(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】移動機構を収容するロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20240228BHJP
A63H 11/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B25J5/00 A
A63H11/00 Z
(21)【出願番号】P 2019562063
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047699
(87)【国際公開番号】W WO2019131696
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2017253031
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515337268
【氏名又は名称】GROOVE X株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 要
(72)【発明者】
【氏名】恩田 祐一
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-082142(JP,A)
【文献】特開2008-260117(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195700(WO,A1)
【文献】特開2003-181152(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0193045(US,A1)
【文献】国際公開第2013/099104(WO,A1)
【文献】特開2004-306251(JP,A)
【文献】特開2015-229230(JP,A)
【文献】特開2000-323219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
A63H 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体フレームと、
前記本体フレームとの間に閉空間を形成する弾性体と、
移動時の接地面を有し、前記閉空間に収容可能に設けられた移動機構と、
前記移動機構を前記閉空間の外部へ進出又は内部に退避させる駆動機構と、
を備え、
前記弾性体は、前記移動機構の進出に伴って受ける押圧力により弾性変形し、前記移動
機構を露出させるための開口部を大きくし、前記移動機構の退避に伴って弾性復帰して前
記開口部を小さくすることを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記弾性体は、前記本体フレームから離れる方向へ膨出し、内方に前記閉空間を形成す
る曲面形状を有し、
前記移動機構が前記閉空間の内部から外部へ進出するに伴い前記曲面形状が変化するこ
とを特徴とする請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記開口部は、前記弾性体において前記本体フレームと対向する周縁部と前記本体フレ
ームとの間に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボット。
【請求項4】
前記開口部を閉じる方向に前記弾性体を付勢する付勢機構を備えることを特徴とする請
求項1~3のいずれかに記載のロボット。
【請求項5】
前記移動機構が車輪およびホイールカバーを有し、
前記移動機構が進出する際に、前記ホイールカバーが前記弾性体の開口部に当接して押
し広げることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のロボット。
【請求項6】
前記ホイールカバーは、前記弾性体の内面と相補形状の外面を有することを特徴とする
請求項5に記載のロボット。
【請求項7】
前記弾性体は、芯材としてのばね材と、そのばね材が装着又はインサートされた樹脂材
を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のロボット。
【請求項8】
前記ばね材が、前記樹脂材の形状に沿って設けられる骨組み構造を有することを特徴と
する請求項7に記載のロボット。
【請求項9】
前記樹脂材は、前記本体フレームから離れる方向へ膨出する形状を有し、
前記ばね材が、前記樹脂材の形状に沿う湾曲形状を有することを特徴とする請求項7又
は8に記載のロボット。
【請求項10】
前記ばね材が、静電容量センサとして機能する金属板からなることを特徴とする請求項
7~9のいずれかに記載のロボット。
【請求項11】
前記開口部は、前記弾性体において前記移動機構の軌道上に設けられたスリットである
ことを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のロボット。
【請求項12】
前記弾性体が、前記本体フレームと共に当該ロボットのボディを形成することを特徴と
する請求項1~11のいずれかに記載のロボット。
【請求項13】
当該ロボットの落下を判定する落下判定部を備え、
前記駆動機構は、前記移動機構が前記閉空間から外部に進出した状態で落下が判定され
たときに、前記移動機構を前記閉空間へ退避させることを特徴とする請求項1~12のい
ずれかに記載のロボット。
【請求項14】
ボディと、
前記ボディの一部を構成し、内方に収容空間を有するボディ形成部材と、
移動時の接地面を有し、前記収容空間に収容可能に設けられた移動機構と、
前記移動機構を前記収容空間から外部へ進退させる駆動機構と、
を備え、
前記ボディ形成部材は、前記移動機構の進出に伴って押し広げられる開口部を形成する
可撓性部位を有することを特徴とするロボット。
【請求項15】
前記ボディ形成部材は、前記開口部が押し広げられた際に、その開口部を閉じる方向の
付勢力を発生させることを特徴とする請求項14に記載のロボット。
【請求項16】
前記ばね材には、所定間隔で孔が形成されていることを特徴とする請求項7~9のいず
れかに記載のロボット。
【請求項17】
前記弾性体の内側に、滑り部材が設けられていることを特徴とする請求項1~
13又は16のいずれかに記載のロボット。
【請求項18】
本体フレームと、
前記本体フレームとの間に空間を形成するボディ形成部材と、
前記空間に収容可能に設けられた移動機構と、
前記移動機構を前記空間の外部へ進出又は内部に退避させる駆動機構と、
を備え、
前記ボディ形成部材は、前記移動機構の進出に伴って前記移動機構を露出
させるための開口部
を大きくし、
前記移動機構の退避に伴って前記開口部を小さくする
ように構成されていることを特徴とするロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機構を備えるロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒューマノイドロボットやペットロボット等、人間との対話や癒しを提供する自律行動型ロボットの開発が進められている(例えば特許文献1参照)。このようなロボットとして、周囲の状況に基づいて自律的に学習することで行動を進化させ、生命を感じさせるものも出現しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットにペットのような親近感をもたせようとする場合、ユーザとのスキンシップは欠かせない。思わず抱き上げたくなるような外観や仕草を実現することはもちろん、ユーザが抱き上げやすくなるような配慮も必要となる。
【0005】
本発明は上記課題認識に基づいてなされた発明であり、その主たる目的は、ユーザへの配慮を意識したロボットの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様はロボットである。このロボットは、本体フレームと、本体フレームとの間に閉空間を形成する弾性体と、移動時の接地面を有し、閉空間に収容可能に設けられた移動機構と、移動機構を閉空間の外部へ進出又は内部に退避させる駆動機構と、を備える。弾性体は、移動機構の進出に伴って受ける押圧力により弾性変形し、移動機構を露出させるための開口部を大きくし、移動機構の退避に伴って弾性復帰して開口部を小さくする。
【0007】
