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特許7444362皮膚疾患の予防、改善または治療用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】皮膚疾患の予防、改善または治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20240228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240228BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/06
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/08
C12N1/20 E ZNA
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020571188
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003957
(87)【国際公開番号】W WO2020162405
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019017882
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)」「腸内細菌株カクテルを用いた新規医薬品の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02845
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02846
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02847
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02848
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02849
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02850
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02851
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02852
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02853
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 可寛
(72)【発明者】
【氏名】本田 賢也
(72)【発明者】
【氏名】天谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】川上 英良
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/017389(WO,A1)
【文献】特表2018-515488(JP,A)
【文献】特開2006-342147(JP,A)
【文献】国際公開第2018/156916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)を有効成分とし、アンピシリン感受性である細菌がS. cohniiの生菌である、皮膚炎または乾癬の治療、改善または予防用医薬組成物。
(a)アンピシリン感受性である細菌の菌
【請求項2】
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記S. cohniiの16S rDNA遺伝子配列が、
配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列であるか、
または配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有する配列からなる、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記S. cohniiが、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、およびNITE BP-02853の一以上の種から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アンピシリン感受性である細菌が、ヒトに由来する細菌である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記皮膚炎が、アトピー性皮膚炎である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記皮膚炎が、IFN-α産生促進剤により惹起される皮膚炎である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記皮膚炎が、イミダゾキノリン誘導体を含む製剤により惹起される皮膚炎である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記皮膚炎が、イミキモドにより惹起される皮膚炎である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
S. cohniiを培養して得られる生菌を有効成分として取得する工程、および前記生菌を有効量含む医薬組成物を調製する工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
有効成分として、アンピシリン感受性である細菌の生菌を含み、前記アンピシリン感受性である細菌がS. cohniiである、皮膚炎または乾癬治療剤。
【請求項12】
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、請求項11に記載の皮膚炎または乾癬治療剤。
【請求項13】
皮膚炎または乾癬の治療用医薬を製造するためのアンピシリン感受性である細菌の生菌の使用であって、前記細菌がS. cohniiである、使用。
【請求項14】
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
グルココルチコイド応答遺伝子の発現を亢進させる、受託番号がNITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、またはNITE BP-02853で特定される、S. cohniiに属する細菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患の予防、改善または治療用医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物などでは、皮膚や粘膜など外界と接する部分には一定の微生物群が存在することが知られており、このような細菌群は常在細菌叢(norma1 bacterial flora)と称される。常在細菌叢に含まれる細菌の種類や割合は、生物種、個体、身体箇所によって様々である。また、このような常在細菌叢が、宿主の恒常性や免疫応答に対して非常に大きな役割を果たしており、消化管や皮膚などにおける常在細菌叢の変化が様々な炎症や疾患と関連するということが近年明らかになりつつある。
【0003】
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は強いかゆみと発疹が繰り返しあらわれる皮膚疾患であるが、その発症機構については明確には判っておらず、また複数の要因が関連しているとされている。アトピー性皮膚炎等の皮膚に異常が生じる皮膚疾患は、痒みなどの身体的苦痛はもとより、身体的外観の悪化の原因となり、患者のQOLを低下させるため、皮膚疾患を改善できる方策が広く求められている。
【0004】
ここで、アトピー性皮膚炎の患者においては、皮膚における「常在細菌叢の擾乱」(dysbiosis)が見られることが報告されている。アトピー性皮膚炎の患者の皮膚における常在細菌叢においては、健康な人間の皮膚における常在細菌叢よりも黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス:Staphylococcus aureus)の割合が高いことが知られており、当該細菌の増殖が病勢と関連することが報告されている。例えば、アトピー性皮膚炎病態マウスにおいて、病勢が落ち着いた状態の皮膚においては、別のStaphylococcus属の細菌(以下、属名としてS.と略記される場合がある)が常在細菌叢において優位となり、また、これらの細菌の一部はS. aureusに対する抗菌ペプチドを産生していることが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
さらに非特許文献2においては、出生後早期におけるブドウ球菌の皮膚への定着が、アトピー性皮膚炎発症リスクの低下と相関することが報告されており、生後12ヶ月の皮膚炎非発症児の皮膚の細菌叢においてはStaphylococcus cohniiやStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)が優位であること、表皮ブドウ球菌は病原菌に対する宿主の免疫応答を惹起することが知られている。しかし、皮膚常在細菌叢と宿主やその皮膚疾患等との関係や皮膚常在細菌叢が皮膚疾患に与える影響や機序など、いまだ不明な点が多い。
【0006】
表皮における顆粒層の最外層(SG1)に発現する膜貫通型タンパク質であるTmem79は、トランスゴルジ装置と共局在するタンパク質であり、細胞外へのタンパク質や脂質の輸送と関連して働くタンパク質である。Tmem79が変異を起こしたマウスは皮膚において異常な角質層が形成され、皮膚炎を自然発症することが報告されている(非特許文献3)。また、アイルランド人の遺伝子多型解析において、Tmem79の遺伝子多型とアトピー性皮膚炎との関連が知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Antimicrobials from human skin commensal bacteria protect against Staphylococcus aureus and are deficient in atopic dermatitis (Sci. Transl. Med. 2017 Feb 22; 9(378)).
【文献】Skin microbiome before development of atopic dermatitis: Early colonization with commensal staphylococci at 2 months is associated with a lower risk of atopic dermatitis at 1 year(J. Allergy Clin. Immunol. 2017 Jan; 139(1): 166-172)
【文献】日本臨床免疫学会会誌 37(4), p.370b, 2014
【文献】Tmem79/Matt is the matted mouse gene and is a predisposing gene for atopic dermatitis in human subjects (J. Allergy Clin. Immunol. 2013 Nov; 132(5):1121-9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Tmem79ノックアウトモデルマウス(以下、「Tmem79-/-マウス」または「Tmem79KOマウス」と称す)の皮膚を解析することで皮膚の菌叢による皮膚炎への影響を検討し、皮膚炎に対して抑制的な菌を同定し、そのような菌に由来する医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らはTmem79KOマウスの、皮膚炎が惹起される過程において、宿主の免疫応答や炎症が抑制される場面に優位となる菌を絞り込み、皮膚常在菌の一種であるStaphylococcus属(ブドウ球菌属)の細菌が皮膚炎に対して予防、改善または治療的効果を有することを明らかにした。さらにこれらの菌は宿主に作用し、宿主におけるグルココルチコイド遺伝子発現を亢進することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の[1]~[80]を提供する。
[1]
下記(a)~(d)から選択される一以上を有効成分とする、医薬組成物。
(a)アンピシリン感受性である細菌の菌体または該細菌の構成成分
(b)アンピシリン感受性である細菌の培養上清または該培養上清からの精製物
(c)アンピシリン感受性である細菌の抽出物
(d)アンピシリン感受性である細菌の代謝物
[2]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[1]に記載の医薬組成物。
[3]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]
前記アンピシリン感受性である細菌の16S rDNA遺伝子配列が、
配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、
または配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有する配列からなる、[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]
