調圧制御することで発進クラッチWSCの摩擦係合状態を自在に制御する。即ち、制御装置31は、発進クラッチWSCの係脱を電気指令により制御する。制御装置31は、例えば車速やアクセル開度に基づき変速段を選択判断し、油圧制御装置40に指令し、各摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)を油圧制御して、変速制御(変速比の変更)を行うように制御する。
【0018】
以上のようなハイブリッド駆動装置1は、エンジン2側から車輪9側に向かって、クラッチK0、モータMG、発進クラッチWSC、変速機構5が順次配置されており、エンジン2及びモータMGの両方、或いはエンジン2を駆動させて車両を走行させる場合には、制御装置31によって油圧制御装置40を制御してクラッチK0及び発進クラッチWSCを係合させ、モータMGの駆動力だけで走行するEV走行時には、クラッチK0を解放して、エンジン2と車輪9との伝達経路を切り離すようになっている。
【0019】
また、ハイブリッド駆動装置1には、油圧制御装置40において用いる油圧(元圧)を発生するための油圧発生源としての機械式オイルポンプ(MOP)21と電動オイルポンプ(E-OP)22とが備えられている。機械式オイルポンプ21は、上記回転軸1Bにドライブギヤが駆動連結するように備えられており、つまり、機械式オイルポンプ21は、クラッチK0が係合されている場合、エンジン2とモータMGとに連動して回転駆動され、クラッチK0が解放されている場合、モータMGに連動して回転駆動される。一方の電動オイルポンプ22は、機械式オイルポンプ21とは無関係に独立して不図示の電動モータで電動で駆動可能なように構成されており、制御装置31からの電子指令に基づき、駆動・停止制御される。なお、油圧制御装置40の内部には、油温を検出する油温センサ41が備えられており、検出した油温は制御装置31に出力されるように構成されている。また、電動オイルポンプ22を駆動する不図示の電動モータは、電動オイルポンプ22の駆動のみに用いられ、エンジン2と車輪9との伝達経路から完全に独立し、車輪9に駆動力を伝達しないものである。
【0020】
発進クラッチWSCは、係合圧の給排によってモータMGと入力軸5aとの動力伝達を接断可能な摩擦係合要素を有する摩擦係合装置の一例である。図2に示すように、発進クラッチWSCは、摩擦係合要素の一例である摩擦板91と、摩擦板91を押圧駆動して係合自在にする油圧サーボ90とを有している。摩擦板91は、複数の外摩擦板91a及び複数の内摩擦板91bを有している。油圧サーボ90は、シリンダ部材92、ピストン部材93、対向部材の一例であるリターンプレート94、リターンスプリング95を有しており、これらにより、作動油室96及び対向油室の一例であるキャンセル油室97を構成している。シリンダ部材92の内周端部は、モータMGの回転軸1Bに固着されており、つまり油圧サーボ90は、回転軸1B上に配置され、該回転軸1Bと一体に回転するように配置されている。シリンダ部材92の外周端部は、摩擦板91の外周側まで軸方向に延びており、内周側が外摩擦板91aにスプライン係合している。このシリンダ部材92の先端部には、スナップリング99が嵌合されており、摩擦板91の図中右方向への移動が規制されている。
【0021】
シリンダ部材92の図中右側は、ピストン部材93と対向する部分が、作動油室96を構成するためのシリンダとして形成されている。また、シリンダ部材92には、ピストン部材93が軸方向に摺動自在に嵌合されていると共に、リターンプレート94がスナップリング98によって位置決めされる形で配設されている。ピストン部材93は、シリンダ部材92の図中右側に対向して軸方向に移動自在に配置されており、シリンダ部材92との間に油密状の作動油室96を構成している。また、ピストン部材93の外周側は摩擦板91に軸方向に対向配置されている。即ち、ピストン部材93は、シリンダ部材92に対して軸方向に移動可能に配置され、シリンダ部材92との間に作動油室96を形成し、作動油室96に供給される油圧により摩擦板91を押圧可能である。リターンプレート94は、ピストン部材93との間に、リターンスプリング95が縮設されると共に油密状のキャンセル油室97を構成している。尚、リターンプレート94は、リターンスプリング95の付勢力に基づき図中右側に常時付勢されて、つまりシリンダ部材92に対して固定された状態となっている。即ち、リターンプレート94は、ピストン部材93に対して軸方向の一方側に対向配置され、作動油室96に生じる遠心油圧に対向するキャンセル油室97を形成する。
