(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】純銅材、絶縁基板、電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20240228BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20240228BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240228BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B1/02 A
C22F1/00 604
C22F1/00 605
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 650A
C22F1/00 650F
C22F1/00 661A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/08 B
(21)【出願番号】P 2023120990
(22)【出願日】2023-07-25
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022121432
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大平 拓実
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/177469(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/107096(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177470(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177460(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/122112(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
H01B 1/02
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、
圧延面における平均結晶粒径が10μm以上であり、
EBSD法により1mm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のLOS(Local Orientation Spread)の平均値が2.00°以下であることを特徴とする純銅材。
【請求項2】
EBSD法により1mm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGOS(Grain Orientation Spread)の平均値が2.00°以下であることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項3】
EBSD法により1mm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の標準偏差の値が0.75°以下であることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項4】
EBSD法により1mm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGND(Geometrically Necessary Dislocations)の平均値が5.0×10
14m
-2以下であることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項5】
Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を合計量で300massppm以下含むことを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項6】
前記添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物を有し、前記化合物の個数密度が1×10
-4個/μm
2以上であることを特徴とする請求項5に記載の純銅材。
【請求項7】
前記化合物がCu
5Ca,Cu
5Sr,Cu
13Baから選択される一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項6に記載の純銅材。
【請求項8】
S,Se,Teから選択される一種または二種以上を合計量で10.0massppm以下含むことを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項9】
Oの含有量が100massppm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項10】
Pの含有量が0.01massppm以上3.00massppm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項11】
Ca,Sr,Baの合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bが1.0を超えていることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項12】
Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含むことを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項13】
Mgを100massppm以下の量で含むことを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項14】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された銅板と、を備え、前記銅板が請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の純銅材で構成されていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項15】
請求項14に記載の絶縁基板と、前記絶縁基板に搭載された電子部品とを有することを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品に適した純銅材であって、特にパワー半導体などが搭載される絶縁基板に用いられる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品には、導電性の高い純銅材が用いられている。
最近では、電気・電子機器用部品に用いられる電流量の増大にともない、抵抗発熱が問題となっている。
半導体装置等においては、例えば、セラミックス基板に純銅材を接合し、上述のヒートシンクや厚銅回路を構成した絶縁基板等が用いられている。
【0003】
セラミックス基板と純銅材を接合する際には、高温雰囲気中で加圧処理を行うため、純銅材の結晶粒径の粗大化や不均一な成長によって、接合不良や外観不良、検査工程での不具合を起こすことがある。
この問題点を解決するために、純銅材には、熱処理後においても、結晶粒径の変化が少なく、かつその大きさが均一であることが求められている。
【0004】
そこで、例えば特許文献1,2には、純銅材において結晶粒の成長を抑制する技術が提案されている。
この特許文献1においては、Sを0.0006~0.0015wt%含有することにより、再結晶温度以上で熱処理しても、一定の大きさの結晶粒に調整可能であると記載されている。
また、特許文献2においては、Caを含有するとともに、Caの含有量とO,S,Se,Teの合計含有量との比を規定することにより、800℃で熱処理しても結晶粒の粗大化を抑制可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-002058号公報
【文献】国際公開第2020/203071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2においては、組成を規定することによって結晶粒の粗大化を抑制する構成とされているが、熱処理条件等によっては、結晶粒の粗大化や結晶粒径のバラつきを十分に抑制することができないおそれがあった。
