(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】回転体の脱落を防止する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B60B 3/16 20060101AFI20240228BHJP
F16B 39/10 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B60B3/16 D
F16B39/10 L
(21)【出願番号】P 2023154214
(22)【出願日】2023-09-21
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2023116687
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1・公開日 令和5(2023)年3月17日・公開場所 公益社団法人北海道トラック協会 十勝地区トラック協会(北海道帯広市西19条北2丁目4番地)・公開者 有限会社水木産業 2・試験日 令和5(2023)年6月1日・試験場所 北海道中川郡本別町の公道・試験を行った者 有限会社水木産業
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522335848
【氏名又は名称】有限会社水木産業
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】水木 英雄
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-073101(JP,U)
【文献】特開2018-179104(JP,A)
【文献】実開平02-043513(JP,U)
【文献】実開昭56-120413(JP,U)
【文献】特許第7115713(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/221599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 3/16
F16B 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、回転体をハブに取り付ける構造において、回転するハブから回転体が脱落することを防止する装置であって、
複数のハブボルトの各々に螺着されたナットに装着され、ナットを挿通させたときにナットの側周の角部が噛み合う複数の溝を内周に有する開口が設けられた基部と、前記基部から延びる長さを有する延長部とを有する、複数の緩み防止部と、
前記複数の緩み防止部のそれぞれの前記延長部を経由して
略円形状に張設されるトルク付与部と
を備え、
前記複数の緩み防止部の各々は、前記延長部の前記長さの方向が回転体の半径方向に対して傾いた姿勢でナットに装着され、
前記トルク付与部は、ハブボルトに螺着されたナットが緩む方向とは逆方向のトルクを前記複数の緩み防止部の各々に与えるように取り付けられる、
装置。
【請求項2】
前記トルク付与部の一方端は、前記複数の緩み防止部のうちの1つの前記延長部に固定され、他方端は、ハブに固定される、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記トルク付与部の一方端及び他方端は、互いに連結される、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記トルク付与部は
、弾性体である、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記トルク付与部が経由する前記延長部の位置は、前記延長部の先端部分である、
請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記先端部分は、ナットより回転体の半径方向外側に位置する、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記先端部分は、ナットにより回転体の半径方向内側に位置する、
請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記延長部は、前記トルク付与部を挿通させる孔を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記延長部は、前記トルク付与部を支持する支持部を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の溝の数は18である、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
ハブに固定されたときにナットに、装着された前記複数の緩み防止部に当接する当接部を有する押さえ部をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記当接部は、回転体の半径方向の最も内側に位置する前記基部の部分に当接する、
請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記当接部は、前記延長部に当接する、
請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記トルク付与部の一方端は、前記複数の緩み防止部のうちの1つの前記延長部に固定され、
前記トルク付与部の他方端は、前記押さえ具に固定される、
請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、回転体をハブに取り付ける構造において、回転するハブから回転体が脱落することを防止する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラックやバスなどの大型車両の脱輪事故が増加しており、省庁や関係団体が事故防止の取り組みを強化している。脱輪は、タイヤ交換の際におけるナットの締め忘れ、締めつけトルクの不備、道路の起伏によるタイヤの振動、タイヤが支える積み荷の荷重など様々な事象が要因となって発生する。脱輪の発生は、車両の左側、とくに左後輪に集中している。これは、現在の大型車両が、車両の右側の車輪も左側の車輪もナットの締め付けが右ねじ方式を採用していることが主な要因であるとされている。すなわち、右ねじ方式でのナット締め付けを採用していることによって、タイヤの回転とナットの緩む方向とが同じ回転方向(タイヤに向かって左方向)となり、振動と遠心力によってナットの緩む方向に力がかかることによって、ナットの緩み及び脱輪が発生する。また、特に後輪に脱輪が集中するのは、大型車両の後輪にはダブルタイヤが採用されており、タイヤ交換の際に2つのホイールの間に土や小石などの異物を挟んだままナットをしめつけた場合に、走行中に異物が砕け、それによってナットが緩むことがあるからである。
