(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】グリカン依存性免疫療法分子
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240228BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240228BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240228BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240228BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240228BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240228BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240228BHJP
A61K 47/66 20170101ALI20240228BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240228BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240228BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240228BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240228BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240228BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P35/00 ZNA
A61P43/00 121
A61K38/17
A61K35/12
A61K35/17
A61K39/00 H
A61K47/68
A61K47/64
A61K47/66
A61K39/395 N
C07K16/28
C07K16/18
C07K19/00
C07K16/46
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C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N5/10
A61K38/16
C12N15/63 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021168790
(22)【出願日】2021-10-14
(62)【分割の表示】P 2018508625の分割
【原出願日】2016-04-29
【審査請求日】2021-11-12
(32)【優先日】2015-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500210903
【氏名又は名称】ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デメトリウ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,レイモンド・ウェンホウ
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-514690(JP,A)
【文献】国際公開第2008/053486(WO,A1)
【文献】特表2018-514591(JP,A)
【文献】特表2015-528003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 38/17
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C12N 15/13
C12N 15/12
C12N 15/62
C12N 5/10
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドを含む免疫療法分子をコードする単離された核酸分子であって、
免疫療法分子が、
(i)レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメイン及び免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインを含む、融合タンパク質;又は
(ii)レクチンに由来するTACA結合ドメインを含む抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体
(CAR)
であり、
TACA結合ドメインは、腫瘍細胞のTACAに特異的に結合し;そして
レクチンは、ガレクチン、シグレック、セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンからなる群から選択される、
単離された核酸分子。
【請求項2】
前記ガレクチンが、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15からなる群から選択される、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
前記シグレックが、シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHからなる群から選択される、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
前記TACA結合ドメインが、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイス
x/a、ジシアリル-ルイス
x/a、シアリル6-スルホルイス
x、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1からなる群から選択されるTACAに結合する、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
前記TACA結合ドメインが、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
(i)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカン修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインは、L-PHAに由来する;
(ii)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のTnエピトープ修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインが、Vicia villosaアグルチニン(VVA)又はCD301に由来す
る;
(iii)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のシアリル-Tnエピトープ修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインが、CD301、シグレック1-17の細胞外ドメイン、又はガレクチン1-15の細胞外ドメインに由来する;
(iv)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のGD2修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインが、CD301に由来する;
(v)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のβ1,6分岐、シアリル化、GM3、又はジシアリル-ルイス
x/a修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインが、シグレック1-17の細胞外ドメインに由来する;
(vi)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のNグリカン修飾タンパク質に対するβ1,6分岐であり、TACA結合ドメインが、トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA)、シグレック1-17の細胞外ドメイン、又はガレクチン1-15の細胞外ドメインに由来する;
(vii)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のT抗原修飾タンパク質又は脂質であり、TACA結合ドメインが、ガレクチン1-15の細胞外ドメインに由来する;
(viii)腫瘍細胞のTACAが、腫瘍細胞のGlobo H修飾タンパク質であり、TACA結合ドメインが、シグレック1-17の細胞外ドメイン又はガレクチン1-15の細胞外ドメインに由来する、
請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
TACA結合ドメインが、配列番号1、2、3、4、5、6又は7に少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項8】
TACA結合ドメインが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項9】
融合タンパク質が、
Fcドメインに連結されたTACA結合ドメイ
ンを含む、Fc融合タンパク質である、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項10】
免疫エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞及び好中球からなる群から選択される、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項11】
免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインが、T細胞結合ドメインを含み、T細胞結合ドメインが、T細胞に特異的に結合する、請求項
10に記載の単離された核酸分子。
【請求項12】
T細胞結合ドメインが、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28又はCD25に結合する、請求項11に記載の単離された核酸分子。
【請求項13】
T細胞結合ドメインが、配列番号9及び配列番号9に少なくとも
90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を含む、請求項11に記載の単離された核酸分子。
【請求項14】
融合タンパク質が、配列番号11,配列番号11に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号12、配列番号12に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号13、配列番号13に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号14、配列番号14に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号15、配列番号15に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号16、配列番号16に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、配列番号17、配列番号17に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項15】
免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインが、NK細胞結合ドメインを含み、NK細胞結合ドメインが、NK細胞に特異的に結合する、請求項
10に記載の単離された核酸分子。
【請求項16】
NK細胞結合ドメインが、CD16又はNKG2Dに結合する、請求項
15に記載の単離された核酸分子。
【請求項17】
膜貫通ドメインが、
(a)T細胞受容体(TCR)アルファ、TCR-ベータ、CD3-ゼータ、CD3-イプシロン、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154からなる群から選択される分子の膜貫通領域;
(b)主に疎水性アミノ酸残基を含む、合成膜貫通ドメイン;又は
(c)フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットを含む、合成膜貫通ドメイン
を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項18】
膜貫通ドメインが、CD8膜貫通ドメインを含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項19】
キメラ抗原受容体が、さらにヒンジドメインを含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項20】
ヒンジドメインが、CD8αヒンジドメインである、請求項19に記載の単離された核酸分子。
【請求項21】
キメラ抗原受容体が、さらに共刺激ドメインを含み、共刺激ドメインは、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、及びそれらの組合せからなる群から選択される分子の共刺激ドメインである、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項22】
共刺激ドメインが、4-1BB共刺激ドメイン
である、請求項
21に記載の単離された核酸分子。
【請求項23】
細胞内
シグナル伝達ドメインが、T細胞受容体(TCR)ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD3ゼータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dからなる群から選択される分子の細胞内シグナリングドメインを含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項24】
細胞内
シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ細胞内シグナリングドメインである、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項25】
細胞内
シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ細胞内シグナリングドメイン、及び
(i)4-1BB共刺激ドメイン;
(ii)CD28共刺激ドメイン;又は
(iii)4-1BB及びCD28共刺激ドメイン
を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項26】
単離された核酸分子が、in vitro転写されたRNAである、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項に記載の単離された核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項28】
請求項1~26のいずれか一項に記載の単離された核酸分子によりコードされる、免疫療法分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年5月1日出願の米国仮特許出願第62/155,761号に対する優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、従来的アプローチである化学療法及び放射線療法と並び、癌治療の有望な薬剤として開発されてきた。腫瘍細胞上で過剰発現するタンパク質を標的とするモノクローナル抗体を、化学療法薬または放射性同位元素とコンジュゲートすることで、抗体の結合パートナー、主として悪性細胞の死滅を誘導することができる。さらに、裸のモノクローナル抗体は、患者自身の免疫系を利用し、免疫機構の抗体依存性細胞傷害(ADCC)によって、抗体の結合パートナーの殺傷を媒介することができる。ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、及び好中球などの免疫エフェクター細胞は、治療抗体のFc鎖を認識するFc受容体を有し、それによって標的細胞破壊をもたらす。抗体は、これらの免疫系のFc受容体発現エフェクター細胞を動員するが、これらの細胞はエフェクター集団の少数を占めるにすぎない。そのため、その臨床有効性は限定されている。
【0003】
最も強力で豊富なエフェクターはT細胞である。しかしながら、T細胞はFc受容体を有しない。T細胞のエフェクター機能を活用するため、T細胞と癌細胞の両方に結合する能力を有するような二重特異性抗体のクラスが設計されている。T細胞を動員して癌細胞を殺傷するために二重特異性抗体を使用するという考え方は、1985年に示された(Staerz et al.1985,Nature,314:628-631)。以来、さまざまな形式/構造の二重特異性抗体が作製されている。最新かつ最も成功を収めている二重特異性抗体は、二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体である。2014年にFDAは、フィラデルフィア染色体陰性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病(B細胞ALL、ALLの希少形態)の治療に対し、T細胞上のCD3とB細胞上のCD19とを結合するBiTE抗体、ブリナツモマブ(Blincyto)を承認した。BiTE抗体は、ペプチドの短い配列によって連結された2つの結合アームから構成される二重特異性一本鎖ポリペプチドである。各アーム、すなわち一本鎖可変断片(scFv)は、モノクローナル抗体の可変重鎖及び軽鎖に由来する。例えば、Blincytoは、抗ヒトCD3の結合ドメインを抗ヒトCD19と結合することによって得られる。
【0004】
癌抗原を標的化するためにモノクローナルまたはBiTEを利用するにはいくつかの問題がある。まず、癌を標的とするモノクローナル抗体を作製するには、最初に特異的抗原を癌細胞上で同定しなければならない。実際、2012年までに米国食品医薬品局(FDA)が承認した、特定の型の癌を治療するモノクローナル抗体は12に留まった(Scott et al.,2012,Nat Rev Cancer,12:278-287)。加えて、異なる癌型にわたる共通のタンパク質抗原はないため、単一のキメラBiTEタンパク質によって標的化できる癌の数は大幅に制限される。したがって、個別の癌に応じた、固有のBiTEタンパク質を多数生成する必要があり、開発コストが大幅に増加することになる。最後に、腫瘍特異的抗原は、低レベルではあるが正常組織にも頻繁に発現する。したがって、正常組織も殺傷の対象となる可能性がある。これらはすべて、Blincytoにも見られ得る問題である。なぜなら、Blincytoは、1)米国で年間約1,000例しかない、単一の、希少な治療できない癌を標的とし、また、2)正常なB細胞で発現するCD19を標的としており、癌細胞の殺傷に加えて正常なB細胞の枯渇をもたらすためである。より良い方法は、正常組織での発現が限定されるか、または発現しない複数の一般的な癌に存在する抗原を標的とすることである。
【0005】
このように、癌を治療するための改善された組成物及び方法が当技術分野において必要とされている。本発明は、このような未対応の要求を満たすものである。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本発明は、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドを含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する、癌を治療するための組成物を提供する。一実施形態では、レクチンは、哺乳動物レクチン、ヒトレクチン、植物レクチン、細菌レクチン、ウイルスレクチン、真菌レクチン、及び原生動物レクチンからなる群より選択される。
【0007】
一実施形態では、レクチンは、ガレクチン、シグレック、セレクチン、C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンからなる群から選択される。
【0008】
一実施形態では、ガレクチンは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15からなる群から選択される。
【0009】
一実施形態では、シグレックは、シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHからなる群から選択される。
【0010】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイスx/a、ジシアリル-ルイスx/a、シアリル6-スルホルイスx、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1からなる群から選択されるTACAに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0011】
一実施形態では、ペプチドは、Fcドメインに連結されたTACA結合ドメインを含むFc融合ペプチドである。
【0012】
一実施形態では、ペプチドは、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインをさらに含む。一実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、及び好中球からなる群から選択される。
【0013】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはT細胞結合ドメインを含み、このT細胞結合ドメインはT細胞に特異的に結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28、及びCD25からなる群のうち少なくとも1つに結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、配列番号9、及び配列番号9に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、ペプチドは、配列番号11、配列番号11に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号12、配列番号12に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号13、配列番号13に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号14、配列番号14に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号15、配列番号15に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号16、配列番号16に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号17、及び配列番号17に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはNK細胞結合ドメインを含み、このNK細胞結合ドメインはNK細胞に特異的に結合する。一実施形態では、NK細胞結合ドメインは、CD16及びNKG2Dからなる群のうち少なくとも1つに結合する。
【0015】
一実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0016】
一態様では、本発明は、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドをコードする単離された核酸分子を含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する、癌を治療するための組成物を提供する。一実施形態では、レクチンは、哺乳動物レクチン、ヒトレクチン、植物レクチン、細菌レクチン、ウイルスレクチン、真菌レクチン、及び原生動物レクチンからなる群から選択される。
【0017】
一実施形態では、レクチンは、ガレクチン、シグレック、セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンからなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、ガレクチンは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15からなる群から選択される。
【0019】
一実施形態では、シグレックは、シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHからなる群から選択される。
【0020】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイスx/a、ジシアリル-ルイスx/a、シアリル6-スルホルイスx、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1からなる群から選択されるTACAに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する。一実施形態では、核酸分子は、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTACA結合ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0021】
一実施形態では、核酸分子によってコードされるペプチドは、Fcドメインに連結されたTACA結合ドメインを含むFc融合ペプチドである。
【0022】
一実施形態では、核酸分子によってコードされるペプチドは、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインをさらに含む。一実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、及び好中球からなる群から選択される。
【0023】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはT細胞結合ドメインを含み、このT細胞結合ドメインはT細胞に特異的に結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28、及びCD25からなる群のうち少なくとも1つに結合する。一実施形態では、核酸分子は、配列番号9、及び配列番号9に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むT細胞結合ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、核酸分子は、配列番号11、配列番号11に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号12、配列番号12に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号13、配列番号13に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号14、配列番号14に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号15、配列番号15に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号16、配列番号16に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号17、及び配列番号17に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0024】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはNK細胞結合ドメインを含み、このNK細胞結合ドメインはNK細胞に特異的に結合する。一実施形態では、NK細胞結合ドメインは、CD16及びNKG2Dからなる群のうち少なくとも1つに結合する。
