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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】脂肪酸エステル
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/32 20060101AFI20240228BHJP
   C10M 105/34 20060101ALI20240228BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20240228BHJP
   C10M 129/68 20060101ALI20240228BHJP
   C10M 129/70 20060101ALI20240228BHJP
   C10M 129/74 20060101ALI20240228BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240228BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240228BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240228BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240228BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240228BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20240228BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C10M105/32
C10M105/34
C10M105/38
C10M129/68
C10M129/70
C10M129/74
A61K8/37
A61Q19/00
C10N30:02
C10N30:06
C10N40:20 Z
C10N40:22
C10N40:24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023073661
(22)【出願日】2023-04-27
【審査請求日】2023-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522450831
【氏名又は名称】築野グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】福 和真
(72)【発明者】
【氏名】山根 陽夏
(72)【発明者】
【氏名】神足 悟史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 貴紘
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第7251850(JP,B2)
【文献】国際公開第2012/063794(WO,A1)
【文献】特開2022-161684(JP,A)
【文献】特開2022-035124(JP,A)
【文献】特表2021-523155(JP,A)
【文献】特開2019-194163(JP,A)
【文献】特開2019-120861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/00
C10M 105/00
C10M 129/00
A61K 8/00
A61Q 19/00
C10N 30/00
C10N 40/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステルを形成する混合脂肪酸が、下記式(1)で表される脂肪酸及び下記式(2)で表される脂肪酸を、式(1)で表される脂肪酸:式(2)で表される脂肪酸のモル比が、式(1)及び式(2)で表される脂肪酸全体を100とした場合に、65~85:15~35で含み、下記式(3)で表される脂肪酸を、混合脂肪酸全体を100モル%とした場合に0.01~1モル%含み、脂肪酸エステルを形成するアルコールが、脂肪族アルコールである、脂肪酸エステルの混合物。
【化1】
(1)
(式(1)中、j及びkは、j+k=13を満たす0~13の整数を示す。)
【化2】
(2)
(式(2)中、lは、式(2)の炭素数の合計が18を満たす8~13の整数を示し、
は、H又はCHを示す。
ただし、l個のRは同一又は異なり、l個中少なくとも2個のRがCHを示す。)
【化3】
(3)
(式(3)中、R、R、R、R、R及びRは、H、(a)又は(b)を示し、(a)及び(b)をそれぞれ1つずつ含む。)
【化4】
(a)
【化5】
(b)
(式(a)及び(b)中、m及びnは、式(3)の炭素数の合計が18、及びm+n≦9を満たす0~9の整数を示す。
ただし、R8及びR9は、H又はCHを示し、m個のR8は、同一又は異なり、n個のR9は、同一又は異なる。)
【請求項2】
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、1価アルコール、2価アルコール又は3価以上のアルコールを含む、請求項1記載の脂肪酸エステルの混合物。
【請求項3】
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、(1)グリセリン又はポリグリセリン、(2)ネオペンチルポリオール又は(3)糖アルコールを含む、請求項1又は2記載の脂肪酸エステルの混合物。
【請求項4】
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、脂肪族モノオール、脂肪族ジオール、アルカンポリオール、アルカンポリオールの縮合物及び糖アルコールからなる群から選ばれるアルコールである、請求項1又は2記載の脂肪酸エステルの混合物。
【請求項5】
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、アルカノール、アルカンジオール、ポリアルキレングリコール、アルカントリオール、アルカンテトラオール、アルカンテトラオールの縮合物及び糖アルコールからなる群から選ばれるアルコールである、請求項1又は2記載の脂肪族エステルの混合物。
【請求項6】
流動点が20℃以下である、請求項1又は2記載の脂肪酸エステルの混合物。
