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特許7444161チャープ付き音響信号駆動の音響光学偏向器を用いた光ビーム走査方法
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  • 特許-チャープ付き音響信号駆動の音響光学偏向器を用いた光ビーム走査方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】チャープ付き音響信号駆動の音響光学偏向器を用いた光ビーム走査方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/33 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G02F1/33
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021507477
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 HU2019050039
(87)【国際公開番号】W WO2020035710
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P1800286
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】519075373
【氏名又は名称】フェムトニクス・カーエフテー
(74)【代理人】
【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
(72)【発明者】
【氏名】カトナ,ゲルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】フェヘール,アンドラーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェレッシュ,マーテー
(72)【発明者】
【氏名】マアーク,パール
(72)【発明者】
【氏名】サライ,ゲルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】チオビニ,バラージ
(72)【発明者】
【氏名】サダイ,ゾルターン
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ-ユダーク,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】ロージャ,バーラージ・ヨーゼフ
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-018933(JP,A)
【文献】特表2005-521064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0179369(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0157147(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101738815(CN,A)
【文献】特開昭61-018932(JP,A)
【文献】特開昭57-017920(JP,A)
【文献】特表2018-517937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0274440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z軸に沿った光軸と少なくとも1つの音響光学結晶層(14)とを持つ第1の音響光学偏向器(15、15’)を用いて光ビーム(50)で走査する方法であって、
光ビーム(50)を第1の音響光学偏向器(15、15’)中に向かわせ、第1の音響光学偏向器(15、15’)によって光ビーム(50)をZ軸に垂直なX軸に沿って偏向させ、その間に前記音響光学偏向器(15、15’)の少なくとも1つの音響光学結晶層(14)内で、下記手順によって複数の音響チャープ信号(30)を発生させ:
前記結晶層(14)に接続された単一の電気音響波発生器(17)を用いて、この電気音響波発生器(17)にτの持続時間を持つ第1の電圧信号を印加し、それにより第1の音響チャープ信号(30a)を発生させ、次いで第1の音響チャープ信号(30a)の発生開始から持続時間τの時間内に前記電気音響波発生器(17)に第2の電圧信号を印加し、それにより第2の音響チャープ信号(30b)を発生させ、ここで、発生した音響チャープ信号(30a、30b)は前記結晶層(14)内で互いに部分的又は完全にオーバーラップしており、そして、
異なる掃引率を持つ複数の音響チャープ信号(30a,30b)を発生させることにより、音響光学結晶層(14)を通過する光ビーム(50)をZ軸に沿って異なる深さを持つ複数の点で分割及び集束させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記第1の音響チャープ信号(30a)の発生開始後の時間的瞬間τ/5とτ/2との間で前記第2の音響チャープ信号(30b)の発生を開始することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の音響チャープ信号(30b)の発生開始からτの時間内で第3の音響チャープ信号(30c)を発生させることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の音響チャープ信号(30a)の発生開始後の時間的瞬間τ/2と4τ/5との間で前記第3の音響チャープ信号(30c)の発生を開始することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
音響光学結晶層(14)を出るビームを集束させ、第1の音響光学偏向器(15)の後ろに配置された光学要素用いて、前記音響チャープ信号(30)の掃引率の代数符号に応じて発散及び/又は収束させることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1の音響チャープ信号(30a)を用いて前記光ビーム(50)をX軸に沿って第1の座標X1をもつ第1の地点に集束させ、そして、第2の音響チャープ信号(30b)を用いて光ビーム(50)を第2の座標X2を持つ第2の地点に集束させることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第1の音響チャープ信号(30a)と実質的に同時に第2の音響チャープ信号(30b)を発生させることにより重畳音響波(31)を生じさせ、この重畳音響波(31)を用いて光ビーム(50)をX軸に沿って2つのビームに分割し、それらを異なった方向に偏向させることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
