(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】水生生物観測装置及び水生生物観測方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240228BHJP
G01S 5/22 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01S5/22
(21)【出願番号】P 2022542594
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024445
(87)【国際公開番号】W WO2022034749
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020136125
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/014721(WO,A1)
【文献】特表平05-509404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0142515(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107665712(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0170060(US,A1)
【文献】特開2005-134338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 9/00
G01S 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び位置における、水生生物の出す音を検出する水生生物情報検出手段と、
前記水生生物の出す音を表す情報を出力する出力手段と、
を備え、
前記水生生物情報検出手段は、前記光ファイバを備えた光ケーブルの設置に係る設置工法の情報を基に、前記音データから前記設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、
水生生物観測装置。
【請求項2】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び位置における、水生生物の出す音を検出する水生生物情報検出手段と、
前記水生生物の出す音を表す情報を出力する出力手段と、
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出手段へ送付する取得処理手段と、
を備え、
前記取得処理手段は、前記光ファイバを備えた光ケーブルの設置に係る設置工法の情報を基に、前記音データから前記設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、
水生生物観測装置。
【請求項3】
前記水生生物情報検出手段は、前記水生生物の出す音を表す情報から、前記水生生物の種類、又は、前記水生生物の行動を分類する、請求項1
乃至2のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
【請求項4】
前記水生生物情報検出手段は、前記分類を、一つ以上の特徴を鍵とした、予め保持する分類条件に照らして類比判定により行う、請求項
3に記載された水生生物観測装置。
【請求項5】
前記分類に用いられる前記特徴は、前記音データの、周波数、周波数の時間変化及び強度包絡線の時間変化のうちの少なくともいずれかを含む、請求項
4に記載された水生生物観測装置。
【請求項6】
前記水生生物情報検出手段は前記分類を、前記音データを複数の周波数帯に分割した後に行う、請求項
3乃至
5のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
【請求項7】
前記水生生物情報検出手段は、前記光ファイバの複数の前記位置で取得された前記音データのうち、同一の音源から出た前記音の前記音データを識別する、請求項1乃至請求項
6のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
【請求項8】
前記水生生物情報検出手段は、前記光ケーブルの複数の位置で検出された音のうち、同一の音源から出た音を識別する、請求項7に記載された水生生物観測装置。
【請求項9】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの所定の位置における音に関するデータである音データ
に、
前記光ファイバを備えた光ケーブルの設置に係る設置工法の情報を基に、前記設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行って、前記音データが取得された時刻及び場所における、水生生物の出す音を検出し、
前記水生生物の出す音を表す情報を出力する、
水生生物観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物を観測する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水産資源の管理や、自然環境の保護の観点から、海洋生物の分布の調査が求められている。そして、当該調査の一部として、海洋生物が発する音から、海洋生物の分布を調査する研究が進められている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
海洋生物の分布や挙動を調査するためには、海中の音を観測する必要がある。非特許文献1は、そのような音を観測する方法として、設置型観測による方法と移動型観測による方法とを開示する。
【0004】
設置型観測による方法は、例えば、海中の観測点に設置した録音機材により音を観測する方法である。また、移動型観測による方法は、船により録音機材を曳航しつつ音を観測する方法である。
【0005】
