(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】アンクル、ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20240228BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G04B15/14 A
G04B13/02 Z
(21)【出願番号】P 2022144619
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2018152705の分割
【原出願日】2018-08-14
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟川 剛夫
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 宗裕
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291781(JP,A)
【文献】特開2009-265097(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2372473(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸真と、前記軸真の軸方向と交差する方向に突出して形成されるフランジ部とを有する軸部材と、
第1面および前記第1面とは反対側に配置される第2面とを有し、前記軸真が挿通され、かつ、前記第1面と前記第2面とを貫通する挿通孔が設けられる本体部と、
前記本体部を挟んで前記フランジ部とは反対側で前記軸真に取り付けられる固定部材とを備え、
前記本体部は、前記第1面に開口する第1凹部と、前記第2面に開口する第2凹部とを有し、
前記第1凹部に前記フランジ部が収容され、
前記第2凹部
には
、前記軸真の軸方向と交差する方向に弾性変形する保持部
が形成され、
前記軸真は前記保持部に付勢されて保持される
ことを特徴とするアンクル。
【請求項2】
請求項1に記載のアンクルにおいて、
前記本体部はシリコン製である
ことを特徴とするアンクル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアンクルにおいて、
前記保持部はアーチ状に形成されている
ことを特徴とするアンクル。
【請求項4】
請求項1に記載のアンクルにおいて、
前記本体部は、前記第1面および前記第2面と交差する側面を有し、
前記第1凹部は、前記側面と連通する
ことを特徴とするアンクル。
【請求項5】
請求項1に記載のアンクルを備えることを特徴とするムーブメント。
【請求項6】
請求項5に記載のムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品、ムーブメントおよび時計に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計には、歯車等に代表される数多くの時計用部品が搭載されている。従来、時計用部品は金属材料を機械加工することにより形成されているが、近年では、時計用部品の材料としてシリコンを含む基材が用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、機械式時計の脱進機構に用いられるアンクルの本体部であるアンクル体が、半導体プロセス技術を用いて形成されている。これにより、アンクル体の形状を精密に加工することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のアンクルでは、アンクル体に設けられた穴にアンクル真を遊嵌させ、アンクル真の軸方向に対してアンクル体の位置を決定した後に、アンクル体とアンクル真とを接着剤により固定している。この場合、微小な部品であるアンクル体およびアンクル真に対して微量な接着剤を塗布する必要があるので、アンクルの組み立てが困難であるといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の時計用部品は、軸真と、前記軸真の軸方向と交差する方向に突出して形成されるフランジ部とを有する軸部材と、前記軸真が挿通される挿通孔が設けられるシリコン製の本体部と、前記本体部を挟んで前記フランジ部とは反対側で前記軸真に取り付けられる固定部材とを備え、前記本体部は、前記フランジ部が収容される収容凹部を有し、前記フランジ部と前記固定部材とで挟み込まれることで前記軸部材に固定されることを特徴とする。
【0007】
本発明の時計用部品は、軸真と、前記軸真の軸方向と交差する方向に突出して形成されるフランジ部とを有する軸部材と、前記軸真が挿通される挿通孔が設けられるシリコン製の本体部と、前記本体部を挟んで前記フランジ部とは反対側で前記軸真に取り付けられる固定部材とを備え、前記本体部は、前記固定部材が収容される収容凹部を有し、前記フランジ部と前記固定部材とで挟み込まれることで前記軸部材に固定されることを特徴とする。
