(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】被覆用油性食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240228BHJP
A23G 1/36 20060101ALI20240228BHJP
A23G 1/54 20060101ALI20240228BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240228BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20240228BHJP
【FI】
A23D9/00 510
A23G1/36
A23G1/54
A23L5/00 F
A23L29/10
(21)【出願番号】P 2023539106
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005113
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022053209
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 弥咲
(72)【発明者】
【氏名】金田 安史
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126081(JP,A)
【文献】特開2015-012848(JP,A)
【文献】特開2016-129494(JP,A)
【文献】特開2010-227001(JP,A)
【文献】特開2009-240246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
A23G 1/00-1/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂カカオ固形分が3重量%以下、
カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、
乳化剤A及び乳化剤
C、又は、乳化剤B及び乳化剤
Cを含み、
下記1)~3)の条件を満たす、被覆用油性食品。
1)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸を合計15重量%~50重量%含む、
2)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数16及び炭素数18の飽和脂肪酸を合計30重量%~45重量%含む、
3)油性食品の油脂中の構成トリグリセリドが、CN36を5~16重量%含む
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
CN36: 油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリド
【請求項2】
含有する乳化剤が乳化剤A及び乳化剤
Cである、請求項1に記載の被覆用油性食品。
【請求項3】
油性食品の油脂中に、融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、請求項1又は2に記載の被覆用油性食品。
【請求項4】
油性食品の油脂中に含まれるエステル交換油脂が、下記4)~6)の条件を満たす、請求項3に記載の被覆用油性食品。
4)ランダムエステル交換油である、
5)エステル交換油脂中の構成脂肪酸が炭素数12及び14の飽和脂肪酸を合計で25~60重量%含む、
6)エステル交換油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36~42であるトリグリセリド(CN36~42)を30~60重量%含む
【請求項5】
無脂カカオ固形分が3重量%以下、
カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、
乳化剤A及び乳化剤
C、又は、乳化剤B及び乳化剤
Cを含み、
油性食品の油脂が以下条件を満たす、被覆用油性食品。
(a)融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、
(b)ラウリン系ハードバターを20~50重量%含む、
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤
ただし、以下のエステル交換油脂を含む態様を除く。
パーム系油脂を72.4質量%含む原料油脂がランダムエステル交換された後、高融点部及び低融点部が除去された油脂であって、組成が以下の要件を満たす、エステル交換油脂。
XXO含有量:44.0質量%、X3含有量:13.2質量%、X2U含有量:76.2質量%、X2O含有量:67.7質量%、XU2+U3含有量:7.2質量%、XXO/X2O質量比:0.650、炭素数16~24の脂肪酸含有量:98.9質量%、飽和脂肪酸含有量:68.6質量%、炭素数16~18の直鎖飽和脂肪酸含有量:66.9質量%、不飽和脂肪酸含有量:31.2質量%、(パルミチン酸(炭素数16の直鎖飽和脂肪酸))/(ステアリン酸(炭素数18の直鎖飽和脂肪酸))質量比:2.17
(それぞれの記号は以降に記載の通り。X:炭素数16~24の直鎖飽和脂肪酸、U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸、O:オレイン酸、X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド、X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド、XXO:1位と2位にX、3位にOが結合しているトリグリセリド又は2位と3位にX、1位にOが結合しているトリグリセリド、U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド)
【請求項6】
