(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】体液漏出防止剤
(51)【国際特許分類】
A01N 1/00 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
A01N1/00
(21)【出願番号】P 2020117180
(22)【出願日】2020-07-07
(62)【分割の表示】P 2020023444の分割
【原出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019152971
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500329906
【氏名又は名称】西原 梨沙
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】西原 梨沙
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224614(JP,A)
【文献】登録実用新案第3171261(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0003194(US,A1)
【文献】特開2003-245332(JP,A)
【文献】特開2001-037863(JP,A)
【文献】特開2008-283880(JP,A)
【文献】特開2016-029119(JP,A)
【文献】特開2009-179581(JP,A)
【文献】特表2003-530968(JP,A)
【文献】特開2012-232905(JP,A)
【文献】特開2002-114617(JP,A)
【文献】特開2009-001701(JP,A)
【文献】特開2009-209044(JP,A)
【文献】多糖類とは 3つの主要な効果 ゲル化,多糖類.com [online],2018年12月12日,<URL: http://www.tatourui.com/about/03_outcome.html>,[検索日:2023/12/19]
【文献】多糖類とは 3つの主要な効果 安定化,多糖類.com [online],2018年12月11日,<URL: http://www.tatourui.com/about/04_outcome.html>,[検索日:2023/12/19]
【文献】独立行政法人工業所有権情報・研修館,平成17年度 特許流通支援チャート(一般16) 消臭・脱臭剤(化学的方法)[online],2016年03月,pp.3-10,インターネット<URL: https://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/chart/fippan16.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入器内に収納され、該注入器に接続された挿入管を鼻孔から咽喉部に向けて挿入して、該注入器から挿入管を介して咽喉部に注入されるゼリー状の体液漏出防止剤であって、 エチレングリコールを主成分とするアルコール類を主成分とする粘液基材中に、吸水性樹脂粉末15重量%~30重量%が分散しており、且つ
κ-カラギーナン又はキサンタンガムを含有し、
粘度が40,000cP~200,000cPであり、pHは6以上且つ9以下であり、
前記
κ-カラギーナン又はキサンタンガムは
、前記体液漏出防止剤中の該前記
κ-カラギーナン又はキサンタンガム以外の成分の総量を100重量%としたとき0.05重量%~0.4重量%含まれることを特徴とする体液漏出防止剤。
【請求項2】
前記吸水性樹脂の中位粒子径は、20μm~400μmであることを特徴とする請求項1に記載の体液漏出防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトや動物が死亡すると、体腔各部に対応する筋肉が弛緩するので、胃液、肺液、腹水、排泄物等の体液が体外に漏出する。これらの漏出物は、悪臭や病原菌による感染の原因になるので、例えば病院では、死亡を確認した後、遺体の口や鼻等の体腔や、或いは事故や手術後の遺体の開口部に多量のガーゼや脱脂綿等を装填することで体液の漏出を防止する場合がある。しかしながら、体腔等へのガーゼや脱脂綿等の装填作業は煩雑であり、作業に手落ちが発生して体腔等が塞ぎきれていなかったり、或いは、ガーゼや脱脂綿等は吸水能力が低いので、作業中又は作業後にしばしば体液が漏出してしまったりするという問題があった。したがって、作業中においては漏出した体液を起因とする病原体の感染のおそれがあり、その解決が強く求められていた。
【0003】
このようなことから、ガーゼや脱脂綿等に代えてゼリー状の体液漏出防止剤を口や鼻等の体腔に注入することが知られており、例えば、アルコールを主成分とするゼリーの中に高吸水性樹脂粉末を多数分散させたものを用いる方法(特許文献1参照)が知られている。このゼリー状の体液漏出防止剤は流動性が高く、鼻孔や耳孔等の狭い体腔であっても装填し易いというメリットを備え、装填器等の器具を使用して遺体の体腔に装填するものとして実用化されている。
【0004】
更に遺体の処置としては、上記体液の漏出防止だけではなく、遺体の体液等から生じる体臭や腐敗臭等への消臭対策が強く求められている。この消臭対策として、一般的には、遺体を収納した棺桶等にドライアイスや二酸化安定塩素等を配置することが知られている。
【0005】
また特許文献1では、装填器等の器具を使用して遺体の体腔に装填するゼリー状の体液漏出防止剤において、消臭剤等の添加剤を更に含んでいてもよいということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1では、消臭剤等の添加剤を更に含んでいてもよいと開示されているものの、具体的にゼリー状の体液漏出防止剤のメリットを維持しつつ、消臭性能を発揮させる添加剤は見出されていなかった。
【0008】
例えば、上記体液漏出防止剤に消臭性能を加えるために、安定化二酸化塩素を装填器等の器具に充填させることが考えられるが、安定化二酸化塩素は不安定なものであり、ゼリー状の体液漏出防止剤に対して安定化二酸化塩素を加えると、高吸水性樹脂粉末が分離沈下する傾向にあり、体液漏出防止剤としての性能が低下する不具合が発生することとなる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、装填器等の器具に充填して使用するゼリー状の体液漏出防止剤において、その流動性を維持しつつ、かつ消臭性能を発揮できるようにした体液漏出防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、イオン性多糖類を含有させるようにした。
