(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ、電気機器、及びアルミニウム電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/02 20060101AFI20240228BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240228BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01G9/02
H01G9/00 290C
H01G9/145
H01G9/00 290D
(21)【出願番号】P 2019146404
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】大城 健一
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-029428(JP,A)
【文献】特開2010-044935(JP,A)
【文献】特開2010-114173(JP,A)
【文献】特開昭63-164420(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065951(WO,A1)
【文献】特開2014-072361(JP,A)
【文献】特開2012-209181(JP,A)
【文献】国際公開第2011/021668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/02
H01G 9/00
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含む第1金属層及び前記第1金属層の表面に形成された誘電体層を有する陽極と、アルミニウムを含む第2金属層を有する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられる繊維膜と、を備えたアルミニウム電解コンデンサを製造する方法であって、
前記陽極及び前記陰極のうち一方にエレクトロスピニング法により前記繊維膜を形成する形成工程と、
前記形成工程の後に実行され、前記繊維膜が形成された前記一方を加圧することで前記一方に前記繊維膜を定着させる定着工程と、
を備え、
前記定着工程において、直径250mm以下のローラーを用いて、15N/mm以上60N/mm未満のプレス圧で前記繊維膜が形成された前記一方を加圧し、
前記形成工程において、前記陽極に第1直径を有する第1繊維を堆積させて第1層を形成した後、前記第1層に前記第1直径よりも小さい第2直径を有する第2繊維を堆積させて第2層を形成する、アルミニウム電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記形成工程において、前記陽極を囲むように前記第1層を形成した後、前記第1層を囲むように前記第2層を形成する、請求項
1記載のアルミニウム電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
アルミニウムを含む第1金属層及び前記第1金属層の表面に形成された誘電体層を有する陽極と、アルミニウムを含む第2金属層を有する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられる繊維膜と、を備えたアルミニウム電解コンデンサを製造する方法であって、
前記陽極及び前記陰極のうち一方にエレクトロスピニング法により前記繊維膜を形成する形成工程と、
前記形成工程の後に実行され、前記繊維膜が形成された前記一方を加圧することで前記一方に前記繊維膜を定着させる定着工程と、
を備え、
前記定着工程において、直径250mm以下のローラーを用いて、15N/mm以上60N/mm未満のプレス圧で前記繊維膜が形成された前記一方を加圧し、
前記形成工程において、前記陰極に第2直径を有する第2繊維を堆積させて第2層を形成した後、前記第2層に前記第2直径よりも大きい第1直径を有する第1繊維を堆積させて第1層を形成する、アルミニウム電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記形成工程において、前記陰極を囲むように前記第2層を形成した後、前記第2層を囲むように前記第1層を形成する、請求項
3記載のアルミニウム電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記定着工程の後に実行され、前記繊維膜が定着した前記一方と、前記陽極及び前記陰極のうち他方と、を重ねて多重に巻き込む巻き込み工程と、
前記巻き込み工程の後に実行され、前記繊維膜に電解液を含浸させる含浸工程と、
をさらに備えた、請求項
