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特許7444366非水電解質二次電池の電極及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240228BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240228BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240228BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20240228BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240228BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240228BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/1397
H01M4/62 Z
H01M4/80 C
H01M4/66 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023050161
(22)【出願日】2023-03-27
【審査請求日】2023-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】516309866
【氏名又は名称】ATTACCATO合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太地
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-135382(JP,A)
【文献】特表2001-508916(JP,A)
【文献】国際公開第2021/131313(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の電極の製造方法であって、
活物質と第1バインダを含んでなるスラリーを集電体に塗布または充填し、乾燥後、活物質層を製造する工程Aと、
温度30℃以上120℃以下の第2バインダ水溶液を製造する工程Bと、
温度30℃以上120℃以下の前記第2バインダ水溶液に前記活物質層を浸漬し、または前記第2バインダ水溶液を前記活物質層に塗布し、第2バインダ水溶液と活物質層を1秒以上接触させ、乾燥後、電極を製造する工程Cと、を備え、
前記第2バインダ水溶液が、ケイ酸塩水溶液またはリン酸塩水溶液であり、
前記ケイ酸塩水溶液は、A2O・nSiO2で表されるケイ酸塩を水に溶解した液体であり、AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、nが1.7以上5以下であり、
前記リン酸塩水溶液は、Al23・nP25で表されるリン酸塩を水に溶解した液体であり、nが1.7以上5以下である、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1バインダが樹脂バインダであり、前記第2バインダ水溶液が無機バインダ水溶液である、
請求項1記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記工程Cが、10秒以上5時間以下の時間をかけて浸漬または塗布を行う、
請求項に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記工程Cは、
予め絶対圧30kPa以下まで減圧し、活物質層内の空気を除去する工程を有し、
前記第2バインダ水溶液に活物質層内の空気が除去された前記活物質層を浸漬し、または前記第2バインダ水溶液を活物質層内の空気が除去された前記活物質層に塗布し、乾燥後、電極を製造する工程である、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記工程Cは、
前記第2バインダ水溶液に前記活物質層を浸漬し、または前記第2バインダ水溶液を
前記活物質層に塗布する工程において、絶対圧0.12MPa以上10MPa以下まで加圧する、
請求項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記工程Cは、
予め絶対圧30kPa以下まで減圧し、活物質層内の空気を除去する工程と、
減圧した状態で、前記第2バインダ水溶液に活物質層内の空気が除去された前記活物質層を浸漬し、または前記第2バインダ水溶液を活物質層内の空気が除去された前記活物質層に塗布し、減圧状態から絶対圧0.12MPa以上10MPa以下まで加圧する工程と、を有する、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
前記工程C後の電極が、前記活物質層の総量を100%とした場合、無機バインダが0.1質量%以上30質量%以下で含まれる、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項8】
前記活物質として、一般式A2-abSic4-dまたは一般式SiOxで表される材料を含み、
AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、MがFe、Ni、Mn、またはCoの少なくともいずれか一種であり、aが0以上2以下であり、bが0.8以上1以下であり、cが0.8以上1以下であり、dが0以上0.2以下であり、xが0.2以上1.8以下である、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
前記集電体が、多孔質体または繊維群からなる導体である、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
