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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】伸縮配線部材
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240228BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240228BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240228BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240228BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H05K1/02 B
H05K1/03 610G
H05K1/03 630A
B32B5/02 Z
D04B21/00 Z
D04B1/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020556038
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043004
(87)【国際公開番号】W WO2020095833
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018209283
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】木本 貴也
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-086227(JP,A)
【文献】特開2007-173226(JP,A)
【文献】特表2017-537467(JP,A)
【文献】特表2013-524866(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/164461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 1/03
B32B 5/02
D04B 21/00
D04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートである布帛と、前記布帛の表面に積層したシリコーンゴムからなる下地層と、前記下地層の表面の一部に設けた導電性充填材と前記導電性充填材を保持するシリコーンゴムとからなる導電層と、前記導電層を設けた側の前記布帛の表面に設けられ、少なくとも前記導電層、前記導電層の周囲の前記下地層及び前記布帛を覆うシリコーンゴムで形成される保護層とを備えた伸縮配線部材であって、
前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaである伸縮配線部材。
【請求項2】
前記布帛と前記下地層と前記導電層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’4が3~8MPaであり、
前記E’4>前記E’3の関係にある
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項3】
前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分が、前記導電層を設けた部位の外側となる前記導電層を有しない部分である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項4】
前記伸縮配線部材の100%伸長後のうねり長さが7%以下である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項5】
前記伸縮配線部材の100%伸長後のうねり高さが7mm以下である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項6】
前記伸縮配線部材の伸長前50mm長さにおける100%伸長後のうねり数が1又は0である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項7】
前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の周波数0.1Hzで測定される貯蔵弾性率E’3と、周波数28Hzで測定される貯蔵弾性率E’4の差(E’4-E’3)で示される周波数依存性が0.6MPa以下である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項8】
前記下地層の弾性率E’1は1~10MPaであり、
前記導電層の弾性率E’2は2~60MPaであり、
前記伸縮配線部材の100%伸長歪率が10%以下である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項9】
前記布帛は、平編み、ゴム編み、スムース編み、若しくはその変化組織の何れか一種又はそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであり、
前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項10】
前記布帛は、パール編み、若しくはその変化組織でなるニットであり、
前記導電層の長手方向が、前記ニットのウェール方向である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項11】
前記布帛は、トリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編み、若しくはその変化組織の何れか一種又はそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであり、
前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向である
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項12】
前記導電層の外縁から2mmを超える外側にまで広がる前記下地層を設けた
請求項1記載の伸縮配線部材。
【請求項13】
前記下地層は、前記導電層に含まれる高分子マトリクスと同じ高分子マトリクスから構成されている
請求項1記載の伸縮配線部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、柔軟基材に伸縮配線を備える伸縮配線部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脈拍などの身体の状態または歩数などの身体の動きを計測するためのセンサが搭載されたスマートウォッチ、活量計、または脈拍計などのウェアラブルデバイスの開発が盛んになっている。従来のウェアラブルデバイスでは、半導体素子がフレキシブル基板または硬質基板に配置された電子モジュールが用いられている。ウェアラブルデバイス用の電子モジュールは身体の動きに追従しないため、快適な装着感が得られなかった。そこで、伸縮性のある弾性体または衣類に伸縮性のある導電配線を形成した伸縮配線部材を用いることでフレキシブルなウェアラブルデバイスを実現する技術が開発されている。こうした技術は、例えば、特開2016-076531号公報(特許文献1)や、特開2005-137456号公報(特許文献2)、特開2000-148290号公報(特許文献3)、国際公開2016/114339号(特許文献4)などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-076531号公報
