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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】組織の接合用部材及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20240228BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240228BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240228BHJP
   A61B 18/28 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/12
A61L31/14 400
A61B18/28
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020503523
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007317
(87)【国際公開番号】W WO2019167943
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018037082
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320013182
【氏名又は名称】池田 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 駿
(72)【発明者】
【氏名】沖 英次
(72)【発明者】
【氏名】沖原 伸一朗
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-537086(JP,A)
【文献】特開昭63-063700(JP,A)
【文献】特表2002-524110(JP,A)
【文献】特開平07-059812(JP,A)
【文献】特開平04-231961(JP,A)
【文献】特開平08-033700(JP,A)
【文献】特開昭52-059728(JP,A)
【文献】Connective Tissue,1999年,31,pp.17-23
【文献】GHANAATI S.et al.,Bilayered, non-cross-linked collagen matrix for regeneration of facial defects after skin cancer removal: a new perspective for biomaterial-based tissue reconstruction,J Cell Commun Signal.,2016年,10,pp.3-15
【文献】GHANAATI S.,Non-cross-linked porcine-based collagen I-III membranes do not require high vascularization rates for their integration within the implantation bed: A paradigm shift,Acta Biomaterialia,2012年,8,pp.3061-3072
【文献】DOILLON C.J.et al.,Bioactive collagen sponge as connective tissue substitute,Materials Science and Engineering C,1994年,2,pp.43-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未架橋の線維状のコラーゲンを含み、
体温超60℃未満の温度に加熱した状態において生体組織中のコラーゲン線維と密着させ圧迫した後に、体温以下の温度に冷却することにより生体組織中のコラーゲン線維と嵌合した状態を形成することを特徴とする、組織の接合用部材。
【請求項2】
フィルム状、シート状又はスポンジ状である、請求項に記載の接合用部材。
【請求項3】
水分を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の接合用部材。
【請求項4】
前記未架橋の線維状のコラーゲンがアテロコラーゲンである、請求項1~のいずれか 一項に記載の接合用部材。
【請求項5】
支持体と、
前記支持体の一方面上に積層された請求項1~4のいずれか一項に記載の接合用部材と、前記支持体の前記一方面上の、前記接合用部材が積層されていない領域に積層された第1の粘着剤層と、を備える、積層体。
【請求項6】
支持体と、
前記支持体の一方面上に積層された、未架橋の線維状のコラーゲンを含む、組織の接合用部材と、前記支持体の前記一方面上の、前記接合用部材が積層されていない領域に積層された第1の粘着剤層と、を備える、積層体。
【請求項7】
前記支持体と前記接合用部材との間に積層された第2の粘着剤層をさらに備える、請求項5又は6に記載の積層体。
【請求項8】
前記支持体又は前記第2の粘着剤層は、その少なくとも一部に温度感知性材料を含む、 請求項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の接合用部材又は請求項~8のいずれか一項に記載の積層体と、加熱部と、を備える、治療システム。
【請求項10】
前記加熱部により加熱された前記接合用部材又は前記積層体の温度が体温超60℃未満となるように前記加熱部を制御するように構成されている温度制御部をさらに備える、請求項9に記載の治療システム。
【請求項11】
未架橋の線維状のコラーゲンを含む、組織の接合用部材、と、
加熱部と、を備え、
前記加熱部により加熱された前記接合用部材の温度が体温超60℃未満となるように前記加熱部を制御するように構成されている温度制御部をさらに備える、治療システム。
【請求項12】