特に、セラミックス基板と銅板とを強固に接合する際には、セラミックス基板と銅板とを積層方向に一定の圧力で加圧した状態で高温の熱処理を行うことになる。このとき、純銅板においては、結晶粒が不均一に成長し易く、結晶粒の粗大化や不均一な成長によって、接合不良や外観不良、検査工程での不具合を起こすことがある。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、熱処理後においても結晶粒径の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を得ることができる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、熱処理時の結晶粒の粗大化及び結晶粒径のバラツキを抑制するためには、材料の内部の「ひずみの分布」を制御することが重要であることが明らかとなった。
すなわち、熱処理時に生じる結晶粒の成長の駆動力としては、結晶粒界や粒内のひずみが挙げられる。これらの結晶粒の成長の駆動力となり得るものが材料内に均一に存在していないと、結晶粒の成長に偏りが発生してしまい、局所的な結晶粒の粗大化や混粒化といった現象に繋がってしまう。そのため、ひずみが均一に分散した材料が、熱処理時の結晶粒の成長の抑制には重要であることが明らかとなった。
なお、混粒化とは、結晶粒の大きさが揃っておらず、大きな結晶粒と小さな結晶粒が混在している状態である。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の純銅材は、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、圧延面における平均結晶粒径が10μm以上であり、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のLOS(Local Orientation Spread)の平均値が2.00°以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の純銅材によれば、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされているので、導電性及び放熱性に特に優れており、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
また、圧延面における平均結晶粒径が10μm以上とされているので、熱処理時における再結晶の進行を抑制でき、結晶粒の粗大化や組織の不均一化を抑えることが可能となる。
そして、EBSD法により測定されるLOSの平均値が2.00°以下とされていることから、結晶内のひずみ分布が均一化されており、熱処理後においても結晶粒径の変化が少なく、かつ、均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
【0011】
本発明の態様2は、態様1の純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGOS(Grain Orientation Spread)の平均値が2.00°以下であることを特徴としている。
本発明の態様2の純銅材によれば、EBSD法により測定されるGOSの平均値が2.00°以下とされているので、結晶粒の中のひずみが局在化しておらず、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
【0012】
本発明の態様3は、態様1または態様2の純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の標準偏差の値が0.75°以下であることを特徴としている。
本発明の態様3の純銅材によれば、EBSD法により測定されるKAM値の標準偏差が0.75°以下とされているので、結晶粒の中のひずみが局在化しておらず、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
【0013】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGND(Geometrically Necessary Dislocations)の平均値が5.0×1014m-2以下であることを特徴としている。
本発明の態様4の純銅材によれば、局所的に蓄積されたGN転位の量が少なく抑えられているので、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
【0014】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つの純銅材において、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を合計量で300massppm以下含むことを特徴としている。
本発明の態様5の純銅材によれば、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を合計量で300massppm以下含んでいるので、材料強度や導電率に大きな影響を与えることなく、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。なお、前記添加元素の合計量が5massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0015】
本発明の態様6は、態様5の純銅材において、前記添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物を有し、前記化合物の個数密度が1×10-4個/μm2以上であることを特徴としている。
本発明の態様6の純銅材によれば、前記添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度が1×10-4個/μm2以上とされているので、化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の態様7は、態様6の純銅材において、前記化合物がCu5Ca,Cu5Sr,Cu13Baから選択される一種または二種以上を含むことを特徴としている。
本発明の態様7の純銅材によれば、前記化合物がCu5Ca,Cu5Sr,Cu13Baから選択される一種または二種以上を含んでいるので、これらの化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0017】
本発明の態様8は、態様1から態様7のいずれか一つの純銅材において、S,Se,Teから選択される一種または二種以上を合計量で10.0massppm以下含むことを特徴としている。
本発明の態様8の純銅材によれば、S,Se,Teから選択される一種または二種以上を合計量で10.0massppm以下含んでいるので、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。なお、S,Se,Teから選択される一種または二種以上の合計量が0.2massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0018】
本発明の態様9は、態様1から態様8のいずれか一つの純銅材において、Oの含有量が100massppm以下とされていることを特徴としている。
本発明の態様9の純銅材によれば、Oの含有量が100massppm以下に制限されているので、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。
【0019】
本発明の態様10は、態様1から態様9のいずれか一つの純銅材において、Pの含有量が3.00massppm以下とされていることを特徴としている。
本発明の態様10の純銅材によれば、Pの含有量が3.00massppm以下とされているので、不純物として含まれるOを無害化することができ、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。なお、Pの含有量が0.01massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0020】
本発明の態様11は、態様5の純銅材において、Ca,Sr,Baの合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bが1.0を超えていることを特徴としている。
本発明の態様11の純銅材によれば、Ca,Sr,Baの合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bが上述の範囲とされているので、Ca,Sr,BaがP,S,Se,Te,Oと化合物を形成することによって消費されることを抑制することができ、Ca,Sr,Baによる結晶粒成長抑制効果(結晶粒の成長を抑制する効果)を確実に奏功せしめることが可能となる。
【0021】
本発明の態様12は、態様1から態様11のいずれか一つの純銅材において、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含むことを特徴としている。