【文献】特開2005-137456号公報
【文献】特開2000-148290号公報
【文献】国際公開2016/114339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが従来の伸縮配線を衣類等に形成した伸縮配線部材では、衣類を大きく伸ばすと、元の状態に戻したときに、皺やうねりが衣類と伸縮配線との境界周辺に発生するという問題がある。
【0005】
そこで本出願の目的は、衣類等に伸縮配線を形成した伸縮配線部材について、衣類等を伸ばした後に伸縮配線部材における皺やうねりの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であって、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaである伸縮配線部材である。
【0007】
前記一態様は、布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であるため、布帛の備える伸縮性を維持しながら導電層もまたある程度の伸縮が可能である。また、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaであるため、伸縮配線部材を伸長させた後に、伸縮配線部材に皺が発生することおよび布帛が波打つ状態となるうねりが発生することを抑制できる。
【0008】
前記一態様において、「皺」と「うねり」の定義は厳密に分けることはないが、「皺」と「うねり」はともに、布帛と下地層の積層方向について、少なくとも一の凸状部が発生する変形または少なくとも一つの凹状部が発生する変形であり、少なくとも布帛を構成する繊維のループの幅よりもその振幅が大きい変形を示すものとする。
【0009】
さらに前記一態様は、前記布帛と前記下地層と前記導電層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’4が3~8MPaであり、前記E’4>前記E’3の関係にある伸縮配線部材として構成できる。この一態様によれば、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても、伸縮配線部材に皺が生じ難く、また布帛にうねりが生じ難くなり、且つ伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0010】
さらに前記一態様は、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分が、前記導電層を設けた部位の外側となる前記導電層を有しない部分である伸縮配線部材として構成できる。この一態様によれば、一の伸縮配線部材における導電層を有する部分と有しない部分との関係を所定の関係に置くことで皺、またはうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0011】
前記一態様は、100%伸長後のうねり長さが7%以下である伸縮配線部材として構成できる。布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であって、100%伸長後のうねり長さが7%以下であり、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaである伸縮配線部材によれば伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、または布帛が波打つ状態となるうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0012】
前記一態様は、前記伸縮配線部材の100%伸長後のうねり高さが7mm以下である伸縮配線部材として構成できる。布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であって、100%伸長後のうねり高さが7mm以下であり、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaである伸縮配線部材によれば、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、または布帛が波打つ状態となるうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0013】
前記一態様は、伸長前50mm長さにおける100%伸長後のうねり数が1または0である伸縮配線部材として構成できる。布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であって、伸長前50mm長さにおける100%伸長後の単位長さあたりのうねり数が1または0であり、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaである伸縮配線部材によれば、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、または布帛が波打つ状態となるうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0014】
前記一態様は、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaであり、周波数0.1Hzで測定される貯蔵弾性率E’3と、周波数28Hzで測定される貯蔵弾性率E’4の差である周波数依存性が0.6MPa以下である伸縮配線部材として構成できる。布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層と、前記導電層を覆う保護層とを備えた伸縮配線部材であって、前記布帛と前記下地層と前記保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaであり、周波数0.1Hzで測定される貯蔵弾性率E’3と、周波数28Hzで測定される貯蔵弾性率E’4の差である周波数依存性が0.6MPa以下である伸縮配線部材によれば、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、または布帛が波打つ状態となるうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0015】
前記一態様は、前記下地層の弾性率E’1は1~10MPaであり、前記導電層の弾性率E’2は2~60MPaであり、100%伸長歪率が10%以下である伸縮配線部材として構成できる。布帛と、前記布帛の表面に設けた下地層と、前記下地層の表面で前記布帛の一部に設けた導電層とを備えた伸縮配線部材であって、前記下地層の弾性率E’1は1~10MPaであり、前記導電層の弾性率E’2は2~60MPaであり、100%伸長歪率が10%以下である伸縮配線部材によれば、保護層がなくとも、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、または布帛が波打つ状態となるうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0016】
