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特許7444556ミスアライメント判定装置、ミスアライメント判定方法および回転機械システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ミスアライメント判定装置、ミスアライメント判定方法および回転機械システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240228BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019135150
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021018197
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-10-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】上村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】荒木 要
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-209782(JP,A)
【文献】特開2001-208655(JP,A)
【文献】特開平5-322641(JP,A)
【文献】特開2013-29484(JP,A)
【文献】特開2016-116251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M13/00-13/04
G01M99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成部と、
前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理部と、
前記処理部で前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、ミスアラインメントの状態において、アラインメントが一致している状態に比べて、スペクトル強度が高い周波数領域において、前記周波数範囲の最大値から、前記最大値の半分の値までの範囲を所定範囲に設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出部と、
前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定部と、を備え、
前記指標値は、前記所定範囲における前記スペクトル強度の平均値を、前記処理部で前記処理がされる前の前記周波数スペクトルにおける前記スペクトル強度の最大値で割った値であ
前記周波数範囲は、0~500kHzである、
ミスアライメント判定装置。
【請求項2】
回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成部と、
前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理部と、
前記処理部で前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、所定範囲を設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出部と、
前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定部と、を備え、
前記所定範囲は、前記周波数範囲の、ミスアラインメントの状態において、アラインメントが一致している状態に比べて、スペクトル強度が高い周波数領域において、周波数が小さい側から前記スペクトル強度を加算した値が、前記周波数範囲の全体における前記スペクトル強度を合計した合計値の70%に到達する周波数から、前記周波数範囲の最大値までの範囲であり、
前記指標値は、前記所定範囲における前記スペクトル強度の平均値を、前記処理部で前記処理がされる前の前記周波数スペクトルにおける前記スペクトル強度の最大値で割った値であ
前記周波数範囲は、0~500kHzである、
ミスアライメント判定装置。
【請求項3】
回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成ステップと、
前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理ステップと、
前記処理ステップで前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、ミスアラインメントの状態において、アラインメントが一致している状態に比べて、スペクトル強度が高い周波数領域において、前記周波数範囲の最大値から、前記最大値の半分の値までの範囲を所定範囲に設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出ステップと、
前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定ステップと、を備え、
前記指標値は、前記所定範囲における前記スペクトル強度の平均値を、前記処理部で前記処理がされる前の前記周波数スペクトルにおける前記スペクトル強度の最大値で割った値であ
前記周波数範囲は、0~500kHzである、
ミスアライメント判定方法。
【請求項4】
回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成ステップと、
前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理ステップと、
前記処理ステップで前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、所定範囲を設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出ステップと、