請求項1又は2に記載の被覆用油性食品の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の被覆用油性食品の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の被覆用油性食品の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品。
【請求項10】
請求項3に記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品。
【請求項11】
請求項5に記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法。
【請求項13】
請求項3に記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法。
【請求項14】
請求項5に記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の被覆用油性食品を用いる、
被覆用油性食品を被覆した複合食品のツヤ向上方法。
【請求項16】
請求項3に記載の被覆用油性食品を用いる、
被覆用油性食品を被覆した複合食品のツヤ向上方法。
【請求項17】
請求項5に記載の被覆用油性食品を用いる、
被覆用油性食品を被覆した複合食品のツヤ向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆用油性食品及び当該油性食品が被覆された複合食品に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂組成物および糖類を含むチョコレートなどの油性食品は、様々な食品と組み合わされ、いろいろな用途で利用され、市場に流通している。用途のひとつとして、ケーキ、シュー、エクレア等の洋菓子、焼き菓子、和菓子、パン、ドーナツ等のベーカリー製品、冷菓、アイスクリーム等の表面に被覆する用途が例示できる。
【0003】
一般的に被覆に用いられる油性食品は、使用時の簡便性からテンパリングが不要であるものが好まれる場合が多い。さらに被覆後の搬送や包装の工程に速やかに移す為に室温で短時間に固化することが要求される。また、固化した後は視覚的に購買、喫食意欲を高めるために良好なつやを有し、充分なブルーム耐性を有することが要求される。加えて当然のことながら食した場合には、良好な口溶けと風味の発現を有するものが好まれている。
また、視覚的に購買意欲を高めるために、チョコレートなどの油性食品はさまざまな色調を有する素材が求められている。
【0004】
特許文献1には、光沢のきわめて良いコーティング用、カバリング用、或いは洋生用の被覆用チョコレート類及びその製造法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、はがれ落ちにくさを有する、トランス型不飽和脂肪酸をできる限り含まない被覆チョコレートが開示されている。
【0006】
特許文献3には、つや、はがれにくさ、発汗耐性を有する被覆チョコレート用油脂組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-110268号公報
【文献】特開2009-17821号公報
【文献】特開2015-173614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、無脂カカオ固形分に多く含まれるカカオ繊維質や、パルプ繊維質を必須成分としている発明である。
特許文献2は無脂カカオ固形分が少ない被覆用チョコレート類に特有の課題を解決するものではない。
特許文献3は、特に軟らかいベーカリー製品の被覆に適した油脂の発明であり、特許文献2と同様に無脂カカオ固形分が少ない被覆用チョコレート類に特有の課題を解決するものではない。
【0009】
本発明者らが検討した結果、無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品であって、良好なツヤを有するものを提供するためには、従来想定されていた以上の課題があった。無脂カカオ固形分が少ない油性食品は、被覆後のツヤを実現しようとする場合、無脂カカオ固形分を多く含む油性食品と異なり、被覆後の固化に時間を要し、また、無脂カカオ固形分を多く含む油性食品で得られるような良好なツヤは得られなかった。
先に提示した先行文献には、カカオ含量、特に無脂カカオ固形分を一定量以上含む被覆チョコレートに関する発明が公開されているが無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品において、そのような課題が生じることについての言及はされていない。
【0010】
従って、本発明の課題は、無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品であって、被覆作業性が良好で、固化に要する時間が連続生産に適した、良好なツヤを有する油性食品を提供することである。
また、本発明の被覆用油性食品を菓子やベーカリー製品に用いた際に経時でのべたつきが少ない複合食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をおこなった。その結果、油脂中の構成脂肪酸の種類と比率を調整し、特定の乳化剤を組み合わせることで、無脂カカオ固形分が3重量%未満であっても、固化に要する時間が連続生産に適しており、良好なツヤを有するべたつきの少ない油性食品が得られることを発見した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)無脂カカオ固形分が3重量%以下、カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤Cを含み、
下記1)~3)の条件を満たす、被覆用油性食品、
1)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸を合計15重量%~50重量%含む、
2)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数16及び炭素数18の飽和脂肪酸を合計30重量%~45重量%含む、
