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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】着色炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20240228BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C01F11/18 D
C09C3/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019205654
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021075443
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390020167
【氏名又は名称】奥多摩工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 利司
(72)【発明者】
【氏名】森川 徹也
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203832(JP,A)
【文献】小嶋芳行、ほか5名,指示薬を用いた微細炭酸カルシウムの着色,Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan,日本,2017年03月01日,Vol.24 No.387,Page.69-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/00-11/48
C09C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込み、反応させることにより炭酸カルシウムを合成する際に、反応開始後、電気伝導度曲線が極小から極大へ向かうタイミングであって非晶質炭酸カルシウムが生成している間に、水酸化カルシウム懸濁液に色素を添加し、
結晶構造内に前記色素が取り込まれた着色炭酸カルシウムを合成することを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
反応開始後、5分~9分の間に色素を添加することを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
水酸化カルシウム懸濁液に、非晶質炭酸カルシウムの生成を調整する添加物を添加することを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
前記添加物は、クエン酸、酒石酸、フマル酸、酢酸から選ばれる1ないし複数のカルボン酸類であることを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
前記添加物の添加量は、生成する炭酸カルシウム100重量部に対し3重量部以上20重量部以下であることを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
反応開始温度を45℃以下とすることを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
温度40℃以上で反応を行うことを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の着色炭酸カルシウムの製造方法であって、
前記色素は、合成色素または天然色素から選ばれる1ないし複数の食品色素であることを特徴とする着色炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素により着色された炭酸カルシウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、食品や医薬品等の担体、紙材や塗料等の填料、或いはプラスチックや接着剤等の添加物など、様々な用途に使用されている。従来、炭酸カルシウムを着色する場合、その粉末に重金属や色素を付着させていた。
【0003】
炭酸カルシウムの着色方法の一例として、特許文献1には、カルサイトまたはバテライトの形態の炭酸カルシウム粉体を着色用溶液に浸漬することにより粉体の表面に色素を吸着させて着色することが開示され、その際に炭酸カルシウムの比表面積を増減したり溶液を選択したりすることにより、着色される色調や色の濃さを調整する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-148035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、炭酸カルシウムを着色する際に、人体に優しい着色剤を用いたいという需要が高まっており、食品色素を用いた炭酸カルシウムの着色が期待されている。
