(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】チューリップの花から分離したラクチプランチバチルス・プランタルムに属する新規乳酸菌及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240228BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240228BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2023189968
(22)【出願日】2023-11-07
【審査請求日】2023-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506405806
【氏名又は名称】有限会社共同アクティブ
(73)【特許権者】
【識別番号】519389269
【氏名又は名称】宮谷 精二
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 精二
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-130224(JP,A)
【文献】特開2010-142214(JP,A)
【文献】特開2015-006161(JP,A)
【文献】特開2001-252012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 1/38
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)及び(b)のうち少なくともひとつの性質をみたす、
ラクチプランチバチルス・プランタルムに属し且つ受託番号:NITE P-03945で受託されている乳酸菌。
(a) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が2.0×10
9CFU/ml以上である。
(b) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、非穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が1.0×10
9CFU/ml以上である。
【請求項2】
前記穀物性飲食物は、米麹甘酒であり、
前記非穀物性飲食物は、青汁である。請求項1に記載の乳酸菌。
【請求項3】
前記乳酸菌液は、Lactobacilli MRS Broth培地で定常状態になるまで30℃16時間培養した乳酸菌液である、請求項1に記載の乳酸菌。
【請求項4】
請求項1に記載
の乳酸菌による
食品素材の発酵により得られた組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の乳酸菌、及び、食品素材を含む組成物。
【請求項6】
前記食品素材は、植物に由来する素材である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物に由来する素材は、植物の葉、根、茎、実、それらの抽出液、それらの破砕物、および/またはそれらの組み合せである、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、発酵物である、請求項
5~
7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれかに記載の乳酸菌、または請求項
4~
7のいずれか1項に記載の組成物を含む、飲食物。
【請求項10】
食品素材に、請求項1~
3のいずれかに記載の乳酸菌を接種し、発酵させることを特徴とする組成物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米麹甘酒、青汁の発酵にすぐれたラクチプランチバチルス・プランタルムに属する新規乳酸菌、上記乳酸菌を含有する飲食物、上記乳酸菌により得られた発酵物、当該発酵物を含有させた飲食物、及び上記乳酸菌を用いた発酵物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には100兆個以上の菌が存在し、その種類も1000種類以上あるといわれている。腸内環境の維持や改善効果をもつ菌種は、善玉菌とよばれる乳酸菌である。乳酸菌は腸内で乳酸を生産することによって大腸菌や病原菌の増殖を抑制して腸内環境を改善するだけでなく、便通の改善、免疫力の上昇による感染防御、抗アレルギー作用など生理的効果も示す。
【0003】
このことから最近では、腸は第2の脳とよばれ、腸内環境を良好に保つことが身体全体の健康維持につながると言われてきている。
【0004】
通常の日々の生活においても乳酸菌の摂取は重要であるが、ことにコロナ禍の今、日々乳酸菌を摂取して腸内環境を良好に保ち、免疫力を上昇させることが重要である。
【0005】