【請求項7】
請求項1記載の脂肪酸エステルの混合物を含む組成物。
【請求項8】
請求項1又は記載の脂肪酸エステルの混合物又は組成物を含む、潤滑油用組成物。
【請求項9】
請求項1又は記載の脂肪酸エステルの混合物又は組成物を含む、化粧品用組成物。
【請求項10】
請求項1又は記載の脂肪酸エステルの混合物又は組成物を含む、樹脂用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸エステル等に関する。
【背景技術】
【0002】
イソステアリン酸エステル等の分岐脂肪酸エステルは、潤滑油等の種々の用途に使用されている。
例えば、特許文献1には、多分岐脂肪酸又はそのエステルを高含有量で含み、環状化合物を特定割合で含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2021-523155号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】渡嘉敷 通秀「エステル系合成潤滑油」、燃料協会誌、1974、第53巻、第562号、p91-98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な脂肪酸エステル等を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、優れた低温流動性を有する脂肪酸エステルを提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、低粘度性を有する脂肪酸エステルを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、良好な耐熱性を有する脂肪酸エステルを提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、良好な潤滑性を有する潤滑油用組成物を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、良好な保存安定性を有する脂肪酸エステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々の分岐脂肪酸エステルの中でも、特定の構造の脂肪酸(単分岐脂肪酸)を高割合で含む[さらには、特定の構造の脂肪酸(多分岐脂肪酸及び芳香族脂肪酸)を特定割合で含む]混合脂肪酸を用いて脂肪酸エステルを形成することにより、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうること等を見出し、さらに鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0012】
一般的に、脂肪酸エステルを形成する脂肪酸中の分岐率が低い(単分岐脂肪酸の割合が高い)ほど、脂肪酸エステルの流動点は高くなると考えられている中、本願発明では流動点を効率よく低くしうることは極めて予想外であった。
【0013】
なお、本発明者らは、特許文献1に記載の組成物では、動粘度が高く、粘度指数が低くなる場合があるのに対し、本願発明では、動粘度を低くしうること、粘度指数を高くしうること等も見出した。
【0014】
本発明は、以下の脂肪酸エステル等に関する。
[1]
脂肪酸エステルを形成する混合脂肪酸が、下記式(1)で表される脂肪酸及び下記式(2)で表される脂肪酸を、式(1)で表される脂肪酸:式(2)で表される脂肪酸のモル比が65~85:15~35で含み、下記式(3)で表される脂肪酸を0.01~1モル%含む、脂肪酸エステル。
【0015】
【化1】
(1)
(式(1)中、j及びkは、j+k=13を満たす0~13の整数を示す。)
【0016】
【化2】
(2)
(式(2)中、lは、式(2)の炭素数の合計が18を満たす8~13の整数を示し、
は、H又はCHを示す。
ただし、l個のRは同一又は異なり、l個中少なくとも2個のRがCHを示す。)
【0017】
【化3】
(3)
(式(3)中、R、R、R、R、R及びRは、H、(a)又は(b)を示し、(a)及び(b)をそれぞれ1つずつ含む。)
【0018】
【化4】
(a)
【0019】
【化5】
(b)
(式(a)及び(b)中、m及びnは、式(3)の炭素数の合計が18、及びm+n≦9を満たす0~9の整数を示す。
ただし、R8及びR9は、H又はCHを示し、m個のR8は、同一又は異なり、n個のR9は、同一又は異なる。)
[2]
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、脂肪族アルコールを含む、[1]記載の脂肪酸エステル。
[3]
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、1価アルコール、2価アルコール又は3価以上のアルコールを含む、[1]又は[2]記載の脂肪酸エステル。
[4]
脂肪酸エステルを形成するアルコールが、(1)グリセリン又はポリグリセリン、(2)ネオペンチルポリオール又は(3)糖アルコールを含む、[1]~[3]のいずれか記載の脂肪酸エステル。
[5]
流動点が20℃以下である、[1]~[4]のいずれか記載の脂肪酸エステル。
[6]
[1]~[5]のいずれか記載の脂肪酸エステルを含む組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれか記載の脂肪酸エステル又は組成物を含む、潤滑油用組成物。
[8]
[1]~[6]のいずれか記載の脂肪酸エステル又は組成物を含む、化粧品用組成物。
[9]
[1]~[6]のいずれか記載の脂肪酸エステル又は組成物を含む、樹脂用組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、新規な脂肪酸エステルを提供できる。
このような脂肪酸エステルは、流動点を効率よく低くしうる。このような脂肪酸エステルは、潤滑油等に好適に使用しうる。
【0021】
本発明の一態様の脂肪酸エステルでは、動粘度を低くしうる。また、このような脂肪酸エステルでは、脂肪酸エステルの粘度指数を高くしうる。よって、このような脂肪酸エステルは、潤滑油等に好適に使用しうる。
【0022】
本発明の一態様の脂肪酸エステルは、良好な耐熱性を奏しうる。
【0023】
本発明の一態様の脂肪酸エステルは、良好な潤滑性を奏しうる。
【0024】
本発明の一態様の脂肪酸エステルは、良好な保存安定性を奏しうる。
