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特許7444178二軸配向ポリエステルフィルム及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240228BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20240228BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B15/09
B65D65/40 D
C08L67/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021576005
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036623
(87)【国際公開番号】W WO2022075260
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020169653
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】玉利 昇
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/150997(WO,A1)
【文献】特開平3-176146(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021211(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159582(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175313(WO,A1)
【文献】特開平3-169549(JP,A)
【文献】特開2016-159428(JP,A)
【文献】特開平6-278246(JP,A)
【文献】特開2017-7726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
B32B 15/09
B65D 65/40
C08L 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエステルを主成分とする基材層と接着層を含む二軸配向ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)から(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)接着層と基材層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差が0.10以上0.45以下である
(2)分子配向計を用いて測定した分子配向比が1.2より大きい
(3)長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)が90MPa以上160MPa以下である
【請求項2】
基材層が、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、ポリエチレンテレフタレートを60質量%以上含む、請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
基材層が、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、ポリエチレンテレフタレートを60質量%以上90質量%以下含む、ポリブチレンテレフタレートを10質量%以上40質量%以下含む、請求項2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
接着層が共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、接着層に含まれるポリエステルに対して、エチレンテレフタレート単位の含有量が75モル%以上95モル%以下であり、共重合成分の含有量が5モル%以上25モル%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側に、金属層が積層された積層体。
【請求項6】
金属層が厚み15μm以上80μm以下のアルミニウム層である、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を用いた包装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品、工業製品等の包装分野に用いられる成形用ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、金属層とラミネートした際に、その積層体が成形性に優れることを特徴とする積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す場合がある)は、その優れた透明性、寸法安定性、機械的性質、電気的性質、耐薬品性等から食品包装や工業製品などの幅広い分野に利用されている。
しかしながら、例えばナイロンフィルムと比較して硬くて脆いため、絞りの深い成形用途では成形が困難な場合があった。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略す場合がある)は、力学特性、耐衝撃性はもとよりガスバリア性、耐薬品性に優れることから、従来よりエンジニアリングプラスチックとして用いられてきた。PBTは結晶化速度が速いことによる生産性の良さからエンジニアリングプラスチックとしては有用な材料として用いられてきたが、例えば延伸フィルムとして用いる場合、結晶化による延伸性悪化や透明性の悪化などが生じていた。
【0004】
ナイロンフィルムはその優れた力学強度や柔軟性を利用して、従来成形用途に用いられている。
しかしながら、ナイロンフィルムは例えばPETフィルムと比較して耐熱性に劣るため、高温高湿度下では熱劣化により物性が低下するだけでなく、吸湿による寸法変化の問題があった。そのため、一般的には例えばPETフィルムと積層して用いられることがある。
【0005】
特許文献1では、フィルム4方向の5%伸長時応力および15%伸長時応力差がそれぞれ、50MPa以下および70MPaであり、弾性率が2.0GPa以上3.5GPa以下の範囲であることで、冷間成形に好適に用いることができるポリエステルフィルムが開示されている。
【0006】
結晶性ポリエステルフィルムはその結晶性の高さに由来して、成形性が低い傾向やラミネート強度が高くなりにくい傾向がある。そのため、例えば金属層とラミネートした場合、密着性が不十分であることが予想される。金属層との密着性が低いと、成形中絞りによる生じる応力が分散されず、深絞りができないため、深絞り成形用途においては不適な可能性が高い。また、4方向の伸度が近しいため、配向は比較的等方であると推測される。配向が等方であると本発明で良好に用いることができる例えば長方形のような異方形状に対しての深絞り性が不適な可能性が高い。
【0007】
特許文献2では、フィルムの長手方向machine directionおよび幅方向transverse directionにおける5%伸長時応力(F5)と10%伸長時応力(F10)が1.5≧F10/F5≧1.0でありF10≧120MPaであることを特徴とするポリエステルフィルムが成形用途に好適に用いることができると開示されている。
【0008】
