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特許7444345ステータ用封止樹脂組成物およびステータの解体方法
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  • 特許-ステータ用封止樹脂組成物およびステータの解体方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ステータ用封止樹脂組成物およびステータの解体方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/00 20060101AFI20240228BHJP
   C08G 8/00 20060101ALI20240228BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240228BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20240228BHJP
   H02K 3/44 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H02K5/00 Z
C08G8/00 J
C08G59/40
H02K3/30
H02K3/44
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023578008
(86)(22)【出願日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2023030162
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2022138064
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】熊本 玄昭
(72)【発明者】
【氏名】牧原 康二
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-92163(JP,A)
【文献】特開2022-102073(JP,A)
【文献】特開2019-19153(JP,A)
【文献】特開2014-185270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00
C08G 8/00
C08G 59/40
H02K 3/30
H02K 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、
前記封止部材を形成するために用いるステータ用封止樹脂組成物であって、
当該ステータ用樹脂組成物が、熱硬化性成分を含み、
当該ステータ用樹脂組成物を熱硬化した後に得られる硬化体が、以下の式(1)で表される構造を備え、易解体性を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【化30】
(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該熱硬化性成分および当該硬化剤がいずれも-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該硬化剤が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記硬化剤が、フェノール系硬化剤を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該熱硬化性樹脂が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、およびアクリル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
さらに無機充填材を含み、当該無機充填材の含有量が前記ステータ用封止樹脂組成物全量に対して、10~98質量%である、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
シリルエーテル変性ノボラック樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
重量平均分子量(Mw)が500~10000のフェノール樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、ステータ用封止樹脂組成物。
【請求項13】
周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに巻回され前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、
記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータであって、
前記封止部材が、請求項1または2に記載のステータ用封止樹脂組成物の硬化物からなる、ステータ。
【請求項14】
請求項13に記載のステータの解体方法であって、
前記ステータを溶媒に浸漬し、前記ステータ用封止樹脂組成物の前記硬化物を解体する工程を含む、ステータの解体方法。
【請求項15】
請求項14に記載のステータの解体方法であって、
前記溶媒は、フッ素イオンを含む溶媒である、ステータの解体方法。
【請求項16】
請求項14に記載のステータの解体方法であって、
前記浸漬は-20~200℃で行われる、ステータの解体方法。
【請求項17】
請求項14に記載のステータの解体方法であって、
前記浸漬は5~30℃で行われる、ステータの解体方法。
【請求項18】
請求項13に記載のステータを構成する材料のリサイクル方法であって、
前記ステータを溶媒に浸漬し、前記硬化物を解体する工程と、
前記ステータから前記材料を回収する工程と、
を含む、リサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ用封止樹脂組成物およびステータの解体方法に関する。より詳細には、ステータ用封止樹脂組成物、ステータ用封止樹脂組成物の硬化物を備えるステータ、ステータ用封止樹脂組成物の硬化物の解体方法、およびステータを構成する材料のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電動機は、軸となるシャフトに設けられたロータと、ロータの外周側に配置されたステータ(モータコアとも言う)とを有する。ステータは、ティース部に巻装したコイルを有し、コイルとともに樹脂封止されている。
【0003】
ステータに樹脂材料を用いる技術として、例えば、特許文献1(特開2003-284277号公報)に記載のものがある。同文献には、複数の電磁鋼板を積層したステータコアに複数のコイルを所定間隔で巻線したステータと、このステータに対し回転可能に保持されたロータと、ステータを固定する冷却フレームを有する回転電機において、ステータの巻線部分となるスロットを樹脂成分中に異方性構造が存在する熱硬化性樹脂で構成した高熱伝導複合材を配置した回転電機について記載されており、かかる構成により、コイルで発生した熱が伝わりやすく放熱性のよい回転電機が提供されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-284277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、資源の有効活用への関心が高まり、コイルに用いられる銅等からなる導線の再利用に関する技術が注目されている。
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来技術においてステータからコイルを再利用しようとした場合、封止樹脂を破壊したり、高温に加熱して灰化させる等の方法が挙げられるが、プロセスの簡便化とリサイクルコストの低減の点で改善の余地があった。また、灰化させるための熱エネルギーがクリーンでない限り、二酸化炭素を発生させてしまう等の新たな問題が生じることとなる。
【0006】
本発明者は、かかる問題を解決すべく、ステータに用いられる樹脂材料に着目し鋭意検討を行った結果、ステータ用の樹脂組成物の硬化物が所定の構造を有することが有効であることを見出した。すなわち、所定のステータ用樹脂組成物を用いたステータを溶液処理した際に当該所定の構造部分が離脱しやすくなることでステータ用樹脂組成物の硬化物中のネットワークが分断され、硬化物を解体できると考えられた。その結果、ステータのコイル等を簡便に取り出せるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のステータ用封止樹脂組成物、およびこれに関する技術である。
【0008】
[1] 周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、
前記封止部材を形成するために用いるステータ用封止樹脂組成物であって、
当該ステータ用樹脂組成物が、熱硬化性成分を含み、
当該ステータ用樹脂組成物を熱硬化した後に得られる硬化体が、以下の式(1)で表される構造を備え、易解体性を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。)
[2] [1]に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
[3] [1]または[2]に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該熱硬化性成分および硬化剤がいずれも-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
[4] [1]または[2]に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該硬化剤が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
[5] [3]または[4]に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記硬化剤が、フェノール系硬化剤を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性成分が熱硬化性樹脂および硬化剤を含み、当該熱硬化性樹脂が-Si-O-構造を有する、ステータ用封止樹脂組成物。
[7] [3]乃至[6]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、およびアクリル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
[8] [7]に記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
[9] [1]乃至[8]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
さらに無機充填材を含み、当該無機充填材の含有量が前記ステータ用封止樹脂組成物全量に対して、10~98質量%である、ステータ用封止樹脂組成物。
[10] [1]乃至[9]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
シリルエーテル変性ノボラック樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
[11] [1]乃至[10]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
重量平均分子量(Mw)が500~10000のフェノール樹脂を含む、ステータ用封止樹脂組成物。
[12] [1]乃至[11]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物であって、
粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、ステータ用封止樹脂組成物。
[13] 周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに巻回され前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、
記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータであって、
前記封止部材が、[1]乃至[12]いずれか一つに記載のステータ用封止樹脂組成物の硬化物からなる、ステータ。
[14] [13]に記載のステータの解体方法であって、
前記ステータを溶媒に浸漬し、前記ステータ用封止樹脂組成物の前記硬化物を解体する工程を含む、ステータの解体方法。
[15] [14]に記載のステータの解体方法であって、
前記溶媒は、フッ素イオンを含む溶媒である、ステータの解体方法。
[16] [14]または[15]に記載のステータの解体方法であって、
前記浸漬は-20~200℃で行われる、ステータの解体方法。
[17] [14]乃至[16]いずれか一つに記載のステータの解体方法であって、
前記浸漬は5~30℃で行われる、ステータの解体方法。
[18] [13]に記載のステータを構成する材料のリサイクル方法であって、
前記ステータを溶媒に浸漬し、前記硬化物を解体する工程と、
前記ステータから前記材料を回収する工程と、を含む、リサイクル方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステータ用樹脂組成物の硬化物の易解体性により資源のリサイクル性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】モータの回転軸方向と垂直な方向の断面図である。
図2】モータの回転軸方向の縦断面図である。
図3】スロット周辺を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値および上限値と任意に組み合わせられる。
【0012】
本明細書に例示する各成分および材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、直鎖、分岐、環状かを記していない表記は、直鎖、分岐、または環状のいずれであってもよい。
【0014】
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
1.ステータ用樹脂組成物
本実施形態のステータ用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する。)は、熱硬化性成分を含み、当該樹脂組成物を熱硬化した後に得られる硬化物が、以下の式(1)で表される構造を有するものである。また、上記熱硬化の条件は、175℃で2分とすることがよい。
【0017】
【化2】
(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。)
【0018】
これにより、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を溶液処理した際に式(1)の構造が離脱して、硬化物中の架橋構造が崩壊し、易解体性が得られる。式(1)の構造は、熱硬化性成分の熱硬化反応によって生じるものであってもよい。
【0019】
本実施形態において「易解体性」は、硬化物を溶液処理した際に、硬化物がゲル分解し可溶化することを意図する。
また、硬化物中の式(1)で表される構造の有無は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。確認する際の分析対象は硬化物の状態であってもよく、硬化物を分解した後の分解液であってもよい。硬化物の状態から確認できる点から、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)が好ましい。また、後述するカップリング剤等による構造と区別しやすくする等の点から、分析対象を硬化物の分解処理液としてもよい。
【0020】
また、本実施形態の硬化物は、式(1)の構造を繰り返し単位として有することが好ましい。繰り返し数は特に限定されないが、平均繰り返し数5~1500であってもよい。
【0021】
式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。
炭素数1~30の炭化水素基は、直鎖状、分岐状、または環状のいずれであってもよく、置換基を有していても有していなくてもよい。
炭素数1~30の炭化水素基は、好ましくは、炭素数1~20の直鎖状アルキル、アルケニル、アルキニル基であり、より好ましくは炭素数1~10の直鎖状アルキル、アルケニル、アルキニル基である。
炭素数3~20の分岐状炭化水素基は、好ましくは炭素数3~20の分岐状アルキル、アルケニル、アルキニル基であり、より好ましくは炭素数3~10の分岐状アルキル、アルケニル、アルキニル基であり、さらに好ましくは炭素数3~6の分岐状アルキル、アルケニル、アルキニル基である。
炭素数3~20の環状炭化水素基は、好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル基であり、さらに好ましくは炭素数5~10の、シクロアルケニル、シクロアルキニル基である。具体例として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
芳香族基は、置換基を有していてもよく、置換基としては例えば、炭化水素基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基等が挙げられる。
炭素数1~30のアルコキシル基は、好ましくは炭素数1~10のアルコキシル基であり、より好ましくは炭素数1~6のアルコキシル基である。具体例として、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物は熱硬化性成分を含む。熱硬化性成分は、通常、ラジカル等の活性化学種が作用することで重合/架橋する基を含むものであればよく、具体的には、熱硬化性樹脂、または硬化剤のいずれであってもよい。本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性成分を1種のみ含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、および硬化剤を含むことが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂、および硬化剤の少なくともいずれか一方が、-Si-O-構造を有することが好ましい。これにより、本実施形態の樹脂組成物の硬化物が式(1)で示される構造を備えることができ、硬化物が溶媒に可溶化することにより、易解体性が得られるようになる。
【0024】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化物が式(1)で表される構造を有するように各種成分を組み合わせることができるが、具体的には、例えば、以下の形態の樹脂組成物が挙げられる。
【0025】
<1>-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P)を含む樹脂組成物。
<2>熱硬化性樹脂と、硬化剤として-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P)と、含む樹脂組成物。
<3>-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)を含む樹脂組成物。
<4>熱硬化性樹脂としてケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するシリコーン樹脂(オルガノポリシロキサン)(C1)と、硬化剤としてケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)と、を含む樹脂組成物。
<5>-Si-O-構造を主鎖に持つ不飽和結合を反応させて得られたアクリル/ビニル樹脂を含む、樹脂組成物。
【0026】
以下、各実施形態の詳細を説明する。
【0027】
<第1実施形態>
第1実施形態では、-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P)を含む樹脂組成物について説明する。この場合、硬化剤としては、-Si-O-構造を有していないものであってもよく、公知の硬化剤を用いてもよい。公知の硬化剤については後述する。
【0028】
-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P)としては、フェノール性水酸基を有するシリルエーテル類により変性されたフェノール樹脂を用いることができる。具体的には、例えば、以下の式(P1)に示されるシリルエーテル変性ノボラックが挙げられる。
【0029】
【化3】
【0030】
式(P1)中、x,yはいずれも整数であり、x+yは2~200である。
また、式(P1)中、良好な解体性や成形性を得る点から、x:y=1:99~99:1であることが好ましく、x:y=2:98~75:25であることがより好ましく、x:y=5:95~50:50であることがさらに好ましい。
また、式(P1)中、Dは、以下の式(P1-1)で表される構造を有する。
【0031】
【化4】
【0032】
式(P1-1)中、Rは炭素数2~10の2価の炭化水素基を示す。R10はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の1価の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。zは0~10の整数である。
なかでも、Rは、好ましくは炭素数2~5の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~4の2価の炭化水素基であり、さらに好ましくはプロペニル基である。R10はそれぞれ独立して、炭素数1~20の1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10の1価の炭化水素基であることがより好ましく、また、アルキル基であり、炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがことさらに好ましい。
【0033】
フェノール樹脂(P1)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、500~10000であることが好ましく、1000~8000であることがより好ましく、1500~5000であることがさらに好ましい。また、フェノール樹脂(P1)の数平均分子量は、特に限定されないが、100~5000であることが好ましく、300~3000であることがより好ましく、600~1000であることがさらに好ましい。
本実施形態において、Mw、Mnはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出することができる。
【0034】
フェノール樹脂(P)の合成方法は、シリルエーテル類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて得ることができる。
【0035】
シリルエーテル類としては、フェノール性水酸基を有するものが好ましく、以下の式(P1-2)に示すものが挙げられる。
【0036】
【化5】
【0037】
式(P1-2)中、Rは炭素数2~10の2価の炭化水素基を示す。R10はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の1価の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。zは0~10の整数である。