【0008】
本発明の時計用部品において、前記本体部は、前記挿通孔内に突出し前記軸真の軸方向と交差する方向に弾性変形可能な保持部を有し、前記保持部と前記挿通孔の壁面とで前記軸真を挟持することにより、前記本体部と前記軸部材とが位置決めされることが好ましい。
【0009】
本発明の時計用部品において、前記軸部材は、アンクル真であり、前記本体部は、アンクル腕とアンクル竿とを有するアンクル本体であることが好ましい。
【0010】
本発明のムーブメントは、上記時計用部品を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の時計は、上記ムーブメントを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】第1実施形態のアンクルの概略を示す斜視図。
【
図4】第1実施形態のアンクルの概略を示す分解斜視図。
【
図5】第1実施形態のアンクルの概略を示す断面図。
【
図6】第1実施形態のアンクルの概略を示す断面図。
【
図7】第1実施形態のアンクル本体の概略を示す正面図。
【
図8】第1実施形態のアンクル本体の概略を示す背面図。
【
図10】第1実施形態のアンクル本体を製造するエッチング装置を示す概略図。
【
図11】第1実施形態のアンクル本体の製造途中を示す概略図。
【
図12】本発明の第2実施形態のアンクルの概略を示す斜視図。
【
図13】第2実施形態のアンクルの概略を示す分解斜視図。
【
図15】第2実施形態のアンクル本体の製造途中を示す概略図。
【
図16】第3実施形態のアンクルの概略を示す断面図。
【
図17】他の実施形態のアンクル本体の概略を示す背面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面に基づいて説明する。
【0014】
[ムーブメントおよび時計]
図1は、本実施形態の時計1を示す正面図であり、
図2は、ムーブメント100を裏蓋側から見た図である。
【0015】
時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、外装ケース2と、外装ケース2内に設けられた文字板3と、時針4Aと、分針4Bと、秒針4Cと、日車6と、外装ケース2の側面に設けられたりゅうず7とを備えている。
【0016】
時計1は、
図2に示すような外装ケース2内に収容されたムーブメント100を備えている。ムーブメント100は、地板110、一番受け140、テンプ受け130を備えている。地板110と一番受け140との間には、図示略のぜんまいが収納された香箱車81と、図示略の二番車と、三番車83、四番車84、ガンギ車85が配置されている。また、地板110とテンプ受け130との間には、アンクル10、テンプ87等が配置されている。ムーブメント100は、指針である時針4A、分針4B、秒針4Cを駆動する。
また、ムーブメント100には、ぜんまいを巻き上げる巻上げ機構90として、巻真91、つづみ車92、きち車93、丸穴車94、第1中間車95、第2中間車96が設けられている。これにより、りゅうず7の回転操作による回転を角穴車18に伝達し、図示略の香箱真を回転して、ぜんまいを巻き上げることができる。これらは一般的な機械式ムーブメントと同じであるため、説明を省略する。
【0017】
[アンクル]
次に、アンクル10の構成について、
図3から
図5を用いて説明する。
図3は、アンクル10の概略を示す斜視図であり、
図4は、アンクル10の概略を示す分解斜視図であり、
図5は、
図3のV-V線に沿った断面図であり、
図6は、
図5のVI-VIに沿った断面図である。
図3から
図6に示すように、アンクル10は、アンクル真11と、アンクル本体12と、固定部材13とを有する。なお、アンクル10は、本発明の時計用部品の一例である。
【0018】
[アンクル真]
アンクル真11は、金属製の軸部材であり、軸真111と、軸真111の軸方向と交差する方向、具体的には、軸方向と直交する方向に突出して形成されたフランジ部112とを有する。軸真111には両端部にほぞ部が形成されており、当該ほぞ部が、
図2に示す地板110および図示しないアンクル受けに回転可能に支持されている。
【0019】
[アンクル本体]
図7は、アンクル本体12の概略を示す正面図であり、
図8は、アンクル本体12の概略を示す背面図である。なお、アンクル本体12は、本発明の本体部の一例である。
図3から
図8に示すように、アンクル本体12は、単結晶のシリコン製の部品であり、第1面120と、第2面121と、第1面120および第2面121と交差する側面122とを有する。本実施形態では、アンクル本体12の厚さ寸法tは最大の箇所で約430μmとされている。
【0020】
