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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】電池ケースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/119 20210101AFI20240228BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20240228BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20240228BHJP
   H01M 50/166 20210101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M50/119
H01M50/103
H01M50/15
H01M50/166
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020042719
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021144860
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】宮下 理央
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 正博
(72)【発明者】
【氏名】榎木 泰史
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-114798(JP,A)
【文献】特開2012-146433(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成されたケース本体部と、前記ケース本体部における開口部を封止する封口板とを一体化させることにより、前記ケース本体部の内部に電池の構成部材を収容する電池ケースにおいて、
前記ケース本体部における内壁面に、前記封口板を載置する段差部を備え、
前記段差部は、前記封口板が載置される載置面と、前記封口板が前記載置面に載置された場合に前記封口板の外端面に対向した対向面と、前記載置面から前記対向面に連なりかつ前記対向面よりも前記ケース本体部の外側に窪んだ角逃げ部とを備えている
ことを特徴とする電池ケース。
【請求項2】
請求項1に記載の電池ケースにおいて、
前記角逃げ部は、前記ケース本体部の外側に最も窪んだ位置から前記対向面に向けて前記ケース本体部の側壁面の板厚が次第に増加するように形成されている
ことを特徴とする電池ケース。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電池ケースにおいて、
前記角逃げ部は、前記ケース本体部の外側に最も窪んだ位置に連なった所定の曲率の第1曲面と、前記第1曲面から前記対向面に連なった傾斜面または前記第1曲面とは異なる他の曲率の第2曲面とにより構成されている
ことを特徴とする電池ケース。
【請求項4】
有底筒状に形成されたケース本体部の内壁面のうち、前記ケース本体部の開口部から所定の位置までの部分を押圧することにより、前記所定の位置に段差部を形成し、前記段差部に封口板を載置して前記ケース本体部と前記封口板とを一体化させることにより成形される電池ケースの製造方法において、
前記内壁面のうちの前記所定の位置を所定の深さ窪ませることにより前記封口板が載置される載置面と角逃げ部を成形し、
前記載置面および前記角逃げ部を成形した後に、前記内壁面のうちの前記角逃げ部よりも前記開口部側の板厚が前記開口部とは反対側の板厚よりも薄くなるように、前記角逃げ部よりも前記開口部側の壁面を押圧して前記段差部を成形する
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電池ケースの製造方法において、
前記角逃げ部は、前記開口部側の押圧された前記壁面よりも窪むように成形する
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電池ケースの製造方法において、
前記ケース本体部の底面に平行な底面と、前記ケース本体部の内壁面に向けて突出した鋭角に形成された先端部とを備えたパンチによって、前記ケース本体部の内壁面を押圧することにより前記載置面および前記角逃げ部を成形する