下記手順により音響光学結晶層(14)内で複数の重畳音響波(31)を引き続いて生じさせることを特徴とする、請求項に記載の方法:
-前記音響光学結晶層(14)内で持続時間τ’ の第1の重畳音響波(31a)を発生させ、次いで
-前記第1の重畳音響波(31a)の発生開始からτ’ の時間内に、第2の重畳音響波(31b)を発生させる。
【請求項9】
前記第1の重畳音響波(31a)の発生開始後の時間的瞬間τ’/5とτ’/2との間で前記第2の重畳音響波(31b)の発生を開始することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の重畳音響波(31b)の発生開始からτ’ の時間内で第3の重畳音響波(31c)を発生させることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の重畳音響波(31a)の発生開始後の時間的瞬間τ’/2と4τ’/5との間で第3の重畳音響波(31c)の発生を開始することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
音響光学偏向器(15’)が少なくとも2つの音響光学結晶層(14a,14b)を含み、第1の音響光学結晶層(14a)内でこの第1の音響光学結晶層(14a)に接続された第1の電気音響波発生器(17a)を用いて第1の重畳音響波(31a)を発生させ、そして第2の音響光学結晶層(14b)内でこの第2の音響光学結晶層(14b)に接続された第2の電気音響波発生器(17b)を用いて第2の重畳音響波(31b)を発生させることを特徴とする、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
音響光学偏向器(15)が少なくとも2つの音響光学結晶層(14a,14b)を含み、第1の音響光学結晶層(14a)内でこの第1の音響光学結晶層(14a)に接続された第1の電気音響波発生器(17a)を用いて第1の音響チャープ信号(30a)を生じさせ、そして第2の音響光学結晶層(14b)内でこの第2の音響光学結晶層(14b)に接続された第2の電気音響波発生器(17b)を用いて第2の音響チャープ信号(30b)を生じさせることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
光ビーム(50)をZ軸及びX軸に垂直なY軸に沿って偏向させることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
音響光学結晶層(14)に接続された電気音響波発生器(17)が2つの電極(20a,20b)とそれらの間に配置された圧電プレート(22)とを含んでいて、これら2電極(20a,20b)の一方の電極(20a)が音響光学結晶層(14)に接続されていることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記時間的瞬間τ/5とτ/2との間が時間的瞬間τ/3であり、前記時間的瞬間τ/2と4τ/5との間が時間的瞬間2τ/3であり、前記時間的瞬間τ’/5とτ’/2との間が時間的瞬間τ’/3であり、または前記時間的瞬間τ’/2と4τ’/5との間が時間的瞬間2τ’/3である、請求項2、4、9または11に記載の方法。
【請求項17】
前記光学要素が対物レンズである、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
光ビーム(50)をZ軸及びX軸に垂直なY軸に沿って偏向させるのに音響光学偏向器(15、15’)を用いる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、Z軸に沿った(=Z軸方向の)光軸と少なくとも1つの音響光学結晶層とを有する第1の音響光学偏向器(acousto-optic deflector)を用いて光ビームで走査(スキャン)する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査方法、特に三次元レーザー走査方法は、生物学的検体の研究において、生物学的検体の構造、蛍光マーカーの分布、及び細胞の表面レセプターなどを解析(マッピンングアウト)するのに重要な役割を果たしている。
【0003】
公知の走査方法は通常は三次元レーザー走査式顕微鏡を使用し、この顕微鏡は共焦点顕微鏡又は二光子顕微鏡でよい。共焦点顕微鏡テクノロジーでは、検出器(デテクター)の手前にピンホールを設置して、顕微鏡対物レンズの焦点面以外の面から届く光を取り除く。こうして、検体(例、生物学的検体)内の様々な深さに位置する複数の面の画像(イメージ)を作り出すことが可能となる。
【0004】
二光子レーザー走査式顕微鏡は、光子エネルギーはより低いが強度がより高いレーザー光で操作し、そのレーザー光からは二光子の同時吸収がフルオロフォア(蛍光色素)の励起に必要である。その後、放出された蛍光光子は検出器で検出しうる。
【0005】
上述したどのテクノロジーの場合も、例えば、ステッパーモーター(パルスモーター)により顕微鏡の載物台(ステージ)を動かすことにより三次元走査を実施することもできるが、遅くて機械的に複雑であるため、この方法は実際にはほとんど使われていない。そのため、生物学的検体の検査時には、検体を動かす代わりに、レーザービームをX-Y面内で偏向させるようにレーザービームの焦点を動かすと共に、対物レンズをZ軸に沿って動かすことにより焦点面の深さを制御している。
【0006】
レーザービームの偏向には公知方法がいくつかある。通常は、電流測定型スキャナーに設置した複数の偏向ミラー又は複数の音響光学偏向器を偏向要素として使用する。Kaplan et al. (「非常な高速の焦点走査での音響光学レンズ<Acousto-optic lens with very fast focus scanning>」OPTICS LETTERS / Vol. 26, No. 14 / July 15, (2001)) には2つの音響光学偏向器から構成されるシステムが提示されている。これにより、焦点の位置をX-Y面内で動かすことができるだけでなく、対物レンズ又は載物台をZ方向に動かさずに、Z軸を構成する光軸に沿って焦点深度を変動させることもできる。その説明によると、焦点深度の変化は、2つの音響光学偏向器内で発生させた、周波数(振動数)が経時的に変化する波(チャープ信号、chirp signal)の掃引率(掃引レート、sweep rate)を変化させることにより行われる。