【0025】
一実施形態では、核酸分子は、抗原認識ドメイン及び細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードし、当該抗原認識ドメインはTACA結合ドメインを含む。一実施形態では、核酸分子によってコードされるCARの抗原認識ドメインは、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTACA結合ドメインを含む。一実施形態では、核酸分子によってコードされるCARの細胞内ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメイン及び共刺激ドメインを含む。
【0026】
一実施形態では、単離された核酸分子は、発現ベクターを含む。一実施形態では、単離された核酸分子は、in vitro転写されたRNAを含む。
【0027】
一態様では、本発明は、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドと結合する薬剤を含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する、癌を治療するための組成物を提供する。一実施形態では、薬剤はレクチン結合ドメインを含む。
【0028】
一態様では、本発明は、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドと結合するペプチドをコードする単離された核酸分子を含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する組成物を提供する。一実施形態では、核酸分子によってコードされるペプチドは、レクチン結合ドメインを含む。一実施形態では、単離された核酸分子は、抗原結合ドメイン及び細胞内ドメインを含むCARをコードし、当該抗原結合ドメインはレクチン結合ドメインを含む。
【0029】
一態様では、本発明は、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変され、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する細胞を提供する。一態様では、細胞は、抗原認識ドメイン及び細胞内ドメインを含むCARを発現するように改変され、当該抗原認識ドメインはTACA結合ドメインを含む。一態様では、細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、及び制御性T細胞からなる群から選択される。
【0030】
一態様では、本発明は、治療を必要とする対象における癌の治療方法であって、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドを含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、レクチンは、哺乳動物レクチン、ヒトレクチン、植物レクチン、細菌レクチン、ウイルスレクチン、真菌レクチン、及び原生動物レクチンからなる群から選択される。
【0031】
一実施形態では、レクチンは、ガレクチン、シグレック、セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンからなる群から選択される。
【0032】
一実施形態では、ガレクチンは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15からなる群から選択される。
【0033】
一実施形態では、シグレックは、シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHからなる群から選択される。
【0034】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイスx/a、ジシアリル-ルイスx/a、シアリル6-スルホルイスx、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1からなる群から選択されるTACAに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0035】
一実施形態では、ペプチドは、Fcドメインに連結されたTACA結合ドメインを含むFc融合ペプチドである。
【0036】
一実施形態では、ペプチドは、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインをさらに含む。一実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、及び好中球からなる群から選択される。
【0037】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはT細胞結合ドメインを含み、このT細胞結合ドメインはT細胞に特異的に結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28、及びCD25からなる群のうち少なくとも1つに結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、配列番号9、及び配列番号9に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、ペプチドは、配列番号11、配列番号11に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号12、配列番号12に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号13、配列番号13に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号14、配列番号14に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号15、配列番号15に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号16、配列番号16に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号17、及び配列番号17に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0038】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはNK細胞結合ドメインを含み、このNK細胞結合ドメインはNK細胞に特異的に結合する。一実施形態では、NK細胞結合ドメインは、CD16及びNKG2Dからなる群のうち少なくとも1つに結合する。
【0039】
一実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0040】
一実施形態では、対象はTACAを発現する固形腫瘍を有している。
【0041】
一態様では、本発明は、治療を必要とする対象における癌の治療方法であって、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドをコードする単離された核酸分子を含み、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、レクチンは、哺乳動物レクチン、ヒトレクチン、植物レクチン、細菌レクチン、ウイルスレクチン、真菌レクチン、及び原生動物レクチンからなる群から選択される。
【0042】
一実施形態では、レクチンは、ガレクチン、シグレック、セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンからなる群から選択される。
【0043】
一実施形態では、ガレクチンは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15からなる群から選択される。
【0044】
一実施形態では、シグレックは、シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHからなる群から選択される。
【0045】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイスx/a、ジシアリル-ルイスx/a、シアリル6-スルホルイスx、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1からなる群から選択されるTACAに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、腫瘍細胞のβ1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する。一実施形態では、核酸分子は、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTACA結合ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0046】
一実施形態では、核酸分子によってコードされるペプチドは、Fcドメインに連結されたTACA結合ドメインを含むFc融合ペプチドである。
【0047】
一実施形態では、核酸分子によってコードされるペプチドは、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインをさらに含む。一実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、及び好中球からなる群から選択される。
【0048】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはT細胞結合ドメインを含み、このT細胞結合ドメインはT細胞に特異的に結合する。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28、及びCD25からなる群のうち少なくとも1つに結合する。一実施形態では、核酸分子は、配列番号9、及び配列番号9に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むT細胞結合ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、核酸分子は、配列番号11、配列番号11に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号12、配列番号12に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号13、配列番号13に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号14、配列番号14に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号15、配列番号15に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号16、配列番号16に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号17、及び配列番号17に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0049】
一実施形態では、免疫エフェクター細胞に特異的に結合するドメインはNK細胞結合ドメインを含み、このNK細胞結合ドメインはNK細胞に特異的に結合する。一実施形態では、NK細胞結合ドメインは、CD16及びNKG2Dからなる群のうち少なくとも1つに結合する。
【0050】
一実施形態では、核酸分子は、抗原認識ドメイン及び細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードし、当該抗原認識ドメインはTACA結合ドメインを含む。一実施形態では、核酸分子によってコードされるCARの抗原認識ドメインは、配列番号1、配列番号1に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号2、配列番号2に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号3、配列番号3に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号4、配列番号4に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号5、配列番号5に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号6、配列番号6に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列、配列番号7、及び配列番号7に対して約90%超の相同性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTACA結合ドメインを含む。一実施形態では、核酸分子によってコードされるCARの細胞内ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメイン及び共刺激ドメインを含む。
【0051】
一実施形態では、単離された核酸分子は、発現ベクターを含む。一実施形態では、単離された核酸分子は、in vitro転写されたRNAを含む。
【0052】
一実施形態では、対象はTACAを発現する固形腫瘍を有している。
【0053】
一態様では、本発明は、治療を必要とする対象における癌の治療方法であって、レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変され、当該TACA結合ドメインが腫瘍細胞のTACAに特異的に結合する細胞を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0054】
一実施形態では、細胞は、抗原認識ドメイン及び細胞内ドメインを含むCARを発現するように改変され、当該抗原認識ドメインはTACA結合ドメインを含む。一実施形態では、細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、及び制御性T細胞からなる群から選択される。一実施形態では、細胞は自己由来である。
【0055】
一態様では、本発明は、治療を必要とする対象における癌の治療方法であって、a)レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドと結合する薬剤を含む第1の組成物を対象に投与することと、b)TACA結合ドメインを含むペプチドを含む第2の組成物を対象に投与することと、を含む方法を提供する。
【0056】
一態様では、本発明は、治療を必要とする対象における癌の治療方法であって、a)レクチンに由来する腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)結合ドメインを含むペプチドと結合する抗原結合ドメインを含むCARを発現するように改変された細胞を対象に投与することと、b)TACA結合ドメインを含むペプチドを含む組成物を対象に投与することと、を含む方法を提供する。一実施形態では、CARの抗原結合ドメインは、レクチン結合ドメインを含み、当該レクチン結合ドメインはTACA結合ドメインを含むペプチドと結合する。
【0057】
本発明の好ましい実施形態に関する以下の詳細な説明は、添付図面と併せて読むと、より良く理解されるであろう。本発明を例示するために、現時点で好適である実施形態を図面に示している。ただし、本発明は、図面に示された実施形態の正確な配置及び手段に限定されないと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】N-グリコシル化分岐経路を示す説明図である。オリゴサッカリルトランスフェラーゼは、予め組み立てられたグリカン、Glc
3Man
9glcNAc
2をER中の糖タンパク質のNxS/Tモチーフに転移させる。糖タンパク質がゴルジ体を通過すると、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素(Mgat1、Mgat2、Mgat4、及びMgat5)が順次作用し、ガレクチンの親和性増加を呈する分岐型N-グリカンを生成する。ガラクトシルトランスフェラーゼ3が、GlcNAcにガラクトースを付加して分岐が伸長されると、ガレクチンが結合することができるN-アセチルラクトサミンが生成される。L-PHA結合部位を示す。GI、グルコシダーゼI;GII、グルコシダーゼII;MI、マンノシダーゼI;MII、マンノシダーゼII;GalT3、ガラクトシルトランスフェラーゼ3。
【
図2】L-PHAxCD3キメラタンパク質の原理を示す説明図である。キメラタンパク質は、抗CD3モノクローナル抗体の可変重鎖及び軽鎖と、植物レクチンL-PHAを含む一本鎖ポリペプチドである。これは、β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンによって、T細胞及び癌細胞と結合することができる。この相互作用がT細胞を活性化し、癌細胞の細胞傷害性の殺傷を誘導することができる。
【
図3】GlyTR L-PHAxCD3が、CD3及び4分岐型N-グリカンの両方に結合することを示す実験例の結果を示す。10μMキフネンシン(Kif)による3日間の前処理をした場合としていない場合に、ジャーカット(左)及びK562(右)細胞に結合する細胞表面のL-PHAxCD3を示すフローサイトメトリー分析。ジャーカット細胞(左)では、L-PHAxCD3はCD3及び4分岐型N-グリカンの両方に結合することができ、細胞がKifで前処理されている場合、結合は減少し、このとき分岐は排除されるが、細胞表面のCD3は結合したままであった。CD3陰性の慢性骨髄性白血病癌細胞K562(右)では、結合は検出されたが、Kif処理したK562細胞では検出されなかった。
【
図4】GlyTR L-PHAxCD3が、癌細胞の殺傷を媒介することを示す実験例の結果を示す
図4A~
図4Jを含む。CFSE標識K562(
図4A~
図4C)、キフネンシン処理K562(
図4B)、Raji(
図4D)、RPMI 8226(
図4E)、RS4;11(
図4F)、MCF7(
図4G)、HT-29(
図4H)、Hep G2(
図4I)、またはHeLa(
図4J)を96ウェルプレートに播種した。ヒト休止期PBMC、及びGlyTR L-PHAxCD3の段階希釈液をプレートに添加し、37℃、5%CO
2培養器にて4時間インキュベートした。細胞傷害性は、ヨウ化プロピジウム(PI)(
図4A~
図4C、
図4J)染色または7AAD(
図4D~
図4I)染色により検出し、フローサイトメトリーにより分析した。特異的細胞傷害性%=CFSE
+PI
+%
GlyTR-CFSE
+PI
+%
未処理(
図4A~
図4C、
図4J)または=CFSE
+7-AAD
+%
GlyTR-CFSE
+7-AAD
+%
未処理(
図4D~
図4I)であり、PBMCに対する細胞傷害性分析についてCFSE
-PI
+の細胞を評価した(gated)(
図4C)。
【
図5】腫瘍細胞に発現したTACAに結合するTACA結合ドメインを含むレクチン由来ペプチドを含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにT細胞が改変された、本発明の例示的実施形態の概略図である。
【
図6】レクチン結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにT細胞が改変された、本発明の例示的実施形態の概略図である。レクチン結合ドメインは、腫瘍細胞に発現したTACAに結合するTACA結合ドメインを含むレクチン由来ペプチドに結合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明は、癌を治療する組成物及び方法に関する。一態様では、本発明は、腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)に特異的に結合する第1のドメインを含むペプチドを含んでいる組成物を提供する。ある特定の実施形態では、このペプチドは、免疫エフェクター細胞に特異的に結合する第2のドメインを含む。ある特定の実施形態では、第2のドメインはT細胞に結合する。例えば、ある特定の実施形態では、このタンパク質は、腫瘍細胞上に存在するTACA、及びT細胞上に存在する生体分子(例えば、表面タンパク質)に結合し、それによってT細胞を腫瘍細胞へと動員する。場合によって、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドは、本明細書でグリカン依存性T細胞動員因子(GlyTR)と称する。一実施形態では、組成物は、TACA結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。一実施形態では、組成物は、本明細書に記載される融合ペプチドをコードする核酸分子を含む。一実施形態では、組成物は、本明細書に記載される融合ペプチドを発現するように遺伝子改変された細胞を含む。
【0060】
本発明は、治療を必要とする対象での癌の治療方法を提供する。ある特定の実施形態では、方法は、本明細書に記載される有効量の組成物を対象に投与することを含む。例えば、一実施形態では、方法は、TACAに結合する第1のドメインと、免疫エフェクター細胞、例えばT細胞に結合する第2のドメインとを含む融合ペプチドを対象に投与することを含む。一実施形態では、方法は、本明細書に記載される融合ペプチドをコードする核酸分子を含む組成物を対象に投与することを含む。一実施形態では、方法は、本明細書に記載される融合ペプチドを発現するように改変された細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。
【0061】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に共通して理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと同様または同等であるいかなる方法及び材料をも本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料について記載する。
【0062】
本明細書で使用される場合、以下の用語の各々は、本セクションでのものと関連する意味を有する。
【0063】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書で、その冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指して使用される。例として、「an element(1つの要素)」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0064】
量、時間的継続などの測定可能な値を指す際に本明細書で使用される場合、「約」は、指定された値からの±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%のばらつきを包含するものとするが、これはそのようなばらつきが、開示される方法を実施する上で妥当なためである。
【0065】
本明細書で使用される場合、「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激されたT細胞の状態を指す。活性化はまた、サイトカイン産生の誘導、及び検出可能なエフェクター機能を伴う可能性もある。用語「活性化T細胞」は特に、細胞分裂を行っているT細胞を指す。
【0066】
本発明で使用される場合、用語「抗体」は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであっても、無傷の免疫グロブリンの免疫応答部分であってもよい。抗体は通常、免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、Fab、及びF(ab)2、ならびに一本鎖抗体及びヒト化抗体を含む、種々の形態で存在し得る(Harlow et al.,1999,In:Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlow et al.,1989,In:Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York;Houston et al.,1988,Proc. Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Bird et al.,1988,Science 242:423-426)。
【0067】
用語「抗体断片」は、無傷抗体の一部分を指し、無傷抗体の抗原決定可変領域を指す。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、直鎖状抗体、scFv抗体、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
本明細書で使用される場合、「抗体重鎖」とは、天然に存在するコンフォメーションにある、すべての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうち、大きい方を指す。
【0069】
本明細書で使用される場合、「抗体軽鎖」とは、天然に存在するコンフォメーションにある、すべての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうち、小さい方を指す。κ軽鎖及びλ軽鎖とは、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプを指す。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「合成抗体」は、組換えDNA技術を用いて作製される抗体、例えば、本明細書に記載のバクテリオファージによって発現される抗体などを意味する。この用語はまた、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製される抗体であって、そのDNA分子が抗体タンパク質またはその抗体を指定するアミノ酸配列を発現し、そのDNAまたはアミノ酸配列が、当技術分野において利用可能であり、周知であるDNAまたはアミノ酸配列の合成技術を用いて得られる抗体を意味すると解釈されるべきである。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「抗腫瘍効果」とは、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、期待余命の延長、または癌病態に付随するさまざまな生理学的症状の改善によって現われ得る生物学的効果を指す。「抗腫瘍効果」はまた、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞、及び抗体が、腫瘍のそもそもの発生を予防する能力によっても現われ得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「自己由来」は、後にその個体へ再導入される、同一の個体に由来する任意の物質を指すことを意味する。
【0073】
「同種異系」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片を指す。
