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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】フェライト磁器組成物及びコイル部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20240228BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20240228BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C04B35/30
H01F1/34 140
H01F17/04 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021066047
(22)【出願日】2021-04-08
(65)【公開番号】P2022161326
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】杉井 一星
(72)【発明者】
【氏名】酒井 崇史
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196397(JP,A)
【文献】特開2010-103266(JP,A)
【文献】特開2007-063123(JP,A)
【文献】特開2019-206450(JP,A)
【文献】特開2019-210204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、
Feを、Fe23に換算して、27.0モル%以上41.0モル%以下、
Niを、NiOに換算して、16.0モル%以上24.0モル%以下、
Znを、ZnOに換算して、23.0モル%以上37.0モル%以下、
Cuを、CuOに換算して、5.0モル%以上9.0モル%以下、
Siを、SiO2に換算して、4.0モル%以上14.0モル%以下
含み、
副成分として、前記主成分100質量部に対し、
Biを、Bi23に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下、
Coを、Co34に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下、
Mnを、Mn23に換算して、0.01質量部以上0.25質量部以下、
Crを、Cr23に換算して、0.003質量部以上0.030質量部以下
含む、フェライト磁器組成物。
【請求項2】
前記フェライト磁器組成物中の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下である、請求項1に記載のフェライト磁器組成物。
【請求項3】
前記フェライト磁器組成物中の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.5μm以下である、請求項1又は2に記載のフェライト磁器組成物。
【請求項4】
少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む磁性体相、ならびに、少なくともSi及びZnを含む非磁性体相を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト磁器組成物。
【請求項5】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含むコイル部品であって、
前記絶縁体部は、請求項1~4のいずれか1項に記載のフェライト磁器組成物から構成されている、コイル部品。
【請求項6】
前記絶縁体部の長さ方向の寸法は、0.58mm以上0.62mm以下であり、幅方向の寸法は、0.28mm以上0.32mm以下である、請求項5に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト磁器組成物、及びコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品において、フェライト組成物と珪酸亜鉛とを含む複合磁性材料を用いることにより、素体の比抵抗が高い電子部品を提供することができると報告されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-210204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、素体の比抵抗が高い電子部品が開示されているが、特許文献1に記載の複合磁性材料では、抗折強度及び透磁率が十分に得られないおそれがある。
【0005】
本開示の目的は、高い抗折強度及び透磁率を有するフェライト磁器組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 主成分として、
Feを、Fe23に換算して、27.0モル%以上41.0モル%以下、
Niを、NiOに換算して、16.0モル%以上24.0モル%以下、
Znを、ZnOに換算して、23.0モル%以上37.0モル%以下、
Cuを、CuOに換算して、5.0モル%以上9.0モル%以下、
Siを、SiO2に換算して、4.0モル%以上14.0モル%以下
含み、
副成分として、前記主成分100質量部に対し、
Biを、Bi23に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下、
Coを、Co34に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下、
Mnを、Mn23に換算して、0.01質量部以上0.25質量部以下、
Crを、Cr23に換算して、0.003質量部以上0.030質量部以下
含む、フェライト磁器組成物。
[2] 前記フェライト磁器組成物中の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下である、上記[1]に記載のフェライト磁器組成物。
[3] 前記フェライト磁器組成物中の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.5μm以下である、上記[1]又は[2]に記載のフェライト磁器組成物。
[4] 少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む磁性体相、ならびに、少なくともSi及びZnを含む非磁性体相を含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のフェライト磁器組成物。
[5] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含むコイル部品であって、
前記絶縁体部は、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のフェライト磁器組成物から構成されている、コイル部品。
