(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】光照射デバイスおよび光照射システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/067 20060101AFI20240228BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20240228BHJP
A61N 5/06 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
A61N5/067
A61B18/20
A61N5/06 A
A61N5/06 B
A61N5/06 Z
(21)【出願番号】P 2023572241
(86)(22)【出願日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2023028641
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/008007
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323003506
【氏名又は名称】イルミメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和秀
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-506624(JP,A)
【文献】国際公開第2004/112902(WO,A1)
【文献】特表2011-525827(JP,A)
【文献】特開2006-271831(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071023(WO,A1)
【文献】特開平03-092144(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111645(WO,A1)
【文献】特表2016-520623(JP,A)
【文献】特表2003-508124(JP,A)
【文献】特開2020-138940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0333205(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
A61B 18/20
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状である医療用の光照射デバイスであって、
所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備え、
前記レーザ光源は、
生体の血管の内部に挿入された状態で、前記光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射すること
で、血管壁を透過させて前記血管の外部の生体組織にレーザ光を照射し、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光の、前記光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度が、80W/cm
2
以上1600W/cm
2
以下であることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
複数の前記レーザ光源を前記先端部に備えることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の光照射デバイスであって、
前記複数のレーザ光源の少なくとも一部のレーザ光の出射が、他のレーザ光源とは独立して制御可能であることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の光照射デバイスであって、
前記複数のレーザ光源は、同一の波長域のレーザ光を出射することを特徴とする光照射デバイス。
【請求項5】
請求項2に記載の光照射デバイスであって、
前記複数のレーザ光源の一部には、他のレーザ光源の波長域とは異なる波長域のレーザ光を出射するレーザ光源が含まれることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
長尺状であるデバイス本体の内部に前記レーザ光源が内包されており、
前記デバイス本体のうち、少なくとも前記レーザ光源を内包する部位が、前記レーザ光源が出射する前記レーザ光を透過する材質によって形成されていることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
前記レーザ光源が設けられる前記先端部に、放射線不透過性を有するマーカー部を備えることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項8】
請求項
7に記載の光照射デバイスであって、
前記レーザ光源の少なくとも一部の部材が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、前記レーザ光源が前記マーカー部として機能することを特徴とする光照射デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
前記レーザ光源は、基板に対して垂直な方向にレーザ光を照射する面発光レーザであることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
前記レーザ光源は、半導体を素材として製造された回路素子である半導体レーザであることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
前記先端部へ入射した光を光センサへ伝送する光検出用伝送部材、または、前記先端部に設けられた光センサをさらに備えたことを特徴とする光照射デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
複数の温度センサをさらに備え、
前記複数の温度センサの各々の温度の測定位置が、前記先端部における複数の部位の各々に配置されていることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項13】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
基端側から前記先端部へかけて延びる配線をさらに備え、
前記配線が螺旋状に配置されていることを特徴とする光照射デバイス。
【請求項14】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
前記先端部に、前記生体の管腔内における前記先端部の位置を検出するための位置検出部材をさらに備えたことを特徴とする光照射デバイス。
【請求項15】
請求項1に記載の光照射デバイスであって、
磁界内に置かれることで発生する磁力によって、生体内における前記先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内する磁性部材をさらに備えたことを特徴とする光照射デバイス。
【請求項16】
医療用の光照射システムであって、
長尺管形状に形成されたカテーテルと、
前記カテーテルの内腔に挿入される長尺状の光照射デバイスと、
を備え、
前記光照射デバイスは、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備え、
前記レーザ光源は、
生体の血管の内部に挿入された状態で、前記光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射
することで、血管壁を透過させて前記血管の外部の生体組織にレーザ光を照射し、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光の、前記光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度が、80W/cm
2
以上1600W/cm
2
以下であり、
前記カテーテルにおける先端側側面の少なくとも一部に、前記光照射デバイスが備える前記レーザ光源によって出射されたレーザ光を外部に透過させる光透過部が形成されることを特徴とする光照射システム。
【請求項17】
請求項
16に記載の光照射システムであって、
前記カテーテルのうち、少なくとも前記光照射デバイスの前記レーザ光源が近接する先端側の部位は、熱伝導率が0.1W/m・K以上の材質によって形成されていることを特徴とする光照射システム。
【請求項18】
請求項
16に記載の光照射システムであって、
前記カテーテルに前記光照射デバイスが挿入された状態で、前記カテーテルの内腔に冷却用の流体が流入されることを特徴とする光照射システム。
【請求項19】
請求項
16に記載の光照射システムであって、
前記カテーテルは、複数の温度センサをさらに備え、
前記複数の温度センサの各々の温度の測定位置が、前記カテーテルにおける複数の部位の各々に配置されていることを特徴とする光照射システム。
【請求項20】
請求項
16に記載の光照射システムであって、
前記カテーテルは、基端側から先端側へかけて延びる配線をさらに備え、
前記配線が螺旋状に配置されていることを特徴とする光照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体管腔内に挿入されて光を照射する光照射デバイスおよび光照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
疾患を治療する技術の1つとして、PDT(Photodynamic Therapy:光線力学的療法)が知られている。PDTでは、光感受性物質が生体に投与された後、生体に対して光が照射される。その結果、癌細胞で発生する活性酸素によって癌細胞が死滅する可能性がある。しかし、PDTでは、光感受性物質を癌細胞に選択的に集積させることが困難である。光感受性物質が正常な細胞に取り込まれることに起因する副作用の発生が、PDTの課題となっている。
【0003】