ここで、特願2020-013946は、分布型音響センシング(DAS:Distributed Acoustic Sensing)により光ファイバ周辺の音を取得する方法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「海洋生物多様性及び生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出」 研究課題「海洋生物の遠隔的種判別技術の開発」 研究終了報告書、[online]、[令和2年3月26日検索]、インターネット(https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/evaluation/s-houkoku/sh_h28/JST_1111065_11103780_2016_PER.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、海洋生物の分布を調査するためには、広範囲の海域について、ある程度の長期間、海中の音を観測する必要がある。しかし、背景技術の項で説明された設置型観測による方法では、多数の録音機材を、海中に、波や潮流に流されないように設置し、記録後に回収する必要がある。このように、設置型観測による方法は多大な労力を要するため、観測点を長期間維持することが難しく、また観測点の数を増やすことも容易ではない。また観測情報をリアルタイムに陸に伝えることは難しく、供給電力や観測データ記録媒体容量の制約もあるため、観測可能な情報の一部分しか記録できず、事象を見逃してしまう可能性もある。
【0008】
移動型観測による方法では、広範囲の海域に渡って録音機材を曳航する必要がある。そのため、移動型観測による方法は、やはり多大な労力を要し、また長期定点観測には不向きである。
【0009】
本発明は、労力が軽減され、広範囲に渡って長期間の定点観測を可能とする、水生生物の音による観測の手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水生生物観測装置は、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び場所における、水生生物の出す音を検出する水生生物情報検出部と、前記水生生物情報を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水生生物観測装置等は、労力が軽減され、広範囲に渡って長期間の定点観測を可能とする、水生生物の音による観測の手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の海洋生物観測システムの構成例を表す概念図である。
【
図2】海洋生物観測システムの設置のされ方の例を表す概念図である。
【
図3】海洋生物情報取得部の構成例を表す概念図である。
【
図4】海洋生物情報取得部の処理内容の概略を説明する図である。
【
図5】生物音分類部が行う動作の第三の具体例を表す概念図(その1)である。
【
図6】生物音分類部が行う動作の第三の具体例を表す概念図(その2)である。
【
図7】生物音分類部が行う動作の第四の具体例を表す概念図(その1)である。
【
図8】生物音分類部が行う動作の第四の具体例を表す概念図(その2)である。
【
図9】実施形態の水生生物観測装置の最小限の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の海洋生物観測装置等は、背景技術の項で説明したDASを用い、さらに、光伝送など他の目的で海中に敷設される海底ケーブルに備えられる光ファイバを用いて、海洋生物の分布を調査するための音データを取得する。これにより、本実施形態の海洋生物観測装置は、海洋生物の分布を調査するための音の観測の労力が軽減され、広範囲に渡って長期間の定点観測を可能にする。
【0014】
図1は本実施形態の海洋生物観測システムの例である海洋生物観測システム300の構成を表す概念図である。海洋生物観測システム300は、海洋生物観測装置140と光ファイバ200とを備える。海洋生物観測装置140は、インテロゲーター100と海洋生物情報取得部120とを備える。
【0015】
図2は、
図1の海洋生物観測システム300の設置のされ方の例を表す概念図である。
【0016】
海底ケーブル920は、例えば、光通信等の目的で用いられる一般的な海底ケーブルである。海底ケーブル920は、陸揚げ地点である位置P0から沖に向けて海底又は海中に設置される。
【0017】
図1の光ファイバ200は、海底ケーブル920に含まれる複数の光ファイバのうちのいずれかである。光ファイバ200は、光通信に用いられるものであっても、海洋生物の観測に専用に用いられるものであっても構わない。
【0018】
図1のインテロゲーター100は、例えば、光通信用の装置と共に、位置P0の近傍に設置されている。海洋生物情報取得部120は、インテロゲーター100の近傍に設置されていても離れて設置されていても構わない。
【0019】
インテロゲーターは、陸上に設置されても、監視船等の船に設置されてもよい。海洋生物情報取得部120は、監視者がリアルタイムに出力を受け取れる場所に置かれることが望ましい。
【0020】
光ファイバ200は、一般的な光ファイバであり、光伝送等の海洋生物の観測以外の目的で設置される海底ケーブル等に備えられるものを利用してもよい。一般的な光ファイバは、音を含む振動の存在等の環境により変化を受けた後方散乱光を生じる。当該後方散乱光は、典型的には、レイリー後方散乱によるものである。その場合、前記変化は主として位相の変化(位相変化)である。
【0021】
光ファイバ200は、複数の光ファイバが増幅中継器等により接続されたものであっても構わない。光ファイバ200を含むケーブルは、インテロゲーター100を備える図示されない光通信装置と他の光通信装置との間に接続されていても構わない。
【0022】
海底ケーブル920は、光伝送やケーブル式波浪計、ケーブル式海底地震計などの他の用途と兼用しても構わないし、海洋生物の観測専用ケーブルであっても構わない。海底ケーブル920は、ケーブル内に複数の光ファイバ心線を備えることで、また同一の光ファイバ心線の中であっても互いに波長を異ならせることで、他のシステムと本実施形態の海洋生物観測システムとを共存させることができる。
<インテロゲーター100の動作>
インテロゲーター100は、OTDR方式の光ファイバセンシングを行うためのインテロゲーターである。ここでOTDRはOptical Time-Domain Reflectometryの略である。そのようなインテロゲーターについては、例えば、前述の特願2020-013946に説明がある。
【0023】