前記集電体の材質が、アルミニウムまたはアルミニウム合金である、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の利用分野は、電子機器から自動車、大型蓄電システムなどへと展開しており、その市場規模は10兆円以上の産業に成長することが期待される。すでに、スマートフォン、タブレット型端末などの情報通信機器が、めざましい普及を遂げている。
【0003】
加えて、二次電池は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等をはじめとする次世代自動車の電源へと応用範囲も広がっている。また、二次電池は、家庭用バックアップ電源、自然エネルギーの蓄電、負荷平準化などに用いられるようになっている。このように、二次電池は、省エネルギー技術や新エネルギー技術の導入においても不可欠な存在である。
【0004】
従来の二次電池としては、鉛蓄電池、ニッケル-カドニウム電池、ニッケル-水素電池などの電解質に水を含む蓄電池が主流であったが、小型、軽量、高電圧、メモリー効果なしという特徴から、近年では非水電解質二次電池の使用が増大している。非水電解質二次電池とは、水を主成分としない電解質を用いた電池系で、且つ充放電可能な蓄電デバイスの総称である。
【0005】
例えば、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウム全固体電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、カリウムイオン電池、多価イオン電池、フッ化物イオン電池などが知られている。この非水電解質二次電池は、正極、負極、電解質、電槽(収納ケース)などから構成される。また、電解質が流動性を有する場合には正極と負極との間にさらにセパレータを介在させて構成される。
【0006】
正極や負極などの電極は、活物質、導電助剤、樹脂系バインダおよび集電体から構成される。一般的に、電極は、活物質、導電助剤、樹脂系バインダを溶媒に混合してスラリー状にし、これを集電体上に塗工して乾燥することで活物質層を形成後、ロールプレスなどで調圧することによって製造される。
【0007】
ところで、上記非水電解質二次電池では、電池寿命(サイクル特性)の向上が求められている。そこで、特許文献1~3、および非特許文献1には、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤を少なくとも活物質層の表面に存在させ、表面から内部に骨格形成剤を浸透させる技術が開示されている。これらの技術によれば、活物質層に強固な無機骨格を形成できるため、サイクル特性を向上できるとされる。
【0008】
上記骨格形成剤は、活物質の種類によってサイクル特性の向上効果の度合いが異なり、骨格形成剤と活物質には相性がある。例えば、非特許文献1によれば、上記骨格形成剤(文献中では無機バインダと表記されている)をコートしたシリコン(Si)電極とシリコン酸化物(SiO)電極のサイクル特性を、上記骨格形成剤をコートしていない電極と比較した結果が示されている。Si電極では、上記骨格形成剤を設けたことにより、サイクル特性が大幅に向上しているのに対し、SiO電極では、骨格形成剤を設けたことにより、サイクル特性の向上は認められるものの、Si電極と比べると向上効果が小さいことが示されている。
【0009】
また、上記非水電解質二次電池では、エネルギー密度の向上が求められている。エネルギー密度の向上には、活物質層の厚さを大きくすることや、活物質層の高密度化が有効であると考えられている。
【0010】
そこで、本発明者らは、ケイ酸塩またはリン酸塩を含んでなる無機バインダ水溶液を用いて、さらなるサイクル特性とエネルギー密度を向上させる電極とその製造方法を検討し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特許第6369818号公報
【文献】日本国特許第6149147号公報
【文献】日本国特開2021-144922号公報
【文献】日本国特開2021-144923号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】高橋牧子、木下智博、田名網潔、青柳真太郎、向井孝志、池内勇太、坂本太地、山下直人:第61回電池討論会講演要旨集、1C15(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1~3および非特許文献1の技術では、骨格形成剤と活物質との接着性が不十分である場合がある。特に、酸化物からなる活物質を含む電極である場合に、骨格形成剤と活物質との結着強度が十分に得られず、活物質層の膨潤や剥離、割れが発生し、安定した容量を維持しにくい。したがって、このような電極を用いた電池であっても、サイクル特性に優れた電池の実現が望まれる。
【0014】
また、活物質層の厚さを大きくした電極や、高密度の活物質層を設けた電極では、無機バインダ水溶液が活物質層に浸透しにくくなるため、活物質層の骨格形成剤の分布が不均一になるという課題がある。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、従来に比べて電池のサイクル特性とエネルギー密度を向上できる非水電解質二次電池の電極とその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
すなわち、本発明の一の形態にかかる電極の製造方法によれば、ケイ酸塩やリン酸塩からなる無機バインダと活物質との接着性が十分に確保しにくかった電極、あるいは活物質層を膜厚化や高密度化した電極であっても、大幅にサイクル特性を向上させることができる。
【0017】
ケイ酸塩には、オルトケイ酸塩(A4SiO4)、メタケイ酸塩(A2SiO3)、ピロケイ酸塩(A6Si27)、二ケイ酸塩(A2Si25)、四ケイ酸塩(A2Si49)などの多ケイ酸塩や、A2Si25、A2Si37、A2Si49などの多岐の種類が存在し、これらは水和物としても存在することが知られている。
【0018】