前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定ステップと、を備え、
前記所定範囲は、前記周波数範囲の、ミスアラインメントの状態において、アラインメントが一致している状態に比べて、スペクトル強度が高い周波数領域において、周波数が小さい側から前記スペクトル強度を加算した値が、前記周波数範囲の全体における前記スペクトル強度を合計した合計値の70%に到達する周波数から、前記周波数範囲の最大値までの範囲であり、
前記指標値は、前記所定範囲における前記スペクトル強度の平均値を、前記処理部で前記処理がされる前の前記周波数スペクトルにおける前記スペクトル強度の最大値で割った値であ
前記周波数範囲は、0~500kHzである、
ミスアライメント判定方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のミスアライメント判定装置と、前記回転機械と、
前記回転機械から生じる弾性波を検出し、前記検出信号を出力するセンサと、を備える、
回転機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械のミスアライメント(芯ずれ)を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械(例えば、モータの回転軸とポンプの回転軸)にミスアライメントが発生すると、回転機械が故障する原因となる。そこで、回転機械のミスアライメントを判定する技術が提案されている。例えば、特許文献1は、電動機で駆動される回転機械系の異常診断方法において、前記電動機の稼働時の電流信号をサンプリングし、高速フーリエ変換した後、前記電動機の電源周波数のスペクトルピークのレベルと、該電源周波数を中心周波数として対称に、前記電動機の回転子の軸の回転周波数分だけ離れた周波数の位置に現れるスペクトルピークのレベルとの差が、予め設定した値以下となったことを条件として、前記回転機械系において伝動継手で連結されている前記電動機の前記回転子の軸と、負荷側の回転軸との間に、アライメントの異常が発生したと判断することを特徴とする回転機械系の異常診断方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-227889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、スペクトルピークの差を指標値とし、これを予め設定した値(しきい値)と比較して、アライメントが一致している状態か、ミスアライメントの状態かを判定(言い換えれば、ミスアライメントが発生しているか否かを判定)する。この場合、誤判定を防止するためには、アライメントが一致している状態での指標値とミスアライメントの状態での指標値との差ができるだけ大きいことが望ましい。
【0005】
本発明の目的は、アライメントが一致している状態とミスアライメントの状態とで差が大きくなる指標値を基にして、ミスアライメントが発生しているか否かを判定するミスアライメント判定装置、ミスアライメント判定方法および回転機械システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置は、回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成部と、前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理部と、前記処理部で前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、周波数が相対的に高い範囲を示す所定範囲を設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出部と、前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定部と、を備える。
【0007】
スペクトル強度は、例えば、電圧(振幅)、エネルギーである。周波数スペクトルで示される周波数範囲のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数については、スペクトル強度が、回転機械の回転軸の回転数に依存しており、ミスアライメントと相関性を有しない。そこで、処理部は、これらを周波数スペクトルから除く処理をする。
【0008】
本発明者らは、処理部で処理がされた周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、周波数が相対的に高い範囲を示す所定範囲におけるスペクトル強度について、ミスアライメントの状態は、アライメントが一致している状態と比べて、スペクトル強度が高い傾向にあることを見出した。よって、所定範囲におけるスペクトル強度を基にした指標値(例えば、スペクトル強度の平均値)は、アライメントが一致している状態とミスアライメントの状態とで差を大きくすることができる。
【0009】
以上のように、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置によれば、アライメントが一致している状態とミスアライメントの状態とで差が大きくなる指標値を基にして、アライメントが一致している状態か、ミスアライメントの状態かを判定、言い換えれば、ミスアライメントが発生しているか否かを判定することができる。
【0010】
上記構成において、前記算出部は、前記周波数範囲の最大値から、前記最大値の半分の値までの範囲を前記所定範囲とする。
【0011】
この構成は、所定範囲の決め方の一例である。
【0012】
