(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】帯状体の塗装方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20240228BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240228BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240228BHJP
B05C 1/08 20060101ALI20240228BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D3/00 B
B05D7/00 A
B05C1/08
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2019227198
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 美希
(72)【発明者】
【氏名】関 伸泰
(72)【発明者】
【氏名】宮川 千香子
(72)【発明者】
【氏名】川原 健二
(72)【発明者】
【氏名】榎木 泰史
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-126660(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142000(WO,A1)
【文献】特開2003-024850(JP,A)
【文献】特開昭63-248475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00- 7/26
B05C1/00- 3/20
7/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に樹脂粒子を分散させまたは溶解させた塗料液を塗料パン中に溜めた塗料浴に、水平軸線を中心に回転するロールの外周面の一部を浸漬して前記塗料液を前記ロールの外周面に付着させるとともに、前記ロールに付着した前記塗料液を、連続的に走行している帯状体の表面に供給して前記帯状体を塗装する帯状体の塗装方
法であって、
上端部が矩形状に開口している前記塗料パンの短辺方向での一端部で、前記塗料浴の液面よ
りも低い箇所に前記塗料パンの長辺方向に均等に配置されている複数の供給口から、前記塗料パン中の前記塗料液の全体を10秒以上かつ16秒以内で置換する量の前記塗料液を前記塗料パンの底面に向けた噴流として供給
して、
前記底面に沿った底面流と前記底面から前記塗料パンの内側面に沿って上向きに流
動する巻き上げ
流とを生じさ
せるとともに、
前記塗料パンの少なくとも前記底面を振動させ、
さらに前記塗料パンの短辺方向での他端部の上縁部に前記塗料パンの長辺方向の全長に亘って設けてあるオーバーフロー堰から前記塗料液をオーバーフローさせることにより、前記塗料液の表面に沿って前記オーバーフロー堰に向けて流れる表面流を前記塗料パンの長辺方向の全体に亘って生じさせるとともに、
前記底面流は、少なくとも前記オーバーフロー堰側で前記オーバーフロー堰に向けて斜めに上昇させ、
前記ロールは、前記表面流の流動方向に直交する軸線を中心に回転させるとともに、その回転方向は、前記ロールの外周面が前記塗料浴中で前記表面流の流動方向と同方向に移動する方向とする
ことを特徴とする帯状体の塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の帯状体の塗装方
法であって、
前記供給口から前記底面に向けて前記塗料液を吐出させる位置は、前記塗料浴の深さ方向で前記塗料浴の液面と前記塗料パンの前記底面との中間位置より前記底面側に寄った深い位
置とする
ことを特徴とする帯状体の塗装方法。
【請求項3】
請求項2に記載の帯状体の塗装方
法であって、
前記塗料液は、前記底面に垂直な流動成分と前記上端縁に向けた水平方向流動成分とを有するように前記底面に対して傾斜した角度で前記供給口から吐出させることを特徴とする帯状体の塗装方法。
【請求項4】
溶媒に樹脂粒子を分散させまたは溶解させた塗料液を塗料浴を形成するように塗料パン中に溜め、前記塗料浴に水平軸線を中心に回転するロールの外周面の一部を浸漬して前記塗料液を前記ロールの外周面に付着させるとともに、前記ロールに付着した前記塗料液を、連続的に走行している帯状体の表面に供給して前記帯状体を塗装する帯状体の塗装装
置であって、
前記塗料パンは、上端部が矩形状に開口した形状に形成され、
前記塗料パンの短辺方向の一端部で、前記塗料パンの長辺方向に均等に配置され、かつ 前記塗料液を前記塗料浴の液面より下側の位置で前記塗料パンの底面に向けた噴流として供給して前記底面に沿った底面流と前記底面から前記塗料パンの内側面に沿って上向きに流動する巻き上げ流とを生じさせ
る複数の供給口と
、
前記塗料パンの少なくとも前記底面を振動させる加振手段と、
前記塗料パンの短辺方向での他端部の上縁部に前記塗料パンの長辺方向の全長に亘って設けられたオーバーフロー堰と、
前記底面のうちの少なくとも一部であって前記オーバーフロー堰に向けて斜め上向きに傾斜している傾斜底面部と
を備え、
前記塗料パンの一端部から前記オーバーフロー堰に向けて流動する前記塗料液の表面流の流動方向が、前記ロールの前記塗料浴に浸っている部分の移動方向と同方向になっており、さらに
前記供給口から吐出する前記塗料液の量が、前記塗料パン中の前記塗料液の全体を10秒以上かつ16秒以内で置換する量となるように構成されている
ことを特徴とする帯状体の塗装装置。
【請求項5】
請求
項4に記載の帯状体の塗装装
置であって、
前記供給口は、前記塗料浴の深さ方向で前記塗料浴の液面と前記塗料パンの前記底面との中間位置より前記底面側に寄った深い位置に設けられていることを特徴とする帯状体の塗装装置。
【請求項6】
請求
項4または5に記載の帯状体の塗装装
置であって、
前記供給口は、前記底面に垂直な流動成分と前記オーバーフロー堰に向けた水平方向流動成分とを有するように前記底面に対して傾斜した角度で前記塗料液を吐出するように構成さていることを特徴とする帯状体の塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶媒中に樹脂粒子を分散させた塗料液を帯状体に連続的に付着させて塗装する方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の装置の一例が特許文献1に記載されている。その装置では、溶媒に樹脂粒子を分散して構成される塗料を塗料パンに貯留し、その塗料にピックアップロールの下半分を浸漬して回転することによって塗料を掻き上げる。ピックアップロールの上方に僅かな隙間をあけてアプリケータロールが配置されており、そのアプリケータロールに上記のピックアップロールによって掻き上げた塗料が供給される。また、アプリケータロールに対して僅かな隙間をあけてバックアップロールが配置されており、そのバックアップロールに帯状の金属板(金属帯)が巻き掛けられている。バックアップロールを回転して金属板を所定の速度で走行させると共に、アプリケータロールを回転することによって金属板にアプリケータロールから塗料を連続的に転写つまり塗装するようになっている。
【0003】
特許文献2には、特許文献1に記載された装置とほぼ同様に構成されたロールコーター式装置が記載されている。その装置では、塗料パンの長手方向での両端側にポンプがそれぞれ設けられており、各ポンプによって、前記長手方向での塗料パンの一方の端部から他方の端部に向かう塗工液の液流と、他方の端部から一方の端部に向かう塗工液の液流と生じさせるようになっている。つまり、塗料パン内で塗料を強制的に循環流動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5072791号公報
