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特許7444683金属支持体、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、および金属支持体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】金属支持体、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、および金属支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1226 20160101AFI20240228BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20240228BHJP
   H01M 8/0637 20160101ALI20240228BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240228BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240228BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240228BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240228BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20240228BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M8/1226
H01M8/0612
H01M8/0637
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/63
C25B15/08 302
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020065257
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163655
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033618(JP,A)
【文献】特開2013-033617(JP,A)
【文献】特開2010-232007(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189913(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 - 8/0297
H01M 8/08 - 8/2495
C25B 1/042
C25B 9/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として板状に形成されて電極層が設けられる表側面から裏側面に貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体であって、
前記貫通孔として、厚み方向に対して中心軸が傾斜している傾斜貫通孔を有し、
前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記ガス流路において、一方の端部に設けられた入口から他方の端部に設けられた出口に向かうガス通流方向に沿ってガスが通流し、
前記傾斜貫通孔として、前記金属支持体において表側の開口部が裏側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している第1傾斜貫通孔を有する金属支持体。
【請求項2】
全体として板状に形成されて電極層が設けられる表側面から裏側面に貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体であって、
前記貫通孔として、厚み方向に対して中心軸が傾斜している傾斜貫通孔を有し、
前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記ガス流路において、一方の端部に設けられた入口から他方の端部に設けられた出口に向かうガス通流方向に沿ってガスが通流し、
前記傾斜貫通孔として、前記金属支持体において裏側の開口部が表側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している第2傾斜貫通孔を有する金属支持体。
【請求項3】
全体として板状に形成されて電極層が設けられる表側面から裏側面に貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体であって、
前記貫通孔として、厚み方向に対して中心軸が傾斜している傾斜貫通孔を有し、
前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記ガス流路において、一方の端部に設けられた入口から他方の端部に設けられた出口に向かうガス通流方向に沿ってガスが通流し、
前記傾斜貫通孔として、第1傾斜貫通孔と第2傾斜貫通孔を有すると共に、
前記第1傾斜貫通孔が、前記金属支持体において表側の開口部が裏側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜しており、
前記第2傾斜貫通孔が、前記金属支持体において裏側の開口部が表側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している金属支持体。
【請求項4】
前記ガス流路でのガス通流方向に沿って、前記第1傾斜貫通孔が上流側に位置し、その下流側に前記第2傾斜貫通孔が位置する請求項3に記載の金属支持体。
【請求項5】
前記傾斜貫通孔が、前記金属支持体において表側の開口面積が裏側の開口面積よりも小さく形成されている請求項1~4の何れか1項に記載の金属支持体。
【請求項6】
前記電極層が、前記傾斜貫通孔に挿入された挿入部を有する請求項1~5の何れか1項に記載の金属支持体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の金属支持体を備え、その金属支持体の前記表側面に、電極層と電解質層と対極電極層とを設けて構成された電気化学素子。