【0022】
以上のように構成された発進クラッチWSCは、油圧制御装置40から不図示の油路を介して作動油室96に作動油圧が供給されると、リターンスプリング95の付勢力に抗してピストン部材93を図中右側に押圧駆動し、摩擦板91を係合させ、シリンダ部材92及び回転軸1Bと変速機構5の入力軸5aとを回転方向に駆動連結する。反対に、作動油室96から作動油圧が排出されると、キャンセル油室97の油により作動油室96の遠心油圧がキャンセルされつつリターンスプリング95の付勢力によりピストン部材93が後方側に移動し、摩擦板91を解放させる。
【0023】
発進クラッチWSCやクラッチK0の係脱状態は、油圧の大きさで制御され、摩擦板91同士が離れた「解放状態」、スリップしつつ伝達するトルク容量を生じる「スリップ係合状態」、油圧を可能な限り大きくして摩擦板91同士を締結した「完全係合状態」に分けられる。なお、「スリップ係合状態」は、解放状態からピストン部材93がストロークして摩擦板91に接触するストロークエンドとなってから、摩擦板91同士の回転速度が同期するまでの間と定義でき、「解放状態」は、ピストン部材93がストロークエンド未満となって摩擦板91から離れた状態と定義できる。また、解放状態からピストン部材93がストロークして摩擦板91に接触するストロークエンドになるときの係合圧を係合開始圧(ストロークエンド圧)と定義する。
【0024】
ついで、本実施の形態に係る油圧制御装置40について図3及び図4に沿って説明する。なお、図3及び図4は油圧制御装置40を示す図で、図3は通常状態(小潤滑状態)、図4は大潤滑状態を示している。
【0025】
油圧制御装置40は、図3に示すように、大まかに、プライマリレギュレータバルブ42、セカンダリレギュレータバルブ43、ソレノイドバルブSRL1、ソレノイドバルブSRL2、第1潤滑切換えバルブ44、第2潤滑切換えバルブ45等を備えて構成されている。また、油圧制御装置40は、油圧発生源としての機械式オイルポンプ21及び電動オイルポンプ22に接続されて油圧が供給されると共に、クーラー70に連通するように接続されている。さらに、油圧制御装置40は、図1中の矢印Aで示すように発進クラッチWSCに向けて潤滑油を供給する第1潤滑回路81、図1中の矢印Cに示すようにモータMGの外周側に向けて潤滑油を供給する第2潤滑回路82、図1中の矢印Bに示すようにクラッチK0とモータMGの内周側とベアリングB1とに向けて潤滑油を供給する第3潤滑回路83、図1中の矢印Dに示すように変速機構5の各部位に向けて潤滑油を供給する第4潤滑回路84に、それぞれ連通するように接続されている。
【0026】
詳細には、電動オイルポンプ22は、制御装置31の指令によって駆動された際に、ストレーナ20から油を吸入して、油路b1,b2に油圧PEOPを発生させ、後述の第1潤滑切換えバルブ44の入力ポート44cに油圧PEOPを供給し、後述の第1潤滑切換えバルブ44のスプール44pが図中上位置にある場合は、出力ポート44eから油路a6,a4,a2を介してプライマリレギュレータバルブ42の調圧ポート42dに連通し、つまり電動オイルポンプ22が発生する油圧PEOPがライン圧回路に供給される。
【0027】
なお、油路b1と油路b2との間に介在するチェックボール53は、プライマリレギュレータバルブ42により調圧されるライン圧PLが、電動オイルポンプ22が出力する油圧PEOPよりも大きくなって、ライン圧PLが電動オイルポンプ22に逆流することを防止するように配設されている。また、油路b1に接続されたチェックボール51は、不図示のスプリングによって閉じられており、油路b1の油圧が所定圧以上となると、油路b1の油圧を抜くことで、電動オイルポンプ22に高圧が作用することを防止し、つまり電動オイルポンプ22の保護を図っている。
【0028】