本発明の態様12の純銅材によれば、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含有しているので、銅の母相中にAg,Fe,Pbが固溶することにより、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。なお、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計量が0.5massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0022】
本発明の態様13は、態様1から態様12のいずれか一つの純銅材において、Mgを100massppm以下含むことを特徴としている。
本発明の態様13の純銅材によれば、Mgを100massppm以下含有しているので場合、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。なお、Mgの含有量が0massppm以上1massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0023】
本発明の態様14の絶縁基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された銅板と、を備え、前記銅板が態様1から態様13のいずれか一つの純銅材で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様14の絶縁基板によれば、セラミックス基板に接合される銅板が、態様1から態様13のいずれか一つの純銅材で構成されているので、接合時における結晶粒の成長が抑制され、均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0024】
本発明の態様15の電子デバイスは、態様14の絶縁基板と、前記絶縁基板に搭載された電子部品とを有することを特徴としている。
本発明の態様15の電子デバイスによれば、態様14の絶縁基板を備えているので、銅板が均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、熱処理後においても結晶粒径の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一で微細な結晶組織を得ることができる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態である絶縁基板および電子デバイスの概略説明図である。
【
図2】本実施形態である純銅材の製造方法のフロー図である。
【
図3A】本発明例11における化合物の観察結果であり、TEM像(透過電子像)である。
【
図3B】本発明例11における化合物の観察結果であり、電子線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施形態である純銅材、絶縁基板、電子デバイスについて説明する。
本実施形態である純銅材は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品の素材として用いられるものであり、前述の電気・電子部品を成形する際に、純銅材は、例えばセラミックス基板に接合され、絶縁基板を構成するものである。
【0028】
図1に、本発明の実施形態である絶縁基板10及びこの絶縁基板10を用いた電子デバイス1を示す。
本実施形態である電子デバイス1は、本実施形態である絶縁基板10と、この絶縁基板10の一方側(
図1において上側)に第1接合層2を介して接合された電子部品3と、絶縁基板10の他方側(
図1において下側)に第2接合層8を介して接合されたヒートシンク51と、を備えている。
なお、本実施形態では、電子部品3がパワー半導体素子とされており、電子デバイス1はパワーモジュールとされている。
【0029】
絶縁基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものである。
【0030】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、電子部品3が搭載される搭載面されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この金属層13は、電子部品3からの熱をヒートシンク51へと効率良く伝達させる作用効果を有するものである。
【0031】
なお、回路層12となる銅板とセラミックス基板11、および、金属層13となる銅板とセラミックス基板11は、例えば、DBC法、AMB法等の既存の接合方法によって接合されている。
ここで、接合時の温度は、例えば750℃以上の高温条件となり、回路層12および金属層13において結晶粒の粗大化が生じるおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態においては、回路層12となる銅板、および、金属層13となる銅板が、本実施形態である純銅材で構成されている。
【0033】
本実施形態である純銅材は、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態である純銅材においては、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を合計量で300massppm以下含んでいてもよい。
また、本実施形態である純銅材においては、S,Se,Teから選択される一種または二種以上を合計量で10.0massppm以下含んでいてもよい。
【0034】
さらに、本実施形態である純銅材においては、Oの含有量が100massppm以下とされていることが好ましい。
また、本実施形態である純銅材においては、Pの含有量が3.00massppm以下とされていてもよい。
さらに、本実施形態である純銅材においては、Ca,Sr,Baの合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bが1.0を超えていることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態である純銅材においては、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下で含んでいてもよい。
さらに、本実施形態である純銅材においては、Mgを100massppm以下で含んでいてもよい。
【0036】
そして、本実施形態である純銅材においては、圧延面における平均結晶粒径が10μm以上であり、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点(ピクセル)を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のLOS(Local Orientation Spread)の平均値が2.00°以下とされている。
なお、本実施形態では、“方位差”は、“角度差”とも言う。
【0037】
なお、本実施形態である純銅材においては、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGOS(Grain Orientation Spread)の平均値が2.00°以下であることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態である純銅材においては、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の標準偏差の値が0.75°以下であることが好ましい。
【0039】
さらに、本実施形態である純銅材においては、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGND(Geometrically Necessary Dislocations)の平均値が5.0×1014m-2以下であることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態である純銅材においては、上述の添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物を有しており、この化合物の個数密度が1×10-4個/μm2以上であることが好ましい。
さらに、上述の化合物がCu5Ca,Cu5Sr,Cu13Baから選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0041】
ここで、本実施形態の純銅材において、上述のようにCuの含有量、平均結晶粒径、LOSの平均値、GOSの平均値、KAM値の標準偏差の値、GNDの平均値、各種元素の含有量、化合物を規定した理由について、以下に説明する。
【0042】