【請求項8】
前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路の少なくとも一部に、当該ガス流路内の流れを乱す乱流促進体を備えた請求項7に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路の少なくとも一部に、燃料ガスを改質する触媒反応部を備えた請求項7又は8に記載の電気化学素子。
【請求項10】
請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学素子を複数集合した状態で配置して構成された電気化学モジュール。
【請求項11】
請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学素子もしくは請求項10に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに還元成分を含有するガスを供給する燃料変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールで生成する還元成分を含有するガスを変換する燃料変換器、とを備えた電気化学装置。
【請求項12】
請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学素子もしくは請求項10に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールから電力を取り出すあるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器とを備えた電気化学装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部とを備えたエネルギーシステム。
【請求項14】
請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学素子を備え、その電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【請求項15】
請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学素子を備え、その電気化学素子で電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セル。
【請求項16】
請求項1~6の何れか1項に記載の金属支持体を製造する製造方法であって、金属材料板に対して、レーザー加工またはパンチング加工またはエッチング加工のいずれか、または、それらの組合せによって、表側から裏側へ貫通する複数の貫通孔を形成する金属支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として板状に形成されて電極層が設けられる表側面から裏側面に貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属支持型SOFCは、全体として板状に形成されて多数の貫通孔を有する金属支持体の表側面にアノード電極層と電解質層とカソード電極層とを設けて構成された電気化学素子を、複数集合した状態で配置して構成されている。このような金属支持型SOFCでは、発電効率の向上や、量産時における品質向上やコストダウン等を図るべく、金属支持体に形成される夫々の貫通孔の形状の最適化が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019-189913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の金属支持型SOFCでは、金属支持体の裏側面に沿って通流するガスが、金属支持体に形成された複数の貫通孔を通じて当該金属支持体の表側面に設けられた電極層に対して供受される。よって、金属支持体の表側面及び裏側面において貫通孔に対するガスの流入若しくは流出がスムーズに行われない場合には、例えば燃料ガスの利用率が低下し、ひいてはSOFCシステムの発電効率を上げ難いという課題があった。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、主に金属支持型SOFCに使用される金属支持体において、貫通孔に対してスムーズにガスが流入若しくは流出するようにして、発電効率を向上したSOFCシステムを実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る金属支持体の第1特徴構成は、全体として板状に形成されて電極層が設けられる表側面から裏側面に貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体であって、
前記貫通孔として、厚み方向に対して中心軸が傾斜している傾斜貫通孔を有する点にある。
【0006】
本構成によれば、金属支持体の裏側面に沿って通流するガスを当該金属支持体の表側面に設けられた電極層に対して供受するために金属支持体に形成された複数の貫通孔のうちの少なくとも一つが、金属支持体の厚み方向に対して中心軸が傾斜している傾斜貫通孔として形成されている。ここで「電極層に対して供受」とは、電極層に供給するもしくは電極層から受容する意味である。従って、このような傾斜貫通孔では、金属支持体の表側面又は裏側面において当該貫通孔へのガスの流入方向及び流出方向に沿わせて中心軸を傾斜させた状態とすることができる。このため、金属支持体の傾斜貫通孔に対するガスの流入若しくは流出をスムーズに行うことができる。このような構成により、電気化学素子の電極層へのガス(例えば、燃料ガス又は水蒸気など)をスムーズに供給したり、電気化学素子の電極層からのガス(例えば、前記燃料ガスが水素の場合は水蒸気、前記水蒸気の場合は電解された水素など)の排出をスムーズにしたりすることが可能となり、電気化学素子の性能を向上することができる。
【0007】