【0025】
本発明の一態様の脂肪酸エステルは、化粧品に配合した際に優れた使用感を得られる。
【0026】
特許文献1より、潤滑油用途で使用される脂肪酸エステルの流動点は低いほど良いとされる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[脂肪酸エステル]
本発明の脂肪酸エステルは、通常、脂肪酸とアルコールとのエステルである。
【0028】
脂肪酸
脂肪酸エステルを形成する脂肪酸は、混合脂肪酸であってよい。
混合脂肪酸は、通常、特定の脂肪酸(1)、脂肪酸(2)及び脂肪酸(3)を含む。
【0029】
脂肪酸(1)は、例えば、下記式(1)で表される脂肪酸であってよい。
【0030】
【化6】
(1)
(式(1)中、j及びkは、j+k=13を満たす0~13の整数を示す。)
【0031】
なお、式(1)で表される脂肪酸は、単分岐イソステアリン酸ということができる。
【0032】
脂肪酸(1)は、後述の実施例に記載の測定条件のガスクロマトグラフィー測定において、保持時間が5.8~6.4分の範囲のピークに対応していてもよい。
【0033】
なお、ガスクロマトグラフィーの測定方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
【0034】
脂肪酸(2)は、例えば、下記式(2)で表される脂肪酸であってよい。
【0035】
【化7】
(2)
(式(2)中、lは、式(2)の炭素数の合計が18を満たす8~13の整数を示し、
は、H又はCHを示す。
ただし、l個のRは同一又は異なり、l個中少なくとも2個のRがCHを示す。)
【0036】
なお、式(2)で表される脂肪酸は、多分岐イソステアリン酸ということができる。
【0037】
脂肪酸(2)は、後述の実施例に記載の測定条件のガスクロマトグラフィー測定において、保持時間が4.7~5.8分の範囲のピークに対応していてもよい。
【0038】
脂肪酸(3)は、例えば、下記式(3)で表される脂肪酸であってよい。
【0039】
【化8】
(3)
(式(3)中、R、R、R、R、R及びRは、H、(a)又は(b)を示し、(a)及び(b)をそれぞれ1つずつ含む。)
【0040】
【化9】
(a)
【0041】
【化10】
(b)
(式(a)及び(b)中、m及びnは、式(3)の炭素数の合計が18、及びm+n≦9を満たす0~9の整数を示す。
ただし、R8及びR9は、H又はCHを示し、m個のR8は、同一又は異なり、n個のR9は、同一又は異なる。)
【0042】
脂肪酸(3)は、例えば、H-NMR測定やMS測定によって確認することができる。
H-NMRおよびMSの測定方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用してよい。
【0043】
混合脂肪酸における脂肪酸(1)の含有量は、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、例えば、65モル%以上、好ましくは70モル%以上程度であってよく、例えば、85モル%以下、好ましくは80モル%以下程度であってよい。
【0044】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、65~85モル%等)。
【0045】
混合脂肪酸における脂肪酸(1)の含有量は、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、例えば、65重量%以上、好ましくは70重量%以上程度であってよく、例えば、85重量%以下、好ましくは80重量%以下程度であってよい。
【0046】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、65~85重量%等)。
【0047】
混合脂肪酸における脂肪酸(2)の含有量は、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、例えば、15モル%以上、好ましくは20モル%以上程度であってよく、例えば、35モル%以下、好ましくは30モル%以下程度であってよい。
【0048】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、15~35モル%等)。
【0049】
混合脂肪酸における脂肪酸(2)の含有量は、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、例えば、15重量%以上、好ましくは20重量%以上程度であってよく、例えば、35重量%以下、好ましくは30重量%以下程度であってよい。
【0050】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、15~35重量%等)。
【0051】
混合脂肪酸における脂肪酸(3)の割合は、特に限定されないが、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、0.01モル%から1モル%が好ましく、例えば、0.9モル%以下、好ましくは0.8モル%以下、更に好ましくは、0.7モル%以下程度であってもよく、例えば、0.01モル%以上、0.02モル%以上、0.03モル%以上程度であってもよい。
【0052】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、0.01~1モル%、0.5~0.8モル%等)。
【0053】
混合脂肪酸における脂肪酸(3)の割合は、特に限定されないが、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、0.01重量%から1重量%が好ましく、例えば、0.9重量%以下、好ましくは0.8重量%以下、更に好ましくは、0.7重量%以下程度であってもよく、例えば、0.01重量%以上、0.02重量%以上、0.03重量%以上程度であってもよい。
【0054】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、0.01~1重量%、0.5~0.8重量%等)。
【0055】
混合脂肪酸において、脂肪酸(1)の含有量:脂肪酸(2)の含有量のモル比は、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、例えば、65~85:15~35、好ましくは70~85:15~30であってもよい。
