(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240228BHJP
【FI】
F16H57/04 N
(21)【出願番号】P 2021158218
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】片山 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】花井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 望
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲平
(72)【発明者】
【氏名】三治 広明
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-138381(JP,A)
【文献】特開2020-205685(JP,A)
【文献】特開2010-203493(JP,A)
【文献】特開2021-8902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを備えた回転電機と、
差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車機構と、
前記ロータと前記差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行うカウンタギヤ機構と、
前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記カウンタギヤ機構を収容するケースと、を備えた車両用駆動装置であって、
前記ロータは第1軸上に配置され、
前記第1軸上には、更に、前記ロータと一体的に回転するロータ出力ギヤが配置され、
前記差動歯車機構は前記第1軸と平行且つ前記第1軸とは異なる第2軸上に配置され、
前記カウンタギヤ機構は、前記第1軸及び前記第2軸と平行且つ前記第1軸及び前記第2軸とは異なる第3軸上に配置されると共に、前記ロータ出力ギヤに噛み合う第1カウンタギヤと、前記第1カウンタギヤと一体的に回転すると共に前記差動入力ギヤに噛み合う第2カウンタギヤとを備え、
前記ロータが第1回転方向に回転する場合に、前記差動入力ギヤにより掻き上げられた油を貯留し、前記ロータが前記第1回転方向とは逆方向の第2回転方向に回転する場合に、前記第1カウンタギヤにより掻き上げられた油を貯留する第1キャッチタンクと、
前記ロータが前記第2回転方向に回転する場合に、前記第1カウンタギヤにより掻き上げられた油を貯留する第2キャッチタンクと、を備え、
前記第1キャッチタンクと前記第2キャッチタンクとは、上下方向視で少なくとも一部が重複する状態で上下方向に並んで配置され、
前記第2キャッチタンクは、前記第1キャッチタンクに対して下側に配置されている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第2キャッチタンクは、前記第1カウンタギヤの前記上下方向における上側の端部よりも低い位置に配置されている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1キャッチタンクの容量は、前記第2キャッチタンクの容量よりも大きい、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1キャッチタンクは、前記第2キャッチタンク及び油が供給される被供給部が配置された被供給空間の少なくとも一方とオリフィスを介して連通している、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第1軸に沿った方向を軸方向とし、
前記軸方向及び前記上下方向に直交する方向を幅方向として、
前記差動入力ギヤによって掻き上げられて落下する油を捕獲して、前記幅方向に沿って前記第1キャッチタンクに油を導く上段導油路を備え、
前記上段導油路は、前記ケースの前記上下方向に沿った壁面から前記軸方向に突出するように形成されていると共に、前記差動入力ギヤに対して前記軸方向の一方側に配置された特定導油部を備え、
前記差動入力ギヤは、斜歯歯車であり、前記差動入力ギヤがいずれか一方側に回転している場合に、前記差動入力ギヤにより掻き上げられた油が前記特定導油部の側へ向かうように前記斜歯歯車の歯面が傾斜している、請求項1から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記特定導油部は、前記上下方向視で前記第1カウンタギヤと重複することなく配置されている、請求項5に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記第1カウンタギヤの周方向に飛散する油を捕獲して前記第1キャッチタンク及び前記第2キャッチタンクに導く周方向導油路を備え、
前記第1軸に沿った方向を軸方向として、
前記周方向導油路は、前記ケースの前記上下方向に沿った壁面から前記軸方向に突出すると共に、前記第1カウンタギヤの外周に沿って、前記第1カウンタギヤよりも下側から前記第1カウンタギヤよりも上側まで延在するように形成されている、請求項1から6の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機、カウンタギヤ機構、差動歯車機構、及びこれらを収容するケースを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-8902号公報には、ギヤによって掻き上げられた油を、潤滑対象が配置された対象領域に提供する車両用駆動装置が開示されている。車両用駆動装置は、互いに平行且つそれぞれ異なる軸に配置された回転電機、カウンタギヤ機構、差動歯車機構を備えており、これらが収容されるケース内には油が貯留される油貯留部が設けられている。カウンタギヤ機構に備えられたカウンタギヤ(回転電機の側のギヤに噛み合うカウンタドリブンギヤ)の下端部は油貯留部に貯留される油に浸かっている。カウンタギヤによって掻き上げられた油は、車両が前進する際には、一時的に油を貯留するリザーバとしてのキャッチタンクに貯留され、このキャッチタンクを経由して上述した対象領域に供給される。車両が後進する際には、カウンタギヤの回転方向が逆方向となるため、カウンタギヤによって掻き上げられる油は、適切にキャッチタンクには供給されない。このため、カウンタギヤと同様に油貯留部に浸かっている差動歯車機構のリングギヤ(カウンタギヤ機構の側のギヤ(カウンタドライブギヤ)に噛み合う差動入力ギヤ)の掻き上げによって、キャッチタンクに油が供給されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の車両用駆動装置は、車両が前進する場合も後進する場合も、ギヤによって掻き上げられた油をキャッチタンクに供給し、キャッチタンクを介して対象領域に油を供給することができる。しかし、前進時に油を掻き上げるギヤと、後進時に油を掻き上げるギヤとが異なるギヤである。そして、前進時も後進時も同じキャッチタンクに油を導いているため、異なるギヤから導かれる油の経路が異なるものとなる。このため、例えばギヤの回転速度が低いような場合には、キャッチタンクに油を十分に導けないおそれがあると考えられる。
