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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】施工器具
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/18 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
E04F21/18 D
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023534363
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2022048374
(87)【国際公開番号】W WO2023127915
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021215260
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】前橋 義幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 一正
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
(72)【発明者】
【氏名】玉熊 千秋
(72)【発明者】
【氏名】牧 淳一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-294970(JP,A)
【文献】特開昭52-091515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/18
E04F 13/08
E04G 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具であって、
磁力を発生する第1磁気吸着部と、
前記第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備え、
前記第1磁気吸着部および前記第2ヨークの先端面が、それぞれ前記非磁性体に当接するように構成されている、施工器具。
【請求項2】
前記結合ヨーク部の前記第1磁気吸着部および前記結合ヨーク部の前記第2ヨークの後端面に当接される面との間の厚みが、前記非磁性体の厚みより厚くなるように設定される、請求項1に記載の施工器具。
【請求項3】
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとの間の間隔が、前記非磁性体の厚みより大きくなるように設定される、請求項1または2に記載の施工器具。
【請求項4】
請求項2または3に記載の施工器具であって、前記第1磁気吸着部と、前記第2ヨークと、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した磁気回路を構成する、施工器具。
【請求項5】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具であって、
磁力を発生する第1磁気吸着部と、
前記第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備え、
前記第1磁気吸着部と前記結合ヨーク部との間に第1ヨークを備え、
前記第2ヨークの先端には第2磁気吸着部が配置され、
前記第1磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部とは、異なる磁極であって、
前記第1ヨークと第2ヨークとの間に空間を有し、前記結合ヨーク部が把持部として機能する、施工器具。
【請求項6】
前記施工器具は、磁力調整機構を有し、
前記磁力調整機構は、前記結合ヨーク部を、前記第1ヨークに対して前記第1磁気吸着部の吸着面に垂直な軸周りに回動可能に構成する、請求項5に記載の施工器具。
【請求項7】
前記第1磁気吸着部と前記第2磁気吸着部とは、永久磁石または電磁石の少なくとも1つから構成されている、請求項に記載の施工器具。
【請求項8】
前記結合ヨーク部に電磁石を含む補助的磁気吸着部を備える、請求項1または5に記載の施工器具。
【請求項9】
前記結合ヨーク部には、前記第1磁気吸着部と前記第2磁気吸着部との間に、磁力を発生する第3磁気吸着部が配置される、請求項5に記載の施工器具。
【請求項10】
前記第1磁気吸着部と、前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成するとともに、
前記第2磁気吸着部と、前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第2磁気回路を構成する、請求項に記載の施工器具。
【請求項11】
前記第1磁気吸着部と前記第2磁気吸着部は、それぞれ永久磁石であって、
前記第3磁気吸着部は電磁石である、請求項に記載の施工器具。
【請求項12】
前記結合ヨーク部には、前記第1磁気吸着部と前記第3磁気吸着部との間、または前記第2磁気吸着部と前記第3磁気吸着部との間に、磁力を発生する第4磁気吸着部が配置される、請求項に記載の施工器具。
【請求項13】
前記第1磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成し、
前記第1磁気吸着部と、前記第1磁気吸着部と隣接する前記第3磁気吸着部または前記第4磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第2磁気回路を構成し、
前記第2磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部と隣接する前記第4磁気吸着部または前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第3磁気回路を構成する、請求項12に記載の施工器具。
【請求項14】
前記第1磁気吸着部を収納する非磁性材のケーシングをさらに備える、請求項1または5に記載の施工器具。
【請求項15】
前記ケーシングは、前記施工器具を前記非磁性体の表面から簡単に引き離すために下部エッジが円弧状の湾曲部を有する、請求項14に記載の施工器具。
【請求項16】
前記第1磁気吸着部、前記第2磁気吸着部、前記第3磁気吸着部および/または前記第4磁気吸着部の、前記非磁性体を介した前記軟磁性体に対する押圧力を制御する制御機構を備える、請求項12または13に記載の施工器具。
【請求項17】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具であって、
第1ヨークと、
前記第1ヨークと間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を有し、
前記結合ヨーク部は、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に、磁力を発生する電磁石を含む磁気吸着部を備え、
前記第1ヨークおよび前記第2ヨークの前記非磁性体に当接される面と、前記結合ヨーク部の前記第1ヨークと前記第2ヨークとに当接される面との間の厚みが、前記非磁性体の厚みより厚くなるように設定される、施工器具。
【請求項18】
請求項17に記載の施工器具であって、
前記第1ヨークと、前記磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成するとともに、
前記第2ヨークと、前記磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記
非磁性体を介した第2磁気回路を構成する、施工器具。
【請求項19】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具の設計方法であって、
前記施工器具は磁力を発生する第1磁気吸着部と、
前記第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備え、
前記非磁性体に当接される前記第1磁気吸着部および前記第2ヨークの先端面と、前記結合ヨーク部の前記第1磁気吸着部および前記第2ヨークの後端面に当接される面との間の厚みが、前記非磁性体の厚みより厚くなるように設定される、設計方法。
【請求項20】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具の設計方法であって、
磁力を発生する第1磁気吸着部と、
前記第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備え、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとの間の間隔が、前記非磁性体の厚みより大きくなるように設定される、設計方法。
【請求項21】
軟磁性体に非磁性体を固定するための施工器具の設計方法であって、
第1ヨークと、