前記アンピシリン感受性である細菌が、受託号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、NITE BP-02853、NITE BP-02845、およびNITE BP-02847の一以上から選択される、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. cohniiである、[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]
前記S. cohniiの16S rDNA遺伝子配列が、
配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列であるか、
または配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列に対して少なくとも90%以上の配列同一性を有する配列からなる、[7]に記載の医薬組成物。
[9]
前記S. cohniiが、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、およびNITE BP-02853の一以上の種から選択される、[7]または[8]に記載の医薬組成物。
[10]
前記アンピシリン感受性である細菌が、ヒトに由来する細菌である、[1]~[9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]
前記アンピシリン感受性である細菌が、生菌、死菌またはそれらの混合物である、[1]~[10]のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]
皮膚疾患治療、改善または予防用である、[1]~[11]のいずれかに記載の医薬組成物。
[13]
前記皮膚疾患が、皮膚炎である、[12]に記載の医薬組成物。
[14]
前記皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎である、[12]に記載の医薬組成物。
[15]
前記皮膚疾患が、IFN-α産生促進剤により惹起される皮膚炎である、[12]に記載の医薬組成物。
[16]
前記皮膚疾患が、イミダゾキノリン誘導体を含む製剤により惹起される皮膚炎である、[12]に記載の医薬組成物。
[17]
前記皮膚疾患が、イミキモドにより惹起される皮膚炎である、[12]に記載の医薬組成物。
[18]
前記皮膚疾患が、乾癬である、[12]に記載の医薬組成物。
[19] 前記皮膚疾患が、皮膚自己免疫疾患である、[12]に記載の医薬組成物。
[20]
[1]~[19]のいずれかに記載の医薬組成物の製造方法。
[21]
アンピシリン感受性である細菌が含まれる、皮膚疾患の治療用、皮膚疾患の改善用、皮膚疾患の予防用、前記細菌の増殖用、および皮膚の状態の改善用から選択される少なくとも一以上の用途に用いられる、活性化剤。
[22]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[21]に記載の活性化剤。
[23]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[21]または[22]に記載の活性化剤。
[24]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[21]~[23]のいずれかに記載の活性化剤。
[25]
有効成分としてステロイド生合成関連タンパク質をさらに含む、[21]~[24]のいずれかに記載の活性化剤。
[26]
前記ステロイド生合成関連タンパク質がスクアレン合成酵素である、[25]に記載の活性化剤。
[27]
有効成分として抗S. aureus抗体を含む、アンピシリン感受性である細菌の活性化剤。
[28]
有効成分として、抗S. aureus抗体、アンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を含む、S. aureusの抑制剤。
[29]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[28]に記載のS. aureusの抑制剤。
[30]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[28]または[29]に記載のS. aureusの抑制剤。
[31]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[28]~[30]のいずれかに記載のS. aureusの抑制剤。
[32]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S.cohniiである、[28]~[31]のいずれかに記載のS. aureusの抑制剤。
[33]
有効成分として抗S. aureus抗体を含む、[28]~[32]のいずれかに記載のS. aureusの抑制剤。
[34]
有効成分として、アンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を含む、皮膚疾患治療剤。
[35]
前記アンピシリン感受性である細菌がフシジン酸耐性菌である、[34]に記載の皮膚疾患治療剤。
[36]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[34]または[35]に記載の皮膚疾患治療剤。
[37]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[34]~[36]のいずれかに記載の皮膚疾患治療剤。
[38]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S.cohniiである、[34]~[37]のいずれかに記載の皮膚疾患治療剤。
[39]
抗S. aureus抗体、ならびにアンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を塗布する、S. aureusの増殖抑制方法。
[40]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[39]に記載のS. aureusの増殖抑制方法。
[41]
前記アンピシリン感受性である細菌が、アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[39]または[40]に記載のS. aureusの増殖抑制方法。
[42]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[39]~[41]のいずれかに記載のS. aureusの増殖抑制方法。
[43]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S.cohniiである、[39]~[42]のいずれかに記載のS. aureusの増殖抑制方法。
[44]
S.cohniiの細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を塗布する、S. aureusの増殖抑制方法。
[45]
アンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を用いる、グルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[46]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[45]に記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[47]
前記アンピシリン感受性である細菌が、アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[45]または[46]に記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[48]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[45]~[47]のいずれかに記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[49]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. cohniiおよびS.lentusの一以上である、[45]~[48]のいずれかに記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[50]
前記グルココルチコイド応答遺伝子がFkbp5、Zbtb16、およびTsc22d3から選択される一以上である[45]~[49]のいずれかに記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[51]
前記グルココルチコイド応答遺伝子がステロイド生合成関連タンパク質をコードする遺伝子である、[45]~[50]のいずれかに記載に記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[52]
前記ステロイド生合成関連タンパク質がスクアレン合成酵素である、[51]に記載のグルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法。
[53]
皮膚疾患を有する生物の、皮膚に存在する菌叢の分析方法。
[54]
前記皮膚疾患を有する生物が、Tmem79-/-マウスである、[53]に記載の菌叢の分析方法。
[55]
前記皮膚疾患を有する生物が、SPF(specific pathogen free)動物である、[53]または[54]に記載の菌叢の分析方法。
[56]
皮膚疾患を有する生物のための治療方法の選択を補助するための方法であって、
(1)前記生物の疾患部位から採取した皮膚検体中のS.aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率を算出する工程、
(2)前記比率が基準値より高い場合において下記(a)~(d)から選択される一以上を有効成分とする医薬組成物を選択する工程、
を含む治療方法の選択を補助するための方法。
(a)アンピシリン感受性である細菌の菌体または該細菌の構成成分
(b)アンピシリン感受性である細菌の培養上清または該培養上清からの精製物
(c)アンピシリン感受性である細菌の抽出物
(d)アンピシリン感受性である細菌の代謝物
[57]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[56]に記載の、治療方法の選択を補助するための方法。
[58]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[56]または[57]に記載の、治療方法の選択を補助するための方法。
[59]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[56]~[58]のいずれかに記載の、治療方法の選択を補助するための方法。
[60]
前記基準値が、(i)前記皮膚疾患を有する生物と同種の生物であって、皮膚疾患を有さない個体の皮膚検体中におけるS.aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率の平均値または(ii)前記皮膚疾患を有する生物の疾患部位以外から採取した皮膚検体中におけるS. aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率である、[56]~[59]のいずれかに記載の、治療方法の選択を補助するための方法。
[61]
皮膚疾患を有する生物における皮膚疾患の治療についての補助情報を取得する方法であって、
(1)前記皮膚疾患を有する生物であって皮膚疾患治療前の生物から採取した皮膚検体中の皮膚常在細菌叢における、S.aureusの比率を算出する工程、
(2)皮膚疾患治療後の前記生物から採取した皮膚検体中の皮膚常在細菌叢における、S.aureusの比率を算出する工程、
(3)工程(1)で測定した前記比率と、工程(2)で測定した前記比率とを比較する工程、
を含む補助情報を取得する方法。
[62]
皮膚疾患の治療における使用のための抗S. aureus抗体および/またはステロイド生合成関連タンパク質。
[63]
皮膚疾患の治療用医薬を製造するための、抗S. aureus抗体およびステロイド生合成関連タンパク質から選択される一以上の使用。
[64]
抗S. aureus抗体およびステロイド生合成関連タンパク質から選択される一以上を患者に投与することにより皮膚疾患を治療する方法。
[65]
皮膚疾患の治療における使用のためのアンピシリン感受性である細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物。
[66]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[65]に記載の細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物。
[67]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[65]または[66]に記載の細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物。