【0003】
ナットが緩んだことを監視者が外部から確認できるようにするための技術が提案(例えば、特許文献1)されているが、こうした技術は、ナットの緩みを防止するものではなく、定期的かつ適切な確認作業が行われなければ、脱輪事故の防止にはつながらない。
【0004】
特許文献2は、複数のナットの各々に結束バンドを巻き付けることによってナットの緩みを防止するナット緩み止め具を提案する。この技術では、複数のナットの各々に側周面に係合溝が形成されており、この係合溝に嵌まるように結束バンドをループ上に、かつ複数のナット全体にわたって締めるように装着する。この技術では、ナットの脱落を防止する効果があることは想定されるものの、ナットの係合溝内で結束バンドが滑るため、そもそもナットの緩みを防止する効果は高くはなく、緩んだときにナットを再び締め付ける機能はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-531000号公報
【文献】特許第7115713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、回転体をハブに取り付ける構造において、ナットの緩みを防止するだけでなく、仮に緩みが発生した場合でもナットを締め付けるように機能する装置及び方法を提供することを課題とする。また、本発明は、万が一ナットがハブボルトから外れた場合でも、回転体がハブから脱落することを防止することができる装置及び方法を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、複数のナットの各々に、回転体の半径方向に延びる長さを持つ延長部を有するプレートを取り付け、そのプレートに、ナットを締めつける方向のトルクを常時作用させることによって、ナットの緩みを防止できることを見出した。また、本発明の発明者は、プレートを押さえる押さえ具をハブに固定することによって、万が一ナットが緩んだ場合でも回転体がハブから脱落することを防止できることを見出した。
【0008】
本発明は、ハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、回転体をハブに取り付ける構造において、回転するハブから回転体が脱落することを防止する装置を提供する。本装置は、複数の緩み防止部とトルク付与部とを備える。緩み防止部の各々は、複数のハブボルトの各々に螺着されたナットに装着され、ナットを挿通させたときにナットの側周角部が噛み合う複数の溝を内周に有する開口が設けられた基部と、基部から延びる長さを有する延長部とを有する。緩み防止部の各々は、延長部の長さ方向が回転体の半径方向に対して傾いた姿勢でナットに装着される。トルク付与部は、ハブボルトに螺着されたナットが緩む方向とは逆方向のトルクを前記複数の緩み防止部の各々に与えるように取り付けられる。複数の溝の数は、18個であることが好ましい。
【0009】
本装置は、緩み防止部が脱落しないように押さえる押さえ部をさらに備えることが好ましい。押さえ部は、ハブに固定されたときに、ナットに装着された複数の緩み防止部に当接する当接部を有する。当接部は、緩み防止部において、回転体の半径方向の最も内側に位置する基部の部分に当接する。別の実施形態においては、当接部は、延長部に当接する。
【0010】
一実施形態においては、トルク付与部の一方端は、複数の緩み防止部のうちの1つの延長部に固定され、他方端はハブに固定される。別の実施形態においては、トルク付与部の一方端及び他方端は、互いに連結される。さらに別の実施形態において、本装置が押さえ部をさらに備える場合には、トルク付与部の一方端は、複数の緩み防止部のうちの1つの延長部に固定され、トルク付与部の他方端は、押さえ部に固定される。さらに別の実施形態においては、トルク付与部は、略円形状に張設された弾性体である。
【0011】
トルク付与部が経由する延長部の位置は、延長部の先端部分であることが好ましい。一実施形態において、延長部は、トルク付与部を挿通させる孔を有する。別の実施形態においては、延長部は、トルク付与部を支持する支持部を有する。一実施形態においては、延長部の先端部分は、ナットより回転体の半径方向外側に位置し、別の実施形態においては、先端部分は、ナットより回転体の半径方向内側に位置する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による回転体脱落防止装置が、大型車両の後輪に装着された状態を示し、(a)は後輪を車両の側面方向からみた図、(b)は構造を説明するための模式的な縦断面図である。
【
図2】
図1の回転体脱落防止装置を構成する1つのナット緩み防止プレートの模式的な平面図である。
【
図3】
図1の回転体脱落防止装置を構成するナット緩み防止プレート押さえ具と、必要に応じて取り付けられる押さえ具固定プレートとの模式的な斜視図を示す。
【
図4】本発明の別の実施形態による回転体脱落防止装置が、大型車両の前輪に装着された状態を示し、(a)は前輪を車両の側面方向からみた図、(b)は構造を説明するための模式的な縦断面図である。
【
図5】
図4の回転体脱落防止装置を構成するナット緩み防止プレート押さえ具と、必要に応じて取り付けられる押さえ具固定プレートとの模式的な斜視図を示す。
【
図6】
図1の回転体脱落防止装置がナットの緩みを防止する仕組みを説明する模式図である。
【
図7】本発明のさらに別の実施形態による回転体脱落防止装置が、大型車両の後輪に装着された状態を、車両の側面方向から見た図である。
【
図8】
図7の回転体脱落防止装置を構成する、トルク付与ワイヤによってトルクが付与された状態を示す1つのナット緩み防止プレートの模式的な平面図である。
【