なかでも、Rは、好ましくは炭素数2~5の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~4の2価の炭化水素基であり、さらに好ましくはプロペニル基である。R10はそれぞれ独立して、炭素数1~20の1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10の1価の炭化水素基であることがより好ましい。また、好ましくはアルキル基であり、炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがことさらに好ましい。
【0038】
フェノール類の一例としては、特に限定されないが、例えば、フェノール;オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール等のクレゾール;2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,5-キシレノール等のキシレノール;2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、4-エチルフェノール、2-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、イソブチルフェノール、tert-ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クミルフェノール、アリルフェノール、カルダノール、ウルシオール、チチオール、ラッコール等のアルキルフェノール;1-ナフトール、2-ナフトール等のナフトール;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン、ナフタレン等の多価フェノール;などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、フェノール類は、フェノール、クレゾール、キシレノールおよびアルキルフェノールからなる群より選ばれた1種以上を含ことができ、安価な観点から、フェノールを用いることが
できる。
【0039】
アルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルマリンやパラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド;トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド類は単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、アルデヒド類は、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含むことができ、生産性および安価な観点から、ホルマリンまたはパラホルムアルデヒドを用いることができる。
【0040】
フェノール樹脂(P)を合成する際に用いる触媒は、無触媒でも構わないし、ノボラック型フェノール樹脂を製造する観点から、酸性触媒を用いることができる。酸性触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、蓚酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類が挙げられ、これらを単独または2種類以上併用して使用できる。
【0041】
フェノール樹脂(P)を合成する際に用いる反応溶媒としては、水を用いてもよいが、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、非極性溶媒を用いて非水系を用いることができる。有機溶剤の一例としては、例えば、アルコール類、ケトン類、芳香族類で、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等で、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等で、芳香族類としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
また、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)のモル比(F/Pモル比)は、フェノール類1モルに対し、例えば、アルデヒド類を0.2~1.0モルとしてもよく、好ましくは0.3~0.9モルとすることができる。アルデヒド類を上記範囲とすることで、未反応フェノール量を少なくすることができ、歩留まりを上げることができる。
【0043】
また、反応温度は、例えば、40℃~120℃としてもよく、好ましくは60℃~110℃としてもよい。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
【0044】
以上により、フェノール樹脂(P)を得ることができる。
【0045】
<第2実施形態>
第2実施形態では、-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P)を硬化剤として用いる場合について説明する。この場合、熱硬化性樹脂は、-Si-O-構造を有していても有さないものであってもよいが、第2実施形態においては、-Si-O-構造を有さない場合について説明する。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。公知のエポキシ樹脂については、後述する。
【0046】
また、硬化剤としてのフェノール樹脂(P)とエポキシ樹脂は、全熱硬化性樹脂中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、好ましくは、0.8以上1.6以下、より好ましくは0.9以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下となるように調整される。当量比が上記範囲内であると、得られる本実施形態の樹脂組成物の硬化特性を良好にできる。
【0047】
第2実施形態の樹脂組成物に含まれるその他の成分については、後述する。
【0048】
<第3実施形態>
第3実施形態では、-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)を含む樹脂組成物について説明する。この場合、硬化剤は、-Si-O-構造を有していても有さないものであってもよいが、第3実施形態においては、-Si-O-構造を有さない場合について説明する。硬化剤としては、特に限定されないが、公知の硬化剤を用いてもよい。公知の硬化剤については後述する。
【0049】
-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)として、具体的には、例えば、第1実施形態で説明した-Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P1)をエポキシ化した-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A1)と、以下の式(A2)で表される構造を有する2官能以上のエポキシ化合物(A2)と、以下の式(A3)で表される構造を有するオルガノシロキサン型エポキシ化合物(A3)等が挙げられる。
【0050】
[エポキシ樹脂(A1)]
Si-O-構造を有するフェノール樹脂(P1)をエポキシ化した-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A1)としては、以下の式(A1)で示されるものが挙げられる。
【0051】
【化6】
【0052】
式(A1)中、x,yはいずれも整数であり、x+yは2~200である。
また、式(A1)中、良好な解体性や成形性を得る点から、x:y=1:99~99:1であることが好ましく、x:y=2:98~75:25であることがより好ましく、x:y=5:95~50:50であることがさらに好ましい。
また式(A1)中、Dは、以下の式(A1-1)で表される構造を有する。
【0053】
【化7】
【0054】
式(A1-1)中、Rは炭素数2~10の2価の炭化水素基を示す。R10はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の1価の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。zは0~10の整数である。
なかでも、Rは、好ましくは炭素数2~5の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~4の2価の炭化水素基であり、さらに好ましくはプロペニル基である。R10はそれぞれ独立して、炭素数1~20の1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10の1価の炭化水素基であることがより好ましい。また、好ましくはアルキル基であり、炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがことさらに好ましい。
【0055】
エポキシ樹脂(A1)は、上記のフェノール樹脂(P1)を公知の方法でエポキシ化することにより製造できる。
【0056】
[エポキシ化合物(A2)]
エポキシ化合物(A2)は、以下の式(A2)で表される構造を有する2官能以上のエポキシ化合物である。
【0057】
【化8】
【0058】
式(A2)中、m、nは整数であり、m+n=4である。
は、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、複素環式、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロアリール、アルコキシアリール、アルコキシアルキルである。
Bは、独立に、アリーレン、アリーレンエーテル、アルキレン-アリーレン、アルキレン-アリーレンアルキレン、アルケニレン-アリーレン、アルケニレン-アリーレンアルケニレン、アルキレン-アリーレン-アルケニレン、アルキニレンアリーレン、アルキニレン-アリーレン-アルキニレン、ヘテロアリーレン、アルキレン-ヘテロアリーレン、アルキレン-ヘテロアリーレン-アルキレン、アルケニレン-ヘテロアリーレン、アルケニレン-ヘテロアリーレン-アルケニレン、アルキレン-ヘテロアリーレン-アルケニレン、アルキニレンヘテロアリーレン、アルキニレン-ヘテロアリーレン-アルキニレン、アルキレン、アルキレン-ヘテロ-アルキレン、アルケニレン、アルケニレン-ヘテロ-アルケニレン、アルキレン-ヘテロ-アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン、アルキレン-シクロアルキレン、アルキレン-シクロアルキレンアルキレン、アルケニレン-シクロアルキレン、アルケニレンシクロアルキレン-アルケニレン、アルキレン-シクロアルキレンアルケニレン、アルキニレン-シクロアルキレン、アルキニレンシクロアルキレン-アルキニレン、ヘテロシクロアルキレン、アルキレンヘテロシクロアルキレン、アルキレン-ヘテロシクロアルキレンアルキレン、アルケニレン-ヘテロシクロアルキレン、アルケニレンヘテロシクロアルキレン-アルケニレン、アルキレンヘテロシクロアルキレン-アルケニレン、アルキニレンヘテロシクロアルキレン、アルキニレン-ヘテロシクロアルキレンアルキニレン、シクロアルケニレン、アルキレン-シクロアルケニレン、アルキレン-シクロアルケニレン-アルキレン、アルケニレン-シクロアルケニレン、アルケニレン-シクロアルケニレン-アルケニレン、アルキレンシクロアルケニレン-アルケニレン、アルキニレン-シクロアルケニレン、アルキニレン-シクロアルケニレン-アルキニレン、ヘテロシクロアルケニレン、アルキレン-ヘテロシクロアルケニレン、アルキレン-ヘテロシクロアルケニレン-アルキレン、アルケニレン-ヘテロシクロアルケニレン、アルケニレン-ヘテロシクロアルケニレン-アルケニレン、アルキレン-ヘテロシクロアルケニレン-アルケニレン、アルキニレンヘテロシクロアルケニレン、アルキニレン-ヘテロシクロアルケニレン、またはアルキニレンである。