3)油性食品の油脂中の構成トリグリセリドが、CN36を5~16重量%含む、
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
CN36: 油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリド、
(2)含有する乳化剤が乳化剤A及び乳化剤Cである、(1)に記載の被覆用油性食品、
(3)油性食品の油脂中に、融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、(1)又は(2)に記載の被覆用油性食品、
(4)油性食品の油脂中に含まれるエステル交換油脂が、下記4)~6)の条件を満たす、(3)に記載の被覆用油性食品、
4)ランダムエステル交換油である、
5)エステル交換油脂中の構成脂肪酸が炭素数12及び14の飽和脂肪酸を合計で25~60重量%含む、
6)エステル交換油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36~42であるトリグリセリド(CN36~42)を30~60重量%含む、
(5)無脂カカオ固形分が3重量%以下、カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤Cを含み、
油性食品の油脂が以下条件を満たす、被覆用油性食品、
(a)融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、
(b)ラウリン系ハードバターを20~50重量%含む、
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
(6)(1)又は(2)又は(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品の製造方法、
(7)(3)に記載の被覆用油性食品の製造方法、
(8)(4)に記載の被覆用油性食品の製造方法、
(9)(1)又は(2)又は(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品、
(10)(3)に記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品、
(11)(4)に記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品、
(12)(1)又は(2)又は(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法、
(13)(3)に記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法、
(14)(4)に記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法、
(15)(1)又は(2)又は(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を用いる、ツヤ向上方法、
(16)(3)に記載の被覆用油性食品を用いる、ツヤ向上方法、
(17)(4)に記載の被覆用油性食品を用いる、ツヤ向上方法、
である。
換言すれば、本発明は、
(1)無脂カカオ固形分が3重量%以下、カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤Cを含み、
下記1)~3)の条件を満たす、被覆用油性食品、
1)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸を合計15重量%~50重量%含む、
2)油性食品の油脂中の構成脂肪酸が、炭素数16及び炭素数18の飽和脂肪酸を合計30重量%~45重量%含む、
3)油性食品の油脂中の構成トリグリセリドが、CN36を5~16重量%含む、
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
CN36: 油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリド、
(2)含有する乳化剤が乳化剤A及び乳化剤Cである、(1)に記載の被覆用油性食品、
(3)油性食品の油脂中に、融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、(1)又は(2)に記載の被覆用油性食品、
(4)油性食品の油脂中に含まれるエステル交換油脂が、下記4)~6)の条件を満たす、(3)に記載の被覆用油性食品、
4)ランダムエステル交換油である、
5)エステル交換油脂中の構成脂肪酸が炭素数12及び14の飽和脂肪酸を合計で25~60重量%含む、
6)エステル交換油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36~42であるトリグリセリド(CN36~42)を30~60重量%含む、
(5)無脂カカオ固形分が3重量%以下、カカオバターの含有量が0~10重量%の油性食品であって、乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤Cを含み、
油性食品の油脂が以下条件を満たす、被覆用油性食品、
(a)融点32~42℃のエステル交換油脂を40~85重量%含む、
(b)ラウリン系ハードバターを20~50重量%含む、
乳化剤A:HLB9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤B:HLB3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
乳化剤C:HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものから選ばれる1種以上の乳化剤、
(6)(1)~(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品の製造方法、