【文献】特開平7-96238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分散塗料やチキソトロピー性のある塗料は、撹拌したり、速い速度で流動させたりすることにより、塗料粒子を均一に分散させ、また局部的な濃度の偏りを抑制するなどのことにより、全体としての粘度や流動性を維持している。その撹拌状態あるいは流動状態が不十分になると、粒子同士の凝集や塗装パンの内面への付着、液面での膜の生成などが生じ易くなる。すなわち、粒子の分散が均一でなくなり、また濃度の偏りが生じ、これが原因で塗装不良が生じ易くなる。そこで、塗料パンに貯留してある塗料液の濃度を一定に維持し、あるいは粒子を均一に分散させるためには、特許文献2に記載されているように、塗料液に運動エネルギを与えて常に流動させることが有効である。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の装置では、塗料パンの一方の端部から他方の端部に向かう液流と、他方の端部から一方の端部に向かう液流とは、互いに対向した流れとなっているので、両者の流れの境界部分では流速が互いに減殺され、あるいは渦が生じたりし、渦の中心など、それらの液流の間で流速の低い、塗料の流れが滞る部分(以下、停留部と記す。)が生じる。また、液面では、その液面に沿って塗料パン内を塗料液が回流して空気に触れ続けるので、溶媒が次第に揮発して樹脂粒子が凝集もしくは結合して膜状の浮遊物を形成し、これが液面に沿って塗料パン内を回流する場合がある。そして、塗料パンの各角部、および、底部と側壁との境界部分など、上述した渦の中心以外にも停留部が多々存在するものと考えられる。それらの停留部の液面では、やはり、溶媒が次第に揮発して樹脂粒子同士が凝集し、あるいは結合して膜状の浮遊物を形成し、また、膜状の浮遊物が成長してゲル状の浮遊物を生じる場合がある。一方、停留部の液中では、塗料液中の粒子が溶媒から次第に分離して塗料パンの底部に溜まる場合がある。そのため、特許文献1や特許文献2に記載の装置を長期間に亘って連続的に稼働した場合には、塗料パンの内面(底面)に付着したり、凝集して塗料パン内で沈降したりする粒子の量が増大するなどのことによって濃度が変化してしまい、金属板に均一な厚さの塗膜を形成できなくなる可能性がある。また、塗料パンの底部に溜まった粒子がある程度凝集した状態で、上述した液流や塗料パンの振動などによって剥がれて浮遊した場合には、これが金属板に付着して塗膜の品質欠陥の要因となってしまう。
【0007】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、塗料パン内で分散塗料やチキソトロピー性のある塗料の凝集や付着を抑制して、長期に亘る稼働であっても塗装不良の発生を防止もしくは抑制することのできる帯状体の塗装方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明の方法は、溶媒に樹脂粒子を分散させまたは溶解させた塗料液を塗料パン中に溜めた塗料浴に、水平軸線を中心に回転するロールの外周面の一部を浸漬して前記塗料液を前記ロールの外周面に付着させるとともに、前記ロールに付着した前記塗料液を、連続的に走行している帯状体の表面に供給して前記帯状体を塗装する帯状体の塗装方法であって、上端部が矩形状に開口している前記塗料パンの短辺方向での一端部で、前記塗料浴の液面よりも低い箇所に前記塗料パンの長辺方向に均等に配置されている複数の供給口から、前記塗料パン中の前記塗料液の全体を10秒以上かつ16秒以内で置換する量の前記塗料液を前記塗料パンの底面に向けた噴流として供給して、前記底面に沿った底面流と前記底面から前記塗料パンの内側面に沿って上向きに流動する巻き上げ流とを生じさせるとともに、前記塗料パンの少なくとも前記底面を振動させ、さらに前記塗料パンの短辺方向での他端部の上縁部に前記塗料パンの長辺方向の全長に亘って設けてあるオーバーフロー堰から前記塗料液をオーバーフローさせることにより、前記塗料液の表面に沿って前記オーバーフロー堰に向けて流れる表面流を前記塗料パンの長辺方向の全体に亘って生じさせるとともに、前記底面流は、少なくとも前記オーバーフロー堰側で前記オーバーフロー堰に向けて斜めに上昇させ、前記ロールは、前記表面流の流動方向に直交する軸線を中心に回転させるとともに、その回転方向は、前記ロールの外周面が前記塗料浴中で前記表面流の流動方向と同方向に移動する方向とすることを特徴とする方法である。
【0009】
この発明の塗装方法では、前記供給口から前記底面に向けて前記塗料液を吐出させる位置は、前記塗料浴の深さ方向で前記塗料浴の液面と前記塗料パンの前記底面との中間位置より前記底面側に寄った深い位置であってよい。
【0010】
この発明の塗装方法では、前記塗料液は、前記底面に垂直な流動成分と前記上端縁に向けた水平方向流動成分とを有するように前記底面に対して傾斜した角度で前記供給口から吐出させてよい。
【0014】
この発明の塗装装置は、溶媒に樹脂粒子を分散させまたは溶解させた塗料液を塗料浴を形成するように塗料パン中に溜め、前記塗料浴に水平軸線を中心に回転するロールの外周面の一部を浸漬して前記塗料液を前記ロールの外周面に付着させるとともに、前記ロールに付着した前記塗料液を、連続的に走行している帯状体の表面に供給して前記帯状体を塗装する帯状体の塗装装置であって、前記塗料パンは、上端部が矩形状に開口した形状に形成され、前記塗料パンの短辺方向の一端部で、前記塗料パンの長辺方向に均等に配置され、かつ前記塗料液を前記塗料浴の液面より下側の位置で前記塗料パンの底面に向けた噴流として供給して前記底面に沿った底面流と前記底面から前記塗料パンの内側面に沿って上向きに流動する巻き上げ流とを生じさせる複数の供給口と、前記塗料パンの少なくとも前記底面を振動させる加振手段と、前記塗料パンの短辺方向での他端部の上縁部に前記塗料パンの長辺方向の全長に亘って設けられたオーバーフロー堰と、前記底面のうちの少なくとも一部であって前記オーバーフロー堰に向けて斜め上向きに傾斜している傾斜底面部とを備え、前記塗料パンの一端部から前記オーバーフロー堰に向けて流動する前記塗料液の表面流の流動方向が、前記ロールの前記塗料浴に浸っている部分の移動方向と同方向になっており、さらに前記供給口から吐出する前記塗料液の量が、前記塗料パン中の前記塗料液の全体を10秒以上かつ16秒以内で置換する量となるように構成されていることを特徴とする装置である。
【0015】
この発明の塗装装置における前記供給口は、前記塗料浴の深さ方向で前記塗料浴の液面と前記塗料パンの前記底面との中間位置より前記底面側に寄った深い位置に設けられていてよい。
【0016】
また、この発明の装置における供給口は、前記底面に垂直な流動成分と前記オーバーフロー堰に向けた水平方向流動成分とを有するように前記底面に対して傾斜した角度で前記塗料液を吐出するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0020】
この発明の塗装方法およびその装置における塗料液は、溶媒に樹脂粒子を分散しまたは溶解したものであって、帯状体の表面に塗布することにより樹脂粒子が塗装面に付着するとともに樹脂粒子同士が凝集し、溶媒が揮発するなどのことにより樹脂粒子が塗装面に残って色彩や模様などを生じさせる。したがって、溶媒中に分散または溶解している樹脂粒子は互いに凝集し、また金属面などに付着する特性がある。この発明では、その塗料液を塗料パンに入れておき、外周面の一部をその塗料液に浸漬したロールを回転することにより、そのロールで所定量の塗料液をすくい上げ、これを帯状体に付着させて塗装を行う。その塗料パンの内部では、塗料浴を構成している塗料液中の樹脂粒子同士が互いに凝集して塊を形成し、あるいは膜を形成し、これらが塗料パンの底部に沈降し、さらには重力の影響もあって、樹脂粒子が塗料パンの底面に付着して次第に堆積する状況が生じる。このような塊や膜、あるいは堆積物は、塗装不良の原因となったり、また塗料液の濃度の偏在の要因になったりするので、この発明では、塗料パン中の塗料液に積極的に動圧を付与して樹脂粒子の凝集や堆積などを回避もしくは抑制する。具体的には、塗料液の供給は塗料パンに対して単に流し込むのではなく、塗料パンの短辺方向の一端側で、塗料パンの長辺方向で均等に、しかも塗料パンの底面に向けた噴射流として塗料液を供給し、しかもその量を塗料パン中の塗料液の全体を10秒以上かつ16秒以内で置換する量とするので、塗料パンの底面に沿った底面流、ならびにその底面流が塗料パンの内側面に沿って上向きに流れる巻き上げ流が生じる。塗料液の供給に伴ってその供給量に相当する量の塗料液を、塗料パンのうち、塗料液の流動方向での前方側の上端縁であるオーバーフロー堰からオーバーフローさせ、こうして塗料パンの内部の全体で、噴流に依る動圧によって塗料パンの底面や内側面などに沿った流れを含む絶え間ない流動が生じ、樹脂粒子の凝集や塗料パンの内面への付着などが抑制される。また、このような塗料パンの内部の撹拌作用と合わせて、塗料パンの表面においても、絶え間ない塗料液の流動を生じさせることができる。すなわち、巻き上げ流による液面の嵩上げ(上昇)によって塗料液の流動方向での前方側のオーバーフロー堰からオーバーフローして塗料液が排出されるから、液面においては、塗料液の流動方向で後方側から前方側に向けた塗料液の流れである表面流を発生させることができる。しかも、ロールは、その表面流を促進し、阻害しない方向に回転する。その結果、液面付近にある塗料液が塗料パン内に停滞して空気に触れ続けることなく、塗料パンから排出されまた循環することができる。これに加えて、塗料パンの少なくとも底面が振動しているので、樹脂粒子の凝集や堆積だけでなく、それらの凝集物や堆積物が浮遊して塗装面に付着すること、さらには濃度の偏在などを回避もしくは抑制して、長時間稼働した場合であっても、塗装不良を未然に回避もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の実施形態に係る塗装方法を適用できる塗装装置の一例を模式的に示す図である。