【0007】
上記原理を用いる三次元走査システムが、米国特許第8,559,085号明細書に開示されている。この場合、順に配列された4つの音響光学偏向器を用いて焦点の位置を動かす。X-Y面内の焦点の移動は、偏向器で発生した音響波(音波)の周波数差を調節することにより行われ、Z軸方向の焦点の位置は偏向器で生起させたチャープ信号の掃引率により変化させる。これにより、焦点のX、Y及びZ座標を実際上は独立して変化させることができる。
【0008】
検体の走査中、集束(焦点合わせ、フォーカス)された光ビームが、検体の検査に供される二次元又は三次元範囲を走査する。音響光学偏向器は非常に高速の装置であって、焦点スポット(focal spot)を非常にすばやく(10~20マイクロ秒以下までもの短時間で)所望の位置に位置決めすることができるが、小さい焦点スポットや大きな検体の場合には、単一焦点スポットによる走査は時間のかかるプロセスとなる。
【0009】
別の問題点は、音響光学偏向器が或る決まった周波数範囲内でしかチャープ信号を作り出すことができず、従って、或る深さに集束するのに必要な所定の掃引率チャープ信号は或る制限された時間の間しか必ずしも維持されないかもしれないことによりもたらされる。図1は、前述の最新従来技術に従った方法により発生させたチャープ信号の周波数の時間依存性を示す。発生したチャープ信号の周波数の持続時間τは、典型的な配置では約30マイクロ秒である。引き続く2つのチャープ信号の境界で作り出された焦点は、容易に検出しうる蛍光励起を生ずるには強度及びサイズが不十分である。どのチャープ信号も、付随の音響波が偏向器の照射された開口(アパーチャー)を実質的に満たす時に光ビームを適正に偏向させる。持続時間τのチャープ信号は、略τ/3の持続時間の間は、適切な蛍光信号を生ずる光ビームの偏向を行うことができる、換言すると、図1に示した方式では、引き続いて(前後して)発生された2つのチャープ信号の間では、2τ/3に等しい持続時間の間は光ビームの偏向が不適切になる、ということが認められた。この「遊び時間(アイドルタイム)」により、走査に要する時間が著しく増大する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Kaplan et al., Acousto-optic lens with very fast focus scanning, OPTICS LETTERS, Vol. 26, No. 14, July 15, 2001
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第8,559,085号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、従来技術に係る解決策の難点を持たない音響光学的走査方法を提供すること、特にこれまでに公知の解決策より高速の走査を可能にする音響光学的走査方法を提供することである。
【0013】
本発明は、当該音響光学偏向器内で時間においてもオーバーラップするいくつかの引き続く音響チャープ信号を生起させることにより、その音響光学偏向器を通過する光ビームを妨害せずに、検体内で蛍光信号を適当な強度で発生させることができるという知見に基づく。
【0014】
本発明はまた、実質的に同時に発生させた重畳(スーパーインポーズ)した音響波を形成する音響光学偏向器においていくつかの音響チャープ信号を生起させることにより、その偏向器を通過する光ビームをいくつかのビームに分割させて、多様な異なる方向に偏向させることができ、それにより走査時間を短縮することが可能にとなるという知見にも基づく。
【0015】
本発明の意味において、前記課題は請求項1に係る方法により解決された。
さらに好ましい本発明の実施態様は従属請求項に特定されている。
本発明のさらなる詳細は、以下に添付図面を参照した例示の実施態様によって説明されよう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】最新従来技術に係る方法を用いて引き続いて発生させた複数チャープ信号の周波数の時間依存性を示す略式グラフである。
図2】本発明に係る方法を用いて引き続いて発生させた複数チャープ信号の周波数の時間依存性を示す略式グラフである。
図3a】動作時に単一の音響光学結晶層(acousto-optic crystal layer)と単一の電気音響波発生器(electro-acoustic wave generator)とを含む本発明に係る音響光学偏向器の略式断面図を示す。
図3b】動作時に複数の音響光学結晶層と各音響光学結晶層につき単一の電気音響波発生器とを含む本発明に係る音響光学偏向器の好ましい実施態様の略式断面図を示す。
図3c】動作時に複数の音響光学結晶層と各音響光学結晶層につき単一の電気音響波発生器とを含んだ本発明に係る音響光学偏向器の別の好ましい実施態様の略式断面図を示す。
図4a】動作時に単一の音響光学結晶層と音響光学結晶層につき複数の電気音響波発生器とを含む本発明に係る音響光学偏向器の略式断面図を示す。
図4b】動作時に複数の音響光学結晶層と各音響光学結晶層につき複数の電気音響波発生器とを含む本発明に係る音響光学偏向器の好ましい実施態様の略式断面図を示す。
図4c】動作時に複数の音響光学結晶層と各音響光学結晶層につき複数の電気音響波発生器とを含んだ本発明に係る音響光学偏向器の別の好ましい実施態様の略式断面図を示す。
図5a図3a及び図4aに示した音響光学偏向器で発生させた音響波の周波数の距離依存性を示す。
図5b図3b及び図4bに示した音響光学偏向器で発生させた音響波の周波数-距離関数を示す。
図5c図3c及び図4cに示した音響光学偏向器で発生させた音響波の周波数-距離関数を示す。
図6】本発明に係る方法を実施するのに適合させた走査システムの主要要素の概略図を示す。
図7】本発明に係る走査方法を用いて走査された検体の概略図を示す。
図8】X軸方向及びY軸方向の焦点のドリフトが補償された本発明に係る走査方法の好ましい実施態様で作られた点グリッドを示す。
図9】焦点がY軸方向にドリフトする本発明に係る走査方法の別の好ましい実施態様を用いて作られたY軸方向のセクションからなるグリッドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る方法の実施時に、Z軸光学軸(Z軸に沿った光軸)と少なくとも1層の音響光学結晶層14とを有する第1の音響光学偏向器15内で複数の音響チャープ信号30を発生させるようにして光ビームが偏向を受けるが、光ビーム50をまず偏向器15内へと向かわせる。