アンクル本体12には、アンクル腕1231,1232、アンクル竿1233の3つのアンクルビーム123が形成される。
アンクル腕1231,1232の先端には、それぞれ爪石部124が一体に形成されている。また、アンクル竿1233の先端には剣先125が一体に形成されている。
【0021】
また、アンクル本体12には、第1面120に開口する第1凹部126と、第2面121に開口する第2凹部127とが形成されている。
第1凹部126は、平面視において、三角形の底面に半円が結合されたような形状となっており、3つのアンクルビーム123が交わる箇所に形成されている。
また、第2凹部127は、第1凹部126の底面部に形成されている。そのため、平面視において、第1凹部126と第2凹部127とが重なる位置には、アンクル本体12の第1面120側と第2面121側とを貫通する挿通孔128が形成されている。この挿通孔128は、第2凹部127を構成する壁面のうち、所定の角度で交差する2つの壁面1271,1272と、後述する2つの保持部129との内側に形成され、アンクル真11の軸真111が挿通可能な形状とされている。
【0022】
第2凹部127には、挿通孔128内に突出した2つの保持部129が形成されている。本実施形態では、2つの保持部129は、それぞれ、基端側が第2凹部127の2つの壁面1271,1272から延出され、先端側が折れ曲がって略L字状に形成されている。これらの2つの保持部129は、挿通孔128に挿通された軸真111に当接し、当該軸真111の軸方向と直交する方向に弾性変形可能に構成されている。これにより、軸真111は、弾性変形した保持部129に付勢され、保持部129および2つの壁面1271,1272によって挟持される。そのため、アンクル本体12が軸真111に対して位置決めされる。
【0023】
また、第1凹部126には、側面122に連通する連通溝1261が形成されている。連通溝1261は、後述するアンクル本体12の製造工程において、第1凹部126内の空気を排気する際の通路として利用される。そのため、連通溝1261は空気を排気するのに好適な寸法とされており、例えば、幅Wは約50μmとされている。ただし、連通溝1261の幅Wはこれに限られるものではなく、後述するアンクル本体12の製造工程において空気を短時間で排出可能な寸法であればよく、例えば、3μm以上とされていればよい。
【0024】
[固定部材]
固定部材13は、円環状に形成された金属製の部材である。固定部材13の内径は、アンクル真11の軸真111の外径よりもわずかに小さく構成される。そして、軸真111に対して、アンクル本体12を挟んでフランジ部112とは反対側に圧入されて取り付けられる。これにより、アンクル本体12は、フランジ部112と固定部材13とで挟み込まれるので、軸真111の軸方向に対して固定される。
さらに、アンクル本体12が、フランジ部112と固定部材13とで挟み込まれることにより、前述した保持部129の弾性変形が抑制される。これにより、アンクル本体12は、軸真111の軸方向と直交する方向に対しても固定される。
そして、アンクル本体12がアンクル真11に固定された状態において、フランジ部112は、アンクル本体12の第1凹部126に収容される。つまり、第1凹部126は、本発明の収容凹部の一例である。本実施形態では、第1凹部126の深さ寸法は、フランジ部112の厚さ寸法よりも大きく形成されている。これにより、フランジ部112は、軸真111の軸方向に対して、第1凹部126に完全に収容される。
【0025】
このように構成されたアンクル10は、アンクル真11を中心に回転した際に、2つの爪石部124のいずれかが、
図2に示すガンギ車85の歯部の先端に接触するようになっている。また、この際、アンクル竿1233が、地板110に設けられた図示略の2本のドテピンに接触し、これによってアンクル10は、同方向にそれ以上回転しないようになっている。その結果、ガンギ車85の回転も一時的に停止する。
【0026】
[アンクル本体の製造工程]
次に、本実施形態のアンクル本体の製造方法について、図面に基づいて説明する。
図9A~
図9Gは、アンクルの製造工程を示す断面図である。
本実施形態では、
図9Aに示すような厚さ寸法t1のシリコン基板20を母材とし、当該シリコン基板20の一方の面部21側と、一方の面部21とは反対側の面である他方の面部22側との両側をエッチングすることにより、アンクル10を製造する。本実施形態では、例えば、厚さ寸法t1が約430μmのシリコン基板20を母材としてアンクル10を製造する。なお、シリコン基板20の厚さ寸法t1はこれに限られるものではなく、製造する時計用部品の仕様によって適宜選択できる。
【0027】
具体的には、まず、
図9Aに示すシリコン基板20の一方の面部21に対して、例えばフォトリソグラフィー法を用いて、第1レジストパターンR1を形成する(第1レジストパターン形成工程)。
