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特許7444319接着剤組成物、並びにこれを含有する接着シート、積層体およびプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】接着剤組成物、並びにこれを含有する接着シート、積層体およびプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240228BHJP
   C09J 123/16 20060101ALI20240228BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240228BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20240228BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J123/16
C09J163/00
C09J7/35
H05K1/03 610L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023088670
(22)【出願日】2023-05-30
【審査請求日】2023-06-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】西村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三上 忠彦
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221331(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172109(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリスチレン樹脂、酸変性シクロオレフィンポリマー及び酸変性ポリオレフィンから選択される少なくとも1以上の酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含む接着剤組成物であり、
前記酸変性樹脂の含有量が、接着剤組成物の固形分100質量%中、40質量%以上であり、
前記エポキシ樹脂(B)の含有量が、前記酸変性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であり、
前記化合物(A)の含有量が、前記酸変性樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
化合物(A):ヘテロ原子を有しておらず、重量平均分子量が15,000以上70,000以下であり、25℃でのシクロヘキサンへの溶解度が25g/100g-C612以上であるプロピレン-エチレン共重合体。
【請求項2】
前記酸変性樹脂が酸変性ポリオレフィンである請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(B)が多官能エポキシ樹脂である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
化合物(A)の170℃における溶融粘度が10,000mPa・s以下である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の接着剤組成物を含有する接着シート。
【請求項6】
請求項1または2に記載の接着剤組成物を含有する積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。より詳しくは、樹脂基材と、樹脂基材または金属基材との接着に用いられる接着剤組成物に関する。特にフレキシブルプリント配線板(以下、FPCと略す)用接着剤組成物、並びにそれを含む接着シート、積層体およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
FPCは、優れた屈曲性を有することから、パソコン(PC)やスマートフォンなどの多機能化、小型化に対応することができ、狭く複雑な内部に電子回路基板を組み込むために多く使用されている。近年、電子機器の小型化、軽量化、高密度化、高出力化が進み、配線板(電子回路基板)の性能に対する要求がますます高度なものとなっている。特に、伝送速度高速化のために、高い周波数の信号が使用されるようになっている。これに伴い、FPCには高周波領域での低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)の要求が高まっている。このような低誘電特性を達成するため、FPCの基材や接着剤の誘電体損失を低減する方策がなされており、FPCで用いられる基材については、従来のポリイミド(PI)やポリエチレンテレフタレート(PET)だけでなく、低誘電特性を有する液晶ポリマー(LCP)やフッ素樹脂などの基材フィルムが提案されている。接着剤としてはポリオレフィンとエポキシの組み合わせ(特許文献1、特許文献3)等の開発やポリフェニレンエーテルを使用した接着剤(特許文献2)等の開発が進められている。
【0003】
また、近年ではFPCの電子回路の微細化が進んでいる。電子回路の回路幅を25μm程度まで狭くすることで、高密度な回路を形成することが可能となる一方、一部の接着剤ではこのような微細な回路間を完全に埋め込むことができず、絶縁不良が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/047289号
【文献】国際公開第2020/196718号
【文献】特許第7192848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の接着剤はエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤を含有するために極性が高く、特に誘電正接に対する高度な要求を満足できない。特許文献2に記載の接着剤は、FPC接着剤として優れた耐熱性を有しているとは言い難く、誘電特性に関しても不十分である。特許文献3に記載の接着剤は酸変性ポリオレフィンとエポキシ樹脂の配合物に対し、さらに未変性ポリオレフィンを添加することで誘電特性を向上できているものの、添加する未変性ポリオレフィンの分子量が大きく、溶融粘度が高いために回路埋込性が不足し、絶縁不良が発生する恐れがある。
【0006】
本発明は、かかる従来技術課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、はんだ耐熱性、接着強度に優れ、さらに回路埋込性が良好で、比誘電率および誘電正接の低い誘電特性にも優れた接着剤組成物、並びにそれを含む接着シート、積層体およびプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0008】
[1] 酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含む接着剤組成物であり、
前記化合物(A)の含有量が、前記酸変性樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
化合物(A):ヘテロ原子を有しておらず、重量平均分子量が10,000以上70,000以下であり、25℃でのシクロヘキサンへの溶解度が25g/100g-C612以上であるプロピレン-エチレン共重合体。
[2] 前記酸変性樹脂が酸変性ポリオレフィンである[1]に記載の接着剤組成物。
[3] 前記エポキシ樹脂(B)が多官能エポキシ樹脂である[1]または[2]に記載の接着剤組成物。
[4] 化合物(A)の170℃における溶融粘度が10,000mPa・s以下である[1]~[3]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の接着剤組成物を含有する接着シート。
[6] [1]~[4]のいずれか1つに記載の接着剤組成物を含有する積層体。
[7] [6]に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接着剤組成物は、はんだ耐熱性、接着強度に優れ、さらに回路埋込性が良好で、誘電特性にも優れている。このため、高周波領域のFPC用接着剤、接着シート、積層体およびプリント配線板に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態について以下に詳述する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、既述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できる。
【0011】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含む接着剤組成物であり、前記化合物(A)の含有量が、前記酸変性樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であることを特徴とする。
化合物(A):ヘテロ原子を有しておらず、重量平均分子量が10,000以上70,000以下であり、25℃でのシクロヘキサンへの溶解度が25g/100g-C612以上であるプロピレン-エチレン共重合体。