前記加熱部がレーザーである、請求項9~11のいずれか一項に記載の治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の接合用部材及びその使用に関する。具体的には、本発明は、組織の接合用部材、積層体及びそれらの使用方法、並びに、治療システムに関する。本願は、2018年3月2日に、日本に出願された特願2018-037082号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来の生体組織の接合方法としては、例えば、糸による縫合法、ステープルを用いる方法(例えば、特許文献1参照)、圧着法等が挙げられる。
【0003】
従来の接合方法では、縫合針やステープル針の刺入、過度の圧迫、加熱による組織の切断、挫滅、脱水、炭化等の組織障害が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-020149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、組織障害を生じさせずに、生体組織を接合する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、生体組織中のコラーゲン線維を体温よりも高い温度に加熱することで、線維がほぐれて膨化することを見出した。また、膨化したコラーゲン線維の温度を体温以下に低下させることで、ほぐれた線維が収縮し、元の状態に戻ることを見出した。
さらに、生体組織中のコラーゲン線維に、線維状のコラーゲンを含む部材を圧着させて、体温よりも高い温度に加熱することで、生体組織中のコラーゲン線維及び上記部材中の線維状のコラーゲンがほぐれて膨化し、線維同士が絡まり、続いて、温度を体温以下に低下させることで、ほぐれた線維が絡まった状態で収縮して嵌合し、両者を強固に接合できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る組織の接合用部材は、未架橋の線維状のコラーゲンを含む。
上記第1態様に係る接合用部材は、フィルム状、シート状又はスポンジ状であってもよい。
上記第1態様に係る接合用部材は、水分を実質的に含まなくてもよい。
上記第1態様に係る接合用部材において、前記未架橋の線維状のコラーゲンがアテロコラーゲンであってもよい。
【0008】
本発明の第2態様に係る積層体は、支持体と、前記支持体の一方面上に積層された上記第1態様に係る接合用部材と、前記支持体の前記一方面上の、前記接合用部材が積層されていない領域に積層された第1の粘着剤層と、を備える。
上記第2態様に係る積層体は、前記支持体と前記接合用部材との間に積層された第2の粘着剤層をさらに備えてもよい。
上記第2態様に係る積層体において、前記支持体又は前記第2の粘着剤層は、その少なくとも一部に温度感知性材料を含んでもよい。
【0009】
本発明の第3態様に係る使用方法は、上記第1態様に係る接合用部材又は上記第2態様に係る積層体の使用方法であって、組織上に積層された、前記接合用部材又は前記積層体を体温超60℃未満に加熱する加熱工程と、加熱された前記接合用部材又は前記積層体を体温以下に冷却する冷却工程と、を備える方法である。
【0010】
本発明の第4態様に係る治療システムは、上記第1態様に係る接合用部材又は上記第2態様に係る積層体と、加熱部と、を備える。
上記第4態様に係る治療システムは、前記加熱部により加熱された前記接合用部材又は前記積層体の温度が体温超60℃未満となるように前記加熱部を制御するように構成されている温度制御部をさらに備えてもよい。
上記第4態様に係る治療システムにおいて、前記加熱部がレーザーであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記態様の接合用部材、積層体及びそれらの使用方法、並びに、治療システムによれば、組織障害を生じさせずに、生体組織を接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の積層体の一例を示す底面図である。
図2】本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図3】本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図4】本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図5】本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図6】本実施形態の接合用部材又は積層体の使用方法の一例を示す概略工程図である。
図7】参考例1における4℃及び45℃での動脈コラーゲンを示す電子顕微鏡像である。
図8】実施例1における積層体を用いたウシ頚動脈の接合手順を示す図である。
図9】実施例1における接合されたウシ頚動脈(A群)の光学顕微鏡像及び電子顕微鏡像である。
図10】実施例1における接合されたウシ頚動脈の耐圧試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪組織の接合用部材≫
本実施形態の組織の接合用部材(以下、単に「接合用部材」と称する場合がある)は、未架橋の線維状のコラーゲンを含む。
【0014】
本実施形態の接合用部材は、後述の実施例に示すように、体温超60℃未満程度の温度に加熱することで、未架橋の線維状のコラーゲンを弛緩及び膨化させることができる。そのため、上記加温状態において、本実施形態の接合用部材の未架橋の線維状のコラーゲンと生体組織中のコラーゲン線維とを密着させ圧迫することで、細いコラーゲン線維同士が絡み合う嵌合と呼ばれる現象が起きる。また、再び温度を体温以下程度まで下げることで、コラーゲン線維が嵌合したまま収縮して締まり合い、コラーゲン線維同士を結合状態とすることができる。また、体温超60℃未満程度の温度では、生体組織の組織成分(特にタンパク質等)の変性及び破壊が起きにくい。そのため、本実施形態の接合用部材を用いることで、生体組織の組織成分の変性及び破壊等の組織障害を生じさせずに、生体組織を接合することができる。すなわち、組織損傷によって生じる出血、硬化、脱水、炭化等を伴わずに、生体組織を接合することができる。また、本実施形態の接合用部材は、生体組織の接合部における止血、並びに、胆汁、膵液リンパ液等の体液及び肺漏等の気体の漏出を止める作用を有する。