インテロゲーター100は、取得処理部101と、同期制御部109と、光源部103と、変調部104と、検出部105とを備える。変調部104は光ファイバ201及び光カプラ211を介して、検出部105は光カプラ211及び光ファイバ202を介して、それぞれ、光ファイバ200に接続されている。
【0024】
光源部103は、レーザ光源を備え、連続的なレーザ光を変調部104に入射する。
【0025】
変調部104は、同期制御部109からのトリガ信号に同期して、光源部103から入射された連続光のレーザ光を、例えば振幅変調し、センシング信号波長のプローブ光を生成する。プローブ光は、例えば、パルス状である。そして、変調部104は、プローブ光を、光ファイバ201及び光カプラ211を介して、光ファイバ200に送出する。
【0026】
同期制御部109は、また、トリガ信号を取得処理部101に送付し、連続してA/D(アナログ/デジタル)変換されて入力されるデータのどこが時間原点かを伝える。
【0027】
当該送出が行われると、光ファイバ200の各位置からの戻り光が、光カプラ211から光ファイバ202を介して、検出部105に到達する。光ファイバの各位置からの戻り光は、インテロゲーター100に近い位置からのものほど、プローブ光の送出を行ってから短い時間でインテロゲーター100に到達する。そして、光ファイバ200のある位置が音の存在等の環境の影響を受けた場合には、その位置において生じた後方散乱光には、その環境により、送出時のプローブ光からの変化が生じている。後方散乱光がレイリー後方散乱光の場合、当該変化は、主として位相変化である。
【0028】
当該位相変化が生じている戻り光は、検出部105により検波される。当該検波の方法には、周知の同期検波や遅延検波があるが、いずれの方法が用いられても構わない。位相検波を行うための構成は周知であるので、ここでは、その説明は省略される。検波により得られた電気信号(検波信号)は、位相変化の程度を振幅等で表すものである。当該電気信号は、取得処理部101に入力される。
【0029】
取得処理部101は、まず前述の電気信号をA/D変換してデジタルデータとする。次に、光ファイバ200の各点で散乱されて戻ってきた光の、前回の測定からの位相変化を、例えば、同じ地点の前回の測定との差の形で求める。この信号処理はDASの一般的な技術であるので詳しい説明は省略される。
【0030】
取得処理部101は、光ファイバ200の各センサ位置に、仮想的に点状の電気センサを数珠繋ぎに並べて得たのと同様の形のデータを導出する。このデータは、信号処理の結果として得られる仮想的なセンサアレイ出力データであるが、以降では説明の簡単化のためこれをRAWデータと呼ぶ。RAWデータは、各時刻において、また光ファイバ200の各点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の瞬時強度(波形)を表すデータである。RAWデータについては、例えば、前述の特願2020-013946の背景技術の項に説明がある。取得処理部101は、RAWデータを海洋生物情報取得部120に出力する。
<海洋生物情報取得部120の動作>
海洋生物情報取得部120は、取得処理部101から入力されたRAWデータから、いつ、光ファイバ200のどの位置において、どのような種類の海洋生物の音が検出されたかを表す情報である生物音検出情報を導出する。海洋生物情報取得部120の構成を
図3を参照して説明する。動作の詳細は
図4乃至
図8を参照して後述する。
【0031】
図3は、
図1の海洋生物情報取得部120の構成例を表す概念図である。海洋生物情報取得部120は、処理部121と記憶部131とを備える。
【0032】
処理部121は、前処理部122と、音抽出部123と、生物音分類部124と、出力処理部125とを備える。記憶部131は、RAWデータ格納部132と、ケーブルルート情報格納部133と、抽出データ格納部134と、分類条件格納部135と、生物音検出情報格納部136とを備える。
【0033】
前処理部122には、
図1の取得処理部101から、前述のRAWデータが入力される。RAWデータは、前述のように、各時刻において、光ファイバ200の各測定点(センサ位置)において、光ファイバに伝わった音の瞬時強度(波形)を表すデータである。
【0034】
前処理部122においては、RAWデータに各測定点ごとに地理座標が付与される。RAWデータの段階では、各測定点の位置情報はケーブル上の位置(例えばケーブル端からの距離)で表現されている。一方、ケーブルが設置されている地理座標データは、ケーブルルート情報格納部133に格納されている。両者を照らし合わせることで、ケーブル各点の地理座標を予め求めて、ケーブルルート情報格納部133に予め格納してあるので、地理座標をRAWデータに付与する。前処理されたRAWデータはRAWデータ格納部132に格納される。
【0035】
音抽出部123は、例えば、外部からの開始情報の入力により、所定の時間的範囲及び距離範囲のRAWデータについて、生物が発した可能性がある音データを抽出し、抽出データ格納部134に格納する。これにより、生物音の可能性が見られないデータ部分は除外され、総データ量が大幅に減るため、以降のデータ処理の負荷が低減される。
【0036】
生物音分類部124は、抽出データ格納部134に格納された各抽出データから海洋生物の音を分類する。生物音分類部124は、当該分類を、予め分類条件格納部135に格納されている分類条件により行う。ここで分類条件は、音の種類(発生原因ID)と、その音に特徴的に見られる情報を組み合わせた情報である。ここで音の種類とは、海洋生物の種類、どのような時に発せられる音であるか、後述する、同一音統合処理をすべき音か、後述する、移動音源の追尾処理をすべき音か、などの情報である。生物音分類部124は、音の分類結果を生物音検出情報格納部136に格納する。
【0037】
生物音分類部124は、前記分類処理を、例えば、抽出データを分類条件に照らして類比判定により行う。
【0038】
前記分類条件は、例えば、検出した音の周波数に関する情報である。海洋生物が海中で発する音は固有の周波数を有する場合があり、その場合は、音の周波数から、海洋生物の種類や挙動を分類することが可能である。周波数に関する情報としては、例えば、中心周波数や、周波数帯が想定される。例えば、スナメリやネズミイルカが発する音は周波数帯が定まっていることが知られており、これらの種類は、音の周波数帯から分類することが可能である。
【0039】