結晶性ポリエステルのラミネート強度の低さを解決するために、ポリエステルフィルム上に易接着コートを施して、金属層との密着性を高めて成形性が良好となるようにしている。しかしながら、フィルムロールとした場合、易接着コートによるブロッキングや、滑り性を付与するために易接着コートに添加している滑剤起因の透明性の悪化が懸念される。また、長手方向および幅方向の伸度が近しいため、配向は比較的等方であると推測される。配向が等方であると本発明で良好に用いることができる例えば長方形のような異方形状に対しての深絞り性が不適な可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6177475号公報
【文献】特許第5891792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち本発明の目的は、金属層に積層されて後、深絞り成形される用途に好適に用いることができる二軸配向ポリエステルフィルムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、基材フィルムに接着層および基材層を設けて、接着層と基材層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)、および分子配向比を所定の範囲にすることで、長方形形状のような異方形状に対して優れた深絞り性を有する二軸配向ポリエステルフィルムが得られることを見出した。
【0012】
本発明は、以下の構成からなる。
〔1〕 少なくともポリエステルを主成分とする基材層と接着層を含む二軸配向ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)から(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)接着層と基材層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差が0.10以上0.45である
(2)分子配向計を用いて測定した分子配向比が1.2より大きい。
(3)長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)が90MPa以上160MPa以下である
〔2〕 基材層が、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、ポリエチレンテレフタレートを60質量%以上含む、〔1〕に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
〔3〕 基材層が、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、ポリエチレンテレフタレートを60質量%以上90質量%以下含む、ポリブチレンテレフタレートを10質量%以上40質量%以下含む、〔2〕に記載の二軸配向ポリエステルフィルム
〔4〕 接着層が共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、接着層に含まれるポリエステルに対して、エチレンテレフタレート単位の含有量が75モル%以上95モル%以下であり、共重合成分の含有量が5モル%以上25モル%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側に金属層が積層された積層体。
〔6〕 金属層が厚み15μm以上80μm以下のアルミニウム層である、〔5〕に記載の積層体。
〔7〕 〔6〕に記載の積層体を用いた包装材。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、金属層を含む積層体の層間密着性に優れ、長方形のような異方形状に対して深絞り成形性に優れる二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】可逆熱容量差(ΔCp)測定の概略図
図2】指数形の幅方向の延伸パターンの概略図
図3】クリップをMD方向に縮ませてMD方向のリラックス処理を施す方法の概略図
図4】ロール速度差でMD方向のリラックス処理を施す方法の概略図
図5】積層体の深絞り成形性の評価に用いた金型の平面図
図6】積層体の深絞り成形性の評価に用いた金型のA-A‘断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも基材層と接着層を含むフィルムである。
以下、本発明について詳細に説明する。
[基材層]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層はPET樹脂を主成分とするものであり、PET樹脂の含有率は、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、60質量%以上であり、好ましくは70質量%であり、より好ましくは80質量%である。PET樹脂の含有率を60質量%以上とすることで得られる二軸配向ポリエステルフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性の向上につながる。また、透明性が良好なものとなり、印刷した場合に印刷が鮮明で好適に用いることができる。また比較的安価なPET樹脂が主成分となるのでコストが安価となる。
【0016】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層には力学特性や延伸性を調整する目的でPET樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有させることができる。
PET樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)としては、PBT、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)などのポリエステル樹脂が挙げられる。加えて、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのジカルボン酸が共重合されたポリエステル樹脂、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートジオール等のジオール成分が共重合されたポリエステル樹脂が挙げられる。
なかでも、PBTは力学特性に優れ、少量添加することにより延伸性が良くなる。また、得られる二軸配向ポリエステルフィルムの応力‐ひずみ曲線における上降伏応力を低下させることができる。上降伏応力が低いほど絞り成形時の局所延伸を抑えることができ、結果的により深絞りが可能となる。また、PET樹脂との相溶性が良く透明性に優れるので好ましい。
【0017】
前記PET樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)は含有させなくてもよいが、10質量%以上含有させることで、フィルム製造時の延伸性が良くすることができる。またフィルムの成形性も良くすることができる。
前記PET樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)の含有量の上限は、基材層を形成する樹脂組成物を100質量%として、40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。40質量%以下とすることで得られる二軸配向ポリエステルフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性の向上につながる。
【0018】