【0015】
なお、一般に、「コラーゲン」は、主に脊椎動物の真皮、靭帯、腱、骨、軟骨等を構成するタンパク質の一つであり、多細胞動物の細胞外基質の主成分である。また、コラーゲンタンパク質のペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、「-G(グリシン残基)-X(アミノ酸X)-Y(アミノ酸Y)-」(なお、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミン酸残基である)と、グリシン残基が3残基ごとに繰り返す一次構造を有する。また、コラーゲンタンパク質を構成する1本のペプチド鎖はα鎖と呼ばれる。コラーゲンでは、一アミノ酸残基ずつずれてグリシン残基が中央に来るようにα鎖が3本集まって、緩い右巻きのらせん構造をとる。なお、以下、このらせん構造体を「コラーゲン分子」と称する場合がある。
また、「線維状のコラーゲン」又は「コラーゲン線維」とは、上記コラーゲン分子が少しずつずれてたくさん集まり、線維を作ったもの意味し、その太さは、数十nm以上百十数nm以下程度である。「線維状のコラーゲン」又は「コラーゲン線維」を、「Collagen fibril」と称する場合がある。
本明細書において、「コラーゲン線維束」とは、上記コラーゲン線維が数十万本以上数百万本以下程度束ねられた構造のものを意味し、その太さは、数μm以上数十μm以下程度である。「コラーゲン線維束」を、「Collagen fiber」と称する場合がある。
また、本明細書において、「変性」とは、タンパク質のアミノ酸配列はそのままでも、立体構造が明らかに、且つ、不可逆的に変化することを意味する。上述したように、線維状のコラーゲンの膨化は、軽微な変化であり、タンパク質の4次構造の変化に相当し、可逆的である可能性が高い。そのため、本明細書における「変性」には、上記線維状のコラーゲンの膨化は、包含されない。
【0016】
<線維状のコラーゲン>
本実施形態の接合用部材は、未架橋の線維状のコラーゲンを主成分として含む。
なお、本明細書において、「未架橋の線維状のコラーゲン」とは、架橋が生じていない又は架橋基を有しない線維状のコラーゲンを意味する。
また、線維状のコラーゲンには、未架橋の線維状のコラーゲン及び架橋された線維状のコラーゲンが包含される。
また、本実施形態の接合用部材において、線維状のコラーゲンは、後述する図1~5に示すように、コラーゲン線維束を形成していることが好ましい。
【0017】
本実施形態の接合用部材において、線維状のコラーゲン中の未架橋の線維状のコラーゲンの含有量は、接合対象となる組織の種類に応じて適宜選択することができる。線維状のコラーゲン中の未架橋の線維状のコラーゲンの含有量は、線維状のコラーゲンの総質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
線維状のコラーゲン中の未架橋の線維状のコラーゲンの含有量が上記下限値以上であることにより、より十分量の未架橋の線維状のコラーゲンを弛緩及び膨化させて、生体組織中のコラーゲン線維とより効果的に嵌合させることができる。これにより、生体組織をより確実に接合することができる。また、接合されたコラーゲン組織における弾力性を維持することができる。
【0018】
本実施形態の接合用部材に用いられる線維状のコラーゲンとしては、抗原性が低く、生体適合性が高いことから、アテロコラーゲンが好ましい。また、線維状のコラーゲンの種類としては、I型、II型及びIII型のいずれの線維状のコラーゲンであってもよい。これらの線維状のコラーゲンを1種類単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、線維状のコラーゲンの種類は、接合対象となるコラーゲン組織の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0019】
本実施形態の接合用部材は、組織の接合部を覆うために、ある程度の面積を備えた形状であることが好ましく、フィルム状、シート状又はスポンジ状とすることができる。接合用部材の大きさは、接合部の表面積に合わせた大きさに適宜調整することができる。
なお、本明細書において、「フィルム」とは、厚さが250μm未満の膜状のものを意味し、「シート」とは、厚さ250μm以上の薄い板状のものを意味する。また、「スポンジ」とは、シートよりも厚く、シートよりも空隙を多く含み、密度が低く、弾力性の高い構造体を意味する。スポンジ状の接合用部材の厚さは概ね1cm以上であるが、これに限定されない。
また、ここでいう「厚さ」とは、フィルム状の接合用部材、シート状の接合用部材又はスポンジ状の接合用部材全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなるフィルム状の接合用部材、シート状の接合用部材又はスポンジ状の接合用部材の厚さとは、フィルム状の接合用部材、シート状の接合用部材又はスポンジ状の接合用部材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0020】
また、本実施形態の接合用部材の厚さは、例えば、1μm以上10cm以下とすることができる。
【0021】
また、本実施形態の接合用部材は、水分を実質的に含まない。すなわち、本実施形態の接合用部材に含まれる線維状のコラーゲンはゼラチンではないことを意味する。
なお、ここでいう「水分を実質的に含まない」とは、水分を全く含まない状態を意味する。又は、1枚の本実施形態の接合用部材に含まれる未架橋の線維状のコラーゲンの部分を重ね合わせて加熱した際、若しくは、2枚の本実施形態の接合用部材に含まれる未架橋の線維状のコラーゲン同士が重なるように貼り合わせて加熱した際に、該未架橋の線維状のコラーゲン同士が嵌合しない程度の極微量の水分を含む状態を意味する。これにより、高温環境下での保存時において、本実施形態の接合用部材に含まれる線維状のコラーゲン同士が嵌合することを防ぐことができる。
【0022】
≪積層体≫
<積層体の構造>