しかしながら乳酸菌は、体内に摂取されて腸内で機能した後、体内に留まることなく体外に排出される。
【0006】
こうしたことから、毎日乳酸菌を摂取することが腸内環境を良好に保つために必要となってくる。
【0007】
従来日々乳酸菌を摂取するには動物性乳酸菌を使って乳を発酵させた乳酸菌飲料や発酵乳を摂取することが一般的になっている。
【0008】
このような乳酸発酵物に使用されている乳酸菌は、乳原料の発酵に適した動物性乳酸菌で、具体的にはラクトコッカス・ラクティス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィリス、ストレプトコッカス・サーモフィリスなどである。
【0009】
その一方、乳製品に対するアレルギーや乳製品によって消化不良を引き起こす人々が存在しており、そうした人々は乳酸菌を食品から効果的に摂取することが難しいという現状があり、乳製品以外を発酵させ効果的に乳酸菌を摂取することができる新しい乳酸菌株の開発が必要となってくる。
【0010】
最近、植物成分を発酵させることが可能な植物性乳酸菌が注目されている。植物性乳酸菌は、植物成分を発酵させるのみならず、酸性領域で生存、増殖することができるため、生きて腸まで届き、直接腸内環境の維持や改善効果をもつといわれている。これまでに乳原料以外を原料として植物成分を発酵できる乳酸菌が単離されており、豆乳を発酵できる植物性乳酸菌としてラクトプランチバチルス・プランタルムに属する乳酸菌が知られている。たとえばラクトプランチバチルス・プランタルムHOKKAIDO株は、豆乳を発酵基質として発酵させると凝固して固形のヨーグルト状になり、このヨーグルトは、免疫機能を刺激し、ストレスマーカーを減少させる(非許文献1)。また最近では豆乳を短時間で発酵凝固させるストレプトコッカス・サリバリウス サクラ2も報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Nishimura, et al. J Tradit Compliment Med. 2015 Aug 21;6(3):275-80.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら豆乳発酵製品の豆くささや豆乳に対するアレルギーの人も少なからず存在していることから、本発明者は、タンパク質含有量が低くアレルギーをひきおこしにくい発酵原料が必要であると考えた。
【0014】
最近健康食品として麹を使った米麹甘酒や青汁がみなおされてきている。
【0015】
蒸した米を麹菌で発酵させた米麹を使った甘酒は、多くのビタミン、麹の力ででんぷんが分解されてすぐにエネルギーとなるぶどう糖、必須アミノ酸、コウジ酸などの美白効果のある物質も含まれていることから飲む点滴とも呼ばれている。
【0016】
こうして米を麹で発酵させて作られた米麹甘酒には、人に対して多くの生理的効果があるといわれている。
【0017】
このように米を麹で発酵させて作られた米麹甘酒には、数多くの効能があるが、この米麹甘酒をさらに乳酸菌発酵させれば、麹本来の効能に、さらに乳酸菌発酵によって作り出された抗菌活性のある乳酸、乳酸菌発酵物、乳酸菌菌体の効果が加味され、よりすぐれた発酵食品になる。
【0018】
また青汁も、ビタミンやミネラルが多く含まれていることから、日々摂取している人々も増加している。
【0019】
こうした青汁も、乳酸菌発酵させれば、乳酸菌発酵の効果を付加したよりすぐれた発酵食品になる。
【0020】
しかしながら米麹甘酒を3種類の乳酸菌で発酵させた乳酸菌発酵甘酒はあるが、単一の乳酸菌で発酵させ、かつプロバイオティクスとしての効果を得るための到達生菌数を達成する乳酸菌は、これまでに存在していない。
【0021】
しかしながら、実際には青汁に乳酸菌を添加して青汁はあるが、乳酸菌で発酵させてプロバイオティクスの効果を得るための到達生菌数を達成する乳酸菌は、これまでに存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って本発明は、ラクチプランチバチルス・プランタルムに属し、米麹甘酒、青汁といった植物成分を発酵基質とした場合であっても高い到達生菌数となる優れた発酵能を有する新規な乳酸菌や、これを含有する飲食物を提供することを課題とする。
【0023】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、チューリップの花から分離したラクチプランチバチルス・プランタルムに属する乳酸菌が、米麹甘酒を発酵基質した場合でも、到達生菌数がプロバイオティクスとしての機能を発揮することが可能な2.0×109CFU/ml以上、青汁を発酵基質した場合でも、到達生菌数がプロバイオティクスとしての機能を発揮することが可能な1.0×109CFU/ml以上、になることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
[1]