これに対し、近年、NIR-PIT(Near-infrared photoimmunotherapy:近赤外光線免疫療法)が提案されている。NIR-PITでは、癌細胞の特異的な抗原に対する抗体と、光感受性物質の2つの化合物を結合させた複合体が用いられる。複合体は、生体に投与されると、体内のがん細胞に選択的に集積され易い。その後、複合体中の光感受性物質の励起波長(例えば、690nmを含む波長等)の光が照射されることで、複合体が活性化される(例えば、特許文献1等参照)。NIR-PITでは、抗体によって複合体が選択的に癌細胞に集積され、且つ、癌細胞へ局所的に光が照射されると、PDTに比べて副作用が発生し難くなる。
【0004】
690nmを含む波長域は、生体の分光学的窓とも言われ、他の波長域に比べて生体成分による光の吸収が少ない波長域である。一方で、690nmを含む波長域の光は、体表から照射されても体内まで浸透し難いので、体表からの照射では体内深部の癌を治療することは困難である。
【0005】
そこで、体表からの光の照射ではなく、より癌細胞に近い位置から光を照射するための技術が提案されている。例えば、特許文献2に記載のデバイスは、血管内に挿入されることで、体内の深部から光を照射する。特許文献3に記載のデバイスでは、特許文献2に記載のデバイスに比べて光照射部位の位置決めを容易にすることを意図して、放射線不透過性を有するマーカーが、光照射部の近傍に設けられている。また、特許文献4に記載の装置では、中空のシャフト内に複数の発光ダイオードが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-523907号公報
【文献】特開2018-867号公報
【文献】特開2020-185257号公報
【文献】特表2007-528752号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献3に記載のデバイスでは、外部に設けられた光源が出射した光を、光伝送部材(例えば光ファイバ等)によってデバイスの先端まで伝送する必要がある。光伝送部材を用いると、生体の管腔内で光伝送部材に屈曲等が生じることで、光がデバイスの先端まで伝送される前に漏洩または減衰してしまう場合があった。光が漏洩または減衰すると、光の伝送効率の低下、または安全性の低下等の問題が生じる可能性がある。また、光伝送部材によって光が伝送される過程で、光の特性(例えば波長等)が変化し、意図した治療効果が得られ難くなる可能性もある。さらに、複数の光伝送部材の接続が必要となる場合もある。一方で、特許文献4に記載の装置では、光伝送部材は用いられていないが、複数の発光ダイオードから出射される光が多方向に広がるので、特定の位置に光を選択的に照射することは著しく困難である。従って、生体の管腔内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光を照射することが可能な技術が望まれる。
【0008】
本開示の典型的な目的は、生体の管腔内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光を照射することが可能な光照射デバイスおよび光照射システムを提供することである。
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する光照射デバイスは、長尺状である医療用の光照射デバイスであって、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備え、前記レーザ光源は、生体の血管の内部に挿入された状態で、前記光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射することで、血管壁を透過させて前記血管の外部の生体組織にレーザ光を照射し、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の、前記光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度が、80W/cm
2
以上1600W/cm
2
以下である。
【0010】
本開示における典型的な実施形態が提供する光照射システムは、医療用の光照射システムであって、長尺管形状に形成されたカテーテルと、前記カテーテルの内腔に挿入される長尺状の光照射デバイスと、を備え、前記光照射デバイスは、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備え、前記レーザ光源は、生体の血管の内部に挿入された状態で、前記光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射することで、血管壁を透過させて前記血管の外部の生体組織にレーザ光を照射し、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の、前記光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度が、80W/cm
2
以上1600W/cm
2
以下であり、前記カテーテルにおける先端側側面の少なくとも一部に、前記光照射デバイスが備える前記レーザ光源によって出射されたレーザ光を外部に透過させる光透過部が形成される。
【0011】
本開示に係る光照射デバイスおよび光照射システムによると、生体の管腔内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光が照射される。
【0012】
本開示の光照射デバイスは、長尺状である医療用の光照射デバイスであって、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備える。レーザ光源は、光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。
【0013】
本開示の光照射デバイスは、光伝送部材(例えば光ファイバ等)を介さずに、先端部に設けられたレーザ光源から生体の特定の位置に光を直接照射することができる。従って、光伝送部材を用いる場合に生じる種々の問題(例えば、光伝送部材の途中で光が漏洩する問題、および、光が伝送される過程で光の特性が変化する問題等の少なくともいずれか)が生じることが、適切に抑制される。また、レーザ光源は、光照射デバイスの先端部から、長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。レーザ光源は、発光ダイオードに比べて、発散し難く指向性が高い光を出射することが容易である。従って、本開示の光照射デバイスは、レーザ光源から出射されるレーザ光を、生体の特定の位置に選択的に照射することができる。その結果、意図しない位置へ光が照射されることによる種々の不具合(例えば、副作用の発生等)も生じにくくなる。さらに、レーザ光源は、発光ダイオードに比べてスペクトル幅が狭い波長の光を照射できる性質を有する。従って、レーザ光源を光照射デバイスの先端部に設けることで、治療のために必要な波長(例えば、光感受性物質の励起波長等)とは異なる波長が組織に照射されることによる各種不具合(例えば、効率の低下、および、意図しない組織の変化等の少なくともいずれか)の発生も抑制される。よって、生体内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光が照射され易くなる。
【0014】
なお、光照射デバイスの「先端部」とは、光照射デバイスにおける厳密な先端のみを指すものではない。つまり、特定の部位への選択的なレーザ光の照射が可能となる範囲内で、厳密な先端よりも基端側に光照射部が設けられている場合も、本開示における「先端部に備える」の範囲に含まれる。
【0015】
光照射デバイスは、複数のレーザ光源を先端部に備えていてもよい。1つの光照射デバイスに複数のレーザ光源が設けられることで、レーザ光源が1つのみ設けられる場合に比べて、レーザ照射の自由度(例えば、レーザの照射面積、照射密度、照射方向等の少なくともいずれかの調整のし易さ)が向上する。その結果、適切な治療効果がさらに得られ易くなる。
【0016】
複数のレーザ光源の少なくとも一部のレーザ光の出射が、他のレーザ光源とは独立して制御可能であってもよい。この場合、レーザ照射の自由度がさらに向上する。例えば、レーザ光を出射させるレーザ光源の数を調整することで、レーザの照射面積、照射密度、照射方向等の少なくともいずれかを変更することも可能である。また、レーザ光を出射させるレーザ光源を切り換えることで、レーザ光を照射する部位を変更することも可能である。
【0017】
ただし、複数のレーザ光源によるレーザ光の出射が纏めて制御されてもよい。この場合でも、複数のレーザ光源の数および配置等が適宜設計されることで、レーザ照射の自由度は適切に向上する。
【0018】
複数のレーザ光源は、同一の波長域のレーザ光を出射してもよい。この場合、同一の波長域のレーザ光を、より高い自由度で(例えば、レーザの照射面積、照射密度等の少なくともいずれかを適切に調整した状態で)特定の部位に照射することができる。その結果、適切な治療効果がさらに得られ易くなる。
【0019】
複数のレーザ光源の一部には、他のレーザ光源の波長域とは異なる波長域のレーザ光を出射するレーザ光源が含まれていてもよい。この場合、例えば、異なる波長域のレーザ光を、選択的に、または合波して生体組織に照射すること等も可能となる。よって、治療の自由度がさらに向上する。
【0020】
長尺状であるデバイス本体の内部に、レーザ光源が内包されていてもよい。デバイス本体のうち、少なくともレーザ光源を内包する部位が、レーザ光源が出射するレーザ光を透過する材質によって形成されていてもよい。レーザ光源をデバイス本体の内部に内包させることで、レーザ光源がデバイス本体から外部に露出する場合に比べて、レーザ光源が安定した状態でデバイス本体に保持されると共に、レーザ光源の故障等の不具合も生じにくくなる。さらに、レーザ光源から出射されたレーザ光は、デバイス本体を透過して適切に生体組織に照射される。よって、より適切に治療が行われ易くなる。
【0021】
