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特許7444669微細セルロース繊維を含む複合粒子、及び複合粒子を含む樹脂組成物
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  • 特許-微細セルロース繊維を含む複合粒子、及び複合粒子を含む樹脂組成物 図1
  • 特許-微細セルロース繊維を含む複合粒子、及び複合粒子を含む樹脂組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維を含む複合粒子、及び複合粒子を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20240228BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 1/12 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 5/3432 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08L1/00
C08K5/20
C08L1/12
C08K5/3432
C08L101/00
C08K7/02
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020054337
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155491
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】河原 一文
(72)【発明者】
【氏名】小澤 亮介
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163873(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221029(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/050286(WO,A1)
【文献】特開2015-168914(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107446144(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
D21B 1/00-1/38
D21H 11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、アミド化合物とを含む複合粒子であって、
前記微細セルロース繊維の繊維径が2nm以上1000nm未満であり、
前記アミド化合物の数平均分子量が、10000以下であり、
前記複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100が、20mPa・s以上である、複合粒子。
【請求項2】
液体分率が30質量%以下である、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記スラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100と25℃及び剪断速度30秒-1における粘度η30との差が20mPa・s以上である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記スラリーが、25℃及び剪断速度30秒-1以下において粘度ヒステリシスを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記微細セルロース繊維が、化学修飾された微細セルロース繊維である、請求項1~のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項6】
前記化学修飾が、エステル化である、請求項に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記エステル化が、アセチル化である、請求項に記載の複合粒子。
【請求項8】
前記微細セルロース繊維が、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比6以下を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項9】
前記微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項10】
前記微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類含有率が、12質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項11】
前記アミド化合物が、アミド結合を分子骨格中に有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項12】
前記アミド化合物が、25℃の水100gに対して1g以上溶解する、請求項1~11のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項13】
前記アミド化合物の23℃、60%RHでの吸湿率が10%以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項14】
前記アミド化合物の黄色度と、前記アミド化合物を190℃にて窒素雰囲気下で4時間加熱した後の黄色度との差ΔYIが、30以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項15】
前記アミド化合物の融点が300℃以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項16】
前記アミド化合物が、環状アミドである、請求項1~15のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項17】
前記アミド化合物が、カプロラクタムである、請求項1~16のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項18】
前記複合粒子のメジアン粒径が、1μm~5000μmである、請求項1~17のいずれか一項に記載の複合粒子。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法であって、
微細セルロース繊維のスラリーを調製することと、
前記スラリーと、前記アミド化合物とを混合し、次いで乾燥させることと、
を含む、方法。
【請求項20】
微細セルロース繊維と、アミド化合物とを含む複合粒子の分散体であって、
前記微細セルロース繊維の繊維径が2nm以上1000nm未満であり、
前記アミド化合物の数平均分子量が、10000以下であり、
前記複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100が、20mPa・s以上である、複合粒子分散体。
【請求項21】
前記アミド化合物が、カプロラクタムである、請求項20に記載の複合粒子分散体。
【請求項22】
水を含む、請求項20又は21に記載の複合粒子分散体。
【請求項23】
請求項2022のいずれか一項に記載の複合粒子分散体の製造方法であって、
微細セルロース繊維のスラリーを調製することと、
前記スラリーと、前記アミド化合物とを混合することと、
を含む、方法。
【請求項24】
請求項1~18のいずれか一項に記載の複合粒子と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項25】
微細セルロース繊維と、アミド化合物と、樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
請求項1~18のいずれか一項に記載の複合粒子と、樹脂とを混合することを含む、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の樹脂組成物より形成される、樹脂ペレット。
【請求項27】
請求項24に記載の樹脂組成物より形成される、樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維を含む複合粒子、及び当該複合粒子を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電化製品等の分野において、製品軽量化のために部品を金属から樹脂へ代替することが積極的になされている。このような用途において、樹脂単体では機械特性及び寸法安定性が不十分であることが多く、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の各種無機材料がフィラーとして添加されるのが一般的である。しかし、これらのフィラーは比重が大きいため、樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。
【0003】
これに対しセルロースは、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数とを有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的なフィラーとして使用されるガラス(密度2.4~2.6g/cm3)及びタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。そして、天然資源として地球上に大量に存在し、かつ、カーボンニュートラルの観点から、環境調和型の樹脂強化用フィラーとして期待されている。中でも、近年、セルロース繊維を高レベルで叩解及び粉砕して、繊維径1μm以下まで微細化(フィブリル化)させたセルロースナノファイバーがフィラーとして注目を浴びている。
【0004】
セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物において、マトリックスを形成する樹脂は疎水性である場合が多い一方、セルロース繊維は親水性であるため、マトリックス樹脂中でセルロース繊維を均一に分散させ、マトリックス樹脂とセルロース繊維との界面の親和性を向上させるための試みが種々行われてきた。
【0005】
特許文献1は、セルロース、リグノセルロース、化学修飾セルロース、化学修飾リグノセルロース、キチン、キトサン等の多糖類のナノファイバーと、分散媒と、モノマーとを含む分散体、並びに、当該多糖類のナノファイバーと分散媒との混合物にモノマーを混合した後、当該モノマーを重合させて樹脂を形成させることを含む、樹脂組成物の製造方法を記載する。
【0006】
特許文献2は、ラクタム類をアルカリ触媒および開始剤の存在下で重合するに際し、寸法のいずれかが1μm以下である固体充填剤を該ラクタム類において分散配合させた状態で重合することを特徴とするポリアミド複合材料の製造方法を記載し、固体充填剤として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びセルロースナノファイバーを例示する。
【0007】
特許文献3は、セルロースナノファイバー(CNF)分散液にカルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子を5~300重量%を添加した状態で乾燥させたCNF乾燥固形物を例示する。
【0008】
特許文献4は、セルロース粒子と、前記セルロース粒子の表面の少なくとも一部を被覆する界面活性剤とを含むセルロース製剤を例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/129693号
【文献】特開2018-162363号公報
【文献】特開2017-8176号公報
【文献】特開2018-109138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載される技術は、フィラーを樹脂モノマー中に分散させた後、当該樹脂モノマーを重合させるものであり、樹脂組成物中でフィラーをある程度は均一に分散させることができると考えられる。しかし、特に微細セルロース繊維は、セルロース分子の高い親水性の影響によって、一旦乾燥されると媒体中に高度かつ均一に分散させることが困難であり、特許文献1及び2に記載される技術でもなお、フィラーの分散均一性は十分ではない。特許文献3及び4に記載される技術は、水溶性高分子又は界面活性剤を含むセルロースナノファイバースラリーを乾燥させることで、樹脂組成物中でもセルロースナノファイバーが均一に分散する微細セルロース繊維乾燥体を得るものである。しかし、これらの技術でもなお、フィラーの分散均一性は十分ではない。
【0011】
微細セルロース繊維の分散が不均一である樹脂組成物の機械的特性及び熱寸法安定性は、同等量の微細セルロース繊維が均一に分散した樹脂組成物と比較して劣る。加えて、微細セルロース繊維が樹脂組成物中で十分に分散せずに凝集物を形成すると、樹脂組成物から得られた成形体において、凝集物を起点とする破壊が生じやすい(すなわち凝集物近傍が強度欠陥となる)。微細セルロース繊維をフィラーとして用いた樹脂組成物においては、機械的特性、熱寸法安定性等の更なる向上が求められているところ、そのような高い要求特性を満足する微細セルロース繊維含有樹脂組成物は未だ提供されていない。
【0012】
本発明は上記の課題を解決し、一態様において、微細セルロース繊維が乾燥状態からであっても樹脂中に均一に分散できることで、機械的特性及び熱寸法安定性等に優れる樹脂組成物を与えることができる、微細セルロース繊維含有複合粒子、及び当該複合粒子を含む樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 微細セルロース繊維と、アミド化合物とを含む複合粒子であって、
前記複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100が、20mPa・s以上である、複合粒子。
[2] 液体分率が30質量%以下である、上記態様1に記載の複合粒子。
[3] 前記スラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100と25℃及び剪断速度30秒-1における粘度η30との差が20mPa・s以上である、上記態様1又は2に記載の複合粒子。
[4] 前記スラリーが、25℃及び剪断速度30秒-1以下において粘度ヒステリシスを示す、上記態様1~3のいずれかに記載の複合粒子。
[5] 前記微細セルロース繊維の繊維径が2nm以上1000nm未満である、上記態様1~4のいずれかに記載の複合粒子。
[6] 前記微細セルロース繊維が、化学修飾された微細セルロース繊維である、上記態様1~5のいずれかに記載の複合粒子。
[7] 前記化学修飾が、エステル化である、上記態様6に記載の複合粒子。
[8] 前記エステル化が、アセチル化である、上記態様7に記載の複合粒子。
[9] 前記微細セルロース繊維が、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比6以下を有する、上記態様1~8のいずれかに記載の複合粒子。
[10] 前記微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、上記態様1~9のいずれかに記載の複合粒子。
[11] 前記微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類含有率が、12質量%以下である、上記態様1~10のいずれかに記載の複合粒子。
[12] 前記アミド化合物が、アミド結合を分子骨格中に有する、上記態様1~11のいずれかに記載の複合粒子。
[13] 前記アミド化合物が、25℃の水100gに対して1g以上溶解する、上記態様1~12のいずれかに記載の複合粒子。
[14] 前記アミド化合物の23℃、60%RHでの吸湿率が10%以上である、上記態様1~13のいずれかに記載の複合粒子。