図9Bは、シリコン基板20の一方の面部21に第1レジストパターンR1が形成された状態を示す図である。第1レジストパターンR1は、開口部O1を有する。なお、後述する第1エッチング工程において、一方の面部21の開口部O1に対応する位置がエッチングされる。
【0028】
次に、
図9Cに示すように、第1レジストパターンR1をマスクとして、シリコン基板20にエッチングを施す。エッチングとしては、例えば、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)によるディープ・リアクティブ・イオンエッチング(Deep Reactive Ion Etching:DRIE)を用いることができる。
【0029】
図10は、エッチング装置200を示す概略図である。
図10に示すエッチング装置200は、真空チャンバー201と、ステージ202と、コイル203とを有する。
真空チャンバー201は、エッチングが行われる反応室であり、その内部にステージ202およびコイル203を収容している。
【0030】
上記のエッチング装置200のステージ202上に、
図9Bに示すシリコン基板20をセットする。この際、シリコン基板20の他方の面部22側がステージ202の上面に対向するようにセットする。そして、当該真空チャンバー201内の気圧を所定の真空圧、例えば1~30Pa程度にまで低下させる。
続いて、例えば、SF
6等のエッチングガスを真空チャンバー201内に導入し、コイル203に高周波数の大電流を流すことによって、エッチングガスによるプラズマを発生させる。そして、ステージ202にバイアスをかけることにより、エッチングガスによるプラズマの粒子が第1レジストパターンR1の開口部O1からシリコン基板20の一方の面部21に引き込まれる。これにより、シリコン基板20が一方の面部21側から第1レジストパターンR1に沿って厚さ方向に略垂直にエッチングされ、凹部が形成される。
次に、例えば、C
4F
8等のデポジションガスを真空チャンバー201内に導入し、コイル203に高周波数の大電流を流すことによって、デポジションガスによるプラズマを発生させる。そして、ステージ202にバイアスをかけることにより、デポジションガスによるプラズマの粒子が第1レジストパターンR1の開口部O1からシリコン基板20の一方の面部21に引き込まれる。これにより、上記エッチングにより形成された凹部の側壁に保護膜が形成される。つまり、凹部の側壁がデポジションされる。
そして、上記のようなエッチングとデポジションとを繰り返し実施する、いわゆるボッシュプロセスと呼ばれるサイクルエッチング処理を実施することにより、シリコン基板20の一方の面部21に深さt2の凹部を形成する(第1エッチング工程)。本実施形態では、深さt2として、例えば、約260μmの凹部が形成される。なお、第1エッチング工程で形成される凹部の深さはこれに限られるものではなく、製造する時計用部品の形状に応じて、適宜変更できる。
【0031】
また、この際、シリコン基板20の他方の面部22側、すなわちシリコン基板20のステージ202にセットされた面側は、ヘリウムガス等の冷却ガスにより冷却される。これにより、第1エッチング工程において、シリコン基板20は10℃程度の温度に維持される。そのため、シリコン基板20の温度上昇を抑制できるので、温度上昇によってエッチングガスによるプラズマとシリコン基板20とが過剰に反応してしまうことを抑制できる。したがって、エッチングの垂直性が損なわれることを防ぐことができ、一方の面部21側のエッチングの加工精度を高くすることができる。
【0032】
次に、シリコン基板20を真空チャンバー201内から取り出し、第1レジストパターンR1を除去して、
図9Dに示す状態にする。第1レジストパターンR1の除去は、発煙硝酸や有機溶剤等でのウェットエッチング、あるいは、酸素プラズマアッシング等により行うことができる。
図11は、
図9Dの状態のシリコン基板20の斜視図である。
図11に示すように、シリコン基板20は、この段階でアンクル本体12の第1面120側が形成された状態になっている。すなわち、シリコン基板20の一方の面部21は、アンクル本体12の第1面120を構成する。また、上記したように、アンクル本体12の第1面120側には、第1凹部126と、当該第1凹部126とアンクル本体12の側面122とを連通する連通溝1261とが形成されている。
さらに、アンクル本体12の側面122を切り出すための外周凹部23が形成されており、当該外周凹部23は、溝部24によりシリコン基板20の側面部25と連通している。
【0033】
次に、
図9Eに示すように、シリコン基板20の一方の面部21にドライフィルムFを貼付する(ドライフィルム貼付工程)。本実施形態では、ドライフィルムFとして、ポリエステルフィルム等の支持体にフォトレジストを均一に塗布したものを使用する。これにより、後述する第2エッチング工程において、プラズマ化したエッチングガスによりドライフィルムFが損傷することを防ぐことができる。