前記一態様は、前記布帛を平編み、ゴム編み、スムース編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであり、前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向である伸縮配線部材として構成できる。布帛が、平編み、ゴム編み、スムース編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであるものとし、前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向である伸縮配線部材によれば、ニットにより伸縮性を大きくすることができる一方で、ニットによるうねりの発生を低減することができる。そして、ニットに導電層を形成した伸縮配線部材としても、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、またはうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0017】
前記一態様は、前記布帛が、パール編み、若しくはその変化組織でなるニットであり、前記導電層の長手方向が、前記ニットのウェール方向である伸縮配線部材として構成できる。前記布帛が、パール編み、若しくはその変化組織でなるニットであり、前記導電層の長手方向が、前記ニットのウェール方向であるため、ニット構造により布帛の伸縮性を大きくすることができる一方で、ニットによるうねりの発生を低減することができる。そして、ニットに導電層を形成した伸縮配線部材としても、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、またはうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0018】
前記一態様は、前記布帛が、トリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであり、前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向である伸縮配線部材として構成できる。前記布帛が、トリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せから選択される少なくとも一のニットであり、前記導電層の長手方向が、前記ニットのコース方向であるため、ニット構造により布帛の伸縮性を大きくすることができる一方で、ニットによるうねりの発生を低減することができる。そして、ニットに導電層を形成した伸縮配線部材としても、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、またはうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる。
【0019】
前記一態様は、前記導電層の外縁から2mmを超える外側にまで広がる前記下地を設けた伸縮配線部材として構成できる。前記導電層の外縁から2mmを超える外側にまで広がる前記下地を設けた伸縮配線部材によれば、導電層よりも広い面積に下地層を設けた場合にも、皺、またはうねりを生じさせ難くし、伸長前の元の状態に戻すことができる伸縮配線部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の伸縮配線部材によれば、伸縮配線部材を伸長させた後、伸長した力を解放して元に戻しても伸縮配線部材に皺、またはうねりを生じさせ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】平編みの模式図であり、分図1Aはその平面相当図、分図1Bは分図1AのIB-IB線断面相当図である。
図2図1Aの編地を上下方向に伸ばしたときの平面相当図である。
図3図1Aの編地を左右方向に伸ばしたときの平面相当図である。
図4】ゴム編みの模式図であり、分図4Aはその平面相当図、分図4Bは分図4AのIVB-IVB線断面相当図である。
図5図4Aの編地を上下方向に伸ばしたときの平面相当図である。
図6図4Aの編地を左右方向に伸ばしたときの平面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一態様である伸縮配線部材は、織物やニット等の布帛に導電性の伸縮配線となる導電層を積層したものであって、布帛と伸縮配線の間には下地層を形成しており、さらに必要により伸縮配線の表面を保護層で覆っているものである。次にはこの伸縮配線部材を構成する各部位について説明する。
【0023】
<布帛>: 布帛は、繊維シートである。布帛は織物やニット(編物)、不織布等で構成される。布帛は個体(人)が身につけられるように縫製等すれば衣類となる。布帛を構成する繊維の種類は限定されず、一般的な天然繊維や合成繊維を用いることができ、また、ガラス繊維のような無機繊維を用いることができる。身体に身につけることから、絶縁性があり、しなやかな性質を持つ綿、ウール、レーヨン、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維等が好ましい。
【0024】
布帛のうち縦糸と横糸を交差させて織った織物は、伸縮する糸を用いた場合を除いて、糸目方向への伸縮性に乏しい。しかしながら織物は、ニットに比べてハリや腰があり、型崩れしにくく引っ張りに強いなどの特徴があるため、ジャケットやズボンなどの衣類や、敷物などの生活用品など、多くの繊維製品に用いられている。
【0025】
一方、ニットは繊維でループ(編み目)を作り、このループどうしの絡まりでなる連続した生地(編地)で形成されている。このループどうしの絡まり部分では、繊維が比較的自由に動くことができることに加え、編み目が形成する立体的な構成によって、生地は大きく伸張することができる。このためニットは織物と比べて伸張性が大きく、しなやかで柔らかい質感、立体的な編み目に起因する保温性や通気性の高さなどの特徴を備える。そのため、防寒具や肌着、フィット感が必要となる靴下、しなやかさを生かした運動着などに好適に利用されている。
【0026】
ニットは、横編と縦編に分類でき、ループが横方向に進んで編地を作るのが横編みで、ループを縦方向に編み上げていくのが縦編である。またニットでは、生地の縦方向に並んだループの列を「ウェール」、横方向に並んだループの列を「コース」と言い、1インチ間におけるループの数をゲージで表す。換言すれば、ウェール方向のゲージ数は1インチ当たりのコース方向の糸の本数であり、コース方向のゲージ数は、1インチ当りのループの数とすることができる。例えば、1インチ四方に後述の図1Aのパターンがある場合には、ウェール方向が4ゲージ、コース方向が3ゲージとなる。このゲージ数は、目視または光学顕微鏡で観察して計測することができる。
【0027】
ニットには種々の編み方により、種々の立体的に交差した編み目が形成されるが、代表的な横編みとしては、平編み、ゴム編み、スムース編み、パール編みや、その組織変化が挙げられる。また、代表的な経編みとしては、2wayトリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編みなどがある。
【0028】