前記PET樹脂(A)の固有粘度の下限は好ましくは0.45dl/gであり、より好ましくは0.50dl/gであり、最も好ましくは0.55dl/gである。0.45dl/g以上とすることで、得られる二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度も高く維持することができ、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を容易に高めることができる。
前記PET樹脂(A)の固有粘度の上限は好ましくは0.80dl/gであり、より好ましくは0.75dl/gであり、最も好ましくは0.70dl/gである。0.80dl/g以下とすることで、フィルム延伸時の応力が高くなりすぎることを抑制し、良好な製膜性を得ることができる。
前記PET樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)の固有粘度は、前記PET樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の押し出し機での溶融粘度が同程度である固有粘度が好ましい。
【0019】
[接着層]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層はPET樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成されるものである。PET樹脂を主成分とすることで基材層との密着性を高いものとし、接着層-基材層での層間剥離によるラミネート強度の低下を抑えることができる。
【0020】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層には金属層との密着性を高めることを目的として、共重合されたポリエスエル樹脂を含むことが好ましい。特に共重合されたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
共重合されたポリエステル樹脂としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのジカルボン酸が共重合されたポリエステル樹脂、及び/又はジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートジオール等のジオール成分が共重合されたポリエステル樹脂が挙げられる。
【0021】
接着層中の共重合されたポリエステル樹脂中の共重合成分の含有量の下限は、接着層に含まれるポリエステルのテレフタル酸単位あるいはエチレングリコール単位に対して、好ましくは5mol%であり、より好ましくは8mol%であり、最も好ましくは11mol%である。5mol%以上とすることで、接着層の可逆熱容量差(ΔCp)を大きくすることができ、得られる二軸配向ポリエステルフィルムのラミネート強度を高めることができ、金属層との密着性を十分なものとすることができる。
接着層中の共重合されたポリエステル樹脂中の共重合成分の含有量の上限は接着層に含まれるポリエステルのテレフタル酸単位あるいはエチレングリコール単位に対して、好ましくは25mol%であり、より好ましくは22mol%であり、最も好ましくは19mol%である。25mol%以下とすることで、接着層の可逆熱容量差(ΔCp)が大きくなりすぎて、得られる二軸配向ポリエステルフィルムをロールとした場合にブロッキングが生じることを抑制することができる。また、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)が低下するのを抑制することができる。
【0022】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、前記ポリエステル樹脂組成物以外に、従来公知の添加剤、例えば滑剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、静電防止剤、紫外線吸収剤等を含有していても良い。
【0023】
滑剤は、フィルムの動摩擦係数を調整するために含有させることができる。滑剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナなどの無機微粒子系滑剤のほか、有機系滑剤が挙げられる。シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、透明性と滑り性を両立する観点から、中でも多孔質シリカが最も好ましい。
【0024】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける滑剤含有量の下限は、好ましくは100質量ppmであり、より好ましくは300質量ppmであり、最も好ましくは500質量ppmである。100質量ppm以上とすることで、フィルムの滑り性を良好なものとすることができる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける滑剤含有量の上限は、好ましくは10000質量ppmであり、より好ましくは6000質量ppmであり、最も好ましくは2000質量ppmである。10000質量ppm以下とすることで、フィルムの透明性を良好なものとすることができる。
【0025】
[二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを得るための方法として、特に限定はないが十分な長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を得る観点からTダイ方式が好ましい。インフレーション方式ではその製造方法に起因して延伸倍率が上がりにくく、F10を高めにくいことがある。また、長手方向と幅方向の配向差をつけにくい。
【0026】
まず、押出機を用いて原料樹脂を溶融押出しし、Tダイからフィルム状に押出し、冷却ロール上にキャストして冷却し、未延伸シートを得る。少なくとも基材層と接着層を形成する樹脂組成物を含む未延伸シートを得るため、フィードブロックやマルチマニホールドなどを使用した共押出法が好ましい。共押出法以外に、ドライラミネート法、押出ラミネート法等を選ぶこともできる。共押出法で積層する場合、それぞれの層に使用する樹脂組成物は、溶融粘度の差が少なくなるようにすることが望ましい。
【0027】
冷却ロール温度の上限は好ましくは40℃であり、より好ましくは20℃以下である。40℃以下であると、溶融したポリエステル樹脂組成物が冷却固化する際の結晶化度が高くなりすぎず、延伸がより容易となるほか、結晶化による透明性の低下も抑制することができる。
冷却ロール温度の下限は好ましくは0℃である。0℃以上であると、溶融したポリエステル樹脂組成物が冷却固化する際の結晶化抑制効果を十分に発揮できる。また、冷却ロールの温度を上記の範囲とする場合、結露防止のため冷却ロール付近の環境の湿度を下げておくことが好ましい。
【0028】
未延伸シートの厚みは15μm以上2500μm以下の範囲が好適である。より好ましくは600μm以下であり、最も好ましくは400μm以下である。
【0029】
次に延伸方法について説明する。延伸方法は、同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でも可能であるが、長手方向と幅方向の配向差をつけやすい観点から、逐次二軸延伸が好ましい。
【0030】
長手方向machine direction(以下、MD方向ともいう)の延伸温度の下限は好ましくは90℃であり、より好ましくは95℃であり、特に好ましくは100℃である。90℃以上であると、破断をより抑制することができる。