すなわち本発明は、以下の(a)及び(b)のうち少なくともひとつの性質をみたす、乳酸菌である。
(a) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が2.0×109CFU/ml以上である。
(b) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、非穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が1.0×109CFU/ml以上である。
【0025】
[2]
上記穀物性飲食物は、米麹甘酒であり、
上記非穀物性飲食物は、青汁である、[1]に記載の乳酸菌であってもよい。
【0026】
[3]
上記乳酸菌液は、Lactobacilli MRS Broth培地で定常状態になるまで30℃16時間培養した乳酸菌液であってもよい。
【0027】
[4]
ラクトバチルス属である、[1]に記載の乳酸菌であってもよい。
【0028】
[5]
ラクチプランチバチルス・プランタルムに属する、[4]に記載の乳酸菌であってもよい。
【0029】
[6]
チューリップ富山に属する、[5]に記載の乳酸菌であってもよい。
【0030】
[7]
受託番号:NITE P-03945で受託されている[6]に記載の乳酸菌であってもよい。
【0031】
[8]
本発明の別の態様は、
[1]に記載に乳酸菌による発酵により得られた組成物
である。
【0032】
[9]
本発明の別の態様は、
[1]に記載の乳酸菌、及び、食品素材を含む組成物
である。
【0033】
[10]
本発明の別の態様は、
上記食品素材は、植物に由来する素材である、[9]に記載の組成物
である。
【0034】
[11]
上記植物に由来する素材は、植物の葉、根、茎、実、それらの抽出液、それらの破砕物、および/またはそれらの組み合せである、[10]に記載の組成物であってもよい。
【0035】
[12]
上記組成物は、発酵物である、[9]~[11]のいずれかに記載の組成物であってもよい。
【0036】
[13]
本発明の別の態様は、
[1]~[7]のいずれかに記載の乳酸菌、または[8]~[11]のいずれかに記載の組成物を含む、飲食物
である。
【0037】
[14]
本発明の別の態様は、
食品素材に、[1]~[7]のいずれかに記載の乳酸菌を接種し、発酵させることを特徴とする組成物の製造法
である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の乳酸菌は、さまざまな植物を発酵させることができ、さまざまな発酵基質をベースとするプロバイオティクスに用いられる飲料などの飲食物を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑さをさけるため、摘示説明を省略する。
【0040】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当事者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」,「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0041】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%、又は0,5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0042】
本発明の「発酵物」とは、乳酸菌を用いて発酵したものを意味し、食品素材などの発酵基質を原料として発酵したものが含まれる。
【0043】
米麹は、「おたまや米こうじ(乾燥)(おたまや社製)」「宝来屋生糀(宝来屋本社製)「白雪印こうじ(倉繁醸造社製)」「米麹(ニチエー社製)」「こうじ(近藤糀製造所社製)」を使用した。
【0044】
青汁は、「大麦若葉粉末100%(山本漢方製薬社製)」「有機JAS+KUWA(桑の葉パウダー)(ヘルスエイジ社製)」「明日葉青汁(リバティライフ社製)」「有機モリンガ乾燥葉微粉末(リバティライフ社製)」を使用した。
【0045】
発明を実施するための形態
本実施形態にかかる乳酸菌は、以下の(a)及び(b)のうち少なくともひとつの性質をみたす。
(a) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が2.0×109CFU/ml以上である。
(b) 定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、非穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が109CFU/ml以上である。
【0046】
