(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】多孔質フィルター、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20240228BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20240228BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240228BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/50 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/54 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240228BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240228BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D67/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/34
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/48
B01D71/50
B01D71/54
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/68
B01D39/16 C
B01D39/16 E
B32B5/28 101
(21)【出願番号】P 2020014141
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000222255
【氏名又は名称】東洋クロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 真史
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-013256(JP,A)
【文献】特開昭62-199631(JP,A)
【文献】特開2008-229612(JP,A)
【文献】特開2010-264683(JP,A)
【文献】特開2003-126622(JP,A)
【文献】特開平11-049875(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192883(WO,A1)
【文献】特開平04-108522(JP,A)
【文献】特開2017-225962(JP,A)
【文献】特開2017-128105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 5/18
B32B 5/24
B32B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質樹脂層と、該多孔質樹脂層中に含浸されている基材と含む多孔質フィルターであって、
前記多孔質フィルターの一方面の表面粗さRaは0.5μm以下で、
前記多孔質フィルターの他方面の表面粗さRaは1μm以下であ
り、
前記多孔質フィルターの厚み方向断面を倍率500倍で観察し、該多孔質フィルターの厚みをdとし、前記一方面側からd/5位置および前記他方面側からd/5位置に前記基材に水平な線分を引いたとき、
前記一方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は55~80%であり、
前記他方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は30~55%であることを特徴とする多孔質フィルター。
【請求項2】
前記基材は、前記多孔質樹脂層から露出していない請求項1に記載の多孔質フィルター。
【請求項3】
前記他方面の表面粗さRaは、前記一方面の表面粗さRaより大きく、
前記他方面の表面粗さRaと前記一方面の表面粗さRaの差は、0.1μm以上である請求項1または2に記載の多孔質フィルター。
【請求項4】
前記他方面の表面粗さRaは、前記一方面の表面粗さRaより大きく、
前記多孔質フィルターは、前記他方面側を上流側に、前記一方面側を下流側に配置して用いられるフィルターである請求項1~3のいずれかに記載の多孔質フィルター。
【請求項5】
前記基材に対して一方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは1~150μmであり、
前記基材に対して他方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは1~150μmである請求項1~
4のいずれかに記載の多孔質フィルター。
【請求項6】
多孔質フィルターの製造方法であって、
支持体の少なくとも一方面に、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を接触させる工程、
前記溶液と、基材とを接触させる工程、
前記支持体と前記基材との積層体
を構成する前記溶液から前記溶媒を除去することにより前記樹脂を多孔質化する工程、
前記積層体から前記支持体を除去する工程、
を含むことを特徴とする多孔質フィルターの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂として、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒として、非プロトン性極性溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、環状エーテル系溶媒、および芳香族系有機溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる請求項