(7)(1)~(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を被覆した複合食品、
(8)(1)~(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を用いて、良好なツヤを有する複合食品を製造する方法、
(9)(1)~(5)いずれか一つに記載の被覆用油性食品を用いる、ツヤ向上方法、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品であっても、配合する植物油脂の一部として、エステル交換油脂を選択することで、被覆作業性が良好で、固化に要する時間が連続生産に適した、良好なツヤを有する油性食品を提供することができる。さらに、配合する植物油脂の一部として、エステル交換油脂を選択することで、本発明の被覆用油性食品を菓子やベーカリー製品に用いた際に、経時でのべたつきが少ない複合食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の油性食品とは、油脂が連続相をなす食品であり、特にチョコレート類のことをいう。ここでのチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会で規定されるチョコレート、準チョコレート、およびチョコレート利用食品に限定されるものではなく、油脂類を必須成分とし、カカオマス、ココア、全粉乳、果汁乾燥粉末、野菜乾燥粉末、カカオバター、カカオバター代用脂、ハードバター等を利用した油脂加工食品をも包含する食品のことを言う。
本発明の被覆用油性食品は、特に菓子及びベーカリー食品の表面全体あるいは一部を被覆(コーティングあるいはカバリング)するためのチョコレート類のことをいう。
【0015】
無脂カカオ固形分とは、カカオマスやココアなどのカカオ由来原料のうちカカオバターと水分を除いた部分を指す。本発明においてその配合量は3重量%以下であり、いわゆるビターチョコレート、スイートチョコレートとは異なり、ホワイトチョコレートやキャラメルチョコレート、イチゴチョコレートなどの無脂カカオ固形分を配合しない、もしくは少量配合するチョコレート類を対象とする。
無脂カカオ固形分が3重量%を上回ると、従来の油脂組成であっても固化速度が速く、良好なツヤを有する被覆用油性食品を調製することができる。しかし、無脂カカオ固形分を加えることで、被覆用油性食品が無脂カカオ固形分由来の色で着色され、くすんだ色調になる場合がある。そのため、ホワイトチョコレートやイチゴチョコレートなどの鮮やかな色彩の被覆用油性食品を得ることが難しくなる場合がある。
無脂カカオ固形分が3重量%以下の場合、従来の油脂組成では固化に時間を要し、固化後のツヤも低下してしまう場合がある。本発明は無脂カカオ固形分が少ない場合に効果を発揮するが、特に1重量%未満の場合に効果を発揮する。さらに無脂カカオ固形分を含まない場合に、より効果が発揮されやすい。
【0016】
本発明において、油性食品には乳化剤A又は乳化剤Bを含む。乳化剤Aとしては、HLB値が9未満のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものより選ばれる1種以上の乳化剤のことをいう。
ここで、主要構成脂肪酸とは、乳化剤を構成する脂肪酸として製品中に90重量%以上含まれる脂肪酸のことをいう。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルの他、グリセリン脂肪酸エステルが複数重合したポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、グリセリンの水酸基が複数エステル結合したグリセリン脂肪酸エステルも含む。
グリセリン脂肪酸エステルのHLB値は好ましくは1~8.5であり、より好ましくは2~6である。グリセリン脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸は、好ましくはステアリン酸若しくはベヘン酸である。
なお、乳化剤のHLBとは、Hydrophilic-Lipophilic Balanceの略であって、親水性と親油性のバランスのことであり、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標である。HLBは0~20の値をとり、HLB値が小さいほど親油性が強い。
【0017】
乳化剤Bとしては、HLB値が3未満のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものより選ばれる1種以上の乳化剤のことをいう。
乳化剤A又は乳化剤Bは、油性食品中に0.01~1.0重量%含むことが好ましく、より好ましくは0.05~0.8重量%であり、さらに好ましくは0.1~0.6重量%である。
【0018】
本発明において、油性食品には乳化剤Cを含む。乳化剤Cとしては、HLB値が3以上のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものより選ばれる1種以上の乳化剤のことをいう。ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は好ましくは3~15であり、より好ましくは3~10である。
ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸は、好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸である。
乳化剤Cは油性食品中に0.01~1.0重量%含むことが好ましく、より好ましくは0.05~0.8重量%であり、さらに好ましくは0.1~0.6重量%である。
【0019】
本発明で乳化剤A、B及びCは、乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤Cという組み合わせで用いることで、被覆作業性が良好で、固化に要する時間が連続生産に適した、良好なツヤを有する油性食品が得られる。さらに、経時でのべたつきを抑制させることができる。乳化剤A及び乳化剤C、又は、乳化剤B及び乳化剤C以外の組み合わせで調製すると、期待するような効果を得られなくなる場合がある。