1~4のいずれか1つに記載のアルミニウム電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アルミニウム電解コンデンサ、電気機器、及びアルミニウム電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製の陽極と陰極との間にセパレータを設けたアルミニウム電解コンデンサが知られている(特許文献1)。このようなアルミニウム電解コンデンサにおいて、短絡を抑制しつつ、容量を大きくすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、短絡を抑制しつつ、容量を大きくできるアルミニウム電解コンデンサ、電気機器、及びアルミニウム電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサは、アルミニウムを含む金属層及び前記金属層の表面に形成された誘電体層を有する陽極と、アルミニウムを含む金属層を有する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられる繊維膜と、を備えている。前記繊維膜は、第1層と、第2層と、を有する。前記第1層は、第1直径を有する第1繊維を含み、前記誘電体層と前記第2層との間に設けられる。前記第2層は、前記第1直径よりも小さい第2直径を有する第2繊維を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサを表す斜視図である。
【
図2】実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの一部を表す断面図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極の表面を模式的に表す断面図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの繊維膜の第1層及び第2層を模式的に表す概略図である。
【
図5】実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法に使用される製造装置の一部を模式的に表す概略図である。
【
図6】実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法に使用される製造装置の一部を模式的に表す概略図である。
【
図7】実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法の一例を表すフローチャートである。
【
図8】実施形態の変形例に係るアルミニウム電解コンデンサの一部を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサを表す斜視図である。
図2は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの一部を表す断面図である。
図3(a)及び
図3(b)は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの陽極及び陰極の表面を模式的に表す断面図である。
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの繊維膜の第1層及び第2層を模式的に表す概略図である。
【0009】
図1及び
図2に表したように、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサ100は、陽極10と、陰極20と、繊維膜30と、を備えている。アルミニウム電解コンデンサ100は、陽極10、陰極20、及び繊維膜30を多重に巻き込んだ円筒形状の構造を有する。また、アルミニウム電解コンデンサ100は、巻き込み方向に直交する方向に延びるリード端子50を有する。アルミニウム電解コンデンサ100は、例えば、リード端子50を介して電気機器の基板上の回路に電気的に接続され、電気機器においてコンデンサとして機能する。
【0010】
図2に表したように、陽極10は、第1面10aと、第2面10bと、を有する。陰極20は、第3面20aと、第4面20bと、を有する。第1面10aは、陰極20と対向する面である。第4面20bは、陽極10と対向する面である。つまり、陽極10の第1面10aと陰極20の第4面20bとは、互いに対向する面である。第2面10bは、第1面10aと反対側の面である。第3面20aは、第4面20bと反対側の面である。
【0011】
陽極10は、金属層11と、金属層11の表面に形成された誘電体層12と、を有する。金属層11は、アルミニウムを含む。金属層11は、例えば、アルミニウムの金属箔からなる。誘電体層12は、例えば、アルミニウムの酸化膜からなる。この例では、誘電体層12は、陽極10の第1面10a及び第2面10bに形成されている。一方、第1面10aと第2面10bとの間の側面10cには、誘電体層12が形成されていない。実施形態においては、陽極10の側面10cに誘電体層12が形成されていてもよい。陽極10の厚さ(第1面10aと第2面10bとの間の距離)は、例えば、10μm以上200μm以下であり、より好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0012】
陰極20は、金属層21を有する。金属層21は、アルミニウムを含む。金属層21は、例えば、アルミニウムの金属箔からなる。陰極20の厚さ(第3面20aと第4面20bとの間の距離)は、例えば、10μm以上200μm以下であり、より好ましくは、陽極10の厚さより薄く、10μm以上100μm以下である。
【0013】
図3(a)及び
図3(b)に表したように、陽極10の金属層11及び陰極20の金属層21は、それぞれ表面に微細な凹凸を有する。凹凸の高さは、例えば、1μm程度である。