また、シリコン基板20を反転させ、シリコン基板20の他方の面部22に対して、例えばフォトリソグラフィー法を用いて、第2レジストパターンR2を形成する(第2レジストパターン形成工程)。第2レジストパターンR2は、開口部O2を有する。後述する第2エッチング工程において、他方の面部22の開口部O2に対応する位置がエッチングされる。
なお、
図9Eでは、シリコン基板20の上下を反転させ、他方の面部22側を上側にした状態を示している。
【0034】
次に、
図9Eの状態のシリコン基板20を、再び真空チャンバー201内のステージ202にセットする。この際、上記とは逆に、一方の面部21側がステージ202の上面に対向するようにセットする。そして、上記と同様に、真空チャンバー201内の気圧を所定の真空圧にまで低下させる。この際、第1凹部126内の空気は、
図11に示す連通溝1261、外周凹部23および溝部24を介してシリコン基板20の側面部25から排気される。
【0035】
続いて、
図9Eの状態のシリコン基板20にボッシュプロセスによるエッチングを施す(第2エッチング工程)。これにより、
図9Fに示すように、シリコン基板20が他方の面部22側から第2レジストパターンR2に沿って厚さ方向に略垂直にエッチングされ、深さt3の凹部が形成される。本実施形態では、深さt3として、例えば、約260μmの凹部が形成される。なお、第1エッチング工程と同様に、第2エッチング工程で形成される凹部の深さはこれに限られるものではなく、製造する時計用部品の形状に応じて、適宜変更できる。
また、一方の面部21側と他方の面部22側とでエッチングした箇所が重なる部分には、一方の面部21側から他方の面部22側までシリコン基板20を貫通する貫通孔が形成される。すなわち、
図7に示す挿通孔128が形成される。
この際、第1エッチング工程と同様に、一方の面部21側は冷却ガスにより冷却されているが、当該一方の面部21側にはドライフィルムFが貼付されているので、挿通孔128を介して冷却ガスが一方の面部21側から他方の面部22側に抜けてしまうことがない。そのため、第2エッチング工程においても、シリコン基板20を効率的に冷却することができるので、温度上昇によってエッチングガスによるプラズマとシリコン基板20とが過剰に反応することを抑制できる。したがって、エッチングの垂直性が損なわれることを防ぐことができ、他方の面部22側のエッチングの加工精度を高くすることができる。
【0036】
そして、シリコン基板20を真空チャンバー内から取り出し、第2レジストパターンR2およびドライフィルムFを除去して、
図9Gに示す状態にする。
最後に、シリコン基板20からアンクル本体12を構成する部分を取り外して、アンクル本体12を製造する。
【0037】
[第1実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、フランジ部112と固定部材13とで挟み込むことで、アンクル本体12をアンクル真11に固定できるので、アンクル10を容易に組み立てることができる。この際、フランジ部112は、アンクル本体12の第1凹部126に収容されるので、フランジ部112がアンクル本体12に対して、軸真111の軸方向に突出しない。すなわち、アンクル10を薄くすることができる。そのため、他の時計用部品との干渉を防ぐことができ、アンクル10の配置等において、設計の自由度を高くすることができる。
また、フランジ部112と固定部材13との軸真111の軸方向の距離を短くすることができる。これにより、軸真111に対するフランジ部112の位置を設計する際の自由度を高くすることができる。すなわち、フランジ部112を軸真111の一方の端部側に配置したり、あるいは、他方の端部側に配置したりすることができる。そのため、軸真111の軸方向に対して、アンクル本体12の位置を調整できる幅を広くすることができる。
さらに、フランジ部112と固定部材13とで挟み込んでアンクル本体12をアンクル真11に固定する。これにより、例えば、アンクル真11の軸真111をアンクル本体12に圧入することで、アンクル本体12をアンクル真11に固定する必要がない。そのため、アンクル本体12にアンクル真11が圧入されることによって、アンクル本体12が割れたり、欠けたりしてしまうことを防止できる。
【0038】
本実施形態では、アンクル本体12は、挿通孔128内に突出し、軸真111の軸方向と交差する方向に弾性変形可能な保持部129を2つ有する。そして、2つの保持部129と交差する2つの壁面1271,1272とで軸真111を挟持することにより、アンクル本体12とアンクル真11とが位置決めされる。これにより、軸真111を挿通孔128に挿通させるだけで、アンクル真11に対してアンクル本体12が位置決めされるので、アンクル10の組み立てを容易にすることができる。
【0039】