6または
7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルター、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質樹脂膜は、様々な用途に広く用いられており、例えば、分離用フィルター、緩衝材、合成皮革、断熱材、絶縁材などに用いられている。これらのなかでも分離用フィルターは、液体の分離や気体の分離に用いられている。
【0003】
合成樹脂からなる分離用フィルターの製造方法としては、例えば、合成樹脂からなるシート状成形体を、一軸延伸または二軸延伸することにより多孔質化する方法や、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を塗布した支持体を、凝固液中に浸漬し、塗料液に含まれる溶媒と凝固液とを置換(相転換)することにより支持体上の塗料液を凝固させつつ樹脂を多孔質化する方法が挙げられる。後者の方法は、湿式凝固法と呼ばれることがある。
【0004】
多孔質体を用いた一例として、特許文献1には、多孔質体上に、金属層を含む水素排出膜を有する水素排出積層膜が開示されており、多孔質体としては、不織布上に微多孔質膜を有するものが記載されている。微多孔質膜の形成方法としては、ポリマー溶液(ドープ)を不織布上に塗布し、その後、ドープ膜を有する不織布を凝固浴に浸漬してドープ膜にミクロ相分離を生じさせ、ポリマーの多孔構造を固定化することにより微多孔質膜を不織布上に形成する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、高分子多孔質膜と、これを支持する高分子不織布からなるシート状基材とからなる高分子多孔質平膜シートが記載されている。この高分子多孔質平膜シートは、不織布に、高分子多孔質膜を形成するための高分子を溶解させた溶液を含浸させた後、溶媒揮発のための乾燥ゾーンに導き、乾燥させることによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-112368号公報
【文献】特許第5424145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ポリマー溶液を不織布上に直接塗布しているため、ポリマー溶液を均一に塗布するには不織布の密度をある程度高める必要があった。そのため圧力損失が高くなる傾向があった。
【0008】
ところが、合成樹脂からなる多孔質樹脂膜を分離用フィルターとして用いるにあたっては、分離効率を高めるために、圧力損失を低くすることが求められる。分離用フィルターの圧力損失を低くするには、厚みを薄くすることが考えられる。しかし厚みを薄くするには限界がある。また、厚みを薄くし過ぎると強度が低下し、使用中に破損することがある。一方、分離用フィルターの厚みを薄くすることなく圧力損失を低くする方法として、多孔質樹脂膜の空隙率を高くすることが考えられる。しかし空隙率を高めると密度が小さくなるため、強度が低下し、使用中に破損することがある。そこで分離用フィルターの強度を確保するため、従来では多孔質樹脂膜を基材に接着層を介して積層されていた。しかし、接着層によって通気性や透湿性は悪化するため、圧力損失は高くなっていた。また、接着層の厚み分だけ厚くなるため、分離用フィルターの使用用途が限られる。
【0009】
ところで、分離用フィルターの表面に凹凸が存在していると、捕集物が表面の凹凸に引っかかり、目詰まりが生じやすく、分離効率が低下することがあった。また、分離用フィルターを逆洗しても表面の凹凸に引っかかった捕集物は除去されにくいため、分離用フィルターを再利用することは困難であった。そこで分離用フィルターの表面はできるだけ平滑であることが求められる。
【0010】
ところが、特許文献1では、不織布の一方面のみに微多孔質膜を形成しているため、他方面は不織布が露出した状態になり、凹凸が存在していた。
【0011】
また、特許文献2では、基材を、製膜原液の入った含浸浴に浸漬させた後、乾燥ゾーンを通過させて溶媒を揮発させ、巻取り機で巻取ることにより連続製膜している。基材に付着させる製膜原液量を減らして厚さを薄くすると、得られる高分子多孔質平膜シートの表面粗さは、基材の表面粗さの影響を受けて粗くなる。そのため、捕集物が表面の凹凸に引っかかり、目詰まりが生じやすく、分離効率が低下することがあった。また、分離用フィルターを逆洗しても表面の凹凸に引っかかった捕集物は除去されにくいため、分離用フィルターを再利用することは困難であった。
【0012】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、目詰まりしにくく、通気性および透湿性が良好で、しかも強度が高い多孔質フィルターを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記多孔質フィルターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]多孔質樹脂層と、該多孔質樹脂層中に含浸されている基材と含む多孔質フィルターであって、前記多孔質フィルターの一方面の表面粗さRaは0.5μm以下で、前記多孔質フィルターの他方面の表面粗さRaは1μm以下であることを特徴とする多孔質フィルター。
[2]前記基材は、前記多孔質樹脂層から露出していない[1]に記載の多孔質フィルター。