性質(a)において、到達生菌数は、2.0×109CFU/ml以上、2.5×109CFU/ml以上、3.0×109CFU/ml以上、3.5×109CFU/ml以上、4.0×109CFU/ml以上、4.5×109CFU/ml以上、5.0×109CFU/ml以上、5.5×109CFU/ml以上、6.0×109CFU/ml以上、6.5×109CFU/ml以上、7.0×109CFU/ml以上、7.5×109CFU/ml以上、8.0×109CFU/ml以上、8.5×109CFU/ml以上、9.0×109CFU/ml以上または9.5×109CFU/ml以上であってもよい。
【0047】
性質(b)において、到達生菌数は、1.0×109CFU/ml以上、1.5×109CFU/ml以上、2.0×109CFU/ml以上、2.5×109CFU/ml以上、3.0×109CFU/ml以上、3.5×109CFU/ml以上、4.0×109CFU/ml以上、4.5×109CFU/ml以上、5.0×109CFU/ml以上、5.5×109CFU/ml以上、6.0×109CFU/ml以上、6.5×109CFU/ml以上、7.0×109CFU/ml以上、7.5×109CFU/ml以上、8.0×109CFU/ml以上、8.5×109CFU/ml以上、9.0×109CFU/ml以上または9.5×109CFU/ml以上であってもよい。
【0048】
穀物性飲食物は、穀物(例えば、米、麦及びトウモロコシ)を原料とする又は主原料とするアルコール飲料又は非アルコール飲料である。非穀物性飲食物は、穀物以外の植物の葉、根、茎、花、つぼみ及び果実(実)からなる群より選択される1又は複数を原料とする又は主原料とするアルコール飲料又は非アルコール飲料である。穀物性飲食物は、米麹甘酒であって良い。非穀物性飲食物は、青汁であって良い。
【0049】
乳酸菌液は、Lactobacilli MRS Broth培地での培養で取得してもよい。培養条件は、例えば、30℃で16時間である。
【0050】
米麹甘酒は以下のように調整してもよい。
米麹60gに60℃の水200mlを加えて混合し、55℃で8時間処理後、ジューサーで処理したものを、85℃で30分間滅菌して調整する。
【0051】
青汁は以下のように調整してもよい。
青汁粉末6gに水200mlを加えてよく混合し、85℃で30分間滅菌して調整する。
【0052】
また本明細書において到達生菌数とは、前培養として121℃で15分間オートクレーブ滅菌したLactobacilli MRS Broth(Difco社製)培地で種菌を30または37℃で16時間定常状態になるまで培養した後、1%容量の前培溶液を100%米麹甘酒などの発酵基質に接種し、24時間、30℃または37℃で培養後の生菌数を示す。なお生菌数の測定はMRS寒天平板を用いて行なう。また、到達生菌数を表す単位であるCFU/mlは、培養プレートにおいて1ml接種した時のコロニー形成能を示す。
【0053】
ある実施形態において上記乳酸菌は、ラクトバチルス属である。別の実施形態において上記乳酸菌は、ラクチプランチバチルス・プランタルムに属する。更に別の実施形態において上記乳酸菌は、チューリップ富山に属する。
【0054】
更に別の実施形態において、上記乳酸菌は、受託番号:NITE P-03945で寄託されている乳酸菌である。
【0055】
ある実施形態において、上記乳酸菌は、上記条件で生育可能な変異株も含まれる。
【0056】
本発明乳酸菌の生理効果を得るために、例えば固体または液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態としたものに利用することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散在、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調整することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0057】
また、本発明乳酸菌は、上記のような製剤とするだけでなく、固形状、液状等のいずれの形態の飲食物に含有させることもできる。飲食物に含有させる場合は、そのまま、または種々の栄養成分と共に含有せしめればよい。具体的に本発明乳酸菌を飲食物に含有させる場合は、飲食物として使用可能な添加物を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、すなわち、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形すればよい。飲食物の種類としては、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳等の食品や、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料が挙げられる。なお、飲食物には、動物の飼料も含まれる。
【0058】