【0074】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片を指す。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「癌」は、異常細胞の急速かつ制御不能な増殖を特徴とする疾患であると定義する。癌細胞は、局所的に分布することもあれば、血流及びリンパ系を介して身体の他の部分へと拡散することもある。さまざまな癌の例としては、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌、皮膚癌、膵臓癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、悪性脳腫瘍、リンパ腫、白血病、肺癌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持することができず、その疾患が改善しなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態のことである。対照的に、動物における「障害」とは、その動物は恒常性を維持することはできるが、その動物の健康状態が、障害のない場合よりも良好ではない健康状態のことである。障害は処置しないままでも、必ずしもその動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0077】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、治療的または予防的な有益性をもたらす量を意味する。
【0078】
「コードする」とは、所定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、及びmRNA)または所定のアミノ酸配列のいずれか、及びそれに起因する生物学的特性を有する、他のポリマー及び巨大分子の生物過程における合成のための鋳型として機能する、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどの、ポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列生来の特性を指す。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳によって、細胞または他の生体系にタンパク質が産生される場合、そのタンパク質をコードする。mRNA配列と同一であって通常は配列表に記載されるヌクレオチド配列を有するコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖の両方を、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードすると称することができる。
【0079】
本明細書で使用される場合、「内在性」とは、生物体、細胞、組織、もしくは系に由来するか、またはその内部で産生される任意の物質を指す。
【0080】
本明細書で使用される場合、「外来性」とは、生物体、細胞、組織、もしくは系から導入されるか、またはその外部で産生される任意の物質を指す。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「発現」は、プロモーターによって誘導される特定のヌクレオチド配列の転写及び/または翻訳であると定義する。
【0082】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列と機能的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用エレメントを含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはin vitro発現系において供給され得る。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)、及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)といった、当技術分野で既知のものすべてが含まれる。
【0083】
「相同な」とは、2つのポリペプチド間、または2つの核酸分子間の配列類似性または配列同一性を指す。比較する2つの配列の両方で、ある位置を同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットが占めている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいて、ある位置をアデニンが占めている場合には、それらの分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同率は、2つの配列に共通する、一致する位置または相同な位置の数を、比較する位置の数で除算し100を掛けた関数である。例えば、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致するかまたは相同である場合、2つの配列は60%相同である。例として、DNA配列ATTGCC及びTATGGCは50%の相同性を有する。一般に、最大の相同性が得られるように2つの配列をアラインメントして比較を行う。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「免疫グロブリン」または「Ig」は、抗体として機能するタンパク質のクラスであると定義する。B細胞によって発現される抗体は、BCR(B細胞受容体)または抗原受容体と称される場合もある。このタンパク質のクラスに含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgD、及びIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道及び泌尿生殖路の粘液分泌物などの身体分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な血中抗体である。IgMは、ほとんどの対象で一次免疫応答において産生される主な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体結合、及びその他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌及びウイルスに対する防御において重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として作用している可能性がある。IgEは、アレルゲンに晒されたときにマスト細胞及び好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0085】
本明細書で使用される場合、「指示書」には、本発明の組成物及び方法の有用性を伝えるために使用することができる、刊行物、記録、図、または他の任意の表現媒体を含む。本発明のキットの指示書は、例えば、本発明の核酸、ペプチド、及び/または組成物を含む容器に貼付してもよく、または核酸、ペプチド、及び/または組成物を含む容器と同梱してもよい。あるいは、指示書及び化合物がレシピエントによって協同的に使用されることを意図して、指示書を容器と別に出荷してもよい。
【0086】
「単離された」とは、天然の状態から変更されたか、または取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に天然で存在する核酸またはペプチドは「単離され」ていないが、その天然状態で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態のまま存在することも、または例えば宿主細胞などの非天然の環境で存在することもできる。
【0087】
本発明に関連して、一般的に存在する核酸塩基に関しては以下の略語を使用する。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0088】
別段の指定がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードする、すべてのヌクレオチド配列を含む。また、タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部の型においてイントロン(複数可)を含み得る場合に限り、イントロンを含み得る。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「レクチン」とは、糖鎖構造に結合するタンパク質またはペプチドを指す。レクチンが、糖部分への結合に特異性が高いタンパク質またはペプチドであることを当業者は理解されよう。
【0090】
本明細書で使用される場合、用語「腫瘍関連糖鎖抗原」または「TACA」とは、癌に見られる糖鎖構造を指す。糖鎖構造が、1つ以上の結合した糖または単糖からなることを当業者は理解されよう。糖鎖構造は、単独で存在するか、及び/または糖タンパク質及び糖脂質として知られているタンパク質もしくは脂質と結合する場合があることを当業者は理解されよう。この糖鎖構造はレクチンに結合することを当業者は理解されよう。
【0091】
本明細書で使用される場合、「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞を感染させ得る点で、レトロウイルスの中でも独特であり、相当な量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、及びFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、in vivoで有意なレベルの遺伝子移入を達成する手段を提供する。
【0092】
本明細書で使用される場合、用語「調節する」とは、治療もしくは化合物の不在下でのその対象における反応のレベルと比較して、及び/または治療を受けていない以外は同一である対象における反応のレベルと比較して、対象での反応のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、本来のシグナルまたは反応を擾乱させる、及び/またはそれらに影響を及ぼすことにより、対象、好ましくはヒトにおいて有益な治療反応を媒介することを包含する。
【0093】
別段の指定がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードする、すべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質及びRNAをコードするヌクレオチド配列が、イントロンを含んでいてもよい。
【0094】
用語「機能的に連結した」とは、調節配列と異種核酸配列との間の機能的連結であって、後者の発現を結果的にもたらす機能的連結を指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に配置されている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結している。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列と機能的に連結している。一般に、機能的に連結したDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域の接続が必要な場合には、同一のリーディングフレーム内にある。
【0095】
用語「過剰発現された」腫瘍抗原、または腫瘍抗原の「過剰発現」は、患者の特定の組織または臓器の内部にある固形腫瘍のような疾患領域からの細胞における腫瘍抗原の発現が、その組織または臓器からの正常細胞における発現のレベルと比較して異常なレベルを示すことを意味する。腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする固形腫瘍または血液悪性腫瘍を有する患者は、当技術分野において既知である標準的アッセイによって判定することができる。
【0096】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、または胸骨内の注射法または輸注法を含む。
【0097】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書で同義に使用され、in vitroまたはin situの別を問わず、本明細書に記載の方法を適用できる、任意の動物またはその細胞を指す。ある非限定的な実施形態では、患者、対象、または個体はヒトである。
【0098】
本明細書で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの連鎖であると定義する。加えて、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用される場合、核酸とポリヌクレオチドとは同義である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、これがモノマー「ヌクレオチド」に加水分解され得るという一般知識を有する。モノマー「ヌクレオチド」はヌクレオシドに加水分解され得る。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドには、限定されないが、組換え手段、すなわち通常のクローニング技術及びPCR(商標)などを用いて組換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列をクローニングすることを含む当技術分野で利用可能な任意の手段によって、及び合成手段によって得られる、すべての核酸配列を含むが、これらに限定されない。
【0099】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は同義に使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を含み得るアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、この用語は、例えば、当技術分野で一般にペプチド、オリゴペプチド、及びオリゴマーとも称される短鎖、ならびに多くの種類がある当技術分野で一般にタンパク質と称される長鎖の両方を指す。「ポリペプチド」には、主として、例えば、生物学的活性断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変種、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質を含む。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはこれらの組み合わせを含む。
【0100】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始させるために必要である、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列であると定義する。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列と機能的に連結した遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。ある場合には、この配列はコアプロモーター配列であってよく、また別の場合には、この配列が、遺伝子産物の発現に必要とされるエンハンサー配列及び他の調節エレメントを含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な方法で遺伝子産物を発現させるものであってもよい。
【0102】
「構成的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、細胞のほとんどまたはすべての生理的条件下で、その遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0103】
「誘導性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、そのプロモーターに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合のみ、実質的にその遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0104】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、細胞がそのプロモーターに対応する組織型の細胞である場合のみ、実質的にその遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0105】
抗体に関して本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」とは、サンプル中の特異的な抗原は認識するが、他の分子は実質的に認識もせず、それと結合もしない抗体を意味する。例えば、ある種由来の抗原と特異的に結合する抗体は、1つ以上の種由来のその抗原とも結合することができる。ただし、そのような種間反応性それ自体によって、特異性としての抗体の種別が変更されることはない。別の例では、抗原と特異的に結合する抗体が、その抗原の異なる対立遺伝子形態と結合することもある。ただし、そのような交差反応性それ自体によって、特異性としての抗体の種別が変更されることはない。場合によっては、抗体、タンパク質、またはペプチドの第2の化学種との相互作用と関連して使用される場合、用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、相互作用が化学種での特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は、タンパク質全体ではなく、特異的タンパク質構造を認識して、それと結合する。抗体がエピトープ「A」に対して特異的である場合、エピトープAを含む分子(または遊離した非標識A)の存在は、標識「A」及びその抗体を含む反応において、その抗体と結合した標識Aの量を減少させることになる。
【0106】
本明細書で使用される場合、「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞型を本質的に含まない細胞である。また、実質的に精製された細胞とは、その天然に存在する状態には通常付随する他の細胞型から、分離された細胞も指す。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団とは、均一な細胞集団を指す。別の場合には、この用語は、単に、天然の状態において本来付随する細胞から分離された細胞を指す。いくつかの実施形態では、細胞はin vitroで培養される。いくつかの実施形態では、細胞はin vitroでは培養されない。
【0107】
本明細書で使用される場合、用語「治療的」は、治療及び/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解、または根絶によって得られる。
【0108】
用語「治療有効量」は、研究者、獣医、医師、またはその他の臨床専門家が調べようとする、組織、系、または対象の生物学的または医学的反応を誘発するであろう対象化合物の量を指す。用語「治療有効量」には、投与された場合に、治療される障害または疾患の徴候または症状のうち1つ以上の発生を予防するか、またはある程度改善するのに十分な化合物の量を含む。治療有効量は、化合物、疾患及びその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重などに応じて異なるものである。
【0109】
ある疾患を「治療する」とは、この用語が本明細書で使用される場合、対象が患っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を軽減することを意味する。
【0110】
本明細書で使用される場合、用語「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」は、外来性核酸が宿主細胞内に移入または導入される過程を指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外来性核酸をトランスフェクトされた、外来性核酸で形質転換された、または外来性核酸を形質導入された細胞である。この細胞には初代対象細胞及びその子孫を含む。
【0111】
本明細書で使用される場合、語句「転写制御下」または「機能的に連結した」は、プロモーターが、RNAポリメラーゼによる転写開始及びポリヌクレオチドの発現を制御するために、ポリヌクレオチドに対して正しい位置及び向きにあることを意味する。
【0112】
「ベクター」とは、単離された核酸を含み、かつその単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用できる物質組成である。限定されないが、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含む数多くのベクターが、当技術分野において既知である。したがって、用語「ベクター」は、自律複製性のプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えばポリリジン化合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性及び非ウイルス性の化合物も含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
範囲:本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな態様を、範囲形式で提示することができる。範囲形式による記載は、単に便宜上かつ簡潔さのためであって、本発明の範囲に対する不変の限定と解釈されるべきではないと理解すべきである。したがって、ある範囲の記載は、その範囲内におけるすべての可能な部分範囲のほか、個々の数値も明確に開示されていると見されるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲のほか、その範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6も、明確に開示されていると見されるべきである。これは範囲の幅とは関係なく適用される。
【0114】
説明
本発明は、癌ならびに他の疾患を治療するための組成物及び方法を提供する。癌は、血液悪性腫瘍、固形腫瘍、原発腫瘍、または転移腫瘍であり得る。本発明の組成物には、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、及びペプチド、核酸、細胞、またはそれらの組み合わせを含む基材を含む。
【0115】
ペプチド
一実施形態では、本発明は、TACA結合ドメインを含む融合ペプチドを含む組成物を提供する。TACA結合ドメインには、TACAに特異的に結合することができる、いずれのペプチド、タンパク質、レクチン、レクチン断片、抗体、抗体断片、小分子、核酸などをも含み得る。例示的なTACA及びその結合パートナーを表1に列挙する。
【0116】
例示的なTACAとしては、β1,6分岐、T抗原、シアリル-Tエピトープ、Tnエピトープ、シアリル-Tnエピトープ、α2,6シアリル化、シアリル化、シアリル-ルイスx/a、ジシアリル-ルイスx/a、シアリル6-スルホルイスx、Globo H、GD2、GD3、GM3、及びフコシルGM1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、N-グリカンに結合する。ある特定の実施形態では、TACA結合ドメインは、三分岐型オリゴ糖及び四分岐型オリゴ糖に結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに結合する。一実施形態では、TACA結合ドメインは、Tnエピトープに結合する。
【表1】
【0118】
ある特定の実施形態では、TACA結合ドメインは、レクチンタンパク質に由来するペプチド配列である。ある特定の実施形態では、レクチンは、哺乳動物レクチン、ヒトレクチン、植物レクチン、細菌レクチン、ウイルスレクチン、真菌レクチン、及び原生動物レクチンからなる群から選択される。
【0119】
例えば、ある特定の実施形態では、TACA結合ドメインは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15などのガレクチン;シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHなどのシグレック;セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンに由来する。
【0120】
ある特定の実施形態では、TACA結合ドメインは、レクチンの断片に由来する。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、TACAに結合する能力を保持するレクチンの断片を含む。
【0121】
ある特定の実施形態では、TACA結合ドメインは、レクチンの突然変異体、またはその断片を含む。例えば、ある特定の実施形態では、突然変異体は、特異性の増強、結合親和性の増加、またはオリゴマー化の減少を示す。
【0122】
一実施形態では、TACA結合ドメインはL-PHAに由来する。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号1のアミノ酸配列を含む:
【表2】
(配列番号1)。
【0123】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、L-PHAが、分子を単量体化するために残基1~5で短縮されている変異型L-PHAを含む。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号2のアミノ酸配列を含む:
【表3】
(配列番号2)。
【0124】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、結合親和性を増加させるためにL-PHAが変異されている変異型L-PHAを含む。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号3のアミノ酸配列を含む:
【表4】
(配列番号3)。
【0125】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、分子を単量体化し、結合親和性を増加させるためにL-PHAが変異されている変異型L-PHAを含む。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号4のアミノ酸配列を含む:
【表5】
(配列番号4)。
【0126】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、Tnエピトープに結合し、VVA(Vicia villosaイソレクチンB)に由来する。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号5のアミノ酸配列を含む:
【表6】
(配列番号5)。
【0127】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、Tnエピトープに結合し、VVAが、分子を単量体化するために残基1~5で短縮されている変異型VVA(Vicia villosaイソレクチンB)を含む。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号6のアミノ酸配列を含む:
【表7】
(配列番号6)。
【0128】
一実施形態では、TACA結合ドメインは、Tnエピトープに結合し、CD301(CLEC10A)に由来する。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインは、以下に示す配列番号7のアミノ酸配列を含む:
【表8】
(配列番号7)。
【0129】
ある特定の実施形態では、このペプチドはリーダー配列を含む。リーダー配列は、ペプチドの翻訳を増強する、ペプチドを特定の細胞内または細胞外の位置に標的化する、またはペプチドの分泌を誘導するように機能し得る。一実施形態では、ペプチドは、以下に示す配列番号8のアミノ酸配列のリーダー配列を含む:
【表9】
(配列番号8)。
【0130】
