(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両用操向装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240228BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240228BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240228BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2021565416
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043887
(87)【国際公開番号】W WO2021124822
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019228558
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 堅吏
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149650(JP,A)
【文献】特開2018-114845(JP,A)
【文献】特開2006-298223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、
前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する転舵用モータと、
前記反力用モータ及び前記転舵用モータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記反力用モータに対する目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、
前記転舵用モータに対する目標転舵角を生成する目標転舵角生成部と、
前記目標転舵角に基づき、前記転舵用モータの第1電流指令値を生成し、前記転舵用モータの角速度に応じた電流制限値により前記第1電流指令値を制限した第2電流指令値を出力する転舵角制御部と、
前記第2電流指令値に基づき、前記転舵用モータを駆動する電流制御部と、
を備え、
前記目標操舵トルク生成部は、
少なくとも車両の車速及び操舵角に応じた所定の基本マップに基づき第1トルク信号を生成し、当該第1トルク信号に対し、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差に応じた第2トルク信号を加算して、前記目標操舵トルクを生成する、
車両用操向装置。
【請求項2】
前記第2トルク信号は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差に応じた増加関数で与えられる、
請求項1に記載の車両用操向装置。
【請求項3】
前記増加関数は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差を横軸、前記第2トルク信号を縦軸とした2次元グラフの原点を通る1次関数である、
請求項2に記載の車両用操向装置。
【請求項4】
前記増加関数は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差を横軸、前記第2トルク信号を縦軸とした2次元グラフの原点を通り、極値を持たない3次関数である、
請求項2に記載の車両用操向装置。
【請求項5】
前記目標操舵トルク生成部は、前記増加関数を用いて、前記第2トルク信号を演算する、
請求項2から4の何れか一項に記載の車両用操向装置。
【請求項6】
前記目標操舵トルク生成部は、前記増加関数の特性をマップとして保持し、当該マップを参照して、前記第2トルク信号を求める、
請求項2から4の何れか一項に記載の車両用操向装置。
【請求項7】
前記転舵角制御部は、
前記第1電流指令値が前記電流制限値よりも大きい場合に、前記電流制限値を前記第2電流指令値として出力し、
前記第1電流指令値が前記電流制限値以下である場合に、前記第1電流指令値を前記第2電流指令値として出力する、
請求項1から6の何れか一項に記載の車両用操向装置。
【請求項8】
前記電流制限値は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値に応じて設定されている、
請求項7に記載の車両用操向装置。
【請求項9】
前記転舵用モータの所定の角速度に対応する前記電流制限値は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値が大きくなるほど大きくなり、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値が小さくなるほど小さくなる、
請求項8に記載の車両用操向装置。
【請求項10】
前記転舵用モータの所定の角速度に対応する前記電流制限値の変化量は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値の変化量に比例する、
請求項8又は9に記載の車両用操向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操向装置として、運転者が操舵を行う操舵反力生成装置(FFA:Force Feedback Actuator、操舵機構)と、車両の舵を切るタイヤ転舵装置(RWA:Road Wheel Actuator、転舵機構)とが機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置がある。このようなSBW式の車両用操向装置は、操舵機構と転舵機構とがコントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)を介して電気的に接続され、電気信号によって操舵機構と転舵機構と間の制御が行われる構成である。
【0003】
このようなSBW式の車両用操向装置において、例えば、運転者の急激な操舵により操舵角が急変した場合、転舵角が追従できなくなる可能性があり、操舵角に応じた転舵角が得られず、運転者に違和感を与える可能性がある。このため、SBW式の車両用操向装置において、転舵角が操舵角に追従できなくなることを抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献では、転舵側モータへの電圧指令値に対応する制御信号のデューティ比が最大(100%)であるとき、経過時間に応じて操舵反力を増大させる。このため、上記特許文献に記載された技術では、実際に必要な操舵反力を得られるまでに時間が掛かり、運転者に与える違和感を十分に抑制できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、操舵角と転舵角との追従性を高め、運転者に与える違和感を抑制することができる車両用操向装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両用操向装置は、ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する転舵用モータと、前記反力用モータ及び前記転舵用モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記反力用モータに対する目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、前記転舵用モータに対する目標転舵角を生成する目標転舵角生成部と、前記目標転舵角に基づき、前記転舵用モータの第1電流指令値を生成し、前記転舵用モータの角速度に応じた電流制限値により前記第1電流指令値を制限した第2電流指令値を出力する転舵角制御部と、前記第2電流指令値に基づき、前記転舵用モータを駆動する電流制御部と、を備え、前記目標操舵トルク生成部は、少なくとも車両の車速及び操舵角に応じた所定の基本マップに基づき第1トルク信号を生成し、当該第1トルク信号に対し、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差に応じた第2トルク信号を加算して、前記目標操舵トルクを生成する。