本発明の一態様および実施形態では、これらの編み方の中でも、平編み、ゴム編み、スムース編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せについて、ニットのコース方向に導電層の長さ方向が沿うように導電層を設けてニットのコース方向へ伸縮するように用いることが好ましい。また、パール編み、若しくはその変化組織については、ニットのウェール方向へ伸縮するように用いることが好ましい。さらにまた、トリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せについては、ニットのコースへ伸縮するように用いることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の一態様および実施形態では、平編み、ゴム編み、スムース編み、パール編み、トリコット、デンビー編み、バンダイク編み、コード編み若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せについて、ニットを構成する繊維がウレタン系繊維やゴム系繊維などの伸縮性を備える繊維を含む場合には、前述の編み目方向に限らずに導電層を設けて用いることができる。ただし、ウレタン系繊維やゴム系繊維は、繰り返し耐久性に乏しい場合があるため、伸縮性の少ない繊維で構成される前述の平編み、ゴム編み、スムース編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せについて、コース方向へ伸縮するように用いるか、またはパール編み、若しくはその変化組織について、ウェール方向へ伸縮するように用いるか、トリコット、デンビー編みやバンダイク編み、コード編み、若しくはその変化組織の何れか一種またはそれらの組合せについて、コースへ伸縮するように用いる方が好ましい。
【0030】
次に、ニットの種々の編み方のうちの代表的な平編みとゴム編み、およびスムース編みについて説明する。
【0031】
平編み: 図1にニットの代表的な編み目である平編み1の模式図を示す。図1Aはその平面図、図1Bはその断面図である。図1では便宜的に横方向に延びる4本の繊維について、3ループ分の繰り返しの様子を示しているが、実際には、このようなパターンが上下左右に繰り返されることで編地を形成している。図1Aでは、その横方向(図1AのX方向)に向かう繊維方向が、ループどうしが絡み合うコース方向になり、コース方向に対して垂直な方向(図1AのY方向)がウェール方向になる。
【0032】
図2および図3は、平編み1の繊維を伸ばした様子を示す模式図である。図1Aを初期状態として、ウェール方向に伸ばしたときの状態を図2に、コース方向に伸ばしたときの状態を図3に示す。図2および図3で示すように、平編み1ではウェール方向よりもコース方向への伸張が大きくなる。なお、平編み1の裏面は、表面とは異なる形状となる。
【0033】
ゴム編み: 図4にはゴム編み2の模式図を示す。図4Aはその平面図、図4Bはその断面図である。ゴム編み2はコース方向への伸縮性が大きいことが特徴の編み目である。図5および図6は、ゴム編み2の繊維を伸ばした様子を示す模式図である。図4Aを初期状態として、ウェール方向に伸ばしたときの状態を図5に、コース方向に伸ばしたときの状態を図6に示す。図5および図6で示すように、ゴム編み2では平編みと同様にウェール方向よりもコース方向への伸張が大きくなるが、平編み1以上にコース方向の伸張が大きい。図4から図6へのコース方向の変化では、生地全体の伸張が130%(横方向に初期の1.3倍の長さ)であり、図4Aに示す隙間T1から図6に示す隙間T2への変化は、T1を100%とするとT2は250%にも及ぶ。他方、ウェール方向の伸張は、図5に示すように生地全体が概ね均一に伸張する。また、このときコース方向の寸法は小さくなる傾向がある。ゴム編み2では表裏で同じパターンを形成する。
【0034】
スムース編み: ゴム編みの変形としてスムース編みがある。スムース編みについては図示しないが、2つのゴム編みの裏面どうしを合せたような生地であり、生地の両面がゴム編みの表面と略同じ編み目となる編み方である。そのため、表裏両面が同様に表れる。例えば、所定の厚みのこの生地を用い、生地の両面に同方向の導電層を形成すれば、生地の表裏の導電層の伸びの差によって湾曲度合いの違いを検出することができる。
【0035】
繊維シートを構成する撚糸の直径は、0.01~1.0mm程度が好ましい。ニットの場合には1.0mmよりも太ければ生じる編み目の空隙が大きくなり導電層を形成し難くなる。また、0.01mmよりも細くても良いが、擦れに弱くなり、衣類の耐久性が低くなるおそれがある。
【0036】
<導電層>: 導電層は、前記布帛の表面に形成される導電性の部位であって、主として導電性を発現させる導電性充填材と、導電性充填材を保持する高分子マトリクスとからなるものである。伸張性を備えたバインダー樹脂に導電性材料が分散した液状導電性組成物をニット上に塗布して形成することができる。
【0037】
導電層を形成する材質について説明する。伸張性を備えた前記マトリクスとしては、一般に架橋ゴムや熱可塑性エラストマがあり、シリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、またはウレタンゴム等の架橋ゴム、そして、スチレン系熱可塑性エラストマ、オレフィン系熱可塑性エラストマ、エステル系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ、アミド系熱可塑性エラストマ、塩化ビニル系熱可塑性エラストマ、またはフッ素系熱可塑性エラストマ等の熱可塑性エラストマが挙げられるが、これらの材質の中でも、シリコーンゴムは極めて柔軟な導電層を形成することができ、比較的耐候性が高いという特性に加え、本発明で特定する種々のパラメータを備えることから好ましい材質である。
【0038】
マトリクスの硬さは、JIS K6253で規定されるA硬度で5~80の範囲が好ましい。A5未満では、柔軟すぎるため耐久性の点で懸念が生じる。一方、A80を越えると、硬すぎてほとんど伸張することができず伸縮させる用途として好適ではない。なお、近年では人にやさしい触感が求められていることから、この好ましい範囲内でも柔軟な素材を用いることがより好ましい。
【0039】
導電性充填材としては、カーボンや金属等の導電性粉末を用いることできるが、電力や信号を伝える配線とする場合には、低抵抗の金属粉末を用いることが好ましい。また、金属粉末の中でも、ある程度の耐候性と極めて低い抵抗値を有する銀粉末が特に好適である。導電性充填材の形状は特に限定されないが、繊維状のものは比較的少ない充填量で低抵抗にすることができる。また、フレーク状粉末の導電性充填材は比較的少ない充填量で低抵抗にすることができるとともに、伸縮したときの抵抗率変化が小さくなる。
【0040】
こうした導電性充填材は、導電層中で15~50体積%を占めるように配合することが好ましい。15体積%未満では、抵抗値が高くなりすぎるおそれがあり、50体積%を超えると、導電性充填材を保持するマトリクスの割合が少なくなりすぎ、伸張したときに導電層に亀裂等が生じて断線するおそれが高まる。
【0041】
一方、伸縮による抵抗値変化の大きな導電層の形成を欲する場合には、カーボン粉末を用いることが好ましい。伸縮による抵抗値変化の大きな導電層の一例としては、シリコーン100質量部に対して、ケッチェンブラックを3.8~15質量部(導電層中で3.6~23体積%)、黒鉛を0~45質量部(導電層中で0~48体積%)含む導電性樹脂からなる導電層が好ましい一形態である。ケッチェンブラックの添加量が3.8質量部よりも少ないと所望の導電性や耐久性が得られ難い。また15質量部を超えるとシリコーンとの混合組成物の粘度が高くなり、また導電層を伸張したときにクラックが生じ易くなる。また、黒鉛の添加量が30質量部よりも少ないと導電層の伸張に伴う適度な抵抗変化率が得られ難い。また45質量部を超えるとシリコーンとの混合組成物の粘度が高くなり、また導電層の伸張に対する耐久性が悪くなる。
