IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

特許7444158ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物、及びそれからなる車両内装用又は車両外装用成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物、及びそれからなる車両内装用又は車両外装用成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/08 20060101AFI20240228BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08J5/08 CFG
C08J3/22
C08L77/00
C08L33/04
C08K3/34
C08K7/14
C08K3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021501889
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005357
(87)【国際公開番号】W WO2020170909
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019026448
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
(72)【発明者】
【氏名】梅木 亮
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-098149(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094696(WO,A1)
【文献】国際公開第00/032693(WO,A1)
【文献】特開2010-189467(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16;15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10;5/24
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)、非晶性ポリアミド樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、マイカ(D)、ガラス繊維(E)、及びカーボンブラックのマスターバッチ(F)を含有するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物であって、前記(A)成分~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、前記ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、及び(F)成分をそれぞれ(17~30):(10~16):(3~8):(10~25):(20~50):(1~8)の質量比で含有し、前記(A)成分と(B)成分の質量比(B)/(A)が0.50~0.61を満たし、さらに前記(A)成分~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、前記ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が、銅化合物(G)を0.005~1.0質量部の割合で含有すること、及び前記カーボンブラックのマスターバッチ(F)のベース樹脂が、ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレンと脂肪族ビニルエステルとの共重合体、スチレンの単独重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、及びスチレン単量体とマレイミド系単量体またはアクリルアミド系単量体との共重合体からなる群から選択され、前記マスターバッチ中のカーボンブラックの含有割合が30~60質量%であることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
非晶性ポリアミド樹脂(B)が、半芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる車両内装用又は車両外装用成形品。
【請求項4】
アウターハンドル、アウタードアハンドル、ホイールキャップ、ルーフレール、ドアミラーベース、ルームミラーアーム、サンルーフデフレクター、ラジエーターファン、ラジエーターグリル、ベアリングリテーナー、コンソールボックス、サンバイザーアーム、スポイラー、及びスライドドアレールカバーからなる群から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の車両内装用又は車両外装用成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品外観が高度に優れ、屋外、特に降雨に曝される使用条件下でも、耐候性に優れた成形品を得ることのできるガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性、熱的性質並びに耐薬品性に優れているため、自動車や電気・電子製品等の部品に広く用いられている。また、ポリアミド樹脂にガラス繊維を配合した強化ポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等が大きく向上するため、軽量化および工程の合理化等の観点から、金属代替材料として強化ポリアミド樹脂組成物を用いる検討が盛んになっている。
【0003】
ガラス繊維、ワラストナイトなどを高濃度に配合した強化ポリアミド樹脂組成物は、高い剛性を有する成形品を容易に提供できるが、耐候性に劣る欠点があり、屋外用に使用するためには改善が必要である。かかる耐候性を改善する方法として、例えば特許文献1~3が提案されている。