【0005】
上記背景に鑑みて、ギヤの回転によって適切に油を掻き上げて潤滑用の油をケース内に供給できる車両用駆動装置の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、ロータを備えた回転電機と、差動入力ギヤに伝達される駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車機構と、前記ロータと前記差動入力ギヤとの間で駆動力の伝達を行うカウンタギヤ機構と、前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記カウンタギヤ機構を収容するケースと、を備えた車両用駆動装置であって、前記ロータは第1軸上に配置され、前記第1軸上には、更に、前記ロータと一体的に回転するロータ出力ギヤが配置され、前記差動歯車機構は前記第1軸と平行且つ前記第1軸とは異なる第2軸上に配置され、前記カウンタギヤ機構は、前記第1軸及び前記第2軸と平行且つ前記第1軸及び前記第2軸とは異なる第3軸上に配置されると共に、前記ロータ出力ギヤに噛み合う第1カウンタギヤと、前記第1カウンタギヤと一体的に回転すると共に前記差動入力ギヤに噛み合う第2カウンタギヤとを備え、前記ロータが第1回転方向に回転する場合に、前記差動入力ギヤにより掻き上げられた油を貯留し、前記ロータが前記第1回転方向とは逆方向の第2回転方向に回転する場合に、前記第1カウンタギヤにより掻き上げられた油を貯留する第1キャッチタンクと、前記ロータが前記第2回転方向に回転する場合に、前記第1カウンタギヤにより掻き上げられた油を貯留する第2キャッチタンクと、を備え、前記第1キャッチタンクと前記第2キャッチタンクとは、上下方向視で少なくとも一部が重複する状態で上下方向に並んで配置され、前記第2キャッチタンクは、前記第1キャッチタンクに対して下側に配置されている。
【0007】
この構成によれば、キャッチタンクが第1キャッチタンクと第2キャッチタンクとの2つのタンク部を備えることによって、例えば異なる経路から供給される油を効率よく貯留することができる。例えば、油を掻き上げるギヤの回転方向が逆方向となった場合には、ギヤによる油の掻き上げ経路が異なるものとなる。第1キャッチタンクと第2キャッチタンクとの2つのタンク部を備えることによって、ギヤの回転方向が異なったり、ギヤの回転速度が低いなどで油が掻き上げられにくかったりしても、少なくとも何れかのタンク部に油を効率よく貯留できるように構成し易い。このように本構成によれば、2つのタンク部に適切に油を供給することができるので、多くのギヤをケース内の油に浸らせる必要性を低減することができる。従って、本構成によれば、ギヤの回転によって油を掻き上げて潤滑用の油をケース内に供給できる車両用駆動装置を提供することができる。
【0008】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両用駆動装置の基本構造の一例を示す軸方向断面図
【
図2】車両用駆動装置の基本構造の一例を示すスケルトン図
【
図3】第1カバーを外した状態の車両用駆動装置の模式的斜視図
【
図4】第1カバー及びギヤを外した状態の車両用駆動装置の模式的斜視図
【
図5】第1カバーを外した状態の車両用駆動装置を第1カバーの側(軸方向第1側)から見た模式的側面図
【
図6】第1カバーを軸方向第2側から見た模式的側面図
【
図7】車両用駆動装置(ロータ、差動入力ギヤ)が第1回転方向に回転する際のキャッチタンクへの油の導入経路を示す図
【
図8】車両用駆動装置(ロータ、差動入力ギヤ)が第2回転方向に回転する際のキャッチタンクへの油の導入経路を示す図
【
図9】車両用駆動装置が前輪及び後輪の駆動装置としてそれぞれ配置された車両の一例を模式的に示す側面図
【
図10】車両用駆動装置が前輪及び後輪の駆動装置としてそれぞれ配置された車両の一例を模式的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の説明における各部材についての方向は、車両用駆動装置1が車両100(
図9参照)に組み付けられた状態(車両搭載状態)での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。車両搭載状態において、車両用駆動装置1の回転軸(本実施形態では互いに平行な別軸である各軸(例えば、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3、詳細は後述する)に沿った方向を軸方向Lと称し、軸方向Lにおける一方側を軸方向第1側L1,他方側を軸方向第2側L2と称する。また、上記の各軸のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向」とする。また、車両用駆動装置1が車両100に取り付けられた状態で鉛直方向に沿う方向を「上下方向Z」とし、それぞれ上下の側を上側Z1、下側Z2とする。軸方向Lが水平面に平行な状態で車両用駆動装置1が車両100に取り付けられる場合には、径方向の1方向と上下方向Zとが一致する。また、上下方向Z及び軸方向Lに直交する方向を幅方向Hと称し、幅方向Hにおける一方側を幅方向第1側H1,他方側を幅方向第2側H2と称する。
【0011】
また、車両前後方向X(
図9参照)における後輪WRに対して前輪WFの側を前後方向前側XFとし、その反対側を前後方向後側XRとする。また、上下方向Zに沿う上下方向視で車両前後方向Xに直交する方向を車両幅方向Yとする。本実施形態では、車両幅方向Yと軸方向Lとが一致する(
図1、
図9参照)。
【0012】
図1、
図2に示すように、車両用駆動装置1は、ロータ21を備えた回転電機2と、差動入力ギヤ51に伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する差動歯車機構5と、ロータ21と差動入力ギヤ51との間で駆動力の伝達を行うカウンタギヤ機構4と、回転電機2、差動歯車機構5、及びカウンタギヤ機構4を収容するケース10とを備えている。ケース10は、ケース本体11と、ケース本体11に軸方向第1側L1から接合される第1カバー12と、ケース本体11に軸方向第2側L2から接合される第2カバー13と、ケース本体11に上側Z1から接合される第3カバー14とを備える。ケース本体11は不図示の区画壁によって上下方向Zに区画されており、下側Z2に回転電機2、差動歯車機構5、及びカウンタギヤ機構4を収容する機器収容室E1が形成されている。即ち、区画壁と、区画壁よりも下側のケース本体11の内壁と、第1カバー12と、第2カバー13とにより囲まれた空間に機器収容室E1が形成されている。区画壁よりも上側、即ち、区画壁と、区画壁よりも下側のケース本体11の内壁と、第3カバー14とにより囲まれた空間には、後述するインバータ装置9が収容されるインバータ収容室E2が形成されている。