[15] 前記アミド化合物の黄色度と、前記アミド化合物を190℃にて窒素雰囲気下で4時間加熱した後の黄色度との差ΔYIが、30以下である、上記態様1~14のいずれかに記載の複合粒子。
[16] 前記アミド化合物の融点が300℃以下である、上記態様1~15のいずれかに記載の複合粒子。
[17] 前記アミド化合物が、環状アミドである、上記態様1~16のいずれかに記載の複合粒子。
[18] 前記アミド化合物が、カプロラクタムである、上記態様1~17のいずれかに記載の複合粒子。
[19] 前記複合粒子のメジアン粒径が、1μm~5000μmである、上記態様1~18のいずれかに記載の複合粒子。
[20] 上記態様1~19のいずれかに記載の複合粒子の製造方法であって、
微細セルロース繊維のスラリーを調製することと、
前記スラリーと、前記アミド化合物とを混合し、次いで乾燥させることと、
を含む、方法。
[21] 上記態様1~19のいずれかに記載の複合粒子と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
[22] 微細セルロース繊維と、アミド化合物と、樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
上記態様1~19のいずれかに記載の複合粒子と、樹脂とを混合することを含む、方法。
[23] 上記態様21に記載の樹脂組成物より形成される、樹脂ペレット。
[24] 上記態様21に記載の樹脂組成物より形成される、樹脂成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、微細セルロース繊維が乾燥状態からであっても樹脂中に均一に分散できることで、機械的特性及び熱寸法安定性に優れる樹脂組成物を与えることができる、微細セルロース繊維含有複合粒子、及び当該複合粒子を含む樹脂組成物が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】粘度ヒステリシス及び最大粘度差(Δηmax)の測定法の説明図である。
図2】IRインデックス1730及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。
図3】熱分解開始温度(TD)及び1%重量減少温度(T1%)の測定法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0017】
≪複合粒子≫
本発明の一態様は、微細セルロース繊維と、アミド結合を有する化合物(アミド化合物、ともいう)とを含む複合粒子を提供する。アミド化合物は、微細セルロース繊維に対して分散剤として機能できる。本発明者らは、アミド化合物が、微細セルロース繊維を樹脂中に分散させる際に、微細セルロース繊維の分散性を顕著に向上させ得ることを見出した。微細セルロース繊維は、一旦乾燥されると、セルロース分子同士が水素結合によって極めて強固に相互作用してしまい、流体中で再び分散させようとしても均一な分散が困難である。流体が、樹脂モノマー、溶融樹脂等の疎水性流体である場合には、微細セルロース繊維の分散が特に困難である。しかし、微細セルロース繊維と、アミド化合物とを含む本開示の複合粒子によれば、一旦乾燥された微細セルロース繊維を流体中に分散させた場合であっても、微細セルロース繊維の極めて良好な分散が可能になる。その理由は定かではないが、アミド結合の微細セルロース繊維との相互作用(例えば、アミド結合と、セルロース分子中の水酸基との水素結合)が適切な程度であることによって、アミド化合物が微細セルロース繊維の凝集を極めて良好に防止して当該微細セルロース繊維の分散性を向上させるものと推測される。
【0018】
複合粒子の液体分率は、好ましい一態様において、30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下、又は8質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下、又は1質量%以下である。液体分率は低い程望ましいが、複合粒子の製造容易性の観点から、例えば、0.01質量%以上、又は0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってもよい。液体分率は、加熱乾燥式水分計(株式会社エー・アンド・デイ、MX-50)を用いてサンプルを150℃で加熱した時に測定される値である。
【0019】
複合粒子に含まれる液体としては、特に限定はされないが、例えば水、又は、有機溶媒を挙げることができる。有機溶媒としては水に1g/L以上溶解できる水溶性有機溶媒が好ましい。具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;エチレングリコ―ル、プロピレングリコール等の炭素数2~6のアルキレングリコール;直鎖又は分岐状の炭素数1~6の飽和又は不飽和の炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;DMSO、DMF、DMAc、NMP等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、複合粒子製造の操作性の観点から、水、炭素数1~6のアルコール、炭素数3~6のケトン、炭素数2~6のアルキレングリコール、DMSO、DMF、DMAc、NMP等が好ましい。
【0020】
一態様において、複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100(本開示で、単に「粘度η100」ともいう。)は、20mPa・s以上であり、好ましくは25mPa・s以上、より好ましくは30mPa・s以上、更に好ましくは40mPa・s以上である。粘度η100が20mPa・s以上の複合粒子を用いて樹脂組成物を作製した場合、微細セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性が良好で、機械強度及び寸法安定性を向上させることができ有利である。一方、水中での分散性に優れるほど粘度η100は上昇するため粘度η100の上限は特にない。粘度η100が高いほど樹脂組成物中での微細セルロース繊維の分散性が向上し、良好な機械強度向上及び寸法安定性向上を達成できる。一態様において、複合粒子の製造容易性の観点から、粘度η100の上限は、1000mPa・s以下、又は500mPa・s以下、又は200mPa・s以下、又は150mPa・s以下、又は100mPa・s以下であってよい。
【0021】
一態様において、複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーの、25℃における、剪断速度100秒-1での粘度η100に対する剪断速度30秒-1での粘度η30の比η30/η100(本開示で、チキソトロピーインデックス(TI)ともいう。)は1超である。TIは、好ましくは、2以上、又は3以上、又は5以上、又は7以上である。本来的に、微細セルロース繊維が十分に分散した分散液は、剪断速度が大きくなるほど低粘度化する構造粘性を有している。TIが上記範囲であることは、分散液における微細セルロース繊維の分散性が良好であることを表し、このような複合粒子を用いて樹脂組成物を作製した場合、樹脂組成物中の微細セルロース繊維の分散性も良好であり、機械強度向上及び寸法安定性向上において有利である。TIは、微細セルロース繊維の分散性の観点では大きい方が好ましいが、複合粒子の製造容易性の観点から、例えば、50以下、又は40以下、又は30以下であってよい。
【0022】
一態様においては、複合粒子を微細セルロース繊維濃度0.5質量%にて水に分散させてなるスラリーが、25℃及び剪断速度30秒-1以下において粘度ヒステリシスを示す。ここで、25℃及び剪断速度30秒-1以下において粘度ヒステリシスを示すとは、レオメーターにて二重円筒ジオメトリで剪断速度を、100秒かけて1秒-1から100秒-1まで上昇させた後、100秒かけて1秒-1まで下降させるサイクルを3回行った際の3回目のサイクルにおいて、剪断速度30秒-1以下の領域で剪断速度上昇時と下降時で粘度差が存在し、その最大粘度差(Δηmax)が5mPa・s以上であることをいう(図1参照)。粘度ヒステリシスは微細セルロース繊維のフィブリルの発達度合と相関し、ヒステリシスが大きいほどフィブリルの発達に優れ、樹脂組成物中での微細セルロース繊維によるネットワークの形成度合も優れる。その結果、樹脂組成物の機械強度及び寸法安定性は良好となる。最大粘度差Δηmaxは、好ましくは、10mPa・s以上、又は、15mPa・s以上、又は、20mPa・s以上、又は、30mPa・s以上である。最大粘度差Δηmaxは、樹脂組成物の物性の観点で大きい方が好ましいが、複合粒子の製造容易性の観点から、例えば、200mPa・s以下、又は150mPa・s以下、又は100mPa・s以下であってよい。
【0023】
スラリーの、25℃及び剪断速度100秒-1における粘度η100と25℃及び剪断速度30秒-1における粘度η30との差(Δη30-100)は、良好な粘度ヒステリシスを得る観点から、好ましくは、20mPa・s以上、又は25mPa・s以上、又は30mPa・s以上であり、複合粒子の製造容易性の観点から、例えば、100mPa・s以下、又は80mPa・s以下、又は50mPa・s以下であってよい。
【0024】
本開示の粘度(η30及びη100)の測定は、まず微細セルロース繊維が0.5質量%となるように所定量の複合粒子を水中に添加し、複合粒子を含む水スラリー20mlを調製する。分散条件は以下のとおりとする。すなわち、複合粒子に蒸留水を少しずつ添加しながら乳鉢で複合粒子を軽くほぐす。最終的に、30ml容量のガラスバイアルに20g微細セルロース繊維が0.5質量%になるよう、複合粒子に蒸留水を添加して試験用分散液20gを調製する。得られた試験用分散液20gは、ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」、回転数10000rpm、5分間)で分散させる。液温が25℃であることを確認した後、撹拌中のスラリーを一部分取し、レオメーターにて二重円筒ジオメトリで粘度測定を直ちに行う。なお装置は事前に25℃に温調する。測定条件としては、剪断速度を、100秒かけて1秒-1から100秒-1まで上昇させた後、100秒かけて1秒-1まで下降させるサイクルを3回繰り返し、1秒毎に粘度データを取得する。そして、3回目の上昇の際の剪断速度R秒-1の時の粘度をηRとする(例えば10秒-1の時はη10と表記する。)。
【0025】
本開示で、複合粒子のメジアン粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置又は画像解析式粒度分布測定装置で測定される値である。本開示のメジアン粒径の数値は、これら装置の少なくとも一方で得られる数値が当該数値であることを意図する。メジアン粒径の下限は1μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、特に好ましくは10μm以上である。また、上限は5000μm以下が好ましく、より好ましくは3000μm以下、さらに好ましくは1000μm以下、特に好ましくは500μm以下である。メジアン粒径が1μm以上の場合、一次粒子の二次凝集を防ぐために、製造において特殊な手法を用いる必要が少なく、製造プロセス及びコストの観点で好ましい。一方、メジアン粒径が5000μm以下の場合、押出機等を用いた樹脂組成物製造において複合粒子と、樹脂組成物中の樹脂(すなわちベース樹脂)との混練が安定し、結果として微細セルロース繊維の樹脂組成物中での分散性が良好になり好ましい。
【0026】
以下、複合粒子の各成分の例示の態様を説明する。
【0027】
<微細セルロース繊維>
微細セルロース繊維は、天然セルロース及び再生セルロースから選ばれる各種セルロース繊維原料から得られるものであってよい。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。これらの原料は、必要に応じて、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、薬品を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
【0028】
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル等の無機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化処理パルプ等をセルロース繊維原料として使用できる。
【0029】
微細セルロース繊維の数平均繊維径は、一態様において2nm以上であり、好ましくは4nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。一方、上限は、一態様において1000nm未満であり、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。数平均繊維径が2nm以上であると、セルロースの結晶性が良好に保持され好ましい。数平均繊維径が1000nm未満であると、樹脂組成物のフィラーとして用いたときの性能向上効果が良好である。
【0030】
微細セルロース繊維の数平均繊維長/数平均繊維径(L/D)は、微細セルロース繊維を含む樹脂組成物の機械的特性を少量の微細セルロース繊維で良好に向上させる観点から、好ましくは、50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。
【0031】
微細セルロース繊維は、一態様において、パルプ等をビーター、リファイナー等の機械力による叩解及びフィブリル化をしたのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊した微細なセルロースである。
【0032】
一態様において、微細セルロース繊維を得る方法としては、セルロース繊維原料を微細化処理する方法を例示できる。微細化処理は公知の微細化処理方法により実施することができる。例えば、数平均繊維径が1μm以上の繊維から数平均繊維径1000nm未満(例えば2nm以上1000nm未満)の微細セルロース繊維を得る場合は、水又は有機溶媒中で、例えば、マスコロイダー等の磨砕機、又は高圧ホモジナイザーを用いた処理を行うことで微細化を行うことができる。
【0033】
微細化処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;DMSO、DMF、DMAc、NMP、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、炭素数1~6のアルコール、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、DMSO、DMF、DMAc、NMP、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、トルエン等が好ましい。
微細化処理における水又は有機溶媒の使用量は、微細化前の繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、微細化前の繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上、さらに好ましくは50質量倍以上であり、好ましくは2000質量倍以下、より好ましくは1000質量倍以下である。
【0034】
また、微細化処理で使用する装置としては、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、リファイナー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ホモミキサー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、単軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。微細セルロース繊維は、液体媒体中の分散体、又は乾燥体の形態で回収できる。分散体中の液体媒体は、水に加えて、任意に1種単独又は2種以上の組合せで他の液体媒体(例えば上記で例示した有機溶媒の1種以上)を更に含み得る。