[6] 前記絶縁体部の長さ方向の寸法は、0.58mm以上0.62mm以下であり、幅方向の寸法は、0.28mm以上0.32mm以下である、上記[5]に記載のコイル部品。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、抗折強度及び透磁率が高いフェライト磁器組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示のコイル部品1を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すコイル部品1のx-xに沿った切断面を示す断面図である。
図3図3は、ビア導体10が交互に配置された引出部7を示す断面図である。
図4図4は、ビア導体10がその中心が一致するように配置された引出部7を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のフェライト磁器組成物は、主成分及び副成分を含んで成る。
【0010】
上記主成分は、Fe、Ni、Zn、Cu及びSiを含む。
【0011】
上記Feの含有量は、Fe23に換算して、27.0モル%以上41.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは30.0モル%以上38.0モル%以下である。
【0012】
上記Niの含有量は、NiOに換算して、16.0モル%以上24.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは17.0モル%以上20.0モル%以下である。
【0013】
上記Znの含有量は、ZnOに換算して、23.0モル%以上37.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは25.0モル%以上35.0モル%以下である。
【0014】
上記Cuの含有量は、CuOに換算して、5.0モル%以上9.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは6.0モル%以上8.0モル%以下である。
【0015】
上記Siの含有量は、SiO2に換算して、4.0モル%以上14.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは6.0モル%以上12.0モル%以下である。
【0016】
Fe、Ni、Zn、Cu、及びSiの含有量を、上記の範囲とすることにより、優れた抗折強度及び透磁率を得ることができる。
【0017】
上記副成分は、Bi、Co、Mn、及びCrを含む。
【0018】
上記Biの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Bi23に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0019】
上記Coの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Co34に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0020】
上記Mnの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Mn23に換算して、0.01質量部以上0.25質量部以下であり、好ましくは0.05質量部以上0.20質量部以下である。
【0021】
上記Crの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Cr23に換算して、0.003質量部以上0.030質量部以下であり、好ましくは0.005質量部以上0.020質量部以下である。
【0022】
Bi、Co、Mn、及びCrの含有量を、上記の範囲とすることにより、優れた抗折強度及び透磁率を得ることができる。
【0023】
フェライト磁器組成物中の結晶粒子の平均結晶粒径は、好ましくは0.2μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。当該平均結晶粒径を上記の範囲とすることにより、フェライト磁器組成物の耐電圧性が向上する。
【0024】
上記平均結晶粒径は、以下のようにして測定することができる。
フェライト磁器組成物を板状に成形して試料とし、所定の面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機で試料の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、観察領域(8μm×8μm)において結晶粒径を測定し、平均結晶粒径を求める。ここに、平均結晶粒径とは、結晶粒子の面積円相当径が個数基準で50%となる粒径である。
【0025】
好ましい態様において、上記フェライト磁器組成物は、磁性体相、及び非磁性体相を含む。
【0026】
上記磁性体相は、主成分として、少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む。
【0027】
上記磁性体相において、Fe含有量は、Fe23に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下である。
【0028】
上記磁性体相において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは2.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは5.0モル%以上30.0モル%以下である。
【0029】
上記磁性体相において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは6.0モル%以上13.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0030】
上記磁性体相において、Ni含有量は、NiOに換算して、好ましくは10.0モル%以上45.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは15.0モル%以上40.0モル%以下である。
【0031】
上記磁性体相は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0032】
上記非磁性体相は、主成分として、少なくともSi、及びZnを含む。
【0033】
上記非磁性体相において、Siの含有量に対するZnの含有量の比(Zn/Si)は、Si含有量はSiO2に換算して、Zn含有量はZnOに換算して、好ましくは1.8以上2.2以下、より好ましくは1.9以上2.1以下である。Siの含有量に対するZnの含有量の比を上記の範囲とすることにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0034】