本発明では、酸変性樹脂およびエポキシ樹脂(B)を含む接着剤組成物に、特定の性質を有する化合物(A)を所定量配合することによって、はんだ耐熱性、接着強度に優れ、さらに回路埋込性が良好で、誘電特性にも優れた接着剤組成物が提供される。
【0012】
<化合物(A)>
本発明における化合物(A)は、ヘテロ原子を有しておらず、重量平均分子量が10,000以上70,000以下であり、25℃でのシクロヘキサンへの溶解度が25g/100g-C612以上であるプロピレン-エチレン共重合体である。ヘテロ原子を含まないことで誘電特性に優れる接着剤とすることができる。また本発明者らが検討したところ、化合物(A)の重量平均分子量を下げることで、回路幅の狭い電子回路であっても回路間を空隙が無いように接着剤で充填できることがわかった。そして化合物(A)として特にプロピレン-エチレン共重合体を選択することにより、他のポリオレフィン樹脂に比べ架橋特性を良好にでき、これによりはんだ耐熱性にも優れた接着剤組成物が提供されることを見出した。本発明のようにはんだ耐熱性に優れ、良好な回路埋込性を示す接着剤組成物は、プリント基板の絶縁性を高める観点から極めて有用である。
【0013】
化合物(A)がヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、塩素原子等)を有していないとは、化合物(A)がその分子構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を含まないこと(すなわち化合物(A)は炭素原子及び水素原子からなるプロピレン-エチレン共重合体)をいう。化合物(A)は特に未変性のプロピレン-エチレン共重合体をいい、より具体的には酸で変性されていないプロピレン-エチレン共重合体をいう。
【0014】
化合物(A)のプロピレン-エチレン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにエチレンが共重合されたものである。プロピレン-エチレン共重合体のプロピレン成分とエチレンとの比率は限定されないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。また、これらの原料は石油由来の原料だけではなく、バイオマスナフサや廃プラスチックを利用するケミカルリサイクル技術を用いて得られた原料を使用しても良い。
【0015】
化合物(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは11,000以上52,000以下、より好ましくは12,000以上47,000以下、さらに好ましくは13,000以上42,000以下、よりさらに好ましくは14,000以上35,000以下、特に好ましくは15,000以上29,000以下である。前記上限値以下とすることで流動性が良好となり、優れた回路埋込性を発現することができる。また前記下限値以上とすることで優れたはんだ耐熱性を発現することができる。
【0016】
化合物(A)の25℃でのシクロヘキサンへの溶解度は、好ましくは30g/100g-C612以上であり、より好ましく40g/100g-C612以上であり、さらに好ましく50g/100g-C612以上、よりさらに好ましくは100g/100g-C612以上、殊更好ましくは150g/100g-C612以上、特に好ましくは200g/100g-C612以上であり、上限は特に限定されないが好ましくは3,000g/100g-C612以下であり、より好ましくは2,000g/100g-C612以下であり、さらに好ましくは1,000g/100g-C612以下であり、殊更好ましくは800g/100g-C612以下、特に好ましくは500g/100g-C612以下である。前記下限値を下回ると、化合物(A)が溶剤に溶解せず接着剤組成物が得られない場合がある。一方前記上限値以下とすることで作業性に優れた接着剤組成物となる。
【0017】
化合物(A)の融点は、例えば60℃以上250℃以下であり、好ましくは70℃以上150℃以下、より好ましくは75℃以上120℃以下、さらに好ましくは80℃以上100℃以下である。化合物(A)の融点を下限値以上にすることで、作業性に優れた接着剤組成物となる。また上限値以下にすることで、回路埋込後の反応でエポキシ樹脂(B)との反応が良好となり、架橋密度向上(耐熱性向上)に有利である。
【0018】
化合物(A)の170℃における溶融粘度は、例えば10,000mPa・s以下、好ましくは7,000mPa・s以下、より好ましくは5,000mPa・s以下、さらに好ましくは3,000mPa・s以下である。化合物(A)による回路埋込性の効果を考えると、170℃における溶融粘度は低いほど好ましい。下限は特に限定されないが、一般的には10mPa・s以上である。
【0019】
本発明の接着剤組成物における化合物(A)の含有量は、酸変性樹脂(特に酸変性樹脂の固形分)100質量部に対して、好ましくは15質量部以上37質量部以下、より好ましくは25質量部以上35質量部以下である。上限値を超えると相対的に酸変性樹脂の量が減り、架橋密度が低下するためはんだ耐熱性が悪化する場合がある。一方下限値を下回ると、化合物(A)を配合することによる効果が十分に発揮されないため、回路埋込性が悪化する場合がある。また化合物(A)の含有量が増えると、誘電正接が良好になる傾向にある。すなわち前記上下限値の範囲内とすることで、優れた誘電特性、はんだ耐熱性および回路埋込性を発現することができる。
【0020】
本発明における溶解度、融点、溶融粘度、重量平均分子量は以下の方法を用いて求めた。
【0021】
(溶解度)
100gのシクロヘキサンと樹脂を25℃で1時間混合して樹脂の飽和溶液を作製し、得られた飽和溶液中の樹脂の濃度(g/100g-C612)を溶解度とした。
【0022】
(重量平均分子量(Mw))
本発明における重量平均分子量は(株)島津製作所製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-802 + KF-804L + KF-806L、カラム温度:30℃、流速:1.0ml/分、検出器:RI検出器)によって測定した値である。
【0023】
(融点の測定)
本発明における融点は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、20℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度から測定した値である。
【0024】
(溶融粘度)
溶融粘度は170℃の回転式粘度計を使用してDIN53019に準拠して測定した値である。
【0025】
なお本発明に係る接着剤組成物は、化合物(A)以外のヘテロ原子を有さないポリオレフィン樹脂(以下、化合物(AZ)と称する)を含むことを妨げない。化合物(AZ)のポリオレフィン樹脂とは、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン等に例示されるオレフィンモノマーの単独重合、もしくはその他のモノマーとの共重合、および得られた重合体の水素化物やハロゲン化物など、炭化水素骨格を主体とする重合体を指し、プロピレン-α-オレフィン共重合体の他に、シクロオレフィンポリマーも含む(ただし化合物(A)は除く)。
【0026】
化合物(AZ)におけるプロピレン-α-オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。これらのα-オレフィンの中では、エチレン、1-ブテンが好ましい。プロピレン-α-オレフィン共重合体のプロピレン成分とα-オレフィン成分との比率は限定されないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。また、これらの原料は石油由来の原料だけではなく、バイオマスナフサや廃プラスチックを利用するケミカルリサイクル技術を用いて得られた原料を使用しても良い。
【0027】
化合物(AZ)におけるシクロオレフィンポリマーとしては、1種のみのシクロオレフィンモノマーから作製されるホモポリマー(COP)、または1種以上のシクロオレフィンモノマーおよびコモノマーから構成されるコポリマー(COC)のいずれも使用できる。
【0028】
前記シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0029】
また、前記コモノマーとしては上述したシクロオレフィンモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、例えば、アルケンモノマーが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィンやイソブテンなどが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0030】
シクロオレフィンポリマーを構成する単量体成分は、その50質量%以上が前記シクロオレフィン系モノマーであることが好ましく、より好ましくは60質量%以上が前記シクロオレフィン系モノマーである。シクロオレフィンモノマーが単量体成分全体の50質量%以上であると、はんだ耐熱性が良好なものとなる。単量体成分を重合する際の重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0031】
<酸変性樹脂>
