(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】使い捨てピペット
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20240228BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240228BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B01L3/02 B
G01N1/00 101K
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2023546196
(86)(22)【出願日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2023007974
(87)【国際公開番号】W WO2023181841
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2022048741
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 幸太
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532575(JP,A)
【文献】特表2015-515364(JP,A)
【文献】特開2016-159274(JP,A)
【文献】特開2007-061751(JP,A)
【文献】特開2019-031609(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033876(WO,A1)
【文献】特開2018-111789(JP,A)
【文献】特開2003-245564(JP,A)
【文献】特開2004-148158(JP,A)
【文献】特開2001-121005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
A61J 1/05- 1/12
A61L 2/08- 2/12
B01J 4/00- 4/04
C12M 1/00- 1/42
G01F 11/00-11/46
G01N 1/00- 1/44
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬分野又は生化学分野で使用される使い捨てピペットであって、
吸引装置に接続される接続部を有する樹脂製のピペット本体と、
前記接続部に内挿され、吸収線量が70kGy以上となるように放射線照射を行ったときの日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験法溶出物試験に準じて測定される溶出量が、波長220nm~241nmの区間における最大吸光度
0.01以下、かつ、波長241nm~350nmの区間における最大吸光度
0.01以下相当である樹脂フィルターと、を備え、
前記樹脂フィルターが、
低密度ポリエチレンのみからなる、使い捨てピペット。
【請求項2】
前記樹脂フィルターは、多孔質樹脂焼結フィルターである、請求項1に記載の使い捨てピペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の使い捨てピペットが使用されている。このような使い捨てピペットの一例が、例えば実開昭63-90438号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1の使い捨てピペットでは、試料の滴下量の制御を容易化する目的で、樹脂製のピペット本体における吸引装置との接続部に綿栓が内挿されている。
【0003】
樹脂製の使い捨てピペットの用途としては、例えば医薬分野や生化学分野の実験及び検査等での溶液の秤量や分注等が挙げられる。これらのような用途では、試料中への異物の混入は厳に回避されなければならないが、特許文献1のようにピペット本体の接続部に綿栓が内挿されていると、綿栓を構成する繊維の一部が試料中に混入してしまう可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料中への異物の混入を回避できる使い捨てピペットの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る使い捨てピペットは、
医薬分野又は生化学分野で使用される使い捨てピペットであって、
吸引装置に接続される接続部を有する樹脂製のピペット本体と、
前記接続部に内挿され、吸収線量が20kGy以上となるように放射線照射を行ったときの日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験法溶出物試験に準じて測定される溶出量が、波長220nm~241nmの区間における最大吸光度0.08以下、かつ、波長241nm~350nmの区間における最大吸光度0.05以下相当である樹脂フィルターと、を備える。
【0007】
この構成によれば、樹脂製のピペット本体の接続部に内挿されるのが樹脂フィルターであるので、例えば綿栓が内挿される場合とは異なり、綿栓由来の繊維が異物として試料中に混入する心配がない。また、使い捨てピペットが医薬分野又は生化学分野で使用される場合には、滅菌処理のために放射線照射が施されることが多いが、このような場合でも樹脂フィルターからの溶出が極微量に抑えられる。よって、医薬分野又は生化学分野での使用に耐え得る、試料中への異物の混入を回避できる使い捨てピペットを実現することができる。
【0008】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0009】
一態様として、
前記樹脂フィルターは、吸収線量が70kGy以上となるように放射線照射を行ったと
きの前記溶出量が、波長220nm~241nmの区間における最大吸光度0.08以下、かつ、波長241nm~350nmの区間における最大吸光度0.05以下相当であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、より強力な滅菌処理が施される場合でも、樹脂フィルターからの溶出が極微量に抑えられる。よって、無菌性を向上させつつ、試料中への異物の混入をより確実に回避することができる。
【0011】
一態様として、