図3(a)に表したように、誘電体層12は、金属層11の凹凸に沿って形成されている。このような凹凸を有することで、陽極10及び陰極20の表面積が大きくなり、アルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0014】
繊維膜30は、高分子化合物を含む繊維が堆積して形成された膜である。繊維膜30は、セパレータ(電解紙)として機能する。後述のように、繊維膜30には、電解液が含浸(浸透)される。繊維膜30の厚さは、例えば、10μm以上200μm以下である。繊維膜30をこのような厚さにすることで、アルミニウム電解コンデンサ100の単位体積あたりの巻き込み数を多くすることができ、アルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。また、繊維膜30をこのような厚さにすることで、陽極10や陰極20の一部にバリなどが生じた場合にも、短絡を抑制することができる。
【0015】
図2に表したように、繊維膜30は、少なくとも陽極10と陰極20との間に設けられる。この例では、繊維膜30は、陽極10を囲むように設けられている。つまり、繊維膜30は、陽極10の第1面10a側だけでなく、陽極10の第2面10b側、及び、陽極10の側面10c側にも設けられている。
【0016】
また、繊維膜30は、第1層31と、第2層32と、を有する。第1層31は、少なくとも陽極10の誘電体層12と第2層32との間に設けられる。つまり、陽極10と陰極20との間において、第1層31は、陽極10(誘電体層12)側に設けられており、第2層32は、陰極20側に設けられている。この例では、第1層31は、陽極10を囲むように設けられており、第2層32は、第1層31を囲むように設けられている。
【0017】
図4(a)に表したように、第1層31は、第1繊維31aを含む。第1繊維31aは、高分子化合物を含む。第1繊維31aは、例えば、高分子化合物と、無機粒子と、を含む。無機粒子は、例えば、絶縁性の無機化合物粒子である。無機粒子は、例えば、シリカまたはアルミナである。無機粒子の粒径は、例えば、1μm未満である。無機粒子は、必要に応じて添加され、省略可能である。第1繊維31aは、第1直径R1を有する。第1直径R1は、例えば、第1繊維31aの平均直径である。第1直径R1は、例えば、3μm以上5μm以下である。
【0018】
図4(b)に表したように、第2層32は、第2繊維32aを含む。第2繊維32aは、高分子化合物を含む。第2繊維32aは、第2直径R2を有する。第2直径R2は、例えば、第2繊維32aの平均直径である。第2直径R2は、例えば、1μm以上3μm未満である。
【0019】
上記のように、第2直径R2は、第1直径R1よりも小さい。つまり、第1層31は、第2繊維32aよりも繊維径が太い第1繊維31aにより形成された繊維層である。また、第2層32は、第1繊維31aよりも繊維径が細い第2繊維32aにより形成された繊維層である。この繊維径の違いにより、第1層31の密度は、第2層32の密度よりも高くなる。換言すれば、第1層31は、第2層に比べて空隙が少ない密な構造になる。
【0020】
繊維膜30の空隙率は、例えば、30%以上80%以下である。空隙率は、繊維膜30における空隙(繊維がない部分)の割合である。空隙率は、繊維膜30の体積V、繊維膜30の重量M、及び繊維の密度Dにより、100×(VD-M)/VD(%)と表すことができる。
【0021】
アルミニウム電解コンデンサ100は、
図2に表した陽極10、陰極20、及び繊維膜30からなる構造を多重に巻き込んで形成される。つまり、多重に巻き込んだ状態においては、陽極10の第2面10b側の繊維膜30が、陽極10と第2面10b側(内側)の陰極20との間のセパレータとして機能する。
【0022】
以下、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法に使用される装置について説明する。
図5及び
図6は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造に使用される製造装置の一部を模式的に表す概略図である。
図5は、製造装置200のうち、繊維膜30の形成(後述の形成工程)に使用される電解紡糸装置210を表している。
図6は、製造装置200のうち、繊維膜30の定着(後述の定着工程)に使用される加圧装置220を表している。
【0023】
図5に表したように、電解紡糸装置210は、製造装置200の搬送部230により搬送される電極(この例では、陽極10)に対して、エレクトロスピニング法により繊維30aを射出し、繊維膜30を形成する。電解紡糸装置210は、陽極10に繊維30aを射出するノズル211と、ノズル211に繊維30aの材料となる高分子化合物溶液を供給するポンプ212と、ノズル211に電圧を印加する電源213と、を有する。
【0024】
搬送部230は、陽極10を巻き出す巻出部(図示せず)と陽極10を巻き取る巻取部(図示せず)とを有するロールトゥロールの搬送機構により、陽極10を矢印の方向に搬送する。より具体的には、搬送部230は、繊維膜30を形成する前の陽極10をロールから巻き出すとともに、繊維膜30を形成した後の陽極10をロールに巻き取ることで、陽極10を搬送する。