(Cuの含有量:99.9mass%以上99.999mass%以下)
大電流用途の電気・電子部品においては、通電時の発熱を抑制するために、導電性及び放熱性に優れていることが要求されており、導電性及び放熱性に特に優れた純銅を用いることが好ましい。また、セラミックス基板等と接合した場合には、冷熱サイクル負荷時に生じる熱歪を緩和できるように、変形抵抗が小さいことが好ましい。
そこで、本実施形態である純銅材においては、Cuの純度を99.9mass%以上に規定している。なお、Cuの純度は99.965mass%以上であることが好ましく、99.97mass%以上であることがさらに好ましい。
また、Cuの純度が99.999mass%を超える場合には、特別な精錬工程が必要となり、製造コストが大幅に増加することになる。このため、本実施形態である純銅材においては、Cuの純度を99.999mass%以下に規定している。
【0043】
(圧延面における平均結晶粒径:10μm以上)
本実施形態である純銅材において、圧延面における結晶粒の粒径が微細であると、この純銅材を例えば800℃以上に加熱した際に、再結晶が進行しやすく、結晶粒の粗大化、組織の不均一化が促進されてしまうおそれがある。
このため、本実施形態である純銅材においては、熱処理時における結晶粒の粗大化や組織の不均一化を抑制するために、圧延面における平均結晶粒径を10μm以上としている。
なお、圧延面における平均結晶粒径は、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、圧延面における平均結晶粒径は、300μm以下であることが好ましく、275μm以下であることがさらに好ましく、250μm以下であることがより好ましい。
【0044】
(LOSの平均値:2.00°以下)
EBSDにより測定されるLOS(Local Orientation Spread)値は、設定したカーネル内の各ポイントとカーネル内の他のすべてのポイントとの間の角度差により算出される。例えば、ピクセルの形状は正六角形のため、近接次数を1とした場合は、1つの中心点に6つの隣接点が隣り合う。中心点と6つの隣接点を含む合計7つの点から任意の2つの点を選択すると、2つの点の組み合わせの数は21通りある。21通りのそれぞれの組み合わせの2つの点間の方位差を求め、その平均値をLOSの値とする。さらに、求められたLOSの値を測定視野について平均化した値をLOSの平均値とする。LOS値は、設定されたカーネル内でのピクセル間の方位差を考慮したひずみ量に相当する値である。LOS値は、測定時のStep Sizeの依存性が少ない測定値となる。
なお、本実施形態では、近接次数を1として、ピクセル間で5°以下の角度差のものを対象として計算を行っている。このLOS値により、結晶内のひずみ分布を正確に評価することが可能となる。
そして、本実施形態においては、LOSの平均値を2.00°以下とすることにより、熱処理後においても結晶粒径の変化が少なく、かつ、均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
なお、LOSの平均値は、1.75°以下であることが好ましく、1.50°以下であることがさらに好ましい。また、LOSの平均値は、0.05°以上であることが好ましく、0.10°以上であることがさらに好ましく、0.20°以上であることがより好ましい。
【0045】
(GOSの平均値:2.00°以下)
EBSDによって測定されるGOS(Grain Orientation Spread)値は、結晶粒の中における全ピクセル同士の角度差を求めて、得られた結晶粒毎の角度差の平均値である。更に、求められたGOSの値を測定視野について平均化した値をGOSの平均値とする。ここで、GOSの平均値は、各結晶の領域の大きさではなく、各結晶の個数を用いて平均値を算出している。つまり、GOS値が大きいと結晶粒の中に存在するひずみが局在化していることを表している。なお、ピクセル間で5°以下の角度差のものを対象として計算を行っている。
GOS値を低く抑えることで、ひずみが均一に存在していることになり、結晶粒の成長が均一に起きることになり、結晶粒の粗大化が局所的に起きることを効果的に抑制することが可能となる。また、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
そこで、本実施形態において、熱処理時の結晶粒の粗大化が局所的に起こることを十分に抑制するためには、GOSの平均値を2.00°以下とすることが好ましい。
なお、GOSの平均値は、1.90°以下であることがさらに好ましく、1.80°以下であることがより好ましい。また、GOSの平均値は、0.05°以上であることが好ましく、0.10°以上であることがさらに好ましく、0.20°以上であることがより好ましい。
【0046】
(KAM値の標準偏差の値:0.75°以下)
EBSDにより測定されるKAM(Kernel Average Misorientation)値は、1つのピクセルとそれを取り囲むピクセル間の方位差を平均値化することで算出される値である。ピクセルの形状は正六角形のため、近接次数を1とする場合、1つのピクセルと隣接する六つのピクセルとの方位差の平均値がKAM値として算出される。KAM値を用いることで、局所的な方位差、すなわち、ひずみの分布を可視化できる。このKAM値の標準偏差の値は局所的なひずみの均一さを示すことになる。なお、ピクセル間で5°以下の角度差のものを対象として計算を行っている。
このKAM値の標準偏差の値を低く抑えることで、ひずみが均一に存在していることになり、結晶粒の成長が均一に起きることになり、結晶粒の粗大化が局所的に起きることを効果的に抑制することが可能となる。また、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
そこで、本実施形態において、熱処理時の結晶粒の粗大化が局所的に起こることを十分に抑制するためには、KAM値の標準偏差の値を0.75°以下とすることが好ましい。
なお、KAM値の標準偏差の値は、0.70°以下であることがさらに好ましく、0.65°以下であることがより好ましい。また、KAM値の標準偏差の値は、0.025°以上であることが好ましく、0.05°以上であることがさらに好ましく、0.075°以上であることがより好ましい。
【0047】
(GNDの平均値:5.0×1014m-2以下)
EBSDにより測定されるGND(Geometrically Necessary Dislocations)値は、各ピクセルの方位を測定することにより、GN転位の量を評価する値である。このGND値を用いることで、局所的に蓄積されたGN転位を評価することができる。滑り系として{111}<110>を利用し、その時のバーガースベクトルの大きさとして0.255nmを用いて計算している。なお、近接次数を1として、ピクセル間で5°以下の角度差のものを対象として計算を行っている。
このGNDの平均値を低く抑えることで、局所的に蓄積されたGN転位が少なく、熱処理時における結晶粒の成長をさらに効果的に抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態において、GNDの平均値を5.0×1014m-2以下とすることが好ましい。これにより、熱処理時の結晶粒の粗大化をさらに抑制でき、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な結晶組織を得ることが可能となる。
なお、GNDの平均値は、4.5×1014m-2以下であることがさらに好ましく、4.0×1014m-2以下であることがより好ましい。また、GNDの平均値は、0.4×1014m-2以上であることが好ましく、0.6×1014m-2以上であることがさらに好ましく、0.8×1014m-2以上であることがより好ましい。
【0048】
(Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量:5massppm以上300massppm以下)
Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素は、銅の母相中にほとんど固溶せずに化合物を形成する。また、粒界に偏在化しやすい元素であるため、わずかな添加量で結晶粒界をピン止めすることができ、熱処理時における結晶粒の成長を効果的に抑制することができる。よって、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を添加することにより、材料強度や導電率をほとんど変化させることなく、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することが可能となる。
【0049】