しかし、すべてのケイ酸塩が本発明に適用できるものではない。発明者らが種々のケイ酸塩を検討したところ、一般式A2O・nSiO2で表されるケイ酸塩において、AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、nが1.7以上5以下である条件を満たす場合において、本発明の高い効果が得られることがわかった。なお、一般式A2O・nSiO2で表されるケイ酸塩は水和物であってもかまわないが、電池を組む際には可能な限り水を取り除いていることが好ましい。
【0019】
リン酸塩には、第一リン酸アルミニウム塩(Al(H2PO43)、リン酸水素アルミニウム塩(Al2(H2PO23)、メタリン酸アルミニウム(Al(PO33)、第一リン酸マグネシウム塩(Mg(H2PO43)、リン酸水素マグネシウム塩(MgHPO4)、メタリン酸マグネシウム(Mg(PO32)、第一リン酸カルシウム塩(Ca(H2PO43)、リン酸水素カルシウム塩(CaHPO4)、リン酸三カルシウム塩(Ca3(H2PO42)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO32)などの多岐の種類が存在し、これらは水和物としても存在することが知られている。
【0020】
しかし、すべてのリン酸塩が本発明に適用できるものではない。発明者らが種々のリン酸塩を検討したところ、一般式Al23・nP25で表されるリン酸塩において、nが1.7以上5以下である条件を満たす場合において、本発明の高い効果が得られることがわかった。なお、一般式Al23・nP25で表されるリン酸塩は水和物であってもかまわないが、電池を組む際には可能な限り水を取り除いていることが好ましい。
【0021】
電極は少なくとも活物質層と集電体から構成される。活物質層は、活物質と樹脂バインダを含んでなるスラリーを集電体に塗布または充填し、乾燥することで製造することができる。このようにして得られた活物質層は、さらにケイ酸塩やリン酸塩を水に溶解して得られた無機バインダ水溶液に浸漬または塗布され、乾燥することが好ましい。
【0022】
ここで、後述する樹脂バインダに、酸性やアルカリ性の水溶液に接触して、バインダ成分が析出する性質を有する場合においては、スラリーを集電体に塗布後または充填後に乾燥工程を設けなくてもかまわない。しかし、バインダ成分が析出する際にバインダマイグレーション(樹脂の偏析)が発生しやすいため、どのような樹脂バインダを使用したとしても上記の活物質層は、スラリーを集電体に塗布後または充填後に乾燥することが好ましい。
【0023】
ここで、乾燥とは、加熱や減圧などによりスラリーに含まれる気化成分(水分や有機溶媒など)を除去し、乾いた状態にすることを意味している。乾燥させる手段は特に制限がなく、例えば、熱源による乾燥(加熱乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等)や減圧乾燥などが例示される。熱源によって乾燥を行う場合には、温度は50℃以上400℃以下であることが好ましい。減圧乾燥を行う場合には、絶対圧力0.05MPa以下まで減圧することが好ましい。なお、熱源による乾燥と減圧乾燥を組み合わせてもよい。
【0024】
上記の無機バインダ水溶液の濃度は、0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満では、骨格形成剤として機能する無機バインダの充填量が少なくなり、サイクル特性の向上効果が発揮されにくい。活物質の種類によっても異なるが、正極では0.1質量%以上、負極では3質量%以上が好ましい。いずれの電極であっても、35質量%を超える場合は高粘度のため、浸透速度が遅くなり、また不均一に無機バインダが浸透した電極となりやすい。また、濃度は30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が望ましい。
【0025】
また、上記の無機バインダ水溶液の濃度を、0.1質量%以上35質量%以下にすることで、前記活物質層の総量を100%とした場合、無機バインダが0.1質量%以上30質量%以下の範囲内に調整しやすい。無機バインダが0.1質量%未満では効果が得られにくく、35質量%を超える場合では内部抵抗が大きくなる。
【0026】
無機バインダ水溶液の温度は、30℃以上120℃以下であることが好ましく、40℃以上95℃以下がより好ましい。30℃以上にすることで、酸化物からなる活物質を含む電極であっても、無機バインダと活物質との結着強度が十分に得られ、サイクル特性に優れた電極が得られる。ただし、120℃を超える場合は、活物質の変質が活物質の内部にまで起こり、不可逆容量の増大、可逆容量の低下、サイクル特性の低下、内部抵抗の増大などを招く恐れがある。
【0027】
無機バインダと接触させる際には、10秒以上5時間以下の時間をかけて、活物質層と無機バインダ水溶液を接触させることが好ましく、30秒以上3時間以下がより好ましく、1分以上1時間以下がさらに好ましい。活物質層と無機バインダ水溶液の接触は、無機バインダ水溶液中に活物質層を浸漬または、活物質層に無機バインダ水溶液を塗布することで実現できる。
【0028】
30℃未満の無機バインダ水溶液と活物質層を接触後、加熱乾燥する場合は、所定温度範囲の無機バインダ水溶液が10秒以上接触することにならず、直ちに乾燥が完了するため、活物質層と無機バインダ水溶液の接触時間を十分に確保できない。
【0029】
接触時間を10秒以上にすることで、活物質の表面に存在する酸化物がエッチングされ、表面が露わとなった活物質新面と無機バインダを強固に結合させることができる。ただし、接触時間が5時間を超える場合は、活物質が変質し、不可逆容量の増大や寿命特性の低下を招き、また活物質によっては機能を失う恐れがある。
【0030】
また、無機バインダと接触する前に、絶対圧0.03MPa(30kPa)以下まで減圧し、活物質層内の空気や揮発成分を除去することが好ましい。活物質層と無機バインダ水溶液が接触している状態で、前記減圧状態を解除することにより、活物質層の空隙部分に無機バインダ水溶液を均一に充填することができる。活物質層の厚さを大きくした電極や、緻密な活物質層を有する電極であっても、予め減圧処理することで、無機バインダが集電体表面まで均一に浸透させることができる。
【0031】