【0011】
具体的には、第1の発明は、遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤であって、エチレングリコールを主成分とするアルコール類を70重量%以上含む粘液基材中に、吸水性樹脂15重量%~30重量%が分散しており、且つイオン性多糖類を含有し、該イオン性多糖類は、体液漏出防止剤中の該イオン性多糖類以外の成分の総量を100重量%としたとき、0.05重量%~0.4重量%含まれることを特徴とする。
【0012】
この第1の発明では、エチレングリコールを主成分とするアルコール類を70重量%以上含む粘液基材中に、吸水性樹脂15重量%~30重量%が分散しており、且つイオン性多糖類を0.05重量%~0.4重量%含有する体液漏出防止剤を得られるため、長期に安定した粘性で流動性を維持できるとともに、体腔に装填してからも長く消臭性能を発揮することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、更に、カルボキシビニルポリマーを0.15重量%~0.3重量%含有することを特徴とする。
【0014】
第2の発明では、カルボキシビニルポリマーを0.15重量%~0.3重量%含有するので、ゼリー状態を長期に安定させることができる。
【0015】
第3の発明は、第1または第2の発明において、トリエタノールアミンを0.5重量%~2.5重量%含有することを特徴とする。
【0016】
第3の発明では、トリエタノールアミンを0.5重量%~2.5重量%含有するので、ゼリー状態を長期に安定させることができる。
【0017】
第4の発明は、第1から第3の発明のいずれか1つにおいて、前記体液漏出防止剤が、ポリアクリル酸部分中和物を0.05重量%~4重量%含有することを特徴とする。
【0018】
第4の発明では、ポリアクリル酸部分中和物を0.05重量%~4重量%含有することで良好な流動性を得られるため、装填器等の器具を使用して体液漏出防止剤を遺体の体腔(咽喉部等)に装填する際に、軽い力で装填できる。
【0019】
第5の発明は、第1から第4の発明のいずれか1つにおいて、該イオン性多糖類として、マイナス電荷を有する多糖類であることを特徴とする。
【0020】
この第5の発明では、イオン性多糖類がマイナス電荷を有する多糖類であるため、体液漏出防止剤が長期に安定した粘性で流動性を更に維持できるとともに、優れた消臭性能を発揮することができる。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、該マイナス電荷を有する多糖類が、硫酸基またはカルボキシル基を有する陰イオン性多糖類を有することを特徴とする。
【0022】
この第6の発明では、マイナス電荷を有する多糖類が、硫酸基またはカルボキシル基を有する陰イオン性多糖類であるため、体液漏出防止剤が長期に安定した粘性で流動性を更に維持することができるとともに、更に優れた消臭性能を発揮することができる。
【0023】
第7の発明は、第6の発明において、該マイナス電荷を有する多糖類が、海草由来の陰イオン性多糖類を含有することを特徴とする。
【0024】
この第7の発明では、マイナス電荷を有する多糖類が、海草由来の陰イオン性多糖類を含有するので、入手し易く環境負荷を低減できる。
【0025】
第8の発明は、第6の発明において、該マイナス電荷を有する多糖類が、κ-カラギーナンまたはキサンタンガムを含有することを特徴とする。
【0026】
この第8の発明では、マイナス電荷を有する多糖類が、κ-カラギーナンまたはキサンタンガムを含有するので、長期に安定した粘性で流動性を維持でき、且つ優れた消臭性能を発揮できることに加えて、経年変化を抑制することができる。
【0027】
第9の発明は、第8の発明において、体液漏出防止剤中の該イオン性多糖類以外の成分の総量を100重量%としたとき、該κ-カラギーナンを0.1重量%~0.4重量%含有することを特徴とする。
【0028】
この第9の発明では、κ-カラギーナンを適正な量とすることで粘性が急激に高くなったり低下したりすることを防止できるので、長期に安定した粘性で流動性を維持でき、且つ優れた消臭性能を発揮できることに加えて、経年変化を抑制することができる。
【0029】
第10の発明は、第8の発明において、体液漏出防止剤中の該イオン性多糖類以外の成分の総量を100重量%としたとき、該キサンタンガムを0.05重量%~0.3重量%含有することを特徴とする。
【0030】
この第10の発明では、キサンタンガムを適正な量とすることで粘性が急激に高くなったり低下したりすることを防止できるので、長期に安定した粘性で流動性を維持でき、且つ優れた消臭性能を発揮できることに加えて、経年変化を抑制することができる。
【0031】
なお、本発明において、上記アルコール類としては、エチレングリコールを主成分とし、さらに、例えば、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンの少なくとも1種を用いることができる。ここで、主成分とは、体液漏出防止剤に含まれるアルコール類のうち最も多く含まれる成分であり、好ましくは該アルコール類のうち50重量%以上含まれる成分である。従って、本発明において、エチレングリコールを50重量%以上含むアルコール類が用いられることが好ましく、エチレングリコールを50重量%~70重量%含むアルコール類が用いられることがより好ましい。
【0032】
また、分散安定剤として好ましいのは、更にカルボキシビニルポリマーを含有することである。カルボキシビニルポリマーは、少なすぎると分散安定剤としての効果がなく、逆に多量に配合してもそれ以上の効果の改善は見られず、経済性の点から好ましくないので、0.15重量%~0.3重量%含有することが好ましい。
【0033】
また、上記吸水性樹脂としては、顆粒状吸水性樹脂、真球状吸水性樹脂、真球凝集状吸水性樹脂等種々のものを用いることができる。また、吸水性樹脂の吸水速度については特に限定されるものではないが、生理食塩水の吸水速度で80秒以下であることが好ましい。例えば、生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂や、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂等を好適に採用することができる。
【0034】
また、上記吸水性樹脂としては、1種類の吸水性樹脂を単独で用いることができ、或いは種類の異なる複数の吸水性樹脂を併用することもできる。上記吸水性樹脂の含有量は少なすぎると吸水効果が不足し、多すぎると相対的にアルコールが少なくなり、吸水性樹脂が安定して分散できなくなるので、15重量%以上30重量%以下とすることが好ましい。
【0035】