【0013】
ロータ21は第1軸A1上に配置されている。また、第1軸A1上には、さらに、ロータ21と一体的に回転するロータ出力ギヤ31が配置されている。差動歯車機構5は第1軸A1と平行且つ第1軸A1とは異なる第2軸A2上に配置されている。カウンタギヤ機構4は、第1軸A1及び第2軸A2と平行且つ前記第1軸A1及び第2軸A2とは異なる第3軸A3上に配置されると共に、ロータ出力ギヤ31に噛み合う第1カウンタギヤ41と、第1カウンタギヤ41と一体的に回転すると共に差動入力ギヤ51に噛み合う第2カウンタギヤ42とを備えている。
【0014】
回転電機2は、例えば複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機2は、直流電源から電力の供給を受けて力行し、又は、車両100の慣性力により発電した電力を当該直流電源に供給する(回生する)。回転電機2は、直流電力と複数相の交流電力との間で電力を変換するインバータ回路(不図示)を備えたインバータ装置9により駆動制御される。本実施形態では、
図1に示すように、このインバータ装置9もケース10内に収容される。ケース10には、機器収容室E1とは別に、インバータ装置9を収容するためのインバータ収容室E2が形成されている。
【0015】
インバータ回路は、複数のスイッチング素子を有して構成されている。例えば、インバータ回路は、フリーホイールダイオードも含めて1つのパワーモジュールに一体化されて構成されている。また、インバータ回路の直流側には正負両極間電圧(直流リンク電圧)を平滑する平滑コンデンサとしての直流リンクコンデンサ(不図示)が備えられている。インバータ回路は、インバータ制御装置(不図示)により制御される。また、インバータ装置9は、上述したようなインバータ制御装置、直流リンクコンデンサ、インバータ回路(パワーモジュール)を含んだユニットとして構成されている。インバータ装置9は、ケース10内部のインバータ収容室E2に配置され、例えばボルト等の締結部材によってケース10に固定されている。
【0016】
尚、本実施形態では、
図1、
図3、
図4等に示すように、機器収容室E1とインバータ収容室E2とが一体的に形成されている。即ち、ケース10は、回転電機2等を収容する機器収容室E1と、インバータ装置9を収容するインバータ収容室E2とを内部に有して一体形成された本体部分(ケース本体11)を有して構成されている。ここで、「一体形成」とは、例えば1つの金型鋳造品(die casting)として、共通の材料により形成された一体部材のことを言う。当然ながら、機器収容室E1とインバータ収容室E2とがそれぞれ異なる部材により形成され、締結されて1つのケース10が構成されていてもよい。
【0017】
回転電機2は、ケース10などに固定されたステータ23と、当該ステータ23の径方向内側に回転自在に支持されたロータ21とを有する。本実施形態では、ステータ23は、ステータコア24とステータコア24に巻き回されたステータコイル25とを含み、ロータ21は、ロータコア22とロータコア22に配置された永久磁石26とを含む。ステータコイル25は、ステータコア24に巻き回されているが、ステータ23における軸方向Lの端部には、巻き回されたステータコイル25の屈曲部がステータコア24から軸方向Lに突出したコイルエンド部25eが形成される。
【0018】
回転電機2のロータ21は、ロータ21と一体的に回転するロータ軸20に連結されている。ロータ軸20には、当該ロータ軸20と一体回転するように、ロータ連結軸30が連結されている。ロータ軸20は、ロータ軸受B2を介して回転可能にケース10に支持され、ロータ連結軸30は、入力軸受B3を介して回転可能にケース10に支持されている。ロータ連結軸30には、ロータ出力ギヤ31がロータ連結軸30と一体的に回転するように設けられている。
【0019】
回転電機2のロータ軸20は、ロータ21に対して軸方向Lにおけるロータ連結軸30(ロータ出力ギヤ31)の側とは反対側(軸方向第2側L2)で第1ロータ軸受B21により支持され、ロータ21に対して軸方向Lにおけるロータ連結軸30(ロータ出力ギヤ31)の側(軸方向第1側L1)で第2ロータ軸受B22により支持される。ロータ出力ギヤ31は、後述するように、カウンタギヤ機構4の第1カウンタギヤ41に噛み合っている。
【0020】
差動歯車機構5は、第2軸A2上に配置され、回転電機2の側から伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する。本実施形態では、差動歯車機構5は、互いに噛み合う複数の傘歯車(ピニオンギヤ53、差動出力ギヤ54)と、当該複数の傘歯車を収容した差動ケース52とを含んで構成されている。差動ケース52は、差動軸受B5により回転可能にケース10に支持されている。差動ケース52は、差動入力ギヤ51と一体的に回転するように連結されていると共に、ピニオン軸55を支持している。そして、差動歯車機構5は、回転電機2の側から差動入力ギヤ51に入力された回転及びトルクを、第2軸A2の径方向に沿って配置されていると共に差動入力ギヤ51と一体的に回転するピニオン軸55に伝達し、当該ピニオン軸55に回転自在に支持されたピニオンギヤ53に噛み合う一対の差動出力ギヤ54を介して一対の出力部材70に分配して伝達する。出力部材70は出力軸受B7を介してケース10に回転可能に支持されている。
【0021】
カウンタギヤ機構4は、第3軸A3上に配置され、ロータ出力ギヤ31を介して回転電機2と差動歯車機構5(差動入力ギヤ51)とを駆動連結している。カウンタ連結軸40は、カウンタ軸受B4を介して回転可能にケース10に支持されている。本実施形態では、カウンタギヤ機構4は、カウンタ連結軸40によって連結された第1カウンタギヤ41と第2カウンタギヤ42とを有して構成されている。第1カウンタギヤ41はロータ出力ギヤ31と噛み合い、カウンタ連結軸40によって第1カウンタギヤ41に連結された第2カウンタギヤ42は、差動入力ギヤ51に噛み合っている。そして、第1カウンタギヤ41及び第2カウンタギヤ42に対して軸方向Lの両外側に配置された一対のカウンタ軸受B4によって、カウンタ連結軸40がケース10に対して回転可能に支持されている。
【0022】
回転電機2、ロータ出力ギヤ31、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及びこれらを支持する軸受は、ケース10内に貯留された油によって、潤滑及び冷却される。上述したように、ステータ23における軸方向Lの端部には、巻き回されたステータコイル25の屈曲部がステータコア24から軸方向Lに突出したコイルエンド部25eが形成される。例えば、このコイルエンド部25eに冷媒としての油を掛けることによって、ステータコイル25が冷却される。
【0023】
ケース10の内部、特に機器収容室E1の下部には、潤滑及び冷却に用いられた油が落下し、貯留される油貯留部P(
図3~
