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特許7444516キャパシタ、キャパシタ用コンポジット材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】キャパシタ、キャパシタ用コンポジット材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/30 20130101AFI20240228BHJP
   C01B 32/354 20170101ALI20240228BHJP
   C07D 487/22 20060101ALI20240228BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20240228BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20240228BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240228BHJP
【FI】
H01G11/30
C01B32/354
C07D487/22
H01G11/32
H01G11/36
H01G11/86
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023515498
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2022018289
(87)【国際公開番号】W WO2022224990
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021071771
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛希
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/023964(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167407(WO,A1)
【文献】特開2015-091578(JP,A)
【文献】特開平02-232268(JP,A)
【文献】特開2008-091132(JP,A)
【文献】特開2014-172764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/30
C01B 32/354
C07D 487/22
H01G 11/32
H01G 11/36
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、電解質とを備えるキャパシタであって、
前記電極の少なくとも一方が、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含むことを特徴とする、キャパシタ。
【請求項2】
前記式(1)又は(2)において、Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子である、請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記式(1)又は(2)において、DからD16が、窒素原子又は炭素原子である、請求項1又は2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記式(1)又は(2)において、D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である、請求項1から3のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記金属錯体又はその付加体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表される、請求項1から4のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記金属錯体又はその付加体が、前記金属錯体又はその付加体と前記炭素材料との合計量100質量%に対して、0.1~50質量%の量で含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記炭素材料が、活性炭、ケッチェンブラック、黒鉛、アモルファス炭素、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項8】
前記電極は、前記式(1)又は(2)で表される金属錯体又はその付加体及び前記炭素材料を含むキャパシタ用コンポジット材料を含む、請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項9】
20F/cm3以上の容量密度を有する、請求項8に規定のキャパシタ用コンポジット材料。
【請求項10】
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記炭素材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む、請求項9に記載のキャパシタ用コンポジット材料の製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)及び(b)が、前記溶媒の沸点以下の温度で行われる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記金属錯体又はその付加体の前記溶媒に対する溶解度が、0.1g/L以上である、請求項10又は11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ、キャパシタ用コンポジット材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーキャパシタは、従来のキャパシタと比較して非常に高い静電容量を有することを特徴とするキャパシタを表す。スーパーキャパシタは、活性炭などの炭素系材料を電極に含むことによって、電極/電解液界面の電解液側で逆電荷を持つイオンを配列する電気二重層を形成し、そこで多くの電荷を蓄積する。