【0035】
本開示で、微細セルロース繊維の数平均繊維径、数平均繊維長及びL/D比は、微細セルロース繊維の水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、親水性基板(例えば、マイカ)上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。微細セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0036】
典型的な態様において、微細セルロース繊維の結晶構造は、セルロースI型及び/又はII型を有する。セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型等が知られている。I型及びII型のセルロースは汎用されている一方、III型及びIV型のセルロースは実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。
【0037】
結晶構造は、グラファイトで単色化したCuKα(λ=0.15418nm)を用いた広角X線回折より得られる回折プロファイルより同定することが可能である。セルロースI型は2θ=14~17°付近と2θ=22~23°付近の2箇所の位置にピークを有する。セルロースII型は2θ=10°~19°に1つのピークと、2θ=19°~25°に2つのピークとを有する。セルロースI型及びセルロースII型が混在する場合、2θ=10°~25°の範囲で最大6本のピークが観測される。
【0038】
本実施形態の微細セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは50%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、微細セルロース繊維の力学物性(特に強度及び寸法安定性)が高まるため、微細セルロース繊維を樹脂に分散してなる樹脂組成物の強度及び寸法安定性が高くなる傾向にある。本実施形態の微細セルロース繊維の結晶化度は、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%であり、最も好ましくは70%である。微細セルロース繊維の結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。
【0039】
結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
【0040】
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0041】
また結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%)=h1/h0×100
【0042】
微細セルロース繊維の重合度(DP)は、100以上12000以下であることが好ましい。重合度はセルロース分子鎖を形成する無水グルコース単位の繰返し数である。セルロース繊維の重合度が100以上であることで、繊維自体の引張破断強度及び弾性率が向上し、微細セルロース繊維を含む樹脂組成物の高い引張破断強度及び熱安定性が発現するため好ましい。セルロース繊維の重合度に特に上限はないが、12000を超える重合度のセルロースは実質的に入手が困難であり、工業的な利用が難しい傾向がある。取扱性及び工業的実施の観点から、微細セルロース繊維の重合度は、150~8000が好ましい。重合度は、まず、銅エチレンジアミン溶液を用いたセルロース希薄溶液の極限粘度(JIS P 8215:1998)を求めた後、セルロースの極限粘度と重合度DPとが下記式の関係であることを利用して、重合度DPとして求められる。
極限粘度[η]=K×DPa
ここでK及びaは高分子の種類によって決まる定数であり、セルロースの場合、Kは5.7×10-3、aは1である。
【0043】
微細セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100000以上であり、より好ましくは200000以上である。微細セルロース繊維の重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、微細セルロース繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいのみでなく重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合、特に高耐熱性の微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0044】
ここで、微細セルロース繊維の重量平均分子量及び数平均分子量とは、微細セルロース繊維を塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0045】
本実施形態の微細セルロース繊維はリグニン等を含む酸不溶成分及び/又はヘミセルロース等を含むアルカリ可溶多糖類を含んでいても良い。酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の含有量は微細セルロース繊維の耐熱性及び樹脂組成物中の分散性に影響を及ぼすため、目的に応じて調整すれば良い。一般的に酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の含有量が多いと、微細セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色、セルロース繊維の力学的特性の低下等を誘起する。したがって、例えば、ポリアミド樹脂のような高温で溶融混練する樹脂を用いて樹脂組成物を製造する場合、微細セルロース繊維中の酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の平均含有率は少ない方が好ましい場合がある。
【0046】
微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、さらにより好ましくは6質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。酸不溶成分平均含有率は、0質量%であってよいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0047】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0048】
微細セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下、特に好ましくは8質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。アルカリ可溶多糖類平均含有率は、0質量%であってよいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1質量%以上、又は3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
【0049】
本開示におけるアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0050】
アルカリ可溶多糖類含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0051】
微細セルロース繊維は、修飾化剤によって化学修飾された化学修飾微細セルロース繊維であっても良い。複合粒子中の化学修飾微細セルロース繊維は、水素結合による凝集が無修飾の微細セルロース繊維に比べて抑制されている。よって、複合粒子を樹脂組成物中に混合した際に、化学修飾微細セルロース繊維が樹脂中で均一に分散され、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れた、化学修飾微細繊維を含む繊維強化樹脂組成物を得ることができる。
微細セルロース繊維の修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、シリル化剤、及びイソシアネート等が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、セルロースの水酸基と反応してアシル基を生成する化合物、例えば、カルボン酸ハロゲン化物、酸無水物(すなわちカルボン酸無水物)、カルボン酸ビニルエステル又はカルボン酸から選択される化合物を使用できる。好ましい一態様において、エステル化はアセチル化である。上記のカルボン酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルの各々を構成するカルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和(モノ不飽和、ジ不飽和、トリ不飽和、テトラ不飽和、ペンタ不飽和、ヘキサ不飽和等)脂肪酸、芳香族カルボン酸、アミノ酸、イミド化合物等を例示できる。カルボン酸は、単塩基酸でも多塩基酸でもよい。カルボン酸が低級(例えば炭素数1~24)のアルカノイルオキシ基を有することが、エステル化微細セルロース繊維の製造容易性の点で好ましい。
【0052】
飽和脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸等が好ましい。飽和脂肪酸としては、分岐鎖アルキルカルボン酸(例えば、3,5,5-トリメチルヘキサン酸等)、環式アルカンカルボン酸(シクロヘキサンカルボン酸、t-ブチルシクロヘキサンカルボン酸等)及び、置換若しくは非置換フェノキシアルキルカルボン酸(フェノキシ酢酸、1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシヘキサン酸等)も挙げられる。
【0053】
モノ不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等が挙げられる。
ジ不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等が挙げられる。
トリ不飽和脂肪酸としては、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等が挙げられる。
テトラ不飽和脂肪酸としては、ステアリドン酸及びアラキドン酸等が挙げられる。
ペンタ不飽和脂肪酸としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられる。
ヘキサ不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が挙げられる。
【0054】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3-フェニルプロパ-2-エン酸)等が挙げられる。
多塩基カルボン酸としては、ジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等、が挙げられる。
【0055】
アミノ酸としては、グリシン、β-アラニン、ε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)等が挙げられる。
【0056】
イミド化合物としては、
マレイミド化合物:
【化1】
【0057】
フタルイミド化合物:
【化2】
【0058】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を例示できる。
【0059】
カルボン酸ハロゲン化物の好適例としては、下記式:
1-C(=O)-X
(式中、R1は、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、Xは、Cl、Br又はIである。)
で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0060】
カルボン酸ハロゲン化物の好適例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、カルボン酸クロリドは反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0061】
酸無水物の好適例としては、酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸の無水物;シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸の無水物;安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸の無水物;二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸;無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等、多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。反応効率の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、及び無水酪酸が好ましく、無水酢酸が特に好ましい。
【0062】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式:
R-COO-CH=CH2
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0063】
カルボン酸ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0064】
これらカルボン酸ビニルエステルの中でも、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニルからなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0065】
カルボン酸としては、下記式:
R-COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0066】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0067】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
【0068】
反応系全体に対するエステル化剤の質量比率の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上である。0.1質量%以上であるとエステル化剤量が少なすぎず、反応性が良好であり好ましい。一方、上記質量比率の上限は、好ましくは80質量%未満、より好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは30質量%未満である。80質量%未満であると高DSセルロースの溶出が抑えられるため、好ましい。
【0069】
一態様において、反応促進の観点から、反応媒体は触媒をさらに含んでもよい。例えば、カルボン酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として作用させると同時に、副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物が挙げられるが、これに限定されない。
【0070】
酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、リン酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0071】
カルボン酸ビニルエステルの反応においては、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0072】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0073】