前記第1ヨークと間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を有し、
前記結合ヨーク部は、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に、磁力を発生する電磁石を含む磁気吸着部を備え、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間の間隔が、前記非磁性体の厚みより大きくなるように設定される、設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力によって軟磁性体に非磁性体を押圧するための施工器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の内装工事では、下地鋼鈑(軟磁性体)あるいは木材に、例えば石膏ボード(非磁性体)をねじ留めするのが一般的であった。この場合、コードで電力を引いて電気ドリルで施工するので、それらを準備する手間がかかり、且つ騒音と粉塵が発生していた。
【0003】
また、固形接着剤を用いて下張り(例えば軟磁性体)に上張り(例えば非磁性体)を重ねる場合等では、特殊なローラーでもって該固形接着剤部分を、人力で体重を掛けて且つ一定時間を掛けて圧締作業を行うことが有った。この場合は、個人間の作業むら(バラツキ)があり、信頼性に欠ける面があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、軟磁性体に非磁性体を固定する作業において、電源や電気ドリル等が不要で、人手による作業時間と労力を軽減できるとともに作業者の熟練度や作業むら排除して、正確・確実な施工を可能にする、磁力によって押圧力を発生させる新規な施工器具を得ることを目的とする。また、ロボットによる作業の自動化にも適した施工器具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の項目を提供する。
【0006】
(項目1)
磁力を発生する第1磁気吸着部と、
前記第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1磁気吸着部と前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備える施工器具。
【0007】
(項目2)
項目1に記載の施工器具であって、前記施工器具は、軟磁性体に非磁性体を固定するためのものであり、前記第1磁気吸着部と、前記第2ヨークと、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した磁気回路を構成することを特徴とする、施工器具。
【0008】
(項目3)
前記第2ヨークの先端に配置された第2磁気吸着部をさらに備え、前記第1磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部とは、異なる磁極である、項目1または2に記載の施工器具。
【0009】
(項目4)
前記第1磁気吸着部と前記結合ヨーク部との間に第1ヨークを備える、項目1に記載の施工器具。
【0010】
(項目5)
前記第1磁気吸着部と前記第2磁気吸着部とは、永久磁石または電磁石の少なくとも1つから構成されている、項目3に記載の施工器具。
【0011】
(項目6)
前記結合ヨーク部に電磁石を含む補助的磁気吸着部を備える、項目1に記載の施工器具。
【0012】
(項目7)
前記結合ヨーク部には、前記第1磁気吸着部と前2ヨークまたは前記第2磁気吸着部との間に、磁力を発生する第3磁気吸着部が配置される、項目3に記載の施工器具。
【0013】
(項目8)
前記第1磁気吸着部と、前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成するとともに、
前記第2磁気吸着部と、前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第2磁気回路を構成する、項目4に記載の施工器具。
【0014】
(項目9)
前記第1磁気吸着部と前記第2磁気吸着部は、それぞれ永久磁石であって、かつそれぞれの磁極は互いに反対極性の磁極であり、
前記第3磁気吸着部は電磁石である、項目4に記載の施工器具。
【0015】
(項目10)
前記結合ヨーク部には、前記第1磁気吸着部と前記第3磁気吸着部との間、または前記第2磁気吸着部と前記第3磁気吸着部との間に、磁力を発生する第4磁気吸着部が配置される、項目4に記載の施工器具。
【0016】
(項目11)
前記第1磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成し、
前記第1磁気吸着部と、前記第1磁気吸着部と隣接する前記第3磁気吸着部または前記第4磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第2磁気回路を構成し、
前記第2磁気吸着部と、前記第2磁気吸着部と隣接する前記第4磁気吸着部または前記第3磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第3磁気回路を構成することを特徴とする、項目7に記載の施工器具。
【0017】
(項目12)
前記第1磁気吸着部、前記第2磁気吸着部、前記第3磁気吸着部および前記第4磁気吸着部を収納する非磁性材のケーシングをさらに備える、項目7に記載の施工器具。
【0018】
(項目13)
前記施工器具が、前記非磁性体との接触面に滑り部材を備える、項目1に記載の施工器具。
【0019】
(項目14)
前記第1磁気吸着部、前記第2磁気吸着部、前記第3磁気吸着部および/または前記第4磁気吸着部の、非磁性体を介した軟磁性体に対する押圧力を制御する制御機構を備える、項目9または10に記載の施工器具。
【0020】
(項目15)
第1ヨークと、
前記第1ヨークと間隔をあけて配置された第2ヨークと、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を有し、
前記結合ヨーク部は、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に、磁力を発生する電磁石を含む磁気吸着部を備える、施工器具。
【0021】
(項目16)
項目12に記載の施工器具であって、前記施工器具は、軟磁性体に非磁性体を固定するためのものであり、
前記第1ヨークと、前記磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第1磁気回路を構成するとともに、
前記第2ヨークと、前記磁気吸着部と、前記結合ヨーク部と、前記軟磁性体とが、前記非磁性体を介した第2磁気回路を構成することを特徴とする、施工器具。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軟磁性体に非磁性体を固定する作業において、人手による作業時間と労力を軽減することができるとともにロボットによる作業の自動化を進めることが可能となる。また、軟磁性体に非磁性体を固定する作業において、作業者の熟練度に依存することなく正確且つ確実な施工を効率的に達成することを可能にする。また、騒音の無い施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態1による施工器具100を説明するための図である。
図2図1に示す施工器具100を説明するための図であり、施工器具100を図1のA方向から見た構造、および施工器具100を図1のB方向から見た構造を示す。
図3図1に示す施工器具100の使用方法の一例を説明するための斜視図である。
図4図1に示す施工器具100と軟磁性体10との間で形成される磁気回路を説明するための図である。
図5図1に示す実施形態1(施工器具100)の変形例1である施工器具101を説明するための斜視図である。
図6図1に示す実施形態1(施工器具100)の変形例2である施工器具102を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態2による施工器具200を説明するための図であり、この施工器具200の外観、ケーシング240の構造、および施工器具200の側面を示す。
図8図7に示す実施形態2の施工器具200の使用状態を説明するための斜視図である。
図9図7に示す施工器具200を非磁性体20から引き離す作業を説明するための側面図である。
図9A】本発明の実施形態3による施工器具250の磁気調整機構を説明するための斜視図である。
図10】本発明の実施形態4による施工器具300を説明するための図である。
図11図10に示す実施形態4の変形例1である施工器具400を説明するための図である。
図12】本発明の実施形態5による施工器具500を説明するための図である。
図13図12に示す実施形態5の変形例1の施工器具600を説明するための図である。
図14】本発明の実施形態6の施工器具700を説明するための図である。