一方、上述のようにエンジン2又はモータMGで駆動される機械式オイルポンプ21は、ストレーナ20から油を吸入して、チェックボール52を開いてライン圧回路としての油路a1,a2,a3,a4,a5,a6に油圧PMOPを発生させ、詳しくは後述するプライマリレギュレータバルブ42によりライン圧PLに調圧される。なお、チェックボール52は、例えばEV走行中の車両停車時のように、機械式オイルポンプ21が停止した場合に、電動オイルポンプ22からの油圧PEOPが機械式オイルポンプ21に逆流することを防止している。
【0029】
プライマリレギュレータバルブ42は、スプール42pと、該スプール42pを一方側に付勢するスプリング42sと、フィードバック油室42a、作動油室42b、排出ポート42cと、調圧ポート42dとを有して構成されている。該プライマリレギュレータバルブ42のスプール42pは、例えば図示を省略したリニアソレノイドバルブSLTからスロットル開度等に応じて出力される制御圧PSLTと、スプリング42sの付勢力と、油路a3を介してフィードバック油室42aにフィードバックされるフィードバック圧とに応じて、調圧ポート42dと、排出ポート42cとの連通量(開口量)が調整され、それによって調圧ポート42dに繋がる油路a1~a6の油圧をライン圧PLとして調圧する。
【0030】
このようにプライマリレギュレータバルブ42により調圧されたライン圧PLは、油路a5を介して変速機構5の各クラッチ(クラッチK0や発進クラッチWSCを含む)やブレーキのそれぞれの油圧サーボに係合圧を供給制御する係合制御用油圧回路としての係合回路(T/M circuit)47に供給され、制御装置31により電子制御されるソレノイドバルブ等によって調圧制御されて、それぞれの油圧サーボに係合圧が供給されることで、各クラッチやブレーキの解放、スリップ係合、完全係合の状態に自在に制御される。なお、ライン圧PLは、不図示のモジュレータバルブにも供給され、当該ライン圧Pを一定圧以下に抑えたモジュレータ圧PMODを出力する。
【0031】
一方、プライマリレギュレータバルブ42の排出ポート42cから排出された油圧は、油路c1,c2,c3,c4,c5,c6,c7,c8,c9,c10,c11,c12,c13に供給され、特に油路c4からセカンダリレギュレータバルブ43に供給されることによりセカンダリ圧PSECに調圧される。
【0032】
セカンダリレギュレータバルブ43は、上記プライマリレギュレータバルブ42と略々同様に構成され、スプール43pと、該スプール43pを一方側に付勢するスプリング43sと、フィードバック油室43aと、作動油室43bと、調圧ポート43cと、排出ポート43dとを有して構成されている。該セカンダリレギュレータバルブ43のスプール43pは、上記制御圧PSLTと、スプリング43sの付勢力と、油路c4を介してフィードバック油室43aにフィードバックされるフィードバック圧とに応じて、調圧ポート43cと、排出ポート43dとの連通量(開口量)が調整され、それによって調圧ポート43cに繋がる油路c1~c13の油圧をセカンダリ圧PSECとして調圧する。
【0033】
セカンダリレギュレータバルブ43の調圧ポート43cにより調圧されたセカンダリ圧PSECは、潤滑圧として、油路c6から後述の第2潤滑切換えバルブ45の入力ポート45cに供給されると共に、油路c7からクーラー70に供給され、さらにクーラー70により冷却されてからc8に供給され、油路c9を介して上記第4潤滑回路84に、油路c10を介して上記第3潤滑回路83に、油路c11を介して上記第2潤滑回路82に、油路c12,c13を介して上記第1潤滑回路81に、それぞれ供給される。
【0034】
チェックバルブの一例であるチェックボール54は、詳しくは後述するように第1潤滑切換えバルブ44が切換えられて電動オイルポンプ22の油圧PEOPが油路e2,c13に供給された際に、油路c12からセカンダリレギュレータバルブ43(下流側から上流側)への逆流を遮断する。また、チェックボール54は、セカンダリレギュレータバルブ43から第1潤滑回路81に向けて流れる潤滑油の油路c1~c13にあって、第2潤滑回路82~第4潤滑回路84よりも下流側に配置されていて、電動オイルポンプ22の油圧PEOPが油路e2,c13に供給された際に、第2潤滑回路82~第4潤滑回路84に流れることも防止している。なお、セカンダリレギュレータバルブ43の排出ポート43dから排出された油圧は、余剰圧として油路d1を介して機械式オイルポンプ21の吸入ポート(不図示)に戻され、機械式オイルポンプ21の駆動負荷を軽くし、エンジン2やモータMGの駆動負荷の低減を図って車両の燃費向上が図れている。