なお、本発明の被覆用油性食品には、乳化剤A又は乳化剤B、及び乳化剤Cとは別の乳化剤を適宜添加することができる。
【0020】
本発明において、油性食品中に含まれる油脂分は油性食品全体に対して、20~65重量%が好ましい。より好ましくは30~50重量%であり、さらに好ましくは32~45重量%である。油脂分を好ましい範囲にすることで、被覆作業性がより良好である油性食品を調製することができる。また、ツヤが良好な油性食品を調製することができる。
油性食品中の油脂分とは、全脂粉乳などに含まれる油脂すべてを含めた重量%を意味する。
【0021】
本発明の被覆用油性食品に含まれる油脂は、油脂中の構成脂肪酸として炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸を合計15~50重量%含む。好ましくは、16~48重量%、より好ましくは17~46重量%である。油脂中に炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸が適切な量が含まれると固化に要する時間が適当であり、良好なツヤを有することができる。多すぎると、艶が悪くなる場合がある。また、少なすぎると固化に適さない品質になる場合がある。
油脂の脂肪酸組成は日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した値を用いるものとする。
【0022】
本発明の油性食品に含まれる油脂は、油脂中の構成脂肪酸として炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の飽和脂肪酸を合計30~45重量%含む。好ましくは、31~43重量%、より好ましくは32~41重量%含む。油脂中に炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の飽和脂肪酸が適切な量が含まれると、固化に要する時間が適当であり、良好なツヤを有することができ、他の食品に被覆した際の複合食品として一体感のある風味が得られる。
多すぎると、口溶けが悪くなる場合がある。少なすぎると固化に時間がかかったり、ツヤが悪くなったりする場合がある。
【0023】
本発明の油性食品に含まれる油脂は油脂中の構成するトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が、CN36のトリグリセリドを5~16重量%含む。好ましくは、5~15重量%、より好ましくは6~15重量%含む。油脂中に構成するトリグリセリドとして、CN36のトリグリセリドの適切な量が含まれると固化に要する時間が適当であり、良好なツヤを有することができる。
少ないと、固化が遅くなる場合がある。多いと、ツヤが悪くなるだけでなく、被覆時に割れやはがれが生じやすくなる場合がある。
CN36とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリドのことをいう。
油脂中のトリグリセリドを構成している脂肪酸の総炭素数の測定は、日本油化学会制定‘基準油脂分析試験法2.4.6 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)’に準じて実施した。
【0024】
本発明の油性食品はカカオバターの含有量が、油性食品中に0~10重量%である。カカオバターは、チョコレートらしい口溶けに寄与する。しかし、組み合わせる油脂の種類によっては、固化が遅くなったり、ブルームの発生によってツヤが悪くなったりする場合がある。カカオバターの含有量は好ましくは、0~9重量%、より好ましくは0~8重量%である。
【0025】
本発明のより好ましい態様として、エステル交換油脂を含有することが挙げられる。エステル交換油脂は特に限定されないが、使用できる油脂としては、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖トリグリセリド(MCT)等の植物性油脂、および乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
エステル交換油脂は、融点が32~42℃のいわゆる中融点のハードバターが好ましい。より好ましい融点は、32~40℃、さらに好ましくは33~38℃である。
なお、本発明における融点は、上昇融点のことであり、具体的な方法は、日本油化学協会基準油脂分析試験法の上昇融点に規定の方法に準じて測定した。
エステル交換油脂は油性食品の油脂中に40~85重量%含まれることが好ましい。より好ましくは41~82重量%であって、さらに好ましくは42~80重量%である。エステル交換油脂を含有することで、油性食品が適正な固化速度と良好なツヤを有することができる。本発明に用いられるエステル交換油脂は、1種類だけを使用しても良く、2種類以上のエステル交換油脂を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0026】
油脂のエステル交換方法としては、トリグリセリドの1位と3位に結合する脂肪酸のみを酵素(リパーゼ)を用いて特異的に交換する方法(1,3位特異的エステル交換法)と、酵素もしくは金属触媒(例えばナトリウムメチラート)を用いて結合位置に関係なく不特定に交換する方法(ランダムエステル交換)に分けられる。本発明の被覆用油性食品に用いる油脂は、後者のランダムエステル交換により得られる油脂が好ましい。
エステル交換油脂を構成する脂肪酸は、炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸が、25~60重量%含まれるが好ましく、より好ましくは28~55重量%、最も好ましくは30~53重量%である。
エステル交換油脂を構成する脂肪酸である炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸の量が好ましい範囲であれば、固化に要する時間が適当であり、ツヤが良好な被覆用油性食品が得られる。