MD方向の延伸温度の上限は好ましくは140℃であり、より好ましくは135℃であり、特に好ましくは130℃である。140℃以下であると、MD方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
【0031】
MD方向の延伸倍率の下限は好ましくは3.5倍であり、より好ましくは3.6倍であり、特に好ましくは3.7倍である。3.5倍以上であると、MD方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
MD方向の延伸倍率の上限は好ましくは4.5倍であり、より好ましくは4.4倍であり、特に好ましくは4.3倍である。4.5倍以下であると、MD方向の10%伸長時応力(F10)向上の効果が十分に得られる。
【0032】
幅方向transverse direction(以下、TD方向ともいう)の延伸温度の下限は好ましくは100℃であり、より好ましくは105℃であり、特に好ましくは110℃である。100℃以上であると、破断を起こりにくくすることができる。
TD方向の延伸温度の上限は好ましくは140℃であり、より好ましくは135℃であり、特に好ましくは130℃である。140℃以下であると、TD方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
【0033】
TD方向の延伸倍率の下限は好ましくは3.5倍であり、より好ましくは3.6倍であり、特に好ましくは3.7倍である。3.5倍以上であると、TD方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
TD方向の延伸倍率の上限は好ましくは4.5倍であり、より好ましくは4.4倍であり、特に好ましくは4.3倍である。4.5倍以下であると、TD方向の10%伸長時応力(F10)向上の効果が十分に得られる。
【0034】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムでは、MD方向の配向とTD方向の配向に差があることが好ましい。MD方向とTD方向の配向に差があることにより、絞り成形の形状が例えば長方形のような異方形状の場合、良好な深絞り成形性を得られる。
具体的には、MD方向の延伸倍率(MD倍率)およびTD方向の延伸倍率(TD×倍率)が下記を満たすことが好ましい。
TD倍率/MD倍率>1.1
【0035】
別の方法として、TD方向の延伸パターンを指数形にする方法も好ましい。具体的には図2に記載の通りであり、通常のTD方向の延伸パターンは直線形であるのに対して、指数形は延伸前半にゆるやかに延伸し、延伸後半に大きく延伸する延伸パターンになっている。このような延伸パターンを用いることで、フィルムの延伸応力が高い後半で延伸の大部分を完了することができ、TD方向の配向を強めることが可能となる。その結果、MD方向の配向とTD方向の配向に差が生じ、例えば長方形状への深絞り性が良好なものとなる。
【0036】
更に別の方法として、TD熱固定ゾーンの後半でMD方向にリラックス処理を施す方法も好ましい。MD方向にリラックス処理を施すことで、MD方向の配向が緩和される。その結果、MD方向の配向とTD方向の配向に差が生じ、例えば長方形状への深絞り性が良好なものとなる。MD方向のリラックス処理の方法は特に限定されないが、例えば、図3に示すように、フィルムを把持するクリップの間隔をMD方向に短くすることによりリラックス処理を施す方法がある。別の例として、図4に示すように、クリップに把持されたフィルムをクリップから外したのち、MD方向のロール速度差を調整することによりMD方向のリラックス処理を施す方法、またはクリップに把持されたフィルムをクリップの手前でMD方向にカットしたのち、MD方向のロール速度差を調整することによりMD方向のリラックス処理を施す方法がある。
【0037】
熱固定温度の下限は好ましくは170℃であり、より好ましくは175℃であり、特に好ましくは180℃である。170℃以上であると熱収縮率をより小さくすることができる。
熱固定温度の上限は好ましくは210℃であり、より好ましくは205℃であり、特に好ましくは200℃である。210℃以下であると、分子配向の緩和による長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)の低下を抑制することができ、深絞り成形性が良好なものとなる。また、高温での熱処理によって接着層が脆くなり、結果的に金属層との密着性が低下することを抑制することができる。
【0038】
MD方向のリラックス率の下限は好ましくは0.2%であり、より好ましくは0.4%であり、特に好ましくは0.6%である。0.2%以上であるとMD方向の配向を緩和することができ、MD方向の配向とTD方向の配向に差をつけることができる。
MD方向のリラックス率の上限は好ましくは3.0%であり、より好ましくは2.8%であり、特に好ましくは2.6%である。3.0%以下であると収縮シワを防止でき、平面性を向上させることができる。
【0039】
TD方向のリラックス率の下限は好ましくは0.5%であり、より好ましくは1.0%であり、特に好ましくは2.0%である。0.5%以上であるとTD方向の熱収縮率を低く保つことができる。
TD方向のリラックス率の上限は好ましくは10%であり、より好ましくは8%であり、特に好ましくは6%である。10%以下であると弛みなどが生じることを防止でき、平面性を向上させることができる。
【0040】
[二軸配向ポリエステルフィルムの構成及び特性]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みの下限は好ましくは5μmであり、より好ましくは10μmであり、特に好ましくは15μmである。5μm以上とすることでフィルムの強度を維持することができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みの上限は好ましくは50μmであり、より好ましくは40μmであり、特に好ましくは30μmである。50μm以下とすることで、冷間成形が可能となる。
【0041】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける基材層の厚みの下限は好ましくは、二軸配向ポリエステルフィルム全体の厚みに対して60%であり、より好ましくは70%であり、特に好ましくは80%である。60%以上とすることで、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り性が良好となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける基材層の厚みの上限は好ましくは、二軸配向ポリエステルフィルム全体の厚みに対して96%であり、より好ましくは90%であり、特に好ましくは86%である。96%以下とすることで、接着層による金属層への密着性向上効果を得られることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
【0042】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける接着層の厚みの下限は好ましくは、二軸配向ポリエステルフィルム全体の厚みに対して4%であり、より好ましくは8%であり、特に好ましくは12%である。4%以上とすることで、金属層への密着性向上効果を得られることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける接着層の厚みの上限は好ましくは、二軸配向ポリエステルフィルム全体の厚みに対して40%であり、より好ましくは30%であり、特に好ましくは20%である。40%以下とすることで、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り性が良好なものとなる。