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電池ケースの製造方法において、
前記パンチにおける前記先端部は、所定の曲率の第1曲面に形成され、前記底面とは反対側の上面は、前記先端部から後退して形成されている
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電池ケースの製造方法において、
前記先端部から前記上面に連なる外壁面は、傾斜面または前記第1曲面とは異なる所定の曲率の第2曲面を有する
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項9】
請求項4ないし8のいずれか一項に記載の電池ケースの製造方法において、
前記載置面および前記角逃げ部を成形する以前における前記ケース本体部の上端は、所望する高さよりも高く形成され、前記載置面および前記角逃げ部を成形する以前に、前記所望する高さ位置、または前記所望する高さよりも高い位置でトリミングする
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項10】
請求項4ないし9のいずれか一項に記載の電池ケースの製造方法において、
前記段差部を成形した後に、前記ケース本体部の上端の高さが所望する高さとなるようにトリミングする
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板、負極板、セパレータ、および電解質などの電池の構成部材を収容する電池ケースおよびその製造方法に関し、特に、有底筒状のケース本体部と、その開口部を閉じる封口板とにより構成された電池ケースおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池などの単電池を複数積層してスタックとし、これを複数接続してモジュール化した大容量の二次電池(組電池)が知られている。このような組電池は、例えば、電気自動車の蓄電装置として採用されており、その搭載性を向上させるために、それぞれの単電池を方形状や矩形状に形成して積層することによりスタックや組電池としている。
【0003】
このような単電池を構成するケースは、一般的に、金属板を絞り加工やしごき加工することにより有底筒状に形成し、その有底筒状に形成されたケース本体部の開口部を、集電体および電極板が組み付けられた板状の封口板によって閉じている。なお、ケース本体部と封口板とはレーザー溶接によって一体化させて構成されている。
【0004】
封口板は、本体部の開口端の内側にはめ込んで位置決めし、その状態で封口板の周辺部をレーザー溶接する。特許文献1および特許文献2には、ケース本体部の内面に封口板を載置するための段差部を形成する製造方法が記載されている。特許文献1に記載された製造方法は、ケース本体部を絞り加工およびしごき加工することにより、ケース本体部に段差部を形成するように構成されている。すなわち、ケース本体部を絞り加工およびしごき加工を行うためのパンチの形状を、ケース本体部の内面に段差部が形成される形状としている。
【0005】
また、特許文献2に記載された製造方法は、まず、有底筒状に形成したケース本体部の上端の側壁を、ケース本体部の外側に向けて押圧することにより、ケース本体部の開口面積が増加するように壁面を変形させ、その後に、ケース本体部を押圧したことにより外側に突出した外壁部を、切削工具によって除去するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-239763号公報
【文献】特許第6160185号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている製造方法では、しごき加工によって段差部を形成している。しごき加工は、パンチに沿って材料を塑性流動させて壁面の厚みを変化させる加工方法であり、しごき加工によって段差部を成形する場合には、その段差部が材料の塑性流動の抵抗となる。したがって、パンチの進行速度に材料流動が追従できない場合には、壁面のうちの段差部よりも先行した部分への材料の流入が不足して、ダイスと段差部との間で壁面が引きちぎられる可能性がある。このような壁面の破損を抑制するためには、パンチの進行速度、すなわち加工速度を低下させることになる。また、段差部をなだらかに形成させれば加工速度を向上させることができるものの、封口板を載置する載置面を開口端に平行に形成することができず、封口板を所期の形状に形成できない可能性がある。