1~3級アミン(すなわち、1級アミン、2級アミン、及び3級アミン)としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0074】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0075】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0076】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0077】
カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、リン酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)を1種又は2種以上添加してもよい。
【0078】
エステル化は、撹拌下で行うことが好ましい。撹拌の方法は特に限定されないが、各種撹拌機(せん断式、摩擦式、高圧ジェット式、超音波式等のもの)、溶解機、乳化機、分散機、混錬機、ホモジナイザー等を用いて実施することができる。反応終了後のエステル化微細セルロース繊維は、必要に応じて濃縮、洗浄等を経て、分散体又は乾燥体として回収できる。
【0079】
本実施形態の化学修飾された微細セルロース繊維(化学修飾微細セルロース繊維ともいう)の修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾微細セルロース繊維のDSは0.01以上2.0以下が好ましい。DSが0.01以上であれば、熱分解開始温度が高い化学修飾微細セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。一方、2.0以下であると、化学修飾微細セルロース中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた化学修飾微細セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。DSはより好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.3以上であって、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。
【0080】
エステル化微細セルロース繊維の上記アシル置換度(DS)は、エステル化微細セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図2参照)。エステル化微細セルロース繊維のDSは、後述するエステル化微細セルロース繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0081】
固体NMRによるエステル化微細セルロース繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化微細セルロース繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
例えば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0082】
エステル化微細セルロース繊維において、繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は1.05以上が好ましい。DS不均一比は値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂組成物の製造時の樹脂との親和性の向上、樹脂組成物の寸法安定性の向上につながる。DS不均一比はより好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.5以上、最も好ましくは2.0以上であり、エステル化微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。
【0083】
DSsの値は、エステル化微細セルロース繊維の修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0084】
エステル化微細セルロース繊維においては、DS不均一比の変動係数(CV)が小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。
【0085】
DS不均一比の変動係数(CV)は、エステル化微細セルロース繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDS及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)より変動係数を算出する。
DS不均一比 = DSs/DS
変動係数(%)= 標準偏差σ / 算術平均μ × 100
【0086】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化微細セルロース繊維をφ2.5mmの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
例えば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0087】
微細セルロース繊維は、水を用いてろ過や遠心分離によって洗浄、濃縮され、最終的に水スラリー又は乾燥体として複合粒子製造に供することができる。
【0088】
微細セルロース繊維の熱分解開始温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において250℃以上であり、好ましくは265℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは275℃以上、特に好ましくは280℃以上、最も好ましくは285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0089】
微細セルロース繊維の1%重量減温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において250℃以上であり、好ましくは265℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは275℃以上、特に好ましくは280℃以上、最も好ましくは285℃以上である。1%重量減少温度は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0090】
微細セルロース繊維の250℃重量変化率(T250)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において-10%以上であり、好ましくは-5%以上、より好ましくは-4%以上、さらに好ましくは-3%以上、特に好ましくは-2%以上、最も好ましくは-1%以上である。250℃重量変化率(T250)はゼロに近いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、-0.1%以下、又は-0.5%以下であってもよい。
【0091】
本開示で、TDとは、図3の説明図に示すように、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である(尚、図3(B)は図3(A)の拡大図である。)。微細セルロース繊維の150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
【0092】
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
【0093】
樹脂組成物中の微細セルロース繊維の250℃重量変化率(T250℃)は、TG分析において、微細セルロース繊維を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量変化率である。
【0094】
<アミド化合物>
アミド化合物は、分子中にアミド結合(-C(=O)NH-結合)を1つ以上有する化合物である。アミド結合はペプチド結合であってもよい。アミド化合物の分子中のアミド結合の数は、1以上、又は2以上、又は3以上であってよく、アミド化合物を微細セルロース繊維近傍に存在し易くする点で、好ましくは、100以下、又は50以下、又は30以下、又は10以下である。
【0095】
本開示のアミド化合物は、低分子量化合物である点、具体的には、数平均分子量が10000以下である点で、一般的なポリマーとは区別される。
【0096】
アミド化合物の分子量は、化学的安定性の観点から、好ましくは、50以上、又は60以上、又は70以上であり、微細セルロース繊維間に入り込み易く微細セルロース繊維の分散性向上効果に優れる点で、一態様において10000以下であり、好ましくは、9000以下、又は8000以下、又は7000以下、又は6000以下、又は5000以下、又は4000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。上記分子量は、アミド化合物が構造規定された低分子化合物である場合には化学式より計算で算出し、重合体である場合は、水に溶解させた上で、水を溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるプルラン換算で算出される値である。
【0097】
アミド化合物は、脂肪族若しくは芳香族又はこれらの組合せのアミドであってよい。アミド化合物は、微細セルロース繊維の分散性向上効果が良好である点で、アミド結合を分子骨格中(すなわち、側鎖でない部位)に有することが好ましい。例えば、脂肪族若しくは芳香族又はこれらの組合せの炭化水素鎖の鎖中又は分子末端にアミド結合が組み込まれている構造を有する化合物が好ましい。炭化水素鎖の炭素数は、アミド化合物の化学的安定性が良好である点で、好ましくは、2以上、又は3以上、又は4以上であり、微細セルロース繊維間に入り込み易く微細セルロース繊維の分散性向上効果に優れる点で、好ましくは24以下、又は18以下、又は12以下である。
【0098】
一態様において、アミド化合物は、微細セルロース繊維間に入り込み易く微細セルロース繊維の分散性向上効果に優れる点で、繰り返し単位を有さない化合物、又は、繰り返し単位を有しかつ繰り返し数が2~100である化合物(すなわち、オリゴマー、又は繰り返し数が少ないポリマー)である。上記繰り返し数は、好ましくは、2以上、又は3以上、又は4以上であり、好ましくは、50以下、又は30以下、又は20以下、又は10以下である。
【0099】
アミド化合物は、微細セルロース繊維間に入り込み易く微細セルロース繊維の分散性向上効果に優れる点で、好ましくは環状アミド、より好ましくは3~7員環の環状アミド、更に好ましくはピロリドン(すなわち5員環)、ラウロラクタム(すなわち6員環)又はカプロラクタム(すなわち7員環の環状アミド)、特に好ましくはカプロラクタムである。これらのラクタム類は市販品として入手することができ、また単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0100】
アミド化合物は、微細セルロース繊維間に入り込み易く微細セルロース繊維の分散性向上効果に優れる点で、好ましくは下記式:
NHCO-R-CONH
(式中、R1は、脂肪族若しくは芳香族又はこれらの組み合わせである2価の基である。)
で表されるジアミドである。R1は、好ましくはC2~C8の基、より好ましくはC2~C8の脂肪族基、さらに好ましくはC2~C6の脂肪族基、特に好ましくはC4の脂肪族基である。特に好ましいアミド化合物はアジポアミドである。
【0101】
アミド化合物は、水溶性であることが好ましい。具体的には、アミド化合物の、25℃の水100gに対する溶解量は、好ましくは、1g以上、又は5g以上、又は10g以上である。このような化合物を、例えば水性溶液の状態で微細セルロース繊維と混合することによって、アミド化合物を微細セルロース繊維間に入り込ませて微細セルロース繊維の分散性を顕著に向上させることができる。アミド化合物の、25℃の水100gに対する溶解量は、特に上限はないが、樹脂組成物の吸湿抑制、多湿条件下での物性低下抑制等の観点から、好ましくは、100g以下、又は80g以下、又は50g以下である。
【0102】
アミド化合物として、水溶化したポリアミド(水溶性ポリアミド、ともいう)を用いても良い。水溶性ポリアミドとしては、例えば分子中にスルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩、第2級アミン、第3級アミン、アルキレンオキシ基等の構造を有するポリアミドを挙げることができる。水溶性ポリアミドは、重合の際に水溶性成分であるモノマーを用いることで製造することができる。
【0103】
スルホン酸基を有するモノマー、又はスルホン酸塩であるモノマーとしては、2,5-又は3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,5-又は3,5-ジアミノメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム等を例示できる。
【0104】
第2級アミン構造を主鎖に含むモノマーとしては、下記式:
N-(R-NH)-R-NH
(式中、R1は、C2又はC3のアルキレン基を表し、そしてmは2~10の整数である。)
で表されるアルキレンアミン類を例示でき、より具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等を例示できる。
【0105】
第3級アミン構造を主鎖に含むモノマーとしては、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン等を例示できる。
【0106】
第3級アミン構造を側鎖に含むモノマーとしては、αージメチルアミノεーカプロラクタム等を例示できる。
【0107】
アルキレンオキシ基を主鎖に含むモノマーとしては、下記式:
2N-R3-O-(R2-O)n-R3-NH2、又は
HOOC-R3-O-(R2-O)n-R3-COOH
(式中、R2はC~Cのアルキレン基を表し、R3はC又はCのアルキレン基を表し、そしてnは0~200の整数である。)
で表される、ジアミン又はジカルボン酸等を例示できる。
【0108】
水溶性モノマーとしてジアミンを使用する場合は、それと実質上当モルのジカルボン酸を併用することが好ましい。ジカルボン酸の例としてはアジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、水溶性モノマーとしてジカルボン酸を使用する場合は、それと実質上当モルのジアミンを併用することが好ましい。ジアミンの例としてはヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、パラアミノシクロヘキシルメタン等の脂環族ジアミン、メタキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0109】
ジアミンとジカルボン酸とを使用する場合は、一般的には両成分を実質上当モルで反応させた塩として使用するのが好都合である。
【0110】
ここで、実質上当モルについて説明する。ジアミンとジカルボン酸とのモル数の比率が1から外れるに従い重合速度が遅くなり、かつ到達重合度も低下する傾向にある。したがって実質上当モルとは、これらの影響が実質的に認められない範囲であって、通常そのずれの程度は、ジカルボン酸のモル数がジアミンのモル数±10%以下であるような程度である。
【0111】
例えば、ε-カプロラクタム等の環状アミドを含む水溶性モノマーは、酸又は塩基を用いた開環重合により重合することができる。
【0112】