ただし、デバイス本体の構成を変更することも可能である。例えば、デバイス本体のうち、レーザ光源から出射されるレーザ光が通過する部位に、部材が省略されたレーザ光透過窓が形成されていてもよい。この場合、デバイス本体のうち、レーザ光源の近傍の部位の材質は、レーザ光を透過する材質に限定されない。
【0022】
本願の発明者は、第1評価試験および第2評価試験(後述する)を行うことで、レーザ光源から出射されるレーザ光の、光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度の望ましい範囲(上限および下限)を新たに見出した。レーザ光源から出射されるレーザ光の、光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度は、80W/cm2以上1600W/cm2以下であってもよい。この場合、光感受性物質にレーザ光を照射することによる治療効果が適切に得られ易くなる。
【0023】
なお、光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度は、より望ましくは300W/cm2以上1300W/cm2以下、さらに望ましくは600W/cm2以上1300W/cm2以下であってもよい。一例として、本開示では、光照射デバイスから外部へ出射される時点における光照射密度は、約1273W/cm2とされる。
【0024】
また、光照射密度の上記の条件は、光照射デバイスに設けられるレーザ光源の数に関わらず適用できる。例えば、複数のレーザ光源から同時にレーザ光を出射させてレーザ光を合波させる場合には、合波されたレーザ光の光照射密度の条件が、上記の条件とされてもよい。
【0025】
光照射デバイスは、レーザ光源が設けられる先端部に、放射線不透過性を有するマーカー部を備えてもよい。この場合、医療従事者(例えば医師等)は、放射線(例えばX線等)を利用して生体内部を撮影しながら、光照射デバイスによって生体組織にレーザ光を照射させる際に、撮影画像に表れるマーカー部の位置を確認することで、レーザ光の照射位置を適切に調整することができる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0026】
レーザ光源の少なくとも一部の部材が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、レーザ光源自身がマーカー部として機能してもよい。この場合、レーザ光源とは別でマーカー部が設けられていなくても、放射線撮影によってレーザ光源の位置が適切に把握される。さらに、レーザ光源自身がマーカー部として機能することで、レーザ光源の位置がさらに正確に医療従事者によって把握される。よって、より適切に治療が行われ易くなる。
【0027】
ただし、マーカー部の構成を変更することも可能である。例えば、レーザ光源とは別でマーカー部が設けられていてもよい。例えば、光照射部材の先端部には、先端チップが設けられていてもよい。先端チップの少なくとも一部の部材が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、先端チップがマーカー部として機能してもよい。この場合、先端チップがマーカー部の機能を兼ねるので、部品点数の増加が抑制された状態で、レーザ光の照射位置の調整が適切に補助される。また、レーザ光源および先端チップとは別でマーカー部が設けられてもよい。1つの光照射デバイスに複数のレーザ光源が用いられる場合には、各々のレーザ光源毎にマーカー部が設けられていてもよい。この場合、複数のレーザ光源の各々の位置が、適切に把握され易くなる。
【0028】
レーザ光源は、基板に対して垂直な方向にレーザ光を照射する面発光レーザであってもよい。面発光レーザを利用することで、小さい電力で適切にレーザ光が出射され、且つ、温度変化に対する耐性も高い光照射デバイスとなる。さらに、面発光レーザは、基板面に対して垂直な方向にレーザ光を出射できるので、レーザ光の照射位置をより正確に調整し易くなる。
【0029】
レーザ光源は、半導体を素材として製造された回路素子である半導体レーザであってもよい。半導体レーザは小型化が容易なので、径が小さい光照射デバイスに対しても適切に組み込まれ易い。また、半導体レーザは、位相が揃った指向性の高いレーザ光を、小さい電力で出射することが可能である。よって、治療効果も安定し易くなる。
【0030】
光照射デバイスは、先端部へ入射した光を光センサへ伝送する光検出用伝送部材、または、先端部に設けられた光センサをさらに備えていてもよい。この場合、光照射部の先端部へ入射する光の状態が、光センサによって適切に検出される。なお、先端部へ入射した光を光センサへ伝送する光検出用伝送部材が設けられる場合、光照射デバイスの先端部の構成が複雑になることが抑制された状態で、先端部における光の状態が適切に検出される。また、先端部に光センサが設けられる場合、先端部における光の状態が、先端部の光センサによって直接検出される。つまり、光センサによって検出される光には、伝送される過程で生じ得る光の特性の変化が生じにくい。よって、より正確に光の状態が検出され易くなる。
【0031】
なお、光センサとは別で、または光センサと共に、他のセンサが光照射デバイスの先端部に設けられてもよい。例えば、光照射デバイスの先端部に温度センサが設けられてもよい。この場合、光照射デバイスの先端部における温度が適切に検出される。よって、例えば、先端部に設けられたレーザ光源の駆動に起因する温度上昇、および、レーザ光が生体組織に出射されることに起因する温度上昇等の少なくともいずれかが、適切に把握される。また、光照射デバイスは、先端部へ入射した光を分光センサへ伝送する光検出用伝送部材、または、先端部に設けられた分光センサをさらに備えていてもよい。分光センサは、レーザ光源から照射された光を吸収した物質が発生させる光を検出する。分光センサによる検出結果を確認することで、レーザ光が対象部位(例えば、光感受性物質が集積した患部等)に適切に照射されているか否かを確認することができる。さらに、光を吸収した物質が発生させる光の発光強度の経時的変化をモニタリングすることで、治療の進捗状況を確認することも可能である。また、光照射デバイスは、先端部に圧力センサを備えていてもよい。レーザ光が照射された光感受性物質が反応すると、細胞内容物が周囲に飛散する。圧力センサによる検出結果を確認することで、光感受性物質が適切に反応したか否かを確認することが可能である。また、光照射デバイスは、先端部にpHセンサを備えてもよい。この場合、pHセンサによる検出結果を確認することで、光照射デバイスの先端部近傍におけるpHを適切に把握することができる。また、光照射デバイスは、先端部に流速センサを備えてもよい。この場合、流速センサによる検出結果を確認することで、光感受性物質が適切に反応したか否かを確認することが可能である。以上のように、光照射デバイスは、種々のセンサシステムを備えることで、治療に有用な種々の情報を提供することが可能である。
【0032】
光照射デバイスは、複数の温度センサを備えていてもよい。複数の温度センサの各々の温度の測定位置は、光照射デバイスの先端部における複数の部位の各々に配置されていてもよい。この場合、複数の測定位置の各々における温度の検出結果に基づいて有用な情報が得られる。例えば、複数の測定位置のいずれが、他の測定位置に比べて高い温度となっているかを確認することで、レーザ光が照射されている方向を確認することも可能である。また、医療従事者は、各測定位置における温度をより正確に把握することで、治療の精度を向上させることも可能である。
【0033】
光照射デバイスは、基端側から先端部へかけて延びる配線をさらに備えていてもよい。配線の少なくともいずれかは、光照射デバイスの本体において螺旋状に配置されていてもよい。配線が螺旋状に配置されることで、配線が軸線方向に沿って真っ直ぐに配置される場合に比べて、長尺状である光照射デバイスの剛性が適切に確保され易くなる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0034】
なお、螺旋状に配置する配線は適宜選択できる。例えば、温度センサ(例えば熱電対等)の配線が螺旋状に設けられていてもよい。また、複数の温度センサの測定位置(測定点)を光照射デバイスの先端部に配置する場合、螺旋状に配置された配線の複数の位置の各々に、温度センサの測定位置が配置されてもよい。この場合、長尺状である光照射デバイスの軸線方向および周方向の各々について、複数の温度センサの測定位置を容易且つ適切に配置することが可能である。また、レーザ光源の配線等が螺旋状に配置されてもよい。
【0035】
また、少なくともいずれかの配線が、放射線不透過性を有する材質を含んでいてもよい。この場合、放射線撮影によって、長尺状である光照射デバイスの位置が適切に把握され易くなる。なお、放射線不透過性を有する配線が螺旋状に配置されている場合には、光照射デバイスの位置はさらに把握され易くなる。
【0036】
光照射デバイスは、生体の管腔内における先端部の位置を検出するための位置検出部材をさらに備えてもよい。この場合、光照射デバイスに設けられた位置検出部材の位置が検出されることで、生体の管腔内における光照射デバイスの先端部の位置が適切に把握され易くなる。なお、位置検出部材には、管腔内における位置を検出するための種々の部材(例えば、小型の超音波発振器および磁石等の少なくともいずれか)を採用できる。
【0037】
光照射デバイスは、磁界内に置かれることで発生する磁力によって、生体内における先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内する磁性部材をさらに備えてもよい。この場合、光照射デバイスが生体内に挿入された状態で、光照射デバイスの先端部の位置および方向の少なくともいずれかが適切に案内される。よって、より適切に治療が行われ易くなる。
【0038】
磁性部材の具体的な構成は、適宜選択できる。例えば、レーザ光源のうち、レーザ光を出射する側とは反対側の部位に磁性部材が設けられていてもよい。この場合、レーザ光源に設けられた磁性部材の向き(つまり、光照射デバイスの軸線方向を中心とする周方向の向き)が磁力によって調整されることで、レーザ光の照射方向が適切に制御され易くなる。
【0039】