上記構成において、前記算出部は、前記周波数範囲の全体における前記スペクトル強度を合計した合計値を算出し、前記周波数範囲において、周波数が小さい側から前記スペクトル強度を加算した値が、前記合計値の70%に到達する前記周波数を特定し、特定された前記周波数から、前記周波数範囲の最大値までの範囲を前記所定範囲とする。
【0013】
この構成は、所定範囲の決め方の他の例である。
【0014】
上記構成において、前記指標値は、前記所定範囲における前記スペクトル強度の平均値を、前記処理部で前記処理がされる前の前記周波数スペクトルにおける前記スペクトル強度の最大値で割った値である。
【0015】
本発明者らは、処理部で処理がされる前の周波数スペクトルにおけるスペクトル強度の最大値(スペクトルピーク)について、ミスアライメントの状態とアライメントが一致している状態とを比較したとき、前者の方が後者よりも小さくなることを見出した。従って、この構成によれば、ミスアライメントの状態での指標値とアライメントが一致している状態での指標値の差をさらに大きくすることができる。
【0016】
本発明の第2局面に係るミスアライメント判定方法は、回転機械から生じる弾性波の検出信号をスペクトル分析することにより、前記検出信号の周波数スペクトルを生成する生成ステップと、前記周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および前記基本周波数の整数倍の周波数における前記スペクトル強度を除く処理をする処理ステップと、前記処理ステップで前記処理がされた前記周波数スペクトルが示す前記周波数範囲内に、周波数が相対的に高い範囲を示す所定範囲を設定し、前記所定範囲における前記スペクトル強度を基にした指標値を算出する算出ステップと、前記指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する判定ステップと、を備える。
【0017】
本発明の第2局面に係るミスアライメント判定方法は、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置を方法の観点から規定しており、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置と同様の作用効果を有する。
【0018】
本発明の第3局面に係る回転機械システムは、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置と、前記回転機械と、前記回転機械から生じる弾性波を検出し、前記検出信号を出力するセンサと、を備える。
【0019】
本発明の第3局面に係る回転機械システムは、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置を回転機械システムの観点から規定しており、本発明の第1局面に係るミスアライメント判定装置と同様の作用効果を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アライメントが一致している状態とミスアライメントの状態とで差が大きくなる指標値を基にして、ミスアライメントか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るミスアライメント判定装置のブロック図である。
図2】実験用回転機械の模式図である。
図3A】回転軸の回転数が500rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号の例を示すグラフである。
図3B】回転軸の回転数が500rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号の例を示すグラフである。
図4A図3Aに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図4B図3Bに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図5A図4Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図5B図4Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図6A】回転軸の回転数が100rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号の例を示すグラフである。
図6B】回転軸の回転数が100rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号の例を示すグラフである。
図7A図6Aに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図7B図6Bに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図8A図7Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図8B図7Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図9A】回転軸の回転数が1000rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号の例を示すグラフである。
図9B】回転軸の回転数が1000rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号の例を示すグラフである。
図10A図9Aに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図10B図9Bに示す検出信号をスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。
図11A図10Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図11B図10Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。