【0004】
特許文献1には、ポリメタキシリレンアジパミドにアクリル系樹脂とエポキシ基含有化合物とを配合することが提案されている。しかしながら、この方法では、エポキシ基含有化合物が必須であるため、成形時に滞留があると、ゲル状物が発生したり溶融流動性が低下するなどして成形品の外観が損なわれる欠点があるとともに耐候性も不充分であった。特許文献2は、結晶性の半芳香族ポリアミドを主体とし、ガラス繊維とワラストナイトとカーボンブラックと銅化合物を含有させることを提案する。かかる樹脂組成物は、半芳香族ポリアミドを主体とするため、成形樹脂温度を高くする必要があること、またワラストナイトを配合するため、スクリュー磨耗の問題が避けられないなど製造上の欠点があるとともに、ワラストナイトに代えてマイカを配合すると、耐候暴露後の黒色の退色、耐候性の改善効果が不充分であり、改善の余地があった。特許文献3は、結晶性の半芳香族ポリアミドを主体とし、ガラス繊維とワラストナイトと特定のカーボンブラックと銅化合物を含有させることを提案する。かかる樹脂組成物も、特許文献2と同様な欠点があるとともに、特定のカーボンブラックを用いる必要があり、脂肪族ポリアミドを主体とすると、耐候暴露後の黒色の退色、耐候性の改善効果が不充分であり、改善の余地があった。
【0005】
上記の課題に対して、特許文献4に示されるように、結晶性脂肪族ポリアミド樹脂に、非晶性ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、マイカ、ガラス繊維、カーボンブラック、及び銅化合物を特定の割合で組み合わせることで、耐候性に優れたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が提案されている。しかしながら、特許文献4にて提案されているガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物では、耐候性はある程度優れていても、成形品の外観やその耐侯性が高度に満足できるものを得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許3442502号公報
【文献】特開2000-273299号公報
【文献】特開2002-284990号公報
【文献】特許6172415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献4のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、耐候性、成形品外観も従来の市場の要請であれば満足できるレベルであったが、昨今のより高度な要請、特に成形品のシボ面の均一性の要請や、厳しい使用環境に曝された場合でも優れた成形品外観を維持する耐侯性の要請に対して満足できないと言う課題があることが分かった。
【0008】
本発明は、この新たな課題に鑑み創案されたものであり、その目的は、表面外観(シボ面の均一性)が高度に優れ、かつ屋外、特に降雨に曝される使用条件下でも優れた表面外観を維持できる耐侯性を有する成形品を得ることのできるガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、結晶性脂肪族ポリアミド樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、マイカ、ガラス繊維、カーボンブラック、及び銅化合物を特定の割合で配合(含有)することにより、表面外観(シボ面の均一性)が高度に優れ、かつ優れた表面外観を維持できる耐侯性を有する成形品を得ることのできるガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成を採用するものである。
(1) 結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)、非晶性ポリアミド樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、マイカ(D)、ガラス繊維(E)、及びカーボンブラックのマスターバッチ(F)をそれぞれ(17~30):(10~16):(3~8):(10~25):(20~50):(1~8)の質量比で含有し、前記(A)と(B)の質量比(B)/(A)が0.50~0.61を満たし、さらに前記(A)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に銅化合物(G)を0.005~1.0質量部の割合で含有することを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
(2) 非晶性ポリアミド樹脂(B)が、半芳香族ポリアミドであることを特徴とする(1)に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
(3) (1)または(2)に記載のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる車両内装用又は車両外装用成形品。
(4) アウターハンドル、アウタードアハンドル、ホイールキャップ、ルーフレール、ドアミラーベース、ルームミラーアーム、サンルーフデフレクター、ラジエーターファン、ラジエーターグリル、ベアリングリテーナー、コンソールボックス、サンバイザーアーム、スポイラー、及びスライドドアレールカバーからなる群から選ばれることを特徴とする(3)に記載の車両内装用又は車両外装用成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、表面外観(シボ面の均一性)が高度に優れ、かつ屋外、特に降雨に曝される使用条件下でも優れた表面外観を維持できる耐侯性を有する成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。まず、本発明で用いる各成分について説明する。