ある特定の実施形態では、組成物は、本明細書に記載されるTACA結合ドメインに結合するペプチドを含む。例えば、ある特定の実施形態では、組成物は、レクチン由来TACA結合ペプチドに結合するペプチドを含む。例えば、一実施形態では、組成物はレクチン結合ドメインを含み、当該レクチン結合ドメインはTACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドに結合する。例えば、TACA結合ドメインに結合するペプチドは、TACA結合ドメインに特異的に結合する抗体または抗体断片である。別の実施形態では、TACA結合ドメインに結合するペプチドは、関連するTACA自体に由来し得る。
【0131】
ある特定の実施形態では、組成物は、本明細書に記載される1つ以上のTACA結合ドメインを含む融合タンパク質を含む。例えば、一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のTACA結合ドメイン及び1つ以上の標的ドメインを含み、当該標的ドメインは融合タンパク質を特定の細胞または組織領域に誘導することができる。一実施形態では、融合タンパク質は、抗体のFcドメインに連結された1つ以上のTACA結合ドメインを含むFc融合タンパク質を含む。一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のTACA結合ドメインを含む二重特異性抗体を含む。一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のTACA結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0132】
ある特定の実施形態では、組成物は、本明細書に記載されるTACA結合ドメインに結合する1つ以上のペプチドを含む融合タンパク質を含む。例えば、一実施形態では、組成物は、1つ以上のレクチン結合ドメインを含む融合タンパク質を含み、当該レクチン結合ドメインはTACAに結合するレクチンまたはレクチン由来ペプチドに結合する。例えば、一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のレクチン結合ドメイン及び1つ以上の標的ドメインを含み、当該標的ドメインは融合タンパク質を特定の細胞または組織領域に誘導することができる。一実施形態では、融合タンパク質は、抗体のFcドメインに連結された1つ以上のレクチン結合ドメインを含むFc融合タンパク質を含む。一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のレクチン結合ドメインを含む二重特異性抗体を含む。一実施形態では、融合タンパク質は、1つ以上のレクチン結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0133】
一態様では、組成物は、2つの異なる結合特異性を有し、それによって2つの異なる抗原に結合するペプチドを含む。一実施形態では、ペプチドは、第1の抗原に結合する第1の抗原認識ドメインと、第2の抗原に結合する第2の抗原認識ドメインとを含む。一実施形態では、第1の抗原認識ドメインはTACA結合ドメインである。TACAの例は、本明細書の他の箇所に記載されており、本発明のペプチドはそのすべてを標的とすることができる。
【0134】
ある特定の実施形態では、第2の抗原認識ドメインは、免疫エフェクター細胞に結合する。例示的な免疫エフェクター細胞としては、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、及び好中球が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
一実施形態では、第2の抗原認識はNK細胞抗原に結合し、本明細書ではこれをNK細胞結合ドメインと称する。
【0136】
一実施形態では、第2の抗原認識ドメインはT細胞抗原に結合し、本明細書ではこれをT細胞結合ドメインと称する。
【0137】
ある特定の実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメイン及び免疫エフェクター細胞結合ドメインを有する二重特異性ペプチドを含む。一実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメイン及びNK細胞結合ドメインを有する二重特異性ペプチドを含む。一実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを有する二重特異性ペプチドを含む。一実施形態では、二重特異性ペプチドは、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはそれらの断片を含む。ある特定の実施形態では、二重特異性ペプチドは、レクチン、レクチン断片、またはそれらの変異体を含む。
【0138】
ある特定の実施形態では、ペプチドは、免疫エフェクター細胞結合ドメインを含む。例えば、一実施形態では、免疫エフェクター細胞結合ドメインは、免疫エフェクター細胞上に存在する生体分子に結合するペプチド、タンパク質、抗体、または抗体断片を含む。
【0139】
ある特定の実施形態では、ペプチドは、NK細胞結合ドメインを含む。例えば、一実施形態では、NK細胞結合ドメインは、NK細胞上に存在する生体分子に結合するペプチド、タンパク質、抗体、または抗体断片を含む。NK細胞結合ドメインが結合できるNK細胞の例示的な分子としては、CD16及びNKG2Dが挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
ある特定の実施形態では、ペプチドは、T細胞結合ドメインを含む。例えば、一実施形態では、T細胞結合ドメインは、T細胞上に存在する生体分子に結合するペプチド、タンパク質、抗体、または抗体断片を含む。T細胞結合ドメインが結合できるT細胞の例示的な分子としては、CD3、T細胞受容体、CD2、CD28、及びCD25が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、T細胞結合ドメインは、T細胞上のCD3に結合するペプチド、タンパク質、抗体、または抗体断片を含む。
【0141】
一実施形態では、T細胞結合ドメインは、CD3に特異的に結合する抗体断片を含む。例えば、一実施形態では、T細胞結合ドメインは、以下に示す配列番号9のアミノ酸配列を含む:
【表10】
(配列番号9)。
【0142】
一実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含む。場合によって、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドは、グリカン依存性T細胞動員因子(GlyTR)と称される。
【0143】
ある特定の実施形態では、ペプチドは、TACA結合ドメインと免疫エフェクター細胞結合ドメインとの間にリンカードメインを含む。リンカードメインは、任意の適切なサイズまたは配列であり得る。例えば、一実施形態では、リンカードメインは、アミノ酸配列GGGGS(配列番号10)を含む。
【0144】
一実施形態では、ペプチドは、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、または配列番号17(実施例2に示す)のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、ペプチドは、C末端Hisタグがそこに含まれていない、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、または配列番号17のアミノ酸配列を含む。他の例示的なペプチドとしては、表2に列挙されたものが挙げられる。ただし、本発明は、いずれかの特定のTACA結合ドメイン、免疫エフェクター細胞結合ドメイン、NK細胞結合ドメイン、またはT細胞結合ドメインに限定されない。むしろ、TACA結合ドメイン、免疫エフェクター細胞結合ドメイン、NK細胞結合ドメイン、T細胞結合ドメイン、またはそれらの組み合わせのいずれをも利用することができる。
【表11】
【0145】
一実施形態では、組成物のペプチドは、本明細書の他の箇所に記載されるTACA結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)である。ある特定の実施形態では、CARは、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、共刺激ドメイン、またはゼータ鎖のうち1つ以上をさらに含む。膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含むCARは、米国特許出願公開番号US2013/0287748、US2014/0370017、US2014/0099309、及びUS2014/0271635に詳細に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。例えば、ある特定の実施形態では、CARは、共刺激ドメインを含む細胞質ドメインを含む。共刺激ドメインは、共刺激分子の細胞内ドメインを含む。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0146】
本発明のCARに使用される細胞内シグナル伝達ドメインの好ましい例としては、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するために協調して作用するT細胞受容体(TCR)と共受容体の細胞質配列、ならびにその配列の任意の誘導体または変種、及び同じ機能的能力を有する任意の合成配列が挙げられる。
【0147】
TCR単独で生成されたシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次的または共刺激的なシグナルも必要であることが知られている。したがって、T細胞活性化は、2つのクラスの異なる細胞質シグナル伝達配列、すなわちTCRを介して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)と、抗原に依存せずに作用して、二次的または共刺激的なシグナルをもたらすもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言える。
【0148】
一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激的方法または阻害的方法のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激的方法で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン系の活性化モチーフ、すなわちITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含み得る。
【0149】
本発明で特に使用される、一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが挙げられる。本発明のCAR中の細胞質シグナル伝達分子は、CD3ゼータに由来する細胞質シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0150】
好ましい実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを単独で、または本発明のCARに関連して有用である任意の他の望ましい細胞質ドメイン(複数可)と組み合わせて含むように設計することができる。例えば、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部分及び共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83などと特異的に結合するリガンドが挙げられる。
【0151】
本発明のペプチドは、化学的方法を用いて作製することができる。例えば、ペプチドを、固相技術(Roberge J Y et al(1995)Science 269:202-204)によって合成し、樹脂から切り出して、分取高速液体クロマトグラフィーによって精製することができる。自動合成は、例えば、ABI 431 Aペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer)を使用して、製造業者が提供する指示書に従って行うことができる。
【0152】
本発明はまた、本明細書で開示されるペプチドと実質的に相同性を有する、いかなる形態のペプチドをも含むと解釈すべきである。好ましくは、「実質的に相同」であるペプチドは、本明細書で開示されるペプチドのアミノ酸配列に対して、約50%相同、より好ましくは約70%相同、さらにより好ましくは約80%相同、より好ましくは約90%相同、さらにより好ましくは約95%相同、さらにより好ましくは約99%相同である。
【0153】
ある特定の実施形態では、本発明は、配列番号1~17のいずれかのアミノ酸配列に対して、約50%相同、約70%相同、約80%相同、約90%相同、約95%相同、または約99%相同であるペプチドを含む。
【0154】
あるいはペプチドは、組換え手段によって、または長いポリペプチドからの切断によって作製することができる。ペプチドの組成は、アミノ酸分析または配列決定によって確認することができる。
【0155】
本発明によるペプチドの変種は、(i)1つ以上のアミノ酸残基が、保存または非保存アミノ酸残基(好ましくは保存アミノ酸残基)で置換されたものであり、そのような置換アミノ酸残基が、遺伝暗号によってコードされたものであってもなくてもよいもの、(ii)1つ以上の修飾されたアミノ酸残基、例えば置換基の結合によって修飾された残基が存在するもの、(iii)ペプチドが、本発明のペプチドの選択的スプライスバリアントであるもの、(iv)ペプチドの断片、及び/または(v)ペプチドが別のペプチド、例えばリーダー配列もしくは分泌配列、または精製に用いられる配列(例えば、Hisタグ)もしくは検出に用いられる配列(例えば、Sv5エピトープタグ)と融合されているものであり得る。断片には、元の配列のタンパク質分解切断(多部位タンパク質分解を含む)によって生成されたペプチドを含む。変種は、翻訳後修飾または化学修飾されていてもよい。このような変種は、本明細書の教示により当業者の範囲内にあると見なされる。
【0156】
当技術分野で既知であるように、2つのペプチド間の「類似性」は、あるポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存アミノ酸置換基を第2のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。変種は、元の配列とは異なるペプチド配列、好ましくは元の配列と異なる残基が目的のセグメントあたり40%未満である、より好ましくは元の配列と異なる残基が目的のセグメントあたり25%未満である、より好ましくは元の配列と異なる残基が目的のセグメントあたり10%未満である、最も好ましくは元のタンパク質配列と異なる残基が目的のセグメントあたりごく少数であると同時に、元の配列と十分に相同であり、元の配列の機能性及び/またはTACAへの結合能が保持されているペプチド配列を含むと定義される。本発明は、元のアミノ酸配列と少なくとも60%、65%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、90%、または95%類似する、または同一であるアミノ酸配列を含む。2つのペプチド間の同一度は、コンピュータアルゴリズム及び当業者に周知の方法を用いて決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくは、BLASTPアルゴリズムを使用して決定される[BLAST Manual,Altschul,S.,et al.,NCBI NLM NIH Bethesda,Md.20894,Altschul,S.,et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)]。
【0157】
本発明のペプチドは、翻訳後修飾することができる。例えば、本発明の範囲内にある翻訳後修飾としては、シグナルペプチド切断、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、タンパク質分解、ミリストイル化、タンパク質フォールディング、及びタンパク質分解プロセシングなどが挙げられる。いくつかの修飾またはプロセシング事象には、付加的な生体機構の導入を必要とする。例えば、標準翻訳反応にイヌのミクロソーム膜またはアフリカツメガエル卵抽出物(米国特許第6,103,489号)を付加することによって、シグナルペプチド切断及びコアグリコシル化などのプロセシング事象を調べる。
【0158】
本発明のペプチドは、翻訳後修飾によって、または翻訳中に非天然アミノ酸を導入することによって形成された非天然アミノ酸を含み得る。タンパク質翻訳中に非天然アミノ酸を導入するためのさまざまなアプローチが利用可能である。
【0159】
本発明のペプチドまたはタンパク質をタンパク質などの他の分子とコンジュゲートし、融合タンパク質を調製してもよい。これは、例えば、N末端またはC末端融合タンパク質の合成によって達成することができるが、得られる融合タンパク質がペプチドの機能を保持している場合に限る。
【0160】
本発明のペプチドまたはタンパク質は、Reedijk et al.(The EMBO Journal 11(4):1365,1992)に記載の方法などの従来の方法を用いてリン酸化することができる。
【0161】
本発明のペプチドの環式誘導体も本発明の一部である。環化により、ペプチドが他の分子との会合に適した、より好ましいコンフォメーションをとることが可能になる場合がある。環化は、当技術分野で既知の技術を用いて行うことができる。例えば、遊離スルフヒドリル基を有する2つの適切に離間された成分間にジスルフィド結合が形成されてもよく、ある成分のアミノ基と他の成分のカルボキシル基との間にアミド結合が形成されてもよい。環化はまた、Ulysse,L.,et al.,J.Am.Chem.Soc.1995,117,8466-8467による記載のようにアゾベンゼン含有アミノ酸を使用して行うこともできる。結合を形成する成分は、アミノ酸の側鎖、非アミノ酸成分、またはその2つの組み合わせであり得る。本発明の一実施形態では、環式ペプチドは、正しい位置にβターンを含み得る。正しい位置にアミノ酸Pro-Glyを付加することにより、βターンを本発明のペプチドに導入することができる。
【0162】
上記のようなペプチド結合架橋を含む環式ペプチドよりも、柔軟性のある環式ペプチドを製造する方が望ましい場合がある。柔軟性のあるペプチドは、ペプチドの右側及び左側にシステインを導入し、2つのシステイン間にジスルフィド架橋を形成することによって調製することができる。2つのシステインは、βシート及びターンを変形させないように配置される。このペプチドは、ジスルフィド結合の長さと、βシート部分の水素結合数の減少の結果、柔軟性が高くなる。環式ペプチドの相対的な柔軟性は、分子動力学シミュレーションによって決定することができる。
【0163】
本発明はまた、キメラタンパク質を目的の細胞成分または細胞型もしくは細胞組織へと誘導できる、標的タンパク質及び/または標的ドメインに融合された、またはそれらに組み込まれたペプチドにも関する。キメラタンパク質はまた、追加のアミノ酸配列またはドメインを含み得る。キメラタンパク質は、さまざまな成分が異なる供給源に由来し、そのような成分が自然界では一緒に存在しない(すなわち、異種である)という意味で組換えである。
【0164】
一実施形態では、標的ドメインは、膜貫通ドメイン、膜結合ドメイン、または例えばベシクルもしくは核と会合するようにタンパク質を誘導する配列であり得る。一実施形態では、標的ドメインは、ペプチドを特定の細胞型または細胞組織に対して標的化することができる。例えば、標的ドメインは、細胞表面リガンド、または標的組織(例えば、骨、再生骨、変性骨、軟骨)の細胞表面抗原に対する抗体であり得る。標的ドメインは、本発明のペプチドを細胞成分に対して標的化することができる。
【0165】
本発明のペプチドは、従来の技術によって合成することができる。例えば、ペプチドまたはキメラタンパク質は、固相ペプチド合成を用いた化学合成によって合成することができる。これらの方法は、固相合成法または液相合成法のいずれかを用いる(例えば、J.M.Stewart,and J.D.Young,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Ed.,Pierce Chemical Co.,Rockford Ill.(1984)及びG.Barany and R.B.Merrifield,The Peptides:Analysis Synthesis,Biology editors E.Gross and J.Meienhofer Vol.2 Academic Press,New York,1980,pp.3-254 for solid phase synthesis techniques;ならびにM Bodansky,Principles of Peptide Synthesis,Springer-Verlag,Berlin 1984,及びE.Gross and J.Meienhofer,Eds.,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,suprs,Vol 1,for classical solution synthesisを参照)。例として、本発明のペプチドは、N-フルオレニルメトキシ-カルボニル-O-ベンジル-L-ホスホスレオニン誘導体としてのホスホスレオニンの直接取り込みによる9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)固相化学を用いて合成することができる。
【0166】
他の分子とコンジュゲートされた本発明のペプチドまたはキメラタンパク質を含む、N末端またはC末端融合タンパク質は、ペプチドまたはキメラタンパク質のN末端またはC末端と、目的の生物学的機能を有する選択タンパク質または選択マーカーの配列を組換え技術により融合することによって調製することができる。得られた融合タンパク質は、本明細書に記載の選択タンパク質またはマーカータンパク質に融合された本発明のペプチドを含む。融合タンパク質の調製に使用できるタンパク質の例としては、免疫グロブリン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘマグルチニン(HA)、及び短縮型mycが挙げられる。
【0167】
本発明のペプチドは、生物学的発現系を用いて開発することができる。これらの系の使用により、ランダムペプチド配列の大きなライブラリーの作製、及びこのライブラリーでの特定のタンパク質に結合するペプチド配列のスクリーニングが可能になる。ライブラリーは、ランダムペプチド配列をコードする合成DNAを適切な発現ベクターにクローニングすることにより作製することができる(Christian et al 1992,J.Mol.Biol.227:711; Devlin et al,1990 Science 249:404;Cwirla et al 1990,Proc.Natl.Acad,Sci.USA,87:6378を参照)。ライブラリーはまた、重複ペプチドの同時合成によって構築することもできる(米国特許第4,708,871号を参照)。
【0168】
本発明のペプチド及びキメラタンパク質は、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸などの無機酸、またはギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、ベンゼンスルホン酸、及びトルエンスルホン酸などの有機酸と反応させることにより、医薬塩へと変換することができる。
【0169】
核酸
一実施形態では、本発明は、本明細書の他の箇所に記載するTACA結合ドメインを含むペプチドをコードする単離された核酸を含む組成物を提供する。
【0170】
一実施形態では、単離された核酸配列は、TACA結合ドメインをコードする。ある特定の実施形態では、単離された核酸は、例えば、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14、及びガレクチン-15などのガレクチン;シグレック-1(sialoadhesion)、シグレック-2(CD22)、シグレック-3(CD33)、シグレック-4(ミエリン関連糖タンパク質)、シグレック-5、シグレック-6、シグレック-7、シグレック-8、シグレック-9、シグレック-10、シグレック-11、シグレック-12、シグレック-13、シグレック-14、シグレック-15、シグレック-16、シグレック-17、シグレックE、シグレックF、シグレックG、及びシグレックHなどのシグレック;セレクチン;C型レクチン;CD301、L-PHA(Phaseolus vulgarisロイコアグルチニン);E-PHA(Phaseolus vulgarisエリスロアグルチニン);トマトレクチン(Lycopersicon esculentumレクチン;LEA);ピーナッツレクチン(Arachis hypogaeaアグルチニン;PNA);ジャガイモレクチン(Solanum tuberosumレクチン)、ヨウシュヤマゴボウマイトジェン(Phytolacca Americanレクチン)、コムギ胚芽アグルチニン(Triticum Vulgarisレクチン);Artocarpus polyphemusレクチン(Jacalinレクチン);Vicia villosaアグルチニン(VVA);Helix pomatiaアグルチニン(HPA);Wisteria floribundaアグルチニン(WFA);Sambucus nigraアグルチニン(SNA)、BC2LCM(グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia由来レクチン)、Maackia amurensisロイコアグルチニン(MAL)、Psathyrella velutina(PVL)、Sclerotium rolfsiiレクチン(SRL)、Eucheuma serraアグルチニン(ESA)、CLEC17A(Prolectin)、Aleuria aurantiaレクチン、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Glechoma hederaceaレクチン(Gleheda)、Morus nigraアグルチニン(Morniga G)、Salvia sclareaレクチン、Salvia bogotensisレクチン、Salvia horminumレクチン、Clerodendrum trichotomumレクチン、Moluccella laevisレクチン、Griffonia simplicifolia(GsLA4)、Psophocarpus tetragonolobus(酸性WBAI)、Abrus precatoriusレクチン、Molucella laevisレクチン(MLL)、Amaranthus caudatusレクチン、Amaranthus leucocarpusレクチン、Laelia autumnalisレクチン、Artocarpus integrifoliaレクチン、Maclura pomiferaレクチン、Artocarpus lakoochaレクチン、Dolichos biflorusアグルチニン、Dolichos biflorusレクチン、Glycine maxレクチン、及びAgaricus bisporusレクチンを含む、レクチンに由来するペプチドをコードする配列を含む。
【0171】
例えば、種々の実施形態において、単離された核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、または配列番号7から選択されるアミノ酸配列を含むTACA結合ドメインをコードする。
【0172】
ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、リーダー配列をコードする。例えば、ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号8のアミノ酸配列を含むリーダー配列をコードする。