図9】本発明のさらに別の実施形態による回転体脱落防止装置が、大型車両の前輪に装着された状態を示し、(a)は前輪を車両の側面方向からみた図、(b)は構造を説明するための模式的な縦断面図である。
【
図10】
図9の回転体脱落防止装置を構成するナット緩み防止プレート押さえ具と、必要に応じて取り付けられる押さえ具固定部材との模式的な斜視図を示す。
【
図11】
図9の回転体脱落防止装置がナットの緩みを防止する仕組みを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態においては、本発明に係る回転体脱落防止装置をトラックやバスなどの大型車両に取り付けることを例として、本発明を説明する。具体的には、トラックやバスなどの車両のハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、車輪をハブに取り付ける構造において、回転するハブから車輪(回転体)が脱落することを防止する装置を説明する。しかしながら、本発明に係る回転体防止装置は、車両に用いられることに限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態:後輪に取り付けられる回転体脱落防止装置の説明)
図1は、本発明の一実施形態による回転体脱落防止装置1(以下、単に装置1という。)が、車両の後輪7に装着された状態を示し、(a)は後輪7を車両の側面方向からみた図、(b)は縦断面図である(なお、(a)と(b)とは、異なる縮尺で表現されている。)。車両のハブ5のフランジ51には、ハブ5の回転軸から半径方向に等距離の位置に、複数のハブボルト52が固定されている。ハブボルト52は、車両によって8本の場合と10本の場合とがあり、また、右ねじ方式を採用するものと左ねじ方式を採用するものとがある。本発明は、いずれの本数及び方式を採用するものにも利用することができる。以下の実施形態においては、ハブボルト52が10本、右ねじ方式の車両の場合について説明する。
【0015】
後輪7のホイール71は、ハブ5に取り付けられる。ホイール71には、ハブボルト52に対応する位置及び数の貫通孔72が、ホイール71の回転軸から半径方向に等距離の位置に設けられており、また、ハブ5のインロー53に対応する開口73が、中央部に設けられている。貫通孔72にハブボルト52を、開口73にインロー53を通し、ホイール71をフランジ51に当てた後、対応する複数のナット9を締め付けることによって、後輪7がハブ5に取り付けられる。この例では、複数のナット9は、右方向に回転させることによって締め付けられるようになっている。
【0016】
装置1は、複数のハブボルト52の各々に螺着されたナット9に装着される複数のナット緩み防止プレート(緩み防止部)12と、ナット緩み防止プレート12に対してナット9が緩む方向とは逆方向(すなわち、ナット9を締め付ける方向)のトルクを与えるトルク付与ワイヤ(トルク付与部)13とを備える。
図2は、ナット緩み防止プレート12の平面図である。ナット緩み防止プレート12は、全体に等しい厚さの概ね水滴型の形状を有し、幅広の基部121と、基部121から幅が徐々に狭くなりながら延びる長さを有する延長部124とを有する。なお、ナット緩み防止プレートの形状は、水滴型の形状に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り別の形状でもよく、例えば、概ね円形の基部から幅の狭い板状又は棒状の延長部が延びる形状などであってもよい。
【0017】
ナット緩み防止プレート12は、延長部124の長さが後輪7の半径方向外側に向いた姿勢でナット9に取り付けられる。すなわち、緩み防止プレート12は、延長部124の先端部分がナット9の位置より回転体の半径方向外側に位置するように、取り付けられる。この実施形態では右ねじ方式であるので、すべてのナット緩み防止プレート12は、延長部124の長さ方向が後輪7の半径方向に対して右に傾いた状態で装着される。左ねじ方式の場合には、ナット緩み防止プレート12は、延長部124の長さ方向が後輪7の半径方向に対して左に傾いた状態で装着される。なお、延長部124の長さは、限定されるものではなく、緩み防止プレート12が後輪7のホイール71と干渉せず、かつナット9に適切なトルクがかかる長さに設定されればよい。後述される緩み防止プレート22、32、42についても同様である。
【0018】
基部121には、ナット9が挿通される開口122が設けられる。開口122は、その内周に、挿通されたナット9の側周に位置する6つの角部9aが噛み合うように設けられた18個の溝123を有する。ナット9の6つの角部9aが溝123に噛み合うこと、すなわち、6つの角部9aの各々が3つごとに溝123に入るようにナット9が開口122に挿入されることによって、ナット緩み防止プレート12にかかるトルクがナット9に確実に伝達され、ナット9の緩みを防止することができる。
【0019】
溝123の数は、18個に限定されるものではなく、12個であってもよく、24個であってもよい。ナット9として六角ナットが用いられる場合には、溝123の数は、6の倍数であることが好ましい。溝123の数が18個であれば、ナット9がハブボルト52に締め込まれたときのナット9の角部9aがどの角度又は位置であっても、ナット緩み防止プレート12の延長部124の位置(すなわち、延長部124の長さ方向と車輪の半径方向との角度)が概ね一定の範囲内に収まり、ホイール71のナット取付面の外側に位置する面と延長部124との干渉を防止することができる。溝123の数が12個以下の場合は、溝123の加工がより容易ではあるものの、ナット9の角部9aの角度又は位置によっては、ナット緩み防止プレート12がホイール71に干渉し、24個以上の場合には、加工がより煩雑になるだけでなく、隣接する溝123間の山の幅が狭くなるためナット9の角部9aとの係合力が小さくなる。
【0020】
延長部124は、その基部121から離れた先端部分に、延長部124の表面から突出するように立設されるワイヤ通しピン125を有する。
図2において、ワイヤ通しピン125は、紙面に垂直な方向の長さを有する。また、延長部124の先端部分とは、延長部124の先端だけでなく、先端の近傍(先端からみて基部121側のいずれかの位置)も含む。ワイヤ通しピン125は、好ましくはその先端部分(延長部124の表面から遠い方の位置)に、トルク付与ワイヤ13のワイヤ本体131が挿通されるワイヤ通し孔125aが設けられている。