【0025】
ノズル211は、搬送部230により搬送される陽極10に対して、繊維30aを射出して、繊維膜30を形成する。ノズル211は、ポンプ212及び電源213と接続されており、ポンプ212から供給される高分子化合物溶液に、電源213からの電圧を印加して、繊維30aを射出する。
【0026】
この例では、電解紡糸装置210は、陽極10を挟んで対向する位置に設けられた一対のノズル211a及び211bを有する。これにより、陽極10の両側から繊維30aを射出することができ、陽極10を囲むように繊維膜30を形成することができる。なお、この例では、陽極10の第1面10a及び第2面10bに向けて繊維30aを射出するように一対のノズル211a及び211bを設けているが、陽極10の側面10cに向けて繊維30aを射出するように一対のノズル211a及び211bを設けてもよい。
【0027】
例えば、ポンプ212から供給される高分子化合物溶液の原料や濃度や送液流量、ノズル211と陽極10との電圧差(電源213からノズル211に印加される電圧の大きさ)、ノズル211から陽極10までの距離、ノズル211の口径などを調節することで、ノズル211から射出される繊維30aの繊維径を調節することができる。これにより、ノズル211から、繊維径の異なる第1繊維31aや第2繊維32aを射出することができる。
【0028】
上述のように、陽極10に第1層31を形成し、さらに第1層31に第2層32を形成した構造とする場合には、例えば、第1層31を形成するための電解紡糸装置210の下流側(巻取部側)に、第2層32を形成するための別の電解紡糸装置210を設ける。
【0029】
電解紡糸装置210の下流側には、電解紡糸装置210により形成された繊維膜30を電極(この例では、陽極10)に定着させるための加圧装置220が設けられる。これにより、陽極10への繊維膜30の形成と、陽極10への繊維膜30の定着と、を連続的に行うことができる。
【0030】
図6に表したように、加圧装置220は、繊維膜30が形成された陽極10を加圧するローラー221を有する。ローラー221は、搬送部230により搬送される繊維膜30が形成された陽極10を挟んだ状態で破線矢印の方向に回転することで、繊維膜30が形成された陽極10を第1面10a及び第2面10bに対して垂直な方向に加圧する。この例では、加圧装置220は、陽極10の第1面10a側及び第2面10b側に設けられた一対のローラー221a及び221bを有する。ローラー221aは、例えば、定位置で回転可能に設けられており、移動可能なローラー221bがローラー221aに向かって押し付けられることで、ローラー221aとローラー221bとの間にある繊維膜30が形成された陽極10が第1面10a側及び第2面10b側の2方向から加圧される。
【0031】
ローラー221の直径R3は、250mm以下である。ローラー221の直径R3の下限は、特に限定されないが、例えば、40mm程度である。ローラー221aの直径とローラー221bの直径とは、同じである。
【0032】
ローラー221は、15N/mm以上60N/mm未満のプレス圧で、繊維膜30が形成された陽極10を加圧する。プレス圧は、(荷重)/(ローラー221の幅W1)で表される。ローラー221aの幅とローラー221bの幅とは、同じである。荷重は、例えば、ローラー221bを動かすアームに取り付けられたロードセルの測定結果に基づいて制御することができる。
【0033】
なお、この例では、陽極10に繊維膜30を形成する場合について説明したが、後述のように、陰極20に繊維膜30を形成してもよい。この場合には、搬送部230によって搬送される電極が、陰極20に変更される。また、このとき、後述のように、陰極20に第2層32を形成し、さらに第2層32に第1層31を形成した構造とする場合には、例えば、第2層32を形成するための電解紡糸装置210の下流側に、第1層31を形成するための別の電解紡糸装置210を設ける。
【0034】
以下、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法について説明する。
図7は、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法の一例を表すフローチャートである。
【0035】
図7に表したように、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法では、まず、陽極10の材料である第1金属箔(金属層11)及び陰極20の材料である第2金属箔(金属層21)に対して、それぞれエッチング処理を行い、第1金属箔及び第2金属箔の表面に
図3(a)及び
図3(b)に表したような凹凸を形成する(ステップS101)。
【0036】
次に、第1金属箔に対して酸化膜の形成処理(いわゆる、化成処理)を行い、第1金属箔の表面に
図3(a)に表したような誘電体層12を形成する(ステップS102)。
【0037】
次に、第1金属箔及び第2金属箔をそれぞれ所望の幅に切断(スリット)して陽極10及び陰極20のロール(ウェブ)を作製する(ステップS103)。実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法においては、あらかじめステップS101~ステップS103の処理が施された陽極10及び陰極20のロール(ウェブ)を用意してもよい。