【0042】
導電層は、液状の導電性ペーストを用いて印刷形成することが好ましい。この導電性ペーストには、前記マトリクスとなるバインダーと導電性充填材を含む液状組成物を用いることができる。液状組成物の具体例としては、前述の導電性粉末を、硬化可能な液状樹脂であるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンの組合せや、ポリウレタンポリオールとイソシアネートの組合せたもの、各種ゴムやエラストマを溶剤に溶かしたものに分散したものとすることができる。また、導電性ペーストには溶剤を含むことができる。溶剤を用いることで黒鉛やケッチェンブラックの分散性、基材表面への塗布性、そして粘度を調整することができる。
【0043】
導電層を導電性ペーストで印刷形成する場合には、微粒子導電性粉末、繊維状導電性粉末、鱗片状導電性粉末のうち少なくとも1種の導電性粉末を含むことが好ましい。この理由は、これらの何れか1種を含むことで、所定の導電性ペーストのチキソ比を3~30に調整することができ、しかも固化後には所定の抵抗値範囲の導電層が得られるためである。特に、チキソ比をこの範囲にすることで、導電性ペーストが必要以上にニットに浸み込むことを抑制できるため、高品位なパターニングが可能となる。
【0044】
なお、上記粘度は粘度計(BROOKFIELD回転粘度計DV-E)でスピンドルSC4-14の回転子を用い、回転速度10rpmで測定した25℃における粘度で示すことができる。また、上記チキソ比は、粘度計の回転速度10rpmにおける測定値μ10rpmと、回転速度100rpmにおける測定値μ100rpmの比(μ10rpm/μ100rpm)で示すことができる。
【0045】
導電性ペーストまたは導電層には、生産性、耐候性、耐熱性など種々の性質を高める目的で種々の添加材を含むことができる。そうした添加材を例示すれば、可塑剤、補強材、着色剤、耐熱向上剤、難燃剤、触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤など、種々の機能性向上剤が挙げられる。
【0046】
導電層の弾性率E’2は2~60MPaであることが好ましい。導電層自体もある程度柔軟である必要があるからである。2MPaより低いと含有される導電性粉末の相対量が少なすぎ、伸長により導電性が得られなくなるおそれがある。また60MPaを超えると硬すぎて布帛にしわやうねりが残り易くなる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、弾性率E’とは動的粘弾性測定装置の引張モードで試験片を引っ張った際の貯蔵弾性率E’をいう。また、導電層の弾性率E’は、他の下地層の弾性率E’等と区別する場合には「E’2」とも表記するものとする。また、導電層の弾性率E’の測定は、導電層用の原料組成物を弾性率E’が測定できる試験片の形状に形成することにより測定することができる。
【0047】
導電層の幅は、必要に応じて適切な大きさに形成できるが、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。0.1mm未満であると、導電層の幅が細すぎ、所望の導電性が得られにくいだけでなく、破断する可能性が高まるからである。また、0.5mm以上とすることで着脱や洗濯等における耐久性を高め易いからである。
【0048】
一方、導電層の幅は、10mm以下であることが好ましい。10mmを超えると、導電層の幅が広いことから、下地層として伸縮性に優れるものを用いても、歪みを緩衝できず、導電層の歪みに起因したうねり等が生じるおそれが高くなる。より好ましくは5mm以下である。
【0049】
導電層は、布帛の表面のみに設ける場合に限らず裏面にも設ける態様を採ることができる。そして、例えば布帛の一方面に設けた導電層に対して、他方面に設ける導電層を平面視で垂直に交差する方向に設けると、単一方向だけではない平面内の変位を検出するセンサとして設計することも可能である。表裏両面に設けた導電層の抵抗値変化の比から、伸びの方向まで検出することができるからである。導電層を布帛の両面に設ける場合には、下地層を設けることで絶縁性を高めることができ、表面側の導電層と裏面側の導電層の短絡を防止できる。
【0050】
<下地層>: 下地層は導電層と布帛の間に介在させる層である。布帛の内部にまで下地層がしみ込んでいる場合には、そのしみ込み部分を含めて下地層と言うものとする。下地層は高分子マトリクスとからなるものであって、導電層との接着性を高めるために導電層を形成する高分子マトリクスと同種の材料から形成することが好ましい。
【0051】
下地層は、布帛の内部にしみ込む場合であっても、布帛の表面に沿って形成される。したがって導電層を形成する高分子マトリクスと同じ高分子マトリクスからなる下地層を形成すれば、導電層と下地層が一体不可分となるが、布帛との近傍で導電性成分が乏しく所望の導電性を発現しない部分は下地層である。導電層と布帛の間に導電層とは樹脂成分が異なる別層が形成されれば導電層とは異なる下地層が形成されていると言うことができるが、導電層と同一の高分子マトリクスから下地層が形成される場合には、両者の厳密な区別が難しいためである。
【0052】
下地層はまた、少なくとも導電層が設けられる布帛との境界に形成されるが、導電層よりも広い面積となるように布帛の表面に設けることができる。下地層として、導電層よりも伸縮性に優れたものを用い易く、導電層の周囲に下地層と布帛が積層した部分を設けることで、導電層に起因したうねり等を低減することができるためである。
【0053】
下地層の弾性率E’(他の弾性率と区別するため、下地層の弾性率を「E’1」とも表記する)は、1~10MPaであることが好ましい。下地層は布帛の局所的な伸長のバラツキを緩衝するために、所定の柔軟性が必要であるからである。布帛を伸ばした際の撚糸どうしの隙間の広がりや、布帛の織り方や編み方の相違によって生じる畝の隙間の広がりが局所的に生じるため、その影響を導電層に及ぼさないようにするためである。下地層の弾性率E’が、1MPaより低かったり、10MPaを超えたりすると布帛に皺やうねりが残り易い。下地層の弾性率E’の測定方法および測定用試験片の作製は、導電層と同様に行うことができる。
【0054】
伸縮配線部材の表面には必要に応じて種々の機能層を積層することも可能である。例えば導電層を設けた側の布帛の表面に導電層を覆うような保護層を設けることができる。保護層は伸縮性に優れた樹脂材で形成することが好ましく、導電層の表面を保護し、導電層と布帛の固着をより確実にすることができる。より好ましくは、下地層と同じ樹脂材料とすることができる。
【0055】
保護層は、少なくとも導電層を覆うように設けるが、導電層の周囲の下地層または布帛の表面に及ぶ大きさに保護層を設けることも可能である。
【0056】
また、伸縮配線部材の表裏少なくとも何れかの面に粘着層を設けることもできる。導電層を設けた側の表面に粘着層を形成すれば、粘着層側を皮膚に付着させるように用いることで、導電層を布帛の表面から見えなくすることができる。そのため、布帛の装飾性を損なわずに伸縮配線部材を利用することができる。一方、粘着層を、導電層を設けた側とは反対の表面に形成すれば、導電層を布帛の外側に出すことができ、導電部がヒトから生じる汗の影響を受け難くすることができる。
【0057】
粘着層には、絆創膏やシップに用いる材質と同様の材質を用いることができ、アクリル系の粘着剤や高分子ゲルなどを利用することができる。このように粘着層を設けることで、伸縮配線部材を皮膚に付着させて、身体への密着性を高める用途に好適に利用することができる。