本発明の別の態様もロボットである。このロボットは、ボディと、ボディの一部を構成し、内方に収容空間を有するボディ形成部材と、移動時の接地面を有し、収容空間に収容可能に設けられた移動機構と、移動機構を収容空間から外部へ進退させる駆動機構と、を備える。ボディ形成部材は、移動機構の進出に伴って押し広げられる開口部を形成する可撓性部位を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ユーザへの配慮を意識したロボットの構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るロボットの外観を表す図である。
【
図2】ロボットの構造を概略的に表す断面図である。
【
図3】車輪収納機構の構造および動作を模式的に示す図である。
【
図6】車輪収納機構の構造および動作を表す図である。
【
図8】車輪収納機構の構造および動作を表す図である。
【
図9】ボディの組付け方法を概略的に表す図である。
【
図10】第1変形例に係る車輪収納構造を表す図である。
【
図11】第2変形例に係る車輪収納構造を表す図である。
【
図12】第3および第4変形例に係る車輪収納構造を表す側面図である。
【
図13】第5変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
【
図14】第5変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
【
図15】第6変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
【
図16】第7変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略することがある。
【0011】
本実施形態のロボットは、移動機構として車輪を有し、その車輪をボディに収容可能な構造を有する。すなわち、本体フレームの側面にカバーが設けられ、両者間の閉空間が車輪収容空間とされている。カバーが可撓性および弾性を有するため、車輪収容空間から車輪を進出させる際に押し広げられる。その車輪を車輪収容空間へ退避させると、カバーは元の形に復帰する。このようなカバーの柔軟な動き(変形)が生物の部位を想起させ、ユーザにペットに対するような親しみを感じさせる。車輪が完全収容されることで、ロボットを抱き上げることが容易になり、また、ユーザが車輪の接地面に触れることを防止できる。本実施形態によれば、このようにユーザへの配慮がなされたロボットが提供される。以下、このようなロボットの具体的構成について説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るロボット100の外観を表す図である。
図1(a)は正面図であり、
図1(b)は側面図である。
ロボット100は、外部環境および内部状態に基づいて行動や仕草(ジェスチャー)を決定する自律行動型のロボットである。外部環境は、カメラやサーモセンサなど各種のセンサにより認識される。内部状態はロボット100の感情を表現するさまざまなパラメータとして定量化される。ロボット100は、オーナー家庭の家屋内を行動範囲とする。以下、ロボット100に関わる人間を「ユーザ」とよぶ。
【0013】
ロボット100のボディ104は、全体的に丸みを帯びた形状を有し、ウレタンやゴム、樹脂、繊維などやわらかく弾力性のある素材により形成された外皮314を含む。ロボット100に服を着せてもよい。ロボット100の総重量は5~15キログラム程度、身長は0.5~1.2メートル程度である。適度な重さと丸み、柔らかさ、手触りのよさ、といった諸属性により、ユーザがロボット100を抱きかかえやすく、かつ、抱きかかえたくなるという効果が実現される。
【0014】
ロボット100は、一対の前輪102(左前輪102a,右前輪102b)と、一つの後輪103を含む。前輪102が駆動輪であり、後輪103が従動輪である。前輪102は操舵機構を有しないが、左右輪の回転速度や回転方向が個別に制御可能とされている。後輪103はキャスターであり、ロボット100を前後左右への移動させるために回転自在となっている。後輪103はオムニホイールであってもよい。左前輪102aよりも右前輪102bの回転数を大きくすることで、ロボット100が左折したり、左回りに回転できる。右前輪102bよりも左前輪102aの回転数を大きくすることで、ロボット100が右折したり、右回りに回転できる。
【0015】
前輪102および後輪103は、後述する駆動機構(回動機構、リンク機構)によりボディ104に完全収納できる。ボディ104の下半部には左右一対のカバー312が設けられ、柔らかい胴体を構成するとともに前輪102を収納できる。カバー312には前方に向けて開口するスリット313(開口部)が形成され、そのスリット313を介して前輪102を進出させ、外部に露出させることができる。カバー312は「ボディ形成部材」として機能し、スリット313の周辺部が「可撓性部位」として機能する。
【0016】
走行時においても各車輪の大半はボディ104に隠れているが、各車輪がボディ104に完全収納されるとロボット100は移動不可能な状態となる。すなわち、車輪の収納動作に伴ってボディ104が降下し、床面Fに着座する。この着座状態においては、ボディ104の底部に形成された平坦な着座面108(接地底面)が床面Fに当接する。なお、車輪収納機構の構造および動作の詳細については後述する。
【0017】
ロボット100は、2つの手106を有する。手106には、モノを把持する機能はない。手106は、図示しない内蔵ワイヤを引っ張る又は緩めることにより、上げる、振る、振動するなど簡単な動作が可能である。2つの手106も個別制御可能である。
【0018】
ロボット100の頭部正面(顔)には2つの目110が設けられている。目110は、液晶素子または有機EL素子により、様々な表情で表示される。ロボット100は、スピーカーを内蔵し、簡単な音声を発することもできる。ロボット100の頭頂部にはツノ112が取り付けられる。ツノ112には全天周カメラが内蔵され、上下左右全方位を一度に撮影できる。また、ロボット100の頭部正面には、高解像度カメラが設けられる(図示せず)。
【0019】
このほか、ロボット100は、周辺温度を検出する温度センサ、複数のマイクロフォンを有するマイクロフォンアレイ、計測対象の形状を測定可能な形状測定センサ(深度センサ)、超音波センサなどさまざまなセンサを内蔵する。
【0020】
図2は、ロボット100の構造を概略的に表す断面図である。
ボディ104は、ベースフレーム308、本体フレーム310、外皮314、および一対のカバー312を含む。ベースフレーム308は、ボディ104の軸芯を構成するとともに内部機構を支持する。ベースフレーム308は、ロアプレート334に複数のサイドプレート336を立設して構成される。ベースフレーム308の内方には、バッテリー118、制御回路342および各種アクチュエータ等が収容されている。ロアプレート334の底面が着座面108を形成する。
【0021】
本体フレーム310は、頭部フレーム316および胴部フレーム318を含む。頭部フレーム316は、中空半球状をなし、ロボット100の頭部骨格を形成する。胴部フレーム318は、角筒形状をなし、ロボット100の胴部骨格を形成する。胴部フレーム318の下端部が、ロアプレート334に固定されている。頭部フレーム316は、接続機構330を介して胴部フレーム318に接続されている。
【0022】
頭部フレーム316は、ヨー軸321、ピッチ軸322およびロール軸323を有する。頭部フレーム316のヨー軸321周りの回動(ヨーイング)により首振り動作が実現され、ピッチ軸322周りの回動(ピッチング)により頷き動作,見上げ動作および見下ろし動作が実現され、ロール軸323周りの回動(ローリング)により首を左右に傾げる動作が実現される。各軸は、接続機構330の駆動態様に応じて三次元空間における位置や角度が変化し得る。接続機構330は、リンク機構からなり、胴部フレーム318に設置された複数のモータにより駆動される。
【0023】
胴部フレーム318は、ベースフレーム308および車輪駆動機構370を収容している。車輪駆動機構370は、前輪102および後輪103をそれぞれボディ104から出し入れする前輪駆動機構および後輪駆動機構を含む。前輪102および後輪103は、ロボット100を移動させる「移動機構」として機能する。前輪102は、その中心部にダイレクトドライブモータ(以下「DDモータ」と表記する)を有する。このため、左前輪102aと右前輪102bを個別に駆動できる。前輪102はホイールカバー105に回転可能に支持され、そのホイールカバー105が胴部フレーム318に回動可能に支持されている。
【0024】