図15】磁石から発出する磁束が軟磁性体に到達する状況を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0025】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0026】
本発明は、軟磁性体に非磁性体を固定させる作業において、人手による作業時間と労力を軽減可能な、磁力によって押圧力を発生させる新規な施工器具を得ることを課題とし、
磁力を発生する第1磁気吸着部と、
第1磁気吸着部と間隔をあけて配置された第2ヨークと、
第1磁気吸着部と第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部と
を備える施工器具を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0027】
従って、本発明の施工器具は、磁石から出た磁束を、2つのヨークとこれらを磁気的に結合する結合部とにより、この磁束が周囲に漏出せず、磁石から離れた軟磁性体まで到達させるものであれば、特に限定されるものではなく、以下具体的に説明する。
【0028】
なお、ここで「磁気的に結合する」とは、磁束が抵抗なく通過可能な材質とその材質同士の接合が実現していることを言う。
【0029】
また、本発明において「磁気回路」とは、第1磁気吸着部である永久磁石および/または電磁石から発出する磁束が、直接的あるいはヨークを通して間接的に一定距離隔てて配置された磁性体に飛び込み、磁性体を通過して一定距離隔てて配置されている第2磁気吸着部である永久磁石および/または電磁石、もしくは第2ヨークへと流れ込み、その後ヨーク結合部および第1ヨークを介して再度第1磁気吸着部である永久磁石および/または電磁石に戻ることで1つの閉回路を形成することを言う(例えば、図4を参照)。
【0030】
本発明の施工器具は、軟磁性体に非磁性体を固定させる作業が求められる施工において広く使用することが可能である。特に、軟磁性体の鋼材からなる下地に接着剤を介して石膏ボード等の非磁性体からなる板状物を固定する建築物の壁材施工作業を行う磁力式の施工器具として好ましいが、本発明はこれに限定されない。壁材に限らず床材、天井材などの固定を行う施工作業などに使用する施工器具として適用可能であることは明らかである。
【0031】
(磁石)
磁石は、磁力を発生し、磁力により軟磁性体に非磁性体を固定する作業における磁気吸着力(押圧力)を生じるものであれば任意の形態であり得る。また、磁石の個数なども任意であり得る。例えば、磁石は1つでもよいし、あるいは2つ以上でもよく、永久磁石でも電磁石でもよいし、永久磁石と電磁石とが混在していてもよい。
【0032】
例えば、1つの実施形態では、磁石は、後述する第1ヨークの先端に配置される第1磁石であり得る。第1磁石は1つであってもよいし、複数であってもよい。また、別の実施形態において、磁石は、第2ヨークの先端に配置された第2磁石であってもよい。第2磁石は、1つであってもよいし、複数であってもよい。なお、第1磁石と第2磁石とを備える場合においては、第1磁石の表面と、第2磁石の表面とは、極性が反対の磁極となっている。さらに、この1つの実施形態において、第1磁石と第2磁石はいずれも永久磁石であってもよいし、あるいはいずれも電磁石であってもよい。さらに、一方(第1磁石)が永久磁石であり、かつ他方(第2磁石)が電磁石であってもよい。
【0033】
例えば、1つの実施形態において、磁石としては、強力な磁力を発生させるネオジム磁石であり得るが、本発明はこれに限定されない。例えば、所望する磁力(押圧力)が得られる範囲内でフェライトやサマリウムコバルトなど様々な材料からなる磁石であり得る。
【0034】
(ヨーク)
本発明の施工器具は、軟磁性体に非磁性体を押し付ける磁力(押圧力)を増強させるためのヨークを備え得る。ヨークは磁石から出る磁束を通しやすいという特徴を有し、ヨークと磁石との組み合わせにより磁気回路が形成されることにより、より強力な磁力(押圧力)を備えることが可能となる。ヨークの形態や材質などは任意であり得る。例えば、ヨークの材料としては、鉄系材料であって、不純物の少ない純鉄や炭素含有率の低い鋼(低炭素鋼)などであり得るが、本発明はこれに限定されない。例えば、磁性を有するステンレス鋼などであってもよい。1つの実施形態において、SS-400やSUS416を採用し得る。特に、SUS416は錆を抑制できる点で好適である。
【0035】
ヨークは、磁気吸着部と結合し得る結合ヨーク部を少なくとも備える。そして状況などに応じて、第1ヨーク、第2ヨーク・・・と所定間隔をあけて配置されるヨークを備え得る。後述する実施形態1においては、第1ヨークと、第1ヨークと間隔をあけて配置された第2ヨークと、第1ヨークと第2ヨークとを磁気的に結合する結合ヨーク部とを備え得る。ヨークは、少なくとも結合ヨーク部に磁力を発生する第1磁気吸着部となる第1磁石を装着し得る。また、軟磁性体に非磁性体を押し付ける磁力(押圧力)をさら増力したい場合には、第2ヨークの先端に第2磁石を装着し得る。
【0036】
図15は磁石から発出する磁束が軟磁性体に到達する状況を説明するための図である。図15(a)に示すように、ヨーク320の先端に磁石A1(永久磁石でも電磁石であってもよい)を配置した場合には、磁石A1から発出する磁束Fは、磁極表面から軟磁性体10に到達する数が多くなるが、図15(b)に示すように、磁石A1をヨーク320の先端ではなくヨーク320とヨーク420との間に配置した場合には、ヨーク420の全表面が磁極となるため磁束Fが広い空間へと広がっていき、軟磁性体10へと向かう磁束Fが少なくなる。このようなことから、磁石A1からなる磁気吸着部はヨーク320の先端に設けることが好ましい。
【0037】
第1ヨークおよび第2ヨークは略柱状体からなる。第1ヨークおよび第2ヨークは先端に第1磁石または第2磁石を装着可能であり、後端に結合ヨーク部と接続可能に構成されている。第1ヨークおよび/または第2ヨークの先端から後端までの距離L1(図2参照)を調整することによって、漏れだして無駄になる磁束を減らすことが可能である。例えば、1つの実施形態では、第1ヨークおよび/または第2ヨークの先端から後端までの距離L1は約30mm以上である。
【0038】
また、第1ヨークおよび/または第2ヨーク先端部分に永久磁石を装着する場合は、実施例で採用した永久磁石の磁化方向の厚さL3が約25mmなので、実際のヨーク部分は約30mm厚(=L1)としている。
【0039】
これは、軟磁性体に固定する非磁性体の厚みL5を約50mmと想定した場合に、第1ヨークおよび/または第2ヨークの厚みL1が約30mm以下だと、永久磁石の厚みL3の約25mmを加えても結合ヨーク部までの長さL6が約55mm以下となり、永久磁石の磁極面からの距離は非磁性体を介した距離と同等か、場合によっては近い距離となってしまい、磁束が軟磁性体に向かわず後方のより近くに位置する第1ヨークおよび/または第2ヨークや結合ヨーク部へと流れてしまう。しかしL1を30mm以上とすることでそれを回避できる。
【0040】
一方、結合ヨーク部の厚さL2は、永久磁石から発出する磁束を通過させるに際して、磁気回路を構成するに十分な通過能力を保持する必要から、約15m~約30mmとする。なお、結合ヨーク部の幅L4が約50mmの場合は、より好ましくは結合ヨーク部の厚みL2は約20mm~約25mmである。
【0041】
更にまた、磁束の短絡を防ぐという同様の理由で、1つの実施形態では、第1ヨークと第2ヨーク間の内側の距離L7は、約50mm~約120mm、好ましくは約60mm~約110mmである。
【0042】
また、本発明の1つの実施例では、第1ヨークおよび第2ヨークが、永久磁石と接する(結合する)面は、約50mm四方である。その理由は、磁気的に吸着引する対象である軟磁性体(下地鋼鈑)の幅が、約40mmのものが多く使用される状況であり、軟磁性体に厚さが約50mmの非磁性体(例えば、石膏ボード等)を固定する場合には、約50mm厚の非磁性体を通過して軟磁性体に磁束を到達させる必要がある。それを達成するためには約40mm幅以上の磁極表面が必要であるため、約50mm幅(長さも約50mmの正方形)で厚さが約25mmの永久磁石を、市販されている製品の中から採用した。
【0043】
なお、磁極から出た磁束は、磁束同士がお互いに斥けあう性質を有していることから空間では急激に広がって磁束密度が低下する。そのため、磁束をより遠くへ、かつより多く到達させるためには磁極表面がより広く、且つより強い(すなわち磁極表面の磁束密度が高い)永久磁石が好適である。
【0044】
例えば、図15(c)は永久磁石A1の幅が軟磁性体10の幅とほぼ同等の幅を有しているのに対して図15(d)の永久磁石B1の幅は軟磁性体10の幅よりも狭い幅となっている。(c)および(d)の永久磁石が同じ素材の磁石(すなわち磁束密度が同じ)であった場合でも、軟磁性体10に到達する磁束Fは(c)の方が多く、(d)の方が少なくなってしまう。それは、磁束同士が反発して空間へ広がる性質を有しているため、磁極平面の端部から発出した磁束Fは中央部の磁束に押されて曲げられて空間に広がってしまって軟磁性体10に到達できなくなる。そして、磁極平面に占める端部の面積の割合は、面積の狭い、あるいは幅が狭い磁石の方が、はるかに大きく、すなわち空間へ広がって軟磁性体へ到達できない磁束の割合が多くなってしまうこととなる。したがって、永久磁石の幅は、軟磁性体の幅の全域をカバーするように軟磁性体の幅よりも大きくするのが好ましい。1つの実施形態において、永久磁石の幅は軟磁性体の幅の約1.25倍のものを採用した。