また、光照射デバイスは、無線給電によって発光することで先端部の位置を示す発光部材を、先端部に備えてもよい。発光部材の少なくとも一部が磁性部材によって構成されていてもよい。この場合、発光部材を発光させることで、光照射デバイスの先端部の位置が示されるだけでなく、発光部材に磁力を発生させることで、先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内することも可能である。また、磁性部材は、前述した位置検出部材を兼用することも可能である。この場合、部品点数が増加することが抑制された状態で、複数の有用な機能が光照射デバイスに付与される。
【0040】
レーザ光源は、波長300nm以上2000nm以下のレーザ光を出射してもよい。より望ましくは、レーザ光源は、波長600nm以上1000nm以下のレーザ光を出射してもよい。この場合、本開示の光照射デバイスを、光感受性物質を用いた疾患の治療に用いることで、治療効果が適切に得られ易くなる。
【0041】
本開示の光照射システムは、カテーテルおよび光照射デバイスを備える。カテーテルは、長尺管形状に形成されており、可撓性を有する。光照射デバイスは、カテーテルの内腔に挿入されることで使用され、カテーテルと同様に可撓性を有する。光照射デバイスは、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源を先端部に備える。レーザ光源は、光照射デバイスの長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。カテーテルにおける先端側側面の少なくとも一部には、光照射デバイスが備えるレーザ光源によって出射されたレーザ光をカテーテルの外部に透過させる光透過部が形成される。
【0042】
本開示の光照射システムは、光源から出射されたレーザ光を、光伝送部材(例えば光ファイバ等)を介さずに、先端部に設けられた光源からカテーテルの光透過部を通じて生体の特定の位置に直接照射することができる。従って、光伝送部材を用いる場合に生じる種々の問題(例えば、光伝送部材の途中で光が漏洩する問題、および、光が伝送される過程で光の特定が変化する問題等の少なくともいずれか)が生じることが、適切に抑制される。さらに、レーザ光源は、光照射デバイスの先端部から、長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。レーザ光は、カテーテルの光透過部を通じて外部に照射される。従って、本開示の光照射システムは、レーザ光源から出射されるレーザ光を、生体の特定の位置に選択的に照射することが可能である。その結果、意図しない位置へ光が照射されることによる種々の不具合(例えば、副作用の発生等)も生じにくくなる。よって、生体の管腔内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光が照射され易くなる。なお、光照射システムにおいて使用する光照射デバイスの構成には、前述した光照射デバイスの複数の構成の少なくともいずれかを採用することが可能である。
【0043】
カテーテルのうち、少なくとも光照射デバイスのレーザ光源が近接する先端側の部位は、熱伝導率が0.1W/m・K以上の材質によって形成されていてもよい。この場合、例えば、血流または生理食塩水等によってレーザ光源が冷却され易くなる。よって、レーザ光を出射することで生じる熱によって、レーザ光源に不具合が生じる可能性が低下する。その結果、より適切に治療が行われ易くなる。
【0044】
カテーテルに光照射デバイスが挿入された状態で、カテーテルの内腔に冷却用の流体が流入されてもよい。この場合、レーザ光源による先端部の温度上昇に起因する不具合(例えば、レーザ光源の故障等)が、冷却用の流体によって適切に抑制される。
【0045】
カテーテルは、複数の温度センサを備えていてもよい。複数の温度センサの各々の温度の測定位置は、カテーテルにおける複数の部位の各々に配置されていてもよい。この場合、複数の測定位置の各々における温度の検出結果に基づいて有用な情報が得られる。例えば、複数の測定位置のいずれが、他の測定位置に比べて高い温度となっているかを確認することで、レーザ光が照射されている方向を確認することも可能である。また、医療従事者は、各測定位置における温度をより正確に把握することで、治療の精度を向上させることも可能である。
【0046】
カテーテルは、基端側から先端側へかけて延びる配線をさらに備えていてもよい。配線の少なくともいずれかは、カテーテルにおいて螺旋状に配置されていてもよい。配線が螺旋状に配置されることで、配線が軸線方向に沿って真っ直ぐに配置される場合に比べて、長尺管形状であるカテーテルの剛性が適切に確保され易くなる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0047】
なお、螺旋状に配置する配線は適宜選択できる。例えば、温度センサ(例えば熱電対等)の配線が螺旋状に設けられていてもよい。また、複数の温度センサの測定位置(測定点)をカテーテルに配置する場合、螺旋状に配置された配線の複数の位置の各々に、温度センサの測定位置が配置されてもよい。この場合、長尺状であるカテーテルの軸線方向および周方向の各々について、複数の温度センサの測定位置を容易且つ適切に配置することが可能である。
【0048】
また、少なくともいずれかの配線が、放射線不透過性を有する材質を含んでいてもよい。この場合、放射線撮影によって、長尺状であるカテーテルの位置が適切に把握され易くなる。なお、放射線不透過性を有する配線が螺旋状に配置されている場合には、カテーテルの位置はさらに把握され易くなる。
【0049】
カテーテルは、放射線不透過性を有するカテーテル側マーカー部を、光透過部に近接した位置に備えていてもよい。この場合、医療従事者(例えば医師等)は、放射線(例えばX線等)を利用して生体内部を撮影しながら、光照射デバイスによって生体組織にレーザ光を照射させる際に、撮影画像に表れるカテーテル側マーカー部の位置に、光照射デバイスのレーザ光源の位置を合わせることで、レーザ光を適切に光透過部から外部に照射させることができる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0050】
ただし、カテーテル側マーカー部を省略することも可能である。例えば、カテーテルの先端部近傍の全体が、レーザ光を透過させる材質によって形成されている場合等には、カテーテル側マーカー部が設けられていなくても、レーザ光源によるレーザ光の出射方向を容易に調整することが可能である。
【0051】
カテーテルは、先端側に接合されたカテーテル先端チップをさらに備えていてもよい。カテーテル先端チップには、カテーテルの軸線方向に貫通する貫通穴が、光照射デバイスの径よりも小さい径で形成されていてもよい。カテーテル先端チップの少なくとも一部は、放射線不透過性を有する材質によって形成されていてもよい。この場合、医療従事者(例えば医師等)は、放射線による撮影画像に表れる先端チップの位置を把握することで、カテーテルの位置を適切な位置に配置することができる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0052】
カテーテルにおける光透過部は、カテーテルの軸線方向のうち、光照射デバイスの先端部がカテーテルの内腔の先端に接触した状態で光照射部のレーザ光源が配置される位置に形成されていてもよい。この場合、カテーテルの内腔の先端に接触するまで光照射デバイスが押し込まれるだけで、軸線方向におけるレーザ光源の位置と光透過部の位置が自動的に一致する。従って、より適切に治療が行われ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】光照射デバイス2とカテーテル3が分離された状態の光照射システム1の縦断面図である。
【
図2】光照射デバイス2がカテーテル3に装着された状態(使用状態)の、光照射システム1の縦断面図である。
【
図3】
図2における光照射システム1の先端部近傍の拡大縦断面図である。
【
図4】
図3におけるA-A線矢視方向断面図である。
【
図5】
図3におけるB-B線矢視方向断面図である。
【
図6】カテーテル3に設けられたカテーテル側マーカー部332Aの一例を示す図である。
【
図7】カテーテル3に設けられたカテーテル側マーカー部332Aの一例を示す図である。
【
図8】第1変形例の光照射システム1の先端部近傍の拡大縦断面図である。
【
図9】第2変形例の光照射システム1の先端部近傍の拡大縦断面図である。
【
図10】第3変形例の光照射デバイス2の先端部近傍の拡大図である。
【
図11】第4変形例のカテーテル3の先端部近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の光照射システム1は、生体の管腔(例えば、血管、リンパ腺、尿道、気道、消化器官、分泌腺、および生殖器官等の少なくともいずれか)の内部に挿入されることで使用される。光照射システム1は、生体の管腔内に挿入された状態で、生体組織へ光(本実施形態ではレーザ光)を照射する。光照射システムは、例えば、PDT(Photodynamic Therapy:光線力学的療法)、およびNIR-PIT(Near-infrared photoimmunotherapy:近赤外光線免疫療法)等の少なくともいずれかの療法に利用できる。
【0055】
本実施形態の光照射システム1は、光照射デバイス2とカテーテル3を備える。光照射システム1の使用時には、まず、カテーテル3が生体管腔内に挿入される。次いで、光照射デバイス2が、長尺管形状であるカテーテル3のルーメン311に挿入される。挿入が完了すると、光照射デバイス2から生体組織に光が照射される。ただし、カテーテル3を使用せずに、光照射デバイス2のみを単独で使用することも可能である。
【0056】
図1~
図3、
図8~
図11には、互いに直交するXY軸が図示されている。これらの図面において、図面下側(+X方向)を「先端側」、図面上側(-X方向)を「基端側」、図面左側(+Y方向)を「左側」、図面右側(-Y方向)を「右側」とする。光照射システム1、光照射デバイス2、およびカテーテル3は、先端側から生体管腔内に挿入される。基端側は、医療従事者(例えば医師等)によって操作される。
【0057】
(光照射デバイス)
図1~