水溶性モノマーは単独で重合してもよいが、多くの場合水溶性又は他の物性とのバランスをとるために、他のモノマーと共重合する場合が多い。共重合成分としてはε-カプロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸等のアミノ酸類、前述のジカルボン酸類、ジアミン類等が使用される。
【0113】
アミド化合物は、吸湿性が高いことが好ましい。具体的には、アミド化合物の23℃、60%RHでの吸湿率(すなわち、アミド化合物100質量%に対する水の質量比率)が、好ましくは、10%以上、又は20%以上、又は30%以上である。このような化合物を微細セルロース繊維と混合することによって、微細セルロース繊維間に水を呼び込むことができるため、乾燥時の微細セルロース繊維同士の水素結合による固着を防ぐことができ、微細セルロース繊維の分散性を顕著に向上させることができる。アミド化合物の、23℃、60%RHでの吸湿率は、特に上限はないが、樹脂組成物の吸湿抑制、多湿条件下での物性低下抑制等の観点から、好ましくは、1000%以下、又は500%以下、又は300%以下、又は200%以下、又は100%以下である。
【0114】
吸湿率は、アミド化合物1質量%溶液10gにガラス繊維0.5gを添加し、オーブンで乾燥後、真空条件で絶乾(120℃、2hr)した後、23℃、60%RHで調湿して求められる平衡含水率(%)である。当該方法において、ガラス繊維の吸湿は0であり、重量増加は全てアミド化合物の吸湿によるものとみなすことができる。
【0115】
アミド化合物の耐熱性は高いほど、樹脂と複合化して得られる樹脂組成物の黄変が抑えられるため好ましい。耐熱性の指標は、アミド化合物の熱処理前後での黄変度(YI値)の変化(ΔYI)であり、好ましくは30以下、又は20以下、又は10以下、又は5以下である。熱処理の条件は、アミド化合物をオーブン内で190℃、窒素雰囲気で4時間加熱する条件とし、黄変度は分光測色計(例えばコニカミノルタ社のCM-700d)を用い、反射型(SCI+SCE)、測定径3mmの条件で測定する。黄変度の変化(ΔYI)は熱処理後のYI値から熱処理前のYI値を差し引いた値である。ΔYIは小さいほど好ましいが、アミド化合物の入手容易性の観点から、一態様において、0.1以上、又は0.5以上、又は1以上であってもよい。
【0116】
なお、一態様において、アミド化合物は、末端にアミノ基及びカルボキシ基を有する化合物の塩以外の化合物であることが好ましい。このような塩は黄変又はその他の着色を呈し易い傾向があるためである。また、一態様において、アミド化合物はアミノ酸誘導体以外の化合物であることが好ましい。アミノ酸誘導体は、化合物内のアミド基、アミノ基及び/又はカルボキシ基(酸型又は塩型)の濃度が高い傾向があることによって水素結合し易い傾向があるためである。一態様において、アミド化合物は、カルボキシラートアニオン(-COO-)部位を有さないか、又は、カルボキシラートアニオン部位を有するが、当該カルボキシラートアニオン部位と最も近接するアミド結合(-C(=O)N(H)-)のC側がN側よりも当該カルボキシラートアニオン部位に対して近接している構造を有する化合物である。上記カルボキシラートアニオン部位は典型的には塩におけるアニオン性基であり得る。
【0117】
アミド化合物が複数のアミド結合を有する場合、アミド結合は水素結合を形成し易いことから、アミド結合同士が、C及び/又はOで構成される鎖によって3元素以上、又は5元素以上、隔てられていることが好ましい。
【0118】
アミド化合物の融点は、好ましくは、300℃以下、又は250℃以下、又は230℃以下、又は200℃以下、又は180℃以下、又は150℃以下である。このような化合物を、例えば溶融状態で微細セルロース繊維と混合することによって、アミド化合物を微細セルロース繊維間に入り込ませて微細セルロース繊維の分散性を顕著に向上させることができる。アミド化合物の融点の下限は特にないが、樹脂組成物からのブリード抑制の観点においては使用温度で固体であることが好ましく、具体的には、融点は、好ましくは、-30℃以上、又は-20℃以上、又は-10℃以上、又は0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、又は30℃以上、又は40℃以上である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)での融解ピークのピークトップを読み取る方法で測定される値である。
【0119】
セルロースがナノメートルレベルまで微細化されている微細セルロース繊維では、表面積が著しく大きくなることによりセルロースの表面同士が水素結合に基づく相互作用を受けるようになる。この微細セルロース繊維を乾燥粉末化すると極めて強い乾燥収縮が起こり、その収縮構造は不可逆的である。また、微細セルロース繊維においてはセルロースの親水的性質が顕著に現れるため、当該微細セルロース繊維には樹脂のような異種媒体下で激しい凝集が生じる。本開示のアミド化合物が存在する場合、微細セルロース繊維を、乾燥状態からであっても良好に再分散させることができるため、樹脂との溶融混練によって微細セルロース繊維を樹脂中に再分散させることができる。樹脂中に高度に分散した微細セルロース繊維は樹脂組成物の諸範の力学物性を向上させる。
【0120】
フィラーと樹脂とを含む複合材の生産プロセスを考慮すると、フィラーとしての複合粒子が乾燥状態であることは極めて大きな意義を有するが、従来、特にナノメートルサイズ(すなわち1000nm未満)の微細セルロース繊維を再分散可能な乾燥体として得ることは困難であった。本開示の一態様に係る複合粒子においては、アミド化合物が、微細セルロース繊維の表面と相互作用することによって、微細セルロース繊維の樹脂中での高度な再分散を実現可能にする。
【0121】
複合粒子100質量%に対する、微細セルロース繊維の比率は、フィラーとしての良好な作用を得る観点から、好ましくは、10質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上、又は40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上であり、アミド化合物の使用による微細セルロース繊維の分散性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、99質量%以下、又は95質量%以下、又は90質量%以下である。
【0122】
複合粒子100質量%に対する、アミド化合物の比率は、微細セルロース繊維の分散向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、1質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上であり、微細セルロース繊維の使用による良好なフィラー作用を得る観点から、好ましくは、90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下、又は40質量%以下である。
【0123】
複合粒子中、微細セルロース繊維100質量部に対する、アミド化合物の比率は、好ましくは、1質量部~1000質量部、又は1質量部~500質量部、又は5質量部~200質量部、又は10質量部~100質量部、又は15質量部~80質量部、又は20質量部~70質量部、又は25質量部~50質量部である。
【0124】
<追加の成分>
複合粒子は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては特に限定されないが、例えば、微細セルロース繊維以外の微細繊維(例えば、アラミド繊維のフィブリル化繊維、セルロースウィスカー);相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤;界面活性剤等が挙げられる。
【0125】
上述のセルロースウィスカーが複合粒子中に存在することで、複合粒子の水中又は樹脂組成物中での分散性が向上し、その結果として樹脂組成物の力学的特性が向上する。セルロースウィスカーの主な特性として、これに限定される訳ではないが、例えば、L/Dが1以上30未満、好ましくはL/D=1~20、より好ましくはL/D=1~10である。セルロースウィスカーの結晶化度は、例えば70%以上、好ましくは80%以上であり、例えば99%以下であってよい。セルロースウィスカーの重合度は、例えば1000以下、又は750以下、又は500以下、又は350以下、又は300以下、又は250以下、又は200であり、例えば10以上、又は20以上であってよい。セルロースウィスカーは市販品であってもよいし、例えば、木材パルプを裁断し、塩酸水溶液中で加水分解処理して得られるものでもよい。なおセルロースウィスカーの各特性値は微細セルロース繊維について前述したのと同様の方法で測定できる。
【0126】
上述の界面活性剤は、複合粒子の水又は後述する樹脂組成物への分散性を高める機能を有する。界面活性剤は、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有していればよく、食用、工業用等様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用できる。
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0127】
上述の中でも、セルロースとの親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボン酸基、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロースとの親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0128】
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限はないが、上限は30以下が好ましく、25以下がより好ましい。
【0129】
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましい。環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が好ましい。
これらの中でも、特にロジンエステル型、及び硬化ひまし油型がより好ましい。
【0130】
任意の追加の成分の複合粒子中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
【0131】
なお、樹脂の種類に依存するが、非界面活性剤系の分散媒体として、沸点160℃以上の有機化合物が有効であることがある。このような有機化合物の具体例として、例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、流動パラフィン、デカリン等の高沸点有機溶媒が有効である。また、樹脂がナイロン系樹脂及びポリアセタール系樹脂のような極性樹脂の場合には、微細セルロース繊維を製造する際に使用できる非プロトン性溶媒と同様の溶媒、例えば、DMSOを使用することが有効な場合がある。
【0132】
≪複合粒子の製造≫
複合粒子を製造する方法として、特に限定されるものではないが、例えば、以下のような方法が挙げられる。これら方法によれば、スラリー又は乾燥体として複合粒子を回収することができる。
(1)微細セルロース繊維のスラリー(例えば水分散体、又は有機溶媒分散体)と、アミド化合物とを混合し、次いで任意に乾燥(すなわち粉末化)して、複合粒子を回収する方法。
(2)微細セルロース繊維の有機溶媒分散体中に、アミド化合物を添加して、微細セルロース繊維が分散し、かつアミド化合物が溶解している有機溶媒分散体を得る工程、
この有機溶媒分散体を、アミド化合物の貧溶媒と混合し、アミド化合物を析出(すなわち微細セルロース繊維と、アミド化合物とを含む複合粒子を析出)させることによって複合粒子分散体を得る工程、
任意に、ろ過、遠心分離等による複合粒子の分離回収、純水での洗浄、及び/又は乾燥を行う工程、
を含む方法。
(3)微細セルロース繊維の製造過程において、アミド化合物を添加し溶解させた後、微細セルロース繊維製造終了後に、上記(2)の方法と同様に析出工程以降を行う方法。
【0133】
微細セルロース繊維は、有機溶媒中でセルロースの解繊処理を行って微細セルロース繊維分散体を得る解繊工程、及び任意に該微細セルロース繊維分散体中の有機溶媒を水に置換する精製工程、によって好ましく調製できる。上記(3)の方法における、アミド化合物の添加は、解繊前又は解繊中に行ってよい。
【0134】
微細セルロース繊維の化学修飾をする場合には、解繊工程と同時又は解繊工程の後(好ましくは精製工程の前)に、微細セルロース繊維の化学修飾を行う化学修飾工程を設けることが好ましい。
【0135】
複合粒子の製造において、液体媒体(水、有機溶媒等)の存在下で微細セルロース繊維とアミド化合物とを接触させることは、微細セルロース繊維にポリアミド化合物を均一かつ良好に固着できる点で有利である。
【0136】
アミド化合物が溶解する有機溶媒としては、特に限定はされないが、アルコール類、エーテル類、ベンゼン類等が好適である。溶媒は1種類の化合物であっても良いし、複数の化合物を混合した混合溶媒でも良い。具体的には、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0137】
セルロース原料の解繊及び/又は化学修飾と、アミド化合物の添加とを有機溶媒中で同時又は連続して行う場合には、DMSO、DMF、DMAc、NMP等、特に、DMSOを用いてもよい。この場合、熱分解開始温度が高い微細セルロース繊維をより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中でのセルロース原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
【0138】
微細セルロース繊維と、アミド化合物との複合化を促進するために必要な攪拌又は剪断の手法については、特に限定されるわけではないが、例えば、遊星ボールミル及びビーズミルのような衝突剪断が加わる装置、ディスクリファイナー及びグラインダーのようなセルロースのフィブリル化を誘因する回転剪断場が加わる装置、或いは各種ニーダー及びプラネタリーミキサーのような混合、撹拌、及び分散の機能を高効率で実施可能な装置を用いることができる。
【0139】
従来、微細セルロース繊維のスラリーを濃縮するプロセスは、例えば濾過操作を使用した場合は目詰まりによって、非常に長い時間を要する。したがって、複数回の洗浄を行う場合の生産性は著しく低かった。しかしながら、上述した、アミド化合物の貧溶媒を用いて析出させた後に洗浄及び濃縮を実施する製造方法((2)及び(3))は、微細セルロース繊維と、アミド化合物とが共に析出することにより濾過性が極めて改善され、濃縮工程の時間を著しく短縮することが可能である一方で、洗浄効率は従来と同等以上である。
【0140】
複合粒子は混合、又は、洗浄・濃縮操作を経て、水、又は、有機溶剤を含む状態で得られる。複合粒子中の液体分率は、好ましくは、30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下、又は8質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下、又は1質量%以下に制御することができる。液体分率は低い方が望ましいが、複合粒子の製造容易性の観点から、例えば、0.01質量%以上、又は0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってもよい。乾燥操作は、複合粒子中の液体分率が所望範囲となるように適宜実施すればよい。乾燥機としては、特に限定されないが、ニーダー、プラネタリーミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー等、高粘度のものであっても容易に攪拌、混練可能な混合機が好ましい。乾燥条件は大気圧、減圧のどちらでも良く、乾燥温度は微細セルロース繊維の熱劣化を防ぐために、200℃以下が好ましい。
【0141】