【0045】
(非磁性体)
本発明の施工器具による磁力を介して、軟磁性体に押圧固定可能なものであれば、非磁性体は任意の形態および材質であり得る。例えば、非磁性体は板状部材であるが、本発明はこれには限定されず、様々な形状であり得る。また、非磁性体は、例えば、建築物の壁材などに使用される石膏ボードであるがこれに限定されない。例えば、アルミニウム、樹脂や紙などからなる壁材、床材や天井材などであってもよい。
【0046】
例えば、非磁性体として、約5mm~約50mmの厚さを有する建築物の壁材などに使用される石膏ボードである。
【0047】
(軟磁性体)
磁石の磁力により吸着可能なものであれば軟磁性体の形態および材質は任意であり得る。例えば、電磁鋼板(ケイ素鋼板)、パーマロイ、ソフトフェライト、純鉄、アモルファスなどであり得る。例えば、軟磁性体は、建築物の支柱などに用いられる下地鋼材であり得る。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0048】
例えば、軟磁性体として、約0.35mm~約1.0mmの厚さを有する建築物の支柱などに用いる下地鋼材である。なお、この下地鋼材は「スタッド」と呼称されることもある。
【0049】
(軟磁性体および非磁性体を介した磁気回路)
本発明の施工器具は、軟磁性体に非磁性体を固定するための器具であり、この施工器具は、第1磁石と、ヨーク(第1ヨークと、第2ヨークと、結合ヨーク部)とを備えることにより、軟磁性体に非磁性体を押圧固定する作業において、第1磁石から出る磁束が第1ヨーク、結合ヨーク部および第2ヨークの順に流れるとともに、第2ヨークから発する磁束が非磁性体を介して軟磁性体に流れ、その後、軟磁性体から第1磁石へと流れるという「磁気回路」が形成される。この磁気回路の形成によって、第1磁石から出た磁束が周囲に殆ど漏出することなく、磁気回路内を流れることにより強い磁力(押圧力)でもって非磁性体を軟磁性体へ押圧することが可能となる。
【0050】
なお、第1ヨークの先端に第1磁石を備える場合について説示したが、第1ヨークの先端の他、第2ヨークの先端に第2磁石を備える場合であっても、ほぼ同様の磁気回路が形成される。なお、その際には、第1磁石の表面と第2磁石の表面の磁極は、反対の磁極である。このように第1磁石と第2磁石とを備える場合には、第1磁石のみの場合に比べてさらに強い磁力(押圧力)を発生させることが可能となるため、好ましい。求められる押圧力に応じて磁石の数を増加させてもよい。
【0051】
(磁石を収納するケーシング)
施工器具は、第1磁石および第2磁石を収納する非磁性材のケーシングを有することが好ましい。
【0052】
施工器具の磁石には、大きな磁力を発生するネオジム磁石などが用いられるため、保管あるいはメンテナンス作業の際に、周辺の軟磁性体が直接磁石に吸着されると、磁石から離れなくなったり、吸着するときの衝撃で作業者が怪我をしたりする恐れがあり、このような事態を回避するためには、直に磁石に軟磁性体などからなる周辺の部材が吸着しないようにすることが有効である。
【0053】
また、ケーシングは、第1磁石および第2磁石の両方を収納するものでもよいし、あるいは、第1磁石を収納する第1のケーシングと、第2磁石を収納する第2のケーシングとを含むものでもよい。ケーシングが、第1磁石および第2磁石の両方を収納する場合には、ケーシングの構造が簡単で製品コストの削減などが可能となる。
【0054】
また、ケーシングが、第1磁石および第2磁石の各々に対応するケーシングを有する場合は、第1ヨークおよび第2ヨークが結合ヨーク部に固定された状態でヨークに第1磁石および第2磁石を取り付ける作業が簡単になる。なぜなら、ヨークと磁石との固定はこれらの間に生ずる強い磁力により行われることから、第1磁石と第2磁石とが一つのケーシングに収納されている場合には、第1磁石と第2磁石それぞれの磁力が相互に影響することにより、ヨークに第1磁石および第2磁石をそれぞれ所定の位置に収納する作業が煩雑になる。それに対して、第1磁石を収納するケーシングと第2磁石を収納するケーシングとにそれぞれ分けることによって、第1ケーシングに収納された第1磁石を第1ヨークに取り付ける作業において第2磁石の影響を抑制でき、第2ケーシングに収納された第2磁石を第2ヨークに取り付ける作業において第1磁石の影響を抑制できることで取り付ける作業の効率化を図ることが可能となるからである。
【0055】
(滑り性)
本発明の施工器具は、軟磁性体に非磁性体を固定する場合において、施工器具の重量は、施工器具の非磁性体との接触面における最大静止摩擦力(なお、この最大静止摩擦力は、施工器具による軟磁性体との磁気吸着力を考慮する)と同程度かそれ以上であることが好ましい。
【0056】
本件発明の施工器具での施工は、基本的に最上位置から最下位置へと略垂直方向に沿って移動させるものである。したがって、上記施工を行う際に施工器具の自重によって下方向に下がる力が作用することにより、施工器具を素手でもって作業する際に、ほとんど力を使わずに施工器具を非磁性体上において容易に移動させることが可能となる。
【0057】
1つの実施形態において、軟磁性体である下地鋼板(スタッド)の厚さが0.83mmのものに、厚さが19.6mmの非磁性体である石膏ボードを取り付ける場合の施工器具と石膏ボードとの間の最大静止摩擦力は約4.3kgfである(施工器具の石膏ボードとの接触面はアルミニウムであって、施工器具と石膏ボードとの静摩擦係数は測定結果による0.55を用いる)。
【0058】
それに対して本発明の1つの実施形態における施工器具の重量は約4.5kgであり、施工器具と石膏ボードとの最大静止摩擦力とほぼ同じであるため、ほとんど力を加えることなく施工器具を軟磁性体に沿って垂直方向に移動させることが可能であり、作業者が楽に施工することが可能となる。
【0059】
なお、その他の実施形態において、スタッドの厚さが0.83mmで、石膏ボードの厚さが9.8mm、施工器具と石膏ボードとの静摩擦係数0.55の場合、最大静止摩擦力は約7.2kgとなる。この場合は施工器具の重量約4.5kgであると、作業者が施工する際に施工器具に力をかける必要が出てくるが、そのような場合には施工器具の石膏ボードと接触する面に滑り部材などを設けることにより静止摩擦係数を低くするようにしてもよい。
【0060】
なお、上記説明では、施工器具の重量を最大静止摩擦力に基づいて説明したが、必ずしもこの説明に限定されないことは言うまでもない。また、動摩擦力との関係も同様である。
【0061】
(滑り部材)
滑り部材を備えることで、施工器具を非磁性体上で滑らせて、軟磁性体にその上に配置されている非磁性体を押し付ける位置を連続的に移動させる作業をスムーズに行うことが可能となる。
【0062】
接触面を研磨加工などで表面粗さを小さくすることで、滑り性を高めてもよいし、フッ素樹脂など滑り性の高い素材を接触面に取り付けておいてもよい。
【0063】
(押圧力の制御機構)
本発明の施工器具は、押圧力の制御機構を備えることで以下のような効果を発揮できる。
【0064】
本発明の施工器具を、下地鋼材(例えば、下地鋼鈑)に非磁性体(例えば、石膏ボード等)を貼り付ける工法に採用した場合などは、石膏ボード表面に押し当てて下地鋼鈑が有りそうな位置に近づけると、磁気的な吸引力でもって本器具は下地鋼鈑の上へ引き寄せられ、スムーズに作業を開始できる。そして、作業が終われば、石膏ボード表面内で下地鋼鈑から遠ざける方向へ本器具をずらすことが、比較的わずかな力で可能である。
【0065】
具体的には、特別な装置や器具を必ずしも必要としないが、異なる作業等に使用した場合は、本器具で作業を開始するに当たり、或いは作業を終えて、磁気吸着力を弱める必要が有ることがある。そこで、好ましくは、施工器具は、磁力により非磁性体を軟磁性体に押し付ける押圧力を制御する機構を備え得る。施工器具は、誤って目的外の軟磁性体に固定されてしまった場合や、広く連続した非磁性体が施工器具の押圧力により接着剤を介して軟磁性体にしっかり固定された後に、施工器具を非磁性体の表面から引き離す必要があるが、そのような場合には、磁力による押圧力を調整することにより施工器具を非磁性体表面から引き離す作業を簡単に行うことが可能となる。
【0066】
ただし、施工器具にこのような制御機構を設ける代わりに、施工器具の形状を、てこなどの原理で非磁性体の表面から引き離しやすい形状とするようにしてもよい。
【0067】
(軟磁性体および非磁性体の厚さ、並びに押圧力の大きさ)
本発明の施工器具が適用される軟磁性体の厚さは、特に限定されるものではないが、約0.35mm以上であり、好ましくは、約0.45mm以上である。
【0068】