【0006】
しかし食品色素は水に可溶なため、特許文献1など従来の方法を用いて炭酸カルシウムを着色した場合、着色後の炭酸カルシウムを水洗浄すると、表面に色素が付着した色素が流れ出して彩度が低下していた。炭酸カルシウムは、粒子が小さいほど表面積が大きくなるので濃く着色されるが、たとえ濃く着色された炭酸カルシウムであっても、水で色素が流れ落ちてしまうという問題があった。
【0007】
そのため、食品色素で着色された炭酸カルシウムの用途は、水洗浄工程を不要とする用途に限定されていた。
【0008】
本発明は、水洗浄による彩度の低下が抑えられた着色炭酸カルシウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意研究した結果、炭酸カルシウムの結晶生成過程において色素を添加することにより、結晶構造内に色素が取り込まれた着色炭酸カルシウムが得られること、また色素添加時期などの合成条件を適切に制御することにより、所望の結晶系や粒子径や比表面積を持つ着色炭酸カルシウム粒子を合成できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の着色炭酸カルシウムの製造方法は、水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込み、反応させることにより炭酸カルシウムを合成する際に、炭酸カルシウム粒子の結晶成長が完了するまでに色素を添加し、結晶構造内に色素が取り込まれた着色炭酸カルシウムを合成することを特徴とする。
【0011】
また本発明の着色炭酸カルシウムは、カルサイト系の炭酸カルシウムであって、結晶構造内に色素を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水洗浄による彩度の低下を抑えた着色炭酸カルシウムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】着色炭酸カルシウム合成時の電気伝導率とpHの変化を示す図。
図2】(a)着色炭酸カルシウムの粒子の断面を示す模式図、(b)従来の炭酸カルシウムに着色した場合の粒子の断面を示す模式図。
図3】実施例1の着色炭酸カルシウムの製造方法を示す図。
図4】実施例1、5~7の着色炭酸カルシウムのSEM写真を示す図。
図5】クエン酸の添加量と合成された炭酸カルシウムのX線回析結果の関係を示す図。
図6】色素添加タイミングと、着色炭酸カルシウムの比表面積との関係を示す図。
図7】色素添加タイミングと、色素/炭酸カルシウム重量比との関係を示す図。
図8】クエン酸量と電気伝導率との関係を示す図。
図9】色素添加タイミングと、洗浄による着色炭酸カルシウムの彩度の変化との関係を示す図。
図10】色素添加量と、洗浄による着色炭酸カルシウムの彩度の変化との関係を示す図。
図11】色素の種類と、水洗浄後の彩度の変化との関係を示す図。
図12】クエン酸無添加の場合の、水洗浄後の彩度の変化を示す図。
図13】色素添加タイミングと、水洗浄後の色素/炭酸カルシウム重量比との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の着色炭酸カルシウムの製造方法と、それにより得られる着色炭酸カルシウムについて説明する。
【0015】
本発明の着色炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込み、反応させることにより炭酸カルシウムを合成する際に、炭酸カルシウムの結晶成長が完了するまでに、反応液に色素を添加することにより、製造される。色素の添加時期は、反応開始の前から結晶成長が完了するまでの間であり、結晶生成過程で色素を添加することで、結晶構造内に色素が取り込まれた着色炭酸カルシウムを得ることができる。
【0016】
反応条件によって、合成される炭酸カルシウム粒子の粒子径や比表面積を制御することができ、それに応じて、色素の添加タイミングや反応温度を適切にすることにより、効率よく着色炭酸カルシウムを製造できる。また炭酸カルシウム合成過程における結晶の生成を調整する添加物を反応液に添加してもよく、それにより色素の添加タイミングの調整が容易になる。また色素の添加タイミングや反応終了時点を確認するために、炭酸カルシウム合成時に反応液の電気伝導度をモニターすることが好ましい。
【0017】
以下、本発明の着色炭酸カルシウムの製造方法を具体的に説明する。