【0021】
延長部124は、ワイヤ通しピン125ではなく、延長部124の先端部分にその面から突出する突起部を有し、突起部の頂部に孔又は溝を設け、その孔又は溝を通してトルク付与ワイヤ13を張設することもできる。あるいは、ワイヤ通しピン125を設けずに、延長部124の先端部付近に直接、孔を開け、その孔を通してトルク付与ワイヤ13を張設することもできる。ただし、この場合、ナット緩み防止プレート12とトルク付与ワイヤ13のワイヤ本体131とが干渉して、ワイヤ本体131が切断されるなどの可能性がある。したがって、トルク付与ワイヤ13は、延長部124のワイヤ通しピン125や上述のような突起部を経由して張設されることが好ましい。
【0022】
ナット緩み防止プレート12の材質は、一定以上の強度が保たれるとともに耐久性が高いものであれば限定されるものではく、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属、又は高強度のプラスチックなどを、適宜用いることができる。ナット緩み防止プレート12の厚さは、限定されるものではなく、一定以上の強度が保たれるものであればよい。延長部124の長さは、限定されるものではなく、ナット9に与えるトルクの大きさ、トルク付与ワイヤ13の張力、延長部124とホイール71との干渉の有無等を考慮して決定すればよい。
【0023】
また、ワイヤ通しピン125の長さ及びワイヤ通し孔125aの位置は限定されるものではない。しかし、使用中にワイヤ通しピン125には高負荷がかかるので、変形を避けるために、ワイヤ通しピン125の長さは、トルク付与ワイヤ13とナット緩み防止プレート12との干渉が生じないかぎり、できるだけ短いことが好ましい。ワイヤ通しピン125の材質は、一定以上の強度が保たれるとともに耐久性が高いものであれば限定されるものではく、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属、又は高強度のプラスチックなどを、適宜用いることができる。
【0024】
トルク付与ワイヤ13は、金属製のワイヤ本体131と、好ましくはワイヤ本体131を緊張させるための緊張器とを有する。緊張器は、ワイヤ本体131を緊張させる(ワイヤ本体131に張力を与える)ためのものであれば限定されるものではなく、例えば、ターンバックルやバネなどを用いることができる。
図1においては、緊張器としてターンバックル132が用いられる。トルク付与ワイヤ13は、ターンバックル132を締めることによって、張力をかけることができる。別の実施形態においては、トルク付与ワイヤ13は、金属製のワイヤ本体131と緊張器とを有するものには限定されず、例えば、伸縮可能なゴム製のワイヤ又はベルトであってもよい。さらに別の実施形態として、ワイヤ本体131を金属ではなく伸縮可能なゴム製のワイヤ又はベルトとし、トルク付与ワイヤ13をこれと緊張器とを有するものとして構成してもよい。
【0025】
ワイヤ本体131の一方端(すなわち、トルク付与ワイヤ13の一方端)は、ナット緩み防止プレート12のいずれか1つのワイヤ通しピン125に固定される。ワイヤ本体131は、残りのすべてのナット緩み防止プレート12のワイヤ通しピン125を経由して張設される。ワイヤ本体131の他方端は、ターンバックル132の一方端に連結され、ターンバックル132の他方端(すなわち、トルク付与ワイヤ13の他方端)は、ハブ5のいずれかの箇所、又は、後述される緩み防止プレート押さえ具14が取り付けられるときには、そのいずれかの箇所に固定することができる。すべてのナット緩み防止プレート12のワイヤ通しピン125を通るように略円形にワイヤ本体131及びターンバックル132が張設されたトルク付与ワイヤ13が、略円形の径を小さくする方向にワイヤ通しピン125に力を加えることによって、ナット緩み防止プレート12には、ナット9が緩む方向とは逆方向のトルク(ナットを締め付ける方向のトルク)が与えられる。
【0026】
装置1は、複数のナット緩み防止プレート12及びトルク付与ワイヤ13に加えて、緩み防止プレート押さえ具14を備えることが好ましい。
図3は、緩み防止プレート押さえ具14と、必要に応じて用いられる押さえ具固定プレート16とを示す。緩み防止プレート押さえ具14は、ハブ5のインロー53に固定され、ナット9に装着された複数のナット緩み防止プレート12がナット9から脱落しないように押さえる機能を有する。
【0027】
緩み防止プレート押さえ具14は、押さえ具固定プレート16を有することが好ましく、この押さえ具固定プレート16を介してインロー53に固定されることが好ましい。押さえ具固定プレート16を用いることによって、既存車両のハブを改良することなく、緩み防止プレート押さえ具14をハブ5に取り付けることができる。
【0028】
本実施形態による緩み防止プレート押さえ具14は、板状体を円形に成形した押さえ部141と、押さえ部141の直径をまたがるように渡され、中央部分が押さえ具固定プレート16に固定されるコの字帯状の取付板143とを有する。また、緩み防止プレート押さえ具14は、押さえ部141又は取付板143のいずれかに、トルク付与ワイヤ13のターンバックル132(のフック)を取り付けるためのターンバックル取付孔144を有する。
【0029】
押さえ具固定プレート16は、取付板143が固定されるベース161と、ベース161の周囲に設けられた5つのインロー取付部162とを有する。押さえ具固定プレート16は、5つのインロー取付部162の各々をボルトで固定することによってハブ5のインロー53に取り付けられ、緩み防止プレート押さえ具14は、取付板143を2本のボルトで固定することによって押さえ具固定プレート16に取り付けられる。
【0030】
押さえ部141は、そのハブ5側に押さえ縁(当接部)142を有し、押さえ部141の直径は、
図1に示されるように、押さえ縁142が、ナット緩み防止プレート12の各々の基部121のうち後輪7の半径方向の最も内側に位置する部分(インロー53に隣接する部分)の表面に当接するように選択される。このようにインロー53に取り付けられた緩み防止プレート押さえ具14とホイール71とによってナット緩み防止プレート12を挟むことによって、例えば、万が一トルク付与ワイヤ13が破断してナット9が緩んだ場合でも、ナット緩み防止プレート12がナット9から脱落することを防止することができる。