上記非磁性体相は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0035】
本開示のフェライト磁器組成物において、上記磁性体相と非磁性体相の比(磁性体相/非磁性体相)は、フェライト磁器組成物中のFe及びSiの比で表すことができる。上記磁性体相と非磁性体相の比は、Fe及びSiをそれぞれ、Fe23及びSiO2に換算したときのモル比(Fe23/SiO2)で、好ましくは2.0以上9.0以下、より好ましくは2.0以上5.0以下であり得る。
【0036】
上記フェライト磁器組成物は、さらに、副成分として、Bi、Co、Mn、及びCrを含む。
【0037】
上記フェライト磁器組成物において、Bi含有量は、上記主成分100質量部に対して、Bi23に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0038】
上記フェライト磁器組成物において、Coの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Co34に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0039】
上記フェライト磁器組成物において、Mnの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Mn23に換算して、0.01質量部以上0.25質量部以下であり、好ましくは0.05質量部以上0.20質量部以下である。
【0040】
上記フェライト磁器組成物において、Crの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Cr23に換算して、0.003質量部以上0.030質量部以下であり、好ましくは0.005質量部以上0.020質量部以下である。
【0041】
本開示のフェライト磁器組成物は、コイル部品の絶縁体部の材料として用いた場合に、コイル部品に高い抗折強度、高い透磁率、及び高い直流重畳特性を与えることができる。
【0042】
従って、本開示は、
絶縁体部と、
上記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
上記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含むコイル部品であって、
上記絶縁体部は、上記した本開示のフェライト磁器組成物から構成されている、コイル部品を提供する。
【0043】
以下、本開示のコイル部品について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態のコイル部品及び各構成要素の形状及び配置等は、図示する例に限定されない。
【0044】
本実施形態のコイル部品1の斜視図を図1に、x-x断面図を図2に示す。但し、下記実施形態のコイル部品及び各構成要素の形状及び配置等は、図示する例に限定されない。
【0045】
図1及び図2に示されるように、本実施形態のコイル部品1は、略直方体形状を有するコイル部品である。コイル部品1において、図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上面」及び「下面」と称する。コイル部品1は、概略的には、絶縁体部2と、該絶縁体部2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。絶縁体部2には、コイル3が埋設されている。コイル3は、コイル部品の実装面(本実施形態では、下面)に平行に積層されたコイル導体層6が、絶縁体部2を貫通する接続導体によりコイル状に接続されることにより構成される。コイル導体層6のうち両端に位置するコイル導体層は、それぞれ、引出部7,8により、外部電極4,5に接続される。
【0046】
本実施形態のコイル部品1において、絶縁体部2は、複数の絶縁体層が積層されて構成される。
【0047】
上記絶縁体層は、好ましくはコイル部品1の実装面に平行に積層される。即ち、図2において、絶縁体層は、水平方向に積層される。
【0048】
上記コイル導体層6間の絶縁体層の厚さは、好ましくは3μm以上50μm以下、より好ましくは3μm以上40μm以下、さらに好ましくは3μm以上20μm以下であり得る。かかる厚さを3μm以上とすることにより、コイル導体層間の絶縁性をより確実に確保できる。また、かかる厚さを50μm以下とすることにより、より優れた電気特性を得ることができる。
【0049】
上記絶縁体部2は、本開示のフェライト磁器組成物により構成される。かかるフェライト磁器組成物は、上記した特徴を有し得る。
【0050】
上記絶縁体部を構成するフェライト磁器組成物は、好ましくは磁性体相及び非磁性体相を含む。絶縁体部が磁性体相及び非磁性体相を含むことにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0051】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部における結晶粒子の平均結晶粒径は、好ましくは0.2μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。当該平均結晶粒径を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0052】
上記平均結晶粒径は、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、観察領域(8μm×8μm)において結晶粒径を測定し、平均結晶粒径を求める。ここに、平均結晶粒径とは、結晶粒子の面積円相当径が個数基準で50%となる粒径である。
【0053】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、好ましくは2.0%以上6.0%以下、より好ましくは2.5%以上5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以上4.5%以下である。当該ポア面積率を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0054】
上記ポア面積率は、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、観察領域(8μm×8μm)を、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影する。得られたSEM画像を、画像解析ソフトを用いて、全体の面積に対するポアが占める面積の割合を求め、これをポア面積率とする。
【0055】
上記コイル3は、コイル導体層6がコイル状に相互に電気的に接続されることにより構成されている。積層方向に互いに隣接するコイル導体層6は、絶縁体部2を貫通する接続導体により接続されている。
【0056】