図12】回転軸の回転数と、周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度の平均値との関係を示す棒グラフである。
図13】回転軸の回転数と、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値との関係を示す棒グラフである。
図14】ミスアライメントが発生しているか否かの判定対象となる回転機械を備える回転機械システムの模式図である。
図15】実施形態に係るミスアライメント判定装置の動作を説明するフローチャートである。
図16】回転軸の回転数と、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値との関係を示す棒グラフである。
図17】芯出し時のデータを用いて生成された、回転数と、スペクトルピークと、スペクトル強度の平均値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。各図において、同一符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その構成について、既に説明している内容については、その説明を省略する。
【0023】
図1は、実施形態に係るミスアライメント判定装置1のブロック図である。ミスアライメント判定装置1は、制御処理部10と、IF部11と、入力部13と、出力部14と、を備える。
【0024】
制御処理部10は、ミスアライメント判定装置1の全体を統括し、ミスアライメント判定装置1の動作に必要な制御および処理をする。制御処理部10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、および、HDD(Hard Disk Drive)等のハードウェア、制御処理部10の機能を実行するためのプログラムおよびデータ等によって実現される。
【0025】
IF部11は、制御処理部10に接続され、制御処理部10の制御に従って、外部の機器との間で信号等を入出力する。例えば、IF部11は、AEセンサ12が出力した検出信号Sを受信し、これを制御処理部10へ送る。IF部11は、入出力インターフェース回路によって実現される。
【0026】
AE(Acoustic Emission)センサ12は、回転機械から生じる弾性波を検出し、検出信号Sを出力する。検出信号Sは、時系列信号である。AEセンサ12の換わりに、振動センサを用いてもよい。
【0027】
入力部13は、制御処理部10に接続され、オペレータが、各種の情報、データ、命令等を入力するための装置である。入力部13は、マウス、キーボード、タッチパネル等により実現される。出力部14は、制御処理部10に接続され、制御処理部10の制御に従って、入力部13から入力されたコマンド、データ、および、ミスアライメントの発生報知等を出力する装置である。出力部14は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ(Organic Light Emitting Diode display)等により実現される。
【0028】
制御処理部10は、機能ブロックとして、記憶部101と、生成部102と、処理部103と、算出部104と、判定部105と、を備える。制御処理部10は、IF部11から送られてきた検出信号SをAD変換(アナログ‐デジタル変換)し、記憶部101に記憶させる。
【0029】
記憶部101は、AD変換された検出信号S等を記憶する。
【0030】
生成部102は、記憶部101から検出信号Sを読み出し、検出信号Sをスペクトル分析(解析)することにより、検出信号Sの周波数スペクトルを生成する。スペクトル分析は、例えば、高速フーリエ変換である。周波数スペクトルは、周波数とスペクトル強度との関係を示す。スペクトル強度は、例えば、電圧(振幅)、エネルギーである。
【0031】
周波数スペクトルが示す周波数範囲は、検出信号Sが含む周波数成分のうち、どの範囲の周波数成分をスペクトル分析の対象とするかによって決まる。例えば、0~500kHzをスペクトル分析の対象にするとき、周波数スペクトルが示す周波数範囲は、0~500kHzに設定される。
【0032】
処理部103は、周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理をする。基本周波数は、回転機械基にして算出される値であり、例えば、本実施形態における基本周波数は、回転数によらず10kHzである。
【0033】
周波数スペクトルで示される周波数範囲(例えば、0~500kHz)のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数については、スペクトル強度が、回転機械の回転数に依存しており、ミスアライメントと相関性を有しない。そこで、処理部103は、これらを周波数スペクトルから除く処理をする。
【0034】
算出部104は、処理部103で処理がされた周波数スペクトルが示す周波数範囲内に、周波数が相対的に高い範囲を示す所定範囲を設定し、所定範囲におけるスペクトル強度を基にした指標値を算出する。
【0035】
本発明者らは、処理部103で処理がされた周波数スペクトルが示す周波数範囲(例えば、0~500kHz)におけるスペクトル強度のうち、周波数が相対的に高い範囲を示す所定範囲におけるスペクトル強度について、ミスアライメントの状態は、アライメントが一致している状態と比べて、スペクトル強度が大きい傾向にあることを見出した。よって、所定範囲におけるスペクトル強度を基にした指標値(例えば、スペクトル強度の平均値、中央値、最頻値)は、ミスアライメントの状態とアライメントが一致している状態とで差を大きくすることができる。
【0036】
所定範囲は、例えば、周波数範囲の最大値から、最大値の半分の値までの範囲である。この場合、周波数範囲が0~500kHzのとき、所定範囲は250~500kHzとなる。