なお、軟磁性体の厚さが薄いと磁束を通過させる能力(機能)が小さく、厚いと能力(機能)が強くなるので、磁気吸着能力を高めるためには、軟磁性体(例えば、下地鋼材)は厚くするのが好ましい。そのため、既存の下地鋼材の裏側に軟磁性体を添えることによって既存の下地鋼材が薄い場合であっても、磁気吸着力を高めることが可能となる。
【0069】
本発明の施工器具が適用される非磁性体の厚さは、特に限定されるものではないが、約60mm以下であり、好ましくは、約50mm以下である。
【0070】
本発明の施工器具は、軟磁性体の厚さが0.5mm以上、非磁性体の厚さが50mm以下の場合に、非磁性体を軟磁性体に押圧する押圧力が約1.0kgf、好ましくは、約1.3kgf以上を達成するように、第1磁石および/または第2磁石の磁力および、第1ヨークおよび/または第2ヨークの先端から後端までの距離、結合ヨーク部の高さ、第1ヨークと第2ヨークとの間の距離が調整されている。
【0071】
上述したように、本発明の施工器具は、第1ヨークと第2ヨークとこれらを磁気的に結合する結合部とにより、磁石から出た磁束が漏出せず、磁石から離れた軟磁性体を通るように、磁石からの磁束を軟磁性体の占有領域まで到達させるものであれば、特に限定されるものではないが、以下の実施形態では、2つの磁石と、2つのヨークと、結合ヨーク部とを有するものを挙げて説明する。
【0072】
特に、実施形態1では、施工器具は、軟磁性体としての下地鋼材に建築物の壁面となる非磁性体としての石膏ボードを、テープ状固形接着剤(スマートJG工法(登録商標)で使う専用の両面接着テープ)を用いて固定する場合に用いる施工器具とする。
【0073】
実施形態1の変形例1としては、磁石を収納するケーシングの構造が実施形態1のものと異なる施工器具を挙げる。
【0074】
実施形態1の変形例2としては、結合ヨーク部の外形形状が実施形態1と異なる施工器具を挙げる。
【0075】
実施形態2では、軟磁性体に磁気吸着している施工器具を非磁性体から簡単に引き離すための構造を有する施工器具を挙げる。
【0076】
実施形態3では、磁気吸着力を制御する機構を備えた施工器具を挙げる。
【0077】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0078】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による施工器具100を説明するための斜視図であり、図1(a)は、この施工器具の外観を示し、図1(b)は、施工器具100を構成するケーシング140の構造を分解して示す。図2は、図1に示す施工器具100を説明するための図であり、図2(a)は、施工器具100を図1のA方向から見た構造を示す側面図、図2(b)は、施工器具100を図1のB方向から見た構造を示す上面図である。
【0079】
この施工器具100は、図1(a)に示す構造をなし、軟磁性体10に非磁性体20を押し付けるための器具であり、第1磁気吸着部として永久磁石からなる第1磁石110aと、第2磁気吸着部として永久磁石からなる第2磁石110bと、第1ヨーク120aと、第2ヨーク120bと、結合ヨーク部130と、ケーシング140とを有している。
【0080】
(第1磁石110a、第2磁石110b)
ケーシング140は、図1(b)に示すように、底有りの直方体形状の容器としての本体部141と、本体部141の上面開口を塞ぐ四角形の平板状の蓋部142とを含み、蓋部142の四隅が本体部141の側壁端面にビス143で固定されている。そして、第1磁石110aおよび第2磁石110bは、自己の磁力により第1ヨーク120aおよび第2ヨーク120bの下端にケーシング140の蓋部142を介して吸着固定されている。ケーシングの構成材料はアルミニウム、合成樹脂などの非磁性材を用いることができる。なお、ケーシングの構成材料がアルミニウムの場合、一つの実施形態では、その表面は、艶消しのサンドブラスト処理が施されている。具体的には、太さ0.1mmのステンレス糸で編んだ100メッシュの篩を通過した砂粒子でブラストする処理である。
【0081】
(第1ヨーク120a、第2ヨーク120b)
第1ヨーク120aは、直方体形状の結合ヨーク部130の一端にネジなどの接続部材(図示せず)で接続されており、第2ヨーク120bは、直方体形状の結合ヨーク部130の他端にネジなどの接続部材(図示せず)で接続されている。第1ヨーク120a、第2ヨーク120bおよび結合ヨーク部130は、鉄などの軟磁性体で構成されている。
【0082】
(結合ヨーク部130)
結合ヨーク部130が、2つの第1ヨーク120aと第2ヨーク120bとを磁気的に結合している。
【0083】
(磁気回路)
結合ヨーク部130によって、第1ヨークと第2ヨークとが磁気的に結合されることによって、第1磁石および第2磁石から出た磁束が第1磁石および第2磁石から所定距離離れた位置まで第1磁石および第2磁石からの磁束をほとんど漏れさせることなく、対向している軟磁性体(図示せず)まで到達させることが可能となる。そのようにすることにより、第1磁石110aおよび第2磁石110bの吸着面に軟磁性体10が所定距離以内に近づいたときに、第1磁石110a、第1ヨーク120a、結合ヨーク部130、第2ヨーク120b、第2磁石110b、および軟磁性体10が、これらを磁束密度の高い磁束が通過する磁気回路を形成する。その結果、施工器具の磁力によって発生する強い押圧力によって、軟磁性体に非磁性体を押し付けることが可能となる。軟磁性体に固定する非磁性体の厚みを最大約50mmと想定した場合に、磁石が軟磁性体に面している箇所から結合ヨーク部までの距離L6は、約55mm以上であることが好ましい。
【0084】
なお、実施形態1において、結合ヨーク部と第1磁気吸着部である第1磁石との間に第1ヨーク、結合ヨーク部と第2磁気吸着部である第2磁石との間に第2ヨークを配置した場合について説示しているが、第1ヨークを設けず結合ヨーク部に直接第1磁気吸着部である第1磁石を接続してもよいし、第2ヨークを設けず結合ヨーク部に直接第2磁気吸着部である第2磁石を接続しても、本件発明の施工器具として上記実施形態1と同様の効果を奏する。
【0085】
また、施工器具100では、構造的には、第1ヨーク120a、第2ヨーク120b、および結合ヨーク部130は、施工器具100を持つための把手部となっている。
【0086】
このような施工器具100では、一対のヨーク120a、120bの間隔、およびこれらのヨーク120a、120bの長さ(ケーシング140の非磁性体20との接触面に垂直な方向の寸法)は、施工器具100が非磁性体20を軟磁性体10に対して押さえつけたときの磁石110a、110bと軟磁性体10との距離(エアーギャップ)、軟磁性体10の断面積および透磁率などに基づいて、所望の押圧力(つまり、施工器具100が非磁性体20を軟磁性体10に対して押す力)が得られるように最適に設定されている。
【0087】
また、このように磁気回路が形成されている場合は、磁気回路に含まれるエアーギャップ(軟磁性体が存在しない領域)に磁力線を集中させることができ、その結果、エアーギャップを隔てて対向する磁性体を強い力で磁気吸着することができる。
【0088】
次に、実施形態1の施工器具100の使用方法を説明する。
【0089】
図3は、図1に示す施工器具100の使用方法を説明するための図であり、図3(a)および図3(b)はそれぞれ施工器具100の操作手順を示す斜視図である。図4は、施工器具100と軟磁性体10との間で形成される磁気回路を示し、図4(a)および図4(b)は、エアーギャップの大きさが異なる場合を示す。
【0090】
以下で説明する作業は、具体的には、軟磁性体10としての下地鋼材にテープ状固形接着剤30を用いて非磁性体20としての石膏ボードを張り付ける作業である。
【0091】
まず、下地鋼材10にテープ状固形接着剤30を張り付けた状態で、下地鋼材10上にテープ状固形接着剤30を介して石膏ボード20を重ね合わせる。このとき、石膏ボード20はテープ状固形接着剤30に密着しており、これにより石膏ボード20は下地鋼材10に仮止めされた状態となる(図3(a))。
【0092】
この仮止め状態で、図3(a)の矢印で示すように施工器具100を石膏ボード20に近づけて、石膏ボード20の表面のうちの下地鋼材10が存在する部分に配置すると(図3(b))、施工器具100の第1磁石110a、第1ヨーク120a、結合ヨーク部130、第2ヨーク120b、および第2磁石110bが軟磁性体10と磁気結合し、これにより、非磁性体20の厚みをエアーギャップとする磁気回路が形成される(図4(a))。
【0093】
このような磁気回路におけるエアーギャップ、つまり、磁性体が存在しない部分では、磁性体が存在する部分に匹敵する程度の強い磁力線(密度の高い磁束)MF1が存在することとなり、施工器具100が下地鋼材10に大きな力で磁気吸着されることとなる。なお、(施工器具と軟磁性体(スタッド)との距離L5) < (ヨーク間距離L7)であると、磁束漏れを減少させることが可能になり、吸着力の向上が見込める。
【0094】
この状態で、図3(b)の矢印で示すように施工器具100を下方に移動させることにより、施工器具100が下地鋼材10に対して石膏ボード20を押さえ付ける領域が、下地鋼材10に沿って移動することとなる。