本実施形態において、上記乳酸菌による発酵により得られた組成物も提供される。本実施形態において、上記乳酸菌、及び、食品素材を含む、組成物も提供される。上記食品素材は、植物に由来する素材であってもよい。上記植物に由来する素材は、植物の葉、根、茎、花、つぼみ、果実(実)、それらの抽出液、それらの破砕物、および/またはそれらの組み合わせであってもよい。上記植物に由来する素材は、果物、野菜、それらの抽出液、それらの破砕物、および/またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0059】
本実施形態において、上記乳酸菌、または上記組成物を含む、飲食物も提供される。本実施形態において、食品素材に、上記乳酸菌を接種し、発酵させることを特徴とする組成物の製造法も提供される。
【0060】
本発明乳酸菌による食品素材の発酵により得られた発酵物、その発酵物を含む飲食物及び本発明乳酸菌を含む飲食物
本実施形態の組成物は、発酵物であってもよい。本実施形態の発酵物は、本発明乳酸菌による食品素材の発酵により得られる。また、本実施形態の飲食物は、その発酵物を含む。本実施形態において、食品素材は、食品に用いられるものであれば特に限定されず、植物の葉、根、茎、花、つぼみ、果実(実)、それらの抽出液、それらの破砕物などが挙げられ、特に本発明乳酸菌により発酵できるものが好ましく、例えば、米麹甘酒、青汁及び豆乳があげられる。本発明乳酸菌を用いて発酵米麹甘酒飲料を製造する場合には、まず使用する米麹甘酒に適した条件で殺菌した米麹甘酒に、本発明乳酸菌を単独または他の微生物と同時に接種培養し、これを均質化処理することで発酵米麹甘酒を得ることができる。青汁又は豆乳の場合も、米麹甘酒と同様の方法により、発酵青汁、発酵豆乳を得ることができる。
【0061】
これら発酵物を未発酵果汁、未発酵野菜ジュース、未発酵果物破砕物、未発酵野菜破砕物や、アルコール等と混合し、さらに各種栄養素、ビタミン、フレーバー等を添加して最終製品とすることも可能である。これらは、本発明乳酸菌の生菌の状態で含有するので好ましい。
【0062】
本実施形態の飲食物は、溶液、固形状、粉末等、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定するものではない。具体例としては、飲料(乳酸飲料、果汁飲料、豆乳飲料、野菜飲料、茶飲料、炭酸飲料、栄養飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、スープ、アルコール飲料等)、乳製品(ヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリーム等)、小麦粉製品(パン、麺、ケーキミックス等)、菓子(チョコレート、クッキー、キャンデー、キャラメル、ゼリー、ガム、和菓子等)、油脂食品(ドレッシング。マヨネーズ、クリーム等)、調味料(ソース、トマトケチャップ、酢、風味調味料、つゆのもと等)、即席食品(即席麺、即席スープ、味噌汁、缶詰、レトルト食品等)、サプリメント(錠剤、シロップ、顆粒剤、カプセル剤、速崩剤等)が挙げられる。
【0063】
本実施形態の乳酸菌は、従来のプロバイオティクスに用いられる乳酸菌と同様に各種の用途に利用し、これを摂取することにより整腸作用、抗菌作用等の生理効果を期待できる。
【0064】
本実施形態の乳酸菌をヒトや動物が摂取する場合、量に厳格な制限はないが、その好適な摂取量は生菌数として1回あたり106CFUから1014CFUが好ましい。また、本実施形態の乳酸菌は継続的に摂取することが好ましいが、これに限定されることはなく、例えば隔週、隔日のように摂取間隔を開けた場合や短い摂取期間でもよい。
【0065】
上記飲食物および発酵物には、各種栄養素、各種ビタミン、各種ミネラル、甘味料、乳化剤などの安定剤、増粘剤、食物繊維、フレーバー等の任意成分を配合することができる。
【0066】
栄養素としては、DHA EPA、アセチルグルコサミン、カテキン、ウコン、プロポリス、アガリスク、β-クリプトキサンチン、ケルセチン、アントシアニン等が挙げられる。各種ビタミンとしては、ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6、ビタミンB12,ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、葉酸、ニコチンアミド、ビオチン、ビタミンKが挙げられる。各種ミネラルとしては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、鉄、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。甘味料としては、ショ糖、グルコース、フルクトース、トレハロース、キシロース、ラクトース、パラチノース、果糖ブドウ糖液糖、麦芽糖、果糖、蜂蜜などの糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、アスパルテーム、スクラロース、ステビア、アセスルファムK等の高甘味度甘味料が挙げられる。酸味料としてはクエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、酪酸等があげられる。フレーバーとしてはオレンジ系、シトラス系、ベリー系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、シソ系、レモン系、グレープフルーツ系、ピーチ系、バナナ系、トロピカル系、ハーブ系、コーヒー系、お茶系等があげられる。