【0027】
エステル交換油脂中に含まれるCN36~42のトリグリセリドは30~60重量%が好ましく、より好ましくは32~55重量%、最も好ましくは33~53重量%である。
ここで、CN36~42とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36から42であるトリグリセリドの合計量のことをいう。
エステル交換油脂中に含まれるCN36~42の量が好ましい範囲であれば、固化に要する時間が適当であり、ツヤが良好な被覆用油性食品が得られる。
【0028】
本発明において、被覆用油性食品は好ましい態様において、ラウリン系ハードバターを含む。
ラウリン系ハードバターとは、構成脂肪酸組成中炭素数12及び14の飽和脂肪酸であるラウリン酸及びミリスチン酸を一定量含む油脂のことをいう。より具体的には構成脂肪酸組成中の炭素数12及び14の飽和脂肪酸含有量は60重量%以上であり、CN36~42が50重量%以上である油脂をいう。
ラウリン系ハードバターは油性食品の油脂中に20~50重量%含まれることが好ましく、より好ましくは22~48重量%含まれる。
【0029】
本発明が実現される結果、トランス脂肪酸を低減した被覆用油性食品の提供も可能となる。
トランス脂肪酸含有油脂は、近年の栄養学的見地からトランス酸の健康に与えるリスクが問題とされていることから、それらを代替する非テンパリング、非トランス酸型の油脂組成を有する被覆用油性食品への要望は大きい。
【0030】
本発明における被覆用油性食品を被覆した複合食品としては、食品に本発明の被覆用油性食品を被覆することで製造することができ、菓子、果物類、ベーカリー製品であれば、特に限定されるものではない。菓子としては、まんじゅう、蒸しようかん、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、きんつば、ワッフル、栗まんじゅう、月餅、ボーロ、八つ橋、せんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュークリーム、エクレア、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、ビスケット、クッキー、クラッカー、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、ピザパイ、クレープ、スフレー、ベニエなど、果実類としては、バナナ、りんご、イチゴなどが例示できる。ベーカリー製品としては、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、バターロール、ハンバーガーバンズ、ドーナツ、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペストリー、ナンなどが例示できる。
本発明の被覆用油性食品の作業性の良好さや、良好なツヤを得られるという効果を得やすい複合食品としては、特にワッフル、バウムクーヘン、エクレアなどの菓子類、コッペパン、バターロール、ドーナツ、クロワッサン、デニッシュペストリーなどのベーカリー製品が例示できる。
【0031】
本発明の被覆用油性食品の製造法としては、一般的なチョコレート類を製造する要領で行うことができる。具体的には、油脂に、糖類、粉乳等の各種粉末食品、カカオマス、ココアパウダー、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、ロール掛け及び、コンチング若しくはミキシング処理を行い、得ることができる。
その中で、より好ましい製造方法として、HLB3以上のショ糖脂肪酸エステルは、ロール掛け以前に添加し、粉末食品と同様に粉砕処理する。
【0032】
本発明によって得られた被覆用油性食品は、連続生産に適した時間で固化する。固化は融解状態の油性食品を菓子、ベーカリー製品に被覆した直後から表面に指で触れても油性食品が指に付着しない状態になるまでに要する時間で評価する。
連続生産において、冷蔵条件で固化を行う場合もあるが、本発明の被覆用油性食品は室温で固化させることも可能である。室温で固化させる場合に、連続生産に適した固化に要する時間は、10分以内である。好ましくは7分以内である。
【0033】
本発明の被覆用油性食品は、被覆固化後に良好なツヤを有する。ツヤは光沢計による光沢度でも簡易的に評価することが可能である。光沢計による測定は、一例としては株式会社堀場製作所社製、ハンディ光沢計<グロスチェッカ> HORIBA IG-320などが好適に用いられる。
本発明において、一例として測定結果を例示すると、20℃固化時の光沢度(入射角60度)が7以上の良好なツヤとなる。以降、特に断らない場合は、「光沢度」とは20℃固化時の光沢度(入射角60度)の条件にて測定されたものとする。
また、無脂カカオ固形分を多く含む油性食品は、良好なツヤを得やすい傾向がある。一方で、無脂カカオ固形分が少ない油性食品では従来高い光沢度を獲得することが困難であった。本発明によって、無脂カカオ固形分が3%以下でも、光沢度が7以上、場合によっては10以上に達する。
光沢度測定方法としては、チョコレートを50℃にて溶解後にプラスチックフィルムにコーティングし、20℃雰囲気下で固化した後に光沢度測定機器にて光沢度を測定する。
光沢度の数値としては、7以上が良く、好ましくは10以上である。
【0034】
本発明の被覆用油性食品は、経時でのべたつきが抑制される。べたつきとは、被覆後の複合食品を保管する際に、被覆用油性食品の表面に油や水分が滲み出る等の現象によって発生する。被覆する菓子やベーカリーの種類によって状態は異なるが、べたつきが発生すると包材に付着することがあり、外観を損なう場合がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%および部はいずれも重量基準を意味する。
【0036】
(油脂の調製)
