(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】排気管の遮熱構造
(51)【国際特許分類】
F01N 13/14 20100101AFI20240228BHJP
【FI】
F01N13/14
(21)【出願番号】P 2022047130
(22)【出願日】2022-03-23
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】北見 晃一
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115602(JP,A)
【文献】特開2002-059510(JP,A)
【文献】特開2009-220313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管に固定されたブラケットと、
前記ブラケットに取り付けられ前記排気管から離間された遮熱板と、
前記遮熱板の外表面部に重ねて設けられた断熱材と、
を備え
、
前記ブラケットは、前記排気管の頂面部と側面部に設けられ、
前記側面部の前記ブラケットには側方に突出するボルトが固定され、前記遮熱板には前記ボルトと係合する下向きの取付板が設けられ、前記取付板には、下方が開放されて前記ボルトに上方から嵌合される切欠溝が形成される
ことを特徴とする排気管の遮熱構造。
【請求項2】
前記断熱材の外表面部に重ねて設けられた別の遮熱板をさらに備える
請求項1に記載の排気管の遮熱構造。
【請求項3】
前記遮熱板、前記断熱材および前記別の遮熱板が前記ブラケットに合わせ止めされる
請求項2に記載の排気管の遮熱構造。
【請求項4】
前記別の遮熱板は前記遮熱板より薄い
請求項2または3に記載の排気管の遮熱構造。
【請求項5】
前記断熱材は、シート状のグラスウールと、前記グラスウールの外表面部に接着されたアルミガラスクロスとを有する
請求項1~
4のいずれか一項に記載の排気管の遮熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は排気管の遮熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両に搭載された内燃機関では、排気管の近くにある周辺部品が排気管の熱で損傷しないよう、排気管の熱を遮断する遮熱板が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし近年、内燃機関の出力上昇に伴い排気温度が上昇し、排気管がより高温となる傾向にある。そのため従来の遮熱構造では遮熱性能が不足し、周辺部品の保護が不十分となる可能性がある。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、遮熱性能を向上した排気管の遮熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
排気管に固定されたブラケットと、
前記ブラケットに取り付けられ前記排気管から離間された遮熱板と、
前記遮熱板の外表面部に重ねて設けられた断熱材と、
を備えたことを特徴とする排気管の遮熱構造が提供される。
【0007】
好ましくは、前記遮熱構造は、前記断熱材の外表面部に重ねて設けられた別の遮熱板をさらに備える。
【0008】
好ましくは、前記遮熱板、前記断熱材および前記別の遮熱板が前記ブラケットに合わせ止めされる。
【0009】
好ましくは、前記別の遮熱板は前記遮熱板より薄い。
【0010】
好ましくは、前記ブラケットは、前記排気管の頂面部と側面部に設けられる。
【0011】
好ましくは、前記側面部の前記ブラケットには側方に突出するボルトが固定され、前記遮熱板には前記ボルトと係合する下向きの取付板が設けられ、前記取付板には、下方が開放されて前記ボルトに上方から嵌合される切欠溝が形成される。
【0012】
好ましくは、前記断熱材は、シート状のグラスウールと、前記グラスウールの外表面部に接着されたアルミガラスクロスとを有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、遮熱性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施形態に係る遮熱構造を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0016】