本発明に係る金属支持体の第2特徴構成は、前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記傾斜貫通孔として、前記金属支持体において表側の開口部が裏側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している第1傾斜貫通孔を有する点にある。
【0008】
本構成によれば、金属支持体の裏側面に沿って設けられたガス流路において、当該ガス流路から流れ方向を変更して上記第1傾斜貫通孔に流入するガスの流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなるので、ガス流路から第1傾斜貫通孔へのガスの流入をスムーズに行わせることができる。よって、ガス通路から第1傾斜貫通孔を通じて電極層へのガスの供給を一層スムーズに行うことができる。なお、貫通孔の中心線が金属支持体の裏側水平面に対して傾斜角度が90°未満であれば好ましく、85°以下であればより好ましく、80°以下であれば更に好ましい。また、複数の貫通孔において隣接する貫通孔が干渉しないように、貫通孔の中心線が金属支持体の裏側水平面に対して傾斜角度が45°以上であれば好ましく、50°以上であればより好ましく、55°以上であれば更に好ましい。また、上記の第1傾斜貫通孔は1つでも良いし、複数でも良い。
【0009】
本発明に係る金属支持体の第3特徴構成は、前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記傾斜貫通孔として、前記金属支持体において裏側の開口部が表側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している第2傾斜貫通孔を有する点にある。
【0010】
本構成によれば、金属支持体の裏側面に沿って設けられたガス流路において、上記第2傾斜貫通孔から流れ方向を変更して当該ガス流路へ流出するガスの流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなるので、第2傾斜貫通孔からガス流路へのガスの流出をスムーズに行わせることができる。よって、電極層から第2傾斜貫通孔を通じてガス流路へのガスの排出を一層スムーズに行うことができる。なお、貫通孔の中心線が金属支持体の表側水平面に対して傾斜角度が90°未満であれば好ましく、85°以下であればより好ましく、80°以下であれば更に好ましい。また、複数の貫通孔において隣接する貫通孔が干渉しないように、貫通孔の中心線が金属支持体の表側水平面に対して傾斜角度が45°以上であれば好ましく、50°以上であればより好ましく、55°以上であれば更に好ましい。また、上記の第2傾斜貫通孔は1つでも良いし、複数でも良い。
【0011】
本発明に係る金属支持体の第4特徴構成は、前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路が、前記金属支持体の裏側面に沿って設けられ、
前記傾斜貫通孔として、第1傾斜貫通孔と第2傾斜貫通孔を有すると共に、
前記第1傾斜貫通孔が、前記金属支持体において表側の開口部が裏側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜しており、
前記第2傾斜貫通孔が、前記金属支持体において裏側の開口部が表側の開口部よりも前記ガス流路でのガス通流方向の下流側に位置する状態で傾斜している点にある。
【0012】
本構成によれば、金属支持体の裏側面に沿って設けられたガス流路において、当該ガス流路から流れ方向を変更して上記第1傾斜貫通孔に流入するガスの流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなるので、ガス流路から第1傾斜貫通孔へのガスの流入をスムーズに行わせることができる。よって、ガス通路から第1傾斜貫通孔を通じて電極層へのガスの供給を一層スムーズに行うことができる。
また、金属支持体の裏側面に沿って設けられたガス流路において、上記第2傾斜貫通孔から流れ方向を変更して当該ガス流路へ流出するガスの流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなるので、第2傾斜貫通孔からガス流路へのガスの流出をスムーズに行わせることができる。よって、電極層から第2傾斜貫通孔を通じてガス流路へのガスの排出を一層スムーズに行うことができる。
【0013】
本発明に係る金属支持体の第5特徴構成は、前記傾斜貫通孔が、前記金属支持体において表側の開口面積が裏側の開口面積より小さく形成されている点にある。
【0014】
本構成によれば、傾斜貫通孔の加工形成が更に容易になり、量産時の加工性とコストを改善でき好適である。
【0015】
本発明に係る金属支持体の第6特徴構成は、前記電極層が、前記傾斜貫通孔に挿入された挿入部を有する点にある。
【0016】
本構成によれば、金属支持体の表側面に電極材料のペーストを塗布して電極層を形成するにあたり、当該ペーストの一部が傾斜貫通孔に適度な深さまで進入することになり、その進入したペーストが上記挿入部として形成されることになる。そして、このような適度な深さの挿入部を設けることにより、金属支持体の上に電極層を形成しやすくなると共に電極層の強度を向上することができる。
【0017】
本発明に係る電気化学素子の特徴構成は、本発明に係る金属支持体を備え、その金属支持体の前記表側面に、電極層と電解質層と対極電極層とを設けて構成された点にある。
【0018】
本構成によれば、電極層にガスをスムーズに供給したり、電極層からガスをスムーズに排出できる上述の金属支持体の上に、電極層や電解質層や対極電極層などの電気化学素子の構成要素を形成するので、これら電極層などの電気化学素子の構成要素を薄層化や薄膜化することが可能となり、電気化学素子の材料コストを低減し、かつ高性能な電気化学素子を得ることが可能となる。
【0019】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路の少なくとも一部に、当該ガス流路内の流れを乱す乱流促進体を備えた点にある。
【0020】
本構成によれば、ガス流路の少なくとも一部に乱流促進体を設けることにより、ガス流を乱し、ガス流路内に形成される主流に対して、主流方向とは異なった方向(例えば主流に対して直交する流れ)の流れを形成することができる。結果、貫通孔を通じた電極層へのガスの供給を効率的に行える。