一対のカバー312は、胴部フレーム318を左右から覆うように設けられ、ボディ104のアウトラインに丸みをもたせるよう、滑らかな曲面形状とされている。胴部フレーム318とカバー312との間に閉空間が形成され、その閉空間が前輪102の収容空間Sとなっている。後輪103は、胴部フレーム318の下部後方に設けられた収容空間に収容される。
【0025】
外皮314は、本体フレーム310を外側から覆う。外皮314は、人が弾力を感じる程度の厚みを有し、ウレタンスポンジなどの伸縮性を有する素材で形成される。これにより、ユーザがロボット100を抱きしめると、適度な柔らかさを感じ、人がペットにするように自然なスキンシップをとることができる。外皮314は、カバー312を露出させる態様で本体フレーム310に装着されている。
【0026】
本体フレーム310と外皮314との間にはタッチセンサが配設される。カバー312にはタッチセンサが埋設されている。これらのタッチセンサは、いずれも静電容量センサであり、ロボット100のほぼ全域におけるタッチを検出する。なお、変形例においては、タッチセンサを外皮314に埋設してもよいし、本体フレーム310の内側に配設してもよい。
【0027】
手106は、外皮314と一体に形成されている。外皮314の上端部には、開口部390が設けられる。ツノ112の下端部が、開口部390を介して頭部フレーム316に接続されている。
【0028】
手106を駆動するための駆動機構は、外皮314に埋設されるワイヤ134と、その駆動回路340(通電回路)を含む。ワイヤ134は、本実施形態では形状記憶合金線からなり、加熱されると収縮硬化し、徐熱されると弛緩伸長する。ワイヤ134の両端から引き出されたリード線が、駆動回路340に接続されている。駆動回路340のスイッチがオンされるとワイヤ134(形状記憶合金線)に通電がなされる。
【0029】
ワイヤ134は、外皮314から手106に延びるようにモールド又は編み込まれている。ワイヤ134の両端から胴部フレーム318の内方にリード線が引き出されている。ワイヤ134は外皮314の左右に1本ずつ設けてもよいし、複数本ずつ並列に設けてもよい。ワイヤ134に通電することで腕(手106)を上げることができ、通電遮断することで腕(手106)を下げることができる。
【0030】
図3は、車輪収納機構の構造および動作を模式的に示す図である。
図3(a)は側面図であり、
図3(b)は正面図である。図中点線は車輪が収容空間Sから進出して走行可能な状態を示し、図中実線は車輪が収容空間Sに収納された状態を示す。
【0031】
車輪駆動機構370は、前輪駆動機構374および後輪駆動機構376を含む。前輪駆動機構374は、回動軸378およびアクチュエータ379を含む。回動軸378がホイールカバー105に連結されている。本実施形態では、アクチュエータ379としてモータが採用される。アクチュエータ379の駆動によりホイールカバー105を回動させることで、前輪102を収容空間Sから外部へ進退駆動できる。このように、前輪駆動機構374は「回動機構」として機能する。
【0032】
後輪駆動機構376は、回動軸404およびアクチュエータ406を含む。回動軸404の中央に回転軸407が支持されている。回転軸407からは二股のアーム408が延び、その先端に車軸410が一体に設けられている。車軸410に後輪103が回転可能に支持されている。回転軸407は自軸周りに回転自在であり、後輪103の向き(進行方向)を任意に変化させる。アクチュエータ406の駆動により、後部収容空間から外部へ後輪103を進退駆動できる。このように、後輪駆動機構376は「リンク機構」として機能する。
【0033】
車輪収納時には、アクチュエータ379,406が一方向に駆動される。このとき、ホイールカバー105が回動軸378を中心に回動し、前輪102が床面Fから上昇する。また、アーム408が回動軸404を中心に回動し、後輪103が床面Fから上昇する(一点鎖線矢印参照)。それにより、ボディ104が降下し、着座面108が床面Fに接地する(実線矢印参照)。これにより、ロボット100がお座りした状態が実現される。アクチュエータ379,406を反対方向に駆動することにより、各車輪を進出させ、ロボット100を立ち上がらせることができる。
【0034】
なお、後輪103の外側には尻尾を模した後部カバー107が設けられており、後輪103と連動してボディ104の後部下開口部を開閉する。すなわち、後輪103を進出させるときには後部カバー107が開動作し、後輪103を収納するときには後部カバー107が閉動作する。
【0035】
図4は、ロボット100のハードウェア構成図である。
ロボット100は、内部センサ128、通信機126、記憶装置124、プロセッサ122、駆動機構120およびバッテリー118を含む。駆動機構120は、上述した接続機構330や車輪駆動機構370を含む。プロセッサ122と記憶装置124は、制御回路342に含まれる。各ユニットは電源線130および信号線132により互いに接続される。バッテリー118は、電源線130を介して各ユニットに電力を供給する。各ユニットは信号線132により制御信号を送受する。バッテリー118は、リチウムイオン二次電池であり、ロボット100の動力源である。
【0036】
内部センサ128は、ロボット100が内蔵する各種センサの集合体である。具体的には、カメラ(全天周カメラ,高解像度カメラ)、マイクロフォンアレイ、測距センサ(赤外線センサ)、サーモセンサ、タッチセンサ、加速度センサ、ニオイセンサなどである。タッチセンサは、ボディ104の大部分の領域に対応し、静電容量の変化に基づいてユーザのタッチを検出する。ニオイセンサは、匂いの元となる分子の吸着によって電気抵抗が変化する原理を応用した既知のセンサである。
【0037】
通信機126は、後述のサーバ200や外部センサ114、ユーザの有する携帯機器など各種の外部機器を対象として無線通信を行う通信モジュールである。記憶装置124は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリにより構成され、コンピュータプログラムや各種設定情報を記憶する。プロセッサ122は、コンピュータプログラムの実行手段である。駆動機構120は、内部機構を制御するアクチュエータである。このほかには、表示器やスピーカーなども搭載される。
【0038】
プロセッサ122は、通信機126を介してサーバ200や外部センサ114と通信しながら、ロボット100の行動選択を行う。内部センサ128により得られる様々な外部情報も行動選択に影響する。駆動機構120は、主として、車輪(前輪102)や頭部(頭部フレーム316)の動きを制御する。駆動機構120は、2つの前輪102それぞれの回転速度や回転方向を変化させることにより、ロボット100の移動方向や移動速度を変化させる。また、駆動機構120は、車輪(前輪102および後輪103)を昇降させることもできる。車輪が上昇すると、車輪はボディ104に完全に収納され、ロボット100は着座面108にて床面Fに当接し、着座状態となる。また、駆動機構120は、ワイヤ134を介して、手106を制御する。
【0039】
図5は、ロボットシステム300の機能ブロック図である。
ロボットシステム300は、ロボット100、サーバ200および複数の外部センサ114を含む。ロボット100およびサーバ200の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。ロボット100の機能の一部はサーバ200により実現されてもよいし、サーバ200の機能の一部または全部はロボット100により実現されてもよい。
【0040】
家屋内にはあらかじめ複数の外部センサ114が設置される。サーバ200には、外部センサ114の位置座標が登録される。ロボット100の内部センサ128および複数の外部センサ114から得られる情報に基づいて、サーバ200がロボット100の基本行動を決定する。外部センサ114はロボット100の感覚器を補強するためのものであり、サーバ200はロボット100の処理能力を補強するためのものである。ロボット100の通信機126が外部センサ114と定期的に通信し、サーバ200は外部センサ114によりロボット100の位置を特定する。
【0041】
(サーバ200)
サーバ200は、通信部204、データ処理部202およびデータ格納部206を含む。通信部204は、外部センサ114およびロボット100との通信処理を担当する。データ格納部206は各種データを格納する。データ処理部202は、通信部204により取得されたデータおよびデータ格納部206に格納されるデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部202は、通信部204およびデータ格納部206のインタフェースとしても機能する。