表1記載の脂肪酸組成で構成される油脂を調製した。パーム油分別硬質部、ヤシ油及びハイエルシン酸菜種極度硬化油を所定の比率で混合してナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った。得られたエステル交換油を常法に従い精製して植物油脂aを得た。植物油脂aにさらにハイエルシン酸菜種極度硬化油を添加して表1記載のエステル交換油脂Aを得た。
なお、本発明においてハイエルシン酸菜種極度硬化油はエルシン酸含有量が構成脂肪酸組成中30質量%以上であるものを言う。
【0037】
パーム油分別硬質部及びヤシ油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った。得られたエステル交換油を常法に従い精製して表1記載のエステル交換油脂Bを得た。
【0038】
ヨウ素価58のパーム油分別軟質部とハイエルシン酸菜種極度硬化油を所定の比率で混合して、ノボザイムズ社製の固定化リパーゼ「Lipozymes TL-IM」を使用し、ランダムエステル交換油脂であるエステル交換油脂Cを調製した。ランダムエステル交換の方法は以下に示した。
油脂を減圧脱水により水分を100ppmに調整した。さらに「Lipozymes TL-IM」を1重量%添加し、反応温度70℃で30時間、密閉容器中で攪拌してエステル交換反応を行った後、濾過によって固定化リパーゼを除去し、得られたランダムエステル交換油脂を常法に従い精製してエステル交換油脂Cを得た。エステル交換油脂Cの組成を表1に示した。
【0039】
パーム油分別硬質部、ヤシ油及びハイエルシン酸菜種極度硬化油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った。得られたエステル交換油を常法に従い精製して表1記載のエステル交換油脂Dを得た。
【0040】
パーム油分別硬質部、パーム核油及びハイエルシン酸菜種度硬化油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った。得られたエステル交換油を常法に従い精製して表1記載のエステル交換油脂Eを得た。
なお、以降の各表中で、C12、C14、C16、C18とはそれぞれ炭素数12、14、16、18の飽和脂肪酸を、C12+C14及びC16+C18とは、それぞれの飽和脂肪酸の合計量を示した。
CN36とは油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリドの量、CN36~CN42とは油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36から42であるトリグリセリドの合計量を示した。
【0041】
【0042】
ラウリン系ハードバターとして 以下の油脂を用いた。
植物油脂Lとして、パーム核油分別硬質部を極度硬化した後、常法に従い精製した油脂を用いた。C12+C14は77重量%、CN36~CN42は74.6重量%であった。
植物油脂Mとして、パーム核油とパーム油を95:5で混合したものを極度硬化した後、常法に従い精製した油脂を用いた。C12+C14は61.1重量%、CN36~CN42は54重量%であった。
植物油脂Nとして、パーム核油をヨウ素価2.5となるように硬化した後、常法に従い精製した油脂を用いた。C12+C14は63重量%、CN36~CN42は56.6重量%であった。
【0043】
植物油脂Xとして、ヨウ素価68のパーム分別油の軟質部をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った後、常法に従い精製した油脂を用いた。
植物油脂Yとして、ヨウ素価68のパーム分別軟質油を用いた。
植物油脂Zとして、食用菜種油を用いた。
【0044】
(被覆用油性食品の調製)
事前の検討として、表2の配合の通り、ココア、砂糖、全粉乳を、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加えながらミキシングを行った。
得られた油性食品を用いて、バウムクーヘンを被覆し、以下評価方法に従って評価した。
【0045】
●コーティングテスト:固化時間
調製した油性食品を50℃の融解状態で、バウムクーヘン(エースベーカリー社製:厚切りバウムクーヘン)の表面に4.0g(±1.0g)コーティングした。付着方法は特に限定されないが、融解状態の油性食品にバウムクーヘンを3分の1程度浸漬した後、持ち上げて油性食品が付着した部分を上部にした状態で20℃室温下にて静置した。
静置した状態で固化に要する時間を測定した。
◎:7分以内、○:10分以内、×:10分を超える、という基準の下、○以上が合格品質であると判断した。
●ツヤの評価:光沢度
ツヤを評価するために、光沢度を測定した。
光沢度はチョコレート類を50℃でプラスチックフィルムにコーティングし、20℃で1時間固化させた後グロスチェッカ(HORIBA IG-320、入射角60°)にて 測定を行った。
光沢度7以上であれば、良好なツヤ、10以上であれば特に良好なツヤである、と判断した。
●ツヤの評価:外観の目視
ツヤはバウムクーヘンにコーティングされた状態を、目視でも確認した。
評価は以下の基準で行った。○以上を合格品質と判断した。
◎:特に良好、○:良好、×:不良
●風味
コーティングテストを実施した油性食品が被覆されたバウムクーヘンを20℃で2日間保管した後に、風味評価を行った。油性食品単体としての評価でなく複合食品として良好かどうかを指標に風味評価を行った。
評価は以下の基準で行った。○以上を合格品質と判断した。
◎:風味や口溶けの一体感が特に良好、○:風味や口溶けの一体感が良好、△:一体感に欠ける、×:口溶けや風味が悪い
●べたつき
コーティングテストを実施した油性食品が被覆されたバウムクーヘンを包材に入れて20℃で2日間保管した後に、表面のべたつきを確認した。評価は以下の基準で行った。○以上を合格品質とした。
◎:べたつきなく特に良好、○:表面に少し油が滲むが包材への付着はなく良好、△:一部が包材へ付着する、×:包材への付着が目立ち不良
上記評価ですべて○以上であり、光沢度が7以上であるものを、総合品質が良好である、と判断した。
【0046】
【0047】
結果、無脂カカオ固形分が少ない比較例は、光沢度及び外観ツヤともに悪いものであった。
