(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】配管スリーブ
(51)【国際特許分類】
F16L 5/00 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
F16L5/00 Q
(21)【出願番号】P 2020016864
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302044708
【氏名又は名称】関東器材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴巨
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一也
(72)【発明者】
【氏名】五嶌 直永
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-230426(JP,A)
【文献】特開2014-025577(JP,A)
【文献】特許第6535410(JP,B1)
【文献】特開2012-189168(JP,A)
【文献】実開昭62-146077(JP,U)
【文献】特開2001-050431(JP,A)
【文献】特開2004-308772(JP,A)
【文献】特開2005-090684(JP,A)
【文献】特開平10-322841(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108730633(CN,A)
【文献】中国実用新案第203375080(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0014609(KR,A)
【文献】特開2015-078741(JP,A)
【文献】米国特許第09989268(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/00
F24F 1/34
E04F 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内から室外へ配管を導くための配管スリーブであって、
前記室内と前記室外とを隔てる壁を貫通するように配設される筒状のスリーブ本体と、このスリーブ本体が前記壁に配設された状態で当該スリーブ本体の前記室内側の端部に装着されるフランジ部材とを有し、
前記スリーブ本体と前記フランジ部材とが軸を中心として相対回転自在に構成され、相対回転させたときに前記スリーブ本体に対して前記フランジ部材を角度調整するようにガイドするガイド手段を設け
、
前記ガイド手段は、前記スリーブ本体または前記フランジ部材の一方に軸を中心として周方向に沿って所定の長さの周方向被係合部が設けられるとともに、他方に当該周方向被係合部に沿って移動する周方向係合部が設けられ、前記スリーブ本体または前記フランジ部材の一方に前記軸に対して傾斜する方向に所定の長さの傾斜被係合部が設けられるとともに、他方に当該傾斜被係合部に沿って移動する傾斜係合部が設けられ、
前記スリーブ本体と前記フランジ部材とを前記軸を中心として相対回転させることにより、前記周方向被係合部と前記傾斜被係合部に対し、それぞれ前記周方向係合部と前記傾斜係合部が移動し前記スリーブ本体に対して前記フランジ部材が角度調整されるように構成されていることを特徴とする配管スリーブ。
【請求項2】
前記
周方向被係合部および前記傾斜被係合部は、長孔であって、前記周方向係合部および前記傾斜係合部が前記長孔内を移動する突部であることを特徴とする請求項1に記載の配管スリーブ。
【請求項3】
前記周方向被係合部
と前記傾斜被係合部は、前記軸を中心として対向する位置に配置されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の配管スリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空気調和装置(エアコン)の配管(冷媒配管、ドレンホース、電線など)を室内から室外へ導くための配管スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の配管スリーブにおいては、雨水の室内への浸入を防止すること等を目的として、壁に施工した状態で所定の水勾配(下り勾配、水切り勾配)に対応可能な構造を有するものが提案されていた(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-262732号公報
【文献】特開2005-90684号公報