【0095】
これにより石膏ボード20のうちの、テープ状固形接着剤30を介して下地鋼材10に対向する部分が均等な押圧力で押圧されることとなり、テープ状固形接着剤30により石膏ボード20が1つの下地鋼材10に本付けされることとなる。
【0096】
その後、石膏ボード20が本付けされた下地鋼材10の隣に位置する下地鋼材10に対して、石膏ボード20を押さえつける作業を同様に行う。このような作業を繰り返すことにより石膏ボード20を下地鋼材10に張り付ける。
【0097】
また、施工器具100は、石膏ボード20を下地鋼材10に張り付ける場合だけでなく、下地鋼材10に張り付けた石膏ボード22にさらに外側の別の石膏ボード21を張り付ける場合(図4(b)参照)にも用いることができる。この場合でも、2枚の石膏ボード22および21の厚みの合計が、施工器具100が形成する磁束MF2が周囲に漏出せずに下地鋼材10に届く範囲であれば、図4(b)に示すように、施工器具100の第1磁石110a、第1ヨーク120a、結合ヨーク部130、第2ヨーク120b、および第2磁石110bが、軟磁性体10に磁気結合して、これらが、エアーギャップを含む磁気回路を形成することとなる。
【0098】
このような構成の実施形態1の施工器具100では、軟磁性体に非磁性体を押し付ける際に、軟磁性体までの距離が遠くても磁力による大きな押圧力を発生させることができる。
【0099】
また、施工器具100の磁気吸着力で下地鋼材に対して板状物(つまり、石膏ボード)20を押し付けるので、下地鋼材に対して板状物を押し付ける力が、作業者によってばらついたり、あるいは板状物の場所によって不均一になったりすることがなく、しかも、押付け作業は下地鋼材10に沿って施工器具100を移動させるだけであるので、押し付ける力が均一であり、且つ手間と労力を削減できる。
【0100】
なお、実施形態1の施工器具100は、2つの磁石を収納する1つのケーシング140を有するものであるが、施工器具100は、1つのケーシング140に代えて、第1磁石110aおよび第2磁石110bの各々を個別に収納する個別のケーシング140a、140bを有していてもよい。
【0101】
(実施形態1の変形例1)
図5は、第1、第2の磁石110a、110bに対応する個別のケーシング140a、140bを有する施工器具101を実施形態1の変形例1として説明するための斜視図であり、図5(a)は、この施工器具の外観を示し、図5(b)は、施工器具101を構成する第1ケーシング140aの構造を分解して示し、図5(c)は、施工器具101を構成する第2ケーシング140bの構造を分解して示す。
【0102】
この施工器具101は、実施形態1の施工器具100における、第1磁石110aおよび第2磁石110bを収納する1つのケーシング140に代えて、第1磁石110aおよび第2磁石110bの各々を個別に収納する個別の2つのケーシング140a、140bを備えたものである。
【0103】
ここで、第1ケーシング140aは、図5(b)に示すように、底有りの直方体形状の容器としての本体部141aと、本体部141aの上面開口を塞ぐ四角形の平板状の蓋部142aとを含み、蓋部142aの四隅が本体部141aの側壁端面にビス143aで固定されている。また、第2ケーシング140bも、図5(c)に示すように、第1ケーシング140aと同様、本体部141bに蓋部142bをビス143bで固定した構造となっている。
【0104】
従って、この施工器具101では、第1磁石110aは、自己の磁力により第1ヨーク120aの下端にケーシング140aの蓋部142aを介して吸着固定され、本体部141aによりカバーされている。同様に、第2磁石110bは、自己の磁力により第2ヨーク120bの下端に第2ケーシング140bの蓋部142bを介して吸着固定され、本体部141bによりカバーされている。
【0105】
このように施工器具101が第1ヨーク120aおよび第2ヨーク120bの各々に対応するケーシング140a、140bを有する場合は、第1ヨーク120aおよび第2ヨーク120bが結合ヨーク部130に固定された状態で各ヨークに第1磁石110aおよび第2磁石110bを取り付ける作業が簡単になる。
【0106】
なぜなら、第1ヨーク120aと第1磁石110aとの固定、および第2ヨーク120bと第2磁石110bとの固定はこれらの間に生ずる磁力により行われることから、第1磁石110aと第2磁石110bとがそれぞれ別々の第1ケーシング140aおよび第2ケーシング140bに収納されている場合は、第1ケーシング140aに収納された第1磁石110aを第1ヨーク120aに取り付ける作業を第2磁石の影響を受けずに行うことが可能となり、また、第2ケーシング140bに収納された第2磁石110bを第2ヨーク120bに取り付ける作業において第1磁石の影響を受けずに行うことが可能であり、その結果、作業時間を短縮することが可能である。
【0107】
なお、実施形態1において第1磁石および第2磁石をそれぞれ永久磁石として説示しているが、いずれか一方または両方を電磁石としてもよいことは明らかである。また、下記に示す他の実施形態においても同様に第1磁石および第2磁石は永久磁石でもあってもよいし電磁石であってもよい。
【0108】
また、実施形態1の施工器具100の外形形状は特に限定されるものではなく、実施形態1の外形形状とは異なる形状を有していてもよい。また、実施形態1では、第1磁石および第2磁石は、それぞれ自己の磁力により第1ヨークおよび第1ヨークの下端にケーシングの蓋部を介して吸着固定されるが、第1磁石、ケーシングの蓋部、第1ヨークおよび結合ヨーク部に、図1(a)の状態で同一軸心となる貫通ネジ孔を高さ方向に設け、皿ネジ(図示せず)により上記各部材を締結することで、ケーシング内における第1磁石の固定を補強してもよい。第2磁石についても同様である。また、実施形態1の変形例でも同様である。
【0109】
(実施形態1の変形例2)
図6は、図1に示す実施形態1の施工器具100の変形例2である施工器具102を説明するための図であり、図6(a)は、図2(a)に対応する側面図であり、図6(b)は、図2(b)に対応する上面図である。
【0110】
この実施形態1の変形例2による施工器具102は、実施形態1の施工器具100における第1ヨーク120a、第2ヨーク120bおよび結合ヨーク部130が別体である構造に代えて、第1ヨーク120a、第2ヨーク120bおよび結合ヨーク部130を一体化した構造(一体化ヨーク)150を備えたものであり、その他の構成は、実施形態1の施工器具100と同一である。
【0111】
具体的には、この施工器具102では、一体化ヨーク150は、第1磁石110aが磁気吸着により固着される第1ヨーク部分151と、第2磁石110bが磁気吸着により固着される第2ヨーク部分152と、第1ヨーク部分151と第2ヨーク部分152とを磁気的に結合する結合ヨーク部分153とは、1つの軟磁性体により一体的に形成されて、施工器具102の把手を構成している。
【0112】
そして、把手の握り部分を構成する結合ヨーク部分153は、図6(a)に示すように円弧状に外側に湾曲した部分(凸状湾曲部)153aを有するとともに内側部分に滑り止め用の凹凸を備え、さらに、図6(b)である上面図に見られるように中央に近づくにつれて幅が狭くなる形状となっている。
【0113】
この施工器具102では、把手は、外側に湾曲した凸状湾曲部153aを含み、しかも中央側ほど両端側に比べて幅が狭くなる形状となっているので、手の小さい作業者(例えば女性の作業者)でも施工器具102を持ちやすくなっている。
【0114】
このような形状の施工器具102においても、図4に示した磁力線が把手部分をスムーズに通過することが出来れば、実施形態1の施工器具100と同様な効果が得られる。
【0115】
また、実施形態1(あるいはその変形例)の施工器具100(101、102)は、軟磁性体10に対する非磁性体20の十分な押圧力が得られるように、軟磁性体10に非磁性体20を介して強く磁気吸着する構成となっているので、軟磁性体10に非磁性体20を押し付ける作業が終了した後に、軟磁性体10に対して非磁性体20を介して磁気吸着している施工器具100を作業性よく非磁性体20から引き離すための機構を備えることが好ましく、以下このような機構を備えた施工器具を実施形態2および実施形態3として説明する。
【0116】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2による施工器具200を説明するための図であり、図7(a)は、この施工器具200の外観を示す斜視図、図7(b)は、施工器具200を構成するケーシング240の構造を分解して示す斜視図、図7(c)は、施工器具200を図7(a)のC方向から見た構造を示す側面図である。
【0117】
この実施形態2の施工器具200は、実施形態1の施工器具100の構成において、施工器具100のケーシング140に代えて、このケーシング140とは外形形状が異なるケーシング240を備え、さらに、把手としての役割を担う結合ヨーク部230に加えて、さらなる把手としての役割を担う補助把手230aを備えたものである。