図1は、本開示の実施形態に係る遮熱構造の概略図である。本実施形態に係る遮熱構造は内燃機関(エンジン)の排気管に適用される。エンジンは車両に搭載されたディーゼルエンジンであり、車両はバスまたはトラックである。但し車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車であってもよいし、エンジンはガソリンエンジンであってもよい。
【0017】
便宜上、前後左右上下の各方向を図示する通り定義する。但しこれら各方向が説明の便宜上定められたものに過ぎない点に留意されたい。本実施形態の場合、各方向は車両の各方向と一致する。
【0018】
符号1は、エンジンの排気が流される排気管を示す。排気管1は概ね前後方向に延びる。この排気管1の付近には図示しない周辺部品が存在する。周辺部品の中には熱に弱いものも存在する。この周辺部品を排気管1の熱から保護するため、遮熱構造100が設けられている。
【0019】
なお、特に断らない限り、排気管1の軸方向、半径方向および周方向を単に軸方向、半径方向および周方向という。以下に述べる「外表面」とは、排気管1に向かう方向とは反対の方向に向く表面のことをいう。これに対し、排気管1に向かう方向に向く表面のことを「内表面」という。
【0020】
遮熱構造100は、排気管1に固定されたブラケット2と、ブラケット2に取り付けられ排気管1から離間された遮熱板すなわち第1遮熱板3と、第1遮熱板3の外表面部に重ねて設けられた断熱材4とを備える。また遮熱構造100は、断熱材4の外表面部に重ねて設けられた別の遮熱板すなわち第2遮熱板5をさらに備える。
【0021】
図2に詳しく示すように、ブラケット2は、金属板(例えば鋼板)を折り曲げて形成され、排気管1の外表面部1Aに溶接により固定されている。
図2に示すような前後方向後方から見たときの断面視において、排気管1の断面形状は円形であり、ブラケット2の断面形状は台形である。ブラケット2は、排気管1の外表面部1Aの頂面部における前後の2箇所と、側面部の1箇所との計3箇所に、計3つ設けられる。
図2はこれらのうち頂面部後方と側面部の2箇所のブラケット2を示す。
【0022】
頂面部のブラケットを符号2Aで表し、側面部のブラケットを符号2Bで表す。
図2に示される頂面部ブラケット2Aの前方にもう一つの頂面部ブラケット2Aがある(
図1参照)。ブラケット2には、排気管1の半径方向外側に向かって突出するボルト6が予め溶接により固定されている。
図2から分かるように、側面部ブラケット2Bは頂面部ブラケット2Aに対し排気管1の軸回りの位相が90°異なる。
【0023】
第1遮熱板3は、排気管1の長手方向に沿って前後方向に延びる略長方形状に形成される。第1遮熱板3は、左右方向の中間部の折曲部3Dで折り曲げられる。折曲部3Dの左側には、頂面部ブラケット2Aに取り付けられると共に水平に配置される水平部3Aが形成され、折曲部3Dの右側には、折曲部3Dから右斜め下に向かって延びる傾斜部3Bが形成される。傾斜部3Bは水平部3Aに対し所定の傾斜角θだけ傾斜されている。本実施形態の傾斜角θは約45°であるが、これに限定されない。
図2に示すような前後方向後方から見たときの断面視において、第1遮熱板3の断面形状は広角の逆V字状である。第1遮熱板3は、排気管1を上方および右斜め上から覆う。
【0024】
断熱材4は、第1遮熱板3の外表面部3Cに重ねて配置される。断熱材4は、シート状である柔軟なグラスウール7と、グラスウール8の外表面部に接着された柔軟なアルミガラスクロス8とを有する二層構造とされる。断熱材4は、第1遮熱板3の熱が外部に放散するのを抑制するインシュレータとして機能する。断熱材4は、第1遮熱板3と同一形状とされ、第1遮熱板3の外表面部3Cの全体を覆う。断熱材4は、折曲部2Dの位置で第1遮熱板3と同様に折り曲げられる。なお、アルミガラスクロス8は、グラスウール7の飛散防止機能と遮熱機能を有するものであり、同様の機能を有する他の素材に置換されてもよい。
【0025】