前記分類条件は、あるいは、例えば、音の間隔である。海洋生物の種類によっては、例えばマッコウクジラのように、ある程度定まった間隔で音を発する場合がある。その場合は、音の間隔を用いることにより、海洋生物の種類を分類することが可能である。
【0040】
前記分類条件は、あるいは、例えば、音の周波数帯の時間的な推移を表す音のパターンである。音のパターンを用いることにより、より正確な海洋生物の分類が可能になる。
【0041】
出力処理部125は、例えば、外部からの指示情報に従い、生物音検出情報格納部136から所定の時刻範囲及びセンサ位置範囲の生物音検出情報を読み出し、出力する。当該出力に係る出力先は、例えば、外部のディスプレイ、プリンタ又は通信装置である。
【0042】
さらに、次のような処理や機能を本装置に備えてもよい。例えば地図情報と組み合わせたマッピング可視化処理である。本方式はリアルタイム性を有するので、そのまま洋上の調査船に生物が現れた場所を図で送信すれば、生態調査の作業効率改善に寄与できる。
【0043】
また例えば過去の履歴をデータベースに蓄積する機能である。履歴を分析することで、特定の生物分布の季節的な動向を可視化することなどが可能となる。
【0044】
ここでデータベースに蓄積される情報としては、生物音検出情報だけでなく、他の情報も保存されてもよい。他の情報は、例えば後で(オフラインで)詳しく分析したい場合などに利用され得る。分類条件にマッチせず分類できなかった音データも保存しておけば、分析することで新たな生物の出す音を分類条件として用意するための元情報にすることもできる。保存されるデータは、このような、用途や状況に応じた動作の細かな設定が可能なように保持されることが望ましい。
<海洋生物情報取得部120が行うデータ処理>
図4は、海洋生物情報取得部120が行う音データの分析・評価のデータ処理例を表す概念図である。処理1から処理5までのうち、ほとんどの適用場面において行われると考えられるのは処理4であり、それ以外の処理は音の分析性能向上のための処理であるので実施されない場合もある。ある処理が実施されない場合は、前の処理で処理されたデータはそのまま次の処理の処理対象データとなる。
【0045】
海洋生物情報取得部120には、
図1の取得処理部101から、前述のRAWデータが入力される。RAWデータは、前述のように、各時刻において、また光ファイバ200の各測定点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の瞬時強度(波形)を表すデータである。
<処理1:光ケーブル上の位置ごとの感度補正>
処理1は、
図1の海洋生物観測装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理1は、実施される場合は例えば前処理部122で実施される。
【0046】
本願の構成上の特徴は、ケーブル自体をセンサ(水中マイク)として用いるので、水中マイクや水中装置が不要なことである。これにより、観測点数に応じて装置台数が増えてコストが増大することを回避でき、また水中に電子回路を要しないので長期信頼性の確保が容易となる。その一方で、センサとしての特性は水中マイクのように校正されたものではなく、特定の周波数帯の強度が減衰したり、強調されたりという伝達関数(フィルタ関数)がかかっているという課題がある。さらにその伝達関数は、ケーブルの種類や設置状況などによって異なるという課題がある。これらは後述される音の分類などのために補正されることが望ましい。
【0047】
[センサ特性の不均一性:ケーブル種類などの違いと補正]
環境情報を取得する海底ケーブル920は、設置場所によってケーブルの種類や設置工法が異なる。これにより海底ケーブル920のセンサとしての特性が場所ごとに異なる。
【0048】
ここで、ケーブル種類の違いは、例えば送電用/通信用などによる断面構造の違い、保護被覆の構造の違い(外装鉄線の有無やその種類)などである。設置工法の違いは、例えばケーブルを海底表面に置くだけの工法や、海底に溝を掘ってケーブルを埋める工法などの違いである。
【0049】
これらのケーブルの場所ごとの伝達関数の違いは、製造記録や施工記録を参照すれば分かり、それらは、例えば、ケーブルルート情報格納部133に記録されている。この違いによる伝達関数の違いは、海底ケーブル920の場所ごとにほぼ一義的に補正することができる。具体的な補正方法は、例えばフィルタにより、特定の周波数帯の振幅を増大させるものである。
【0050】
ここでケーブル種類や工法の種類による伝達関数の違いは、予め実験を行って、例えば水中マイクで取得された音データを基準とした比較を行って把握することが望ましい。
【0051】
なおこの違いに対する補正は、必ずしも取得データ側に施されるのではなく、後述する分類条件側に施される手法も考えられる。例えばケーブルの構造により環境情報の高周波側が減衰する特性があれば、取得データの補正はされずに、分類条件の高周波側を取得位置のケーブル種類に応じて減衰させることで、パターン識別の一致が得られやすくなる。しかし、一般的には、取得データ側を補正するほうがデータ利用の汎用性が高まるなどの利点があり、好ましいと考えられる。
【0052】
[センサ特性の不均一性:現地ごとの違いと校正]
敷設されている海底ケーブル920の各測定点のセンサ特性のばらつきの要因は、前述の施工記録などから一義的に決まる(推定できる)ものだけではない。例えば、一律の深さで埋設されているという記録が存在しても、実際は場所ごとに埋設深さがばらついていたり、被せていた土砂が部分的に流されて露出していることもあり得るためである。
【0053】
この課題に対しては、現地に広範囲に伝わる音をリファレンス音として利用して校正する方法が考えられる。リファレンス音には、人工的な音の他、自然に生ずる音が利用されてよい。例えばクジラのように発する音の特徴が良く分かっている海洋生物の音の利用が考えられる。広範囲に伝わる音の場合、ほぼ同じ音が海底ケーブル920上の各点で感受されるので、海洋生物情報取得部120は、それらが同一に近づくように、もしくは音源からの距離に応じた値に近づくように、各点ごとに補正係数を求める。
【0054】