無脂カカオ固形分を多く含む参考例は固化が早く、外観ツヤも良好であった。※を記したものは、光沢度の数値以上に見た目の外観ツヤが良好であった。そのため、光沢度の数値以上の評価になった。
【0048】
表3記載の配合量に従って、実施例1として植物油脂X、エステル交換油脂A、植物油脂L及び植物油脂Mとカカオバターを融解し、この一部を全粉乳、砂糖及び乳化剤C1の混合物に加え、50℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン及び油脂に融解させた乳化剤A1を加えながらミキシングを行い、ホワイトチョコレート様の油性食品を得た。この油性食品を、バウムクーヘンを用いたコーティングテスト等、上述した評価方法に従い評価を行った。実施例1同様の方法で乳化剤A1及び乳化剤C1を加えるものと加えないものを調製し、同様の評価を実施した。
乳化剤Aとしては、乳化剤A1としてHLB4のポリグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてベヘン酸を有する、デカグリセリンヘプタエステルを乳化剤として用いた。
乳化剤Cとしては、乳化剤C1としてHLB7のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてステアリン酸を有する乳化剤を用いた。
これらの結果を表3にまとめた。
【0049】
【0050】
乳化剤を組み合わせた実施例は、固化に要する時間が適当であって、良好なツヤを有する品質になった。比較例3でもツヤは良かったが、固化に要する時間が長くなる傾向があり、経時でのべたつきが発生した。
【0051】
実施例1と同様の方法で、植物油脂Xを植物油脂Yに変更したものと、カカオバターを含まない油性食品を調製して、実施例1と同様に評価した。
配合及び結果を表4に示した。
【0052】
【0053】
植物油脂の一部を変更した実施例は、ツヤや固化速度が多少変化するが、どれも良好な品質であった。中でも、植物油脂Xを配合した実施例1および3は、経時でのべたつきが抑えられていた。
【0054】
実施例1と同様の方法で、油脂を表5のように変更した油性食品を調製して、実施例1と同様に評価した。
配合及び結果を表5に示した。
【0055】
【0056】
【0057】
実施例では良好なツヤが得られ、その他の評価も良好であった。エステル交換油脂を含まない比較例は、固化に要する時間は短かったが、外観のツヤが劣っていた。また、比較例5は、エステル交換油脂を含んでも固化に時間がかかり、経時でのべたつきが発生した。
【0058】
実施例1と同様の方法で、油脂を表6のように変更した油性食品を調製して、実施例1と同様に評価した。
配合及び結果を表6に示した。
【0059】
【0060】
実施例1と比較して、油脂の中のエステル交換油脂の比率が下がっても、固化に要する時間やツヤの品質が保持できていた。
【0061】
実施例1と同様の方法で、乳化剤の種類及び添加量を表7のように変更した油性食品を調製して、実施例1と同様に評価した。
以下に示した乳化剤を用いた。
乳化剤Aとしては、乳化剤A2としてHLB2.8のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてベヘン酸を有するモノエステルとジエステルの混合物を用いた。
乳化剤A3として、HLB6のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてステアリン酸を有するモノエステルを用いた。
乳化剤B1として、HLB1のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてパルミチン酸を有するものを用いた。
乳化剤B2として、HLB1以下のショ糖脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてステアリン酸を有するものを用いた。
比較に乳化剤a1として、HLB3.7のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸としてエルカ酸を有する、デカグリセリンオクタエステルを乳化剤として用いた。
乳化剤a2として、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いた。HLBは約1であった。
使用する油脂は実施例1と同様であるため、油脂中の成分値は実施例1と同様であった。配合及び結果を表7に示した。
【0062】
【0063】
比較例8は外観のツヤは向上したが、固化に時間を要し、経時でのべたつきが見られた。実施例16及び17の結果から、乳化剤A及び乳化剤Cの組合せと同様の効果が、乳化剤B及び乳化剤Cの組み合わせでも確認できた。乳化剤Aとしては、グリセリン脂肪酸エステルの中でも、特にベヘン酸を有するものを用いる場合に、固化時間、外観ツヤ及びべたつきが良好な結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品であっても、被覆作業性が良好で、固化に要する時間が連続生産に適した、良好なツヤを有する油性食品を提供することができる。さらに、本発明の被覆用油性食品を菓子やベーカリー製品に用いた際に経時でのべたつきが少ない複合食品を提供することができる。
【要約】
無脂カカオ固形分が少ない被覆用油性食品であって、被覆作業性が良好で、固化に要する時間が連続生産に適した、良好なツヤを有する油性食品を提供することを課題とする。
さらに、被覆用油性食品を菓子やベーカリー製品に用いた際に経時でのべたつきが少ない複合食品を提供することを課題とする。
炭素数12及び14の飽和脂肪酸を一定量含有し、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルなど特定の乳化剤を組み合わせて配合した被覆用油性食品によって本願課題を解決することができる。
さらにより良い品質に調製するために、一部の炭素数12及び14の飽和脂肪酸の供給源として、エステル交換油脂を選択した被覆用油性食品を用いることができる。