本発明において、ポリアミド樹脂の結晶性/非晶性は、ポリアミド樹脂をJIS K 7121:2012に準じて昇温速度20℃/分でDSC測定した場合に、明確な融点ピークを示すものを結晶性、示さないものを非晶性とする。
【0013】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)、非晶性ポリアミド樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、マイカ(D)、ガラス繊維(E)、及びカーボンブラックのマスターバッチ(F)を含有し、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)の各成分の質量比はそれぞれ(17~30):(10~16):(3~8):(10~25):(20~50):(1~8)の質量比であり、前記(A)と(B)の比(B)/(A)が0.50~0.61を満たす必要がある。また、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、(A)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に銅化合物(G)を0.005~1.0質量部の割合で含有する。
【0014】
結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)としては、ラクタムやω-アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンなどを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂、又はこれらの共重合体やブレンド物が挙げられる。ラクタムやω-アミノカルボン酸としては、例えば、ε-カプロラクタム、6-アミノカプロン酸、ω-エナントラクタム、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、9-アミノノナン酸、α-ピロリドン、α-ピペリジンなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などが挙げられ、ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010が好ましい。
【0015】
結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)の相対粘度(96%硫酸法)は、1.7~2.5の範囲が好ましい。より好ましいのは1.8~2.2の範囲、さらに好ましいのは1.9~2.1の範囲である。なお、相対粘度がこの範囲にあることで、樹脂としてのタフネス性や流動性が満足できるものとなる。
【0016】
結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)成分と後述する(B)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、17~30質量部、好ましくは18~28質量部、より好ましくは20~25質量部である。
【0017】
非晶性ポリアミド樹脂(B)としては、DSC測定時のサーモグラムに、結晶の融解ピークが認められないポリアミド樹脂であり、構成成分のジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられ、ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、アミノエチルピペラジン、ビスアミノメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中で、高い曲げ弾性率と高い耐衝撃性を同時に満たすためには、半芳香族ポリアミドが好ましい。半芳香族ポリアミドとしては、テレフタル酸とイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンを原料とするポリアミド6T/6I、テレフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンを原料とするポリアミド6T/66などが好ましい。非晶性ポリアミド樹脂(B)としては、ポリアミド6T/6Iが特に好ましい。
【0018】
非晶性ポリアミド樹脂(B)の相対粘度(96%硫酸法)は、特に限定されるものではないが、好ましい範囲は1.6~2.4であり、より好ましい範囲は1.7~2.3である。
【0019】
非晶性ポリアミド樹脂(B)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)、(B)成分と後述する(C)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、10~16質量部、好ましくは、10~15質量部、より好ましくは11~15質量部である。
【0020】
また、前記(A)と(B)の質量比(B)/(A)が0.50~0.61を満たす必要がある。質量比(B)/(A)は、0.51~0.60が好ましい。結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)及び非晶性ポリアミド樹脂(B)の含有量が上記を満たし、かつ質量比(B)/(A)が上記を満たすことで、ポリアミド樹脂組成物の溶融押出特性、機械的特性、熱的特性に優れ、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形品の外観(シボ面の均一性)を高度に優れたものとすることができる。また、(B)/(A)が0.50~0.61の比である場合、高い弾性率を発現させて、生産時のストランドも安定させることができる。
【0021】
上記のように、結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)に非晶性ポリアミド樹脂(B)を含有することにより、耐候性向上効果が大きくなる。この理由は、アクリル系樹脂(C)の分散性、相溶性が変化するためであると推察される。