【0058】
下地層における導電層が積層する表面の一部に透孔を設けることができる。換言すれば、透孔を設けた箇所では、導電層が布帛に直接積層する。こうした態様では伸縮配線部材を、以下の特徴を有するものとすることができる。
【0059】
第1に、布帛に直接積層した導電層は、下地層に積層した導電層よりも、抵抗値および抵抗値変化率が大きくなる。布帛に浸透した導電部の一部は、絶縁性の布帛により導電性が阻害されるため、抵抗値の上昇が生じると説明できる。また、抵抗値変化率が大きくなる理由は次のように考えられる。布帛の伸長は、前記のとおり部分的に大きい箇所と小さい箇所が生じるが、下地層を備える場合には、下地層が緩衝層として機能して導電層全体が平均的に伸ばされる傾向がある。一方、下地層を備えない場合には、布帛の部分的に伸長が大きい箇所では、導電層も大きく伸長されることから抵抗値上昇が大きくなり、全体を平均的に伸長した場合よりも抵抗値変化率が大きくなるものと思われる。
【0060】
第2に前述の布帛の表裏に導電層を設ける構成において、下地層の透孔を通じて表裏の導電層を導通接続することができる。より具体的には、透孔において、布帛の一方側表面から他方側表面まで、布帛を構成する繊維のすき間に導電インクを浸透させることで、表裏を導通接続する。このため、透孔に浸透させる導電インクは、粘度が低く浸透性の高いものを用いることが好ましい。また、この態様において、布帛に下地層を設けた後、布帛と下地層を貫通する貫通孔を設けた構成とすることもできる。この構成では、透孔の周囲で下地層が布帛に浸透しているため、布帛の繊維を切断して貫通孔を設けても、下地層が布帛を保持しているため、布帛のほつれを防ぐことができる。また、貫通孔としたため、粘性の低い導電性インクを用いる必要がないという利点がある。
【0061】
<伸縮配線部材の製造方法>: 伸縮配線部材を製造するには、布帛の表面に下地層となる樹脂組成物等を印刷等の方法で塗布する。そして、その下地層の表面に導電層となる原料組成物を印刷等の方法で塗布する。保護層やその他の層を設けるときは、さらにこれらの原料組成物を印刷等の方法で塗布する。こうして伸縮配線部材を製造する。
【0062】
また、他の製造方法としては、剥離シートに保護層となる樹脂組成物を印刷形成し、さらに保護層の表面に導電層となる原料組成物を印刷等の方法で塗布形成した転写シートを準備する。続いて、転写シートに下地層となる樹脂組成物等を印刷等の方法で塗布し、下地層側を布帛に重ねてから下地層を硬化して、下地層を布帛に固着した後に剥離シートを剥すことで、布帛に下地層、導電層、保護層が一体となった伸縮配線部材を製造することができる。
【0063】
<伸縮配線部材の特徴>: 伸縮配線部材の特徴を表す用語の説明を行う。「100%伸長」とは、伸縮配線部材を100%伸長させた後に5分その状態を保持してから解放すること、換言すればその伸縮配線部材の長さと同じ長さ分だけ伸長させた後に5分その状態を保持してから解放することをいう。例えば、10cm長さの試験片をその長さ分である10cm伸ばして試験片長さを20cmとして5分保持し解放することである。また、10cm長さの試験片のうち、中央の5cm長さの部分のみに限って伸長させるような試験片の一部分のみを伸長させる場合も含み、この場合であれば、5cm長さの部分を10cm長さになるまで伸長させ5分保持して解放することをいう。特に言及のないときは、準備した試験片の全体を伸長させた際のものである。
【0064】
また、「100%伸長歪率」は、伸縮配線部材を100%伸長し、その状態を5分保持した後、解放した10秒後の歪みの大きさをいう。例えば、10cm長さの試験片でこの試験を行った結果、試験片の長さが11cmになれば、伸長歪率は10%であるということになる。また、10cm長さの試験片のうち、中央の5cm長さの部分のみを10cm長さになるまで伸長して5分保持した後の10秒後にこの5cm長さだった部分が5.5cmになれば伸長歪率は10%である。100%伸長歪率についても特に言及のないときは、準備した試験片の全体を伸長させた際のものである。
【0065】
このような伸縮配線部材について、伸縮配線部材の100%伸長歪率は10%以下であることが好ましい。伸縮配線部材の100%伸長歪率が10%を超えると、もはや元の状態にある伸縮配線部材とは異なる伸縮配線部材となってしまうからである。
【0066】
また、伸縮配線部材の100%伸長後のうねり長さは7%以下であることが好ましい。うねり長さとは、伸縮配線部材を100%伸長した後の伸長配線部材の正味の長さである。伸縮配線部材の一部を100%伸長した場合には、その伸長させた部分の正味の長さである。例えば、うねりが生じた場合に、見た目では試験片の長さと同じでも、うねりを矯正したときに、隠れていた歪みが表出することがある。また、こうした現象は、個別の材料や積層した試験片では問題となり難いものの、布帛の一部に下地層や導電層を設けた場合に、生じ易いということを見出した。うねり長さの測定方法としては、伸長試験の後10秒後に、前記うねりを考慮して、うねりに沿った長さを測定する。より具体的には、解放した試料を平坦な滑り性の良い台(例えばアクリル板など)に載置し、上から透明な板(例えばアクリル板)で挟むことで、うねりを矯正することができ、このときの長さを測定することでうねり長さとすることができる。なお、このとき試料が折れ曲がったり、伸長方向で圧縮されないように注意する。また、うねりの大きさ等の事情により、矯正が難しい場合の他の方法としては、測定箇所を刃で切断し、切断面の伸長方向の長さを測定することで、うねり長さを測定しても良い。刃で切断する場合には、切断時に長さが変化しないように注意する。例えばカッターのように伸長方向にも応力が生じる切断は好ましくなく、垂直方向にのみ応力が生じる抜型(特にビク型)を用いることが好ましい。うねり長さが7%を超えると、そうした伸縮配線部材は、見た目にもうねりが目立ち易く、美観を損ねるからである。
【0067】
あるいはまた、伸縮配線部材の前記100%伸長後のうねり高さは7mm以下であることが好ましい。「うねり高さ」とは、前記100%伸長後に伸縮配線部材を平面上に置いた際に、生じたうねりによって最も高い部分と前記平面との間の高さをいうものである。うねり高さが7mmを超えると、そうした伸縮配線部材は、見た目にもうねりが目立ち易く、美観を損ねるからである。
【0068】
伸縮配線部材では、その伸縮配線部材を構成する下地層の弾性率E’1と導電層の弾性率E’2との間にE’2>E’1の関係が満たされることが好ましい。前述のとおり布帛は、伸長が不均一であり、部分的に高伸長領域が形成される。こうした高伸長領域においても歪みを生じさせ難くするため、特に下地層の弾性率は低くすることが好ましい。また、導電層はなるべく均一に伸ばすことで、伸長時の抵抗値上昇を安定させることができるが、導電層の弾性率が下地層の弾性率よりも小さい(即ちE’2≦E’1の関係にある)と、前記布帛の高伸長領域に下地層が追従したとき、導電層も下地層と同様に伸長してしまい、伸長の不均一性が大きくなるおそれがある。一方、導電層の弾性率よりも下地層の弾性率が小さければ、導電層と布帛に挟まれた下地層は、相対的に硬い導電層に拘束される導電層側の表面では伸長の不均一性を低減するように変形するため、伸長時の導電性の変化を安定させることができる。
【0069】