第2遮熱板5は、断熱材4の外表面部4Aに重ねて配置される。第2遮熱板5も、第1遮熱板3と同一形状とされ、折曲部3Dに対応した位置で第1遮熱板3と同様に折り曲げられ、断熱材4の外表面部4Aの全体を覆う。第2遮熱板5は、左右方向の中間部の折曲部5Dで折り曲げられる。折曲部5Dの左側には、頂面部ブラケット2Aに取り付けられると共に水平に配置される水平部5Aが形成され、折曲部5Dの右側には、折曲部5Dから右斜め下に向かって延びる傾斜部5Bが形成される。傾斜部5Bは水平部5Aに対し等しい傾斜角θで傾斜される。
【0026】
第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5はブラケット2に合わせ止めされる。これにより断熱材4は、第1遮熱板3と第2遮熱板5との間に挟まれる。
【0027】
取付部の詳細を述べると、排気管1の頂面部においては、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5に、ボルト6が挿通される挿通穴9,10,11がそれぞれ設けられる。第1遮熱板3および第2遮熱板5の挿通穴9,11にはボルト6が直接挿通される。挿通穴9,11の内径はボルト6の外径よりも大きい。一方、第1遮熱板3の外表面部3Cには、挿通穴9と同一内径で断熱材4と同一厚さのリング状スペーサ12が、溶接にて固定され、挿通穴9と同軸に配置されている。断熱材4の挿通穴10にはスペーサ12が挿入される。挿通穴10の内径とスペーサ12の外径は等しい。スペーサ12は例えば鉄により形成される。
【0028】
ボルト6の先端部は、第2遮熱板5の挿通穴11から半径方向外側(上方)に突出される。この突出部分に半径方向外側(上方)からナット13が締め付けられ、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5がブラケット2に合わせ止めされる。このとき、スペーサ12がナット13の締め付けを規制するので、締め付けに伴う断熱材4の潰れや第2遮熱板5の凹みが防止される。
【0029】
排気管1の側面部においては、こうした合わせ止めは行われず、第1遮熱板3のみが側面部ブラケット2Bに取り付けられる。すなわち、第1遮熱板3の傾斜部3Bの内表面部にはボルト6と係合する取付板14が設けられ、取付板14には、ボルト6に上方から嵌合される切欠溝15が形成される(
図4参照)。
【0030】
取付板14は、傾斜部3Bの内表面部に重ね合わされ溶接にて固定される固定部14Aと、固定部14Aの下端で折れ曲がって下方に延びる下向きの取付部14Bとを一体的に有する。この取付部14Bに、下方が開放された逆U字状の切欠溝15が形成される。
【0031】
切欠溝15が、右側方に突出するボルト6の先端部に上方から嵌合された後、ボルト6の先端部にナット13が締め付けられる。これにより取付板14ひいては第1遮熱板3が側面部ブラケット2Bに固定される。
【0032】
一方、
図1,
図3および
図4に示すように、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5は、複数(本実施形態では7本)のリベット16により一体的に組み付けられる。前記取付部と同様、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5に、リベット16が挿通される挿通穴17,18,19がそれぞれ設けられる。第1遮熱板3および第2遮熱板5の挿通穴17,19にはリベット16が直接挿通される。挿通穴17,19の内径はリベット16の外径よりも大きい。一方、第1遮熱板3の外表面部3Cには、挿通穴17と同一内径で断熱材4と同一厚さのリング状スペーサ20が、溶接にて固定され、挿通穴17と同軸に配置されている。断熱材4の挿通穴18にスペーサ20が挿入され、スペーサ20にリベット16が挿通される。挿通穴18の内径はスペーサ20の外径と等しい。スペーサ20は例えば鉄により形成される。
【0033】
挿通穴17,19から突出されたリベット16の両端部が軸方向に圧縮され押し潰されることで、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5が互いに組み付けられる。本実施形態の場合、リベット16にはポップリベットが用いられる。
【0034】
図2に示すように、第2遮熱板5は第1遮熱板3より薄くされる。すなわち第2遮熱板5の厚さt5は第1遮熱板3の厚さt3より小さくされる。これにより軽量化を図ることができる。一方、断熱材4の厚さt4は第1遮熱板3の厚さt3より大きくされる。本実施形態の場合、t3=1.2mm、t5=0.8mm、t4=5mmとされるが、これに限定されない。