【0022】
アクリル系樹脂(C)としては、メタアクリル酸エステルの単独重合体あるいは共重合体が挙げられる。共重合体としては、メタクリル酸エステルを50質量%以上、さらには70質量%以上含むものが好ましい。メタアクリル酸エステル単量体としては、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等のようにアルキル基の水素が水酸基、アミノ基等で置換されたメタクリル酸アルキルエステル誘導体が挙げられる。また、これらメタクリル酸エステル単量体と共重合する単量体としては、アクリル酸メチル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトル等のビニル単量体が挙げられる。これらのアクリル系樹脂(C)の中で、特に好ましいのは、ポリメタクリル酸メチルまたはポリメタクリル酸エチルである。
【0023】
アクリル系樹脂(C)の溶融流動性に関して、230℃、37.3N条件下におけるメルトフローレイト(MFR)は、5g/10min以上が好ましく、10g/10min以上がより好ましく、15g/10min以上がさらに好ましい。
【0024】
アクリル系樹脂(C)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)~(C)成分と後述する(D)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、3~8質量部、好ましくは3~7質量部、より好ましくは4~6質量部である。アクリル系樹脂(C)の含有割合が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形品の外観(シボ面の均一性)を高度に優れたものとした上で、耐候性もより優れたものとすることができる。
【0025】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中において、アクリル系樹脂(C)の含有割合は、ポリアミド樹脂(A)と(B)の合計100質量部に対して、7~25質量部が好ましい。アクリル系樹脂(C)の含有割合が上記範囲未満であると、耐候性向上効果が小さくなり、一方、上記範囲を越えると、強度、剛性、耐溶剤性、耐熱性の低下が大きくなる傾向がある。
【0026】
マイカ(D)としては、白雲母、金雲母、黒雲母、人造雲母などが挙げられ、いずれを使用してもよい。マイカの形状を楕円に近似し、長径と短径の平均を粒子径とした場合、マイカの粒子径は、外観と剛性のバランスから1~30μm程度が好ましい。
【0027】
マイカ(D)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)~(D)成分と後述する(E)及び(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、10~25質量部、好ましくは15~22質量部である。マイカ(D)の含有割合が上記範囲未満であると、成形品の外観向上効果が小さくなり、一方、上記範囲を越えると、流動性や機械的強度が劣る傾向がある。
【0028】
ガラス繊維(E)の断面は円形、扁平のいずれでもよい。扁平断面ガラス繊維としては、繊維の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものを含み、扁平度が1.5~8、さらには2~5であることが好ましい。ここで扁平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径とした場合の、長径/短径の比である。扁平度が上記範囲未満では、円形断面のガラス繊維と形状に大きな差がないため、成形物の耐衝撃性があまり向上しない場合がある。一方、扁平度が上記範囲を越えると、ポリアミド樹脂中における嵩密度が高くなるので、ポリアミド樹脂中に均一に分散できず、成形物の耐衝撃性があまり向上しない場合がある。本発明において、略長円形の断面を有し、扁平度が2~5のガラス繊維を用いると、より高い機械的物性を発現させることができる。
【0029】
ガラス繊維(E)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)成分と後述する(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、20~50質量部、好ましくは25~45質量部、より好ましくは30~45質量部である。ガラス繊維(E)の含有割合が上記範囲未満であると、成形品の剛性が不足し、一方、上記範囲を越えると、含有量に見合う補強効果が発現されなくなる傾向がある。
【0030】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を製造するにあたっては、特に扁平断面ガラス繊維を使用する場合、ポリアミド反応性シランカップリング剤をガラス繊維(E)の0.1~1.0質量%の割合で添加することが好ましい。ポリアミド用チョップドストランドの集束剤にはマトリクス樹脂との接着性の向上のために、予めシランカップリング剤が繊維束に少量含まれている。しかし、予め繊維束に付着させることのできるアミノシランカップリング剤の量は、繊維束が押出時に解繊不良を起こさないように上限があるため、不足分を追加添加することが好ましい。
【0031】
カーボンブラックのマスターバッチ(F)中のカーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、例えばサーマルブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどが挙げられる。平均粒子径が10~40μmの範囲、BET吸着法による比表面積が50~300m/gの範囲、ジブチルフタレートを用いた吸油量の測定値が50cc/100g~150cc/100gの範囲のものが好適である。マスターバッチ中にカーボンブラックを30~60質量%含有させたものが好ましい。