【0035】
一方、ソレノイドバルブSRL1は、例えばノーマルクローズタイプで構成されると共に信号圧PSL1を出力自在に構成されており、詳細には、上述のモジュレータ圧PMODを入力していて、制御装置31の指令によってオン制御されることで信号圧PSRL1を、油路f1を介して後述の第1潤滑切換えバルブ44の作動油室44aに出力し、オフ制御されることで信号圧PSRL1を非出力にする。
【0036】
また同様に、ソレノイドバルブSRL2は、例えばノーマルクローズタイプで構成されると共に信号圧PSL2を出力自在に構成されており、詳細には、上述のモジュレータ圧PMODを入力していて、制御装置31の指令によってオン制御されることで信号圧PSRL2を、油路g1を介して後述の第2潤滑切換えバルブ45の作動油室45aに出力し、オフ制御されることで信号圧PSRL2を非出力にする。
【0037】
第1潤滑切換えバルブ44は、スプール44pと、該スプール44pを一方側に付勢するスプリング44sと、作動油室44aと、入力ポート44bと、出力ポート44dと、入力ポート44cと、出力ポート44eとを有して構成されている。第1潤滑切換えバルブ44は、スプリング44sの付勢力でスプール44pが付勢された図中上位置(第1状態)にあると、入力ポート44bと出力ポート44d、入力ポート44cと出力ポート44eがそれぞれ連通する。また、油路f1から信号圧PSRL1が入力されてスプール44pがスプリング44sの付勢力に打ち勝って図中下位置(第2状態)にあると、入力ポート44cと出力ポート44dが連通し、入力ポート44b、出力ポート44eが遮断される。
【0038】
第2潤滑切換えバルブ45は、スプール45pと、該スプール45pを一方側に付勢するスプリング45sと、作動油室45aと、出力ポート45bと、入力ポート45cと、入力ポート45dと、出力ポート45eとを有して構成されている。第2潤滑切換えバルブ45は、スプリング45sの付勢力でスプール45pが付勢された図中上位置(遮断状態)にあると、入力ポート45dと出力ポート45eが連通し、入力ポート45cが遮断される。また、油路g1から信号圧PSRL2が入力されてスプール45pがスプリング45sの付勢力に打ち勝って図中下位置(連通状態)にあると、入力ポート45cと出力ポート45bが連通し、入力ポート45dが遮断される。
【0039】
上記入力ポート45dには、上記モジュレータ圧PMODが入力される。また、出力ポート45eには、所定圧以上の油圧が入力された際に制御装置31に電気的にオン信号を出力する油圧スイッチ62が接続されている。従って、油圧スイッチ62は、スプール45pが図中上位置にある場合に、モジュレータ圧PMODを入力し、第2潤滑切換えバルブ45が図中下位置にあるか否かを検出する。特に、ソレノイドバルブSRL2がオフ制御されている際に、油圧スイッチ62がオン信号を出力していない場合は、制御装置31が第2潤滑切換えバルブ45のスプール45pが図中下位置にスティックした異常状態を検出することになる。
【0040】
ついで、油圧制御装置40の動作について説明する。油温センサ41により検出された油温が常温であり、発進クラッチWSCが係合状態又は解放状態である場合(スリップ状態でない場合)は、通常状態として、ソレノイドバルブSRL1及びソレノイドバルブSRL2が両方ともオフ制御され、第1潤滑切換えバルブ44が図中上位置となり、第2潤滑切換えバルブ45も図中上位置となって、図3に示す状態となる。
【0041】