【0059】
上記の2官能以上のエポキシ化合物(A2)としては、具体的には、以下の式(A2-1)~(A2-19)にそれぞれ示されるものが挙げられる。
【0060】
【化9】
【0061】
【化10】
【0062】
【化11】
【0063】
【化12】
【0064】
エポキシ化合物(A2)は例えば、以下のようにして得ることができる。
まず、1つ又は複数のヒドロキシ基を有する多価アルコールを、塩基の存在下で、エピハロヒドリンで部分的にエポキシ化して、部分的にエポキシ化されたアルコールを得る工程と、当該部分的にエポキシ化されたアルコールを、酸性触媒の存在下で、以下の式(4-1)~(4-3)でそれぞれ示される構造を有する化合物と反応させる工程とを含む。これにより、-Si-O-構造を有するエポキシ化合物(A2)を含む混合物を得ることができる。
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
【化15】
【0068】
(式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、メチレン、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、複素環式、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロアリール、アルコキシ、アルコキシアリール、アルコキシアルキル、またはアリールオキシであり、R11は、水素、アルキル、アリール、アラルキル、アルケニル、またはアルキニルである)
【0069】
[エポキシ化合物(A3)]
エポキシ化合物(A3)は、以下の式(A3)で表される構造を有する。
【0070】
【化16】
【0071】
式(A3)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。
12はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基のいずれかを示す。
wは、1~50の整数である。
【0072】
エポキシ化合物(A3)としては、市販品を用いることができ、例えば、両末端型エポキシ変性シリコーン「X-22-163」、「X-22-163A」、「X-22-163B」、「X-22-163C」、および「KF-105」(いずれも信越シリコーン社製)が挙げられる。
【0073】
また、上記のエポキシ化合物(A3)としては、具体的には、以下の式(A3-1)に示されるものが挙げられる。
【0074】
【化17】
【0075】
式(A3-1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。
なかでも、R、Rは炭素数1~30のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0076】
上記式(A3-1)で表されるエポキシ化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、脂環式エポキシ基含有直鎖シロキサン2官能オリゴマー「X-40-2669」(信越シリコーン社製)が挙げられる。
【0077】
以下、本実施形態の-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)の物性について説明する。
【0078】
本実施形態の-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、500~10000であることが好ましく、1000~7000であることがより好ましく、2000~6000であることがさらに好ましい。
本実施形態の-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、100~5000であることが好ましく、300~3000であることがより好ましく、600~1000であることがさらに好ましい。
【0079】
また、本実施形態の-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)の粘度は、1~40,000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0080】
また、本実施形態の-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)は、100~600g/ミリ当量の範囲のエポキシ当量(EEW)を有することが好ましい。なお、エポキシ当量とは、エポキシ1当量を含有する樹脂の質量(グラム)を意味する。
【0081】
第3実施形態において樹脂組成物は、公知のフェノール系硬化剤を用いることが好適である。
【0082】
また、硬化剤としてのフェノール系硬化剤と、-Si-O-構造を有するエポキシ樹脂(A)は、全熱硬化性樹脂中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、好ましくは、0.8以上1.6以下、より好ましくは0.9以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下となるように調整される。当量比が上記範囲内であると、得られる本実施形態の樹脂組成物の硬化特性を良好にできる。
【0083】
第3実施形態の樹脂組成物に含まれるその他の成分については、後述する。
【0084】
<第4実施形態>
第4実施形態では、熱硬化性樹脂としてケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン(シリコーン樹脂)(C1)を含み、硬化剤(架橋剤)としてケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)を含む樹脂組成物について説明する。
【0085】
(オルガノポリシロキサン(C1))
ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン(C1)は、直鎖状オルガノポリシロキサンであることが好ましく、ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に好ましくは2~8個有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。具体的には、下記式(C1-1)で示される構造を有するものが挙げられる。
【0086】
【化18】
【0087】
式(C1-1)中、R13は、互いに同一または異種の置換もしくは非置換の炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、または炭素原子数2~10のアルケニル基である。
13の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等のアルキル基や、これらアルキル基の炭素原子に結合する水素原子の一部または全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、例えば、トリフルオロメチル、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のフッ素置換アルキル基、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数2~6のアルケニル基が好ましい。
sは5~50,000の整数であり、好ましくは10~20,000の整数である。
【0088】
オルガノポリシロキサン(C1)中のアルケニル基については、分子鎖末端および側鎖のいずれに有していてもよいが、末端にのみアルケニル基を有するものが好ましい。
【0089】
また、オルガノポリシロキサン(C1)のなかでもビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2)の具体的構造としては、例えば下記式(C1-2)で表されるものが挙げられる。
【0090】
【化19】
【0091】
式(C1-2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0092】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2)は、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)を含んでもよい。第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)のビニル基量は、0.1モル%以下でもよい。
【0093】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2)は、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)とビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)とを含有してもよい。
【0094】
シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的に離型フィルムの引裂強度を高めるとともに、寸法安定性、転写性を制御しやすくなる。
【0095】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2)として、例えば、上記式(C1-2)において、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)と、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)とを用いるのが好ましい。
【0096】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0097】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)とを組み合わせて配合する場合、(C1-2’)と(C1-2’’)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(C1-2’):(C1-2’’)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0098】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)および(C1-2’’)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
また、オルガノポリシロキサン(C1)(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサンを含んでもよい。
【0100】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2))
ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)は、以下の式(C2)で示される構造を有するものが挙げられる。
【0101】
【化20】
【0102】
式(C2)中、R14はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換した基である。好ましくは、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、アルキル基又はアリール基である。tは2以上の整数であり、好ましくは2~50であり、より好ましくは3~30である。