【0008】
特許文献2に記載されている製造方法では、段差部に相当する位置をケース本体部の内壁面側から外側に向けて押圧し、その押圧した部分が外側に平行移動するように変形させることにより段差部を生じさせている。この場合、外側に変形させる部分を押圧するパンチと、その変形させる部分を外れた位置を支持するダイスとのクリアランス(ズレ量)を広く設定すると段差部が水平面(または底面)に対して傾斜するため、封口板を安定的に保持することができない可能性がある。また、特許文献2に記載されているように内壁面を押圧して段差部を形成する場合には、開口部側を向いた載置部と、押圧されて肉厚が減少した壁部との間には、所定の曲率半径のコーナー部が不可避的に成形される。したがって、封口板のエッジがほぼ直角に形成されている場合などには、封口板のエッジとコーナー部とが接触するなどにより、封口板を載置部に載置させることができず、封口板がガタつく可能性がある。一方、上記のコーナー部の曲率半径を小さくするために、パンチの先端の曲率半径を小さくすると、パンチとダイスとの間に挟まれた部分が剪断する可能性がある。
【0009】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、封口板を安定的に載置するための載置面を所期通りに形成することができる電池ケースおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の目的を達成するために、有底筒状に形成されたケース本体部と、前記ケース本体部における開口部を封止する封口板とを一体化させることにより、前記本体部の内部に電池の構成部材を収容する電池ケースにおいて、前記ケース本体部における内壁面に、前記封口板を載置する段差部を備え、前記段差部は、前記封口板が載置される載置面と、前記封口板が前記載置面に載置された場合に前記封口板の外端面に対向した対向面と、前記載置面から前記対向面に連なりかつ前記対向面よりも前記ケース本体部の外側に窪んだ角逃げ部とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明において、前記角逃げ部は、前記ケース本体部の外側に最も窪んだ位置から前記対向面に向けて前記ケース本体部の側壁面の板厚が次第に増加するように形成されていてよい。
【0012】
本発明において、前記角逃げ部は、前記ケース本体部の外側に最も窪んだ位置に連なった所定の曲率の第1曲面と、前記第1曲面から前記対向面に連なった傾斜面または前記第1曲面とは異なる他の曲率の第2曲面とにより構成されていてよい。
【0013】
また、本発明は、有底筒状に形成されたケース本体部の内壁面のうち、前記ケース本体部の開口部から所定の位置までの部分を押圧することにより、前記所定の位置に段差部を形成し、前記段差部に封口板を載置して前記ケース本体部と前記封口板とを一体化させることにより成形される電池ケースの製造方法において、前記内壁面のうちの前記所定の位置を所定の深さ窪ませることにより前記封口板が載置される載置面と角逃げ部を成形し、前記載置面および前記角逃げ部を成形した後に、前記内壁面のうちの前記角逃げ部よりも前記開口部側の板厚が前記開口部とは反対側の板厚よりも薄くなるように、前記角逃げ部よりも前記開口部側の壁面を押圧して前記段差部を成形することを特徴とする電池ケースの製造方法である。
【0014】
本発明において、前記角逃げ部は、前記開口部側の押圧された前記壁面よりも窪むように成形してよい。
【0015】
本発明において、前記ケース本体部の底面に平行な底面と、前記ケース本体部の内壁面に向けて突出した鋭角に形成された先端部とを備えたパンチによって、前記ケース本体部の内壁面を押圧することにより前記載置面および前記角逃げ部を成形してよい。
【0016】
本発明において、前記パンチにおける前記先端部は、所定の曲率の第1曲面に形成され、前記底面とは反対側の上面は、前記先端部から後退して形成されていてよい。
【0017】
本発明において、前記先端部から前記上面に連なる外壁面は、傾斜面または前記第1曲面とは異なる所定の曲率の第2曲面を有していてよい。
【0018】
本発明において、前記載置面および前記角逃げ部を成形する以前における前記ケース本体部の上端は、所望する高さよりも高く形成され、前記載置面および前記角逃げ部を成形する以前に、前記所望する高さ位置、または前記所望する高さよりも高い位置でトリミングしてよい。