【0008】
上記構成によれば、第1電流指令値と第2電流指令値との偏差に応じたリアルタイム制御が可能となるので、操舵角に対する転舵角の追従性を高めることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0009】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記第2トルク信号は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差に応じた増加関数で与えられることが好ましい。
【0010】
これにより、第1電流指令値と第2電流指令値との偏差が大きいほど操舵反力を大きくすることができ、運転者に与える違和感の抑制効果を高めることができる。
【0011】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記増加関数は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差を横軸、前記第2トルク信号を縦軸とした2次元グラフの原点を通る1次関数であっても良い。
【0012】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記増加関数は、前記第1電流指令値と前記第2電流指令値との偏差を横軸、前記第2トルク信号を縦軸とした2次元グラフの原点を通り、極値を持たない3次関数であっても良い。
【0013】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記目標操舵トルク生成部は、前記増加関数を用いて、前記第2トルク信号を演算する態様であっても良い。
【0014】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記目標操舵トルク生成部は、前記増加関数の特性をマップとして保持し、当該マップを参照して、前記第2トルク信号を求める態様であっても良い。
【0015】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記転舵角制御部は、前記第1電流指令値が前記電流制限値よりも大きい場合に、前記電流制限値を前記第2電流指令値として出力し、前記第1電流指令値が前記電流制限値以下である場合に、前記第1電流指令値を前記第2電流指令値として出力することが好ましい。
【0016】
これにより、転舵用モータに供給するモータ電流を適切に制限することができる。
【0017】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記電流制限値は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値に応じて設定されていることが好ましい。
【0018】
これにより、転舵用モータの駆動用電源の電圧値に応じて、転舵用モータに供給するモータ電流を適切に制限することができる。
【0019】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記転舵用モータの所定の角速度に対応する前記電流制限値は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値が大きくなるほど大きくなり、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値が小さくなるほど小さくなることが好ましい。
【0020】
これにより、転舵用モータの駆動用電源の経年劣化による電圧値の低下に対応して、転舵用モータに供給するモータ電流を制限することができる。
【0021】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記転舵用モータの所定の角速度に対応する前記電流制限値の変化量は、前記転舵用モータの駆動用電源の電圧値の変化量に比例することが好ましい。
【0022】
これにより、転舵用モータの駆動用電源の経年劣化による電圧値の低下に対応して、転舵用モータに供給するモータ電流を適切に制限することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、操舵角と転舵角との追従性を高め、運転者に与える違和感を抑制することができる車両用操向装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、基本マップ部が保持する基本マップの特性例を示す図である。
【
図6】
図6は、ダンパゲインマップ部が保持するダンパゲインマップの特性例を示す図である。
【
図7】
図7は、ヒステリシス補正部の特性例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る転舵モータ出力特性補正部の特性例を示す図である。
【
図9】
図9は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、実施形態1に係る転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係る電流指令値制限特性の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、出力制限部における出力制限処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、実施形態2に係る転舵モータ出力特性補正部の特性例を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態3に係る転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。
【
図16】
図16は、実施形態3に係る電流指令値制限特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
(実施形態1)
図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。
図1に示すステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置(以下、「SBWシステム」とも称する)は、ハンドル1の操作を電気信号によって操向車輪8L,8R等からなる転舵機構に伝えるシステムである。
図1に示されるように、SBWシステムは、反力装置60及び駆動装置70を備え、コントロールユニット(ECU)50が両装置の制御を行う。
【0027】