【0032】
カーボンブラックのマスターバッチ(F)のベース樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などに代表される各種ポリエチレンのほか、エチレン-プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン-ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体などのエチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレン-メタクリレート、エチレン-ブチルアクリレートなどのエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン-酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪族ビニルとの共重合体などポリエチレン系樹脂やポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(p-メチルスチレン)などの単独重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン単量体とマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、またはアクリルアミドなどのアクリルアミド系単量体との共重合体などが挙げられる。
【0033】
カーボンブラックのマスターバッチ(F)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)~(F)成分の合計含有量を100質量部とした場合に、1~8質量部、好ましくは2~6質量部、より好ましくは3~6質量部である。カーボンブラックとしての含有量は、好ましくは0.3~4.5質量部、より好ましくは0.5~3.0質量部である。カーボンブラックのマスターバッチ(F)の含有割合が上記範囲未満であると、耐候性への寄与が少なくなり、一方、上記範囲を越えると、機械的強度、剛性を損なう傾向がある。
【0034】
銅化合物(G)としては、塩化銅、臭化銅、沃化銅、酢酸銅、銅アセチルアセトナート、炭酸銅、ホウフッ化銅、クエン酸銅、水酸化銅、硝酸銅、硫酸銅、蓚酸銅などが挙げられる。本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物において、銅化合物(G)の含有割合は、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物中の(A)~(F)の成分の合計含有量を100質量部とした場合に、0.005~1.0質量部、好ましくは0.01~0.5質量部である。銅化合物(G)の含有割合が上記範囲未満であると、耐熱老化性が劣る傾向があり、一方、上記範囲を越えても、それ以上の耐熱老化性の向上は見られず、物性が低下する傾向がある。
【0035】
本発明では銅化合物と併用する形で安定剤としてハロゲン化アルカリ化合物を含有することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物としては、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、特に好ましくはヨウ化カリウムである。
【0036】
また、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物には、本発明の特性を阻害しない範囲で、上記(A)~(G)の必須成分以外に、繊維状強化材、無機充填材、光または熱安定剤としてフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤、離型剤、結晶核剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料等の任意成分を含有することができる。本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物において、(A)~(G)の必須成分以外の任意成分の合計含有量は、最大10質量%であることが好ましい。本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物において、(A)~(G)の必須成分の合計で90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。また、耐候性の観点から、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の(A)~(F)の成分の合計含有量を100質量部とした場合に、ワラストナイトは5質量部以下であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0037】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、特に制限は無く、各成分を公知の混練方法により溶融混練して得ることができる。具体的な混練装置にも制限はなく、例えば単軸または二軸の押出機、混練機、ニーダーなどが挙げられるが、特に二軸押出機が生産性の面で好ましい。スクリューアレンジにも特に制限は無いが、各成分をより均一に分散させるためにニーディングゾーンを設けることが好ましい。具体的な方法としては、ポリアミド樹脂(A)、(B)、及びアクリル系樹脂(C)の混合物に、カーボンブラックのマスターバッチ(F)、銅化合物(G)、その他の任意成分をブレンダーでプリブレンドし、ホッパーから単軸や二軸の押出機に投入した後、ポリアミド樹脂(A)、(B)及びアクリル系樹脂(C)の少なくとも一部が溶融した状態で、溶融混合物中にマイカ(D)、ガラス繊維(E)をフィーダーで単軸や二軸の押出機に投入し、溶融混練後ストランド状に吐出し、冷却、カットすることで得られる。