【0019】
本発明において、前記段差部を成形した後に、前記ケース本体部の上端の高さが所望する高さとなるようにトリミングしてよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ケース本体部には、封口板が載置される載置面と、載置面に封口板を載置した場合に封口板の外端面に対向する対向面と、対向面よりもケース本体部の外側に窪んだ角逃げ部とを備えた段差部が形成されている。すなわち、開口部から載置面までの間に、コーナー部などのケース本体部の内側に突出した部分が形成されていない。したがって、ケース本体部の開口部から挿入される封口板が、載置面に到達する以前にケース本体部の内壁面と封口板の外縁部とが接触することを抑制でき、封口板を正規の位置に取り付けることができる。
【0021】
また、本発明によれば、ケース本体部の内壁面のうちの所定の位置に、その内壁面を窪ませることにより封口板を載置する載置面と角逃げ部とを成形し、その後に、角逃げ部よりも開口部側の内壁面を押圧して、その内壁面の板厚を薄くすることにより段差部を成形する。このように段差部を成形することにより、角逃げ部よりも開口部側の内壁面を押圧することによる材料の塑性流動が載置面側に生じることを抑制でき、または材料の塑性流動が角逃げ部によって吸収される。そのため、対向面を成形するために内壁面を押圧したとしても、載置面が初期通りの形状から変化することを抑制でき、その結果、封口板を安定的に保持することができる。
【0022】
さらに、角逃げ部を成形するためのパンチにおける先端部は、所定の曲率の第1曲面に形成され、その先端部から底面とは反対側の上面は、先端部から後退して形成されている。そのため、パンチによって角逃げ部が押圧されると、パンチの外壁面から作用する荷重の分力によって、材料の塑性流動が開口部側に生じやすくなる。したがって、載置面が初期通りの形状から変化することを抑制でき、その結果、封口板を安定的に保持することができる。
【0023】
またさらに、載置面や角逃げ部を成形する以前に、ケース本体部の上端をトリミングすることにより、載置面や角逃げ部を成形する時点、または対向面を成形する時点での材料の塑性流動を開口部側に生じやすくすることができる。したがって、載置面が初期通りの形状から変化することを抑制でき、その結果、封口板を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明で対象とすることができる電池ケースの一例を説明するための斜視図である。
図2】本発明の段差部の形状の一例を説明するための拡大断面図である。
図3】本発明の電池ケースの製造方法の一例を説明するための模式図である。
図4】対向面を成形する際にパンチによって側壁面を押圧する位置を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明における電池ケースの一例を説明するための斜視図を図1に示してある。図1に示す電池ケース1は、正極板、負極板、セパレータ、および電解質などの電池の構成部材を収容するためのものであって、有底筒状に形成されたケース本体部2と、ケース本体部2の開口部3を液密状に封止する板状の封口板4とにより構成されている。
【0026】
ケース本体部2は、例えば、アルミニウム合金などの金属材料により形成された板状部材を、絞り加工およびしごき加工することにより形成されている。ここに示す例では、ケース本体部2は、断面形状が矩形状に形成されているものの、本発明におけるケース本体部2は、断面形状を円形に形成されたものであってもよい。また、ケース本体部2は、開口部3の断面形状と、底面側の断面形状とが異なって形成されていてもよい。
【0027】
封口板4は、ケース本体部2と同様にアルミニウム合金などの金属材料によって構成されていて、ケース本体部2の開口部3の内方とほぼ同一に形成されている。すなわち、ケース本体部2の開口部3の内側に収容されるように形成されている。この封口板4は、板状のブランクをプレス加工するなどによって所定の形状に形成されている。なお、封口板4には、図示しない電極や集電体を取り付けるための貫通孔などが形成されていてよい。
【0028】
そして、上記のケース本体部2に電極や電解質などの内容物を収容した状態で、ケース本体部2の開口部3に封口板4を収容して位置決めし、その状態でケース本体部2の内周縁と封口板4の外周縁とをレーザー溶接によって一体化させるように構成されている。