またこの校正により、海底ケーブル920上の各点が、海洋生物が発する音の取得に適するかどうかも把握できる。例えば、ある点は感度が非常に低くて補正しきれない、またある点は特定の周波数帯で共鳴しやすく補正も難しい、などである。これら環境取得にやや難のある点は、例えば、ケーブル上の前後の測定点について、音の強度を、その移動平均値と比べることで抽出できる。そこで、これら難のある点を、観測点の分布を意識しつつ除外して、ほぼ平均的な環境情報が取得できていると思われる点からのデータを利用することで、観測の精度を改善できる。
<処理2:各周波数帯に分ける>
処理2は、海洋生物観測装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理2は、実施される場合は例えば前処理部122で実施される。
【0055】
ここで周波数帯ごとに分けるとは、音データを、例えば、極低周波から0.1Hz,0.1から1Hz,1から10Hz,10から100Hz,100Hz以上、のような周波数帯ごとに分けることである。この周波数帯の設定は、海洋生物の出す音の音域によりおおよそ分類されるように行われることが望ましい。
【0056】
音データを周波数帯ごとに分けて評価する理由は大きく2つある。一つは海洋生物が発する音の周波数帯が、生物の種類によりおおよそ分かれているためである。周波数帯ごとに分けることにより、後述する分類処理において類比判定がしやすくなる。
【0057】
もう一つは生物由来の音データ以外のものの除外のためである。例えば、波が岸へ打ち付ける場所のように生物由来以外の音が大きい場所においては、音データを周波数帯ごとに分けて、生物由来以外の音は大きくなく、生物が出す音は比較的大きい周波数帯で、後述する分類処理を行う。その場合、生物由来以外の音が生物由来の音の評価に与える影響を低減できる。
【0058】
このような理由から、音データは、周波数帯ごとに分けて評価される。
<処理3:生物の音が含まれる可能性のあるデータの抽出>
処理3は、海洋生物観測装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理3は、実施される場合は、例えば、音抽出部123で実施される。当該抽出の方法は、例えば、音データの強度の、直前までの移動平均トレンドからの急激な変化を、しきい値超過判定により抽出するものである。
【0059】
これにより、生物音の可能性が見られないデータが除外され、以降で処理すべきデータ量が削減される。
<処理4:生物の音の分類>
処理4は、多くの場合実施される処理である。処理4は生物音分類部124で実施される。
【0060】
ここでは生物の種類や挙動を自動識別する処理について説明する。非特許文献1に紹介されているように、水中マイクで採取した音から生物の種類や挙動を自動識別する技術は活発に研究開発されている。海洋生物観測装置140は、光ファイバセンシングで採取した音について、同様な処理を行う。詳細は後述される。
<処理5:同一音源の識別・音源分離・追尾>
処理5は、海洋生物観測装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理5は、実施される場合は例えば生物音分類部124で実施される。
【0061】
光ケーブルから離れた場所で発せられた音は、同心円状または球状に広がり、光ケーブルの複数の場所で検出される場合がある。そこで生物音分類部124は、類似した音を検出した測定点の地理座標および時刻情報をさらに分析することで、それらが一つの音源から出た音であることを推定し、識別する。
【0062】
さらに、複数の音が、距離的にも、時間的にも近い範囲で発生し、それらが光ケーブルの複数の場所で検出される場合もある。その場合、
図1の海洋生物情報取得部120は、主に次の2つの技術を用いることで、それらの複数の音を分離して個別に認識することができる。
その1.互いに音の特徴が異なっていれば、処理4で述べた方法で、たとえ一部が時間的に重なって観測されても、分離・識別することができる。
その2.互いに位置が異なる複数の音源は、周知である音源分離技術を用いて、たとえ時間的に重なって観測されても、分離・識別することができる。これは長尺な光ファイバそれ自体がセンサアレイとして利用できるという、
図1の海洋生物観測システム300ならではの特長である。
【0063】
上記動作について、一例を挙げる。光ケーブルからやや離れた場所でクジラが鳴き声を発したとする。その音は水中を広がっていき、光ケーブル上の複数の個所に伝わる。生物音分類部124は、各種のクジラの鳴き声の特徴量を分類条件として予め備えているとする。そして、生物音分類部124は、光ケーブル上の複数の個所でクジラの鳴き声の特徴に類似する音があることを検知したとする。その場合、生物音分類部124は、音の検出強度と検出した座標位置および時刻から、これらが一頭のクジラが発した一つの鳴き声と推定、識別する。(上記その1の例)
さらに、一隻の船が航行しており、そのエンジン音がクジラの鳴き声と同時に、光ケーブルの複数個所に伝わったとする。この場合、生物音分類部124は、音の特徴の違いから、両者を区別し、かつ、1頭のクジラの1つの鳴き声であることを識別する。(上記その1の例)
さらに、複数のクジラが異なる場所で時間的に重なる形で鳴き声を発して、光ケーブルの複数個所に伝わったとする。生物音分類部124は、その特徴からクジラの鳴き声と識別された、光ケーブルの複数個所で検知された音を、音源分離技術、例えばビームフォーミング技術を適用することで、複数の音源が空間的に異なる場所で発した音であることを識別する。(上記その2の例)
このように、一つの音が光ケーブル上の複数個所で検出された場合にそれを1つの音として識別する必要があるのは、音源が光ケーブルから離れた場所にあり、かつ、音源同士の距離が光ファイバセンシングの空間分解能よりも十分離れている場合である。逆の例として鉄砲エビが発する音がある。鉄砲エビは個体数が多くまた小さく、各個体の発する音を一つ一つ識別することは困難である。このような音については、生物音分類部124は、分類条件において“群れ”が出す音と識別して、同一音の個体ごとの識別処理は行わないようにする。
【0064】
同一音の識別処理を行うべき音かどうかの情報が、分類条件に予め含められていても構わない。生物音分類部124は、例えば、クジラの鳴き声の特徴が検出されれば、同一音源であることを識別する処理を行うことで、個体数を誤って多く計測しないようにする。生物音分類部124は、あるいは、鉄砲エビの出す音の特徴が検出されれば、同一音源であることを識別する処理を行わない。
<処理5:同一音源の識別・音源分離・追尾>