【0031】
緩み防止プレート押さえ具14は、
図1及び
図3に示される形状に限定されるものではなく、例えば、押さえ部141の幅をインロー53の突出量に対応するように大きくし、円筒形の底面に相当する開口全体を円形板状体で覆うように、すなわち、インロー53の全体が隠れる円筒体の形状(後述の装置2における緩み防止プレート押さえ具24と同様の形状)としてもよい。また、例えば、取付板143を押さえ具固定プレート16に取り付け、押さえ具固定プレート16をインロー53に取り付けるのではなく、取付板143を、押さえ具固定プレート16を用いることなく直接インロー53に取り付けることができる構造のものとしてもよい。
【0032】
(第2の実施形態:前輪に取り付けられる回転体脱落防止装置の説明)
次に、前輪に取り付けられる回転体脱落防止装置2(以下、単に装置2という。)を説明する。
図4は、装置2が車両の前輪8に装着された状態を示し、(a)は前輪8を車両の側面方向からみた図、(b)は縦断面図である(なお、(a)と(b)とは、異なる縮尺で表現されている。)。なお、以下において、後輪7に取り付けられる装置1と同じ構成については、詳細には説明しない。また、装置1と同じ構成であっても、
図4においては
図1と異なる参照番号を付している。
【0033】
図4の装置2が、複数のハブボルト62の各々に螺着されたナット9に装着される複数のナット緩み防止プレート22と、ナット緩み防止プレート22に対してナット9が緩む方向とは逆方向(すなわち、ナット9を締め付ける方向)のトルクを与えるトルク付与ワイヤ23とを備える点については、
図1の場合と同じである。ナット緩み防止プレート22及びトルク付与ワイヤ23の詳細については、
図2及びその説明を参照されたい。
【0034】
前輪用の装置2は、複数のナット緩み防止プレート22及びトルク付与ワイヤ23に加えて、緩み防止プレート押さえ具24を備えることが好ましい。緩み防止プレート押さえ具24は、緩み防止プレート押さえ具14とは異なる構成を有する。
図5は、前輪用の緩み防止プレート押さえ具24と、必要に応じて用いられる前輪用の押さえ具固定プレート26とを示す。緩み防止プレート押さえ具24は、ハブ6のインロー63に固定され、ナット9に装着された複数のナット緩み防止プレート22がナット9から脱落しないように押さえる機能を有する。
【0035】
緩み防止プレート押さえ具24は、押さえ具固定プレート26を有することが好ましく、この押さえ具固定プレート26を介してインロー63に固定されることが好ましい。押さえ具固定プレート26を用いることによって、既存車両のハブを改良することなく、緩み防止プレート押さえ具24をハブ6に取り付けることができる。
【0036】
緩み防止プレート押さえ具24は、板状体を円形に成形した押さえ部241と、押さえ部241の外方の円形開放面を覆い、押さえ具固定プレート26に固定される円形の取付板243とを有する。また、緩み防止プレート押さえ具24は、押さえ部241に、トルク付与ワイヤ23を通すためのワイヤ通し孔244を有する。押さえ具固定プレート26は、取付板243が固定されるベース261を有する。押さえ具固定プレート26は、6本のボルトで固定することによってハブ6のインロー63に取り付けられ、緩み防止プレート押さえ具24は、4本のボルトで固定することによって押さえ具固定プレート26に取り付けられる。
【0037】
押さえ具固定プレート26は、トルク付与ワイヤ23のターンバックル232の他方端(のフック)を取り付けるためのターンバックル取付部263を有することが好ましい。ターンバックル取付部263は、限定されるものではないが、例えば、押さえ具固定プレート26の裏面から立設された棒や、押さえ具固定プレート26に設けられた孔などとすることができる。トルク付与ワイヤ23のターンバックル232は、押さえ具固定プレート26に取り付けることに限定されるものではなく、ハブ6又は緩み防止プレート押さえ具24に取り付けるようにしてもよい。
【0038】
押さえ部241は、そのハブ6側に押さえ縁242を有し、押さえ部241の直径は、
図4に示されるように、押さえ縁242が、ナット緩み防止プレート22の各々の基部221のうち前輪8の半径方向の最も内側に位置する部分(インロー63に隣接する部分)の表面に当接するように選択される。このようにインロー63に取り付けられた緩み防止プレート押さえ具24とホイール81とによってナット緩み防止プレート22を挟むことによって、例えば、トルク付与ワイヤ23が破断した場合でも、ナット緩み防止プレート22がナット9から脱落することを防止することができる。
【0039】
緩み防止プレート押さえ具24は、
図4及び
図5に示される形状に限定されるものではなく、例えば、後輪用の緩み防止プレート押さえ具14と同様の構成のものであってもよい。また、例えば、取付板243を押さえ具固定プレート26に取り付けて、押さえ具固定プレート26をインロー63に取り付けるのではなく、取付板243を、押さえ具固定プレート26を用いることなく直接インロー63に取り付けることができる構造のものとしてもよい。
【0040】
(回転体脱落防止装置がナットの緩みを防止する仕組み)
ここで、
図1及び
図6を用いて、複数のナット緩み防止プレート12及びトルク付与ワイヤ13がナット9の緩みを防止する仕組みを説明する。
図6に示されるように、ナット緩み防止プレート12の開口122にナット9が挿通されており、ナット9の6つの角部9aは、開口122の18個の溝123と3つごとに係合する。ナット緩み防止プレート12は、その長さ方向がナット9を締め付ける方向に傾いた姿勢でナット9に装着される。
図6の場合には、ナット9は右ねじ方式であるため、すべてのナット緩み防止プレート12は、
図1に示されるように、その延長部124の長さ方向が半径方向に対して右に傾いて装着される。
【0041】
半径方向に対して右に傾いてナット9に装着されたナット緩み防止プレート12のワイヤ通しピン125には、トルク付与ワイヤ13が張設されている。すべてのナット緩み防止プレート12の延長部124の先端部分を経由することにより、
