IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローランドディー.ジー.株式会社の特許一覧

特許7444564加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム
<>
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図1
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図2
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図3
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図4
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図5
  • 特許-加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システム
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20240228BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20240228BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/00
B05C11/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019163645
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2020059019
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018191026
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 貴文
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097594(JP,A)
【文献】特開2004-261800(JP,A)
【文献】特開2007-275702(JP,A)
【文献】特開2010-142684(JP,A)
【文献】特開2007-245033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
B05D 1/00- 7/26
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾インクを収容するためのシリンジであって、
加飾インクを収容するための筒状の本体部と、
前記本体部に流体を導入するための導入部と、
前記流体により送られる前記加飾インクを吐出する吐出部と、
前記本体部に備えられ、少なくとも推奨吐出部形状、推奨吐出圧、および推奨シリンジ移動速度を含む前記加飾インクの吐出を可能とするインク情報を記憶する記憶媒体と、
を備える、加飾インク用シリンジ。
【請求項2】
前記記憶媒体は、読み出しと書き込みが可能とされている、請求項1に記載の加飾インク用シリンジ。
【請求項3】
前記記憶媒体は、ユーザによって設定される吐出圧および移動速度の組合せであるユーザインク情報を書き込み可能に構成されている、請求項1または2に記載の加飾インク用シリンジ。
【請求項4】
前記本体部は、前記導入部の近傍において外方に吐出するフランジ部を備え、
前記記憶媒体は、前記フランジ部に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾インク用シリンジ。
【請求項5】
前記本体部には第1加飾インクが収容されており、
前記インク情報は、前記第1加飾インクを吐出するためのインク情報である、請求項1~4のいずれか1項に記載の加飾インク用シリンジ。
【請求項6】
前記インク情報は、さらに、前記第1加飾インクの使用期限情報を含む、請求項に記載の加飾インク用シリンジ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のシリンジを複数備え、
少なくとも2つの前記シリンジは、互いに異なる加飾インクを収容する、シリンジセット。
【請求項8】
加飾インクを収容したシリンジと、
前記シリンジを着脱可能に装着するシリンジホルダと、
前記シリンジに流体を供給するディスペンサと、
前記シリンジホルダを被加飾物に対して相対的に移動させる移動装置と、
読み取り装置と、
制御装置と、
を備え、
前記シリンジは、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリンジであるか、請求項7のシリンジセットに含まれるいずれかのシリンジであって、
前記読み取り装置は、前記シリンジホルダに装着された前記シリンジの前記記憶媒体に記憶された前記インク情報を読み取り可能な位置に配置されている、加飾システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記読み取り装置が前記記憶媒体から読み取った前記インク情報に基づいて、前記ディスペンサによる前記流体の供給と、前記移動装置による前記シリンジの移動速度と、を制御可能なように構成されている、請求項8に記載の加飾システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記読み取り装置が前記記憶媒体から読み取った前記加飾インクの使用期限情報に基づき、当該シリンジが使用期限内であるかどうかを判断し、当該シリンジが使用期限内である場合に前記加飾インクを用いた加飾を実行する、請求項8または9に記載加飾システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾インク用シリンジとシリンジセットおよび加飾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧品ケース、携帯電話ケース等の日用品や、電子機器の外装材等に、凹凸を付与することで高級感や特殊な意匠を付与するという需要がある。このような部分的に凹凸を備える意匠は、一般には、例えばケースや外装材等の本体を作製する際に、目的の意匠に対応する凹凸を備える金型を用意し、本体と凹凸部分とを一体的に成形する。しかしながら、この手法は本体作製時に金型を用意しなければならず、大量生産向きではあるが、利用者の多様な嗜好を満足させる意匠を、少量であっても要求(Demand)に応じた必要数だけ手軽に形成するためには負荷が大きい。そこで近年では、UV硬化性樹脂をインクとして用いたインクジェットプリンタにより、無版で凹凸を持たせた擬似エンボス印刷(2.5D印刷ともいう。)を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5805633号公報
【文献】特許第5000177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット法による印刷では、高精度な凹凸形状を印刷できるという利点がある。しかしながら、インクジェット法はインクをピコリットルオーダーの微小な液滴として吐出するため、たとえ平面(2D)の一部に立体的な凸部を印刷する2.5D印刷であっても、印刷時間が極めて長くなるという課題がある。例えば人の手で触れて凹凸を感じられる凸部を印刷するのに数時間を要する。また、装飾性を高める目的で、着色インクを用いる以外に、例えば、インクにラメ等の加飾粒子を含ませたいという要求がある。しかしながら、インクジェット法では吐出ノズルの構造から、例えば1μm程度以上の装飾性の高い粒子を含むインクや、顔料を高濃度で含むインクを使用することはできず、ラメ加飾の幅に制限がある。
【0005】
そこで、本発明者は、インクジェット法では使用されない加飾インクを、シリンジを用いて被加飾物に供給することで、立体的な印刷(2.5D印刷などと表現する場合がある。)を実施することを想到した。そして同時に、多様な装飾を実現するために、加飾インクとして様々な構成のものを提供することを構想している。しかしながら、2.5D印刷を可能とする加飾インクは、インクジェット用インクなどと比較して、例えば立体形状を維持したり加飾粒子の分散性を維持したりする観点から、総じて粘性は高めとなり流動性は低めとなる。加えて、加飾インクの構成を異ならせるとその性状は大きく変わり得る。そのため、例えば、液体塗布用のシリンジと、デジタル式のシリンジ移動装置とが提供されていても、加飾インクの性状によってはシリンジから加飾インクを吐出させることができない、換言すると、加飾インクに応じた当該シリンジからの吐出条件を見出せない、という状態に頻繁に陥り得ることを知見した。その結果、シリンジに収容した加飾インクの吐出条件を見出すために、時間を要したり、調整加飾インクを多量に消費してしまうという課題があった。
【0006】