上記コイル導体層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記コイル導体層を構成する材料は、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0057】
上記コイル導体層の厚さは、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。コイル導体層の厚さを大きくすることにより、コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここにコイル導体層の厚さとは、積層方向に沿ったコイル導体層の厚さをいう。
【0058】
上記コイル導体層の厚さは、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察し、コイル導体層のL寸中央部の厚さを、SEMに付属している測定機能にて測定する。
【0059】
上記接続導体は、コイル導体層間の絶縁体部を貫通するように設けられる。接続導体を構成する材料は、上記コイル導体層に関して記載した材料であり得る。接続導体を構成する材料は、コイル導体層を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、コイル導体層を構成する材料と同じである。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、Agである。
【0060】
上記引出部7,8は、それぞれ、複数のランド導体層9が電気的にビア導体10により接続されることにより構成されている。
【0061】
上記ランド導体層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記ランド導体層を構成する材料は、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。ランド導体層を構成する材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。上記ランド導体層を構成する材料は、上記コイル導体層を構成する材料と同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0062】
上記ランド導体層の厚さは、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。ランド導体層の厚さを大きくすることにより、コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここにランド導体層の厚さとは、積層方向に沿ったランド導体層の厚さをいう。
【0063】
上記ランド導体層の厚さは、上記コイル導体層の厚さと同様にして測定することができる。
【0064】
上記ビア導体は、ランド導体層間の絶縁体部を貫通するように設けられる。ビア導体を構成する材料は、上記ランド導体層に関して記載した材料であり得る。ビア導体を構成する材料は、ランド導体層を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、ビア導体を構成する材料は、ランド導体層を構成する材料と同じである。好ましい態様において、ビア導体を構成する材料は、Agである。
【0065】
本実施形態において、各引出部におけるビア導体について、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体の中心は一致しない(図3)。即ち、積層方向に隣接するビア導体の中心は、互いにずれている。積層方向に隣接するビア導体の中心を互いにずらすことにより、コイル部品のクラックの発生を抑制することができる。
【0066】
本実施形態において、積層方向に隣接するビア導体は、交互にずれている。即ち、積層方向から平面視した場合に、ビア導体が存在する位置は2箇所であり、隣接するビア導体は、それぞれ別の箇所に位置するように設けられる。
【0067】
別の態様において、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体が存在する位置は、3箇所以上であってもよい。例えば、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体が存在する位置が3箇所である場合、該3箇所に位置するビア導体の中心が三角形、好ましくは正三角形を描くように、ビア導体を設けてもよい。
【0068】
積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅(図3におけるd)は、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上20μm以下である。
【0069】
積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅は、ビア導体の直径の、好ましくは0.05倍以上0.5倍以下、より好ましくは0.1倍以上0.4倍以下、さらに好ましくは0.1倍以上0.3倍以下である。ここに、ビア導体の直径とは、ビア導体の断面(積層面に平行な断面)のうち、最も大きい箇所の直径をいう。
【0070】
好ましい態様において、積層方向に隣接するビア導体は、積層方向から平面視した場合に重ならない。即ち、積層方向に隣接するビア導体は、積層方向から平面視した場合に、それぞれ完全に独立している。即ち、積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅(図3におけるd)は、隣接するビア導体の半径の合計よりも大きい。
【0071】
別の態様において、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体の中心は一致する(図4)。
【0072】
外部電極4,5は、絶縁体部2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、Sn及びCuから選択される1種又はそれ以上の金属材料から構成される。
【0073】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0074】
一の態様において、外部電極は多層であり、Ag又はPdを含む層、Niを含む層、又はSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、Ag又はPdを含む層、Niを含む層、及びSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体層側から、Ag又はPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記Ag又はPdを含む層はAgペースト又はPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層及びSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0075】