また、上記生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径は20μm以上300μm以下であることが好ましく、上記生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径は180μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0036】
また、上記ポリアクリル酸部分中和物の中和度は40%以上80%以下であることが好ましく、上記ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径は10μm以上100μm以下であることが好ましい。また、上記ポリアクリル酸部分中和物の含有量は0.05重量%以上4重量%以下であることが好ましい。
【0037】
また、上記体液漏出防止剤の粘度は、40,000cP以上かつ200,000cP以下であることが好ましく、相対的に、pHは6以上かつ9以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、装填器等の器具に充填して使用するゼリー状の体液漏出防止剤において、その流動性を維持しつつ、かつ消臭性能を発揮できるようにした体液漏出防止剤を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施形態に係る体液漏出防止剤を装填する装填器の例を示す概略図である。
【
図2】
図1の装填器を使用して、本発明の実施形態に係る体液漏出防止剤を遺体に注入する状態を説明する概略図である。
【
図3】実施例1~4の評価結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1~4の別の評価結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1~4の更に別の評価結果を示すグラフである。
【
図6】実施例5~12及び比較例1、2の他の評価結果を示すグラフである。
【
図7】実施例5~12の
図3と同様な評価結果を示すグラフである。
【
図8】実施例5~12の
図4と同様な評価結果を示すグラフである。
【
図9】実施例5~12の
図5と同様な評価結果を示すグラフである。
【
図10】実施例13~21及び比較例の組成を示す表である。
【
図11】実施例13~21の
図3と同様な評価結果を示すグラフである。
【
図12】実施例18~27の
図4と同様な評価結果を示すグラフである。
【
図13】実施例13、14、18、19、22、23、26、27の
図5と同様な評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0041】
本発明の好ましい実施形態に係る体液漏出防止剤は、アルコール類を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散しており、更にイオン性多糖類を含有するものであって、各成分について下記にて説明する。特に、遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤であって、エチレングリコールを主成分とするアルコール類を70重量%~80重量%含む粘液基材中に、吸水性樹脂15重量%~30重量%が分散しており、且つイオン性多糖類を含有し、特にイオン性多糖類は、体液漏出防止剤中の該イオン性多糖類以外の成分の総量を100重量%としたとき0.05重量%~0.4重量%含まれる。
【0042】
(アルコール類)
アルコール類としては、体液漏出防止剤の使用温度(例えば、0℃以上40℃以下)下で液状である親水性を有する各種のものを採用することができる。特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコールの他に、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、グリセリン等が挙げられる。これらの中では、吸水性樹脂の分散状態の安定性の観点から、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類やグリセリンが好ましく、ポリエチレングリコール及びグリセリンがより好ましい。主成分のエチレングルコールは、50重量%~70重量%含有することが好ましい。
【0043】
(カルボキシビニルポリマー)
カルボキシビニルポリマーとしては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸類と架橋剤であるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを含む重合性材料を重合することで得られるα,β-不飽和カルボン酸類の架橋物が挙げられる。
【0044】
上述の重合性材料において用いられるα,β-不飽和カルボン酸類は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸等を挙げることができる。
【0045】
エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオールの2置換以上のアクリル酸エステル類、ポリオールの2置換以上のアリルエーテル類、フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン及びメチレンビスアクリルアミド等を挙げることができる。ここで、アクリル酸エステル類及びアリルエーテル類を形成するためのポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロース及びソルビトール等を挙げることができる。
【0046】
カルボキシビニルポリマーは、ラジカル重合開始剤の存在下において、不活性溶媒中で所定の重合性材料、例えば上述の重合性材料を重合させることで製造することができ、水分散性を有する。
【0047】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては各種のものを採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸塩重合体の架橋物、澱粉-アクリル酸塩グラフト共重合体の加水分解生成物の架橋物、ビニルアルコール-アクリル酸塩共重合体の架橋物、無水マレイン酸グラフトポリビニルアルコールの架橋物、架橋イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のケン化物等が挙げられる。これらのうち、大量の液体を吸収して水不溶性ゼリー状物を形成することができ、多少の荷重をかけても吸収した液体を分子内に安定的に保持可能なアクリル酸塩重合体の架橋物を用いるのが好ましい。