【0056】
混合脂肪酸中の脂肪酸(1)の含有量、脂肪酸(2)の含有量、並びに、これら含有量のモル比の測定方法は、特に限定されないが、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて測定してもよい。ガスクロマトグラフィーの測定方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。なお、これらの含有量やモル比の測定においては、混合脂肪酸中に脂肪酸(3)、もしくは後述の他の脂肪酸が含まれていてもよい。
【0057】
なお、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した混合脂肪酸中の脂肪酸(1)の含有量(割合)及び脂肪酸(2)の含有量(割合)は、通常、混合脂肪酸中の各脂肪酸のモル%及び重量%と同一(又は、対応)している。
【0058】
混合脂肪酸中の脂肪酸(3)の割合は、H-NMR測定によって算出してもよい。例えば、後述の実施例に記載のように、式(1)~(3)及び後述の他の脂肪酸のα位の水素の積分値と、式(3)のR、R、R、R、R及びR中の式(a)及び式(b)を除く水素(すなわち、芳香族領域の水素)の積分値から算出してもよい。
【0059】
混合脂肪酸は、脂肪酸(1)~(3)以外の他の脂肪酸を含んでいてもよい。
他の脂肪酸は、通常、脂肪酸(1)~(3)の製造に由来する成分である。
【0060】
他の脂肪酸としては、例えば、非芳香族脂肪酸(芳香族基を有しない脂肪酸)(例えば、脂肪酸(1)及び脂肪酸(2)以外のC8-24脂肪酸、C16-18直鎖脂肪酸)等が挙げられる。
他の脂肪酸は、1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0061】
混合脂肪酸が他の脂肪酸を含有する場合も、ほとんど含有していないことが好ましい。混合脂肪酸における他の脂肪酸の割合は、例えば、3モル%以下(例えば、2モル%以下、1モル%以下等)であってもよく、例えば、3重量%以下(例えば、2重量%以下、1重量%以下等)であってもよい。
【0062】
混合脂肪酸としては、合成(製造)したものを使用してもよく、市販品を使用してもよく、市販品を混合したものを使用してもよい。また、混合脂肪酸は、蒸留したものを使用してもよい。なお、蒸留方法は、特に限定されず、公知の方法を使用してもよい。蒸留を行う場合、初留をカットしたものを使用してもよい。蒸留を行うことによって、式(1)の脂肪酸の含有割合が高い混合脂肪酸や、式(3)の脂肪酸の含有割合が低い混合脂肪酸を効率よく得やすい。
【0063】
混合脂肪酸を合成する場合は、例えば、オレイン酸を含む混合脂肪酸を原料に、触媒としてフェリエライトを使用して異性化反応を行い、その後、水素化触媒存在下での水添反応を行い、水添後、融点差を利用して固体酸と液体酸を分別し、最後に、液体酸を蒸留して、イソステアリン酸を含む混合脂肪酸を得ることができる。
【0064】
混合脂肪酸中は、シクロペンタノン類(例えば、アルキルシクロペンタノン)、ラクトン等を含有していないことが好ましい。
混合脂肪酸がシクロペンタノン類を含有する場合、混合脂肪酸中のシクロペンタノン類の割合は、0.1モル%以下、0.1重量%以下等が好ましい。
混合脂肪酸がラクトンを含有する場合、混合脂肪酸中のラクトンの割合は、1.0モル%以下、1.0重量%以下等が好ましい。
【0065】
アルコール
脂肪酸エステルを形成するアルコール(又は、脂肪酸エステルの原料となるアルコール)としては、例えば、脂肪族アルコール(脂環式アルコールを含む)、非脂肪族アルコール(例えば、芳香族アルコール等)が挙げられるが、特に脂肪族アルコールであってもよい。
【0066】
アルコールは、モノオール(一価アルコール)であってもよく、ポリオール(多価アルコール)であってもよい。なお、アルコールは、第1級、第2級、第3級、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)、環状などのいずれであってもよく、飽和、不飽和のいずれであってもよい(特に、飽和であってもよい)。
【0067】
代表的なアルコールとしては、例えば、脂肪族モノオール[例えば、アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、2-エチルヘキサノール等)等]、芳香族モノオール(例えば、フェノール等)等の1価のアルコール;脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)等]等の2価のアルコール;アルカンポリオール[例えば、アルカントリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等)、アルカンテトラオール(例えば、ペンタエリスリトール等)等]、アルカンポリオールの縮合物[ポリアルカントリ乃至ヘキサオール(例えば、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等)、糖アルコール(例えば、グルコース、マルトース、ソルビトール、マルチトール、トレハロース等)等]の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0068】
アルコールの分子量は、モノオールかポリオールか、縮合物であるか否か等にもよるが、例えば、1000以下、500以下、400以下、300以下(例えば、260以下)等であってもよい。
【0069】
アルコールは、1種であってもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0070】
上記アルコールの中でも、脂肪酸エステルの流動点を効率よく低くしうる、動粘度を効率よく低くしうる、粘度指数を効率よく高くしうる等の観点から、脂肪族アルコールを好適に使用してもよく、1価アルコール、2価アルコール、3価以上のアルコール等を好適に使用してもよい。
アルコールとしては、例えば、アルカノール(例えば、メタノール、2-エチルヘキサノール等)、ジオール類(例えば、1,3-ブチレングリコール等)、グリセリン類(例えば、グリセリン、ポリグリセリン等)、ネオペンチルポリオール類(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等)、ソルビタン等を好適に使用してもよい。
【0071】
脂肪酸エステル