この通常状態では、エンジン2又はモータMGが駆動された場合には機械式オイルポンプ21が油圧PMOPを油路a1に向けて発生させ、また、電動オイルポンプ22がオン制御された場合には電動オイルポンプ22が油路b1に向けて油圧PEOPを発生させ、電動オイルポンプ22は、油路b1,b2、第1潤滑切換えバルブ44の入力ポート44c及び出力ポート44e、油路a6を介してプライマリレギュレータバルブ42の調圧ポート42dに連通する。つまり、油圧PMOPと油圧PEOPとの一方又は両方に基づき、プライマリレギュレータバルブ42でライン圧PLが調圧され、さらに、セカンダリレギュレータバルブ43でセカンダリ圧PSECが調圧される。
【0042】
上述のようにセカンダリ圧PSECが潤滑圧として油路c1~c13に対して供給されると、第2潤滑切換えバルブ45の入力ポート45cと出力ポート45bとが遮断されているため、潤滑圧に基づき流れる潤滑油は、クーラー70を通過し、第1潤滑回路81、第2潤滑回路82、第3潤滑回路83、第4潤滑回路84にそれぞれ供給される。なお、この状態は、後述の大流量状態に比して発進クラッチWSCに供給する潤滑油量が小さいので、小流量状態と言える。
【0043】
ついで、油温が常温であって、発進クラッチWSCをスリップ係合させて車両を発進する場合について図4を用いて説明する。油温センサ41により検出されている油温が常温であり、制御装置31が車両の発進を判断し、発進クラッチWSCの油圧サーボに係合圧を供給して該発進クラッチWSCを係合させる際には、ソレノイドバルブSRL2がオフ制御されると共にソレノイドバルブSRL1がオン制御され、信号圧PSRL1によって第1潤滑切換えバルブ44のスプール44pが図中下位置に切換えられる。なお、この際はエンジン2又はモータMGの駆動力によって車両を発進させるため、機械式オイルポンプ21は駆動されていることになる。
【0044】
この状態では、上述のようにセカンダリ圧PSECを潤滑圧とし、潤滑圧に基づき流れる潤滑油は、クーラー70を通過し、第2潤滑回路82、第3潤滑回路83、第4潤滑回路84にそれぞれ供給される。一方で、第1潤滑切換えバルブ44のスプール44pは図中下位置に切換えられているため、入力ポート44cに入力される電動オイルポンプ22の油圧PEOPは、出力ポート44dから油路e2に出力され、油路c13を介して第1潤滑回路81に供給される。これにより、油路a6に供給されて係合回路47(クラッチ等)やセカンダリレギュレータバルブ43を介して第2~第4潤滑回路82~84等にも供給されていた電動オイルポンプ22の油圧PEOPが、直接的に第1潤滑回路81に供給され、言い換えると、セカンダリ圧PSECよりも大きい油圧PEOPが潤滑圧となって、第1潤滑回路81にセカンダリ圧PSECに基づき潤滑圧を供給する場合の流量(第1流量)よりも多い流量(第2流量)の潤滑油が供給され、つまり発進クラッチWSCに供給する潤滑油量が大流量状態となって、発進時にあってスリップ係合されて大きく発熱する発進クラッチWSCを十分に潤滑(冷却)することが可能となる。
【0045】
なお、セカンダリ圧PSECよりも電動オイルポンプ22の油圧PEOPが大きいため、チェックボール54が開かず、電動オイルポンプ22の油圧PEOPによる潤滑油の供給は、第1潤滑回路81に対して第2潤滑回路82~第4潤滑回路84とは独立して行われることになる。
【0046】
なお、発進クラッチWSCのスリップ係合が終了し、係合状態となると、制御装置31はソレノイドバルブSRL1をオフ制御し、第1潤滑切換えバルブ44のスプール44pを図中上位置に戻し、第1潤滑回路81~第4潤滑回路84に対する潤滑油の供給はクーラー70を介して行われることになり、また、電動オイルポンプ22の油圧PEOPもライン圧PL及びセカンダリ圧PSECの元圧として用いられることになる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係るハイブリッド駆動装置1にあっては、第2潤滑切換えバルブ45を図中上位置(遮断状態)にすることで油路c7~c13によってクーラー70を介して発進クラッチWSCに潤滑油を供給できるものでありながら、第2潤滑切換えバルブ45を図中下位置(連通状態)にすることで油路c6,e1,e2によってクーラー70を迂回して発進クラッチWSCに潤滑油を供給でき、潤滑油の供給不足の発生を防止することができる。また、油圧制御装置40は、電動オイルポンプ22により発生した油圧PEOPがライン圧PLに用いられる第1状態と、機械式オイルポンプ21により発生した油圧PMOPがライン圧PLに用いられ、かつ、電動オイルポンプ22により発生した油圧が発進クラッチWSCの潤滑に用いられる第2状態と、に切替可能である。