図5参照)が形成されている。即ち、ケース10は、ケース10内の下部に設けられて油を貯留する油貯留部Pを備えている。本実施形態の車両用駆動装置1は、油貯留部Pに貯留された油を吸引し吐出して、少なくとも回転電機2に油を供給するオイルポンプOPをケース10内に備えている。詳細は後述するが、
図3及び
図5に示すように、オイルポンプOPは、カウンタギヤ機構4よりも下側Z2であって、上下方向視でカウンタギヤ機構4と少なくとも一部が重複する位置に配置されている。オイルポンプOPは、油貯留部Pから油を吸入し、油路に吐出して供給先に油を供給する。
【0024】
回転電機2のロータ21と差動入力ギヤ51とを駆動連結するカウンタギヤ機構4は、回転電機2の配置や車輪Wの配置に依存されるロータ21や差動入力ギヤ51に比べて配置の自由度が高い。従って、カウンタギヤ機構4の下側Z2には比較的空間を確保し易く、カウンタギヤ機構4よりも下側Z2にオイルポンプOPが配置されるとケース10内の空間の利用効率がよい。また、油は重力に従ってケース10内の下方に貯留されるから、貯留された油を吸入し易い位置にオイルポンプOPを配置することができる。詳細は後述するが、本実施形態では、油貯留部Pに貯留された油を掻き上げるためにカウンタギヤ機構(第1カウンタギヤ41)を利用しなくてもよい。つまり、第1カウンタギヤ41を油貯留部Pに浸さなくてもよく、カウンタギヤ機構4をケース10内の比較的上方の位置に配置することができる。従って、油貯留部Pが形成されるケース10の下方、例えばカウンタギヤ機構4の下方にオイルポンプOPを収容する空間を確保し易い。
【0025】
回転電機2、ロータ出力ギヤ31、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及びこれらを支持する軸受の一部には、ケース10の内部に収容されたギヤにより掻き上げられた油も供給される。油貯留部Pに溜まった油は、車両用駆動装置1が備えるギヤ(例えば差動入力ギヤ51)により掻き上げられる。掻き上げられた油は、直接、軸受等の潤滑対象箇所(被供給部G)に供給されると共に、ケース10内に形成されたキャッチタンク7(
図3から
図6参照)に貯留される。そして、キャッチタンク7を介して被供給部Gに供給される。ここで、ケース10内において被供給部Gが配置されている空間を被供給空間Fと称する。
【0026】
本実施形態では、車両用駆動装置1は、ギヤにより掻き上げられた油を貯留し、油が供給される被供給部Gが配置された被供給空間Fに油を供給するキャッチタンク7を備える。
図3から
図6に示すように、キャッチタンク7は、上下方向視で少なくとも一部が重複する状態で上下方向Zに並んで配置された第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72とを含む。第1キャッチタンク71に対して第2キャッチタンク72が下側Z2に配置されている。具体的には、第1キャッチタンク71は、ロータ21が第1回転方向V1(
図7参照)に回転する場合に、差動入力ギヤ51により掻き上げられた油を貯留し、ロータ21が第1回転方向V1とは逆方向の第2回転方向V2(
図8参照)に回転する場合に、第1カウンタギヤ41により掻き上げられた油を貯留する。第2キャッチタンク72は、ロータ21が前記第2回転方向V2に回転する場合に、第1カウンタギヤ41により掻き上げられた油を貯留する。
【0027】
また、本実施形態では、
図5に示すように、第2キャッチタンク72は、第1カウンタギヤ41の上下方向Zにおける上側Z1の端部(第1カウンタギヤ上端部41H)よりも低い位置に配置されている。詳細は後述するが、これにより、第1カウンタギヤ41の掻き上げによって適切に油を第2キャッチタンク72に導入することができる。尚、第2カウンタギヤ42の上下方向Zにおける上側Z1の端部(第2カウンタギヤ上端部42H)に対しては、第2キャッチタンク72の方が高い位置に配置されている。また、本実施形態では、第1キャッチタンク71の容量は、第2キャッチタンク72の容量よりも大きい。
【0028】
第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72とは連通しており、オリフィス8によって第1キャッチタンク71に貯留された油が第2キャッチタンク72に供給できるように構成されている。また、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に貯留された油は、オリフィス8によって被供給空間Fへ供給される。第1キャッチタンク71は、第2キャッチタンク72とのみ連通していても良いし、被供給空間Fとのみ連通していてもよい。当然ながら、第1キャッチタンク71は、第2キャッチタンク72及び被供給空間Fの双方と連通していてもよい。尚、第2キャッチタンク72が被供給空間Fと連通している場合、第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72とが連通していれば、第1キャッチタンク71と被供給空間Fとは、第2キャッチタンク72を介して連通しているということができる。即ち、第1キャッチタンク71は、第2キャッチタンク72及び被供給空間Fの少なくとも一方とオリフィス8を介して連通している。
【0029】
オリフィス8は、流量を制限しつつ、油を供給することができる。従って、第1キャッチタンク71に貯留された油が急激に減少するようなことを抑制しつつ、第1キャッチタンク71から、第2キャッチタンク72や被供給空間Fに継続的に油を供給することができる。
【0030】
図3から
図5に示すように、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72は、ケース10(ケース本体11)の上下方向Zに沿った壁面(第1壁面11a)から軸方向L(軸方向第1側L1)に突出するように形成されている。また、
図6に示すように、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72は、ケース10(第1カバー12)の上下方向Zに沿った壁面(第2壁面12a)から軸方向L(軸方向第2側L2)に突出するように形成されている。
図1に示すように、ケース本体11と第1カバー12とが軸方向Lに接合されてケース10が構成される。ケース本体11の側において軸方向第1側L1に突出するように形成された部分と、第1カバー12の側において軸方向第1側L1に突出するように形成された部分とが接合されて、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72が形成される。
【0031】
後述するように、第1キャッチタンク71に対しては、差動入力ギヤ51によって掻き上げられて落下する油を捕獲して、幅方向Hに沿って第1キャッチタンク71に油を導く上段導油路73が備えられている(
図3から
図5参照)。上段導油路73は、ケース10(ケース本体11)の上下方向Zに沿った壁面(第1壁面11a)から軸方向L(軸方向第1側L1)に突出するように形成されている。また、上段導油路73は、差動入力ギヤ51に対して軸方向Lの一方側に配置された特定導油部77を備えている。差動入力ギヤ51は、斜歯歯車であり差動入力ギヤ51がいずれか一方側に回転している場合(