脂肪酸エステルは、全エステルであってもよく、部分エステルであってもよい。
【0072】
脂肪酸エステルのエステル化率は、アルコールの種類等にもより、特に限定されないが、例えば、全エステルの場合は、例えば、95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上であってもよい。
脂肪酸エステルのエステル化率は、部分エステルの場合は、特に限定されないが、例えば、50%以上(例えば、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上)であってもよく、50%以下(例えば、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下)であってもよい。
【0073】
なお、エステル化率の測定方法としては、特に限定されず、公知の方法(例えば、後述の実施例に記載の方法)を用いてよい。
【0074】
脂肪酸エステルにおいて、上記混合脂肪酸由来のユニット中の式(1)、式(2)及び式(3)の各脂肪酸由来のユニットの割合は、エステル化率によらず、通常、エステル化前の混合脂肪酸中の各脂肪酸の割合を反映している。
【0075】
脂肪酸エステルの合成方法は、上記脂肪酸(混合脂肪酸)とアルコールを用いてエステル化する方法であれば、特に限定されず、公知のエステル化方法を使用することができる。例えば、混合脂肪酸とアルコールとを酸触媒下で縮合させる方法によってエステル化してもよい。なお、エステル化の際の温度や時間は、特に限定されない。
【0076】
脂肪酸エステルに要求される物性に応じて、混合脂肪酸以外の脂肪酸を混合してエステル化しても良い。混合脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、C4-25飽和脂肪酸(例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ベヘン酸等)、C4-25不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)、及びこれらの混合物等を使用しても良い。なお、当該混合脂肪酸以外の脂肪酸は、通常、上述した混合脂肪酸中の他の脂肪酸とは異なる。
【0077】
混合脂肪酸以外の脂肪酸を使用する場合、当該脂肪酸の割合は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。例えば、混合脂肪酸全体に対して、50モル%以下(例えば、40モル%以下等)であってもよく、50重量%以下(例えば、40重量%以下等)であってもよい。
【0078】
脂肪酸エステルは、脂肪酸エステル以外の他の未反応成分(例えば、アルコール、脂肪酸等の未反応物等)を一部含有していてもよく、このような場合も、脂肪酸エステルの範疇に含まれる。
【0079】
他の未反応成分は、1種又は2種以上でもよい。
【0080】
脂肪酸エステルの流動点は、アルコールの種類等にもよるが、常温で使用できる等の観点から、例えば、20℃以下(例えば、15℃以下)、好ましくは10℃以下(例えば、8℃以下)、より好ましくは5℃以下(例えば、3℃以下)程度であってもよく、例えば、―100℃以上(例えば、―90℃以上、―80℃以上、―70℃以上、―60℃以上、―50℃以上)程度であってもよい。
【0081】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、―50~10℃等)。
【0082】
流動点の測定方法は、特に限定されず、慣用の方法を使用してもよい。具体的には、後述の方法(自動流動点・曇り点試験器 mpc-6形(田中科学機器製作株式会社製)を用いた方法)にて流動点を測定してもよい。
【0083】
脂肪酸エステルの40℃における動粘度は、アルコールの種類等にもよるが、潤滑油等の用途に好適に使用できる等の観点から、例えば、1500mm/s以下(例えば、1300mm/s以下)、好ましくは1000mm/s以下(例えば、800mm/s以下、500mm/s以下)程度であってもよく、例えば、5mm/s以上、10mm/s以上程度であってもよい。
【0084】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、5~1500mm/s等)。
【0085】
脂肪酸エステルの粘度指数は、潤滑油等の用途に好適に使用できる等の観点から、例えば、20以上(例えば、30以上)、好ましくは40以上(例えば、50以上、70以上、100以上)程度であってもよく、例えば、500以下、400以下等であってもよい。
【0086】
なお、これらの範囲(上限値と下限値)を適宜組み合わせて範囲を選択してもよい(例えば、20~500等)。
【0087】
動粘度及び粘度指数の測定及び算出方法は、特に限定されず、慣用の方法を使用してもよく、具体的には、後述の方法(JIS K 2283)にて測定してもよい。
【0088】
[脂肪酸エステルの用途等]
本発明の脂肪酸エステルは、種々の用途[例えば、潤滑油、金属加工油、圧延油、金属切削油、化粧品(用添加剤)、樹脂用組成物等]に使用できる。脂肪酸エステルに、何らかの添加剤を加えて組成物としてもよい。
化粧品用途としては、特に限定されないが、例えば、パーソナルケア用途の剤(例えば、UV遮蔽剤、抗老化剤、保湿剤等)を含む組成物に添加してもよい。
樹脂用組成物用途において、樹脂としては、特に限定されないが、例えば、耐熱性樹脂(例えば、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂;エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂等)、感光性樹脂(例えば、エポキシ系樹脂、ポリシロキサン系樹脂等をベースとする感光性樹脂等)、可塑剤(例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機系可塑剤;有機リン酸系、有機亜リン酸系等のリン酸系可塑剤等)等であってもよい。
【実施例
【0089】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0090】
[ガスクロマトグラフィー測定]
ガスクロマトグラフィー分析の前処理として、混合脂肪酸を下記方法によりメチル化を行った。