図5を参照して、本実施形態の光照射デバイス2について説明する。
図1に示すように、光照射デバイス2の形状は、長尺状である。光照射デバイス2は、コネクタ201、シャフト210、および先端チップ220を備える。コネクタ201は、光照射デバイス2の基端側に位置すると共に、術者によって把持される。コネクタ201は、一対の羽根部202と接続部203を備える。接続部203は、略円筒状の部材である。接続部203の基端部には羽根部202が接続される。接続部203の先端部にはシャフト210が接続される。なお、羽根部202と接続部203は一体に形成されていてもよい。
【0058】
シャフト210は、抗血栓性、可撓性、および生体適合性を有することが望ましい。シャフト210の材質には、樹脂材料および金属材料等の少なくともいずれかを採用できる。樹脂材料には、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、およびフッ素樹脂等を採用できる。金属材料には、例えば、SUS304等のステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金、およびタングステン鋼等を採用できる。なお、複数の材料を組み合わせてシャフト210を構成することも可能である。
【0059】
シャフト210は、軸線O2に沿って延びる長尺状の部材である。シャフト210の内部には、各種配線等(例えば、後述する配線231A,231B等)が配置される。先端チップ220は、シャフト210の先端部に接続される。先端チップ220は、略円柱形状である。先端チップ220の外径は、シャフト210の外径Φ1と略同一である。
【0060】
図3を参照して、本実施形態の光照射デバイス2の先端部の構成について説明する。
図3は、
図2における光照射システム1の先端部近傍の拡大縦断面図である。
図3に示すように、光照射デバイス2は、所定の波長域のレーザ光を出射する小型のレーザ光源230(230A,230B)を、先端部に備える。レーザ光源230は、長尺状であるシャフト210(「デバイス本体」と表現することもできる)の内部に内包されている。ただし、レーザ光源230の固定方法を変更することも可能である。例えば、シャフトは、内部にルーメンを有する長尺管形状に形成されていてもよい。この場合、レーザ光源230(230A,230B)は、シャフトのルーメンの内壁に固定されていてもよい。
【0061】
レーザ光源230(230A,230B)は、光照射デバイス2の長軸方向(軸線O2の方向)に対して交差する方向(
図3に示す例では、軸線O2に対して垂直に交差する矢印方向)にレーザ光を出射する。従って、光照射デバイス2は、光ファイバ等の光伝送部材を介さずに、先端部に設けられたレーザ光源230から生体の特定の位置に光を直接照射することができる。従って、光伝送部材を用いる場合に生じる種々の問題(例えば、光伝送部材の途中で光が漏洩・減衰する問題、および、光が伝送される過程で光の特性が変化する問題等の少なくともいずれか)が生じることが、適切に抑制される。また、レーザ光源230は、光照射デバイス2の先端部から、軸線O2の方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。レーザ光源230は、発光ダイオードに比べて、発散し難く指向性が高い光を出射することが容易である。従って、本実施形態の光照射デバイス2は、レーザ光源230から出射されるレーザ光を、生体の特定の位置に選択的に照射することが可能である。その結果、意図しない位置へ光が照射されることによる種々の不具合(例えば、副作用の発生等)も生じにくくなる。さらに、レーザ光源230は、発光ダイオードに比べてスペクトル幅が狭い波長の光を照射できる性質を有する。従って、レーザ光源230を光照射デバイス2の先端部に設けることで、治療のために必要な波長(例えば、光感受性物質の励起波長等)とは異なる波長が組織に照射されることによる各種不具合(例えば、照射効率の低下、および、意図しない組織の変化等の少なくともいずれか)の発生も抑制される。よって、生体の管腔内の特定の位置に、より効率良く且つ適切に光が照射され易くなる。
【0062】
レーザ光源230には、基板に対して垂直な方向にレーザ光を照射する面発光レーザを採用することができる。面発光レーザを利用することで、小さい電力で適切にレーザ光が出射され、且つ、温度変化に対する耐性も高い光照射デバイス2となる。さらに、面発光レーザは、基板面に対して垂直な方向にレーザ光を出射できるので、レーザ光の照射位置をより正確に調整し易くなる。
【0063】
また、レーザ光源230には、半導体を素材として製造された回路素子である半導体レーザを採用することも可能である。半導体レーザは小型化が容易なので、径が小さい光照射デバイス2に対しても適切に組み込まれ易い。また、半導体レーザは、位相が揃った指向性の高いレーザ光を、小さい電力で出射することが可能である。よって、治療効果も安定し易くなる。
【0064】
図3に示すように、本実施形態の光照射デバイス2は、複数のレーザ光源230A,230Bを先端部に備える。1つの光照射デバイス2に複数のレーザ光源230A,230Bが設けられることで、レーザ光源が1つのみ設けられる場合に比べて、レーザ照射の自由度(例えば、レーザの照射面積、照射密度、照射方向等の少なくともいずれかの調整のし易さ)が向上する。その結果、適切な治療効果がさらに得られ易くなる。
【0065】
レーザ光源230Aには、制御部5(
図1および
図2参照)から延びる配線231Aが接続されている。また、レーザ光源230Bにも、制御部5から延びる配線231Bが接続されている。レーザ光源230A,230Bへの電力は、配線231A,231Bを介して供給される。配線231A,231Bは、光照射デバイス2の長軸方向(軸線O2の方向)に沿って設けられている。ただし、詳細は後述するが、配線231A,231Bを螺旋状等に配置することも可能である。本実施形態では、配線231A,231Bは、制御部5から延び、光照射デバイス2の内部を通じてレーザ光源230A,230Bに接続される。
図1~
図3では、配線231A,231Bは点線で示されている。
図4は、
図3におけるA-A線矢視方向断面図である。
図3には、レーザ光源230Aに配線231Aが接続されている状態が示されている。また、
図5は、
図3におけるB-B線矢視方向断面図である。
図5には、シャフト210の内部を通過する2本の配線231A,231Bの断面が表れている。
【0066】
本実施形態では、複数のレーザ光源230A、230Bの少なくとも一部のレーザ光の出射が、他のレーザ光源とは独立して制御可能である。つまり、制御部5は、2つのレーザ光源230A、230Bによるレーザ光の出射を独立して制御することができる。その結果、レーザ照射の自由度がさらに向上する。
【0067】
詳細には、本実施形態では、
図3に示すように、複数のレーザ光源230A,230Bの各々のレーザ光の照射方向が互いに異なるように、各々のレーザ光源230A,230Bの設置方向が定められている。詳細には、レーザ光源230Aのレーザ光の照射面は+Y方向を向き、レーザ光源230Bのレーザ光の照射面は-Y方向を向く。従って、2つのレーザ光源230A、230Bによるレーザ光の出射が、制御部5によって独立して制御されることで、レーザ光の出射方向が適切に変更される。よって、治療の自由度がさらに向上する。
【0068】
本実施形態では、複数のレーザ光源230A、230Bは、同一の波長域のレーザ光を出射する。従って、光照射デバイス2は、同一の波長域のレーザ光を、より高い自由度で(つまり、レーザ光の照射方向を適切な方向に選択して)特定の部位に照射することができる。その結果、適切な治療効果が得られ易くなる。
【0069】
レーザ光源230は、波長300nm以上2000nm以下のレーザ光を出射してもよい。より望ましくは、レーザ光源230は、波長600nm以上1000nm以下のレーザ光を出射してもよい。この場合、光照射デバイス2を、光感受性物質を用いた疾患の治療に用いることで、治療効果が適切に得られ易くなる。なお、本実施形態では、レーザ光源230が出射するレーザ光の中心波長は約690nmとされている。
【0070】
本実施形態では、長尺状であるシャフト(デバイス本体)210のうち、少なくともレーザ光源230A,230Bの各々を内包する部位が、レーザ光源230A,230Bが出射するレーザ光を透過する材質によって形成されている。レーザ光源230A,230Bをシャフト210の内部に内包させることで、レーザ光源230A,230Bがシャフト210から外部に露出する場合に比べて、レーザ光源230A,230Bが安定した状態でシャフト210に保持されると共に、レーザ光源230A,230Bの故障等の不具合も生じにくくなる。さらに、レーザ光源230A,230Bから出射されたレーザ光は、シャフト210の材質を透過して適切に生体組織に照射される。よって、より適切に治療が行われ易くなる。
【0071】
なお、本実施形態では、シャフト210の全体が、レーザ光源230A,230Bによって出射されるレーザ光を透過する材質によって形成されている。従って、シャフト210の一部のみをレーザ光透過性がある材質によって形成する場合に比べて、シャフト210の構成が簡素化されると共に、レーザ光がシャフト210の一部によって遮断されてしまう可能性も低下する。
【0072】
本願の発明者は、第1評価試験および第2評価試験(後述する)を行うことで、レーザ光源230A,230Bから出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の望ましい範囲を新たに見出した。本実施形態では、レーザ光源230A,230Bから出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度は、評価試験の結果に基づいて80W/cm2以上1600W/cm2以下とされている。この場合、光感受性物質にレーザ光を照射することによる治療効果が適切に得られ易くなる。なお、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度は、より望ましくは300W/cm2以上1300W/cm2以下、さらに望ましくは600W/cm2以上1300W/cm2以下であってもよい。一例として、本実施形態では、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度は、約1273W/cm2とされている。