一態様において、アミド化合物として環状アミドを含む複合粒子においては、例えば不活性雰囲気中の加熱によって当該環状アミドを開環重合してポリアミドとすることができる。この場合、複合粒子が、アルカリ触媒又は酸触媒、及び必要に応じて重合開始剤を更に含むか、複合粒子と、アルカリ触媒又は酸触媒及び任意に重合開始剤とを混合することが好ましい。例えば、環状アミドと、複合粒子の他の構成成分とを別個に準備した後、これらを混合して複合粒子を形成するとともに環状アミドを開環重合して良い。
【0142】
≪樹脂組成物≫
本発明の一態様は、前述の複合粒子と、樹脂とを含む樹脂組成物を提供する。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、エラストマー等を用いることができる。
【0143】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等のビニル系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂等のニトリル系樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアミド;ポリウレタン;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸等のアクリル樹脂;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;液晶ポリマー;シリコーン樹脂;アイオノマー;セルロース(木材パルプ、綿等の天然セルロース;ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン及びテンセル等の再生セルロース);ニトロセルロース、セルロースアセテート等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
【0144】
熱可塑性樹脂の中でも、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100~250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物が好ましく挙げられ、取り扱い性及びコストの観点からより好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂(特に結晶性樹脂)の融点は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
【0145】
熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
【0146】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0147】
ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも30秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成形品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
【0148】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレン等α-オレフィンの共重合体等が挙げられる。
【0149】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0150】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及び、これらの無水物、並びにクエン酸等のポリカルボン酸から、適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。樹脂とセルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0151】
酸変性されたポリプロピレンのISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0152】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂の例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等のジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
【0153】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0154】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
【0155】
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、0.30~0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース繊維の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0156】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等の末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0157】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0158】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0159】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H-NMRによる定量がより好ましい。
【0160】
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6~2.0dL/gであることが好ましく、0.7~1.4dL/gであることがより好ましく、0.7~1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7~1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミドを使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
【0161】
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。
これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。このとき、推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
【0162】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETと称することもある)、ポリブチレンサクシネート(脂肪族多価カルボン酸と脂肪族ポリオールとからなるポリエステル樹脂(以下、単位PBSと称することもある)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、単にPBSAと称することもある)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、単にPBATと称することもある)、ポリヒドロキシアルカン酸(3-ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂。以下、単にPHAと称することもある)、ポリ乳酸(以下、単にPLAと称することもある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、単にPBTと称することもある)、ポリエチレンナフタレート(以下、単にPENと称することもある)、ポリアリレート(以下、単にPARと称することもある)、ポリカーボネート(以下、単にPCと称することもある)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0163】
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂は、PET、PBS、PBSA、PBT、PENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、PBTが挙げられる。
【0164】
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率や末端安定化剤の添加の有無や量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、該ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース繊維の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0165】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量としては0.01~4モル%の範囲内がより好ましい。コモノマー成分由来構造の量の好ましい下限量は、0.05モル%であり、より好ましくは0.1モル%であり、さらにより好ましくは0.2モル%である。また好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、さらにより好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
【0166】
押出加工や成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0167】
熱可塑性樹脂としては、アミド化合物との親和性が良好である点で、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基及びカルボキシ基から選ばれる1種以上)を有する樹脂が特に好ましい。親水性基を有する熱可塑性樹脂の好適例は、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選択される1種以上である。中でもポリアミド系樹脂及びマレイン化ポリプロピレンが好ましい。
【0168】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル-1,3-ジグリシジルエーテル、ビフェニル-4,4’-ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールまたはプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、尿素(ユリア)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
【0169】
<光硬化性樹脂>
光硬化性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、公知一般の(メタ)アクリレート樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、反応機構により、概ね光により発生したラジカルによりモノマーが反応するラジカル反応型と、モノマーがカチオン重合するカチオン反応型とに分類される。ラジカル反応型のモノマーには、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物(例えばある種のビニルエーテル)等が該当する。カチオン反応型としては、エポキシ化合物、ある種のビニルエーテル等が該当する。なお、例えば、カチオン反応型として用いることができるエポキシ化合物は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の両者のモノマーとなり得る。
【0170】
(メタ)アクリレート化合物とは、(メタ)アクリレート基を分子内に一つ以上有する化合物を指す。(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0171】
ビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体、ビニル化合物等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。ビニル化合物としては、トリアリルイソイシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0172】
さらに、光硬化性樹脂の原料として、いわゆる反応性オリゴマーを用いてもよい。反応性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ウレタン結合、及びエステル結合から選ばれる任意の組合せを同一分子内に併せ持つオリゴマー、例えば、(メタ)アクリレート基とウレタン結合とを同一分子内に併せ持つウレタンアクリレート、(メタ)アクリレート基とエステル結合とを同一分子内に併せ持つポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂から誘導され、エポキシ基と(メタ)アクリレート基とを同一分子内に併せ持つエポキシアクリレート、等が挙げられる。
【0173】
光硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
【0174】
<エラストマー(ゴム)>
エラストマー(すなわちゴム)の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、改質天然ゴム(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等)、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらのゴムは、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
【0175】
樹脂組成物中の複合粒子の含有量は、微細セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上であり、微細セルロース繊維の樹脂中の良好な分散性を得る観点から、好ましくは、50質量%以下、40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。
【0176】
樹脂組成物の総質量に対するベース樹脂の質量比率は、微細セルロース繊維の良好な分散の観点から、好ましくは、50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上であり、樹脂組成物に対して、微細セルロース繊維によって高弾性率化、熱膨張率の低減等の機能を付与する観点から、好ましくは、99.5質量%以下、又は90質量%以下である。
【0177】
樹脂組成物中の、樹脂100質量部に対する微細セルロース繊維の量は、樹脂組成物の物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上であり、樹脂組成物の製造時及び使用時の流動性の観点から、好ましくは、40質量部以下、又は30質量部以下、又は20質量部以下、又は10質量部以下である。一態様においては、乾燥状態の複合粒子がベース樹脂に混入された後に高度に再分散するため、樹脂対比の微細セルロース繊維量が少なくても十分な力学的特性を実現することができる。具体的には、微細セルロース繊維は、ベース樹脂100質量部に対し、好ましくは1質量部以上10質量部以下の割合とすることができる。特に、ベース樹脂100質量部に対し、1質量部以上5質量部以下であっても優れた力学的物性を実現することができるため、着色及び臭気と同時に組成物の吸湿性といった問題を極小化することができる。
【0178】