【0021】
本発明に係る電気化学素子の更なる特徴構成は、前記電極層に対して供受されるガスが通流するガス流路の少なくとも一部に、燃料ガスを改質する触媒反応部を備えた点にある。
【0022】
本構成によれば、ガス流路の少なくとも一部に触媒反応部を設けることにより、当該ガス流路を流れるガス(電極層に供給されるガス或いは電極層において生成されたガス)に触媒反応を起こさせることができる。例えば、電極層にメタン、水素等の燃料ガスを供給して、電気化学素子を燃料電池として働かせる場合は、電極層で生成されて貫通孔を通じてガス流路に流出する水蒸気を有効に利用して燃料ガスに含まれるメタンの改質(主には水蒸気改質)の用に供することができる。
更に、上述した乱流促進体の少なくとも一部の表面を上記改質反応部とすれば、これまで説明してきた乱流促進体によるガス流路内のガス流の制御に加えて、この乱流促進体による改質反応(上記の例では水蒸気改質)を行うことができる。
【0023】
本発明に係る電気化学モジュールの特徴構成は、本発明に係る電気化学素子を複数集合した状態で配置して構成された点にある。
【0024】
本構成によれば、電極層にガスをスムーズに供給したり、電極層からガスをスムーズに排出できる上述の金属支持体が、複数集合した状態で配置されるので、材料コストと加工コストを抑制しつつ、コンパクトで高性能な、強度と信頼性に優れた電気化学モジュールを得ることができる。
【0025】
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、本発明に係る電気化学素子もしくは本発明に係る電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに還元成分を含有するガスを供給する燃料変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールで生成する還元成分を含有するガスを変換する燃料変換器、とを備えた点にある。
【0026】
本構成によれば、上述の電気化学素子もしくは上述の電気化学モジュールを有し、上述の電気化学素子もしくは上述の電気化学モジュールに還元成分を含有するガスを供給する燃料変換器、又は、上述の電気化学素子もしくは上述の電気化学モジュールで生成する還元成分を含有するガスを変換する燃料変換器を有する。
このことで、電気化学素子もしくは電気化学モジュールを燃料電池として動作させる場合、改質器などの燃料変換器によって、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用いて供給される天然ガス等から水素を生成し、燃料電池に流通させる構成とすると、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現することができる。また、電気化学モジュールから排出される未利用の燃料ガスをリサイクルするシステムを構築し易くなるため、高効率な電気化学装置を実現することができる。
電気化学素子もしくは電気化学モジュールを電解セルとして動作させる場合は、例えば、水の電解反応によって生成する水素を燃料変換器で一酸化炭素や二酸化炭素と反応させてメタンなどに変換する電気化学装置とすることができるが、このような構成にすると、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現することができる。
【0027】
本発明に係る電気化学装置の別の特徴構成は、本発明に係る電気化学素子もしくは本発明に係る電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールから電力を取り出すあるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器とを備えた点にある。
【0028】
本構成によれば、電力変換器は、上述の電気化学素子もしくは上述の電気化学モジュールが発電した電力を取り出し、あるいは、上述の電気化学素子もしくは上述の電気化学モジュールに電力を流通する。これにより、上記のように電気化学素子もしくは電気化学モジュールは、燃料電池として作用し、あるいは、電解セルとして作用する。よって、上記構成によれば、燃料等の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換する、あるいは電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率を向上できる電気化学素子等を提供することができる。
例えば、電力変換器としてインバータを用いる場合、高性能な電気化学素子もしくは電気化学モジュールから得られる電気出力を、インバータによって昇圧したり、直流を交流に変換したりすることができるため、電気化学素子もしくは電気化学モジュールで得られる電気出力を利用しやすくなるので好ましい。
【0029】
本発明に係るエネルギーシステムの特徴構成は、本発明に係る電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部とを備えた点にある。
【0030】
本構成によれば、上述の電気化学装置と、その電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部を有するので、エネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現することができる。なお、電気化学装置から排出される未利用の燃料ガスの燃焼熱を利用して発電する発電システムと組み合わせてエネルギー効率に優れたハイブリットシステムを実現することもできる。
【0031】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルの特徴構成は、本発明に係る電気化学素子を備え、その電気化学素子で発電反応または電解反応を生じさせる点にある。
【0032】