炭酸カルシウムの合成に用いる水酸化カルシウム懸濁液は、粉末状或いは粒状の水酸化カルシウムを水に懸濁させることにより得られるものであり、水酸化カルシウムとしては、純度95%以上のものを用いることが好ましい。また水酸化カルシウムを水に懸濁させる代わりに、酸化カルシウムと水との反応で水酸化カルシウムを生成して得られる水酸化カルシウム懸濁液を用いてもよい。水酸化カルシウム懸濁液における水酸化カルシウムの濃度は、効率よく炭酸カルシウムを合成するために、5~100g/L(リットル)であることが好ましい。
【0018】
なお反応に用いる水酸化カルシウム懸濁液は、炭酸ガスを吹き込む前に、超音波処理等により、懸濁液中の水酸化カルシウム粒子を分散する処理を行っておくことが好ましい。このような処理を行うことにより、炭酸カルシウムの合成過程でより、生成する個々の炭酸カルシウム結晶粒子に色素を取り込むことができ、より色が定着した結晶粒子を得ることができる。
【0019】
水酸化カルシウム懸濁液に吹き込む炭酸ガスとしては、100%のCOガスの他、COを10%以上含むCO含有ガスを用いてもよい。なお本明細書では「炭酸ガス」はこのようなCO含有ガスも含むものとして用いる。
【0020】
ガスの吹き込み量は、反応液1Lに対し、0.3~2.0L/分程度であることが好ましい。吹き込み量は、反応工程で一定でもよいが、反応初期で多くし、後半で少なくするなど、反応液のpHや電気伝導度を見ながら調整してもよい。なお、炭酸ガスは、反応液を撹拌しながら吹き込むことが好ましい。その際の撹拌速度(周速)は、8~67m/秒、回転数(rpm)は50rpm~400rpm程度であることが好ましい。
【0021】
反応工程で添加する色素は、特に限定されず公知の色素を用いることができるが、本発明の着色炭酸カルシウムの用途が食品用である場合には、食用赤色2号等のAcidRed系色素、緑色3号等のAcidGreen系色素、及び青色1号等のAcidBlue系色素などの食用タール系色素の他、天然物から抽出したカロテノイド系やウコン系色素、糖類の加水分解物であるカラメル色素などを用いることができる。
【0022】
色素の添加量は、多いほど着色後の炭酸カルシウムの彩度が高くなるが、炭酸カルシウム結晶内に取り込まれる色素の量には限界があると考えられるので、合成する炭酸カルシウムに対し、0.7重量%~15重量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
色素の添加タイミングは、比較的粒子径が大きく比表面積の小さい着色炭酸カルシウムを合成する場合には、炭酸ガス吹き込みを行う前、例えば、原料である水酸化カルシウム懸濁液に色素を添加してもよいが、比較的粒子径が小さく比表面積の大きい着色炭酸カルシウムを合成する場合には、反応開始後、非晶質炭酸カルシウム(ACC)が生成している間に色素を添加することが好ましい。粒子径の小さい微細な炭酸カルシウムの場合、ACCが生成している最中に添加することで最も効率よく色素を結晶中に取り込むことができる。
【0024】
ACCの生成や結晶成長の完了時点は、経験的に求めることも可能であるが、反応中に反応液の電気伝導率をモニターすることにより確認することができる。図1に、添加物(クエン酸)を添加した場合の、反応液の電気伝導率の変化を示す。炭酸カルシウムの合成過程では図1に示すように、反応液の電気伝導率は、反応開始から急激に低下し、所定の時間が経過した時点で緩やかな低下となった後、再度急激に低下する。その後電気伝導率は極小値を迎え、極小から急激に上昇して極大に向かい、ある時点で再度急速に低下して2度目の極小値を迎え、上昇した後、安定化する。この二度目の極小値をとる時点は、概ね結晶の生成が完了した時点とみなすことができる。ここで電気伝導率が最初の極小値をとるタイミングは、ACCの生成と関連し、ACCが生成することにより一端電気伝導率が低下するが、ACCの分解に伴い電気伝導率は上昇する。このように、結晶の核の生成とその表面におけるACCの生成とを繰り返すことで、結晶化が進むものと考えられる。反応時間がある程度経過してから色素を添加しても、既に概ね結晶化が完了している場合には、色素は結晶構造内に取り込まれることなく、結晶の表面に付着するのみとなる。これに対し、ACCの生成と結晶化とが繰り返されている間に色素を添加することにより、効果的に結晶構造内に色素を取り込むことができる。従って、例えば図1に示すグラフでは、反応時間が10分経過する前、好ましくは反応が3分以上経過してから色素を添加することで、結晶構造内に色素を取り込んだ着色炭酸カルシウムを合成することができる。
【0025】