【0038】
次に、
図5に表した電解紡糸装置210を用いて、陽極10及び陰極20のうち一方(この例では、陽極10)にエレクトロスピニング法により繊維膜30を形成する(ステップS104:形成工程)。この例では、形成工程において、陽極10に第1直径R1を有する第1繊維31aを堆積させて第1層31を形成した後、第1層31に第1直径R1よりも小さい第2直径R2を有する第2繊維32aを堆積させて第2層32を形成する。より具体的には、第1層31を形成するための電解紡糸装置210のノズル211から第1繊維31aを射出して、陽極10を囲むように第1層31を形成した後、第2層32を形成するための別の電解紡糸装置210のノズル211から第2繊維32aを射出して、第1層31を囲むように第2層32を形成する。
【0039】
次に、
図6に表した加圧装置220を用いて、繊維膜30が形成された陽極10を加圧することで陽極10に繊維膜30を定着させる(ステップS105:定着工程)。定着工程においては、直径250mm以下のローラー221を用いて、15N/mm以上60N/mm未満のプレス圧で繊維膜30が形成された陽極10を加圧する。
【0040】
次に、繊維膜30が定着した陽極10と、陰極20と、を重ねて多重に巻き込む(ステップS106:巻き込み工程)。さらに、多重に巻き込んだ陽極10、陰極20、及び繊維膜30を電解液に浸漬させることで、陽極10と陰極20との間にある繊維膜30に電解液を含浸(浸透)させる(ステップS107:含浸工程)。以上により、アルミニウム電解コンデンサ100を製造することができる。
【0041】
なお、この例では、陽極10に繊維膜30として第1層31及び第2層32を形成する場合について説明したが、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法においては、第1層31または第2層32の形成を省略してもよい。換言すれば、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法によって製造されるアルミニウム電解コンデンサは、単層の繊維膜30を有するものであってもよい。また、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法においては、後述のように、陰極20に繊維膜30を形成してもよい。
【0042】
以下、実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサ100及び実施形態に係るアルミニウム電解コンデンサの製造方法の作用効果について説明する。
【0043】
アルミニウム電解コンデンサの容量を大きくする手段として、セパレータを薄くすることが考えられる。しかし、セパレータを薄くすると、巻き込みを行いにくいという問題がある。これを解決する手段として、エレクトロスピニング法によって電極に形成した薄い繊維膜をセパレータとして用いることが考えられる。
【0044】
このように繊維膜でセパレータを形成する場合、繊維膜の密度によって、耐電圧や電解液の浸透性などの性質が異なるため、所望の性能を得られない場合がある。例えば、繊維膜を高密度な構造にすると、繊維膜の耐電圧を向上させることができるが、繊維膜への電解液の浸透性が低下し、容量が低下する恐れがある。一方、繊維膜を低密度な構造にすると、繊維膜への電解液の浸透性を向上させることができるが、繊維膜の耐電圧が低下し、短絡が発生する恐れがある。
【0045】
そこで、実施形態においては、陽極10と陰極20との間に、繊維径が互いに異なる第1層31と第2層32とを有する繊維膜30を設ける。上記のように、第1層31は、第2層32に比べて空隙が少ない密な構造であるため、第2層32よりも耐電圧が高い。一方で、第1層31は、第2層32に比べて空隙が少ない密な構造であるため、第2層32よりも電解液の浸透性が低い。これに対し、第2層32は、第1層31に比べて空隙が多い疎な構造であるため、第1層31よりも耐電圧が低い。一方で、第2層32は、第1層31に比べて空隙が多い疎な構造であるため、第1層31よりも電解液の浸透性が高い。実施形態においては、耐電圧に優れる第1層31と電解液の浸透性に優れる第2層32とを有する2層構造の繊維膜30を設けることで、繊維膜30の耐電圧と繊維膜30への電解液の浸透性とを両立することができる。
【0046】
また、実施形態においては、陽極10の誘電体層12と第2層32との間に、第1層31を設ける。換言すれば、誘電体層12を有する陽極10側に繊維径の大きい第1層31を設け、陰極20側に繊維径の小さい第2層32を設ける。これにより、誘電体層12を有する陽極10側において繊維膜30の耐電圧を向上させつつ、陰極20側において繊維膜30への電解液の浸透性を向上させることができる。したがって、誘電体層12を有する陽極10側に第2層32を設け、陰極20側に第1層31を設ける場合と比べて、確実に繊維膜30の耐電圧と繊維膜30への電解液の浸透性とを両立することができる。これにより、繊維膜30の耐電圧を向上させて短絡を抑制しつつ、繊維膜30への電解液の浸透性を向上させてアルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0047】