【0173】
ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、T細胞結合ドメインをコードする。例えば、ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号9のアミノ酸配列を含むT細胞結合ドメインをコードする。
【0174】
ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドをコードする。例えば、ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、または配列番号17から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードする。ある特定の実施形態では、単離された核酸は、C末端Hisタグがそこに含まれていない、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、または配列番号17から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードする。
【0175】
一実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号18のヌクレオチド配列を含む。
【0176】
ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、TACA結合ドメインを含むCARをコードする。ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、TACA結合ドメインと1つ以上の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含むCARをコードする。
【0177】
さらに、本発明は、本明細書で開示されるペプチドと実質的に相同性を有するペプチドをコードする単離された核酸を包含する。ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号1~17から選択されるアミノ酸配列と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有するペプチドをコードする。
【0178】
さらに、本発明は、本明細書で開示されるヌクレオチド配列と実質的に相同性を有するペプチドをコードする単離された核酸を包含する。ある特定の実施形態では、単離された核酸配列は、配列番号18と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有する。
【0179】
本発明のペプチドをコードする単離された核酸配列は、当技術分野で既知の多くの組換え法のいずれかを用いて、例えば、標準的な技術を使用して、遺伝子を発現する細胞のライブラリーをスクリーニングすることによって、遺伝子を含むことが既知であるベクターから遺伝子を誘導することによって、または遺伝子を含む細胞及び組織から直接単離することによって得ることができる。あるいは、目的の遺伝子を、クローニングではなく合成的に作製することができる。
【0180】
単離された核酸は、例えばDNA及びRNAに限定されない、いずれの型の核酸をも含み得る。例えば、一実施形態では、組成物は、例えば、本発明のペプチドをコードする単離されたcDNA分子を含む単離されたDNA分子、またはその機能的断片を含む。一実施形態では、組成物は、本発明のペプチドをコードする単離されたRNA分子、またはその機能的断片を含む。
【0181】
本発明の核酸分子を修飾して、細胞培養の際に血清中または増殖培地中の安定性を向上させることができる。修飾を加えることで、本発明の核酸分子の安定性、機能性、及び/または特異性を高め、かつ免疫活性化特性を最小限に抑えることができる。例えば、安定性を高めるために、3’残基を分解に対して安定化することができ、例えば、3’残基がプリンヌクレオチド、特にアデノシンまたはグアノシンヌクレオチドからなるように選択することができる。あるいは、修飾された類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、2’-デオキシチミジンによるウリジンの置換が許容され、分子の機能に影響を及ぼさない。
【0182】
本発明の一実施形態では、核酸分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド類似体を含み得る。例えば、修飾ヌクレオチド類似体を組み込むことによって末端を安定化させることができる。
【0183】
ヌクレオチド類似体の非限定的な例としては、糖修飾リボヌクレオチド及び/または主鎖修飾リボヌクレオチド(すなわち、リン酸-糖主鎖に対する修飾を含む)が挙げられる。例えば、窒素または硫黄ヘテロ原子の少なくとも1つを含むように、天然RNAのホスホジエステル結合を修飾することができる。好ましい主鎖修飾リボヌクレオチドでは、隣接するリボヌクレオチドに結合するホスホエステル基が、例えばホスホチオエート基である修飾基で置換される。好ましい糖修飾リボヌクレオチドにおいて、2’OH基は、H、OR、R、ハロ、SH、SR、NH2、NHR、NR2、またはONから選択される基で置換され、ここで、RはC1~C6アルキル、アルケニル、またはアルキニルであり、ハロは、F、Cl、Br、またはIである。
【0184】
修飾の他の例は、核酸塩基修飾リボヌクレオチド、すなわち天然に存在する核酸塩基の代わりに少なくとも1つの天然に存在しない核酸塩基を含むリボヌクレオチドである。塩基は、アデノシンデアミナーゼの活性をブロックするように修飾することができる。例示的な修飾核酸塩基としては、5位修飾ウリジン及び/またはシチジン、例えば、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン;8位修飾アデノシン及び/またはグアノシン、例えば、8-ブロモグアノシン;デアザヌクレオチド、例えば、7-デアザ-アデノシン;O-及びN-アルキル化ヌクレオチド、例えばN6-メチルアデノシンが挙げられ、好適であるが、これらに限定されない。なお、上記の変形型を組み合わせてもよい。
【0185】
場合によって、核酸分子は、以下の化学修飾、すなわち1つ以上のヌクレオチドの2’-H修飾、2’-O-メチル修飾、または2’-OH修飾のうち少なくとも1つを含む。ある特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、増強されたヌクレアーゼ耐性を有することができる。ヌクレアーゼ耐性を増加させるため、核酸分子は、例えば、2’-修飾リボース単位及び/またはホスホロチオエート結合を含み得る。例えば、2’ヒドロキシル基(OH)を、いくつかの異なる「オキシ」または「デオキシ」置換基で修飾または置換することができる。ヌクレアーゼ耐性を増加させるため、本発明の核酸分子は、2’-O-メチル、2’-フッ素、2’-O-メトキシエチル、2’-O-アミノプロピル、2’-アミノ、及び/またはホスホロチオエート結合を含み得る。ロックド核酸(LNA)、エチレン核酸(ENA)、例えば2’-4’-エチレン架橋核酸の付加、及び2-アミノ-A修飾、2-チオ(例えば、2-チオ-U)修飾、G-クランプ修飾などのある種の核酸塩基修飾はまた、標的に対する結合親和性を増加させることができる。
【0186】
一実施形態では、核酸分子は、2’-修飾ヌクレオチド、例えば、2’-デオキシ、2’-デオキシ-2’-フルオロ、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’-O-DMAEOE)、または2’-O-N-メチルアセトアミド(2’-O-NMA)を含む。一実施形態では、核酸分子は少なくとも1つの2’-O-メチル修飾ヌクレオチドを含み、いくつかの実施形態では、核酸分子のすべてのヌクレオチドが2’-O-メチル修飾を含む。
【0187】
ある特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、好ましくは、以下の特性の1つ以上を有する:
【0188】
本明細書で述べる核酸剤は、特に修飾されないRNA及びDNA、ならびに例えば有効性を改善するために修飾されたRNA及びDNA、ならびにヌクレオシド代替物のポリマーを含む。非修飾RNAとは、核酸の成分、すなわち糖、塩基、及びリン酸部分が自然界に存在するもの、好ましくは人体に天然に存在するものと同じまたは本質的に同じである分子を指す。当技術分野では、希有または例外的だが天然に存在するRNAを修飾RNAと称している。例えば、Limbach et alを参照のこと(Nucleic Acids Res.,1994,22:2183-2196)。修飾RNAとしばしば称される、このような希有または例外的なRNAは通常、転写後修飾の結果であり、本明細書で使用される非修飾RNAという用語の範囲内である。本明細書で使用される修飾RNAとは、1つ以上の核酸の成分、すなわち糖、塩基、及びリン酸部分が自然界に存在するものと異なる、好ましくは人体に天然に存在するものと異なる分子を指す。それらは「修飾RNA」と称されるが、修飾のために、厳密に言えばRNAではない分子も当然ながら含まれることになる。ヌクレオチド代替物とは、ハイブリダイゼーションがリボリン酸骨格で見られるものと実質的に類似するように、塩基を正しい空間関係で提示することが可能である非リボリン酸構築物、例えばリボリン酸骨格の非荷電模倣体で、リボリン酸骨格が置換されている分子である。
【0189】
本発明の核酸の修飾は、リン酸基、糖基、骨格、N末端、C末端、または核酸塩基のうちの1つ以上に存在していてもよい。
【0190】
本発明はまた、本発明の単離された核酸が挿入されたベクターを含む。当技術分野には、本発明に有用である適切なベクターが豊富に存在する。
【0191】
簡単に要約すると、本発明のペプチドをコードする天然または合成の核酸の発現は、通常、ペプチドまたはその一部をコードする核酸をプロモーターに機能的に連結し、その構築物を発現ベクターに組み込むことによって行う。使用されるベクターは、複製、及び場合により真核細胞中の組み込みに適している。典型的なベクターには、転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに目的の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターが含まれている。
【0192】
本発明のベクターはまた、標準的な遺伝子送達プロトコールを用いて、核酸免疫法及び遺伝子療法に使用することができる。遺伝子送達の方法は、当技術分野において既知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号、同第5,589,466号を参照のこと。別の実施形態では、本発明は遺伝子療法ベクターを提供する。
【0193】
本発明の単離された核酸は、多数の種類のベクターにクローニングすることができる。例えば、核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、及びコスミドを含むが、これらに限定されないベクターにクローニングすることができる。特に対象となるベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及び配列決定ベクターを含む。
【0194】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えばSambrook et al(2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、ならびに他のウイルス学及び分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。一般に、適切なベクターには、少なくとも1つの生物体において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つ以上の選択マーカーが含まれている(例えば、WO01/96584;WO01/29058;及び米国特許第6,326,193号)。
【0195】
哺乳動物細胞への遺伝子移入に、ウイルスを用いた系が数多く開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達系に便利なプラットフォームである。当技術分野で既知の技術を用いて、選抜遺伝子をベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。次いで、組換えウイルスを単離し、in vivoまたはex vivoのいずれかで対象の細胞に送達することができる。多数のレトロウイルス系が、当技術分野において既知である。いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターを使用する。多数のアデノウイルスベクターが、当技術分野において既知である。一実施形態では、レンチウイルスベクターを使用する。
【0196】
例えば、レンチウイルスなどのレトロウイルス由来のベクターは、導入遺伝子の長期間の安定した組み込み及び娘細胞へのその分配を可能にするので、長期間の遺伝子移入を実現するのに適したツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞などの非増殖細胞を形質導入することができるという点で、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルス由来のベクターを上回る別の利点を有する。これらはまた、免疫原性が低いという別の利点を有する。一実施形態では、組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを含む。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、さまざまな疾患の治療に適した強力な遺伝子送達ツールとなっている。AAVベクターは、病原性の欠如、最小限の免疫原性、及び有糸分裂後細胞を安定かつ効率的に形質導入する能力を含め、遺伝子療法にとって最適なベクターにするいくつかの特徴を有する。AAVベクター内に含まれる特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター、及び送達方法の適切な組み合わせを選択することにより、1つ以上の種類の細胞を特異的に標的とすることができる。
【0197】
ある特定の実施形態では、ベクターはまた、プラスミドベクターでトランスフェクトされた細胞または本発明により産生されたウイルスに感染した細胞でのその転写、翻訳、及び/または発現を可能にするように導入遺伝子に機能的に連結された従来の制御エレメントを含む。本明細書で使用される場合、「機能的に連結された」配列は、目的遺伝子と隣接する発現制御配列と、目的遺伝子を制御するためにトランスでまたは一定の距離で作用する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列には、適切な転写開始配列、転写終結配列、転写プロモーター配列、及び転写エンハンサー配列;スプライシングシグナル及びポリアデニル化(polyA)シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに必要に応じて、コード産物の分泌を増強する配列を含む。ネイティブプロモーター、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、及び/または組織特異的プロモーターを含む、多数の発現制御配列が当技術分野で既知であり、利用可能である。
【0198】
さらに別のプロモーターエレメント、例えばエンハンサーは転写開始の頻度を調節する。通常これらは、開始部位の上流30~110bpの領域に位置するが、先頃、いくつかのプロモーターは開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが示されている。プロモーター要素間の間隔は柔軟であることが多く、そのためエレメントが互いに反転または移動してプロモーター機能が維持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔は、50bpの距離まで長くすることができ、それ以降は活性が低下し始める。プロモーターによっては、転写を活性化するために、個々のエレメントを協働的に機能させることも、または独立して機能させることもできると思われる。
【0199】
適切なプロモーターの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに機能的に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルな発現を誘導できる強力な構成的プロモーター配列である。適切なプロモーターのもう一つの例が、伸長増殖因子-1α(EF-1α)である。ただし、他の構成的プロモーター配列も使用することができ、これには、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン-バールウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターなどに限定されないヒト遺伝子プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターもまた、本発明の一部として企図される。誘導性プロモーターを使用すると、それが機能的に連結されているポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が望ましい場合はオンにし、発現が望ましくない場合はオフにすることが可能な分子スイッチが得られる。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0200】
ベクターに存在するエンハンサー配列もまた、ベクター中に含まれる遺伝子の発現を調節する。通常エンハンサーはタンパク質因子と結合して遺伝子の転写を増強する。エンハンサーは、それが調節する遺伝子の上流または下流に位置し得る。エンハンサーはまた、特定の細胞型または組織型での転写を増強するために組織特異的であり得る。一実施形態では、本発明のベクターは、ベクター内に存在する遺伝子の転写を増強する1つ以上のエンハンサーを含む。
【0201】
細胞に導入される発現ベクターは、ペプチドの発現を評価するために、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させようとする細胞集団からの発現細胞の同定及び選択を容易にする選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれかまたは両方を含むことができる。他の態様では、選択マーカーを個別のDNA片上に担持して、同時トランスフェクト手順に使用することができる。選択マーカーとレポーター遺伝子はいずれも、宿主細胞での発現が可能である適切な調節配列と隣接させることができる。有用な選択マーカーとしては、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0202】
レポーター遺伝子は、潜在的なトランスフェクト細胞を同定するため、及び調節配列の機能性を評価するために使用される。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物もしくは組織に存在しないか、またはそれらによって発現されない遺伝子であり、いくつかの容易に検出可能な特性、例えば酵素活性によって発現が顕在化されるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入された後、適切な時点で評価される。適切なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光タンパク質遺伝子を含み得る(例えば、Ui-Tei et al.,2000 FEBS Letters 479:79-82)。適切な発現系は周知であり、既知の技術を用いて調製するか、または商業的に入手することができる。一般に、最小5’フランキング領域がレポーター遺伝子の最も高い発現レベルを示す構築物は、プロモーターとして同定される。このようなプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結して、薬剤のプロモーター駆動性転写を調節する能力に関する評価に使用することができる。
【0203】
遺伝子を細胞に導入し発現させる方法は、当技術分野で既知である。発現ベクターに関連して、ベクターを、当技術分野の任意の方法によって、宿主細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、または昆虫細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的、または生物学的手段によって宿主細胞に移入することができる。
【0204】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが挙げられる。ベクター及び/または外来性核酸を含む細胞の産生方法は、当技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.(2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照のこと。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための好ましい方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0205】
目的ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNA及びRNAベクターの使用を含む。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物、例えばヒト細胞への遺伝子挿入に最も広く使用される方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。例えば、米国特許第5,350,674号及び同第5,585,362号を参照のこと。
【0206】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段としては、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソームを含む脂質ベース系などのコロイド分散系が挙げられる。in vitro及びin vivoでの送達ビヒクルとして使用される例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0207】
非ウイルス送達系を利用する場合、例示的な送達ビヒクルはリポソームである。核酸の宿主細胞への導入(in vitro、ex vivo、またはin vivo)に脂質製剤の使用が企図されている。別の態様では、核酸は脂質と会合していてもよい。脂質と会合した核酸は、リポソームの水性内部にカプセル化されるか、リポソームの脂質二重層内に散在されるか、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方に会合した連結分子を介してリポソームに結合されるか、リポソームに捕捉されるか、リポソームと複合体化されるか、脂質を含有する溶液中に分散されるか、脂質と混合されるか、脂質と複合体化するか、脂質中に懸濁液として含有されるか、ミセルに含有されるもしくはそれと複合体化するか、またはそれ以外の方法で脂質と会合され得る。脂質、脂質/DNA、または脂質/発現ベクター会合組成物は、溶液中にて何らかの特定の構造に限定されない。例えば、それらは、二層構造で、ミセルとして、または「崩壊」構造で存在し得る。それらはまた、単に溶液中に散在していてもよく、場合によりサイズまたは形状が均一ではない凝集体を形成してもよい。脂質は、天然または合成の脂質であり得る脂肪物質である。例えば、脂質には、細胞質に天然に存在する脂肪滴、ならびに脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、及びアルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素及びその誘導体を含む化合物のクラスを含む。
【0208】
使用に適した脂質は、市販品の供給元から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma,St.Louis,MOから入手することができ、ジエチルリン酸(「DCP」)は、K&K Laboratories(Plainview,NY)から入手することができ、コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから入手することができ、ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)及び他の脂質は、Avanti Polar Lipids,Inc.(Birmingham,AL)から入手することができる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質原液は、約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも容易に蒸発するので、単独の溶媒としてはクロロホルムを使用する。「リポソーム」は、封入脂質二重層または凝集体の生成によって形成される多様な単層及び多層脂質ビヒクルを包含する一般用語である。リポソームは、リン脂質二重層膜及び内部水性媒体を有する小胞構造を有することを特徴とし得る。多重層リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。これは、リン脂質を過剰の水溶液中で懸濁させると自然に形成される。脂質成分は、閉鎖構造の形成前に自己再構成を起こし、脂質二重層間に水及び溶解された溶質を取り込む(Ghosh et al.,1991 Glycobiology 5:505-10)。しかしながら、通常の小胞構造とは異なる構造を溶液中で有する組成物も包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとることも、または単に脂質分子の不均一な凝集体として存在することもできる。また、リポフェクタミン-核酸複合体も企図される。
【0209】
外来性核酸の宿主細胞への導入に使用する方法を問わず、宿主細胞中の組換えDNA配列の存在を確認するために、さまざまなアッセイを実施することができる。このようなアッセイには、例えば、サザン及びノーザンブロッティング、RT-PCR、及びPCRなどの当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ;例えば、免疫学的手段(ELISA及びウエスタンブロット)または本発明の範囲内にある薬剤を同定するための本明細書に記載されるアッセイによって、特定のペプチドの存在または不在を検出するなどの「生化学的」アッセイを含む。
【0210】
一実施形態では、本発明のペプチドをコードする単離された核酸は、in vitro転写(IVT)されたRNAを含む。RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)生成鋳型を用いたin vitro転写によって産生される。適切なプライマー及びRNAポリメラーゼを使用して、任意の供給源由来の目的DNAをPCRによって直接、in vitro mRNA合成の鋳型に変換することができる。DNA供給源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列、または任意の他の適切なDNA供給源であり得る。
【0211】