【0018】
1好適実施態様において、光ビーム50は不連続のレーザーパルスを含んでいて、そのパルスのパルス幅はフェムト秒範囲内で、繰り返し周波数は好ましくはMHz範囲内である。このようなレーザーパルスは、当業者には明らかなように、例えば、好ましくはTi-Sレーザーを用いたフェムト秒レーザーパルス源を用いて生じさせることができる。
【0019】
図3aは、単一の音響光学結晶層14を含んだ本発明に係る音響光学偏向器15の1実施態様の略式断面図を示す。この実施態様の場合、音響チャープ信号30を発生させるのに適合させた単一の電気音響波発生器17が前記結晶層14に接続されていて、この結晶層14は、信号発生器24から音響チャープ信号30を発生させるのに必要な電圧信号を受信する。
【0020】
本発明に関して、音響チャープ信号30は、その周波数が時間と共に連続的に増大又は減少する、可変周波数の周期的音響波信号を意味すると解される。チャープ信号は、そのチャープ信号の周波数の変化が経時的に線形であるか非線形であるかに応じて線形又は非線形のいずれかである。静止した焦点を生ずるために通常は線形のチャープ信号30が音響光学偏向器15で使用される。音響光学偏向器での非線形チャープ信号の使用は、例えば、国際公開WO2013/102771A1に論じられている。
【0021】
音響波発生器17で発生させた音響チャープ信号30は、音響光学結晶層14を通過し、この結晶層の作用のために、伝播の方向に沿って常に変動する屈折率分布が作り出される。音響チャープ信号30で満たされた音響光学結晶層14を通過する、当初は平行化(コリメート)されていた光ビーム50の偏向部分(チャープ信号30の伝播方向に対して或る角度にある)は、チャープ信号30の周波数が経時的に増大するか又は減少するかに応じて、音響光学結晶層14を出る際に収束(集束、即ちフォーカス)するか又は発散するかのいずれかとなろう。より正確には、結晶層14内で生起したチャープ信号30の周波数が継時的に増大する場合、換言すると、周波数掃引率が正である場合には、結晶層14を通過する光ビーム50の偏向部分は収束(収斂)する、換言すると集束(フォーカス)するであろう。しかし、結晶層14内で生起したチャープ信号30の周波数が継時的に減少する場合、換言すると、周波数掃引率が負である場合には、結晶層14を通過する光ビーム50の偏向部分は発散することになり、他の集束性光学要素の介在がなければ焦点は形成されない。チャープ信号30の周波数掃引率が0である(これは一定周波数の調和波形に相当する)場合、結晶層14を通過する光ビームの偏向部分は平行化されたままであって単に偏向されるだけである。光ビーム50の偏向度、換言すると偏向方向軸は、当業者には自明であるように、光アパーチャー内部で測定可能なチャープ信号30の最大周波数と最小周波数との差(即ち、中心周波数)に依存する。
【0022】
結晶層14は好ましくは単結晶(TeO2、LiNbO3などの)から作成され、その内部で機械的応力の作用のために屈折率変化が起こる。1好適実施態様において、音響光学結晶層14に接続された電気音響波発生器17は、2つの電極20a,20bとそれらの間に配置された1つの圧電プレート22とを含んでいる。これら2電極20a,20bのうち、一方の電極20aは音響光学結晶層14に接続される一方で、両電極20a,20bは信号発生器24に接続される。当業者には公知であるように、電極20a,20bに接続された電圧を信号発生器24により周期的に変化させることで圧電プレート22は振動するようになる。圧電プレート22はその振動を電極20aに接続されている音響光学結晶層14に伝え、この作用のために、音響光学結晶層14内で伝えられた振動に対応して音響チャープ信号30が発生し、伝播される。
【0023】
電気音響波発生器17の効率は、最低fmin周波数と最高fmax周波数とにより決定される周波数範囲内で一般に最適となる。換言すると、この範囲内で、前記効率は音響チャープ信号30を発生するのに最も適している。電気音響波発生器17が作り出すチャープ信号30の周波数は常に変化しているので、ある時間の経過後は、それらの周波数は、前記周波数範囲の下限fmin又は上限fmaxに必ず到達し、そのチャープ信号30の発生が中断されてしまうことになる。周波数が達成可能な周波数範囲に入ってくると信号発生が再開されて、新たな音響チャープ信号30を生じさせることができる。チャープ信号30の発生の中断で、そのチャープ信号30により規定された方向への音響光学結晶層14を通過中の光ビーム50の偏向は、発生したチャープ信号30の最終セクションが光を当てられたアパーチャーを去った時に停止される。
【0024】
以下では、チャープ信号30の発生開始とその発生の完了との間に経過した時間の長さをそのチャープ信号30の持続時間と言う。
【0025】
fmin及びfmaxの各周波数は好ましくは、fmin及びfmaxの周波数で音響波発生器17が発出した音響出力が、その音響波発生器17が発出しうる最大音響出力の半分まで低下する、換言すると、fmin周波数とfmax周波数との間で音響波発生器17が発出した音響波出力が最大出力の50%未満に変化する、ように決定しうる。
【0026】
チャープ信号30の持続時間は、音響光学偏向器15のタイム・アパーチャー<time aperture>より長い、換言すると、チャープ信号30の或る位相点(波頭<wave front>など)が偏向器15のアパーチャーを通り過ぎる間の時間の長さより長い、ことが好ましい。音響波発生器17で発生させたチャープ信号30の一部が偏向器15のアパーチャーを完全に満たしている限り、光ビーム50の偏向は適切である。経験によれば、完全充満の前及び後で持続時間τの1つのチャープ信号30は、偏向器のタイム・アパーチャーと同じ長さの時間の間は、アパーチャー全体を偏向させることはない、換言すると、ビームを適正に偏向させることはない。短いチャープ信号30の場合、タイム・アパーチャーはτ/3よりさらに長いかもしれない。換言すると、このような場合、偏向器はτ/3より短い時間の間だけしか光ビームを適正に偏向させない。残りの2τ/3より長い時間では、換言すると、チャープ信号30が結晶層14内をまさに伝播し始めた時、又は該信号が前記層内からほぼ完全に消えてしまった時には、偏向は適正には動作しないであろう。
【0027】