[3]前記他方面の表面粗さRaは、前記一方面の表面粗さRaより大きく、前記他方面の表面粗さRaと前記一方面の表面粗さRaの差は、0.1μm以上である[1]または[2]に記載の多孔質フィルター。
[4]前記他方面の表面粗さRaは、前記一方面の表面粗さRaより大きく、前記多孔質フィルターは、前記他方面側を上流側に、前記一方面側を下流側に配置して用いられるフィルターである[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質フィルター。
[5]前記多孔質フィルターの厚み方向断面を倍率500倍で観察し、該多孔質フィルターの厚みをdとし、前記一方面側からd/5位置および前記他方面側からd/5位置に前記基材に水平な線分を引いたとき、前記一方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は55~80%であり、前記他方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は30~55%である[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質フィルター。
[6]前記基材に対して一方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは1~150μmであり、前記基材に対して他方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは1~150μmである[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質フィルター。
[7]多孔質フィルターの製造方法であって、支持体の少なくとも一方面に、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を接触させる工程、前記溶液と、基材とを接触させる工程、前記支持体と前記基材との積層体から前記溶媒を除去することにより前記樹脂を多孔質化する工程、前記積層体から前記支持体を除去する工程、を含むことを特徴とする多孔質フィルターの製造方法。
[8]前記樹脂として、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる[7]に記載の製造方法。
[9]前記溶媒として、非プロトン性極性溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、環状エーテル系溶媒、および芳香族系有機溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる[7]または[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔質フィルターは、多孔質樹脂層中に基材が含浸されているため、通気性および透湿性が良好で、しかも強度が高いものとなる。また、多孔質フィルターの表面粗さRaが所定の範囲を満足しているため、目詰まりしにくい。また、本発明によれば、上記多孔質フィルターの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた膜の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例2で得られた膜の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、多孔質樹脂層中に基材を含浸させることにより、通気性および透湿性を劣化させることなく強度を高められること、多孔質フィルターの表面粗さRaを所定の範囲に制御することにより、目詰まりの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明について詳述する。
【0017】
本発明の多孔質フィルターは、多孔質樹脂層と、該多孔質樹脂層中に含浸されている基材と含む多孔質フィルターであり、前記多孔質フィルターの一方面の表面粗さRaは0.5μm以下で、前記多孔質フィルターの他方面の表面粗さRaは1μm以下である。
【0018】
多孔質樹脂層中に基材が含浸されていることにより、多孔質樹脂層のみの場合と比べて強度を高めることができる。また、本発明では、強度を高めるために、多孔質樹脂層を基材に接着層を介して積層していないため、接着層により通気性や透湿性が悪化することを抑制できる。従って圧力損失を低減できる。
【0019】
基材は、多孔質樹脂層から露出していないことが好ましい。基材が露出せず、多孔質樹脂層で覆われていることにより、多孔質フィルターの表面を平滑にできるため、表面粗さを小さくできる。その結果、目詰まりの発生を抑制できる。
【0020】
本発明の多孔質フィルターは、一方面の表面粗さRaが0.5μm以下で、他方面の表面粗さRaが1μm以下である。表面粗さがこの範囲を満足することにより、捕集物が表面の凹凸に引っかかり、目詰まりが発生することを抑制できる。その結果、分離効率を高めることができる。また、多孔質フィルターを逆洗することにより、多孔質フィルターから捕集物を容易に除去できるため、多孔質フィルターを再利用しやすくなる。一方面の表面粗さRaは、0.4μm以下が好ましく、より好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.2μm以下である。一方面の表面粗さRaは、できるだけ小さい方が好ましいが、通常、0.05μm以上である。他方面の表面粗さRaは、0.8μm以下が好ましく、より好ましくは0.7μm以下、更に好ましくは0.6μm以下である。他方面の表面粗さRaは、できるだけ小さい方が好ましいが、通常、0.05μm以上である。
【0021】