本発明で用いる酸変性樹脂は、酸成分を用いて変性が施された樹脂である。酸変性された樹脂を用いることで、銅箔等の金属基材との密着性に優れ、また後記のエポキシ樹脂(B)のエポキシ基との架橋反応により、はんだ耐熱性に優れた接着剤層を形成できる。
【0032】
本発明で用いる酸変性樹脂は、例えば、元となる樹脂を不飽和カルボン酸成分により変性したり、あるいは元となる樹脂の重合時に不飽和カルボン酸成分を共重合したりすることにより作製することができる。不飽和カルボン酸成分としては、特に限定されず、α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種が好ましく、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。中でもマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が好ましく、酸無水物がより好ましく、無水マレイン酸がさらに好ましい。
【0033】
本発明に用いる酸変性樹脂の酸価は、耐熱性および樹脂基材や金属基材との接着性の観点から、下限は10当量/106g以上であることが好ましく、より好ましくは20当量/106g以上であり、さらに好ましくは30当量/106g以上である。前記の値以上であることで、エポキシ樹脂(B)等との相溶性が上がり、接着強度が向上したり、また架橋密度が上がったりすることで耐熱性も向上できる。上限は1000当量/106g以下であることが好ましく、より好ましくは700当量/106g以下であり、さらに好ましくは500当量/106g以下である。前記の値以下であると、接着性、低誘電特性がより良好となる。
【0034】
本発明に用いる酸変性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000~1,000,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~500,000の範囲であり、さらに好ましくは40,000~200,000の範囲であり、特に好ましくは50,000~150,000の範囲である。前記下限値以上とすることで凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで流動性に優れ、操作性が良好となる。
【0035】
本発明で用いる酸変性樹脂としては、低誘電特性が良好であることから、炭化水素を主体とする樹脂を酸変性した酸変性樹脂であることが好ましく、例えば、酸変性ポリスチレン樹脂、酸変性シクロオレフィンポリマー、酸変性ポリオレフィンが好ましく、酸変性ポリオレフィンがより好ましい。さらにポットライフ性の観点からは、酸変性ポリスチレン樹脂、酸変性シクロオレフィンポリマーが好ましい。酸変性樹脂は1種類または2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
本発明の酸変性樹脂は、周波数10GHzにおける比誘電率(εc)が2.7以下であることが好ましい。より好ましくは2.6以下であり、さらに好ましくは2.3以下である。下限は特に限定されないが、実用上は2.0である。また、周波数1GHz~60GHzの全領域における比誘電率(εc)が2.7以下であることが好ましく、2.6以下であることがより好ましく、2.3以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の酸変性樹脂は、周波数10GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.003以下であることが好ましい。より好ましくは0.0025以下であり、さらにより好ましくは0.002以下である。下限は特に限定されないが、実用上は0.0001以上である。また、周波数1GHz~60GHzの全領域における誘電正接(tanδ)が0.003以下であることが好ましく、0.0025以下であることがより好ましく、0.002以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の接着剤組成物における酸変性樹脂の含有量は、接着剤組成物の固形分100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下がよりさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましく、75質量%以下であってもよい。前記の範囲内であると、接着性や耐熱性が良好となるため好ましい。
【0039】
<酸変性ポリオレフィン>
本発明では、酸変性樹脂として、酸変性ポリオレフィンを好ましく用いることができる。本発明で用いる酸変性ポリオレフィンは限定的ではないが、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸成分(好ましくはα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種)をグラフトすることにより得られるものであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂とは、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン等に例示されるオレフィンモノマーの単独重合、もしくはその他のモノマーとの共重合、および得られた重合体の水素化物やハロゲン化物など、炭化水素骨格を主体とする重合体を指す。酸変性ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレン-α-オレフィン共重合体の少なくとも1種に、α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。
【0040】
プロピレン-α-オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。これらのα-オレフィンの中では、エチレン、1-ブテンが好ましい。プロピレン-α-オレフィン共重合体のプロピレン成分とα-オレフィン成分との比率は限定されないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。また、これらの原料は石油由来の原料だけではなく、バイオマスナフサや廃プラスチックを利用するケミカルリサイクル技術を用いて得られた原料を使用しても良い。
【0041】
不飽和カルボン酸成分としてはα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種が好ましく、具体的な例示は前述の通りであり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。すなわち、酸変性ポリオレフィンとして具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン-ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
酸変性ポリオレフィンの酸価は、耐熱性および樹脂基材や金属基材との接着性の観点から、下限は89当量/106g以上であることが好ましく、より好ましくは107当量/106g以上であり、さらに好ましくは125当量/106g以上である。前記下限値以上とすることでエポキシ樹脂(B)との相溶性が良好となり、優れた接着強度を発現することができる。また、架橋密度が高くはんだ耐熱性が良好となる。上限は713当量/106g以下であることが好ましく、より好ましくは534当量/106g以下であり、さらに好ましくは356当量/106g以下である。前記上限値以下とすることで接着性が良好となる。また、溶液の粘度や安定性が良好となり、優れたポットライフ性を発現できる。さらに製造効率も向上する。
【0043】
酸変性ポリオレフィンは、結晶性の酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。本発明でいう結晶性とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、-100℃から250℃まで20℃/分で昇温し、該昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。
【0044】
酸変性ポリオレフィンの融点(Tm)は、50℃~120℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは60℃~100℃の範囲であり、最も好ましくは70℃~90℃の範囲である。前記下限値以上とすることで結晶由来の凝集力が良好となり、優れた接着性やはんだ耐熱性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで溶液安定性、流動性に優れ、接着時の操作性が良好となる。
【0045】
酸変性ポリオレフィンの融解熱量(ΔH)は、5J/g~60J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは10J/g~50J/gの範囲であり、最も好ましくは20J/g~40J/gの範囲である。前記下限値以上とすることで結晶由来の凝集力が良好となり、優れた接着性やはんだ耐熱性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで溶液安定性、流動性に優れ、接着時の操作性が良好となる。
【0046】
酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~400,000の範囲であり、さらに好ましくは40,000~200,000の範囲であり、特に好ましくは50,000~100,000の範囲である。前記下限値以上とすることで凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで流動性に優れ、操作性が良好となる。
【0047】
酸変性ポリオレフィンの製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸成分(好ましくはα,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物)をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0048】
<酸変性ポリスチレン樹脂>
本発明では、酸変性樹脂として、酸変性ポリスチレン樹脂を好ましく用いることができる。酸変性ポリスチレン樹脂は限定的ではないが、芳香族ビニル化合物単独もしくは、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック及び/又はランダム構造を主体とする共重合体、並びにその水素添加物を、不飽和カルボン酸成分で変性したものであることが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレン等が挙げられる。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。また、これらの原料は石油由来の原料だけではなく、バイオマスナフサや廃プラスチックを利用するケミカルリサイクル技術を用いて得られた原料を使用しても良い。これら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。不飽和カルボン酸成分としてはα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種が好ましく、具体的な例示は前述の通りであり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0049】
酸変性ポリスチレン樹脂の酸価は、耐熱性および樹脂基材や金属基材との接着性の観点から、下限は10当量/106g以上であることが好ましく、より好ましくは20当量/106g以上であり、さらに好ましくは50当量/106g以上である。前記下限値以上とすることでエポキシ樹脂(B)との相溶性が良好となり、優れた接着強度を発現することができる。また、架橋密度が高くはんだ耐熱性が良好となる。上限は500当量/106g以下であることが好ましく、より好ましくは400当量/106g以下であり、さらに好ましくは300当量/106g以下である。前記上限値以下とすることで接着性が良好となる。また、溶液の粘度や安定性が良好となり、優れたポットライフ性を発現できる。さらに製造効率も向上する。
【0050】
<酸変性シクロオレフィンポリマー>
本発明では、酸変性樹脂として、酸変性シクロオレフィンポリマーを使用することも好ましい。酸変性シクロオレフィンポリマーは、シクロオレフィンポリマーに不飽和カルボン酸成分により変性することによってカルボキシ基を導入したものであり、シクロオレフィンポリマーとしては、1種のみのシクロオレフィンモノマーから作製されるホモポリマー(COP)、または1種以上のシクロオレフィンモノマーおよびコモノマーから構成されるコポリマー(COC)のいずれも使用できる。また不飽和カルボン酸成分としてはα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種が好ましく、具体的な例示は前述の通りであり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0051】
前記シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。また、これらの原料は石油由来の原料だけではなく、バイオマスナフサや廃プラスチックを利用するケミカルリサイクル技術を用いて得られた原料を使用しても良い。
【0052】
また、前記コモノマーとしては上述したシクロオレフィンモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、例えば、アルケンモノマーが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィンやイソブテンなどが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0053】
酸変性シクロオレフィンポリマーを構成する単量体成分は、その50質量%以上が前記シクロオレフィンモノマーであることが好ましく、より好ましくは60質量%以上が前記シクロオレフィンモノマーである。シクロオレフィンモノマーが単量体成分全体の50質量%以上であると、はんだ耐熱性が良好なものとなる。単量体成分を重合する際の重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0054】
酸変性シクロオレフィンポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~400,000の範囲であり、さらに好ましくは40,000~200,000の範囲であり、特に好ましくは50,000~100,000の範囲である。前記下限値以上とすることで凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで流動性に優れ、操作性が良好となる。
【0055】
酸変性シクロオレフィンポリマーの酸価は、耐熱性および樹脂基材や金属基材との接着性の観点から、下限は89当量/106g以上であることが好ましく、より好ましくは107当量/106g以上であり、さらに好ましくは125当量/106g以上である。前記下限値以上とすることでエポキシ樹脂(B)との相溶性が良好となり、優れた接着強度を発現することができる。また、架橋密度が高くはんだ耐熱性が良好となる。上限は713当量/106g以下であることが好ましく、より好ましくは534当量/106g以下であり、さらに好ましくは356当量/106g以下である。前記上限値以下とすることで接着性が良好となる。また、溶液の粘度や安定性が良好となり、優れたポットライフ性を発現できる。さらに製造効率も向上する。
【0056】
<エポキシ樹脂>
本発明の接着剤組成物はエポキシ樹脂(B)を含有する。本発明で用いるエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂である。具体的には、特に限定されないが、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジグリシジルモノアリルイソシアヌレートおよびエポキシ変性ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。好ましくは、ジグリシジルモノアリルイソシアヌレート、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂またはエポキシ変性ポリブタジエンである。中でも、分子中に不飽和炭化水素基(好ましくはアリル基CH=CH-CH-*)を有する多官能エポキシ樹脂がより好ましく、具体的には、ジグリシジルモノアリルイソシアヌレートであり、ジグリシジルモノアリルイソシアヌレートであれば特に優れた誘電特性と接着性を発現させることができる。
【0057】
本発明の接着剤組成物において、エポキシ樹脂(B)の含有量は、酸変性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であり、さらに好ましくは1質量部以上である。前記下限値以上とすることで、十分な硬化効果が得られ、優れた接着性およびはんだ耐熱性を発現することができる。また、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下である。前記上限値以下とすることで、ポットライフ性および低誘電特性が良好となる。すなわち、上記範囲内とすることで、接着性、はんだ耐熱性に加え、優れた低誘電特性を有する接着剤組成物を得ることができる。
【0058】
<ポリカルボジイミド>
本発明の接着剤組成物はポリカルボジイミドを含有することができる。ポリカルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド結合を2個以上有するものであれば特に限定されない。ポリカルボジイミドを使用することによって、酸変性樹脂のカルボキシ基やエポキシ樹脂(B)のエポキシ基とカルボジイミド結合とが反応し、耐熱性や接着性を向上することができる。
【0059】
本発明の接着剤組成物において、ポリカルボジイミドの含有量は、酸変性樹脂100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは3質量部以上である。前記下限値以上とすることで架橋密度を高めることができ、はんだ耐熱性が良好となる。また、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下である。前記上限値以下とすることで優れたはんだ耐熱性および低誘電特性を発現することができる。すなわち、上記範囲内とすることで、優れたはんだ耐熱性および低誘電特性を有する接着剤組成物を得ることができる。