【0067】
また、本実施形態の発酵物又は飲食物の製造の際には、本実施形態の乳酸菌以外の菌を併用することもできる。このよう菌類としては、例えばビフィッドバクテリウム、ビフィダム、ビフィッドバクテリウム、ラクティス、ビフィッドバクテリウム、ロンガム等のビフィッドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレビィス、ラクトバチルス・ケフィア、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・デルブルキィ、ラクトバチルス・ペントサス、ラクトバチルス・プランタルム等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィリス、ストレプトコッカス・サリバリウス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシス・クレモリス等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス等のエンテロコッカス属細菌、サッカロマイセス・セルビシエ、キャンデイダ・ケフィア等のサッカロマイセス属、キャンディダ属等に属する酵母があげられる。
【0068】
以下、実施例をあげて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1
実施例の乳酸菌の単離及び培養条件
ラクチプランチバチルス・プランタルムに属するチューリップ富山はチューリップから単離した。単離後、121℃15分間オートクレープしたLactobacilli MRS Broth(Difco社製)培地で30℃で24時間の条件において培養可能であった菌を以後の実験で用いた。
かかる菌は、Lactobacilli MRS 寒天平板上で円形で白色のコロニーを形成した。顕微鏡観察において、上記菌は、桿菌で運動性はなく、芽胞は形成しなかった。(不図示)。上記菌は、グラム染色試験において陽性を示し、カタラーゼ活性試験において活性を示さず、またガス発生が観察されなかった。(不図示)。また上記菌は、嫌気条件で増殖するが、空気存在下でも増殖することが確認されている。
【0070】
16S rDNA塩基配列を用いた菌種同定
上記菌の菌種同定を16S rDNA塩基配列に基づいて以下の方法で行った。MRS培地を用いて30℃で24時間培養した培養用菌液を遠心分離した菌体ペレットから抽出したDNAを鋳型として16S rDNA配列の全長をPCR法によって増幅し、増幅産物の塩基配列をDye Terminater法により決定した。その塩基配列を配列番号1に示す。得られた塩基配列をデータベースで検索して菌種を同定した。
【0071】
その結果、前記乳酸菌の16S rDNAの塩基配列は、ラクチプランチバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・ペントサスの16S rDNA塩基配列と98.93%の相同性を示したが、ラクトバチルス・ペントサスはD-キシロースを資化できるのに対し、前記乳酸菌はD-キシロースを資化できないことから、上記乳酸菌は、ラクチプランチバチルス・プランタルムに属する乳酸菌の新株と同定し、チューリップ富山と命名して(以後実施例1の乳酸菌)、2023年7月14日に日本国千葉県木更津かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された。受託番号はNITE P-03945である。
【0072】
実施例の乳酸菌の糖資化性を表1(糖の発酵性状:API50CHによる測定)に示す。
【0073】
【0074】
実施例2
ラクチプランチバチルス・プランタルムによる米麹甘酒の発酵実験
(1) 菌株
比較例1の乳酸菌(対照群)としてラクチプランチバチルス・プランタルムに属する10株(3070株(比較例1-1)、3074株(比較例1-2)、12006株(比較例1-3)、14713株(比較例1-4)、15891株(比較例1-5)、101975株(比較例1-6)、101977株(比較例1-7)、109604株(比較例1-8)、114713株(比較例1-9)、115165株(比較例1-10)を使用した。
【0075】
(2) 種菌と培養
比較例1-1から1-10の乳酸菌は、Lactobacilli MRS Broth(Difco社製)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後接種して、30℃で16時間、定常状態になるまで培養した。