【0035】
図4には、一体化された第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5(遮熱板アセンブリ21という)と、第2遮熱板5の挿通穴11と、リベット16とが示される。第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5の外形は概ね同一である。遮熱板アセンブリ21も、前記水平部3A,5Aに対応した水平部21Aと、前記傾斜部3B,5Bに対応した傾斜部21Bとを有する。
【0036】
次に、遮熱構造100の組立方法を説明する。
【0037】
まず、遮熱板アセンブリ21が組み立てられる。このとき、取付板14とスペーサ12,20が溶接によって第1遮熱板3に固定され、次いで第1遮熱板3の外表面部3C上に断熱材4が重ねて配置される。断熱材4の挿通穴10,18をスペーサ12,20に嵌合することにより、断熱材4の位置決めを容易に行うことができる。次に、断熱材4の外表面部4A上に第2遮熱板5が重ねて配置される。第2遮熱板5をリベット16により第1遮熱板3および断熱材4に組み付けることで遮熱板アセンブリ21が完成する。
【0038】
このように、第1遮熱板3、断熱材4および第2遮熱板5を一体化して遮熱板アセンブリ21を形成したことにより、遮熱性もしくは断熱性の高い遮熱構造100を構築することができる。しかも三者ばらばらの場合に比べて、取り扱いは非常に容易であり、全体の剛性も高められる。第2遮熱板5を第1遮熱板3より薄くしたことにより、剛性を確保しつつ軽量化を達成できる。また第1遮熱板3と第2遮熱板5で断熱材4を挟んだことにより、断熱材4の飛散を抑制できる。
【0039】
次に、この遮熱板アセンブリ21を排気管1に取り付ける。このとき、水平部3A,5Aの挿通穴9,11とスペーサ12とを、頂面部ブラケット2Aのボルト6に上方から嵌合すると共に、切欠溝15を側面部ブラケット2Bのボルト6に上方から嵌合する。これにより、排気管1に対する遮熱板アセンブリ21の位置決めを容易に行うことができる。特に、頂面部における2本のボルト6への位置決めと、側面部における1本のボルト6への位置決めとを同時に行うことができるので、位置決めを容易かつ迅速に行うことができる。
【0040】
次に、3本のボルト6にナット13を締結する。これにより遮熱板アセンブリ21の組み付けが終了し、遮熱構造100の組み立てが終了する。
【0041】
本実施形態では、排気管1の頂面部と側面部に頂面部ブラケット2Aと側面部ブラケット2Bを設け、頂面部ブラケット2Aに載置する形で遮熱板アセンブリ21を支持すると共に、側面部ブラケット2Bにより遮熱板アセンブリ21を側方から支持する。これにより、遮熱板アセンブリ21の支持剛性を十分確保することが可能となり、エンジン等の振動より遮熱板アセンブリ21が脱落するのを確実に防止できる。
【0042】
以上述べたように、本実施形態によれば、遮熱構造100がブラケット2と第1遮熱板3と断熱材4を備えるので、単なる遮熱板しか備えない従来の遮熱構造に比べ、遮熱性能を大幅に向上することができる。
【0043】
また本実施形態によれば、遮熱構造100が第2遮熱板5を備えるので、遮熱性能をより向上し、剛性を向上し、断熱材4の飛散を確実に抑制することができる。
【0044】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は様々考えられる。
【0045】
(1)例えば、第2遮熱板5を省略した実施形態も可能である。但し上述の利点により、第2遮熱板5はあった方が有利である。第2遮熱板5を省略した場合、断熱材4は第1遮熱板3に接着等により取り付けることができる。
【0046】
(2)リベット16による固定箇所のスペーサ20は省略してもよい。
【0047】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 排気管
2 ブラケット
3 第1遮熱板
3C 外表面部
4 断熱材
4A 外表面部
5 第2遮熱板
6 ボルト
7 グラスウール
8 アルミガラスクロス
14 取付板
15 切欠溝
100 遮熱構造