一実施形態では、PCRに使用されるDNAはオープンリーディングフレームを含む。このDNAは、生物のゲノム由来の天然に存在するDNA配列由来であってもよい。一実施形態では、DNAは、遺伝子の一部分の目的とする全長遺伝子である。遺伝子は、5’及び/または3’非翻訳領域(UTR)のいくつかまたはすべてを含み得る。遺伝子は、エキソン及びイントロンを含み得る。一実施形態では、PCRに使用されるDNAはヒト遺伝子である。別の実施形態では、PCRに使用されるDNAは、5’及び3’UTRを含むヒト遺伝子である。あるいは、DNAは、天然に存在する生物では通常発現しない人工DNA配列であってもよい。例示的な人工DNA配列は、一緒に連結されて融合タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを形成する遺伝子部分を含むものである。一緒に連結されるDNAの部分は、単一の生物体または複数の生物体由来であり得る。
【0212】
PCRのためのDNA供給源として使用することができる遺伝子には、生物体に治療的もしくは予防的な効果をもたらすか、または生物体における疾患もしくは障害を診断するために使用することができる、ポリペプチドをコードする遺伝子を含む。好ましい遺伝子は、短期治療には有用であるが、そうでない場合には投与量もしくは発現遺伝子に関して安全性の懸念がある遺伝子である。例えば、癌、自己免疫障害、寄生体感染症、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、または他の感染症の治療の場合、発現させようとする導入遺伝子(複数可)は、免疫系の細胞にとってリガンドもしくは受容体として機能するか、または生物体の免疫系を刺激もしくは阻害するように機能できるポリペプチドをコードし得る。いくつかの実施形態では、長期間にわたり免疫系の継続的な刺激があることは望ましくなく、かつ治療奏功後も持続する変化を生じさせることも必要としないが、これはその後に新たな問題を誘発する恐れがあるためである。自己免疫障害の治療の場合、再燃時には免疫系を阻害または抑制することが望ましい場合があるが、患者が感染に過度にかかりやすくなる恐れがあるため、長期的には望ましくない。
【0213】
PCRは、トランスフェクションに使用される、mRNAのin vitro転写のための鋳型を作製するために使用される。PCRを実施する方法は、当技術分野において周知である。PCRに使用されるプライマーは、PCRのための鋳型として使用されるDNAの領域に対して実質的に相補的である領域を有するように設計される。本明細書で使用される場合、「実質的に相補的」とは、プライマー配列中の塩基の大半もしくはすべてが相補的であるか、または1つ以上の塩基が非相補的もしくはミスマッチである、ヌクレオチドの配列を指す。実質的に相補的な配列は、PCRに使用されるアニーリング条件下で、意図したDNA標的とアニールまたはハイブリダイズすることができる。プライマーは、DNA鋳型の任意の部分に対して実質的に相補的であるように設計することができる。例えば、プライマーを、5’及び3’UTRを含む、細胞で通常転写される遺伝子の一部分(オープンリーディングフレーム)を増幅するように設計することができる。また、プライマーを、目的とする特定のドメインをコードする遺伝子の一部分を増幅するように設計することもできる。一実施形態では、プライマーは、5’及び3’UTRの全体または部分を含む、ヒトcDNAのコード領域を増幅するように設計される。PCRに有用なプライマーは、当技術分野において周知である合成法によって作製される。「順方向プライマー」とは、増幅させようとするDNA配列の上流にある、DNA鋳型上のヌクレオチドに対して実質的に相補的であるヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「上流」は、本明細書で使用される場合、コード鎖に対して、増幅させようとするDNA配列の5’側を指す。「逆方向プライマー」とは、増幅させようとするDNA配列の下流にある、二本鎖DNA鋳型に対して実質的に相補的であるヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「下流」は、本明細書で使用される場合、コード鎖に対して、増幅させようとするDNA配列の3’側を指す。
【0214】
PCRに有用なDNAポリメラーゼのいずれをも、本明細書で開示される方法に使用することができる。試薬及びポリメラーゼは、いくつかの供給元から市販されている。
【0215】
安定性及び/または翻訳効率を高める能力を有する化学構造体を使用することもできる。RNAは5’及び3’UTRを有することが好ましい。一実施形態では、5’UTRは0~3000ヌクレオチドの長さである。コード領域に付加される5’及び3’UTR配列の長さは、さまざまな方法によって変化させることができ、この方法には、そのUTRの別の領域とアニーリングするPCR用プライマーの設計を含むが、これに限定されない。この方法を用いて、当業者は、転写RNAのトランスフェクト後に最適な翻訳効率を達成するために必要とされる、5’及び3’UTRの長さを改変することができる。
【0216】
5’及び3’UTRは、目的遺伝子の天然に存在する内在性5’及び3’UTRであり得る。あるいは、UTR配列を順方向及び逆方向プライマーに組み込むことによって、または鋳型の他の何らかの改変によって、目的遺伝子に内在しないUTR配列を付加することもできる。目的遺伝子に内在しないUTR配列の使用は、RNAの安定性及び/または翻訳効率の変更に有用であり得る。例えば、3’UTR配列中のAUリッチエレメントはmRNAの安定性を低下させ得ることが知られている。したがって、当技術分野において周知であるUTRの特性に基づいて、転写RNAの安定性を高めるように3’UTRを選択または設計することができる。
【0217】
一実施形態では、5’UTRは内在性遺伝子のKozak配列を含み得る。あるいは、目的遺伝子に内在しない5’UTRを上記のようにPCRによって付加すると、5’UTR配列の付加によりコンセンサスKozak配列が再設計され得る。Kozak配列は、いくつかのRNA転写物の翻訳効率を高めることができるが、すべてのRNAについて効率的な翻訳を可能にするために必要であるとは限らないと思われる。多くのmRNAにKozak配列が必要であることは、当技術分野において既知である。他の実施形態では、5’UTRを、RNAゲノムが細胞内で安定であるRNAウイルスから誘導することができる。他の実施形態では、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を妨げるために、さまざまなヌクレオチド類似体を3’または5’UTRに使用することができる。
【0218】
遺伝子クローニングを必要とせずにDNA鋳型からのRNAの合成を可能にするには、転写プロモーターが、転写させようとする配列の上流でDNA鋳型に付加される必要がある。RNAポリメラーゼに対するプロモーターとして機能する配列を順方向プライマーの5’末端に付加すると、RNAポリメラーゼプロモーターが、転写させようとするオープンリーディングフレームの上流でPCR産物に組み込まれるようになる。好ましい一実施形態では、プロモーターは、本明細書の他の箇所に記載したようにT7ポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターとしては、T3及びSP6 RNAポリメラーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。T7、T3、及びSP6プロモーターのコンセンサスヌクレオチド配列は当技術分野において既知である。
【0219】
ある好ましい実施形態では、mRNAは5’末端のキャップ及び3’ポリ(A)尾部の両方を有し、これらがリボソーム結合、翻訳の開始、及び細胞でのmRNA安定性を決定付ける。環状DNA鋳型、例えばプラスミドDNA上では、RNAポリメラーゼが、真核細胞での発現に適さない長いコンカテマー産物を産生する。3’UTRの末端で線状化されたプラスミドDNAの転写では、転写後であっても、真核生物トランスフェクションに有効ではない、正常サイズのmRNAが生じる。
【0220】
線状DNA鋳型上で、ファージT7 RNAポリメラーゼは、鋳型の最終塩基を越えて転写物の3’末端を伸長させることができる(Schenborn and Mierendorf,Nuc Acids Res.,13:6223-36(1985);Nacheva and Berzal-Herranz,Eur.J.Biochem.,270:1485-65(2003)。
【0221】
DNA鋳型にポリA/T連鎖を組み込む従来の方法は分子クローニングである。しかしながら、プラスミドDNAに組み込まれたポリA/T配列はプラスミドの不安定化を引き起こす恐れがあり、このことが、細菌細胞から得たプラスミドDNA鋳型に欠失及び他の異常がしばしば高頻度で混入する理由となっている。そのため、クローニング手順が面倒で時間がかかるだけでなく、信頼性も損なわれる場合が多い。このような理由から、ポリA/T 3’連鎖を有するDNA鋳型の構築をクローニングなしで可能にする方法が強く望まれている。
【0222】
転写DNA鋳型のポリA/Tセグメントは、PCR中に、ポリT尾部、例えば100T尾部など(サイズは50~5000Tであり得る)を含む逆方向プライマーを使用することによって、またはPCR後に、DNA連結もしくはin vitro組換えを含むが、これらに限定されない他の任意の方法によって産生することができる。ポリ(A)尾部はまた、RNAに安定性をもたらし、その分解も低下させる。一般に、ポリ(A)尾部の長さは、転写RNAの安定性と正の相関関係にある。一実施形態では、ポリ(A)尾部は100~5000個のアデノシンである。
【0223】
RNAのポリ(A)尾部は、in vitro転写後に、ポリ(A)ポリメラーゼ、例えばE.coliポリAポリメラーゼ(E-PAP)などの使用により、さらに伸長させることができる。一実施形態では、ポリ(A)尾部の長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドへと増やすことにより、RNAの翻訳効率が約2倍に増加する。さらに、異なる化学基を3’末端に結合して、mRNAの安定性を高めることができる。このような結合は、修飾/人工ヌクレオチド、アプタマー、及び他の化合物を含み得る。例えば、ポリ(A)ポリメラーゼを用いて、ATP類似体をポリ(A)尾部に組み込むことができる。ATP類似体は、RNAの安定性をさらに高めることができる。
【0224】
5’キャップ付加(5’ caps on)もまた、RNA分子に安定性を与える。ある好ましい実施形態では、本明細書で開示される方法により産生されるRNAは5’キャップを含む。5’キャップは、当技術分野において既知であって本明細書に記載される技術を用いて付与される(Cougot,et al.,Trends in Biochem.Sci.,29:436-444(2001);Stepinski,et al.,RNA,7:1468-95(2001);Elango, et al.,Biochim.Biophys.Res.Commun.,330:958-966(2005))。
【0225】
本明細書で開示される方法により産生されるRNAはまた、配列内リボソーム進入部位(IRES)配列も含み得る。IRES配列は、mRNAに対するキャップ非依存的なリボソーム結合を開始させて、翻訳開始を容易にする、任意のウイルス配列、染色体配列、または人工的に設計された配列であってよい。細胞透過性及び生存可能性を促進する因子、例えば糖、ペプチド、脂質、タンパク質、抗酸化剤、及び界面活性剤などを含み得る、細胞エレクトロポレーションに適した任意の溶質を含めることができる。
【0226】
RNAは、いくつかのさまざまな方法のいずれか、例えば、エレクトロポレーション(Amaxa Nucleofector-II(Amaxa Biosystems、Cologne,Germany))、(ECM 830(BTX)(Harvard Instruments、Boston,Mass.)、またはGene Pulser II(BioRad、Denver,Colo.)、Multiporator(Eppendort、Hamburg Germany)、リポフェクションを用いるカチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション、ポリマーカプセル封入、ペプチド媒介性トランスフェクション、または「遺伝子銃」などのバイオリスティック粒子送達システムを含むが、これらに限定されない市販の方法を用いて、標的細胞に導入することができる(例えば、Nishikawa,et al.Hum Gene Ther.,12(8):861-70(2001)を参照)。
【0227】
別の態様では、RNA構築物はエレクトロポレーションによって細胞内に送達することができる。例えば、US2004/0014645、US2005/0052630A1、US2005/0070841A1、US2004/0059285A1、US2004/0092907A1に教示されているような、哺乳動物細胞への核酸構築物のエレクトロポレーションの製剤及び方法を参照のこと。既知のいずれの細胞型のエレクトロポレーションにも必要とされる、電界強度を含むさまざまなパラメーターは、関連研究文献ならびに当技術分野における多数の特許及び出願において公知である。例えば、米国特許第6,678,556号、米国特許第7,171,264号、及び米国特許第7,173,116号を参照のこと。エレクトロポレーションの治療適用のための装置は市販されており、これには例えば、MedPulser(商標)DNA Electroporation Therapy System(Inovio/Genetronics、San Diego,Calif)があり、米国特許第6,567,694号;米国特許第6,516,223号、米国特許第5,993,434号、米国特許第6,181,964号、米国特許第6,241,701号、及び米国特許第6,233,482号などの特許に記載されている。エレクトロポレーションはまた、例えばUS20070128708A1に記載されるような、in vitroでの細胞のトランスフェクションに使用することもできる。エレクトロポレーションはまた、in vitroで核酸を細胞に送達するために使用することもできる。このように、当業者に既知の多くの利用可能なデバイス及びエレクトロポレーションシステムのいずれかを利用した、発現構築物を含む核酸の細胞へのエレクトロポレーション媒介性投与は、目的RNAを標的細胞に送達する画期的な新しい手段である。
【0228】
キメラ抗原受容体
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)またはCARをコードする核酸分子を含み、当該CARがTACA結合ドメインを含む組成物を提供する。一実施形態では、CARは細胞外及び細胞内ドメインを含む。細胞外ドメインは、別の用語では抗原結合ドメインとも称される標的特異的結合エレメントを含む。細胞内ドメイン、または別の用語で細胞質ドメインは、共刺激シグナル伝達領域及びゼータ鎖部分を含む。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部分を指す。共刺激分子とは、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0229】
CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサードメインを組み込んでもよい。本明細書で使用される場合、用語「スペーサードメイン」とは、一般に、ポリペプチド鎖中の膜貫通ドメインを、細胞外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかと連結させる働きをする任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。スペーサードメインは、最大で300アミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸で構成され得る。
【0230】
抗原結合部分
一実施形態では、本発明のCARは、別の用語で抗原結合部分とも称される標的特異的結合要素を含む。
【0231】
一実施形態では、本発明のCARの抗原結合部分は、本明細書の他の箇所に記載される1つ以上のTACA結合ドメインを含む。例えば、一実施形態では、抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはその相同ペプチドのいずれかの1つ以上のTACA結合ドメインを含む。
【0232】
一実施形態では、組成物は、CARをコードする核酸分子を含み、当該核酸分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはその相同ペプチドのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0233】
一実施形態では、CARの抗原結合部分は、本明細書に記載されるTACA結合ドメインに結合するペプチドを含む。例えば、一実施形態では、CARの抗原結合部分は、レクチン結合ドメインを含み、当該レクチン結合ドメインはTACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドに結合する。
【0234】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、CARは、CARの細胞外ドメインと融合した膜貫通ドメインを含むように設計することができる。一実施形態では、CAR内のドメインの1つに天然に結合する膜貫通ドメインを用いる。場合によっては、膜貫通ドメインを選択、またはアミノ酸置換により修飾することにより、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を回避することで、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えことができる。
【0235】
膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源のいずれに由来してもよい。供給源が天然である場合、ドメインは何らかの膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明に特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し得る(すなわち、少なくともそれらの膜貫通領域(複数可)を含む)。あるいは、膜貫通ドメインは合成されていてもよく、その場合には、主としてロイシン及びバリンなどの疎水性残基を含む。好ましくは、合成膜貫通ドメインの各末端には、フェニルアラニン、トリプトファン、及びバリンのトリプレットが見られるはずである。場合により、好ましくは長さが2~10アミノ酸である短いオリゴペプチドまたはポリペプチドのリンカーによって、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間に架橋が形成されていてもよい。グリシン-セリンのダブレットは特に適したリンカーとなる。
【0236】
好ましくは、本発明のCAR内の膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメインである。場合によっては、本発明のCARの膜貫通ドメインは、CD8αヒンジドメインを含む。
【0237】
細胞質ドメイン
本発明のCARの細胞質ドメイン、または別の用語で細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが挿入された免疫細胞の正常なエフェクター機能のうち少なくとも1つの活性化を担う。用語「エフェクター機能」は、細胞の特別な機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。したがって、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを伝達して、細胞に特別な機能を実行させるタンパク質の部分を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を利用できるが、多くの場合、その鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮部分を使用する場合には、そのような短縮部分を、それがエフェクター機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに使用してもよい。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な、細胞内シグナル伝達ドメインの任意の短縮部分を含むものとする。
【0238】
本発明のCARに使用される細胞内シグナル伝達ドメインの好ましい例としては、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するために協調して作用するT細胞受容体(TCR)と共受容体の細胞質配列、ならびにその配列の任意の誘導体または変種、及び同じ機能的能力を有する任意の合成配列が挙げられる。
【0239】
TCR単独で生成されたシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次的または共刺激的なシグナルも必要であることが知られている。したがって、T細胞活性化は、2つのクラスの異なる細胞質シグナル伝達配列、すなわちTCRを介して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)と、抗原に依存せずに作用して、二次的または共刺激的なシグナルをもたらすもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言える。
【0240】
一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激的方法または阻害的方法のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激的方法で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン系の活性化モチーフ、すなわちITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含み得る。
【0241】
本発明で特に使用される、一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが挙げられる。本発明のCAR中の細胞質シグナル伝達分子は、CD3ゼータに由来する細胞質シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0242】
好ましい実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを単独で、または本発明のCARに関連して有用である任意の他の望ましい細胞質ドメイン(複数可)と組み合わせて含むように設計することができる。例えば、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部分及び共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83などと特異的に結合するリガンドが挙げられる。したがって、本発明では、共刺激シグナル伝達エレメントとして主に4-1BBが例示されているが、他の共刺激エレメントも本発明の範囲内である。
【0243】
本発明のCARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムな順序または指定された順序で互いに連結することができる。場合により、好ましくは長さが2~10アミノ酸である短いオリゴペプチドまたはポリペプチドのリンカーが、架橋を形成していてもよい。グリシン-セリンのダブレットは特に適したリンカーとなる。
【0244】
一実施形態では、細胞質ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメイン及びCD28のシグナル伝達ドメインを含むように設計される。別の実施形態では、細胞質ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメイン及び4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。さらに別の実施形態では、細胞質ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメイン及びCD28と4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。
【0245】
ベクター
本発明は、CARをコードする配列を含み、当該配列が細胞内ドメインをコードする核酸配列に機能的に連結された抗原結合部分をコードする核酸配列を含む核酸分子を包含する。例えば、一実施形態では、CARをコードする分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはその相同ペプチドのいずれかの1つ以上のTACA結合ドメインを含む抗原結合部分をコードする核酸配列を含む。一実施形態では、CARをコードする核酸分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはその相同ペプチドのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む。一実施形態では、CARをコードする核酸分子は、TACA結合ドメインに結合するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、一実施形態では、CARをコードする核酸分子は、レクチン結合ドメインに結合するヌクレオチド配列を含み、当該レクチン結合ドメインはTACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドに結合する。
【0246】
核酸分子は、本明細書の他の箇所に記載されているような、任意のDNAもしくはRNA構築物、ベクター、またはプラスミドであり得る。
【0247】
遺伝子改変細胞
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、本発明のペプチドを発現するように改変された細胞を含む。例えば、ある特定の実施形態では、細胞は、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変される。ある特定の実施形態では、細胞は、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変される。ある特定の実施形態では、細胞は、TACA結合ドメインを含むCARを発現するように改変される。
【0248】
ある特定の実施形態では、細胞は、本発明のペプチドをコードする単離された核酸と細胞を接触させることによって遺伝子改変される。
【0249】
いくつかの実施形態では、核酸配列は、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを使用して細胞内に送達される。例えば、本発明のペプチドを発現するレトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターは、形質導入細胞を担体として用いるか、またはカプセル封入されたベクター、結合されたベクター、もしくは裸のベクターの無細胞性の局所的または全身性の送達を用いて、さまざまな種類の真核細胞、さらには組織及び生物全体へと送達することができる。この方法は、安定的な発現が必要とされるか、または十分に求められる、いずれの目的にも使用することができる。
【0250】
他の実施形態では、核酸配列は、in vitro転写mRNAを使用して細胞内に送達される。in vitro転写mRNAは、形質導入細胞を担体として用いるか、あるいはカプセル封入されたmRNA、結合されたmRNA、または裸のmRNAの無細胞性の局所的または全身性の送達を用いて、さまざまな種類の真核細胞、さらには組織及び生物全体へと送達することができる。この方法は、一過性発現が必要とされるか、または十分に求められる、いずれの目的にも使用することができる。
【0251】
ある特定の実施形態では、細胞は、望ましいペプチドを発現できる任意の適切な細胞型であり得る。ある特定の実施形態では、改変細胞は、細胞をレシピエントに導入する方法に使用される。ある特定の実施形態では、細胞は、レシピエントに関して自己由来、同種異系、同系、または異種である。