図1は一例に過ぎず、水酸化カルシウム懸濁液の濃度や炭酸ガスの吹き込み条件等によって電気伝導度の変化曲線は変化するが、本発明の炭酸カルシウムの製造方法では、反応液の電気伝導度をモニターしながら合成を進めることで、どのような条件であっても、適切な色素の添加タイミングを決定することができる。
【0026】
なお前述のとおり、色素を反応開始前に添加しておいても、結晶構造内に色素を取り込んだ着色炭酸カルシウムを合成することができるが、色素の種類によっては、また反応液に後述する添加剤等を添加した場合、色素と添加剤との組み合わせによっては、反応開始前に共存させることで、色素の結晶内への取り込みが阻害される場合もありえる。そのような場合は、反応開始後ACCの生成が始まってから色素を添加することがより好ましい。
【0027】
微細な炭酸カルシウム粒子を合成する場合には、有機カルボン酸等の添加剤を加えることが好ましい。有機カルボン酸を加えることにより、反応開始から結晶生成(図1において、電気伝導度がフラットに安定する時点)までの反応時間を調整することができる。具体的には結晶化の進行を緩やかにし、反応開始後ACCが生成する時間帯を長くすることができる、これにより色素添加タイミングの適正化を容易に図ることができる。また有機カルボン酸を添加することにより、生成する炭酸カルシウムの比表面積を増加することができる。これにより比表面積が大きい製品(例えばコロイド状炭酸カルシウム等)への着色炭酸カルシウムの適用を広げることができる。
【0028】
有機カルボン酸として、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸などを用いることができ、特にカルボキシル基を3つ有しているクエン酸が、好ましい。有機カルボン酸を添加する場合、添加量は水酸化カルシウムに対し、20重量%以下であることが好ましく、3~7重量%であることがより好ましい。
【0029】
また有機カルボン酸を添加する場合、反応前に添加しておくことが好ましい。これにより、合成速度の調整効果を得ることができる。
【0030】
本発明の着色炭酸カルシウムの合成においては、結晶構造内への色素の取り込みを阻害しない限り、上述した有機カルボン酸のほかに、生成した結晶粒子の粒子径や比表面積などの物理的性質を制御するための添加剤を加えてもよい。
【0031】
反応温度は、目的とする炭酸カルシウムの粒子径や比表面積によって異なるが、比較的粒子径の大きな(例えば長径2μm程度の)炭酸カルシウムを合成する場合には、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。一方、比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムを合成する場合には、反応開始時の温度で20℃以上45℃以下であることが好ましい。反応温度が45℃を超えると、非晶質炭酸カルシウム(ACC)が生成しにくくなる。
【0032】
反応時間は原料の量や炭酸ガスの吹き込み条件によっても異なるが、上述したように、電気伝導度が一定になった時点で炭酸ガスの吹き込みを終了し、反応を完了させる。通常、約30分程度で反応は完了する。
【0033】
反応終了後、合成後の着色炭酸カルシウムは、ろ過、遠心分離、洗浄後乾燥等の公知の方法により反応液から分離することができる。また必要に応じて、分散処理などを施してもよい。
【0034】
このような製造方法により合成される着色炭酸カルシウムは、粒子径が長径約0.8~2.6μm、短径約0.2~1.0μmの粒子からなり、安定なカルサイト系の結晶構造を有している。また図2(a)に模式的に示すように、炭酸カルシウム結晶粒子の構造内に色素が取り込まれる形で炭酸カルシウムと一体化している。このため、同図(b)に示す従来の、表面に色素が付着した着色炭酸カルシウムとは異なり、水等の溶媒に浸漬しても色素が溶媒内に溶けだすことなく、当初の彩度が維持される。
【0035】
本発明の着色炭酸カルシウムは、色素として食用色素を用いた場合には、各種食品の着色剤や着色を兼ねた増量剤、pH調整剤などの添加剤として用いることができ、その際、添加される材料や他の添加物と混合しても彩度の変化が少なく、所望の着色を達成することができる。
【0036】
また本発明の着色炭酸カルシウムは、食品用のみならず化粧品、紙製品、プラスチック製品、建材等の着色にも適用することができる。特にプラスチック製品に適用した場合、単に色素を添加する場合に比べ、結晶内に色素を取り込んだ粒子として添加されるので、成型時の温度による変色が抑えられ、発色性に優れたプラスチック製品を得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明の着色炭酸カルシウムの製造方法の実施例を説明する。なお以下の説明において「%」は特に断らない限り、「重量%」を表すものとする。