反力装置60は、ハンドル1の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ10及び操舵角θhを検出する舵角センサ14、減速機構3、角度センサ74、反力用モータ61等を備えている。これらの各構成部は、ハンドル1のコラム軸2に設けられている。
【0028】
反力装置60は、舵角センサ14にて操舵角θhの検出を行うと同時に、操向車輪8L,8Rから伝わる車両の運動状態を反力トルクとして運転者に伝達する。反力トルクは、反力用モータ61により生成される。トルクセンサ10は、操舵トルクTsを検出する。また、角度センサ74が、反力用モータ61のモータ角θmを検出する。
【0029】
駆動装置70は、転舵用モータ71、ギア72、角度センサ73等を備えている。転舵用モータ71により発生する駆動力は、ギア72、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。
【0030】
駆動装置70は、運転者によるハンドル1の操舵に合わせて、転舵用モータ71を駆動し、その駆動力を、ギア72を介してピニオンラック機構5に付与し、タイロッド6a,6bを経て、操向車輪8L,8Rを転舵する。ピニオンラック機構5の近傍には角度センサ73が配置されており、操向車輪8L,8Rの転舵角θtを検出する。ECU50は、反力装置60及び駆動装置70を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ12からの車速Vs等を基に、反力用モータ61を駆動制御する電圧制御指令値Vref1及び転舵用モータ71を駆動制御する電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0031】
角度センサ73は、転舵用モータ71の角度を検出する態様であっても良い。この場合、角度センサ73の検出値を転舵角θtに変換し、後段の制御に用いる態様であっても良い。
【0032】
コントロールユニット(ECU)50には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット50は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vs等に基づいて電流指令値の演算を行い、反力用モータ61及び転舵用モータ71に供給する電流を制御する。
【0033】
コントロールユニット50には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40等の車載ネットワークが接続されている。また、コントロールユニット50には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0034】
コントロールユニット50は、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。
図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【0035】
コントロールユニット50を構成する制御用コンピュータ1100は、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)1004、インターフェース(I/F)1005、A/D(Analog/Digital)変換器1006、PWM(Pulse Width Modulation)コントローラ1007等を備え、これらがバスに接続されている。
【0036】
CPU1001は、SBWシステムの制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、SBWシステムを制御する処理装置である。
【0037】
ROM1002は、SBWシステムを制御するための制御プログラムを格納する。また、RAM1003は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM1004には、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納されている。制御データは、コントロールユニット30に電源が投入された後にRAM1003に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM1004に上書きされる。
【0038】
ROM1002、RAM1003、及びEEPROM1004等は情報を格納する記憶装置であって、CPU1001が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。
【0039】
A/D変換器1006は、操舵トルクTs、及び操舵角θhの信号等を入力し、ディジタル信号に変換する。
【0040】
インターフェース1005は、CAN40に接続されている。インターフェース1005は、車速センサ12からの車速Vの信号(車速パルス)を受け付けるためのものである。
【0041】
PWMコントローラ1007は、反力用モータ61及び転舵用モータ71に対する電流指令値に基づいてUVW各相のPWM制御信号を出力する。
【0042】
このようなSBWシステムに本開示を適用した実施形態1の構成について説明する。
【0043】
図3は、実施形態1に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。本実施形態では、捩れ角Δθに対する制御(以下、「捩れ角制御」とする)と、転舵角θtに対する制御(以下、「転舵角制御」とする)を行い、反力装置60を捩れ角制御で制御し、駆動装置70を転舵角制御で制御する。なお、駆動装置70は他の制御方法で制御しても良い。
【0044】
コントロールユニット50は、内部ブロック構成として、目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、変換部500、目標転舵角生成部910、及び転舵角制御部920を備えている。
【0045】
目標操舵トルク生成部200は、本開示において反力装置60の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクTrefを生成する。変換部500は、目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。捩れ角制御部300は、反力用モータ61に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Imcを生成する。
【0046】
ここでは、まず、本実施形態に係る目標操舵トルク生成部200について、
図4を参照して説明する。
【0047】
図4は、実施形態1に係る目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態に係る目標操舵トルク生成部200は、基本マップ部210、乗算部211、微分部220、ダンパゲインマップ部230、ヒステリシス補正部240、転舵モータ出力特性補正部250、乗算部260、及び加算部261,262,263を備える。
図5は、基本マップ部が保持する基本マップの特性例を示す図である。
図6は、ダンパゲインマップ部が保持するダンパゲインマップの特性例を示す図である。
【0048】
基本マップ部210には、操舵角θh及び車速Vsが入力される。基本マップ部210は、