図1に示されるように略円形状に張設されたトルク付与ワイヤ13には、ターンバックル132を締めることによる張力がかかっている。そのため、トルク付与ワイヤ13は略円形の直径が小さくなろうとしており、緩み防止プレート12には、
図6の矢印Aで示されるように、半径方向内側に向かう力がトルク付与ワイヤ13から及ぼされる。その結果、ナット緩み防止プレート12の各々には、右方向に回転させるトルク、すなわちナット9が緩む方向(左方向)とは逆方向のトルクが与えられるため、ナット9が緩むことを防止することができる。
【0042】
(回転体脱落防止装置を車両の車輪に取り付ける工程)
次に、装置1を後輪7に取り付ける工程を説明する。まず、ナット緩み防止プレート12を、ハブ5の10本のハブボルト52に螺着された10個のナット9のそれぞれに装着する。ナット緩み防止プレート12は、基部121の開口122にナット9を挿通させ、延長部124の長さ方向が後輪7の半径方向から右に傾いた状態で装着される。
【0043】
開口122の内周には複数の溝123が設けられており、ナット9の側周に設けられている6つの角部9aがいずれかの溝123に噛み合うようになっている。この実施形態においては、溝123が18個設けられているため、ナット緩み防止プレート12は、ハブボルト52に締め込まれたときのナット9の角部9aがどの角度又は位置にあっても、適切な傾きになるように装着することができる。
【0044】
延長部124の長さ方向と後輪7の半径方向との角度が小さすぎると、延長部124の先端がホイール71のナット取付面の外側に位置する面と干渉して破損するなどの問題が生じるおそれがある。逆に、延長部124の長さ方向と後輪7の半径方向との角度が大きすぎると、張設されたトルク付与ワイヤ13のワイヤ本体131がナット9と干渉して切断されるなどの問題が生じるおそれがある。溝123を18個にすることによって、傾きを容易に上記の範囲内に調整することができる。
【0045】
ナット9にすべてのナット緩み防止プレート12を装着した後、トルク付与ワイヤ13を張設する。まず、トルク付与ワイヤ13のワイヤ本体131の一方端を、いずれか1つのナット緩み防止プレート12のワイヤ通しピン125に固定する。固定方法は、限定されるものではないが、ワイヤ本体131の一方端にループを形成し、ループがワイヤ通し孔125aに通されることで、ワイヤ本体131の一方端を固定することができる。ワイヤ本体131をすべてのナット緩み防止プレート12のワイヤ通しピン125を経由させ、他方端をハブ5に固定する。
【0046】
トルク付与ワイヤ13は、他方端の近傍にターンバックル132が取り付けられていることが好ましく、この場合、他方端をハブ5に固定した後に、ターンバックルを締めることによって、ワイヤ本体131を緊張させることができる。ワイヤ本体131は、すべてのナット緩み防止プレート12をナット9に装着した後で、ワイヤ通しピン125のワイヤ通し孔125aを通してもよく、ナット9に装着する前のナット緩み防止プレート12のワイヤ通し孔125aにあらかじめワイヤ本体131を通しておき、その後、ナット緩み防止プレート12をナット9に装着してもよい。
【0047】
次に、ナット緩み防止プレート12が脱落しないように押さえる緩み防止プレート押さえ具14を取り付ける。まず、ハブ5のインロー53に、押さえ具固定プレート16を取り付ける。押さえ具固定プレート16は、インロー取付部162をボルトでインロー53に固定することによって取り付けることができる。インロー53を加工することによって、押さえ具固定プレート16を用いることなく、緩み防止プレート押さえ具14を直接インロー53に取り付けるようにすることもできる。
【0048】
次に、押さえ具固定プレート16に、緩み防止プレート押さえ具14を取り付ける。緩み防止プレート押さえ具14は、取付板143をボルトで押さえ具固定プレート16に固定することによって取り付けることができる。緩み防止プレート押さえ具14は、押さえ部141の押さえ縁142がナット緩み防止プレート12の各々の基部121のうち後輪7の半径方向の最も内側に位置する部分(インロー53に隣接する部分)の表面に当接するように、取り付けられる。緩み防止プレート押さえ具14を取り付けた場合には、トルク付与ワイヤ13の他方端は、ハブ5ではなく緩み防止プレート押さえ具14のターンバックル取付孔144に固定することもできる。
【0049】
装置2を前輪8に取り付ける工程も、装置1を後輪7に取り付ける上記の工程と概ね同じである。相違点のみ説明すると、ナット緩み防止プレート22は、延長部224がホイール81のナット取付面から外側に突出しないように、かつ、張設されたトルク付与ワイヤ23のワイヤ本体231がナット9と干渉しないように傾きを調整しながら、ナット9に装着する。
【0050】
緩み防止プレート押さえ具24を取り付ける場合には、ハブ6のインロー63に、必要に応じて前輪用の押さえ具固定プレート26を取り付ける。押さえ具固定プレート26は、ベース261をボルトでインロー63に固定することによって取り付けることができる。インロー63を加工することによって、押さえ具固定プレート26を用いることなく、緩み防止プレート押さえ具24を直接インロー63に取り付けることもできる。
【0051】
押さえ具固定プレート26に、緩み防止プレート押さえ具24を取り付ける。緩み防止プレート押さえ具24は、取付板243をボルトで押さえ具固定プレート26に固定することによって取り付けることができる。緩み防止プレート押さえ具24は、押さえ部241の押さえ縁242がナット緩み防止プレート22の各々の基部221のうち前輪8の半径方向の最も内側に位置する部分(インロー63に隣接する部分)の表面に当接するように、取り付けられる。緩み防止プレート押さえ具24を取り付けた場合には、トルク付与ワイヤ23の他方端は、ハブ6ではなく押さえ具固定プレート26のターンバックル取付部263に固定することもできる。
【0052】
(第3の実施形態:後輪に取り付けられる別の回転体脱落防止装置の説明)
次に、
図7及び
図8を用いて、本発明のさらに別の実施形態である、回転体脱落防止装置3(以下、単に装置3という。)を説明する。
図7は、装置3が車両の後輪7に装着された状態を車両の側面方向から見た図である。