【0038】
[製造]
<実施例1>
実施例1の着色炭酸カルシウムの製造方法について、図3を参照し説明する。市販の水酸化カルシウム(純度96%)6gに純水300cmを加え、水酸化カルシウム懸濁液を調製した。この水酸化カルシウム懸濁液をガラス製の容器に入れ、室温で0.5mol/dmのクエン酸水溶液4cm(水酸化カルシウム懸濁液に対しクエン酸5重量%)を添加した。この反応液にホモジナイザー型の超音波を1分間照射させて分散させたのち、炭酸ガスを0.5dm/分の流量で吹き込みながら、攪拌機(スリーワンモータ)で攪拌した(反応液の反応開始)。攪拌速度(周速)は100m/秒、回転数(rpm)は200とした。攪拌を続けながら純度100%の炭酸ガスを注入し続け、炭酸ガスの注入開始から7分後に赤色の食品色素(Acid Red 92、東京化成工業株式会社製)を0.12g(水酸化カルシウム:色素の重量比は50:1)添加した。反応開始から30分経過した後、アセトン(液量50cm程度、時間2分間)で4回洗浄し、ろ過および乾燥させることで、着色炭酸カルシウムを得た。この間、電気伝導率(S/m)の変化を「MM-60R、東亜ディーケーケー株式会社製」によりモニターした。
【0039】
<実施例2~8>
実施例2~8では、色素を添加するタイミングを実施例1から変更した以外は、実施例1と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。具体的には、実施例2~7では、色素の添加タイミングをそれぞれ反応開始から1、3、5、6、8、9分後とした。また実施例8では反応開始前(炭酸ガスの吹き込み前)に反応液に色素を添加した。
【0040】
<実施例9>
実施例9では、添加するクエン酸の量を15cmとした以外は、実施例1と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。
【0041】
<実施例10、11>
実施例10、11では、それぞれクエン酸の添加量を4cmと15cmに変更するとともに、色素を反応開始前に添加し、その他の条件は実施例1と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。
【0042】
<実施例12~15>
実施例12~15では、添加する色素の添加量を0.06g、0.075g、0.20g、0.60gにそれぞれ変えた以外は、実施例1と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。
【0043】
<実施例16>
実施例16では、色素としてサンセットイエロー(SY)を用いた以外は実施例8と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。
【0044】
<実施例17~20>
実施例17~20では、クエン酸水溶液を添加せず、色素の添加タイミングを異ならせて、それ以外の条件は実施例1と同様に着色炭酸カルシウムを合成した。色素の添加タイミングは、実施例17~19では、反応開始から3、5、7分後とし、実施例20では、色素を反応開始前に添加した。
【0045】
<実施例21>
市販の水酸化カルシウム(純度96%)3gに純水300cmを加え、水酸化カルシウム懸濁液を調製した。この水酸化カルシウム懸濁液をガラス製の容器に入れ、ここに食品色素(Acid Red 92、東京化成工業株式会社製)を0.12g(水酸化カルシウム:色素の重量比は50:1)添加した。これを50~85℃に加熱し、この反応液にホモジナイザー型の超音波を1分間照射させて分散させたのち、炭酸ガスを0.5dm/分の流量で吹き込みながら、攪拌機(スリーワンモータ)で攪拌した(反応液の反応開始)。反応温度は、50~85℃とし、攪拌速度(周速)は100m/秒、回転数(rpm)は200とした。攪拌を続けながら純度100%の炭酸ガスを注入し続け、反応開始から30分経過した後、アセトン(液量50cm程度、時間2分間)で4回洗浄し、ろ過および乾燥させることで、着色炭酸カルシウムを得た。
【0046】
以上の実施例で製造した着色炭酸カルシウムについて、その特性を測定するとともに着色の効果を検討した。以下、代表的な実施例についての特性測定結果を示す。
<炭酸カルシウムの構造SEM>
実施例1、5~7で製造された炭酸カルシウムを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認した。そのSEM写真を図4に示す。この写真から、着色した炭酸カルシウムの形状は1μm以下の針状あるいは粒子状であることがわかった。
【0047】
これらの炭酸カルシウムは、比表面積から平均粒径を求めると、15~100nmの粒子からなり、安定なカルサイト系の結晶構造を有していることがわかった。