【0048】
次に、本実施形態のハイブリッド駆動装置1において、発進クラッチWSCの係合開始圧の学習制御を実行する際の処理手順について、図5に示すタイムチャートと図6に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0049】
制御装置31は、EVモードにおいて車両が停止し、変速機構5において走行レンジ(Dレンジ又はRレンジ)になっているか否かを判断する(ステップS1)。Dレンジでは、例えば前進1速段の形成とする。制御装置31は、EVモードにおいて車両が停止し、変速機構5において走行レンジになっていないと判断した場合は(ステップS1のNO)、再び判断する(ステップS1)。制御装置31は、EVモードにおいて車両が停止し、変速機構5において走行レンジになっていると判断した場合は(ステップS1のYES)、他の条件を具備した場合に、発進クラッチWSCの係合開始圧の学習制御を開始する(t1、ステップS2)。ここで、変速機構5が走行レンジになっていることにより、変速機構5において入力軸5aから出力軸5bまでの動力伝達経路が形成された状態になっている。このため、車両が停止し、変速機構5が走行レンジになっていることにより、変速機構5の入力軸5aは回転不能に固定された状態になっている。
【0050】
ここでの他の条件とは、例えば、ドライバがブレーキペダルを踏んで車両を停止するブレーキ装置が作動していることや、停車してから所定時間(例えば、数秒間)が経過していることがタイマで検知されたことや、前回の学習制御の実行から所定距離(例えば、数千km)を走行していることなどが挙げられる。尚、停車してから所定時間の経過を条件としているのは、停車後にすぐに学習制御を開始すると、停車直後ではまたすぐに発進する可能性があるため、その場合に発進のレスポンス悪くなってしまうことを防ぐためである。また、必要以上の頻度で行うと燃費が低下してしまうので、走行距離にして数千kmごとの頻度に設定している。但し、他の条件はこれらに限られないのはもちろんである。
【0051】
発進クラッチWSCの係合開始圧の学習制御の概要は、係合圧を、発進クラッチWSCの摩擦板91が係合を開始する係合開始圧となるように制御しつつ、モータMGを駆動させて摩擦板91が係合開始した際のモータMGの駆動状態の変化により係合開始圧を学習する制御である。従って、本実施の形態では、制御装置31は、学習制御を変速機構5の入力軸5aが回転不能に固定された状態である場合に実行する。ここで、車両が停車中であっても、変速機構5が例えばPレンジやNレンジであると、入力軸5aは回転不能に固定された状態ではなく、学習制御中にモータMGを回転させた状態で発進クラッチWSCを係合させようとすると入力軸5aが連れ回ってしまう虞がある。入力軸5aが連れ回ってしまうと、発進クラッチWSCの係合開始圧を学習できない可能性があった。これに対し、本実施の形態では、制御装置31は、学習制御を入力軸5aが回転不能に固定された状態である場合に実行するので、入力軸5aの連れ回りを防止して発進クラッチWSCの係合開始圧を学習できるようになる。
【0052】
また、本実施の形態では、制御装置31は、発進クラッチWSCが係合した状態から学習制御を実行する場合において、準備フェーズと学習フェーズとを順に実行するようにしている。準備フェーズは、係合圧を、前回の学習制御で学習されていた係合開始圧P1よりも所定圧低い油圧P2になるように調整するフェーズである。学習フェーズは、係合圧を、徐々に上昇して発進クラッチWSCを係合開始させることで係合開始圧P3の学習を行うフェーズである。
【0053】