そして、これらの添加元素の効果は、上述するLOSの平均値と同時に制御することにより、その効果が高くなることが分かった。熱処理により発生された再結晶核が成長する際に、ピン止め効果を有する添加元素がある場合には、その再結晶核の成長を抑制することができ、より微細な結晶粒の状態を維持することが可能となる。
一方、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の含有量が多すぎると、製造性に悪影響を及ぼすおそれがある。
そこで、本実施形態において、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制するためには、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量を5massppm以上300massppm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0050】
なお、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量の下限は、7.5massppm以上とすることがさらに好ましく、10massppm以上とすることがより好ましい。また、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量の上限は、250massppm以下であることがさらに好ましく、200massppm以下であることがより好ましい。
【0051】
(添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度:1×10-4個/μm2以上)
Ca,Sr,Ba及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物が多く存在することにより、結晶粒界をピン止めすることができ、熱処理時における結晶粒の成長を効果的に抑制することができる。
そこで、本実施形態において、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制するためには、添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度が1×10-4個/μm2以上であることが好ましい。
なお、添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度は、5×10-4個/μm2以上であることがさらに好ましく、10×10-4個/μm2以上であることがより好ましい。また、添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度は、1000×10-4個/μm2以下であることが好ましく、900×10-4個/μm2以下であることがさらに好ましく、800×10-4個/μm2以下であることがより好ましい。
ここで、添加元素及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物としては、Cu5Ca、Cu5Sr、Cu13Baから選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0052】
(S,Se,Teから選択される一種または二種以上の合計含有量:10.0massppm以下)
S,Se,Teといった元素は、結晶粒界移動を抑制することによって、結晶粒の粗大化を抑制する作用を有するとともに、熱間加工性を低下させる元素である。S,Se,Teといった元素を多く含む場合には、熱間加工性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態において、熱間加工性を確保するとともに、熱処理時の結晶粒の粗大化をさらに効果的に抑制するためには、S,Se,Teから選択される一種または二種以上の合計含有量を10.0massppm以下とすることが好ましい。
なお、S,Se,Teから選択される一種または二種以上の合計含有量の下限は、0.2massppm以上であることが好ましく、0.5massppm以上であることがより好ましく、2.0massppm以上であることがさらに好ましい。また、S,Se,Teから選択される一種または二種以上の合計含有量の上限は、7.5massppm以下であることが好ましく、5.0massppm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
(Oの含有量:100massppm以下)
純銅材に不純物として含まれるO(酸素)は、結晶粒の成長を促進させる効果を有する元素である。
そこで、本実施形態において、熱処理時の結晶粒の成長をさらに効果的に抑制するためには、Oの含有量を100massppm以下に制限することが好ましい。
なお、Oの含有量は、75massppm以下とすることがさらに好ましく、50massppm以下とすることがより好ましい。また、Oの含有量は、0.1massppm以上とすることが好ましく、0.3massppm以上とすることがさらに好ましく、0.5massppm以上とすることがより好ましい。
【0054】
(P:3.00massppm以下)
Pは、銅中の酸素を無害化する元素として広く用いられている。しかしながら、Pを一定以上含有する場合には、酸素だけではなく、結晶粒界に存在する結晶粒成長抑制元素(結晶粒の成長を抑制する元素)の作用を阻害する。このため、高温に加熱した際に、結晶粒の成長を抑制する元素が十分に作用せず、結晶粒の粗大化及び不均一化が発生するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、Pの含有量を3.00massppm以下とすることが好ましい。
なお、Pの含有量は、2.50massppm以下とすることが好ましく、2.00massppm以下とすることがさらに好ましい。また、Pの含有量は、0.01massppm以上とすることが好ましい。
【0055】
(Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/B:1.0超え)
Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素は、P,S,Se,Te,Oといった元素と化合物を形成する。このため、P,S,Se,Te,Oが多く存在すると、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素とCuとを含む化合物が十分に形成されずに、ピン止め効果をより作用させることができなくなるおそれがある。
よって、本実施形態においては、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bを1.0超えとすることが好ましい。
なお、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素の合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bは、1.5以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることがより好ましい。また、質量比A/Bは、100以下であることが好ましく、75以下であることがさらに好ましく、50以下であることがより好ましい。
【0056】
(Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量:50.0massppm以下)
Ag,Fe,Pbは銅母相中への固溶によって結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。一方、Ag,Fe,Pbを多く含む場合には、製造コストの増加や導電率の低下が懸念される。
このため、本実施形態においては、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量を50.0massppm以下とすることが好ましい。
なお、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量の下限は、0.5massppm以上であることが好ましく、2.0massppm以上であることがさらに好ましく、5.0massppm以上であることがより好ましい。一方、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量の上限は、40.0massppm以下であることがさらに好ましく、30.0massppm以下であることがより好ましい。
【0057】
(Mg:100massppm以下)
Mgは、結晶粒の粒成長を抑制する効果がある元素である。一方、Mgを多く含むと生産性に悪影響を及ぼすおそれがある。
このため、本実施形態においては、Mgの含有量を100massppm以下とすることが好ましい。