【0103】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)の配合量は、アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン(C1)中のアルケニル基のモル数に応じて適宜設定されるが、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)中のSiH基のモル数がシリコーン樹脂(C1)中のアルケニル基の0.5~20の範囲になるように調査せることが好ましく、0.8~5であることがより好ましい。
【0104】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0105】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(C1-2)のビニル基の他、離型層1の原材料に含まれる成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0106】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0107】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0108】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0109】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)としては、例えば、以下の式(C2-1)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0110】
【化21】
【0111】
式(C2-1)中、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0112】
また、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0113】
なお、式(C2-1)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。Rについても同様である。ただし、複数のRおよびRのうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0114】
また、Rは炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0115】
なお、式(C2-1)中のR,R,Rの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0116】
さらに、m、nは、式(C2-1)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0117】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(C1-2)のビニル基の他、離型層1に原材料に含まれる成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0119】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0120】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0121】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)としては、以下の平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0122】
平均組成式(c)
(Ha(R)3-aSiO1/2)m(SiO4/2)n
(式(c)において、Rは一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはHa(R-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0123】
式(c)において、Rは一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0124】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0125】
また、式(c)において、mはHa(R-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0126】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0127】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0128】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)の具体例としては、以下の式(C2-2)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0129】
【化22】
【0130】
式(C2-2)中、Rは炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0131】
なお、式(C2-2)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0132】
また、式(C2-2)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0133】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0134】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。
ただし、離型層1において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2-2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0135】
(触媒、硬化促進剤)
第4実施形態において、樹脂組成物はさらに触媒を含むことが好ましい。これによりオルガノポリシロキサン(C1)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)との硬化を促進できる。
触媒としては、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、およびパラジウム系触媒が挙げられ、なかでも白金が好ましい。
白金系触媒としては、具体的には、例えば、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、および白金-カルボニル錯体、並びにこれらの白金系触媒を熱可塑性樹脂で分散またはカプセル化した触媒が挙げられる。
触媒の添加量は、樹脂組成物全量に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、0.02~2質量%であることがより好ましく、0.05~1質量%であることがさらに好ましい。
【0136】
第4実施形態の樹脂組成物に含まれるその他の成分については、後述する。
【0137】
以上、本発明の樹脂組成物の実施形態の一例について説明したが、本発明の樹脂組成物はこれに限定されるものではない。
また、上記各実施形態の樹脂組成物は、さらに、上述の熱硬化性成分のほか、公知の熱硬化性樹脂、公知の硬化剤をさらに含んでもよく、用途などに応じて、他の成分を含んでもよい。
【0138】
以下、本発明の樹脂組成物が含んでもよいその他の成分について説明する。
【0139】
[熱硬化性樹脂]
本実施形態の熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、およびアクリル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。
【0140】
上記エポキシ樹脂は1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。
エポキシ樹脂は、具体的に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンのような芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂;アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂;ナフトール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂;フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂等、またはビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイド等の脂環式エポキシ等の脂肪族エポキシ樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0141】
当該熱硬化性樹脂の含有量が樹脂組成物全量に対して、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の流動性や成型性をより効果的に向上させることができる。また、熱硬化性樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、硬化性を向上させ、良好な硬化物を得ることができる。
【0142】
[硬化剤]
本実施形態の硬化剤は、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。硬化剤としては、具体的には、重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤等が挙げられる
【0143】
硬化剤は、具体的には、フェノール系硬化剤、アミン類、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物等、ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物、イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物、カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類が挙げられる。
【0144】
フェノール系硬化剤は、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック樹脂、トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、硬化性の点から、フェノール樹脂系硬化剤の水酸基当量は、例えば90g/eq以上250g/eq以下とすることが好適である。
【0145】
上記アミン類としては、具体的には、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0146】
当該硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは10~30質量部である。
【0147】
また、熱硬化性樹脂と硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂と硬化剤に応じて適宜設定される。例えば、硬化剤としてのフェノール系硬化剤と、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、全熱硬化性樹脂中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)はが、好ましくは、0.8以上1.6以下、より好ましくは0.9以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下となるように調整される。当量比が上記範囲内であると、得られる本実施形態の樹脂組成物の硬化特性を良好にできる。