以下、発進クラッチWSCの係合開始圧の学習制御について、詳細に説明する。尚、学習制御が開始されるときは、油圧制御装置40は、電動オイルポンプ22により発生した油圧PEOPがライン圧PLに用いられる第1状態であり、電動オイルポンプ22は高速回転している。制御装置31は、学習制御が開始されると(t1、ステップS2)、学習制御の準備フェーズとして、発進クラッチWSCの係合圧を、前回の学習制御で学習されていた係合開始圧P1よりも所定圧低い油圧P2に下げるように調整する(t2、ステップS3)。これにより、発進クラッチWSCは解放状態になる。ここでは、係合開始圧P1よりも、後述するピストンヒステリシスに応じた分だけ下げるようにする。
【0054】
制御装置31は、係合圧が油圧P2まで下がると、モータMGの駆動を開始する(t2、ステップS4)。モータMGの駆動開始により、回転速度及びトルクが上昇する。ここでは、制御装置31は、モータMGの回転速度を一定にしたまま、モータトルクの変位を取得することで回転速度制御によって学習制御を行うようにしている。このとき、発進クラッチWSCの要求トルク(WSC要求トルク)は、0のまま維持される(t10まで)。尚、制御装置31は、発進クラッチWSCのトルク容量がクリープ現象を発生しない程度の所定値以下になってからモータMGの駆動を開始する。
【0055】
モータMGの回転速度が所望の一定の回転速度になると(t3)、制御装置31は、油圧制御装置40を第1状態から機械式オイルポンプ21により発生した油圧PMOPがライン圧PLに用いられ、かつ、電動オイルポンプ22により発生した油圧が発進クラッチWSCの潤滑に用いられる第2状態に切り替える(ステップS5)。また、制御装置31は、電動オイルポンプ22の回転速度を中速にして吐出量を減らすようにする(ステップS6)。更に、制御装置31は、モータMGの駆動を維持したまま待機する(t3-t4、ステップS7)。即ち、制御装置31は、学習フェーズの実行前に、キャンセル油室97に油を充填するための待機時間T0を有する。ここで、キャンセル油室97は、モータMGの回転軸1Bに伴って回転する。このため、停車中にモータMGが止まるとキャンセル油室97の油が抜けるので、キャンセル油室97の油が抜けていることを前提として充填時間を設けている。特に本実施の形態では、学習制御の開始条件として、停車後に所定時間の経過を要しているので、その間にキャンセル油室97の油が抜ける可能性が高いためである。
【0056】
制御装置31は、待機時間T0の経過後、電動オイルポンプ22の回転速度を低速にして更に吐出量を減らすようにする(ステップS8)。制御装置31は、発進クラッチWSCの係合圧を徐々に上げ、現在の係合開始圧まで上昇させる(t4-t5、ステップS9)。ここで、係合圧を完全係合圧から係合開始圧付近まで下げたとき、油圧サーボ90のピストン部材93のストロークに発生するヒステリシスにより、ピストン部材93は本来の位置まで達することができないことがある。この場合、その位置から係合圧を上昇しても、ヒステリシスの分だけはピストン部材93が移動せず、摩擦板91の係合状態が変わらないことがある。これに対し、本実施の形態では、係合値を係合開始圧P1よりも所定圧、例えばピストンヒステリシスに応じた分だけ低い油圧P2に下げた状態から現在の係合開始圧まで上昇させるようにしている。このため、ピストンヒステリシスの影響を小さくすることができ、最終的に得られる学習値の精度を向上することができる。
【0057】
制御装置31は、モータトルクと、モータ回転速度と、発進クラッチWSCの係合圧との関係を特性量として取得する(t5-t6、ステップS10)。制御装置31は、学習制御の終了することを判断すると(t6)、取得した特性値に基づいて学習値を算出する(ステップS11)。学習値の算出方法の詳細の説明は省略するが、モータトルク(到達トルク)が引き摺りトルクの設計値より大きい小さいに基づいて算出するものとし、大まかには、モータトルクの変位に基づいて発進クラッチWSCが係合開始することを判断し、そのときの係合圧を新たな係合開始圧P3として取得する。
【0058】