【0042】
データ格納部206は、モーション格納部232、マップ格納部216および個人データ格納部218を含む。ロボット100は、複数の動作パターン(モーション)を有する。手106を震わせる、蛇行しながらユーザに近づく、首をかしげたままユーザを見つめる、など様々なモーションが定義される。
【0043】
モーション格納部232は、モーションの制御内容を定義する「モーションファイル」を格納する。各モーションは、モーションIDにより識別される。モーションファイルは、ロボット100のモーション格納部160にもダウンロードされる。どのモーションを実行するかは、サーバ200で決定されることもあるし、ロボット100で決定されることもある。ロボット100のモーションの多くは、複数の単位モーションを含む複合モーションとして構成される。
【0044】
マップ格納部216は、状況に応じたロボットの行動を定義した行動マップのほか、椅子やテーブルなどの障害物の配置状況を示すマップも格納する。個人データ格納部218は、ユーザの情報を格納する。具体的には、ユーザに対する親密度とユーザの身体的特徴・行動的特徴を示すマスタ情報を格納する。年齢や性別などの他の属性情報を格納してもよい。
【0045】
ロボット100は、ユーザごとに親密度という内部パラメータを有する。ロボット100が、自分を抱き上げる、声をかけてくれるなど、自分に対して好意を示す行動を認識したとき、そのユーザに対する親密度が高くなる。ロボット100に関わらないユーザや、乱暴を働くユーザ、出会う頻度が低いユーザに対する親密度は低くなる。
【0046】
データ処理部202は、位置管理部208、認識部212、動作制御部222および親密度管理部220を含む。位置管理部208は、ロボット100の位置座標を特定する。位置管理部208はユーザの位置座標もリアルタイムで追跡してもよい。
【0047】
認識部212は、外部環境を認識する。外部環境の認識には、温度や湿度に基づく天候や季節の認識、光量や温度に基づく物陰(安全地帯)の認識など多様な認識が含まれる。ロボット100の認識部150は、内部センサ128により各種の環境情報を取得し、これを一次処理した上でサーバ200の認識部212に転送する。
【0048】
認識部212は、更に、人物認識部214と応対認識部228を含む。人物認識部214は、ロボット100の内蔵カメラによる撮像画像から抽出された特徴ベクトルと、個人データ格納部218にあらかじめ登録されているユーザ(クラスタ)の特徴ベクトルと比較することにより、撮像されたユーザがどの人物に該当するかを判定する(ユーザ識別処理)。人物認識部214は、表情認識部230を含む。表情認識部230は、ユーザの表情を画像認識することにより、ユーザの感情を推定する。
【0049】
応対認識部228は、ロボット100になされた様々な応対行為を認識し、快・不快行為に分類する。応対認識部228は、また、ロボット100の行動に対するユーザの応対行為を認識することにより、肯定・否定反応に分類する。快・不快行為は、ユーザの応対行為が、生物として心地よいものであるか不快なものであるかにより判別される。
【0050】
動作制御部222は、ロボット100の動作制御部152と協働して、ロボット100のモーションを決定する。動作制御部222は、ロボット100の移動目標地点とそのための移動ルートを作成する。動作制御部222は、複数の移動ルートを作成し、その上で、いずれかの移動ルートを選択してもよい。動作制御部222は、モーション格納部232の複数のモーションからロボット100のモーションを選択する。
【0051】
親密度管理部220は、ユーザごとの親密度を管理する。親密度は個人データ格納部218において個人データの一部として登録される。快行為を検出したとき、親密度管理部220はそのユーザに対する親密度をアップさせる。不快行為を検出したときには親密度はダウンする。また、長期間視認していないユーザの親密度は徐々に低下する。
【0052】
(ロボット100)
ロボット100は、通信部142、データ処理部136、データ格納部148、内部センサ128、および駆動機構120を含む。通信部142は、通信機126(
図4参照)に該当し、外部センサ114、サーバ200および他のロボット100との通信処理を担当する。データ格納部148は各種データを格納する。データ格納部148は、記憶装置124(
図4参照)に該当する。データ処理部136は、通信部142により取得されたデータおよびデータ格納部148に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部136は、プロセッサ122およびプロセッサ122により実行されるコンピュータプログラムに該当する。データ処理部136は、通信部142、内部センサ128、駆動機構120およびデータ格納部148のインタフェースとしても機能する。
【0053】
データ格納部148は、ロボット100の各種モーションを定義するモーション格納部160を含む。モーション格納部160には、サーバ200のモーション格納部232から各種モーションファイルがダウンロードされる。モーションは、モーションIDによって識別される。様々なモーションを表現するために、各種アクチュエータ(駆動機構120)の動作タイミング、動作時間、動作方向などがモーションファイルにおいて時系列定義される。
【0054】
データ格納部148には、マップ格納部216および個人データ格納部218からも各種データがダウンロードされてもよい。
【0055】
データ処理部136は、認識部150および動作制御部152を含む。認識部150は、内部センサ128から得られた外部情報を解釈する。認識部150は、視覚的な認識(視覚部)、匂いの認識(嗅覚部)、音の認識(聴覚部)、触覚的な認識(触覚部)が可能である。
【0056】
認識部150は、内蔵の全天周カメラにより定期的に外界を撮像し、人やペットなどの移動物体を検出する。認識部150は、移動物体の撮像画像から特徴ベクトルを抽出する。上述したように、特徴ベクトルは、移動物体の身体的特徴と行動的特徴を示すパラメータ(特徴量)の集合である。移動物体を検出したときには、ニオイセンサや内蔵の集音マイク、温度センサ等からも身体的特徴や行動的特徴が抽出される。これらの特徴も定量化され、特徴ベクトル成分となる。
【0057】
認識部150により認識された応対行為に応じて、サーバ200の親密度管理部220はユーザに対する親密度を変化させる。原則的には、快行為を行ったユーザに対する親密度は高まり、不快行為を行ったユーザに対する親密度は低下する。
【0058】
動作制御部152は、サーバ200の動作制御部222とともにロボット100の移動方向を決める。行動マップに基づく移動をサーバ200で決定し、障害物をよけるなどの即時的移動をロボット100で決定してもよい。駆動機構120は、動作制御部152の指示にしたがって前輪102(車輪駆動機構370)を駆動することで、ロボット100を移動目標地点に向かわせる。
【0059】
動作制御部152は、サーバ200の動作制御部222と協働してロボット100のモーションを決める。一部のモーションについてはサーバ200で決定し、他のモーションについてはロボット100で決定してもよい。また、ロボット100がモーションを決定するが、ロボット100の処理負荷が高いときにはサーバ200がモーションを決定するとしてもよい。サーバ200においてベースとなるモーションを決定し、ロボット100において追加のモーションを決定してもよい。モーションの決定処理をサーバ200およびロボット100においてどのように分担するかはロボットシステム300の仕様に応じて設計すればよい。
【0060】
動作制御部152は、選択したモーションを駆動機構120に実行指示する。駆動機構120は、モーションファイルにしたがって、各アクチュエータを制御する。モーションファイルに頭部の動作や車輪の進退動作が定義されている場合、動作制御部152は、駆動機構120を駆動してその動作制御を実行する。
【0061】
動作制御部152は、親密度の高いユーザが近くにいるときには「抱っこ」をせがむ仕草として両方の手106をもちあげるモーションを実行することもできるし、「抱っこ」に飽きたときには左右の前輪102を収容したまま逆回転と停止を交互に繰り返すことで抱っこをいやがるモーションを表現することもできる。駆動機構120は、動作制御部152の指示にしたがって前輪102や手106、首(頭部フレーム316)を駆動することで、ロボット100に様々なモーションを表現させる。