さらに音源が移動している場合、この推定及び識別が継続して行われることで、音を出すものが移動しているというモデルに当てはめることができ、音源の速度と進行方向の把握と、少し先のその海洋生物の位置(場所)の予測が可能となる。
【0065】
一例として、クジラの鳴き声を考える。クジラが移動しながら鳴き声を継続的もしくは断続的に発すれば、クジラの鳴き声が検知され続ける。ここで空間内を移動する物体のモデルに当てはめることで、当該クジラの速度と進行方向がおおよそ把握され、次に検出されるであろう場所がおおよそ予想できる。また、移動物体のモデルに当てはめた場合、同じ個体の鳴き声が再び検出される可能性が高いため、その種類の音の検出しきい値を下げるなどして、検出・分類の信頼性をより高めることができる。また、この場合、次に検知されると予想される場所を、空間的・時間的により細かに調べるなども可能になる。ここにも光ファイバのセンサアレイとしての能力、例えば周知のビームフォーミング技術を用いることで、移動する音源の追尾をしやすくすることができる。なお、光ファイバが感知した全ての情報が、光ファイバ200を通じて、大容量な記憶装置や処理装置を備える海洋生物観測装置140まで随時送られることが、
図1の海洋生物観測システム300の特長である。従い、海洋生物情報取得部120は、その特長を生かして、注目する対象の追尾を、記録されたデータから後に行うことも可能である。
<処理4の詳細:生物の出す音の分類方法>
生物音分類部124が行う分類処理の方法は大きくわけて2つある。一つは声紋識別技術と呼ばれるもので、生物の種類や挙動を見分けるための、複数の特徴量の条件の組合せからなる識別条件を予め見出しておき、その識別条件により判別する方法である。この方法の具体例は後述される。もう一つは機械学習、特にディープラーニングと呼ばれる手法で、それが何であるかを示すラベル付きの多数のデータを、多層階層のニューラルネットワークに入力して学習させて、学習済みモデルを得て、それを識別に用いる方法である。これらの識別手法は一例であり、組み合わせて用いられて良いし、新たに開発された分析方法が用いられてもよい。
【0066】
次に説明する例は、分類条件、すなわち複数の特徴量の条件の組合せからなる識別条件を用いて識別する、前者の例である。学習済みモデルを用いる方法では、分類条件は不要であるが、ここではその具体的な説明は省略し、分類条件を用いて類比判定する手法について具体例を4つ説明する。これらは類比判定の過程の一部の例であり、全てが説明されるものではない。
【0067】
生物音分類部124の分類動作の第一の具体例を説明する。
【0068】
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「音の周波数がAAA[Hz]を中心として許容幅±B[Hz]以内であれば、海洋生物CCCの鳴き声である。」が格納されているとする。ここで、値Bは値AAAと比べて十分に小さい値であるとする。
【0069】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データに含まれる音の周波数がAAA±B[Hz]以内だとする。その場合、生物音分類部124は、抽出データに含まれる音は海洋生物CCCの鳴き声であると分類し、分類結果を生物音検出情報格納部136に格納する。
【0070】
生物音分類部124の分類動作の第二の具体例を説明する。
【0071】
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「音の時間的間隔がDDD秒を中心として許容幅±E秒以内であれば、海洋生物CCCの鳴き声である。」が格納されているとする。ここで、値Eは値DDDと比べて十分に小さい値であるとする。
【0072】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データに含まれる音の時間的間隔がDDD±E秒以内であるとする。その場合、生物音分類部124は、抽出データに含まれる音は海洋生物CCCの鳴き声であると分類し、分類結果を生物音検出情報格納部136に格納する。
【0073】
生物音分類部124の分類動作の第三の具体例を、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
【0074】
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「
図5に表される音の強度の時間的変化パターンは、海洋生物CCCの鳴き声である。」が格納されているとする。
【0075】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データの中に、
図6の強度時間変化が含まれている期間があるとする。生物音分類部124は、
図5の強度時間変化のパターンと抽出データの波形とを類比判定し、抽出データの中に、分類条件である
図5のパターンが、
図6の形で強い相関を持って存在している旨を判定する。生物音分類部124は、当該判定処理を例えば一般的な相互相関係数の算出により行う。そして、生物音分類部124は、抽出データに含まれる音は海洋生物CCCの鳴き声であると分類し、分類結果を生物音検出情報格納部136に格納する。
【0076】
生物音分類部124の分類動作の第四の具体例を、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
【0077】
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「
図7に表される、複数の周波数についての音の強度の時間変化情報(複数周波数強度時間変化情報)のパターンは、海洋生物CCCの鳴き声である。」が格納されているとする。
【0078】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データの中に、
図8の複数周波数強度時間変化情報が含まれる期間があるとする。生物音分類部124は、
図7の複数周波数強度時間変化情報のパターンと抽出データとを類比判定し、抽出データの中に、分類条件である
図7のパターンが、
図8の形で強い相関を持って存在している旨を判定する。生物音分類部124は、当該判定処理を例えば一般的な相互相関係数の算出により行う。そして、生物音分類部124は、抽出データに含まれる音は海洋生物CCCの鳴き声であると分類し、分類結果を生物音検出情報格納部136に格納する。