他方面の表面粗さRaと、一方面の表面粗さRaは同じであってもよいが、異なっていることが好ましく、他方面の表面粗さRaは、一方面の表面粗さRaより大きいことがより好ましい。
【0022】
他方面の表面粗さRaは、一方面の表面粗さRaより大きく、他方面の表面粗さRaと一方面の表面粗さRaの差(「他方面の表面粗さRa」-「一方面の表面粗さRa」)は、0.1μm以上が好ましい。表面粗さRaの差が0.1μm以上であることにより、ロール状に巻取って他方面と一方面が重なっても他方面と一方面が粘着せず、容易に剥離できる。表面粗さRaの差は、0.15μm以上がより好ましく、更に好ましくは0.20μm以上である。表面粗さRaの差の上限は特に限定されないが、例えば、1μm以下が好ましい。
【0023】
他方面の表面粗さRaが、一方面の表面粗さRaより大きい多孔質フィルターは、一方面側を上流側に、他方面側を下流側に配置してもよいが、他方面側を上流側に、一方面側を下流側に配置して用いることが好ましい。表面粗さRaが大きい方を上流側に配置することにより、捕集効率を高めることができる。
【0024】
本発明の多孔質フィルターは、基材の両面に多孔質樹脂層が形成されており、該多孔質フィルターの厚み方向断面を倍率500倍で観察し、多孔質フィルターの厚みをdとし、一方面側からd/5位置および他方面側からd/5位置に基材に水平な線分を引いたとき、一方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は55~80%であり、他方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率は30~55%であるものが好ましい。一方面側における空げき率が他方面側における空げき率よりも相対的に大きくなることにより、捕集物の目詰まりによる急激な圧力上昇を緩和できる。一方面側からd/5位置における空げき率は55~80%が好ましく、58%以上がより好ましく、更に好ましくは60%以上であり、75%以下がより好ましく、更に好ましくは70%以下である。他方面側からd/5位置における空げき率は30~55%が好ましく、35%以上がより好ましく、更に好ましくは40%以上であり、53%以下がより好ましく、更に好ましくは51%以下である。
【0025】
厚み方向断面は、走査型電子顕微鏡を用いて観察すればよい。
【0026】
空隙率は、走査型電子顕微鏡写真に引いた長さ50μmの線分に対する空隙部分の長さの総和の割合(空隙部分の長さの総和/線分の長さ×100)として算出すればよい。
【0027】
多孔質樹脂層中に含浸させる基材は、例えば、繊維を用いて形成された織物、編物、または不織布などが好ましく、通気性を有し、樹脂が浸透しやすいものがより好ましい。これらのなかでも、多孔質フィルターに剛性や強度が要求される場合の基材は、織物が好ましく、多孔質フィルターに伸縮性や柔軟性が要求される場合の基材は、編物が好ましい。
【0028】
基材を構成する繊維の種類は特に限定されず、無機繊維であっても有機繊維であってもよい。多孔質フィルターに耐熱性が要求される場合は、無機繊維を用いることが好ましく、耐熱性はそれほど要求されず、コストを重視する場合は、有機繊維を用いることが好ましい。無機繊維としては、例えば、金属繊維やガラス繊維などを用いることができる。有機繊維としては、例えば、綿、麻、絹などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、テンセルなどの再生繊維、ポリエステル、ナイロン、ポリアミドなどの合成繊維を用いることができ、これらが混紡、または交織されたものであってもよい。これらのなかでも、多孔質樹脂層との親和性や汎用性の点で、有機繊維を用いることがより好ましく、更に好ましくは合成繊維である。
【0029】
基材の厚みは特に限定されず、多孔質フィルターに要求される強度に応じて調整すればよいが、例えば、10~300μmが好ましい。基材の厚みは、より好ましくは15μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは120μm以下である。強度を確保したうえで、圧力損失を低くする点で、厚みは20~120μmが特に好ましい。
【0030】
多孔質樹脂層を構成する樹脂の種類は特に限定されず、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。これらのなかでも、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、耐熱性と耐久性の点で、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0031】
多孔質樹脂層の厚みは、基材に対して一方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みが1~150μmであり、基材に対して他方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みが1~150μmであることが好ましい。多孔質樹脂層の平均厚みをこのような範囲にすることによって、通気性および透湿性を悪化させることなく、表面を平滑にすることができるため、圧力損失を低減できる。
【0032】
基材に対して一方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは、1.5μm以上がより好ましく、更に好ましくは2.0μm以上であり、100μm以下がより好ましく、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは35μm以下である。基材に対して他方面側に存在する多孔質樹脂層の平均厚みは、2.0μm以上がより好ましく、更に好ましくは2.5μm以上であり、100μm以下がより好ましく、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。多孔質樹脂層の厚みは、多孔質フィルターの厚み方向断面を走査型電子顕微鏡で観察して測定すればよく、任意の3箇所で測定した厚みの平均値を平均厚みとすればよい。
