(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20240228BHJP
B29C 63/18 20060101ALI20240228BHJP
B29C 63/26 20060101ALI20240228BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20240228BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240228BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240228BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B32B1/08 Z
B29C63/18
B29C63/26
B32B15/082 B
B32B15/088
F16C13/00 B
G03G15/00 551
(21)【出願番号】P 2018105373
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】グェン ホン フク
(72)【発明者】
【氏名】御守 直樹
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】久保 克彦
【審判官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-171694(JP,A)
【文献】特開2011-247408(JP,A)
【文献】特開平4-102718(JP,A)
【文献】特表2015-532318(JP,A)
【文献】特開2018-21097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/08 , B29C 63/18 , B29C 63/26 , B32B 15/082 , B32B 15/088 , F16C 13/00 , G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚さが5μm以上300μm以下でステンレス又はニッケルを主成分とする円筒状の基材層と、
上記基材層の内周面に積層され、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を主成分とする摺動層と、
上記基材層の外周面に積層され、ゴムを主成分とする弾性層と、
上記弾性層の外周面に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層と
を備え、
上記摺動層の平均厚さが10μm以上100μm以下であり、
180℃に加熱した上記摺動層において、直径17.4mmのステンレス製の2本のピンを押圧加重107.87kPa、回転速度210rpmで2000秒間摺動させるピンオンディスク型摩耗試験の摩耗量が0.6μm以下である成形体。
【請求項2】
上記摺動層が、上記ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするとともに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)又はこれらの組合せをさらに含有する請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
平均厚さが5μm以上300μm以下でステンレス又はニッケルを主成分とする円筒状の基材層の内周面に、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層を積層する工程と、
上記摺動層積層工程後の基材層の外周面にゴムを主成分とする弾性層を積層する工程と、
上記弾性層積層工程後の弾性層の外周面にフッ素樹脂を主成分とする最外層を積層する工程と
を備え、
上記摺動層の平均厚さが10μm以上100μm以下であり、
180℃に加熱した上記摺動層において、直径17.4mmのステンレス製の2本のピンを押圧加重107.87kPa、回転速度210rpmで2000秒間摺動させるピンオンディスク型摩耗試験の摩耗量が0.6μm以下である成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンター等の画像形成装置では、印刷及び複写の最終段階では一般に熱定着方式が採用されている。この熱定着方式は、加熱源を内部に設けた定着ローラと加圧ローラとの間にトナー画像が転写された印刷用紙等の被転写物を通過させることで、未定着のトナーを加熱溶融し、被転写物にトナーを定着させて画像を形成する方式である。
【0003】
上記定着ローラとしては、合成樹脂や金属等からなる筒状の芯体の外周面に直接又は他の層を介して最外層を形成した構造のものが一般に使用されている。近年、画像形成装置の印刷機能又は複写機能の高速化に伴い、定着ローラに求められるトナーに対する離型性等の品質基準が高くなってきている。そのため、これに対応すべく、高価ではあるが分子量が小さくPTFEよりも離型性に優れるPFAをPTFEに混合した塗膜を備える定着ローラが考案されている(特開平10-142990号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フッ素樹脂は表面エネルギーの低さに起因して内側層との剥離強度(密着力)が低いため、高速印刷における耐性に改善の余地がある。また、フッ素樹脂は、耐摩耗性及び熱伝導率が比較的低いため、フッ素樹脂のみを摺動部材に用いた場合、表面が摩耗し易く、特に連続運転による摺動面の温度上昇により摩耗が促進される。
【0006】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る成形体は、金属を主成分とする円筒状の基材層と、上記基材層の内周面に積層され、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層と、上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層とを備える。