【文献】特開2004-308772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの配管スリーブは、所定の水勾配に対応可能であるものの、部品点数が多く、構造が複雑であるため、必然的に製造コストが高騰するという課題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、所定の水勾配に対応可能であり、かつ製造コストが低廉な配管スリーブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、室内から室外へ配管を導くための配管スリーブであって、前記室内と前記室外とを隔てる壁を貫通するように配設される筒状のスリーブ本体と、このスリーブ本体が前記壁に配設された状態で当該スリーブ本体の前記室内側の端部に装着されるフランジ部材とを有し、前記スリーブ本体と前記フランジ部材とが軸を中心として相対回転自在に構成され、相対回転させたときに前記スリーブ本体に対して前記フランジ部材を角度調整するようにガイドするガイド手段を設け、前記ガイド手段は、前記スリーブ本体または前記フランジ部材の一方に軸を中心として周方向に沿って所定の長さの周方向被係合部が設けられるとともに、他方に当該周方向被係合部に沿って移動する周方向係合部が設けられ、前記スリーブ本体または前記フランジ部材の一方に前記軸に対して傾斜する方向に所定の長さの傾斜被係合部が設けられるとともに、他方に当該傾斜被係合部に沿って移動する傾斜係合部が設けられ、前記スリーブ本体と前記フランジ部材とを前記軸を中心として相対回転させることにより、前記周方向被係合部と前記傾斜被係合部に対し、それぞれ前記周方向係合部と前記傾斜係合部が移動し前記スリーブ本体に対して前記フランジ部材が角度調整されるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記周方向被係合部および前記傾斜被係合部は、長孔であって、前記周方向係合部および前記傾斜係合部が前記長孔内を移動する突部であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記周方向被係合部と前記傾斜被係合部は、前記軸を中心として対向する位置に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1~3に記載の発明によれば、所定の水勾配に応じて、スリーブ本体とフランジ部材とが軸を中心として相対回転させて角度調整した状態で、スリーブ本体を壁に配設するだけで、配管スリーブを所定の水勾配に対応させて壁に施工することが可能となる。しかも、部品点数が少なく、構造が単純であることから、配管スリーブの製造コストを低廉に抑えることが可能となる。
【0011】
また、請求項1~3に記載の発明によれば、スリーブ本体とフランジ部材とが軸を中心として相対回転させて角度調整しているため、角度調整後にフランジ部材に軸方向の力が作用した場合であっても、角度が容易に変化することがなくなり、使い勝手が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る配管スリーブを示す分解斜視図である。
【
図2】
図1に示す配管スリーブの使用状態を示す縦断面図である。
【
図3】
図1に示す配管スリーブのスリーブ本体を示す図であって、(a)はその正面図、(b)はその左側面図、(c)はその平面図、(d)はその底面図、(e)は(c)のA-A線断面図である。
【
図4】
図1に示す配管スリーブのフランジ部材を示す図であって、(a)はその正面図、(b)はその平面図、(c)はその底面図、(d)はその右側面図、(e)はその背面図である。
【
図5】
図1に示す配管スリーブにおいて、スリーブ本体に対してフランジ部材を傾ける前の状態を示す図であって、(a)はその正面図、(b)はその左側面図、(c)はその平面図、(d)はその底面図、(e)は(c)のB-B線断面図、(f)はその斜視図である。
【
図6】
図1に示す配管スリーブにおいて、スリーブ本体に対してフランジ部材を所定の角度に傾けた状態を示す図であって、(a)はその正面図、(b)はその左側面図、(c)はその平面図、(d)はその底面図、(e)は(c)のC-C線断面図、(f)はその斜視図である。
【
図7】
図1に示す配管スリーブにおいて、スリーブ本体に対してフランジ部材を傾ける前の状態と所定の角度に傾けた状態の一部を示す拡大平面図である。
【
図8】本発明の実施の形態2に係る配管スリーブのスリーブ本体の一方の端部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
図1乃至
図7には、本発明の実施の形態1を示す。
【0014】
実施の形態1に係る配管スリーブ1は、
図2に示すように、空気調和装置の配管4(二点鎖線で示す)を室内5から室外6へ導くために使用されるものであり、AES樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、ACS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂から成形されている。この配管スリーブ1は、