・メチル化方法:混合脂肪酸0.1mLに、メチル化試薬である三ふっ化ほう素メタノール錯体メタノール溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)5mLを加え、100℃のサンドバスで30分加熱した。これに飽和食塩水50mLとヘキサン3mLを加えて攪拌し、上層のヘキサン溶液を抜き出して、これをメチル化した混合脂肪酸のヘキサン溶液とした。
上記処理を行った混合脂肪酸中のメチル化した式(1)と式(2)のガスクロマトグラフは、以下の条件で測定した。
・分析装置:株式会社島津製作所製 GC2014
・分析カラム:ジーエルサイエンス株式会社製キャピラリーカラム「InertCap 1HT」
・カラムの長さ:5m
・カラム内径:0.53mm
・昇温条件:100℃で1分保持した後、20℃/分で350℃まで昇温し20分保持。
・試料導入及び温度:スプリット試料導入法、380℃
・スプリットのガス流量及びキャリアガス:15.1mL/分、ヘリウム
・カラムのガス流量及びキャリアガス:2.5mL/分、ヘリウム
・検出器及び温度:水素炎イオン化検出器(FID)、380℃
・注入試料:1.0μL(メチル化した混合脂肪酸のヘキサン溶液)
【0091】
H-NMR測定]
混合脂肪酸中の式(3)のH-NMRスペクトルは、以下の条件で測定した。
・NMR装置:ブルカー・バイオスピン製
・分光計:ブルカー・バイオスピン製 AVANCE III HD 400
・データポイント数:64k
・ダミースキャン回数:2回
・観測核:
・積算回数:16回
・観測周波数:400.26MHz
・NMR試料管:5mmφ
・サンプル量:5~20mg
・測定溶媒:重クロロホルム
・重溶媒量:0.6mL
・測定温度:室温
式(1)~(3)及び他の脂肪酸のα位の水素の積分値を2としたときの、式(3)のR、R、R、R、R及びR中の4つの水素(すなわち、芳香族領域の水素)の積分値を算出し、当該算出値を4で割り、モル%に換算することによって、混合脂肪酸中の式(3)の脂肪酸の割合を算出した。例えば、芳香族領域の水素の前記算出値が4の場合、4/4=1(すなわち、混合脂肪酸中の式(3)の脂肪酸の割合は100モル%)である。
【0092】
[エステル化率]
本発明における脂肪酸エステルのエステル化率(%)とは、下記式により算出される値である。下記式中のエステル価は、JIS K 0070に基づいて算出される。
エステル化率(%)={エステル価/(エステル価+水酸基価)}×100
【0093】
[酸価]
JIS K 0070(中和滴定法)に従って測定した。
【0094】
[水酸基価]
JIS K 0070(中和滴定法)に従って測定した。
【0095】
[けん化価]
JIS K 0070(中和滴定法)に従って測定した。
【0096】
[流動点の測定方法]
自動流動点・曇り点試験器 mpc-6形(田中科学機器製作株式会社製)を用いて、取扱説明書に記載の方法に従って、各種脂肪酸エステル又は混合脂肪酸の流動点を測定し、評価を行った。尚、この測定方法は米国規格(ASTM D6749-02(2018) 石油製品の流動点(自動エア圧力法)のための標準試験方法)に従っており、また、日本工業規格(JIS K 2269:1987 原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に対応している測定方法である。具体的には、当該試験器の測定用セルに各種脂肪酸エステル組成物又は混合脂肪酸を標線まで入れ、45℃まで予備加熱した後、予期点+40℃までは4℃/分、それ以降は試験終了まで1℃/分の速度で冷却した。
【0097】
[動粘度]
JIS K 2283に従って、得られた脂肪酸エステル又は混合脂肪酸の動粘度を測定した。
【0098】
[粘度指数]
粘度指数は、JIS K 2283に従って測定された粘度指数を意味する。
【0099】
[耐熱性試験]
硼珪酸ガラス製で口内径φ21.5mm、胴径φ24mm、全長40mmのカップに脂肪酸エステル又は混合脂肪酸2gを投入し、220℃、24時間(実施例1及び比較例1は、110℃、24時間;参考例1~3は、150℃、24時間;実施例2及び比較例2は、180℃、24時間)の条件下で加熱試験を行った。加熱前後の脂肪酸エステル量又は混合脂肪酸量を測定した。加熱前の脂肪酸エステル量又は混合脂肪酸量に対する蒸発量を重量減少率として(%)を算出することにより、耐熱性を評価した。蒸発量が少ないほど、耐熱性が良好であることを意味する。
【0100】
[潤滑性試験]
ASTM D4172に従い、摩擦磨耗試験機(神鋼造機株式会社製)を使用し、脂肪酸エステルの耐摩耗性を評価した。ボールとして、径1/2インチ(SUJ2)を用い、荷重30kgf、回転速度1500rpm、温度50℃、試験時間30分の条件下でシェル四球摩耗試験での摩耗痕径(mm)を測定して評価した。本評価においては、摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0101】
[脂肪酸エステルの原料]
脂肪酸エステルの製造に用いた原料は下記の通りである。
【0102】
(アルコール)
メタノール;東京化成工業株式会社製試薬
2-エチルヘキサノール(2EHOH);東京化成工業株式会社製試薬
1,3-ブチレングリコール(1,3-BG);東京化成工業株式会社製試薬
グリセリン;東京化成工業株式会社製試薬
ネオペンチルグリコール(NPG);東京化成工業株式会社製試薬
トリメチロールプロパン(TMP);東京化成工業株式会社製試薬
ペンタエリスリトール(PE);Perstorp社製
ジペンタエリスリトール(DiPE);Perstorp社製
ソルビトール;商品名;D-ソルビトール;東京化成工業株式会社製試薬
【0103】
(脂肪酸)
脂肪酸は、下記に示すように調製を行った混合脂肪酸1~3を使用した。
【0104】
[混合脂肪酸1の調製]
オレイン酸(Evyap社製;オレイン酸含有率80%、リノール酸含有率11%)に触媒としてフェリエライトを使用して異性化反応を行った。その後、水素化触媒下で水添反応を行い、融点差を利用して固体酸、液体酸の分別を行った。最後に、得られた液体酸を蒸留して混合脂肪酸1を得た。
【0105】
[混合脂肪酸2の調製]
炭素数18の不飽和脂肪酸の重合により副生したモノマー酸を水素化触媒存在下での水添反応、融点差を利用した固体酸と液体酸の分別、最後に、得られた液体酸を蒸留して混合脂肪酸2を得た。
【0106】
[混合脂肪酸3の調製]
混合脂肪酸1を蒸留して初留をカットし、混合脂肪酸3を得た。