【0060】
<不飽和炭化水素>
本発明の接着剤組成物は、末端不飽和炭化水素基を有し、かつ5%重量減少温度が260℃以上である不飽和炭化水素を含有してもよい。不飽和炭化水素を含有すると、不飽和炭化水素が末端不飽和炭化水素基を有することで、ラジカル開始剤などを使用することで発生したラジカルによる硬化反応によって架橋密度を高め、はんだ耐熱性を向上することができる。また、反応後に誘電特性を悪化させる水酸基を発生させないため、より優れた誘電特性を有する接着剤とすることができる。末端不飽和炭化水素基は、1分子中に2個以上有することが、より架橋密度を高められるため好ましい。
【0061】
不飽和炭化水素の5%重量減少温度は260℃以上であることが必要である。好ましくは270℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは290℃以上である。5%重量減少温度が前記値以上にあることで、はんだの融点を超える温度でも外観不良を発生させることなく、はんだ付けを行うことが可能となる。上限は特に限定されないが、500℃が実用的である。
【0062】
不飽和炭化水素は、構造単位として芳香環構造または脂環構造を有していることが好ましい。構造単位として芳香環構造または脂環構造を有することではんだ耐熱性を向上でき、かつ誘電特性にも優れる。中でも芳香環構造または脂環構造を不飽和炭化水素の骨格として有することが好ましく、ポリフェニレンエーテルまたはフェノール樹脂であることが好ましい。末端不飽和炭化水素基を有するポリフェニレンエーテルの具体例としては、SABIC社のSA-9000や三菱ガス化学社のOPE-2Stが挙げられる。また、末端不飽和炭化水素基を有するフェノール樹脂としては、群栄化学工業社のレヂトップFTC-809AEが例示される。
【0063】
不飽和炭化水素の数平均分子量としては、500以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上である。また、100000以下であることが好ましく、より好ましくは10000以下であり、さらに好ましくは5000以下である。前記の範囲内であると、溶剤への溶解性が良好であり、均一な接着剤塗膜を形成することができる。
【0064】
本発明の接着剤組成物における不飽和炭化水素の含有量としては、酸変性樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは2質量部以上である。また、100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下である。前記の範囲内であると、優れた接着性とはんだ耐熱性を両立することができる。
【0065】
<ラジカル発生剤>
本発明の接着剤組成物はラジカル発生剤を含むことも好ましい。ラジカル発生剤によって発生したラジカルが不飽和炭化水素の末端不飽和炭化水素基同士を効率的に反応させ、架橋密度を高めることで、はんだ耐熱性や誘電特性を向上させることができる。ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0066】
本発明に用いられるラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、140℃以上であることが好ましい。140℃以上にすることで、接着剤組成物ワニスの溶剤を揮発させて接着シートを作成する際にラジカル反応が開始することを防ぎ、優れた接着性を発現することができる。
【0067】
本発明に用いられるラジカル発生剤の配合量としては、不飽和炭化水素100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、さらに好ましくは1質量部以上である。また、50質量部以下が好ましく、さらに好ましくは10質量部以下である。上記範囲内にすることによって、最適な架橋密度とすることができ、接着性とはんだ耐熱性を両立することができる。
【0068】
<有機溶剤>
本発明の接着剤組成物は、さらに有機溶剤を含有することができる。本発明で用いる有機溶剤は、酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を溶解させるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素、トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノn-ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤等を使用することができ、これら1種または2種以上を併用することができる。特に作業環境性、乾燥性から、メチルシクロへキサンやトルエンが好ましい。
【0069】
有機溶剤は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して、100~1000質量部の範囲であることが好ましい。前記下限値以上とすることで液状およびポットライフ性が良好となる。また、前記上限値以下とすることで製造コストや輸送コストの面から有利となる。
【0070】
また、本発明の接着剤組成物には、さらに他の成分を必要に応じて含有してもよい。このような成分の具体例としては、難燃剤、粘着付与剤、フィラー、酸化防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0071】
<難燃剤>
本発明の接着剤組成物には必要に応じて難燃剤を配合しても良い。難燃剤としては、臭素系、リン系、窒素系、水酸化金属化合物等が挙げられる。中でも、リン系難燃剤が好ましく、リン酸エステル、例えば、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等、リン酸塩、例えばホスフィン酸アルミニウム等、ホスファゼン等の公知のリン系難燃剤を使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。難燃剤を含有させる場合、酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、難燃剤を1~200質量部の範囲で含有させることが好ましく、5~150質量部の範囲がより好ましく、10~100質量部の範囲が最も好ましい。前記範囲内とすることで接着性、はんだ耐熱性および電気特性を維持しつつ、難燃性を発現することができる。
【0072】
<粘着付与剤>
本発明の接着剤組成物には必要に応じて粘着付与剤を配合しても良い。粘着付与剤としては、ポリテルペン樹脂、ロジン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、スチレン樹脂および水添石油樹脂等が挙げられ、接着強度を向上させる目的で用いられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。粘着付与剤を含有させる場合、酸変性樹脂、化合物(A)、およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、1~200質量部の範囲で含有させることが好ましく、5~150質量部の範囲がより好ましく、10~100質量部の範囲が最も好ましい。前記範囲内とすることで接着性、はんだ耐熱性および電気特性を維持しつつ、粘着付与剤の効果を発現することができる。
【0073】
<フィラー>
本発明の接着剤組成物には必要に応じてフィラーを配合しても良い。有機フィラーとしては、耐熱性樹脂であるポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、液晶ポリエステルなどの粉末が挙げられる。また、無機フィラーとしては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)、酸化タンタル(Ta25)、ジルコニア(ZrO2)、窒化硅素(Si34)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO2)、硫酸バリウム(BaSO4)、有機ベントナイト、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、この中では分散の容易さや耐熱性向上効果からシリカが好ましい。
【0074】
シリカとしては一般に疎水性シリカと親水性シリカが知られているが、ここでは耐吸湿性を付与する上でジメチルジクロロシランやヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン等で処理を行った疎水性シリカの方が良い。シリカを配合する場合、その配合量は、酸変性樹脂、化合物(A)、およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.05~30質量部の配合量であることが好ましい。前記下限値以上とすることで更なる耐熱性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることでシリカの分散不良や溶液粘度が高くなりすぎることを抑え、作業性が良好となる。
【0075】
<酸化防止剤>