図7に示す第1回転方向V1に回転している場合)に、差動入力ギヤに51より掻き上げられた油が特定導油部77の側へ向かうように斜歯歯車の歯面が傾斜している。
【0032】
上述したように、上段導油路73は、特定導油部77を備えている。
図3から
図5に示すように特定導油部77は、ケース本体11の第1壁面11aから軸方向第1側L1に突出するように形成されている。一方、
図6に示すように、第1カバー12の第2壁面12aには形成されていない。これにより、特定導油部77は、上下方向視で第1カウンタギヤ41と重複することなく配置されている。
【0033】
第1カバー12には、特定導油部77が形成されていない代わりに、
図6に示すように、第1カウンタギヤ41の周方向に飛散する油を捕獲して第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に導く周方向導油路61が備えられている。周方向導油路61は、ケース10(第1カバー12)の上下方向Zに沿った壁面(第2壁面12a)から軸方向L(軸方向第2側L2)に突出すると共に、第1カウンタギヤ41の外周に沿って、第1カウンタギヤ41よりも下側Z2から第1カウンタギヤ41よりも上側Z1まで延在するように形成されている。上述したように、特定導油部77は、上下方向視で第1カウンタギヤ41と重複することなく配置されているので、特定導油部77と干渉することなく、周方向導油路61を配置することができる。図示の例では、周方向導油路61は、第1カウンタギヤ41における下側Z2を向く面に対向する部分では、軸方向L視で第1カウンタギヤ41の外周面と平行な円弧状に形成され、第3軸A3の上下方向Zの位置に対応する部分から上側Z1へ向かうに従って、第1カウンタギヤ41の外周面から次第に離れると共に曲率半径が次第に大きくなるような弧状に形成されている。
【0034】
詳細は後述するが、
図6及び
図8に示すように、主に第1カウンタギヤ41の回転によって掻き上げられる油が、周方向導油路61を利用して第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に供給される。このため、周方向導油路61において第1カウンタギヤ41の下方Z2に位置する部分には、油受け部60が形成されている。油受け部60には、第1カウンタギヤ41の下方Z2側の歯面が浸かる程度に油が溜まり、この油が第1カウンタギヤ41によって掻き上げられ、周方向導油路61により案内されて第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に供給される。そして、
図4から
図6、及び
図8に示すように、この油受け部60に対して効率的に油を供給できるように、軸方向Lに沿って軸方向導油路65が備えられている。
図5、
図6、
図8に示すように、軸方向導油路65は、差動入力ギヤ51により掻き上げられ、差動入力ギヤ51と第2カウンタギヤ42との噛み合い箇所Qより落下する油を受け止める。そして、軸方向Lに沿って軸方向第2側L2から軸方向第1側L1へ向かって、第1カウンタギヤ41の歯面に油を供給するべく、受け止めた油を油受け部60に導く。
【0035】
即ち、本実施形態の車両用駆動装置1は、第1カウンタギヤ41により掻き上げられた油を貯留し、油が供給される被供給部Gが配置された被供給空間Fに油を供給するキャッチタンク7を備えるということができる。また、上述したように、差動入力ギヤ51により掻き上げられ、差動入力ギヤ51と第2カウンタギヤ42との噛み合い箇所Qより落下する油を捕獲して、軸方向Lに沿って第1カウンタギヤ41の歯面に油を導く軸方向導油路65を備える。
【0036】
また、上述したように、本実施形態の車両用駆動装置1は、第1カウンタギヤ41の下方Z2に、軸方向導油路65から供給される油を一時的に貯留する油受け部60を備えている。また、軸方向導油路65は、ケース10(ケース本体11)の上下方向Zに沿った壁面(第1壁面11a)から軸方向L(軸方向第1側L1)に突出した樋状に形成されている。そして、軸方向導油路65は、上下方向視で、差動入力ギヤ51と第2カウンタギヤ42との噛み合い箇所Q及び油受け部60と重複するように配置されている。
【0037】
当該噛み合い箇所Qと軸方向導油路65とが上下方向視で重複することで、噛み合い箇所Qより落下する油を適切に捕獲することができる。また、油受け部60と軸方向導油路65とが上下方向視で重複することで、軸方向導油路65を通って流れてきた油を油受け部60が適切に受け取ることができる。即ち、噛み合い箇所Qから油受け部60まで樋状の軸方向導油路65を介して適切に油を導くことができる。
【0038】
尚、好ましくは、当該噛み合い箇所Qにおける軸方向Lの全ての領域が軸方向導油路65と上下方向視で重複すると、落下する油を効率よく捕獲することができる。また、軸方向導油路65の端部と油受け部60とが上下方向視で重複するように、軸方向導油路65の一部が油受け部60と上下方向視で重複すると、軸方向導油路65を流れる油を効率よく油受け部60に供給することができる。
【0039】
また、本実施形態では、軸方向導油路65は、ケース10(ケース本体11)とは別部材として構成され、締結部材69を用いてケース本体11における第1壁面11aに固定されている。しかし、軸方向導油路65がケース本体11と一体的に鋳造等によって形成されることを妨げるものではない。
【0040】
尚、第1カウンタギヤ41の最下部である第1カウンタギヤ下端部41Lは、油貯留部Pにおける最も低い状態の油面(第3油面D3)よりも上側Z1となるように配置されている。つまり、油面が最も低い状態では、第1カウンタギヤ41による油の掻き上げができない。しかし、上述したように、軸方向導油路65や油受け部60を設けることにより、油貯留部Pの油面に拘わらず、第1カウンタギヤ41による油の掻き上げを行うことができる。尚、油面が最も低くなる状態とは、例えば油温が常温よりも高温であり、ロータ21の回転速度が高い(差動入力ギヤ51等のギヤの回転速度が高い)状態である。粘性の低い油が多く掻き上げられることにより、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に貯留される油の量が多くなり、油貯留部Pに戻る油が少なくなる。
【0041】
本実施形態では、