【0062】
次に、ロボット100の特徴的構成および動作について説明する。
図6~
図8は、車輪収納機構の構造および動作を表す図である。
図6は、ロボット100の下半部について外皮314を除いた状態を示す斜視図である。
図6(a)は車輪収納状態を示し、
図6(b)は車輪進出状態を示す。
図7は、車輪進出状態を示す側面図である。
図8は、車輪の進出動作を正面側からみた部分拡大図である。
図8(a)~(f)は車輪の進出過程を示している。
【0063】
図6(a)に示すように、一対のカバー312は、本体フレーム310に対して左右対称に構成され、その前面と後面において接合されている(接合部502)。これらのカバー312は、本体フレーム310と共にボディ104を形成する。両カバーの接合は、本実施形態では溶着又は接着によりなされるが、ねじ留めによる締結その他の固定方法を採用してもよい。カバー312は、可撓性および弾性を有する樹脂材(本実施形態ではラバー、シリコーンゴム等)からなる。カバー312の側面から前面にかけて縦方向のスリット313が設けられている。スリット313は、ボディ104の側面視円弧状(扇状)をなしている。
【0064】
カバー312は、スリット313を境界とした内側に装着部510、外側に膨出部512を有する。装着部510が本体フレーム310に対して固定される。膨出部512は、本体フレーム310から離れる方向へ膨出する形状を有し、本体フレーム310との間に閉空間を形成する。膨出部512には、その形状に沿ってばね材514が埋設(インサート成形)されている。ばね材514は、金属板(ばね鋼板)を板金加工により骨組み形状に打ち抜き、さらに湾曲形状に成形して得られる。そのばね材514を所定の金型にセットし、樹脂材の射出成形を行うことによりカバー312が得られる。この金型のチャンバもカバー312の形状に沿う湾曲形状部分を有する。ばね材514は、カバー312の芯材として機能し、樹脂材(ラバー)と共に「弾性体」を構成する。
【0065】
なお、ばね材514には、その全長にわたって所定間隔で複数の小孔516が形成されている。射出成形時に樹脂材がこれらの小孔516を介してばね材514の表裏に回り込めるようにし、ばね材514と樹脂材との接合の安定化を図っている。スリット313の両端(上下端)にはそれぞれ円孔518が設けられ(
図7参照)、スリット313が押し広げられるときの端部への応力集中を緩和し、カバー312の破断を防止している。
【0066】
車輪収納状態においては図示のように、スリット313が閉じられた状態となる。前輪102は、カバー312の内方に完全に収容される。カバー312内の収容空間Sは、前輪102と一体のホイールカバー105がちょうど一つ入る程度の大きさを有する。
【0067】
図6(b)に示す車輪駆動時には、前輪102がスリット313から突出し、カバー312の外部に露出する態様となる。この前輪102の進出過程で、ホイールカバー105が膨出部512を外側に押し広げる態様となる。カバー312は、その弾性および可撓性により、図示のようにホイールカバー105が差し掛かる部分を中心に撓み、ホイールカバー105が通過した部分は元の形状に弾性復帰する態様となる。すなわち、前輪102が進出する過程で、スリット313の変形領域が移り変わる。車輪を収納する際には、上記と逆の車輪動作が行われる。
【0068】
図示のように、前輪102は、その接地面を除く大部分がホイールカバー105に覆われている。ホイールカバー105と前輪102との隙間が非常に小さくされており、周辺物の巻き込みや挟み込みが防止されている。カバー312におけるスリット313の部分に接触する箇所を前輪102そのものではなくホイールカバー105とすることで、前輪102の出し入れに際してカバー312が汚れることを防止している。
【0069】
ホイールカバー105の外面には、前輪102の半径方向外側に向かうにつれて前輪102の外面に近づくように傾斜するテーパ面520が設けられている。車輪進出時には、ホイールカバー105の外面がスリット313に当接する。このとき、テーパ面520に沿ってスリット313をスムーズに押し広げることができ、前輪102の出し入れが円滑に行われるようになる。
【0070】
また、テーパ面520を設けたことで、ホイールカバー105は、膨出部512の内面と相補形状の外面を有する。それにより、
図6(a)に示した車輪収納状態において膨出部512に外圧が作用したとしても、ホイールカバー105により内側から支えられることで、膨出部512の変形を防止又は抑制できる。例えば、ユーザがロボット100を抱きしめるようなとき、その強さによって膨出部512が弾性変形してしまう虞がある。このような場合でも、剛体であるホイールカバー105が芯材として機能することにより、膨出部512の過度な変形や潰れを防止できる。
【0071】
図7に示すように、ホイールカバー105は、本体フレーム310の底部近傍に設けられた回転軸522を中心に回動する。スリット313は、カバー312において前輪102の軌道上に設けられている(二点鎖線参照)。カバー312の内側(より詳細には、装着部510および膨出部512におけるスリット313近傍の内面)には、滑り部材535が設けられている。滑り部材535は、耐摩耗性が高い樹脂(例えばポリアセタール(POM)等)からなるシート状部材であり、スリット313近傍におけるホイールカバー105との接触部分に配設されている。滑り部材535は、前輪102が進退駆動される際にホイールカバー105に当接して滑らかにガイドすることで、カバー312が摩耗(劣化)することを防止又は抑制する。
【0072】
ばね材514は、膨出部512の周縁近傍に沿った環状のベース部540と、ベース部540の径方向に架け渡される複数のフレーム形成部542を有し、これらにより骨組み構造が形成されている。ベース部540とフレーム形成部542との間、および隣接するフレーム形成部542間に適度な間隔を確保して樹脂材を満たすことで(言い換えれば、ばね材514を適切な形状、厚み、幅に設定することで)、膨出部512全体として適度な弾性が得られる。ベース部540は、スリット313の近傍に沿って延在している。
【0073】
ばね材514は、静電容量センサ(近接センサ)の電極としても機能する。ユーザがロボット100を抱き上げる場合など、カバー312に触れると、その電極周辺の静電容量が変化する。この変化を検出することによりユーザのタッチを判定できる。このように、ロボット100の胴部にあたるカバー312全体にわたってばね材514を配置し、センサ電極として大きな面積を確保することで、タッチセンサの感度を高めることができる。
【0074】
車輪駆動時には、
図8(a)→(b)→(c)→(d)→(e)→(f)のように前輪102がカバー312から徐々に押しだされ、最終的にはその大半が外部に露出する。車輪収納時には逆に、
図8(f)→(e)→(d)→(c)→(b)→(a)のように前輪102がカバー312へ徐々に引き込まれ、最終的には完全に収納される。このとき、スリット313も閉じる。膨出部512は、お椀のような三次元曲面形状を有するが、図示のように車輪を進出させる過程および退避させる過程でその曲面形状が変化する。このような車輪進退時の挙動は、前輪102がカバー312から柔軟に出し入れされる態様となり、ユーザに生物的な柔らかさや温かみを感じさせる。
【0075】
図9は、ボディ104の組付け方法を概略的に表す図である。
図9(a)~(c)は、その組付け過程を示す。
ボディ104の組付け工程においては、
図9(a)に示すように、本体フレーム310およびその内部機構等を組み立てる。前輪102およびホイールカバー105は、退避状態(収納状態)に位置させる。
【0076】
続いて、
図9(b)に示すように、一対のカバー312を本体フレーム310の左右から組み付けて固定する。なお、上記では説明を省略したが、カバー312の内面には前輪102と干渉しない位置に補強用のリブ526が複数設けられており、このカバー312の組み付けを安定かつスムーズに行うことができる。
【0077】
続いて、
図9(c)に示すように、頭部の側から外皮314を被せる。外皮314の上部正面には、頭部フレーム316の顔領域を露出させるための円形の開口部528が設けられている。外皮314は、ロボット100の正面側および背面側に延在し、それらの延在部530がスリット313に干渉しないように構成されている。
【0078】