図8は、装置3を構成する1つのナット緩み防止プレート32の平面図である。ここでは、後輪用の装置3のみを示し、前輪用の装置は説明しないが、前輪用の装置は、以下に説明する後輪用の装置3のナット緩み防止プレート32及びトルク付与ワイヤ33に、
図5に示される前輪用の緩み防止プレート押さえ具24及び押さえ具固定プレート26を組み合わせて実現することができる。
【0053】
以下の説明では、主に装置1との相違点に関して説明する。装置1は、ナット9に装着される複数のナット緩み防止プレート32と、ナット緩み防止プレート32に対してナット9が緩む方向とは逆方向のトルクを与えるトルク付与ワイヤ33とを備える。
図8に示されるように、ナット緩み防止プレート32は、延長部324の先端部付近に、ワイヤ支持ピン325が、延長部324の表面から突出するように立設されている。ワイヤ支持ピン325は、その先端(延長部324の表面から離れた位置)の周方向全体にわたって、トルク付与ワイヤ33のワイヤ本体331の径に対応するサイズの溝325a(支持部)を有し、この溝325aが、張設されたトルク付与ワイヤ33を支持する。
【0054】
一方、トルク付与ワイヤ33は、ワイヤ本体331と、ワイヤ本体331の一方端に設けられた、ワイヤ本体331を緊張させるための緊張器とを有する。緊張器は、ワイヤ本体331を緊張させる(ワイヤ本体331に張力を与える)ためのものであれば限定されるものではなく、ターンバックルやバネなどを用いることができる。
図7では、緊張器としてバネ332が用いられている。装置3のトルク付与ワイヤ33は、すべてのナット緩み防止プレート32の延長部324のワイヤ支持ピン325を、溝325aにおける車輪の半径方向の外側に位置する部分を通るように経由して、略円形に張設される。
【0055】
トルク付与ワイヤ33を取り付ける際には、ワイヤ本体331をワイヤ支持ピン325の溝325aにかける。ワイヤ本体331がかけられるのは、上述のように溝325aにおける車輪の半径方向の外側に位置する部分である。すべてのワイヤ支持ピン325にかけられたトルク付与ワイヤ33の一方端(すなわちワイヤ本体331の一方端)と、他方端(すなわち、バネ332のワイヤ本体331と連結されていない方の端部)とを、トルク付与ワイヤ33を引っ張りながら互いに連結する。
【0056】
略円形状に張設されたトルク付与ワイヤ33には、バネ332によって張力がかかっている。そのため、トルク付与ワイヤ33は略円形の直径が小さくなろうとしており、ナット緩み防止プレート32のワイヤ支持ピン325には、
図6と同様に、半径方向内側に向かう力がトルク付与ワイヤ33から及ぼされる。その結果、ナット緩み防止プレート32の各々には、右方向に回転させるトルク、すなわちナット9が緩む方向とは逆方向のトルクが与えられるため、ナット9が緩むことを防止することができる。
【0057】
(第4の実施形態:前輪に取り付けられる別の回転体脱落防止装置の説明)
次に、
図9から
図11を用いて、本発明のさらに別の実施形態である、回転体脱落防止装置4(以下、単に装置4という。)を説明する。
図9は、装置4が車両の前輪8に装着された状態を示し、(a)は前輪8を車両の側面方向からみた図、(b)は縦断面図である(なお、(a)と(b)とは、異なる縮尺で表現されている)。
図10は、装置4を構成するナット緩み防止プレート押さえ具44と、必要に応じて取り付けられる押さえ具固定部材46との斜視図を示す。
図11は、装置4の緩み防止プレート42がナットの緩みを防止する仕組みを説明する模式図である。なお、以下において、装置1、装置2及び装置3と同じ構成については、詳細には説明しない。また、装置1、装置2及び装置3と同じ構成であっても、
図9から
図11においては、これらを説明する図とは異なる参照番号を付している。
【0058】
図9の装置4は、複数のハブボルト62の各々に螺着されたナット9に装着される複数のナット緩み防止プレート42と、ナット緩み防止プレート42に対してナット9が緩む方向とは逆方向(すなわち、ナット9を締め付ける方向)のトルクを与えるトルク付与ゴム43とを備える。ナット緩み防止プレート42は、装置3で説明した緩み防止プレート32と同じものとすることができる。すなわち、
図11に示されるように、ナット緩み防止プレート42は、延長部424の先端部付近に、ゴム支持ピン425が、延長部424の表面から突出するように立設されている。ゴム支持ピン425は、その先端(延長部424の表面から離れた位置)の周方向全体にわたって、トルク付与ゴム43の径に対応するサイズの溝425a(支持部)を有し、この溝425aが、張設されたトルク付与ゴム43を支持する。
【0059】
装置1、装置2及び装置3においては、緩み防止プレート12、22、32はいずれも、延長部の長さ方向が車輪の半径方向外側に向いた姿勢でナット9に取り付けられる。一方、装置4においては、緩み防止プレート42は、延長部424の長さ方向が前輪8の半径方向内側に向いた姿勢で取り付けられる。すなわち、緩み防止プレート42は、延長部424の先端部分がナット9の位置より前輪8の回転軸側に位置するように、取り付けられる。この実施形態では右ねじ方式であるので、すべてのナット緩み防止プレート42は、延長部424の長さ方向が前輪8の半径方向に対して左に傾いた状態で装着される。
【0060】
装置4のトルク付与ゴム43は、略円形状を有することが好ましい。すなわち、トルク付与ゴム43は、緩み防止プレート42のそれぞれの延長部424を経由して張設されていない非装着状態では円形状を有しており、延長部424を経由して張設されると多角形の形状を有することになる。張設された状態のトルク付与ゴム43は多角形であるが、本明細書では、この形状も略円形状に含む。トルク付与ゴム43は、延長部424を経由して張設されていない非装着状態のときに多角形の形状を有するものであってもよい。
【0061】
非装着状態のトルク付与ゴム43の略円形の径は、緩み防止プレート42が装着された状態のときに、すべてのゴム支持ピン425の全体を結んだ線で形成される多角形の径より小さい。したがって、トルク付与ゴム43を張設するときには、トルク付与ゴム43を、その径を広げながらゴム支持ピン425の溝425aに入れるようにする。トルク付与部は、弾性体であればゴムを用いて構成されるものに限定されない。なお、装置1、装置2及び装置3においても、トルク付与ワイヤ13、23、33のワイヤ本体131、231、331としてゴムを用いたものをトルク付与部として用いてもよく、あるいは、トルク付与ワイヤ13、23、33をトルク付与ゴム43に代えてもよい。