【0118】
これらの構成は、施工器具200をその長手方向(一対の磁石の並ぶ方向)に平行なケーシング240の下部エッジ241aを中心軸として施工器具200を回動させやすくするものである。
【0119】
すなわち、この実施形態2の施工器具200では、ケーシング240は、実施形態1の施工器具100におけるケーシング140と同様、本体部241と蓋部242とを含み、蓋部242を本体部241にビス243で固定したものであるが、本体部241の構造が実施形態1の施工器具100におけるケーシング140の本体部141とは異なる。
【0120】
つまり、この実施形態2の施工器具200のケーシング240では、本体部241の長手方向(一対の磁石の並ぶ方向)に平行な一方の下部エッジ241a、つまり、本体部241の底面と側面とが交わる交差部分は、アール状に面取りした形状となっており、施工器具200をこの下部エッジ241aを中心軸として側方に倒しやすい形状となっている。
【0121】
このため、施工器具200が軟磁性体10との間での強い磁気により非磁性体20に吸着していても、施工器具200を下部エッジ241aを支点としてこの下部エッジ側に倒すことで、簡単に施工器具200を非磁性体20から引き離すことができる。
【0122】
また、この実施形態2の施工器具200では、把手としての役割を担う結合ヨーク部230に加えて、さらなる把手としての補助把手230aが設けられているので、施工器具200を非磁性体20から引き離す際には、施工器具200を両手で、つまり、一方の手で結合ヨーク部230を持ち、他方の手で補助把手230aを持って、施工器具200を下部エッジ241a側に倒すことができ、施工器具200を非磁性体20から引き離す作業を無理なく行うことができる。
【0123】
また、この施工器具200を構成する第1磁石210a、第2磁石210b、第1ヨーク220a、第2ヨーク220b、および結合ヨーク部230は、実施形態1における対応する部材と同一の構成を有している。
【0124】
ここで、補助把手230aの全体の形状はコ字型形状となっており、コ字型形状の平行な2辺に相当する部分の先端が、第1ヨーク220aおよび第2ヨーク220bの一端側の側面部に接合されている。ここで、この補助把手230aは、アルミニウムあるいは合成樹脂などの非磁性材で構成されており、ヨーク、磁石などとともに磁気回路を形成するものではない。
【0125】
次に、実施形態2の施工器具200を用いた作業で、施工器具200を非磁性体20から引き離す作業を説明する。
【0126】
図8は、図7に示す実施形態2の施工器具200の使用状況を示す斜視図であり、図9は、施工器具200を非磁性体20から引き離す作業を説明するための図であり、図9(a)は、磁気により施工器具200が非磁性体20に張り付いている状態を示し、図9(b)は、施工器具200がケーシング240の下部エッジ241aを支点として傾倒した状態を示している。
【0127】
図8に示すように、施工器具200で非磁性体(石膏ボード)20を軟磁性体(下地鋼材)10に押し付けた状態で、施工器具200を軟磁性体10の下端まで移動させてきたとき、この施工器具200を非磁性体20の表面から引き離す作業が行われる。
【0128】
具体的には、図8および図9(a)に示すように、磁気により施工器具200が非磁性体20に張り付いている状態で、作業者は、一方の手(例えば右手)で結合ヨーク部230を持ち、もう一方の手(例えば左手)で補助把手230aを持って、施工器具200がケーシング240の下部エッジ241aを支点として紙面右側に傾くように力を入れる。つまり、右手では結合ヨーク部230が右側に倒れるように結合ヨーク部230を押付け、左手では補助把手230aが持ち上がるように補助把手230aを引き上げる。
【0129】
これにより、施工器具200は、図9(b)に示すように、ケーシング240の下部エッジ241aを支点として右回転することとなる。このとき、回転の支点となる下部エッジ241aは面取りされた円弧状の湾曲した形状となっているので、よりスムーズにケーシング240の底面が非磁性体20の表面から浮き上がることとなり、施工器具200を簡単に非磁性体20の表面から引き離すことができる。
【0130】
さらに、以下に実施形態3として、軟磁性体10に対して非磁性体20を介して磁気吸着している施工器具100を作業性よく非磁性体20から引き離すのに適した実施形態2のものとは別の構成として、施工器具が軟磁性体10に吸着する磁力の大きさを調整する機構を備えた施工器具について説明する。
【0131】
(実施形態3)
実施形態3の施工器具は、実施形態1の施工器具100において、施工器具の磁気吸着力を調整する機構(磁力調整機構)を備えたものでもよいし、あるいは実施形態1の変形例1の施工器具101において上記磁力調整機構を備えたものでもよい。
【0132】
図9Aは、本発明の実施形態3による施工器具250の磁気調整機構を説明するための斜視図である。図9Aに示すように、この実施形態3の施工器具を構成する磁力調整機構は、図9Aの(a)図のように、結合ヨーク部130の一端側を、第1ヨーク120aに対して、第1磁石110aの磁気吸着面に垂直な軸J1周りに回動自在に設けるとともに、結合ヨーク部130の他端側を第2ヨーク120bに対して、結合ヨーク部130の他端側の裏面S1と第2ヨーク120bの表面S2とを面同士で摺動可能に設け、更に第2ヨーク120bと結合ヨーク部130とを連結拘束するためのラッチJ2を設け、磁力を弱めたいときは、図9Aの(b)図のように、ラッチJ2を解除した後、結合ヨーク部130の他端側を第2ヨーク120bの表面から離脱するように、第1ヨーク120aに対して結合ヨーク部130を回動させることで磁気回路を断絶することが可能となる。
【0133】
このような構成の施工器具では、誤って目的外の軟磁性体に固定されてしまった場合や、広く連続した非磁性体が施工器具の押圧力により接着剤を介して軟磁性体にしっかり固定された後に、施工器具を非磁性体の表面から引き離すことが必要となる状況では、磁力による押圧力を調整することにより施工器具を非磁性体表面から引き離す作業を簡単に行うことが可能となる。
【0134】
(実施形態4)
図10は、本発明の実施形態4による施工器具300を説明するための図である。
【0135】
図10に示すように、実施形態4の施工器具300は、実施形態1~3の第1磁石310aおよび第2磁石310bを永久磁石とする点では同じであるが、結合ヨーク部330に電磁石を形成するコイル340を設けた点で実施形態1~3に記載の施工器具とは異なる。コイル340に所定方向(図10の矢印Xを参照)の電流を通電することにより磁気回路を流れる磁束数を増加させることが可能となり、その結果、軟磁性体10に非磁性体20を固定する磁気吸着力を大きくすることが可能となる。
【0136】
また、コイル340に所定方向とは逆方向(図10の矢印Y)の電流を通電することにより、第1磁石310aおよび/または第2磁石310bが発出する磁束数を弱める効果を奏する。
【0137】
このように、電磁石を構成するコイル340に流す電流の向きや電流の大きさを変更することによって、磁気吸着力の大きさを任意に制御することが可能となる。このように第1磁石310aおよび/または第2磁石310bが発出する磁束数を弱める機能を奏する方向にコイルに電流を流すことによって施工器具300を軟磁性体10に直接または非磁性体20を介して軟磁性体10に磁気吸着した状態の解除を容易に行うことが可能となる。この構成は、ロボットハンドの先に施工器具300を備えた場合に、コイル340に流す電流の向きを施工器具300で軟磁性体10に非磁性体20を固定する状態と、固定が終了し次の作業場所に施工器具300を移動させる状態とを制御装置(図示せず)で制御することで作業を自動化する場合に特に有用である。
【0138】
(実施形態4の変形例1)
図11は、図10に示す実施形態4の変形例1を説明するための図である。図11に示すように、実施形態4の変形例1の施工器具400は、実施形態4が結合ヨーク部330に電磁石を設けているのに対して、第2磁石310bの部分を永久磁石ではなくコイル340からなる電磁石を設けた点で異なる。このような場合であっても、図10に示す実施形態4と同様に、第2磁石310bの電磁石を構成するコイル340に流す電流の向きを変えることによって、磁気回路を流れる磁束の数(すなわち磁気吸着力)を増加させたり、減少させたりすることが可能となる。
【0139】
なお、図11において、第1磁石310aを永久磁石としているが、第1磁石310aを電磁石としてもよいし、第1磁石310aをなくし第1ヨークのみにしても、同様に第2磁石310bの電磁石を構成するコイル340に流す電流の向きを制御することで、磁気吸着力を増加させたり減少させたりすることが可能となる。
【0140】