【
図2】塗料パンの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】塗料パンに貯留してある塗料に、ピックアップロールの少なくとも一部が浸漬している状態を示す図である。
【
図4】回収した塗料を塗料パンに戻す循環システムの一例を模式的に示す図である。
【
図5】実施例2における塗料パンを模式的に示す斜視図である。
【
図6】実施例2の塗料パンにおいて、塗装装置の高さ方向での供給口の位置を変化させた場合における塗料パン内での塗料の流速分布のシミュレーション結果を示す図面代用写真であり、
図6の(A)は液面の上方に供給口が位置している場合、
図6の(B)は液面から25mm下に供給口が位置している場合、
図6の(C)は液面から50mm下に供給口が位置している場合、
図6の(D)は液面から75mm下に供給口が位置している場合における塗料の流速分布のシミュレーション結果を示す図面代用写真である。
【
図7】供給口にノズルを取り付けた例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、この発明の実施形態に係る塗装方法を適用できる塗装装置の一例を模式的に示す図である。
図1に示す塗装装置は、塗料液Lを湛えて塗料浴を形成する塗料パン1とその塗料パン1に塗料液Lを供給するポンプ2とを備えている。ポンプ2は例えば、エアー駆動式やモータ駆動式のダイヤフラムポンプなどの従来知られたポンプであってよい。ポンプ2の吐出口に供給管3が接続されており、供給管3を介してポンプ2から吐出された塗料液Lが塗料パン1に供給される。なお、ポンプ2の吐出量は塗料パン1に湛えた塗料の全量を所定の短時間で置換できる吐出量に設定されている。
【0023】
図2は、塗料パン1の一例を模式的に示す斜視図である。
図2に示す例では、塗料パン1はある程度の深さを持った樋形状に構成されており、後述するロールの長さより幾分長い液溜め容器である。この塗料パン1の底面4は下方に凸となるように湾曲している。塗料パン1の上端部は矩形状(長方形状)に開口しており、その一方の長辺に相当する一方の上端縁5側から塗料パン1内に塗料を供給し
、短辺方向で一方の上端縁5とは反対側の他方の上端縁6から塗料液Lをオーバーフローさせて塗料パン1から排出するように構成されている。したがって、当該他方の上端縁6がこの発明の実施形態におけるオーバーフロー堰に相当している。以下、当該他方の上端縁6をオーバーフロー堰6と記す。
【0024】
塗料パン1の幅方向(長辺に沿う方向)の全体に亘って可及的に均等に塗料液Lを供給するように構成されている。具体的には、供給管3の端部に、供給管3を複数に分岐する分岐管7が接続されており、それらの分岐管7の先端部が塗料パン1に対する塗料の供給口8となっている。これらの供給口8同士の間隔は一定であり、したがって複数の供給口8は塗料パン1の幅方向の全体に亘って均等に配置されている。また、各分岐管7は塗料パン1の上側から塗料浴中に挿入した状態に配置されており、したがって各供給口8は塗料浴の液面FLより下側の深い位置、より具体的には塗料浴の深さ方向で液面FLと底面4との中間位置よりも底面4側に寄った位置に配置されている。
【0025】
供給口8の開口方向すなわち塗料液Lの噴流の向きは塗料パン1の底面4に垂直であってもよいが、以下のように傾斜していることが好ましい。
図1および
図2に示す例では、分岐管7は設置状態で鉛直方向で下向きに配置されており、これに加えて塗料パン1の底面4は下向きに凸なるように湾曲している。したがって供給口8は、ここから吐出する噴流の向きが底面4に対して傾斜する向きに配置されている。言い換えれば、供給口8は底面4に垂直な流動成分と、水平方向でオーバーフロー堰6側に向けた水平方向流動成分とを有する塗料液Lの流れとなるように、底面4に対して傾斜している。その傾斜角は、底面4の供給口8に対向する部分での接線と供給口8の中心軸線とのなす角度であり、直角より大きい鈍角である。
【0026】
図1および
図2に示す例では、塗料パン1の底面4が曲面になっており、供給口8がその曲面の最深部(最低部分)より上側に配置されているから、供給口8から吐出した塗料液Lは、先ずは、底面4に沿って斜め下向きに流れ、その後、最深部からオーバーフロー堰6に向けて斜め上向きに流れる。また、左右の側面10によって前進が阻まれた流れはその側面10に沿って上向きに流れる。ここで説明している実施形態では、底面4のうち、供給口8側の部分から最深部もしくはその近辺までの部分に沿う流れを底面流Fbとし、底面4のうち、最深部もしくはその近辺からオーバーフロー堰6までの部分(つまり、オーバーフロー堰6側の底面)9および左右の側面10を内側面9,10とし、その内側面9,10に沿った上向きの流れを巻き上げ流Fuと称する。塗料液Lのこれらの流れは、その動圧により、内側面9,10に対する塗料粒子(樹脂粒子)の付着を抑制し、また一旦付着した樹脂粒子を溶媒中に分散させるように機能する。
【0027】
ここで、ポンプ2の吐出量について説明する。ポンプ2の吐出量は塗料パン1に湛えた塗料液Lの全量を予め定めた時間(以下、置換時間と記す。)で置換できる吐出量に設定されている。塗料パン1の底面4や内側面9,10に対する樹脂粒子の付着を抑制し、また剥離を促進するなどのために、それらの面4,9,10に沿う塗料液Lの流速をある程度速くし、また流れによる圧力(動圧)をある程度大きくする必要がある。動圧は流速と質量とによって決まるから、この発明の実施形態ではその流速と質量との積として、塗料液Lの塗料パン1に対する吐出量すなわち単位時間当たりの流量を求めた。この発明の実施形態では、上述した底面流Fbと巻き上げ流Fuとを生じさせ、かつそれぞれの流れや樹脂粒子の凝集や塗料パン1に対する付着・堆積を抑制する流れとなることが必要であり、これは実験などによって求めることができる。その吐出量(単位時間当たりの流量)は、塗料パン1に溜める塗料浴の容積で規定することができ、具体的には、塗料液Lの吐出量(流量)は、10秒以上16秒以下で、ピックアップロール12が浸かっていない状態の塗料パン1の内部の塗料液Lの全量を入れ替えることのできる流量である。
【0028】
塗料パン1の長さ方向で一方の縁部5側の外面における中央部あるいは中央部付近に、塗料パン1(特にその底面4)を振動させる加振手段として振動子11が取り付けられている。これは、塗料パン1の内面に樹脂粒子が付着したり、堆積したりすることを抑制し、また一旦付着もしくは堆積した樹脂粒子を溶媒中に分散することを促進するためである。この振動子11は塗料パン1を振動させるように構成されていればよく、従来知られている電磁式あるいは流体圧式などの振動子であってよい。また、塗料パン1に振動子11を取り付ける位置は一方の上端縁5側の外面に替えて、外面のうち、底面4に対応する箇所であってもよい。
【0029】
そして、塗料パン1に塗料液Lを湛えて塗料浴を形成し、その塗料液Lにピックアップロール12の下側部分が浸漬される。
図3はその状態を示しており、ピックアップロール12を挟んでピックアップロール12の半径方向(塗料液Lのオーバーフロー堰6に向けた流れの方向)で一方向側(上流側)に、上述した供給口8が位置しており、他方向側(下流側)にオーバーフロー堰6が位置している。また、