【0029】
上記のようにレーザー溶接する際に封口板4がガタつくなどして不安定であると、ケース本体部2と封口板4との溶接不良が生じる可能性があり、または、レーザーがケース本体部2の内部に収容された電池の構成部材に至ってしまう可能性がある。そのため、封口板4をケース本体部2の内部に位置決めするために、封口板4を載置する段差部5が形成されている。言い換えると、ケース本体部2の内壁面には、開口部3の断面積が、底面の断面積よりも大きくなる箇所が形成されており、その断面積が変化する境界位置が段差部5となっている。その段差部5は、開口部3から封口板4の板厚分、底面側に形成されている。なお、図1に示す例では、短辺のみに段差部5を形成してあるが、長辺のみに段差部5を形成してもよく、あるいは内壁面の全周に亘って段差部5を形成してもよい。
【0030】
図2は、その段差部5の形状を説明するための拡大断面図であり、段差部5は、封口板4が載置される載置面6と、その載置面6よりも開口部3側の側壁面の内面であり、収容された封口板4の外周面に対向する内壁面(以下、対向面と記す)7と、載置面6と対向面7との境界位置に、対向面7よりもケース本体部2の外側に窪みかつ最もケース本体部2の外側に窪んだ位置から対向面7に向けてケース本体部2の板厚が次第に厚くなるように形成された角逃げ部8とにより構成されている。
【0031】
図2に示す角逃げ部8は、載置面6におけるケース本体部2の外側の端部(すなわち、ケース本体部2の外側に最も窪んだ位置)からケース本体部2の上方側(開口部3側)に向けて形成された所定の曲率半径のR部9と、そのR部9の終端から対向面7に向けて傾斜して形成された傾斜面10とにより構成されている。この角逃げ部8は、封口板4が載置面6に載置された状態で封口板4のエッジが干渉(接触)しない形状に構成されている。したがって、角逃げ部8は、図2に示す形状に限らず、例えば、載置面6から対向面7に向けてR部9を設けずに傾斜面10のみを形成したものであってもよく、それとは反対に、載置面6と対向面7とのR部9のみによって接続するように形成してもよい。
【0032】
上述したようにケース本体部2に角逃げ部8を形成することにより、載置面6と対向面7との間には、対向面7よりもケース本体部2の内側となるコーナー部が形成されない。すなわち、開口部3から載置面6までの間には、対向面7よりもケース本体部2の内側に突出した壁面が形成されない。そのため、ケース本体部2の開口部3側から挿入される封口板4が、載置面6に到達する以前にケース本体部2の内壁面とに接触することを抑制でき、封口板4を正規の位置に取り付けること、すなわち、封口板4を載置面6に載置することができる。また、封口板4のエッジがほぼ直角に形成されている場合であっても、そのエッジがケース本体部2の内壁面に接触することによる封口板4の傾きを抑制できる。言い換えると、封口板4の面取りなどの工数を低減することができる。さらに、封口板4を載置面6に載置することができることにより、すなわち、封口板4を所期の位置に位置決めできることにより、開口部3の上端と封口板4の外周端の上方側のエッジとの高さを揃えることができ、レーザー溶接不良が生じることを抑制できる。またさらに、封口板4を載置面6に載置することができることにより、段差部5の突出量、言い換えると、段差部5を挟んだ開口部3側の内壁面(対向面7)の板厚と、底面側の内壁面の板厚との差を小さくすることができ、段差部5を形成するために過剰に対向面7が薄く形成されることを抑制できる。すなわち、電池ケース1の剛性が低下することを抑制できる。
【0033】
つぎに、図1に示すケース本体部2を製造する方法について説明する。その製造方法の工程を説明するための模式図を図3に示してある。図3に示す例では、まず、ケース本体部2を成形するためのブランクから絞り加工やしごき加工を行って形成された有底筒状の部材の上端部をプレトリムしている。すなわち、絞り加工やしごき加工を行って形成された時点では、ケース本体部2の上端が、設計上定められた高さ(所望の高さ)よりも高く形成されている。したがって、このプレトリムは、角逃げ部8を成形するためや対向面7を成形するために、ケース本体部2の内壁面を後述するように押圧した場合の材料の塑性流動がケース本体部2の開口部3側に生じやすくするためのものであって、段差部を形成する位置から予め定められた所望の高さ以上の部分をトリミングする。
【0034】