以上、実施形態に基づいてロボット100について説明した。本実施形態によれば、カバー312が、前輪102の進出に伴って受ける押圧力により弾性変形してスリット313を大きくし、前輪102の退避に伴って弾性復帰してスリット313を小さくする。スリット313の変形態様も生物の柔らかい部位の動きを想起させるものとなる。それにより、ロボット100にペットのような生命感や親近感をもたせることができる。車輪を完全収容することで、ユーザがロボット100を抱き上げたときに干渉したり、衣服が汚れることも防止でき、ユーザへの配慮が行き届いたものとなる。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0080】
図10は、第1変形例に係る車輪収納構造を表す図である。
図10(a)は、車輪収容部およびその周辺の構造を表す側面図である。
図10(b)は、
図10(a)のA-A矢視断面図である。
図10(c)は、
図10(a)のB方向矢視図(正面図)である。
【0081】
図10(a)に示すように、本変形例では、スリット313の上端部近傍において、前輪102およびホイールカバー105の軌道と干渉しない位置に遮蔽部550が設けられている。遮蔽部550は、可撓性樹脂材からなり、
図10(b)に示すようなひだ構造を有する。そのひだ構造の開口端がスリット313の開口部と一体化され、折り返し部がスリット313の内方に配置される。車輪進出時にスリット313が押し広げられる際、および車輪収納時に引き込まれる際には、そのひだ構造が
図10(b)左側の基準状態と右側の拡開状態との間で変化する。
【0082】
このような構成により、
図10(c)に示すように、ロボット100の正面視において内部構造(機械構造部分)を隠すことができる。すなわち、車輪進出時に機械構造部分が覗き見えることでユーザが興ざめすることを防止できる。また、幼児の悪戯など、ユーザがスリット313を無理やり押し広げようとしたときに、ひだ構造が拡開状態でストッパとなり、カバー312の破損を防止できる。
【0083】
図11は、第2変形例に係る車輪収納構造を表す図である。
図11(a)は、外皮314を除いた状態の車輪収納状態を表す図である。
図11(b)は、外皮314を除いた状態の車輪進出状態を表す図である。
図11(c)は、外皮314を装着した状態の車輪進出状態を表す図である。
【0084】
図11(a)および(b)に示すように、本変形例では、カバー612は、上記実施形態のようなスリット313を有しない点を除き、カバー312と同様である。車輪収納状態においては、カバー612の内縁部が胴部フレーム318の側面に当接し、その内方に収容空間Sを形成する。車輪駆動時に前輪102が進出すると、ホイールカバー105が胴部フレーム318とカバー612との隙間を掻き分ける。このとき、カバー612の下部が外側に押し出され、胴部フレーム318の側面とカバー612との間に開口部613が形成される。
図11(c)に示すように、外皮314は、開口部613には干渉しない。カバー612が「ボディ形成部材」として機能し、その下部内縁部が「可撓性部位」として機能する。
【0085】
このような構成によっても、カバー612は、前輪102の進出に伴ってホイールカバー105からの押圧力により弾性変形する(撓む)ことで、開口部613を大きくする。カバー612は、開口部613が押し広げられた際にこれを閉じる方向の付勢力を発生させ、前輪102の退避に伴って弾性復帰して開口部613を閉じる。その結果、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0086】
図12は、第3および第4変形例に係る車輪収納構造を表す側面図である。
第3,第4変形例では、ばね材の形状が上記実施形態のばね材514とは異なる。
図12(a)に示す第3変形例では、ばね材614のベース部640において前輪102の軌道に沿う部分644が、相対的にスリット313から離隔するように構成されている。それにより、膨出部512の周縁部においてホイールカバー105に押し広げられる部分が撓み易くされている。このような構成により、車輪進出時におけるスリット313の拡開箇所をより限定的なものとし、外部から内部構造が見え難い構成とすることができる。
【0087】
図12(b)に示す第4変形例では、ばね材714のベース部740において前輪102の軌道に沿う部分を部分的に欠落させている。それにより、第3変形例と同様に、膨出部512の周縁部においてホイールカバー105に押し広げられる部分が撓み易くされている。さらに、膨出部512の外面において、前輪102の軌道に沿う周縁近傍に円弧状の触感形成部750が設けられている。触感形成部750は、膨出部512の他の領域よりも柔らかい軟質領域を形成し、ユーザに心地良い触感を与える。
【0088】
図13および
図14は、第5変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
図13はロボットの断面図を示し、
図14は当該機構によるロボットの動作例を示す。
図13に示すように、第5変形例では、左右の前輪102の進退駆動が、それぞれ個別に制御される。すなわち、左前輪102aの回動軸378aがアクチュエータ379aに接続され、右前輪102bの回動軸378bがアクチュエータ379bに接続されている。アクチュエータ379a,379bは、それぞれ独立したモータからなり、個別に駆動される。
【0089】
このような構成により、左右輪で進退駆動のタイミングをずらすことができる。
図14(a)~(c)に示すように、ロボット100が体を左右に傾けながら片足ずつ立ち上がる、立ち上がった状態から左右で上下に揺れる、あるいは揺れながら走行する等、モーションのバリエーションを豊かにできる。生物的な動作も実現できる。
【0090】
上記実施形態では、収容空間Sに収容される移動機構として前輪102を例示したが、後輪103を同様に収容してもよい。すなわち、本体フレーム310の背面とカバー(弾性体)との間に閉空間(収容空間)を設け、後輪103を収納してもよい。カバーは、後輪103の進出に伴って受ける押圧力により弾性変形し、後輪103を露出させるための開口部(スリット)を大きくし、後輪103の退避に伴って弾性復帰してその開口部を小さくする。なお、上記実施形態では述べなかったが、後輪103をボール状のキャスターにて構成してもよい。あるいは、後輪103として、例えばオムニホイール等、前後左右に移動自在の他の車輪を採用してもよい。
【0091】
上記実施形態では、樹脂材にばね材514をインサート成形してカバー312を得る構成としたが、樹脂材の表面に装着する構成としてもよい。例えば、膨出部512の内面にばね材514を貼り付けるなどして固定する構成としてもよい。あるいは、2枚のラバーを間にばね材514を挟んだ状態で貼りあわせるなどの構成を採用してもよい。
【0092】
上記実施形態では、一対のカバー312を接合する例を示した。変形例においては、左右のカバーを接合するのではなく、それぞれを本体フレーム310の左側面、右側面に組み付ける構成としてもよい。あるいは、一枚の樹脂材の左領域と右領域のそれぞれにばね材を配設し、ロボットの胴部フレームに巻き付ける構成としてもよい。カバーを外皮の一部として一体化し、ロボットに被せてもよい。
【0093】
上記実施形態では、カバーをラバーにて構成したが、低弾性樹脂などの可撓性部材にて構成してもよい。カバーの素材として、外皮と同様の素材を採用してもよい。上記実施形態では述べなかったが、スリット313の端縁又はその近傍に磁石を設けてもよい。具体的には、スリット313における装着部510側の端縁に磁石を配置してもよい。これにより、膨出部512側の金属製のばね材514と、装着部510側の磁石とが磁力により引き合い、スリット313を閉じ易くすることで、ロボット100の内部構造を極力見え難くすることができる。スリット313における膨出部512側の端縁と装着部510側の端縁とを密着させ易くなる。あるいは、スリット313における膨出部512側の端縁にも磁石を配置してもよい。これにより、膨出部512側の磁石と、装着部510側の磁石とが磁力により引き合い、スリット313をより閉じ易くすることができる。
【0094】