【0043】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層におけるガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の上限は好ましくは0.05であり、より好ましくは0.03であり、特に好ましくは0.01である。0.05以下とすることで、基材層が十分に剛直となり、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができる。
【0044】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の下限は好ましくは0.10であり、より好ましくは0.15であり、特に好ましくは0.20である。0.10以上とすることで、金属層への密着性向上効果を得られることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の上限は好ましくは0.45であり、より好ましくは0.40であり、特に好ましくは0.35である。0.45以下とすることで、フィルムロールとしたときのブロッキングを抑制することができる。
【0045】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層と接着層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差の下限は好ましくは0.10であり、より好ましくは0.15であり、特に好ましくは0.20である。0.10以上とすることで、金属層への密着性向上効果を得られることができ、深絞り成形性が良好なものとなるばかりか、基材層が十分に剛直となり、長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層と接着層のガラス温度転移近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差の上限は好ましくは0.45であり、より好ましくは0.40であり、特に好ましくは0.35である。0.35以下とすることで、フィルムロールとしたときのブロッキングを抑制することができる。
【0046】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムの各層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)とは、温度変調示差走査熱量計で可逆熱容量曲線を測定したときの可動非晶量に相当する。フィルムサンプルについて、温度変調示差走査熱量計で可逆熱容量曲線を測定すると、図1に示した測定例のように、ガラス転移温度に相当する温度でベースラインがシフトする。シフト前後の値の差を可逆熱容量差(ΔCp)といい、これが二軸配向ポリエステルフィルムの非晶領域におけるガラス転移温度近傍において分子鎖が動ける可動非晶量に相当する。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの基材層と接着層のガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)の差は、基材層と接着層の可動非晶量の差を示す。
【0047】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの分子配向比の下限は好ましくは1.20より大きく、より好ましくは1.23であり、特に好ましくは1.26である。1.20より大きくすることで、例えば長方形状への深絞り成形性が良好なものとなる。
【0048】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向における10%伸長時応力(F10)の下限は好ましくは90MPaであり、より好ましくは95MPaであり、特に好ましくは100MPaである。90MPa以上とすることで、絞り成形時の応力分散が可能となり、深絞り成形性が良好となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向における10%伸長時応力(F10)の上限は好ましくは160MPaであり、より好ましくは155MPaであり、特に好ましくは150MPaである。160MPa以下とすることで、製膜における破断等のトラブルを抑制することができる。
【0049】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向における10%伸長時応力(F10)の下限は好ましくは90MPaであり、より好ましくは95MPaであり、特に好ましくは100MPaである。90MPa以上とすることで、絞り成形時の応力分散が可能となり、深絞り成形性が良好となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向における10%伸長時応力(F10)の上限は好ましくは160MPaであり、より好ましくは155MPaであり、特に好ましくは150MPaである。160MPa以下とすることで、製膜における破断等のトラブルを抑制することができる。
【0050】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのヘイズの上限は好ましくは5.0%であり、より好ましくは4.5%であり、特に好ましくは4.0%である。5.0%以下とすることで、印刷が綺麗に見えるので好ましい。
【0051】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの動摩擦係数の下限は好ましくは0.2であり、より好ましくは0.25であり、特に好ましくは0.30である。0.20以上にすることで、結果的に透明性を高くすることができ、外観が良好となる。
本発明の用二軸配向ポリエステルフィルムの動摩擦係数の上限は好ましくは0.55であり、より好ましくは0.50であり、特に好ましくは0.45である。0.55以下とすることで、フィルムの滑りが良好でブロッキングを抑制することができる。
【0052】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向の熱収縮率の下限は好ましくは1.0%であり、より好ましくは1.5%であり、特に好ましくは2.0%である。1.0%以上とすることで結果的に長手方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り性が良好となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向の熱収縮率の上限は好ましくは6.0%であり、より好ましくは5.5%であり、特に好ましくは5.0%である。6.0%以下とすることで、印刷等の工程におけるフィルムの収縮による加工トラブルを低減することができる。
【0053】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向の熱収縮率の下限は好ましくは-1.0%であり、より好ましくは-0.5%であり、特に好ましくは0%である。-1.0%以上とすることで結果的に幅方向の10%伸長時応力(F10)を高めることができ、深絞り性が良好となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向の熱収縮率の上限は好ましくは5.0%であり、より好ましくは4.5%であり、特に好ましくは4.0%である。5.0%以下とすることで、印刷等の工程におけるフィルムの収縮による加工トラブルを低減することができる。