図3に示す例では、ピックアップロール12は塗料パン1の底面4の最深部に対応する位置(最深部の上方側)に配置されている。そして、ピックアップロール12は図示しないモータのトルクを受けて回転することによってその外周面に塗料液Lを付着させてすくい上げる。また、ここに示す例では、ピックアップロール12はその回転中心軸線(以下、単に軸線と記す。)が塗料パン1での塗料液Lの流動方向に対して略直交するように保持されている。なお、ピックアップロール12の表面は塗料パン1内での塗料の流動を阻害しないようにするために、研磨されて滑らかになっている。また、ピックアップロール12の回転によって塗料の流動を阻害しないようにするために、塗料の流動方向と同じ方向に回転するようになっている。
図1に示す例では、塗料パン1内の塗料液Lは、
図1での左側から右側に向けて流動するので、ピックアップロール12は
図1で反時計回りに回転する。なお、ピックアップロール12がこの発明の実施形態におけるロールに相当している。
【0030】
また、塗料パン1の底面4および内側面9,10とピックアップロール12の外周面との間が塗料液Lの流路となっている。その流路断面積は、ここに示す例では、高さ方向でピックアップロール12の最下部と底面4の最深部との間で最小となる。上述した流路断面積が最小となる部分を
図3にハッチングを付した領域として記載してある。
【0031】
ピックアップロール12の上側に、
図1に示すように、アプリケータロール13が設けられている。アプリケータロール13はピックアップロール12から塗料を受け取ると共に、図示しないモータのトルクを受けて回転することによってピックアップロール12から受け取った塗料を帯状の金属板(金属帯)の表面に供給して塗装するロールである。したがって、ピックアップロール12の軸線とアプリケータロール13の軸線とは互いに平行になっており、ピックアップロール12とアプリケータロール13との間には、僅かな隙間が設定されている。その隙間は塗料の受け渡しができる程度の狭い隙間となっており、これは、実験により予め求めることができる。また、ピックアップロール12とアプリケータロール13とが互いに接近している箇所が、塗料の受け渡し箇所である。さらに、ここに示す例では、各ロール12,13はほぼ同じ長さに設定されている。ピックアップロール12とアプリケータロール13との間で塗料液Lに対して剪断力を与えないようにするために、アプリケータロール13の回転方向は、ピックアップロール12の回転方向とは逆方向になっている。
【0032】
また、アプリケータロール13を挟んでピックアップロール12とは反対側にバックアップロール14が配置されている。バックアップロール14に図示しないコイルから巻き出した帯状の金属板15が巻き掛けられる。本実施態様では、ピックアップロール12には、外表面が金属製の金属ロールを用い、アプリケータロール13には、外表面に硬度40のブチルゴムが被覆されているゴムロールを用い、バックアップロール14には、外表面が金属製の金属ロールを用いた。金属板15は飲料缶や食品用缶などに使用する金属板であってよい。上記の金属板15はアプリケータロール13とバックアップロール14との間に、適宜調整されたニップ圧で挟み付けられた状態でアプリケータロール13とバックアップロール14との間の狭い隙間を走行し、その際に金属板15に塗料液Lが供給される。また、上述した各ロール12,13の軸線とバックアップロール14の軸線とは互いに平行になっている。さらに、バックアップロール14の回転方向は、アプリケータロール13の回転方向と同じ方向に設定されている。つまり、バックアップロール14はピックアップロール12とは逆方向に回転する。なお、各ロール12,13,14同士の間の隙間、および、各ロール12,13,14の回転方向、回転速度、金属板15の走行速度に対する各ロール12,13,14の周速比、ならびに、アプリケータロール13とバックアップロール14とのニップ圧などの塗装条件を適宜変更することによって、金属板15に載せる塗料液Lの量つまり金属板15に形成する塗膜の厚さを変更できる。ここで説明しているこの発明の実施形態における塗装装置の各ロール12,13,14などの構成は特許文献1に記載された塗装装置とほぼ同様であるので、一例として、各ロール12,13,14の回転方向、回転速度、金属板15の走行速度に対する各ロール12,13,14の周速比、アプリケータロール13とバックアップロール14とのニップ圧などの塗装条件は特許文献1に記載された塗装条件と同様であってよい。
【0033】
さらに、ピックアップロール12の外周面に付着した塗料液Lを掻き落とすスクレーパー16が、ピックアップロール12の回転方向でピックアップロール12からアプリケータロール13に塗料液Lを供給する箇所よりも下流側に設けられている。そのスクレーパー16は細長い板状片であって、ピックアップロール12の外周面に接触し、あるいは、ピックアップロール12の外周面から僅かな隙間をあけて配置されている。また、スクレーパー16はピックアップロール12とほぼ同じ長さに設定されている。スクレーパー16によって掻き落とされた塗料液Lはスクレーパー16やピックアップロール12に沿って流動してスクレーパー16やピックアップロール12の両端側から塗料パン1に流下する。こうしてピックアップロール12からアプリケータロール13に塗料液Lを供給した後に、ピックアップロール12の外周面に残った塗料液Lをスクレーパー16によって掻き落とすことにより、ピックアップロール12の外周面が再び露出し、その外周面に、塗料パン1に湛えている塗料液Lを付着させることができる。
【0034】
塗料パン1の下側に、塗料パン1のオーバーフロー堰6からオーバーフローした塗料液Lを回収する回収パン17が設けられている。回収パン17は、
図1に示すように、塗料パン1より大きく形成されていて、回収パン17の内側に塗料パン1が収まるように、塗装装置の高さ方向に塗料パン1と並んで配置される。ここで、「並んで」とは、それらの少なくとも一部が互いに重なり合っていることを意味している。また、回収した塗料液Lを集めて塗料パン1に戻すために、回収パン17の底面は所定の箇所に向かって緩やかに傾斜して形成されている。その回収パン17における塗料液Lの集合箇所に、少なくとも1つの図示しない排出口が形成されている。その排出口に回収管18が接続されている。それらの排出口の開口面積および回収管18の流路断面積は各供給口8の開口面積を合算した面積よりも大きい面積に設定されている。これは、回収パン17に流入した塗料を回収パン17に滞留させることなく、排出口および回収管18から速やかに排出するためである。また、塗料パン1と同様に、回収パン17に図示しない振動子を取り付けることができ、振動子が生じる振動によって回収パン17に樹脂粒子やその凝集物が付着することを防止もしくは抑制するようになっている。
【0035】
図4は、回収した塗料液Lを塗料パン1に戻す循環システムの一例を模式的に示す図である。
図4に示すように、回収パン17で回収した塗料液Lは回収管18を介して予備タンク19に供給される。回収パン17はその名称のとおり塗料パン1から排出された塗料液Lを回収するためのものであり、撹拌や塗料液Lの流動の促進などの機能は有していない。そのため、沈降して堆積しやすい樹脂粒子を積極的に流し去るように回収パン17の底部に回収管18を接続して底部から排出するようにしている。それであっても数日間に亘り長期に稼働した場合には、回収パン17を経て予備タンク19に回収した塗料液Lに、樹脂粒子が凝集することによって生じた沈殿物や浮遊物などの凝集物が含まれる場合があり、また、凝集物が生じることによって塗料液Lの粘度や濃度が変化している場合がある。そのため、回収した塗料液Lを撹拌することによって回収した塗料液L中の樹脂粒子を分散してその粘度や濃度を均一にする。したがって、予備タンク19には、
図4に示すように、撹拌機20が設けられており、撹拌機20によって回収した塗料液Lが撹拌される。
【0036】