図1および
図2に示すように、室内5と室外6とを隔てる壁7を貫通するように配設される円筒状のスリーブ本体2と、このスリーブ本体2の一方(スリーブ本体2が壁7に配設された状態で室内5側)の端部2aに軸を中心として相対回転自在に装着されるフランジ部材3とから構成されている。
【0015】
このスリーブ本体2は、
図2および
図3に示すように、壁7の厚さD3と略同じ長さかあるいは若干長い長さD4を有しているとともに、所定の外径D1(例えば、D1=64mm)および内径D2(例えば、D2=61mm)を有している。スリーブ本体2の一方の端部2aには、
図3(c)~(e)に示すように、スリーブ本体2が壁7に配設された状態における上部および下部にそれぞれ、傾斜被係合部としての傾斜長孔8、周方向被係合部としての周方向長孔9がスリーブ本体2の内外を連通するように形成されている。
【0016】
傾斜長孔8と周方向長孔9は、スリーブ本体2の周方向において互いに対向する位置に配置されている。傾斜長孔8と周方向長孔9は、それぞれスリーブ本体2における一方の端部2aの開口端近傍に配置されている。なお、傾斜長孔8と周方向長孔9は、必ずしもスリーブ本体2の周方向において互いに対向する位置に配置することなく、対向する位置からずれた位置に配置するようにしてもよい。
【0017】
ここで、傾斜長孔8は、
図3(c)に示すように、スリーブ本体2の軸に対して所定の傾斜角度θで傾斜するとともに、所定の長さで延びる長孔に形成されている。周方向長孔9は、
図3(d)に示すように、スリーブ本体2の軸を中心として周方向に沿って所定の長さで延びる長孔に形成されている。なお、本実施の形態では、スリーブ本体2の軸に対する傾斜角度θが25°程度である。
【0018】
また、スリーブ本体2の外周面には、
図3(a),(c),(d)に示すように、スリーブ本体2の一方の端部2a寄りから他方(スリーブ本体2が壁7に配設された状態で室外6側)の端部2bまで、スリーブ本体2の周方向に沿う複数本(この実施の形態では、13本)の切断補助用溝10が、スリーブ本体2の軸方向に所定の間隔Pで形成されている。
【0019】
一方、フランジ部材3は、
図4に示すように、スリーブ本体2の内径D2にほぼ等しい曲率半径R1のほぼ円弧状に形成された挿入筒部11を有しており、挿入筒部11の一方(スリーブ本体2と反対側)の端部には、略円環状の鍔部12が外周側に張り出すように一体に形成されている。
【0020】
また、挿入筒部11には、スリーブ本体2に装着された状態における上部および下部にそれぞれ、外周側に突出するように係合突部13、14が形成されている。この係合突部13は、
図4(b)に示すように、傾斜長孔8の傾斜角度に対応して傾いた平面視で略平行四辺形に形成されている。係合突部14は、
図4(c)に示すように、周方向長孔9の形状に対応して平面視で矩形に形成されている。なお、本実施の形態では、係合突部13、14をそれぞれ略平行四辺形、矩形に形成したが、これらの形状に限らず、平面視で円形、楕円など、他の形状で形成してもよい。
【0021】
そして、スリーブ本体2とフランジ部材3とは、
図5および
図6に示すように、係合突部13が傾斜長孔8に係合するとともに、係合突部14が周方向長孔9に係合することにより、互いに連結されている。
【0022】
スリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させることにより、周方向長孔9は、スリーブ本体2の一方の端部2aの開口端までの距離が変化しないことから、係合突部14が周方向長孔9に沿って移動しても係合突部14の近傍の鍔部12は、スリーブ本体2に対して角度が変化しない。そのとき、傾斜長孔8は、スリーブ本体2の一方の端部2aの開口端までの距離が変化することから、係合突部13が傾斜長孔8に沿って移動すると、距離の変化に伴って係合突部13の近傍の鍔部12がスリーブ本体2に対して角度が変化する。これにより、挿入筒部11における係合突部13の近傍側の鍔部12だけがスリーブ本体2の一方の端部2aから離間し、フランジ部材3がスリーブ本体2に対して角度調整されることとなる。
【0023】
本実施の形態において、傾斜長孔8と、この傾斜長孔8に沿って移動する係合突部13と、周方向長孔9と、周方向長孔9に沿って移動する係合突部14は、相対回転させたときにスリーブ本体2に対してフランジ部材3を角度調整するようにガイドするガイド手段を構成する。
【0024】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0025】
配管スリーブ1は以上のような構成を有するので、
図2に示すように、壁7に貫通孔7aが所定の水勾配(例えば、7°、0°など)で形成されている場合に、この水勾配に対応させて配管スリーブ1を壁7に施工する際には、次の手順による。
【0026】
まず、配管スリーブ準備工程で、この水勾配に応じて、