【0048】
<実施例21の炭酸カルシウムの粒子径>
実施例1~20とは反応温度が異なる条件で製造した実施例21の炭酸カルシウムの粒子径を、SEMを用いて確認した。この炭酸カルシウムは、粒子径は長径が1.5~1.7μm以上、短径が0.3~0.4μmの粒子からなることがわかった。
【0049】
<炭酸カルシウムのX線回析>
クエン酸の添加量を変えて合成した実施例20、10、11の着色炭酸カルシウムについて、それぞれX線回析を行った。その結果を図5に示す。クエン酸の添加量を0、4、15cmとした実施例20、10、11では、いずれも2θが30°付近にピークを有していることがわかった。またこれらの炭酸カルシウムにはカルサイトが生成していることがわかった。
【0050】
<色素の添加タイミングと比表面積及び色素/炭酸カルシウム重量比との関係>
色素の添加タイミングによる特性の違いを検討するために、色素の添加タイミングを異ならせた実施例1~8で合成した着色炭酸カルシウムについて、比表面積(m/g)を自動比表面積測定装置(Micromeritics社製、Gemini VII)により測定した(図6)。また、これらの着色炭酸カルシウムについて、色素/炭酸カルシウム重量比を熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)により算出した。色素の重量は250℃~400℃の加熱時の重量減少量から、炭酸カルシウムの重量は620℃~870℃に加熱時の重量減少量から算出した(図7)。
【0051】
炭酸カルシウムの比表面積および色素/炭酸カルシウム重量比はともに、反応開始から7分の間に色素を添加した場合、添加時間の違いで大きな変化は見られなかった(図6、7)。一方、それより後に色素を添加した例では、色素添加時間が遅いほど、炭酸カルシウムの比表面積および色素/炭酸カルシウム重量比が増えた。また、洗浄後の色素/炭酸カルシウム重量比は、反応開始から7分の間に色素を添加した例では添加時間が遅いほど増加し、9分後に添加した例では反応前に添加した例と同程度まで低下した。洗浄前後での色素/炭酸カルシウム重量比の差(低下量)は、図6、7を参照すると、実施例1では他の例よりもが小さくなり、7分以降は大きくなることがわかった。
【0052】
<クエン酸添加量と比表面積及び電気伝導率との関係>
クエン酸の添加量を0cm、4cm、15cmに変えた実施例19、1、9の着色炭酸カルシウムについて、比表面積(m/g)を自動比表面積測定装置(Micromeritics社製、Gemini VII)により測定したところ、これら実施例の着色炭酸カルシウムの比表面積は、それぞれ、21m/g、54m/g、150m/gであった。この結果から、クエン酸の添加量が多いほど比表面積が大きくなることがわかった。
【0053】
また実施例19、1、9について、電気伝導度曲線の違いを調べた。その結果を図8に示す。
【0054】
この結果から、クエン酸を加えることにより、炭酸カルシウムの結晶化の進行を緩やかにし、反応開始後ACCが生成する時間帯を長くすることができることがわかった。
【0055】
また、クエン酸を添加する場合、添加量は水酸化カルシウムに対し、20重量%以下であることが好ましく、3~7重量%であることがより好ましいことがわかった。なお、図示しないが、クエン酸の代わりに酒石酸などの有機カルボン酸を添加した場合も、クエン酸添加時と同様の結果が得られた。
【0056】
<着色効果>
上記各実施例で製造した着色炭酸カルシウムについて、以下のように実験を行い、それぞれ着色炭酸カルシウムの洗浄後の彩度の変化を調べた。
【0057】
[実験1]
<<クエン酸添加有りの場合>>
実施例1、5、6、7、および8で合成した着色炭酸カルシウムを、それぞれ50、100、150、200、400、600、800、1000cmの純水で洗浄し、洗浄後の彩度a*をCIE Lab表色系に準拠した測色器により測定した。また比較例1として、色素を添加しない以外は実施例1と同様に合成した炭酸カルシウムを、実施例1と同じ色素の水溶液(2重量%溶液)に1分間浸漬し、その後、乾燥して得た着色炭酸カルシウムについても、洗浄前後の彩度測定を行った。それらの測定結果を図9に示す。彩度a*はその数値が高いほど濃い赤色であることを示している。
【0058】
実施例の着色炭酸カルシウムは、いずれも、若干の彩度の低下が見られた後は、安定した彩度が維持され、従来の方法で着色した比較例1に比べ彩度低下が大幅に抑制されていることが確認された。また色素の添加時間毎に結果を比較すると、反応開始から6分或は7分の間に色素を添加した実施例4、実施例1の着色炭酸カルシウムは、他の例よりも水洗浄による彩度の低下が抑えられていた。それよりも添加時間が遅い実施例6、7の着色炭酸カルシウムや反応開始から色素を添加した実施例8の着色炭酸カルシウムは、実施例1、5に比べ洗浄による彩度の低下が大きく、目視での確認でも洗浄水が赤色に染まっていたが、従来の方法で着色した比較例1よりは彩度低下が抑えられていた。