[68]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[65]~[67]のいずれかに記載の細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物。
[69]
皮膚疾患の治療における使用のためのS. cohniiの菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物。
[70]
皮膚疾患の治療用医薬を製造するためのアンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上の使用。
[71]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[70]に記載の使用。
[72]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[70]または[71]に記載の使用。
[73]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[70]~[72]のいずれかに記載の使用。
[74]
前記細菌がS. cohniiである、[70]~[73]のいずれかに記載の使用。
[75]
アンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を患者に投与することにより皮膚疾患を治療する方法。
[76]
前記アンピシリン感受性である細菌が、フシジン酸耐性菌である、[75]に記載の皮膚疾患を治療する方法。
[77]
前記アンピシリン感受性である細菌が、アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)である、[75]または[76]に記載の皮膚疾患を治療する方法。
[78]
前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される、[75]~[77]のいずれかに記載の皮膚疾患を治療する方法。
[79]
前記細菌が、S. cohniiである、[75]~[78]のいずれかに記載の皮膚疾患を治療する方法。
[80]
受託番号がNITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、またはNITE BP-02853で特定される、S. cohniiに属する細菌株。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の皮膚常在菌に由来する医薬組成物により皮膚疾患を制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下、図中のSPF WTは本明細書中のSPF-WTと同義である。同様に、SPF Tmem79-/-はSPF-Tmem79-/-と、GF Tmem79-/-はGF-Tmem79-/-と、GF WTはGF-WTと同義である。
図1図1は野生型(WT)SPFマウス(SPF-WTマウス)およびSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚における臨床スコアを経時的にグラフに示したものである。
図2図2はSPF-WTマウスおよびSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚を用いて行った細菌叢のメタ16S解析における解析結果である。
図3A図3AはSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚を用いて行った細菌叢のメタ16S解析の結果である。
図3B図3BはSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚を用いて行った細菌叢のメタ16S解析の結果および臨床スコアを用いたスピアマンの相関解析の結果および皮膚炎増悪(臨床スコア高)と逆相関のある菌の一覧である。
図4図4はSPF-WTマウスおよびSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚から抽出したRNAを用いて行ったPathway解析の結果である。
図5図5はSPF-WTマウスおよびSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚(Skin)および頚部リンパ節(Cervical LN)T細胞を用いたFACS解析の結果である。
図6図6AはSPF-Tmem79-/-マウス、SPF-WTマウス、GF(無菌:germ-free)環境下におけるTmem79-/-マウス(GF-Tmem79-/-マウス)、およびGF-WTマウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化を示したグラフである。図6Bおよび図6Cは、各マウスにおけるIL-17A産生T細胞中のγδT細胞およびCD4T細胞の割合をそれぞれ示したグラフである。
図7図7AはRAG2ノックアウト(Rag2-/-)かつTmem79-/-マウス(獲得免疫不全Tmem79-/-マウス)およびRag2+/-かつTmem79-/-マウスにおける皮膚を用いた臨床スコアの経時的変化を示したグラフである。図7Bは各マウスの皮膚をHisto染色による病理組織検査の顕微鏡像を示したものである。
図8図8Aは実験フローを示した模式図である。図8BはS. aureus、 S. epidermidisまたはStaphylococcus lentus(S. lentus)により作製したノトバイオートTmem79-/-マウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化を示したグラフである。
図9図9Aは実験フローを示した模式図である。図9Bは抗生物質(ABx)であるアンピシリン(Amp)またはフシジン酸(FA)を接種したSPF-Tmem79-/-マウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化を示したグラフである。図9Cは各抗生物質を含む培地中で皮膚から採取した細菌を培養したときの各培地の写真であり、図9DおよびEは各細菌のコロニー数をそれぞれ示したグラフである。
図10図10Aは実験フローを示した模式図である。図10BおよびCはS. aureus、Corynebacterium mastitidis(C.mastitidis)、またはS. cohniiを接種したGF-Tmem79-/-マウスまたはGF-WTマウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化をそれぞれ示すグラフである。
図11図11Aは実験フローを示した模式図である。図11B~Dは、あらかじめGF-Tmem79-/-マウスの皮膚にS. cohniiまたはS. epidermidisを接種し、該接種後14日目にS. aureusを接種したときの、各マウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化、並びに、S. aureus接種後21日目における頸部リンパ節(CLN)の重さ、およびS. aureusの菌量をそれぞれ示したグラフである。図11Eは、各マウスの皮膚をHisto染色した病理組織の顕微鏡像である。左図はS. aureus接種21日後におけるマウス皮膚の顕微鏡像、中図はS. aureusに先だってS. cohniiを接種したマウス皮膚の顕微鏡像、左図はS. aureusに先だってS. epidermidisを接種したマウスの顕微鏡像である。。
図12図12Aは実験フローを示した模式図である。図12BはGF-Tmem79-/-マウスにS. aureusを接種後5、6、7、12、13および14日目にS. cohnii またはS. epidermidisを接種したマウスの皮膚における臨床スコアの経時的変化を示したグラフであり、図12CおよびDはS. aureus接種後21日目の頸部リンパ節の重さおよびS. aureusの菌量をそれぞれ示したグラフである。
図13図13はS. cohnii、C.mastitidisまたはS. aureusを接種した各ノトバイオートTmem79-/-マウスの皮膚から抽出したtotal RNAを用いたRNA-sequencing解析の結果である。
図14図14はS. cohnii、C.mastitidisまたはS. aureusを接種した各ノトバイオートTmem79-/-マウスの皮膚から抽出したtotal RNAを用いて行ったエンリッチメント解析の結果である。
図15図15はS. cohniiを接種したノトバイオートTmem79-/-マウスの皮膚から抽出したtotal RNAを用いた遺伝子発現カスケード解析(Upstream analysis)の結果である。
図16図16は実験例10(図13)の結果であるRNA-sequencing解析結果を用いたpathway解析の結果である。
図17図17A~CはS. aureus、S. cohnii、S. epidermidis、およびS. lentusを接種した各ノトバイオートTmem79-/-マウスの皮膚から抽出したtotal RNAを逆転写し、得られたcDNAを用いてqPCRを行うことで、グルココルチコイド応答遺伝子Fkbp5、Zbtb16、およびTsc22d3の発現量をそれぞれ測定した結果である。
図18図18はS.cohniiまたはS.aureusを用いて行った各GAL4レポーターアッセイの結果である。
図19図19Aは実験フローを示した模式図である。図19B~Dはイミキモドクリーム(IMQ)を塗布したGF-WT(GF B6N)マウスに対して、既存のS. cohnii株である2A1(受託番号:NITE BP-02848、以下の図で同じ)、および新規に単離したS. cohnii株である7B1(受託番号:NITE BP-02850、配列番号1、以下の図で同じ)、7C1(受託番号:NITE BP-02851、配列番号3、以下の図で同じ)、および7F1(受託番号:NITE BP-02852、以下の図で同じ)を接種したときの、耳の肥厚、リンパ節(dLN)の重さ、およびFACSによる好中球の数をそれぞれ計測した結果である。
図20図20Aは実験フローを示した模式図である。図20BはノトバイオートGF Tmem79-/-マウスの皮膚に、S. cohnii由来の細菌株である、2A1および7C1を接種し、該接種後14日目にS. aureusを接種したときの臨床スコアの経時的変化、図20CおよびDはS. aureusを接種後21日目の頸部リンパ節の重さ、およびS. aureusの菌量をそれぞれ示したグラフである。
図21図21はステロイド生合成関連遺伝子の遺伝子カスケードの解析結果である。
図22図22Aは実験フローを示した模式図である。図22BおよびCはイミキモドクリーム(IMQ)を塗布したGF-WTマウスの炎症に対するスクアレンの効果を耳の腫脹およびリンパ節腫脹に基づいて検証した結果である。
図23図23Aは実験フローを示した模式図である。図23BおよびCはイミキモドクリームを塗布したSPF-WTマウスの炎症に対するヒト由来のS. cohnii 10B1株(受託番号:NITE BP-02853、配列番号7)の炎症抑制効果を、耳の腫脹およびリンパ節腫脹の程度に基づいて検証した結果である。
図24図24Aは実験フローを示した模式図である。図24BはS. cohnii、S. epidermidis、またはそれらの併用によるS. aureus依存性炎症抑制効果について臨床スコアを用いて検証した結果であり、図24Cは頸部リンパ節腫脹の程度に基づいて検証した結果である。
図25図25AはS. cohnii、S. epidermidis、またはそれらの併用によるS. aureus依存性炎症予防効果について臨床スコアを用いて検証した結果であり、図25Bはリンパ節腫脹の程度に基づいて検証した結果である。
図26図26A~CはGF-Tmem79KOマウスに、S. aureusのみ、S. aureusおよびS. cohnii、S. aureusおよびS. epidermidis、ならびにS. aureus、S. cohniiおよびS. epidermidisの接種をそれぞれ行い、それぞれの菌量変化について観察したものである。
図27図27は各S. cohniiまたはS. aureusを接種したマウスの皮膚を用いて測定した菌量およびFACS解析の結果である。
図28図28は各S. cohniiまたはS. aureusを接種した無菌B6N WTマウスの背部皮膚および頸部皮膚におけるコルチコステロンのおよびその前駆体であるプロゲステロンについてGC-MS脂肪酸解析を用いて解析した結果である。
図29図29は各S. cohniiまたはS. aureusを接種したTmem79KOマウスの頸部皮膚におけるコルチコステロンおよびその前駆体であるプロゲステロンについてGC-MS脂肪酸解析を用いて解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の「医薬組成物」は、下記(a)~(d)から選択される少なくとも一以上を有効成分とする、医薬組成物である。
(a)アンピシリン感受性である細菌の菌体または該細菌の構成成分
(b)アンピシリン感受性である細菌の培養上清または該培養上清からの精製物
(c)アンピシリン感受性である細菌の抽出物
(d)アンピシリン感受性である細菌の代謝物