【0073】
図3等に示すように、本実施形態の光照射デバイス2は、レーザ光源230A,230Bが設けられる先端部に、放射線不透過性を有する光源位置マーカー部232A,232Bを備える。従って、医療従事者(例えば術者等)は、放射線(例えばX線等)を利用して生体内部を撮影しながら、光照射デバイス2によって生体組織にレーザ光を照射させる際に、撮影画像に表れる光源位置マーカー部232A,232Bの位置を確認することで、レーザ光の照射位置を適切に調整することができる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0074】
詳細には、本実施形態では、レーザ光源230A,230Bの少なくとも一部の部材が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、レーザ光源230A,230B自身が光源位置マーカー部232A,232Bとして機能する。従って、レーザ光源230A,230Bとは別でマーカー部が設けられていなくても、放射線撮影によってレーザ光源230A,230Bの位置が適切に把握される。さらに、レーザ光源230A,230B自身が光源位置マーカー部232A,232Bとして機能することで、レーザ光源230A,230Bの位置がさらに正確に医療従事者によって把握される。よって、より適切に治療が行われ易くなる。一例として、本実施形態では、レーザ光源230A,230Bの各々は多層構造とされており、複数の層の一部が放射線不透過性を有する材質によって形成されている。よって、レーザ光源230A,230Bの位置がさらに正確に把握されやすくなる。
【0075】
さらに、本実施形態では、光照射デバイス2の先端部に設けられた先端チップ220の少なくとも一部(本実施形態では、先端チップ220の全て)が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、マーカー部として機能する。従って、マーカー部を別途設けなくても、光照射デバイス2の先端部の位置が適切に把握される。
【0076】
図3等に示すように、光照射デバイス2は、先端部に光センサ240(240A,240B)を備える。従って、光照射デバイス2の先端部における光の状態が、先端部の光センサ240によって直接検出される。つまり、光センサ240によって検出される光には、伝送される過程で生じ得る光の特性の変化が生じにくい。よって、より正確に光の状態が検出され易くなる。なお、本実施形態では、レーザ光源230Aによって出射される光(反射光等も含む)を検出する光センサ240Aと、レーザ光源230Bによって出射される光を検出する光センサ240Bが、別途設けられている。従って、2つのレーザ光源230A,230Bの各々についての光の状態が適切に把握される。複数の光センサ240が設けられることで、光が実際に照射された方向等を確認することも可能となる。なお、図面を簡略化するために、光センサ240から延びる配線の図示は省略されている。
【0077】
図3等に示すように、本実施形態の光照射デバイス2の先端部には、生体の管腔内における光照射デバイス2の先端部の位置を検出するための位置検出部材250が設けられている。従って、位置検出部材250の位置が検出されることで、生体の管腔内における光照射デバイス2の先端部の位置が適切に把握され易くなる。なお、位置検出部材250には、管腔内における位置を検出するための種々の部材を採用できる。例えば、位置検出部材250に小型の超音波発振器を用いる場合には、超音波診断装置等を用いることで位置検出部材250の位置が検出される。また、位置検出部材250に磁性部材を用いる場合には、磁気センサ等を用いることで位置検出部材250の位置が検出される。
【0078】
なお、光照射デバイス2は、先端部に磁性部材(例えば、位置検出部材250等)を備えていてもよい。磁性部材は、磁界内に置かれることで発生する磁力によって、生体の管腔内における光照射デバイス2の先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内する案内部材として機能してもよい。この場合、光照射デバイス2が生体の管腔内に挿入された状態で、先端部の位置および方向の少なくともいずれかが適切に案内される。
【0079】
なお、前述した位置検出部材250を磁性部材とすることで、位置検出部材250が案内部材としての機能を兼用してもよい。この場合、部品点数の増加が抑制された状態で、複数の有用な機能が光照射デバイス2に付与される。
【0080】
また、レーザ光源230A,230Bの少なくとも一部(本実施形態では、レーザ光源230A,230Bのうち、レーザ光を出射する側とは反対側の部位に位置する部位)に磁性部材232A,232Bが設けられていてもよい。この場合、レーザ光源230A,230Bに設けられた磁性部材232A,232Bの向き(つまり、光照射デバイス2の軸線O2の方向を中心とする周方向の向き)が磁力によって調整されることで、レーザ光の照射方向が適切に制御され易くなる。なお、光源位置マーカー部232A,232Bが磁性部材を兼用してもよいし、光源位置マーカー部232A,232Bとは別で磁性部材が設けられてもよい。
【0081】
また、光照射デバイス2は、無線給電によって発光することで先端部の位置を示す発光部材を、先端部に備えてもよい。例えば、前述した位置検出部材250を発光部材とすることも可能である。発光部材を設ける場合、発光部材の少なくとも一部が磁性部材によって構成されていてもよい。この場合、発光部材を発光させることで、光照射デバイスの先端部の位置が示されるだけでなく、発光部材に磁力を発生させることで、先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内することも可能である。
【0082】
(カテーテル)
図1~
図3、
図6、
図7を参照して、本実施形態のカテーテル3について説明する。
図1に示すように、カテーテル3の形状は長尺管形状である。カテーテル3は、コネクタ301、シャフト310、および先端チップ320を備える。コネクタ301は、カテーテル3の基端側に位置すると共に、術者によって把持される。コネクタ301は、一対の羽根部302と接続部303を備える。接続部303は、略円筒状の部材である。接続部303の基端部には羽根部302が接続される。接続部303の先端部にはシャフト310が接続される。なお、羽根部302と接続部303は一体に形成されていてもよい。
【0083】
シャフト310は、光照射デバイス2のシャフト210と同様に、抗血栓性、可撓性、および生体適合性を有することが望ましい。シャフト310の材質には、光照射デバイス2のシャフト210と同様の材質を採用することができる。シャフト310は、軸線O3に沿って延びる長尺管形状の部材である。本実施形態のシャフト310は、先端部と基端部の両方が開放された中空の円筒状に形成されている。シャフト310の内部のルーメン311は、カテーテル3のデリバリー時には、カテーテル3に対してガイドワイヤを挿通させるためのガイドワイヤルーメンとして機能する。ルーメン311は、カテーテル3のデリバリー後には、カテーテル3に対して光照射デバイス2を挿通させるためのデバイス用ルーメンとして機能する。
【0084】
先端チップ320は、シャフト310の先端部に接続される。先端チップ320は、カテーテル3を生体管腔内でスムーズに進行させるために、基端側から先端側にかけて縮径した外形を有している。先端チップ320の略中央には、軸線O2方向に貫通する貫通孔321が形成されている。
図3に示すように、貫通孔321の内径Φ2は、シャフト310のルーメン311の内径Φ3よりも小さく、且つ光照射デバイス2のシャフト210および先端チップ220の外径Φ1よりも小さい。また、光照射デバイス2のシャフト210および先端チップ220の外径Φ1は、カテーテル3のルーメン311の内径Φ3以下となっている。従って、光照射デバイス2は、カテーテル3のルーメン311内を軸線O2に沿って移動する。光照射デバイス2が、カテーテル3のルーメン311内を十分に押し進められると、光照射デバイス2の先端チップ220が、カテーテル3の先端チップ320に接触することで、カテーテル3に対する光照射デバイス2の軸線O2,O3方向における位置決めが行われる。
【0085】
図3、
図6、および
図7を参照して、本実施形態のカテーテル3の先端部の構成について説明する。
図3に示すように、カテーテル3におけるシャフト310の先端側側面(本実施形態では、先端側側面の一部)には、光照射デバイス2が備えるレーザ光源230A,230Bによって出射されたレーザ光を外部に透過させる光透過部330A,330Bが設けられている。従って、本実施形態の光照射システム1は、光照射デバイス2のレーザ光源230A,230Bによって、軸線O2,O3に交差する方向に出射されたレーザ光を、生体の特定の位置に選択的に照射することが可能である。
【0086】
なお、本実施形態では、カテーテル3におけるシャフト310のうち、レーザ光源230A,230Bによって出射されたレーザ光を透過させる部位を、レーザ光を透過させる材質によって部分的に形成することで、光透過部330A,330Bが設けられている。しかし、光透過部の構成を変更することも可能である。例えば、シャフト310自体、または、シャフト310の先端部の全体の材質を、レーザ光を透過させる材質とすることで、カテーテルに光透過部が設けられてもよい。
【0087】
カテーテル3のシャフト310には、光透過部330A,330Bの各々に近接した位置に、放射線不透過性を有するカテーテル側マーカー部332A,332Bが設けられている。従って、医療従事者(例えば術者等)は、放射線(例えばX線等)を利用して生体内部を撮影しながら、光照射デバイス2によって生体組織にレーザ光を照射させる際に、撮影画像に表れるカテーテル側マーカー部332A,332Bの位置に、光照射デバイス2のレーザ光源230A,230Bの位置を合わせることで、レーザ光を適切に光透過部330A,330Bから外部に照射させることができる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。