図5に示す基本マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク信号Tref_a0を出力する。すなわち、基本マップ部210は、車速Vsに応じたトルク信号Tref_a0を出力する。
【0049】
図5に示すように、トルク信号Tref_a0は、操舵角θhの大きさ(絶対値)|θh|の増加に伴い徐々に変化率が小さくなる曲線に沿って増加する特性を有する。また、トルク信号Tref_a0は、車速Vsの増加に伴い増加する特性を有する。なお、
図5では操舵角θhの大きさ|θh|に応じたマップを構成しているが、正負の操舵角θhに応じたマップを構成しても良い。この場合、トルク信号Tref_a0の値は、正負の値を取り得、後述する符号計算は不要となる。以下の説明では、
図5に示す操舵角θhの大きさ|θh|に応じた正の値であるトルク信号Tref_a0を出力する態様について説明する。
【0050】
図4に戻って、符号抽出部213は、操舵角θhの符号を抽出する。具体的には、例えば、操舵角θhの値を、操舵角θhの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部213は、操舵角θhの符号が「+」の場合には「1」を出力し、操舵角θhの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部213は、例えば操舵角θhの符号関数(sign(θh))を生成する。
【0051】
乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、符号抽出部213から出力される「1」又は「-1」を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。具体的に、乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、例えば符号抽出部213により生成された操舵角θhの符号関数(sign(θh))を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。
【0052】
本実施形態におけるトルク信号Tref_aが、本開示の「第1トルク信号」に対応する。
【0053】
微分部220には、操舵角θhが入力される。微分部220は、操舵角θhを微分して、角速度情報である舵角速度ωhを算出する。微分部220は、算出した舵角速度ωhを乗算部260に出力する。
【0054】
ダンパゲインマップ部230には、車速Vsが入力される。ダンパゲインマップ部230は、
図6に示す車速感応型のダンパゲインマップを用いて、車速Vsに応じたダンパゲインD
Gを出力する。
【0055】
図6に示すように、ダンパゲインD
Gは、車速Vsが高くなるに従い徐々に大きくなる特性を有する。ダンパゲインD
Gは、操舵角θhに応じて可変する態様としても良い。
【0056】
図4に戻って、乗算部260は、微分部220から出力される舵角速度ωhに対して、ダンパゲインマップ部230から出力されるダンパゲインD
Gを乗算し、トルク信号Tref_bとして加算部262に出力する。
【0057】
ヒステリシス補正部240は、操舵角θh及び操舵状態信号STsに基づき、下記(1)式及び(2)式を用いてトルク信号Tref_cを演算する。操舵状態信号STsについては、ここでは説明を省略するが、モータ角速度ωmの符号に基づき、操舵方向が右切りか左切りかを判定した結果を示す状態信号である。なお、下記(1)式及び(2)式において、xは操舵角θh、yR=Tref_c及びyL=Tref_cはトルク信号(第4トルク信号)Tref_cとする。また、係数aは1よりも大きい値であり、係数cは0よりも大きい値である。係数Ahysは、ヒステリシス特性の出力幅を示し、係数cは、ヒステリシス特性の丸みを表す係数である。
【0058】
yR=Ahys{1-a-c(x-b)}・・・(1)
【0059】
yL=-Ahys{1-ac(x-b’)}・・・(2)
【0060】
右切り操舵の際には、上記(1)式を用いて、トルク信号(第4トルク信号)Tref_c(yR)を算出する。左切り操舵の際には、上記(2)式を用いて、トルク信号(第4トルク信号)Tref_c(yL)を算出する。なお、右切り操舵から左切り操舵へ切り替える際、又は、左切り操舵から右切り操舵へ切り替える際には、操舵角θh及びトルク信号Tref_cの前回値であるの最終座標(x1,y1)の値に基づき、操舵切り替え後の上記(1)式及び(2)式に対し、下記(3)式又は(4)式に示す係数b又はb’を代入する。これにより、操舵切り替え前後の連続性が保たれる。
【0061】
b=x1+(1/c)loga{1-(y1/Ahys)}・・・(3)
【0062】
b’=x1-(1/c)loga{1-(y1/Ahys)}・・・(4)
【0063】
上記(3)式及び(4)式は、上記(1)式及び(2)式において、xにx1を代入し、yR及びyLにy1を代入することにより導出することができる。
【0064】
係数aとして、例えば、ネイピア数eを用いた場合、上記(1)式、(2)式、(3)式、(4)式は、それぞれ下記(5)式、(6)式、(7)式、(8)式で表せる。
【0065】
yR=Ahys[1-exp{-c(x-b)}]・・・(5)
【0066】
yL=-Ahys[{1-exp{c(x-b’)}]・・・(6)
【0067】
b=x1+(1/c)loge{1-(y1/Ahys)}・・・(7)
【0068】
b’=x1-(1/c)loge{1-(y1/Ahys)}・・・(8)
【0069】
図7は、ヒステリシス補正部の特性例を示す図である。
図7に示す例では、上記(7)式及び(8)式において、Ahys=1[Nm]、c=0.3と設定し、0[deg]から開始し、+50[deg]、-50[deg]の操舵をした場合の、ヒステリシス補正されたトルク信号Tref_cの特性例を示している。
図7に示すように、ヒステリシス補正部240から出力されるトルク信号Tref_cは、0の原点→L1(細線)→L2(破線)→L3(太線)のようなヒステリシス特性を有している。
【0070】
なお、ヒステリシス特性の出力幅を表す係数であるAhys及び丸みを表す係数であるcを、車速Vs及び操舵角θhの一方又は双方に応じて可変としても良い。
【0071】
また、舵角速度ωhは、操舵角θhに対する微分演算により求めているが、高域のノイズの影響を低減するために適度にローパスフィルタ(LPF)処理を実施している。また、ハイパスフィルタ(HPF)とゲインにより、微分演算とLPFの処理を実施しても良い。更に、舵角速度ωhは、操舵角θhではなく、上側角度センサが検出するハンドル角θ1又は下側角度センサが検出するコラム角θ2に対して微分演算とLPFの処理を行って算出しても良い。舵角速度ωhの代わりにモータ角速度ωmを角速度情報として使用しても良く、この場合、微分部220は不要となる。
【0072】
転舵モータ出力特性補正部250には、後述する転舵角制御部920から出力される出力制限前のモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0及び出力制限後のモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctが入力される。
【0073】