前記アンピシリン感受性である細菌は、さらにフシジン酸耐性菌でもあることが好ましい。また、前記アンピシリン感受性である細菌は、Staphylococcus属の細菌であることが好ましい。ただし、Staphylococcus属の細菌としては、S. aureusではないことが好ましい。すなわち、前記アンピシリン感受性である細菌としては、アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)が特に好ましい様態として挙げられる。なお、本明細書においては、「医薬組成物」以外の発明についても記載しているが、前記「医薬組成物」以外の発明においても、アンピシリン感受性である細菌が記載されている場合には、アンピシリン感受性である細菌としては前記の細菌が好ましい。また、前記「医薬組成物」以外の発明としては、さらに医薬部外品や化粧品等も含まれるが、当該医薬部外品や化粧品の成分として、前記アンピシリン感受性である細菌、好ましくは前記アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)が含まれ得る。
<アンピシリン感受性である細菌>
前記アンピシリン感受性である細菌は、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが好ましく、S. cohniiまたはS.lentusから選択されることがより好ましく、S. cohniiが選択されることが最も好ましい。
【0014】
また、前記アンピシリン感受性である細菌の別の態様としては、Bacteroides sp. SA-11、Lactobacillus reuteri、Clostridium sp. Clone-16、Lactobacillus johnsonii、およびStaphylococcus arlettaeの一以上の種から選択される細菌が挙げられる。前記細菌や、S. cohniiは後述の実験例3で示したように、皮膚炎増悪(臨床スコア高)と負の相関を示していることから、これらの細菌もS. cohniiと同様に皮膚炎症に対して抑制的な効果を示すことが推測される。
【0015】
なお、前記細菌は二以上の種から選択されてもよいし、一種のみを選択してもよい。
また前記細菌は、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%以上の配列同一性を有する配列からなることが好ましく、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であることが特に好ましい。
【0016】
本発明の医薬組成物においては、前記細菌が、マウス由来の細菌またはヒト由来の細菌であることが好ましく、具体的には、マウス由来の細菌である、受託番号NITE BP-02848(配列番号1)、NITE BP-02850(配列番号2)、NITE BP-02851(配列番号3)、NITE BP-02852(配列番号4)、NITE BP-02845(配列番号6)、およびNITE BP-02847(配列番号7)、ならびにヒト由来の細菌である受託番号NITE BP-02853(配列番号5)から選択される一以上の株であることが好ましい。上記細菌はそれぞれ2018年12月25日(原寄託日)に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)において寄託されている。
<S.cohnii>
前記S.cohniiは、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~5のいずれか一つにて示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99以上%の配列同一性を有する配列からなることが好ましく、また16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~5のいずれか一つにて示されるものであることが特に好ましい。
【0017】
本発明の医薬組成物においては、前記S. cohniiが、マウス由来のS. cohniiである、受託番号NITE BP-02848(配列番号1)、NITE BP-02850(配列番号2)、NITE BP-02851(配列番号3)、NITE BP-02852(配列番号4)、またはヒト由来のS. cohniiである受託番号NITE BP-02853(配列番号5)の各株から選択される一以上の種であることが好ましい。また、前記S. cohniiはヒト由来の株であることが好ましく、したがって前記S. cohniiは前記NITE BP-02853であることが最も好ましい。
【0018】
前記アンピシリン感受性である細菌は生菌であっても死菌であってもよく、また生菌と死菌の混合物であってもよく、前記アンピシリン感受性細菌が死菌である場合には、死滅する前、すなわち生菌の時点で、アンピシリン感受性細菌である。また、前記アンピシリン感受性細菌が死菌である場合には、死滅する前、すなわち生菌の時点で、フシジン酸耐性菌であることが好ましい。
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は上述したように、アンピシリン感受性である細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を有効成分とする、医薬組成物である。
【0019】
前記医薬組成物は、皮膚疾患の治療、改善または予防用に用いられることが好ましい。
前記皮膚疾患は皮膚炎であることが好ましく、アトピー性皮膚炎、IFN-α産生促進剤により惹起される皮膚炎、イミダゾキノリン誘導体を含む製剤により惹起される皮膚炎、またはイミキモドにより惹起される皮膚炎であることが特に好ましい。
【0020】
また、前記皮膚疾患は乾癬であってもよく、前記皮膚疾患は皮膚自己免疫疾患であってもよい。皮膚に起こり得る自己免疫疾患としては特に限定はされないが、具体的には、例えば、エリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症、シェーングレン症候群、水疱症等を挙げることができる。なお、「治療」には、症状の寛解および回復ならびに進行や悪化の抑制などが含まれ、「改善」には症状の緩和または軽減などが含まれ、「予防」には、疾患の新規発症の予防および再発の予防が含まれる。
【0021】
本発明に係る医薬組成物は、前記有効成分のいずれか一つを含有していてもよいし、二以上を含有していてもよい。さらに前記医薬組成物はアンピシリン感受性である細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択されるものをそのまま用いてもよいし、適宜、必要に応じて他の成分、例えば剤型に応じた製薬学的に許容される担体または添加剤や、皮膚疾患の治療または予防にとって有効な前記特定の有効成分以外の成分などをさらに含有していてもよい。すなわち、本発明に係る医薬品は、それらの成分を含有する医薬組成物として調製することができる。
【0022】
前記医薬組成物の剤型は、皮膚疾患を抑制することができるようであれば特に限定されるものではない。例えば、前記医薬組成物を塗布または貼付して投与するためには外用剤として調製することが好ましく、前記医薬組成物を経口投与するためには内服薬として調製することも可能である。
【0023】
医薬組成物の処方・投与対象となる動物種には、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が包含される。ヒト以外の哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ネコ、イヌ、ブタ、サルなど、ヒトの疾患のモデル動物として一般的に用いられている哺乳動物や、愛玩用の哺乳動物(ペット)が挙げられる。したがって、医薬組成物は、ヒトに投与するために製剤化されたものであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物に投与するために製剤化されたものであってもよい。
【0024】
医薬組成物の投与に係る様態は、目的とする治療、改善または予防の効果が得られるようであれば特に限定されるものではない。すなわち、投与形態、投与回数、投与期間(頻度)および1回あたりの有効成分の投与量は、用いる有効成分の種類や対象となる皮膚疾患の容態のほか、投与対象の年齢、体重、投与経路、薬物動態などを考慮しながら、適切に調整することができる。特に本発明では、皮膚常在細菌叢における各細菌の数または分布比率などの情報を把握しながら投与に係る様態を調節してもよい。
【0025】
例えば投与対象がマウスの場合、体重当たりの投与量は1×104~1×108CFU/gであることが好ましく、5×103~1×107CFU/gであることがより好ましく、1×104~1×107CFU/gであることが特に好ましい。投与回数としては1~20回であることが好ましく、1~10回であることがより好ましい。投与期間および頻度としては一日一回以上であることが好ましく、さらに2週間以上投与を続けることが好ましい。ヒトに対する有効成分量等の投与形態は、モデル動物に対する投与実験などを通じて適切に調整することが可能である。また、皮膚常在細菌叢における各細菌の数や各細菌の分布比率などを計測することによって、本発明に関する医薬組成物を投与する皮膚疾患患者を決定すること、皮膚疾患の改善薬または治療薬の効果をモニタリングすることも可能である。
<医薬組成物の製造方法>
本発明の一様態としては、前記医薬組成物の製造方法が挙げられる。
【0026】
本発明の医薬組成物は上述したように、アンピシリン感受性である細菌等の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を有効成分とする、医薬組成物である。したがって、前記医薬組成物は、用いる細菌またはその破砕物を適宜濃度において懸濁すること、当該細菌を培養することによって培養上清を抽出すること、当該細菌から所望の有効成分を適宜方法によって抽出すること、または当該細菌またはその破砕物、並びに培養上清から代謝物を分離すること等の手法を含む手段によって有効成分を取得し、さらに、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、等張化剤、乳化剤、甘味料、香料、着色料などから選ばれる担体または添加剤と、前述したような有効成分とを混合して成形するなど、一般的な製造方法により製造することができるが、これに限定されるものではなく、菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物を取得できる方法であれば、該方法を含む手段によって製造することができる。
<活性化剤>
本発明の他の一様態としては、アンピシリン感受性細菌である細菌が含まれる活性化剤が挙げられる。当該細菌はフシジン酸耐性菌でもあることが好ましく、前記アンピシリン感受性である細菌がフシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがより好ましい。さらに前記細菌はS. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが特に好ましく、S. cohniiであることが最も好ましい。
【0027】
前記細菌は、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%以上の配列同一性を有する配列からなるものが好ましく、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示されるものであることが特に好ましい。
【0028】
また、当該細菌はマウス由来の細菌である、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、NITE BP-02845、NITE BP-02847、またはヒト由来の細菌である受託番号NITE BP-02853の各株から選択される一以上の株であることが好ましい。また、前記細菌は、前述の<S. cohnii>の項目で記載したものであることも好ましい。
【0029】
当該活性化剤は、上述したようなアンピシリン感受性である細菌が有する皮膚疾患の治療用、皮膚疾患の改善用、皮膚疾患の予防用、前記細菌の増殖用、および皮膚の状態の改善用等の用途に用いられるが特に限定されるものではない。当該活性化剤は、皮膚疾患の治療に関する効果、皮膚疾患の改善に関する効果、皮膚疾患の予防に関する効果、前記細菌が増殖する効果、および皮膚の状態の改善効果から選択される少なくとも一以上の効果を有し、それらの効果により、例えば、前記医薬組成物、医薬部外品、または化粧品の成分として使用することができる。
【0030】
当該活性化剤としては、有効成分としてさらにステロイド生合成関連タンパク質を含むものであることが好ましい。ここでステロイド生合成関連タンパク質とはステロイドの生合成に関与するタンパク質(酵素)を総称し、当該ステロイド生合成関連タンパク質としては、ステロイドの中間体であるスクアレンの合成に関与するタンパク質であることが好ましい。したがって前記ステロイド生合成関連タンパク質はスクアレン合成酵素であることが好ましい。
【0031】
また、アンピシリン感受性である細菌の効果を活性化させる効果を奏する活性化剤としては、有効成分として抗S. aureus抗体を含むものであることが好ましい。
なお、細菌の増殖が起きているかどうかは、例えば皮膚擦過サンプル中の細菌数(CFU/g)を一般的な手法を用いて測定してそれが平常時(健常者の測定値)よりも統計学的に有意に高いか否かを判定するなど、公知の手法によって決定することができる。
<S. aureusの抑制剤>