【0107】
なお、混合脂肪酸1~3の組成は下記表1の通りである。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1)
攪拌器、温度計、滴下ロート、導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を398g(1.40モル)及び触媒として、パラトルエンスルホン酸を総量に対し2.0重量%仕込み、120℃まで昇温した。そこへ、メタノール269g(8.40モル)を滴下ロートを用いて徐々に液中へ吹き込み、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了し、エステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和、水洗後、脱水した。さらに、得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.5重量%の活性白土とセライトを投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去することで脂肪酸エステルAを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.9%であった。
【0110】
(実施例2)
攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を426g(1.50モル)、2-エチルヘキサノール272g(2.09モル)、及び触媒として、パラトルエンスルホン酸を総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で200℃まで昇温した。200℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら230℃まで昇温し、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、230℃で過剰のアルコール分及び低沸点成分を留去した。得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.2重量%の活性白土とセライトを投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去して脂肪酸エステルBを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.9%であった。
【0111】
(実施例3)
攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を682g(2.40モル)、1,3-ブチレングリコール90g(1.00モル)、及び触媒として、パラトルエンスルホン酸を総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温した。170℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。水酸基価が5.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、エステル化粗物に対してそれぞれ0.2重量%の活性白土とセライトを投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去した。次いで、得られたエステル化濾過物の過剰の酸と低沸点成分を薄膜蒸留器により留去して、脂肪酸エステルCを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.7%であった。
【0112】
(実施例4)
攪拌器、温度計、脱水管-冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を284g(1.00モル)、グリセリン461g(5.00モル)を入れ、窒素雰囲気下で250℃まで昇温し、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。次いで、薄膜蒸留器により得られたエステル化粗物中の過剰のアルコールと低沸点成分を留去し、次いで薄膜蒸留器でモノグリセライドを留出させ、脂肪酸エステルDを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、34.1%であった。
【0113】
(実施例5)
攪拌器、温度計、脱水管-冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を569g(2.00モル)、グリセリン46g(0.50モル)を入れ、窒素雰囲気下で250℃まで昇温し、エステル化反応を行った。水酸基価が0.5mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。得られたエステル化粗物の過剰の酸と低沸点成分を薄膜蒸留器により留去して、トリグリセライドである脂肪酸エステルEを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.6%であった。
【0114】
(実施例6)
攪拌器、温度計、脱水管-冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を569g(2.00モル)、ネオペンチルグリコール85g(0.82モル)、及び触媒として、パラトルエンスルホン酸を総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水を除去しながら、エステル化反応を行った。水酸基価が5.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、エステル化粗物に対してそれぞれ0.5重量%の活性白土とセライトを投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去した。次いで、得られたエステル化濾過物の過剰の酸と低沸点成分を薄膜蒸留器により留去して、脂肪酸エステルFを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、98.9%であった。
【0115】
(実施例7)