なお、第1磁石310aに磁石を設けず第1ヨーク320aのみとした場合には、磁気回路に流れる磁束数は、コイル340に流れる電流とコイル340の巻き数との積と、第2ヨーク320bに採用された鋼材の磁気特性とによって決定される。第2磁石310bに磁石を設けない場合には、第2磁石310bのコイル340に電流を流さない場合は、磁束数はゼロであり磁気吸着力は発生しないこととなる。このようにすることにより、施工器具400に磁気吸着力が必要な状況の時のみ発生させることが可能となり、不必要に磁気吸着力が発生することによる事故を防止することができる点で有用である。
【0141】
(実施形態5)
図12は、本発明における実施形態5を説明するための図である。図12に示すように実施形態5の施工器具500は、第1ヨーク320aと第2ヨーク320bの間に第3ヨーク320cを設け、その第3ヨーク320cの先端部にコイル340を巻き付けることで電磁石を形成する第3磁石310cを備えること、および第1磁石310aの磁極と第2磁石310bの磁極とを同じ極性とするとともに、第3磁石310cの磁極を第1磁石310aおよび第2磁石310bとは異なる極性とすることが特徴である。
【0142】
このような施工器具500において、第3磁石310cの電磁石のコイル340に電流を流さない場合にはまず第3磁石310cによる磁気吸着力は発生しない。また、第1磁石310aの磁極と第2磁石310bの磁極とが同じ極性であるため、本発明における磁気回路が形成されないため第1磁石310aおよび第2磁石310bにおける磁気吸着力は小さいものとなる。
【0143】
第3磁石310cの電磁石を構成するコイル340に電磁石の先端がN極となるように電流を流すと、電磁石のN極から発生した磁束は、非磁性体20を介して軟磁性体10に飛び込み、軟磁性体10の中を図12における左右方向にそれぞれ分かれて、分かれた磁束はそれぞれ第1磁石310aおよび第2磁石310bのS極へと到達し、第1磁石310aおよび第2磁石310bのS極へと到達した磁束は第1ヨーク320a、第2ヨーク320bおよび結合ヨーク部330および第3ヨーク320cを通過して第3磁石310cに戻ってくる磁気回路がそれぞれ形成されることになる。これにより図11に示す1つの磁気回路と比べて2つの磁気回路を形成できることになり、図11の場合に比べておおよそ2倍の磁気吸着力を得ることが可能となる。
【0144】
(実施形態5の変形例1)
図13は、図12に示す実施形態5の変形例1の施工器具600を説明するための図である。図13に示すように、実施形態5の変形例1の施工器具600は、実施形態5の施工器具500が第1ヨーク320aおよび第2ヨーク320bの先端にそれぞれ永久磁石からなる第1磁石310aおよび永久磁石からなる第2磁石310bを有しているのに対して、第1ヨーク320aおよび第2ヨーク320bの先端に磁石を有していない点で異なる。
【0145】
この施工器具600では、第3磁石310cを構成する電磁石のコイル340に電流を流さない場合には、施工器具600全体に磁気吸着力が発生しない。それに対して、第3磁石310cを構成する電磁石のコイル340に磁石先端に磁極(例えば、図13に示す場合はN極)が発生するように電流を流すことによって、電磁石のN極から発出した磁束は非磁性体20を介して軟磁性体10に飛び込み、軟磁性体10の中を図12における左右方向にそれぞれ分かれて、分かれた磁束はそれぞれ第1ヨーク320a、第2ヨーク320bおよび結合ヨーク部330を介して、第3ヨーク320cを通過して第3磁石310cに戻ってくる磁気回路がそれぞれ形成されることになる。これにより図11に示す1つの磁気回路と比べて2つの磁気回路を形成できることになり、図11の場合に比べておおよそ2倍の磁気吸着力を得ることが可能となる。なお、図12に示す実施形態5の施工器具500の方が図13に示す変形例1の施工器具600に比べて磁束の漏れが少なくより強い磁気吸着力を得ることが可能である。
【0146】
また、実施形態5および実施形態5の変形例1においては、第1磁石310aである永久磁石から発出する磁束数と第2磁石310bである永久磁石から発出する磁束数とが漏れない効率的な磁気回路を形成するためには、第3磁石310cに設けられる電磁石が発出する磁束数は、第1磁石310aである永久磁石から発出する磁束数と、第2磁石310bである永久磁石から発出する磁束数とを合算した大きなものとすることが必要となる。そのため、電磁石の高重量化が求められることになるため、手作業による施工よりもロボットハンドに取付けて作業を自動化する際に特に有用となる。
【0147】
軟磁性体の位置が正確に把握可能な施工現場においては、高重量化した施工器具であってもロボットが容易に施工器具を所定位置に移動させることが可能であり、且つコイルへの通電および解除をその動きと連動して制御することも容易であるので、正確に且つばらつきの無い施工を達成することが可能となる。
【0148】
(実施形態6)
図14は、本発明の実施形態6を説明するための図である。図14に示すように実施形態6の施工器具700は、実施形態5の施工器具500に対して、第3ヨーク320cと第1ヨーク320aもしくは第2ヨーク320bとの間に第4ヨーク320dを設け、第4ヨーク320dの先端にコイル342を有する電磁石を構成する第4磁石310dを設け、第1磁石310aである永久磁石と第2磁石310bである永久磁石の磁極とを異なる極性にするとともに、第3磁石310cである電磁石の磁極と第4磁石310dである電磁石の磁極とを異なる極性とする点で異なる。
【0149】
この施工器具700において、第3磁石310cの電磁石であるコイル341および第4磁石310dの電磁石であるコイル342に電流を流さない場合は、実施形態1~3の施工器具と同様に第1磁石310aである永久磁石のS極(またはN極)と第2磁石310bである永久磁石のN極(またはS極)との間で磁気回路が形成される。
【0150】
それに対して永久磁石のS極の隣に配置された電磁石の磁極をN極、永久磁石のN極の隣に配置された電磁石の磁極をS極とすることにより、第1磁石310aと第2磁石310bとの間の磁気回路、第1磁石310aと第3磁石310cとの間の磁気回路および第2磁石310bと第4磁石310dとの磁気回路の3つの磁気回路を構成することが可能となる。
【0151】
(実施例1)
本発明における施工器具の実施例1を示す。
【0152】
第1磁石および第2磁石は、非磁性体に接触する部分が50.2mm×50.2mm、厚みが25.4mmのネオジム磁石であり、メーカーの技術資料によれば、磁力は約480mT、吸着力は約784Nである。
【0153】
そして、第1ヨークおよび第2ヨークは、磁石に接触する部分が50.2mm×50.2mm、先端から後端までの距離が30mmの鋼材である。
【0154】
結合ヨーク部は、全長(第1ヨークに接続する端部と第2ヨークに接続する端部との間の距離)が約203mm、厚みが約20mmの鋼材である。
【0155】
また、第1磁石および第2磁石は、それぞれアルミ製の中空ケーシングに収容されている。
【0156】
これらの構成からなる施工器具を用いることにより、施工器具の磁力によって厚み0.8mmの下地鋼材に対して、以下の厚みの石膏ボードを以下の1kgf以上の押圧力で磁気吸着することが達成された。
【0157】
例えば、石膏ボード厚みが8.3mmである場合は、押圧力は14.25kgfであった。
【0158】
石膏ボード厚みが9.8mmである場合は、押圧力は13.05kgfであった。
【0159】
石膏ボード厚みが15.0mmである場合は、押圧力は9.30kgfであった。
【0160】
石膏ボード厚みが19.6mmである場合は、押圧力は7.75kgfであった。
【0161】
いずれの場合も、石膏ボードを1kgf以上の大きな押圧力で下地鋼材に対して石膏ボードを磁気吸着することができた。
【0162】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明は、軟磁性体に非磁性体を固定する作業において、人手による作業時間と労力を軽減できるとともに、作業者の熟練度や作業むら排除して、正確・確実な施工を可能にする、磁力に依って押圧力を発生させる新規な施工器具を得るものとして有用である。また、ロボットによる作業の自動化に適した施工器具を得るものとして有用である。
【符号の説明】
【0164】
10 軟磁性体(下地鋼材)
20、21、22 非磁性体(板状物)
30 テープ状固形接着剤
100、101、102、200、250,300、400、500、600、700 施工器具
110a、210a、310a 第1磁石
110b、210b、310b 第2磁石
310c 第3磁石
310d 第4磁石
120a、220a、320a 第1ヨーク
120b、220b、320b 第2ヨーク
320c 第3ヨーク
320d 第4ヨーク
340、341、342 コイル
130、230、330 結合ヨーク部
140、240 ケーシング
140a 第1ケーシング
140b 第2ケーシング
141、141a、141b、241 本体部
142、142a、142b、242 蓋部
143、143a、143b、243 ビス
230a 補助把手
241a 下部エッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図9A
図10
図11
図12
図13
図14
図15