【0037】
判定部105は、指標値を予め定められたしきい値と比較し、回転機械にミスアライメントが発生しているか否かを判定する。
【0038】
図2は、実験用回転機械3の模式図である。実験用回転機械3は、サーボモータ32と、シャフト33と、ハウジング35a,35bと、カップリング34と、を備える。
【0039】
サーボモータ32は、ボルトによってベース31の上に固定されている。サーボモータ32の回転軸321の中心軸AXに沿って、シャフト33がベース31の上方に配置されている。シャフト33の一方端部側は、ハウジング35aに内蔵された軸受け(不図示)によって回転可能に支持され、他方端部側は、ハウジング35bに内蔵された軸受け(不図示)によって回転可能に支持されている。ハウジング35aは、シム36を介して、ボルトによってベース31の上に固定されている。ハウジング35bは、ボルトによってベース31の上に固定されている。
【0040】
回転軸321とシャフト33とは、カップリング34によって連結されている。シム36によって、回転軸321の中心軸AXと、シャフト33の中心軸(不図示)とが強制的にずらされている。これにより、ミスアライメント状態にしている。
【0041】
ハウジング35aは、ハウジング35bよりも、カップリング34の近くにあり、ハウジング35aにAEセンサ12が設置されている。
【0042】
実験条件は、以下の通りである。シャフト33の外径は、直径40mmであり、シム36の厚みは、0.6mmであり、AEセンサ12のサンプリング周波数は、1MHzであった。
【0043】
図3Aは、回転軸321の回転数が500rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号Sの例を示すグラフである。芯出しは、アライメントを一致させることである。よって、芯出し時はアライメントが一致している状態である。図3Bは、回転軸321の回転数が500rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号Sの例を示すグラフである。図3Aおよび図3Bにおいて、縦軸は検出信号Sの電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0044】
図4Aは、図3Aに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。図4Bは、図3Bに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフである。スペクトル分析は、いずれも高速フーリエ変換である。図4Aおよび図4Bにおいて、縦軸はスペクトル強度(電圧)を示し、横軸は周波数を示す。
【0045】
図5Aは、図4Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。図5Bは、図4Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフである。図5Aおよび図5Bにおいて、縦軸はスペクトル強度(電圧)を示し、横軸は周波数を示す。
【0046】
基本周波数は、ここでは10kHzである。スペクトル強度を除く処理は、各周波数を中心にして、例えば、±1kHzの範囲である。すなわち、9~11kHz、19~21kHz、29~31kHz、・・・について、スペクトル強度を除く処理がされている。図5Aおよび図5Bにおいて、横軸に沿って一定間隔で隙間がある。これらの隙間は、スペクトル強度を除く処理がされた箇所を示す。
【0047】
図4A図4B図5A、および、図5Bにおいて、周波数範囲(0~500kHz)のスペクトルピーク(電圧の最大値)は、0.1mVよりかなり大きい値であった。スペクトルピークを示すことができるようにグラフの縦軸の上限を大きくすると、グラフが分かりにくくなるので、縦軸の上限を0.1mVにしている。
【0048】
図4A図4Bには示されていないが、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされる前(処理部103での処理前)において、周波数スペクトルにおけるスペクトルピークは、ミスアライメントの状態(図4B)の方が、芯出し時(図4A)に比べて、小さくなることが分かった(第1事象)。これは、芯出し時(図3A)と比べてミスアライメント状態(図3B)の方が、電圧の振幅が小さいことが原因と考えられる。なお、芯出し時は、アライメントが一致している状態である。
【0049】
図5Aおよび図5Bを参照して、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた後(処理部103での処理後)において、周波数スペクトルが示す周波数範囲(0~500kHz)のうち、250~500kHz(所定範囲)に着目すると、ミスアライメント状態(図5B)の方が、芯出し時(図5A)よりも、スペクトル強度が大きいことが分かった(第2事象)。これは、ミスアライメント状態(図3B)の方が、芯出し時(図3A)よりも、検出信号Sが細かく変動しているからと考えられる。
【0050】
第1事象および第2事象は、回転軸321の回転数が100rpmの下でも生じた。詳しい説明は省略するが、以下、グラフを示す。図6Aは、回転軸321の回転数が100rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号Sの例を示すグラフであり、図3Aと対応する。図6Bは、回転軸321の回転数が100rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号Sの例を示すグラフであり、図3Bと対応する。
【0051】