図3(a)に示す例では、まず、所定の形状に成形されたケース本体部2を所定の深さまでサポート部材11に収容する。このサポート部材11は、ケース本体部2のうちの段差部5が形成される位置よりも下側の部分が収容される窪み(以下、収容部と記す)12を有する金型によって形成することができる。そのサポート部材11の上面には、トリミング用のダイス13が固定されている。このダイス13は、ケース本体部2をプレトリムする高さに形成されている。図3(a)に示す例では、サポート部材11の上面には、収容部12側の高さが低くなるように段差が形成されており、その段差に係合するようにダイス13の下面が突出して形成されている。したがって、ダイス13が、収容部12側から押圧された場合であっても、その荷重をサポート部材11によって受けることができ、ダイス13が移動することを抑制できる。
【0035】
また、ケース本体部2の内側には、鉛直方向に昇降可能な杵部材14と、杵部材14が昇降することにより水平に可動するパンチ15とが設けられている。すなわち、杵部材14とパンチ15とは、カム機構によって連結されている。図3(a)に示す例では、杵部材14の下端が先細るように下端側の外周面には傾斜面14aが形成され、その傾斜面14aに接触する傾斜面15aがパンチ15に形成されている。
【0036】
したがって、パンチ15の高さをプレトリムする高さに保持した状態で、杵部材14を下方側に移動させることにより、パンチ15がケース本体部2の内壁面側に移動し、そのパンチ15と上記のダイス13との剪断力がケース本体部2の側壁面16に作用して、ケース本体部2が所定の高さで切断される。
【0037】
ついで、ケース本体部2の内面に、載置面6と角逃げ部8とを形成する。具体的には、図3(b)に示すようにケース本体部2の側壁面16の上端までを支持できるダイス17をサポート部材11に取り付ける。そのダイス17とサポート部材11との取り付け方法は、上記図3(a)におけるダイス13とサポート部材11との取り付け方法と同一である。また、載置面6と角逃げ部8とを成形するためのパンチ18に変更する。
【0038】
載置面6と角逃げ部8とを成形するためのパンチ18は、そのケース本体部2を押圧する外壁面18aの形状が、角逃げ部8の形状に合わせて形成されている。すなわち、図2に示す角逃げ部8を形成する場合には、パンチ18の下面が水平に形成され、かつ外壁面18aのうちの下端部のエッジがR形状に形成され、さらにパンチ18の下端が先細るように上端側に向けて傾斜して形成されている。すなわち、パンチ18の上面は、R形状のエッジ(先端部)から後退して形成されている。なお、図3(a)に示す例と同様に杵部材14とパンチ18とがカム機構によって連結されている。
【0039】
また、側壁面16の板厚が2mmの場合には、パンチ18の先端のRは、0.5mm以下に設定して、傾斜面を形成することが好ましい。これは、パンチ18の先端が破損することを抑制するとともに、側壁面16に割れや破断が生じにくくするためである。
【0040】
したがって、杵部材14を下降させることによりパンチ18がケース本体部2の側壁面16側に移動して、パンチ18とダイス17との間にケース本体部2の側壁面16を挟み込むことにより、載置面6を水平に形成するとともに、角逃げ部8が形成される。その場合、上述したようにパンチ18の外壁面18aを傾斜面に形成することにより、ケース本体部2の側壁面16には、側壁面16を圧縮する荷重に加えて、パンチ18の傾斜面により押圧される荷重の鉛直方向成分の分力が作用する。その結果、側壁面16の材料の塑性流動は、鉛直方向における上側に生じやすくなると考えられ、載置面6が水平な状態に形成される。なお、パンチ18の移動量は、後述するパンチ20の移動量よりも大きくする。すなわち、次工程で成形される対向面7よりもケース本体部2の外側まで押圧するようにパンチ18の移動量が調整されている。また、ケース本体部2の内側に向いた角逃げ部8の開口部は、載置面7に封口板4を載置した場合に、その封口板4のエッジと接触しない程度の大きさであればよく、したがって、ケース本体部2の高さ方向において、封口板4の板厚よりも角逃げ部8の開口部の開口高さが小さくなるように形成されている。
【0041】