【0033】
多孔質フィルターの総厚みは、例えば、10~250μmが好ましく、より好ましくは15μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、より好ましくは230μm以下、更に好ましくは200μm以下である。多孔質フィルターの厚みを薄くすることにより、例えば、複数の多孔質フィルターを折り曲げた状態でユニット内に挿入できるため、分離効率を高めることができる。
【0034】
次に、本発明に係る多孔質フィルターの製造方法について説明する。
【0035】
本発明に係る多孔質フィルターの製造方法は、支持体の少なくとも一方面に、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を接触させる工程(以下、溶液接触工程ということがある。)、前記溶液と、基材とを接触させる工程(以下、基材接触工程ということがある。)、前記支持体と前記基材との積層体から前記溶媒を除去することにより前記樹脂を多孔質化する工程(以下、多孔質化工程ということがある。)、前記積層体から前記支持体を除去する工程(以下、支持体除去工程ということがある。)、を含む点に特徴がある。即ち、支持体の少なくとも一方面に、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を接触させ、この溶液と、基材とを接触させることにより、支持体と基材との積層体を製造する。このとき、基材は、溶液中に浸漬していることが好ましい。次に、得られた積層体から溶媒を除去しつつ樹脂を凝固させることにより、樹脂を多孔質化できる。樹脂を多孔質化した後、積層体から支持体を除去することにより、多孔質樹脂層中に基材が含浸されている多孔質フィルターが得られる。
【0036】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0037】
[溶液接触工程]
溶液接触工程では、支持体の少なくとも一方面に、溶媒に樹脂を溶解させた溶液を接触させる。
【0038】
支持体としては、例えば、離型フィルム、離型紙、織物、編物、不織布などを用いることができ、支持体の表面は平滑であることが好ましい。これらのなかでも、平滑性に優れる点で、離型フィルムまたは離型紙を用いることが好ましく、更に再使用性できる点で、離型フィルムを用いることがより好ましい。離型フィルム、織物、編物、および不織布の組成としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリアミドなどが挙げられる。これらのなかでも、熱風乾燥処理に適している点で、ポリエステルが好ましい。
【0039】
支持体には、離型剤が含浸または塗布されていてもよい。離型剤としては、例えば、シリコーン系離型剤、オレフィン系離型剤、エポキシ系離型剤などを用いることができる。
【0040】
上記溶液は、支持体の少なくとも一方面に接触させればよく、両面に接触させても構わない。
【0041】
上記支持体の一方面に付着させる上記溶液の量は、例えば、70~300g/m2が好ましい。溶液の付着量が70g/m2を下回ると、形成される多孔質樹脂層の厚みが薄くなり過ぎるため、強度不足になり、使用時に破損するおそれがある。溶液の付着量は、80g/m2以上がより好ましく、更に好ましくは85g/m2以上である。一方、溶液の付着量が300g/m2を超えると、形成される多孔質樹脂層の厚みが厚くなり過ぎるため、通気性および透湿性が悪化し、圧力損失が高くなることがある。溶液の付着量は、250g/m2以下がより好ましく、更に好ましくは230g/m2以下である。
【0042】
溶媒に溶解させる樹脂としては、上記で多孔質樹脂層を構成する樹脂として例示したものを用いることができ、具体的には、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0043】
溶液に溶解させる樹脂の濃度は、用いる溶媒に対する樹脂の溶解度に応じて任意に設定できるが、例えば、2~30質量%が好ましい。樹脂の濃度が30質量%を超えると、多孔質フィルターの体積に対する空孔の割合(以下、多孔度ということがある。)が低くなり、通水性および透気性が低下しやすくなる。また、溶液の粘度が著しく高くなり、基材の内部(隙間)に溶液が浸透しにくくなり、均一な多孔質フィルターが得られにくくなる。また、溶液の粘度が著しく高くなると、後の多孔質化工程で溶媒を除去しにくくなり、樹脂の多孔質化が困難になる。樹脂の濃度は、より好ましくは4質量%以上である。一方、樹脂の濃度が2質量%を下回ると、多孔度が高くなる反面、基材と多孔質樹脂層との密着性が悪くなり、使用時に多孔質樹脂層が基材から脱落するおそれがある。樹脂の濃度は、より好ましくは15質量%以下である。
【0044】
樹脂を溶解させる溶媒(以下、第1溶媒ということがある。)としては、湿式凝固法で通常用いられる有機溶媒を用いることができ、例えば、非プロトン性極性溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、環状エーテル系溶媒、および芳香族系有機溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。具体的には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;ジメチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系有機溶媒;などを用いることができる。これらの溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。上記有機溶媒のうち、環境への影響、湿式凝固法における加工性、簡便性等の点で、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。