本発明の他の一様態としては、S. aureusの抑制剤が挙げられる。当該抑制剤の有効成分はS. aureusの増殖を抑制する作用を持つものであれば特に限定されるものではないが、S. aureusに対して物理的または化学的に作用して当該細菌を分解または溶解させることで該細菌を死滅させる物質を当該抑制剤として用いることは、当該細菌の菌体の分解により宿主に炎症作用を惹起させて皮膚炎をより悪化させる可能性を含んでおり、望ましくない。よって、有効成分としては、生体の免疫機構によってS. aureusを攻撃し死滅させる、抗S. aureus抗体を含むものであることが好ましく、またアンピシリン感受性細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を含むものが好ましい。さらに、前記抗S. aureus抗体ならびにアンピシリン感受性細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物のいずれか一種のみを有効成分として含むものでもよいし、抗S. aureus抗体またはアンピシリン感受性細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を共に有効成分として含むものでもよい。また、前記アンピシリン感受性である細菌はフシジン酸耐性菌であることがさらに好ましく、フシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがさらに好ましい。例えば、具体的には前記アンピシリン感受性である細菌は、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが好ましく、特にS.cohniiであることがさらに好ましい。また、前記有効成分は抗S. aureus抗体であることも好ましい。前記S. aureusの抑制剤におけるS. aureusの増殖を抑制する作用が奏する具体的な効果としては、皮膚疾患の治療、改善又は予防的効果を活性化する効果や当該細菌が増殖する効果、皮膚の状態の改善効果等が挙げられるが特に限定されるものではない。当該効果によって前記S. aureusの抑制剤は、例えば、前記医薬組成物、医薬部外品、または化粧品の成分として使用することができる。
<皮膚疾患治療剤>
本発明の他の一様態としては、アンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を含む皮膚疾患治療剤が挙げられる。前記アンピシリン感受性である細菌はフシジン酸耐性であることが好ましく、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがさらに好ましい。そのような細菌としては、具体的には、例えば、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが特に好ましく、なかでも S. cohniiを選択することがさらに好ましい。
【0032】
前記細菌は、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~7のいずれか一つに示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%以上の配列同一性を有する配列からなるものが好ましく、また16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示されるものであることが特に好ましい。
【0033】
また、当該細菌はマウス由来の細菌である、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、NITE BP-02845、NITE BP-02847、またはヒト由来の細菌である受託番号NITE BP-02853の各株から選択される一以上の株であることが好ましい。また、前記細菌は、前述の<S. cohnii>の項目で記載したものであることも好ましい。
<S. aureusの増殖抑制方法>
本発明の他の一様態としては、抗S. aureus抗体、ならびにアンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を含む物質を用いることによる、S. aureusの増殖抑制方法が挙げられる。前記アンピシリン感受性である細菌はフシジン酸耐性菌でもあることが好ましく、アンピシリン感受性かつフシジン酸耐性菌であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがより好ましい。具体的には、例えば、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが特に好ましく、S. cohniiであることが最も好ましい。より好ましい様態としては、例えば、S.cohniiの細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を患部に塗布する、S. aureusの増殖抑制方法が挙げられる。
【0034】
前記細菌は、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~7のいずれか一つに示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%以上の配列同一性を有する配列からなるものが好ましく、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示されるものであることが特に好ましい。
【0035】
また、当該細菌はマウス由来の細菌である、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、NITE BP-02845、NITE BP-02847、またはヒト由来の細菌である受託番号NITE BP-02853の各株から選択される一以上の株であることが好ましい。また、前記細菌は、前述の<S. cohnii>の項目で記載したものであることも好ましい。
【0036】
具体的な様態としては、例えば、皮膚疾患を有する生体の皮膚の病変部に対して、前記物質を塗布または適当な担体とともに貼付することが挙げられる。
<グルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法>
本発明の他の一様態としては、アンピシリン感受性の細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を用いる、グルココルチコイド応答遺伝子の転写亢進方法が挙げられる。前記アンピシリン感受性菌はフシジン酸耐性菌であることが好ましく、Staphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがより好ましい。具体的には、例えば、、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが好ましく、S. cohniiおよびS. lentusの一以上であることがより好ましい。また、前記グルココルチコイド応答遺伝子はFkbp5、Zbtb16、およびTsc22d3の一以上であることが好ましい。また、前記グルココルチコイド応答遺伝子はステロイド生合成関連タンパク質をコードする遺伝子であることも好ましく、またこの場合当該ステロイド生合成関連タンパク質はスクアレン合成酵素であることが好ましい。
【0037】
当技術分野において公知のいくつかの方法を用いて、グルココルチコイド応答遺伝子の転写産物を増やすことができる。典型的には上記細菌の構成成分等を対象となる動物等に塗布することで当該遺伝子の転写を亢進させてもよいし、前記細菌から抽出した核酸を用いて調製した組換え発現ベクターを対象となる動物等に投与することで当該遺伝子の転写を亢進させてもよい。
<菌叢の分析方法>
本発明のさらに他の一様態としては、皮膚疾患を有する生物の、皮膚に存在する菌叢の分析方法が挙げられる。当該方法としては通常皮膚の菌叢を分析する方法として用いられる方法であるなら特に限定はされず、例えば綿棒等で対象となる生物の皮膚を擦過したものを適当な培地で培養する等の手法によって行われる。また対象となる生物種としては特に限定されず、ヒトまたはヒト以外の動物から選択することができる。
【0038】
前記皮膚疾患を有する生物として、ヒト以外の動物を選択する場合には、例えば、皮膚疾患モデル動物を選択することができる。前記皮膚疾患モデル動物としては具体的にはTmem79-/-マウス(Tmem79KOマウス)を挙げることができる。また、前記皮膚疾患モデル動物としては、SPF(specific pathogen free)動物が好適であり、典型的にはSPF Tmem79-/-マウス(SPF-Tmem79KOマウス)が最も好適に選択されうる。また、ヒトを選択する場合に関しては、例えば、皮膚疾患を罹患した患者を選択することができる。
【0039】
また、前記皮膚疾患として具体的には、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、IFN-α産生促進剤により惹起される皮膚炎、イミダゾキノリン誘導体を含む製剤により惹起される皮膚炎、イミキモドにより惹起される皮膚炎、乾癬、または皮膚自己免疫疾患を挙げることができる。
<治療方法の選択を補助するための方法>
本発明の菌叢の分析方法を用いる一様態として、皮膚疾患を有する生物のための治療方法の選択を補助するための方法であって、(1)前記生物の疾患部位から採取した皮膚検体中のS.aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率を算出する工程、(2)前記比率が基準値より高い場合において、下記(a)~(d)から選択される一以上を有効成分とする、医薬組成物を選択する工程を含む方法が挙げられる。
(a)アンピシリン感受性である細菌の菌体または該細菌の構成成分
(b)アンピシリン感受性である細菌の培養上清または該培養上清からの精製物
(c)アンピシリン感受性である細菌の抽出物
(d)アンピシリン感受性である細菌の代謝物
前記基準値としては、(i)前記皮膚疾患を有する生物と同種の生物であって、皮膚疾患を有さない個体(前記皮膚疾患を有する生物がヒトの場合は健常人)の皮膚検体中のS.aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率の平均値または(ii)皮膚疾患を有する生物の疾患部以外から採取した皮膚検体中におけるS. aureusの皮膚常在細菌叢に占める比率などを用いることができる。
【0040】
前記アンピシリン感受性菌はフシジン酸耐性菌であることが好ましく、フシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがより好ましい。具体的には、例えば、S. epidermidis、 S. capitis、 S.lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが特に好ましく、S. cohniiであることが最も好ましい。
【0041】
この方法によれば、例えば、医師以外の人間が皮膚疾患を有する生物の疾患部位から採取した皮膚検体中の比率を算出し、当該比率を任意の基準値と比較した結果やいずれの医薬組成物を選択することが好ましいかについての情報を補助情報として医師に提供することができ、医師は当該補助情報を用いて、実際に行うべき治療方法、例えばどの医薬組成物をどのような量や剤型で投与することなどを判断することができる。
<補助情報を取得する方法>
本発明の菌叢の分析方法を用いる一様態として、皮膚疾患を有する生物における皮膚疾患の治療についての補助情報を取得する方法が挙げられる。前記方法は、(1)皮膚疾患を有する生物であって皮膚疾患治療前の生物から採取した皮膚検体中の皮膚常在細菌叢における、S.aureusの比率を算出する工程、(2)皮膚疾患治療後の前記生物から採取した皮膚検体中の皮膚常在細菌叢における、S.aureusの比率を算出する工程、(3)工程(1)で測定した前記比率と、工程(2)で測定した前記比率と比較する工程を含む。この方法によれば、例えば、医師以外の人間が治療前後の皮膚常在細菌叢におけるS.aureusの比率を算出・比較した結果を治療の補助情報として医師に提供することができ、医師は当該補助情報を用いて、行った皮膚疾患治療の経過、例えば病状の改善・増悪などを判断することができる。
<抗S. aureus抗体およびステロイド生合成関連タンパク質>
本発明のさらに他の一様態としては、皮膚疾患の治療における使用のための抗S. aureus抗体および/またはステロイド生合成関連タンパク質、皮膚疾患の治療用医薬を製造するための抗S. aureus抗体およびステロイド生合成関連タンパク質から選択される1以上の使用、さらに抗S. aureus抗体およびステロイド生合成関連タンパク質から選択される一以上を患者に投与することにより皮膚疾患を治療する方法が含まれる。また、皮膚疾患の治療における使用のためのアンピシリン感受性である細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物も本発明のさらなる一様態として挙げられる。この場合前記アンピシリン感受性である細菌がフシジン酸耐性菌であることが好ましく、前記アンピシリン感受性である細菌がフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることがさらに好ましく、具体的には例えば、前記アンピシリン感受性である細菌が、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択されることが特に好ましい。
【0042】