【0003】
スーパーキャパシタの静電容量は、基本的に電極材料の比表面積に依存する。そのため、スーパーキャパシタの高容量化に向けて、電極材料としてカーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボンを用いる方法が検討されている。しかしながら、ナノカーボンは活性炭と比較すると高価であるため、スーパーキャパシタの実用化に向けては電極材料の低コスト化が求められている。
【0004】
また、近年開発が進んでいる新たなスーパーキャパシタとして、リチウムイオンキャパシタがある。リチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタの原理を用いながら、負極材料としてリチウムイオンを吸蔵できる炭素系材料を用いることで、エネルギー密度を向上させたスーパーキャパシタである。
【0005】
一方、スーパーキャパシタのエネルギー密度は近年大幅に増加しているものの、二次電池と比較すると貯蔵できるエネルギー密度が小さいことが依然として問題である。したがって、従来の高いパワー密度に加えて、エネルギー密度をさらに増加させたスーパーキャパシタの開発が望まれている。
【0006】
スーパーキャパシタのエネルギー密度を増加させる手段として、ある種の金属酸化物をスーパーキャパシタの電極に含ませると、電気二重層の静電容量に加えて酸化還元容量(レドックス容量、疑似容量)をも利用可能になるため、炭素系材料のみを電極に用いた場合よりも大きな静電容量が得られることが知られている。この原理を利用して、酸化還元容量を示す物質をスーパーキャパシタの電極材料に適用する試みが広く行われている。特に、酸化ルテニウム(RuO)が優れた疑似容量を示すことが知られており、例えば特許文献1には、酸化ルテニウムを導電基材上に担持させたキャパシタが記載されている。
【0007】
しかしながら、ルテニウムなどのレアメタルは高価であるとともに資源量が限られていることから、より安価で資源量が豊富な材料を使用したキャパシタを開発することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-117696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、ルテニウムなどのレアメタルを使用することなく、高い容量を有するキャパシタ、キャパシタ用コンポジット材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、電極の少なくとも一方が、特定の化学構造を有する金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含むことで、高い容量を有するキャパシタが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明の目的は、
一対の電極と、電解質とを備えるキャパシタであって、
前記電極の少なくとも一方が、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含むことを特徴とする、キャパシタによって達成される。
【0012】
前記式(1)又は(2)において、Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子であることが好ましい。
【0013】
前記式(1)又は(2)において、DからD16が、窒素原子又は炭素原子であることが好ましい。
【0014】
前記式(1)又は(2)において、D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。
【0015】
前記金属錯体又はその付加体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表されることが好ましい。
【0016】
前記金属錯体又はその付加体は、前記金属錯体又はその付加体と前記炭素材料との合計量100質量%に対して、0.1~50質量%の量で含まれることが好ましい。
【0017】
前記炭素材料が、活性炭、ケッチェンブラック、黒鉛、アモルファス炭素、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンから選択されることが好ましい。
【0018】
前記電極は、前記式(1)又は(2)で表される金属錯体又はその付加体及び前記炭素材料を含むキャパシタ用コンポジット材料を含むことが好ましい。
【0019】
前記キャパシタ用コンポジット材料は、20F/cm3以上の容量密度を有することが好ましい。
【0020】
本発明はまた、
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記炭素材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む、本発明のキャパシタ用コンポジット材料の製造方法にも関する。
【0021】
前記工程(a)及び(b)は、前記溶媒の沸点以下の温度で行われることが好ましい。
【0022】
前記金属錯体又はその付加体の前記溶媒に対する溶解度は、0.1g/L以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極の少なくとも一方が、特定の化学構造を有する金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含むことによって、高い容量を有するキャパシタを提供することができる。また、本発明の金属錯体又はその付加体は炭素材料に容易に吸着するため、複雑な製造工程を経ることなく高い容量を有するキャパシタを製造することができる。
【0024】
また、本発明は、ルテニウムなどのレアメタルを使用しないため、比較的安価であって資源供給の制約を受けない高い容量を有するキャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1及び比較例1の充放電試験の結果を示すグラフである。