【0252】
一実施形態では、細胞はT細胞である。開示される組成物及び方法は、遺伝子改変T細胞が標的癌細胞を死滅させる能力の評価を含め、癌、幹細胞、急性及び慢性感染症、ならびに自己免疫疾患の分野における基礎研究及び療法でのT細胞活性の調節に適用することができる。
【0253】
本発明のT細胞の増殖及び遺伝子改変の前に、T細胞の供給源を対象から採取する。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含む、多くの供給源から得ることができる。本発明のある特定の実施形態では、当技術分野で利用可能な任意の数のT細胞株を使用することができる。本発明のある特定の実施形態では、T細胞は、Ficoll(商標)分離などの、当業者に既知の任意の数の技術を用いて、対象から採取された血液単位から得ることができる。好ましい一実施形態では、個体の血流からの細胞は、アフェレーシスによって得られる。アフェレーシス産物は通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含むリンパ球を含有する。一実施形態では、アフェレーシスによって採取された細胞を洗浄して血漿画分を除去し、その後の処理工程のために細胞を適切な緩衝液または培地に入れてもよい。本発明の一実施形態では、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄する。代替的実施形態では、洗浄溶液はカルシウムを含まず、またマグネシウムを含んでいなくても、二価カチオンのすべてではないもののその多くを含んでいなくてもよい。ここでも、驚くべきことに、初期の活性化工程にカルシウムが存在しないことにより、活性化を増大させることができる。当業者であれば容易に理解できるように、洗浄工程は、当業者に既知の方法、例えば半自動の「流水式」遠心分離機(例えば、Cobe 2991 cell processor,Baxter CytoMate、またはHaemonetics Cell Saver 5)を製造業者の指示に従って使用することにより行うことができる。洗浄後、細胞は、様々な生体適合性緩衝液、例えば、Ca2+フリーPBS、Mg2+フリーPBS、PlasmaLyteA、またはその他の緩衝液を含むまたは含まない生理食塩水などに再懸濁してもよい。あるいは、アフェレーシスサンプルの望ましくない成分を除去し、細胞を培養培地に直接再懸濁させてもよい。
【0254】
別の実施形態では、T細胞は、赤血球を溶解し、例えばPERCOLL(商標)の勾配による遠心分離、または対向流遠心溶出法により単球を枯渇させることによって、末梢血リンパ球から単離する。陽性または陰性選択技術によって、特定のT細胞の亜集団、例えばCD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、及びCD45RO+T細胞をさらに単離することができる。例えば、一実施形態では、目的のT細胞の陽性選択に十分な期間、抗CD3/抗CD28(すなわち3x28)をコンジュゲートしたビーズ、例えばDYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 Tとインキュベートすることによって、T細胞を単離する。一実施形態では、期間は約30分である。さらなる実施形態では、期間は、30分~36時間の範囲またはそれ以上の範囲であり、その間のすべての整数値である。さらなる実施形態では、期間は少なくとも1、2、3、4、5、または6時間である。さらに別の好ましい実施形態では、期間は10~24時間である。好ましい一実施形態では、インキュベーション期間は24時間である。白血病患者からのT細胞の単離の場合、用いるインキュベーション時間を長くすることにより(例えば24時間)、細胞収率を増加させることができる。腫瘍組織または免疫不全個体から腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離する場合など、他の細胞型と比較してT細胞が少ない場合は、状況を問わず、長いインキュベーション時間を用いてT細胞を単離してもよい。さらに、用いるインキュベーション時間を長くすることにより、CD8+ T細胞の捕捉効率を増加させることができる。したがって、時間を単に短縮または延長することにより、T細胞をCD3/CD28ビーズに結合させることができ、及び/またはT細胞に対するビーズの比率を(本明細書でさらに記載されるように)増減させることにより、培養開始時またはプロセス中の他の時点で、T細胞の亜集団を可否に応じて優先的に選択することができる。あるいは、ビーズまたは他の表面上の抗CD3及び/または抗CD28抗体の比率を増減させることによって、培養開始時または他の望ましい時点で、T細胞の亜集団を可否に応じて優先的に選択することができる。当業者であれば、本発明に関連して、複数回の選択も使用できることを認識されよう。ある特定の実施形態では、活性化及び増殖過程で、選択手順を実行し、「非選択」細胞を使用することが望ましい場合がある。「非選択」細胞はまた、さらに何回か選択を施してもよい。
【0255】
陰性選択によるT細胞集団の濃縮は、陰性選択された細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせを用いて行うことができる。1つの方法は、陰性選択された細胞に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体カクテルを使用する、負磁気免疫接着またはフローサイトメトリーによる細胞の分取及び/または選別である。例えば、陰性選択によってCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは通常、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、及びCD8に対する抗体を含む。ある特定の実施形態では、通常CD4+、CD25+、CD62Lhi、GITR+、及びFoxP3+を発現する制御性T細胞を濃縮するかまたは陽性選択することが望ましい場合がある。あるいは、ある特定の実施形態では、抗C25がコンジュゲートされたビーズまたは他の類似の選択方法によって、制御性T細胞を枯渇させる。
【0256】
陽性または陰性選択によって目的の細胞集団を単離する場合に、細胞及び表面(例えば、ビーズなどの粒子)の濃度を変更することができる。ある特定の実施形態では、細胞とビーズの接触を最大にするために、ビーズと細胞の混合量を大幅に減少させる(すなわち、細胞濃度を増加させる)ことが望ましい場合がある。例えば、一実施形態では、20億細胞/mlの濃度を使用する。一実施形態では、10億細胞/mlの濃度を使用する。さらなる実施形態では、1億細胞/ml超を使用する。さらなる実施形態では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、または5000万細胞/mlの細胞濃度を使用する。さらに別の実施形態では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、または1億細胞/mlの細胞濃度を使用する。さらなる実施形態では、1億2500万または1億5000万細胞/mlの濃度を使用することができる。高濃度を使用すると、細胞収率、細胞活性化、及び細胞増殖の増加を生じさせることができる。さらに、高細胞濃度の使用により、CD28陰性T細胞などの、目的とする標的抗原の発現が弱い場合がある細胞、または腫瘍細胞が多く存在するサンプル(すなわち、白血病の血液、腫瘍組織など)からの細胞をより効率的に捕捉することが可能になる。そのような細胞集団は治療的価値を有する可能性があり、また取得が望ましいと予想される。例えば、高濃度の細胞の使用により、通常はCD28発現が弱いCD8+T細胞の効率的な選択が可能になる。
【0257】
関連する実施形態では、低濃度の細胞を使用することが望ましい場合がある。T細胞及び表面(例えば、ビーズなどの粒子)の混合物を大幅に希釈することによって、粒子と細胞との間の相互作用が最小限に抑えられる。これにより、目的の抗原が大量に発現する細胞を粒子に結合させて選択する。例えば、CD4+ T細胞は、CD28の発現レベルが高く、希薄濃度でCD8+ T細胞よりも効率的に捕捉される。一実施形態では、使用される細胞の濃度は5x106/mlである。他の実施形態では、使用される濃度は、約1x105/ml~1x106/ml、及びその間のあらゆる整数値であり得る。
【0258】
他の実施形態では、細胞は、さまざまな長さの時間にわたって、さまざまな速度で2~10℃または室温にてローテーター上でインキュベートすることができる。
【0259】
刺激するT細胞はまた、洗浄工程後に凍結することもできる。理論に束縛されるものではないが、凍結及びその後の解凍工程により、顆粒球及びある程度の単球が細胞集団から除去されることで、より均一な生成物が得られる。血漿と血小板を除去する洗浄工程の後、細胞を凍結溶液中に懸濁させてもよい。多くの凍結溶液及びパラメーターが当技術分野で既知であり、この状況において有用であるが、1つの方法は、20%DMSO及び8%ヒト血清アルブミンを含有するPBS、または10%デキストラン40及び5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミンならびに7.5%DMSOを含有する培養培地、または31.25%Plasmalyte-A、31.25%デキストロース5%、0.45%NaCl、10%デキストラン40及び5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミン、ならびに7.5%DMSOを含有する培養培地、または例えばHespan及びPlasmaLyte Aを含有する他の好適な細胞凍結媒体を使用し、次いで細胞を1℃/分の速度で-80℃に凍結させ、液体窒素貯蔵タンクの蒸気相中で保存することを含む。他の制御凍結方法を使用しても、-20℃または液体窒素中で無制御に急速凍結する方法を使用してもよい。
【0260】
ある特定の実施形態では、凍結保存した細胞を本明細書に記載されるように解凍して洗浄し、室温で1時間静置した後、本発明の方法を使用して活性化する。
【0261】
また、本発明に関連して、本明細書に記載される細胞の増殖が必要となり得る前の時点で、対象から血液サンプルまたはアフェレーシス産物を採取することも企図される。例えば、増殖させる細胞の供給源は、必要に応じていつでも採取することができ、本明細書に記載されるようなT細胞療法が有益である多数の疾患または病態のT細胞療法で後ほど使用するために単離して凍結することができる。一実施形態では、血液サンプルまたはアフェレーシスは、概ね健康な対象から採取される。ある特定の実施形態では、血液サンプルまたはアフェレーシスは、疾患を発症する危険性があるが、まだ疾患を発症していない概ね健康な対象から採取され、その目的とする細胞は単離され、後ほど使用するために凍結される。ある特定の実施形態では、T細胞を増殖させ、凍結し、後で使用してもよい。ある特定の実施形態では、サンプルは、本明細書に記載される特定の疾患と診断された直後であるが、何らかの治療をする前に患者から採取される。さらなる実施形態では、関連する任意の数の治療法の前に、対象由来の血液サンプルまたはアフェレーシスから細胞を単離する。このような治療法には、ナタリズマブ、エファリズマブ、抗ウイルス剤などの薬剤、化学療法、放射線、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレート、及びFK506などの免疫抑制剤、またはCAMPATH、抗CD3抗体、シトキサン、フルダラビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、マイコフェノール酸、ステロイド、FR901228などの他の免疫除去(immunoablative)剤、ならびに照射による治療を含むが、これらに限定されない。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンのいずれかを阻害するか(シクロスポリン及びFK506)、または増殖因子誘導性シグナル伝達にとって重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al.,Cell 66:807-815,1991;Henderson et al.,Immun.73:316-321,1991;Bierer et al.,Curr.Opin.Immun.5:763-773,1993)。さらなる実施形態では、細胞は、患者用に単離され、後ほど、骨髄もしくは幹細胞移植、フルダラビンなどの化学療法剤、外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを使用するT細胞除去療法と併用して(例えば、その前に、同時に、または後に)使用するために凍結される。別の実施形態では、CD20と反応する薬剤(例えばリツキサン)などのB細胞除去療法後の治療の前に、細胞を単離して凍結し、後ほど使用することができる。
【0262】
本発明のさらなる実施形態では、T細胞は、治療後に直接患者から採取される。この点に関して、ある種の癌治療、特に免疫系に損傷を与える薬物による治療後で、通常であれば患者が治療から回復中である治療直後の期間には、得られるT細胞の質が、ex vivoでの増殖に最適であるか、または増強され得ることが観察されている。同様に、本明細書に記載される方法を用いたex vivo操作後、これらの細胞は、移植及びin vivo増殖の増強に好ましい状態であり得る。したがって、本発明に関連して、この回復期中に、T細胞、樹状細胞、または造血系統の他の細胞を含む血液細胞を採取することが企図される。さらに、ある特定の実施形態では、動員(例えば、GM-CSFによる動員)及び条件付きレジメンを用いて、特に療法後のある規定された時間枠の間、特定の細胞型の再増殖、再循環、再生及び/または増殖にとって有利に働く条件を対象に作り出すことができる。例示的な細胞型としては、T細胞、B細胞、樹状細胞、及び免疫系の他の細胞が挙げられる。
【0263】
本発明のペプチドを発現するためのT細胞の遺伝子改変の前後を問わず、一般に、例えば、米国特許第6,352,694号;6,534,055号;6,905,680号;6,692,964号;5,858,358号;6,887,466号;6,905,681号;7,144,575号;7,067,318号;7,172,869号;7,232,566号;7,175,843号;5,883,223号;6,905,874号;6,797,514号;6,867,041号;及び米国特許出願公開番号20060121005に記載される方法を使用して、T細胞を活性化して増殖させることができる。
【0264】
一般に、本発明のT細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤と、T細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドとがそこに結合された表面と接触することによって増大される。特に、T細胞集団は、本明細書に記載されるように、例えば、表面上に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片、または抗CD2抗体との接触によって、またはカルシウムイオノフォアを伴うプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)との接触などによって刺激され得る。T細胞の表面上の補助分子の共刺激には、補助分子と結合するリガンドが使用される。例えば、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、T細胞の集団を抗CD3抗体及び抗CD28抗体と接触させることができる。CD4+ T細胞またはCD8+ T細胞のいずれかの増殖を刺激するには、抗CD3抗体及び抗CD28抗体。抗CD28抗体の例としては、9.3、B-T3、XR-CD28(Diaclone、Besancon,France)が挙げられ、当技術分野で一般的に知られている他の方法と同様に使用することができる(Berg et al.,Transplant Proc.30(8):3975-3977,1998;Haanen et al.,J.Exp.Med.190(9):13191328,1999;Garland et al.,J.Immunol Meth.227(1-2):53-63,1999)。
【0265】
ある特定の実施形態では、T細胞の一次刺激シグナル及び共刺激シグナルは、さまざまなプロトコールによって与えることができる。例えば、各シグナルを与える薬剤が、溶液中に存在していても、表面に結合してもよい。表面に結合する場合、薬剤は、同じ表面に結合しても(すなわち「シス」フォーメーション)、別の表面に結合してもよい(すなわち「トランス」フォーメーション)。あるいは、一方の薬剤が表面に結合し、他方の薬剤が溶液中に存在していてもよい。一実施形態では、共刺激シグナルを与える薬剤が細胞表面に結合し、一次活性化シグナルを与える薬剤が溶液中に存在するか、または表面に結合する。ある特定の実施形態では、両方の薬剤が溶液中に存在し得る。別の実施形態では、薬剤は可溶化形態であってもよく、さらにFc受容体を発現する細胞、または薬剤と結合する抗体もしくは他の結合剤などの表面と架橋されてもよい。この点に関して、本発明でのT細胞の活性化及び増殖に使用することが企図される人工抗原提示細胞(aAPC)については、例えば、米国特許出願公開番号20040101519号及び20060034810号を参照のこと。
【0266】
一実施形態では、2つの薬剤は、同じビーズ上、すなわち「シス」、または別々のビーズ、すなわち「トランス」のいずれかでビーズに固定化される。例として、一次活性化シグナルを与える薬剤は、抗CD3抗体またはその抗原結合断片であり、共刺激シグナルを与える薬剤は、抗CD28抗体またはその抗原結合断片であり、さらに両方の薬剤が等分子量で同じビーズに共固定化される。一実施形態では、CD4+ T細胞増殖及びT細胞増殖には、ビーズに結合する各抗体が1:1の比で使用される。本発明のある特定の態様では、ビーズに結合する抗CD3:抗CD28抗体の比は、1:1の比を用いたときに観察される増殖と比較してT細胞増殖の増加が観察されるような比を使用する。特定の一実施形態では、1:1の比を用いたときに観察される増殖と比較して、約1倍~約3倍の増加が観察される。一実施形態では、ビーズに結合するCD3:CD28抗体の比は、100:1~1:100の範囲内、及びその間のすべての整数値である。本発明の一態様では、抗CD3抗体よりも多くの抗CD28抗体が粒子に結合する、すなわち、CD3:CD28の比が1未満である。本発明のある特定の実施形態では、ビーズに結合する抗CD3抗体に対する抗CD28抗体の比は2:1より大きい。特定の一実施形態では、ビーズと結合する抗体に1:100のCD3:CD28比を使用する。別の実施形態では、ビーズと結合する抗体に1:75のCD3:CD28比を使用する。さらなる実施形態では、ビーズと結合する抗体に1:50のCD3:CD28比を使用する。別の実施形態では、ビーズと結合する抗体に1:30のCD3:CD28比を使用する。好ましい一実施形態では、ビーズと結合する抗体に1:10のCD3:CD28比を使用する。別の実施形態では、ビーズに結合する抗体に1:3のCD3:CD28比を使用する。さらに別の実施形態では、ビーズに結合する抗体に3:1のCD3:CD28比を使用する。
【0267】
T細胞または他の標的細胞を刺激するには、粒子と細胞との比に、1:500~500:1及びその間の任意の整数値を使用することができる。当業者であれば容易に理解できるように、粒子と細胞との比は、標的細胞に対する粒子サイズに依存し得る。例えば、サイズの小さなビーズには数個の細胞しか結合できず、大きなビーズは多くの細胞と結合できると考えられる。ある特定の実施形態では、粒子と細胞との比は1:100~100:1の範囲、及びその間の整数値であり、さらなる実施形態では、比は1:9~9:1、及びその間の任意の整数値を含み、これを同じくT細胞を刺激するために用いることもできる。T細胞刺激を生じさせる、抗CD3及び抗CD28結合粒子とT細胞との比は、上記のように変化し得るが、ある特定の好ましい値としては、1:100、1:50、1:40、1:30、1:20、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、及び15:1が挙げられ、1つの好ましい比は少なくともT細胞あたりの粒子が1:1である。一実施形態では、1:1以下の粒子と細胞との比が使用される。特定の一実施形態では、粒子:細胞の好ましい比は1:5である。さらなる実施形態では、粒子と細胞との比は、刺激日に応じて変更することができる。例えば、一実施形態では、粒子と細胞との比は、最初の日に1:1~10:1であり、以降の最大10日間は、最終の比が1:1~1:10(追加日の細胞数に基づく)となるように、毎日または隔日で粒子を細胞に追加する。特定の一実施形態では、粒子と細胞との比は、刺激初日に1:1であり、刺激3日目及び5日目には1:5に調節する。別の実施形態では、最終比が1日目に1:1、刺激3日目及び5日目に1:5になるように粒子を毎日または隔日で追加する。別の実施形態では、粒子と細胞との比は、刺激初日に2:1であり、刺激3日目及び5日目には1:10に調節する。別の実施形態では、最終比が1日目に1:1、刺激3日目及び5日目に1:10になるように粒子を毎日または隔日で追加する。それ以外のさまざまな比が本発明での使用に適し得ることを当業者は理解されよう。具体的には、粒子サイズ、ならびに細胞のサイズ及び型に応じて比が異なる。
【0268】
本発明のさらなる実施形態では、T細胞などの細胞を薬剤被覆ビーズと組み合わせ、その後ビーズと細胞を分離し、次いで細胞を培養する。代替的実施形態では、培養前に、薬剤被覆ビーズと細胞とを分離せず、一緒に培養する。さらなる実施形態では、ビーズ及び細胞を最初に磁力などの力の付加によって濃縮することで、細胞表面マーカーのライゲーションを増加させ、それによって細胞刺激を誘導する。
【0269】
例として、細胞表面タンパク質は、抗CD3及び抗CD28が結合した常磁性ビーズ(3x28ビーズ)をT細胞と接触させることによって連結させることができる。一実施形態では、細胞(例えば、104~109 T細胞)及びビーズ(例えば、1:1比のDYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ)を緩衝液、好ましくはPBS(カルシウム及びマグネシウムなどの二価のカチオンを含まない)中で混合する。この場合も、当業者は、任意の細胞濃度を使用できることを容易に理解することができる。例えば、標的細胞がサンプル中で極めて希少であり、サンプルの0.01%しか含まれていない場合もあれば、サンプル全体(すなわち100%)が目的の標的細胞を含んでいる場合もある。したがって、いずれの細胞数も本発明が意図する範囲内である。ある特定の実施形態では、細胞と粒子の接触を最大にするために、粒子と細胞の混合量を大幅に減少させる(すなわち、細胞濃度を増加させる)ことが望ましい場合がある。例えば、一実施形態では、約20億細胞/mlの濃度を使用する。別の実施形態では、1億細胞/ml超を使用する。さらなる実施形態では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、または5000万細胞/mlの細胞濃度を使用する。さらに別の実施形態では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、または1億細胞/mlの細胞濃度を使用する。さらなる実施形態では、1億2500万または1億5000万細胞/mlの濃度を使用することができる。高濃度を使用すると、細胞収率、細胞活性化、及び細胞増殖の増加を生じさせることができる。さらに、高細胞濃度の使用により、CD28陰性T細胞などの、目的とする標的抗原の発現が弱い場合がある細胞をより効率的に捕捉することが可能になる。そのような細胞集団は治療的価値を有する可能性があり、ある特定の実施形態では取得が望ましいと予想される。例えば、高濃度の細胞の使用により、通常はCD28発現が弱いCD8+T細胞の効率的な選択が可能になる。
【0270】
本発明の一実施形態では、混合物は、数時間(約3時間)~約14日、またはその間の任意の1時間単位の整数値にわたり培養することができる。別の実施形態では、混合物を21日間培養してもよい。本発明の一実施形態では、ビーズ及びT細胞を約8日間一緒に培養する。別の実施形態では、ビーズ及びT細胞を約2~3日間一緒に培養する。また、T細胞の培養時間が60日以上となり得るように、数回の刺激が望ましい場合がある。T細胞培養に適した条件は、血清(例えば、ウシ胎児またはヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβ、及びTNF-αまたは当業者に既知である細胞増殖のための任意の他の添加剤を含む、増殖及び生存に必要な因子を含有し得る適切な培地(例えば、最小必須培地、またはRPMI培地1640、またはX-vivo 15(Lonza))を含む。細胞増殖のための他の添加剤としては、界面活性剤、プラスマネート、ならびにN-アセチル-システイン及び2-メルカプトエタノールなどの還元剤が挙げられるが、これらに限定されない。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、及びビタミンが添加されており、無血清であるか、または適切な量の血清(または血漿)もしくは一連の所定のホルモン、及び/またはT細胞の成長及び増殖に十分な量のサイトカイン(複数可)が補充されている、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-MEM、F-12、X-Vivo 15、及びX-Vivo 20、Optimizerを含み得る。抗生物質、例えば、ペニシリン及びストレプトマイシンは、実験培養液にのみ含まれ、対象への注入を目的とする細胞の培養液には含まれない。標的細胞は、増殖の補助に必要な条件下、例えば、適切な温度(例えば、37℃)及び雰囲気(例えば、空気+5%CO2)下に維持する。
【0271】
負荷された刺激時間がさまざまであるT細胞は、異なる特徴を示し得る。例えば、通常の血液またはアフェレーシス末梢血単核細胞産物は、細胞傷害性またはサプレッサーT細胞集団(TC、CD8+)よりも多くヘルパーT細胞集団(TH、CD4+)を有する。CD3及びCD28受容体を刺激することによるT細胞のex vivoでの増殖は、約8~9日目以前には、主としてTH細胞からなるT細胞の集団を産生するが、約8~9日目以後、T細胞の集団は、TC細胞の集団を次第に多く含むようになる。したがって、治療の目的に応じて、主としてTH細胞を含むT細胞集団を対象に注入することが有利な場合がある。同様に、TC細胞の抗原特異的サブセットが単離されている場合、このサブセットをそれ以上に増殖させることが有益な場合がある。
【0272】
さらに、CD4及びCD8マーカーに加えて、他の表現型マーカーも、細胞の増殖過程で有意に、ただし大部分において再現性を伴って変動する。したがって、そのような再現性により、特定の目的に応じて活性化T細胞産物を調整することが可能になる。
【0273】
足場
本発明は、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせを含む足場または基材組成物を提供する。例えば、一実施形態では、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせが足場内部に存在する。別の実施形態では、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせが足場の表面に使用される。本発明の足場は、当技術分野で既知であるいかなる種類のものであってもよい。このような足場の非限定的な例としては、ヒドロゲル、エレクトロスピニング足場、発泡体、メッシュ、シート、パッチ、及びスポンジが挙げられる。
【0274】
医薬組成物