なお、Mgの含有量の下限は、1massppm以上であることが好ましく、2massppm以上であることがさらに好ましく、3massppm以上であることがより好ましい。一方、Mgの含有量の上限は、90massppm以下であることがさらに好ましく、80massppm以下であることがより好ましい。
【0058】
(その他の不可避不純物)
上述した含有量が特定された元素以外のその他の残部に含まれる不可避的不純物としては、Al,As,B,Be,Bi,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,Sb,Si,Sn,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
【0059】
次に、このような構成とされた本実施形態である純銅材の製造方法について、
図2に示すフロー図を参照して説明する。
【0060】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、無酸素銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。ここで、銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
溶解工程では、水素濃度低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0061】
(第1熱間圧延工程S02)
得られた鋳塊に対して、ひずみを導入し、かつ形状を所定のサイズに変形させるために熱間加工を行う。ひずみの導入を行うことにより、結晶粒が粗大な状態で高いひずみを与えることができるため、材料の均質性を上げることが可能となる。
ここで、熱間圧延の温度を650℃以上の高温とし、圧延1パスでの平均リダクション(圧延1パスでの平均圧延率)を15%以上とすることにより、高温でひずみを均一に導入することができ、高い均質性を有する組織を形成することが可能となる。ここでの総圧延率は、鋳造組織を壊すために、50%以上とすることが好ましく、55%以上とすることがさらに好ましく、60%以上とすることがより好ましい。
【0062】
(第2熱間圧延工程S03)
ひずみのさらなる均一化を実現するために、第1熱間圧延工程S01によって得られた熱間圧延材を再度加熱し、第2熱間圧延工程S02を実施する。
ここで、第2熱間圧延工程S03においては、第1熱間圧延工程S02と同等以上の650℃以上の高温条件とし、圧延1パスでの平均リダクション(圧延1パスでの平均圧延率)を15%以上にすることにより、高い均質性を有する組織を形成することが可能となる。ここでの総圧延率は、鋳造組織を壊すために、50%以上とすることが好ましく、55%以上とすることがさらに好ましく、60%以上とすることがより好ましい。
【0063】
(冷間圧延工程S04)
次に、第2熱間加工工程S03後の銅素材に対して冷間圧延を実施して所定の形状に加工する。
なお、この冷間圧延工程S04における温度条件は特に限定はないが、-200℃以上200℃以下の範囲で行うことが好ましい。冷間圧延工程S04では、材料全体に均一なひずみを導入するために、1パス当たり15%以上の高いリダクション(圧延率)を有する圧延を行う必要がある。なお、冷間圧延工程S04では、冷間での加工となるため、低いリダクションで加工を行うと、材料表面との摩擦力が強く働き、厚み方向の表面、またひずみの導入されやすい配向の結晶に優先的にひずみが導入されてしまい、組織の不均一が起きてしまう。そのため、圧縮の応力要素を増やすために、高いリダクションで圧延を行わなければならない。この高いリダクションでの圧延を複数回行うことにより、所定の形状にすることが必要となる。また、総加工率は、15%以上が好ましく、50%以上とすることがより好ましい。
【0064】
(熱処理工程S05)
次に、冷間圧延工程S04後の銅素材に対して熱処理を行う。ここで、熱処理方法は特に限定しないが、非酸化性または還元性の雰囲気中で行うのがよい。熱処理温度を750℃以上の高温とし、この温度で熱処理を1時間以下の短時間で行うことが好ましい。また、熱処理温度までの昇温速度を100℃/分以上とすることが好ましい。
均一に導入されたひずみに対し、高温、短時間の条件で熱処理をすることにより、再結晶が各再結晶核から均一に同時に進行することとなる。なお、750℃未満の低温条件での熱処理や昇温速度が100℃/分未満の熱処理の場合には、再結晶核の成長にバラつきが発生してしまい、結果として不均一な組織が形成されてしまう。
冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法が好ましい。
また、再結晶組織の均一化のために、冷間圧延工程S04と熱処理工程S05を2回以上繰り返して行っても良い。
【0065】
(調質圧延工程S06)
熱処理工程S05後の銅素材に対して、材料強度を調整するために、調質圧延を行っても良い。低い材料強度を必要とする場合は、調質圧延を行わなくても良い。
圧延を行う場合は、圧延のひずみを均一に導入するため、圧延は1パスでひずみを導入しなくてはならない。20%を超える圧延率で圧延を実施すると組織の不均一性を起こしてしまうため、圧延率は20%以下とすることが好ましい。
なお、最終の厚みは特に限定しないが、例えば0.5mm以上5mm以下の範囲内の厚みとすることが好適である。
【0066】
上述の各工程により、本実施形態である純銅材(純銅板)が製出されることになる。
以上のような構成とされた本実施形態である純銅材によれば、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされているので、導電性及び放熱性に特に優れており、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
また、本実施形態である純銅材においては、圧延面における平均結晶粒径が10μm以上とされているので、熱処理時に再結晶が進行することを抑制でき、結晶粒の成長や組織の不均一化を抑えることが可能となる。
【0067】
そして、本実施形態である純銅材においては、EBSD法により測定されるLOSの平均値が2.00°以下とされていることから、結晶内のひずみ分布が均一化されており、熱処理後においても結晶粒径の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一で微細な組織を得ることが可能となる。
高い均質性を有する組織を得るための手段は、特定の方法に制限されないが、例えば、第1熱間圧延工程、第2熱間圧延工程及び冷間圧延工程の平均リダクション、熱処理工程の熱処理温度及び昇温速度を、上述するように制御することで可能となる。
【0068】
ここで、本実施形態である純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGOS(Grain Orientation Spread)の平均値が2.00°以下である場合には、結晶粒の中のひずみが局在化しておらず、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な組織を得ることが可能となる。
【0069】
また、本実施形態である純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の標準偏差の値が0.75°以下である場合には、結晶粒の中のひずみが局在化しておらず、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な組織を得ることが可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態である純銅材において、EBSD法により1mm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のGND(Geometrically Necessary Dislocations)の平均値が5.0×1014m-2以下である場合には、局所的に蓄積されたGN転位の量が少なく抑えられているので、熱処理後においても結晶粒径の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一で微細な組織を得ることが可能となる。
【0071】
また、本実施形態である純銅材において、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素を合計量で300massppm以下含む場合には、Ca,Sr,Baから選択される一種または二種以上の添加元素によって結晶粒の成長を抑制でき、材料強度や導電率に大きな影響を与えることなく、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0072】