前記抗S. aureus抗体はS. aureusに特異的に結合するものであれば特に限定はされず、例えば、いずれのアイソタイプの抗体を用いてもよいが、特にIgG抗体(免疫グロブリンG)が好適に用いられる。また、前記抗S. aureus抗体は、S. aureusに特異的に結合可能であれば、天然の抗体のように全長を有するものである必要はなく、抗体断片または誘導体、キメラ抗体(ヒト化抗体等)であってもよい。また、バイスペシフィック抗体や、リンカーを介して抗体にペイロードを結合させた抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate; ADC)等の多機能抗体であってもよい。なお、抗体を産生する動物(免疫動物)の種類は特に限定されず、従来と同様、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどから選択すればよい。
【0043】
前記ステロイド生合成関連タンパク質はステロイドの生合成に関与するタンパク質を総称するものであり、本発明においてはスクアレンが好適に用いられる。
<治療における使用、治療用医薬の製造のための使用、および治療する方法>
本発明のさらに他の一様態としては、皮膚疾患の治療における使用のためのアンピシリン感受性である細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物が挙げられ、前記アンピシリン感受性である細菌はフジシン酸耐性菌であることが好ましく、さらにフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることが好ましい。具体的には、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物であることが好ましく、S. cohniiの細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物であることが特に好ましい。
【0044】
本発明のさらに他の一様態としては、皮膚疾患の治療用医薬を製造するためのアンピシリン感受性である細菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上の使用が挙げられ、前記アンピシリン感受性である細菌はフジシン酸耐性菌であることが好ましく、さらにフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることが好ましい。具体的には、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物であることが好ましく、特にS. cohniiの細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上の使用が特に好ましい。
【0045】
本発明のさらに他の一様態としては、アンピシリン感受性菌の菌体、ならびに該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、および代謝物から選択される一以上を患者に投与することにより皮膚疾患を治療する方法が挙げられ、前記アンピシリン感受性である細菌はフジシン酸耐性菌であることが好ましく、さらにフシジン酸耐性であるStaphylococcus属の細菌(S. aureusを除く)であることが好ましい。具体的には、S. epidermidis、 S. capitis、 S. lentus、 S. caprae、 S. saccharolyticus、 S. warneri、 S. pasteuri、 S. haemolyticus、 S. homonis、 S. lugdunesis、 S. auricularis、 S. saprophyticus、 S. cohnii、 S. xylosus、 およびS. siinulansの一以上の種から選択される細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物であることが好ましく、特にS. cohniiの細菌の菌体、該細菌の構成成分、培養上清、該培養上清からの精製物、抽出物、または代謝物から選択される一以上から選択されるものを患者に投与することにより皮膚疾患を治療する方法を用いることが好ましい。
【0046】
前記皮膚疾患の治療における使用、皮膚疾患の治療用医薬を製造するための使用、または皮膚疾患を治療する方法における前記細菌は、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示される配列であるか、または配列番号1~7のいずれか一つに示される配列に対して90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%以上の配列同一性を有する配列からなるものが好ましく、16S rDNA遺伝子配列が、配列番号1~7のいずれか一つにて示されるものであることが特に好ましい。
【0047】
また、当該細菌はマウス由来の細菌である、受託番号NITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、NITE BP-02845、NITE BP-02847、またはヒト由来の細菌である受託番号NITE BP-02853の各株から選択される一以上の株であることが好ましい。また、前記細菌は、前述の<S. cohnii>の項目で記載したものであることも好ましい。
<細菌株>
本発明のさらに他の一様態としては、受託番号がNITE BP-02848、NITE BP-02850、NITE BP-02851、NITE BP-02852、またはNITE BP-02853のいずれかで特定される、S. cohniiに属する細菌株が挙げられる。
<細菌>
前記アンピシリン感受性である細菌とは別の態様である、本発明の細菌としては、Methylobacterium sp. RD4.1、Methylobacterium sp. SKJH-1、Mesorhizobium alhagi、Sphingomonas sp. MK355、Sphingomonas sp. AC83、Pantoea sp. lan5、Weissella cibaria、Bradyrhizobium sp. STM 3843、Lactococcus lactis、Afipia genosp.1、Methylobacterium populi、Sediminibacterium sp. IV-37、Bradyrhizobium sp. Aust13C、Pelomonas saccharophila、Bradyrhizobium sp. Shinshu-th2、Methylobacterium sp. BF15、およびBradyrhizobium sp. BTAi1の一以上の種から選択される細菌が挙げられる。前記細菌や、S. cohniiは後述の実験例3で示したように、皮膚炎増悪(臨床スコア高)と負の相関を示していることから、これらの細菌もS. cohniiと同様に皮膚炎症に対して抑制的な効果を示すことが推測される。このため、前記<アンピシリン感受性である細菌>で挙げた細菌と同様の各種用途に使用することができる。
【実施例
【0048】
次に本発明について実験例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、本実施例で使用したクローン名、由来、菌種、受託番号、配列番号を下記表1に示す。各細菌はそれぞれ2018年12月25日(原寄託日)に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)において寄託されている。
【0049】
【表1】
【0050】
[作製例1]
<Tmem79KOマウスの作製>
UC DAVISリポジトリのKOMP (knock out mouse project) (https://www.komp.org/)から、Project ID:CSD74985、Allele:Tmem79tm1Wtsi DeletionのマウスES細胞を取得した。FIMRe機関の凍結マウスリソースの個体化サービス(RIKEN BRC)(http://mus.brc.riken.jp/ja/mailnews/20080605#mn/20080604#2)にて、該変異細胞をキメラマウスに個体化した。得られた変異個体と、C57/BL6Nマウスの交配を繰り返し、ホモ接合体のTmem79KOマウスを得た。Tmem79KOマウスの同定は、PCRによる変異Tmem79遺伝子の確認、および目視による皮膚状態の差異比較に基づいて行った。
【0051】
[実験例1]
(Tmem79KOマウスにおける皮膚炎臨床スコア)
作製例1で作製したTmem79KOマウスを作成し、SPF(Specific pathogen free)環境下で飼育した(SPF-Tmem79KOマウス)。
【0052】
SPF-Tmem79KOマウスおよびコントロール(SPF-WTマウス)について、紅斑、浮腫、びらん、乾燥の4項目に関して、それぞれ0:正常、1:軽度、2:中等度、3:重度の4段階で各臨床スコアを評価した。4項目の臨床スコアの合計値を用いて皮膚における炎症の程度を評価した。臨床スコアの変化の様子を図1に示す。図中、SPF-Tmem79KOマウスは「SPF Tmem79-/-」と、SPF-WTマウスは「SPF WT」と記載している。SPF-Tmem79KOマウスは二峰性の皮膚炎を発症することがわかる。
【0053】
[実験例2]
(SPF-Tmem79KOマウスの病変部における菌叢変化)
上述したようにSPF-Tmem79KOマウスにおいては二峰性の皮膚炎を引き起こすが、特に病期の後半においては頸部を中心に皮膚炎が広がっている様子が観察された。
【0054】
PBSに浸漬させた綿棒を用いて生後各時期のSPF-Tmem79KOマウスの皮膚の病変部を擦過することで収集した皮膚サンプルを用いて細菌叢のメタ16S解析を行なうことで菌種の特定や菌種組成の解析を行った。結果を図2に示す。
【0055】
SPF-Tmem79KOマウスの菌叢においては、皮膚炎の増悪に伴いS. aureusの発現が増加しており、また、皮膚炎が一時抑制される5-6週齢では、S. cohniiの割合が大きくなっていることが判った。一方で野生型マウス(SPF-WT)の皮膚においては、S. aureusはほとんど検出されなかった。
【0056】
[実験例3]
(臨床スコアと菌叢分布)
上記と同様の手法で取得したSPF-Tmem79KOマウスの皮膚サンプルの菌叢解析(メタ16s解析)を行い(図3A)、その結果および当該マウスの臨床スコアを用いてスピアマンの相関解析を行った。結果を図3Bに示す。
【0057】
S. aureusは皮膚炎増悪(臨床スコア高)と強い正の相関を示していることがわかる。その一方で、S. cohniiは負の相関を示しており、S. cohniiが皮膚炎症に対して抑制的な効果を示すことが示唆された。また、S. cohniiと同様に、Bacteroides sp. SA-11、Lactobacillus reuteri、Methylobacterium sp. RD4.1、Methylobacterium sp. SKJH-1、Mesorhizobium alhagi、Sphingomonas sp. MK355、Sphingomonas sp. AC83、Clostridium sp. Clone-16、Pantoea sp. lan5、Weissella cibaria、Bradyrhizobium sp. STM 3843、Lactococcus lactis、Afipia genosp.1、Lactobacillus johnsonii、Methylobacterium populi、Staphylococcus arlettae、Sediminibacterium sp. IV-37、Bradyrhizobium sp. Aust13C、Pelomonas saccharophila、Bradyrhizobium sp. Shinshu-th2、Methylobacterium sp. BF15、Bradyrhizobium sp. BTAi1も負の相関を示していることから、これらも本発明の皮膚炎症に対して抑制的な効果を示すことが推測される。
【0058】
相関係数や有意差検定はGraphPad Prism software with two-tailed unpaired Student's t-test.を用いて算出した。
[実験例4]
(SPF-Tmem79KOマウス遺伝子解析)
1~15週齢のSPF-Tmem79KOマウスとSPF-WTマウスの皮膚から実験例2と同様の手法で皮膚サンプルを取得し、RNA-seq遺伝子発現によるPathway解析を行った。結果を図4に示す。SPF-Tmem79KOマウスは上記臨床スコアの増加(皮膚炎の悪化)に伴って、様々な免疫応答に関する遺伝子発現が亢進しており、S. cohniiの割合が高く皮膚炎が一時軽減する5~6週齢の時期では、SPF-Tmem79KOマウスのサイトカイン受容体シグナルやT細胞受容体シグナルなどの免疫応答に関与する遺伝子発現が抑制されていた。
【0059】
IL-17Aは、線維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞、マクロファージなど広範囲にわたる細胞に作用して、IL-6やTNF-αといった炎症性サイトカインやケモカインの誘導、好中球の遊走などに関与することによって炎症を誘導するインターロイキンである。
【0060】
また、生後10~12週齢のSPF-Tmem79KOマウスおよびSPF-WTマウスの皮膚と頚部リンパ節T細胞を用いたFACS解析の結果(図5)から、SPF-Tmem79KOマウスの皮膚およびリンパ節の双方においてIL-17A産生T細胞が増加していることが確認された。
【0061】
以上の結果からは、SPF-Tmem79KOマウスが二峰性の皮膚炎を起こすこと、および皮膚炎に伴って細胞レベルおよび遺伝子レベルでの免疫応答が引き起こされること、および皮膚およびリンパ節の双方において免疫反応が惹起していることが確認された。
【0062】