図2】本発明のキャパシタ用コンポジット材料について、E(VvsNHE)に対する静電容量密度を示すグラフである。
図3】実施例2及び比較例2の充放電試験の結果を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例2のサイクリックボルタモグラム(CV)測定の結果を示すグラフである。
図5】実施例2及び比較例2のガルバノスタティック充放電(GCD)測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のキャパシタは、一対の電極と、電解質とを備えるキャパシタであって、前記電極の少なくとも一方が、特定の化学構造を有する金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含むものである。
【0027】
[金属錯体又はその付加体]
本発明の金属錯体又はその付加体は、以下の式(1)又は(2):
【化7】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される。
【0028】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。さらに、電気的に中性の分子が付加した付加体として存在していてもよい。
【0029】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体又はその付加体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0030】
Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、及びローレンシウム原子が例示される。これらの中でも、Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、又は亜鉛原子であることが好ましく、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、又は銅原子であることがより好ましい。
【0031】
本発明においてハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0032】
本発明においてアルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0033】
本発明においてシクロアルキル基としては、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0034】
本発明においてアルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0035】
本発明においてアルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、(1-ブチニル基)1-ブチン-1-イル基、(2-ブチニル基)2-ブチン-1-イル基、(3-ブチニル基)3-ブチン-1-イル基、(1-メチル-2-プロピニル基)1-メチル-2-プロピン-1-イル基、(2-メチル-3-ブチニル基)2-メチル-3-ブチン-2イル基、(1-ペンチニル基)1-ペンチン-1-イル基、(2-ペンチニル基)2-ペンチン-1-イル基、(3-ペンチニル基)3-ペンチン-2-イル基、(4-ペンチニル基)4-ペンチン-1-イル基、1-メチル-2-ブチニル基(1-メチル-2-ブチン-1-イル基)、(2-メチル-3-ペンチニル基)2-メチル-3-ペンチン-1-イル基、(1-ヘキシニル基)1-ヘキシン-1-イル基、及び(1,1-ジメチル-2-ブチニル基)1,1-ジメチル-2-ブチン-1-イル基が例示される。
【0036】
本発明においてアリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0037】
本発明においてアルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0038】
本発明においてアルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0039】
本発明においてアルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0040】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0041】
からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。DからD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明の金属錯体又はその付加体は、以下の式で表される化合物である。
【0043】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0044】
金属錯体又はその付加体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0045】
[炭素材料]
炭素材料としては、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、活性炭、ケッチェンブラック、黒鉛、アモルファス炭素、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも炭素材料は、活性炭、ケッチェンブラック、黒鉛、アモルファス炭素、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレンであることが好ましく、活性炭、ケッチェンブラック、炭素繊維であることがより好ましい。
【0046】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。
【0047】