本実施形態の積層体の構造について、図を参照しながら、以下に詳細を説明する。
図1は、本実施形態の積層体の一例を示す底面図である。また、図2は、本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図1及び図2に示す積層体10は、接合用部材1、第1の粘着剤層2及び支持体3を備える。
接合用部材1は、支持体3の一方面上に積層されており、第1の粘着剤層2は、支持体3の接合用部材1が積層されている方面と同一方面上の、接合用部材1が積層されていない領域に積層されている。接合用部材1は、線維状のコラーゲンが束ねられたコラーゲン線維束を含む。また、このコラーゲン線維束は、未架橋の線維状のコラーゲンを含む。
また、第1の粘着剤層2及び支持体3を備えることで、積層体10を組織の接合部に圧迫及び固定することができる。これにより、接合用部材1を組織に一定の圧力をかけて圧迫しながら密着させることができる。
【0023】
また、本実施形態の積層体は、支持体と接合用部材との間に第2の粘着剤層をさらに備えていてもよい。後述するように、第2の粘着剤層は、接合用部材から容易に剥離できるものである。
図3は、本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。なお、図3以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図3に示す積層体20は、支持体3と接合用部材1との間に第2の粘着剤層4を備える点以外は、図2に示す積層体10と同様である。すなわち、積層体20は、接合用部材1、第1の粘着剤層2、支持体3及び第2の粘着剤層4を備える。また、接合用部材1、第2の粘着剤層4及び支持体3がこの順に積層されている。さらに、第1の粘着剤層2は、支持体3の接合用部材1及び第2の粘着剤層4が積層されている方面と同一方面上の、接合用部材1及び第2の粘着剤層4が積層されていない領域に積層されている。
また、第2の粘着剤層4を備えることで、支持体3及び第1の粘着剤層2を取り除くまでの間、接合用部材1を支持体3上に固定することができる。
【0024】
また、本実施形態の積層体において、支持体又は第2の粘着剤層は、その少なくとも一部に接合部が至適温度(体温超60℃未満)に達したことを肉眼又はセンサーにより感知できるように構成された温度感知性材料を含んでもよい。
図4は、本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図4に示す積層体30は、支持体3がその一部に温度感知性材料含有層5を含む点以外は、図2に示す積層体10と同様である。すなわち、積層体30は、接合用部材1、粘着剤層2及び支持体3を備える。接合用部材1は、支持体3の一方面上に積層されている。第1の粘着剤層2は、支持体3の接合用部材1が積層されている方面と同一方面上の、接合用部材1が積層されていない領域に積層されている。さらに、支持体3はその一部に温度感知性材料含有層5を含む。積層体30を用いて生体組織を接合させる場合において、支持体3中の温度感知性材料含有層5を接合部に合わせて配置させて積層体を接着させることで、接合部が至適温度(体温超60℃未満)に達したことを肉眼又はセンサーにより感知することができる。
【0025】
図5は、本実施形態の積層体の一例を示す断面図である。
図5に示す積層体40は、第2の粘着剤層4がその一部に温度感知性材料含有層5を含む点以外は、図3に示す積層体20と同様である。すなわち、積層体40は、接合用部材1、第1の粘着剤層2、支持体3及び第2の粘着剤層4を備える。また、接合用部材1、第2の粘着剤層4及び支持体3がこの順に積層されている。また、第1の粘着剤層2は、支持体3の接合用部材1及び第2の粘着剤層4が積層されている方面と同一方面上の、接合用部材1及び第2の粘着剤層4が積層されていない領域に積層されている。さらに、第2の粘着剤層4はその一部に温度感知性材料含有層5を含む。積層体40を用いて生体組織を接合させる場合において、第2の粘着剤層4中の温度感知性材料含有層5を接合部に合わせて配置させて積層体を接着させることで、接合部が至適温度(体温超60℃未満)に達したことを肉眼又はセンサーにより感知することができる。
【0026】
本実施形態の積層体は、図1~5に示すものに限定されず、本実施形態の積層体の効果を損なわない範囲内において、図1~5に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0027】
例えば、図1~5に示す積層体において、平面形状が長方形であるものを示したが、その他の形状とすることもできる。積層体の平面形状としては、例えば、多角形(正多角形等も含む)、半円形、楕円形、略円形等が挙げられ、これらに限定されない。
【0028】
また、例えば、図4に示す積層体において、温度感知性材料含有層5の厚さを支持体3の厚さと同じ厚さとしたが、温度感知性材料含有層5の厚さを支持体3の厚さよりも薄くしてもよい。又は、支持体3又は第2の粘着剤層4のいずれも温度感知性材料含有層5を含んでもよい。又は、支持体3と接合用部材1との間、接合用部材1と第2の粘着剤層4との間、第2の粘着剤層4と支持体3との間若しくは支持体3上に温度感知性材料含有層5を備えていてもよい。
【0029】
<積層体の構成成分>
次いで、積層体を構成する各成分について、以下に詳細を説明する。
【0030】
[第1の粘着剤]
第1の粘着剤層を形成する粘着剤としては、生体に毒性を示さないものであればよい。粘着剤の種類は、接着対象である組織の種類及び支持体の材料に応じて、適宜選択することができる。
【0031】
第1の粘着剤としては、例えば、合成化合物からなる接着剤、天然化合物からなる接着剤、両面テープ等が挙げられ、これらに限定されない。
合成化合物からなる接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、リン酸カルシウム系接着剤、レジン系セメント等が挙げられる。
天然化合物からなる接着剤としては、例えば、フィブリン糊、ゼラチン糊等が挙げられる。