本実施形態において、転舵モータ出力特性補正部250は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0及びモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctに基づき、下記(9)式に示す増加関数を用いてトルク信号Tref_tを演算する。なお、下記(9)式において、Gは所定のゲインを表す係数である。
【0074】
Tref_t=G×(Imct0-Imct)・・・(9)
【0075】
図8は、実施形態1に係る転舵モータ出力特性補正部の特性例を示す図である。
図8に示す特性例は、上記(9)式に示す増加関数を2次元グラフ化して示している。
図8において、横軸はモータ電流指令値偏差Imct0-Imctを示し、縦軸はトルク信号Tref_tを示している。
図8に示すように、上記(9)式に示す増加関数は、原点((Imct0-Imct),Tref_t)=(0,0)を通る1次関数である。
【0076】
転舵モータ出力特性補正部250は、
図8に示す特性例をマップとして保持し、マップ参照形式でトルク信号Tref_tを求める態様であっても良い。
【0077】
例えば、右切り操舵時においてモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が正の値となる場合、トルク信号Tref_tは正の値となる。
【0078】
また、左切り操舵時においてモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が負の値となる場合、トルク信号Tref_tは負の値となる。
【0079】
一方、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が「0」、すなわち、転舵モータ出力特性補正部250において出力制限されていない場合、トルク信号Tref_tの値は「0」となる。
【0080】
本実施形態におけるトルク信号Tref_tが、本開示の「第2トルク信号」に対応する。
【0081】
上述のように求められたトルク信号Tref_a,Tref_b,Tref_c,及びTref_tは、加算部261,262,263で加算され、目標操舵トルクTrefとして出力される。
【0082】
捩れ角制御では、捩れ角Δθが、操舵角θh等を用いて目標操舵トルク生成部200及び変換部500を経て算出される目標捩れ角Δθrefに追従するような制御を行う。反力用モータ61のモータ角θmは角度センサ74で検出され、モータ角速度ωmは、角速度演算部951にてモータ角θmを微分することにより算出される。転舵用モータ71の転舵角θtは角度センサ73で検出される。また、電流制御部130は、捩れ角制御部300から出力されるモータ電流指令値Imc及びモータ電流検出器140で検出される反力用モータ61の電流値Imrに基づいて、反力用モータ61を駆動して、電流制御を行う。
【0083】
以下、捩れ角制御部300について、
図9を参照して説明する。
【0084】
図9は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Imcを演算する。捩れ角制御部300は、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、減算部361及び加算部362を備えている。
【0085】
変換部500から出力される目標捩れ角Δθrefは、減算部361に加算入力される。捩れ角Δθは、減算部361に減算入力されると共に、捩れ角速度演算部320に入力される。モータ角速度ωmは、安定化補償部340に入力される。
【0086】
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標捩れ角速度ωrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0087】
目標捩れ角速度ωrefは、速度制御部330に入力される。捩れ角FB補償部310及び速度制御部330により、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能となる。
【0088】
捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対して微分演算処理を行い、捩れ角速度ωtを算出する。捩れ角速度ωtは、速度制御部330に出力される。捩れ角速度演算部320は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行なっても良い。また、捩れ角速度演算部320は、捩れ角速度ωtを別の手段や捩れ角Δθ以外から算出し、速度制御部330に出力するようにしても良い。
【0089】
速度制御部330は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標捩れ角速度ωrefに捩れ角速度ωtが追従するようなモータ電流指令値Imca1を算出する。
【0090】
減算部333は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を算出する。積分部331は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を積分し、積分結果を減算部334に加算入力する。
【0091】
捩れ角速度ωtは、比例部332にも出力される。比例部332は、捩れ角速度ωtに対してゲインKvpによる比例処理を行い、比例処理結果を減算部334に減算入力する。減算部334での減算結果は、モータ電流指令値Imca1として出力される。なお、速度制御部330は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imca1を算出しても良い。
【0092】
安定化補償部340は、補償値Cs(伝達関数)を有しており、モータ角速度ωmからモータ電流指令値Imca2を算出する。追従性及び外乱特性を向上させるために、捩れ角FB補償部310及び速度制御部330のゲインを上げると、高域の制御的な発振現象が発生してしまう。この対策として、モータ角速度ωmに対し、安定化するために必要な伝達関数(Cs)を安定化補償部340に設定する。これにより、反力装置制御システム全体の安定化を実現することができる。
【0093】
加算部362は、速度制御部330からのモータ電流指令値Imca1と安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2とを加算し、モータ電流指令値Imcbとして出力する。
【0094】
出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imcを出力する。
【0095】
なお、本実施形態における捩れ角制御部300の構成は一例であり、
図9に示す構成とは異なる態様であっても良い。例えば、捩れ角制御部300は、安定化補償部340を具備しない構成であっても良い。
【0096】
転舵角制御では、目標転舵角生成部910にて操舵角θhに基づいて目標転舵角θtrefが生成される。目標転舵角θtrefは、転舵角θtと共に転舵角制御部920に入力され、転舵角制御部920にて、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctが演算される。そして、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出される転舵用モータ71の電流値Imdに基づいて、電流制御部930が、電流制御部130と同様の構成及び動作により、転舵用モータ71を駆動して、電流制御を行う。