図1に示した最先従来技術に係る解決策の場合、偏向器15内では同一の持続時間τの複数のチャープ信号30が時間間隔τで発生される。換言すると、次のチャープ信号30は、前のチャープ信号30の発生が停止し終わった後に初めて発生し始める。こうして、引き続いて発生させた2つのチャープ信号30の間には2つのタイム・アパーチャーに等しい長さの「遊び時間」を生じてしまい、その間は光ビーム50の偏向は不適切なものとなろう。
【0028】
上記「遊び時間」を短縮又は解消するために、本発明に係る方法では、音響光学偏向器15の少なくとも1つの音響光学結晶層14内で、複数の音響チャープ信号30を次のように生じさせる。まず、持続時間τの第1の音響チャープ信号30aを当該音響光学結晶層14内で発生させ、次いで第1の音響チャープ信号30a発生開始から計測して持続時間τの時間内に第2の音響チャープ信号30bを当該音響光学結晶層14内で発生させる。本発明に関して、持続時間τの時間内での発生とは、第2の音響チャープ信号30bを第1の音響チャープ信号30aと実質的に同時に発生させる場合、及び、第2の音響チャープ信号30bを第1の音響チャープ信号30aの発生開始から持続時間τの時間内に生じさせる場合をも包含する。換言すると、偏向器15内で引き続くチャープ信号30は互いに部分的又は完全に時間的にオーバーラップさせて発生させ、それによりあらゆる時間的瞬間において偏向器15内には少なくとも2つの音響チャープ信号30が見られうることになる。
【0029】
第2の音響チャープ信号30bの発生は、第1の音響チャープ信号30aの発生開始の後、時間的瞬間τ/5とτ/2との間に開始させることが好ましい。図2に示した好ましい実施態様の場合、同一掃引率での持続時間τの音響チャープ信号30をτ/3の時間間隔で次々に発生させ、こうして、チャープ信号30は時間的に互いに部分的にオーバーラップする。持続時間τの第1の音響チャープ信号30aはその発生の後、時間的瞬間5τ/6から7τ/6までの間、換言すると、τ/3の全持続時間の間、光ビーム50を適切に偏向させる。第2の音響チャープ信号30bは、第1の音響チャープ信号30a発生開始からτ/3後の時間的瞬間で発生させるので、第1の音響チャープ信号30aによる偏向が停止した正確な時点までには第2の音響チャープ信号30bが光ビーム50を適切に偏向させ始める。従って、偏向器15のアパーチャーを十分に満たすチャープ信号30が偏向器15内には常に存在し、これが光ビーム50を適正に偏向させる。
【0030】
1好適実施態様では、3以上のチャープ信号30を次々に発生させるが、この場合、第3の音響チャープ信号30cは、この第3の音響チャープ信号30cの発生開始が第1の音響チャープ信号30aの発生開始後の時間的瞬間τ/2から4τ/5までの間、好ましくは時間的瞬間2τ/3の時点となるように、第2の音響チャープ信号30bの発生開始から持続時間τの時間内で発生させるようにする。
【0031】
場合により、引き続いて発生させるチャープ信号30の持続時間が相互に異なる実施態様も考えられる。この場合、次のチャープ信号30の発生は、その前に発生させたチャープ信号30の発生が完了する前に開始させる。
【0032】
1好適実施態様において、単一の電気音響波発生器17を用いて偏向器15内で複数の音響チャープ信号30を生じさせる。この場合、持続時間τの第1の電圧信号を音響波発生器17に接続し、この発生器で第1の音響チャープ信号30aを結晶層14内に生起させ、次に第1の音響チャープ信号30aの発生開始からτの時間間隔内に、換言すると、第1の音響チャープ信号30aの発生がなお進行中である時に、第2の電圧信号を前記電気音響波発生器17に接続し、この発生器で第2の音響チャープ信号30bを生起させるようにする。
【0033】
場合により、結晶層14に接続された複数の電気音響波発生器17a,17bを用いて音響チャープ信号30を生起させる実施態様も考えられる。その場合、持続時間τの第1の電圧信号を、第1の音響チャープ信号を発生させる第1の電気音響波発生器17aに接続し、次いで第1の音響チャープ信号30aの発生開始から間隔τの時間内に、第2の音響チャープ信号30bを発生させる第2の電気音響波発生器17bに第2の電圧信号を接続するようにする。
【0034】
次のチャープ信号30の発生を、その前のチャープ信号の発生が終了する前に開始させるので、どの時間的瞬間でも偏向器15の結晶層14内では少なくとも2つの音響チャープ信号30が伝播していることになる。
【0035】
結晶層14内で伝播される複数のチャープ信号30の中間周波数、掃引率および持続時間は、場合により互いに異なるようにしてもよい。1好適実施態様では、同一の正の掃引率を持つ複数のチャープ信号30を持続時間τで発生させ、それらの中間周波数の選択を、光ビーム50のX軸に沿った集束(焦点合わせ)が、第1の音響チャープ信号30aを用いて第1の座標X1を持つ第1の地点(ポイント)で起こると共に、第2の音響チャープ信号30bを用いて第2の座標X2を持つ第2の地点でも起こるように行う。
【0036】
別の好適実施態様では、様々な異なる正の掃引率のチャープ信号30を発生させ、音響光学結晶層を通過する光ビーム50を、Z軸に沿って様々な深さに集束させる。別の実施態様の場合、チャープ信号30の正の掃引率だけでなく、それらの中間周波数も異なる。この場合、光ビーム50は、Z軸に沿って様々な地点で集束されるだけでなく、X軸に沿っても様々な地点で集束される。
【0037】
円柱レンズとして機能するので、正の掃引率チャープ信号30を内包している結晶層14は、当業者には知られているように、それ自体が光ビーム50の偏向部分を集束させることができるが、これで達成しうる焦点範囲は限られている。
【0038】
場合により、チャープ信号の掃引率が0又は負である場合の実施態様も考えうる。1好適実施態様では、光ビーム50の集束に他の光学要素が関与しうる(偏向器15の後ろに配置された対物レンズなど)。そのような場合、音響チャープ信号30の掃引率の代数符号に応じて発散及び/又は収束する(又は場合により平行な)結晶層14を出た光ビーム50の偏向部分は、偏向器15の後ろに配置された光学要素を用いて、好ましくは対物レンズで、集束させる。これらの実施態様の場合の焦点の深さも偏向器15を用いて、換言すると、チャープ信号30の掃引率により、制御され、このようにして、光ビーム50の集束が実質的に偏向器15により起こることになる。
【0039】