炭素材料は、ヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、及びケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、又は珪化されていてもよい。
【0048】
炭素材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、及びスルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有していてもよい。特に、炭素材料は、カルボキシル基を有していることが好ましい。炭素材料がカルボキシル基を有することにより、炭素材料の表面に金属錯体又はその付加体が吸着しやすくなるため、金属錯体又はその付加体による疑似容量が加わり、キャパシタの容量を増加することができる。
【0049】
炭素材料は、酸化処理による表面処理を行ってもよい。特にカーボンブラック等の炭素材料は酸化処理をすることで、カルボキシル基やヒドロキシル基等の親水性官能基を付与することにより金属錯体との相互作用を改良することができ、イオン化ポテンシャルを最適な範囲に制御することが可能となる。酸化処理の方法としては、公知の方法を採用することができ、硝酸、硫酸、塩素酸等の酸化剤水溶液中に撹拌混合する湿式処理や、プラズマ処理やオゾン処理等の気相処理を用いることができる。
【0050】
炭素材料がカルボキシル基を含む場合、カルボキシル基の含有量は、炭素材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、キャパシタの製造コストが低下するため有利である。また、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、金属錯体又はその付加体による疑似容量をさらに増大させることができる。なお、カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定することができる。
【0051】
炭素材料の比表面積は0.8m/g以上が好ましく、10m/g以上がより好ましく、50m/g以上がさらに好ましく、100m/g以上が特に好ましく、500m/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m/g以上であると、炭素材料の表面に吸着する金属錯体又はその付加体の量を増やしやすくなり、金属錯体又はその付加体による疑似容量をさらに増大させることができる。比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば、2000m/gとすることができる。なお、比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0052】
炭素材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、5nm~1000μmが好ましく、10nm~100μmがより好ましく、50nm~10μmがさらに好ましい。炭素材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):炭素材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置又は電子顕微鏡等により測定することができる。
【0053】
金属錯体又はその付加体の含有量が、金属錯体又はその付加体と炭素材料との合計量100質量%に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下であることが最も好ましい。金属錯体又はその付加体の含有量が前記上限値以下であると、金属錯体又はその付加体の及び炭素材料の導電性が優れる。また、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と炭素材料との合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が最も好ましい。金属錯体又はその付加体の割合が前記下限値以上であると、金属錯体又はその付加体による疑似容量をさらに増大させることができる。
【0054】
[電極]
本発明のキャパシタに用いられる電極の少なくとも一方は、金属錯体又はその付加体及び炭素材料に加えて、必要に応じて、導電助剤、増粘剤、バインダー、溶媒及び導電性ポリマー等を含む。
【0055】
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛等が例示される。これらの中でも導電助剤は、アセチレンブラック、黒鉛であることが好ましい。
【0056】
導電助剤の添加量は、電極の全質量に対して、1~50質量%あることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、7.5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー並びにこれらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩等が例示される。これらの中でも増粘剤は、CMCであることが好ましい。
【0058】
増粘剤の添加量は、電極の全質量に対して、固形分換算で0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~7質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
バインダーとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系樹脂等が例示される。これらの中でもバインダーは、SBR、PVDFであることが好ましい。
【0060】
バインダーの添加量は、電極の全質量に対して、固形分換算で0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、CMCを、増粘剤及びバインダーとして兼用してもよい。
【0062】
溶媒としては、水等が例示される。
【0063】