本実施形態では、第1凹部126と側面122とを連通する連通溝1261を設けることにより、冷却ガスにより冷却しながら、シリコン基板20の両側をエッチングすることを可能にしている。そのため、1枚のシリコン基板20の両側を高い加工精度でエッチングすることができる。
ここで、仮に、第1凹部126に連通溝1261が形成されない場合、一方の面部21にドライフィルムFを貼付すると第1凹部126は密閉空間となる。そのため、真空チャンバー201内の気圧を真空圧に低下させても、第1凹部126の内部は大気圧で維持されることになる。そうすると、第1凹部126の内外において気圧差が発生するため、ドライフィルムFが損傷してしまうおそれがある。
一方、本実施形態では、上記したように、連通溝1261、外周凹部23および溝部24を介して第1凹部126内の空気が排気される。すなわち、第1凹部126の内部は真空圧になるので、第1凹部126の内外において気圧差が発生することはない。そのため、ドライフィルムFが気圧差によって損傷してしまうことを防ぐことができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。第2実施形態のアンクル10Aは、連通溝1261が形成されてない点において、第1実施形態と相違する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略する。
【0041】
[アンクル]
図12は、アンクル10Aの概略を示す斜視図であり、
図13は、アンクル10Aの概略を示す分解斜視図である。
図12および
図13に示すように、アンクル10Aは、アンクル真11と、アンクル本体12Aと、固定部材13とを有する。
アンクル本体12Aには、第1面120側に第1凹部126Aが形成されるが、上記第1実施形態と異なり、第1凹部126Aには、側面122に連通する連通溝が形成されていない。
【0042】
[アンクル本体の製造工程]
次に、本実施形態のアンクル本体の製造方法について、図面に基づいて説明する。
図14A~
図14Gは、アンクルの製造工程を示す断面図である。
本実施形態では、第1実施形態と同様に、
図14Aに示すような厚さ寸法t1のシリコン基板20Aを母材とする。そして、シリコン基板20Aの一方の面部21A側と、一方の面部21Aとは反対側の面である他方の面部22A側との両側をエッチングすることにより、アンクル10Aを製造する。
【0043】
具体的には、まず、
図14Aに示すシリコン基板20Aの一方の面部21Aに対して、例えばフォトリソグラフィー法を用いて、第1レジストパターンR1Aを形成する(第1レジストパターン形成工程)。
図14Bは、シリコン基板20Aの一方の面部21Aに第1レジストパターンR1Aが形成された状態を示す図である。第1レジストパターンR1Aは、開口部O1Aを有する。ここで、本実施形態では、連通溝に対応する箇所に第1レジストパターンR1Aが形成される。すなわち、後述する第1エッチング工程において、連通溝が形成されない。
【0044】
次に、
図14Cに示すように、第1レジストパターンR1Aをマスクとして、上記第1実施形態と同様に、シリコン基板20Aにボッシュプロセスによるエッチングを施す(第1エッチング工程)。これにより、シリコン基板20Aが一方の面部21A側から第1レジストパターンR1Aに沿って厚さ方向に略垂直にエッチングされ、深さt2の凹部が形成される。
【0045】
また、第1実施形態と同様に、シリコン基板20Aの他方の面部22A側、すなわちシリコン基板20Aのステージ202にセットされた面側は、ヘリウムガス等の冷却ガスにより冷却される。
【0046】
次に、第1レジストパターンR1Aを除去して、
図14Dに示す状態にする。
図15は、
図14Dの状態のシリコン基板20Aの斜視図である。
図15に示すように、本実施形態では、連通溝が形成されていないので、第1凹部126Aと外周凹部23Aとは連通していない。また、本実施形態では、シリコン基板20Aの側面部25Aと外周凹部23Aとを連通する溝が形成されない。
【0047】
次に、
図14Eに示すように、シリコン基板20Aの一方の面部21AにフィルムFAを形成する。本実施形態では、フィルムFAは、一方の面部21Aに沿って形成され、さらに、第1エッチング工程で形成された凹部の底面および壁面に沿って形成される。そのため、フィルムFAと上記凹部とによる密閉空間は形成されない。
なお、本実施形態では、フィルムFAとして、TEOS(Tetraethyl orthosilicate:テトラエトキシシラン)膜や金属膜が利用できる。
【0048】
そして、シリコン基板20Aの他方の面部22Aに対して、例えばフォトリソグラフィー法を用いて、第2レジストパターンR2Aを形成する(第2レジストパターン形成工程)。第2レジストパターンR2Aは、開口部O2Aを有する。
【0049】
次に、