図7Aは、図6Aに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフであり、図4Aと対応する。図7Bは、図6Bに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフであり、図4Bと対応する。
【0052】
図8Aは、図7Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフであり、図5Aと対応する。図8Bは、図7Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフであり、図5Bと対応する。
【0053】
第1事象および第2事象は、回転軸321の回転数が1000rpmの下でも生じた。詳しい説明は省略するが、以下、グラフを示す。図9Aは、回転軸321の回転数が1000rpmの下で、芯出し時に検出された検出信号Sの例を示すグラフであり、図3Aと対応する。図9Bは、回転軸321の回転数が1000rpmの下で、ミスアライメントの状態で検出された検出信号Sの例を示すグラフであり、図3Bと対応する。
【0054】
図10Aは、図9Aに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフであり、図4Aと対応する。図10Bは、図9Bに示す検出信号Sをスペクトル分析することによって生成された周波数スペクトルを示すグラフであり、図4Bと対応する。
【0055】
図11Aは、図10Aに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフであり、図5Aと対応する。図11Bは、図10Bに示す周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理がされた周波数スペクトルを示すグラフであり、図5Bと対応する。
【0056】
図12は、回転軸321の回転数と、周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度の平均値との関係を示す棒グラフである。周波数スペクトルが示す周波数範囲は、0~500kHzである。ここでの平均値は、0~500kHzのスペクトル強度を合計し、この値を500(分母)で割った値ではない。スペクトル強度を除く処理がされた周波数帯(9~11kHz、19~21kHz、29~31kHz、・・・)は、分母に含まれない。
【0057】
(8A)は、図8A(芯出し時)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(8B)は、図8B(ミスアライメントの状態)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。
【0058】
(5A)は、図5A(芯出し時)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(5B)は、図5B(ミスアライメントの状態)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(11A)は、図11A(芯出し時)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(11B)は、図11B(ミスアライメントの状態)において、0~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。
【0059】
いずれの回転数においても、ミスアライメント状態の方が、芯出し時よりも、スペクトル強度の平均値が大きい。しかし、回転数が100rpm、500rpmのとき、ミスアライメント状態でのスペクトル強度の平均値と芯出し時でのスペクトル強度の平均値との差が小さい。よって、しきい値を用いて、ミスアライメントが発生しているか否かを判定することは困難である。
【0060】
図13は、回転軸321の回転数と、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値との関係を示す棒グラフである。所定範囲は、250~500kHzであり、周波数が相対的に高い範囲を示す。ここでの平均値は、250~500kHzのスペクトル強度を合計し、この値を250(分母)で割った値ではない。スペクトル強度を除く処理がされた周波数帯(249~251kHz、259~261kHz、269~271kHz、・・・)は、分母に含まれない。
【0061】
(8A)は、図8A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(8B)は、図8B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。
【0062】
(5A)は、図5A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(5B)は、図5B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(11A)は、図11A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。(11B)は、図11B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値を示している。
【0063】
いずれの回転数においても、ミスアライメントの状態の方が、芯出し時よりも、スペクトル強度の平均値が大きい。しかも、いずれの回転数においても、ミスアライメントの状態でのスペクトル強度の平均値と芯出し時でのスペクトル強度の平均値との差が大きい(ミスアライメントの状態でのスペクトル強度の平均値は、芯出し時でのスペクトル強度の平均値の約1.3~1.8倍である)。よって、しきい値を用いて、ミスアライメントが発生しているか否かを判定することできる。
【0064】