本発明は上記の従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、2.5D加飾インクを収容するためのシリンジについて、加飾インクを収容した場合に当該加飾インクを直ちに吐出可能とする技術を提供することと、その周辺技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される技術は、加飾インク用シリンジを提供する。この加飾インク用シリンジ(以下、単に「シリンジ」という場合がある。)は、2.5D加飾に適した加飾インクを収容するためのシリンジであって、筒状の本体部と、上記本体部に流体を導入するための導入部と、上記流体により送られた上記加飾インクを吐出する吐出部と、上記本体部に備えられ、少なくとも推奨吐出圧を含む上記加飾インクの吐出を可能とするインク情報を記録する記憶媒体と、を備える。
【0008】
上記構成によると、加飾インク用シリンジは、収容する加飾インクの推奨吐出圧に関する情報を少なくとも付帯することができる。したがって、多数のシリンジに多様な加飾インクをそれぞれ収容したときであっても、当該加飾インク入りシリンジを任意のユーザが利用する際に、ユーザは記憶媒体に記録された推奨吐出圧を読み出して直ちに印刷を始めることができる。これにより、インクの吐出条件をゼロから探求する必要がなく、多様な加飾を手軽に短時間で実施することができる。また上記構成は、このシリンジを複数備え、少なくとも2つのシリンジが互いに異なる加飾インクを収容するシリンジセットとした場合に、特にその利点が発揮されるために好ましい。
【0009】
なお、塗布液をシリンジに収容して基板に供給する技術については、例えば特許文献2に開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されるプリント配線基板へのはんだや接着剤の塗布では、一つの塗布装置で用いる塗布液の種類や性状が一定となるように管理されており、殆ど差がない。換言すれば、この種の技術分野では、はんだや接着剤の塗布量にばらつきがないことが要求されるため、塗布液の性状も塗布条件も大きくは変更されない。そして、たとえはんだや接着剤が改良されても、まったく吐出不能な状態になるほど吐出条件が劇的に変化することはなく、塗布装置に装着したシリンジを交換するとき、シリンジ交換毎に吐出条件を探求する必要もない。したがって、特許文献2に係る技術分野では、この種の課題は生じない。
【0010】
また、ここに開示される技術は、加飾システムを提供する。この加飾システムは、加飾インクを収容したシリンジと、上記シリンジを着脱可能に装着するシリンジホルダと、上記シリンジに流体を供給するディスペンサと、上記シリンジホルダを被加飾物に対して相対的に移動させる移動装置と、読み取り装置と、制御装置と、を備える。そして上記シリンジは、上記いずれかの2.5D加飾に適したシリンジであるか、上記シリンジセットに含まれるいずれかのシリンジであって、上記読み取り装置は、上記シリンジホルダに装着された上記シリンジの上記記憶媒体に対向する位置に配置されている。
【0011】
上記構成によると、シリンジをシリンジホルダに装着することで、読み取り装置が自動的に記憶媒体から当該シリンジに収容された加飾インクのインク情報を読み取ることができる。このことにより、ユーザが手作業等で推奨吐出圧等のインク情報を読み出しを行う必要がなく、スムーズに加飾インクによる印刷を開始することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2.5D加飾インクを収容するためのシリンジについて、加飾インクを収容した場合に当該加飾インクを直ちに吐出可能にする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る加飾システムの構成を示す斜視図である。
図2】一実施形態に係るシリンジの構成を説明する斜視図である。
図3】加飾インクを用い加飾システムにより描画した凸部の様子を例示する図である。
図4】加飾インクを用い加飾システムにより異なる条件で描画した凸部の様子を例示する図である。
図5】異なる加飾インクを用い加飾システムにより描画した凸部の様子を例示する図である。
図6】画像を備える被加飾物に加飾した様子を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、加飾インク用シリンジおよび加飾システムの構成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、加飾インクの詳細な構成や調整法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0015】
図1は、一実施形態に係る加飾システム1の斜視図である。図面中の符号U、D、F、Rr、L、Rは、それぞれ垂直方向の上、下、水平方向における前、後、左、右を示している。ただし、左、右とは、加飾システム1の正面にいる作業者から見た左、右をそれぞれ意味し、また、前、後とは、加飾システム1から作業者に向かう方向を前、遠ざかる方向を後とする。図面中の符号Yは主走査方向を表す。本実施形態において、主走査方向Yは左右方向である。図面中の符号Xは副走査方向を表す。副走査方向Xは主走査方向Yと交差する方向であり、本実施形態では水平面において主走査方向Yと直角に交わる前後方向である。図面中の符号Zは高さ方向を表す。高さ方向は主走査方向Yおよび副走査方向Xと交差する方向であり、本実施形態で高さ方向Zは上下方向である。すなわち、本実施形態では方向X,Y,Zは互いに直交する空間座標系となり得る。ただし、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0016】
この加飾システム1は、テーブル20に載置された被加飾物5に対し、シリンジ30に収容した加飾インク10を吐出して加飾するものである。以下、加飾システム1の構成について説明しながら、シリンジ30について説明する。加飾システム1は、テーブル20と、シリンジ30と、シリンジホルダ52と、ディスペンサ40と、移動装置50、60、70と、リーダ・ライタ38と、制御装置80とを備えている。
【0017】
シリンジ30は、加飾インクを収容することができる容器であり、その容量や構成材料等は特に制限されない。シリンジ30は、例えば、容量が1mL~500mL程度の樹脂製のシリンジ(注射筒)が例示される。なお、シリンジ30は、収容する加飾インクの性状に応じて、その劣化や変質等を抑制する素材によって構成されていてもよい。例えば、シリンジ30は、酸素、湿気、熱、光、電磁波、金属イオン、微生物、および酵素等の少なくとも一つから加飾インクの変質を抑制し得る素材により構成されていてもよい。例えば、収容する加飾インクが光硬化性(例えばUV硬化樹脂)や光変質性を有する物質等を含む場合は、シリンジ30は、遮光性(例えば、UVカット性)を備えていることが好ましい。また例えば、収容する加飾インクが酸化劣化を受けやすい物質等を含む場合は、シリンジ30は、酸素透過性の低い材料で構成されていてもよい。シリンジ30は、内容物の簡単な識別のために、シリンジの一部または全部が有色透明ないしは無色透明であってよい。
【0018】
シリンジ30は、典型的には、筒型の本体部31と、本体部31の筒軸方向の一端に設けられる導入部32と、他端に設けられる吐出部34とを備えている。導入部32は、通常、加飾インクを収容するための開口であり、後述するディスペンサ40によって流体が導入される導入口でもある。一好適例として、シリンジ30の横断面における本体部31の形状と、導入部32の形状とは同じである。本体部31の導入部32側の端部には、外方(横断面の半径外側)に突出するフランジ部33が設けられている。フランジ部33は、導入部32の全周に亘って設けられていてもよいし、導入部32の周縁の一部に設けられていてもよい。本実施形態のシリンジは、本体部31の周縁のうち、対向する2か所にフランジ部33が延設されている。吐出部34は、通常、加飾インクをシリンジ30から吐出するための開口である。吐出部34の横断面積は、本体部31の横断面積よりも小さい。また、本実施形態の吐出部34には、吐出口の径を狭小化するニードル35が備えられている。吐出部34には、ニードル35に変えて、吐出口の径が先細りするように形成された円錐形状の吐出口チップ(図示せず)等が装着されてもよい。またこれらニードル35およびチップは、先端の形状および開口径等が様々なものを任意に付け替えることができる。
【0019】
シリンジ30には、記憶媒体36が備えられている。記憶媒体36は、収容する加飾インクの吐出を可能とするインク情報を記憶する機能を有する。記憶媒体36は、インク情報を読み出し可能に構成されていればよく、読み出しと書き込みとが可能であればより好ましい。記憶媒体36は、接触または非接触のいずれの状態でインク情報を読み出すように構成されていてもよく、一例では、非接触で読み出せるよう構成されているとより好ましい。かかる記憶媒体36の構成は具体的には制限されず、例えば、シリンジ30よりも十分に寸法の小さいものが好ましい。記憶媒体36としては、情報を文字や記号で記憶するものや、バーコード等に代表される1次元コード、QRコード(登録商標)等に代表される2次元コード、ICタグ等に代表されるRFID (Radio-Frequency Identification)タグ等であってよい。だたし、バーコード等に代表される1次元コードは、記憶できる情報量が制限されることに加え、専用の読み取り装置が比較的大きくなる点において利用が制限され得る。また、バーコードやQRコード(登録商標)は、バーコードでの運用では、レーザなどでタグを一つ一つ読み取るためにカメラやレーザ等で図として認識する必要があるため、コードが汚れたり隠れたりすると認識できないという点において利用が制限され得る。これに対し、RFIDタグは、書き込みが可能なことに加え、接触または非接触でかつ読み取り装置から隠れていても、複数のものを同時に読み取りが可能となる点で望ましい記憶媒体36である。なかでも、リーダからの電波をエネルギー源として動作するパッシブタイプのRFIDタグが特に好ましい。なお、本明細書では、RFIDタグとは、ID情報等を記憶可能なIC(集積回路)を含み、電磁界や電波などを用いて近距離(周波数帯によるが、数cm~数m、例えば1cm~5m)の無線通信によって情報の読み書きができるもの一般をいう。