本構成によれば、高性能な電気化学素子を固体酸化物形燃料電池として用いて発電反応を行ったり、高性能な電気化学素子を固体酸化物形電解セルとして用いて電解反応を行うことができるので、発電効率に優れた固体酸化物形燃料電池又は電解効率に優れた固体酸化物形電解セルを得る事ができる。なお、例えば、定格運転時に650℃以上の温度域で運転可能な固体酸化物形燃料電池であると、都市ガス等の炭化水素系ガスを原燃料とする燃料電池システムにおいて、原燃料を水素に変換する際に必要となる熱を燃料電池の排熱で賄うことが可能なシステムを構築できるため、燃料電池システムの発電効率を高めることができるので、より好ましい。また、定格運転時に900℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であると、金属支持型電気化学素子からのCr揮発の抑制効果が高められるのでより好ましく、定格運転時に850℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であると、Cr揮発の抑制効果を更に高められるので更に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】電気化学素子の構成を示す断面図
図2】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図3】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図4】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図5】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図6】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図7】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図8】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図9】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図10】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図11】金属支持体における貫通孔の形状及び配置例を示す拡大断面図
図12】電気化学素子における貫通孔部分の拡大断面図
図13】電気化学素子および電気化学モジュールの構成を示す概略図
図14】電気化学装置およびエネルギーシステムの構成を示す概略図
図15】別の形態の電気化学モジュールの構成を示す概略図
図16】別の形態の電気化学装置およびエネルギーシステムの構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示す電気化学素子Eは、例えば、水素を含む燃料ガスと空気の供給を受けて発電する固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell、以下「SOFC」と呼ぶ場合がある。)の構成要素である燃料電池単セルとして用いられる。なお以下、層の位置関係などを表す際、例えば電解質層Bから見てカソード電極層Cの側を「上」または「上側」、アノード電極層Aの側を「下」または「下側」という場合がある。また、金属支持体1におけるアノード電極層Aが形成されている側の面を表側面1a、反対側の面を裏側面1bという。
また、アノード電極層Aは単に「電極層」と呼ばれる場合もあり、カソード電極層Cは「対極電極層」と呼ばれる場合もある。
【0035】
(電気化学素子E)
電気化学素子Eは、図1に示すとおり、金属支持体1と、金属支持体1の上に形成されたアノード電極層Aと、アノード電極層Aの上に形成された中間層yと、中間層yの上に形成された電解質層Bとを有する。そして電気化学素子Eは、更に、電解質層Bの上に形成された反応防止層zと、反応防止層zの上に形成されたカソード電極層Cとを有する。つまりカソード電極層Cは電解質層Bの上に形成され、反応防止層zは電解質層Bとカソード電極層Cとの間に形成されている。アノード電極層Aは多孔質であり、電解質層Bは緻密である。
【0036】
電気化学素子Eは、金属支持体1の裏側面1bにU字部材7が取り付けられており、金属支持体1とU字部材7とで筒状支持体を形成している。そして、金属支持体1とU字部材7で囲われた空間が、ガスマニホールド17から改質ガスが供給されるガス流路Lとされる。
このガス流路Lの一方の端部(図14における上端側)が蓋部74で塞がれている。蓋部74には、ガス流路Lを流れた反応排ガスを外部(図14における燃焼部36)排出する排ガス排出口77が設けられる。蓋部74が設けられる端部とは逆側(図14における下端側)はガスマニホールド17に開口しており、ガス流路Lに対する改質ガスの入口とされる。
【0037】
そして、集電部材26を間に挟んで電気化学素子Eが複数積層(複数集合)されて、電気化学モジュールM(図13を参照)が構成されている。集電部材26は、電気化学素子Eのカソード電極層Cと、U字部材7とに接合され、両者を電気的に接続している。なお、集電部材26を省略して、電気化学素子Eのカソード電極層CとU字部材7とを直接電気的に接続する構成としても良い。
【0038】
(金属支持体1)
金属支持体1は、アノード電極層A、中間層yおよび電解質層B等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ。つまり金属支持体1は、電気化学素子Eを支持する支持体としての役割を担う。
【0039】
金属支持体1の材料としては、電子伝導性、耐熱性、耐酸化性および耐腐食性に優れた材料が用いられる。例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などが用いられる。特に、クロムを含む合金が好適に用いられる。本実施形態では、金属支持体1は、Crを18質量%以上25質量%以下含有するFe-Cr系合金を用いているが、Mnを0.05質量%以上含有するFe-Cr系合金、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金であると特に好適である。
【0040】
金属支持体1は全体として板状である。そして金属支持体1は、アノード電極層Aが設けられる面を表側面1aとして、表側面1aから裏側面1bへ貫通する複数の貫通孔2を有する。これら貫通孔2は、金属支持体1の裏側面1bから表側面1aへ気体を透過させる機能を有する。なお、板状の金属支持体1を曲げたりして、例えば箱状、円筒状などの形状に変形させて使用することも可能である。