本発明の接着剤組成物には必要に応じて酸化防止剤を配合しても良い。酸化防止剤を配合することにより、空気に触れる高温環境下において使用された場合にも接着性や誘電特性などの特性が低下することを抑制することができるため好ましい。酸化防止剤としては特に限定されないが、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
接着剤組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して、0.5~5質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記範囲内であれば、空気に触れる高温環境下において使用された場合にも接着性や誘電特性などの特性が低下することを抑制することができる。
【0077】
<シランカップリング剤>
本発明の接着剤組成物には必要に応じてシランカップリング剤を配合しても良い。シランカップリング剤を配合することにより金属への接着性や耐熱性の特性が向上するため非常に好ましい。シランカップリング剤としては特に限定されないが、不飽和基を有するもの、エポキシ基を有するもの、アミノ基を有するものなどが挙げられる。これらのうち耐熱性の観点からγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有したシランカップリング剤がさらに好ましい。シランカップリング剤を配合する場合、その配合量は酸変性樹脂、化合物(A)、およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.5~20質量部の配合量であることが好ましい。前記範囲内とすることではんだ耐熱性や接着性を向上することができる。
【0078】
<積層体>
本発明の積層体は、基材に接着剤組成物を積層したもの(基材/接着剤層の2層積層体)、または、さらに基材を貼り合わせたもの(基材/接着剤層/基材の3層積層体)である。ここで、接着剤層とは、本発明の接着剤組成物を基材に塗布し、乾燥させた後の接着剤組成物の層をいう。本発明の接着剤組成物を、常法に従い、各種基材に塗布、乾燥すること、およびさらに他の基材を積層することにより、本発明の積層体を得ることができる。
【0079】
<基材>
本発明において基材とは、本発明の接着剤組成物を塗布、乾燥し、接着剤層を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、フィルム状樹脂等の樹脂基材、金属板や金属箔等の金属基材、紙類等を挙げることができる。
【0080】
樹脂基材としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂等を例示することができる。好ましくはフィルム状樹脂(以下、基材フィルム層ともいう)である。
【0081】
金属基材としては、回路基板に使用可能な任意の従来公知の導電性材料が使用可能である。素材としては、SUS、銅、アルミニウム、鉄、スチール、亜鉛、ニッケル等の各種金属、及びそれぞれの合金、めっき品、亜鉛やクロム化合物など他の金属で処理した金属等を例示することができる。好ましくは金属箔であり、より好ましくは銅箔である。金属箔の厚みについては特に限定はないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは、3μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。また、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。厚さが薄すぎる場合には、回路の充分な電気的性能が得られにくい場合があり、一方、厚さが厚すぎる場合には回路作製時の加工能率等が低下する場合がある。金属箔は、通常、ロール状の形態で提供されている。本発明のプリント配線板を製造する際に使用される金属箔の形態は特に限定されない。リボン状の形態の金属箔を用いる場合、その長さは特に限定されない。また、その幅も特に限定されないが、250~500cm程度であるのが好ましい。基材の表面粗度は特に限定はないが、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下ある。また実用上好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは、0.5μm以上であり、さらに好ましくは0.7μm以上である。
【0082】
紙類として上質紙、クラフト紙、ロール紙、グラシン紙等を例示することができる。また複合素材として、ガラスエポキシ等を例示することができる。
【0083】
接着剤組成物との接着力、耐久性から、基材としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、SUS鋼板、銅箔、アルミ箔、またはガラスエポキシが好ましい。
【0084】
<接着シート>
本発明において、接着シートとは、前記基材と離型基材とを接着剤組成物を介して積層したものである。具体的な構成態様としては、基材/接着剤層/離型基材、または離型基材/接着剤層/基材/接着剤層/離型基材が挙げられる。離型基材を積層することで基材の保護層として機能する。また離型基材を使用することで、接着シートから離型基材を離型して、さらに別の基材に接着剤層を転写することができる。
【0085】
本発明の接着剤組成物を、常法に従い、各種積層体に塗布、乾燥することにより、本発明の接着シートを得ることができる。また乾燥後、接着剤層に離型基材を貼付けると、基材への裏移りを起こすことなく巻き取りが可能になり操業性に優れるとともに、接着剤層が保護されることから保存性に優れ、使用も容易である。また離型基材に塗布、乾燥後、必要に応じて別の離型基材を貼付すれば、接着剤層そのものを他の基材に転写することも可能になる。
【0086】
<離型基材>
離型基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、上質紙、クラフト紙、ロール紙、グラシン紙などの紙の両面に、クレー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの目止剤の塗布層を設け、さらにその各塗布層の上にシリコーン系、フッ素系、アルキド系の離型剤が塗布されたものが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等の各種オレフィンフィルム単独、及びポリエチレンテレフタレート等のフィルム上に上記離型剤を塗布したものも挙げられる。離型基材と接着剤層との離型力、シリコーンが電気特性に悪影響を与える等の理由から、上質紙の両面にポリプロピレン目止処理しその上にアルキド系離型剤を用いたもの、またはポリエチレンテレフタレート上にアルキド系離型剤を用いたものが好ましい。
【0087】
なお、本発明において接着剤組成物を基材上にコーティングする方法としては、特に限定されないが、コンマコーター、リバースロールコーター、ダイコーター等が挙げられる。もしくは、必要に応じて、プリント配線板構成材料である圧延銅箔、またはポリイミドフィルムに直接もしくは転写法で接着剤層を設けることもできる。乾燥後の接着剤層の厚みは、必要に応じて、適宜変更されるが、好ましくは5~200μmの範囲である。接着フィルム厚を5μm以上とすることで十分な接着強度が得られる。また、200μm以下とすることで乾燥工程の残留溶剤量を制御しやすくなり、プリント配線板製造のプレス時にフクレが生じにくくなる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥後の残留溶剤率は1質量%以下が好ましい。1質量%以下とすることで、プリント配線板プレス時に残留溶剤が発泡することを抑え、フクレが生じにくくなる。
【0088】
<プリント配線板>
本発明におけるプリント配線板は、導体回路を形成する金属箔と樹脂基材とから形成された積層体を構成要素として含むものである。プリント配線板は、例えば、金属張積層体を用いてサブトラクティブ法などの従来公知の方法により製造される。必要に応じて、金属箔によって形成された導体回路を部分的、或いは全面的にカバーフィルムやスクリーン印刷インキ等を用いて被覆した、いわゆるフレキシブル回路板(FPC)、フラットケーブル、テープオートメーティッドボンディング(TAB)用の回路板などを総称している。
【0089】
本発明のプリント配線板は、プリント配線板として採用され得る任意の積層構成とすることができる。例えば、基材フィルム層、金属箔層、接着剤層、およびカバーフィルム層の4層から構成されるプリント配線板とすることができる。また例えば、基材フィルム層、接着剤層、金属箔層、接着剤層、およびカバーフィルム層の5層から構成されるプリント配線板とすることができる。
【0090】
さらに、必要に応じて、上記のプリント配線板を2つもしくは3つ以上積層した構成とすることもできる。
【0091】
本発明の接着剤組成物はプリント配線板の各接着剤層に好適に使用することが可能である。特に本発明の接着剤組成物を接着剤として使用すると、プリント配線板を構成する従来のポリイミド、ポリエステルフィルム、銅箔だけでなく、LCPなどの低極性の樹脂基材と高い接着性を有し、耐はんだリフロー性を得ることができ、接着剤層自身が低誘電特性に優れる。そのため、カバーレイフィルム、積層板、樹脂付き銅箔及びボンディングシートに用いる接着剤組成物として好適である。
【0092】