例えば、特許文献1では、活物質層の表面から内部に骨格形成剤を均一に浸透させるために、界面活性剤を含有させることが好ましいとしているが、この方法によれば、界面活性剤や消泡剤の添加を不要にすることもできる。
【0032】
また、無機バインダ水溶液を充填後、さらに絶対圧0.12MPa以上で加圧することで充填速度を速めることができ、活物質新面と無機バインダを強固に結合させることができる。圧力を高めるにつれて、充填速度が速くなる傾向にあるが、10MPaを超える場合は活物質や集電体から、有価金属が溶出されて材料変質が起こる。また、耐圧容器が必要になり装置が大がかりなものとなる。
【0033】
二次電池に用いられる電極には、正極と負極があるが、平衡電位が高い(貴な)活物質を用いる場合は正極、平衡電位が低い(卑な)活物質を用いる場合は負極となる。
【0034】
正極である場合には、非水電解質二次電池で用いられる正極活物質であれば特に限定されない。遷移金属酸化物系材料、バナジウム系材料、硫黄系材料、固溶体系(リチウム過剰系、ナトリウム過剰系、カリウム過剰系)材料、カーボン系材料、有機物系材料、ポリアニオン系材料等を含む公知の正極活物質が用いられる。
【0035】
例えば、ANiO2、ANi0.6Co0.2Mn0.22、ANi0.8Co0.1Mn0.12、ANi0.8Co0.15Al0.052、ANi0.88Co0.1Al0.022などの遷移金属酸化物系材料、AV25、AVO2、A3VO4などのバナジウム系材料、硫黄、硫化カーボン、ポリスルフィド、ポリ硫化カーボン、硫黄変性ポリアクリルニトリル、ジスルフィド化合物、硫化金属などの硫黄系材料、A2MnO3-ANiO2、A2MnO3-AMnO2、A2MnO3-ACoO2、A2MnO3-A(Ni,Mn)O2、A2MnO3-A(Ni,Co)O2、A2MnO3-A(Mn,Co)O2、A2MnO3-A(Ni,Mn,Co)O2などの固溶体系材料、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン、グラッシーカーボンなどのカーボン系材料、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、フェナジンオキシドなどの有機物系材料、AFePO4、AMnPO4、AFe0.2Mn0.8PO4、ANiPO4、ACoPO4、AVPO4、A32(PO43、A2FeSiO4、A2Fe0.5Mn0.5SiO4、A2MnSiO4、A2CoSiO4、A2NiSiO4などのポリアニオン系材料である。
【0036】
このうち、少なくともアルカリ金属と酸素を含む正極活物質が好ましい。なかでも、高容量でサイクル特性が安定しているという観点からは、シリケート系材料が好ましい。シリケート系材料は、一般式A2-abSic4-dで表される正極活物質である。ここで、AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、MがFe、Ni、Mn、またはCoの少なくともいずれか一種であり、aが0以上2以下であり、bが0.8以上1以下であり、cが0.8以上1以下であり、dが0以上0.2以下である。
【0037】
なお、シリケート系材料の結晶構造の安定化や、電池の高電位化を図るために、例えば、遷移金属元素の一部が、他の遷移金属元素に置換した化合物、またはシリコン元素の一部がリン元素やホウ素元素に置換した化合物、あるいはカルコゲン元素の一部が他のカルコゲン元素に置換した化合物であってもよい。この場合、置換率は元素比率で20%以下であることが好ましい。
【0038】
2-abSic4-dはSiやSiOと比べて充放電に伴う体積変化が小さいが、従来の無機バインダの塗布方法では活物質と無機バインダとの接着性が不十分となりやすい。しかし、本発明の方法によれば、酸化物であっても無機バインダと活物質の結合性を向上することができ、サイクル特性の悪化を抑制することができる。
【0039】
負極である場合には、アルカリ金属イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなど)を可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に限定されない。例えば、C、Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Pb及びBiよりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の元素、これらの元素を用いた合金、複合化物、酸化物、カルコゲン化物又はハロゲン化物であればよい。
【0040】
高容量でサイクル特性が安定しているという観点からは、シリコン酸化物が好ましい。シリコン酸化物は、一般式SiOxで表される負極活物質である。活物質と無機バインダとの接合性は、xが大きくなるにつれて低下すると考えられる(例えば、特許文献4および非特許文献1を参照)。
【0041】
しかし、本発明の方法によれば、xが0.2以上1.8以下であることが好ましく、0.22以上1.2以下がより好ましく、0.25以上0.85以下がさらに好ましい。xが小さくなるにつれて高容量で不可逆容量が小さい電極となるが、充放電に伴う体積変化が大きくなる。その反面、xが大きくなるとサイクル特性に優れた電極となるが、xが1.8を超える場合では、無機バインダと活物質の結合性が悪く、サイクル特性が悪化し、また容量が小さく、抵抗と不可逆容量が大きな電極となる。
【0042】
正極や負極を問わず、活物質はメディアン径(D50)0.01μm以上50μm以下が好ましい。また、活物質粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円状、切子状、帯状、ファイバー状、フレーク状、ドーナツ状、中空状であってもよい。
【0043】