予備タンク19で撹拌した塗料液Lはポンプ21によって供給タンク22に移される。そのポンプ21は上述したダイヤフラムポンプなど従来知られたポンプであってよい。供給タンク22は塗料パン1に供給する塗料液Lを貯留するタンクであり、供給タンク22に貯留してある塗料液Lを流動しやすくするために、予備タンク19と同様に撹拌機20が設けられている。したがって、撹拌機20によって撹拌されて粘度を調整した塗料液Lが上述したポンプ2によって汲み上げられ、供給管3を介して塗料パン1に供給される。また、撹拌機20で塗料液Lを撹拌することによって塗料液L中の樹脂粒子を分散させるから、塗料液Lの濃度が均一になる。なお、1ロットでの塗装量が少なければ、連続稼働する時間が短いので、塗料液L中の樹脂粒子が凝集したり塗料パン1の内面に付着したりするなどの量が少なく、またそのような事態が生じにくいので、回収パン17から回収管18を介して直接供給タンク22に塗料液Lを供給することとしてもよい。
【0037】
さらに、供給タンク22に自動粘度調整装置23が接続されている。自動粘度調整装置23は供給タンク22内の塗料液Lの粘度や濃度を予め定めた粘度や濃度に調整するものである。自動粘度調整装置23は例えば、図示しない粘度計や濃度センサを有しており、それら粘度計や濃度センサによって供給タンク22内の塗料液Lの粘度や濃度を予め定めた時間間隔で検出するようになっている。そして、予め定めた粘度や濃度になるように、供給タンク22内の溶媒の量や樹脂粒子の量が調整される。こうして塗料パン1に供給される塗料液Lの粘度や濃度が一定に維持される。
【0038】
次に、この発明の実施形態に係る塗装装置の作用と併せてこの発明の実施形態としての塗装方法について説明する。供給タンク22に貯留してある塗料液Lは自動粘度調整装置23によって予め定めた粘度や濃度に調整される。その塗料液Lがポンプ2によって供給タンク22から塗料パン1に供給管3を介して供給される。供給管3に接続されている各分岐管7は塗料パン1の長さ方向に予め定めた等間隔で配置されているので、塗料パン1の長さ方向の全長に亘って、ほぼ均等に塗料パン1内に塗料液Lを供給できる。供給口8から吐出あるいは噴出された塗料液Lは塗料パン1に湛えられて塗料浴を形成し、塗料パン1の容積を超える塗料液Lすなわち連続的に供給される塗料液Lに相当する量の塗料液Lがオーバーフロー堰6から流れ出て排出される。また、各供給口8は塗料パン1に湛えられた塗料浴の液面FLより下側すなわち深い位置に位置しているため、供給口8から吐出あるいは噴出された塗料液Lは、先ずは、底面4に沿って流れて底面流Fbになる。また、その場合、供給口8から吐出あるいは噴出された塗料液Lが塗料浴の液面FLに衝撃を与えないので、塗料液Lが跳ね上がって、塗料パン1の外側に塗料液Lが飛散することを防止または抑制できる。
【0039】
さらに、塗料パン1が振動子11によって振動するので、塗料液L中の樹脂粒子やその凝集物が塗料パン1の内面に付着しにくく、また一旦付着しても剥離しやすい。そして、塗料パン1の内部には、前述した底面流Fbや巻き上げ流Fuが生じているので、塗料パン1の内面に沿う位置においても樹脂粒子やその凝集物が積極的に撹拌されて流動する。また、塗料パン1の上部では、巻き上げ流Fuによって液面の嵩上げ(上昇)が生じてオーバーフロー堰6から塗料液Lが溢れ出る。その結果、塗料パン1の上部においては、供給口8側からオーバーフロー堰6側に向けた塗料液Lの流れである表面流が発生する。すなわち、塗料浴の全体が常時流動した状態になるばかりか、塗料パン1の内面など樹脂粒子が付着しやすく、また凝集しやすい部分で積極的に撹拌や流動が生じ、樹脂粒子が積極的に押し流される。特に、上述したこの発明の実施形態では、塗料パン1の内部の塗料液Lの全量が、10秒から16秒程度で入れ替わる量の塗料液Lが供給されているから、前述した底面流Fbや巻き上げ流Fuが生じていることと相まって、塗料パン1の内部の全体に、平均で「塗料パン1内での塗料液Lの流動距離Lp1メートル/10秒以上から16秒以下」の流速が、遍く生じていることになる。
【0040】
そのため、塗料液Lやその中に分散または溶解している樹脂粒子の停留や停留箇所の偏在を回避もしくは抑制でき、それに伴い樹脂粒子の塗料パン1の内面への付着や堆積、凝集や沈降を防止もしくは抑制でき、さらには濃度の均一化を図ることができる。なお、塗料パン1に供給される塗料液Lの量に相当する量の塗料液Lがピックアップロール12を挟んで供給口8と反対側に設けられているオーバーフロー堰6から排出される。また、塗料パン1に供給される塗料液Lは予備タンク19や供給タンク22において、濃度や樹脂粒子の分散状態が予め調整されている。
【0041】
上記のようにして樹脂粒子の分散状態を均一化し、また濃度を均一化してある塗料液Lにピックアップロール12がその下側部分を浸漬させて回転しているので、樹脂粒子の分散状態や濃度が均一化された塗料液Lがピックアップロール12の外周面に付着してすくい上げられる。そして、ピックアップロール12からアプリケータロール13に塗料液Lが受け渡され、さらにアプリケータロール13から帯状の金属板15に塗料液Lを付着させて、その金属板15の塗装が行われる。そのようにして金属板15に付着させる塗料液Lは上述したように、樹脂粒子を均一に分散させ、濃度を均一化してあるから、樹脂粒子の凝集物などの異物のない塗装すなわち欠陥のない塗装を行うことができる。また、塗料パン1の内部では上述した塗料液Lの流動が継続して生じているから、長時間に亘って稼働させていても、樹脂粒子の凝集や沈降、樹脂粒子の塗料パン1の内面への付着や堆積を防止あるいは抑制することができる。そのため、安定した塗装を長時間に亘って継続でき、それに伴って塗装設備の稼働率を向上させ、ひいてはメンテナンスに要する工数、経費を削減することができる。なお、ピックアップロール12からアプリケータロール13に受け渡されずにピックアップロール12に残存している塗料液Lはスクレーパー16によってピックアップロール12の外周面から掻き落とされる。
【0042】
つぎに、この発明の実施形態に係る塗装方法およびその装置の効果を確認するために行った実施例1と比較例1ないし比較例5とを示す。なお、実施例1は、この発明に含まれる典型的な一例であり、「比較例」はその実施例1の条件を変更した例であり、したがって「比較例」はその名称から直ちにこの発明の範囲に入らないことを意味しない。
【0043】
(実施例1)
図1に示す構成の塗装装置を使用して金属板15の塗装を行った。なお、ポンプ2としてエアー駆動式のダイヤフラムポンプを使用した。塗料液Lとしては、平均粒子径が10nm以上1000nm以下の樹脂粒子を溶媒中に分散させたポリエステル系の樹脂塗料であって、原料メーカーのカタログ値が固形分25%、粘度35mPa・s、TI値2.0のチキソトロピー性を有する分散塗料を使用した。その塗料液Lは十分に撹拌している状態から撹拌を停止して静置すると、速やかに粘度が上昇すると共に、溶媒と樹脂粒子とが分離し、樹脂粒子の凝集物が生じる特性を有している。なお、上記の塗料液Lの撹拌条件を変化させた場合における塗料液Lの粘度変化を表1に示してある。塗料液Lの粘度は液面下30mmにおける粘度であり、振動粘度計によって測定した。また、塗料液L中の凝集物の有無を目視で確認した。
【表1】
【0044】
表1の0分での粘度は、タンクに充填してある塗料液Lを撹拌機(それぞれ図示せず)によって高速で撹拌し、その高速で撹拌されている状態の塗料液Lの粘度である。表1に示すように、0分での粘度はカタログ値とほぼ同じであることが認められた。また、塗料液Lは高速で撹拌されているため、タンク内に樹脂粒子の凝集物は見当たらなかった。
【0045】
表1の1分での粘度は、塗料液Lの撹拌速度を高速から低速に変更してから1分経過後の粘度であり、100mPa・sであった。また、撹拌速度を高速から低速に変更してから1分以内に、樹脂粒子が分離して凝集物が生じ、その凝集物が沈殿することが認められた。さらに、液面では、膜状の凝集物が生じることが認められた。表1の3分、5分、10分では、時間の経過と共に次第に粘度は増大するが、低速での撹拌を継続していることにより、5分以後では、粘度はほぼ一定になることが認められた。
【0046】
そして、上記の特性を有する塗料液Lを
図1に示す塗装装置の塗料パン1に供給すると共に、塗料液Lの供給量つまりポンプ2の吐出量を変化させて、巻き上げ流Fuによる液面FLの揺れや押し上げの有無、塗料パン1における塗料液Lの滞留の有無すなわち塗料液Lの淀みの有無、凝集物の有無、塗料パン1の内面に付着した樹脂粒子の厚さの変化、金属板15の塗装品位などについて目視によって評価した。実施例1では、