【0041】
金属支持体1の表面に、金属酸化物からなる拡散抑制層xが設けられる。すなわち、金属支持体1と後述するアノード電極層Aとの間に、拡散抑制層xが形成されている。拡散抑制層xは、金属支持体1の外部に露出した面だけでなく、アノード電極層Aとの接触面(界面)にも設けられる。また、貫通孔2の内面に設けることもできる。この拡散抑制層xにより、金属支持体1とアノード電極層Aとの間の元素相互拡散を抑制することができる。例えば、金属支持体1としてクロムを含有するフェライト系ステンレスを用いた場合は、拡散抑制層xが主にクロム酸化物となる。そして、金属支持体1のクロム原子等がアノード電極層Aや電解質層Bへ拡散することを、クロム酸化物を主成分とする拡散抑制層xが抑制する。拡散抑制層xの厚さは、拡散防止性能の高さと電気抵抗の低さを両立させることのできる厚みであれば良い。
拡散抑制層xは種々の手法により形成されうるが、金属支持体1の表面を酸化させて金属酸化物とする手法が好適に利用される。また、金属支持体1の表面に、拡散抑制層xをスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、スパッタリング法やPLD法等のPVD法、CVD法などにより形成しても良いし、メッキと酸化処理によって形成しても良い。更に、拡散抑制層xは導電性の高いスピネル相などを含んでも良い。
【0042】
金属支持体1としてフェライト系ステンレス材を用いた場合、アノード電極層Aや電解質層Bの材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア、CGOとも呼ぶ)等と熱膨張係数が近い。従って、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電気化学素子Eがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。
【0043】
(金属支持体1および貫通孔2の構造)
図1に示すように、金属支持体1は1枚の金属の板により構成されており、その金属支持体1において、アノード電極層Aが設けられる表側面1aから裏側面1bに貫通する複数の貫通孔2が形成されている。
貫通孔2は、断面が円形の孔である。なお貫通孔2の断面形状は、円形や略円形の他、矩形や三角形、多角形なども可能であり、貫通孔2が形成できれば、金属支持体1としての機能を保てる範囲で種々の形状とすることができる。この貫通孔2は、レーザー加工、パンチング加工またはエッチング加工のいずれか、もしくは、それらの組合せによって、金属支持体1に形成されている。この孔の中心軸は、金属支持体1に対して直交している。
【0044】
図2図11に、貫通孔2を通じたアノード電極層Aに対するガスの供給及び排出をスムーズに行って電気化学素子Eの性能を向上するための貫通孔2の形状及び配置に関する実施例を示す。
これら実施例に示すように、金属支持体1には、貫通孔2として、厚み方向に対して中心軸が傾斜している第1傾斜貫通孔2A,2At及び第2傾斜貫通孔2B,2Btと、厚み方向に対して中心軸が平行な平行貫通孔2Cなどが設けられている。
尚、図2図11において、ガスマニホールド17側の下端部を左側とし、燃焼部36側の上端部を右側として、ガス流路Lにおけるガス通流方向Fを左側から右側へ向かう方向として、金属支持体1及びガス流路Lの断面状態を示している。
【0045】
第1傾斜貫通孔2A,2At(図2,5-11を参照。)は、金属支持体1において表側の開口部が裏側の開口部よりもガス通流方向Fの下流側に位置する状態で傾斜している貫通孔2である。一方、第2傾斜貫通孔2B,2Bt(図3,4,6-11を参照。)は、金属支持体1において表側の開口部が裏側の開口部よりもガス通流方向Fの上流側に位置する状態で傾斜している貫通孔2である。
【0046】
即ち、金属支持体1において上記第1傾斜貫通孔2A,2Atが設けられていることにより、ガス流路Lから流れ方向を変更して第1傾斜貫通孔2A,2Atに流入する改質ガス(H)の流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなる。よって、ガス流路Lから第1傾斜貫通孔2A,2Atへの改質ガスの流入がスムーズに行われる。
一方、金属支持体1において上記第2傾斜貫通孔2B,2Btが設けられていることにより、ガス流路Lにおいて、第2傾斜貫通孔2B,2Btから流れ方向を変更して当該ガス流路Lへ流出する水蒸気(HO)の流れ方向の変更角度が90°未満と小さくなるので、第2傾斜貫通孔2B,2Btからガス流路Lへの水蒸気の流出がスムーズに行われる。
【0047】
さらに、図6-8,10,11に示す配置例では、ガス流路Lでのガス通流方向Fに沿って、第1傾斜貫通孔2A,2Atが上流側に位置し、その下流側に第2傾斜貫通孔2B,2Btが位置する。この構成により、ガス流路Lから第1傾斜貫通孔2A,2Atを通じてアノード電極層Aへの改質ガス(H)の供給と、アノード電極層Aから第2傾斜貫通孔2B,2Btを通じてガス流路Lへの水蒸気(HO)の排出とが、ガス流路Lでのガス通流方向Fに沿ってスムーズに行われる。また、第1傾斜貫通孔2A,2Atの中心軸と第2傾斜貫通孔2B,2Btの中心軸とが、金属支持体1の表側(図における上側)において交差又は近接した状態となるので、その交差又は近接する箇所を基準にして貫通孔2を加工するためのレーザー光等の光源を配置することができる。
【0048】
図6,8,10,11に示す配置例では、金属支持体1をガス通流方向Fに沿って上流側の領域と下流側の領域に分けて、その上流側の領域に複数の上記第1傾斜貫通孔2A,2Atが配置され、その下流側の領域に複数の上記第2傾斜貫通孔2B,2Btが配置されている。また、図8,10,11に示す配置例では、これら上記第1傾斜貫通孔2Aと上記第2傾斜貫通孔2Bとの間の領域に平行貫通孔2Cが適宜配置されている。
一方、図7に示す配置例では、一の第1傾斜貫通孔2Atとそれの直下流側に位置する一の第2傾斜貫通孔2Btからなる一対の傾斜貫通孔2At,2Btが、ガス通流方向Fに沿って複数配置されている。