ここで、発進クラッチWSCの係合開始圧領域では、発進クラッチWSCの潤滑流量の増加に応じて、油圧に対するトルク感度が低下することがある。これは、摩擦板91の間に潤滑油があると引き摺りトルクを発生してしまうことから、その場合に潤滑流量が増加すると、係合開始圧付近におけるトルク容量と、完全解放時の引き摺り分のトルク容量とがほぼ同等になってしまい、係合開始状態の付近にいるかどうかを正しく判断できなくなる虞があるからである。また、本実施の形態で採用している油圧制御装置40では、通常の発進時に第2状態にすることで発進クラッチWSCの潤滑油量を大潤滑にできるようにしている。これに対し、本実施の形態では、係合開始圧を学習する際に、油圧制御装置40を第2状態にすると共に、電動オイルポンプ22の回転速度を低速にして、通常の発進時に比べて吐出量を大きく減らすようにしている。即ち、制御装置31は、車両の発進時に発進クラッチWSCを係合する場合に、油圧制御装置40を第2状態として、電動オイルポンプ22の吐出量を第1吐出量とし、学習制御により係合開始圧の学習を行う場合に、油圧制御装置40を第2状態として、電動オイルポンプ22の吐出量を第1吐出量より少ない第2吐出量とするようにしている。これにより、発進クラッチWSCの係合開始圧領域で油圧に対するトルク感度が低下することを抑制し、学習値を高精度に取得できるようにしている。
【0059】
その後、制御装置31は、電動オイルポンプ22の回転速度を高速にして吐出量を増やすようにし(t6、ステップS12)、油圧制御装置40を第2状態から電動オイルポンプ22により発生した油圧PEOPがライン圧PLに用いられる第1状態に切り替え(t7、ステップS13)、モータMGの回転速度を下げて停止する(t7-t8、ステップS14)。また、制御装置31は、発進クラッチWSCを係合し(t8、ステップS15)、係合後、学習値を反映させる(t9、ステップS16)。尚、ステップS2からステップS16までを学習制御とする。その後、制御装置31は、ドライバによってアクセルペダルが踏まれることに応じて、モータMGの駆動を開始し、再発進する(t10、ステップS17)。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のハイブリッド駆動装置1によると、制御装置31は、学習制御を変速機構5の入力軸5aが回転不能に固定された状態である場合に実行する。このため、変速機構5が例えばPレンジやNレンジであるときのように入力軸5aが回転可能ではなく、入力軸5aの連れ回りを防止して発進クラッチWSCの係合開始圧を高精度に学習できるようになる。
【0061】
また、本実施形態のハイブリッド駆動装置1によると、係合開始圧を学習する際に、油圧制御装置40を第2状態にすると共に、電動オイルポンプ22の回転速度を低速にして、通常の発進時に比べて吐出量を大きく減らすようにしている。これにより、発進クラッチWSCの係合開始圧領域で油圧に対するトルク感度が低下することを抑制し、学習値を高精度に取得することができる。
【0062】
上述した本実施形態のハイブリッド駆動装置1では、発進クラッチWSCを湿式の摩擦係合装置からなる場合について説明したが、これには限られず、乾式の摩擦係合装置に適用してもよい。
【0063】
また、本実施形態のハイブリッド駆動装置1では、制御装置31は、モータMGを回転速度制御により制御しつつ学習制御を実行する場合について説明したが、これには限られず、モータMGをトルク制御により制御しつつ学習制御を実行するようにしてもよい。この場合、モータMGをトルク制御することで、係合開始時に回転変化が生じることを検出して学習可能である。
【0064】
また、本実施形態のハイブリッド駆動装置1では、車両用駆動装置をハイブリッド駆動装置に適用した場合について説明したが、これには限られず、エンジン及びクラッチK0を有さないEV車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…ハイブリッド駆動装置(車両用駆動装置)、5…変速機構、5a…入力軸(入力部材)、5b…出力軸(出力部材)、9…車輪、21…機械式オイルポンプ、22…電動オイルポンプ、31…制御装置、40…油圧制御装置、90…油圧サーボ、91…摩擦板(摩擦係合要素)、92…シリンダ部材、93…ピストン部材、94…リターンプレート(対向部材)、96…作動油室、97…キャンセル油室(対向油室)、MG…モータ・ジェネレータ(回転電機)、T0…待機時間、WSC…発進クラッチ(摩擦係合装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6