【0020】
かかるインク情報は、少なくとも推奨吐出圧を含む。インク情報は、推奨吐出圧の他に、シリンジ走査速度、ベタ塗のための線間隔、ある特定の太さの線を描くための吐出圧とシリンジ走査速度との組み合わせ等が挙げられる。さらにインク情報は、当該加飾インクが収容されているシリンジ30の吐出部34またはニードル35等の最小口径や、加飾インクが含む粒子の平均粒子径等の情報を含んでいてもよい。これらのインク情報は、各項目について、1点情報として含まれていてもよいし、吐出可能な領域(例えば、上限値および下限値とにより決定される数値範囲)の情報として含まれていてもよい。またインク情報は、当該シリンジを識別するためのID情報や、収容された加飾インクの性状を考慮した使用期限情報および開封後使用期限情報等を含んでもよい。記憶媒体36には、シリンジ30に加飾インクを収容するのに合わせて、収容される加飾インクについてのインク情報が記憶される。推奨吐出圧を含む最初のインク情報は、加飾インクを収容したシリンジ30がユーザに提供されたり、ユーザが使用したりする前に記憶されていればよい。したがって、加飾インクが収容されていないシリンジ30の記憶媒体36には、インク情報が記録されていなくてもよい。また、記憶媒体36が読み書き可能なものである場合、ユーザが最初にシリンジ30を開封した日時を記憶媒体36に新たなインク情報として書き加えることができる。シリンジ30の開封日時は、後述するリーダ・ライタ38によって書き込んでもよいし、例えば、シリンジ30を最初にシリンジホルダ52に装着した日時を装着信号などとして自動的に検知することで、自動的に記憶媒体36に書き込むように構成されていてもよい。開封日時情報は、ID情報等とともに、制御装置80内に記憶されてもよい。また、ユーザがシリンジ30に収容された加飾インクを使用する前だけでなく、収容された加飾インクを使用し始めてから、記憶媒体36に新たなインク情報を書き加えられるように構成されていてもよい。このような新たなインク情報は、ユーザが所望の加飾をするに適した吐出圧とシリンジ走査速度との組み合わせであり得る。
【0021】
このような記憶媒体36は、記憶された情報を読み取り装置によって読み取れる位置であれば、シリンジ30のいずれの位置に備えられていてもよい。上記の1次元コードおよび2次元コード(これらは記録媒体であり得る。)は一般的に読み取り装置によって直接(例えば光学的に)読み取り可能であることが求められることから、例えば視認し易い位置、例えば本体部31の表面に配置されることが望ましい。一方、RFIDやICチップは、電磁波(例えば、電波)による無線通信を用いて情報のやり取りが可能であることから、シリンジ30に対する配置は制限されない。一例として、シリンジ30の正しい装着についても確認が可能となることから、例えば図2に示したように、フランジ部33に配置されることが好ましい。例えば、フランジ部33のうち、後述するディスペンサ40のシリンジ接続部48に備えられるリーダ・ライタ38と対向する位置に配置されることが好ましい。リーダ・ライタ38は、本発明における読み取り装置の一例である。リーダ・ライタ38は、記憶媒体36との組み合わせによって、記憶媒体36からの情報の読み取りに加え、記憶媒体36への情報の書き込みが可能に構成されている。記憶媒体36およびリーダ・ライタ38の少なくとも一方は、シリンジ30(例えば、記憶媒体36)とシリンジ接続部48(例えば、リーダ・ライタ38)との接触を検出できるように構成されていてもよい。
【0022】
ここに開示される加飾インク10は、シリンジ30によって被加飾物5(単に「基材」という場合がある)に供給することで、当該基材に凹凸による意匠を形成することができるインク組成物である。この加飾インク10は、そのままの状態では液体(粘性体を含む)である。そしてこの加飾インク10が基材の所望の位置に所望の形態で供給され、その後に必要に応じて硬化して固体となることによって、所望の意匠を備える凸部を形成する。
【0023】
加飾インク10は、一度の基材への供給走査でなるべく高い凸部を形成可能とするために、非ニュートン流体であることが求められる。加飾インク10は、非ニュートン流動性を示すようにその配合が調整されている。このことにより、上記のとおり、シリンジ30によって被加飾物5に供給されたときに、タレを抑制して、断面形状をより長い間維持することができる。
【0024】
ここで、非ニュートン流体とは、ニュートン流体に当てはまらない流体の総称であり、流れの剪断応力(接線応力)と流れの速度勾配(ずり速度、せん断速度)との関係が線形ではない粘性を有する流体を意味する。なお加飾インク10は、より好ましくは、擬塑性流体である。加飾インク10が擬塑性流体であることで、力を加えることにより粘度が低下し、力を加えるまでは高い粘度を示す。このことにより、シリンジ30からの加飾インクの供給に際して、例えば供給圧を加えることで、加飾インク10の供給性(流動性)が向上するために好ましい。また、シリンジ30から吐出されてせん断速度から開放された加飾インクは、基材上で流動性が低減されて滲んだりタレ難くなり、形状精度の高い加飾を行うことができるために好ましい。
【0025】
このような加飾インク10は、上記の性状を備える範囲において、そのたの特徴は厳密には制限されない。例えば、加飾インク10は、用途に応じて、食品衛生法、欧州玩具指令、ST(Safety Toy)基準等に準じて重金属類の含有量,溶出量等を制限するなどし、人(乳幼児を含む)が口にしても安全な安全基準が満たされたものであってよい。また、加飾インク10は、例えば、食用可能なもの(食品)から構成されていてもよい。加飾インク10としての食品は、基材に配置されることで、硬化することなく、あるいは、硬化して、基材を装飾するものであってもよい。この場合の基材は、食品であってもよいし、食品でなくてもよい。食品としては、一例として、マヨネーズ等の調味料、動物,魚,およびこれらの内臓等の食肉ペースト、各種の野菜ペースト、チョコレート,生クリーム,ムース等の製菓用食品、等が挙げられる。
【0026】
また、加飾インク10の具体的な組成は特に制限されない。加飾インク10は、基材に供給されたのち硬化する硬化機構を備えていてもよい。例えば、加飾インク10の硬化機構は、溶剤または分散媒が揮発することによって硬化する溶剤揮散型(乾燥硬化型であり得る)、雰囲気中の水分と反応して硬化する湿気硬化型、加熱することで加飾インク10中の硬化剤が活性化して硬化する加熱硬化型、紫外線等のエネルギー線を照射することにより短時間で硬化するエネルギー線硬化型、加熱溶融状態で供給されて冷却すると硬化する熱溶融型等のいずれであってもよい。また、加飾インク10は、硬化することなく基材に配置されることで基材を装飾するものであってもよい。なお、加飾インク10による装飾の形態を維持しやすいとの観点からは、加飾インク10は硬化性を有するとよい。基材の組成や大きさ等に影響されることなく、所望の凹凸意匠をより短時間で形成できるとの観点からは、加飾インク10は、エネルギー線硬化型の樹脂組成物であることが好ましい。エネルギー線硬化型樹脂組成物としては、例えば、ラジカル重合するアクリル系樹脂とシリコーン系樹脂、カチオン重合するエポキシ系樹脂等が好適例として挙げられる。また、これらの樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線としては、紫外線(UV)、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等が挙げられる。
【0027】
加飾インク10から形成される凸部は、例えば、高い意匠性を実現するために、ベースとなる硬化性の樹脂組成物(重合性化合物)に、各種の色材や加飾材料を含むことができる。ベースとなる樹脂組成物は特に制限されず、例えば、ポリ塩化ビニル系、アクリル樹脂系、ポリカーボネート系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリスチレン系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系等の重合性化合物が挙げられる。加飾インク10は、硬化後に基材に付与した下地模様が視認できたり、含有する加飾材料による意匠性が視認できることが好ましい。また、加飾インク10から形成される凸部は、用途によっては、屋外での使用に際して変色し難いことや、割れ・欠けなどに対する強度および耐久性を備えていることが好ましい。かかる観点において、加飾インク10は、ベースとなる材料が透明で、耐候性に優れ、高強度であることが好ましい。硬化物に対するこのような性状を満足する加飾インク10としては、例えば、アクリル系樹脂を主成分として含む重合性化合物が好適例として挙げられる。これらの加飾インク10は、媒体として水を含む水系インク(エマルション系インクを包含する。)、媒体として溶剤を含む溶剤系インク、媒体を含まない無溶剤系インクのいずれであってもよい。