図14Eの状態のシリコン基板20Aを、再び真空チャンバー201内のステージ202にセットする。この際、上記とは逆に、一方の面部21A側がステージ202の上面に対向するようにセットする。そして、上記と同様に、真空チャンバー201内の気圧を所定の真空圧にまで低下させる。この際、第1凹部126A内に密閉空間は存在しないので、気圧差が発生することがない。そのため、本実施形態では、気圧差によってフィルムFAが損傷することがない。
【0050】
続いて、上記と同様に、シリコン基板20Aにボッシュプロセスによるエッチングを施す(第2エッチング工程)。これにより、
図14Fに示すように、シリコン基板20Aが他方の面部22A側から第2レジストパターンR2Aに沿って厚さ方向に略垂直にエッチングされ、深さt3の凹部が形成される。
この際、一方の面部21A側と他方の面部22A側とでエッチングした箇所が重なる部分には、一方の面部21A側から他方の面部22A側までシリコン基板20Aを貫通する貫通孔が形成される。
ここで、一方の面部21A側は冷却ガスにより冷却されているが、当該一方の面部21A側にはフィルムFAが形成されているので、貫通孔を介して冷却ガスが一方の面部21A側から他方の面部22A側に抜けてしまうことがない。
【0051】
そして、シリコン基板20Aを真空チャンバー201内から取り出し、第2レジストパターンR2AおよびフィルムFAを除去して、
図14Gに示す状態にする。
最後に、シリコン基板20Aからアンクル本体12Aを構成する部分を取り外して、アンクル本体12Aを製造する。
【0052】
[第2実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、アンクル本体12Aにおいて、第1凹部126Aと側面122とを連通しない。そのため、アンクル本体12Aの部品強度を高くすることができる。
【0053】
本実施形態では、フィルムFAを、一方の面部21Aに沿って形成し、さらに、第1エッチング工程で形成された凹部の底面および壁面に沿って形成する。これにより、冷却ガスにより冷却しながら、シリコン基板20Aの両側をエッチングすることを可能にしている。そのため、1枚のシリコン基板20Aの両側を高い加工精度でエッチングすることができる。
【0054】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。第3実施形態のアンクル10Bは、固定部材13Bが第1凹部126に収容される点において、第1、第2実施形態と相違する。なお、第3実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略する。
【0055】
[アンクル]
図16は、アンクル10Bの概略を示す断面図である。
図16に示すように、アンクル10Bは、アンクル真11Bと、アンクル本体12と、固定部材13Bとを有する。
本実施形態では、第1、2実施形態とは異なり、第1凹部126に固定部材13Bが収容される。ここで、第1凹部126の深さ寸法は、固定部材13Bの厚さ寸法よりも大きく形成されている。これにより、固定部材13Bは、軸真111の軸方向に対して、第1凹部126に完全に収容される。
また、アンクル真11Bのフランジ部112Bは、アンクル本体12の第2面121側に配置される。これにより、アンクル本体12は、フランジ部112Bと固定部材13Bとで挟み込まれるので、軸真111Bの軸方向に対して固定される。
なお、本実施形態において、フランジ部112Bを第1凹部126に収容し、固定部材13Bを第2面121側に配置することも可能である。すなわち、
図16において、アンクル真11Bの上下を反転させ、フランジ部112Bを上側に配置することで、フランジ部112Bを第1凹部126に収容させることもできる。この場合、フランジ部112B
図16中上側に配置されるので、アンクル真11Bに対するアンクル本体12の位置も
図16中上側に移動する。
【0056】
[第3実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、固定部材13Bは、アンクル本体12の第1凹部126に収容されるので、固定部材13Bがアンクル本体12に対して、軸真111の軸方向に突出しない。すなわち、アンクル10Bを薄くすることができる。そのため、他の時計用部品との干渉を防ぐことができ、アンクル10Bの配置等において、設計の自由度を高くすることができる。
【0057】
本実施形態では、アンクル真11Bの上下を反転させることにより、フランジ部112を第1凹部126に収容することもできる。この場合、アンクル真11Bに対するアンクル本体12の位置が変更される。すなわち、フランジ部の位置が異なるアンクル真を複数種類用意しなくても、アンクル真11Bの上下を反転させることで、アンクル本体12の位置を2段階に調整することできる。
【0058】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0059】
上記各実施形態では、挿通孔128内に突出し弾性変形可能な保持部129が2つ形成されていたが、これに限定されない。