両面テープとしては、医療用途にて用いられているもの等が好適に用いられる。また、両面テープとしては、例えば、支持テープの両面に粘着剤が積層された構造を有するもの等が挙げられる。両面テープに用いられる粘着剤としては、例えば、ゴム系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ビニルエーテル系等の公知の粘着剤が挙げられる。
両面テープとしてより具体的には、例えば、3Mジャパン社製の皮膚貼付用両面テープ(製品番号:1510、1504XL、1524等)、日東電工社製の皮膚用両面粘着テープ(製品番号:ST502、ST534等)、ニチバンメディカル社製の医療用両面テープ(製品番号:#1088、#1022、#1010、#809SP、#414125、#1010R、#1088R、#8810R、#2110R等)、DIC社製の薄型発泡体基材両面接着テープ(製品番号:#84010、#84015、#84020等)等が挙げられる。
第1の粘着剤層は、上記に例示されたもののうち1種類から形成されていてもよく、2種類以上から形成されていてもよい。
【0032】
第1の粘着剤層の厚さは、例えば、1μm以上1000μm以下とすることができる。
なお、ここでいう「第1の粘着剤層の厚さ」とは、第1の粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる第1の粘着剤層の厚さとは、第1の粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0033】
[第2の粘着剤]
第2の粘着剤層を形成する第2の粘着剤としては、生体に毒性を示さず、線維状のコラーゲンに対する接着性が低く、支持体に対する接着性が高いものであればよい。このような第2の粘着剤を用いることで、支持体を線維状のコラーゲンに対して着脱可能とすることができる。
このような第2の粘着剤としては、支持体を構成する材料の種類に応じて、上記「第1の粘着剤」において例示されたものから適宜選択することができる。
【0034】
[支持体]
支持体の材料としては、生体に毒性を示さず、コラーゲンに対する接着性が低いものであればよい。また、後述する「接合用部材又は積層体の使用方法」の「加熱工程」において、レーザーを使用する場合には、支持体の材料としては、レーザーを透過するものであることが好ましい。支持体の材料としては、例えば、エラストマー材料、樹状ポリマーを含むプラスチック、コポリマー等が挙げられ、これらに限定されない。
エラストマー材料としては、例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フッ素ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム等が挙げられる。
樹状ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサンモノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フルオロカーボンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
コポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル-共-無水マレイン酸、ポリスチレン-共-無水マレイン酸、ポリエチレン-共-アクリル酸、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
支持体は、上記に例示された材料のうち1種類から形成されていてもよく、2種類以上から形成されていてもよい。
【0035】
支持体の厚さは、例えば、1μm以上2000μm以下とすることができる。
なお、ここでいう「支持体の厚さ」とは、支持体全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる支持体の厚さとは、支持体を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0036】
[温度感知性材料]
温度感知性材料は、加熱により接合部が至適温度(体温超60℃未満)に達したことを肉眼又はセンサーにより感知するために用いられる。温度感知性材料としては、例えば、サーモクロミック顔料等が挙げられる。
サーモクロミック顔料は、至適温度まで温度が上昇すると消色(若しくは白色化)し、至適温度よりも温度が下降すると発色する可逆性のものであってもよく、至適温度まで温度が上昇すると発色し、至適温度よりも温度が下降すると消色(若しくは白色化)する可逆性のものであってもよい。又は、一度変色すると永久的に元の色に戻らない不可逆的なものであってもよい。
サーモクロミック顔料を構成する化合物としては、例えば、AgHgIやCuHgI等の無機化合物等が挙げられる。
また、サーモクロミック顔料の発色状態の色については、例えば、ブルー、バイオレット、ブラック、レッド、ロゼレッド、グリーン、エメラルドグリーン等が挙げられる。
市販のサーモクロミック顔料としては、例えば、記録素材総合研究所製のORシリーズ、DRシリーズ及びERシリーズのうち、消色開始が30℃以上50℃以下であって、中間色の設定温度が35℃以上55℃以下であり、消色完了が40℃以上60℃以下のもの等が挙げられ、これらに限定されない。サーモクロミック顔料は、上記に例示されたもののうち1種類から構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。
【0037】
温度感知性材料含有層の厚さは、例えば、100nm以上1000μm以下とすることができる。
なお、ここでいう「温度感知性材料含有層の厚さ」とは、温度感知性材料含有層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる温度感知性材料含有層の厚さとは、温度感知性材料含有層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0038】
≪接合用部材又は積層体の使用方法≫
次いで、本実施形態の接合用部材又は積層体の使用方法について、図を参照しながら、以下に詳細を説明する。