溶媒の添加量は、電極の全質量に対して、0~50質量%であることが好ましく、0~40質量%であることがより好ましく、0~25質量%であることがさらに好ましい。本発明の一実施形態によれば、本発明のキャパシタに用いられる電極の少なくとも一方は溶媒を含まない。
【0064】
導電性ポリマーとしては、スルホン基あるいはカルボキシル基を有するフッ素樹脂膜や分子内に共役結合を有するポリマーである、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、PEDOT等が例示される。これらの中でも導電性ポリマーは、ナフィオン等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、ポリピロールであることが好ましい。本発明の一実施形態によれば、本発明のキャパシタに用いられる電極の少なくとも一方がイオノマーを含むことによって、キャパシタの容量をさらに向上することができる。
【0065】
導電性ポリマーの添加量は、電極の全質量に対して、0~10質量%であることが好ましく、0~7.5質量%であることがより好ましく、0~5質量%であることがさらに好ましい。本発明の一実施形態によれば、本発明のキャパシタに用いられる電極の少なくとも一方は導電性ポリマーを含まない。
【0066】
電極を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、炭素材料に金属錯体又はその付加体を吸着させた活物質、必要に応じて導電助剤、増粘剤、バインダー及び溶媒等を混合して調製した塗工液を集電箔の表面に塗布し、活物質以外の成分を除去することによって製造してもよい。活物質以外の成分を除去する際には、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。また、真空蒸着等によって活物質を含む層(すなわち、活物質層)を集電箔の表面に設けてもよい。電極は、活物質層を集電箔の片面のみに有していてもよく、集電箔の両面に有していてもよい。
【0067】
集電箔は特に限定されないが、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。また、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、及びリチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、及びアンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;並びにグラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、及びカーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の集電箔を使用することもできる。本発明の一実施形態によれば、集電箔は、エッチングアルミ箔であってもよい。
【0068】
活物質層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。活物質層の厚みが前記下限値以上であると、容量密度が優れている。活物質層の厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくくなる。
【0069】
本発明の金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含む電極と対になる電極は、金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含む電極であってもよく、金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含まない電極であってもよい。金属錯体又はその付加体及び炭素材料を含まない電極としては、例えば、前述した導電助剤、必要に応じて増粘剤、バインダー及び溶媒を混合し、これを集電箔上に塗布し、乾燥させ、必要に応じて加圧、加熱等を行うことで作製したものが挙げられる。
【0070】
[電解質]
本発明のキャパシタは、電解質を含む。電解質は、液体又は固体であり得る。これらの中でも電解質は、液体電解質であることが好ましい。
【0071】
液体電解質としては、有機電解液、水系電解液、又はイオン液体等が例示される。これらの中でも液体電解質は、有機電解液であることが好ましい。有機電解液は、1つ以上の塩を溶解させた1つ以上の有機溶媒を含む。
【0072】
有機溶媒はとしては、直鎖アルキルカーボネート、直鎖アルキレンカーボネート、環状カーボネート、環状エステル、直鎖状エステル、環状エーテル、アルキルエーテル、ニトリル、スルホン、スルホラン、シロキサン、及びスルトン等が例示される。本発明の一実施形態によれば、前述の種類のうちの任意の2つ以上の混合物を液体電解質として使用してもよい。これらの中でも有機溶媒は、環状エステル、直鎖アルキルカーボネート、環状カーボネートであることが好ましい。
【0073】
有機溶媒中に溶解した塩としては、四級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩等が例示される。本発明の一実施形態によれば、電解質はプロピレンカーボネート(PC)溶媒中にテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム((CNBF)を溶解させたものである。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、本発明のキャパシタは、一対の電極、電解質、セパレータ、ラミネートフィルム及びタブリード(端子)を含む。本発明のキャパシタにおいて、電極以外の他の構成は、一般的なキャパシタの構成と同じであってもよい。
【0075】
セパレータとしては、公知のセパレータから適宜選択して用いることができる。セパレータとしては、セルロースとポリエステルとの混抄紙等のセルロース系の基材、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどの多孔質フィルム基材、ガラス繊維基材又はこれらを組み合わせて複数層にしたもの等が例示される。