本発明のプリント配線板において、基材フィルムとしては、従来からプリント配線板の基材として使用されている任意の樹脂フィルムが使用可能である。基材フィルムの樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂等を例示することができる。特に、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂等の低極性基材に対しても、優れた接着性を有する。
【0093】
<カバーフィルム>
カバーフィルムとしては、プリント配線板用の絶縁フィルムとして従来公知の任意の絶縁フィルムが使用可能である。例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、アラミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂等の各種ポリマーから製造されるフィルムが使用可能である。より好ましくは、ポリイミドフィルムまたは液晶ポリマーフィルムである。
【0094】
本発明のプリント配線板は、上述した各層の材料を用いる以外は、従来公知の任意のプロセスを用いて製造することができる。
【0095】
好ましい実施態様では、カバーフィルム層に接着剤層を積層した半製品(以下、「カバーフィルム側半製品」という)を製造する。他方、基材フィルム層に金属箔層を積層して所望の回路パターンを形成した半製品(以下、「基材フィルム側2層半製品」という)または基材フィルム層に接着剤層を積層し、その上に金属箔層を積層して所望の回路パターンを形成した半製品(以下、「基材フィルム側3層半製品」という)を製造する(以下、基材フィルム側2層半製品と基材フィルム側3層半製品とを合わせて「基材フィルム側半製品」という)。このようにして得られたカバーフィルム側半製品と、基材フィルム側半製品とを貼り合わせることにより、4層または5層のプリント配線板を得ることができる。
【0096】
基材フィルム側半製品は、例えば、(A)前記金属箔に基材フィルムとなる樹脂の溶液を塗布し、塗膜を初期乾燥する工程、(B)(A)で得られた金属箔と初期乾燥塗膜との積層物を熱処理・乾燥する工程(以下、「熱処理・脱溶剤工程」という)を含む製造法により得られる。
【0097】
金属箔層における回路の形成は、従来公知の方法を用いることができる。アディティブ法を用いてもよく、サブトラクティブ法を用いてもよい。好ましくは、サブトラクティブ法である。
【0098】
得られた基材フィルム側半製品は、そのままカバーフィルム側半製品との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後にカバーフィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0099】
カバーフィルム側半製品は、例えば、カバーフィルムに接着剤を塗布して製造される。必要に応じて、塗布された接着剤における架橋反応を行うことができる。好ましい実施態様においては、接着剤層を半硬化させる。
【0100】
得られたカバーフィルム側半製品は、そのまま基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後に基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0101】
基材フィルム側半製品とカバーフィルム側半製品とは、それぞれ、例えば、ロールの形態で保管された後、貼り合わされて、プリント配線板が製造される。貼り合わせる方法としては、任意の方法が使用可能であり、例えば、プレスまたはロールなどを用いて貼り合わせることができる。また、加熱プレス、または加熱ロ-ル装置を使用するなどの方法により加熱を行いながら両者を貼り合わせることもできる。
【0102】
補強材側半製品は、例えば、ポリイミドフィルムのように柔らかく巻き取り可能な補強材の場合、補強材に接着剤を塗布して製造されることが好適である。また、例えばSUS、アルミ等の金属板、ガラス繊維をエポキシ樹脂で硬化させた板等のように硬く巻き取りできない補強板の場合、予め離型基材に塗布した接着剤を転写塗布することによって製造されることが好適である。また、必要に応じて、塗布された接着剤における架橋反応を行うことができる。好ましい実施態様においては、接着剤層を半硬化させる。
【0103】
得られた補強材側半製品は、そのままプリント配線板裏面との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後に基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0104】
基材フィルム側半製品、カバーフィルム側半製品、補強材側半製品はいずれも、本発明におけるプリント配線板用積層体である。
【実施例
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例において、単に部とあるのは質量部を示すこととする。
【0106】
<物性評価方法>
(酸価測定)
本発明における酸価(当量/106g)は、酸変性樹脂をトルエンに溶解し、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定した。
【0107】
(溶解度)
100gのシクロヘキサンと樹脂を25℃で1時間混合して樹脂の飽和溶液を作製し、得られた飽和溶液中の樹脂の濃度(g/100g-C612)を溶解度とした。この溶解性試験での樹脂濃度は最大100g/100g-C612とした。
【0108】
(重量平均分子量(Mw))
本発明における重量平均分子量は(株)島津製作所製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-802 + KF-804L + KF-806L、カラム温度:30℃、流速:1.0ml/分、検出器:RI検出器)によって測定した値である。
【0109】
(融点の測定)
本発明における融点は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、20℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度から測定した値である。
【0110】
(溶融粘度)
溶融粘度は170℃の回転式粘度計を使用してDIN53019に準拠して測定した値である。
【0111】
以下、本発明の実施例となる接着剤組成物、および比較例となる接着剤組成物の製造例を示す。
【0112】
化合物(A)としては、以下のものを用いた。
(a1):LICOCENE PP 1302(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度約250g/100g-C612、重量平均分子量19,100、溶融粘度(170℃)200mPa・s、融点90℃)
(a2):LICOCENE PP 1502(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度約250g/100g-C612、重量平均分子量46,900、溶融粘度(170℃)1,800mPa・s、融点86℃)
(a3):LICOCENE PP 1602(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度約250g/100g-C612、重量平均分子量50,000、溶融粘度(170℃)6,000mPa・s、融点88℃)
(a4):LICOCENE PP 2502(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度30g/100g-C612、重量平均分子量40,900、溶融粘度(170℃)2,000mPa・s、融点103℃)
【0113】
酸変性樹脂は、以下の通り製造した。
(製造例1)
1Lオートクレーブに、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製「ZEONEX(登録商標)RS420」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸19質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性シクロオレフィンポリマーと(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物を分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性シクロオレフィンポリマー(酸変性樹脂1、酸価339当量/106g、周波数10GHzにおける比誘電率2.0、周波数10GHzにおける誘電正接0.0008、重量平均分子量90,000)を得た。
【0114】
(製造例2)
1Lオートクレーブに、プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製「タフマー(登録商標)XM7080」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸19質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(酸変性樹脂2、酸価339当量/106g、重量平均分子量75,000、Tm80℃、△H35J/g)を得た。
【0115】
その他の酸変性樹脂としては以下のものを用いた。