【0054】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムには、本発明の目的を損なわない限りにおいてコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、表面粗面化処理が施されていてもよく、また公知のアンカーコート処理、印刷、装飾などが施されていてもよい。
【0055】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムには、印刷層を積層しても良い。印刷層を形成する印刷インクとしては、水性および溶媒系の樹脂含有印刷インクが好ましく使用できる。ここで印刷インクに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂およびこれらの混合物が挙げられる。印刷インクには帯電防止剤、光遮断剤、紫外線吸収、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸化防止剤等の公知の添加剤を含有させてもよい。
【0056】
印刷層を設けるための印刷方法としては、特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥等の公知の乾燥方法が使用できる。
【0057】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムには、本発明の目的を損なわない限りにおいて、無機薄膜層や金属箔などのガスバリア層を設けることができる。
【0058】
ガスバリア層として無機薄膜層を用いる場合の無機薄膜層としては、金属または無機酸化物からなる薄膜である。無機薄膜層を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、ガスバリア性の観点からアルミニウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合物等の無機酸化物が好ましく挙げられる。特に、薄膜層の柔軟性と緻密性を両立できる点からは、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物が好ましい。
【0059】
この複合酸化物において、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合比は金属分の質量比でAlが20%以上70%以下の範囲であることが好ましい。70%以下であると無機薄膜層を柔らかくすることができ、印刷やラミネートといった二次加工の際に薄膜が破壊されてガスバリア性が低下することを抑制することができる。なお、ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO等の各種ケイ素酸化物またはそれらの混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやAL等の各種アルミニウム酸化物またはそれらの混合物である。
【0060】
無機薄膜層の膜厚は、通常1nm以上100nm以下であり、好ましくは5nm以上50nm以下である。無機薄膜層の膜厚が1nm以上であると、より満足のいくガスバリア性が得られやすくなる。一方、100nm以下であると耐屈曲性や製造コストの点で有利となる。
【0061】
無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)等、公知の蒸着法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する典型的な方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜を例に説明する。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiOとAlの混合物、あるいはSiOとAlの混合物等が好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm以上5mm以下である。加熱には抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、被蒸着体(蒸着に供する積層フィルム)にバイアスを印加したり、被蒸着体を加熱もしくは冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、被蒸着体のバイアス、加熱・冷却等は、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。さらに、上記無機薄膜層上に印刷層を積層してもよい。
【0062】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに無機薄膜層をもうける場合、無機薄膜層の上に保護層を設けることが好ましい。金属酸化物からなるガスバリア層は完全に密な膜ではなく、微小な欠損部分が点在している。金属酸化物層上に後述する特定の保護層用樹脂組成物を塗工して保護層を形成することにより、金属酸化物層の欠損部分に保護相溶樹脂組成物中の樹脂が浸透し、結果としてガスバリア性が安定するという効果が得られる。加えて、保護層そのものにもガスバリア性を持つ材料を使用することで、積層フィルムのガスバリア性能も大きく向上することになる。
【0063】
前記保護層としては、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、チタン系、イソシアネート系、イミン系、ポリブタジエン系等の樹脂に、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系等の硬化剤を添加したものが挙げられる。保護層を形成させる際に使用する溶媒(溶剤)としては、例えばベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0064】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムには他素材の層を積層してもよい。積層方法として、二軸配向ポリエステルフィルムを製作後に貼り合わせる方法、製膜中に貼り合わせる方法を採用することができる。
【0065】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、例えば二軸配向ポリエステルフィルムにシーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層(シーラント層ともいう)を形成し、包装材料として使用することができる。シーラント層の形成は、通常、押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性共重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE.LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、ポリプロピレン樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合体、エチレンーαーオレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂等を使用できる。
【0066】