【0008】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の別の一態様に係る成形体の製造方法は、金属を主成分とする円筒状の基材層の内周面に、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層を積層する工程を備える。
【0009】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分を指す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る成形体は、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる成形体を提供できる。本発明の別の態様に係る成形体の製造方法は、摺動特性に優れる成形体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る成形体を示す模式的横断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る成形体を示す模式的横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る成形体は、金属を主成分とする円筒状の基材層と、上記基材層の内周面に積層され、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層と、上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層とを備える。
【0013】
当該成形体は、基材層の内周面に積層された摺動層を備え、上記摺動層がポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とするので、成形体の耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる。また、フッ素樹脂を主成分とする最外層を備えるので、離型性を向上できる。
【0014】
上記摺動層が、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするとともに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)又はこれらの組合せをさらに含有することが好ましい。摺動層がポリエーテルエーテルケトンを主成分とするとともに、上記樹脂成分をさらに含有することで、耐摩耗性及び耐熱性をより向上できる。
【0015】
上記摺動層の平均厚さが5μm以上100μm以下であることが好ましい。上記摺動層の平均厚さが上記範囲であることで、当該成形体の耐摩耗性をより向上できる。ここで「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。
【0016】
当該成形体は、上記基材層の外周面に積層され、ゴムを主成分とする弾性層をさらに備えることが好ましい。フッ素樹脂を主成分とする最外層の弾性が比較的低くなり易いが、当該成形体においては、ゴムを主成分とする弾性層が、フッ素樹脂を主成分とする最外層の内周面に直接積層されることで、最外層の弾性が向上する。
【0017】
また、本発明の別の態様に係る成形体の製造方法は、金属を主成分とする円筒状の基材層の内周面に、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層を積層する工程を備えることが好ましい。
【0018】
当該成形体の製造方法は、上記工程を備えることで、摺動特性に優れる成形体を製造できる。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る成形体及びその製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0020】
[第1実施形態]
<成形体>
図1は、第1実施形態に係る成形体1を示す模式的断面図である。成形体1は、円筒状の基材層2と、基材層2の内周面に積層される摺動層3と、基材層2の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層4とを備える。成形体1は、円筒形状を有することで、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の定着ユニットにおける定着ローラ、加熱ローラ、現像ユニットにおける現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、他の部分におけるエンドレスベルトを支持するためのローラ、排紙用ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラ等、種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0021】
成形体1の平均厚さの下限としては、特に限定されないが、例えば30μmが好ましく、上記平均厚さの上限としては、例えば150μmが好ましい。
【0022】
[基材層]
基材層2は、金属を主成分とする。また、基材層2の形状は、円筒状であり、画像形成装置の種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0023】
上記基材層は、金属を主成分とする。上記金属としては、例えばステンレス等の鉄合金、ニッケル、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などが挙げられる。上記金属としては、展延性及び耐熱性に優れることから、これらの中でもステンレス又はニッケルが好ましい。
【0024】
基材層2における金属の含有割合の下限としては、90質量%が好ましく、95質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましく、99.5質量%が特に好ましい。また、上記含有割合は100質量%であってもよい。すなわち、基材層2は、金属のみからなり、バインダー等を含有しない金属板又は金属箔であってもよい。上記含有割合が上記下限より小さい場合、成形体1の柔軟性及び耐熱性が不十分となるおそれや貼着した後に最外層4が剥離し易くなるおそれがある。
【0025】