【0148】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに以下の成分を含んでもよい。
【0149】
[無機充填材]
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材を含んでもよい。
無機充填材は、硬化物、モータの用途に応じ、機械的強度を高めたり、耐熱性、難燃性等を付与するために用いられる。
無機充填材としては、具体的には、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩;酸化チタン、アルミナ、ベーマイト、シリカ等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0150】
無機充填材の平均粒径D50は、好ましくは0.01μm以上75μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上50μm以下である。無機充填材の平均粒径を上記範囲内にすることにより、充填性が向上する。平均粒径D50は、市販のレーザー式粒度分布計による、体積換算(累積50%)平均粒径とすることができる。
【0151】
無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜設定されるが、樹脂組成物全量に対して、10~98質量%であることが好ましく、20~95質量%であることがより好ましく、40~95質量%であることがさらに好ましい。
無機充填材の含有量を上記下限値以上とすることにより、硬化物の保存性と硬化性を向上させることができる。また、無機充填材の含有量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の良好な流動性が得られ、成形性を効果的に向上させることが可能となる。
【0152】
[カップリング剤]
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材を含む場合、カップリング剤を含んでもよい。これにより、無機充填剤の凝集を抑制し、良好な流動性を得ることができる。
カップリング剤としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
【0153】
より具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0154】
カップリング剤の含有量は、とくに限定されないが、樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。カップリング剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物中における無機充填材の分散性を良好なものとすることができる。また、カップリング剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性の向上を図ることができる。
【0155】
[硬化促進剤]
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでもよい。
硬化促進剤は、典型的には、熱硬化樹脂と硬化剤との反応を促進させるものである。
【0156】
硬化促進剤としては、具体的には、例えば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、または、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、イミダゾール等のアミジン系化合物;ベンジルジメチルアミン等の3級アミン、アミジニウム塩、またはアンモニウム塩等の窒素原子含有化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のフェノール化合物等が挙げられる。
また、上記有機ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0157】
硬化促進剤の含有量は、用途に応じて適宜設定されるが、樹脂組成物全量に対して、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましい。
硬化促進剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物を適切に硬化しやすくなる。一方、硬化促進剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、溶融状態を長くし、より低粘度状態を長くできる。
【0158】
[水酸基含有環式化合物]
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤を含む場合、芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(以下「水酸基含有環式化合物」ともいう)を含んでもよい。これにより、硬化促進剤として潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、樹脂組成物の溶融混練中における反応を抑えることができ、安定して樹脂組成物を得ることができる。また、水酸基含有環式化合物は、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。
【0159】
水酸基含有環式化合物としては、以下の一般式(5)で表される単環式化合物、または以下の一般式(6)で表される多環式化合物等を用いることができる。これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0160】
【化23】
【0161】
一般式(5)において、R15およびR19のいずれか一方は水酸基であり、他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。また、R16、R17およびR18は、水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。
【0162】
【化24】
【0163】
一般式(6)において、R20およびR26のいずれか一方は水酸基であり、他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。また、R21、R22、R23、R24およびR25は、水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。
【0164】
一般式(5)で表される単環式化合物の具体例としては、例えばカテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステルまたはこれらの誘導体が挙げられる。
また、一般式(6)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、水酸基含有環式化合物を、具体的には、例えば1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンおよびその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの水酸基含有環式化合物は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0165】
水酸基含有環式化合物の含有量は、樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。水酸基含有環式化合物の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、水酸基含有環式化合物の含有量は、樹脂組成物の合計値100質量%に対して、2質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。水酸基含有環式化合物の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物の物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0166】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、さらに、例えば、カーボンブラック等の着色剤;天然ワックス、合成ワックス、高級脂肪酸もしくはその金属塩類、パラフィン、酸化ポリエチレン等の離型剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力剤;水酸化アルミニウム等の難燃剤;ハイドロタルサイト類またはマグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等のイオン捕捉剤;チアゾリン、ジアゾール、トリアゾール、トリアジン、ピリミジン等の密着付与剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0167】
[製造方法]
次に、本実施形態の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、熱硬化性成分他任意の各成分を、ミキサー等を用いて混合し、その後、加熱ニーダー、熱ロール、または押し出し機等を用いて90~120℃程度で溶融加熱し混練を行う。次いで、得られた混練物を冷却、粉砕することによって、粉末状・顆粒状の樹脂組成物を得る。樹脂組成物は、必要に応じて、粉砕後にタブレット状に打錠成形してもよく、粉砕後に例えば真空ラミネート成形または圧縮成形によりシート状にしてもよい。
【0168】
また例えば、熱硬化性成分他任意の各成分を、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、または自転公転式分散方式等の各種混合機を用いて溶剤中に溶解、混合、撹拌することによりワニス状の樹脂組成物として調製してもよい。
溶剤としては、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、ヘプタン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0169】
[用途]
本実施形態の樹脂組成物は、周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、スロットに巻回されスロットに収容されたコイルと、スロット内にコイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、上記封止部材を形成するための材料として用いられる。本実施形態の樹脂組成物を封止材として備えるステータは、例えば、回転電機(電動機、発電機または電動機/発電機の両用機)として電動機(モータ)に適用される。
以下、一実施形態として、モータのステータ用途について説明する。
【0170】
2.モータおよびステータ
本実施形態のステータは、上記のステータ用樹脂組成物の硬化物を備えるものである。硬化物は、本実施形態の樹脂組成物を、100~200℃、10~900秒熱硬化することで得られる。
【0171】
図1はモータ100の回転軸方向と垂直な方向の断面図を模式的に示している。図2はモータ100の回転軸方向の断面図を模式的に示している。図3は、スロット周辺(図1の領域X)を拡大して示した図であって、コイル9がスロット8の端部から突出した部分の断面図を模式的に示している。
【0172】
[モータ100の基本構造]
モータ100は、ケース1と、ケース1の内部に収容されたロータ2とステータ4とコイル9とを備える。
【0173】
[ケース1]