シーラント層は、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよく、必要とされる機能に応じて選択すればよい。例えば、防湿性を付与する点では、エチレンー環状オレフィン共重合体やポリメチルペンテン等の樹脂を介在させた多層フィルムが使用できる。また、シーラント層は難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加剤が配合されてもよい。
シーラント層の厚さは、10μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上60μm以下がより好ましい。
【0067】
本発明の積層体は、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側に金属層が積層されたものである。金属層は本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに直接に接するように積層されてもよいし、接着剤層などの他の層を介して積層されてもよい。
【0068】
金属層の金属としては、各種の金属元素(アルミニウム、鉄、銅、ニッケル等)が挙げられるが、特にアルミニウム層が好ましい。金属層の厚みは特に限定されないが、深絞り成形性の観点から、好ましくは15μm以上~80μm以下であり、特に好ましくは20μm以上60μm以下である。
【0069】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側に金属層を積層した本発明の積層体の引張破断伸度は大きい方が深絞り成形性が良好となるので好ましい。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側に金属層を積層した本発明の積層体に、更に金属層側にシーラント層を積層した積層体の引張破断伸度の下限は、好ましくは30%であり、より好ましくは32%であり、特に好ましくは34%である。30%以上とすることで、積層体が十分に伸びることができ、深絞り成形性が良好なものとなる。
上記積層体の引張破断伸度の上限は、好ましくは50%であり、より好ましくは48%であり、特に好ましくは46%である。50%以下とすることで、積層体の力学強度を高いものとすることができ、深絞り成形時のピンホール等のトラブルを防ぐことができる。
【実施例
【0070】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
[フィルムの厚み]
JIS K7130-1999 A法に準拠し、ダイアルゲージを用いて測定した。
【0071】
[ガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)]
二軸配向ポリエステルフィルムの基材層及び接着層の表面を刃の剃刀替刃を用いて表面を削って、それぞれ測定用サンプルとした。
温度変調示差走査熱量計(DSC)「DSC250」(TA Instruments 社製)を用いて、サンプルをハーメチックアルミニウムパン内に5.0±0.2mgで秤量し、MDSC(登録商標)ヒートオンリーモードで、平均昇温速度2.0℃/min、変調周期40秒で測定し、可逆熱容量曲線を得た。得られた熱容量曲線において、付属の解析ソフト(TA Instruments社製 TA Analysis)を用いて変曲点を求め、変曲点(ガラス転移温度:Tgと略記する)前後の熱容量差を下記式にしたがって可逆熱容量差を求めた。ここで、上記の変曲点とは可逆熱容量曲線が凹凸の無い理想的な曲線である場合に、可逆熱容量曲線を二回微分した時の値が0である点をいう。
可逆熱容量差(ΔCp)=(高温側の熱容量)―(低温側の熱容量)
可逆熱容量差の測定例を図1に示した。ここで、熱容量曲線においてTgより高温側での熱容量曲線のベースラインの延長線を引く。Tg+5℃からTg+15℃の範囲の熱容量曲線のベースラインを、最小二乗法により直線フィッティングしたものを前記Tgより高温側での熱容量曲線のベースラインの延長線3とする。そして、変曲点(Tg)における接線2との交点を求め、この交点におけるY軸(可逆熱容量)の値を読み取り、高温側の熱容量とする。次に、Tgより低温側での熱容量曲線のベースラインの延長線を引く。ここで、Tg-15℃からTg-5℃の範囲の熱容量曲線のベースラインを、最小二乗法により直線フィッティングしたものを前記Tgより低温側での熱容量曲線のベースラインの延長線4とする。そして、変曲点1(Tg)における接線2との交点を求め、この交点におけるY軸(可逆熱容量)の値を読み取り、低温側の熱容量とし、高温側の熱容量と低温側の熱容量の値の差を熱容量差ΔCpとした。
なお、上記の可逆熱容量測定のベースラインシフトが乱れなく、測定が正常に行えたことを確認した。
【0072】
[フィルムの分子配向比]
王子計測株式会社製のMOA-6004型分子配向計を用いて、二軸配向ポリエステルフィルムの中央部から切り出した試料の分子配向比(分子配向計で測定された透過マイクロ波強度の最大値と最小値の比)(最大値/最小値)を求めた。実施例及び比較例においては、分子配向比(最大値/最小値)は、分子配向比(TD方向の値/MD方向の値)であった。
【0073】
[フィルムの10%伸長時応力(F10)]
二軸配向ポリエステルフィルムから幅15mm、長さ180mmの試料を切り出した。切り出した試料を23℃、65%R.H.の雰囲気下で12時間エージングしたあと、23℃、65%R.H.の雰囲気下、チャック間100mm、引張速度360mm/分の条件で測定を行った。5回測定を繰り返し、フィルムが10%伸びた際の応力(10%伸長時応力)の平均値を用いた。測定装置としては島津製作所社製オートグラフAG-1を用いた。
【0074】
[フィルムのヘイズ]
JIS K7361-1に準拠し、二軸配向ポリエステルフィルムを1辺10cmの正方形状に切り出し、日本電飾(株)製ヘイズメーターNDH2000を用い、ヘイズ測定を行った。3か所で実施し、その平均値をヘイズ実測値とした。
【0075】
[フィルムの動摩擦係数]
JIS K-7125に準拠し、引張試験機(A&D社製テンシロンRTG-1210)を用い、23℃・65%RH環境下で、二軸配向ポリエステルフィルム表面と裏面とを接合させた場合の動摩擦係数を求めた。なお、上側のフィルムを巻き付けたスレッド(錘)の重量は、1.5Kgであり、スレッドの底面積の大きさは、39.7mmであった。また、摩擦係数の測定の際の引張速度は、200mm/分であった。
【0076】
[二軸配向ポリエステルフィルムの熱収縮率]
熱収縮率は試験温度150℃、加熱時間を15分間とした以外は、JIS-C-2318に準拠した寸法変化試験法で実施した。
【0077】
[積層体の作製]
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの接着層側にウレタン系2液硬化型接着剤「タケラック(登録商標)A525S」と「タケネート(登録商標)A50」(いずれも三井化学社製)を13.5:1.0(質量比)の割合で配合し、ドライラミネート法により厚さ40μmのアルミニウム層(東洋アルミニウム社製「アルミハク CE 8079」)を貼り合わせた。続けて、上記積層体のアルミニウム層側に、同様にウレタン系2液硬化型接着剤を、ドライラミネート法により厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「P1147」)を貼り合わせた。この積層体を40℃で4日間エージングを施すことにより、積層体を得た。用いたフィルムおよびアルミニウム層の張り合わせ方向は全て長手方向と幅方向を揃えて実施した。なお、ウレタン系2液硬化型接着剤で形成される接着剤層の乾燥後の厚みはいずれも4μmであった。
【0078】
[積層体の引張破断伸度]