また、臨床スコアの評価によると、GF(無菌:germ-free)環境下におけるTmem79KOマウス(GF-Tmem79KOマウス)、GF(無菌:germ-free)環境下における野生型マウス(GF-WTマウス)、およびSPF-WTマウスの皮膚炎発症は抑制されており(図6A)、これらのマウスの皮膚においては、γδT細胞母集団(=CD3+gdTCR細胞)中のIL-17A産生T細胞)の誘導(図6B)、またはCD4T細胞(=CD3+CD4+TCRβ細胞)中のIL-17A産生T細胞の誘導はみられなかった(図6C)。
(獲得免疫不全Tmem79KOマウスの解析)
Tmem79KOマウスとRag2KOマウス(The Jackson Laboratory)とを交配して獲得免疫不全Tmem79KOマウス(Rag2-/-Tmem79-/-マウス)を作製した。
【0063】
実験例1と同様の手法で臨床スコアの取得を行い(図7A)、さらに10~12週齢のマウス皮膚における病理組織検査を行った(図7B)。
臨床スコアからも病理組織検査の結果からも、獲得免疫不全Tmem79KOマウスはTmem79KOマウスで観察される後半の皮膚炎の発症が抑制されていることがわかり、Tmem79KOマウスの二峰性皮膚炎の後半の増悪には獲得免疫が重要な役割を果たすことが示唆された。
【0064】
[作製例2]
(ノトバイオート(gnotobiote)マウスの作成)
1mLのPBS(Phosphate buffered saline) またはBHI(Brain heart infusion )に浸漬した綿棒でSPFマウスの皮膚を擦過して採取した皮膚組織を、複数の培地(マンニット食塩卵黄付加寒天培地やトリプチックソイ寒天培地など)を用いて好気下で培養し、取得した単一コロニーの16S rDNA配列を解読し菌種を同定することで、S. aureus、S. epidermidis、およびS. lentusを単離した。なお、ここで単離したS. aureusは株名:BP-02846であり、S. epidermidisは株名BP-02845であり、およびS. lentusは株名BP-02847である。
【0065】
前記単離したそれぞれの菌をそれぞれBHIで一晩培養し、菌量を2.0×106CFUに調整した培養液をGF-Tmem79KOマウスの皮膚へ綿棒で塗布することで単一菌の接種を行った。
【0066】
[実験例5]
(ノトバイオートTmem79KOマウスにおける皮膚炎の誘導)
作製例2で作製したS. aureus、S. epidermidisまたはS. lentusにより作製したノトバイオートTmem79KOマウスを用いて、皮膚常在菌によって当該皮膚炎は誘導され得るか、あるいは当該皮膚炎を誘導するのは特定の菌のみなのかについて、検討を行った。
【0067】
コントロールとしては、SPF-Tmem79KOマウスとco-house(共棲)させたGF-Tmem79KOマウス(Conventionalizedマウス)を用いた。
Conventionalizedマウスと菌量が2.0×106CFUのS. aureusを塗布したノトバイオートTmem79KOマウスは皮膚炎を発症する一方、菌量が2.0×106CFUのS. epidermidisまたはS. lentusを塗布したノトバイオートSPF-Tmem79KOマウスではいずれも明らかな皮膚炎の誘導はみられなかった。結果を図8Bに示す。
【0068】
この結果からは、S. epidermidisまたはS. lentusを除く、特定の菌のみが皮膚炎を惹起しうる可能性が示唆された。
[実験例6]
(S. cohniiの炎症抑制効果-1)
続いてSPF-Tmem79KOマウスにおける他の細菌による影響を検証した。
【0069】
SPF-Tmem79KOマウスに対してアンピシリン(ナカライテスク株式会社)またはフシジン酸(Sigma社)を200mg/mLで飲水に懸濁して投与し、臨床スコアを経時的に取得した。
【0070】
フシジン酸を投与したマウスにおいては皮膚炎の程度が軽減したが、アンピシリンを投与したマウスにおいては皮膚炎の軽減は観察されなかった(図9B)。
さらに両抗生物質によるS. aureusおよびS. cohniiの抗生物質に対する感受性の検証を行った。S. aureusは、アンピシリンおよびフシジン酸のいずれによっても増殖が抑制される(図9CおよびD)。一方、S. cohniiはアンピシリンにより増殖が有意に抑制されるが、フシジン酸によっては増殖の抑制は引き起こされないことがわかった(図9CおよびE)。
【0071】
これらの結果からはS. cohniiがアンピシリンには感受性を持つが、フシジン酸には耐性を持つこと、フジシン酸により皮膚炎の悪化が抑制されることから、S. cohniiなどのアンピシリン感受性かつフジシン酸耐性菌には皮膚炎の悪化を抑制する効果を有すると推測した。
【0072】
[実験例7]
(S. cohniiの炎症抑制効果-2)
S. aureus、C.mastitidis、または S. cohniiの培養液について菌量を2.0×106CFUに調整し、GF-Tmem79KOマウスまたはGF-WTマウスに接種した。いずれの細菌もGF-WTマウスにおいては皮膚炎を起こさなかったが(図10C)、GF-Tmem79KOマウスにおいてはS. aureusまたはC. mastitidisは皮膚炎を惹起する一方で、S. cohniiは皮膚炎を起こさなかった(図10B)。
【0073】
[実験例8]
(皮膚炎に対するブドウ球菌の予防効果)
GF-Tmem79KOマウスにS. cohnii、S. epidermidisの培養液について、菌量を2.0×106CFUに調整したものをそれぞれ接種し、当該接種の14日後にS. aureusを接種した。
【0074】
臨床スコアによるとS. cohniiまたはS. epidermidisの予防接種は、S. aureusによる炎症を抑えることが確認された(図11B)。
S. aureus接種21日後における頸部リンパ節腫脹も、臨床スコアと同様に、S. cohniiまたはS. epidermidisの予防投与によって抑制された(図11C)。
【0075】
一方で同時期におけるS. aureusの菌量は各群で有意な差はみられなかった(図11D)。
また、各マウスの皮膚を用いて、HE染色を行うことで病理組織検査を行った。染色像からはS. cohniiまたはS. epidermidisの予防投与によって明らかに皮膚炎が抑制されることが明らかとなった(図11E)。
【0076】
[実験例9]
(皮膚炎に対するブドウ球菌の治療効果)
さらにブドウ球菌による、S. aureusによる皮膚炎への治療的効果を検証した。
【0077】
菌量を2.0×106CFUに調整したS. aureusの培養液を接種したGF-Tmem79KOマウスに対してS. conhii またはS. epidermidisの培養液についてそれぞれ菌量を2.0×106CFUに調整したもの、S. aureus接種の5、6、7、12、13、および14日後に接種した。各時点における臨床スコアを測定するとともに、S. aureus接種21日後における頸部リンパ節の腫脹およびS. aureusの菌量を確認した。実験例8と同様にS. cohniiの投与によって、臨床スコアは軽減し(図12B)、頸部リンパ節の腫脹も抑制されていることがわかった(図12C)。また、同様にS. aureusの菌量に明らかな差は観察されなかった(図12D)。
【0078】
[実験例10]
(S. cohniiによる遺伝子発現解析)
上記実験例におけるマウスにおけるS. cohnii等の影響を検討するため、ノトバイオートTmem79KOマウスの皮膚から抽出したtotal RNAを用いてHiSeq(登録商標;イルミナ株式会社)によりRNA-sequencing解析を施行した。
【0079】
GF-Tmem79KOマウスとS. aureus、C. masititisまたはS. cohniiを用いて作製した各ノトバイオートマウスとGF-Tmem79との各遺伝子の発現量の比をlog fold changeで示す(図13)。
【0080】
S. cohniiで作製したノトバイオートマウスにおいて、15個の発現変動遺伝子(differentially expressed genes;DEGs)が同定され、うち5つがS. cohnii特異的に発現が亢進している遺伝子であった。さらにFkbp5、Zbtb16、Fam107a、Hif3aなど、グルココルチコイド応答遺伝子として知られるものがS. cohnii特異的に発現亢進することが確認できた。
【0081】
また、前記発現変動遺伝子に関する転写因子に係るエンリッチメント解析の結果においても、S. cohniiで作製したノトバイオートマウスにおいて、グルココルチコイド受容体(GCR)が最も強く遺伝子発現していることがわかった(図14)。
【0082】
前記RNA-sequencing解析において、S. cohniiで作製したノトバイオートマウスにおける特異的発現変動遺伝子の発現原因となる上流遺伝子を解析するためIPA(登録商標)(Ingenuity Pathway Analysis ; Qiagen社)を用いて遺伝子発現カスケード解析(Upstream analysis)を行った。結果を図15に示す。
【0083】
その結果、グルココルチコイドなどのステロイドがS. cohniiの遺伝子発現パターンの上流として特異的に検出された。グルココルチコイドは強い抗炎症作用および免疫抑制作用をもつ、免疫系との関係の深いステロイドホルモンである。
【0084】
さらに、前記RNA-sequencing解析データを用いてpathway解析を施行した。S. cohniiノトバイオートマウスにおいてはテルペノイド(ステロイドの前駆体)合成やCYP450(ステロイド代謝に関与)のpathwayが亢進することが判った(図16)。
【0085】
以上、S. cohnii等で作製したノトバイオートマウスを用いた複数の遺伝子発現解析の結果から、S. cohniiはグルココルチコイド反応により免疫を促進することで皮膚炎症に対して抑制的に働く可能性が示唆される。
【0086】
[実験例11]
(グルココルチコイド遺伝子の発現亢進)
S. aureus、S. cohnii、S. epidermidis、およびS. lentusを用いたノトバイオートTmem79KOマウスの皮膚におけるグルココルチコイド応答遺伝子として知られる3つの遺伝子Fkbp5、Zbtb16、およびTsc22d3の発現量について解析を行った。
【0087】
それぞれのマウスの皮膚サンプルをNS-360D (Microtec Co., Ltd, Chiba, Japan)を用いてホモジェナイズし、2.2mg/mL Proteinase K (Takara 9034) を加えて55℃で10分培養したものからTotal RNAを抽出し、SuperScript(登録商標)III First-Strand Synthesis System (Thermo Fisher) で逆転写することでcDNAを取得した(Zbtb16、Fkbp5、およびTsc22d3 についてはPrimePCR SYBR(登録商標) Green Assay (Biorad)のプライマー(配列非公開)を、GAPDHについてはforward:5'-cctcgtcccgtagacaaaatg-3'(配列番号10)およびreverse:5'-tctccactttgccactgcaa-3'(配列番号11)をプライマーとして用いた)。
【0088】
Thunderbird SYBR qPCR Mix (TOYOBO) とLightCycler 480 II (Roche)でqPCRを行い、それぞれの遺伝子発現量を測定した。取得した測定値をGAPDHの遺伝子量で補正したグラフを図17に示す。
【0089】
その結果、S. cohnii、およびS. lentusはこれらの遺伝子の発現を亢進することが確認された(図17A~C)。
グルココルチコイド受容体のレポーターアッセイとして、GAL4 Reporter, Luciferase, HEK293 Cell Line (グルココルチコイドレセプター情報伝達経路測定用細胞株)に濁度 OD(600)で0.6に菌量を調整したS.cohniiまたはS.aureusを各ウェルに加えて24時間培養し、ONE-Step luciferase assay system (BPS Bioscience #60690-1)を用いて発光量を測定することで、GAL4レポーターアッセイを行った。細胞にS. cohniiを加えて培養することで、グルココルチコイド情報伝達経路が活性化していることがわかる。結果を図18に示す。
【0090】
一方でS. aureusでは当該活性が亢進している様子は確認できなかった。
[実験例12]
(S. cohniiの新規単離株の炎症抑制効果)
上述の実験例においてはS. cohniiは、作製例2と同様の手法で単離した株名:BP-02848を用いている。他株のS. cohniiについてもBP-02848と同様の効果があることを確認するため、マウス皮膚から新規に単離したS. cohnii株である、BP-02850、BP-02851、BP-02852を用いて以下の実験を行った。
【0091】
代表的な乾癬様皮膚炎の誘発モデルとしてイミキモド(imiquimod: IMQ)誘導性モデルが知られている(van der Fits, et al., J Immunol. 2009 May 1;182(9):5836-45)。
GF-WTマウスの耳にイミキモド(製剤名;ベセルナクリーム、持田製薬株式会社)を50mg/匹、1日1回、5連日間塗布した。最初の2日間についてはS. cohniiまたはS. epidermidisを2.0×107CFU/匹で1日1回、綿棒で同時に接種した。
【0092】