実施形態では、250~500kHz(所定範囲)におけるスペクトル強度の平均値を指標値とする。判定部105は、各回転数において、芯出し時の指標値を、例えば1.3倍した値をしきい値として、ミスアライメントが発生しているか否かを判定することができる。以上のように、実施形態によれば、芯出し時(アライメントが一致している状態)とミスアライメントの状態とで差が大きくなる指標値を基にして、ミスアライメントが発生しているか否かを判定することができる。
【0065】
実施形態に係るミスアライメント判定装置1の動作を説明する。図14は、ミスアライメントが発生しているか否かの判定対象となる回転機械5を備える回転機械システム5000の模式図である。回転機械システム5000は、回転機械5と、ミスアライメント判定装置1と、AEセンサ12と、を備える。
【0066】
回転機械5は、ベース51と、モータ52と、ポンプ53と、カップリング54と、を備える。モータ52およびポンプ53は、モータ52の回転軸521とポンプ53の回転軸531とを対向させて、ベース51に固定されている。回転軸521と回転軸531とは、カップリング54によって連結されている。
【0067】
AEセンサ12は、回転軸521と回転軸531とにミスアライメントが発生しているか否かの判定に用いる検出信号Sを出力する。AEセンサ12は、この目的を達成するために好適な箇所に設置される。例えば、AEセンサ12は、ポンプ53の筐体のうち、回転軸531に近い部分に配置される。
【0068】
AEセンサ12が出力した検出信号Sは、ミスアライメント判定装置1へ送られる。
【0069】
記憶部101(図1)は、モータ52の回転軸521の回転数に応じて決められたしきい値を予め記憶している。例えば、回転数がn1のとき、しきい値がth1であり、回転数がn2のとき、しきい値がth2である。
【0070】
図15は、実施形態に係るミスアライメント判定装置1の動作を説明するフローチャートである。図1および図15を参照して、オペレータが入力部13を操作して、モータ52の回転軸521(図14)の回転数を入力し、そして、ミスアライメントの監視命令を入力する(S1)。判定部105は、入力された回転数に割り当てられたしきい値を、記憶部101から読み出す。例えば、入力された回転数がn1のとき、判定部105は、回転数n1に割り当てられたしきい値th1を記憶部101から読み出す。
【0071】
制御処理部10は、ミスアライメントの監視命令の入力に応じて、AEセンサ12を作動させる信号を、IF部11を介して、AEセンサ12に送信する。これにより、AEセンサ12は作動を開始し、回転機械5(図14)から生じる弾性波の検出信号Sを出力する。IF部11は、AEセンサ12が出力した検出信号Sを受信し(S2)、制御処理部10に送る。
【0072】
制御処理部10は、検出信号SをAD変換し、記憶部101に記憶させる。生成部102は、記憶部101に記憶されている検出信号Sを読み出し、この検出信号Sの周波数スペクトルを生成する(S3)。
【0073】
処理部103は、処理S3で生成された周波数スペクトルが示す周波数範囲におけるスペクトル強度のうち、基本周波数および基本周波数の整数倍の周波数におけるスペクトル強度を除く処理をする(S4)。
【0074】
周波数スペクトルで示される周波数範囲は、予め記憶部101に記憶されている。例えば、0~500kHzである。算出部104は、記憶部101から周波数範囲を読み出し、この周波数範囲を基にして所定範囲を算出する(例えば、250~500kHz)。算出部104は、処理S4で処理された周波数スペクトルが示す周波数範囲内に所定範囲を設定し、所定範囲におけるスペクトル強度を基にした指標値を算出する(S5)。指標値は、例えば、スペクトル強度の平均値である。
【0075】
判定部105は、指標値がしきい値を超えているか否かを判定する(S6)。判定部105は、指標値がしきい値を超えていないと判定したとき(S6でNo)、回転軸521と回転軸531(図14)とにミスアライメントが発生していないと判定する(S7)。そして、制御処理部10は、ミスアライメントの監視の停止命令が入力されたか否かを判断する(S8)。停止命令は、オペレータが入力部13を操作することにより入力される。
【0076】
制御処理部10が、ミスアライメントの監視の停止命令が入力されたと判断したとき(S8でYes)、ミスアライメント判定装置1は、ミスアライメントの監視を終了する。制御処理部10が、ミスアライメントの監視の停止命令が入力されていないと判断したとき(S8でNo)、ミスアライメント判定装置1は、処理S2に戻る。
【0077】
判定部105は、指標値がしきい値を超えていると判定したとき(S6でYes)、回転軸521と回転軸531(図14)とにミスアライメントが発生していると判定する(S9)。判定部105は、出力部14を用いて、オペレータにミスアライメントが発生していることを報知する(S10)。そして、制御処理部10は、処理S8をする。
【0078】
所定範囲の決め方の他の例を説明する。例えば、図8Aおよび図8Bを参照して、周波数が250kHzより小さくても、ミスアライメントの状態の方が、芯出し時よりも、スペクトル強度が高い範囲(240~250kHz)がある。他の例では、この範囲も含むことが可能となる所定範囲を決める。算出部104は、周波数スペクトルが示す周波数範囲(0~500kHz)の全体におけるスペクトル強度を合計した合計値を算出し、この周波数範囲において、周波数が小さい側(周波数0側)からスペクトル強度を加算した値が、合計値の70%に到達する周波数を特定し、特定された周波数から、周波数範囲の最大値(500kHz)までの範囲を所定範囲とする。
【0079】
実施形態には、第1変形例と第2変形例がある。これらについて、実施形態と相違する点を中心に説明する。第1変形例から説明する。第1変形例は、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を指標値とする。スペクトルピークは、処理部103で処理前の周波数スペクトル(図4A図4B図7A図7B図10A図10B)におけるスペクトル強度の最大値である。なお、上述したように、作図上の理由で、それらの図には、スペクトルピークは示されていない。