【0088】
なお、カテーテル側マーカー部332A,332Bの具体的な構成は適宜選択できる。例えば、
図6に示すように、カテーテルマーカー部332Aは、光透過部330Aの周囲を取り囲むように形成されてもよい。この場合、医療従事者は、カテーテルマーカー部332Aによって取り囲まれた部位を放射線撮影画像によって確認することで、光透過部330Aの位置をより正確に把握することができる。なお、光透過部330A,330Bを取り囲む際のカテーテル側マーカー部332A,332Bの形状は、矩形以外の形状(例えば円環状等)であってもよい。
【0089】
また、
図7に示すように、カテーテルマーカー部332Aは、光透過部330Aの先端側と基端側の各々に隣接して設けられてもよい。この場合、医療従事者は、軸線O2,O3に沿う方向における光透過部330Aの位置を適切に把握することができる。また、光透過部330Aの先端側と基端側の一方にのみカテーテル側マーカー部332A,332Bを設けることも可能である。
【0090】
図3等に示すように、本実施形態では、カテーテル3のシャフト310の先端部に設けられた先端チップ320の少なくとも一部(本実施形態では、先端チップ320の全て)が、放射線不透過性を有する材質によって形成されることで、マーカー部として機能する。従って、カテーテル3の先端部の位置が適切に把握される。
【0091】
なお、カテーテル3は、先端部に磁性部材(例えば、先端チップ320等)を備えていてもよい。磁性部材は、磁界内に置かれることで発生する磁力によって、生体の管腔内におけるカテーテル3の先端部の位置および方向の少なくとも一方を案内する案内部材として機能してもよい。この場合、カテーテル3が生体の管腔内に挿入された状態で、先端部の位置および方向の少なくともいずれかが適切に案内される。
【0092】
なお、前述した先端チップ320を磁性部材とすることで、先端チップ320が案内部材としての機能を兼用してもよい。この場合、部品点数の増加が抑制された状態で、複数の有用な機能がカテーテル3に付与される。
【0093】
カテーテル3のシャフト310のうち、少なくとも光照射デバイス2のレーザ光源230A,230Bがレーザ照射時に近接する先端側の部位(本実施形態ではシャフト310の全体)は、熱伝導率が0.1W/m・K以上の材質によって形成されている。従って、例えば、血流または生理食塩水等によってレーザ光源230A,230Bが冷却され易くなる。よって、レーザ光源230A,230Bがレーザ光を出射することで生じる熱によって、レーザ光源230A,230Bに不具合が生じる可能性が低下する。よって、より適切に治療が行われ易くなる。
【0094】
(使用方法)
本実施形態の光照射システム1の使用方法の一例について説明する。まず、術者は、生体管腔内にガイドワイヤ(図示せず)を挿入する。次いで、術者は、ガイドワイヤの基端側を、カテーテル3の先端チップ320の貫通孔321からルーメン311へ挿入し、コネクタ301の基端側へ突出させる。術者は、カテーテル3をガイドワイヤに沿って押し進め、カテーテル3の光透過部330A,330Bの少なくともいずれかを、光照射の目的部位まで移動させる。なお、カテーテル3を生体管腔内で移動させる際に、術者は、放射線撮影画像によってカテーテル側マーカー部332A,332Bの位置を確認することで、カテーテル3を目的部位に適切に移動させることができる。その後、術者は、カテーテル3からガイドワイヤを抜去する。
【0095】
術者は、カテーテル3のコネクタ301の基端側開口から光照射デバイス2を挿入し、カテーテル3のルーメン311に沿って光照射デバイス2を生体管腔内で押し進める。光照射デバイス2が、カテーテル3のルーメン311内を十分に押し進められると、光照射デバイス2の先端チップ220が、カテーテル3の先端チップ320に接触する。
図3に示すように、カテーテル3における光透過部330A,330Bは、軸線O2,O3の方向のうち、光照射デバイス2の先端チップ220がカテーテル3の内腔の先端(カテーテル3の先端チップ320)に接触した状態でレーザ光源230A,230Bが配置される位置に形成されている。従って、カテーテル3の先端チップ320に接触するまで光照射デバイス2が押し進められるだけで、軸線O2,O3方向におけるレーザ光源230A,230Bの位置と光透過部330A,330Bの位置が、自動的に一致する。この状態で、レーザ光源230A,230Bからレーザ光が出射されることで、目的部位に選択的にレーザ光が照射される。
【0096】
術者は、カテーテル3に光照射デバイス2が挿入された状態で、カテーテル3のルーメン311に冷却用の流体を流入させることができる。従って、レーザ光源230A,230Bによる先端部の温度上昇に起因する不具合(例えば、レーザ光源230A,230Bの故障等)が、冷却用の流体によって適切に抑制される。
【0097】
(変形例)
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。
図8~
図11を参照して、上記実施形態の変形例の一部について説明する。なお、
図8に示す第1変形例、
図9に示す第2変形例、
図10に示す第3変形例、および
図11に示す第4変形例の一部の構成には、前述した実施形態と同様の構成を採用することが可能である。従って、第1変形例~第4変形例の構成のうち、前述した実施形態と同様の構成を採用できる部位については、上記実施形態と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0098】
図8に示す第1変形例の光照射システム1では、複数のレーザ光源230C、230Dは、互いに異なる波長域のレーザ光を出射する。また、複数のレーザ光源230C,230Dの各々のレーザ光の照射方向が平行となるように、各々のレーザ光源230C,230Dの設置方向が定められている。制御部5は、2つのレーザ光源230C、230Dによるレーザ光の出射を独立して制御することができる。従って、第1変形例の光照射システム1は、異なる波長域のレーザ光を、選択的に生体組織に出射することが可能である。
【0099】
なお、第1変形例の光照射システム1の構成をさらに変更することも可能である。例えば、
図8に示す光照射システム1において、複数のレーザ光源230C、230Dによるレーザ光の出射が纏めて制御されてもよい。また、複数のレーザ光源230C、230Dは、同一の波長域のレーザ光を出射してもよい。この場合、レーザ光源が1つだけ用いられる場合に比べて、レーザ光の照射面積が拡大される。
【0100】
図9に示す第2変形例の光照射デバイス2は、1つのレーザ光源230Eを備える。以上のように、光照射デバイス2に設けるレーザ光源の数は、1つでもよいし複数でもよい。また、第2変形例では、光照射デバイス2のデバイス本体209のうち、レーザ光源230Eからのレーザ光が外部に出射される位置の先端側と基端側の各々に、放射線不透過性を有するマーカー部232Eが設けられている。以上のように、レーザ光源230Eとは別でマーカー部232Eを設けることも可能である。
【0101】
第2変形例の光照射デバイス2は、先端部(本実施形態では、レーザ光が外部に出射される位置の近傍)へ入射した光を光センサ(図示せず)へ伝送する光検出用伝送部材241が設けられている。本実施形態の光検出用伝送部材241は光ファイバであり、デバイス本体209の側方から、デバイス本体209の内部を基端側へ挿通され、光センサに接続される。第2変形例では、光照射デバイス2の先端部の構成が、光センサによって複雑になることが抑制された状態で、先端部における光の状態が適切に検出される。
【0102】
第2変形例の光照射デバイス2は、先端部に温度センサ260を備える。従って、例えば、先端部に設けられたレーザ光源230Eの駆動に起因する温度上昇、および、レーザ光が生体組織に出射されることに起因する温度上昇等の少なくともいずれかが、適切に把握される。
【0103】
第2変形例のカテーテル3では、シャフト310のうち、レーザ光源230Eによって出射されたレーザ光を透過させる部位を開放させることで、光透過部330E(「レーザ光透過窓」と表現することもできる)が形成されている。以上のように、光透過部を形成する方法は、レーザ光を透過させる材質を用いる方法に限定されない。
【0104】
図10に示す第3変形例の光照射デバイス2は、複数の温度センサ260(260A,260B,260C)を備える。複数の温度センサ260の各々の測定位置(本実施形態では、260A,260B,260Cで示す測定点)が、光照射デバイス2の先端部における複数の部位の各々に配置されている。従って、複数の測定位置の各々における温度の検出結果に基づいて有用な情報が得られる。例えば、複数の測定位置のいずれが、他の測定位置に比べて高い温度となっているかを確認することで、レーザ光が照射されている方向を確認することも可能である。また、医療従事者は、各測定位置における温度をより正確に把握することで、治療の精度を向上させることも可能である。
【0105】
第3変形例の光照射デバイス2では、温度センサ260の配線が、光照射デバイス2の本体において螺旋状に配置されている。従って、配線が軸線方向に沿って真っ直ぐに配置される場合に比べて、長尺状である光照射デバイス2の剛性が適切に確保され易くなる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。一例として、本実施形態では、測定点を複数備えた長尺状の熱電対が温度センサ260として用いられている。長尺状である温度センサ260の配線が螺旋状に配置されることで、光照射デバイス2の剛性が確保されている。
【0106】
第3変形例の光照射デバイス2では、温度センサ260の配線が、放射線不透過性を有する材質を含んでいる。従って、放射線撮影によって、長尺状である光照射デバイス2の位置が適切に把握され易くなる。なお、第3変形例では、放射線不透過性を有する温度センサ260の配線が螺旋状に配置されることで、光照射デバイス2の位置がさらに把握され易くなる。
【0107】