【0049】
図2-5,8-11の配置例で示す第1傾斜貫通孔2A及び第2傾斜貫通孔2Bは、中心軸に沿って直径が変化しない形状とされているが、図6,7の配置例で示す第1傾斜貫通孔2At及び第2傾斜貫通孔2Btは、金属支持体1において表側面1aの開口面積が裏側面1bの開口面積より小さく形成されており、具体的には金属支持体1において表側面1aから裏側面1bに向けて漸次拡径するテーパー状に形成されている。この構成により、金属支持体1の表側の光源から照射するレーザー光による傾斜貫通孔2A,2Bの加工形成が更に容易になる。
【0050】
また、図12に示すように、アノード電極層Aが、上述の傾斜貫通孔2に挿入された挿入部Aaを有する。即ち、詳細については後述するが、金属支持体1の表側面1aにアノード電極材料のペーストを塗布してアノード電極層Aを形成するにあたり、当該ペーストの一部が傾斜貫通孔2に適度な深さまで進入する。そして、この進入したペーストが上記挿入部Aaとして形成される。このような適度な深さの挿入部Aaが設けられていることで、金属支持体1の上にアノード電極層Aを形成しやすくなると共にアノード電極層Aの強度が向上する。
【0051】
(ガス流路L内の構造)
図8-11に示す例では、ガス流路Lに、当該ガス流路1内の流れを乱す乱流促進体80が設けられている。この構成により、ガス流路1内の改質ガス流が乱されて、ガス流路1内に形成される主流に対して、主流方向とは異なった方向(例えば主流に対して直交する流れ)の流れが形成される。結果、貫通孔2を通じた電極層Aへの改質ガスの供給が効率的に行われる。尚、図示では、ガス流路Lに球体を複数充填して乱流促進体80とする例を示しているが、ガス流路Lに網状体を配置して乱流促進体するなど、乱流促進体の形状等については適宜改変することができる。
また、図8,9の例に示すようにガス流路L全体に乱流促進体80を配置したり、図10.11の例に示すようにガス流路Lの一部(例えば下流側の領域)に乱流促進体80を配置したりなど、ガス流路Lにおける乱流促進体80の配置範囲については適宜設定することができる。
【0052】
更に、図9,10に示す例では、ガス流路Lに、当該ガス流路1を通流する燃料ガスガスを水素に改質する触媒反応部81が設けられており、具体的には、乱流促進体80の表面の少なくとも一部に触媒反応部81が設けられている。例えば、乱流促進体80の表面に金属酸化物担体に活性金属としてのルテニウムを担持した触媒層を触媒反応部81として設けておく。このようにすると、電気化学素子Eを燃料電池として働かせる場合、ガス流路Lには、外部改質により得られる水素の他、改質対象となる燃料ガス(改質前ガス:具体的にはメタンを主成分とする還元性ガス)が流れることがある。そして、アノード電極層Aにおいて生成する水蒸気をガス流路Lに戻すことにより、上記触媒反応部81においてガス流路Lに流入した燃料ガスを水蒸気改質することができる。当然、生成される水素や一酸化炭素は、下流側において貫通孔2を介してアノード電極層Aに供給して、発電の用に供することができる。
【0053】
(アノード電極層A)
アノード電極層Aは、図1に示すように、金属支持体1の表側面1aであって複数の貫通孔2が設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価なアノード電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。複数の貫通孔2が設けられた領域の全体が、アノード電極層Aに覆われている。つまり、複数の貫通孔2は金属支持体1におけるアノード電極層Aが形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔2がアノード電極層Aに面して設けられている。
【0054】
アノード電極層Aの材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。なお、アノード電極層Aは、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好なアノード電極層Aが得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0055】
アノード電極層Aは、気体透過性を持たせるため、その内部および表面に複数の細孔を有する。
すなわちアノード電極層Aは、多孔質な層として形成される。アノード電極層Aは、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0056】
(中間層y)
中間層y(挿入層)は、図1に示すように、アノード電極層Aを覆った状態で、アノード電極層Aの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層yの材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0057】
中間層yは、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層yが得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0058】
中間層yとしては、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層yは、電気化学素子Eへの適用に適している。
【0059】
(電解質層B)
電解質層Bは、図1に示すように、アノード電極層Aおよび中間層yを覆った状態で、中間層yの上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。詳しくは電解質層Bは、図1に示すように、中間層yの上と金属支持体1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層Bを金属支持体1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0060】
電解質層Bは、図1に示すように、金属支持体1の表側面1aであって複数の貫通孔2が設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、複数の貫通孔2は金属支持体1における電解質層Bが形成された領域の内側に形成されている。