【0048】
アクリル酸塩の具体例としては、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0049】
吸水性樹脂の粒子形状は、顆粒状であっても、真球状であっても、真球凝集状であってもよい。このような吸水性樹脂は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等によって製造することができる。また、各種の重合方法で製造したものを必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調整することもできる。
【0050】
また、体液漏出を速やかに止めるために、吸水性樹脂の吸水速度が大きいことが好ましい。特に限定されるものではないが、生理食塩水の吸水速度が80秒以下であることが好ましい。例えば、生理食塩水の吸水速度が10秒以下であり、中位粒子径が20μm以上300μm以下である顆粒状ないし真球状吸水性樹脂や、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下であり、中位粒子径が180μm以上400μm以下である真球凝集状吸水性樹脂を好適に用いることができる。
【0051】
ここで、上記顆粒状ないし真球状吸水性樹脂は、吸水速度は大きいものの、真球凝集状のものに比べて流動性に劣るとともに凝集し易いことから、限られた量の粘液基材に対して多量に分散させにくい。一方、上記真球凝集状吸水性樹脂は、吸水速度は小さいものの流動性が良く、また凝集し難いことから、粘液基材に対して比較的多量に分散させ易い。
【0052】
上記顆粒状吸水性樹脂、真球状吸水性樹脂及び真球凝集状吸水性樹脂は、各々単独で用いても、或いは併用してもよい。例えば、体液の漏出を速やかに止めるケースでは、吸水速度が大きい顆粒状ないし真球状吸水性樹脂のみを分散させた体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。或いは二種以上の吸水性樹脂を併用する場合は、顆粒状ないし真球状吸水性樹脂の割合が多い体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。また、体液の多量な漏出が見込まれるケースでは、吸水性樹脂として上記分散性に優れた真球凝集状吸水性樹脂のみを多量に分散させた体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。或いは二種以上の吸水性樹脂を併用する場合は、真球凝集状吸水性樹脂の割合が多い体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。
【0053】
吸水性樹脂の含有量は、15重量%~30重量%であることが好ましい。吸水性樹脂の含有量が15重量%未満の場合、吸水性が不足し体液漏出を防止することができなくなる可能性がある。一方、吸水性樹脂の含有量が30重量%を超える場合、流動性が悪化し体腔内に滑らかに装填できなくなる可能性がある。
【0054】
吸水性樹脂の中位粒子径は、良好な流動性を得る観点から、20μm~400μmであることが好ましい。上記中位粒子径は、次の方法で測定した値である。JIS標準篩を上から、目開き850μmの篩、目開き500μmの篩、目開き250μmの篩、目開き180μmの篩、目開き150μmの篩、目開き106μmの篩、目開き75μmの篩及び受け皿の順に組み合わせた最上の篩に吸水性樹脂100gを入れ、ロータップ式振とう器を用いて20分間振とうさせて分級する。分級後、各篩上に残った吸水性樹脂の質量を全量に対する質量百分率として計算し、粒子径の大きい方から順に積算することにより、篩の目開きと篩上に残った吸水性樹脂の質量百分率の積算値との関係を対数確率紙にプロットする。確率紙上のプロットを直線で結ぶことにより、積算質量百分率50重量%に相当する粒子径を中位粒子径とする。
【0055】
(イオン性多糖類)
イオン性多糖類としては、陰イオン性多糖類、特に、海草由来の陰イオン性多糖類が好ましい。また、κ-カラギーナン、キサンタンガム等の硫酸基またはカルボキシル基を有する陰イオン性多糖類が好ましい。
【0056】
κ-カラギーナンの含有量は、少な過ぎると消臭効果が弱くなる一方、多過ぎると体液漏出防止剤の高吸水性樹脂粉末が分離する傾向となり低粘度と高粘度の部分が発生して装填器から押し出し難くなるので、κ-カラギーナン以外の成分の総量100重量%に対して0.1重量%~0.4重量%であることが好ましい。
【0057】
キサンタンガムの含有量は、少な過ぎると消臭効果が弱くなる一方、多過ぎると粘度が高くなり過ぎる傾向となり装填器から押し出し難くなるので、キサンタンガム以外の成分の総量を100重量%に対して0.05重量%~0.3重量%であることが好ましい。
【0058】
(ポリアクリル酸部分中和物)
ポリアクリル酸部分中和物(非架橋型)としては、アクリル酸及びその塩を重合する際に、極度な低分子量体や極度な高分子量体が生成しないように重合度をコントロールしたものが好ましく用いられる。ポリアクリル酸部分中和物の粒子形状は、球状、破砕状等は特に問わないが、球状であることが好ましい。このようなポリアクリル酸部分中和物は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等の他、各種の重合方法で製造することができる。また、必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調製することができ、水溶性を有する。ポリアクリル酸部分中和物の含有量は、通常、0.05~4重量%が好ましく、更に好ましくは、1~3重量%である。ポリアクリル酸部分中和物の含有量が0.05重量%未満の場合、吸水性樹脂の分散安定性が低下し流動性が悪化するおそれがある。一方、ポリアクリル酸部分中和物の含有量が4重量%を超えた場合、含有量に見合う流動性改善効果が得られにくく、却って不経済になる。
【0059】
ポリアクリル酸塩の具体例としては、特開2012-224614号公報に示されるものが適用可能であり詳細な説明は省略するが、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0060】
(体液漏出防止剤の粘度,pH)
体液漏出防止剤の粘度は、通常、40,000cP以上200,000cP以下であることが好ましい。特に、60,000cP~180,000cPが好ましく、80,000cP~150,000cPがより好ましい。体液漏出防止剤の粘度が40,000cP未満であると、体腔には入り易いが、例えば、咽喉部への注入の場合、咽喉部よりも奥に入り込み過ぎて咽喉部での漏出を防止することができなくなる可能性がある。逆に、粘度が200,000cPを超えると、流動性が悪化して、挿入管から体液漏出防止剤が吐出しにくくなる可能性がある。また、保管場所や気温に応じて粘度が変動するので、例えば夏場向けには、少し粘度の高いものを用意し、逆に冬場向けには、少し粘度の低いものを用意することが好ましい。