さらに、本実施形態である純銅材において、Ca,Sr,Ba及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物を有し、この化合物の個数密度が1×10-4個/μm2以上である場合には、この化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態である純銅材において、Ca,Sr,Ba及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物がCu5Ca,Cu5Sr,Cu13Baから選択される一種または二種以上含む場合には、これらの化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0074】
さらに、本実施形態である純銅材において、S,Se,Teから選択される一種または二種以上を合計量で10.0massppm以下含む場合には、熱間加工性を大きく低下させることなく、結晶粒界移動を抑制することができ、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態である純銅材において、Oの含有量が100massppm以下とされている場合には、結晶粒の成長を促進する元素であるOの含有量が十分に抑制されており、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。
【0076】
さらに、本実施形態である純銅材において、Pの含有量が3.00massppm以下とされている場合には、結晶粒の成長を促進するOを無害化することができるとともに、結晶粒界に存在する結晶粒成長抑制元素の作用を阻害することを抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態である純銅材において、Ca,Sr,Baの合計含有量Aと、P,S,Se,Te,Oの合計含有量Bとの質量比A/Bが1.0を超えている場合には、Ca,Sr,BaがP,S,Se,Te,Oと化合物を形成することによって消費されることを抑制することができ、Ca,Sr,Baによる結晶粒成長抑制効果を確実に奏功せしめることが可能となる。
【0078】
さらに、本実施形態である純銅材において、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含む場合には、銅の母相中にAg,Fe,Pbが固溶することにより、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態である純銅材において、Mgを100massppm以下含む場合には、Mgによる結晶粒成長抑制効果によって、熱処理後の結晶粒の粗大化をさらに抑制することができる。
【0080】
本実施形態である絶縁基板10においては、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に接合された金属層13と、を有しており、回路層12および金属層13となる銅板が本実施形態である純銅材で構成されているので、セラミックス基板11との接合時における結晶粒の成長が抑制され、かつ結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0081】
本実施形態である電子デバイス1においては、上述の絶縁基板10と、この絶縁基板10の回路層12上に搭載された電子部品3とを有しているので、回路層12および金属層13となる銅板が均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態である純銅材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、純銅材の製造方法の一例について説明したが、純銅材の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
また、上述した製造方法は、圧延工程を有しており、本実施形態の純銅材は、純銅圧延材と言うこともできる。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0084】
帯溶融精製法により、P濃度を0.001massppm以下に精製して、純度99.999mass%以上の純銅を得た。この純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気の炉内において高周波誘導加熱により溶解した。
6N(純度99.9999mass%以上)の高純度銅と2N(純度99mass%以上)の元素を用いて、1mass%の各種元素を含む母合金を作製した。得られた銅溶湯内に母合金を添加して、表1,2に示す成分組成に調製し、銅合金溶湯を得た。得られた銅合金溶湯をグラファイト鋳型に注湯して、鋳塊を製出した。
なお、鋳塊の大きさは、厚さ約100mm×幅約100mm×長さ約150~200mmとした。
【0085】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、900℃で4時間の加熱を行い、表3,4に示す最終パス温度条件を狙うため、大気中で待機させ、第1熱間圧延工程を実施した。なお、第1熱間圧延工程の最終パス温度を放射温度計で測定した。第1熱間圧延が終わった後に水冷を行った。
次に、Arガス雰囲気中において、再度900℃で4時間の加熱を行い、表3,4に示す最終パス温度条件を狙うため、大気中で待機させ、第2熱間圧延工程を実施した。なお、第2熱間圧延工程の最終パス温度を放射温度計で測定した。第2熱間圧延が終わった後にも水冷を行った。
【0086】
次に、第1熱間圧延工程および第2熱間圧延工程で生成した酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。その後、適宜最終厚みになるように厚みを調整して切断を行った。
切断されたそれぞれの熱間圧延後の銅素材に対して、表3,4に記載された条件にて粗加工(冷間圧延)、および、熱処理を実施した。熱処理はソルトバスを用い、100℃/min以上の加熱速度(昇温速度)であることを確認した。その後、表3,4に記載された条件で調質圧延を行い、それぞれ、厚さ0.8mmで幅が約100mmの特性評価用条材(純銅材)を製出した。
【0087】
そして、以下の項目について評価を実施した。
【0088】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、S、Oの含有量は赤外線吸収法で測定し、その他の元素の含有量はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の二カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。
【0089】
(平均結晶粒径)
得られた特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件を以下に示す。
(電子顕微鏡の条件)
観察倍率又は測定視野の面積:400μm×800μm
加速電圧:20kV
ワーキングディスタンス:20mm
試料傾斜角度:70°
(EBSD検出器の条件)
解析ソフト名:EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.8.6
CI値(信頼係数):0.1よりも大きな測定点を解析に用いた。
粒界角度差:5°以上を粒界とみなした。
ミニマムグレインサイズ:2step以上を結晶粒とみなした。
ステップサイズ:1μm
双晶の扱い:双晶を粒界とみなした。
圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、電子線後方散乱回折法による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が5°以上である測定点間の境界を結晶粒界とした。隣接する測定点間の方位差が5°以上15°未満である測定点間の境界を小角粒界とした。隣接する測定点間の方位差が15°以上である測定点間の境界を大角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成した。JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の方向に所定長さの線分を所定の間隔で5本ずつ引いた。完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径として算出した。
【0090】
(LOSの平均値)