【0097】
以下、目標転舵角生成部910について、
図10を参照して説明する。
【0098】
図10は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。目標転舵角生成部910は、制限部931、レート制限部932及び補正部933を備える。
【0099】
制限部931は、操舵角θhの上下限値を制限した操舵角θh1を出力する。
図9に示す捩れ角制御部300内の出力制限部350と同様に、操舵角θhに対する上限値及び下限値を予め設定して制限をかける。
【0100】
レート制限部932は、操舵角の急変を回避するために、操舵角θh1の変化量に対して制限値を設定して制限をかけ、操舵角θh2を出力する。例えば、1サンプル前の操舵角θh1からの差分を変化量とし、その変化量の絶対値が所定の値(制限値)より大きい場合、変化量の絶対値が制限値となるように、操舵角θh1を加減算し、操舵角θh2として出力し、制限値以下の場合は、操舵角θh1をそのまま操舵角θh2として出力する。なお、変化量の絶対値に対して制限値を設定するのではなく、変化量に対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良く、変化量ではなく変化率や差分率に対して制限をかけるようにしても良い。
【0101】
補正部933は、操舵角θh2を補正して、目標転舵角θtrefを出力する。
【0102】
以下、転舵角制御部920について、
図11を参照して説明する。
【0103】
図11は、実施形態1に係る転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。転舵角制御部920は、目標転舵角θtref、及び操向車輪8L,8Rの転舵角θtに基づいてモータ電流指令値Imctを演算する。転舵角制御部920は、転舵角フィードバック(FB)補償部921、転舵角速度演算部922、転舵モータ角速度演算部922a、速度制御部923、出力制限部926、及び減算部927を備えている。
【0104】
目標転舵角生成部910から出力される目標転舵角θtrefは、減算部927に加算入力される。転舵角θtは、減算部927に減算入力されると共に、転舵角速度演算部922に入力される。
【0105】
転舵角FB補償部921は、減算部927で算出される目標転舵角速度ωtrefと転舵角θtとの偏差Δθt0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標転舵角θtrefに転舵角θtが追従するような目標転舵角速度ωtrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0106】
目標転舵角速度ωtrefは、速度制御部923に入力される。転舵角FB補償部921及び速度制御部923により、目標転舵角θtrefに転舵角θtを追従させ、所望のトルクを実現することが可能となる。
【0107】
転舵角速度演算部922は、転舵角θtに対して微分演算処理を行い、転舵角速度ωttを算出する。転舵角速度ωttは、速度制御部923に出力される。
【0108】
転舵モータ角速度演算部922aは、転舵角θtを転舵モータの角度に変換し、この転舵モータの角度に対して微分演算処理を行い、転舵モータ角速度ωmctを算出する。転舵モータ角速度ωmctは、出力制限部926に出力される。転舵モータ角速度演算部922aは、転舵モータの角度を検出する角度センサの検出値に対して微分演算処理を行い、転舵モータ角速度ωmctを算出する態様であっても良い。
【0109】
速度制御部923は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標転舵角速度ωtrefに転舵角速度ωttが追従するようなモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0を算出する。なお、速度制御部923は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0を算出しても良い。
【0110】
減算部928は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を算出する。積分部924は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を積分し、積分結果を減算部929に加算入力する。
【0111】
転舵角速度ωttは、比例部925にも出力される。比例部925は、転舵角速度ωttに対して比例処理を行い、比例処理結果を出力制限部926にモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0として出力する。
【0112】
本実施形態において、出力制限部926は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0に対して出力制限処理を行い、モータ電流指令値(第2電流指令値)Imctを出力する構成部である。出力制限部926は、予め転舵モータ角速度ωmctに応じた電流制限値が設定された電流指令値制限特性を保持している。
【0113】
図12は、実施形態1に係る電流指令値制限特性の一例を示す図である。
図12において、横軸は転舵モータ角速度ωmctを示し、縦軸はモータ電流制限値Imct_limを示している。
【0114】
図12に示すように、ωmct<ωmct1の領域において、モータ電流制限値|Imct_lim|は、電流制御部930の最大出力電流Imct_limmaxにより決まる。また、ωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域において、モータ電流制限値|Imct_lim|は、転舵モータ角速度ωmctに応じた電流制御部930の出力特性により決まる。すなわち、
図12に示す電流指令値制限特性は、電流制御部930の最大出力電流Imct_limmax及び出力特性に基づきオフラインで設定できる。
【0115】
ここで、出力制限部926における出力制限処理の具体例について、
図13を参照して説明する。
図13は、出力制限部における出力制限処理の一例を示すフローチャートである。
【0116】
出力制限部926は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|とモータ電流制限値|Imct_lim|とを比較する。具体的に、出力制限部926は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|がモータ電流制限値|Imct_lim|よりも大きいか否かを判定する(ステップS101)。
【0117】
モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|がモータ電流制限値|Imct_lim|よりも大きい場合(ステップS101;Yes)、出力制限部926は、モータ電流制限値|Imct_lim|にモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の符号関数(sign(Imct0))を乗じた値をモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとして出力する(ステップS102)。
【0118】
モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|がモータ電流制限値|Imct_lim|以下である場合(ステップS101;No)、出力制限部926は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0をモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとして出力する(ステップS103)。
【0119】
図13に示す処理により、出力制限部926の出力であるモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctは、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|がモータ電流制限値|Imct_lim|よりも大きい場合に(ステップS101;Yes)、モータ電流制限値|Imct_lim|に制限される。
【0120】
なお、本実施形態における転舵角制御部920の構成は一例であり、
図11に示す構成とは異なる態様であっても良い。
【0121】
例えば、運転者が急激な操舵を行った場合や、操向車輪8L,8Rが縁石に当たっているような転舵し難い状況で運転者が操舵を行った場合、転舵角制御部920の出力制限部926によって転舵用モータ71のモータ電流が制限される。このとき、操舵角と転舵角とが乖離して操舵角に応じた転舵角が得られなくなり、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0122】
本実施形態に係る目標操舵トルク生成部200は、
図4に示すように、目標転舵角生成部910により生成される目標転舵角θtrefに基づき導出されるモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0と、出力制限部926の出力であるモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)に応じた増加関数((9)式)を用いてトルク信号Tref_t(第2トルク信号)を演算する転舵モータ出力特性補正部250を備え、
図5に示す基本マップを用いて生成されたトルク信号Tref_a(第1トルク信号)に対し、転舵モータ出力特性補正部250から出力されるトルク信号Tref_t(第2トルク信号)を加算して、目標操舵トルクTrefを生成する。
【0123】
これにより、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)に応じた目標操舵トルクTrefが得られる。具体的に、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が大きいほど、トルク信号Tref_a(第1トルク信号)に加算されるトルク信号Tref_t(第2トルク信号)が大きくなる。
【0124】
この結果、操舵反力が増大し、運転者による急激な操舵や、操向車輪8L,8Rが転舵し難い状況で運転者が操舵を行うことが抑制される。これにより、操舵角と転舵角との乖離が抑制され、操舵角に対する転舵角の追従性を高めることができる。
【0125】
このように、本実施形態に係る車両用操向装置では、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)に応じたリアルタイム制御が可能となるので、操舵角に対する転舵角の追従性を高めることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0126】
(実施形態2)
車両用操向装置の全体構成、コントロールユニットのハードウェア構成、目標操舵トルク生成部、捩れ角制御部、目標転舵角生成部、転舵角制御部の各部構成、電流指令値制限特性、出力制限部における処理については、上述した実施形態1と同一であるので、ここでは重複する説明は省略する。また、上述した実施形態1で説明した構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0127】
本実施形態において、転舵モータ出力特性補正部250は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0及びモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctに基づき、下記(10)式に示す増加関数を用いてトルク信号Tref_tを演算する。なお、下記(10)式において、a,bは所定の係数である。
【0128】
Tref_t=a×(Imct0-Imct)3+b×(Imct0-Imct)・・・(10)
【0129】
図14は、実施形態2に係る転舵モータ出力特性補正部の特性例を示す図である。
図14に示す特性例は、上記(10)式に示す増加関数を2次元グラフ化して示している。
図14において、横軸はモータ電流指令値偏差Imct0-Imctを示し、縦軸はトルク信号Tref_tを示している。
図14に示すように、上記(10)式に示す増加関数は、原点((Imct0-Imct),Tref_t)=(0,0)を通り、極値を持たない3次関数である。
【0130】
転舵モータ出力特性補正部250は、
図14に示す特性例をマップとして保持し、マップ参照形式でトルク信号Tref_tを求める態様であっても良い。
【0131】
例えば、右切り操舵時においてモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が正の値となる場合、トルク信号Tref_tは正の値となり、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)の大きさ|Imct0-Imct|が大きくなるに従い、トルク信号Tref_tの変化率が大きくなる。
【0132】
また、左切り操舵時においてモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が負の値となる場合、トルク信号Tref_tは負の値となり、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)の大きさ|Imct0-Imct|が大きくなるに従い、トルク信号Tref_tの変化率が大きくなる。
【0133】
一方、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)が「0」、すなわち、転舵モータ出力特性補正部250において出力制限されていない場合、トルク信号Tref_tの値は「0」となる。
【0134】
上記(10)式に示す増加関数、又は
図14に示す特性例を用いてトルク信号Tref_tを求める場合、実施形態1よりもモータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0とモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctとの偏差(Imct0-Imct)の大きさ|Imct0-Imct|が大きくなるに従い、より操舵反力を増大させることができる。これにより、操舵角と転舵角との乖離をさらに抑制することができる。
【0135】
(実施形態3)
図15は、実施形態3に係る転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。