図1に示す塗料パン1の液面FL下に供給口8を位置させると共に、塗料パン1に対して160L/minで塗料液Lを供給した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は1つであり、塗料パン1中の塗料液Lの全量が入れ替わる置換時間は15.17秒である。
【0047】
(比較例1)
塗料パン1に対して80L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例1と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例1と同様に1つであり、置換時間は30.33秒である。
【0048】
(比較例2)
塗料パン1に対して120L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例1と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例1と同様に1つであり、置換時間は20.22秒である。
【0049】
(比較例3)
塗料パン1に対して200L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例1と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例1と同様に1つであり、置換時間は12.13秒である。
【0050】
(比較例4)
塗料パン1に対して240L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例1と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例1と同様に1つであり、置換時間は10.11秒である。
【0051】
(比較例5)
塗料パン1に対して280L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例1と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例1と同様に1つであり、置換時間は8.67秒である。
【0052】
(総合評価)
実施例1、比較例1から比較例5についての評価結果を表2にまとめて記載してある。なお、表中で「有」の記載は巻き上げ流Fuによる液面FLの揺れや押し上げがある、塗料パン1で塗料液Lの滞留がある、凝集物がある、塗料パン1の内面に付着した樹脂粒子の厚さが変化つまり増大していることなどを示す。表中で「なし」の記載は巻き上げ流による液面FLの揺れや押し上げがない、塗料パン1で塗料液Lの滞留がない、凝集物がない、塗料パン1の内面に付着した樹脂粒子の厚さが変化していないことなどを示す。表中における「○」のシンボルは塗装品位ついての評価結果が良いことを示し、「×」のシンボルは塗装品位についての評価結果が悪いことを示し、「△」のシンボルは塗装品位についての評価結果がやや悪い、「○」と「×」との間であることを示している。
【表2】
【0053】
表2に示すように、実施例1、比較例1ないし比較例5では、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1内での塗料液Lの淀みは認められなかった。これは、実施例1および比較例1ないし比較例5で使用した塗料パン1は
図1に示すように、断面形状がいわゆる盃状を成しているため、一方の上端縁5側から塗料液Lを供給すると、オーバーフロー堰6に向かって全体としてほぼ一方向の塗料流が形成されるためであると思われる。
【0054】
比較例1では、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められなかった。これは、比較例1では、実施例1と比較例2ないし比較例5と比較して置換時間が最も長く、つまり、ポンプ2の吐出力(動圧)が最も小さいために塗料パン1内での塗料液Lの流速が低く、それによって上述した巻き上げ流Fuが生じにくいためであると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後において、実験開始時と比較して塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さが増大すること、および、オーバーフロー堰6側の液面FLに塗料液Lの変質もしくは樹脂粒子の凝集による凝集物(浮遊物)が生じること、ならびに、その凝集物が金属板15に付着することによる塗装品位の低下などが認められた。これらは、比較例1では、実施例1と比較例2ないし比較例5と比較して、供給口8から吐出あるいは噴出された塗料液Lによる塗料パン1内での塗料液Lの撹拌が小さく、あるいは弱いためであると思われる。それらの結果、比較例1の全体としての評価結果を「×」とした。したがって、この発明の範囲外とした。
【0055】
比較例2では、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められなかった。これは、比較例1と同様に、ポンプ2の吐出力が小さいために塗料パン1内での塗料液Lの流速が低く、それによって上述した巻き上げ流Fuが生じにくいためであると思われる。しかしながら、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大や、オーバーフロー堰6側の液面FLにおける凝集物の発生などは認められなかった。これは、ポンプ2の吐出力は小さいものの、比較例1でのポンプ2の吐出力よりは増大していることにより、塗料パン1内の塗料液Lが比較例1よりも撹拌されているためであると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後における金属板15の塗装品位は良好であり、したがって比較例2の全体としての評価結果を「○」とした。比較例2はこの発明の範囲外とした。液面の揺れがないことにより、撹拌が不十分になる場合が生じる可能性があることによる。
【0056】
実施例1では、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められた。すなわち、ポンプ2の吐出力が大きいために塗料パン1内での塗料液Lの流速が高くなり、それによって上述した巻き上げ流Fuが生じていると思われる。また、これは、塗料パン1内での塗料液Lの撹拌が比較例1,2と比較して大きいあるいは強いことを示している。そのため、実験を開始してから6時間経過後においても、実験開始時と比較して塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大や、オーバーフロー堰6側の液面FLにおける凝集物の発生などは認められなかった。したがって、金属板15の塗装品位は良好であり、実施例1の全体としての評価結果を「○」とした。
【0057】
比較例3の各評価項目についての評価結果は、実施例1の各評価項目についての評価結果と同様である。したがって、金属板15の塗装品位は良好であり、比較例3の全体としての評価結果を「○」とした。したがって、この発明の範囲に入るものとした。
【0058】
比較例4の各評価項目についての評価結果は、実施例および比較例3の各評価項目についての評価結果と同様である。しかしながら、比較例4では、ポンプ2の吐出力が比較例3よりも増大しているため、供給口8から吐出あるいは噴出した塗料液Lが塗料パン1の底面4に衝突して跳ね返ることによる塗料パン1の外への塗料液Lの飛散が認められた。また、オーバーフロー堰6から回収パン17に塗料液Lが勢いよく排出されることによる回収パン17の外側への塗料液Lの飛散が認められた。したがって、金属板15の塗装品位は良好であるが、比較例4の全体としての評価結果を「△」とした。比較例4はこの発明の範囲外とした。飛散による無駄などが生じ、実用する際の懸念があることによる。
【0059】
比較例5の各評価項目についての評価結果は、実施例1および比較例4の各評価項目についての評価結果と同様である。しかしながら、比較例5では、供給口8から吐出あるいは噴出した塗料液Lが塗料パン1の底面4に衝突して跳ね返ることによる塗料パン1の外への塗料液Lの飛散、および、オーバーフロー堰6から回収パン17に塗料液Lが勢いよく排出されることによる回収パン17の外側への塗料液Lの飛散が比較例4よりも激しくなることが認められた。したがって、金属板15の塗装品位は良好であるが、塗料液Lの供給量が過剰であり、比較例5の全体としての評価結果を「×」とした。比較例5はこの発明の範囲外とした。飛散による無駄などが生じ、実用する際の懸念があることによる。