【0080】
本発明者らは、スペクトルピークは、ミスアライメント状態の方が、芯出し時よりも小さくなることを見出した。従って、第1変形例によれば、ミスアライメントの状態での指標値と芯出し時での指標値との差をさらに大きくすることができる。詳しく説明する。
【0081】
図16は、回転軸の回転数と、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値との関係を示す棒グラフである。所定範囲は、250~500kHzであり、周波数が相対的に高い範囲を示す。(8A)は、図8A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。(8B)は、図8B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。
【0082】
(5A)は、図5A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。(5B)は、図5B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。(11A)は、図11A(芯出し時)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。(11B)は、図11B(ミスアライメントの状態)において、250~500kHzにおけるスペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を示している。
【0083】
以下、スペクトル強度の平均値をスペクトルピークで割った値を、「平均値/ピーク」と記載する。いずれの回転数においても、ミスアライメント状態での「平均値/ピーク」と芯出し時での「平均値/ピーク」との差が大きい(ミスアライメント状態での「平均値/ピーク」は、芯出し時での「平均値/ピーク」の約1.8~2.7倍である)。
【0084】
図13および図16を参照して、「平均値/ピーク」の場合の方が、スペクトル強度の平均値の場合よりも、芯出し時での値とミスアライメントの状態での値との差が大きい。従って、「平均値/ピーク」を指標値にすれば、ミスアライメントが発生しているか否かの判定精度をより向上させることができる。
【0085】
第2変形例を説明する。指標値と比較されるしきい値は、回転軸521(図14)の回転数に応じて決まり、記憶部101(図1)に予め記憶されている。回転軸521の回転数の種類が多い場合(例えば、・・・、80rpm、90rpm、100rpm、110rpm、120rpm、・・・)、全ての回転数について、しきい値を予め用意するのは手間がかかる。第2変形例は、記憶部101にしきい値が記憶されていない回転数について、内挿や外挿により、しきい値を算出する。
【0086】
図17は、芯出し時のデータを用いて生成された、回転数と、スペクトルピークと、スペクトル強度の平均値との関係を示すグラフである。グラフの横軸は、回転軸321(図2)の回転数を示す。グラフの一方側の縦軸は、スペクトルピークを示す。グラフの他方側の縦軸は、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を示す。図2に示す回転機械3を用いた実験結果から、芯出し時において、回転数が100rpm、500rpm、1000rpmのそれぞれについて、スペクトルピーク、および、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値が求められる。図17には、これらがプロットされ、スペクトルピークを示す線L1、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を示す線L2が示されている。
【0087】
スペクトルピークを示す線L1、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を示す線L2から分かるように、回転軸321(図2)の回転数が大きくなると、スペクトルピーク、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値のいずれも線形的に増加している。従って、100rpm、500rpm、1000rpm以外の回転数でも、内挿処理や外挿処理により、芯出し時について、スペクトルピーク、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値が求まる。
【0088】
記憶部101は、芯出し時について、複数の種類の回転数別に(例えば、100rpm、500rpm、1000rpm)、スペクトルピーク、および、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を示すデータ予め記憶している。
【0089】
算出部104は、回転軸521の回転数が、複数の種類以外の回転数のとき、記憶部101からそのデータを読み出し、内挿処理や外挿処理により、スペクトルピーク、および、所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を求め、これを基にして、しきい値を算出する。
【符号の説明】
【0090】
1 ミスアライメント判定装置
3 実験用回転機械
31 ベース
32 サーボモータ
321 回転軸
33 シャフト
34 カップリング
35a,35b ハウジング
36 シム
5 回転機械
51 ベース
52 モータ
521 回転軸
53 ポンプ
531 回転軸
54 カップリング
5000 回転機械システム
AX 中心軸
L1 スペクトルピークを示す線
L2 所定範囲におけるスペクトル強度の平均値を示す線
S 検出信号
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17