図11に示す第4変形例のカテーテル3は、複数の温度センサ360(360A,360B,360C,360D,360E)を備える。複数の温度センサ360の各々の測定位置(本実施形態では、360A,360B,360C,360D,360Eで示す測定点)が、カテーテル3の先端部における複数の部位の各々に配置されている。従って、複数の測定位置の各々における温度の検出結果に基づいて有用な情報が得られる。例えば、複数の測定位置のいずれが、他の測定位置に比べて高い温度となっているかを確認することで、レーザ光が照射されている方向を確認することも可能である。また、医療従事者は、各測定位置における温度をより正確に把握することで、治療の精度を向上させることも可能である。
【0108】
第4変形例のカテーテル3では、温度センサ360の配線が、カテーテル3のシャフト310において螺旋状に配置されている。従って、配線が軸線方向に沿って真っ直ぐに配置される場合に比べて、長尺状であるカテーテル3の剛性が適切に確保され易くなる。よって、治療の精度がさらに向上し易くなる。一例として、本実施形態では、測定点を複数備えた長尺状の熱電対が温度センサ360として用いられている。長尺状である温度センサ360の配線が螺旋状に配置されることで、カテーテル3の剛性が確保されている。
【0109】
第4変形例のカテーテル3では、温度センサ360の配線が、放射線不透過性を有する材質を含んでいる。従って、放射線撮影によって、長尺状であるカテーテル3の位置が適切に把握され易くなる。なお、第4変形例では、放射線不透過性を有する温度センサ360の配線が螺旋状に配置されることで、カテーテル3の位置がさらに把握され易くなる。
【0110】
(第1評価試験)
図12を参照して、レーザ光源230から出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の下限を評価するための第1評価試験の結果について説明する。第1評価試験では、発明者は、レーザ光源に光ファイバを接続し、光ファイバの先端から出射されるレーザ光の出射方向に、レーザ光を検出するセンサを配置した。次いで、発明者は、光ファイバの先端とセンサの間のレーザ光の光路中の状態を(1)何も配置しない状態である「ブランク状態」、(2)豚の頸動脈を配置した状態である「頸動脈配置状態」、(3)豚の大動脈を配置した状態である「大動脈配置状態」の各々に変化させて、各々の状態でレーザ光の光照射密度を変えながら、センサによるレーザ光の検出結果を確認した。(2)「頸動脈配置状態」および(3)「大動脈配置状態」では、センサによる検出結果は、頸動脈または大動脈を透過してセンサに到達したレーザ光の検出結果となる。
【0111】
なお、第1評価試験で使用されたファイバのコア径は、400μm(表面積は0.001256cm
2)である。
図12に示す「ブランク状態の出力」は、ファイバ先端から出射されるレーザ光の出力とほぼ等しくなる。従って、「ブランク状態の出力」を、ファイバのコアの表面積で割ることで、ファイバ先端から出射されるレーザ光の光照射密度が求められる。第1評価試験で使用されたレーザ光源は、CNI Optoelectronics Technology社製「MLL-III-690」である。第1評価試験で使用されたセンサは、THORLABS社製「S310C」である。第1評価試験で使用されたセンサが検出可能な下限値は、10mWとなっている。このセンサでは、10mW未満の出力が検出される場合もあるが、10mW未満の検出結果は信頼性に乏しい。従って、第1評価試験では、センサによる検出結果が10mW以上となった場合に、血管を透過したレーザ光が適切に検出された(つまり、「検出有り」)と判定する。
【0112】
図12に示すように、レーザ光の光照射密度を584.4W/cm
2とした場合には、(2)「頸動脈配置状態」および(3)「大動脈配置状態」の両方で、10mW以上の十分な出力が検出された。また、レーザ光の光照射密度を78.8W/cm
2とした場合には、(2)「頸動脈配置状態」では21.1mWの十分な出力が検出されたが、(3)「大動脈配置状態」では十分な出力を検出することができなかった。レーザ光の光照射密度を41.4W/cm
2以下とすると、(2)「頸動脈配置状態」および(3)「大動脈配置状態」の両方で十分な出力が検出されなかった。
【0113】
以上の結果から、レーザ光の光照射密度を約80W/cm
2とした場合には、大動脈のような厚みが厚い血管であれば、レーザ光が血管を十分に透過せず、治療効果が得られ難い可能性はある。しかし、頸動脈のような厚みが薄い血管であれば、レーザ光の光照射密度を約80W/cm
2とすることで、レーザ光が血管を透過して組織に適切に照射される可能性が高い。以上の結果より、レーザ光源230から出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の下限は、80W/cm
2とすることが望ましいと言える。なお、組織に照射されるレーザ光の出力が高い程、より効率良く治療効果が得られる。従って、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の下限は、300W/cm
2とすることがより望ましい。さらに、
図12に示すように、レーザ光の光照射密度を584.4W/cm
2とすれば、厚みが厚い大動脈であってもレーザ光が透過し、組織に適切に照射されることが分かる。従って、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の下限は、600W/cm
2とすることがさらに望ましいと言える。
【0114】
(第2評価試験)
レーザ光源230から出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の上限を評価するための第2評価試験の結果について説明する。第2評価試験では、発明者は、レーザ光源に光ファイバを接続し、光ファイバの先端から出射されるレーザ光の出射方向に、レーザ光を検出するセンサを配置した。次いで、発明者は、光ファイバの先端とセンサの間のレーザ光の光路中の状態を(1)何も配置しない状態である「ブランク状態」と、(2)豚の頸動脈を配置した状態である「頸動脈配置状態」に変化させて、各々の状態で光ファイバの先端からレーザ光を出射させた。発明者は、(2)「頸動脈配置状態」において頸動脈が焼失する際の光照射密度に基づいて、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の上限を評価した。
【0115】
なお、第2評価試験で使用されたファイバのコア径は、400μm(表面積は0.001256cm2)、NAは0.39である。第1評価試験と同様に、「ブランク状態」においてセンサによって検出されるレーザ光の出力は、ファイバ先端から出射されるレーザ光の出力とほぼ等しくなる。従って、「ブランク状態」において検出された出力を、ファイバのコアの表面積で割ることで、ファイバ先端から出射されるレーザ光の光照射密度が求められる。第2評価試験で使用されたレーザ光源は、Omicron社製「Brix690-2500UHP」である。第2評価試験で使用されたセンサは、THORLABS社製「S425C」である。
【0116】
まず、発明者は、レーザ光源の出力を最大設定出力2500mWとし、(1)「ブランク状態」においてセンサによって検出されるレーザ光の出力を確認したところ、検出された出力は1800mW~2100mWの間で変動した。次いで、発明者は、レーザ光源の出力を、前述した最大設定出力2500mWとして、(2)「頸動脈配置状態」においてセンサによって検出されるレーザ光の出力を確認した。その結果、頸動脈を透過してセンサによって検出されたレーザ光の出力は、300mW~350mWの間で変動した。従って、(2)「頸動脈配置状態」では、センサで300mWが検出された際の、ファイバ先端から出射されたレーザ光の出力は、約1800mWであると推定される。また、センサで350mWが検出された際の、ファイバ先端から出射されたレーザ光の出力は、約2100mWであると推定される。(2)「頸動脈配置状態」においてレーザ光の出射を継続させたところ、センサによる検出結果が350mW未満である間は、頸動脈は焼失しなかった。しかし、センサによる検出結果が350mWに達した際に、頸動脈の血管壁が焼失した。(2)「頸動脈配置状態」において、センサで350mWが検出された際の、ファイバ先端から出射されたレーザ光の光照射密度は、約1670W/cm2となる。
【0117】
以上の結果から、レーザ光の光照射密度を1670W/cm2とした場合には、血管壁が損傷してしまう可能性があるので、治療時の安全性を担保し難い。しかし、レーザ光の光照射密度を1600W/cm2以下とすれば、血管壁が損傷してしまう可能性は低い。以上の結果より、レーザ光源230から出射されるレーザ光の、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の上限は、1600W/cm2とすることが望ましいと言える。治療時の安全性をさらに高める(つまり、血管壁が損傷してしまう可能性をさらに低下させる)ためには、光照射デバイス2から外部へ出射される時点における光照射密度の上限は、1300W/cm2とすることが望ましい。
【0118】
上記実施形態および変形例で例示された構成のうちの一部のみを、光照射システム、光照射デバイス、またはカテーテルに採用することも可能である。また、異なる実施形態で示された複数の構成を組み合わせることも可能である。前述したように、カテーテル3を使用せずに、光照射デバイス2のみを単独で使用することも可能である。また、光照射デバイス2のシャフト210に、基端側から先端側へ貫通する流体の流路が形成されていてもよい。この場合、シャフト210の流路に冷却用の流体を流すことで、温度上昇による種々の不具合(例えば、レーザ光源230が高温となることによる故障等)が適切に抑制される。
【要約】
光照射デバイス(2)は長尺状である。光照射デバイス(2)は、所定の波長域のレーザ光を出射するレーザ光源(230A,230B)を先端部に備える。レーザ光源(230A,230B)は、光照射デバイス(2)の長軸方向に対して交差する方向にレーザ光を出射する。光照射デバイス(2)は、レーザ光源(230A,230B)から出射されるレーザ光を、生体の特定の位置に選択的に照射することができる。