前記樹脂フィルターは、多孔質樹脂焼結フィルターであることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、多孔質樹脂焼結フィルターを用いることで、樹脂フィルターからの溶出をより一層低減することができる。また、例えば空孔のサイズや空隙率等を調整することにより、容易に通気抵抗の適正化を図ることができる。
【0013】
一態様として、
前記樹脂フィルターが、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂で構成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、比較的高い放射線耐性を有するポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂のいずれかを用いることで、滅菌処理後の樹脂フィルターからの溶出をさらに極微量に抑えることができる。よって、試料中への異物の混入をより確実に回避することができる。
【0015】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
ピペットの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態のピペット1は、1回の使用毎に廃棄することが予定された使い捨てピペットである。
図1に示すように、ピペット1は、ピペット本体20を備えている。ピペット本体20は、本体部21と、本体部21の一端に設けられた先端部22と、本体部21の他端に設けられた接続部23とを有する。
【0018】
本体部21は、円筒状に形成されている。本体部21のサイズは特に限定されない。本体部21の長さは、例えば100~500mmとすることができ、内径は、例えば2~20mmとすることができる。また、本体部21の容量は、例えば1~500mLとすることができる。本体部21の外面には、吸引保持した液量を示すための目盛りが付されていても良い。
【0019】
先端部22は、円錐台状に形成されている。先端部22は、本体部21側を基端部とし、本体部21とは反対側の先端部に向かうに従って漸次縮径するように形成されている。先端部22のサイズは特に限定されない。先端部22の長さは、例えば5~30mmとすることができる。また、先端部22の先端開口部の内径は、例えば0.1~3mmとすることができる。
【0020】
接続部23は、円筒状に形成されている。接続部23は、本体部21よりもひと回り小さい円筒状に形成されている。接続部23のサイズは特に限定されない。接続部23の長さは、例えば10~30mmとすることができ、内径は、例えば2~10mmとすることができる。接続部23は、本体部21とは反対側の端部で吸引装置9に接続される。
【0021】
吸引装置9は、先端部22側からピペット本体20内に液体を吸入するための装置である。吸引装置9は、例えばピペッター等の自動吸引装置であっても良いし、例えばピペットキャップ(ゴム球)等の手動吸引装置であっても良い。
【0022】
ピペット本体20は、使い捨てに適した樹脂製とされている。ピペット本体20を構成する樹脂材料は、特に限定されないが、透明性が高く成形性に優れるものを用いることが好ましい。ピペット本体20は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、及びポリメチルペンテン等を用いて形成することができる。
【0023】
ピペット本体20は、例えば押出成形や射出成形等によって形成することができる。この場合において、例えば本体部21と先端部22とが一体的に形成され、それとは別体として接続部23が形成され、これら2つの部品が接合されて構成されても良い。2つの部品の接合は、例えば熱溶着、レーザー溶着、超音波溶着、及び接着剤・粘着剤による接着等によって行うことができる。
【0024】
図2に示すように、本実施形態のピペット1は、ピペット本体20に加え、樹脂フィルター30を備えている。樹脂フィルター30は、ピペット本体20のうち、接続部23に内挿されている。接続部23に樹脂フィルター30を設けることで、吸引装置9からピペット本体20側への異物混入を抑止することができる。また、例えば吸引装置9で過剰に液体を吸引してしまった場合等にも吸引装置9の汚染や破損を抑制することができる。樹脂フィルター30は、ピペット本体20の接続部23に圧入されている。
【0025】
本実施形態では、樹脂フィルター30として多孔質樹脂焼結フィルターが用いられている。ここで、多孔質樹脂焼結フィルターとは、連続空孔を有する多孔質の樹脂焼結体からなるフィルターであり、材料樹脂の粒子を鋳型に入れて加圧状態で加熱して得られる焼結体からなるフィルターである。樹脂フィルター30(本例では多孔質樹脂焼結フィルター)を構成する樹脂材料は特に限定されないが、各種の熱可塑性樹脂を好ましく用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、及びポリカーボネート等が例示される。これらの中では、ポリエチレン系樹脂(例えば、低密度ポリエチレンやエチレン-酢酸ビニル共重合体等)やポリプロピレン系樹脂を好ましく用いることができる。
【0026】
樹脂フィルター30(多孔質樹脂焼結フィルター)の平均気孔径(連続空孔の大きさ)は、特に限定されないが、例えば1~10μmとすることができる。また、樹脂フィルター30(多孔質樹脂焼結フィルター)の気孔率(空隙率)は、特に限定されないが、例えば20~50%とすることができる。また、樹脂フィルター30の長さ及び外径も特に限定されないが、例えば長さが5~10mmで外径が2~10mmとすることができる。
【0027】
本実施形態の樹脂フィルター30は、吸収線量が20kGy以上となるように放射線照射を行ったときの溶出量が、以下の条件を満たしている。ここで、樹脂フィルター30の溶出量は、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験法溶出物試験(7.02.1.2)に準じて測定される溶出量を意味する。樹脂フィルター30の溶出量は、紫外吸収スペクトルから算出される吸光度に関して、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.08以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.05以下相当である。このような条件を満たす樹脂フィルター30を用いることで、樹脂フィルター30からの溶出量を、医薬分野や生化学分野での使用に適した極微量に抑えることができる。
【0028】