図5および
図6に示すように、スリーブ本体2に対してフランジ部材3を適宜回転させて角度調整することにより、フランジ部材3の鍔部12が、スリーブ本体2の軸に対して、水勾配に等しい傾斜角度θだけ傾斜した状態とする。
【0027】
例えば、水勾配が7°である場合には、
図5および
図6に示すように、スリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させることにより、係合突部14が最後方位置P1から周方向長孔9に沿って最前方位置P2まで移動すると同時に、係合突部13が最後方位置P1から傾斜長孔8に沿って最前方位置P2まで移動する。
【0028】
このとき、周方向長孔9からスリーブ本体2の一方の端部2aの開口端までの距離が変化しないことから、係合突部14が周方向長孔9に沿って移動しても係合突部14の近傍の鍔部12は、スリーブ本体2に対する角度が変化しない。一方、傾斜長孔8は、スリーブ本体2の一方の端部2aの開口端までの距離が変化することから、係合突部13が傾斜長孔8に沿って移動すると、係合突部13の近傍の鍔部12がスリーブ本体2に対して角度が変化する。
【0029】
これにより、係合突部14の近傍の鍔部12は、スリーブ本体2の一方の端部2aに対する位置が変化しないものの、挿入筒部11における係合突部13の近傍の鍔部12がスリーブ本体2の一方の端部2aから離間することから、フランジ部材3の鍔部12がスリーブ本体2の軸方向に対して7°傾斜した状態となる。
【0030】
因みに、
図7に示すように傾斜長孔8内の係合突部13は、最後方位置P1からスリーブ本体2の一方の端部2aの開口端までの長さL1に対して傾斜長孔8の最前方位置P2から一方の端部2aの開口端までの長さL2を差し引いた長さは、スリーブ本体2の一方の端部2aの開口端から鍔部12が離間する長さL3となる。この端部2aの開口端から鍔部12が離間する長さL3は、鍔部12がスリーブ本体2の軸方向に対する傾斜角度に比例することとなる。
【0031】
また、本実施の形態の配管スリーブ1は、スリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させて角度調整しているため、角度調整後にフランジ部材3に
図7に示す軸方向の力Fが作用した場合であっても、係合突部13が傾斜長孔8内の傾斜壁に圧接する。その圧接力は、その傾斜壁の傾斜面で分解されて小さくなることから、フランジ部材3の鍔部12の角度が容易に変化することがなくなる。
【0032】
さらに、水勾配が0°である場合には、
図5に示すように、スリーブ本体2とフランジ部材3が軸を中心として相対回転させずに、係合突部13を最後方位置P1に保持するとともに、係合突部14も最後方位置P1に保持する。すると、配管スリーブ1は、フランジ部材3の鍔部12が、スリーブ本体2の軸に対して0°傾斜した状態、つまり、鍔部12全体がスリーブ本体2の一方の端部2aの開口端に当接した状態のままとなる。
【0033】
なお、このようにしてスリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させると、フランジ部材3の挿入筒部11の外周面がスリーブ本体2の内周面に対して摺動することになる。しかし、フランジ部材3の挿入筒部11は、上述したとおり、スリーブ本体2の内径D2にほぼ等しい曲率半径R1のほぼ円弧状に形成されているので、フランジ部材3の角度調整を円滑に行うことができる。
【0034】
次に、スリーブ本体配設工程に移行し、
図2に示す室内5において、スリーブ本体2を壁7に配設する。それには、スリーブ本体2が前方(室外6側)に、フランジ部材3が後方(室内5側)に位置する状態で、スリーブ本体2を壁7の貫通孔7aに挿通する。このとき、係合突部13が上方に、係合突部14が下方に位置するようにする。すると、配管スリーブ1は、
図2に示すように、フランジ部材3の鍔部12が全周にわたって壁7の内表面7bに隙間なく接するとともに、スリーブ本体2の端部2bが壁7の外表面7cから室外6側へ少し突出した状態となる。
【0035】
最後に、スリーブ本体切断工程に移行し、室外6において、壁7の外表面7cから突出したスリーブ本体2の端部2bを壁7の厚さD3に応じて所定の長さだけ切り落とす。それには、カッターナイフ、のこぎり等の切断手段(図示せず)を用いて、スリーブ本体2を切断補助用溝10に沿って切断する。
【0036】
このとき、スリーブ本体2には、上述したとおり、複数の切断補助用溝10がスリーブ本体2の長手方向に所定の間隔で形成されているので、スリーブ本体2を切断補助用溝10に沿って切断することにより、スリーブ本体2の端部2bの切り落とし作業を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0037】
以上の工程を経て配管スリーブ1の施工が終了する。
【0038】