上記実施形態では、ばね材514の骨組み構造の一例を示したが、格子形状、網目形状、ハニカム形状その他の形状を採用してもよい。ばね材として骨組み構造を有しないものを採用してもよいが、切欠き等を設けることでばね材の形状を調整し、適度な弾性が得られるようにする。ばね材514として、静電容量センサとして機能する金属板を採用したが、センサ機能を有しないものとしてもよい。ばね材をモールド樹脂(インサート成形用の樹脂)よりも弾性が大きい樹脂材としてもよい。例えば、樹脂からなる板材に熱成形を施して弾性を向上させてもよい。具体的には、膨出部512の形状に沿う金型を用意する。そして、樹脂の板材をその金型に被せた状態で加熱して軟化させ、真空圧や圧空圧にて金型の形状に沿わせるように変形させる。このようにばね材として樹脂材を採用することで、金属板を採用する場合のようなスプリングバックが生じ難く、個体ごとの形状を安定化させることができる。あるいは、樹脂材の射出成形によってばね材を成形してもよい。なお、このようにばね材を樹脂材にて構成する場合、両サイドのタッチセンサ(静電容量センサ)を別部材として設けてもよい。
【0095】
上記実施形態では、前輪102の大部分をホイールカバー105で覆う構成を例示した。変形例においてはホイールカバー105を省略し、前輪102によって開口部を押し広げる構成としてもよい。上記実施形態では、車輪駆動時に前輪102の大半をカバー312から露出させるものの、一部はカバー312の内部に配置する態様を示した。変形例においては、車輪駆動時に前輪102の全体を外部に露出させてもよい。その場合にも、ホイールカバー105における回動軸378の近傍部分については、カバー312の内部に配置する構成としてよい。
【0096】
上記実施形態では、ロボットが「移動機構」として車輪を有する構成を例示した。変形例においては「移動機構」を脚部とし、ロボットが歩行可能な構成としてもよい。駆動機構は、カバー(弾性体、ボディ形成部材)の内方の収納空間から外部へ脚部を進退駆動する。このとき、脚部の進出に伴い、本体フレームとカバーとの間、又はカバーそのものに形成された開口部が押し広げられる。脚部の収納に伴い、カバーが弾性復帰して開口部を閉じる。
【0097】
上記実施形態では述べなかったが、ロボットの落下を判定する落下判定部を備えてもよい。その落下判定部は、例えば加速度センサの検出値に基づいて落下を判定してもよい。すなわち、車輪がカバー(弾性体)から進出した状態でロボットの落下が判定された場合、駆動機構が車輪を速やかにカバーに収納し、ロボットが床面に落下したときの衝撃を吸収してもよい。特に上記実施形態のように車輪支持部にショックアブソーバ(ばね等)を有しない構造において、車輪の損傷を防止または緩和できる。なお、車輪収納制御は、前輪および後輪を含む全ての車輪について実行する。
【0098】
上記実施形態では述べなかったが、車輪の収納条件(退避条件)を適宜設定してよい。例えばユーザが近くにいるとき、ロボットは自発的に車輪を収納し、お座りをして抱っこをせがむような仕草をしてもよい。具体的には、ロボットが所定距離以内にユーザを検出したことを条件としてもよい。さらに、そのユーザについて記憶されている親密度が基準値以上であることを条件に含めてもよい。
【0099】
また、ロボットが抱き上げられたときなど、ユーザの接触態様に応じた収納条件を設定してもよい。具体的には、ロボットの両サイド(例えば一対の膨出部512)が触られており、かつ上方に持ち上げられることをその条件としてもよい。前者については、タッチセンサ(ばね材514による静電容量センサなど)により検出することができる。後者については、加速度センサの検出に基づき判定できる。
【0100】
車輪の作動中又は作動直後に落下が判定されることを収納条件に含めてもよい。ロボットは、床面の段差を検出する段差検出部(図示せず)を有する。段差検出部が段差を検出した場合、ロボットは、検出した段差から落下しないように進路を変更する。しかし、例えばロボットが段差の際に位置するときに子供に押される場合など、ロボットの外部から所定量以上の力が加えられると、それに対処できず落下してしまうことが想定される。このような場合、落下判定部は、直後に落下を判定し、落下の検出および判定に基づいて車輪を収納してもよい。
【0101】
車輪の進出条件についても適宜設定してよい。例えばロボットが床面に置かれていることを前提とし、所定距離以内にユーザが検出されないことを進出条件としてもよい。ユーザに触れられていないこと(いずれのタッチセンサも接触を検出していないこと)をその条件としてもよい。あるいは、ユーザにより特定部位が触れられていないこと(特定のタッチセンサが接触を検出していないこと)をその条件としてもよい。例えば、ロボットの両サイド(一対の膨出部512など)が触られていないことをその条件としてもよい。また、このような進出条件が成立してから予め定める待ち時間(設定時間)が経過することを追加条件として含め、その追加条件が満たされたときに車輪進出動作を実行してもよい。このように待ち時間を設定することにより、例えば、不安定な場所にロボットが置かれ、倒れるような場合でも、車輪は収納されたままなので、意図しない負荷が車輪にかかり、車輪が破損することを防ぐことができる。
【0102】
上記実施形態では述べなかったが、カバー(弾性体)の弾性については適宜設定できる。カバーの弾性率を低くすれば、車輪を進退させるときの変形度合いが大きくなり、車輪を露出させた状態での開口領域を小さくできる。一方、カバーの弾性率を高く維持することで、外部から衝撃を受けた場合に内方の車輪を保護し易い。このため、カバーと本体フレームとの隙間を車輪が進退する場合、カバーにおいて本体フレームに近い側(近接部位)の弾性率を、遠い側(離隔部位)の弾性率よりも低く構成してもよい。
【0103】
上記実施形態では述べなかったが、カバーを構成する樹脂材の表面をスエード生地などの肌触りの良い素材で覆うようにしてもよい。
【0104】
図15は、第6変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
図15(a)は、車輪収容部およびその周辺の構造を表す側面図である。
図15(b)は、車輪収容状態を正面からみた断面図である。
図15(a)に示すように、本変形例は、カバー900を備える。カバー900は、第1カバー902および第2カバー904を含む。第1カバー902は、膨出部512を有し、全体としてお椀形状(半球状)をなすが、上端が平坦に形成されている。第1カバー902は、後端部がその周縁に沿って胴部フレーム318に固定されているが(一点鎖線領域参照)、上端部を含む他の部分はフリーとされている。第1カバー902において、前輪102の進退による変形が少ない箇所を固定したものである。
【0105】
第2カバー904は、第1カバー902の上方に配設されている。第2カバー904は、柔軟なラバーシートからなり、その上半部が胴部フレーム318に固定され(一点鎖線領域参照)、下半部がフリーとされている。第2カバー904の下部が第1カバー902の上端部にオーバーラップしており、前輪102の進退時に第1カバー902の上端開口部が大きくなっても、これを覆い隠すことができる。また、第2カバー904の材質として、第1カバー902の上端開口部の開口状態に対応して伸縮できる柔軟素材を用いた場合には、第2カバー904の下部を第1カバー902の上端部に接着してもよい。
【0106】
図15(b)にも示すように、第1カバー902の内縁部(周縁部)が胴部フレーム318の側面に当接することで、膨出部512の内方に閉空間が形成される。この閉空間が収容空間Sとして機能する。
【0107】
胴部フレーム318と第1カバー902との間には、スプリング910が介装されている。スプリング910は、前輪102およびホイールカバー105の軌道と干渉しないよう、胴部フレーム318の上部前側と下部後側に配置されている。前輪102が進出する際には、第1カバー902の周縁部(前端部および上端部)と胴部フレーム318との間に開口部が形成される。各スプリング910は、「付勢機構」として機能し、第1カバー902を胴部フレーム318へ近接する方向(両者間の開口部を閉じる方向)に付勢する(実線矢印参照)。このため、前輪102が進出した際に形成される開口部を小さくできる。
【0108】
さらに、胴部フレーム318の左右側面には、内外を連通する連通孔912が設けられ、胴部フレーム318の内部にファン914が設けられている。連通孔912には、胴部フレーム318の内部への異物の進入を抑制するフィルタが設けられている。ファン914は、内部の冷却のために用いられるが、第1カバー902を閉じると、外部からの空気の流入が難しくなり、ファン914を駆動することにより、収容空間Sの空気が吸引される(二点鎖線矢印参照)。それにより収容空間Sを負圧化し、第1カバー902を胴部フレーム318側に引き寄せる効果が生まれる(一点鎖線矢印参照)。その結果、開口部をよりしっかりと閉じることができる。前輪102を収納するときや、ロボットがユーザの接触を検出したときにファン914の回転数を高めるようにしてもよい。それにより、開口部をより確実に閉じることができる。