樹脂フィルター30は、より強い条件で、吸収線量が70kGy以上となるように放射線照射を行ったときの溶出量が上記と同じ相当量であることが好ましい。すなわち、樹脂フィルター30の溶出量は、吸収線量が20kGy以上となるように放射線照射を行った場合でも、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.08以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.05以下相当であることが好ましい。このような条件を満たす樹脂フィルター30を用いることで、より強い条件で放射線照射を行う場合でも溶出量を極微量に抑えることができる。
【0029】
或いは、樹脂フィルター30は、吸収線量が20kGy以上となるように放射線照射を行ったときの溶出量が、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.07以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.04以下相当であることが好ましい。また、樹脂フィルター30は、同条件で放射線照射を行ったときの溶出量が、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.06以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.03以下相当であることがより好ましい。
【0030】
さらに、樹脂フィルター30は、より強い条件で、吸収線量が70kGy以上となるように放射線照射を行ったときの溶出量が、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.07以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.04以下相当であることがより好ましい。また、樹脂フィルター30は、同条件で放射線照射を行ったときの溶出量が、波長220~241nmの区間における最大吸光度が0.06以下であり、かつ、波長241~350nmの区間における最大吸光度が0.03以下相当であることがさらに好ましい。この場合、より強い条件で放射線照射を行う場合でも樹脂フィルター30からの溶出量をさらに極微量に抑えることができる。
【0031】
本実施形態のピペット1は、例えば医薬分野や生化学分野の実験及び検査等において、各種溶液の秤量や分注等を行うために用いることができる。このため、本実施形態のピペット1は、製造後に放射線照射による滅菌処理が施される。滅菌処理のための放射線照射は、無菌性確保の観点から、例えば吸収線量が20kGy以上となるように行うことが好ましく、吸収線量が25kGy以上となるように行うことがより好ましく、吸収線量が70kGy以上となるように行うことがさらに好ましい。より強い条件で滅菌処理を行うことで、ピペット1の無菌性を向上させることができる。しかも、そのような滅菌処理を行っても、樹脂フィルター30由来の溶出物の混入を回避することができる。
【0032】
以下に複数の試験例を示し、本発明についてより具体的に説明する。但し、以下に記載する具体的な試験例によって本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0033】
[試験例1]
ポリエステル製の樹脂フィルター30を準備した。樹脂フィルター30は、ポリエステル繊維を焼結して作製した。得られた樹脂フィルター30は、外径が4.3mmで長さが10mmであった。この樹脂フィルター30に対して、電子線を吸収線量70kGyとなるように照射した。
【0034】
電子線照射後の樹脂フィルター30を検体として、第18改正日本薬局方一般試験法「7.02プラスチック製医薬品容器試験法」の「1.2溶出物試験」に準じて、泡立ち、pH、過マンガン酸カリウム還元性物質、紫外吸収スペクトル、及び蒸発残留物を測定した。なお、抽出温度及び抽出時間については、それぞれ50℃及び72時間とした。また、紫外吸収スペクトルについては、波長220~241nmの区間における最大吸光度と、波長241~350nmの区間における最大吸光度とをそれぞれ測定した。
【0035】
[試験例2]
低密度ポリエチレン製の樹脂フィルター30を準備した。樹脂フィルター30は、平均粒子径が400μmの低密度ポリエチレン粒子を鋳型に充填し、押し固めて作成した。得られた樹脂フィルター30は、サイズは試験例1と同じで、平均気孔サイズは30μmであった。この樹脂フィルター30に対して、試験例1と同じ条件で電子線を照射した。電子線照射後の樹脂フィルター30を検体として、試験例1と同様に、泡立ち、pH、過マンガン酸カリウム還元性物質、紫外吸収スペクトル、及び蒸発残留物を測定した。
【0036】
[試験例3]
エチレン-酢酸ビニル共重合体製の樹脂フィルター30を準備した。樹脂フィルター30は、平均粒子径が300μmのエチレン-酢酸ビニル共重合体粒子を鋳型に充填し、押し固めて作成した。得られた樹脂フィルター30は、サイズは試験例1と同じで、平均気孔サイズは30μmであった。この樹脂フィルター30に対して、試験例1と同じ条件で電子線を照射した。電子線照射後の樹脂フィルター30を検体として、試験例1と同様に、泡立ち、pH、過マンガン酸カリウム還元性物質、紫外吸収スペクトル、及び蒸発残留物を測定した。
【0037】
測定結果を、以下の表1にまとめた。
【0038】
【0039】
これらの結果から、低密度ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体を材料とする試験例2,3の樹脂フィルター30では、溶出量がプラスチック製水性注射剤容器の規格に十分に適合するまでに極微量に抑えられていることが確認された。そして、これらの樹脂フィルター30をピペット本体20の接続部23に内挿して試用してみたところ、扱う試験液中への異物の混入は何ら確認されなかった。
【0040】
以上、本発明のピペットについて、具体的な実施形態及び試験例を示して詳細に説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、より強力な滅菌処理が施される場合でも、樹脂フィルターからの溶出が極微量に抑えられるため、無菌性を向上させつつ、試料中への異物の混入をより確実に回避することが可能な使い捨てピペットを提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ピペット
9 吸引装置
20 ピペット本体
21 本体部
22 先端部
23 接続部
30 樹脂フィルター