樹脂バインダは、水や有機溶媒に溶解または分散することの可能なバインダであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キタンサンガム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アミン、ポリアクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、塩化ビニル、シリコーンゴム、ニトリルゴム、シアノアクリレート、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ラテックス、ポリウレタン、シリル化ウレタン、ニトロセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、ポリスチレン、クロロプロピレン、レゾルシノール樹脂、ポリアロマティック、変性シリコーン、メタクリル樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、2-プロペン酸、シアノアクリル酸、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルオリゴマー、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリアセタール、アルギン酸、デンプン、ショ糖、うるし、にかわ、カゼイン、セルロースナノファイバー等の有機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上述した酸性やアルカリ性の水溶液に接触して、バインダ成分が析出する性質を有する樹脂バインダとしては、例えばPVdF、ポリアクリル、SEBS、EVA、CMC、キタンサンガム、PVA、EVOH、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩などが挙げられる。
【0044】
スラリーに含まれる固形分の総量を100%とした場合、樹脂バインダが0.1質量%以上30質量%以下で含有されていることが好ましい。無機バインダ水溶液を活物質層に浸透させた後、加熱により水分除去することによって、強固な活物質層が得られるが、水分除去後の活物質層と比して、水分除去前では脆い。
【0045】
無機バインダ水溶液に浸した程度で、活物質層が剥離や崩壊する場合には、長寿命な電極を得ることができないため、無機バインダ水溶液に浸しても活物質層の形状を維持する強度は最低限必要になる。このような理由から、樹脂バインダの含有が必須となる。ただし、30質量%を超える場合は、無機バインダが浸透しにくくなるばかりか、電極のエネルギー密度が低下する。
【0046】
集電体上に活物質層を形成する他の手法として、スパッタリングや蒸着などの気相法が知られている。気相法の場合においては、樹脂バインダを使用していなくても、集電体から活物質層が剥離しにくい特徴を有する。しかし、活物質層は緻密で、本発明の製造方法を用いて、無機バインダ水溶液に浸しても集電体近傍にまで成分が浸透することがなく、厚みの大きな電極ではサイクル特性の改善効果が得られにくい。無機バインダ水溶液に浸して、高容量かつ長寿命な電池を実現するためには、活物質と樹脂バインダからなる多孔質の活物質層を形成することが好ましい。
【0047】
活物質層の導電性を高めるという観点から、上記スラリーには、さらに導電助剤が含有されていることが好ましい。スラリーに含まれる固形分の総量を100%とした場合、導電助剤が0質量%以上20質量%以下で含有されていることが好ましい。すなわち、導電助剤は必要に応じて含有される。
【0048】
導電助剤は、電子伝導性を有していれば特に制限はなく、例えば、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられるが、高い電子伝導性と耐酸化・還元性の観点から、炭素材料が好ましい。具体的にはアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、ファーネスブラック(FB)、サーマルブラック、ランプブラック、チェンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、カーボンブラック(CB)、カーボンファイバー(例えば、登録商標であるVGCFという名称の気相成長炭素繊維)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、ガラス状炭素(例えば、登録商標であるグラッシーカーボンという名称の非黒鉛化炭素)、アモルファスカーボンなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。電子伝導性に優れ、さらに活物質層の機械強度が高くなるという理由から、ABとVGCF、ABとCNT、ABとグラフェン、CNTとグラフェンの組み合わせで用いることが好ましい。
【0049】
電極に用いられる集電体は、電子伝導性を有し、保持した活物質に通電し得る材料であればよい。充放電によって集電体が崩壊しない場合においては、電極の軽量化と低コスト化の観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましい。
【0050】
ここで、アルミニウムとは、Al純度が99%以上のものを意味する。アルミニウム合金には、Al-Cu系合金、Al-Cu-Mg系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金、Al-Zn系合金、Al-Zn-Mg系合金、Al-Zn-Mg-Cu系合金、Al-Fe系合金、Al-Fe-Si系合金、Al-Fe-Mn系合金、Al-Mg-Si-Fe系合金などが該当する。
【0051】
ただし、リチウムイオンをキャリアとし、且つ負極として使用する場合においては、集電体の材質は、銅またはニッケル、ステンレス鋼、カーボンが好ましい。
【0052】
しかし、両性金属であるアルミニウムでは、酸やアルカリと接触することによって腐食や溶解が起こる。ただし、例外的に特定のケイ酸塩水溶液やリン酸塩水溶液では反応しない。すなわち、一般式A2O・nSiO2で表されるケイ酸塩において、AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、nが1.7以上5以下である条件を満たす場合、または一般式Al23・nP25で表されるリン酸塩において、nが1.7以上5以下である条件を満たす無機バインダにおいては、腐食反応が進行しない。