図16は、実施形態3に係る電流指令値制限特性の一例を示す図である。車両用操向装置の全体構成、コントロールユニットのハードウェア構成、目標操舵トルク生成部、捩れ角制御部、目標転舵角生成部の各部構成、転舵モータ出力特性補正部の特性、出力制限部における処理については、上述した実施形態1又は実施形態2と同一であるので、ここでは重複する説明は省略する。また、上述した実施形態1又は実施形態2で説明した構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0136】
本実施形態において、出力制限部926aには、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatが入力される。あるいは、出力制限部926aは、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatを検出する態様であっても良い。転舵用モータ71の駆動用電源は、例えばバッテリ13(
図1参照)から供給される。
【0137】
モータにおいて、モータ印加電圧をVm、モータ電流をI、モータ抵抗値をR、モータインダクタンス値をL、モータ電流変化をdi/dt、モータ逆起電力をeとすると、下記(11)式で表される。
【0138】
Vm=I×R+L×(di/dt)+e・・・(11)
【0139】
上記(11)式をモータ電流Iについて変形し、モータ電流変化を無視すると、下記(12)式が得られる。
【0140】
I=(Vm-e)/R・・・(12)
【0141】
上記(12)式を転舵用モータ71に適用し、モータ電流Iを転舵用モータ71の電流値Imdとすると、モータ印加電圧Vmは、コントロールユニット50に供給される電源の電圧値Vbatに比例し、モータ逆起電力eは、転舵モータ角速度ωmctに比例する。すなわち、転舵モータ角速度ωmctに応じた電流制御部930の出力特性によりモータ電流制限値|Imct_lim|が定まるωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域において、転舵用モータ71の所定の角速度に対応するモータ電流制限値|Imct_lim|の変化量は、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatの変化量に比例する。
【0142】
本実施形態において、出力制限部926aは、
図16に示すように、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatのレベルに応じて電流指令値制限特性を変化させる。換言すれば、出力制限部926aは、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatに応じて、モータ電流制限値|Imct_lim|を設定する。
【0143】
具体的に、出力制限部926aは、転舵モータ角速度ωmctに応じた電流制御部930の出力特性によりモータ電流制限値|Imct_lim|が定まるωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域の所定の角速度において、モータ電流制限値|Imct_lim|の変化量が転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatの変化量に比例した値となるように制御する。この結果として、ωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域の所定の角速度において、電圧値Vbatが大きいほどモータ電流制限値|Imct_lim|が大きく、電圧値Vbatが小さいほどモータ電流制限値|Imct_lim|が小さくなる。換言すれば、ωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域の所定の角速度において、電圧値Vbatが大きいほどωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域が高くなり、電圧値Vbatが小さいほどωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域が低くなる。
【0144】
これにより、ωmct1≦ωmct≦ωmct2の領域の所定の角速度において、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imct0の大きさ|Imct0|がモータ電流制限値|Imct_lim|よりも大きい場合のモータ電流指令値(第2電流指令値)Imctの値(=sign(Imct0)×|Imct_lim|)は、電圧値Vbatが大きいほど大きく、電圧値Vbatが小さいほど小さくなる。
【0145】
このように、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatのレベルに応じて電流指令値制限特性を変化させることで、電圧値Vbatのレベルに応じて転舵用モータ71に供給するモータ電流を適切に制限することができる。転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatのレベルに応じたモータ電流制限値|Imct_lim|が適切に設定されることにより、例えば、バッテリ13の経年劣化による電圧値Vbatの低下に対応することも可能である。
【0146】
なお、ここでは、転舵用モータ71の駆動用電源の電圧値Vbatのレベルに応じたモータ電流制限値|Imct_lim|を設定する例について説明したが、電圧値Vbatのレベルに応じた電流指令値制限特性が得られる態様であれば良く、例えば、電圧値Vbatのレベルに応じた複数の電流指令値制限特性が設定されている態様であっても良い。
【0147】
なお、上述で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 ハンドル
2 コラム軸
3 減速機構
5 ピニオンラック機構
6a,6b タイロッド
7a,7b ハブユニット
8L,8R 操向車輪
10 トルクセンサ
11 イグニションキー
12 車速センサ
13 バッテリ
14 舵角センサ
50 コントロールユニット(ECU)
60 反力装置
61 反力用モータ
70 駆動装置
71 転舵用モータ
72 ギア
73 角度センサ
130 電流制御部
140 モータ電流検出器
200 目標操舵トルク生成部
210 基本マップ部
211 乗算部
213 符号抽出部
220 微分部
230 ダンパゲインマップ部
240 ヒステリシス補正部
250 転舵モータ出力特性補正部
260 乗算部
261,262,263 加算部
300 捩れ角制御部
310 捩れ角フィードバック(FB)補償部
320 捩れ角速度演算部
330 速度制御部
331 積分部
332 比例部
333,334 減算部
340 安定化補償部
350 出力制限部
361 減算部
362 加算部
500 変換部
910 目標転舵角生成部
920 転舵角制御部
921 転舵角フィードバック(FB)補償部
922 転舵角速度演算部
922a 転舵モータ角速度演算部
923 速度制御部
926,926a 出力制限部
927 減算部
930 電流制御部
931 制限部
933 補正部
932 レート制限部
940 モータ電流検出器
1001 CPU
1005 インターフェース
1006 A/D変換器
1007 PWMコントローラ
1100 制御用コンピュータ(MCU)