【0061】
体液漏出防止剤のpHは、通常、6~9が好ましい。pHが6よりも低くなると粘性が不足し、粘度の有効な範囲を外れる可能性がある。逆に、pHが9より高くなると粘度が変動して不安定となり、体腔に装填することが難しくなる可能性がある。pHは体液漏出防止剤の粘度を適正な値にするバロメーターとして使われる。
【0062】
体液漏出防止剤のpHを適正な値に維持するための中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリエタノールアミン等が用いられる。この中和剤は、最終的に、体液漏出防止剤のpHを調整できればよいものであり、粘液基材を調製する際に添加してもよく、粘液基材に吸水性樹脂やポリアクリル酸部分中和物を混合分散した後に添加してpHを調整するようにしてもよい。或いは、粘液基材を調製する場合及び体液漏出防止剤を調製する場合の両方において添加してもよい。また、トリエタノールアミンは、体液漏出防止剤のゼリー状態を長期に安定させることができるので、加えることが好ましい。なお、少なすぎると長期安定性の効果が発揮できなく、多すぎてもそれ以上の効果の改善は見られず、経済性の点から好ましくないので、トリエタノールアミンは、0.5重量%~2.5重量%含有することが好ましい。
【0063】
(体液漏出防止剤の製造方法)
体液漏出防止剤の製造方法としては、例えば、アルコール類とカルボキシビニルポリマー、吸水性樹脂及びイオン性多糖類を一括で混合する方法や、予めアルコール類、とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材を攪拌して用意し、得られた粘液基材に吸水性樹脂を分散し、次いでイオン性多糖類を混合分散する方法や、予めアルコール類とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材にイオン性多糖類を混合分散し、次いで吸水性樹脂を混合分散する方法等が挙げられる。
【0064】
体液漏出防止剤は、上述のアルコール類とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材、吸水性樹脂及びイオン性多糖類のほかに、ポリアクリル酸部分中和物、抗菌剤、抗カビ剤、香料、酸化防止剤、色素等の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0065】
(体液漏出防止剤の装填器)
遺体処置装置(装填器)1の挿入管20を鼻孔Aに挿入して、注入器10内の体液漏出防止剤2を遺体Sの咽喉部Bに注入する場合に、本発明を適用した例を挙げて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る体液漏出防止剤2を収容する注入器10と遺体Sの咽喉部Bへ注入する挿入管20とを有する遺体処置装置1を示す。
図2は、注入器10に挿入管20を接続して、注入器10内の体液漏出防止剤2を挿入管20を通して遺体Sの体腔(咽喉部B)に装填する使用状態を示す。
図2において、Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道、Fは頚椎、Gは口腔をそれぞれ示している。
【0066】
図1に示すように、注入器10は、シリンジ11及びピストン12で構成されている。シリンジ11は、内部に体液漏出防止剤2が充填される筒状の収容部13と、収容部13の先端に突出する筒状部14とを有している。筒状部14は、先端に向かってテーパー状に徐々に細くなっており、外周面に2つの突出部15を有する。
【0067】
挿入管20は、例えば軟質塩化ビニル等の柔軟性及び可撓性を有する合成樹脂材からなり、鼻孔Aから咽喉部Bへ向けて挿入される際に撓む管本体部21を備えている。管本体部21の後端側には、注入器10の筒状部14に接続される接続管部31が設けられている。
【0068】
管本体部21は、中空管のように細長い円筒形状をなしている。この管本体部21は、鼻孔Aから咽喉部Bまでの内部形状に応じて変形可能な柔軟性と、鼻孔Aに挿入した際に管本体部21の内部通路Rが潰れないような固さとを兼ね備えている。
【0069】
管本体部21の軸方向先端側には、当該管本体部21の内部に連通する4つの側面開口孔23と、先端開口孔24とがそれぞれ形成され、各開口孔は、注入器10内から管本体部21の内部に注入された体液漏出防止剤2を遺体Sの咽喉部B内に案内するようになっている。
【0070】
挿入管20の後側には、注入器10の筒状部14に接続される接続管部31が設けられている。テーパー壁部32は、第1壁部33と第2壁部34を備える。テーパー壁部32における第1壁部33の前側寄りの位置には、径方向外側に突出するとともに周方向に延びる略C字形状をなすストッパ35が一体に形成されている。該ストッパ35は、管本体部21の先端開口孔24等が咽喉部Bに達したときに鼻先A1に当接するような位置に設けられている。第1壁部33の軸方向中間部には、周方向に延びる溝部36が設けられ、該溝部36は、周方向に所定の間隔をあけて2つ形成されている。
【0071】
注入器10と挿入管20とを接続するときに、筒状部14のテーパー面と接続管部31の内周面とが密着した状態になり、筒状部14の突出部15が、接続管部31の溝部36に嵌り込んで、係合する。
【0072】
(体液漏出防止剤の使用例)
次に、遺体処置装置1を使用して、体液漏出防止剤2を遺体Sの咽喉部Bに注入する方法を説明する。まず、フィルムパック(図示せず)から注入器10を取り出し、注入器10の筒状部14に被せた保護キャップ(図示せず)を取り外す一方、接続管部31に筒状部14を嵌め合わせて挿入管20に注入器10を接続する。次いで、挿入管20の管本体部21を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管20のストッパ(図示せず)が鼻先A1に当たった時点で挿入を停止する。そして、注入器10のピストン12を押圧し、挿入管20を経由してシリンジ11内の体液漏出防止剤2を咽喉部Bに注入する。シリンジ11内の体液漏出防止剤2を押し出して咽喉部Bに装填した後、注入器10を引っ張って挿入管20を鼻孔Aから引き抜く。
【0073】
この作業によって、遺体Sの咽喉部Bに体液漏出防止剤2を注入することができる。
【0074】
(体液漏出防止剤についての実施例)
次に、本発明の体液漏出防止剤について、実施例を挙げて具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1~4)