本開示のコイル部品の絶縁体部は、好ましくは、長さ(L)が0.95mm以上1.05mm以下であり、幅(W)が0.45mm以上0.55mm以下である。また、高さ(T)は、特に限定されないが、例えば、0.45mm以上0.55mm以下であり得る。
【0076】
上記した本実施形態のコイル部品1の製造方法を以下に説明する。
【0077】
(1)磁性材料(仮焼磁性粉末)の調製
【0078】
まず、磁性材料の原料を準備する。磁性材料の原料は、主成分としてFe、Zn、Cu、及びNiを含む。通常、上記原料の主成分は、実質的にFe、Zn、Cu、及びNiの酸化物(理想的には、Fe23、ZnO、CuO及びNiO)から成る。
【0079】
上記原料として、Fe23、ZnO、CuO、及びNiOを所定の組成になるように秤量し、混合及び粉砕する。得られた粉末を乾燥し、仮焼し、仮焼磁性粉末を得る。好ましくは、得られた仮焼磁性粉末を粉砕し、微粉化する。
【0080】
上記仮焼磁性粉末の粒径は、D50で、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。ここに、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%相当径である。
【0081】
上記仮焼磁性粉末において、Fe含有量は、Fe23に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0082】
上記仮焼磁性粉末において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは2.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは5.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0083】
上記仮焼磁性粉末において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは6.0モル%以上13.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0084】
上記仮焼磁性粉末において、Ni含有量は、NiOに換算して、好ましくは10.0モル%以上45.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは15.0モル%以上40.0モル%以下である。
【0085】
本開示において、上記仮焼磁性粉末は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0086】
なお、上記仮焼磁性粉末におけるFe含有量(Fe23換算)、Zn含有量(ZnO換算)、Cu含有量(CuO換算)、及びNi含有量(NiO換算)は、焼成後の上記焼結磁性材料におけるFe含有量(Fe23換算)、Zn含有量(ZnO換算)、Cu含有量(CuO換算)、及びNi含有量(NiO換算)、と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0087】
(2)非磁性材料(仮焼非磁性粉末)の調製
まず、非磁性材料の原料を準備する。非磁性材料の原料は、主成分としてSi及びZnを含む。通常、上記原料の主成分は、実質的にSi及びZnの酸化物(理想的には、SiO2及びZnO)から成る。
【0088】
上記原料として、SiO2、ZnO、及び必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合及び粉砕する。得られた粉末を乾燥し、仮焼し、仮焼非磁性粉末を得る。好ましくは、得られた仮焼非磁性粉末を粉砕し、微粉化する。
【0089】
上記仮焼非磁性粉末の粒径は、D50で、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。ここに、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%相当径である。
【0090】
なお、上記仮焼非磁性粉末におけるSi含有量(SiO2換算)、及びZn含有量(ZnO換算)は、焼成後の上記焼結非磁性材料におけるSi含有量(SiO2換算)、及びZn含有量(ZnO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0091】
(3)導電性ペーストの調製
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、及び分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、導電性ペーストを作製することができる。
【0092】
(4)シート作製
上記で調製した磁性材料及び非磁性材料、さらに、副成分としてBi、Co、Mn、及びCrを、酸化物(Bi23、Co34、Mn23、及びCr23)として、所定の配合になるように混合する。これらの混合物を、例えばPSZメディアとともにボールミルに入れ、さらにポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤を加え混合して、スラリーを得る。次に、このスラリーをドクターブレード法等でシート状に成形し、これを矩形状に打ち抜きグリーンシートを作製する。
【0093】
上記副成分としてのBi含有量は、上記主成分100質量部に対して、Bi23に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0094】
上記副成分としてのCoの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Co34に換算して、0.3質量部以上1.2質量部以下であり、好ましくは0.4質量部以上0.8質量部以下である。
【0095】
上記副成分としてのMnの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Mn23に換算して、0.01質量部以上0.25質量部以下であり、好ましくは0.05質量部以上0.20質量部以下である。
【0096】
上記副成分としてのCrの含有量は、上記主成分100質量部に対して、Cr23に換算して、0.003質量部以上0.030質量部以下であり、好ましくは0.005質量部以上0.020質量部以下である。
【0097】
上記グリーンシートの厚さは、例えば5μm以上40μm以下、好ましくは10μm以上25μm以下であり得る。グリーンシートの厚さを、上記の範囲とすることにより、高い絶縁性と、優れた電気特性を得ることができる。
【0098】
上記混合物における、磁性材料及び非磁性材料の配合比(磁性材料:非磁性材料(質量比))は、好ましくは90:10~5:95、より好ましくは90:10~50:50であり得る。磁性材料及び非磁性材料の配合比を上記の範囲とすることにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0099】