【0053】
ケイ酸塩では、nが1.7未満である場合、pH値は10以上であり、アルミニウムやアルミニウム合金に対する腐食抑制効果が発揮されず、むしろ腐食を促進する。nが5を超える場合、スラリー塗工後の乾燥工程でゲル状の皮膜が形成されやすく、電極抵抗を増大させる要因になる。また、nが5を超える場合、ポットライフが短く、ケイ酸塩水溶液を大気中で放置していると白濁や沈殿を起こし、変質しやすいという難点をもつ。また、nが5を超える場合、pH値が10未満であり、活物質の可逆容量が低下する。
【0054】
集電体の形状には、線状、棒状、板状、箔状、多孔状、繊維状があり、このうち充填密度を高めることができることと、無機バインダが活物質層に浸透させる工程で活物質層の剥離を抑制できることから多孔状または繊維状であることが好ましい。また、多孔状または繊維状であれば、樹脂バインダの使用量の低減や、結着力に劣る樹脂バインダを用いても、無機バインダ水溶液と接触させても剥離しにくくなる。あわせて、無機バインダ水溶液が活物質層に浸透しやすくなる効果もあり、活物質層の無機バインダの分布が均一になりやすい。
【0055】
多孔状には、メッシュ、織布、不織布、エンボス体、パンチング体、エキスパンド、又は発泡体などが挙げられ、このうち、集電体の形状は、出力特性が良好なことからエンボス体または発泡体が好ましい。さらに、貫通孔を有することが好ましい。繊維状としては、単繊維でもよいし、複数の単繊維を集合させたものも有効である。具体的には、直径3~50μmの単繊維を10~1000本を集合させ1束となった状態のものが好ましく、これを用いて織布や不織布の状態としてもよい。
【0056】
このようにして得られた電極には、活物質とケイ酸塩またはリン酸塩が反応した変性材料を含むこととなる。この変性した材料は、少なくとも活物質と無機バインダの間に存在しており、活物質と無機バインダを強固に結合させる仲介的な機能を有する。この変性した材料が存在することで、活物質層の機械強度が高く、集電体と活物質層との剥離が起こりにくい電極にすることができる。
【0057】
上記の変性材料は、活物質とケイ酸塩またはリン酸塩が反応して生成されるものであるため、過剰に生成させると活物質の機能が喪失し、電極容量の低下を招く。逆に、生成量が不十分だと活物質層の機械強度の低下や、集電体と活物質層との剥離が起こりやすくなる。
【0058】
上記の変性材料は、ケイ酸塩とリン酸塩で異なり、ケイ酸塩を使用した場合では、A2SiO3、A4SiO4、Na2Si25、Na2Si49、H2SiO3、SiO2などが、リン酸塩を使用した場合では、AlPO4、Al(PO33、Al2413、Al(H2PO43、H3PO4、P410、Al23などから構成され、これらは水和物および結晶性の低い状態も含まれる場合がある。
【0059】
上記の変性材料の比重は、1.5以上3.5以下の範囲内であることが好ましく、1.8以上3.2以下がより好ましい。比重が1.5未満だと水を多く含有しており、電池の早期サイクル劣化や電池膨れなどを引き起こす可能性が高くなる。3.5を超える場合は、電池の重量当たりのエネルギー密度の向上が困難になる。
【0060】
上記の変性材料の厚さは、1nm以上500nm以下であることが好ましい。変性材料の厚さがこの範囲内であることにより、活物質と無機バインダとの結着性が向上する。厚さが1nm未満だと活物質層の機械強度の低下や、集電体と活物質層との剥離が起こりやすく、500nmを超える場合は、活物質の機能が喪失し、電極容量の低下を招く。
【0061】
本製造方法で得られた電極は、非水電解質二次電池の正極または負極として使用することができる。非水電解質二次電池とは、正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する非水電解質を備え、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウムイオンキャパシタ、カリウムイオンキャパシタなどが該当する。
【0062】
この電極を二次電池の正極として用いる場合、この電極の充放電電位よりも卑の電極と組みわせることで二次電池を作製できる。一方、この電極を二次電池の負極として用いる場合、この電極の充放電電位よりも貴の電極と組み合わせることで二次電池を作製できる。
【0063】
例えば、本開示の電極を正極として用いる場合、対極(負極)は、二次電池に用いられる負極として用いられる電極であれば特に限定されない。
【0064】
二次電池に用いる電解質は、正極から負極、又は負極から正極にアルカリ金属イオンやフッ素化合物アニオンを移動させることのできる液体又は固体であればよい。すなわち、公知の非水電解質を用いた二次電池に用いられる電解質と同じものが使用可能である。例えば、電解液、ゲル電解質、固体電解質、イオン性液体、溶融塩などが挙げられる。ここで、電解液とは、電解質が溶媒に溶けた状態のものをいう。
【0065】
二次電池の構造としては、特に限定されないが、積層式、捲回式などの既存の形態・構造を採用できる。すなわち、正極と負極とがセパレータを介して対向して積層又は捲回された電極群を、電解液内に浸漬した状態で密閉化され、二次電池となる。あるいは、正極と負極とが固体電解質を介して対向して積層又は捲回された電極群を密閉化して二次電池となる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の製造方法によれば、ケイ酸塩やリン酸塩からなる無機バインダと活物質との接着性が十分に確保しにくい電極、あるいは膜厚や密度の高い活物質層を有する電極であっても、大幅にサイクル特性を向上させることができる。また、本製造方法で得られた電極は、活物質の表面がケイ酸塩やリン酸塩で変性した材料を含んでなる。この変性した材料を介して無機バインダと活物質が一体化していることで、強度が高い電極になり、サイクル特性にすぐれた電極になる。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明の一の態様にかかる実施形態、実施例について説明するが、本発明はこの実施形態、実施例に限定されるものではない。