【0045】
上記溶液には、多孔質フィルターの特性を損なわない範囲で、物性向上、透気性等の機能向上、耐薬品性、帯電防止性、耐熱性の付与等のために、必要に応じて添加剤、孔調整剤、充填剤等を添加してもよい。物性向上のための添加剤としては、例えば、アクリルビーズ、セラミックビーズなどが挙げられる。耐熱性の付与のための添加剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤などが挙げられる。孔調整剤としては、例えば、ノニオン性、カチオン性、アニオン性の界面活性剤、アルコール系溶媒、ポリエチレンオキサイド等の親水性高分子添加剤、パラフィン系オイル、芳香族系溶媒等の疎水性添加剤が挙げられる。上記孔調整剤は、2種類以上を用いてもよい。孔調整剤の量は、通常用いられる程度でよく、溶液全体の質量に対して0.1~10質量部程度が好ましい。
【0046】
支持体の少なくとも一方面に上記溶液を接触させる方法は、例えば、コンマコーティング法、ダイコーティング法、ドクターナイフコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアコーティング法、バーコーティング法などが挙げられ、これらの方法は、低粘度溶液を塗工するのに適している。これらのなかでも、ダイコーティング法またはグラビアコーティング法で接触させることがより好ましい。
【0047】
[基材接触工程]
基材接触工程では、上記溶液接触工程において支持体の少なくとも一方面に接触させた溶液と、基材とを接触させる。上記基材は、上記支持体の少なくとも一方面に接触している溶液中に浸漬させることが好ましい。
【0048】
上記溶液と接触させる基材としては、上記で多孔質樹脂層中に含浸させる基材として例示したものを用いることができる。
【0049】
上記溶液と基材を接触させる方法は、支持体上の溶液に基材を送り出して接触させる方法が挙げられる。
【0050】
[多孔質化工程]
多孔質化工程では、支持体と基材との積層体から溶媒を除去することにより樹脂を多孔質化する。
【0051】
積層体から溶媒を除去する方法としては、溶媒の沸点以上の温度に積層体を加熱する方法や、湿式凝固法などが挙げられ、湿式凝固法が好ましい。湿式凝固法では、上記積層体を、上記溶媒(第1溶媒)と相溶性を有する第2溶媒と接触させることにより、第1溶媒と第2溶媒を置換し、樹脂を多孔質化すればよい。このとき、第2溶媒は、積層体に含まれる樹脂を溶解しないか、溶解しにくい溶媒を用いることにより、樹脂を凝固させることができる。
【0052】
第2溶媒としては、例えば、水またはアルコール系溶媒を用いることが好ましく、2種以上を混合して用いてもよい。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどを用いることができる。
【0053】
上記積層体を第2溶媒と接触させるに先立って、積層体を第1溶媒と第2溶媒の混合液と接触させることが好ましい。積層体を、第1溶媒と第2溶媒の混合液と接触させた後、第2溶媒と接触させることにより、積層体に含まれる第1溶媒が確実に第2溶媒に置換されるため、積層体に第1溶媒が残存せず、樹脂の多孔質化を促進できる。
【0054】
第1溶媒と第2溶媒の混合液としては、例えば、非プロトン性極性溶媒と水との混合液を用いることが好ましい。
【0055】
[支持体除去工程]
支持体除去工程では、積層体から支持体を剥離・除去することにより、多孔質フィルターが得られる。
【0056】
積層体から支持体を剥離・除去する前に、積層体を乾燥させてもよい。
【0057】
得られた多孔質フィルターについて、通気性や透湿性を損なわない範囲で重ね塗りしてもよいし、意匠性を付与するための表面処理を行ってもよいし、防汚性や撥水性を高めるための表面処理を行ってもよい。
【0058】
上記多孔質フィルターは、例えば、気体分離膜、固気分離膜、固液分離膜、圧力調整膜、透湿防水膜などの用途、或いはこれらの膜の構成部材(例えば、支持体など)として好適に用いることができる。
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
ジメチルホルムアミド90.0kgを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで攪拌した。撹拌しているジメチルホルムアミドに、ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学製「スミカエクセル4800P」)10.0kgを徐々に添加し、更に15分間攪拌し、ポリエーテルスルホン溶液を調製した。調製したポリエーテルスルホン溶液をヒラノテクシード社製のコンマコーター(登録商標)を用いて離型フィルム(東洋クロス製「SP2002」、厚み:75μm)上にWETコート量が96g/m
2となるよう流延し、その後、コンマコーターの出口において基材となるPET織物(厚み:98μm)を離型フィルム上のポリエーテルスルホン溶液と接触させ、ポリエーテルスルホン溶液中にPET織物を含浸させた。なお、基材の厚みは、デジタルシックネスゲージを用いて5箇所の厚みを測定した結果の平均値を示している。以下、基材の厚みについて同じ。