図5に示すように、ロータ21の最下部(ロータ下端部21L)は、ロータ21、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5が回転している定常回転状態において、油貯留部Pにおける油面(第2油面D2)よりも上側Z1となるように配置されている。ロータ下端部21Lが第2油面D2よりも上側Z1であると、定常回転状態においてロータ21が油に浸からない。従って、ロータ21に生じる攪拌抵抗が低減され、回転電機2の効率、及び車両用駆動装置1の効率の低下が抑制される。尚、油貯留部Pにおける最も高い状態の油面(第1油面D1)は、ロータ下端部21Lが第1油面D1よりも下側Z2であってよい。そのような状態は車両用駆動装置1の停止時から回転の初期に現れるので、攪拌抵抗による効率の低下は限定的である。また、第1油面D1の場合にロータ下端部21Lが第1油面D1よりも下側Z2となることを許容することによって、必要な油を十分にケース10に貯留させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、さらに、第1カウンタギヤ41の最下部(第1カウンタギヤ下端部41L)が、ロータ21の最下部(ロータ下端部21L)よりも上側Z1である。即ち、本実施形態では、定常回転状態において第1カウンタギヤ41も油に浸からない。従って、カウンタギヤ機構4(第1カウンタギヤ41)に生じる攪拌抵抗も低減され、車両用駆動装置1の効率の低下が抑制される。
【0043】
以上、車両用駆動装置1におけるギヤやキャッチタンク7の配置について説明したが、以下、キャッチタンク7への油の供給について説明する。以下の説明において、「車両用駆動装置1の回転方向」という場合は、ロータ21及び差動入力ギヤ51の回転方向をいう。換言すれば、カウンタギヤ機構4の回転方向は、常に車両用駆動装置1(ロータ21及び差動入力ギヤ51)の回転方向とは逆方向となる。
図7は、車両用駆動装置1が第1回転方向V1に回転する際のキャッチタンク7への油の導入経路を示しており、
図8は、車両用駆動装置1が第1回転方向V1とは逆方向の第2回転方向V2に回転する際のキャッチタンク7への油の導入経路を示している。例えば、車両用駆動装置1が搭載された車両100が前進する場合、車両用駆動装置1は第1回転方向V1に回転し、当該車両100が後進する場合、車両用駆動装置1は第2回転方向V2に回転する。
【0044】
図5に示すように、差動入力ギヤ51は、油貯留部Pの油面が最も低い第3油面D3の場合であっても、貯留された油に浸かっている。このため、油貯留部Pにおける油の貯留量に拘わらず、差動入力ギヤ51の回転によって油が掻き上げられる。車両用駆動装置1の回転方向、つまり、差動入力ギヤ51の回転方向が第1回転方向V1の場合、
図7に示すように、差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油が、遠心力によって第1キャッチタンク71、第2キャッチタンク72に供給される。
図3を参照して上述したように、差動入力ギヤ51は、斜歯歯車である。本実施形態では、差動入力ギヤ51が第1回転方向V1に回転する場合に、回転方向に向く斜歯に直交する方向が、軸方向Lにおける差動入力ギヤ51に対してキャッチタンク7が配置された側を向くように、差動入力ギヤ51の斜歯の向きが設定されている。従って、第1回転方向V1に回転する差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油は、キャッチタンク7の方向へ偏向して(ここでは軸方向第2側L2に偏向して)飛散し、効率よくキャッチタンク7に油が導入される。
【0045】
また、上述したように、第1キャッチタンク71に対しては、差動入力ギヤ51によって掻き上げられて落下する油を捕獲して、幅方向Hに沿って第1キャッチタンク71に油を導く上段導油路73(特定導油部77)が備えられている。
図3から
図5、及び
図7に示すように、特定導油部77は、差動入力ギヤ51と上下方向視で重複するように、差動入力ギヤ51の上側Z1まで延伸しており、差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油を適切に捕獲して第1キャッチタンク71に導くことができる。
【0046】
このような上段導油路73(特定導油部77)を備えることによって、差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油を適切に第1キャッチタンク71に導くことができる。また、油を掻き上げる差動入力ギヤ51は斜歯歯車により構成されており、その傾斜方向は、差動入力ギヤ51がいずれか一方側に回転している場合に差動入力ギヤに51より掻き上げられた油が特定導油部77の側へ向かう方向である。従って、少なくとも差動入力ギヤ51が当該一方側に回転している場合に、効率よく油をキャッチタンク7(第1キャッチタンク71)へ導入することができる。
【0047】
本実施形態では、
図3から
図5に示すように、差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油を捕獲して、幅方向Hに沿って第2キャッチタンク72に油を導く下段導油路74も備えられている。下段導油路74も、ケース10(ケース本体11)の第1壁面11aから軸方向L(軸方向第1側L1)に突出するように形成されている。下段導油路74も差動入力ギヤ51と上下方向視で重複するように延伸しており、差動入力ギヤ51によって掻き上げられた油を適切に捕獲して第2キャッチタンク72に導くことができる。また、下段導油路74も上段導油路73(特定導油部77)と同様に、斜歯歯車により構成された差動入力ギヤ51が第1回転方向V1に回転する際に、掻き上げられた油が下段導油路74の側へ向かうように配置されている。従って、少なくとも差動入力ギヤ51が当該一方側に回転している場合に、効率よく油をキャッチタンク7(第2キャッチタンク72)へ導入することができる。
【0048】
上述したように、車両用駆動装置1が第1回転方向V1に回転する場合には、油貯留部Pに浸かる差動入力ギヤ51の掻き上げにより、第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に適切に油を導入することができる。一方、車両用駆動装置1が第2回転方向V2に回転する場合には、差動入力ギヤ51の回転方向も逆方向となり、掻き上げられた油の飛散方向も逆方向となり、上段導油路73及び下段導油路74に届く油滴が大きく減少する。その結果、キャッチタンク7に導入される油も減少する。一方、カウンタギヤ機構4のギヤは、差動入力ギヤ51とは逆方向に回転するから、車両用駆動装置1(差動入力ギヤ51)が第2回転方向V2に回転する場合、第1カウンタギヤ41は第1回転方向V1に回転する。そこで、車両用駆動装置1が第2回転方向V2に回転する場合には、第1カウンタギヤ41により掻き上げられた油がキャッチタンク7に導入されるように構成されている。
【0049】
即ち、
図6及び
図8を参照して上述したように、第1カウンタギヤ41の回転によって掻き上げられる油が、周方向導油路61を利用して第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に導入される。具体的には、油貯留部Pから油を掻き上げる差動入力ギヤ51と、それに噛み合う第2カウンタギヤ42との噛み合い箇所Qから落下する油が、軸方向導油路65によって受け止められる。軸方向第2側L2から軸方向第1側L1へ向かって伸びる軸方向導油路65により、噛み合い箇所Qから落下した油は、第1カウンタギヤ41の下側Z2の油受け部60に導かれる。そして、第1回転方向V1に回転する第1カウンタギヤ41により、油受け部60に溜まった油が掻き上げられ、遠心力によって第1カウンタギヤ41の径方向に飛散する油滴が、周方向導油路61によって第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に案内される。