【0068】
本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法としては、一例として、活物質、樹脂バインダ、導電助剤などからなるスラリーを集電体に塗工後または充填後、これを所定温度のケイ酸塩またはリン酸塩を含んでなる無機バインダ水溶液に接触し、乾燥して電極を作製する。なお、具体的な電極材料などは後述する。
【0069】
そして、後述のとおり、この製造方法により得られた電極を用いてリチウムイオン電池を作製し、試験を行った。なお、リチウムイオンキャパシタは、主に対極の動作が異なる以外はリチウムイオン電池と同様にして作製できる。
【0070】
具体的には、例えば、正極として、本実施形態の電極を、負極として従来のリチウムイオンキャパシタ用負極を用いる以外は、後述の電池と同様にして作製できる。リチウムイオン電池以外のアルカリ金属イオン電池は、主にリチウムイオン電池の電荷担体であるLiをNaやKに置き換えた以外はリチウムイオン電池と同様にして作製できる。
【0071】
具体的には、ナトリウムイオン電池では、正極として本実施形態の電極を、負極として従来のナトリウムイオン電池用負極を、電解液としてナトリウム支持塩を用いる以外は、後述の電池と同様にして作製できる。カリウムイオン電池では、正極として本実施形態の電極を、負極として従来のカリウムイオン電池用負極を、電解液としてカリウム支持塩を用いる以外は、後述の電池と同様にして作製できる。
【実施例
【0072】
[SiO電極]
(実施例1、実施例2)
SiOx(x=0.75、メディアン径D50=5μm)、スチレンブタジエンゴム(JSR製、TDR2001)、カルボキシメチルセルロース(ダイセル製、2260)、アセチレンブラック(デンカ製、デンカブラック)、カーボンファイバー(昭和電工製、VGCF-H)からなる水系スラリー(固形比92:3:1:3:1質量%)を厚さ130μmに調圧した発泡ニッケル(住友電工製、セルメット#8)に充填し、80℃で30分間乾燥することで、単位面積当たりの電極容量が6mAh/cm2のSiO電極を作製した。
【0073】
表1に記載の条件で、SiO電極を温度40℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬後、仮乾燥(80℃、1時間)し、次いで真空乾燥(150℃、10時間)することで、試験電極を作製した。含浸前後の電極の重量変化は、含浸前の電極(集電体を除く)に対して、含浸後の電極(集電体を除く)が15%増加していた。なお、SiO電極は完全に浸るまでケイ酸ナトリウム水溶液に浸漬された後、電極表面に残った余剰のケイ酸ナトリウム水溶液は紙製シート(キンバリー・クラーク製、キムワイプ)で吸い取って除去した。
【0074】
(実施例3~7)
表1に記載の条件で、SiO電極を温度60℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬した他、実施例1と同様である。
【0075】
(実施例8~11)
表1に記載の条件で、SiO電極を温度80℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬した他、実施例1と同様である。
【0076】
(実施例12、実施例13)
表1に記載の条件で、SiO電極を温度95℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬した他、実施例1と同様である。
【0077】
(実施例14)
SiO電極をステンレス製の密閉容器に入れ、該容器内を真空ポンプにて絶対圧10kPaまで減圧した。容器内の圧力が10kPaに達した後、減圧状態を維持しながら、60℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)を電極が完全に浸るまで容器内に入れて、1分間経過後、エアパージにより、減圧状態を解除して、浸漬させた他、実施例3と同様である。
【0078】
(実施例15)
容器内の圧力が10kPaに達した後、減圧状態を維持しながら、60℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)を電極が完全に浸るまで容器内に入れて、1分間経過後、加圧ポンプを用いて圧縮空気を容器内に入れ、絶対圧0.3MPaまで加圧し、エアパージにより、加圧状態を解除して、浸漬させた他、実施例14と同様である。
【0079】
(比較例1、比較例2)
表1に記載の条件で、SiO電極を温度25℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬した他、実施例1と同様である。
【0080】
(比較例3)
表1に記載の条件で、SiO電極を温度0℃のケイ酸ナトリウム水溶液(Na2O・3.0SiO2 aq.、濃度10質量%)に浸漬した他、実施例1と同様である。
【0081】
(比較例4)
ケイ酸ナトリウム水溶液に浸漬していないSiO電極である。
【0082】
(電池特性)
実施例1~13及び比較例1~4で得られた試験電極と、金属リチウム対極(本城金属製、厚さ500μmのリチウム箔)、ポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)/ポリプロピレン(PP)の三層微多孔膜(セルガード社製、2325)、ガラスフィルタ(アドバンテック製、GA100)、1mol/L LiPF6/エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1vol.,+ビニレンカーボネート(VC)1質量%を用いて電池を作製した。
【0083】
充放電サイクル試験は、30℃環境にて、カットオフ電圧0.01~0.9V、充電電流0.05mA/cm2、放電電流0.1mA/cm2で充放電を繰り返す条件で行った。
【0084】
表2に、SiO電極のサイクル特性(1~3サイクル目における放電容量、容量維持率、クーロン効率)を示す。
【0085】