図6は、本実施形態の接合用部材又は積層体の使用方法の一例を示す概略工程図である。
本実施形態の接合用部材又は積層体の使用方法は、加熱工程と、冷却工程と、を備える。各工程について、以下に詳細を説明する。
【0039】
[加熱工程]
加熱工程では、組織上に積層された、上記接合用部材又は積層体を体温超60℃未満に加熱する。
具体的には、図6に示すように、皮膚等の生体組織において、生体のコラーゲン組織100を接合するために、まず、生体のコラーゲン組織100の切断された部分上に接合用部材1(積層体10)を接着させる。次いで、接合用部材1(積層体10)を加熱する。このとき、まず、切断された生体のコラーゲン組織中の水分の温度が上昇することで、切断された生体のコラーゲン組織の温度が上昇し、次いで、接着された接合用部材1(積層体10)の温度が同程度の温度まで上昇すると推察される。
【0040】
加熱温度の下限値としては、体温よりも高い温度とすることができる。該体温は、接合対象となる動物種に応じて適宜選択することができる。
例えば、接合対象となる動物種が魚類、両生類及び爬虫類等の変温動物である場合、体温は外気温に応じて適宜調整される。
よって、接合対象となる動物種が魚類、両生類及び爬虫類である場合、加熱温度の下限値としては、4℃とすることができ、10℃が好ましく、15℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。
また、例えば、接合対象となる動物種が鳥類である場合、体温は40℃以上43℃以下程度である。
よって、接合対象となる動物種が鳥類である場合、加熱温度の下限値としては、43℃とすることができ、45℃が好ましく、47℃がより好ましい。
また、例えば、接合対象がヒトである場合、体温は35℃以上39℃以下程度である。
よって、接合対象となる動物種がヒトである場合、加熱温度の下限値としては、39℃とすることができ、40℃が好ましく、42℃がより好ましく、45℃がさらに好ましく、47℃が特に好ましい。
また、例えば、接合対象となる動物種がヒトを除く哺乳類動物である場合、体温は36℃以上42℃以下程度である。
よって、接合対象となる動物種がヒトを除く哺乳類動物である場合、加熱温度の下限値としては、42℃とすることができ、45℃が好ましく、47℃がより好ましい。
一方、加熱温度の上限値としては、60℃未満とすることができ、55℃以下が好ましく、52℃以下がさらに好ましい。
すなわち、接合対象となる動物種がヒトである場合、加熱温度は、39℃超60℃未満とすることができ、40℃以上55℃以下が好ましく、42℃以上55℃以下がより好ましく、45℃以上55℃以下がさらに好ましく、47℃以上52℃以下が特に好ましい。
加熱温度を上記下限値以上とすることで、コラーゲン線維をより効果的に弛緩及び膨化することができる。一方、加熱温度を上記上限値以下とすることで、生体組織の組織成分を変性及び破壊することをより効果的に防止することができる。これにより、生体組織の組織障害をより効果的に防止することができる。
【0041】
また、加熱方法としては、非侵襲的に、且つ、短時間で上記温度範囲に接合部を加熱できるものであればよく、例えば、レーザーによる加熱法、RF波誘電加熱法、RF波電磁誘導加熱法、マイクロ波加熱法、超音波加熱法等が挙げられる。中でも、加熱方法としては、局所を非接触に短時間で目的の温度に加熱できることから、レーザーによる加熱方法が好ましい。レーザーを用いて加熱する場合、その波長は、例えば350nm以上6000nm以下程度とすることができ、例えば400nm以上4000nm以下程度とすることができ、例えば1470nm以上1950nm以下程度とすることができる。また、レーザーを用いて加熱する場合、加熱時間は、例えば1秒以上60秒以下程度の短時間とすることができる。
【0042】
また、加熱工程において、接合部を圧迫しながら加熱することが好ましい。これにより、生体組織中のコラーゲン線維と、接合用部材に含まれる未架橋の線維状のコラーゲンとをより効果的に嵌合させることができる。接合部を圧迫させる方法としては、例えば、支持体と接合用部材と第1の粘着剤層とを備える積層体を用いて、生体組織の周辺組織に該積層体を固定接着させる方法等が挙げられる。
【0043】
[冷却工程]
冷却工程では、加熱された接合用部材又は積層体を冷却する。
冷却温度の上限値としては、体温以下とすることができる。冷却温度の下限値としては、接合対象となる動物種の体温の下限値とすることができる。該体温は、接合対象となる動物種に応じて適宜選択することができる。各動物種の体温は、上記「加熱工程」において例示されたとおりである。
例えば、接合対象となる動物種が魚類、両生類及び爬虫類である場合、冷却温度としては、20℃以下とすることができ、0℃以上15℃以下が好ましい。
また、例えば、接合対象となる動物種が鳥類である場合、冷却温度としては、43℃以下とすることができ、40℃以上43℃以下が好ましい。
また、例えば、接合対象となる動物種がヒトである場合、冷却温度としては、39℃以下とすることができ、35℃以上38℃以下であることが好ましい。
また、例えば、接合対象となる動物種がヒトを除く哺乳類動物である場合、42℃以下とすることができ、36℃以上42℃以下が好ましい。
冷却温度が上記温度範囲であることにより、生体組織中のコラーゲン線維と、接合用部材に含まれる未架橋の線維状のコラーゲンとが、嵌合した状態を保ちながら、収縮して締まり合い、コラーゲン線維同士を結合することができる。よって、本実施形態の接合用部材及び積層体を用いることで、生体組織を接合することができる。
また、冷却方法としては、例えば、室温で静置する方法、冷風を接合部にあてる方法、ペルチェ素子、圧縮ガス、氷嚢、冷却用ブランケット、氷水槽等による体表面冷却法等が挙げられる。
【0044】
<用途>
本実施形態の接合用部材及び積層体は、生体組織同士の接合に用いてもよく、生体組織と人工物との接合に用いてもよい。
すなわち、一実施形態において、本発明は、上記接合用部材又は積層体を用いる、生体組織の接合方法を提供する。また、一実施形態において、本発明は、上記接合用部材又は積層体を用いる、生体組織と人工物との接合方法を提供する。