【0038】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、上述のような組成で作製されているので、以下に示す優れた耐候性を有することを特徴とする。すなわち、キセノンウェザーメーターを用いた耐候試験(JIS K-7350-2に準拠)後の色差△Eが3.5以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下である。耐候試験の詳細は、後記する実施例に記載の手順による。色差△Eが上記値以下であることにより、降雨に曝される屋外での使用に耐えることができる。
【実施例
【0039】
本発明の効果を以下の実施例により具体的に示すが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性値の評価は以下の方法に従った。
【0040】
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度:ポリアミド樹脂0.25gを96%の硫酸25mlに溶解し、この溶液10mlをオストワルド粘度管に入れ、20℃で測定し、以下の式により算出した。
RV=T/T0
RV:相対粘度、T:サンプル溶液の落下時間、T0:溶媒の落下時間
【0041】
(2)曲げ強度、曲げ弾性率:ISO-178に準じて測定した。
【0042】
(3)シボ面均一表面性:シボ加工された板状の金型(シボ深さ:30μm)を使用し、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS80)で、樹脂温度285℃、金型温度80℃で成形し、厚み2.5mmの成形品を作製後、シボ面の表面性を肉眼で判定した。
[判定基準]
○:シボ転写性が全面にわたり良好で、光沢班がない。
△:シボ転写性が全面にわたり良好ではあるが、部分的に光沢班がある。
×:部分的にシボ転写性が異なり、光沢班がある。
【0043】
(4)耐候性の評価
色差ΔE:上記(3)で作製したシボ面付き成形品について、JIS K-7350-2に準拠し、キセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製XL75)を用い、耐候試験(ブラックパネル温度:63±2℃、相対湿度:50±5%、照射方法:120分中18分降雨(水噴射)、照射時間:1250時間、照射度:波長300nm~400nm 60W/m・S、光学フィルター:(内)石英、(外)ボロシリケイト♯275)を行った。耐候試験前後のシボ平板について、東京電色社製分光測色計TC-1500SXを用いてL、a、b値を測定し、色差ΔEを算出した。
耐候試験後の成形品表面外観(強化材露出の有無):下記の基準で判定した。
[判定基準]
○:強化材の露出が認められない。
△:強化材の露出がわずかに認められる。
×:強化材の露出が認められる。
耐候試験後の成形品表面のシボ状態:下記の基準で判定した。
[判定基準]
○:シボの模様がはっきり見える。
△:シボの模様が一部不鮮明である。
×:シボの模様が不鮮明である。
【0044】
使用した原料は、下記の通りである。
・結晶性脂肪族ポリアミド樹脂(A)
PA6:ポリアミド6、MEIDA社製「M2000」、相対粘度2.0
PA66:ポリアミド66、ローディア社製「スタバミド23AE」、相対粘度2.4
・非晶性ポリアミド樹脂(B)
G21:ポリアミド6T6I、エムス社製「グリボリーG21」、相対粘度2.0
G16:ポリアミド6T6I、エムス社製「グリボリーG16」、相対粘度1.8
・アクリル系樹脂(C)
ポリメタクリル酸メチル、クラレ社製「パラペットGF」
【0045】
・マイカ(D)
Repco社製「S-325」
・ガラス繊維(E)
日本電気硝子社製「T-275H」(円形断面ガラス繊維チョップドストランド:直径11μm)
【0046】
・カーボンブラックのマスターバッチ(F)
住化カラー社製「EPC-840」、ベース樹脂 LDPE樹脂、カーボンブラック含有量43質量%
・銅化合物(G)
臭化第二銅:和光純薬社製 純度99.9%
【0047】
<実施例1~9、比較例1~4>
表1に示す含有割合で、マイカ(D)、ガラス繊維(E)以外の成分をドライブレンドし、コペリオン社製ベント式2軸押出機「STS35mm」(バレル12ブロック構成)を用いてシリンダー温度280℃、スクリュウ回転数250rpmの押出条件で溶融混合し、次いでマイカ(D)、ガラス繊維をサイドフィード方式で供給し溶融混練を行った。押出機から押出されたストランドを急冷してストランドカッターでペレット化した。得られたペレットを100℃で12時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS80)でシリンダー温度285℃、金型温度90℃にてシボ平板を成形して評価に供した。評価結果も表1に記した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、実施例1~9の試験片は、耐侯試験前後の色差ΔEが小さく、表面外観(シボ面の均一性)が高度に優れ、かつ耐侯試験後でも優れた表面外観を維持できる耐侯性を有している。一方、比較例1の試験片は、表面外観(シボ面の均一性)が満足できるものではない。比較例2の試験片は、表面外観(シボ面の均一性)は優れるものの、耐侯試験後は優れた表面外観を維持できていない。比較例3、4の試験片は、表面外観(シボ面の均一性)はやや劣り、耐侯試験後は表面外観を維持できていない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、アウターハンドル、アウタードアハンドル、ホイールキャップ、ルーフレール、ドアミラーベース、ルームミラーアーム、サンルーフデフレクター、ラジエーターファン、ラジエーターグリル、ベアリングリテーナー、コンソールボックス、サンバイザーアーム、スポイラー、スライドドアレールカバーなどの車両用の内装、外装部品用に好適に使用できる。