樹脂組成物の線熱膨張率(CTE)は、好ましくは80ppm/k以下、より好ましくは70ppm/k以下、さらに好ましくは60ppm/k以下、さらに好ましくは55ppm/k以下、最も好ましくは50ppm/k以下である。線熱膨張率は小さい程好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、5ppm/K以上、又は10ppm/K以上であってもよい。
【0179】
樹脂組成物の貯蔵弾性率は、フィラー成分(すなわち微細セルロース繊維及び他のフィラー)を含まない樹脂に対しての値の上昇率として評価したときに、本実施形態の樹脂組成物の貯蔵弾性率の上昇率は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上、さらにより好ましくは1.6以上、最も好ましくは1.7以上である。そして、本実施形態の樹脂組成物の貯蔵弾性率の上昇率は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上、最も好ましくは1.6以上である。
【0180】
また、一般的に樹脂組成物の貯蔵弾性率はガラス転移点以上の高温下では著しく小さくなるため、高温下での使用が制限される。一方、複合粒子を含む樹脂組成物は高温下でも貯蔵弾性率の低下が小さいため、高温下での使用が可能となり、高温剛性に優れるといえる。したがって、本実施形態の樹脂組成物の下記式に示す低温と高温での貯蔵弾性率の変化(貯蔵弾性率変化、ともいう)は、好ましくは10以下、又は8以下、又は6以下、又は5以下、又は4以下、又は3以下である。貯蔵弾性率変化は小さいほど好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、1以上、又は2以上であってもよい。
貯蔵弾性率変化=低温の貯蔵弾性率/高温の貯蔵弾性率
なお、測定する低温域の温度及び高温域の温度は、それぞれベース樹脂のガラス転移点の50℃下方、及び、100℃上方とし、例えばPA6については低温/高温の温度は0℃/150℃とし、PPについては-50℃/100℃とする。
【0181】
<追加の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては複合粒子中の追加の成分として前述したのと同様のものを例示できる。
【0182】
好ましい態様においては、微細セルロース繊維を樹脂組成物中で安定に分散させる機能を有する追加の分散剤を用いてもよい。追加の分散剤は、樹脂組成物中での微細セルロース繊維の分散状態を向上、制御することによって、樹脂組成物の力学物性を向上させることができる。追加の分散剤は、複合粒子中の追加の成分として前述した界面活性剤、沸点160℃以上の有機化合物、及び微細セルロース繊維を高度に分散可能な化学構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0183】
樹脂組成物の総質量に対する追加の分散剤の質量比率は、下限が、樹脂組成物の機械特性及び熱安定性の向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.01質量%以上、又は0.05質量%以上、又は0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上であり、上限が、樹脂組成物中の樹脂の所望の特性を良好に維持する観点から、好ましくは、20質量%以下、又は10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。
【0184】
樹脂組成物は、複合粒子と樹脂とを混合することにより作製することができる。更に、その樹脂組成物を成形することにより成形体を作製することができる。複合粒子と樹脂とを混合する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合してから加熱しても、加熱しながら混合してもよい。加熱する場合、混合する温度は、使用する樹脂に合わせて調整することができる。
【0185】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66(ポリアミド「PA66」ともいう。)では255~270℃、ナイロン6(ポリアミド「PA6」ともいう。)では225~240℃、ポリアセタール樹脂(POMともいう。)では170℃~190℃、ポリプロピレン(PPともいう。)では160~180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、微細セルロース繊維と樹脂とを均一に混合することができる。
【0186】
ベース樹脂が熱可塑性樹脂である場合の樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、
1.単軸又は二軸押出機を用いて、複合粒子と熱可塑性樹脂との混合物を溶融混練した後、
(1)ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、樹脂組成物のペレット状成形体を得る方法、
(2)棒状又は筒状に押出し冷却して、樹脂組成物の押出成形体を得る方法、若しくは
(3)Tダイより押出し、樹脂組成物のシート状又はフィルム状成形体を得る方法、又は
2.複合粒子と熱可塑性樹脂モノマーとを混合し、重合反応(具体的には固相重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等)を行い、得られた生成物を、上記(1)~(3)のいずれかの方法で押出して、樹脂組成物の成形体を得る方法、
【0187】
溶融混練には、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機がセルロースの分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、40以上が好ましく、特に好ましくは50以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、100~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは150~600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。
【0188】
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
【0189】
一態様においては、押出機のシリンダーの途中部分に添加口が設置され、添加口に投入された原料はシリンダー内のスクリューに導かれる。一態様において、添加口の位置は、溶融混練ゾーンより下流に配置される。押出機を用いた通常の混練では、最初の樹脂溶融ゾーンが最も強く剪断がかかる領域であるため、搬送ゾーンを移動する未溶融状態の樹脂に対しフィラー成分を添加することにより、その後の加熱溶融下での剪断力でフィラーが微分散される。しかしながら、セルロースを強化フィラーとして樹脂に微分散させる場合、樹脂溶融ゾーンの手前でセルロースを添加すると、樹脂溶融ゾーンでの強い剪断力が原因でセルロースが劣化する場合がある。特に、セルロース単体での径がナノメートルサイズ(すなわち1000nm未満)である微細セルロース繊維を使用する場合、その表面積は極めて大きいため、通常のフィラー成分の樹脂に対する添加量比(具体的には、フィラー成分と樹脂との合計100質量%に対してフィラー成分20質量%以上)で強化樹脂組成を設計しようとした場合、上記剪断力による微細セルロース繊維の劣化が大きくなり、微細セルロース繊維のもつ本来の強固な結晶構造の損失、強化樹脂としての力学的特性の低下、着色及び臭気といった問題が生じる場合がある。
【0190】
本開示の複合粒子は、乾燥状態にあっても優れた再分散性を有することができるため、上記剪断下に複合粒子をさらすことなく微分散が可能である。すなわち、溶融された熱可塑性樹脂に対して複合粒子を添加できる。複合粒子は、既に溶融状態にある樹脂中で速やかに微分散し、その添加量が極めて微量、例えばベース樹脂である熱可塑性樹脂100質量部に対し10質量部以下であっても強化フィラーとして良好な機能を発揮し得、最終的に得られる樹脂組成物の力学的特性を確実に向上し、かつ着色及び臭気といった問題も良好に抑制することができる。
【0191】
シリンダー内部を通過する際に受ける熱履歴の軽減を目的とし、添加口は、押出機の溶融混練ゾーンよりも下流側に設計することが好ましい。具体的には、シリンダーの全長(L1)に対し、シリンダーの出口から添加口までの長さ(L2)を1/2以下に設計することが好ましい。なおシリンダーの全長には混練に関与しない部分(例えば搬送ゾーン)も含まれる。
【0192】
添加口からは、複合粒子が投入され、押出機内で溶融混練された熱可塑性樹脂中に混入される。本実施形態の複合粒子は再分散性に優れているため、押出機内の後工程で投入されても樹脂中で高度に分散させることができる。
【0193】
熱可塑性樹脂が耐熱性に優れたエンジニアプラスチックであった場合、その溶融温度は非常に高温であるため、加工時には強い熱履歴が微細セルロース繊維にもかかり、焼けによる着色及び臭気の問題が生じやすい。また、この強い熱履歴は、セルロース(特に天然セルロース)のもつ優れた力学的特性を部分的に失わせるため、熱可塑性樹脂にセルロースをフィラーとして添加したときの樹脂組成物の力学的特性の向上効果を低下させる。
【0194】
本実施形態では、微細セルロース繊維を、予め、アミド化合物を用いて、乾燥状態にあっても優れた再分散性をもつ複合粒子に改質しているため、溶融された樹脂に対して(好ましくは押出機の溶融混練ゾーンよりも下流、より好ましくはL2/L1が1/2以下、更に好ましくはL2/L1が1/3以下、最も好ましくはL2/L1が1/4以下に位置する添加口から)シリンダーに複合粒子を添加しても、微細セルロース繊維が高度に分散した樹脂組成物を製造することができる。上記のような態様で投入された微細セルロース繊維においては、熱履歴が緩和されているため、焼けによる着色及び臭気の発生が抑制される。また、本実施形態の方法によれば、熱履歴の緩和ととともに微細セルロース繊維の高度な分散も実現できるため、樹脂組成物の高度な力学特性を実現することができる。
【0195】
押出機の、添加口を含む部位(サイドフィーダー)の下流には、ガス抜きシリンダー、真空引きベント等を適宜設け、複合粒子投入時に混入した空気及び微量の水分(水蒸気)を脱気することができる。
【0196】
また、二軸押出機は、先端排出部で樹脂に高圧がかかり、樹脂温度が上昇しやすい。この樹脂圧力を制御したり樹脂温度上昇を軽減する目的で、下流にギヤポンプを設置することができる。
【0197】
本実施形態では、複合粒子が押出機内を搬送される距離を、熱可塑性樹脂と比較して短くできるため、複合粒子混入後のシリンダー内のスクリューの構成を工夫することで確実な均質分散を実現することができる。具体的には、これに限定するものではないが、進行方向と逆向きのフィードを作り出す反時計回りのスクリューを1箇所以上、添加口よりも下流側のシリンダー内に設けることにより、微細セルロース繊維の高度な分散をより確実に実現することができる。
【0198】
樹脂組成物の水分率は特に制限はないが、例えばポリアミドの場合、溶融時のポリアミドの分子量上昇を抑えるために、10ppm以上であることが好ましく、溶融時のポリアミドの加水分解を抑えるために1200ppm以下であることが好ましく、900ppm以下であることが更に好ましく、700ppm以下であることが最も好ましい。水分率は、ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
【0199】
ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いた樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられる。中でも、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型等が挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0200】
熱可塑性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造等)の樹脂成形体に成形できる。樹脂成形体の製造方法に特に制限はないが、射出成形(例えば射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、及び超高速射出成形)、各種押出成形(コールドランナー方式又はホットランナー方式)、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、各種異形押出成形(例えば二色成形及びサンドイッチ成形)等を例示できる。例えば、シート、フィルム、繊維等の成形には種々の押出成形が好適である。シート又はフィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も用いることができる。さらに、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、回転成形又はブロー成形等により中空成形品とすることも可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、特に好ましい。
【0201】
ベース樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、ベース樹脂溶液又はベース樹脂粉末分散体中に複合粒子を十分に分散させて乾燥する方法、ベース樹脂モノマー液中に複合粒子を十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、複合粒子からなる成形体(例えば、シート、粉末粒子成形体等)にベース樹脂溶液又はベース樹脂粉末分散体を十分に含浸させて乾燥する方法、複合粒子からなる成形体にベース樹脂モノマー液を十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等が挙げられる。硬化に際し、種々の重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等を配合することができる。
【0202】
熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に特に制限はない。
【0203】
熱硬化性樹脂の場合、板状の製品を製造するのであれば、押出成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。またフィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。
【0204】
また、未硬化又は半硬化のプリプレグと呼ばれるシートを作製した後、プリプレグを単層又は積層にして、加圧及び加熱して樹脂を硬化及び成形させる方法を用いてもよい。熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられるが、これらの成形方法に限定されない。
【0205】
さらに、炭素繊維等の強化繊維のフィラメント又はプリフォームにベース樹脂硬化前の樹脂組成物を含浸させた後、当該ベース樹脂を硬化させて成形物を得る方法(例えば、RTM、VaRTM、フィラメントワインディング、RFI等の成形方法)が挙げられるが、これら成形方法に限定されない。
【0206】
ベース樹脂が光硬化性樹脂である場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造する事ができる。
【0207】
ベース樹脂がゴムである場合の樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、複合粒子とゴムとを乾式で混練する方法、複合粒子とゴムとを分散媒中に分散又は溶解させた後、乾燥させて混練する方法等が挙げられる。混合方法としては、高い剪断力と圧力とをかけ、分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合方法が好ましいが、その他、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、手動による攪拌、等の方法を用いることもできる。得られた樹脂組成物は所望の形状に成形され、成形材料として用いることができる。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。