また、実施形態においては、陽極10を囲むように繊維膜30(第1層31及び第2層32)を設けることが好ましい。陽極10の第1面10a側だけでなく、陽極10の第2面10b側にも繊維膜30を設けることで、陽極10と陰極20とを多重に巻き込む際に、陽極10と陽極10の第2面10b側に位置する陰極20との間に別途セパレータを設ける必要がない。また、陽極10と陰極20との間だけでなく、陽極10の側面10c側も繊維膜30で覆うことで、誘電体層12が形成されていない陽極10の側面10c側も繊維膜30で絶縁することができる。これにより、短絡を抑制できる。
【0048】
また、実施形態においては、第1繊維31aに粒径1μm未満の無機粒子を添加することが好ましい。これにより、第1層31の耐電圧を向上させ、第1層31を薄くすることができる。第1層31を薄くすることで、繊維膜30を薄くすることができるため、繊維膜30が厚い場合と比べて、アルミニウム電解コンデンサ100の単位体積あたりの巻き込み数を多くすることができ、アルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0049】
また、実施形態においては、繊維膜30の空隙率を30%以上80%以下にすることが好ましい。これにより、より確実に繊維膜30の耐電圧と繊維膜30への電解液の浸透性とを両立することができる。したがって、より確実に短絡を抑制しつつ、セパレータを薄くしてアルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0050】
また、エレクトロスピニング法によって形成された繊維膜は電極から剥がれやすいため、繊維膜を形成した後に加圧することで電極に定着させる必要がある。このとき、加圧の条件によっては、電極の表面の凹凸が潰れてしまい、アルミニウム電解コンデンサの容量が低下する恐れがある。
【0051】
そこで、実施形態においては、定着工程において、直径250mm以下のローラー221を用い、プレス圧を15N/mm以上60N/mm未満にする。直径250mm以下のローラー221を用いることで、ローラー221と繊維膜30との接触面積が小さくなり、加圧によって陽極10及び陰極20の表面の凹凸が潰れることを抑制できる。また、プレス圧を15N/mm以上60N/mm未満にすることで、確実に繊維膜30を陽極10に定着させつつ、陽極10及び陰極20の表面の凹凸が潰れることを抑制できる。したがって、陽極10に繊維膜30を確実に定着させることができるとともに、アルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0052】
図8は、実施形態の変形例に係るアルミニウム電解コンデンサの一部を表す断面図である。
図8に表したように、この例では、繊維膜30は、陰極20を囲むように設けられている。より具体的には、第2層32は、陰極20を囲むように設けられており、第1層31は、第2層32を囲むように設けられている。つまり、第1層31は、陽極10と陰極20との間において、誘電体層12と第2層32との間に設けられている。
【0053】
例えば、形成工程において陰極20に第2繊維32aを堆積させて第2層32を形成した後、第2層32に第1繊維31aを堆積させて第1層31を形成し、定着工程において繊維膜30(第2層32及び第1層31)が形成された陰極20を加圧する以外は、上述のアルミニウム電解コンデンサ100の製造方法と同様にして、変形例に係るアルミニウム電解コンデンサ100Aを製造することができる。
【0054】
また、このとき、形成工程において、陰極20を囲むように第2層32を形成した後、第2層32を囲むように第1層31を形成することが好ましい。これにより、容易に陰極20を囲むように繊維膜30(第2層32及び第1層31)を形成することができる。
【0055】
この変形例においても、誘電体層12を有する陽極10側に繊維径の大きい第1層31を設け、陰極20側に繊維径の小さい第2層32を設けることで、誘電体層12を有する陽極10側に第2層32を設け、陰極20側に第1層31を設ける場合と比べて、確実に繊維膜30の耐電圧と繊維膜30への電解液の浸透性とを両立することができる。これにより、短絡を抑制しつつ、セパレータを薄くしてアルミニウム電解コンデンサ100の容量を大きくすることができる。
【0056】
以上、説明したように、実施形態によれば、短絡を抑制しつつ、容量を大きくできるアルミニウム電解コンデンサ、電気機器、及びアルミニウム電解コンデンサの製造方法が提供される。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…陽極、 10a…第1面、 10b…第2面、 10c…側面、 11…金属層、 12…誘電体層、 20…陰極、 20a…第3面、 20b…第4面、 21…金属層、 30…繊維膜、 30a…繊維、 31…第1層、 31a…第1繊維、 32…第2層、 32a…第2繊維、 50…リード端子、 100、100A…アルミニウム電解コンデンサ、 200…製造装置、 210…電解紡糸装置、 211、211a、211b…ノズル、 212…ポンプ、 213…電源、 220…加圧装置、 221、221a、221b…ローラー、 230…搬送部