(体液漏出防止剤の調製)
実施例1~4に係る体液漏出防止剤の調製について説明する。攪拌機を備えた注入器に溶媒としてのエチレングリコール55.55重量%及びポリエチレングリコール16重量%を入れて攪拌しながら、更にカルボキシビニルポリマー0.3重量%を少量ずつ加えて、2~8時間攪拌した。そして得られた粘液基材に吸水性樹脂26重量%を加え、更にポリアクリル酸部分中和物0.1重量%を加え、十分に攪拌した。その後、吸水性樹脂が分散した粘液基材を攪拌しながら、更にトリエタノールアミン2.05重量%を少量ずつ滴下し、これによりpH7.0の体液漏出防止剤を調製した。
【0076】
そして、実施例1については、上記のように配合した体液漏出防止剤20gを取り出して、20ccのガラス製試料瓶に採り、更にκ-カラギーナン0.3重量%加えて、窒素気流下で約3時間機械的攪拌棒で攪拌して、サンプル1とした。サンプル1の粘度は、119,300cPであった。
【0077】
実施例2はサンプル2とし、実施例1と同じサンプル1を使用して、消臭試験を行う際にサンプル1に水を加えたものとした。
【0078】
実施例3はサンプル3とし、実施例1のκ-カラギーナンの代わりにキサンタンガム0.1重量%加えた点が異なるだけであり、他は実施例1と同じである。サンプル3の粘度は、138,200cPであった。
【0079】
実施例4はサンプル4とし、実施例3と同じサンプル3を使用して、消臭試験を行う際にサンプル3に水を加えたものとした。
【0080】
各成分としては次のものを使用した。
・エチレングリコール:(日本アルコール販売(株)製)
・PEG200:数平均分子量が200のポリエチレングリコール(日油(株)製)
・カルボキシビニルポリマー:商品名「ハイビスワコー」和光純薬工業(株)製
・吸水性樹脂 TYPEI:商品名「アクアキープ10SH-PF」住友精化(株)製
・イオン性多糖類:κ-カラギーナン(東京化成(株)製)、キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル(株)製)、タマリンドガム(DSP五協フード&ケミカル(株)製)
・ポリアクリル酸部分中和物:商品名「アクパーナAP-70」住友精化(株)製
・トリエタノールアミン:(三井化学(株)製)
・「アクアキープ10SH-PF」は、中位粒子径160μmの顆粒状吸水性樹脂であり、生理食塩水の吸水速度は2秒である。「アクパーナAP-70」は、中位粒子径70μm、中和度70%のポリアクリル酸部分中和物である。
【0081】
(体液漏出防止剤の悪臭化合物)
実施例1~4の各体液漏出防止剤の悪臭化合物として、以下のものを使用した。
【0082】
消臭性能をテストするための悪臭化合物として、アンモニアガス、アミン類、及びブタン酸を選定した。アンモニアガスは、和光純薬工業(株)製のアンモニア水を90℃に加熱してガスを発生させた。アミン類は、東京化成工業(株)製のイソプロピルアミンを90℃に加熱してガスを発生させた。ブタン酸(酪酸)は、東京化成工業(株)製のものを90℃に加熱してガスを発生させた。
【0083】
(測定機器)
気体採取器として(株)ガステック製のGV-100Sを使用し、(株)ガステック製のガス検知管を使用した。
【0084】
(消臭試験)
10リットルのポリフッ化ビニリデン樹脂製のテトラーバッグに、上記のように調整したサンプル1~4をそれぞれ別々に入れてテープで密封した後、ポンプ式空気入れで純粋な空気を挿入して10リットルにした。このようにして、サンプル1~4を入れた4種類のテトラーバッグを、悪臭成分であるアンモニアガス、イソプロピルアミン、ブタン酸(酪酸)用に、それぞれ用意した。それぞれのサンプルを入れたテトラーバッグについて、注射器で気体の濃度が100ppmになるように、それぞれの悪臭成分を別々に挿入し、すぐに蓋をした。
【0085】
このようにして用意した各テトラーバッグについて、0分、10分、30分、60分、120分、180分、360分後に、気体採取器にガス検知管を取り付け、ガス検知管をテトラーバッグ内に挿入して測定した。なお、検知した値がほぼゼロに近い場合には、それ以上の測定は中断した。その測定結果を
図3~
図5に示す。
図3がアンモニア、
図4がイソプロピルアミン、
図5がブタン酸の消臭試験結果を示す。
【0086】
図3に示すように、アンモニア臭に対しては、κ-カラギーナンを含有する実施例1及び2、及びキサンタンガムを含有する実施例3及び4において、消臭効果を発揮することが明確となった。特に、キサンタンガムを含有する実施例3及び実施例4では、10分後にはアンモニア濃度が半分以下に減少しており、顕著な消臭効果を発揮することが明確となった。また、κ-カラギーナンを含有する実施例1及び実施例2でも、アンモニア臭に対する消臭効果を発揮することが明確となったが、特に、水分を含む場合の実施例2では、10分後にはアンモニア濃度が半分以下に減少しており、顕著な消臭効果を発揮することが明確となった。これはアンモニアガスが水に溶解するためと思われる。このように水分を含むことで消臭効果が顕著になるということは、遺体から体液が漏出した際の水分を吸収して消臭効果を発揮することに繋がることであり、消臭性能に大いに貢献することといえる。
【0087】
図4に示すように、イソプロピルアミン臭に対しては、上記のアンモニア臭と同様に、κ-カラギーナンを含有する実施例1及び2、及びキサンタンガムを含有する実施例3及び4において、消臭性能を発揮することが明確となっている。その上、水分を含む場合で、κ-カラギーナンを含有する実施例2及びキサンタンガムを含有する実施例4では、10分後にはイソプロピルアミン濃度が半分以下に減少しており、顕著な消臭効果を発揮することが明確となっている。これは、実施例2や4のイソプロピルアミンガスが水に溶解するためと思われる。
【0088】
図5に示すように、ブタン酸の臭気に対しては、κ-カラギーナンを含有する実施例1及び2、及びキサンタンガムを含有する実施例3及び4において、10分で急激にブタン酸濃度が10パーセント以下に低下しており、特に顕著な消臭性能を発揮できている。今回のκ-カラギーナンを含有する実施例1及び2には、κ-カラギーナンに存在するスルホン酸基(硫酸基)が存在するためブタン酸のカルボキシル基等との相互作用が強まったためとも予測できるが、根拠は明確ではない。また、キサンタンガムを含有する実施例3及び4には、大量のカルボキシル基が存在するためブタン酸のカルボキシル基との極性基同士の相互作用が働き、消臭性が顕著になったものと推察される。
【0089】
なお、遺体に含まれる臭気として、カダベリン(ペンタン-1,5-ジアミン)やプトレシンが含まれる場合があるが、カダベリンやプトレシンは、どちらもアミノ基(-NH2)を2つ持っており、アミノ基を1個含有するイソプロピルアミンと同等の傾向を示し、実験結果を容易に予測することができるので消臭試験を省略した。