このように本実施の形態によれば、配管スリーブ1の施工に際しては、所定の水勾配(例えば、7°、0°など)に応じて、スリーブ本体2に対してフランジ部材3を角度調整した状態で、スリーブ本体2を壁7に配設した後、スリーブ本体2の端部2bを切り落とすだけで、配管スリーブ1を所定の水勾配に対応させて壁7に施工することが可能となる。
【0039】
しかも、この配管スリーブ1は、上述したとおり、スリーブ本体2およびフランジ部材3の2つの部品のみから構成されており、部品点数が少ない。また、この配管スリーブ1は、スリーブ本体2に対してフランジ部材3が角度調整自在に連結されているに過ぎず、構造が単純である。これらの結果、配管スリーブ1は、その製造コストを低廉に抑えることが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態の配管スリーブ1は、スリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させて角度調整しているため、角度調整後にフランジ部材3に軸方向の力が作用した場合であっても、フランジ部材3の鍔部12の角度が容易に変化することがなくなり、使い勝手が良好になる。
【0041】
加えて、本実施の形態の配管スリーブ1は、上述したようにスリーブ本体2とフランジ部材3とを軸を中心として相対回転させ、係合突部13を傾斜長孔8に沿って移動させると、係合突部13の近傍の鍔部12がスリーブ本体2に対して角度が変化するので、傾斜長孔8内における最後方位置P1から最前方位置P2まで移動する途中で係合突部13を停止させることにより、フランジ部材3の鍔部12の角度を微調整することが可能となる。
【0042】
すなわち、傾斜長孔8内における最後方位置P1から最前方位置P2までの間では、係合突部13を所望の位置に停止させることができるので、その停止位置に対応して鍔部12のスリーブ本体2に対する角度を自在に調整することができる。
【0043】
さらに、この配管スリーブ1は、上述したとおり、スリーブ本体2に対してフランジ部材3が相対回転自在に支持されており、このフランジ部材3の相対回転時の回転半径がスリーブ本体2の内径D2にほぼ等しくなっている。したがって、フランジ部材3の挿入筒部11を比較的小さい曲率で形成することができる。その上、配管スリーブ1が壁7に施工された状態では、フランジ部材3の鍔部12によって壁7の貫通孔7aが塞がれている限り、スリーブ本体2の端部2aとフランジ部材3の挿入筒部11との間に多少の隙間が発生しても、実用上の問題は生じない。これらの結果、汎用の樹脂成形方法を用いて配管スリーブ1を製造することができ、この点からも配管スリーブ1の製造コストを削減することが可能となる。
[発明の実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2を示す。なお、実施の形態2では、前記実施の形態1と対応する部分に同一の符号を付して前記実施の形態1と異なる構成および作用について説明する。
【0044】
実施の形態2に係る配管スリーブ1の傾斜被係合部としての傾斜長孔8は、
図8に示すようにスリーブ本体2の軸に対して所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜部8aと、この傾斜部8aから折れ曲がって連続して形成された周方向部8bとから形成されている。この周方向部8bは、スリーブ本体2の軸を中心として周方向に沿って傾斜部8aよりも短く延びるように形成されている。
【0045】
フランジ部材3には、スリーブ本体2に装着された状態における上部に外周側に突出するように係合突部13が形成されている。この係合突部13は、傾斜部8aの傾斜角度に対応して傾いた平面視で略平行四辺形に形成されている。係合突部13は、傾斜部8aから折れ曲がって連続する周方向部8bに移動しやすくするため、傾斜部8aおよび周方向部8bの幅よりも若干小さく形成されている。
【0046】
実施の形態2に係る配管スリーブ1は、上記のように構成されているので、スリーブ本体2とフランジ部材3とが軸を中心として相対回転させることにより、係合突部13が最後方位置P1の傾斜部8a沿って移動した後、周方向部8bから折れ曲がり周方向部8bの最前方位置P2まで移動する。
【0047】
この周方向部8bは、スリーブ本体2の軸を中心として周方向に沿って形成されているので、係合突部13が最後方位置P1の傾斜部8a沿って移動した後、周方向部8bから折れ曲がり周方向部8bの最前方位置P2まで移動して角度調整された後にフランジ部材3に
図7に示す軸方向の力Fが作用した場合であっても、係合突部13が周方向部8bの壁面に圧接する。
【0048】
この周方向部8bの壁面は、軸方向の力Fに対して直交する方向に配設されていることから、圧接力がその壁面で受け止められるため、フランジ部材3の鍔部12の角度が全く変化することがなくなる。その結果、使い勝手の良好な信頼性の高い配管スリーブ1を提供することが可能となる。なお、その他の構成および作用効果は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