本実施形態の接合用部材及び積層体は、例えば、神経(末梢神経、中枢神経等)、臓器(肝臓、膵臓等)、骨、歯、血流のない組織(軟骨、半月板等)等の接合において、好適に用いられる。また、本実施形態の接合用部材及び積層体を用いることで、例えば、動脈硬化、炎症、虚血等により組織癒合が困難な状態での組織の再生を可能とする。また、例えば、内視鏡外科手術において吻合が困難な状態での止血及び再建を容易に達成できる。また、例えば、生体組織と人工臓器又はインプラント機器との接合に好適に用いられる。人工臓器又はインプラント機器としては、例えば、人工皮膚、人工内耳、ペースメーカー、骨プレート等が挙げられる。また、例えば、1mm以下の微細な血管やリンパ管の再建を可能とする。また、例えば、従来の外科手術で用いられているステープルによる生体組織の接合において、本実施形態の接合用部材及び積層体を補強材料として用いることで、より信頼性の高い吻合が可能になる。
【0045】
≪治療システム≫
本実施形態の治療システムは、上記実施形態に係る接合用部材又は上記実施形態に係る積層体と、加熱部と、を備える。
【0046】
本実施形態の治療システムによれば、生体組織の組織成分の変性及び破壊を生じさせずに、生体組織を接合することができる。すなわち、組織損傷によって生じる出血、硬化、脱水、炭化等を伴わずに、生体組織を接合することができる。
次いで、本実施形態の治療システムの各構成成分について、以下に詳細を説明する。
【0047】
<加熱部>
加熱部としては、接合用部材又は積層体の温度を体温超60℃未満に加熱するように構成されているものであればよい。加熱部として具体的には、例えば、レーザー、RF波発生装置(誘電型及び誘導型)、マイクロ波発生装置、超音波発生装置等が挙げられる。中でも、加熱部としては、局所を瞬間的に加熱できることから、レーザーが好ましい。
【0048】
<温度制御部>
本実施形態の治療システムは、温度制御部をさらに備えてもよい。
温度制御部としては、加熱部により加熱された接合用部材又は積層体の温度が体温超60℃未満となるように加熱部を制御するように構成されているものであればよい。温度制御部は、例えば、温度計又は温度センサーと制御回路とを備えることができる。また、温度計又は温度センサー及び加熱部は、制御回路と接続させることができる。これにより、温度計又は温度センサーを用いて、加熱部により加熱された接合用部材又は積層体の温度を感知することができ、温度計又は温度センサーで検出された温度が体温超60℃未満の温度範囲となった時点で、制御回路により、加熱部による加熱を終了させることができる。
また、上記積層体が、サーモクロミック顔料を含む場合、温度計又は温度センサーの代わりに、サーモクロミック顔料の色の変化を識別するためのセンサーを備えていてもよい。このとき、センサー及び加熱部は、制御回路と接続させることができる。これにより、センサーを用いて、加熱部により加熱された積層体中のサーモクロミック顔料の色の変化を検出することができ、体温超60℃未満の温度範囲となった時点で、サーモクロミック顔料の色が消色又は発色することで、その色の変化をセンサーが識別するため、制御回路により、加熱部による加熱を終了させることができる。
【0049】
<その他の構成成分>
本実施形態の治療システムは、上記構成成分に加えて、さらに、冷却部を備えていてもよい。冷却部としては、例えば、ペルチェ素子、圧縮ガス、冷風発生装置、氷嚢、冷却用ブランケット、氷水槽等が挙げられる。
また、冷却部を備える場合、上記温度制御部は、加熱部により加熱された接合用部材又は積層体の温度を体温未満となるように冷却部を制御してもよい。
また、本実施形態の治療システムは、上記構成成分に加えて、さらに、固定部を備えてもよい。固定部としては、接合用部材又は積層体がはがれないように所望の位置に固定するように構成されているものであればよく、例えば、クランプ、サージカルテープ等が挙げられる。
【0050】
<使用方法>
本実施形態の治療システムは、例えば、以下の手順で使用することができる。まず、接合対象である生体組織上に、接合用部材又は積層体を接着させる。次いで、固定部等を用いて、接合用部材又は積層体を生体組織上に固定及び密着させて、さらに、温度制御部で、温度を検出しながら、加熱部を用いて、接合用部材又は積層体を加温して、生体組織中のコラーゲン線維と、接合用部材又は積層体に含まれる未架橋の線維状のコラーゲンとを弛緩及び膨化させて、嵌合させる。次いで、接合用部材又は積層体の温度が体温超60℃未満の範囲となった時点で、温度制御部等を用いて、加熱部による接合用部材又は積層体の加熱を終了させる。次いで、冷却部等を用いて、接合用部材又は積層体を体温以下まで冷却することで、生体組織中のコラーゲン線維と、接合用部材又は積層体に含まれる未架橋の線維状のコラーゲンとが嵌合した状態を保ちながら、収縮して締まり合い、コラーゲン線維同士を結合することができる。よって、本実施形態の治療システムを用いることで、生体組織を接合することができる。
【0051】
本実施形態の治療システムの適用対象としては、脊椎動物が好ましい。脊椎動物としては、例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類等が挙げられる。中でも、哺乳類動物が好ましい。哺乳類動物としては、例えば、ヒト、チンパンジー及びその他の霊長類;イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ラット(ヌードラットも包含する)、マウス(ヌードマウス及びスキッドマウスも包含する)、モルモット等の家畜動物、愛玩動物及び実験用動物等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、哺乳類動物としては、ヒトが好ましい。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[参考例1]ウシ頚動脈外膜の温度変化の確認試験
ウシ頚動脈外膜中のコラーゲンの温度変化を観察した。具体的には、4℃及び45℃の固定液(グルタルアルデヒド)にウシ頚動脈を48時間静置した。