【0060】
つぎに、
図1に示す盃型の塗料パン1に替えて桝型の塗料パン1を使用して、この発明の実施形態に係る塗装方法およびその装置の効果を確認するために行った実施例2と比較例6ないし比較例12とを示
す。なお、実施例2は、この発明に含まれる典型的な一例であり、「比較例」はその実施例1の条件を変更した例であり、したがって「比較例」はその名称から直ちにこの発明の範囲に入らないことを意味しない。
【0061】
(実施例2)
図5は実施例2における塗料パン1を模式的に示す斜視図である。
図5に示す例では、塗料パン1は桝状あるいは底のある角筒状を成しており、その断面形状はほぼ矩形を成している。その塗料パン1に対して塗料液Lを供給する供給管3は実施例1と同様に複数に分岐され、供給管3を複数に分岐している各分岐管7は実施例1と同様に、塗料パン1の長さ方向に予め定めた間隔で並んで配置されると共に、塗料パン1の一方の上端縁5側の底面4に沿って配置されている。また、実施例2では、塗料パン1の高さ方向で、塗料パン1に湛えている塗料液Lの液面FLと底面4との間の中間位置よりも下方に供給口8が位置している。また、塗料パン1に対して320L/minで塗料液Lを供給した。なお、塗料パン1に取り付けた振動子11の数は1つであり、置換時間は13.64秒である。
【0062】
(比較例6)
塗料パン1に対して200L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は21.83秒である。
【0063】
(比較例7)
塗料パン1に対して240L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は18.19秒である。
【0064】
(比較例8)
塗料パン1に対して280L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は15.59秒である。
【0065】
(比較例9)
塗料パン1に対して360L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は12.13秒である。
【0066】
(比較例10)
塗料パン1に対して400L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は10.91秒である。
【0067】
(比較例11)
塗料パン1に対して440L/minで塗料液Lを供給した以外は、実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。なお、塗料パン1に設置した振動子11の数は実施例2と同様に1つであり、置換時間は9.92秒である。
【0068】
(比較例12)
塗料パン1から振動子11を取り外した以外は実施例2と同様にして上述した評価項目について目視によって評価した。
【0069】
(総合評価)
実施例2、比較例6から比較例12についての評価結果を表3にまとめて記載してある。なお、表中で「有」の記載は巻き上げ流Fuによる液面FLの揺れや押し上げがある、塗料パン1で塗料液Lの滞留がある、凝集物がある、塗料パン1の内面に付着した樹脂粒子の厚さが変化つまり増大していることなどを示す。表中で「なし」の記載は巻き上げ流Fuによる液面FLの揺れや押し上げがない、塗料パン1で塗料の滞留がない、凝集物がない、塗料パン1の内面に付着した樹脂粒子の厚さが変化していないことなどを示す。表中における「○」のシンボルは塗装品位ついての評価結果が良いことを示し、「×」のシンボルは塗装品位についての評価結果が悪いことを示し、「△」のシンボルは塗装品位についての評価結果がやや悪い、「○」と「×」との間であることを示している。
【表3】
【0070】
実施例2では、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められた。これは、ポンプ2の吐出力(動圧)によって上述した巻き上げ流Fuが生じているためであると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1内での塗料液Lの淀みや、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大、オーバーフロー堰6側の液面FLにおける凝集物の発生などは認められなかった。ポンプ2の吐出力、具体的には上述した底面流Fbや巻き上げ流Fuなどによって塗料パン1内での塗料液Lの撹拌が十分に行われているためであると思われる。したがって、金属板15の塗装品位は良好であり、実施例2の全体としての評価結果を「○」とした。
【0071】
比較例6では、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められなかった。これは、比較例6では実施例2と比較例6ないし比較例12とのうちで置換時間が最も長く、つまりポンプ2の吐出力が小さいために上述した巻き上げ流Fuが生じにくいためであると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1内での塗料液Lの淀み、および、塗料液Lの変質や樹脂粒子の凝集による凝集物(浮遊物)の発生、ならびに、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大などが認められた。これは、ポンプ2の吐出力による塗料パン1内での撹拌が小さいあるいは弱いためであると思われる。そして、実験を開始してから4時間経過後において、上記の凝集物が金属板15に付着することによる塗装品位の低下が認められた。したがって、比較例6の全体としての評価結果を「×」とし、この発明の範囲外とした。
【0072】
比較例7においても、オーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められなかった。これは、比較例7においても、比較例6と同様に、ポンプ2の吐出力が小さいため、上述した巻き上げ流Fuが生じにくいためであると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1内での塗料液Lの淀みは認められないものの、塗料液Lの変質や樹脂粒子の凝集による凝集物(浮遊物)の発生、および、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大などが認められた。これは、比較例6と同様に、ポンプ2の吐出力による塗料パン1内での撹拌が小さいあるいは弱いためであると思われる。そして、実験を開始してから6時間経過後において、上記の凝集物が金属板15に付着することによる塗装品位の低下が認められた。したがって、比較例6の全体としての評価結果を「△」とし、この発明の範囲外とした。
【0073】
比較例8では、実施例2と同様にオーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められた。すなわち、ポンプ2の吐出力によって巻き上げ流Fuが生じていると思われる。また、実験を開始してから6時間経過後においても、塗料パン1内での塗料液Lの淀み、および、塗料液Lの変質や樹脂粒子の凝集による凝集物(浮遊物)の発生、ならびに、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大などは認められなかった。これは、ポンプ2の吐出力によって塗料パン1内での撹拌が十分に行われているためであると思われる。そして、実験を開始してから6時間経過後において、上記の凝集物が金属板15に付着することによる塗装品位の低下が認められなかった。したがって、比較例8の全体としての評価結果を「○」とし、この発明の範囲に入るものとした。
【0074】
比較例9の各評価項目についての評価結果は、実施例2の各評価項目についての評価結果と同様である。したがって、金属板15の塗装品位は良好であり、比較例9の全体としての評価結果を「○」とし、この発明の範囲に入るものとした。
【0075】