[発明のその他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態1、2において、傾斜長孔8は、スリーブ本体2の軸に対して所定の傾斜角度θ(25°程度)で傾斜するとともに、所定の長さで延びる長孔に形成した例について説明したが、これに限らず例えば傾斜長孔8の傾斜角度θを25°より緩やかな20°以下に傾斜させるとともに、傾斜長孔8をより長く形成すれば、係合突部13の移動距離が長くなり、係合突部13の移動範囲内において広範囲な水勾配に対応してフランジ部材3の鍔部12の角度をより微調整することが可能となる。この場合、周方向長孔9の長さも傾斜長孔8に対応して長くする必要がある。
【0049】
そして、傾斜長孔8の傾斜角度θをより緩やかに傾斜させるとともに、傾斜長孔8をより長く形成した場合には、角度調整後にフランジ部材3に軸方向の力Fが作用しても、実施の形態1と比較してフランジ部材3の鍔部12の角度が一段と変化しにくくなり、使い勝手がさらに良好になる。
【0050】
また、上述した実施の形態1、2では、配管スリーブ1を壁7に施工する際に、スリーブ本体切断工程において、壁7の外表面7cから突出したスリーブ本体2の端部2bを壁7の厚さD3に応じて所定の長さだけ切り落とす場合について説明した。しかし、スリーブ本体2が、予め壁7の厚さD3に対応した長さD4を有していれば、このスリーブ本体切断工程を省くことができる。
【0051】
また、上述した実施の形態1、2では、合成樹脂からなる配管スリーブ1について説明したが、配管スリーブ1の材料は合成樹脂に限るわけではない。配管スリーブ1を構成するスリーブ本体2およびフランジ部材3の両方または一方が合成樹脂以外の材料からなる配管スリーブ1に本発明を同様に適用することもできる。
【0052】
また、上述した実施の形態1、2では、傾斜長孔8および周方向長孔9がスリーブ本体2の内外を連通するように形成されている配管スリーブ1について説明したが、これら傾斜長孔8および周方向長孔9は、必ずしもスリーブ本体2の内外を連通するように形成する必要はなく、連通しない長溝に形成してもよく、要するに傾斜長孔8および周方向長孔9は、係合突部13、14の移動をガイドするものであれば、如何なるものであってもよい。
【0053】
また、上述した実施の形態1、2では、スリーブ本体2に傾斜長孔8および周方向長孔9を設けるとともに、フランジ部材3に係合突部13、14を設けた配管スリーブ1について説明した。しかし、傾斜長孔8および周方向長孔9と係合突部13、14とを逆転させて、スリーブ本体2に係合突部13、14を設けるとともに、フランジ部材3に傾斜長孔8および周方向長孔9を設けることも可能である。
【0054】
また、上述した実施の形態1、2では、スリーブ本体2に傾斜長孔8および周方向長孔9をそれぞれ1つ形成した例について説明したが、これに限らず複数形成するようにしてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態1、2では、スリーブ本体2に傾斜長孔8および周方向長孔9をそれぞれ直線状に形成した例について説明したが、これに限らず例えば全体を円弧状に形成するようにしてもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態1、2では、スリーブ本体2の外周面に13本の切断補助用溝10が形成された配管スリーブ1について説明したが、無論、この切断補助用溝10の本数は13本に限るわけではない。
【0057】
さらに、上述した実施の形態1、2では、空気調和装置の配管を室内5から室外6へ導くための配管スリーブ1について説明したが、空気調和装置以外の機器(例えば、給水器、給湯器など)の配管を導くための配管スリーブ1に本発明を同様に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、室内から室外へ配管を導くための配管スリーブに広く適用することができる。この配管としては、冷媒配管、ドレンホース、加湿ホース、給気ホース、排気ホース、給水配管、給湯配管、ガス管、電線など各種の配管が挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
1……配管スリーブ
2……スリーブ本体
2a……一方の端部(室内側の端部)
2b……他方の端部(室外側の端部)
3……フランジ部材
5……室内
6……室外
7……壁
7a……貫通孔
8……傾斜長孔(傾斜被係合部)
9……周方向長孔(周方向被係合部)
10……切断補助用溝
11……挿入筒部
12……鍔部
13……係合突部(傾斜係合部)
14……係合突部(周方向係合部)
P1……最後方位置
P2……最前方位置