(酸変性樹脂3):タフテックM1943(旭化成社製、スチレンとブタジエンからなるブロック共重合体の二重結合部分を水素添加したポリマーであって無水マレイン酸で変性されたもの、酸価185当量/106g)
【0116】
エポキシ樹脂(B)としては、以下のものを用いた。
(b1):MA-DGIC(四国化成工業社製、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート)
(b2):jER604(三菱ケミカル社製、グリシジルアミン型エポキシ樹脂)
(b3):EPICLON HP-7200(DIC社製、多官能ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)
【0117】
その他の接着剤配合成分としては、以下のものを用いた。
(c1):LICOCENE PP 2602(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度10g/100g-C612、重量平均分子量65,100、溶融粘度(170℃)6,300mPa・s、融点98℃)
(c2):LICOCENE PP 3602(Clariant社、プロピレン-エチレン共重合体、溶解度0g/100g-C612、重量平均分子量58,400、溶融粘度(170℃)9,300mPa・s、融点111℃)
(c3):L-MODU S901(出光興産製プロピレンホモポリマー、溶解度100g/100g-C612以上、重量平均分子量130,000、融点80℃)
(c4):SA9000(SABIC社製、ビニル基を有するポリフェニレンエーテル、数平均分子量1700、5%重量減少温度439℃)
(c5):LICOCENE PP 6102(Clariant社、プロピレンホモポリマー、溶解度0g/100g-C612、重量平均分子量9,000、溶融粘度(170℃)60mPa・s、融点145℃)
【0118】
<実施例1>
化合物(A)として(a1)を30部、酸変性樹脂として(酸変性樹脂2)を100部、エポキシ樹脂(B)として(b1)を4部、その他成分として(c4)を5部配合し、トルエンで固形分濃度24%に溶解したトルエン接着剤組成物(S1)を得た。
得られた接着剤組成物(S1)について、比誘電率、誘電正接、ピール強度、はんだ耐熱性、ワニス溶解性および回路埋込性の各評価を実施した。結果を表1に記載した。
【0119】
<実施例2~12、比較例1~9>
接着剤組成物の各成分の種類および配合量を表1~2に示すように変更した以外は実施例1と同様に接着剤組成物(S2)~(S21)を作製し、各評価を実施した。結果を表1~2に記載した。
【0120】
<接着剤組成物の評価>
(比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ))
接着剤組成物を厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートに、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。次いで180℃で3時間熱処理して硬化させた後、テフロン(登録商標)シートを剥離して試験用の接着剤シートを得た。その後得られた試験用接着剤シートを8cm×3mmの短冊状にサンプルを裁断し、試験用サンプルを得た。比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、温度23℃、周波数10GHzの条件で測定した。
<比誘電率の評価基準>
○:2.4以下
×:2.4を超える
<誘電正接の評価基準>
○:0.0010以下
△:0.0010を超え、0.0020未満
×:0.0020以上
【0121】
(ピール強度(接着性))
接着剤組成物を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル(登録商標))に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を厚さ18μmの圧延銅箔(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エスパネックスシリーズ)と貼り合わせた。貼り合わせは、圧延銅箔の光沢面が接着剤層と接する様にして、170℃で2MPaの加圧下に280秒間プレスし、接着した。次いで180℃で3時間熱処理して硬化させ、ピール強度評価用サンプルを得た。ピール強度は、25℃、フィルム引き、引張速度50mm/min、90°剥離の条件で測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。
<評価基準>
○:1.0N/mm以上
×:1.0N/mm未満
【0122】
(はんだ耐熱性)
上記のピール強度測定用と同じ方法で評価用サンプルを作製し、2.0cm×2.0cmのサンプル片を288℃で溶融したはんだ浴に浸漬し、膨れなどの外観変化の有無を確認した。
<評価基準>
○:60秒以上膨れ無し
△:30秒以上60秒未満で膨れ有り
×:30秒未満で膨れ有り
【0123】
(ワニス溶解性)
各成分を配合後、室温で攪拌した後の接着剤組成物の溶解性を確認した。
<評価基準>
○:すべての配合物が完全に溶解
△:配合物の一部が溶解しない
×:配合物が完全に溶解しない
【0124】
(回路埋込性)
厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル(登録商標))の片面に、乾燥後の厚みが25μmとなるように接着剤組成物を塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を厚さ18μmの圧延銅箔(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エスパネックスシリーズ)に25μmのピッチで回路が形成された基材と貼り合わせた。貼り合わせは、回路面が接着剤層と接する様にして、170℃で2MPaの加圧下に280秒間プレスし、接着した。回路に沿って、貼り合わせ面から流れ出した接着剤の流れ出し量をマイクロスコープで計測した。この試験を、接着性フィルム作製直後と25℃で1週間保管した接着性フィルム(Bステージ品)とで実施し、測定値の変化を確認した。25℃で1週間保管後の測定値が初期測定値に対して50%未満まで減少する場合、実用条件下で回路埋込性を満足できず、プリント基板の絶縁不良が発生する恐れがある。
<評価基準>
○:変化率 80%以上100%以下
△:変化率 50%以上80%未満
×:変化率 50%未満
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表1から明らかなように、実施例1~12は、誘電特性、ピール強度、はんだ耐熱性、および回路埋込性に優れる。また実施例1~12はワニス溶解性も良好である。
実施例2~5が示すように、化合物(A)の含有量が増えることで、誘電特性が改善することがわかる。
実施例1、3、6、7を比較すると、化合物(A)が有する性質によって、はんだ耐熱性、ワニス溶解性、回路埋込性を変化させることができる。
実施例3、10~11を比較すると、エポキシ樹脂(B)として特に分子中に不飽和炭化水素基を有するものを配合すると、誘電特性をさらに改善できる。
実施例12では(c4)を配合しなかったが、実施例3との比較により、(c4)は優れた接着性とはんだ耐熱性向上に寄与する。
【0128】
一方、比較例1では、化合物(A)の量が少なすぎるために、25℃で1週間接着性フィルムを保管した後に流動性を失い、回路埋込性が悪化した。
比較例2では、化合物(A)の量が多すぎるために、相対的に酸変性樹脂の量が減り、接着剤組成物としてのはんだ耐熱性が悪かった。
比較例3および比較例4では、化合物(A)の代わりに溶解度の低いプロピレン-エチレン共重合体を用いたが、これらのプロピレン-エチレン共重合体は結晶性が高いため溶剤に溶解することができず、各種評価を行うことができなかった。
比較例5~9が示すように、プロピレンホモポリマーを配合すると、回路埋込性やはんだ耐熱性を満足できる接着剤組成物は得られなかった。
比較例7では、未変性のポリオレフィン樹脂を全く配合しなかったため、誘電特性や回路埋込性が悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の接着剤組成物は、はんだ耐熱性、接着強度に優れ、比誘電率および誘電正接が低く、また回路埋込性も良好である。そのため、高周波領域のFPC用接着剤や接着シートとして有用である。
【要約】
【課題】本発明は、はんだ耐熱性、接着強度に優れ、さらに回路埋込性が良好で、比誘電率および誘電正接の低い誘電特性にも優れた接着剤組成物、並びにそれを含む接着シート、積層体およびプリント配線板を提供する。
【解決手段】本発明の接着剤組成物は、酸変性樹脂、化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含む接着剤組成物であり、前記化合物(A)の含有量が、前記酸変性樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であることを特徴とする。
化合物(A):ヘテロ原子を有しておらず、重量平均分子量が10,000以上70,000以下であり、25℃でのシクロヘキサンへの溶解度が25g/100g-C612以上であるプロピレン-エチレン共重合体。
【選択図】なし