【0079】
[効果]
本実施形態の海洋生物観測装置は、海中又は海底に設置される光ケーブル内に含まれる光ファイバを用いて、光ファイバセンシング技術により海洋生物の観測を行う。そのため、録音機材を海中に設置・回収したり、広範囲の海域を長期間、録音機材を曳航する必要がない。本実施形態の海洋生物観測装置は、また観測情報をリアルタイムに陸に伝えることができる。これらにより、本実施形態の海洋生物観測装置は、海洋生物を調査するための音の観測の労力を軽減し、広範囲に渡って高い観測点密度での定点観測を可能にする。また、本実施形態の海洋生物観測装置は、供給電力や観測データ記録媒体容量の制約がなく、かつ、観測可能な情報の全てを陸に伝えることができる。
【0080】
さらに、少しずつ場所がずれた多数の観測点から、測定可能な音データの全てを収集できるため、それら豊富な音データをパターン識別や音源分離などの情報処理にかけることにより、生物の種類や行動の情報をより詳細に得ることができる。また、本実施形態の海洋生物観測装置は、水中音響センサ部に電子回路を要しないため故障しにくいため、長期に渡る運用を維持しやすく、長期的な定点観測を容易にする。
【0081】
なお、以上説明した例では光ファイバを含む光ケーブルが海底ケーブルである場合について説明した。しかしながら、光ケーブルは、湾やカスピ海等の海洋以外の海、湖沼、川又は運河に設置されるものであっても構わない。その場合、実施形態の生物観測装置は、海、湖沼、川又は運河の水の中に生息する水生生物を観測する水生生物観測装置である。
【0082】
図9は、実施形態の水生生物観測装置の最小限の構成である水生生物観測装置140xの構成を表すブロック図である。水生生物観測装置140xは、水生生物情報検出部120axと、出力部120bxとを備える。
【0083】
水生生物情報検出部120axは、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び場所における、水生生物の出す音を検出する。出力部120bxは、前記水生生物情報を出力する。
【0084】
水生生物観測装置140xは、水中又は水底に敷設される光ケーブルの光ファイバを利用して、水生生物を観測することができる。そのため、録音機材を水中に新たに設置したり広範囲の水域を長期間、録音機材を曳航する必要がない。そのためには、水生生物観測装置140xは、水生生物の音による観測の労力を軽減し、広範囲に渡って長期間の定点観測を可能にする。
【0085】
そのため、水生生物観測装置140xは、前記構成により、[発明の効果]の項に記載した効果を奏する。
【0086】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で更なる変形、置換、調整を加えることができる。例えば、各図面に示した要素の構成は、本発明の理解を助けるための一例であり、これらの図面に示した構成に限定されるものではない。
【0087】
また、前記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記述され得るが、以下には限られない。
(付記1)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び位置における、水生生物の出す音を検出する水生生物情報検出部と、
前記水生生物の出す音を表す情報を出力する出力部と、
を備える、水生生物観測装置。
(付記2)
前記水生生物情報検出部は、前記水生生物の出す音を表す情報から、前記水生生物の種類、又は、前記水生生物の行動を分類する、付記1に記載された水生生物観測装置。
(付記3)
前記水生生物情報検出部は、前記分類を、一つ以上の特徴を鍵とした、予め保持する分類条件に照らして類比判定により行う、付記2に記載された水生生物観測装置。
(付記4)
前記分類に用いられる前記特徴は、前記音データの、周波数、周波数の時間変化及び強度包絡線の時間変化のうちの少なくともいずれかを含む、付記3に記載された水生生物観測装置。
(付記5)
前記水生生物情報検出部は前記分類を、前記音データを複数の周波数帯に分割した後に行う、付記2乃至4のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記6)
前記水生生物情報検出部は、前記光ファイバの複数の前記位置で取得された前記音データのうち、同一の音源から出た前記音の前記音データを識別する、付記1乃至付記5のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記7)
前記水生生物情報検出部は、前記光ファイバの複数の前記位置で検出された前記音の前記音データについて、センサアレイ出力として用いて、空間的な前記音源の分離を行う、付記1乃至付記6のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記8)
前記水生生物情報検出部は、移動する前記音源を、移動モデルに当てはめて追尾する、付記6又は付記7に記載された水生生物観測装置。
(付記9)
前記光ファイバは、光ケーブルに備えられる、付記1乃至付記8のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記10)
前記水生生物情報検出部は、前記光ケーブルの複数の位置で検出された音のうち、同一の音源から出た音を識別する、付記9に記載された水生生物観測装置。
(付記11)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水生生物情報検出部のうちの少なくとも一方は、前記光ケーブルの設置に係る設置工法の情報を基に、前記音データから前記設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、付記10に記載された水生生物観測装置。