ついで、段差部5よりも鉛直方向における上側の箇所を押圧して、予め設定された開口面積となるように開口部3を成形する。言い換えると、対向面7を形成する。具体的には、図3(c)に示すようにケース本体部2の側壁面16の上端までを支持できるダイス19をサポート部材11に取り付ける。なお、ダイス19は、図3(b)に示すダイス17と共通のものを使用してもよい。そのダイス19とサポート部材11との取り付け方法は、上記図3(a)におけるダイス13とサポート部材11との取り付け方法と同一である。また、側壁面16を押圧して対向面7を成形するためのパンチ20に変更する。
【0042】
そのパンチ20は、そのケース本体部2を押圧する外壁面20aの形状が、側壁面16と平行に形成されている。また、パンチ20の下面20bは、図4に示すように鉛直方向における載置面6よりも上方側になるようにパンチ20が配置されている。なお、図3(a)に示す例と同様に杵部材14とパンチ20とがカム機構によって連結されている。
【0043】
したがって、杵部材14を下降させることによりパンチ20がケース本体部2の側壁面16側に移動して、パンチ20とダイス19との間にケース本体部2の側壁面16を挟み込むことにより、側壁面16の板厚が減少して対向面7が形成される。その場合、角逃げ部8が形成されていることにより、パンチ20とダイス19との間に挟まれた材料の塑性流動は、鉛直方向の上側に生じやすくなると考えられる。これは、鉛直方向における角逃げ部8が形成された箇所の断面積が、角逃げ部8よりも上方側の断面積よりも小さいことなどによるものと考えられる。また、万が一、塑性流動が下方側に生じたとしても、角逃げ部8の開口面積を減少する程度に留まり、載置面6の形状を変化させる程度までの塑性流動が生じない。つまり、角逃げ部8が、載置面6側に流動する材料を吸収する。そのため、角逃げ部8を形成した後に、対向面7を形成するように側壁面16を押圧することにより載置面6を水平な状態に保つことができる。
【0044】
そして、ケース本体部2の高さを正規の高さとするために、側壁面16の上端をトリミングする。具体的には、図3(d)に示すようにケース本体部2の側壁面16をトリミングする位置までを支持できるダイス21をサポート部材11に取り付ける。そのダイス21とサポート部材11との取り付け方法は、上記図3(a)におけるダイス13とサポート部材11との取り付け方法と同一である。また、側壁面16をトリミングするためのエッジが鋭角なパンチ22に変更する。なお、図3(a)に示す例と同様に杵部材14とパンチ22とがカム機構によって連結されている。
【0045】
したがって、パンチ22の高さをトリムミングする高さに保持した状態で、杵部材14を下方側に移動させることにより、パンチ22がケース本体部2の側壁面16側に移動し、そのパンチ22と上記のダイス21との剪断力がケース本体部2の側壁面16に作用して、ケース本体部2が所定の高さでトリミングされる。
【0046】
上述したように段差部5を成形する場合に、まず、角逃げ部8を成形し、その後に、載置面6となる箇所よりも開口部3側の側壁面16を押圧して板厚を減少させることにより、側壁面16を押圧することによる材料の塑性流動が載置面6に作用することを抑制できる。そのため、載置面6を初期通りの形状(ここでは、水平面)に形成することができる。また、角逃げ部8を成形する際におけるパンチ18の外壁面18aが、R部とそのR部から傾斜した傾斜面とにより構成されていることにより、角逃げ部8と同時に成形される載置面6側に材料が塑性流動することを抑制できるため、載置面6を初期通りの形状(ここでは、水平面)に形成することができる。さらに、角逃げ部8を成形する以前に、ケース本体部2の上端をプレトリムすることにより、角逃げ部8を成形するために側壁面16を押圧した時点での、ケース本体部2の上端側に向けた材料の塑性流動の抵抗を低下させることができるため、上記と同様に載置面6を初期通りの形状(ここでは、水平面)に形成することができる。したがって、上述したようにケース本体部2を成形することにより、封口板4を安定的に保持することができ、レーザー溶接不良が生じることを抑制できるとともに、レーザーがケース本体部2に収容された電池の構成部材に至ることを抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
1 電池ケース
2 ケース本体部
3 開口部
4 封口板
5 段差部
6 載置面
7 対向面
8 角逃げ部
9 R部
10 傾斜面
11 サポート部材
12 収容部
13,17,19,21 ダイス
14 杵部材
14a,15a 傾斜面
15,18,20,22 パンチ
16 側壁面
18a,20a 外壁面
20b 下面
図1
図2
図3
図4