ケース1は、円筒部1aと、この円筒部1aの軸方向両端を閉塞する側板部1b、1cとを有して構成される。ケース1の材料として、例えば、アルミニウム合金(鋳物鋳造品)や樹脂材料、それらを組み合わせたものを用いることができる。
【0174】
[ロータ2]
図1に示すように、ロータ2は、ケース1の内部に収容されている。ロータ2の中心には、図2に示すように、図出力軸として回転軸3が取り付けられている。回転軸3の両端がそれぞれベアリング3aを介して側板部1b、1cに支持されている。これによって、ロータ2は回転軸3を中心に回転自在となっている。
【0175】
ロータ2には永久磁石5が内装されている。具体的には、図1に示すように、複数(ここでは8個)の永久磁石5が同一円周上に等間隔で配置されている。このとき、隣り合う永久磁石5の磁極は互いに異なるように設置されている。
【0176】
図2に示すように、円筒部1aの内周側には円筒型のステータ4が、ロータ2の外周を取り囲むように配置され固定されている。ステータ4の内周面とロータ2の外周面との間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0177】
[ステータコア41]
ステータコア41は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定して設けられており、図1に示すように軸方向端部から見たときに、環状に設けられたヨーク部6と、ヨーク部6からロータ2側(内周側)に向かって延出する複数のティース部7とが設けられている。複数のティース部7は周方向に等間隔に配列されて設けられている。ここでは、図1に示すように、24個のティース部7が設けられている。各ティース部7の間にスロット8が設けられている。また、ティース部7には、樹脂組成物で周回させて薄肉に覆った樹脂層50が設けられている。
【0178】
[コイル9]
コイル9は、平角線U字形状であって、ティース部7を跨いで離間した二つのスロット8に収納されるようにして巻かれている。ここでは、スロット8に配置されたライナー部材20にコイル9が分布巻きで収容されている(図1)。コイル9は、第1のコイルエンドと、第2のコイルエンドとを有する。第1のコイルエンドは、ステータコア41の軸方向一方側に突出する。第2のコイルエンドは、ステータコア41の軸方向他方側に突出する。すなわち、コイル9は、ステータコア41の軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有する。
コイル9は、例えば、銅、アルミニウム、鉄などの導体を針金状にした導線を用いて構成される。
【0179】
[ティース部7]
ティース部7は上述したロータ2の永久磁石5と対応して設けられ、各コイル9を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石5との吸引、反発によりロータ2が回転する。
【0180】
ティース部7は、外周側の周方向の幅が大きく、内周側の幅が小さく、内周側に向けて先細に形成されている。ティース部7の内周側の端部には、スロット8の幅を縮めるように周方向に沿って対向するティース部先端71が形成されている。
【0181】
[スロット8]
スロット8は、隣接するティース部7間の空間であって、図3に示すように、径方向に沿って対向するティース部7の壁面72が平行面となるように設けられている。ティース部先端71間がスロット8の内周側開口となっている。スロット8には、外周側(ヨーク部6側)に配置された複数のコイル9と、内周側(ティース部先端71側)に設けられた樹脂封止部65とを備える。
【0182】
[樹脂封止部65]
図3に示すように、樹脂封止部65は、スロット8の内周側(ティース部先端71側)に設けられている。樹脂封止部65は、インサート成形によって設けられてもよいし、別部品として設けられてもよい。樹脂封止部65に用いられる樹脂材料は、上述の本実施形態の封止用樹脂組成物が用いられる。
【0183】
一実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内でのみ、コイル9を被覆するように設けられる。
別の実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内のコイル9を被覆するとともに、一対のコイルエンドのうち一方のコイルエンドを被覆する、換言すると第1、第2のコイルエンドのいずれか一方のみを被覆するように設けられる。
さらに別の実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内コイル9を被覆するとともに、一対のコイルエンドの両方を被覆する、換言すると第1、第2のコイルエンドの両方を被覆するように設けられる。
【0184】
[ステータ4の製造方法]
本実施形態のステータ4の製造方法を説明する。
まず、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定させたステータ4を用意する(ステータ準備工程)。
ついで、インサート成形によりティース部7の周縁(壁面73、上面75a及び下面75b)を絶縁性の樹脂組成物で一体に周回させて覆って樹脂層50を形成する(樹脂層形成工程)。
つぎに、樹脂層50が設けられたスロット8内に、コイル9を配置する(コイル配置工程)。
全てのコイル9の収容後、スロット8の内周側の領域に、本実施形態の樹脂組成物を充填してインサート成形することで樹脂封止部65を得る(樹脂充填工程)。
以上の工程により、図3に示したステータ4が得られる。
【0185】
3.解体方法
本実施形態の解体方法は、上記のステータ用樹脂組成物の硬化物を溶媒に浸漬することによって行われる。これにより、硬化物中の架橋が分断・分解され、硬化物が可溶化したり、硬化物の一部が可溶化したりゲル化し、解体することができる。
【0186】
硬化物の浸漬温度は、用途に応じて適宜設定することができるが、例えば、-20~200℃とすることが好ましく、0~150℃とすることがより好ましい。
また、簡便な方法で解体する点からは、硬化物の浸漬は、環境温度下、すなわち常温下で行ってもよい。これにより、冷却または加熱処理等の特段の作業が不要となる。例えば、溶媒の液温は5~30℃とすることができる。
一方、解体を促進する等の点からは、硬化物の浸漬の際に、加温・加熱処理を加えてもよい。
硬化物の浸漬方法は特に限定されず、硬化物の一部または全体が溶媒に接触すればよい。また、浸漬時間は、硬化物の大きさ等に応じて適宜調整される。
また、硬化物が収容された容器内に溶媒を流し込んでもよく、容器内の溶媒中に硬化物を浸漬・攪拌させてもよい。
【0187】
溶媒としては、硬化物から-Si-O-構造を遊離させるものであればよく、フッ素イオンを含む溶媒であることが好ましい。フッ化イオンを含む溶媒は、フッ素イオンを発生する溶媒であってもよい。
【0188】
本実施形態の溶媒は、例えば、以下のように調製した溶媒とすることができる。
(i)テトラヒドロフラン等の有機溶媒中に、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(n-BuNF)のフッ化物を作用させることで得られた溶媒。
上記のフッ化物は、例えば、アンモニウム、有機アミンまたは有機アンモニウムのフッ化物塩が挙げられ、具体的には、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、酸性フッ化アンモニウム、メチルアミンフッ化水素塩、エチルアミンフッ化水素塩、プロピルアミンフッ化水素塩、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、エタノールアミンフッ化水素塩、メチルエタノールアミンフッ化水素塩、ジメチルエタノールアミンフッ化水素塩、ヒドロキシルアミンフッ化水素塩、ジメチルヒドロキシルアミンフッ化水素塩、トリエチレンジアミンフッ化水素塩等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、好ましくはフッ化アンモニウムおよびフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムであり、より好ましくはフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムである。
(ii)アセトニトリル等の無水の有機溶媒または含水有機溶媒中で鉱酸または有機の強酸を作用させることで得られた溶媒。
(iii)ジメチルスルホキシド(DMSO)中、N-ブロモこはく酸イミド(NBS)を作用させることで得られた溶媒。
(iv)水またはアルコール等の溶媒中でアルカリ金属の硫酸水素塩を作用させることで得られた溶媒。
上記の硫酸水素塩としては、硫酸水素リチウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が使用でき、なかでもカリウム塩およびナトリウム塩が好適である。
(v)酢酸水溶液を作用させることで得られた溶媒。
(vi)過剰のフッ化カリウム・2水和物と過剰のテトラブチルアンモニウムクロリドとをアセトニトリル中で反応させることで得られた溶媒。
【0189】
これら溶媒の中でも分解速度や廃液処理の観点からは(i)の溶媒を用いることが好ましい。
【0190】
4.リサイクル方法
本実施形態のリサイクル方法は、上記のステータを構成する材料のリサイクル方法であって、前記構造体を溶媒に浸漬し、前記ステータ用樹脂組成物の前記硬化物を解体する工程と、前記ステータから前記材料を回収する工程と、を含む。
これにより、ステータに用いられた材料を再利用することができる。硬化物を解体する工程は、上記解体方法で説明した方法と同様である。
【0191】
また、ステータから材料を回収する方法としては、材料の品質を低下させない限りにおいて特に限定されないが、例えば、硬化物を解体した溶媒中に材料を沈殿させ、濾過等によって材料のみを回収する方法や、溶媒から構造体を取り出した後、解体により脆くなった硬化物とともに構造体を破壊して、材料を回収する方法等が挙げられる。
【0192】
材料としては、上記溶媒に可溶化せず、また化学反応を生じないものであれば特に限定されないが、例えば、コイル、金属類(電磁鋼板)などが挙げられる。
【0193】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0194】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0195】
1.合成方法
以下の手順で、各シリルエーテル型フェノール樹脂を合成した。
【0196】
[合成例1](シリルエーテル型フェノールモノマーの合成方法)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を備えたフラスコに、2-アリルフェノール56.1g、トルエン80g、Karstedt触媒10μLを仕込み80℃に昇温した。その後、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン28.0gを滴下した。その後、80℃で2時間反応した後、反応液からトルエンを留去した。上記操作により、以下の式(S1)で表されるシリルエーテル型フェノールモノマー(1)89.3gを得た。
【0197】
【化25】
【0198】
[合成例2](シリルエーテル型ノボラック樹脂(1)の合成方法)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を備えたフラスコに、得られたシリルエーテル型フェノールモノマー(1)を25.0g、蓚酸0.11gを仕込み、徐々に昇温した。その後、37%ホルマリン溶液4.5gを滴下し、内温100℃にて5時間反応した。その後、内温120℃に昇温し、常圧脱水を行い水分を除去した。上記操作により、以下の式(S2)で表されるシリルエーテル型ノボラック樹脂(1)27.4gを得た。