特に好ましい実施態様では、持続時間τ' を持つ重畳音響波31を発生させるが、これは、τの持続時間を持つ第2の音響チャープ信号30bの発生が、τの持続時間を持つ第1の音響チャープ信号30aの発生と実質的に同時に開始されるようにして行われる。本発明に関して、重畳音響波31とは、複数の音響チャープ信号30からなり、それらのチャープ信号30が時間と空間の両方で完全にオーバーラップする音響波、換言すると、それらチャープ信号の持続時間、時間的および空間的終点が同一である音響波、を意味する。明確にするため、重畳音響波31の持続時間τ' は、それを構成する複数のチャープ信号30の持続時間τと同じである。このような重畳音響波31は、単一の音響波発生器17を用いて、重畳音響波31を形成する複数のチャープ信号30を個々に生起させる複数の電圧信号を複数の電極20a,20bに同時に印加するようにして生起させることができる。
【0040】
別の実施態様の場合、そのすべてが結晶層14に接続されている複数の音響波発生器17を用いて重畳音響波31を発生させる(図3bおよび3cを参照)。この実施態様の場合、結晶層14内で各音響波発生器17により各1つのチャープ信号30が同時に生起され、それにより重畳音響波31を作り出す。
【0041】
重畳音響波31を形成している複数のチャープ信号30は別々に、それらの周波数プロファイル(掃引率および中間周波数)に従って光ビーム50を同時に偏向させる。この偏向はまた、光ビーム50の個々の部分の偏向も含み、換言すると、これは光ビーム50の集束、又は場合によっては発散もしくは平行ビームの生起を意味する。
【0042】
図3aに示した実施態様の場合、重畳音響波31は複数の正の掃引率チャープ信号30を含んで発生され、それにより光ビーム50は、X軸に沿って少なくとも2つのビームに分割され、異なる方向に偏向される。
【0043】
図5aは、図3aに従って音響光学結晶層14内で生起させた重畳音響波31を形成する複数チャープ信号30の周波数の空間分布を示す。本実施態様の場合、生起された複数チャープ信号30のそれぞれについて、互いから同一距離の任意の2点間の周波数差が一定である、換言すると、或る一定の線形関数を距離-周波数関数にフィットさせうる、ということが当てはまる。無論、非線形周波数関数を別の種類の制御を用いて生起させてもよい(例えば、焦点を或る軌道に沿って移動させるために)。
【0044】
1好適実施態様において、複数の重畳音響波31を音響光学偏向器15の少なくとも1つの音響光学結晶層14内で逐次的に生起させる。これは、持続時間τ' の第1の重畳音響波31aを音響光学結晶層14内で発生させ、次に第1の重畳音響波31aの発生開始から計測して持続時間τ' の時間内に第2の重畳音響波31bを音響光学結晶層14内で発生させるようにして行われる。
【0045】
第2の重畳音響波31bの発生は、第1の重畳音響波31aの発生開始の後、時間的瞬間τ'/5とτ'/2との間で開始させることが好ましい。特に好ましい実施態様の場合、持続時間τ' の複数の重畳音響波31をそれぞれτ'/3の間隔で発生させ、こうして、複数の重畳音響波31は互いに時間において部分的にオーバーラップするようになる。
【0046】
1好適実施態様では、3以上の重畳音響波31を次々に発生させるが、この場合、第3の重畳音響波31cは、この第3の重畳音響波31cの発生開始が第1の重畳音響波31aの発生開始後の時間的瞬間τ'/2から4τ'/5までの間、好ましくは、時間的瞬間2τ'/3の時点、となるように、第2の重畳音響波31bの発生開始から持続時間τ'の時間内に発生させるようにする。
【0047】
特に好ましい実施態様の場合、音響光学偏向器15' が少なくとも2つの音響光学結晶層14a,14bを含み、それらのそれぞれに少なくとも1つの音響光学波発生器17a,17bが接続され、隣接する結晶層14a,14bは音響アイソレーター18により隔離される(図3b,3c,4b,4cを参照)。2つの音響光学結晶層14の間に配置された電気音響波発生器17の厚みは、通過する光ビーム50のぼやけをできるだけ少なくするために100μm未満とすることが好ましいが、無論、結晶層14間に配置された音響波発生器17の厚みが100μmより大きい実施態様も考え得る。暗黙の了解として音響アイソレーター18は最小の厚みとなるように設計される。場合により、偏向器15' がN個の数の等しい厚みの結晶層14を含んでいる実施態様が考えられる。そうなると、適切な信号発生の場合、音響光学偏向器15' では、同じサイズのアパーチャーを持つ単一の(分割されていない)音響光学結晶層14を含んだ音響光学偏向器15の場合の時間と比べて1/Nの時間で、音響チャープ信号30をこの音響光学偏向器15' のアパーチャー全体にわたって発生させうる。
【0048】
音響アイソレーター18の機能は、隣りの結晶層14に接続された音響波発生器17が他の結晶層14内で音響波を発生するのを防止することである。1好適実施態様の場合、音響アイソレーター18は、エアーギャップ又は吸音材料を含んでいる。音響波発生器17で発生させたチャープ信号30は、空気のような希薄気体で満たされたエアーギャップ中、又は吸音材料中では伝播することができず、このため、音響光学結晶層14内を伝播しているチャープ信号30が、音響アイソレーター18により隔離されている隣の音響光学結晶層14に侵入するのを防止することができる。偏向器15' の音響波発生器17と音響アイソレーター18は、光ビーム50のそれらのそれぞれの部分をぼやけさせるが、このぼやけは、偏向器15' を通過する光ビーム50の輝度分布を決定する点広がり関数(PSF)における最大強度のわずかな低下と低強度の追加焦点の出現を引き起こすにすぎないだろう。この最大強度の低下はわずかな励起低下を生ずる。換言すると、このぼやけ作用は、所定の焦点面上に投影された音響光学偏向器15' を通過する光ビーム50の強度分布にはほとんど現れないであろう。
【0049】
1好適実施態様の場合、音響光学偏向器の複数の音響光学結晶層14a,14b内での音響チャープ信号30の生起が、第1の音響光学結晶層14a内でそれに接続された第1の電気音響波発生器17aを用いて第1の音響チャープ信号30aを発生させ、そして第2の音響光学結晶層14b内でそれに接続された第2の電気音響波発生器17bを用いて第2の音響チャープ信号30bを発生させることにより行われる。特に好ましい1実施態様において、複数のチャープ信号30を含む第1の重畳音響波の発生が、第1の音響光学結晶層14a内でそれに接続された第1の電気音響波発生器17aを用いて行われ、そして複数のチャープ信号30を含む第2の重畳音響波の発生が、第2の音響光学結晶層14b内でそれに接続された第2の電気音響波発生器17bを用いて行われる。
【0050】