(付記12)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水生生物情報検出部のうちの少なくとも一方は、前記光ケーブルの種類の情報を基に、前記音データから前記種類の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、付記9乃至付記11のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記13)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水生生物情報検出部のうちの少なくとも一方は、前記光ケーブルの広範囲に伝わるリファレンス音を用いて、前記音データが取得された前記位置による差異の程度を取得し、前記差異の程度の情報に基づき、前記音データから、前記音データが取得された前記位置による感度の差異を低減する処理を行い、又は、前記音データを取得する位置を選択する、付記9乃至付記12のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記14)
光ファイバ心線を分ける、もしくは、波長を分けることにより、前記光ケーブルを他の用途と共用する、付記9乃至付記13のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記15)
前記音データの取得は、光ファイバセンシングにより行われる、付記1乃至付記14のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記16)
前記光ファイバセンシングは分布型音響センシングである、付記15に記載された水生生物観測装置。
(付記17)
前記水中は海中であり、前記水生生物は海洋生物である、付記1乃至付記16のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記18)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出部へ送付する、取得処理部をさらに備える、付記1乃至付記17のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置。
(付記19)
付記1乃至付記18のうちのいずれか一に記載された水生生物観測装置と、前記光ファイバと、を備える、水生生物観測システム。
(付記20)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの所定の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び場所における、水生生物の出す音を検出し、
前記水生生物の出す音を表す情報を出力する、
水生生物観測方法。
(付記21)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの所定の位置における音に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻及び場所における、水生生物の出す音を検出する処理と、
前記水生生物の出す音を出力する処理と、
をコンピュータに実行させる水生生物観測プログラム。
(付記22)
前記水生生物情報検出部は、複数の前記水生生物の種類を特定する、付記1に記載された水生生物観測装置。
(付記23)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水生生物情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水生生物情報検出部のうちの少なくとも一方は、別途取得された音に関するデータである参照音データにより前記音データの補正を行う、付記1に記載された水生生物観測装置。
(付記24)
前記光ケーブルは光通信用のものである、付記9に記載された水生生物観測装置。
(付記25)
前記水生生物情報検出部は、前記音データが取得された前記位置を地理座標に結び付ける、付記1に記載された水生生物観測装置。
(付記26)
前記水生生物情報検出部は、検出対象の音が含まれていない部分を除外した後に前記分類を行う、付記2に記載された水生生物観測装置。
【0088】
ここで、付記における、前記光ファイバは、例えば、
図1の光ファイバ200、又は、
図2の海底ケーブル920が備える光ファイバである。また、前記水生生物情報検出部は、例えば、
図1の海洋生物情報取得部120の、前記音データから、前記水生生物検出情報を検出する部分である。
【0089】
また、前記出力部は、例えば、海洋生物情報取得部120の前記生物音検出情報を出力する部分である。また、前記水生生物観測装置は、例えば、
図1の海洋生物観測装置140である。
【0090】
また、前述の「前記周波数情報により前記水生生物検出情報を取得する」場合は、例えば、生物音分類部124の分類動作の第一の具体例に表される場合である。また、前述の「前記時間的間隔情報により前記水生生物検出情報を取得する」場合は、例えば、生物音分類部124の分類動作の第二の具体例に表される場合である。また、前述の「前記強度時間変化情報により前記水生生物検出情報を取得する」場合は、例えば、生物音分類部124の分類動作の第三又は第四の具体例に表される場合である。
【0091】
また、前記光ケーブルは、例えば、
図2の海底ケーブル920である。また、前記取得処理部は、例えば、
図1の取得処理部101である。また、前記水生生物観測システムは、例えば、
図1の海洋生物観測システム300である。また、前記コンピュータは、例えば、
図1の取得処理部101及び海洋生物情報取得部120が備えるコンピュータである。また、前記水生生物観測プログラムは、前記コンピュータに処理を実行させるプログラムである。
【0092】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0093】
この出願は、2020年8月12日に出願された日本出願特願2020-136125を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0094】
100 インテロゲーター
101 取得処理部
103 光源部
104 変調部
105 検出部
120 海洋生物情報取得部
120ax 水生生物検出部
120bx 出力部
121 処理部
122 前処理部
123 音抽出部
124 生物音分類部
125 出力処理部
131 記憶部
132 RAWデータ格納部
133 ケーブルルート情報格納部
134 抽出データ格納部
135 分類条件格納部
136 生物音検出情報格納部
140 海洋生物観測装置
140x 水生生物観測装置
200、201、202 光ファイバ
211 光カプラ
300 海洋生物観測システム
920 海底ケーブル