特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.8.6)を用いて、電子線の加速電圧15kV、1μmの測定間隔のステップで1mm2以上の測定面積にて、試料の圧延面(観察面)をEBSD法により測定した。電子線の加速電圧以外の電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件は、上述した平均結晶粒径の測定の際の条件と同様であった。測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI(Confidence Index)値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接するピクセル間の方位差が5°以上であるピクセル間の境界を結晶粒界とみなして解析し、全ピクセルのLOS値を求めた。近接次数を1として、中心点と6つの隣接点からなる7つの点について、それぞれの2つの点間の方位差を求め、その平均値を求めてLOSの値とした。測定領域でのLOSの値の平均値(数平均)を求め、LOSの平均値として表5,6に記載した。
【0091】
(GOSの平均値)
LOSの評価と同様の試料および装置を用いて、電子線の加速電圧15kV、1μmの測定間隔のステップで1mm2以上の測定面積にて、試料の圧延面(観察面)をEBSD法により測定した。電子線の加速電圧以外の電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件は、上述した平均結晶粒径の測定の際の条件と同様であった。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接するピクセル間の方位差が5°以上であるピクセル間の境界を結晶粒界とみなして解析し、全結晶粒のGOS値を求めた。その合計値を結晶粒の個数(Number)で割ってGOSの平均値を求めた。
【0092】
(KAM値の標準偏差の値)
LOSの評価と同様の試料および装置を用いて、電子線の加速電圧15kV、1μmの測定間隔のステップで1mm2以上の測定面積にて、試料の圧延面(観察面)をEBSD法により測定した。電子線の加速電圧以外の電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件は、上述した平均結晶粒径の測定の際の条件と同様であった。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。近接次数を1として、隣接するピクセル間の方位差が5°以上であるピクセル間の境界を結晶粒界とみなして解析し、全ピクセルのKAM値を求めた。そしてKAM値の標準偏差の値を求めた。
【0093】
(GNDの平均値)
LOSの評価と同様の試料および装置を用いて、電子線の加速電圧15kV、1μmの測定間隔のステップで1mm2以上の測定面積にてで、試料の圧延面(観察面)をEBSD法により測定した。電子線の加速電圧以外の電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件は、上述した平均結晶粒径の測定の際の条件と同様であった。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接するピクセル間の方位差が5°以上であるピクセル間の境界を結晶粒界とみなして解析し、全ピクセルのGND値を求め、その平均値を求めた。なお、滑り系は{111}<110>であり、FCC(111)面の<1-10>方向に対し、バーガースベクトルの大きさとして0.255nmを採用してGN転位密度を算出した。また、誤差要因を低減させるため、GNDの値の上限を1.0×1016m-2とし、それ以下の値の領域において平均値(数平均)を算出した。
【0094】
(化合物の個数密度)
特性評価用条材から測定試料を採取し、圧延面に対してCP研磨を行った。FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用い、2000倍の視野(約2500μm2/視野)で50領域の観察を行った。50領域での観察結果からCa,Sr,Ba及びCuの少なくとも一種以上を含む化合物の個数密度を算出した。
【0095】
(化合物の同定)
特性評価用条材からFIB(Focused Ion Beam)法を用いて化合物を観察するためのサンプルを作製した。そのサンプルに対して、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子株式会社製、JEM-2010F)を用いて粒子観察を行い、EDX分析(エネルギー分散型X線分光法)を実施し、化合物がCa,Sr,BaとCuから選択される一種または二種以上の元素を含有する粒子であるかどうかを確認した。
また、観察された化合物についてEDX分析と電子線回折分析を実施し、化合物が、Cu
5Ca(空間群P6/mmm(191))、Cu
5Sr(空間群P6/mmm(191))、Cu
13Ba(Fm-3c(226))から選択される一種または二種以上を含むかどうかを確認した。
ここで、
図3A、
図3Bに、本発明例11における化合物の観察結果を示す。観察された化合物がCu
5Caを含むことが確認された。
表中の「化合物の有無」の欄においては、上述の観察の結果、Cu
5Ca,Cu
5Sr,Cu
13Baから選択される一種または二種以上を含む化合物が観察された場合を「B」(present)、観察されなかった場合を「D」(absent)と表記した。
【0096】
(加圧熱処理後の結晶粒径dave)
上述の特性評価用条材から40mm×40mmのサンプルを切り出した。セラミックス板(材質:Si3N4、50mm×50mm×厚さ0.32mm)の両面にペースト状の活性銀ろう材(東京ブレイズ製TB-608T)を塗布した。上述のサンプル(純銅板)2枚の間にセラミックス板を挟み込み、加圧圧力0.59MPaの荷重をかけた状態で熱処理を行った。熱処理は以下の条件で行った。
850℃の炉に、積層した純銅板およびセラミックス板を投入し、材温が850℃になったことを熱電対にて確認してから60分保持し、加熱が終わった後に常温になるまで炉冷(炉内で冷却)を行った。常温まで温度が低下した後に、純銅板の圧延面について平均結晶粒径daveを以下の方法で測定した。
【0097】
まず、圧延面(セラミックス板と接していない面)を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、エッチングを行い、圧延面(観察面)を光学顕微鏡で観察した。JIS H 0501の切断法に準拠し、縦、横の方向に所定長さの線分を所定の間隔で5本ずつ引いた。完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とした。平均結晶粒径が200μm以下の場合を「A」(excellent)とした。平均結晶粒径が200μmを超えて300μm以下の場合を「B」(good)とした。平均結晶粒径が300μmを超えて500μm以下の場合を「C」(fair)とした。平均結晶粒径が500μmを超える場合を「D」(poor)とした。
【0098】
(加圧熱処理後の粒径のばらつき)
上述のように、加圧熱処理を施した試験片40mm×40mmの範囲内において、双晶を除き、最も粗大な結晶粒の長径と短径の平均値を最大結晶粒径dmaxとした。ここで、最も粗大な結晶粒に引いた線分のうち、粒界によって切断される線分の長さの最大値を長径とした。そして、長径に垂直な線分のうち、粒界によって切断される線分の長さの最大値を短径とした。この最大結晶粒径dmaxと上述の平均結晶粒径daveとの比dmax/daveが15以下の場合を「B」(good)と評価し、dmax/daveが15を超え20以下の場合を「C」(fair)と評価し、dmax/daveが20を超えた場合を「D」(poor)と評価した。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
比較例1は、平均結晶粒径が8μmと小さく、かつ、LOSの平均値が2.10°とされており、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例2は、LOSの平均値が2.30°とされており、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例3では、LOSの平均値が2.16°とされており、加圧熱処理後の粒径のばらつきが大きくなった。
【0106】
これに対して、本発明例1~27においては、平均結晶粒径が10μm以上とされるとともに、LOSの平均値が2.00°以下とされており、加圧熱処理後の平均結晶粒径が小さく、かつ、粒径のばらつきも小さくなった。
以上のことから、本発明例によれば、加圧熱処理後においても、結晶粒の粗大化及び不均一化を抑制することができる純銅材を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本実施形態の純銅材は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品に好適に適用される。
【符号の説明】
【0108】
1 電子デバイス
3 電子部品
10 絶縁基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層