基材層2の平均厚さとしては、十分な強度を維持できれば特に限定されず、例えば5μm以上300μm以下が好ましい。
【0026】
[摺動層]
摺動層3は、基材層2の内周面に積層される。摺動層3は、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする。摺動層3が、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とすることで、成形体1の耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる。
【0027】
摺動層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましく、20μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmが好ましく、30μmがさらに好ましい。上記平均厚さが上記下限より小さい場合、成形体1の耐摩耗性が低下するおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超える場合、成形体1が不要に厚くなるおそれがある。
【0028】
(ポリエーテルエーテルケトン)
ポリエーテルエーテルケトンは、耐摩耗性に優れる。
【0029】
摺動層3がポリエーテルエーテルケトンを含有する場合、摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量の下限としては、51質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。また、摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量は、100質量%であってもよい。摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が上記下限より小さい場合、摺動層3の耐摩耗性が低下し、成形体1の耐摩耗性が不十分となるおそれがある。
【0030】
摺動層3がポリエーテルエーテルケトンを主成分とする場合、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)又はこれらの組合せをさらに含有することが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンをさらに含有することがより好ましい。摺動層がポリエーテルエーテルケトンを主成分とするとともに、上記樹脂成分をさらに含有することで、耐摩耗性及び耐熱性をより向上できる。
【0031】
(フィラー含有ポリイミド)
フィラー含有ポリイミドは、ポリイミドにフィラーが含有された樹脂成分である。
【0032】
〈ポリイミド〉
ポリイミドは、比較的軽量であり、かつ耐熱性及び柔軟性に優れる。ポリイミドとは、分子内にイミド結合を有する樹脂である。ポリイミドは、例えば酸成分としてのテトラカルボン酸又はその無水物と、アミン成分としてのジアミン化合物とを反応溶媒中で重縮合反応させ、得られたポリイミド前駆体を加熱等により脱水閉環させることにより得ることができる。
【0033】
上記テトラカルボン酸又はその無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、
シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等の脂環式酸無水物、
ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の複素環誘導体などが挙げられる。上記テトラカルボン酸又はその無水物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記ジアミン化合物としては、例えば2,2-ジ(p-アミノフェニル)-6,6’-ビスベンゾオキサゾール、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、4,4’’-ジアミノ-p-テルフェニル、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、
ピペラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。上記ジアミン化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
摺動層3がフィラー含有ポリイミドを含有する場合、摺動層3におけるポリイミドの含有量の下限としては、70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。また、摺動層3におけるポリイミドの含有量は、100質量%であってもよい。摺動層3におけるポリイミドの含有量が上記下限より小さい場合、摺動層3の耐摩耗性が低下し、成形体1の摺動特性が不十分となるおそれがある。
【0036】
〈フィラー〉
上記ポリイミドは、フィラーを含有する。上記ポリイミドがフィラーを含有することで、当該成形体の耐摩耗性を向上できる。
【0037】
上記フィラーとしては、公知のものを使用でき、例えばチタン酸カリウム、チタン酸アルミニウム等のチタン酸化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、天然黒鉛、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイトなどが挙げられる。上記フィラーは複数の種類を用いることができる。
【0038】
フィラーの形状としては、当該成形体の耐摩耗性をより向上できる観点から、針状又は鱗片状が好ましい。ここで、「針状」とは、アスペクト比(フィラーの径と長さの比)が1.5以上、好ましくは2以上である形状を意味する。フィラーの断面形状は円に限らず、フィラーの断面が円でない場合は断面の最大長さを径としてアスペクト比を求める。また、「鱗片状」とは、薄片状、板状も含む。
【0039】
(最外層)
最外層4は、フッ素樹脂を主成分とする。最外層4は、フッ素樹脂を主成分とするため、耐摩耗性に優れる。最外層4は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有してもよい。