【0050】
軸方向導油路65を備えることによって、油貯留部Pから油を掻き上げる差動入力ギヤ51と、それに噛み合う第2カウンタギヤ42との噛み合い箇所Qから落下する油を捕獲し、第1カウンタギヤ41の歯面に油を導くことができる。これにより、第1カウンタギヤ41が油貯留部Pに貯留された油に浸かっていなくても、第1カウンタギヤ41によって油を掻き上げ、キャッチタンク7に油を供給することができる。
【0051】
また、差動入力ギヤ51とは反対方向に回転する第1カウンタギヤ41の回転により飛散する油を捕獲して第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に導く周方向導油路61を備えることで、差動入力ギヤ51の回転方向が、効率的にキャッチタンク7に油を供給できる回転方向とは逆の場合であっても、第1カウンタギヤ41の回転によって効率的にキャッチタンク7に油を供給できる。
【0052】
また、上述したように、特定導油部77は、上下方向視で第1カウンタギヤ41と重複することなく配置されている。差動入力ギヤ51の回転方向が、効率的にキャッチタンク7に油を供給できる回転方向とは逆の場合、差動入力ギヤ51とは逆方向に回転する第1カウンタギヤ41により油を掻き上げてキャッチタンク7に油を供給することが考えられる。この際、第1カウンタギヤ41と上下方向視で重複する位置に特定導油部77が配置されていると、第1カウンタギヤ41からキャッチタンク7への油の経路を妨害する可能性がある。特定導油部77は、上下方向視で第1カウンタギヤ41と重複することなく配置されていることにより、第1カウンタギヤ41の回転によって効率的にキャッチタンク7に油を供給することができる。
【0053】
また、本実施形態では、第1キャッチタンク71の容量が、第2キャッチタンク72の容量よりも大きい。例えば、第1回転方向V1が、車両100が前進する際の回転方向であるとすれば、頻度の高い回転方向は第1回転方向V1である。
図7等に示すように差動入力ギヤ51の掻き上げによる油の多くは、第1キャッチタンク71に導かれるように構成されている。第1キャッチタンク71の容量が大きいと、その分、油貯留部Pに戻る油が減少し、油貯留部Pの油面が低下する。その結果、差動入力ギヤ51の攪拌抵抗が減少し、車両用駆動装置1の効率の低下が抑制される。
【0054】
また、第1キャッチタンク71は第2キャッチタンク72よりも上側Z1に位置しているから、第2キャッチタンク72に比べて下側Z2に位置する被供給空間Fの数が多くなる。つまり、第1キャッチタンク71から重力により油を供給可能な被供給空間Fの数は、第2キャッチタンク72に比べて第1キャッチタンク71の方が多くなる。また、第1キャッチタンク71に貯留された油は、重力によって第2キャッチタンク72に供給することも可能であるから、第2キャッチタンク72への油の導入量が少なく場合でも、第2キャッチタンク72と連通する被供給空間Fに油を供給することができる。このように、第1キャッチタンク71の容量が、第2キャッチタンク72の容量よりも大きいと、より適切に被供給空間Fに油を供給し易くなる。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、キャッチタンク7が第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72との2つのタンク部を備えることによって、異なる経路から供給される油を効率よく貯留することができる。
図7及び
図8を参照して上述したように、油を掻き上げるギヤの回転方向が逆方向となった場合には、ギヤによる油の掻き上げ経路が異なるものとなる。第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72との2つのタンク部を備えることによって、ギヤの回転方向が異なっても少なくとも何れかのタンク部に油を効率よく貯留できるように構成し易い。
【0056】
また、第2キャッチタンク72は、第1カウンタギヤ41の上側の端部である第1カウンタギヤ上端部41Hよりも低い位置に設けられているから、
図8を参照して上述したように、第1カウンタギヤ41の掻き上げによっても適切に油を第2キャッチタンク72に導入することができる。
【0057】
図7及び
図8を参照して上述したように、本実施形態の車両用駆動装置1は、車両用駆動装置1の回転方向が何れの方向であっても、適切にキャッチタンク7に油を導入し、キャッチタンク7から被供給空間Fに油を供給することができる。つまり、車両100が前進する場合でも、後進する場合でも適切にキャッチタンク7に油を導入し、キャッチタンク7から被供給空間Fに油を供給することができる。
【0058】
さらに、本実施形態の車両用駆動装置1は、同一構造の車両用駆動装置1を前輪駆動用及び後輪駆動用として、同一の車両100に搭載することで、コストを抑制しながら4輪駆動の車両100を構成することもできる。例えば、
図9及び
図10に例示するように、本実施形態の車両用駆動装置1を、前輪WFを駆動する車両用駆動装置1及び後輪WRを駆動する車両用駆動装置1として用いることで、4輪駆動の車両100を実現することができる。この際、
図9及び
図10に示すように、車両前後方向Xにおける軸(第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3)の位置関係が反対となる状態で車両100に搭載することができる。この場合、前輪WFを駆動する車両用駆動装置1、及び後輪WRを駆動する車両用駆動装置1の一方の回転方向が第1回転方向V1となり、他方の回転方向が第2回転方向となる。本実施形態によれば、車両用駆動装置1が第1回転方向V1及び第2回転方向V2の何れの方向に回転していても、適切にキャッチタンク7に油を導入し、キャッチタンク7から被供給空間Fに油を供給することができる。
【0059】
例えば、前輪WFを駆動する車両用駆動装置1では、第1軸A1が第2軸A2に対して前後方向前側XFに配置され、後輪WRを駆動する車両用駆動装置1では、第1軸が第2軸に対して前後方向後側XRに配置されるとよい。車両用駆動装置1をこのように搭載すると、前輪WFの車軸と後輪WRの車軸との間にスペースを確保し易い。これにより、当該スペースに蓄電装置などを搭載し易く、車室も確保し易い。後輪WRを駆動する車両用駆動装置1において、第2軸A2よりも前後方向前側XFに回転電機2が配置されていると、後席の足元の空間が確保しにくくなる可能性がある。しかし、後輪WRを駆動する車両用駆動装置1において、第2軸A2よりも前後方向後側XRに回転電機2が配置されていると後席の足元の空間も確保し易く、居住性の高い車両を実現することができる。