シリルエーテル型ノボラック樹脂(1)は、Mn=780、Mw=2,800、水酸基当量は237g/eqであった。
【0199】
【化26】
【0200】
[合成例3](シリルエーテル型ノボラック樹脂(2)の合成方法)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を備えたフラスコに、シリルエーテル型フェノールモノマー(1)25.0g、フェノール5.8g、蓚酸0.22gを仕込み、徐々に昇温した。その後、37%ホルマリン溶液9.0gを滴下し、内温100℃にて5時間反応した。その後、内温120℃に昇温し、常圧脱水を行い水分を除去した。更に減圧下で脱水反応を行い、以下の式(S3)で表されるシリルエーテル型ノボラック樹脂(2)29.5gを得た。
シリルエーテル型ノボラック樹脂(2)は、Mn=800、Mw=2,300、水酸基当量は198g/eqであった。
【0201】
【化27】
(式(S3)中、x:yは約45:55を示す。)
【0202】
2.樹脂組成物の調製
<比較例1,2及び実施例1~4>
以下に示す原料Iを用いて、表1に示す固形分割合で各成分を混合し、混合物を得た。混合は、常温でヘンシェルミキサーを用いて行った。その後、得られた混合物を、90~120℃でロール混練し、混練物を得た。得られた混練物を冷却した後、粉砕し、比較例1,2及び実施例1~4の各樹脂組成物を得た。
[原料I]
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、EPICRON N-670)
・エポキシ樹脂2:BPAビスフェノールA型樹脂(三菱ケミカル株式会社性、YL6810)
(硬化剤)
・硬化剤1:ノボラック型フェノール化合物(住友ベークライト株式会社製、PR-51470)
・硬化剤2:合成例2で得られたシリルエーテル型ノボラック樹脂(1)
・硬化剤3:合成例3で得られたシリルエーテル型ノボラック樹脂(2)
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:トリフェニルホスフィン
(無機充填材)
無機充填材1:溶融球状シリカ(デンカ株式会社製、FB-60)
(その他)
着色剤1:カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、カーボン#5)
カップリング剤1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製、CF-4083)
離型剤1:カルナウバロウ
添加剤:低応力剤、イオン捕捉剤および難燃剤
【0203】
<実施例5>
以下に示す原料IIを用いて、シリコーンゴム系硬化性組成物を調整した。
まず、シリコーンゴム1(80質量部)、シリコーンゴム2(20質量部)、カップリング剤2(10質量部)、カップリング剤3(0.5質量部)および水(5.25質量部)を混合した混合物を予め混練し、その後、混合物に無機充填材2(25質量部)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、無機充填材2の添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60~90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160~180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)に、表1に示す割合(質量%)となるように、シリコーンゴム3および硬化促進剤2を加えて、ロールで混練し、実施例5のシリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0204】
[原料II]
(シリコーンゴム)
(オルガノポリシロキサン(C1))
・シリコーンゴム1(低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’):合成スキーム1により合成。式(C1-2)で表わされる構造でR1(末端)のみがビニル基である構造)
・シリコーンゴム2(高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’):合成スキーム2により合成。式(C1-2)で表わされる構造でR1およびR2がビニル基である構造)
・シリコーンゴム3(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2))モメンティブ社製:「TC-25D」
【0205】
(無機充填材)
無機充填材2:シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
(触媒、硬化促進剤)
硬化促進剤2:白金化合物、モメンティブ社製:「TC-25A」
(その他)
・シランカップリング剤2:ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
・シランカップリング剤3:ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0206】
<ビニル基含有オルガノポリシロキサン(C1)の合成>
[合成スキーム1:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)の合成]
下記式(7)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’)を得た(Mn=2,2×10、Mw=4,8×10)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった。
【0207】
【化28】
【0208】
[合成スキーム2:高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’))の合成]
上記(C1-2’)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.86g(2.5mmol)を用いたこと以外は、(C1-2’)の合成工程と同様にすることで、下記式(8)のように、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(C1-2’’)を合成した。(Mn=2,3×10、Mw=5,0×10)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%であった。
【化29】
【0209】
3.樹脂組成物の硬化物中の構造の確認
比較例1,2及び実施例1~4は、得られた各樹脂組成物に対し、金型温度175℃、硬化時間2分の条件で成形し、硬化物を得た。実施例5は、得られた樹脂組成物に対し、160℃、10MPaで20分間プレスし、シート状に成形すると共に1次硬化し、続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化することにより、シート状シリコーンゴム硬化物を得た。
各硬化物に対し、熱分解GC-MSを用いて以下の樹脂組成分析を行った。GC-MS測定はFT-NMR装置(日本電子社製、JNM-ECA400)を用いた。
まず、硬化物をヘリウム雰囲気下で600℃、1minの加熱を行い、発生した成分全てをGCの分離カラムに導入し、液体窒素でトラップした。加熱終了後、トラップを取り去りその直後にGC-MS測定を開始した。
-Si-O-構造の同定は、それぞれのマススペクトル及びリテンションタイムに基づいて行い、以下の基準に従い判定した。結果を表1に示す。
(基準)
OK:-Si-O-構造を同定できた
N/A:-Si-O-構造を同定できなかった
【0210】
4.易解体性の評価
以下の溶媒を用いて、解体性の評価を行った。
・溶媒:フッ化テトラブチルアンモニウム(0.5mol/L、THF溶液)
まず、比較例1,2及び実施例1~4は、得られた各樹脂組成物を対し、金型温度175℃、硬化時間2分の条件で成形し硬化物(幅10mm、厚み4mm、長さ20mm)を得た。実施例5は、得られた樹脂組成物を対し、160℃、10MPaで20分間プレスし、シート状に成形すると共に1次硬化し、続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化することにより、シート状シリコーンゴム硬化物(幅10mm、厚み4mm、長さ20mm)を得た。
次に、得られた硬化物を、容器内の溶媒25mlに浸漬し、23℃で24時間静置した。
その後、シェーカー(約200往復/分)を用いて容器ごと1分間シェークしたのち、容器内の全ての溶液を212μmメッシュのフィルター(JIS標準篩212μm直径100mm)でろ過した。ろ過の可否(フィルターの詰まりの有無)及びフィルター上の残渣を観察し、以下の基準に従い評価した。フィルターの詰まりの程度が低いほど、また残渣が少ないほど、硬化物が溶媒に溶解でき解体性が良好であることを表す。結果を表1に示す。
(基準)
A:フィルターが詰まらず、フィルター上に硬化物の残渣がない又はわずかに硬化物の残渣がある
B:フィルターが詰まらないが、フィルター上に硬化物の残渣が顕著にある
C:フィルターが直に詰まり、ろ過ができない
【0211】
5.ステータからの材料の回収
比較例1,2及び実施例1~4は、ステータコアのコイル巻部に見立てた金属片(幅19mm、厚み3.8mm、長さ28mm)にステータコイルに見立てた銅線を巻回させたものを金型(穴部の幅24mm、厚み4mm、長さ30mm)に入れ成形機にセットした後、金型が175℃に達したところで、上記で得られた各樹脂組成物を注入成形し、硬化時間120秒後に成形物を金型から取り出した。
実施例5は、ステータコアのコイル巻部に見立てた金属片(幅19mm、厚み3.8mm、長さ28mm)にステータコイルに見立てた銅線を巻回させたものを金型(穴部の幅24mm、厚み4mm、長さ30mm)に入れ成形機にセットした後、金型が175℃に達したところで、上記で得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を圧縮成形し、硬化時間300秒後に金型を成形機から取り出し、続いて、200℃で4時間の2次硬化を行った。
次に、成形物を溶媒に浸漬した後、銅線の回収評価を行った。具体的には、溶媒はフッ化テトラブチルアンモニウム(0.5mol/L、THF溶液)を用い、浸漬は23℃で24時間、静置して行った。
浸漬処理後、成形物を溶媒から取り出し、金属片より銅線を巻き取れるか否かを確認し、以下の基準に従い評価した。
(基準)
OK:金属片より銅線が巻き取れ、銅線を回収できた
N/A:金属片より銅線が巻き取れず、銅線を回収できなかった
【0212】
【表1】
【0213】
この出願は、2022年8月31日に出願された日本出願特願2022-138064号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0214】
1 ケース
1a 円筒部
1b 側板部
2 ロータ
3 回転軸
3a ベアリング
4 ステータ
5 永久磁石
6 ヨーク部
7 ティース部
8 スロット
9 コイル
20 ライナー部材
41 ステータコア
50 樹脂層
56 アリルフェノール
65 樹脂封止部
71 ティース部先端
72 壁面
73 壁面
75a 上面
75b 下面
100 モータ
【要約】
本発明のステータ用樹脂組成物は、周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、前記封止部材を形成するために用いられる樹脂組成物であって、当該ステータ用樹脂組成物が、熱硬化性成分を含み、当該ステータ用樹脂組成物を熱硬化した後に得られる硬化体が、以下の式(1)で表される構造を備え、易解体性を有するものである。
(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基または芳香族基、水酸基、および炭素数1~30のアルコキシル基のいずれかを示す。)
図1
図2
図3