【0028】
以下、加飾インク10が、アクリル系樹脂を構成する重合性化合物を主成分として含む場合について説明する。なお、ここでいう主成分とは、このインク組成物の硬化物であるポリマーを構成するモノマー単位のうち、最も多く含まれているモノマー単位をいう。アクリル樹脂系のインク組成物の場合は、モノマー単位として、アクリル系モノマー単位を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、例えば70質量%以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましい。
【0029】
ここに開示される加飾インク10は、好適な一例として、エネルギー線の作用によって液体(粘性体を含む。)から固体に変化するアクリル樹脂系の有機材料(重合性化合物)と、重合開始剤とを含む。ここでエネルギー線は例えば紫外線であり、この重合性化合物は、例えば、紫外線硬化性化合物であり得る。この重合性化合物は、典型的には、モノマー(単量体)、オリゴマー、および、プレポリマーのいずれか1種以上を含む。モノマーは、重合を行う際の基質であり、ポリマーを構成する最小単位でもある。オリゴマーは、分子量が1万以下の低重合体であってよく、好ましくはダイマーまたはトリマーである。プレポリマーは、モノマーの重合または縮合反応を適当な所で止めた中間生成物であり、例えば、重量平均分子量が1万を越えて重合度が1000以下程度のもの(ポリマーに至らないもの)をいう。ここに開示される加飾インク10において、重合性化合物は、少なくともオリゴマー成分を含むことが好ましく、モノマーとオリゴマーとを含むことがより好ましい。オリゴマーは、モノマー成分等に比べて一般に高粘度であるため、上記のとおり細線連続描画性を実現する非ニュートン流動性の加飾インク10を調製するために特に適した成分であり得る。
【0030】
重合性化合物は、アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を含むモノマー、オリゴマーを含むことが好ましい。これにより、硬化したときに透明性に優れ、形成される凸部の意匠性を高める効果を発現する。また、適度な硬度を備えて耐久性および耐候性にも優れるために好ましい。このようなモノマー単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0031】
またこれらのモノマー単位は、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマーを含んでいてもよい。このような他のモノマー(共重合性モノマー)としては、カルボキシ基、水酸基、窒素原子含有環等の極性基、ケイ素含有基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アミド基、ウレタン基、ポリエステル基等を含むモノマーが挙げられる。
【0032】
重合開始剤は、エネルギー線を吸収して活性化(励起)し、重合性化合物の重合反応を開始する物質(例えば、ラジカル分子や水素イオン)を生成して、重合性化合物の三次元的な重合や架橋を引き起こす役割を担う。重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、光アニオン重合開始剤等の、この種の公知の各種の化合物を用いることができる。一例として、光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、p-アニシル系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、例えば、重合性化合物におけるモノマー成分100重量部に対して0.01重量部~5重量部程度とすることができる。
【0033】
上記の各成分は、希釈材として水(例えばイオン交換水)を用いることで水系UVインクとして、あるいは溶剤を用いることで溶剤系UVインクとして調製することができる。環境負荷の低減の観点からは、水系UVインクであることが好ましい。また、上記モノマーおよびオリゴマーと光重合開始剤の使用に代えて、数平均分子量が50万以下(例えば10万~50満程度)のプレポリマーを適切な分散剤等とともに水系の希釈材に分散させることで、エマルジョンタイプの水系アクリルインクとして調製することもできる。水系の希釈材としては、水(例えば、純水、イオン交換水)、および水と水溶性有機溶剤とこの混合物の使用が好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、n-プロパノールなどの炭素数が1~6程度の低級アルコール類、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、n-メチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。このような水系インクを用いることで、例えば臭気を発することなく加飾を行うことができる。
【0034】
加飾インク10が色材を含む場合、かかる色材としては、例えば、染料、顔料等が挙げられる。色材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。加飾インク10が色材を含む場合、これに限定されるものではないが、照射されたエネルギー線を遮断しないとの観点から、染料を含むことが好ましい。このような染料としては、例えば、紫外線硬化型の加飾インク10に使用可能であることが知られている各種染料を使用することができ、その例としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料等が挙げられる。かかる染料についての色彩は多用であってよく、例えば、シアン系染料、マゼンタ系染料、イエロー系染料、ブラック系染料、ライトシアン系染料、ライトマゼンタ系染料、ライトイエロー系染料、グレー系染料、各色の蛍光染料およびその他の色の染料であってよい。
【0035】
一方で、加飾インク10が色材を含む場合、これに限定されるものではないが、耐光性、耐久性および化学的安定性等が高いとの観点から、顔料を含むことが好ましい。このような顔料は、無機顔料と有機顔料の何れも使用することができる。顔料の色彩は多様であってよく、例えば、ブラック系顔料、シアン系顔料、マゼンタ系顔料、イエロー系顔料、ライトシアン系顔料、ライトマゼンタ系顔料、ライトイエロー系顔料、グレー系顔料、各色の蛍光顔料およびその他の色の顔料が挙げられる。より具体的に、有機顔料の例としては、アゾ顔料(例、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料など)、多環式顔料(例、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が挙げられる。無機顔料の例としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等が挙げられる。
【0036】
また、加飾インク10が加飾材料を含む場合、そのような加飾材料としては、例えば、平均粒子径が1μm以上の材料を挙げることができる。特に限定されるものではないが、加飾材料は、吐出部34またはニードル35等の吐出口の寸法の1/10以下、例えば1/20以下の平均粒子径を有するものを、加飾インク10の吐出供給性を損ねることなく好適に含むことができる。加飾材料の平均粒子径は、例えば5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、例えば20μm以上であってよい。加飾材料の平均粒子径の上限は厳密には制限されないが、例えば、100μm以下程度を一つの目安とすることができる。加飾材料がこのような大きな寸法を有することで、当該加飾材料が有する機能や性状を発揮して基材を効果的に加飾することができる。なお、インクジェットプリンタに用いられるインクに含まれる一般的な顔料の平均粒子径は200nm以下であり、大きくても1μmに満たないのが実情である。また、特殊なインクジェットプリンタ用のインクであって、平均粒子径が1μm以上の顔料等を含むものについては、当該顔料を多量に(高濃度に)含むことはできない。ここに開示される技術では、このような大きな加飾材料を含む加飾インク10とすることによって、基材を好適に装飾することができる。なお、本明細書における平均粒子径は、レーザ回折法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%粒径(D50)である。
【0037】