伸縮配線部材を構成する布帛と下地層と保護層の各層を、布帛の表面に下地層を設け、その表面に保護層を設けた試験片を作製して測定した弾性率E’(他の弾性率E’と区別するため、布帛と下地層と保護層とを積層した積層体の弾性率を「E’3」とも表記する)は、1~6MPaであることが好ましい。また、伸縮配線部材を構成する布帛と下地層と導電層と保護層の各層を、布帛の表面に下地層を設け、その表面に導電層を設け、その表面に保護層を設けた試験片を作製して測定した弾性率E’(他の弾性率と区別するため、布帛と下地層と導電層と保護層とを積層した積層体の弾性率を「E’4」とも表記する)は、3~8MPaであることが好ましい。弾性率E’3が1MPaよりも小さい場合には、樹脂材料の架橋密度が小さすぎることに起因して、形状の復元力が小さくなりゆがみが生じ易くなるおそれがある。一方、弾性率E’3が6MPaよりも大きいと、うねりが生じ易くなる。また、弾性率E’4が3MPaよりも小さいと、導電層の架橋密度が低くなりすぎ、導電性粒子を保持する力が弱くなりすぎることから、伸長を繰り返すと断線し易くなるおそれがある。一方、弾性率E’4が8MPaよりも大きいと、その硬さに起因して断線し易くなり、またうねりも生じ易くなる。
【0070】
そして、上記布帛と下地層と保護層を積層したものの弾性率E’3と、上記布帛と下地層と導電層と保護層を積層したものの弾性率E’4は、E’4>E’3の関係式を満たすことが好ましい。導電層を含めたものの弾性率E’4を、導電層を含めないものの弾性率E’3よりも硬くすることで、導電層を下地層に追従し難くすることができる。これにより、導電層の伸びが全体的に均一になり、歪みの発生を抑えることができる。さらには導電層の抵抗値の上昇を低減することができる。
【0071】
さらに伸縮配線部材は、前記100%伸長後のうねり長さと、無荷重の歪み長さとの比が2未満であることが好ましい。前記100%伸長後のうねり長さと、無荷重の歪み長さとの比が2を超えると、そうした伸縮配線部材は、見た目にもうねりが目立ち易く、美観を損ねるからである。なお、無荷重の歪み長さとは、うねり長さの測定と同じ試験片について、うねりを矯正せずに、布帛面を垂直に観察して測定した長さである。
【0072】
さらにまた伸縮配線部材は、伸長前50mm長さにおける100%伸長後の単位長さあたりのうねり数が1または0であることが好ましい。伸長前50mm長さにおける100%伸長後のうねり数が2以上であると、見た目にもうねりが目立ちやすく、うねりの数が少ない場合よりも美観を損ねるからである。なお、念のため説明を補足すると、「伸長前50mm長さにおける」としたのは、試験片が50mmであればその全体を100%伸長させたときのものであり、試験片が50mmを超える場合は、そのうちの50mm長さの部分について100%伸長をさせたときのものである。そして、うねり数はこの伸長させた部分(長さ)についての数を勘定したものである。
【0073】
伸縮配線部材は、ウェアラブルセンサ等として利用する場合には導電層の両端に配線を接続し、その配線を制御モジュールに接続して利用することができる。制御モジュールは電池や無線通信部、制御部を有し、導電層の伸縮によって変化する抵抗値変化を検知して別途備えるウェアラブルウオッチなどのウェアラブル操作端末またはパーソナルコンピュータ等にその信号を送信するものである。コンパクトな制御モジュールおよび配線を布帛に組み付けて用いることができる。
【実施例
【0074】
以下に説明する試験片を作製し各種試験を行った。
【0075】
各試料の試験片の作製
【0076】
<下地層の試験片作製>: 下地層となる原材料をフィルム上に塗布し硬化させて、厚み80μmとなる硬化体を得た。これをフィルムから剥がし、ダンベル状8号形のビク型で抜くことで、ダンベル状の下地層となる試験片を得た。各試料となる試験片を形成する下地層の原材料を表に示す。表において、例えば「下地層」の「硬さA20液状シリコーン」は、下地層となる原料組成物が熱硬化性の液状シリコーン組成物であって、硬化後の硬さがA硬度で20となるものであることを示す。
【0077】
<導電層の試験片作製>: 導電層となる試験片についても、下地層と同様にして同じ厚み、形状の試験片を得た。各試料となる試験片を形成する導電層の原材料を表に示す。表において、例えば「導電層」の「シリコーンインク」は、硬化すれば硬さA25となる液状シリコーン組成物100質量部に対して、導電性物質として銀粉末(鱗片状、平均粒径17μm)を400質量部混合して得た導電層形成用インクである。また、「ウレタン系インク」は、シリコーンインクのシリコーン組成物に代えてニトリルゴム組成物(単独で硬化すればA50)を用いた以外はシリコーンインクと同様の組成で形成した導電層形成用インクである。
【0078】
<布帛+下地層+保護層の積層体となる試験片作製(1)>: 厚みが400μmのスムースニット地の布帛について、コース方向が長手方向となるように110×25mmの大きさに切り出した。そして、染み込みのないフィルムに塗布すると80μmの厚みとなるボリュームで100×15mmのパターンの下地層を印刷形成した。このときの印刷後の布帛と下地層を合わせた厚みが410μmであった。したがって、下地層の70μm分が布帛に浸透していた。換言すれば、下地層の厚みは80μmであり、布帛の表面に盛られた分の下地層の厚みは10μmであった。さらにその表面に下地層と同じパターンで厚みが20μmとなる保護層を印刷形成した。この試験片では、幅方向において下地層の外側5mmは布帛が露出している。以上のように作製された次のパターンの試験片を試験片(1)とする。
【0079】
布帛 110×25mm (コース方向が長手)
下地層 100×15mm (布帛の中央に配置)
保護層 100×15mm (下地層と同じ位置)
【0080】
<布帛+下地層+保護層の積層体となる試験片作製(2)>: 布帛+下地層+保護層の積層体となる試験片作製(1)と同様の積層構成の積層体を作製した。そして、この積層体をダンベル状8号形のビク型で抜くことで、ダンベル状の試験片を得た。ダンベル形状は、全体が積層体となっている。以上のように作製されたダンベル形状の試験片を試験片(2)とする。
【0081】
「保護層」のうち、「下地層と同じ」としたものは、その試料における下地層と同じ原料組成物を用いて保護層を形成したことを示す。また、試料6の「厚膜」は、下地層と同じ原料組成物を用いて220μmの厚みの保護層を形成したものである。試料7の「硬質」は、下地層よりも硬質の保護層を形成したものであり、試料4と同様の原料組成物を用いて保護層を形成したものである。また、試料10は保護層を設けなかったものであることを示す。
【0082】
<布帛+下地層+導電層+保護層の積層体となる試験片作製(3)>: 上記布帛+下地層+保護層の積層体の製造において、下地層形成後に、その表面に105×10mmのパターンで厚みが50μmとなる導電層を印刷形成した工程を加えた他は、上記布帛+下地層+保護層の積層体と同様にして、布帛+下地層+導電層+保護層の積層体となる試験片を製造した。以上のように作製された次のパターンの試験片を試験片(3)とする。
【0083】
布帛 110×25mm (コース方向が長手)
下地層 100×15mm (布帛の中央に配置)
導電層 105×10mm (下地層の中央に配置)
保護層 100×15mm (下地層と同じ位置)
【0084】
<布帛+下地層+導電層+保護層の積層体となる試験片作製(4)>: 布帛+下地層+導電層+保護層の積層体となる試験片作製(1)と同様の積層構成の積層体を作製した。そして、この積層体をダンベル状8号形のビク型で抜くことで、ダンベル状の試験片を得た。ダンベル形状は、全体が積層体となっている。以上のように作製されたダンベル形状の試験片を試験片(4)とする。
【0085】