【0040】
上記フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合(ECTFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、フルオロオレフィン-ビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体等が挙げられる。上記フッ素樹脂としては、これらの中で、PTFE、PFA及びFEPが好ましく、PFA及びPTFEがより好ましく、耐摩耗性、耐薬品性及び耐熱性の観点からPTFEがさらに好ましい。上記フッ素樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
なお、上記フッ素樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の共重合性モノマーに由来する重合単位を含んでいてもよい。例えば、PTFEは、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロアルキル)エチレン、クロロトリフルオロエチレン等の重合単位を含んでいてもよい。上記他の共重合性モノマーに由来する重合単位の含有割合の上限としては、上記フッ素樹脂を構成する全重合単位に対して、例えば3モル%である。
【0042】
最外層4の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限より小さい場合、成形体1の耐久性低下のおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超える場合、成形体1の弾性が低下するおそれがある。
【0043】
<成形体の製造方法>
当該成形体の製造方法は、金属を主成分とする円筒状の基材層の内周面に、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層を積層する工程を備える。当該成形体の製造方法は、上記工程を備えることで、摺動特性に優れる成形体を製造できる。また、当該成形体の製造方法は、最外層を基材層の外周面側に積層する最外層積層工程をさらに備えることが好ましい。
【0044】
(摺動層積層工程)
本工程では、金属を主成分とする円筒状の基材層の内周面に摺動層を積層する。始めにポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層用樹脂組成物を調製する。次に、上記摺動層用樹脂組成物を用いて塗工、押出成形、射出成型等を行った後に焼成することにより、摺動層が形成される。塗工手段としては、特に限定されず、スプレーコーター、静電塗布装置、フローコーター、ディップコーター等、種々の方法を用いることができる。また、焼成温度としては、例えば100℃以上500℃以下とすることができる。
【0045】
(最外層積層工程)
本工程では、上記摺動層積層工程後の基材層の外周面側にフッ素樹脂を主成分とする最外層を積層する。上記フッ素樹脂を主成分とする最外層を積層する方法としては、例えばフッ素樹脂を主成分とする最外層用樹脂組成物の塗工、PFA熱収縮チューブによる被覆等が挙げられる。フッ素樹脂を主成分とする最外層用樹脂組成物の塗工を行う場合、フッ素樹脂を主成分とする最外層用樹脂組成物を溶剤に分散、又は溶解させた塗料を基材層の外周面に塗工する。この溶剤としては、フッ素樹脂を効率よく分散できる水と乳化剤、水とアルコール、水とアセトン、水とアルコールとアセトン等の混合液を用いることができる。次に、この塗料を塗工した基材層を加熱炉に入れ加熱し、上記塗料中の溶剤を飛ばすとともにフッ素樹脂を焼成する。フッ素樹脂の焼成温度としては、例えば300℃以上400℃以下とすることができる。その後、基材層の外周面を冷却することで最外層を基材層の外周面に形成する。
【0046】
<利点>
第1実施形態に係る成形体は、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れるので、画像形成装置の定着ユニットにおける定着ローラ、加熱ローラ、現像ユニットにおける現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、他の部分におけるエンドレスベルトを支持するためのローラ、排紙用ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラ等の種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0047】
[第2実施形態]
<成形体>
第2実施形態に係る成形体は、上記基材層の外周面に積層され、ゴムを主成分とする弾性層をさらに備える。
【0048】
図2は、第2実施形態に係る成形体10を示す模式的横断面図である。
図2の成形体10は、円筒状の基材層2と、基材層2の内周面に積層される摺動層3と、上記基材層2の外周面に積層される弾性層5と、弾性層5の外周面に積層される最外層4とを備える。なお、基材層2、摺動層3及び最外層4は、第1実施形態と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0049】
(弾性層)
上記弾性層5は、基材層2の外周面に積層される。弾性層5は、ゴムを主成分とする。従って、弾性層5は、十分な弾性を有する。フッ素樹脂を主成分とする最外層4の弾性が比較的低くなり易いが、当該成形体10においては、ゴムを主成分とする弾性層が、フッ素樹脂を主成分とする最外層の内周面に積層されることで、最外層4の弾性を向上できる。また、弾性層5が最外層4の内周面に積層されることで、弾性層5と最外層4との層間接着力をより向上できる。また、上記ゴムは、加硫されていることが好ましい。上記ゴムが加硫されていることで、弾性層5の弾性をより向上でき、その結果、成形体10の弾性がより向上する。
【0050】
上記ゴムとしては、特に限定されないが、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多流化ゴム等を用いることができる。上記ゴムは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