次いで、上記で作製したグリーンシートに、レーザー照射を行い所定箇所にビアホールを形成する。上記で調製した導電性ペーストをスクリーン印刷することで、ビアホールに導電性ペーストを充填して、接続導体パターン、及び接続ビアパターンを形成する。また、グリーンシートに、導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、コイルパターン、及びランドパターンを形成する。
【0100】
(5)積層、圧着及び個片化
上記で得られたグリーンシートを、所定のコイルパターンが得られるように積層し、熱圧着した積層ブロックを作製する。得られた積層ブロックを、ダイサー等で切断し、個片化し、未焼成素体を得る。
【0101】
(6)焼成
上記で得られた未焼成素体を、焼成し、コイル部品の素体を得る。
【0102】
焼成温度は、好ましくは850℃以上950℃以下、より好ましくは900℃以上920℃以下であり得る。
【0103】
焼成時間は、好ましくは1時間以上6時間以下、より好ましくは2時間以上4時間以下であり得る。
【0104】
焼成後には、得られた素体をメディアとともに回転バレル機に入れ、回転することにより、素体の稜線やコーナーにRを形成してもよい。
【0105】
(7)電極形成
まず、下地電極を形成する。下地電極は、コイルが引き出された端面に、例えばAgとガラスを含んだ導電性ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成することができる。
【0106】
上記下地電極の厚さは、例えば0.1μm以上20μm以下、好ましくは3μm以上17μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。
【0107】
上記焼き付け時の温度は、例えば800℃以上820℃以下であり得る。
【0108】
下地電極を形成した素体に、電解めっきにより、下地電極上に金属層の被膜を形成する。当該被膜は、単層であっても、多層であってもよく、例えば下地電極上にNi被膜を形成し、次いで、Sn被膜を形成してもよい。
【0109】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【0110】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例
【0111】
実施例
・磁性材料の調製
Fe23を47.0mol%、ZnOを16.0mol%、NiOを27.0mol%、CuOを10.0mol%の割合で配合し、混合物を得た。この混合物を湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を800℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式でD50が0.2μmになるまで粉砕し、磁性材料を作製した。
【0112】
・非磁性材料の調製
ZnOとSiO2をモル比が2:1の割合で配合し、湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を1100℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式でD50が0.2μmになるまで粉砕し、非磁性材料を作製した。
【0113】
・グリーンシートの作製
得られた磁性材料と非磁性材料と、さらに磁性材料と非磁性材料の合計100質量部に対し、Bi23、Co34、Mn23、及びCr23を下記表1に示す割合となるように秤量し、所定量のポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤をボールミルに入れ、混合した。次に、ドクターブレード法で、膜厚が約25μmのシート状に成形し、これを矩形状に打ち抜きグリーンシートを作製した。
【0114】
・フェライト磁器組成物の作製
作製したグリーンシートを複数枚重ね合わせて圧着することにより、積層体ブロックを作製した。この積層体ブロックを単板状及びリング形状に打ち抜き、920℃にて4時間の焼成をすることで、フェライト磁器組成物の単板状試料及びリング状試料を作製した。
単板状の試料:4mm×2mm×1.5mm
リング状の試料:外径20mm、内径12mm、厚み1.5mm
【0115】
【表1】

表中、*を付した試料は比較例である。
【0116】
<評価>
・組成
作製した試料の組成を誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)用いて分析した。結果を下記表1の通りであった。
【0117】
・抗折強度
単板状試料について、3点曲げ試験により抗折強度を測定した。測定は各試料5個について測定を行った。評価は、抗折強度が100MPaを下回った試料が1つでもあった場合には×とし、すべて180N以上であった場合は〇とした。結果を下記表2に示す。
【0118】
・平均結晶粒径
単板状試料を樹脂で固め、研磨機で試料の厚み方向に研磨を行い、試料の略中央部が露出する深さで研磨を終了した。その断面を集束イオンビーム加工(FIB加工)し、SEM観察用の断面を得た。FIB加工はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)のFIB加工装置SMI3050Rを用いた。FIB加工した断面について、試料の略中央部をSEMで撮影し、平均結晶粒径を測定した。なお、観察領域は、8×8μmとした。結果を下記表2に示す。
【0119】
・透磁率
リング状試料ついて、試料をアジレント・テクノロジー社製の磁性体測定冶具(型番16454A)にセットし、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンスアナライザ(型番E4991A)を用いて10MHzでの透磁率μ’を測定した。結果を下記表2に示す。
【0120】
・直流重畳特性
リング状試料に60ターンの巻線を施し、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンスアナライザ(型番E4991A)を用いて直流電流を印加し、算出される印加磁界およびそのときの透磁率を測定し、初期の透磁率から-10%となる印加磁界を求めた。結果を下記表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
上記の結果から、本発明の範囲内の組成を有する試料は、優れた抗折強度、透磁率、及び直流重畳特性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示のフェライト磁器組成物は、コイル部品の絶縁体部として使用され得る。
【符号の説明】
【0124】
1…コイル部品
2…絶縁体部
3…コイル
4,5…外部電極
6…コイル導体層
7,8…引出部
9…ランド導体層
10…ビア導体
図1
図2
図3
図4