ネオペンチルグリコールの代わりにトリメチロールプロパン74g(0.55モル)を使用した以外は、実施例6と同様の方法により、脂肪酸エステルGを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.6%であった。
【0116】
(実施例8)
ネオペンチルグリコールの代わりにペンタエリスリトール57g(0.42モル)を使用した以外は、実施例6と同様の方法により、脂肪酸エステルHを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、98.1%であった。
【0117】
(実施例9)
ネオペンチルグリコールの代わりにジペンタエリスリトール70g(0.28モル)を使用した以外は、実施例6と同様の方法により、脂肪酸エステルIを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、95.8%であった。
【0118】
(実施例10)
攪拌器、温度計、脱水管-冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸1を483g(1.70モル)、ソルビトール210g(1.15モル)、及び触媒として、25.5%苛性ソーダ水溶液を総量に対し0.5重量%、亜リン酸を総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温し、エステル化反応を行った。酸価が7.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、エステル化粗物に対して1.0重量%のセライトを投入し、120℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してセライトを除去することで、脂肪酸エステルJを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、41.7%であった。
【0119】
(実施例11)
混合脂肪酸として、混合脂肪酸1の代わりに、混合脂肪酸3を使用した以外は実施例8と同様の方法により、脂肪酸エステルKを得た。
なお、当該脂肪酸エステルのエステル化率は、99.1%であった。
【0120】
(比較例1~10)
混合脂肪酸1の代わりに混合脂肪酸2を使用した以外はそれぞれ実施例1~10と同様の方法により、脂肪酸エステルを得た。
【0121】
(参考例1~3)
参考例1、2及び3は、それぞれ、混合脂肪酸1、2及び3そのものについて測定した。
【0122】
【表2】
【0123】
表2が示すように、本発明の混合脂肪酸1を使用した実施例1~10及び混合脂肪酸3を使用した実施例11は、混合脂肪酸1及び3よりも単分岐構造が少なく、芳香族脂肪酸の割合が多い混合脂肪酸2を使用した比較例1~10と同等に流動点が低かった。
一般的に、分岐脂肪酸エステルについては、分岐構造が少ない(すなわち、単分岐構造が多い)方が、流動点が高くなりやすいと考えられる(例えば、非特許文献1参照)。しかし、実施例では単分岐構造が多いにもかかわらず比較例と同等の流動点となったことは、極めて予想外であった。
また、エステル化前の脂肪酸の流動点は、参考例1及び参考例3の方が参考例2より遥かに高いにもかかわらず、エステルでは、各アルコールについて実施例と比較例が同等の流動点となったことも、極めて予想外であった。
【0124】
【表3】
【0125】
表3が示すように、本発明の混合脂肪酸1を使用した実施例1~10および混合脂肪酸3を使用した実施例11では、耐熱性は、混合脂肪酸1及び3よりも単分岐構造が少なく、芳香族脂肪酸の割合が多い混合脂肪酸2を使用した比較例1~10と同等に良好であった。
【0126】
【表4】
【0127】
表4が示すように、実施例1~11では、比較例1~10と比較して、動粘度が低く、粘度指数が高い傾向となった。
【0128】
【表5】
【0129】
表5が示すように、本発明の混合脂肪酸1を使用した実施例1~10および混合脂肪酸3を使用した実施例11では、潤滑性も、混合脂肪酸1及び3よりも単分岐構造が少なく、芳香族脂肪酸の割合が多い混合脂肪酸2を使用した比較例1~10と同等に良好であった。
【0130】
(試験例1)
脂肪酸エステルHを用いて、下記表6に記載の配合により、乳液を調製した。なお、得られた乳液は白色であった。
【0131】
【表6】
【0132】
上記乳液を、40℃で2カ月間保管し、pHの経時変化を調べた。
なお、対照乳液としては、脂肪酸エステルHの代わりに比較例8の脂肪酸エステルを使用した以外は表6と同じ配合で調製したものを使用した。
表6の乳液のpHは、調製直後:4.91、上記保管1カ月後:4.72、上記保管2カ月後:4.68であり、大きく変動しなかった。
なお、対照乳液のpHは、調製直後:5.26、上記保管1カ月後:5.42、上記保管2カ月後:5.33であった。
また、表6の乳液は、40℃で2カ月間保管後に目視で観察したところ、成分の分離が見られなかった。
一方、対照乳液を40℃で2カ月間保管後に目視で観察したところ、容器の底に成分の分離が見られた。
このように、本発明の脂肪酸エステルを用いた乳液は、保存安定性が良好であった。
【0133】
(試験例2)
試験例1の乳液と対照乳液を、被験者6名のヒトの両腕の前腕(肘から手首の範囲)に約1gずつを塗布し、官能評価を行った。評価方法を下記に示す。
下記評価1~5について各人に1~5点で採点を行ってもらい、6名の平均値を算出した。評価1~4については5点に近いほど良好な結果であったことを表し、評価5については1点に近いほど良好な結果であったことを表す。
評価1:しっとり感
評価2:こく感
評価3:浸透感
評価4:伸び
評価5:べたつき
【0134】
【表7】
【0135】
表7が示すように、本発明の脂肪酸エステルを用いた乳液は、官能評価が良好であり、特に、伸びが良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明によれば、新規な脂肪酸エステルを提供できる。このような脂肪酸エステルは、種々の用途、例えば、潤滑油、化粧品、樹脂等に使用できる。
【要約】      (修正有)
【課題】新規な脂肪酸エステルを提供する。
【解決手段】脂肪酸エステルを形成する混合脂肪酸が、下記式(1)で表される脂肪酸及び下記式(2)で表される脂肪酸を、式(1):式(2)のモル比が65~85:15~35で含み、芳香族脂肪酸を0.01~1モル%含む、脂肪酸エステルとする。

(1)

(2)
【選択図】なし