【0062】
装置4は、複数のナット緩み防止プレート42及びトルク付与ゴム43に加えて、緩み防止プレート押さえ具44を備えることが好ましい。緩み防止プレート押さえ具44は、
図10に示されるように、ハブ6のインロー63に固定され、ナット9に装着された複数のナット緩み防止プレート42がナット9から脱落しないように押さえる機能を有する。
【0063】
緩み防止プレート押さえ具44は、本実施形態では3つの押さえ具固定部材46を用いてインロー63に固定される。押さえ具固定部材46を用いることによって、既存車両のハブを改良することなく、緩み防止プレート押さえ具44をハブ6に取り付けることができる。なお、押さえ具固定部材46は、緩み防止プレート押さえ具44を確実にハブ6に固定できるものである限り、3つに限定されるものではない。
【0064】
緩み防止プレート押さえ具44は、板状体を円形に成形した押さえ部441と、押さえ部441の外方の円形開放面を覆い、押さえ具固定部材46に固定される、円形の取付板443とを有する。押さえ具固定部材46は、板状体の両端部のそれぞれから逆方向に腕部が延びる階段形状の縦断面を有する金具であり、一方の腕部がインロー63にボルトで固定され、他方の腕部に緩み防止プレート押さえ具44の取付板443がボルトで固定される。
【0065】
押さえ部441は、そのハブ6側に押さえ縁442を有し、押さえ部441の直径は、
図9に示されるように、押さえ縁442が、ナット緩み防止プレート22の各々の延長部424の表面に当接するように選択される。このようにして、インロー63に取り付けられた緩み防止プレート押さえ具44とホイール81とによってナット緩み防止プレート42を挟むことによって、例えば、万が一トルク付与ゴム43が破断してナット9が緩んだ場合でも、ナット緩み防止プレート42がナット9から脱落することを防止することができる。
【0066】
ここで、
図11を用いて、複数のナット緩み防止プレート42及びトルク付与ゴム43がナット9の緩みを防止する仕組みを説明する。この実施形態によって緩みを防止する考え方は、緩み防止プレート42の向きが異なるだけで、
図6の場合と同じである。
図11に示されるように、ナット緩み防止プレート42の開口422にナット9が挿通されており、ナット9の6つの角部9aの各々は、開口422の18個の溝423と3つごとに係合する。ナット緩み防止プレート42は、その長さ方向が、ナット9を締め付ける方向に傾いた姿勢、すなわち、前輪8の半径方向内側に延び、かつ、前輪8の回転軸方向にみて左に傾いた姿勢でナット9に装着される。
【0067】
このようにナット9に装着されたナット緩み防止プレート42のゴム支持ピン425には、トルク付与ゴム43が張設されている。すべてのナット緩み防止プレート42の延長部424の先端部分を経由することにより、
図11に示されるように略円形状に張設されたトルク付与ゴム43には、略円形の直径が縮小する方向への力がかかる。そのため、緩み防止プレート42には、
図11の矢印Aで示されるように、半径方向内側に向かう力がトルク付与ゴム43から及ぼされる。その結果、ナット緩み防止プレート42の各々には、右方向に回転させるトルク、すなわちナット9が緩む方向(左方向)とは逆方向のトルクが与えられるため、ナット9が緩むことを防止することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 後輪用の回転体脱落防止装置
12 緩み防止プレート
121 基部
122 開口
123 溝
124 延長部
125 ワイヤ通しピン
125a ワイヤ通し孔
13 トルク付与ワイヤ
131 ワイヤ本体
132 ターンバックル
14 緩み防止プレート押さえ具
141 押さえ部
142 押さえ縁
143 取付板
144 ターンバックル取付孔
16 押さえ具固定プレート
161 ベース
162 インロー取付部
2 前輪用の回転体脱落防止装置
22 緩み防止プレート
221 基部
222 開口
223 溝
224 延長部
225 ワイヤ通しピン
23 トルク付与ワイヤ
231 ワイヤ本体
232 ターンバックル
24 緩み防止プレート押さえ具
241 押さえ部
242 押さえ縁
243 取付板
244 ワイヤ通し孔
26 押さえ具固定プレート
261 ベース
263 ターンバックル取付部
3 後輪用の回転体脱落防止装置
32 緩み防止プレート
321 基部
322 開口
323 溝
324 延長部
325 ワイヤ支持ピン
325a 溝
33 トルク付与ワイヤ
331 ワイヤ本体
332 バネ
4 前輪用の回転体脱落防止装置
42 緩み防止プレート
421 基部
422 開口
423 溝
424 延長部
425 ゴム支持ピン
425a 溝
43 トルク付与ゴム
44 緩み防止プレート押さえ具
441 押さえ部
442 押さえ縁
443 取付板
46 押さえ具固定部材5、6 ハブ
51、61 フランジ
52、62 ハブボルト
53、63 インロー
7、8 車輪
71、81 ホイール
72、82 貫通孔
73、83 開口
9 ナット
9a 角部
【要約】
【課題】 ハブに固定された複数のハブボルトと、それらに螺着される複数のナットとを用いて、回転体をハブに取り付ける構造において、ナットの緩みを防止するだけでなく、仮に緩みが発生した場合でもナットを締め付けるように機能する装置及び方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本装置は、複数の緩み防止部とトルク付与部とを備える。緩み防止部の各々は、複数のハブボルトの各々に螺着されたナットに装着され、ナットを挿通させたときにナットの側周角部が噛み合う複数の溝を内周に有する開口が設けられた基部と、基部から延びる長さを有する延長部とを有する。緩み防止部の各々は、延長部の長さ方向が回転体の半径方向に対して傾いた姿勢でナットに装着される。トルク付与部は、ハブボルトに螺着されたナットが緩む方向とは逆方向のトルクを前記複数の緩み防止部の各々に与えるように取り付けられる。
【選択図】
図1