弾性層5におけるゴムの含有量の下限としては、70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。また、弾性層5におけるゴムの含有量は、100質量%であってもよい。弾性層5におけるゴムの含有量が上記下限より小さい場合、弾性層5の弾性が低下し、成形体1の弾性が不十分となるおそれがある。
【0052】
弾性層5は、ゴム以外の成分として添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては、例えば可塑剤、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、充填材等が挙げられる。このように、弾性層5が上記添加剤を含有することで、弾性層5に所望の特性を付与できる。弾性層5における上記添加剤の含有量の上限としては、特に限定されないが、例えば30質量%が好ましい。
【0053】
弾性層5の平均厚みとしては、特に限定されず用途に応じて適宜変更可能であるが、例えば0.1mm以上50mm以下とすることができる。
【0054】
<第2実施形態の成形体の製造方法>
当該第2実施形態の成形体の製造方法としては、例えば上記第1実施形態の成形体の製造方法の上記摺動層積層工程後の基材層の外周面に弾性層を積層する工程をさらに備える方法が挙げられる。弾性層積層工程では、始めに、ゴムを主成分とする摺動層用樹脂組成物を調製する。次に、上記摺動層用樹脂組成物を用いて塗工、押出成形、射出成型等を行った後に固化することにより、弾性層が形成される。なお、弾性層のゴムの加硫は、成形体の製造における任意の時点に行うことができる。
【0055】
<利点>
第1実施形態に係る成形体は、円筒形状を有することで、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の定着ユニットにおける定着ローラ、加熱ローラ、現像ユニットにおける現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、他の部分におけるエンドレスベルトを支持するためのローラ、排紙用ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラ等の種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0056】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0057】
当該成形体は、摺動層と基材層との間、最外層と基材層との間、最外層と弾性層との間等に他の層を備えてもよい。上記他の層としては、例えばプライマー層等が挙げられる。
【0058】
また、最外層の内周面に対してはその密着性を向上するために、表面処理を行ってもよい。上記表面処理としては、例えばサンドブラスト処理、エッチング処理、電解研磨処理等による粗面化などが挙げられる。
【0059】
また、最外層4に電離放射線を照射してフッ素樹脂を架橋することで、最外層4の耐摩耗性を向上させてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<摺動層用樹脂組成物No.1~No.5>
成形体の摺動層を形成するための摺動層用樹脂組成物No.1~No.5を用いて以下の手順でフィルムを作製し、摺動特性を評価した。摺動層用樹脂組成物No.1~No.5の組成及びフィルムの平均厚さを表1に示す。なお、表1中の「-」は、該当する成分を用いなかったことを示す。
【0062】
(樹脂成分)
摺動層用樹脂組成物の樹脂成分としては、以下のものを用いた。
ポリエーテルエーテルケトン:VICTREX社の「VICOTE F804、VICOTE F804BLK、VICOTE F810、VICOTE F810BLK、VICOTE F807BLK、VICOTE F816BK」
ポリテトラフルオロエチレン:オキツモ社の「オキツモ」
ポリイミド:宇部興産社の「Uワニス」
【0063】
(フィラー)
摺動層用樹脂組成物のフィラーとしては、以下のものを用いた。
針状酸化チタン:石原産業社の「FTL300」
鱗片状黒鉛:中越黒鉛社の「BK-3AK」
カーボンナノチューブ:昭和電工社の「VGCF-H」
【0064】
<ピンオンディスク型摩耗試験による回転摩耗評価>
ピンオンディスク型摩耗試験とは、例えば鉄製のピンの先端を試験対象部材の摺動面に垂直に押圧しながら摺動面を回転させることにより、公転摺動させる試験を意味する。具体的には、摺動層用樹脂組成物No.1~No.5のフィルムの表面に対し、180℃の加熱下で、回転軸を中心とする1つの円周上に配置された直径17.4mmのステンレス製の2本のピンを押圧荷重107.87kPa、回転速度210rpmで2000秒間摺動させるピンオンディスク型摩耗試験を行い、その摩耗領域の摩耗深さ[μm]を測定した。なお、上記ピンの先端は平面状とした。
表1に、評価結果を示す。
【0065】
【0066】
表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを主成分とする摺動層用樹脂組成物No.1~No.4は、ピンオンディスク型摩耗試験における摩耗量が小さく、摺動中において、摺動層が変形しにくいことがわかる。一方、ポリエーテルエーテルケトン又はフィラー含有ポリイミドを含まず、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする摺動層用樹脂組成物No.5は、摩耗量が大きく、摺動特性が劣っていた。従って、当該成形体は、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の一態様に係る成形体及びその製造方法は、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる成形体を提供できる。本発明の一形態に係る成形体は、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の定着ユニットにおける種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1、10 成形体
2 基材層
3 摺動層
4 最外層
5 弾性層