【0090】
(体液漏出防止剤の粘度評価試験方法)
実施例5~12、比較例1及び2の体液漏出防止剤の調製について説明する。
【0091】
攪拌機を備えた容器に溶媒としてのエチレングリコール53.8重量%及びポリエチレングリコール10重量%、グリセリン7.9重量%を入れ、攪拌しながら、カルボキシビニルポリマー0.25重量%を少量ずつ加えて、2~8時間攪拌した。得られた粘液基材に吸水性樹脂26重量%を加え、十分に攪拌した。その後、吸水性樹脂が分散した粘液基材を攪拌しながら、トリエタノールアミン2.05重量%を少量ずつ滴下し、これにより、pH7.0の体液漏出防止剤を調製した。上記のような配合割合で混合した体液漏出防止剤に対して、更にポリアクリル酸部分中和物3重量%を加え、十分に攪拌した。
【0092】
上記のように配合した体液漏出防止剤20gを取り出して、20ccのガラス製試料瓶に採り、更にκ-カラギーナンを、それぞれ0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%加えて、窒素気流下で約3時間機械的攪拌棒で攪拌した。これらを、それぞれ実施例5~8のサンプルとした。実施例5~8の粘度は、それぞれ88,600cP、101,400cP、109,500cP、130,600cPであった。
【0093】
また、上記のように配合した体液漏出防止剤20gを取り出して、20ccのガラス製試料瓶に採り、更にκ-カラギーナンの代わりにキサンタンガムを、それぞれ0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%加えて、窒素気流下で約3時間機械的攪拌棒で攪拌した。これらを、それぞれ実施例9~12のサンプルとした。実施例9~12の粘度は、それぞれ93,900cP、102,200cP、115,500cP、128,800cPであった。
【0094】
比較例1及び2は、上記のように配合した体液漏出防止剤20gを取り出して、20ccのガラス製試料瓶に採り、更にκ-カラギーナン及びキサンタンガムの代わりにタマリンドガムを、それぞれ0.2重量%、0.4重量%加えて、窒素気流下で約3時間機械的攪拌棒で攪拌した。これらを、比較例1及び2とした。比較例1及び2の粘度は、それぞれ77,700cP、81,000cPであった。
【0095】
粘度計は、BROOKFIELD製のDV-E VISCOMETERを使用し、s64のスピンドルを用い2.0RPMで測定した。室温にて各サンプルを3回以上粘度測定し、その平均を粘度の値とした。
【0096】
その試験結果を、
図6に示す。なお、各粘度を毎週測定したが、その値を横軸に入れると各データが複雑になり判り難くなるので、
図6では、横軸を10週単位とした。また縦軸は各粘度の値とした。また、実施例9~12では、130週のデータを省略した。比較例1及び2では、40週後の粘度の値が低かったので、それ以上の測定を省略した。
【0097】
図6に示すように、比較例1や2では、粘度が77,700cP、81,000cPであったものが、40週でそれぞれ21,300cP、29,600cPに低下している。このことから、アルコール類等を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散して所定の粘度を維持したゼリー状であったものが、吸水性樹脂が粘液基材中で沈下する傾向となり、吸水性樹脂が均一に分散しなくなっていると推測される。そしてその結果として、粘液基材の低い粘度が値として測定されたものといえる。特に、粘度が30,000cP以下となると、粘液基材と吸水性樹脂の分離傾向が進んでいると思われる。
【0098】
それに対して、実施例5~12の粘度は、120週経過しても、40,000cP以上になっており、アルコール類等を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散した状態を安定期間維持したゼリー状であり、長期に安定した粘性で流動性を維持できており、かつこのような長い期間を経過しても、消臭性能を発揮できるものである。
【0099】
なお、実施例5~12について、全体的に40週~50週、80週~100週で粘度が低下し、その中間週で粘度が高くなっているので、冬場と夏場の外気温の差によるものと思われる。このように冬場と夏場の外気温の差があっても、実施例5~12では、使用可能な粘度を維持できている。それに対して比較例1及び2は、40週で顕著に粘度が低下しており、使用できないものとなっている。
【0100】
次に、実施例5~12について、実施例1及び実施例3と同様な消臭試験を行った。なお、アンモニア臭、イソプロピルアミン臭及びブタン酸臭に対し、実施例5~12についても、実施例1や実施例3と同様な傾向を示したので、測定時間をアンモニア臭、イソプロピルアミン臭については180分まで、ブタン酸臭については60分までとした。その結果を、
図7~
図9に示す。
【0101】
図7~
図9に示すように、κ-カラギーナンを各々0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%及び0.4重量%含有する実施例5~8のいずれも、消臭効果を発揮することが明確となった。特に、κ-カラギーナンを含有する実施例5~8では、10分後にはイソプロピルアミン濃度が半分以下に減少しており、顕著な消臭効果を発揮することが明確となっている。また、実施例5~8のいずれも、アンモニア臭では、イソプロピルアミン臭よりも少し時間がかかるが、180分後には、ほぼ半分に減少しており、消臭効果を発揮することが明確となっている。更に、実施例5~8のいずれも、ブタン酸濃度は、10分で急激に10パーセント以下に低下しており、特に顕著な消臭性能を発揮できている。
【0102】
また、キサンタンガムを各々0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%及び0.4重量%含有する実施例9~12のいずれも、消臭効果を発揮することが明確となった。特に、キサンタンガムを含有する実施例9~12では、アンモニア濃度は、10分後には半分以下に減少しており、顕著な消臭効果を発揮することが明確となった。イソプロピルアミン臭では、アンモニア臭よりも少し時間がかかるが、180分後には、イソプロピルアミン濃度が約半分に減少しており、消臭効果を発揮することが明確となっている。ブタン酸の臭気に対しては、実施例9~12において、10分で急激に10パーセント以下に低下しており、特に顕著な消臭性能を発揮できている。
【0103】