各試料となる試験片を形成する下地層および保護層の原材料を表に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
各種試験:
【0091】
<試験1:貯蔵弾性率E’の測定試験>: 動的粘弾性測定装置(セイコーインスツル株式会社製「DMS6100」)を用いて、各試料のダンベル形状の試験片をチャックで挟み、チャック間距離8mm、周波数10Hz、測定温度25℃、引張モードにて貯蔵弾性率E’を測定した。なお、チャックで挟む位置はダンベル形状の中央であり、試験片の幅が一定になる細くなっている部分のみを伸長させるようにしている。その結果を表1および表3に示す。
【0092】
各表において、「下地層の弾性率[MPa]」は、上記下地層単層からなる試験片の貯蔵弾性率E’を示したものであり、「導電層の弾性率[MPa]」は、上記導電層単層からなる試験片の貯蔵弾性率E’を示したものである。また、「布帛+下地層+保護層の積層体」における「積層体の弾性率[MPa]」では、この積層体からなる試験片の貯蔵弾性率E’を示したものである。同様に、「布帛+下地層+導電層+保護層の積層体」における「積層体の弾性率[MPa]」では、さらに導電層を加えた積層体からなる試験片の貯蔵弾性率E’を示したものである。
【0093】
<試験2:周波数依存性の測定試験>: 前記動的粘弾性測定装置を用い、「布帛+下地層+保護層の積層体」の試験片について、周波数0.1Hzおよび周波数28Hzの条件に変更して貯蔵弾性率を測定した。次いで、28Hzの貯蔵弾性率と0.1Hzの貯蔵弾性率の差を計算して、周波数依存性の項目に示した。
【0094】
<試験3:伸長歪率の測定試験>: 試験片の中央に15mmの間隔で印を付け、引張試験機(東洋精機製作所社製「ストログラフVE5D」)を用いて、当該部分の長さが18mm(20%伸張)、22.5mm(50%伸張)、または30mm(100%伸張)となるまで100mm/minの速度で試験片を引っ張る3種類の引張試験を行った。そして荷重を解放した1分後に、試験片に付けた印間の長さを測定し、初期長(15mm)に対する試験後の長さから伸長歪率(%)を測定した。引張り後にカールしていたり、うねりが生じていたりした試験片は、引っ張り方向に荷重をかけないように平坦に矯正して試験片の長さを測定した。
【0095】
この伸長歪率の測定試験は、前記試験片作製(2)および前記試験片作製(4)で作製したそれぞれの「布帛+下地層+保護層の積層体」と「布帛+下地層+導電層+保護層の積層体」の試験片(2)および試験片(4)について行った。また、その結果について、「伸長歪率[%]」欄に伸長の程度ごとに表中に示した。
【0096】
<試験4:引張荷重測定試験>: 試験2を行った際に20%伸張、50%伸張、または100%伸張時のそれぞれにおける引張荷重を測定した。その結果も表に示した。
【0097】
<試験5:形状観察試験>: 上記試験2と同じ引張試験機を用い同様の速度で引張試験を行ったが、ここでは各試料の試験片(1)および試験片(3)を用いて、各試験片の中央に、長手方向の間隔が50mmとなるように一対の印をつけ、この50mmの印間が100mmになるまで試験片を伸長(100%伸長)させた。そして、試験機から各試験片を取り出した後の各試験片の様子を観察し表に示した。
【0098】
表中の「うねり長さ[%]」は、100%伸長後の試験片の長さを以下の方法で測定した。すなわち、解放した試料を平坦なアクリル板に載置し、上から透明なアクリル板で挟むことで、うねりを矯正し、このときの長さを定規で測定した。そして、初期から長くなった長さを初期長さで割った値を百分率で示した。例えば、測定された長さが55.0mmであった場合は、長くなった長さは5.0mmであることから、5.0mm/50mmで10%のうねり長さとなる。
【0099】
また、「無荷重の歪み[%]」は、100%伸長後の試験片の長さを以下の方法で測定した。すなわち、解放した試料を平坦なアクリル板に載置して、このときの長さを定規で測定した。そして、初期から変化した長さを初期長さで割った値を百分率で示した。すなわち、うねりを矯正せずに測定した以外は、うねり長さの測定時と同じ方法としている。例えば、測定された長さが52.0mmであった場合は、2.0mm/50mmで4%の無荷重の歪みとなる。そして、「うねり長さ/無荷重の歪み」は、前記うねり長さを前記無荷重の歪みで割った値である。この指標は、うねりがない場合は“1”となるが、うねりが大きいほど大きな値となる。
【0100】
表中の「下地の5mm外側の外観」は、各試料の試験片(1)および試験片(3)の布帛外縁の様子を観察し、歪みやうねりの有無を観察して示したものであり、その評価を4段階で示した。うねりがなかったものを“5”、ややうねりがあったものを“4”、うねりが大きかったものを“2”、そしてうねりがかなりおおきかったものを“1”とそれぞれ評価した。
【0101】
試験片に生じたうねりについては、その高さ[mm]、数[個]、高さ×数、そして角度[度]について表中に示した。うねりの高さは、試験片を水平な台の上に載せ、印間が初期長さと同じ距離になるように固定したときの印間に生じているうねりの高さを測定したものであり、その印間に生じたうねりの個数を数えたものである。なお、うねりの数については、うねりの高さ×数という指標が有意なものとなるように、うねりがなかった試験片もうねりが1つだけあった試験片と同様であると考え、うねり無しの試験片についてはうねりの数を「1」として表中に記載した。うねりの角度は水平面に対してどの程度の角度で立ち上がっているかを表示した。高さ×数という指標は、うねりの高さと数の双方を組み合わせることで優劣の判断が逆転し難くなるように工夫した。
【0102】
表中の「荷重パラメータ」は、引張荷重の伸長率依存性の指標であり、50%伸長したときの引張荷重F50と、100%伸長したときの引張荷重F100について、その比である「F100/F50」の計算値である。この荷重パラメータが10を超えて大きい場合には、布帛の伸長の限界により伸長性が阻害されている可能性がある。一方、荷重パラメータが1.2未満の場合は、塑性変形領域になっているか、あるいは亀裂等が原因で高伸長したときの荷重が低下していることが推測される。
【0103】
<考察>: 試料1~7は、100%伸長歪率が10%以下であった。また、100%伸長後においても、うねり長さが7%以下であり、うねり高さが7mm以下であり、うねり数が1または0であった。そのため、伸縮配線部材の伸長後においても皺やうねりの発生を抑えることができた。これらの試験片は何れも布帛と下地層と保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’3が1~6MPaであった。また、布帛と下地層と導電層と保護層とで構成される積層体部分の弾性率E’4が3~8MPaであり、E’4>E’3の関係であった。さらに布帛と下地層と保護層とで構成される積層体部分の周波数0.1Hzで測定される貯蔵弾性率E’3と、周波数28Hzで測定される貯蔵弾性率E’4の差(E’4-E’3)で示される周波数依存性が0.6MPa以下であることがわかった。
【0104】
一方、試料8~10については、試料8の100%伸長歪率が7%であったものの、この試料8を含め他の試料についても、100%伸長後のうねり長さが7%を超え、うねり高さが7mmを超え、うねり数が2以上となり、また周波数依存性が0.6MPaを超え、伸縮配線部材の伸長後の皺やうねりの発生を抑えることができなかった。
【符号の説明】
【0105】
1 平編み
1a 第1層
1b 第2層
2 ゴム編み
2a 第1層
2b 第2層
2c 第3層
図1
図2
図3
図4
図5
図6