【0076】
[キャパシタ用コンポジット材料]
本発明のキャパシタに含まれる電極は、前述した式(1)又は(2)で表される金属錯体又はその付加体及び前述した炭素材料を含む、キャパシタ用コンポジット材料を含むことが好ましい。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、本発明のキャパシタ用コンポジット材料は、20F/cm以上、好ましくは25F/cm以上、より好ましくは30F/cm以上、さらにより好ましくは40F/cm以上の静電容量密度を有する。本発明のキャパシタ用コンポジット材料は、前記範囲内の静電容量密度を有するため、従来の多孔質炭素のみを用いたキャパシタに用いられるコンポジット材料に比べて、高い容量を有することができる。
【0078】
[キャパシタ用コンポジット材料の製造方法]
本発明は、また、前述したキャパシタ用コンポジット材料の製造方法を提供するものでもある。本発明の一実施形態によれば、キャパシタ用コンポジット材料の製造方法は、
(a)前記金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程、
(b)前記溶液中に前記炭素材料を分散させて、分散液を調製する工程、及び
(c)前記分散液から前記溶媒を除去する工程
を含む。
【0079】
工程(a)は、金属錯体又はその付加体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程である。溶液は、溶媒中に溶解した金属錯体又はその付加体と、溶媒とを含む。溶液を調製する際の温度及び圧力等の条件は、金属錯体又はその付加体が溶媒に溶解可能な条件であれば特に限定されない。例えば、溶液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましく、5~80℃であることがより好ましく、10~50℃であることがさらに好ましい。室温(25℃)で溶液を調製することが最も好ましい。また、圧力は、例えば大気圧下で溶液を調製することができる。
【0080】
溶媒は、金属錯体又はその付加体を溶解させることができる溶媒であれば特に限定されない。金属錯体又はその付加体の溶媒に対する溶解度は0.1g/L以上であることが好ましく、0.4g/L以上がより好ましく、2.0g/L以上がさらに好ましく、10g/L以上が特に好ましい。金属錯体又はその付加体の溶解度の上限値は、特に限定されないが、例えば20g/L以下、好ましくは50g/L以下、より好ましくは100g/L以下であってもよい。金属錯体又はその付加体の溶解度が前記下限値以上であると、金属錯体又はその付加体が溶媒に溶けやすく、金属錯体又はその付加体が炭素材料の表面にさらに均一に吸着しやすくなる。その結果、金属錯体又はその付加体による疑似容量が増大し、キャパシタの容量を増加することができる。
【0081】
溶媒に対する金属錯体又はその付加体の溶解度は、通常、25℃、大気圧下で紫外可視分光法を用いて測定される溶媒1Lあたりの金属錯体又はその付加体の溶解量(g)の最大値である。なお、溶媒に対する金属錯体又はその付加体の溶解度の測定条件は、溶液を調製する際の条件とは無関係である。
【0082】
工程(b)は、溶液中に炭素材料を分散させて、分散液を調製する工程であり、当該工程において金属錯体又はその付加体が炭素材料の表面に吸着し、複合体を形成することができる。すなわち、分散液は金属錯体又はその付加体が炭素材料の表面に吸着している複合体を含む。分散液を調製する際の温度及び圧力等の条件は、炭素材料が分散可能な条件であれば特に限定されない。例えば、分散液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましく、5~80℃であることがより好ましく、10~50℃であることがさらに好ましい。室温(25℃)で分散液を調製することが最も好ましい。
【0083】
工程(c)は、分散液から溶媒を除去する工程であり、金属錯体又はその付加体が炭素材料の表面に吸着している複合体を活物質として得る工程である。分散液から溶媒を除去する方法は特に限定されないが、例えば、固液分離によって除去することができる。固液分離の方法としては、活物質への温度負荷が低減されることから、濾過が好ましい。濾過においては、濾液の吸光度が溶液と比較して10%以上低下することが好ましい。これにより、金属錯体又はその付加体が炭素材料に効果的に吸着したことを判断することができる。
【0084】
本発明のキャパシタ用コンポジット材料の製造方法は高温の熱処理を施すことなく金属錯体又はその付加体と炭素材料との複合体を形成することができるため、有用である。本発明のキャパシタ用コンポジット材料の製造方法は、200℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下で行うことができる。本発明の金属錯体又はその付加体は溶媒に対する溶解度が比較的高いため、溶媒中に高濃度で存在することができる。また、金属錯体又はその付加体の炭素材料との親和性も高いため、炭素材料の表面に効果的に吸着することができる。例えば、金属錯体又はその付加体は炭素材料の表面に一分子状態で吸着した金属錯体又はその付加体の分子層を形成することができる。
【0085】
本発明のキャパシタ用コンポジット材料の製造方法において、各工程はそれぞれ独立した工程であってもよく、複数の工程が一体的となっていてもよい。例えば、工程(a)と工程(b)はそれぞれ独立した工程であってもよく、同一の工程として同時に行ってもよい。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0087】
<実施例1>
キャパシタの特性評価を行うために、以下の工程によってセルを作成した。
【0088】
[金属錯体の合成]
化合物(8)及び(9)の合成
[1]5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルの合成
3.24gのジアミノマレオニトリルに10mLの酢酸を加え、2.64mLのジアセチルを添加し、1時間加熱還流を行った。放冷すると結晶が析出した。これに水10mLを添加し、結晶を濾取した。水洗を行ったのち、乾燥し目的物を得た。収量4.45g。