【0208】
ゴムをベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に特に制限はなく、成形材料を、例えば金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の所望の成形方法を用いて成形し、所望の形状の未加硫の成形体を得ることができる。未加硫の成形体は、必要に応じて熱処理等で加硫することができる。
【0209】
≪用途≫
本実施形態の複合粒子を含む樹脂組成物は、高耐熱かつ軽量であることができることから、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
【実施例
【0210】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0211】
≪微細セルロース繊維≫
以下の製造例1~2で調製したものを用いた。
【0212】
[製造例1](微細セルロース繊維CNF-Aの製造)
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させてオートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行った。得られた膨潤パルプは水洗し、水を含む精製パルプ(30質量部)を得た。つづいて、水を含む精製パルプ30質量部に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、微細セルロース繊維スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率10質量%まで濃縮し、微細セルロース繊維の濃縮スラリーAを30質量部得た。
【0213】
[製造例2](微細セルロース繊維CNF-Bの製造)
製造例1の濃縮スラリーA(固形分率10質量%)10質量部をDMSO80質量部に加えて、ホモジナイザーで分散させた後、遠心分離機で9000rpm、15分処理を行い、上澄みを除去し、DMSOスラリー30質量部を得た。つづいて、DMSOを60質量部加えて、同様の分散、遠心分離を行うDMSO置換処理を3回実施し、DMSOスラリー(固形分率3.3質量%、含水率<1質量%)30質量部を得た。
セパラブルフラスコに製造例2で得たDMSOスラリーを30質量部入れ、DMSOを15質量部加えて、攪拌羽で均一に攪拌しながら70℃まで加温した。つづいて、酢酸ビニル2質量部及び炭酸水素ナトリウム0.3質量部を加え、70℃で3時間攪拌した。反応を停止させるため、水100質量部を攪拌しながら加えた。つづいて、濾過により固形分を濾別した。得られた固形分に対して500質量部の水を加えてミキサーで分散させた後、濾過をする洗浄操作を4回実施し、アセチル化微細セルロース繊維の濃縮スラリーB(固形分率10質量%)を得た。
【0214】
<微細セルロース繊維の評価>
[測定サンプル作製]
まず、濃縮スラリーをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。微細セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0215】
[数平均繊維径]
濃縮スラリーをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の長径(L)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0216】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0217】
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0218】
[DS]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030・・・(1)
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式(2)に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
【0219】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
【0220】
[酸不溶成分平均含有率]
酸不溶成分の定量は、微細セルロース繊維原料について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法で行った。絶乾させた微細セルロース繊維の原料を精秤し、所定の容器に入れて72質量%濃硫酸を加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押した後、オートクレーブしてセルロース及びヘミセルロースを酸溶液中に溶解させた。放冷後に内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し、酸不溶成分を残渣として得た。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とした。
【0221】
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率は微細セルロース繊維の原料について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均を微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
【0222】
≪アミド化合物及び非アミド化合物≫
以下の4種の化合物及び製造例3及び4で調製したものを用いた。
ε-カプロラクタム(東京化成工業社製、分子量113)
2-ピロリドン(東京化成工業社製、分子量85)
(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサン酸(Advanced ChemBlocks Inc.製、AHAHAともいう、分子量244)
【0223】
[製造例3](水溶性ポリアミドの製造)
アジピン酸10質量部、トリオキサトリデカンジアミン15質量部及び水16.6質量部を、窒素を用いて不活性化した反応器に導入し、245℃まで加熱した。この温度に達してすぐに、減圧が始まった。この温度に達した後、反応器を常圧まで1時間かけて減圧した。次いで、ポリマー溶融物を、245℃で撹拌しながら更に1時間維持し、窒素を通過させることによって常圧で反応水を除去した。5バールの窒素で加圧した後、反応器の内容物を、ダイプレートを通して排出した。流動床のポリマーストランドを冷却した後、それらを造粒し、水溶性ポリアミドを製造した。水溶性ポリアミドは、数平均分子量9000、1.93の相対溶液粘度、31ミリモル/kgのCOOH末端基濃度及び38ミリモル/kgのNH2末端基濃度を有した。
【0224】
[製造例4](ポリアミド粉末の製造)
ポリアミド6(宇部興産社製、品番1013B、PA6ともいう)を凍結粉砕し、ポリアミド粉末(PA6粉末ともいう)(数平均分子量:13000)を製造した。
【0225】
非アミド化合物として以下の5種の化合物を用いた。
ε-カプロラクトン(東京化成工業社製、分子量114)
6-アミノヘキサン酸(東京化成工業社製、分子量131)
ポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社製、分子量4000)
カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、品番1140)
オレイン酸(東京化成工業社製、分子量282)
【0226】
≪アミド化合物・非アミド化合物の評価≫
[融点]
示差走査熱量計(DSC、PERKIN ELMER製 DSC8000)で融解ピークのピークトップを読み取り、融点とした。測定は、-10℃よりアミド化合物・非アミド化合物が完全に融解する温度まで10℃/分の昇温速度で測定を実施した。
【0227】
[溶解度]
アミド化合物の溶解度は、99gのイオン交換水にアミド化合物を1g添加し、90℃に加熱しながら1時間攪拌し、25℃まで冷却した。得られた1質量%水溶液を目視し、不溶解物が無ければ良、あれば不良とした。
【0228】
[吸湿性]
アミド化合物の吸湿性は、23℃、60%RH環境での平衡含水率から評価した。具体的には、アミド化合物を溶解する溶媒に溶かし1質量%溶液を調製し、該1質量%溶液10gにガラス繊維0.5gを添加し、オーブンで乾燥後、真空条件で絶乾(120℃、2hr)した後、23℃、60%RHで調湿し、平衡含水率(%)として求めた。ガラス繊維の吸湿は0であり、重量増加は分散剤による吸湿によるものである。吸湿性は平衡含水率が20%以上を良、10%以上20%未満を可、10%未満を不良とした。
【0229】
[分子量]
アミド化合物・非アミド化合物の分子量は、構造規定された低分子化合物は化学式より計算で算出し、水溶性ポリアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースは水に溶解させた上で、水を溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって、プルラン換算で求めた。具体的には、0.1質量%%水溶液を調製後、0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel α-M(7.8mmI.D.×30cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:0.1M NaCl水溶液
流速:1.0mL/分
検量線:プルラン換算
【0230】
≪複合粒子又は比較の粒子≫
[実施例1]
ε-カプロラクタムを水に溶解し、ε-カプロラクタム10質量%水溶液を製造した。製造例1で得た濃縮スラリーA 1000質量部(CNF-A 100質量部)に対し、ε-カプロラクタム10質量%水溶液を1000質量部添加し(微細セルロース繊維に対し、100質量%)、プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社、商品名「ハイビスミックス2P-1」)中で50rpm、10分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、ジャケット温度80℃、-0.1MPaの減圧条件、50rpmで8時間減圧乾燥処理を行った。得られた乾燥体は卓上粉砕機(ラボネクト株式会社製、ミニスピードミルMS-05)で粉砕し、複合粒子P1を得た。
【0231】
[実施例2~8、比較例1~3]
アミド化合物10質量%水溶液を製造した後、表2に記載の組成で実施例1と同様の手法で複合粒子P2~8、P13を得た。比較例2については10質量%水溶液が製造できない為、ε-カプロラクトンを直接添加し、P14を得た。比較例3についてはアミド化合物を加えず、P15を得た。
【0232】
[実施例9~12、比較例4~9]
濃縮スラリーAの代わりに濃縮スラリーB(CNF-B)を用いた以外は表2に記載の組成で実施例1と同様の手法で複合粒子P9~12、16、17を得た。比較例6及び7については、10質量%水溶液が製造できない為、オレイン酸及びPA粉末を直接添加し、P18、19を得た。比較例8及び9についてはアミド化合物を加えず、P20及び21を得た。
【0233】
<複合粒子又は比較の粒子の評価>
[粘度差Δη30-100、チキソトロピーインデックス(TI)、Δηmax
微細セルロース繊維が0.5質量%となるように所定量の粒子を水中に添加し、粒子を含む水分散液100mlを調製した。つづいて、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させた。液温が25℃であることを確認した後、撹拌中の分散液を一部分取し、レオメーター(TAインスツルメント社、製品名:ARES)にて二重円筒ジオメトリで粘度測定を直ちに行った。なお装置は事前に25℃に温調した。
測定条件として、100秒かけて剪断速度を100秒-1から1秒-1まで下降させた後、100秒かけて100秒-1まで上昇させるサイクルを2回繰り返した。そして、最後に100秒-1から1秒-1まで100秒かけて下降させ、1秒毎に粘度データを取得した。そして、剪断速度30秒-1、100秒-1時の粘度をそれぞれη30、η100とした。
下記式に従い、粘度差Δη30-100を算出した。
Δη30-100=η30-η100
下記式に従い、チキソトロピーインデックスTIを算出した。
TI=η30/η100
また、3回目のサイクルにおいて、剪断速度30秒-1以下の領域で剪断速度上昇時と下降時の同一剪断速度での粘度差が最大となる点での粘度差を最大粘度差(Δηmax)とした。
【0234】
≪樹脂組成物≫
得られた複合粒子又は比較の粒子と下記熱可塑性樹脂とを、シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)を用いて、熱可塑性樹脂9質量部に対する微細セルロース繊維重量が1質量部となるよう下記条件で溶融混練し、微細セルロース繊維強化熱可塑性樹脂のペレットを得た。
【0235】
(熱可塑性樹脂)
・UBEナイロン 1013B 宇部興産株式会社製
ポリアミド6(以下、PAと称す。)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.59
・プライムポリプロ J105G プライムポリマー製
ポリプロピレン(以下、PPと称す。)
【0236】
(溶融混練条件)
回転数:300rpm
シリンダー温度:250℃(PAについて)又は200℃(PPについて)
【0237】
<樹脂組成物の評価>
[線膨張係数(CTE)]
樹脂組成物又は樹脂を、3mm幅×25mm長に切断し、測定サンプルとした。SII製TMA6100型装置を用いて、引張モードでチャック間10mm、荷重5g、窒素雰囲気下、室温から120℃まで5℃/min.で昇温した後、25℃まで5℃/min.で降温し、再び25℃から120℃まで5℃/min.で昇温した。この際、2度目の昇温時における0℃~60℃の間の平均の線熱膨張率を測定した。
【0238】
[貯蔵弾性率]
樹脂組成物ペレットを射出成形機にてPA6については260℃、PPについては160℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製した。貯蔵弾性率測定に用いた装置と測定条件は下記である。
装置:GABO社エプレクサー
測定モード:引張
周波数:10Hz
温度範囲:-130℃~150℃
昇温速度:3℃/分
測定雰囲気:窒素
貯蔵弾性率変化は、下記式に従って算出した。
貯蔵弾性率変化=低温の貯蔵弾性率/高温の貯蔵弾性率
PA6については低温/高温の温度は0℃/150℃とし、PPについては-50℃/100℃とした。一般に貯蔵弾性率は高温になるほど小さくなるため、貯蔵弾性率変化は1以上となる。この値が1に近いほど、高温での貯蔵弾性率変化が小さく、耐熱性(高温剛性)が優れる。
【0239】
[外観]
樹脂組成物サンプルの外観について、複合粒子を含まない(微細セルロース繊維のみ含む)樹脂組成物と比較し、明らかに褐色なものを不良、変色が見られないものを良、やや褐色になっているものを可とした。すなわち、実施例1~8、比較例1~2は比較例3と、実施例9、11、12、比較例4~7は比較例8と、実施例10は比較例9と比較した。
【0240】
【表1】
【0241】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0242】
本開示の複合粒子は、樹脂組成物中で微細セルロース繊維を良好に分散させ、機械物性に極めて優れた樹脂成形体を与え得ることから、金属代替等の種々の用途に好適に適用され得る。
図1
図2
図3