【0109】
なお、本変形例は、スプリング910の付勢力とファン914の吸引力とにより開口部を小さくする構成を例示したが、それらのうち一方を省略してもよい。また、本変形例を
図11に類似した構造(胴部フレーム318と第1カバー902との間に開口部が形成される構造)に適用したが、
図7に示した構造(カバーそのものにスリットが形成される構造)に適用してもよい。その場合、車輪の軌道と干渉しないよう、胴部フレームと膨出部との間にスプリングを配置すればよい。
【0110】
図16は、第7変形例に係る車輪収納機構を表す図である。
図16(a)は、車輪収容部およびその周辺の構造を表す側面図である。
図16(b)は車輪の側面図であり、
図16(c)は車輪収納機構の動作を表す図である。
図16(a)に示すように、本変形例では、ロボットの車輪が四輪とされている。前輪922Fが駆動輪であり、後輪922Rが従動輪である。両者を特に区別しない場合、「車輪922」と総称する。なお、同図には説明の便宜上、左輪のみ示される。右輪は図示略の車軸を介して左輪と連結される。
【0111】
車輪922は、接地面を除く大部分がホイールカバー925に覆われる。ホイールカバー925は、胴部フレーム918の側面に露出し、上記実施形態のように収容空間に対して進退することはない。一方、
図16(b)にも示すように、ホイールカバー925の内方に収容カバー930が配設されている。収容カバー930は、概略円板状をなし、回転軸932を中心に回転可能に設けられている。回転軸932の軸線は、車輪922の軸線と一致する。収容カバー930は、小径部934と大径部936を含み、周方向に段差形状を有する。小径部934は車輪922よりも小さな曲率半径を有し、大径部936は車輪922よりも大きな曲率半径を有する。大径部936の外周縁から胴部フレーム918側に向けて所定高さの外枠部938が延在している。外枠部938の高さは、車輪922の幅よりも大きい。
【0112】
図16(a)に示すように、胴部フレーム918には、アクチュエータ940が設けられている。本変形例では、アクチュエータ940としてモータが採用される。動作制御部152がアクチュエータ940を駆動することで収容カバー930を回動させることができる。通常制御時、つまりロボットが走行可能な状態では、
図16(b)に示すように、収容カバー930をホイールカバー925内に退避させ、車輪922を露出させる。一方、車輪収納条件が成立すると、アクチュエータ940を駆動して収容カバー930を所定角度(本変形例では180度)回動させる。それにより、
図16(c)に示すように、収容カバー930が車輪922を覆い隠す。ロボットが持ち上げられたとき、車輪922が床面に接地していないとき、ロボットの着座面(底面)と床面との距離が所定距離より大きくなったとき等、車輪922の走行面が接地せずに浮いている状態を検出することが、車輪収納条件として定義される。ロボットは、各種のセンサを用いて、ロボットの状態が車輪収納条件を満たすか否かを判断する収納条件判断部(図示せず)を備える。駆動機構は、車輪収納条件が満たされていると判断された場合に、収容カバー930を進出駆動する。それにより、収容カバー930が車輪922を覆い隠す。ユーザがロボットを抱き上げるときにこのような制御を行うことで、車輪922がユーザに干渉したり、衣服を汚す等の問題を回避できる。なお、車輪収納条件として、上述した収納条件(落下が検出されるとき等)を含めてもよい。
【0113】
本変形例は、カバーを動かすことで車輪を覆う構造であるため、ロボットを床面に下ろす際には、床面にカバーが接地する前にカバーを退避させる必要がある。このため、車輪収納条件を満たしている状態からロボットを床面に下ろす際、ロボットが床面に接する前に収容カバー930をホイールカバー925の内部に退避させる。例えば、ロボットと床面との距離を、超音波や赤外線などを用いる測距センサにより測定してもよいし、気圧計を用いて測定してもよい。また、これらのセンサに加速度センサを併用することで、車輪922が床面から浮いているのか、浮いている状態から床面に接しそうなのかを高精度に判定できる。このように車輪を露出させる条件(収容カバー930を退避させる条件)として、上述した進出条件(ユーザにより特定部位が触れられていないこと、落下していないこと等)を含めてもよい。ロボットの姿勢を判定する姿勢判定部を設けてもよい。ロボットが抱き上げられた姿勢(横抱っこ、縦だっこ)、落下状態などの所定の姿勢のとき、車輪が床面等の対象物に接していても、カバーを退避させないようにしてもよい。また、ロボットの特定箇所にユーザからの直接的な操作を受け付けるスイッチ等のインタフェースを設け、そのスイッチが操作されたときに、車輪が露出していれば、収容カバー930を進出させて車輪922を覆い隠し、車輪が覆われていれば、収納カバー930を退避させて車輪922を露出されてもよい。このように、ユーザによる直接操作も、車輪収納条件と進出条件として定義されてもよい。
【0114】
本変形例のロボットは、以下の技術思想として表現できる。このロボットは、ボディと、移動時の接地面を有する移動機構と、前記移動機構に対して進出又は退避可能に前記ボディに支持され、進出駆動されることにより前記接地面を覆うことが可能なカバーと、予め定める収納条件が成立したか否かを判断する収納条件判断部と、前記収納条件が成立すると、前記カバーを進出駆動する駆動機構と、を備える。ロボットは、内部および外部の少なくともいずれかの状態を検出するセンサを備える。前記収納条件判断部は、前記センサの検出情報に基づいて、収納条件が成立したか否かを判断する。ロボットは、予め定める収納維持条件が成立しているか否かを判断する収納維持条件判断部(図示せず)をさらに備えてもよい。前記駆動機構は、前記収納維持条件が成立している間は前記カバーの退避駆動を禁止する。ロボットは、抱き上げられた状態であることを判定する抱き上げ判定部をさらに備えてもよい。前記収納維持条件として、ロボットが抱き上げられた状態であることを含めてもよい。
【0115】
また、以下のようにも表現できる。このロボットは、本体フレームと、前記本体フレームに固定された第1カバーと、前記第1カバーから一部を露出させるように前記本体フレームに支持された移動機構と、前記第1カバーと前記本体フレームとの間の空間に配置された第2カバーと、前記第2カバーを前記第1カバーから進出又は内部に退避させる駆動機構と、を備え、前記第2カバーが進出することにより、前記第1カバーとの間に閉空間を形成し、その閉空間に前記移動機構を収容する。
【0116】
本変形例において、胴部フレーム918が「本体フレーム」に対応し、ホイールカバー925が「第1カバー」に対応し、車輪922が「移動機構」に対応する。また、収容カバー930が「第2カバー」に対応し、アクチュエータ940が「駆動機構」に対応する。本変形例によれば、ユーザがロボットを抱き上げるなど、ロボットに触れるときに移動機構に干渉することを防止又は抑制するという課題を解決できる。
【0117】
なお、本変形例では、ホイールカバー925(本体フレームに固定される固定カバー)と、収容カバー930(本体フレームに可動に支持される可動カバー)とを設け、可動カバーが固定カバーから進出することで、両カバーにより車輪922の全体が収納される構成を例示した。他の変形例においては、固定カバーを省略してもよい。すなわち、可動カバーが退避した状態では車輪の全体又は一部(接地面を含む)が露出し、可動カバーを進出させることで、車輪全体が覆い隠されるように構成してもよい。
【0118】
上記実施形態および変形例の思想を、以下のようなロボットとして捉えることもできる。このロボットは、ボディと、移動時の接地面を有する移動機構と、前記移動機構の接地面を覆うことが可能なカバーと、を備える。ロボットは、本体フレームと、前記本体フレームとの間に閉空間を形成可能なカバーと、移動時の接地面を有し、その接地面が前記閉空間に収容かつ前記閉空間から露出可能に設けられた移動機構と、を備える。ロボットは、駆動機構を備える。駆動機構は、閉空間から移動機構を進退駆動する機構、および移動機構に対してカバーを進退駆動する機構の少なくとも一方を有する。上記実施形態および変形例では述べなかったが、車輪の退避駆動とカバーの進出駆動とを組み合わせることにより、車輪を閉空間に収容できる構成としてもよい。車輪の収容に際して車輪とカバーの双方を駆動する態様により、それぞれの駆動量を小さくできる。それにより、ボディにおける車輪の収容空間を小さくし、ボディの省スペース化を図ることもできる。