離型フィルムとPET織物との積層体を、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、積層体からジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリエーテルスルホンを凝固させた。次いで、積層体を40℃の温水に約120秒間浸漬してから、オーブンにて140℃で乾燥した。乾燥後、離型フィルムを除去することにより、基材としてPET織物が含浸されている白色の膜が得られた。得られた膜の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で観察して撮影した電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図1に示す。
【0061】
(実施例2)
ポリウレタン樹脂(大日精化製「レザミンCU-9443」)36kgとジメチルホルムアミド64kgとを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで15分間攪拌し、ポリウレタン溶液を調製した。調製したポリウレタン溶液をヒラノテクシード社製のコンマコーター(登録商標)を用いて離型フィルム(東洋クロス製「SP2000」、厚み:75μm)上にWETコート量が170g/m
2となるよう流延し、その後、コンマコーターの出口において基材となるガラス繊維織物(厚み:90μm)を離型フィルム上のポリウレタン溶液と接触させ、ポリウレタン溶液中にガラス繊維織物を含浸させた。
離型フィルムとガラス繊維織物との積層体を、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、積層体からジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリウレタンを凝固させた。次いで、積層体を40℃の温水に約120秒間浸漬してから、オーブンにて140℃で乾燥した。乾燥後、離型フィルムを除去することにより、基材としてガラス繊維織物が含浸されている白色の膜が得られた。得られた膜の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率500倍で観察して撮影した電子顕微鏡写真(SEM写真)を
図2に示す。
【0062】
(実施例3)
ジメチルホルムアミド92.0kgを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで攪拌した。撹拌しているジメチルホルムアミドに、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ製「Kynar-301F」)8.0kgを徐々に添加し、更に15分間攪拌し、ポリフッ化ビニリデン溶液を調製した。調製したポリフッ化ビニリデン溶液をヒラノテクシード社製のコンマコーター(登録商標)を用いて離型紙(リンテック製「EV130TPD FN」)上にWETコート量が192g/m2となるよう流延し、その後、コンマコーターの出口において基材となるナイロン編物(厚み:118μm)を離型紙上のポリフッ化ビニリデン溶液と接触させ、ポリフッ化ビニリデン溶液中にナイロン編物を含浸させた。
離型紙とナイロン編物との積層体を、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、積層体からジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリフッ化ビニリデンを凝固させた。次いで、積層体を40℃の温水に約120秒間浸漬してから、離型紙を剥がし、オーブンにて140℃で乾燥し、基材としてナイロン編物が含浸されている白色の膜が得られた。
【0063】
(比較例1)
ジメチルホルムアミド90.0kgを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで攪拌した。撹拌しているジメチルホルムアミドに、ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学製「スミカエクセル4800P」)10.0kgを徐々に添加し、更に15分間攪拌し、ポリエーテルスルホン溶液を調製した。調製したポリエーテルスルホン溶液をヒラノテクシード社製のコンマコーター(登録商標)を用いてPET不織布(厚み:115μm)上にWETコート量が96g/m2となるよう流延し、その後、ポリエーテルスルホン溶液付きPET不織布を、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、ジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリエーテルスルホンを凝固させた。次いで、ポリエーテルスルホン付きPET不織布を、40℃の温水に約120秒間浸漬してから、オーブンにて140℃で乾燥し、PET不織布上にポリエーテルスルホン樹脂が積層された白色の膜が得られた。
【0064】
(比較例2)
ジメチルホルムアミド90.0kgを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで攪拌した。撹拌しているジメチルホルムアミドに、ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学製「スミカエクセル4800P」)10.0kgを徐々に添加し、更に15分間攪拌し、ポリエーテルスルホン溶液を調製した。調製したポリエーテルスルホン溶液を入れた浴槽内に、PET織物(厚み:98μm)を浸漬した。PET織物に付着した余分なポリエーテルスルホン溶液を、浴槽の液面でニップロールを用いてWETコート量が96g/m2となるように除去した後、ガイドロールを経由しながら、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、ジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリエーテルスルホンを凝固させた。次いで、ポリエーテルスルホン付きPET織物を、40℃の温水に約120秒間浸漬してから、オーブンにて140℃で乾燥し、PET織物にポリエーテルスルホン樹脂が積層された部分と繊維間の隙間に沿って空洞が多数空いた不均一な厚みの白色の膜が得られた。