【0060】
尚、ここで、同一構造の車両用駆動装置1は、少なくともケース10が同一の金型を用いて鋳造可能であり、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3の相互の軸の関係が同一であることをいう。従って、細部に至るまで完全に同一の構造でなくてもよい。例えば回転電機2についても、ロータコア22やステータコア24における電磁鋼板の積層数が、2つの車両用駆動装置1の間で異なっていたり、ステータコイル25の巻き数が異なっていたりしてもよい。つまり、前輪WFを駆動するための要求トルクと後輪WRを駆動するための要求トルクとが異なっている場合には、適宜、車輪Wの駆動源としての回転電機2の仕様を異ならせるなど、細部については異なっていてもよい。
【0061】
以上、説明したように、本実施形態の車両用駆動装置1によれば、ギヤの回転によって適切に油を掻き上げて潤滑用の油をケース10内に供給できる。
【0062】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0063】
(1)上記においては、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3の3軸構成の車両用駆動装置1を例示して説明した。しかし、そのような構成に限らず、車両用駆動装置1は2軸構成や4軸以上の構成であってもよい。
【0064】
(2)上記においては、第1キャッチタンク71の容量が第2キャッチタンク72の容量よりも大きい形態を例示した。しかし、第1キャッチタンク71の容量と第2キャッチタンク72の容量とが同程度であっても良いし、第2キャッチタンク72の容量が第1キャッチタンク71の容量よりも大きくてもよい。
【0065】
(3)上記においては、ロータ下端部21Lが、定常回転状態において、第2油面D2よりも上側Z1となるように配置されている形態を例示した。しかし、攪拌抵抗は大きくなるが、ロータ下端部21Lが、定常回転状態において、第2油面D2よりも上側Z1となるように配置されている形態を妨げるものではない。
【0066】
(4)また、上記においては、ロータ下端部21Lが、定常回転状態において、第2油面D2よりも上側Z1となるように配置されており、さらに、第1カウンタギヤ下端部41Lが、ロータ下端部21Lよりも上側Z1である形態を例示した。しかし、第1カウンタギヤ下端部41Lが、ロータ下端部21Lよりも下側Z2である形態を妨げるものではない。例えば、第1カウンタギヤ下端部41Lが、ロータ下端部21Lよりも下側Z2であっても、第2油面D2よりも上側Z1であれば、定常回転状態において、第1カウンタギヤ41は油に浸からず、攪拌抵抗が低減される。
【0067】
(5)上記においては、第1キャッチタンク71が、第2キャッチタンク72とオリフィス8を介して連通している形態を例示した。しかし、第1キャッチタンク71と第2キャッチタンク72とが連通されることなく、それぞれ独立していてもよい。
【0068】
(6)上記においては、差動入力ギヤ51が、斜歯歯車である形態を例示した。しかし、差動入力ギヤ51は、平歯車であってもよい。また、上記においては、差動入力ギヤ51が斜歯歯車である場合に、差動入力ギヤ51がいずれか一方側に回転している場合に、差動入力ギヤに51より掻き上げられた油が特定導油部77の側へ向かうよう斜歯歯車の歯面が傾斜している形態を例示した。しかし、多少油の飛散方向が偏光しても、回転方向に応じて油は飛散するため、差動入力ギヤに51より掻き上げられた油が特定導油部77とは逆の側へ向かうよう斜歯歯車の歯面が傾斜している形態を妨げるものではない。
【0069】
(7)上記においては、特定導油部77が、上下方向視で第1カウンタギヤ41と重複することなく配置されている形態を例示した。しかし、特定導油部77と第1カウンタギヤ41とが、例えば一部で上下方向視で重複している構成を妨げるものではない。
【0070】
(8)上記においては、周方向導油路61を備える形態を例示した。しかし、第1カウンタギヤ41の回転による遠心力で第1キャッチタンク71及び第2キャッチタンク72に油を導入可能であれば、周方向導油路61を備えていなくてもよい。
【0071】
(9)上記においては、第1カウンタギヤ41の最下部である第1カウンタギヤ下端部41Lが、第3油面D3よりも上側Z1となるように配置されている形態を例示した。しかし、第1カウンタギヤ下端部41Lが、第3油面D3よりも下側Z2となるように配置されている形態を妨げるものではない。
【0072】
(10)上記においては、車両用駆動装置1のケース10内にオイルポンプOPを備える形態を例示した。しかし、オイルポンプOPはケース10の外部に配置され、ケース10の外部から車両用駆動装置1に油を供給する形態であってもよい。また、ケース10内にオイルポンプOPが収容される場合、上記においては、オイルポンプOPがカウンタギヤ機構4よりも下側Z2であって、上下方向視でカウンタギヤ機構4と少なくとも一部が重複する位置に配置されている形態を例示した。しかし、オイルポンプOPは、これとは異なる位置に配置されてもよい。
【0073】
(11)上記においては、第1カウンタギヤ41の下方に、軸方向導油路65から供給される油を一時的に貯留する油受け部60を備える形態を例示して説明した。しかし、例えば軸方向導油路65が第1カウンタギヤ41の下側Z2まで延伸し、第1カウンタギヤ41の歯面に油を供給可能であれば、別途油受け部60が備えられていなくてもよい。
【0074】
(12)上記においては、第2キャッチタンク72が、第1カウンタギヤ41の上下方向Zにおける上側Z1の端部よりも低い位置に配置されている形態を例示した。しかし、第1カウンタギヤ41の回転による遠心力で充分に油が飛散する場合などでは、第2キャッチタンク72が、第1カウンタギヤ41の上下方向Zにおける上側Z1の端部よりも高い位置に配置されていてもよい。
【0075】
(13)上記においては、軸方向導油路65を備える形態を例示したが、軸方向導油路65を備えることなく構成されている形態を妨げるものではない。
【符号の説明】
【0076】
1:車両用駆動装置、2:回転電機、4:カウンタギヤ機構、5:差動歯車機構、7:キャッチタンク、8:オリフィス、10:ケース、11a:第1壁面(ケースの上下方向に沿った壁面)、12a:第2壁面(ケースの上下方向に沿った壁面)、21:ロータ、31:ロータ出力ギヤ、41:第1カウンタギヤ、41H:第1カウンタギヤ上端部(第1カウンタギヤの上下方向における上側の端部)、42:第2カウンタギヤ、42H:第2カウンタギヤ上端部(第2カウンタギヤの上下方向における上側の端部)、51:差動入力ギヤ、61:周方向導油路、71:第1キャッチタンク、72:第2キャッチタンク、73:上段導油路、77:特定導油部、A1:第1軸、A2:第2軸、A3:第3軸、F:被供給空間、G:被供給部、H:幅方向、L:軸方向、V1:第1回転方向、V2:第2回転方向、W:車輪、Z:上下方向、Z1:上側、Z2:下側