加飾材料は、必ずしもこれに限定されないが、例えば、その寸法が大きいときにより一層加飾効果が発揮される材料であることが好ましい。そのような加飾材料としては、例えば、低濃度では発色が得られ難い白色顔料、金属光沢を発現するメタリック顔料や、メタリック顔料よりも柔らかなパール調の光沢を発するパール顔料、立体的なホログラムパターンが備えられたホログラムグリッター、様々な光学的特性を発現し得る金属酸化物粒子等が好適例として挙げられる。より具体的には、白色顔料としては、二酸化チタン、シリカなどの無機白色粒子等が挙げられる。メタリック顔料としては、アルミニウム、金、銀、銅、ブロンズ、ステンレス、ニッケル等の金属粉を薄く延展した鱗片状の金属顔料等が挙げられる。パール顔料としては、光の多重層反射を実現する構成であれば特に制限されず、例えば、天然または人工の層状粒子であるマイカ(雲母)をコアとし、その表面を二酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化セリウム、フッ素化合物等の高屈折材料で被覆した被覆雲母や、薄片アルミニウムをコアとしてその表面を上記と同様の高屈折材料で被覆した干渉色アルミ顔料、タルクをコアとしてその表面を上記と同様の高屈折材料で被覆したタルク質パール顔料等が挙げられる。ホログラムグリッターとしては、アルミニウム蒸着したポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)等の樹脂フィルムに、超微細なホログラムエンボス加工を施すことによって、プリズム効果を発現させたホログラムフィルムの粉末である、ホログラムラメパウダー等が挙げられる。金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄等の紫外線散乱剤、タルク、カオリン、マイカ、金属石鹸等の体質顔料等が挙げられる。加飾インク10は、このような加飾材料のいずれか1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。このような加飾材を含む加飾インク10を用いることで、基材を、メタリック調、パール調、ホログラムラメ調、光沢質等の意匠性を有する凸部によって加飾することができる。
【0038】
加飾インク10に加飾材料を含ませる場合、その割合は、ベースとなる樹脂組成物の粘度等にもよるために一概には言えないが、例えば、1~20質量%程度とすることができる。加飾材料の割合が1質量%よりも少なすぎると、十分な加飾効果が得られにくく、同じ箇所に加飾インクを複数回重ねて印刷する必要が生じ得るために好ましくない。加飾材料の割合は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、例えば10質量%以上であってよい。しかしながら、加飾材料の割合が20質量%よりも多すぎると、ニードル35等の吐出口が詰まりやすくなるために好ましくない。加飾材料の割合は、例えば、18質量%以下が好ましく、15質量%以下としてもよい。
【0039】
加飾インク10は、ここに開示される技術の本質を損ねない範囲において、重合性化合物および重合開始剤のほかに、必要に応じて添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、レオロジー調整剤、レベリング剤、可塑剤、分散剤、増粘剤、界面活性剤、酸化防止剤、消泡剤、pH調整剤、光安定剤、防カビ剤等のうちの1種または2種以上が挙げられる。これらの添加剤は、合計の添加量が加飾インク10の総量の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0040】
なお、レオロジー調整剤としては、加飾インク10に対し、シリンジ30からの供給時に粘度を低下させて流動性を向上させ、シリンジ30からの供給後に粘度を回復させてタレを防止するチキソトロピック性を付与する各種の化合物を用いることができる。レオロジー調整剤が、固体(例えば粉体)であっても液体であってもよく、混合が簡便であるとの観点からは液体であるとよい。このような化合物としては、例えば、層状無機添加剤等の無機材料を主体とする化合物であってもよいし、各種の官能基或いは結晶構造を備えることで加飾インク10の分散媒中に三次元ネットワークを形成する有機高分子を主体とする化合物であってもよい。なお、レオロジー調整剤の一例としては、具体的には、例えば、変性ベントナイトや合成ヘクトライト等のフェロケイ酸塩を主体とする鉱物系増粘剤(有機変性層状無機添加剤);キサンタンガム、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリオキシエチレンウレタン樹脂、変性ウレア(変性カルバミド)樹脂、アクリル系樹脂、これらのアルカリ膨潤性エマルション(ASE)およびこれらを疎水性修飾した疎水性会合型シックナー等が例示される。疎水性会合型シックナーとしては、例えば、疎水性ポリオキシエチレンウレタン樹脂または非イオン型疎水性ポリオキシエチレンブロック共重合体(HEUR)、疎水性修飾アルカリ可溶性エマルション(HASE)、疎水性ヒドロキシエチルセルローズ(HMHEC)等が代表例として挙げられる。加飾材料を含む加飾インク10において、レオロジー調整材は、当該加飾材料の沈降を防止する作用を示し得る点においても好ましい。
【0041】
加飾インク10の粘度は、色材のタイプや、加飾粒子の有無およびそれらの濃度等によって多様となり得る。これに限定されるものではないが、ここに開示されるシリンジ30を用いて加飾に使用することが望まれる加飾インク10の粘度は、25℃、せん断速度1000/sのときの粘度として、例えば10m・Pa~5Pa程度と広い範囲にわたり得る。シリンジ30の形状にもよるが、例えば、よりスムーズな吐出を実現するために、加飾インク10は、25℃、1000/sにおける粘度が、2Pa・s以下であることが好ましく、例えば1Pa・s以下であってよく、500mPa・s以下がより好ましい。しかしながら、1000/sにおける粘度が低すぎると、ノズルから吐出される加飾インク10の粘度が低すぎてタレを生じてしまうために好ましくない。1000/sにおける粘度の下限はこれに限定されるものではないが、好適な一例として、80mPa・sとすることが例示される。
【0042】
このような加飾インク10は、上記の各成分を公知の手法に従い均一に混合することにより調製することができる。例えば、重合性化合物、重合開始剤、色材を含むエマルジョンおよびその他の成分等を、公知の混合装置または撹拌装置を用いて均一に混合することにより作製することができる。
【0043】
ここに開示されるシリンジ30は、このような加飾インク10を本体部31に充填したのち導入部32と吐出部34とを封止(例えばシール)するなどして密閉することで、加飾インク10を長期にわたって保管することができる。このとき、記憶媒体36には、当該充填された加飾インクを吐出するためのインク情報が記憶される。このような加飾インク10入りのシリンジ30は、加飾システム1におけるインクカートリッジとして用いることができる。このようなインクカートリッジは、上述のとおり、ブラック系、シアン系、マゼンタ系、イエロー系、ライトシアン系、ライトマゼンタ系、ライトイエロー系、グレー系、蛍光色等の様々な色合いのインクや、白色、金色、銀色、パール色の加飾粒子を含む特色インク、あるいは色材等を含まない無色透明インク等を収容することができる。またインクカートリッジは、食品からなる加飾インク10を収容することができる。
【0044】
ここに開示される加飾システム1では、このような異なる意匠性を有する互いに異なる加飾インクを収容したインクカートリッジを複数備えることで、多様な意匠性を備えた凸部を形成できるために好適である。そこで、例えば、複数の加飾インク10入りのシリンジ30(以下、単に「インクカートリッジ」という場合がある。)をシリンジセットとしてもよい。シリンジセットは、少なくとも2つのシリンジ30が、互いに異なる加飾インクを収容している。シリンジセットは、全てのシリンジ30が、互いに異なる加飾インクを収容していてもよい。また、シリンジセットは、容量の異なるシリンジ30を含んでいてもよい。このようなシリンジセットを加飾システム1にて用いることで、ここに開示される技術の利点がより明瞭となるために好ましい。
【0045】
ディスペンサ40は、シリンジ30に装着して使用され、シリンジ30内の流体(ここでは加飾インク)を高精度で外部に定量供給することができる流体供給装置である。ディスペンサ40において、流体を定量供給するための方式は特に制限されず、流量制御方式や容積計量方式等であってよい。また、ディスペンサ40において、流体を定量供給するための水頭差補正の手法も特に制限されず、時間補正方式、圧力補正方式等であってよい。ディスペンサ40は、これに限定されるものではないが、典型的には、気体圧送方式のディスペンサであり、シリンジ30に収容された加飾インク10を吐出部34から排出させるためにシリンジ30に気体(ここではエア)を供給する。ディスペンサ40は、典型的には、圧送ポンプ44と、ディスペンサコントローラ42と、供給チューブ46と、シリンジ接続部48とを含む。シリンジ接続部48は、シリンジ30の導入部32に気密に着脱可能に構成されている。シリンジ接続部48には、例えば、図示しないセンサが設けられ、例えば、シリンジ内の圧力、シリンジ30内の収容物との距離(表面高さ)等を検知する。また、本例のシリンジ接続部48は、シリンジ30のフランジ部33と対向する位置に、リーダ・ライタ38を備えている。供給チューブ46は、シリンジ接続部48を介してシリンジ30とディスペンサコントローラ42と、ディスペンサコントローラ42と圧送ポンプ44とを連通している。ディスペンサコントローラ42は、例えば、センサからの情報を基に水頭差補正しながら、所定の圧力の気体(エア)をシリンジ30内に送るように圧送ポンプ44の駆動を制御するよう構成されている。ディスペンサコントローラ42は、制御装置80に電気的に接続され、その駆動が制御されている。
【0046】