【0076】
実施例1の乳酸菌(チューリップ富山)は、Lactobacilli MRS Broth(Difco社製)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後接種して、30℃で16時間、定常状態になるまで培養した。
【0077】
(3) 米麹甘酒での増殖性
おたまや米こうじ(乾燥)(おたまや社製)、宝来屋生糀(宝来屋本社製)、白雪印こうじ(倉繁醸造社製)、米麹(ニチエー社製)、こうじ(近藤糀製造所社製)から調整した米麹甘酒をそれぞれ無菌的に分注し、比較例1-1から1-10の1%容量の菌液を接種し、30℃24時間培養した。
【0078】
同上の米麹甘酒をそれぞれ無菌的に試験管に分注し、実施例1の乳酸菌の1%容量の菌液を接種し、30℃で24時間培養した。
【0079】
(4) 生菌数の測定
培養液を滅菌した希釈液(0.1%酵母エキス溶液)を用いて、段階希釈法にてMRS寒天平板培地に塗布し生菌数を測定した。米麹甘酒での増殖性を調べ結果を表2に示した。生菌数は3回の異なる実験を行って得られた数値を平均して算出した。
【0080】
【0081】
米麹甘酒における増殖性の検討
実施例1の乳酸菌は、比較株1-1から1-10の乳酸菌と比較して各種米麹甘酒のすべてにおいて、約2.0倍から16.2倍の増殖能を示し、すぐれた増殖能をもつことが明らかとなった。
【0082】
実施例3
ラクチプランチバチルス・プランタルムによる青汁の発酵実験
(1) 菌株
比較例の乳酸菌
比較例1の乳酸菌(対照群)としてラクチプランチバチルス・プランタルムに属する10株(3070株(比較例1-1)、3074株(比較例1-2)、12006株(比較例1-3)、14713株(比較例1-4)、15891株(比較例1-5)、101975株(比較例1-6)、101977株(比較例1-7)、109604株(比較例1-8)、114713株(比較例1-9)、115165株(比較例1-10)を使用した。
【0083】
(2) 種菌と培養
比較例1-1から1-10の乳酸菌は、Lactobacilli MRS Broth(Difco社製)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後接種して、30℃で16時間、定常状態になるまで培養した。
【0084】
実施例1の比較例1-1から1-10の乳酸菌(チューリップ富山)は、Lactobacilli MRS Broth(Difco社製)を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した後接種して、30℃で16時間、定常状態になるまで培養した。
【0085】
(3) 青汁での増殖性
大麦若葉粉末100%(山本漢方製薬社製)、有機JAS+KUWA(桑の葉パウダー)(ヘルスエイジ社製)、明日葉青汁(リバティライフ社製)、有機モリンガ乾燥葉微粉末(リバティラ社製)から調整した青汁をそれぞれ無菌的に分注し、比較例1-1から1-10の1%容量の菌液を接種し、30℃で24時間培養した。
【0086】
同上の青汁をそれぞれ無菌的に試験管に分注し、実施例1の乳酸菌の1%容量の菌液を接種し、30℃で24時間培養した。
【0087】
(4) 生菌数の測定
培養液を滅菌した希釈液(0.1%酵母エキス溶液)を用いて、段階希釈法にてMRS寒天平板培地に塗布し生菌数を測定した。米麹甘酒での増殖性を調べ結果を表3に示した。生菌数は3回の異なる実験を行って得られた数値を平均して算出した。
【0088】
【0089】
(5)結果
実施例1の乳酸菌は、比較例の10株の乳酸菌と比較して、すべての青汁において、約1.48倍から40倍の増殖能を示し、すぐれた増殖能をもつことが明らかとなった。
【0090】
表2、表3に示した通り、実施例1の乳酸菌は、比較例1-1から1-10の乳酸菌と比較して、さまざまな米麹甘酒、青汁において、常に高い到達生菌数となり、すぐれた増殖能をもつことが明らかとなった。
【要約】 (修正有)
【課題】さまざまな植物を発酵させることができ、さまざまな発酵基質をベースとするプロバイオティクスに用いられる飲料などの飲食物を調製することができる乳酸菌、上記乳酸菌を含有する飲食物、上記乳酸菌により得られた発酵物、当該発酵物を含有させた飲食物、及び上記乳酸菌を用いた発酵物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、以下の(a)及び(b)のうち少なくともひとつの性質をみたす、乳酸菌である。(a)定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が2.0×109CFU/ml以上である。(b)定常状態になるまで培養した乳酸菌液を、非穀物性飲食物に対して1%容量接種したものを30℃で24時間培養した時の到達生菌数が1.0×109CFU/ml以上である。
【選択図】なし
【配列表】