実施例1~15の40℃以上のケイ酸ナトリウム水溶液に含浸した電極である場合には、比較例4の未処理の電極よりも放電容量が大きく、比較例1~3の25℃以下のケイ酸ナトリウム水容器に含浸した電極よりも容量維持率が高い値を示している。また、いずれの実施例であっても比較例1~4よりも高いクーロン効率を示している。なかでも、実施例2の40℃で10分間浸漬した電極、実施例4~7の60℃で5~60分間浸漬した電極、実施例8と実施例9の80℃で1~10分間浸漬した電極は、初回の放電容量が85%以上を示し、且つ3サイクル目における容量維持率も90%以上と大きい。
【0086】
このように、ケイ酸ナトリウム水溶液の温度が高い場合には、浸漬時間が短く、低い場合には浸漬時間を長くすることが好ましい傾向が認められる。また、ケイ酸ナトリウム水溶液の含浸工程の前に、減圧して活物質層内の空気を除去することにより、浸漬時間を短縮することができることが示唆される。また、含浸工程は大気圧よりも高圧環境で行う方が浸漬時間を短縮することができることが示唆される。ただし、温度が25℃以下のケイ酸ナトリウム水溶液では処理時間を長くしても本発明の効果は得られなかった。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
[Li2FeSiO4電極]
Li2FeSiO4(メディアン径D50=12μm)、アセチレンブラック(デンカ製、デンカブラック)、アクリル系バインダ(JSR製、TRD202A)からなる水系スラリー(固形比94:3:3質量%)を厚さ100μmに調圧した発泡アルミニウム(住友電工製、Alセルメット)に充填し、80℃で30分間乾燥後、ロールプレスにて調圧することで、単位面積当たりの電極容量が0.5mAh/cm2のLi2FeSiO4電極を作製した。Li2FeSiO4は、ロータリーキルン処理(700℃)により、10質量%のカーボンが被覆複合されている。
【0090】
(実施例16)
Li2FeSiO4電極を温度40℃のケイ酸リチウム水溶液(Li2O・3.5SiO2 aq.、濃度1質量%)に1分間浸漬後、仮乾燥(80℃、1時間)し、次いで真空乾燥(140℃、10時間)することで、試験電極を作製した。含浸前後の電極の重量変化は、含浸前の電極(集電体を除く)に対して、含浸後の電極(集電体を除く)が1~3%増加していた。なお、SiO電極は完全に浸るまでケイ酸リチウム水溶液に浸漬された後、電極表面に残った余剰のケイ酸ナトリウム水溶液は紙製シート(キンバリー・クラーク製、キムワイプ)で吸い取って除去した。
【0091】
(比較例5)
Li2FeSiO4電極を温度120℃のホットプレート上に置き、スプレーガンによりケイ酸リチウム水溶液を噴霧して作製されたLi2FeSiO4電極である。なお、ケイ酸リチウム水溶液は電極と接触すると直ちに乾燥したため、ケイ酸リチウム水溶液が液体の状態として活物質層に接触している時間はわずか1秒に満たない。
【0092】
(比較例6)
ケイ酸リチウム水溶液に浸漬していないLi2FeSiO4電極である。
【0093】
(電池特性)
実施例16及び比較例5、比較例6で得られた電極を試験電極とし、金属リチウム対極(本城金属製、厚さ500μmのリチウム箔)、PP/PE/PPの三層微多孔膜(セルガード社製、2325)、ガラスフィルタ(アドバンテック製、GA100)、1mol/L LiPF6/エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1vol.,+ビニレンカーボネート(VC)1wt.%を用いてコイン型電池(R2032)を作製した。
【0094】
充放電サイクル試験は、30℃環境にて、カットオフ電圧4.8~1.5V、0.1C率充放電を1サイクル行った後、カットオフ電圧4.5~1.5V、0.2C率充放電を繰り返す条件で行った。
【0095】
表3に、LiFe2SiO4電極のサイクル特性(1サイクル目、2サイクル目、50サイクル目における放電容量、容量維持率、クーロン効率)を示す。
【0096】
実施例16の40℃のケイ酸リチウム水溶液に1分間浸漬した場合には、0.2C率で50サイクル後でも、放電容量が100mAh/g程度を有し、安定したサイクル特性を示している。
【0097】
一方、比較例5のケイ酸リチウム水溶液が液体の状態として活物質層に接触している時間は1秒に満たない場合と、比較例6のケイ酸リチウム水溶液に浸漬しなかった場合には、初回から放電容量が低い。比較例5と比較例6を比べると、若干ではあるものの比較例5の方が高容量となっている。しかし、比較例5と実施例16を比べると容量差は明確であることがわかる。
【0098】
【表3】
【0099】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態、実施例について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。また、本明細書において、化合物の一般式に記載された数字は、単なる表現上に整数で表していることがあるが、電気的中性を満たす数で、実質的に同一である場合は本発明の権利範囲に含まれる。
【要約】
【課題】 ケイ酸塩やリン酸塩からなる無機バインダと活物質との接着性が十分に確保しにくい電極、あるいは膜厚や密度の高い活物質層を有する電極であっても、大幅にサイクル特性を向上させることができる電極の製造方法を提案する。
【解決手段】 非水電解質二次電池の電極の製造方法であって、活物質と樹脂バインダを含んでなるスラリーを集電体に塗布または充填し、乾燥後、活物質層を製造する工程Aと、温度30℃以上120℃以下の無機バインダ水溶液に、前記活物質層を浸漬または塗布し、乾燥後、電極を製造する工程Bと、を備え、前記無機バインダ水溶液が、ケイ酸塩水溶液またはリン酸塩水溶液であり、前記ケイ酸塩水溶液は、A2O・nSiO2で表されるケイ酸塩を水に溶解した液体であり、AがLi、NaまたはKの少なくともいずれか一種であり、nが1.7以上5以下であり、前記リン酸塩水溶液は、Al23・nP25で表されるリン酸塩を水に溶解した液体であり、nが1.7以上5以下である、電極の製造方法。
【選択図】 なし