シリンジホルダ52は、シリンジ30を走査させるためにシリンジ30を着脱可能に保持して移動装置に固定する。本実施形態のシリンジホルダ52は、シリンジ移動装置50に備えられている。シリンジホルダ52は、シリンジ30を本体部31の筒軸が鉛直方向になるようにシリンジ30を保持する。シリンジホルダ52は、例えば電磁コイル等によって、シリンジ30を高さ方向Zで所定の微小寸法(例えば5cm以下)だけ移動可能に構成されていてもよい。シリンジ移動装置50は、シリンジホルダ52を介してシリンジ30を主走査方向Yに移動させる。シリンジ移動装置50の構成は、これに限定されるものではないが、例えば、主走査方向に沿って設けられたガイドレールと、ガイドレールの両端部の近傍に設置される一組のプーリと、プーリに回し架けられる無端ベルトと、1つのプーリを回転駆動させるY方向モータと、により構成することができる。シリンジホルダ52は無端ベルトに固定される。Y方向モータがプーリを一の方向に回転させることで、シリンジホルダ52は例えば右に移動し、Y方向モータがプーリを他の一の方向に回転させることで、シリンジホルダ52は例えば左に移動する。Y方向モータは、制御装置80に電気的に接続され、その駆動が制御されている。シリンジ30は、シリンジ移動装置50によって、主走査方向Yにおける位置とその移動速度とが制御される。
【0047】
被加飾物5を載置するテーブル20は、シリンジホルダ52によって保持されたシリンジ30の下端よりも下方に配置される。テーブル20は、被加飾物5を固定するための治具やテーブル吸引装置などの固定手段を備えていてもよい。シリンジ30は、テーブル20より上方に配置されている。テーブル20は上下移動装置70に支持され、上下方向に移動可能に構成されている。上下移動装置70の構成は、これに限定されるものではないが、例えば、高さ方向に沿って設置された複数(例えば4本)のボールねじと、各ボールねじのナットに固定された昇降部と、各ボールねじのねじ軸に回しかけられた無端ベルトと、無端ベルトに固定されたZ方向モータと、により構成することができる。テーブル20は昇降部に固定される。Z方向モータが一の方向に回転することで、無端ベルトがねじ軸を所定の方向に回転させてナットを例えば上方に送り、Z方向モータが無端ベルトを他の一の方向に回転させることで、無端ベルトがねじ軸を他の方向に回転させてナットを例えば下方に送る。Z方向モータは、制御装置80に電気的に接続され、その駆動が制御されている。テーブル20は、上下移動装置70によって、シリンジ30に対する高さ方向Zにおける位置が制御される。
【0048】
上下移動装置70は、前後移動装置60に支持され、前後方向に移動可能に構成されている。前後移動装置60の構成は、これに限定されるものではないが、例えば、副走査方向Xに沿って敷かれた複数(例えば2本)のXガイドレールと、Xガイドレール上に摺動可能に載置され上下移動装置70を支持するベース部材と、Xガイドレールの間に副走査方向に沿って設置される一組のプーリと、プーリに回し架けられる無端ベルトと、1つのプーリを回転駆動可能に接続されたX方向モータと、により構成することができる。ベース部材は無端ベルトに固定される。X方向モータがプーリを一の方向に回転させることで無端ベルトが所定の方向に回転して、ベース部材は例えば前に移動し、Y方向モータがプーリを他の一の方向に回転させることで、無端ベルトが所定の方向とは反対の方向に回転し、ベース部材は例えば後ろに移動する。X方向モータは、制御装置80に電気的に接続され、その駆動が制御されている。テーブル20は、前後移動装置60によって、シリンジ30に対する副走査方向Xにおける位置が制御される。
【0049】
制御装置80は、加飾システム1の各部の動作を包括的に制御する。制御装置80の構成は特に制限されず、例えばマイクロコンピュータであってよい。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されず、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から印刷データ等の各種情報を送受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(central processing unit:CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、プログラムや加飾描画データ等の各種データを格納する記憶装置と、を備え得る。また、制御装置は、例えばFPGA(field-programmable gate array)等の書き換え可能なプログラマブルロジックデバイスによって構成されていてもよい。FPGAは、例えば、集積回路によって構成されるCPUコアや、乗算器、RAM、および関連する周辺回路等を含むことができる。なお、加飾システム1は、具体的には図示していないが、ユーザが制御装置80への指示を送るための入力装置や、加飾システム1の加飾条件や動作状況等を確認するための表示装置を備えていてもよい。
【0050】
制御装置80は、例えば、移動装置50、60、70の各モータ、シリンジホルダ52の電磁コイル、ディスペンサコントローラ42、リーダ・ライタ38と電気的に接続され、その駆動、動作を制御する。制御装置80が移動装置50、60、70を制御することによって、テーブル20に載置された被加飾物5とシリンジ30との三次元における相対的な位置関係と、被加飾物5に対するシリンジ30の相対的な移動速度とが任意に制御される。また、制御装置80がディスペンサコントローラ42を制御することによって、シリンジ30からの加飾インク10の吐出と停止および吐出量が制御される。制御装置80は、必要に応じてシリンジホルダ52の電磁コイルを駆動し、シリンジ30を下方に下げたり、上方に引き上げたりすることができる。そして、制御装置80が、例えば、被加飾物5に加飾すべき図柄についての加飾データに基づいて、これらの各部を駆動することで、加飾システム1は、被加飾物5上に加飾インクを、加飾データに基づいた直線、曲線、点線、あるいは、独立した点等の形状で供給することができる。典型的な一例では、制御装置80は、シリンジホルダ52に保持されたシリンジ30の吐出部34の高さ位置が、シリンジ待機位置から、基材に対して所定の描画高さ位置となるようにシリンジホルダ52を低下させ、その後に、加飾インクによる描画を開始する。そして、加飾インクによる描画が終了すると、吐出部34の高さ位置を、描画高さ位置からシリンジ待機位置になるまでシリンジホルダ52を上昇させる。
【0051】
また、加飾インクによる描画の際の各部の制御は、例えば、制御装置80に備えられる経路制御部によって、加飾データに基づき、実施することができる。ユーザは、一般に、コンピュータグラフィック技術(例えば、CAD(Computer-Aided Design)機能)を利用して加飾内容を設計し、その加飾内容をDXFファイルフォーマット等のベクタイメージとしてデータ化する。つまり、加飾データは、一般には、ベクタデータとして作成される。経路制御部は、このような加飾データを基に、例えばCAM(Computer Aided Manufacturing)機能を利用することで、シリンジホルダ52に保持されたシリンジ30の吐出部34の移動経路を決定することができる。移動経路の決定の手法は、例えば、公知のPTP(Point To Point)制御方式やCP(Continuous Path)制御方式、その他の方式や、これらの組合せ等であってもよい。例えば、経路制御部は、ティーチング機能やオフライン・ティーチング機能、あるいは、自動的に移動経路(パス)を設計するパスプランニング機能により移動経路を設計するよう構成されていてもよい。パスプランニング機能は、移動経路の設計についての学習済みモデルを使用して、移動経路を決定するように構成されていてもよい。経路制御部は、このような機能を備えるCAD/CAM装置を備えたり、かかるCAD/CAM装置と通信可能に構成されていてもよい。これにより、シリンジホルダ52に保持されたシリンジ30の吐出部34の位置を所定の軌道に沿って動かすことができる。また、シリンジ30の吐出部34が所定の位置にあるときに、吐出部34から加飾インクを吐出することができる。このことにより、所定の図柄を描画することができる。
【0052】
実際には、以下のようにして、加飾システム1による加飾を行うことができる。すなわち、まず、ユーザが、被加飾物5と加飾に使用するインクカートリッジとを用意する。そして、被加飾物5をテーブル20に載置して固定する。また、インクカートリッジの導入部32および吐出部34を封止していたシールを剥がし、シリンジホルダ52に装着する。ここで、インクカートリッジがシリンジホルダ52の所定位置に装着されるとき、インクカートリッジがシリンジホルダ52のスイッチを押すなどして、制御装置80に装着信号が送られる。これに基づき、制御装置80はリーダ・ライタ38を作動させて、インクカートリッジの記憶媒体36から推奨吐出圧および推奨シリンジ移動速度を含むインク情報を読み取る。読み取ったインク情報は、例えば記憶装置に記憶される。制御装置80は、ユーザから特に指示がない限り、この推奨吐出条件に基づき、ディスペンサコントローラ42にシリンジ30に加えるべき吐出圧を指示し、移動装置50、60、70にシリンジ30を移動させるべき移動速度を指示する。そして、ユーザの加飾開始の指示に基づき、ディスペンサコントローラ42は、この推奨吐出圧が実現されるように、圧送ポンプ44がシリンジ30に供給するエア量を調整する。また、例えば、移動装置50は、この推奨シリンジ移動速度が実現されるようにY方向モータを回転させ、無単ベルトを送る速さ、延いてはシリンジホルダ52を移動させる速度を調整する。これにより、インクカートリッジは所定の推奨移動速度で移動しながら、吐出部より加飾インクを直線状に吐出することができる。吐出された加飾インクは、溶媒の揮発により硬化して凸部を形成する。これにより、直線状の凸部が形成される。