本発明はまた、本明細書に記載される1つ以上の組成物を含む医薬組成物を提供する。製剤を、従来の賦形剤、すなわち、創傷または治療部位への投与に適した薬学的に許容される有機または無機担体物質と混合して用いてもよい。医薬組成物は滅菌されていてもよく、また望ましい場合は、補助剤、例えば滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に作用する塩、緩衝剤、着色剤、及び/または芳香族物質などと混合されていてもよい。製剤はまた、望ましい場合に他の活性剤、例えば、他の鎮痛剤と組み合わせてもよい。
【0275】
本発明の組成物の投与は、例えば、非経口によって、静脈内、腫瘍内、皮下、筋肉内、もしくは腹腔内注射によって、または注入によって、または他の許容される全身性の方法いずれによっても行うことができる。
【0276】
本明細書で使用される場合、「追加成分」には、賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒剤及び崩壊剤;結合剤;潤滑剤;着色剤;防腐剤;ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物;水性ビヒクル及び溶媒;油性ビヒクル及び溶媒;懸濁剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定化剤;ならびに薬学的に許容されるポリマー材料または疎水性材料のうち1つ以上を含むが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物に含んでもよい他の「追加成分」は、当技術分野において既知であり、例えば、Genaro,ed.(1985,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PA)に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0277】
本発明の組成物は、組成物の総重量の約0.005%~2.0%の防腐剤を含んでもよい。防腐剤は、環境中の汚染物質に晒された場合に腐敗を防ぐために使用される。本発明による有用な防腐剤の例としては、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン、イミド尿素、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい防腐剤は、約0.5%~2.0%のベンジルアルコールと0.05%~0.5%のソルビン酸の組み合わせである。
【0278】
一実施形態では、組成物は、組成物の1つ以上の成分の分解を阻害する抗酸化剤及びキレート剤を含む。いくつかの化合物にとって好ましい抗酸化剤は、好ましくは組成物の総重量の約0.01重量%~0.3重量%の範囲内のBHT、BHA、アルファ-トコフェロール、及びアスコルビン酸、より好ましくは組成物の総重量の0.03重量%~0.1重量%の範囲内のBHTである。好ましくは、キレート剤は、組成物の総重量の0.01重量%~0.5重量%の量で存在する。特に好ましいキレート剤は、組成物の総重量の約0.01重量%~0.20重量%の重量範囲内、より好ましくは組成物の総重量の0.02重量%~0.10重量%の範囲内のエデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びクエン酸である。キレート剤は、製剤の貯蔵寿命に有害であり得る組成物中の金属イオンをキレート化するのに有用である。BHT及びエデト酸二ナトリウムは、いくつかの化合物それぞれに対して特に好ましい抗酸化剤及びキレート剤であるが、当業者に既知であれば、他の適切かつ同等の抗酸化剤及びキレート剤を代わりに使用してもよい。
【0279】
従来の方法を使用して液体懸濁液を調製し、水性または油性ビヒクル中の本発明のペプチドまたは他の組成物の懸濁液を得ることができる。水性ビヒクルとしては、例えば、水及び等張生理食塩水が挙げられる。油性ビヒクルとしては、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油、分留植物油、及び流動パラフィンなどの鉱物油が挙げられる。液体懸濁液はさらに、1つ以上の追加成分を含んでもよく、これには、懸濁化剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、防腐剤、緩衝剤、塩、香味剤、着色剤、及び甘味剤を含むが、これらに限定されない。油性懸濁液はさらに増粘剤を含んでもよい。既知の懸濁化剤としては、ソルビトールシロップ、水素化食用脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。既知の分散剤または湿潤剤としては、レシチンなどの天然型リン脂質、アルキレンオキシドの、脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、脂肪酸とヘキシトールから誘導される部分エステル、または脂肪酸とヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物(例えば、それぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)が挙げられるが、これらに限定されない。既知の乳化剤としては、レシチン及びアカシアが挙げられるが、これらに限定されない。既知の防腐剤としては、メチルヒドロキシベンゾエート、エチルヒドロキシベンゾエート、またはN-プロピル-パラ-ヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸、及びソルビン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0280】
治療適用
本発明は、それを必要とする対象での癌の治療または予防方法を提供する。この方法は、血液悪性腫瘍、固形腫瘍、原発腫瘍、または転移腫瘍を含む、いずれの癌の治療に使用してもよい。
【0281】
一実施形態では、方法は、対象を本発明の組成物と接触させることを含む。例えば、ある特定の実施形態では、方法は、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせを含む組成物と、対象を接触させることを含む。一実施形態では、方法は、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメイン及びT細胞結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせを含む組成物と、対象を接触させることを含む。
【0282】
本発明は、腫瘍細胞に存在するTACAへの結合を介して、腫瘍細胞に特異的に結合するTACA結合ドメインを含むペプチドの使用を提供する。ある特定の実施形態では、ペプチドは、T細胞へのT細胞結合ドメインの結合を介して、TACAを発現する腫瘍細胞にT細胞を動員するために使用される。したがって、本発明はまた、本明細書に記載される組成物を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物の標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激する方法を提供する。
【0283】
ある特定の実施形態では、方法は、TACA結合ドメインに結合するペプチド、TACA結合ドメインに結合するペプチドをコードする核酸分子、またはTACA結合ドメインに結合するペプチドを発現するように改変された細胞を含む組成物と、対象を接触させることを含む。例えば、一実施形態では、方法は、レクチン結合ドメインを含むペプチド、レクチン結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、またはレクチン結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞を含み、当該レクチン結合ドメインがTACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドに結合する組成物と、対象を接触させることを含む。
【0284】
一実施形態では、方法は、(1)TACA結合ドメインに結合するペプチド、TACA結合ドメインに結合するペプチドをコードする核酸分子、またはTACA結合ドメインに結合するペプチドを発現するように改変された細胞を含む組成物を投与することと、(2)TACA結合ドメイン、またはTACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子を含む組成物を投与することと、を含む。例えば、一実施形態では、方法は、TACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドを含む組成物を投与することと、レクチンまたはレクチン由来のペプチドに結合する二重特異性抗体を投与することと、を含む。一実施形態では、方法は、CARを発現するように遺伝子改変された細胞であって、当該CARが、レクチン結合ドメインを含む抗原結合部分を含む細胞を投与することと、TACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドを含む組成物を、TACAに結合するレクチンまたはレクチン由来のペプチドにCARが結合するように投与することと、を含む。場合によっては、TACA結合レクチン及びレクチン結合組成物(例えば、抗レクチンCARを発現するように遺伝子操作されたT細胞)を投与することが有利であり得る。第一に、この方法は、レクチンの半減期が遺伝子操作T細胞よりもはるかに短いため、T細胞応答の時間を制限することができる。遺伝子操作T細胞は、数年間残存する可能性があるが、レクチンが存在しなければ、T細胞は非活性であり、その結果、応答の持続性を制限することにより、固形癌を容易に標的化することが可能になる。
【0285】
一実施形態では、本発明は、本発明のペプチドを発現するようにT細胞を遺伝子改変し、その細胞をそれを必要とするレシピエントに注入するタイプの細胞療法を含む。ある特定の実施形態では、注入された細胞は、レシピエントの腫瘍細胞を殺傷することができる。抗体療法とは異なり、この改変細胞はin vivoで複製可能であるため、長期的に残存し、持続的な腫瘍制御をもたらすことができる。
【0286】
一実施形態では、本発明の改変T細胞は、in vivoで安定してT細胞を増殖させることができ、長時間にわたって持続することができる。別の実施形態では、本発明の改変T細胞は、特異的記憶T細胞へと進化し、再活性化されることで、何らかの付加的な腫瘍形成または増殖を阻害することができる。例えば、本発明の改変T細胞は、in vivoで安定してT細胞を増殖させ、血液及び骨髄中で長時間にわたり高レベルで残存し、特異的記憶T細胞を形成することができる。
【0287】
治療することができる癌には、血管新生性でないか、または実質的にまだ血管新生化されていない腫瘍、ならびに血管新生化腫瘍を含む。癌には、非固形腫瘍(血液悪性腫瘍など、例えば、白血病及びリンパ腫)を含む場合もあれば、固形腫瘍を含む場合もある。本発明のCARを用いて治療される癌の種類としては、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、ならびにある種の白血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性及び悪性腫瘍、ならびに例えば、肉腫、癌腫、及び黒色腫などの悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。成人腫瘍/癌及び小児腫瘍/癌も含まれる。
【0288】
血液癌とは、血液または骨髄の癌である。血液性(または造血性)癌としては、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(myelocytic leukemia)、急性骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、ならびに骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病)を含む白血病、赤血病、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性及び高悪性度形態)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、有毛細胞白血病、及び骨髄形成異常が挙げられる。
【0289】
固形腫瘍とは、通常は嚢胞または液体領域を含んでいない異常な組織塊である。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。固形腫瘍の各型は、腫瘍を形成する細胞の種類に応じて命名される(例えば、肉腫、癌腫、及びリンパ腫など)。肉腫及び癌腫などの固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸癌、リンパ系悪性腫瘍、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫の皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠及び混合性神経膠腫)、膠芽腫(多形性膠芽腫として知られる)星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫瘍、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、及び脳転移)が挙げられる。
【0290】
本発明の組成物は、単独で、または希釈剤及び/またはIL-2もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせて医薬組成物として投与してもよい。簡潔には、本発明の医薬組成物は、1つ以上の薬学的にまたは生理学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせた、本明細書に記載される組成物を含んでもよい。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);ならびに防腐剤を含んでもよい。
【0291】
本発明の医薬組成物は、治療(または予防)する疾患に適切な方法で投与することができる。投与の量及び頻度は、患者の病態、ならびに患者の疾患の種類及び重症度のような因子に応じて決定することになるが、適切な投与量を臨床試験によって決定してもよい。
【0292】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍阻害有効量」、または「治療量」が示されている場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染症または転移の程度、及び患者(対象)の病態に関する個体差を考慮して、医師が決定することができる。
【0293】
本組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、経口摂取、輸液、注入、または移植によるものを含む、任意の利便な方法で行ってよい。本明細書に記載される組成物は、患者に、皮下投与、皮内投与、腫瘍内投与、リンパ節内(intranodally)投与、髄内投与、筋肉内投与、静脈内(i.v.)注射投与、または腹腔内投与することができる。一実施形態では、本発明の組成物は、皮内または皮下注射によって患者に投与される。別の実施形態では、本発明の組成物は、i.v.注射によって投与される。ある特定の実施形態では、組成物は、腫瘍またはリンパ節に直接注射されるものである。
【0294】
ある特定の実施形態では、組成物は、任意の数の関連する治療法と併用して(例えば、治療前、治療と同時、または治療後)、患者に投与され、そのような治療法には、化学療法、放射線、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレート、及びFK506、抗体、CAM PATHなどの他の免疫除去剤、抗CD3抗体または他の抗体療法、シトキサン、フルダリビン(fludaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、マイコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、及び照射による治療を含むが、これらに限定されない。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンのいずれかを阻害するか(シクロスポリン及びFK506)、または増殖因子誘導性シグナル伝達にとって重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al.,Cell 66:807-815,1991;Henderson et al.,Immun.73:316-321,1991;Bierer et al.,Curr.Opin.Immun.5:763-773,1993)。さらなる実施形態では、本発明の組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体を使用するT細胞除去療法と併用して(例えば、治療前に、治療と同時に、または治療後に)患者に投与される。別の実施形態では、本発明の組成物は、CD20と反応する薬剤(例えばリツキサン)などのB細胞除去療法後に投与される。例えば、一実施形態では、対象は高用量の化学療法に続く、末梢血幹細胞移植による標準治療を受けることができる。ある特定の実施形態では、移植後に、対象は、本発明の増殖した免疫細胞の注入を受ける。追加の実施形態では、増殖した細胞は、術前または術後に投与される。
【0295】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、腫瘍または病変組織の外科的切除または減量術中に投与される。例えば、病変組織または腫瘍の外科的処置を受けている対象において、腫瘍をさらに治療するために、組成物をその部位に投与することができる。
【0296】
一実施形態では、方法は、TACA結合ドメインを含むペプチド、TACA結合ドメインを含むペプチドをコードする核酸分子、TACA結合ドメインを含むペプチドを発現するように改変された細胞、またはそれらの組み合わせを含む足場を対象に投与することを含む。
【0297】
本発明の組成物及び医薬組成物の投与に企図される対象には、ヒト及び他の霊長類、商業的意義のある哺乳動物、例えばヒト以外の霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、及びイヌを含む哺乳動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0298】
上記治療の患者に投与すべき投与量は、治療する病態及び治療のレシピエントの正確な性質に応じて異なる。ヒト投与の投与量の秤量は、当技術分野で許容される慣行に従って行うことができる。T細胞の投薬及び計画のための方法が論じられている(Ertl et al,2011,Cancer Res,71:3175-81;Junghans,2010,Journal of Translational Medicine,8:55)。
【実施例】
【0299】
本発明を、以下の実験的実施例を参照してさらに詳細に説明する。これら実施例は、例示のみを目的として提供するものであり、別段の指定のない限り、限定的であることを意図しない。したがって、本発明は、いかなる場合も以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に示す教示の結果として明らかにされる一部及びすべての変更を包含すると解釈されるべきである。
【0300】
さらなる説明がなくても、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な実施例を用いて、本発明を作成して利用し、請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであり、いかなる場合においても本開示のそれ以外の部分を限定するものと見なされるべきではない。
【0301】
実施例1:グリカン依存性T細胞動員因子(GlyTR)
細胞の悪性形質転換は、ほぼ例外なく細胞表面でのグリコシル化の異常な変化を伴う(Kim and Varki,1997,Glycoconj J,14:569-576)。実際に、細胞表面グリコシル化の変化が、あらゆる種類の実験的なヒト癌で観察されており(Hakomori,2002,PNAS USA,99:10231-10233)、これらの変化した糖構造は腫瘍関連糖鎖抗原(TACA)と呼ばれている(表1)。この腫瘍特異的な特性により、細胞表面のTACAは、多くの一般的な癌を標的とするモノクローナル抗体を産生するための優れた標的抗原となっている。しかしながら、数十年にわたる取り組みに反して、糖鎖抗原に対する抗体の作製が困難なため、TACAに対する高親和性を有する特異性抗体は未だ提供されていない。
【0302】
この問題に対処する方法の一つが、糖鎖を結合するタンパク質であるレクチンを利用することである。技術発展により、多数の異なる糖鎖部位に対して高度に特異的である何百ものさまざまな異なる糖鎖結合タンパク質が産生されている。さらに、植物及び動物のいずれに由来するレクチンも、数十年にわたり広く使用されており、その結合特性は十分に解明されている。
【0303】
本明細書では、T細胞及び/または他の癌殺傷細胞に結合する抗体ドメインに結合させた、レクチン由来の糖鎖結合ドメインからなるキメラタンパク質のクラスについて記載する。このキメラタンパク質のクラスを、本明細書ではグリカン依存性T細胞動員因子(GlyTR)と称する。GlyTRキメラタンパク質は、癌特異的糖鎖抗原を標的とし、T細胞を媒介して死滅に至らせるよう設計されている。新規GlyTR分子の例を表2に列挙する。
【0304】
GlyTR分子の有用性を実証するために、上皮癌及び造血細胞癌を含む、さまざまな癌細胞型で高頻度に過剰発現する糖鎖構造である、T細胞上のCD3及びβ1,6 GlcNAc分岐型Asn(N)結合グリカンを標的とするGlyTRを設計及び作製した。
【0305】
β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンは、複合体型N-グリカンのサブセットを成す三分岐及び四分岐型オリゴ糖である(
図1)。細胞のβ1,6GlcNAc分岐レベルの測定に、高特異的植物レクチンL-PHA(Phaseolus vulgaris、ロイコアグルチニン)が使用されている。β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンへのL-PHAの高特異的結合特性、及び二重特異性抗体の技術を利用するために、レクチンL-PHA及び抗CD3のscFv両方で構成される一本鎖ポリペプチド(L-PHAxCD3、
図2)を生成することにより、新規な二重特異性キメラタンパク質を作製した。
【0306】
フローサイトメトリー分析により、ゴルジ体の分岐阻害剤キフネンシンで細胞を前処理したとき、慢性骨髄性白血病細胞株K562への結合の完全な逆転が実証され、GlyTR L-PHAxCD3が、β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンに特異的に結合することを確認した(
図3)。また、CD3を発現するジャーカットT細胞をキフネンシンで処理し、β1,6GlcNAc分岐型N-グリカンへの結合を排除して分析することにより、CD3への結合を確認した(
図3)。
【0307】
抗体依存性の細胞媒介性細胞傷害(ADCC)アッセイにおいて、休止期のヒト末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として使用し、K562、B細胞リンパ腫(Raji)、多発性骨髄腫(RPMI 8226)、急性リンパ芽球性白血病(RS4;11)、乳腺癌(MCF7)、大腸腺癌(HT-29)、肝臓肝細胞癌(Hep G2)、及び子宮頸癌(HeLa)細胞に対して、GlyTR L-PHAxCD3がT細胞による殺傷を誘導する能力を試験した(
図4A~
図4J)。結果は、GlyTR L-PHAxCD3は用量依存的に癌細胞のT細胞による殺傷を誘導することを示している。重要な点として、β1,6GlcNAc分岐を低減するゴルジ体阻害剤キフネンシンで前処理された癌細胞の殺傷が、極度に抑制されたが(
図4B)、これは、GlyTR L-PHAxCD3により誘導される殺傷が糖鎖抗原の存在に依存することを示している。さらに、オフターゲット(非癌性)PBMCの殺傷は極めて低く、癌に対する特異性が実証された(
図4C)。
【0308】
要約すると、GlyTRキメラタンパク質は、新たなクラスの癌免疫療法用治療薬を開発する機会を与えるものであり、既存の技術に優る大きな利点を有する。GlyTRの考え方、及びさまざまなTACAに対して特異的であるさまざまなレクチンの利用可能性から見て、L-PHAを他のレクチンと置き換えることにより、多数のGlyTRを作製することができる。あるいは、他の免疫エフェクター細胞を動員することができる、レクチン及びscFvで構成されるキメラタンパク質を作製することができる。
【0309】
レクチンドメインの機能は変異によって改善することができる。例えば、糖鎖結合ドメインのE-PHAをL-PHAに交換すると、結合が約20~30倍増加し、GlyTR L-PHAxCD3をさらに改善できる(Kaneda et al.,2002,J Biol Chem,277:16928-16935)。GlyTR L-PHAxCD3は二量体になると思われ、これが問題を示す場合には、GlyTR L-PHAxCD3タンパク質において、二量体形成を媒介するL-PHAドメインの最初の5個のN末端アミノ酸を欠失させ、二量体化を防止することができる。最後に、二重特異性キメラタンパク質の生成に加えて、レクチンを癌のキメラ抗原受容体療法に利用することもできる(Barrett et al.,2014,Ann Rev Med,65:333-347)。
【0310】
実施例2:アミノ酸配列及びヌクレオチド配列
GlyTR L-PHAxCD3
リーダー配列-L-PHA-リンカー-抗CD3 scFv-Hisタグ
タンパク質配列:525aa
【表12】
(配列番号11)
【0311】
分子を単量化する変異型GlyTR L-PHAxCD3
リーダー配列-L-PHA
(Δ1-5)-リンカー-抗CD3 scFv-Hisタグ
タンパク質配列:520aa
【表13】
(配列番号12)
【0312】
結合親和性を増加させる変異型GlyTR L-PHAxCD3
リーダー配列-変異型L-PHA-リンカー-抗CD3 scFv-Hisタグ
タンパク質配列
【表14】
(配列番号13)
【0313】
分子を単量化し、結合親和性を増加させる変異型GlyTR L-PHAxCD3
リーダー配列-変異型L-PHA-リンカー-抗CD3 scFv-Hisタグ
タンパク質配列
【表15】
(配列番号14)
【0314】
Vicia villosaイソレクチンBxCD3 scFv(VVAbxCD3)
VVA-リンカー-CD3 scFV-Hisタグ
タンパク質配列
【表16】
(配列番号15)
【0315】
VVAbxCD3(VVAb
Δ1-5xCD3 scFV)
VVAb
Δ1-5-リンカー-CD3 scFV-Hisタグ
タンパク質配列
【表17】
(配列番号16)
【0316】
CD301xCD3 scFvの細胞外ドメイン(CD301
ECxCD3)
CD301
EC-リンカー-CD3 scFV-Hisタグ
タンパク質配列
【表18】
(配列番号17)
【0317】
GlyTR L-PHAxCD3
遺伝子配列:1604bp(293及びCHO両方によるコドン最適化)
EcoRI-Kozak配列-リーダー配列-L-PHA-リンカー-抗CD3 scFv-Hisタグ-XbaI
EcoRI及びXbaI配列に下線が引かれている。Kozak配列は太字である。
【表19】
(配列番号18)
【0318】
本明細書で引用された特許、特許出願、及び刊行物すべての開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。具体的な実施形態を参照しながら本発明を開示してきたが、本発明の真の趣旨及び範囲を逸脱することなく、本発明の他の実施形態及び変形例も当業者によって考案され得ることは明らかである。添付された特許請求の範囲は、そのようなすべての実施形態及び等価な変形例を含むことを意図している。
【配列表】