前述の積層体から幅15mm、長さ180mmの試料を切り出した。切り出した試料を23℃、65%R.H.の雰囲気下で12時間エージングしたあと、23℃、65%R.H.の雰囲気下、チャック間100mm、引張速度360mm/分の条件で測定を行った。5回測定を繰り返し、アルミニウム層が破断した際の伸度の平均値を積層体の引張破断伸度とした。測定装置としては島津製作所社製オートグラフAG-1を用いた。
【0079】
[積層体の深絞り成形性の評価]
前述の積層体から長手方向15cm×幅方向10cmの試料を切り出した。この試料を図5および図6に示す金型に長手方向と幅方向を揃えてセットし、上からプレスをして絞り成形を行った。具体的には、幅(W)54mm、奥行(D)54mm、高さ(H)12mm、四隅がR=3mmの凹形状の金型上に積層体を配置し、フィルム抑えで積層体を抑えた状態で、金型に対応する形状のパンチでプレスした。絞り速度は6mm/sとした。
各絞り深さに対してN=10で実施し、N=10でフィルムの裂けやピンホールが発生しなかった時の最大の絞り深さをその試料の深絞り成形値とした。
【0080】
[実施例1]
基材層A層/接着層B層の2層構成とし、基材層A層となる押出機1に、PET樹脂(テレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる固有粘度0.62dl/g、シリカ粒子配合)とPBT樹脂(テレフタル酸//ブタンジオール=100//100(モル%)となる固有粘度1.28dl/g)を投入した。次に基材層B層となる押出機2に、PET樹脂(テレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる固有粘度0.62dl/g、シリカ粒子配合)と共重合PET樹脂(テレフタル酸//エチレングリコール/ジエチレングリコール=100//60/40(モル%)となる固有粘度0.62dl/g)をB層中のジエチレングリコール成分が17モル%となるような比率で投入した。それぞれの押出機にて樹脂を280℃で融解させた後、合流装置でA層とB層を合流させ、280℃のT-ダイスからキャストし、10℃の冷却ロールに静電密着法により密着させて2層構成の未延伸シートを得た。なお、各層中のシリカ粒子の含有量は、各層中の樹脂組成物全体を100質量%としたときに、シリカ濃度として0.1質量%とした。
次いで、得られた未延伸シートを115℃の温度でMD方向に4.0倍で延伸し、次いで延伸パターンが直線形のテンターに通して110℃でTD方向に4.6倍延伸し、190℃で3秒間の熱固定処理と1秒間5%の緩和処理を実施して、厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。二軸配向ポリエステルフィルムの樹脂組成、および製膜条件を表1に示した。また、得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0081】
[実施例2]
テンター延伸パターンを指数形に変えた以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0082】
[実施例3]
テンターで熱固定処理を施した後に、TDクリップ間を縮めることによりMDリラックス処理を施した。なお、MD方向のリラックス率3%となるようにした。そのほかは実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0083】
[実施例4、5]
B層中のジエチレングリコール成分が表1に記載の通りなるよう、押出機2への投入原料重量比率を変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0084】
[実施例6]
A層とB層の厚みが表1に記載の通りなるように変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
[実施例7]
B層を構成する押出機2への投入に、PET樹脂(テレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる固有粘度0.62dl/g、シリカ粒子配合)と共重合PET樹脂(テレフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=100//60/40(モル%)となる固有粘度0.62dl/g)を用いた以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0087】
[実施例8、9]
表1に記載する製膜条件に変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0088】
[実施例10、11]
A層中の樹脂組成が表1に記載する比率になるよう変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。
【0089】
【表2】
【0090】
[比較例1]
B層中のジエチレングリコール成分が表1に記載の通りなるよう、押出機2への投入原料重量比率を変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはΔCp差が小さく、密着性が不足しているため積層体の引張破断伸度が低く、深絞り成形性が不足していた。
【0091】
[比較例2]
B層中のジエチレングリコール成分が表1に記載の通りなるよう、押出機2への投入原料重量比率を変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはF10が小さく、積層体の引張破断伸度が低いため、深絞り成形性が不足していた。
【0092】
[比較例3]
A層のみの単層構成にした以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはΔCp差がなく、密着性が不足しているため積層体の引張破断伸度が低く、深絞り成形性が不足していた。
【0093】
[比較例4]
A層とB層の厚みが表1に記載の通りなるように変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはF10が小さく、積層体の引張破断伸度が低いだけではなく、分子配向比も不良であったため、深絞り成形性が不足していた。
【0094】
[比較例5]
表1に記載する製膜条件に変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは分子配向比が不適切なため、積層体の深絞り成形性が不足していた。
【0095】
[比較例6]
表1に記載する製膜条件に変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはF10が小さく、積層体の引張破断伸度が低いため、深絞り成形性が不足していた。
【0096】
[比較例7]
A層中の樹脂組成が表1に記載する比率になるよう変更した以外は実施例1と同様に製膜して厚さ25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムはF10が小さく、積層体の引張破断伸度が低いだけではなく、分子配向比も不適切なため、積層体の深絞り成形性が不足していた。
【0097】
【表3】
【符号の説明】
【0098】
1 変曲点(Tg)
2 変曲点(Tg)における接線
3 高温側での熱容量曲線のベースラインの延長線
4 低温側での熱容量曲線のベースラインの延長線
5 ガラス転移温度近傍の可逆熱容量差(ΔCp)
6 パンチ
7 フィルム押さえ
8 フィルム積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6