【0053】
なお、例えば図3は、透明水系アクリル樹脂をベースとし、ラメパウダー(約0.075mm角)を1質量%の割合で含むラメ入り加飾インク10を収容したインクカートリッジ(シリンジ30)を用い、加飾システム1によって、予め登録した基本図形を描画した様子を示す図である。このような寸法の大きなラメを含むインクは、インクジェットプリンタでは印刷できない。この加飾インク10をこのシリンジ30に収容したとき、加飾インク10を吐出するために推奨される推奨吐出圧は0.1~0.2MPaであり、推奨移動速度は30~100mm/s(例えば、吐出圧が0.1MPaのときは30mm/s)であった。なお、本例でシリンジ30の吐出部34に装着したニードル35の口径はφ0.4mmである。このインクカートリッジの記憶媒体36には、推奨吐出圧として「0.1MPa」が、推奨シリンジ移動速度として「30mm/s」が記憶されている。そしてユーザが、このインクカートリッジをシリンジホルダ52に装着すると、制御装置80が自動的にこの推奨吐出条件を読み出して、移動装置50、60、70とディスペンサコントローラ42とに指示を送る。図3は、例えば、このような吐出圧とシリンジ移動速度により描画したときの加飾結果である。本例において、加飾インク10が硬化して得られた凸部の線幅Wは2.666mm、高さHは0.38mmであり、H/Wは約0.14である。なお、念のため、本例における吐出圧を0.01MPaに設定したところ、シリンジ移動速度に関わらずシリンジ30から加飾インクを吐出させることはできなかった。
【0054】
ところでユーザは、図3に示した凸部のライン幅を、場合によってはもう少し細くしたいと考えた。そこで、ユーザは、加飾システム1におけるインク吐出条件を、手動で、吐出圧を「0.1MPa」のまま、シリンジ移動速度を「100mm/s」に変更して描画を行った。図4は、例えば、同じシリンジ30を用い、このような吐出圧とシリンジ移動速度により描画したときの加飾結果である。本例において、加飾インク10が硬化して得られた凸部の線幅Wは1.850mm、高さHは0.51mmであり、H/Wは0.28である。図3,4を比較してわかるように、吐出速度を速めることで単位面積当たりに共給される加飾インクの量が少なくなるため、得られた凸部の線幅は細くなった。しかしながら、高さについては低くなることなく却って若干高くなった。これは、表面張力が影響していることが予想される。このことから、加飾部の高さについては、加飾インク自体の特性がよく反映される傾向にあることがわかった。その結果、平面視で見る凸部のラメ密度にも違いが見られ、図3の方がラメ濃度が高く華やかであって、図4の方がラメ濃度が淡く涼しげであり、全く異なる意匠性を表現することができる。そこでユーザは、例えば、入力装置を使用し、制御装置80に対して、当該吐出条件を記憶するよう指示をすることができる。かかる指示により、制御装置80は、リーダ・ライタ38を作動させて、インクカートリッジの記憶媒体36に対し、ユーザ吐出条件として、上記吐出圧とシリンジ移動速度との組合せを記憶させるように構成されている。これにより、ユーザが図4に示される凸部意匠を再度作製したいと考えたときに、インクカートリッジを加飾システム1に装着するだけで、ユーザ吐出条件を読み出すことができる。なお、かかるこうせいによると、このインクカートリッジを、異なる加飾システム1に装着して使用する場合であっても、当該ユーザ吐出条件を簡単に参照することができるために好ましい。また、制御装置80は、付加的に、かかるユーザ吐出条件を加飾インク情報と併せて、制御装置80内の記憶部に記憶していてもよい。
【0055】
なお、参考までに、図5は、透明水系アクリル樹脂をベースとし、ラメパウダー(約0.075mm角)を5質量%の割合で含むラメ入り加飾インク10を収容したインクカートリッジ(シリンジ30)を用い、加飾システム1によって、図3および図4と同じ基本図形を描画した結果を示す図である。本例でシリンジ30の吐出部34に装着したニードル35の口径はφ0.4mmであり、このインクカートリッジの記憶媒体36には、推奨吐出圧として「0.1MPa」が、推奨シリンジ移動速度として「20mm/s」が記憶されている。図5の図形は、このような吐出条件にて描画されたものである。図5に示す凸部の線幅Wは3.161mm、高さHは0.55mm、H/Wは0.17であり、図3とほぼ同じである。しかしながら、図5に示す凸部は、加飾インク10に含まれるラメパウダーの濃度が高かったことから、図3の場合よりも光沢度が高く、金属的な外観を呈する凸部が形成されている。
【0056】
このように、カートリッジにおいて、加飾インク10の吐出条件は、例えば、加飾インク10の性状により大きく異なり得る。また、加飾インク10とシリンジ30との相性によっても異なり得る。したがって、加飾システム1の制御装置80は、シリンジ30から加飾インク10を吐出するために必要な条件を何ら情報なくしては設定することができない。そこで、制御装置80は、上述のように、リーダ・ライタ38によってシリンジ30に備えられた記憶媒体36から推奨吐出圧を含むインク情報を読み取る。好ましくは、推奨吐出圧と推奨移動速度とを含むインク情報を読み取る。制御装置80は、シリンジ30内にこの推奨吐出圧が加わるようにディスペンサコントローラ42を制御する。このことによって、任意のシリンジ30から加飾インク10を、無駄な試行を要することなく確実に吐出することができる。制御装置80は、ディスペンサコントローラ42の制御に加えて、シリンジ30の移動速度が推奨移動速度となるように移動装置50、60、70を制御することによって、任意のシリンジ30から加飾インク10を推奨される規定の線状に確実に吐出することができる。
【0057】
なお、これに限定されるものではないが、シリンジ30の推奨吐出圧は、0.1MPa以上0.7MPa以下の範囲で設定できるよう、シリンジ30と加飾インクとの組合せを調整すると好ましい。エア圧の下限を0.1MPaとすることで、ダレを抑制して連続的に線状の凸部を形成しやすいためである。また、シリンジ30への負荷を低減して加飾インクを吐出するとの観点から、エア圧の上限は0.7MPa程度であることが好ましい。
【0058】
また、シリンジ30の推奨移動速度は、10mm/s以上250mm/s以下程度の範囲に設定できるよう、シリンジ30と加飾インクとの組合せを調整すると好ましい。現実的な生産性を考慮すると、シリンジ移動速度の下限は10mm/s程度であることが好ましい。シリンジ移動速度は、20mm/s以上が好ましく、30mm/s以上がより好ましく、50mm/s以上が特に好ましく、例えば100mm/s以上であるとよい。また、汎用されている移動装置50、60、70によって実現される無理のないシリンジ移動速度を考慮して、かかる評価におけるディスペンサ移動速度の上限は250mm/s程度に設定すると好ましい。
【0059】
なお、この加飾システム1によると、一度の供給により形成される凸部の形状は、加飾インク10の具体的な性状の他、使用するシリンジ30の構成や吐出条件を調整することで、任意に設定することができる。例えば一例として、シリンジ30からの一度の加飾インク10の供給で、線幅が凡そ0.5~5mm程度、高さが凡そ0.3~2.5mm程度の線状の凸部形状を形成できることが確認されている。このような凸部の高さと幅の比(H/W)は、例えば、0.1以上とすることができ、0.15以上であってよく、0.2以上であってよく、例えば0.25以上であり得る。いうまでもないが、走査経路の適切な設計によって、加飾インクは、ベタ塗り、重ね塗りすることも可能である。
【0060】
この加飾システム1において加飾の対象とする被加飾物5を構成する素材は特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体などの樹脂材料、金、銀、銅、プラチナ、真鍮、アルミ、鉄、チタン、ステンレス等の金属材料はもちろんのこと、陶器、セラミック、ガラス、ゴム、皮革、木材板、カーボン、紙類、布帛、さらには食品などであってもよい。また基材の形状も特に制限されず、シート状や、携帯電話ケースや化粧品ケース、電子タバコの外装材、アクセサリやフォトフレーム等の立体構造体等であってよい。
【0061】