【0089】
[2]化合物(9)の合成
6.32gの5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルに30mLの1-ペンタノールを加え、さらに1.78gの無水第二塩化鉄、1.9mLの4-メチルピリジンを添加し、145℃に設定したオイルバスで加熱し、反応を行った。5時間反応後、加熱を止めた。反応液の温度が100℃になった時点でメタノール30mLを滴下した。室温まで放冷したのち、減圧濾過を行い、水及びメタノールで丁寧に洗浄したのちアセトンで洗浄し、乾燥した。収量6.8g。
【0090】
[3]化合物(8)の合成
1.8gの化合物(9)をとり、濃硫酸20mLを加えて室温で撹拌した。1時間後、これを200mLの水に滴下した。析出した固体を遠心分離で取り出し、得られた固体を水、メタノールで遠心分離機を用いて洗浄し、化合物(8)を得た。収量1.0g。
【0091】
[電極の作成]
化合物(8):0.5mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)1.0mLに溶解させ、化合物(8)の濃度が0.5g/Lである溶液を調製した。得られた溶液に活性炭10mgを分散させた。分散に際しては、超音波処理(20kHz)を15分間行った。得られた分散液から固液分離及びメタノール洗浄によって溶媒であるDMSOを除去し、室温で24時間乾燥させて実施例1の活物質を得た。
【0092】
次に、導電助剤としてアセチレンブラック(キシダ化学製)を、バインダーとしてSBR(JSR製:SBR TRD-102A)を、増粘剤としてCMC(日本製紙製:MAC350H)をそれぞれ用意し、10gの実施例1の活物質に、アセチレンブラック、SBR及びCMCを添加し混錬した。各物質の混合割合は、以下の通りであった。
活物質 :85.9質量%
アセチレンブラック:10.1質量%
CMC :2.5質量%
SBR :1.5質量%
【0093】
続いて、30μm厚のエッチングアルミ箔に、塗工液を塗布し、乾燥させた。電極塗工・乾燥条件は以下の通りであった。
塗工速度:0.5m/min
乾燥温度:120℃
乾燥時間:10分
電極塗工・乾燥の結果、Dry膜厚が98μmであって、付着量が5.26mg/cmの電極が得られた。
【0094】
[ラミネートセルの作成]
EYELA製真空定温乾燥器VOS-301SD型を用いて、-80kPa以下で電極及びセパレータ(三菱製紙製FPC3018)の真空乾燥処理を行った。真空乾燥処理は以下の条件下で行った。
真空度 :-80kPa以下
乾燥温度:120℃
乾燥時間:12時間
【0095】
真空乾燥した電極、セパレータ及び保護用PP板をスリットした。続いて、スリットした材料を、以下に示す特徴を有するセルに固定し、単層ラミネートセルを作成した。
セル形状 :ラミネート型Aタイプ
ラミネートフィルム:サンクメタル製、110μm厚
セル組み :4水準、計8セル、単層セル
【0096】
次に、3方シールした単層ラミネートセルを60℃、5時間の条件で真空乾燥した。
【0097】
次に、真空乾燥後のラミネートセルに、電解液として1mol/Lの(CNBF(PC溶媒)を注液し、電極を含浸した。含浸は、-80kPa、15分の条件で1回行った。
【0098】
次に、注液及び含浸の終了したラミネートセルを直ぐに真空シールし、ラミネートセルを封止した。
【0099】
<比較例1>
前述の実施例1の活物質の代わりに、化合物(8)を含まない活性炭を比較例1の活物質として用いて、以下の工程によりセルを作成した。
【0100】
[電極の作成]
まず、導電助剤としてアセチレンブラック(キシダ化学製)を、バインダーとしてSBR(JSR製:SBR TRD-102A)を、増粘剤としてCMC(日本製紙製:MAC350H)をそれぞれ用意し、10gの比較例1の活物質に、アセチレンブラック、SBR及びCMCを添加し混錬した。各物質の混合割合は、以下の通りであった。
活物質 :85.0質量%
アセチレンブラック:10.0質量%
CMC :3.5質量%
SBR :1.5質量%
【0101】
続いて、30μm厚のエッチングアルミ箔に、塗工液を塗布し乾燥させた。電極塗工・乾燥条件は以下の通りであった。
塗工速度:0.5m/min
乾燥温度:120℃
乾燥時間:10分
電極塗工・乾燥の結果、Dry膜厚が100μmであり、付着量が5.31mg/cmの電極が得られた。
【0102】
[ラミネートセルの作成]
EYELA製真空定温乾燥器VOS-301SD型を用いて、-80kPa以下で電極及びセパレータ(三菱製紙製FPC3018)の真空乾燥処理を行った。真空乾燥処理は以下の条件下で行った。
真空度 :-80kPa以下
乾燥温度:120℃
乾燥時間:12時間
【0103】
真空乾燥した電極、セパレータ及び保護用PP板をスリットした。続いて、スリットした材料を、以下に示す特徴を有するセルに固定し、単層ラミネートセルを作成した。
セル形状 :ラミネート型Aタイプ
ラミネートフィルム:サンクメタル製、110μm厚
セル組み :4水準、計8セル、単層セル
【0104】
次に、3方シールした単層ラミネートセルを60℃、5時間の条件で真空乾燥した。
【0105】
次に、真空乾燥後のラミネートセルに、電解液として1mol/Lの(CNBF(PC溶媒)を注液し、電極を含浸した。含浸は、-80kPa、15分の条件で1回行った。
【0106】
次に、注液及び含浸の終了したラミネートセルを直ぐに真空シールし、ラミネートセルを封止した。
【0107】
[キャパシタ特性の評価]
実施例1及び比較例1で作成したセルを用いて、以下の条件で充放電試験を行った。
(1)使用機器
北斗電工製 SD8
(2)放電条件
充電 :0.5mA/cmで2.5VまでCC充電
放電 :0.5mA/cmで0VまでCC放電
休止時間 :1sec
サイクル数:100サイクル
測定温度 :25℃
(3)実施セル
実施例:3セル、比較例:2セル
【0108】