【0065】
(比較例3)
ジメチルホルムアミド90.0kgを容器に入れ、高速撹拌機ディスパーを用いて2000rpmで攪拌した。撹拌しているジメチルホルムアミドに、ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学製「スミカエクセル4800P」)10.0kgを徐々に添加し、更に15分間攪拌し、ポリエーテルスルホン溶液を調製した。調製したポリエーテルスルホン溶液をヒラノテクシード社製のコンマコーター(登録商標)を用いて離型フィルム(東洋クロス製「SP2002」、厚み:75μm)上にWETコート量が96g/m2となるよう流延し、その後、ポリエーテルスルホン付き離型フィルムを、25℃のジメチルホルムアミド10%水溶液中に約150秒間浸漬し、ジメチルホルムアミドを除去しつつ、ポリエーテルスルホンを凝固させた。次いで、ポリエーテルスルホン付き離型フィルムを、40℃の温水に約120秒浸漬してから、オーブンにて140℃で乾燥し、乾燥後、離型フィルムを除去することにより、白色の膜が得られた。
【0066】
得られた膜について次の手順で各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(1)膜の総厚み:ダイヤルシックネスゲージを用いて5箇所の厚みを測定し、その数値の平均値を総厚みとした。
(2)外観目視評価:膜の外観を目視で観察し、評価した。
(3)多孔質樹脂層の平均厚み:膜から100mm角の試験片を切り出し、試験片から無作為に抽出した3箇所を液体窒素で凍結しながら切断し、厚み方向断面を日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡で、倍率500倍で観察し、写真を撮影した。撮影した画像に基づいて、多孔質樹脂層の厚みを測定し、3箇所の平均値を算出した。多孔質樹脂層の厚みは、一方面側および他方面側の両方においてそれぞれ測定した。
(4)表面粗さRa:膜から100mm角の試験片を切り出し、試験片から無作為に抽出した3箇所をガラス板上に凹凸ができないように並べ、試験片の表面粗さRaを東京精密社製の表面粗さ計で測定した。3箇所の平均値を表面粗さRaとした。表面粗さRaは、一方面および他方面の両方においてそれぞれ測定した。
(5)空隙率:膜の厚み方向断面を、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡で、倍率500倍で観察し、写真を撮影した。膜の総厚みをdとし、膜の一方面側からd/5位置および他方面側からd/5位置に基材に水平な線分を引いた。一方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率、および他方面側からd/5位置における長さ50μmの線分に対する空げき率を測定した。
(6)破裂強度:破裂強度は、JIS L 1096に基づいて測定した。
(7)破断強度:破断強度は、JIS L 1096のA法に基づいて測定した。表1において、Tは加工進行方向(タテ)、Yは加工進行方向に対して垂直方向(ヨコ)をそれぞれ意味する。
(8)透気度:透気度は、JIS P 8117に基づいて測定した。
(9)透湿度:透湿度は、JIS L 1099-1985のA-1法に基づいて測定した。
【0068】
【0069】
表1から次のように考察できる。実施例1~3で得られた膜は、多孔質樹脂層と、多孔質樹脂層中に含浸されている基材とを含んでおり、膜の一方面および他方面の表面粗さRaは、本発明で規定する要件を満足していた。また、基材は多孔質樹脂層から露出していなかった。得られた膜(多孔質フィルター)は、通気性および透湿性が良好で、しかも強度が高いものであった。また、多孔質フィルターの表面粗さRaが所定の範囲を満足しているため、分離膜として用いても目詰まりしにくいと考えられる。
【0070】
一方、比較例1で得られた膜は、基材の一方面側のみに多孔質樹脂層が形成されており、他方面側には多孔質樹脂層は形成されていなかった。また、一方面の表面粗さは、本発明で規定する要件を満足していなかった。従って比較例1で得られた膜は、強度が低く、通気性および透湿性が悪かった。比較例2では、ポリエーテルスルホン溶液の一部がガイドロールに付着していることが確認され、比較例2で得られた膜には、多孔質樹脂層は殆ど形成されておらず、形成されていても斑であった。その結果、一方面および他方面の表面粗さは、本発明で規定する要件を満足していなかった。また、基材の一部が多孔質樹脂層から露出していた。従って比較例2で得られた膜は、強度が低かった。比較例3で得られた膜は、多孔質樹脂層のみから構成されており、基材を含んでいない。その結果、強度が著しく低かった。
【0071】
図1から明らかなように、実施例1で得られた膜は、基材は多孔質樹脂層中に含浸されており、基材は、多孔質樹脂層から露出していないことが分かる。
図2から明らかなように、実施例2で得られた膜は、基材は多孔質樹脂層中に含浸されており、基材は、多孔質樹脂層から露出していないことが分かる。なお、実施例3で得られた膜についても実施例1、2と同様、基材は多孔質樹脂層中に含浸されており、基材は、多孔質樹脂層から露出していないことを確認している。