別の実施態様の場合、第1の電気音響波発生器17aは複数の電気音響波発生器ユニット17a' を含み、第2の電気音響波発生器17bも複数の電気音響波発生器ユニット17b' を含む。本発明に関して、音響波発生器ユニット17a' ,17b' は、音響波発生器17として機能する結晶層、換言すると、結晶層14内で音響チャープ信号30を発生することができる結晶層、に接続された装置を意味すると解される。
【0051】
この実施態様の場合、重畳音響波31を形成する個々のチャープ信号30は、個々の音響波発生器ユニット17a' ,17b' を用いて作り出される。
【0052】
図3b及び図4bに提示された実施態様の場合、1つの重畳音響波が複数の音響光学結晶層14を含んでいる音響光学偏向器15' 内で作り出されるが、この偏向器15' では、個々の音響光学結晶層14a,14bにおいて、所定の音響光学結晶層14a,14bにそれぞれ降りかかる当該重畳音響波31の空間セクションが、その所定の音響光学結晶層14a,14bに属する電気音響波発生器17a,17bを用いて作り出されるように、前記重畳音響波が偏向器のアパーチャー全体を満たしている。このようにして作り出された前記1つの重畳音響波31を形成しているチャープ信号30の全てについて、互いから同一距離にある任意の二点間の周波数差が一定である、換言すると、距離-周波数関数に或る一定の線形関数をフィットさせることができる(この関数は音響波発生器17及び音響アイソレーター18のところにブレーク<破断部>をもつ)(図5b参照)ということが当てはまる。従って、この実施態様では、複数の結晶層14a,14bを備えた偏向器15' において、隣り合う結晶層14の間の電気音響波発生器17及び音響アイソレーター18により作られるブレークを除いて、τの持続時間を持った複数の重畳音響波31(単一の結晶層14を含む偏向器15で発生させたアパーチャー全体を満たす複数重畳音響波31に類似のもの)であって、時間的に互いにオーバーラップさせうる複数の重畳音響波を、上に述べたようにして発生させることができる。
【0053】
図3c及び4cに提示した実施態様の場合、それぞれ各自の音響光学結晶層14a,14bに属する複数の電気音響波発生器17a,17bを用いて偏向器15' のさまざまな音響光学結晶層14において、互いに独立した複数の重畳音響波信号31が作り出される。換言すると、作り出された複数の重畳音響波31は、偏向器15' のアパーチャー全体を満たす1つの重畳音響波31を一緒になって形成することはない。従って、この実施態様の場合、さまざまな結晶層14a,14b内で発生させた複数の重畳音響波31は、場合により、異なる数のチャープ信号30を含んでいることさえありうる(図5c参照)。
【0054】
図3a,3b及び3cに示した実施態様の場合、別々の複数の重畳電圧信号が複数の電気音響波発生器17a,17bに接続されるように、複数の結晶層14a,14bのそれぞれに接続された個別の電気音響波発生器17a,17bを用いて1つの重畳音響波31が作り出される。換言すると、その1つの重畳音響波31を形成する複数のチャープ信号30を作り出す複数の電圧信号成分が電気音響波発生器17a,17bに実質的に同時に接続される。図4b及び4cに示した実施態様の場合、結晶層14a,14bに接続された電気音響波発生器17a,17bは、それぞれ複数の音響波発生器ユニット17a',17b' を含んでいて、複数の重畳音響波31を形成する個々のチャープ信号30は、個々の電気音響波発生器ユニット17a',17b' を用いて作り出される。
【0055】
本発明に係る方法は、生物学的検体40、特に神経細胞の非常に短い持続時間の照射に適しており、この方法は、光ビーム50を検体40上で1つ又は複数のポイントに集束させることを含み、このようにして二光子発光を誘起させ、次いで当該1又は2以上の焦点を動かすことにより検体40を完全にスキャン(走査)する。
【0056】
図6は、本発明に係る方法を実施するのに適合させたZ軸に沿って光軸を持つ音響光学走査システム10の主要要素の概略図を示す。この音響光学走査システム10は、光ビーム50を作り出すのに適合させた光源52と、前記Z軸に垂直なY軸に沿って光ビーム50を偏向させるのに適合させた偏向器要素12と、Z軸及びY軸に垂直なX軸に沿って光ビーム50を偏向させるのに適合させた、少なくとも1つの音響光学結晶層14を有する音響光学偏向器15とを好ましくは含んでいる。音響チャープ信号30を生起させる電圧信号を生ずるのに適合させた信号発生器24が偏向器15の音響波発生器17に接続されている。
【0057】
偏向要素12は好ましくは電流測定(検流計、ガルバノメーター)型走査ミラー、及び/又は1つ若しくは2つの音響光学偏向器35を含んでいて、それにより、当業者には知られているように(例、米国特許第8,559,085号)、偏向要素12を通過する光ビーム50をY軸に沿って偏向させてもよい。1好適実施態様の場合、偏向器35も信号発生器24により制御しうる。
【0058】
本発明に係る方法の例証的な実施態様の第1工程では、光源52により光ビーム50、好ましくはレーザービームを生じさせて発出させ、次いで、発出された光ビーム50を偏向要素12に伝送する。場合により、光ビーム50の特性を向上させる光学的要素を光源52と偏向要素12との間に配置してもよい。その種の光学的要素の例は、当業者には自明なように、ファラデーアイソレーター、分散補償要素、レーザービーム安定化モジュール、ビームブロードニングデバイス、角分散補償デバイスなどである。
【0059】
光ビーム50は、光ビーム50の光軸に対して垂直なY軸に沿って偏向される。1好適実施態様において、次式の周波数プロファイルを持つチャープ信号30を(偏向要素12の)偏向器35内で発生させる。
【0060】
【数1】
【0061】
上記式中、tは時間を意味し、Uは電圧振幅であり、そして、f(t)は瞬間周波数(momentary frequency)である。上の式において、次式が成り立つ。
【0062】
【数2】
【0063】
当業者には知られているように、上記式中において、τは信号繰り返し周期(signal repetition period)、即ち、チャープの長さであり、f(0)は最初の、そしてf(T)は最後のチャープ周波数である。或る特定の実施態様の場合、例えば、4つのアウトプット・チャネル、1つのトリガー・インプット及び1つのトリガー・アウトプットを電力増幅器と組み合わせて備えたDA4300-12-4M-PCI信号発生器を信号発生器24として使用しうるが、無論、他の種類の信号発生器も考えられうる。
【0064】