充放電試験の結果を図1に示す。図1に示したように、活性炭のみを活物質として用いたキャパシタ(比較例1)と比較して、化合物(8)を含む本発明のキャパシタ(実施例1)は、高い容量を有していた。
【0109】
実施例1及び比較例1のそれぞれの電極に用いたキャパシタ用コンポジット材料及び活性炭について、以下の条件でサイクリックボルタモグラム(CV)測定を行った。CV測定の結果を図2に示す。
【0110】
掃引速度:0.01V/sec
電位範囲:-0.8~1・4(VvsNHE)
上記の電位範囲で、電位を変化させながら容量特性を測定した。
【0111】
図2に示したように、活性炭のみを活物質として用いた比較例1と比較して、本発明のキャパシタ用コンポジット材料(実施例1)は、高い容量を有していた。
【0112】
<実施例2>
キャパシタの特性評価を行うために、以下の工程によってセルを作成した。
【0113】
[電極の作成]
活物質として活性炭と化合物(16)、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用意し混合した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)で適度に希釈してスラリーを得た。各物質の混合割合は、以下の通りであった。
【0114】
活性炭 :72.0質量%
アセチレンブラック:10.0質量%
PVDF :10.0質量%
化合物(16) :8.0質量%
【0115】
続いて、6M HClで表面処理した30μm厚のSUS304箔に塗工液を塗布し、乾燥させた。電極塗工・乾燥条件は以下の通りであった。
【0116】
塗工速度:1.2m/min
乾燥温度:60℃
乾燥時間:2時間
電極塗工・乾燥の結果、Dry膜厚26μmであって、付着量が1.2mg/cmの電極が得られた。
【0117】
[ラミネートセルの作成]
電極を2cm×2cmにスリットし、合わせてセパレータ及び保護用PP板をスリットした。続いて、スリットした材料をセルに固定し、単層ラミネートセルを作成した。
【0118】
次に、ラミネートセルに、電解液として1mol/LのHSOを1ml注液し、電極に含浸させた。含浸は、-80kPa、1分の条件で1回行った。
【0119】
次に、注液及び含浸の終了したラミネートセルを直ぐに真空シールし、ラミネートセルを封止した。
【0120】
<比較例2>
前述の実施例2の電極の代わりに、化合物(16)を含まない電極を作成し、以下の工程によりセルを作成した。
【0121】
[電極の作成]
活物質として活性炭、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてPVDFを用意し混合した後、NMPで適度に希釈してスラリーを得た。各物質の混合割合は、以下の通りであった。
活性炭 :80.0質量%
アセチレンブラック:10.0質量%
PVDF :10.0質量%
【0122】
続いて、6M HClで表面処理した30μm厚のSUS304箔に塗工液を塗布し、乾燥させた。電極塗工・乾燥条件は以下の通りであった。
【0123】
塗工速度:1.2m/min
乾燥温度:60℃
乾燥時間:2時間
電極塗工・乾燥の結果、Dry膜厚が26μmであって、付着量が1.2mg/cmの電極が得られた。
【0124】
[ラミネートセルの作成]
電極を2cm×2cmにスリットし、合わせてセパレータ及び保護用PP板をスリットした。続いて、スリットした材料をセルに固定し、単層ラミネートセルを作成した。
【0125】
次に、ラミネートセルに、電解液として1mol/LのHSOを1ml注液し、電極に含浸させた。含浸は、-80kPa、1分の条件で1回行った。
【0126】
次に、注液及び含浸の終了したラミネートセルを直ぐに真空シールし、ラミネートセルを封止した。
【0127】
[キャパシタ特性の評価]
実施例2及び比較例2で作成したセルを用いて、以下の条件で充放電試験を行った。
【0128】
充放電条件
充電 :5mA/cmで1.0VまでCC充電
放電 :5mA/cmで-0.2VまでCC放電
休止時間 :1sec
サイクル数:1000サイクル
測定温度 :25℃
【0129】
充放電試験の結果を図3に示す。図3に示したように、活性炭のみを活物質として用いたキャパシタ(比較例2)と比較して、化合物(16)を含む本発明のキャパシタ(実施例2)は、高い容量を有し、1000サイクル後もその容量を維持していた。
【0130】
実施例2及び比較例2で作成したセルを用いて、以下の条件でサイクリックボルタモグラム(CV)測定を行った。
【0131】
掃引速度:0.1V/sec
電位範囲:-0.2~1.0(V)
上記の電位範囲で、電位を変化させながら容量特性を測定した。
【0132】
CV測定の結果を図4に示す。図4に示したように、活性炭のみを活物質として用いたキャパシタ(比較例2)と比較して、化合物(16)を含む本発明のキャパシタ(実施例2)は、高い容量を有していた。
【0133】
実施例2及び比較例2で作成したセルを用いて、以下の条件でガルバノスタティック充放電(GCD)測定を行い、出力特性を比較した。
【0134】
充放電条件
充電 :1、2、5、10、20mA/cmで1.0VまでCC充電
放電 :1、2、5、10、20mA/cmで-0.2VまでCC放電
測定温度 :25℃
【0135】
GCD測定の結果を図5に示す。図5に示したように、活性炭のみを活物質として用いたキャパシタ(比較例2)と比較して、化合物(16)を含む本発明のキャパシタ(実施例2)は、高い出力特性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のキャパシタは、電気自動車向けのキャパシタとして使用した場合に、高い容量を有するため有用である。また、本発明のキャパシタはレアメタルを使用することもないため、製造コストを抑えることができ、大量生産に適した製造工程を設計することができる。また、本発明の金属錯体又はその付加体は炭素材料を容易に吸着するため、複雑で高コストな製造工程を経ることなく、高い容量を有するキャパシタ用コンポジット材料を製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5