なお、加飾インク10が色材を含まない構成においては、被加飾物5の表面に形成されたインク硬化物は透明であり得る。そのため、基材の表面が視認されて外観に現れ得る。したがって、ここに開示される加飾システム1においては、被加飾物5である基材の表面に、予め所望の色彩で図柄を印刷するなどしておいてもよい。例えば図6は、加飾システム1を用いた加飾の応用例を示す図である。図6では、被加飾物5として、公知のインクジェットプリンタを用い、アクリル樹脂板に写真と文字とマークとを組み合わせた画像をカラー印刷したフォトフレームを用いている。そして、このフォトフレームのうち、D1で示すハートマーク、D2で示す線幅の太いブロック体文字、D3で示す線幅の細いブロック体文字、の部分に、加飾システム1によってぷっくりとした凸部意匠を加飾した。加飾システム1において使用した画像データは、インクジェットプリンタで用いた画像データを利用したものである。図では詳細に示せないが、D1の加飾には高濃度の金ラメ入りの透明インク入りシリンジ30を使用し、D2およびD3の加飾には銀ラメ入りの透明インク入りシリンジ30を使用した。D1の加飾には、加飾システム1による加飾インクの供給経路が残らないように、比較的低粘度かつレベリング性の高い加飾インクを収容したシリンジ30を用いた。D2およびD3は、同一組成の加飾インクが収容されたシリンジ30を用いて加飾しているが、D3はインク情報(推奨加飾条件)に従って加飾し、D2はシリンジ移動速度を遅く調整して加飾した例である。本加飾システム1によると、このような多様な加飾インクを部分ごとに交換して用いる場合であっても、試行をなくして、あるいは、省略して、スムーズに意匠性の高い2.5D加飾を実施することができる。また、同一の加飾インクを用い、インク情報(推奨加飾条件)を基準に加飾条件をわずかに調整することで、多様な2.5D意匠を容易に実現することができる。このことにより、下地である基材の表面意匠と、インク硬化物による凹凸意匠とが組み合わされて、色彩を伴う立体的な意匠を簡便に実現することができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。例えば、上記実施形態において、加飾インク10は水系の揮散型のインクであった。しかしながら、加飾インク10の構成はこれに限定されない。例えば、加飾インク10は、エネルギー線硬化性のアクリルインク(例えばUV硬化性インク)であってもよいし、その他の樹脂系のインクであってもよい。この場合、加飾システム1は、加飾インク10を硬化させるためのエネルギー線発生装置(典型的には、紫外線ランプ)を備えていてもよい。加飾システム1は、例えば、シリンジホルダ52に図示しない紫外線ランプを備えることができる。紫外線ランプは、例えばシリンジ30の左右に一つずつ配置してもよい。紫外線ランプは、制御装置80に電気的に接続されて、その動作が制御される。制御装置80は、ディスペンサコントローラ42を制御して加飾インク10をシリンジ30から被加飾物5に供給すると、被加飾物5上の加飾インク10に対して紫外線ランプにより紫外線を発生させる。加飾インク10は、紫外線が照射されて硬化し、インク硬化物が形成される。これにより、揮散型のインクを用いた場合と比較して、短時間で加飾を行うことができる。例えば、形成した凸部意匠の上に、繰り返し加飾してより嵩高い凸部意匠を形成することができる。
【0063】
また上記実施形態において、加飾システム1は、使用期限によるシリンジ30の管理を行っていなかった。しかしながら、例えば、シリンジ30に収容されている加飾インク10の性状が経時的に変化する場合、適切な加飾を行えない場合が発生しうることが懸念される。例えば、シリンジ30を保管する間に加飾インク10に含まれる加飾粒子が沈降したり、加飾インク10を構成する成分が分離、変質するなどして、加飾の際に吐出部34やニードル35が詰まったり、装飾部位ごとに成分ムラが生じたりする虞がある。また、例えば、加飾インク10が食品の場合、シリンジ30を保管する間やシリンジ30の使用中に当該食品の消費期限あるいは賞味期限を超過する虞がある。また、このような加飾インク10の性状の変化の度合いは、加飾インク10を収容するシリンジ30の封の開封前後で変化することも考えられる。このような場合、記憶媒体36は、インク情報として、収容する加飾インク10に応じて定められる、シリンジ30を適切に使用し得る使用期限を含んでいるとよい。記憶媒体36は、インク情報として、シリンジ30の開封後に加飾インク10を適切に使用し得る開封後使用期限を含んでいてもよい。開封後使用期限は、例えば、使用期限を越えない範囲で、開封後所定の日数を経過した日として設定される。そして加飾システム1は、記憶媒体36に加飾インク10の使用期限や開封後使用期限が設けられている場合、これらの期限を考慮して加飾を行うように設計されているとよい。
【0064】
例えば、加飾システム1の制御装置80は、付加的に、使用期限管理部(図示せず)を備えている。シリンジ30がシリンジホルダ52に装着されたとき、当該シリンジ30の記憶媒体36に記憶されたインク情報をリーダ・ライタ38によって読み取る。インク情報には、例えば、少なくとも推奨吐出圧を含む加飾情報と、ID情報、使用期限情報、および、必要に応じて開封後使用期限情報とが含まれる。使用期限管理部は、リーダ・ライタ38によって、使用期限情報、および、必要に応じて開封後使用期限情報を読み取って記憶する。
【0065】
ここで、インク情報が、開封日時情報を含まないとき(開封日時情報が記録されていないとき)、使用期限管理部は、当該シリンジ30が開封されたばかりであると判断し、現在の日時が使用期限内であるかどうかを判断する。現在の日時が使用期限内である場合は、当該シリンジ30を加飾に使用できるため、使用期限管理部は、引き続き加飾工程を進行してよいと判断する。この使用期限管理部の判断に基づき、制御装置80は、加飾工程を進行する。また、使用期限管理部は、当該シリンジ30がシリンジホルダ52に装着されたときを開封日時情報として、リーダ・ライタ38によって当該シリンジ30の記憶媒体36に記憶させる。しかしながら、現在の日時が使用期限を超過している場合は、当該シリンジ30は加飾に使用できないため、使用期限管理部は、ユーザにシリンジ30の使用不可や交換を通知したり、加飾工程を停止したりする。
【0066】
インク情報が、開封日時情報を含むとき(開封日時情報が記録されているとき)、使用期限管理部は、当該シリンジ30が過去に開封されていたと判断し、現在の日時が開封後使用期限内であるかどうかを判断する。使用期限管理部は、開封後使用期限内が設定されていないシリンジ30については、開封前後で使用期限に有意な差異が無いと判断し、開封後使用期限に代えて使用期限を利用する。現在の日時が開封後使用期限内である場合は、当該シリンジ30を加飾に使用できるため、使用期限管理部は、引き続き加飾工程を進行してよいと判断する。この使用期限管理部の判断に基づき、制御装置80は、加飾工程を進行する。しかしながら、現在の日時が開封後使用期限を超過している場合は、当該シリンジ30は加飾に使用できないため、制御装置80は、ユーザにシリンジ30の使用不可を通知したり、加飾工程を停止状態にしたりする。
【0067】
シリンジ30のシリンジホルダ52への装着は、シリンジ30およびシリンジホルダ52の少なくとも一方に設けられる各種のセンサによって感知することができる。センサとしては、スイッチセンサや、レベルセンサ、物体の有無や、物体の位置,変位,寸法、圧力,トルク,重量、角度、磁気、光等の少なくとも一つを接触または非接触で検知するセンサであってよい。センサは、例えば、マイクロスイッチ、ホール素子、光電センサ、各種の近接スイッチ、感圧ダイオード、圧電素子、ひずみゲージなどであってよい。センサとしては、例えば、シリンジの装着に伴う適度なクリック感が得られる接触式のスイッチセンサであると好ましい。センサは、シリンジ30のフランジ部33であって、ディスペンサ40のシリンジ接続部48に対向する位置に設けられていてもよい。センサは、ディスペンサ40のシリンジ接続部48であって、シリンジ30のフランジ部33に対向する位置に設けられていてもよい。例えばセンサがシリンジ30とシリンジホルダ52との接触を検知することで、制御装置80は、シリンジ30がシリンジホルダ52に装着されたと判断する。
【0068】
また、使用期限管理部は、シリンジ30がシリンジホルダ52に装着された状態にあるとき、任意のタイミングで、あるいは、定期的に、現在日時が使用期限(または開封後使用期限)を超過していないかどうか、確認するよう構成されていてもよい。これにより、シリンジ30のシリンジホルダ52への装着のとき以外でも、使用期限(または開封後使用期限)を超過した加飾インク10を収容したシリンジ30を用いて加飾する事態を防ぐことができる。
また、シリンジ30の記憶媒体36に開封日時情報を記憶させることで、異なる加飾システム1を用いた場合であっても、加飾システム1は当該シリンジ30の開封日時を取得することができるために好ましい。
このような機能は、性状が経時的に変化する加飾インク10を収容したシリンジ30を用いて加飾する場合に特に効果的である。
【0069】
また上記実施形態において、ディスペンサは吐出部がニードル形状であった。しかしながら、ディスペンサの吐出部の形状はこれに限定されず、公知の各種の吐出部等を用いることができる。そのような吐出部の一例として、円錐(テーパー)形状の吐出部が挙げられる。このような円錐形状の吐出部を採用することで、シリンジ内での圧力損失が抑えられ、例えば、高粘度な加飾インクを用いる場合によりスムーズな吐出を実現することができる。
【0070】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。例えば、上記例では、加飾インクとしてアクリルエマルションペイントを用いたが、加飾インク10の種類はこれに限定されない。ここに開示される加飾インクは、例えば、エネルギー線を照射することで硬化するエネルギー硬化型の樹脂組成物であってもよい。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 加飾システム
10 加飾インク
30 シリンジ
36 記憶媒体
40 ディスペンサ
50、60、70 移動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6