比較例10の各評価項目についての評価結果は、実施例2および比較例9の各評価項目についての評価結果と同様である。しかしながら、比較例10では、ポンプ2の吐出力が比較例9よりも増大しているため、供給口8から吐出あるいは噴出した塗料液Lが塗料パン1の底面4に衝突して跳ね返ることによる塗料パン1の外への塗料液Lの飛散が認められた。また、オーバーフロー堰6から回収パン17に塗料液Lが勢いよく排出されることによる回収パン17の外側への塗料液Lの飛散が認められた。したがって、金属板15の塗装品位は良好であるが、比較例10の全体としての評価結果を「△」とし、この発明の範囲外とした。飛散による無駄などが生じ、実用する際の懸念があることによる。
【0076】
比較例11の各評価項目についての評価結果は、実施例2および比較例9および比較例10の各評価項目についての評価結果と同様である。しかしながら、比較例11では、供給口8から吐出あるいは噴出した塗料液Lが塗料パン1の底面4に衝突して跳ね返ることによる塗料パン1の外への塗料液Lの飛散、および、オーバーフロー堰6から回収パン17に塗料液Lが勢いよく排出されることによる回収パン17の外側への塗料液Lの飛散が比較例10よりも激しくなることが認められた。したがって、金属板15の塗装品位は良好であるが、塗料液Lの供給量が過剰であり、比較例11の全体としての評価結果を「×」とし、この発明の範囲外とした。
【0077】
比較例12では、実施例2と同様に巻き上げ流Fuによるオーバーフロー堰6側の液面FLの揺れや押し上げが認められるが、振動子11がないので、実験を開始してから6時間経過後において、塗料パン1の内面4,9,10に付着した樹脂粒子の厚さの増大が認められた。また、実験を開始してから4時間経過後において、上記の凝集物が金属板15に付着することによる塗装品位の低下が認められた。したがって、比較例12の全体としての評価結果を「×」とし、この発明の範囲外とした。
【0078】
以上の評価結果から、塗料パン1の形状にかかわらず、ポンプ2の吐出力が小さくなるほど、塗料パン1内での塗料液Lの撹拌が小さくあるいは弱くなり、また底面流Fbや巻き上げ流Fuが生じにくくなる。その結果、時間の経過と共に、内面4,9,10付近などの塗料液Lの流れが停留しやすい箇所で樹脂粒子が分離して凝集物が生じる。そして、それら粘度の高い塗料液Lや樹脂粒子の凝集物が排出されずに、塗料パン1内に溜まる。つまり、塗料パン1に湛えられている塗料液Lのいわゆる上澄みのみが置換される状態、すなわち表面流のみが生じている状態となる。一方、置換時間が10秒以上であってかつ16秒以下となるように、塗料パン1に塗料液Lを供給すると、ポンプ2の吐出力によって塗料パン1内の塗料液Lが十分に撹拌される。つまり、上述した底面流Fbや巻き上げ流Fuが生じる。そのため、塗料パン1内に停留部が生じにくく、塗料浴を形成している塗料液Lの全体を連続的な流動状態に維持でき、これにより塗料液Lの変質や樹脂粒子の凝集による凝集物の発生を防止もしくは抑制できる。したがって、この発明の実施形態における塗装方法およびその装置を長時間に亘って安定して稼働できると共に、金属板15の塗装の品質を長期間に亘って良好に維持できる。また、メンテナンスの頻度を少なくできる。
【0079】
ここで、塗装装置の高さ方向での供給口の位置を変化させた場合における塗料パン1内での塗料流について説明する。
図6は、実施例2の塗料パン1において、塗装装置の高さ方向での供給口8の位置を変化させた場合における塗料パン1内での塗料液Lの流速分布のシミュレーション結果を示す図面代用写真であり、
図6の(A)は液面FLの上方に供給口8が位置している場合、
図6の(B)は液面FLから25mm下に供給口8が位置している場合、
図6の(C)は液面FLから50mm下に供給口8が位置している場合、
図6の(D)は液面FLから75mm下に供給口8が位置している場合における塗料液Lの流速分布のシミュレーション結果を示している。
【0080】
図6の(A)に示すように、液面FLの上方に供給口8が位置していると、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料液Lが液面FLを叩くので、塗料液Lの飛散が生じる。また、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料液Lは液面FLに衝突してその運動エネルギが減じられて塗料浴内に流入すると共に、塗料パン1内の塗料液Lの粘性抵抗によってもその運動エネルギが減じられる。それらの結果、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料液Lは底面4に衝突して底面4に沿って流動する底面流Fbを生じるものの、その底面流Fbは、
図6の(A)に示すように、塗料パン1内の底面4の全体に亘って生じにくい。底面流Fbはオーバーフロー堰6側の底面9に到達しないので、上述した巻き上げ流Fuが生じない。
【0081】
これに対して、
図6の(B)に示すように、液面FLから25mm下に供給口8を位置させると、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料液Lは液面FLに激しくは衝突しないので、運動エネルギをほぼ保った状態で塗料浴内に流入し、また、底面4に衝突して底面流Fbを生じる。したがって、
図6の(A)と比較して、高い流速の底面流Fbが生じ、その底面流Fbは高い流速をほぼ維持した状態でオーバーフロー堰6側の底面9に衝突する。その結果、オーバーフロー堰6に向かって塗料液Lを上昇させる巻き上げ流Fuが生じる。言い換えれば、塗料パン1内の塗料液Lが上述した底面流Fbおよび巻き上げ流Fuによって強く撹拌される。このような底面流Fbおよび巻き上げ流Fuの流速は、
図6の(C)や(D)に示すように、高さ方向での供給口8の位置が液面FLから深いほど高くなる。これは、供給口8が塗料浴の深い位置にあるほど、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料液Lは、塗料パン1内での塗料液Lの粘性抵抗を受けにくくなり、運動エネルギを保った状態で底面4に衝突するためであると思われる。したがって、供給口8は液面FL下に位置していることが好ましく、より好ましくは、高さ方向で底面4と液面FLとの中間位置、もしくは、当該中間位置よりも深い箇所に位置していることが好ましい。こうすることにより、塗料パン1内で高い流速の底面流Fbおよび巻き上げ流Fuを生じて塗料パン1内の塗料液Lの全体を流動している状態もしくは撹拌されている状態に維持できる。また、供給口8と底面4との成す角度を鈍角に設定することが好ましい。これは、供給口8から吐出もしくは噴出した塗料を底面4に沿った流れに効果的に生じさせるためである。
【0082】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されないのであって、この発明の実施形態に係る塗装方法およびその装置では、
図7に示すように、分岐管7の先端部にノズル24を取り付けてもよい。そして、それらのノズル24を塗料パン1の長さ方向に予め定めた間隔で並んで配置すると共に、塗料パン1の一方の上端縁5側に沿って配置する。また、ノズル24の先端部を塗料パン1に湛えてある塗料液Lの液面FL下に位置させる。他の構成は
図1に示す構成と同様であるため、
図1に示す構成と同様の構成については
図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0083】
図7に示す構成であっても、ノズル24から吐出もしくは噴出された塗料液Lによって塗料パン1の長さ方向の全長に亘って、ほぼ一定方向の塗料流を形成できる。また、ノズル24によって供給管3を流動する塗料液Lを絞って吐出もしくは噴出するため、塗料パン1内に供給する塗料液Lの流速を増大できる。これにより、上述した各実施形態よりも底面流Fbおよび巻き上げ流Fuの各流速を増大できる。したがって、
図7に示す構成であっても、上述した各実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。さらに、この発明では、塗料パン1に湛えた塗料液Lの表面流よりも高速の底面流Fbを生じさせる更に他のノズル(供給口)を塗料液中に設けることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 塗料パン
4 底面
6 オーバーフロー堰
8 供給口
12 ピックアップロール
15 金属板(帯状体)
Fb 底面流
Fu 巻き上げ流
L 塗料液