図17は、他の実施形態のアンクル本体12Cの概略を示す背面図である。
図17に示すように、挿通孔128内に突出し弾性変形可能な保持部129Cを1つ形成するようにしてもよい。このようにすることで、保持部129Cと2つの壁面1271,1272とで軸真111を挟持することができ、アンクル真11に対してアンクル本体12Cを位置決めすることができる。また、保持部は3つ以上形成されていてもよい。
さらに、保持部が形成されない場合も本発明に含まれる。この場合、2つの壁面1271,1272に軸真111が押さえつけられた状態で、フランジ部112と固定部材13とでアンクル本体12が挟み込まれることにより、アンクル本体12が軸真111に対して位置決めされる。
【0060】
上記各実施形態では、保持部129は略L字状に形成されていたが、これに限定されない。例えば、保持部はアーチ状に形成されていてもよく、軸真の軸方向と直交する方向に弾性変形可能な形状であればよい。
【0061】
上記第1、第2実施形態では、アンクル本体12,12Aには、アンクル真11のフランジ部112が収容される第1凹部126,126Aが形成されていたが、これに加えて、アンクル本体の第2面に固定部材が収容される凹部が形成されていてもよい。これにより、固定部材がアンクル本体に対して軸真の軸方向に突出しないので、アンクルをさらに薄くすることができる。
また、上記第1、第2実施形態では、フランジ部112は、アンクル本体12,12Aの第1面120側に形成される第1凹部126,126Aに収容されていたが、これに限定されない。例えば、第2面側にフランジ部を収容可能な収容凹部を設け、当該収容凹部にフランジ部が収容されていてもよい。この場合、固定部材は、第1面側に配置される。
さらに、上記第1、第2実施形態では、フランジ部112は、軸真111の軸方向に対して、第1凹部126,126Aに完全に収容されていたが、これに限定されない。例えば、第1凹部の深さ寸法がフランジ部の厚さ寸法よりも小さく形成され、フランジ部の一部が第1凹部に収容されるものも本発明に含まれる。
【0062】
上記第3実施形態では、固定部材13Bは、アンクル本体12の第1面120側に形成される第1凹部126に収容されていたが、これに限定されない。例えば、第2面121側に固定部材を収容可能な収容凹部を設け、当該収容凹部に固定部材が収容されていてもよい。この場合、フランジ部は、第1面側に配置される。
また、上記第3実施形態では、固定部材13Bは、軸真111の軸方向に対して、第1凹部126に完全に収容されていたが、これに限定されない。例えば、第1凹部の深さ寸法が固定部材の厚さ寸法よりも小さく形成され、固定部材の一部が第1凹部に収容されるものも本発明に含まれる。
【0063】
上記各実施形態では、軸真111には固定部材13が圧入されていたが、これに限定されない。例えば、軸真に固定部材が螺合されていてもよく、フランジ部と固定部材とでアンクル本体を挟持可能に構成されていればよい。また、固定部材13の形状は円環状であったが、これに限定されるものではなく、例えば、固定部材はC字状等であってもよい。さらに、固定部材13は、金属製に限られるものではなく、例えば、樹脂製であってもよい。
【0064】
上記各実施形態では、1枚のシリコン基板20,20Aから1個のアンクル本体12,12Aを製造する場合を例示して説明したが、これに限られず、1枚のシリコン基板から複数のアンクル本体を製造するようにしてもよい。
【0065】
上記各実施形態では、アンクル本体12,12Aは、単結晶のシリコン製部品とされていたが、これに限定されない。例えば、アンクル本体は、多結晶のシリコン製部品であってもよく、シリコンを含む基板から形成されていればよい。
【0066】
上記各実施形態では、時計用部品として、アンクル10,10A,10Bを例示したがこれに限られず、例えば、丸穴車などであってもよい。また、これらの時計用部品は、1種類単独で、または、2種類以上を組み合わせて、ムーブメントに搭載してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…時計、2…外装ケース、3…文字板、4A…時針、4B…分針、4C…秒針、6…日車、7…りゅうず、10,10A,10B…アンクル、11,11B…アンクル真(軸部材)、12,12A,12C…アンクル本体(本体部)、13,13B…固定部材、20,20A…シリコン基板、21,21A…一方の面部、22,22A…他方の面部、23,23A…外周凹部、24…溝部、25,25A…側面部、100…ムーブメント、111,111B…軸真、112,112B…フランジ部、120…第1面、121…第2面、122…側面、123…アンクルビーム、1231,1232…アンクル腕、1233…アンクル竿、124…爪石部、125…剣先、126,126A…第1凹部(収容凹部)、127…第2凹部、128…挿通孔、129,129C…保持部。