本方法の次の例証的工程では、偏向要素12から出た光ビーム50が偏向器15内に進入し、それにより光ビーム50が偏向される。特に好ましい1実施態様の場合、好ましくは同じ掃引率を持つ少なくとも2つのチャープ信号30を含んでいる重畳音響波31が、信号発生器24により制御されるとともに音響光学結晶層14に接続されている1または2以上の電気音響波発生器17を用いて音響光学結晶層14内で作り出され、このようにして、光ビーム50は少なくとも2つのビームに分割されると共に、X軸に沿って異なる方向に偏向される。
【0065】
重畳音響波31を形成する複数のチャープ信号30は、光ビーム50の分割された部分をそれらの周波数プロファイルに従って別々に偏向させる。正の掃引率を持つチャープ信号30は、光ビーム50の複数の部分をX-Z面内の様々な地点で集束させる。負の掃引率のチャープ信号30は、当初は平行であったビーム50を発散させる、換言すると、焦点は生起されない。
【0066】
1好適実施態様の場合、光ビーム50の複数部分を少なくとも2つの地点で集束させる一方で、音響光学偏向器15を出た発散又は収束しているビームが、音響光学偏向器15の後ろに配置された光学要素、好ましくは対物レンズにより集束される。これらの焦点のX軸座標はチャープ信号30の中間周波数により変化させることができ、焦点のZ軸座標はチャープ信号の掃引率により変化させることができる(図5a、5b、5cを参照)。
【0067】
本発明に係る方法の次の工程では、音響光学偏向器15中へと進んでいる光ビーム50を、偏向要素12を用いてX軸及びZ軸に垂直なY軸に沿って変位させる。その結果、複数の焦点は互いに平行な複数の直線に沿って同時に移動する。このようにして生起された平行線を用いて、検体40の二次元表面又は任意スライス(平面断面)を走査することができる(図7を参照)。Y軸に沿った変位は連続的でも断続的でもよい。前者の場合、変位中に複数焦点は連続的な複数の直線を描くのに対し、後者の場合は、複数焦点は複数列の点を生起させ、それらの複数列の点にそれぞれ直線をフィットさせることができる。
【0068】
偏向器15により1または2以上の方向に偏向された光ビーム50は、当業者には知られているようにX軸に沿って連続的に変位される(ドリフトする)。このドリフトの効果により、複数焦点はX軸及びY軸に対してある角度の複数の直線に沿って移動しよう。これらを走査中に考慮に入れることが好ましい。上述したドリフトは、例えば、次のようにして解消させてもよい。即ち、光ビーム50の複数部分をいくつかの地点で集束させるために前後に配置した少なくとも2つの音響光学偏向器15を用いることにより、同一周波数プロファイルを持つが、好ましくは異なる中間周波数を持ち、逆方向に動く複数の重畳音響波31を発生さるようにして解消できる。
【0069】
特に好ましい1実施態様の場合、重畳音響波31を形成する複数チャープ信号30の掃引率を適切に選択することにより、音響光学偏向器15を通過する光ビーム50を、Z軸に沿って異なる深さで集束させるようにして、本発明に係る方法により走査を三次元に実施する。この実施態様の場合、光ビーム50をY軸に沿って変位させることにより、複数焦点は三次元表面に沿って移動しよう。1好適実施態様の場合、複数焦点のX軸及びY軸に沿った座標の制御が、複数チャープ信号30の中間周波数及び掃引率を、Y軸に沿った、換言すると走査中の、それらの偏向が検体40の三次元表面に当たるように適切に選択することによって達成される。特に好ましい実施態様の場合、焦点のZ軸に沿った座標を、検体40の検査すべき表面と一致するように走査中に連続的に変動させる。
【0070】
別の好適実施態様の場合、走査システム10の偏向要素12が、Y軸に沿って偏向させる2つの音響光学偏向器Y1、Y2と、X軸に沿って偏向させる2つの音響光学偏向器X1、X2と、を含んでいる。同じ掃引率のチャープ信号30を、偏向要素12の偏向器Y1、Y2のそれぞれと、X軸に沿って偏向させる偏向器X1とに接続する。複数のチャープ信号30を含んでいる1つの重畳音響波が偏向器X2内で生起され、その場合、これらのチャープ信号30の掃引率は、偏向器Y1、Y2、X1内でそれぞれ生起された重畳音響波31のチャープ信号30の掃引率と同じである。好ましくは反対方向に伝わるチャープ信号30が同じ軸に沿って偏向させる音響光学偏向器内で発生される。換言すると、例えば、偏向器Y1及びY2のチャープ信号は、互いに逆方向に伝わる。偏向器X1、X2、Y1、Y2で発生したチャープ信号30の掃引率は同じであり、かつ逆方向に向かうチャープ信号30が、Y軸に沿って偏向させる偏向器対Y1及びY2内と、X軸に沿って偏向させる偏向器対X1及びX2内とで発生するので、生起された焦点はX軸とY軸のいずれに沿ってもドリフトしないであろう。焦点はY軸に沿って、偏向器対Y1及びY2内で生起されたチャープ信号30の中間周波数の差に従って決定された位置に集束され、従って、走査中に図8に示した点グリッドが作り出される。作り出された点グリッドのそれぞれの点(焦点)は同じ深さZに位置しているので、走査は一定平面Z内で起こる。或る平面が完全に走査され終わった後、即ち、点グリッドで覆われた後、偏向器X1、X2、Y1、Y2のそれぞれにおけるチャープ信号30の掃引率を変化させて、前回の平面に平行であって深さの異なる別の平面で走査をもう一度行う。これにより、三次元検体を複数面を横断して完全に走査することが可能となる。
【0071】
別の好適実施態様は、偏向器X1、X2、Y1に接続されたチャープ信号30の掃引率とは異なる掃引率でチャープ信号30を偏向器Y2に接続する点だけが上記実施態様とは異なる。この作用により、焦点はY軸に沿ってドリフトすることになろう。この場合には、点グリッドの代わりに、Y方向における複数セクションからなるグリッドが描かれることになろう(図9を参照)。
【0072】
場合により、上述した実施態様のすべての場合において、好ましくは音響アイソレーター18により分離されている、少なくとも2つの音響光学結晶層14a、14bを含む音響光学偏向器15を使用してもよい。この場合、第1の音響光学結晶層14aに接続された第1の電気音響波発生器17aを用いて第1の音響光学結晶層14a内で複数のチャープ信号30を含んだ第1の重畳音響波31aを生起させると共に、第2の音響光学結晶層14bに接続され、かつ第1の音響光学結晶層14aと第2の音響光学結晶層14bとの間に配置された第2の電気音響波発生器17bを用いて第2の音響光学結晶層14b内で複数のチャープ信号30を含んだ第2の重畳音響波31bを生起させる。
【0073】
添付の特許請求の範囲により決まる保護範囲から逸脱せずに、上に開示した各種実施態様に対するさまざまな改変が当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8
図9