次いで、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、倍率:30000倍)を用いて、ウシ頚動脈外膜中のコラーゲンの状態を観察した。結果を図7に示す。図7において、左の画像が4℃で保温した結果を示し、右の画像が45℃で保温した結果を示す。
【0054】
図7から、4℃で保温したウシ頚動脈外膜中のコラーゲン線維束は、結束状態が保たれたが、45℃で保温したウシ頚動脈外膜中のコラーゲン線維束は、弛緩し膨化することが確かめられた。これは、生体組織中のコラーゲン線維束は未架橋であるため、45℃程度の温度に加温することで、弛緩し膨化したものと推察された。
【0055】
[実施例1]ウシ頚動脈の接合試験
1.ウシ頚動脈の接合試験
次いで、ウシ頚動脈の一部を切断し、積層体を用いて接合試験を行った。接合試験の手順を図8に示す。具体的には、まず、外径約8mmのウシ頚動脈の1/2周を全層切開し、血管の層を合わせて両端より密着させた。次いで、バイオマテリアルコラーゲン(株式会社高研社製、アテロコラーゲン線維中の未架橋のアテロコラーゲン線維の含有量:90質量%以上)を用いて、切開部の動脈外膜欠損部を覆うように被せ、その上をテフロンシートで巻いて圧着させた。次いで、切開部に最高温度55℃に設定したレーザー(波長:1950nm、ファイバーレーザー)を2秒間照射し、37℃程度まで冷却した(以下、上記処置を施したウシ頚動脈を「A群」と称する場合がある)。また、対照群として、バイオマテリアルコラーゲンを用いて、切開部の動脈外膜欠損部を覆うように被せ、その上をテフロンシートで巻いて圧着させたが、レーザー照射を行わないウシ頚動脈(以下、上記処置を施したウシ頚動脈を「B群」と称する場合がある)、及び、切開部をバイオマテリアルコラーゲンで覆わずにレーザー照射を行ったウシ頚動脈(以下、上記処置を施したウシ頚動脈を「C群」と称する場合がある)も準備した。
【0056】
2.接合部の観察
次いで、「1.」で得られたA~C群のウシ頚動脈の接合部の断面の組織片を作製し、一部の組織片については、マッソントリクローム染色法を用いて、バイオマテリアルコラーゲンを赤色に、ウシ頚動脈外膜中のコラーゲン線維束を青色に染色した。光学顕微鏡(Carl Zeiss社製、倍率:400倍)及び走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、倍率:30000倍)を用いて観察を行い、比較検討した。A群の代表的な結果を図9に示す。図9の上の2枚の画像は光学顕微鏡像であり、左の画像は明視野像であり、右の画像は染色像である。また、図9の下の3枚の画像は電子顕微鏡像であり、左の画像はバイオマテリアルコラーゲン部分にあたる。真ん中の画像はバイオマテリアルコラーゲンとウシ頚動脈外膜中のコラーゲン線維束との嵌合部分にあたる。右の画像は、ウシ頚動脈外膜中のコラーゲン線維束部分にあたる。
【0057】
3.耐圧試験
また、「1.」で得られたA~C群のウシ頚動脈を用いて、耐圧試験を行った。具体的には、各ウシ頚動脈に液体を灌流した際の切開部の耐圧を測定した。結果を図10及び以下の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
図9の下の真ん中の画像から、A群では、嵌合部分において、バイオマテリアルコラーゲンに由来する縞模様が認められない線維と、ウシ頚動脈外膜中のコラーゲンに由来する縞模様が認められる線維とが絡み合っており、組織接合が確認できた。一方、B群及びC群では、組織接合は確認できなった(図示せず)。
また、図10及び表1から、切開部における耐圧能は、A群が有意に高かった(P<0.0001)。
【0060】
[実施例2]腸管穿孔モデルでのコラーゲン嵌合試験
ブタ小腸に直径約3mmの穿孔モデルを作製した。次いで、穿孔部を縦10mm×横10mm×厚さ0.3mmのバイオマテリアルコラーゲン(株式会社高研社製、アテロコラーゲン線維中の未架橋のアテロコラーゲン線維の含有量:50質量%以上)で被覆し、その上をテフロンシートで圧巻した後、最高温度52℃に設定した半導体レーザー(波長:1400~1950nm、ファイバーレーザー)を10秒間照射し、室温(15℃以上35℃以下)程度まで冷却した(以下、上記処置を施したブタ小腸を「A群」と称する場合がある)。また、対照群として、穿孔部を縫合閉鎖したブタ小腸(以下、上記処置を施したブタ小腸を「B群」と称する場合がある)も準備した。
得られたA群及びB群について、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡でコラーゲン形態を観察し、耐圧テストを行った。
【0061】
その結果、平均最大耐圧は、A群(n=5)では145±21mmHgであり、一方、B群(n=5)では65±14mmHgであり、A群で有意に高かった(p<0.0001)。また、A群の顕微鏡像では、実施例1のA群の顕微鏡像と同様に、バイオマテリアルコラーゲンに由来する縞模様が認められない線維と、ブタ小腸中のコラーゲンに由来する縞模様が認められる線維の2種類のコラーゲン線維が絡み合う様子が観察された(図示せず)。
【0062】
以上のことから、本実施形態の積層体を用いることで、生体組織の組織成分の変性及び破壊を生じさせずに、生体組織を接合できることが示された。また、接合された生体組織において、組織障害は認められず、適度な弾力性が維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本実施形態の接合用部材及び積層体によれば、組織障害を生じさせずに、生体組織を接合することができる。本実施形態の接合用部材及び積層体は、例えば、神経(末梢神経、中枢神経等)、骨、血流のない組織(軟骨、半月板等)等の接合において、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0064】
1…接合用部材、2…第1の粘着剤層、3…支持体、4…第2の粘着剤層、5…温度感知性材料含有層、10,20,30,40…積層体、100…生体のコラーゲン組織。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10