【0059】
以上のことから、ACCが生成している間(反応開始から7分間)に、反応液に色素を添加すると、炭酸カルシウムの結晶生成過程で炭酸カルシウムの結晶構造内に色素が取り込まれるため、炭酸カルシウムの表面に色素が付着して着色される場合よりも、水洗浄による彩度の低下が抑えられたと考えられる。反応開始から5~7分後は、電気伝導度曲線が極小から極大へ向かうタイミングであり、ACCの溶解中に炭酸カルシウムの結晶化が始まるまでの間に色素を添加することが好ましいと考えられる。上述の実施例とは異なる条件で炭酸カルシウムを製造した場合であっても、反応液の電気伝導度をモニターしてACCの生成中に色素を添加することにより、洗浄による彩度の低下が抑えられた着色酸カルシウムを提供することができるといえる。
【0060】
なお反応開始前に色素を添加した実施例8では、結晶化が進む前に色素を添加したが、色素が反応液中に含まれている添加剤等と反応したために、実施例1と比べて彩度の低下が見られたものと考えられる。
【0061】
一方、合成後の炭酸カルシウムを着色した比較例1では、彩度が大きく低下したことから、粒子表面に付着している色素が溶媒(水)側に移行しやすいことがわかった。
【0062】
次に、実施例1と、色素の添加量を変えた実施例12~15で合成した炭酸カルシウムについて、水洗浄後の彩度a*を上述の方法と同様に測定した。その測定結果を図10に示す。
【0063】
着色炭酸カルシウムの彩度a*は洗浄前後ともに、色素の添加量が多いほど高くなり、色素の添加量が少ないほど低くなったが、いずれも洗浄後の彩度の低下を抑えることができていた。この結果から、色素の添加量は、彩度の低下量と関連性がなく、いずれの実施例でも彩度の低下を抑えられることがわかった。
【0064】
次に、色素の種類を変えた実施例16の着色炭酸カルシウムを、上述の方法と同様に洗浄し、洗浄後の彩度b*の変化をCIE Lab表色系に準拠した測色器により測定した。彩度b*はその数値が高いほど濃い黄色であることを示している。この結果と実施例8の着色炭酸カルシウムの洗浄時の彩度a*とを比較した結果を、図11に示す。
【0065】
実施例8から色素をサンセットイエローに変えた実施例16では、実施例8よりも純水で洗浄した後の彩度が低下していた。サンセットイエローの色素粒子も炭酸カルシウムの構造内に取り組むことができていたが、サンセットイエローの分子量がAcid Red 92よりも小さく洗浄により流れ出しやすかったため、彩度が低下したものと考えられる。この結果から本願発明の方法では、添加する色素の種類としてAcid Red 92を用いた場合に、より彩度の低下を抑えられることがわかった。
【0066】
<<クエン酸添加無しの場合>>
クエン酸を添加しない実施例17~21で合成した着色炭酸カルシウムの洗浄後の彩度a*を、上述の方法と同様に測定した。この測定結果を図12に示す。
【0067】
実施例17~20ではいずれも水洗浄によって彩度の低下がみられ、実施例21では、クエン酸を添加しなかったが、彩度の低下が抑えられていた。
【0068】
実施例21で水洗浄後に彩度の低下が抑えられていたことから、色素を添加した後結晶成長をさせて粒子径の大きな(長径2.5μm以上)炭酸カルシウムを合成する場合、クエン酸を添加しなくても十分に着色炭酸カルシウムの彩度の低下を抑えられることがわかった。一方、実施例17~20では実施例20よりも彩度が低下したことから、炭酸カルシウムの粒子径が小さい(平均粒子径0.1μm以下)場合、クエン酸を添加することで着色炭酸カルシウムの彩度の低下を抑えられることがわかった。
【0069】
[実験2]
実施例1、3、4、7、8で合成した着色炭酸カルシウムについて、それぞれ1000cmの水で洗浄した後の色素/炭酸カルシウム重量比を算出した(図8)。色素/炭酸カルシウム重量比の算出方法は、洗浄前と同様に熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)により算出した。結果を図13に示す。
【0070】
洗浄前の結果(図7)との比較からわかるように、洗浄後にも重量比0.01以上が維持され、特に色素添加時間が5~7分の実施例1、4では、重量比の低下が少なく、色素は炭酸カルシウム内にとどまっていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13