イミキモドによる耳の腫脹およびリンパ節腫脹の双方の抑制、好中球の減少の程度は各株によって異なっていた。それぞれの結果を図19B~Dに示す。
[実験例13]
(S. cohniiの新規単離株のS. aureus惹起性皮膚炎の予防効果)
S. cohniiの株、BP-02848およびBP-02851を接種したGF-Tmem79KOマウスへ、当該接種の14日後に菌量を2.0×106CFUに調整したS. aureusの培養液を接種した。臨床スコアを鑑みると、BP-02848およびBP-02851株の両者とも皮膚炎の改善効果を有していることが示されており、また、各マウスの頸部リンパ節腫脹においても両株により腫脹は抑制されていた(図20BおよびC)。なお、臨床スコアおよび頸部リンパ節の腫脹の程度はいずれも各株によって異なっていた。
【0093】
しかしながらS. aureusの接種から21日後、当該菌の菌量にはいずれのマウスにおいても明らかな差はみられなかった(図20D)。
[実験例14]
(ステロイド生合成関連遺伝子の発現)
実験例10において、S. cohniiで作製したノトバイオートマウスにおいて、グルココルチコイド受容体(GCR)が最も強く遺伝子発現していることが示された。
【0094】
ここで、グルココルチコイドはステロイドの一種であることから、発明者らはステロイドの生合成に関連している遺伝子に着目した。NCBIに登録されているS. aureus、S. cohnii、およびS. epidermidisの全ゲノムについて、ステロイド生合成関連遺伝子の有無を比較した。その結果、他の酵素遺伝子は3菌に共通して発現していたが、スクアレン合成酵素(ファルネシル二リン酸ファルネシルトランスフェラーゼ(FDFT1)遺伝子、KEGG ID:K00801)はS. cohniiのみにおいて発現している事が分かった(図21)。
【0095】
KEGG Reference Pathwayによれば、解糖系からテルペノイド骨格が生合成され、FDFT1の作用を経てスクアレンが誘導されたのち、その下流の様々なステロイド骨格の生理活性物質が合成される。言い換えれば、FDFT1はステロイド生合成カスケードのキー遺伝子の一つでありFDFT1が無ければ、糖代謝からステロイド骨格の生理活性物質を合成できないと考えられ、このことにより抗炎症効果を奏する生理活性物質が産生されない。
【0096】
以上、S. cohniiが産生するスクアレンにより、抗炎症効果を奏する生理活性物質を産生するためのカスケードが惹起され、S. cohniiによる炎症緩和作用が誘導されると考えられる。
【0097】
[実験例15]
(スクアレンによる炎症抑制効果)
実験例14の結果を裏付けるため、スクアレン投与がS. cohniiと同様に炎症を抑制するか、また、ミフェプリストン投与によりその炎症抑制効果が阻害されるか、について検討した。
【0098】
GF-WTマウスの耳にイミキモド(ベセルナクリーム 持田製薬)を50mg/匹、1日1回、5連日間塗布した。
最初の3日間についてはS. cohniiを2.0×107CFU/匹で1日1回、綿棒で接種するか、スクアレン(株式会社Sigma、S3626-10ML)を200μl/匹で、マウスの耳に5連日間(1日1回)塗布した。さらにマウスの他の一群においては、実験期間においてはミフェプリストン(Sigma-Aldrich社、M8046-1G)を210μg/mLで自由飲水投与した。
【0099】
S. cohnii接種でイミキモド惹起性の炎症(耳の腫脹およびリンパ節腫脹)は抑制され、さらに当該抑制はミフェプリストンによって阻害されることが確認できた。また、同様にS. cohnii接種の代わりにスクアレン塗布を行ったマウスにおいても、S. cohniiと同程度のイミキモド惹起性の炎症の抑制が認められ、またミフェプリストンによる抑制効果阻害も同様に確認された。結果を(図22BおよびC)に示す。
【0100】
[実験例16]
(ヒト由来S. cohniiによる炎症抑制効果)
本発明者らの解析により上記で用いたマウス由来のS. cohnii株 BP-02848がヒトに対しても同様の抗炎症効果を有する事が認められた。
【0101】
そこで、次にヒト由来のS. cohnii株が同様に抗炎症効果を有するかどうかの検証を行った。
健常者ボランティアの皮膚からのS. cohniiの単離は、理化学研究所「ヒト皮膚細菌叢の網羅的解析」番号H27-1にて承認されたプロトコールに基づいて行った。具体的にはPBSを浸漬した綿棒で、健常者ボランティアの額部皮膚を擦り、付着物を1mLのPBSに再分散させて菌液とし、マンニット食塩培地(日水製薬株式会社、05236)に菌液を塗布して培養し、形成されたコロニーから得た単離菌株に対する16SrDNA解析に基づいて、ヒト由来のS. cohnii 株BP-02853を同定した。
【0102】
前記ヒト由来のS. cohnii 株BP-02853を、SPF-WTマウスに投与することで、抗炎症効果を検討した。
SPF-WTマウスの耳にイミキモド(ベセルナクリーム 持田製薬)を50mg/匹、1日1回、5連日間塗布した。
【0103】
最初の3日間についてはS. cohnii(マウス由来株BP-02848またはヒト由来株BP-02853)またはS. epidermidisを2.0×107CFU/匹で1日1回、綿棒で接種した。
S. cohnii株BP-02853の接種で、BP-02848と同程度に炎症の程度やリンパ節腫脹が抑えられた(図23BおよびC)。
【0104】
[実験例17]
(ヒト由来S. cohniiおよびS. epidermidisの併用によるS. aureus依存性炎症抑制効果)
S. aureusを2.0×107CFU/匹でGF-Tmem79KOマウスに接種した。接種日から5日、6日、7日、12日、13日、および14日後に、2)S. cohniiのみ、3)S. epidermidisのみ、3)S. cohniiおよびS. epidermidisの接種をそれぞれ2.0×107CFU/匹で行った(S. cohniiおよびS. epidermidisはそれぞれ2×106CFU/匹ずつで計4×106CFU/匹で接種した)(図24A)。なお、1)はポジティブコントロールでありS. aureusのみの接種しかしておらず、5)無接種のものはネガティブコントロールであり、いずれの菌も接種していない。
【0105】
臨床スコアによるとS. cohniiまたはS. epidermidisをそれぞれ単独で接種したものについては、S. aureusによる炎症を抑えることが確認された。また、S. cohniiおよびS. epidermidisを併用接種したものについてはそれぞれを単独接種したものに比べてS. aureusによる炎症がさらに抑制されることが確認された(図24B)。
【0106】
またS. aureus接種21日後における頸部リンパ節腫脹も、臨床スコアと同様に、S. cohniiまたはS. epidermidisの予防投与によって抑制された(図24C)。
[実験例18]
(ヒト由来S. cohniiおよびS. epidermidisの併用によるS. aureus依存性炎症予防効果)
GF-Tmem79KOマウスにS. cohniiのみ、S. epidermidisのみ、ならびにS. cohniiおよびS. epidermidisをそれぞれ2×106CFU/匹ずつ皮膚に接種した(S. cohniiおよびS. epidermidisはそれぞれ2×106CFU/匹ずつで計4×106CFU/匹で接種した)。接種の2週間後に、S. aureusを2×106CFU/匹ずつ皮膚に接種した。経時的に観測した結果から得られた臨床スコアを図25Aに、S. aureusの接種から21日後の頸部リンパ節の重量を図25Bに示す。
【0107】
臨床スコアによると、S. cohniiまたはS. epidermidisを単独で事前接種したものおよび、S. cohniiおよびS. epidermidisを併用して事前接種したものについては、S. aureusによる炎症が抑制されることが確認された(図25A)。
【0108】
またS. aureus接種21日後における頸部リンパ節腫脹も、臨床スコアと同様に、S. cohniiまたはS. epidermidisの事前接種によって抑制されており、さらにS. cohniiおよびS. epidermidisを併用して事前接種したものについては単独接種したものよりもさらに頸部リンパ節腫脹は抑制されていた(図25B)。
【0109】
[実験例19]
(ヒト由来S. cohniiおよびS. epidermidisの併用による菌量変化)
GF-Tmem79KOマウスに、S. aureusのみ、S. aureusおよびS. cohnii、S. aureusおよびS. epidermidis、ならびにS. aureusとS. cohniiおよびS. epidermidisの接種を2.0×107CFU/匹でそれぞれ行い、21日後に菌量の測定を行った。S. aureusおよびS. cohniiならびにS. aureusおよびS. epidermidisを接種したマウスにおいてはS. aureusのみを接種したマウスに比べてS. aureusの菌量について有意な差は見られなかったが、S. aureusとともにS. cohniiおよびS. epidermidisを接種したマウスにおいてはS. aureusの菌量が有意に減少しれいることがわかった(図26A)。なお、いずれのマウスにおいてもS. aureus、S. cohnii、およびS. epidermidisを併せたtotalの菌量については差が見られなかった(図26B)。さらに解析を行うと、S. aureusとともにS. cohniiおよびS. epidermidisを接種したマウスにおいては他のブドウ球菌属に対してS. aureusの割合が有意に低いことが判った(図26C)。なお、S. aureusとともにS. cohniiまたはS. epidermidisを単独接種したマウスにおいてはS. aureusの菌量はS. aureusのみを接種した場合と比較してそれほど差はみられなかった。
【0110】
[実験例20]
(皮膚FACS解析)
S. cohniiの局所的ステロイドメタボリズムの効果を解析するため、無菌B6N WT8週齢のマウスに、2×106CFU/匹のマウス由来S. cohnii(2A1)、マウス由来S. cohnii(7C1)、ヒト由来S. cohnii(10B1)、マウス由来S. aureus(1D1)をそれぞれ背部に接種した。投与から4週間後に皮膚を採取してT細胞についてFACS解析を行った。図27は各マウスにおける菌量およびFACS解析の結果である。
【0111】
S. cohnii(2A1、7C1、10B1)は炎症性免疫細胞であるIL-17A産生T細胞を誘導しない一方、S. aureus(1D1)では野生型マウスにおいてもIL-17A産生T細胞が誘導されている。またFoxp3+CD4T細胞であらわされるTreg細胞の誘導はS. cohniiでは変化が見られず、S. aureusでは減少していた。
【0112】
これらから、野生型マウスにおいてS. cohniiの接種は炎症性T細胞の誘導は見られないこと、S. cohniiによる炎症抑制効果はTreg細胞誘導とは別の機序と考えられました。
[実験例21]
(糖質コルチコイドの検出-1)
更にコルチコイドについて詳細な解析を行うために無菌B6N WT8週齢のマウスに、それぞれ2×106CFU/匹のマウス由来S. cohnii(2A1)、マウス由来S. cohnii(7C1)、ヒト由来S. cohnii(10B1)、マウス由来S. aureus(1D1)を接種して28日後の背部皮膚および頸部皮膚を用いてGC-MS脂肪酸解析を行った。コルチコステロンに関してはS. cohnii、特にマウス由来S. cohnii(2A1)を接種したマウスについては背部および頸部の両方において無処理のマウスより有意に多く検出された。一方コルチコステロンの前駆体であるプロゲステロンに関してはいずれのマウスの背部、頸部ともに有意な差は見られなかった(図28)。
【0113】
[実験例22]
(糖質コルチコイドの検出-2)
Tmem79KOマウスの頸部に2×106CFU/匹のマウス由来S. cohnii(2A1)、マウス由来S. cohnii(7C1)を接種して28日後の頸部皮膚について、実験例21と同様にGC-MS脂肪酸解析を行った。実験例21と同様にコルチコステロンおよびプロゲステロンの解析結果を図29に示す。コルチコステロンに関してはマウス由来S. cohnii(2A1)を接種したマウスについては頸部において無処理のマウスより有意に多く検出された。一方コルチコステロンの前駆体であるプロゲステロンに関してはいずれのマウスにおいても有意な差は見られなかった(図29)。
(考察)
上述した実験例等の結果から、本研究では、皮膚常在菌の一種であるS. cohniiやS. epidermidis等が皮膚炎に対して予防的、治療的効果を有することを明らかにした。さらにこれらの菌は宿主に作用し、宿主の皮膚におけるグルココルチコイド応答遺伝子の活性を亢進すること、特にスクアレン合成酵素が皮膚炎抑制効果を有する菌に特異的に発現していることを見出した。
【0114】
上述したような作用機序に基づいてS. cohnii等、特定の皮膚常在菌により皮膚炎の増悪を制御することが可能になると考えられ、このことは皮膚炎の治療用、改善用、予防用の医薬の創薬または皮膚用の医薬部外品や化粧品の開発ならびに新たな治療方法の開発へと進展する可能性が考えられる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図26
図27
図28
図29
【配列表】
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