なお、実施例2や4のように、水分を含んだ実施例も実験をすれば、更に消臭性を発揮することは、予測できることであるので、手間をかける必要はないと判断して、省略した。
【0104】
次に、アルコール類の成分であるエチレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコールと、吸水性樹脂と、それに添加する他の成との重量割合を変更した各種の体液漏出防止剤のサンプルについて、それらにκ-カラギーナン及びキサンタンガムの添加量を変更した場合の粘度及び消臭性について、実験した。
【0105】
実施例13~27及び比較例3と比較例4のサンプルについて、粘度の測定を行った結果を
図10に示す。室温にて各サンプルを3回以上粘度測定し、その平均を粘度の値とした。特に、実施例5~12では、1ヶ月後、半年後、1年後等の長期間にわたって、粘度の測定を行っているが、今回の粘度の測定は、体液漏出防止剤を製造した直後、1日後、1週間後の粘度値を測定することに留めた。その理由は、実施例5~12の長期間の粘度の測定の実績から、今回のサンプルの粘度の値が長期間に亙って40,000cp~200,000cpの範囲にあるか否かを予測できるので、長期間の粘度の測定を省略した。
【0106】
各々の体液漏出防止剤の粘度が、
図1の装填器を使用して、体液漏出防止剤を押し出すことができる適正な粘度範囲にあるか否か、すなわち、粘度が40,000cp~200,000cpの範囲にあるか否かを評価した。
図10に示すように、実施例13~27の体液漏出防止剤は、粘度が40,000cp~200,000cpの範囲にある適切な粘度範囲にあるので、アルコール類を主成分とする粘液基材に対して、吸収性樹脂が安定して分散していることの証である。
【0107】
具体的には
図10に示すように、実施例13~27については、製造直後、1日後、1週間後のいずれの時期でも、粘度は40,000cp~200,000cpの範囲になっている。なお、粘度が比較的高い実施例16では、1日後が178,400cpであり、1週間後が170,400cpであり、少し低い値になっているので、1か月後でも200,000cpを超えないと予測される。また、実施例19では、1日後が180,500cpであり、1週間後が188,700cpであり、少し増加しているだけであり、1か月後でも200,000cpを超えないと予測される。
【0108】
また、粘度が比較的低い実施例22では、粘度は製造直後が42,600cp、1日後が55,400cpであり、1週間後が57,200cpであり、1か月後でも40,000cp以上で、200,000cpを超えないと予測される。粘度が比較的低い実施例25では、粘度は製造直後が46,500cp、1日後が51,700cpであり、1週間後が63,900であり、1か月後でも40,000cp以上で、200,000cpを超えないと予測される。
【0109】
それに対して、アルコール類成分が少なく、吸水性樹脂が相対的に多くなった例を比較例3及び比較例4として、粘度を測定した。アルコール類の成分が61.55重量%、吸水性樹脂36重量%の比較例3の粘度値が、製造直後では、169,500cpであったが、1日後は283,300cp、1週間後は362,400cpであった。比較例3では、1日後で粘度が、200,000cpを大幅に超えた値であり、1週間後では300,000cp以上であり、それ以降の粘度も200,000cp以下になることは考えられなかった。また、アルコール類成分が66.55重量%、吸水性樹脂31重量%の比較例4の粘度は、製造直後では、175,300cpであったが、1日おいてから測定すると240,000cpであり、1週間後には、278,800cpとなった。比較例4は比較例3に比べて低粘度であるが、200,000cpを超えており、これ以降の粘度が200,000cp以下になるとは想像できなかったので、これ以降の粘度測定は不要と判断した。
【0110】
従って、これらの比較例3及び比較例4は、粘度が200,000cp以上の高粘度であるために、
図1の装填器を使用した場合に、体液漏出防止剤を押し出すことが困難であり、実用できないので、消臭性の測定を実施しなかった。
【0111】
具体的には、上記の実施例13~27について、実施例1と同様にして消臭性の測定を行い、比較例3及び比較例4の消臭性の測定は省略した。なお、すべての実施例について、アンモニア臭、イソプロピルアミン臭及びブタン酸臭を測定することは、効率的でないので、
図10に「●」で示すように、アンモニア臭については、実施例13~21、イソプロピルアミン臭については、実施例18~27、またブタン酸臭については、実施例13、14、18、19、22、23とした。なお、アンモニア臭及びイソプロピルアミン臭については、180分まで、ブタン酸臭については、60分までの消臭実験で、消臭効果を実証できたので、これ以上の時間については、消臭実験を中断した。
【0112】
実施例13~27のいずれのサンプルも、
図11から
図13に示すように、κ-カラギーナン又はキサンタンガムを添加したものは、アンモニア臭、イソプロピルアミン臭、ブタン酸臭に対して、顕著な消臭効果を発揮できた。
【0113】
具体的には、アンモニア臭については、キサンタンガムを添加した実施例14、16、19、21において、アンモニア濃度が10分後には半分以下になり、κ-カラギーナンを添加した実施例13、15、17、18、20において、180分後には半分以下になった。イソプロピルアミン臭については、κ-カラギーナンを添加した実施例18、20、22、24、26において、10分後にはイソプロピルアミン濃度が半分以下になり、実施例19、21、23、25、27において、180分後には半分以下になった。ブタン酸臭については、実施例13、14、18、19、22、23のいずれも、10分で急激にブタン酸濃度が10パーセント以下に低下しており、特に顕著な消臭性能を発揮できている。
【0114】
なお、遺体に含まれる臭気として、カダベリン(ペンタン-1,5-ジアミン)やプトレシンが含まれる場合があるが、カダベリンやプトレシンは、どちらもアミノ基(-NH2)を2つ持っており、アミノ基を1個含有するイソプロピルアミンと同等の傾向を示し、実験結果を容易に予測することができるので消臭試験を省略した。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、ヒトや動物の遺体の口、鼻、耳、肛門、腔等の体腔に装填される体液漏出防止剤として利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 装填器
2 体液漏出防止剤
3 注入器
4 挿入管
10 シリンジ
11 ピストン
12 収容部
13 ノズル部
14 突出部(係合部)
15 挿入管部
16~18 第1~第3装填孔
22 ストッパ(マーク)
23 孔部(係合部)