【0061】
電解質層Bの周囲においては、アノード電極層Aおよび中間層yからのガスのリークを抑制することができる。説明すると、電気化学素子EをSOFCの燃料電池単セルとして用いる場合、SOFCの作動時には、金属支持体1の裏側から貫通孔2を通じてアノード電極層Aへガスが供給される。電解質層Bが金属支持体1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。なお、本実施形態では電解質層Bによってアノード電極層Aの周囲をすべて覆っているが、アノード電極層Aおよび中間層yの上部に電解質層Bを設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0062】
電解質層Bの材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等の酸素イオンを伝導する電解質材料や、ペロブスカイト型酸化物等の水素イオンを伝導する電解質材料を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層Bをジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Eを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスや種々の水素イオン伝導性材料に比べて高くすることができる。例えば電気化学素子EをSOFCに用いる場合、電解質層Bの材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。
【0063】
電解質層Bは、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層Bが得られる。そのため、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層Bが低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0064】
電解質層Bは、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層Bの緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層Bは、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層Bが、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層を形成しやすくできるからである。
【0065】
(反応防止層z)
反応防止層zは、電解質層Bの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは3μm~15μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。反応防止層zの材料としては、電解質層Bの成分とカソード電極層Cの成分との間の反応を防止できる材料であれば良いが、例えばセリア系材料等が用いられる。また反応防止層zの材料として、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有する材料が好適に用いられる。なお、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有し、これら元素の含有率の合計が1.0質量%以上10質量%以下であるとよい。反応防止層zを電解質層Bとカソード電極層Cとの間に導入することにより、カソード電極層Cの構成材料と電解質層Bの構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Eの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層zの形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0066】
(カソード電極層C)
カソード電極層Cは、電解質層Bもしくは反応防止層zの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価なカソード電極層C材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。カソード電極層Cの材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特にカソード電極層Cが、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成されるカソード電極層Cは、カソードとして機能する。
【0067】
なお、カソード電極層Cの形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PDV法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0068】
(SOFC)
以上のように電気化学素子Eを構成することで、この電気化学素子Eを燃料電池単セルとして機能させる場合には、電気化学素子EをSOFCの単セルとして用いることができる。例えば、金属支持体1の裏側面1bから複数の貫通孔2を通じて水素を含む燃料ガスをアノード電極層Aへ流通し、アノード電極層Aの対極となるカソード電極層Cへ空気を流通し、例えば、500℃以上900℃以下の温度で作動させる。そうすると、カソード電極層Cにおいて空気に含まれる酸素Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層Bを通ってアノード電極層Aへ移動する。アノード電極層Aにおいては、供給された燃料ガスに含まれる水素Hが酸素イオンO2-と反応し、水HO(水蒸気)と電子eが生成される。
電解質層Bに水素イオンを伝導する電解質材料を用いた場合には、アノード電極層Aにおいて流通された燃料ガスに含まれる水素Hが電子eを放出して水素イオンHが生成される。その水素イオンHが電解質層Bを通ってカソード電極層Cへ移動する。カソード電極層Cにおいて空気に含まれる酸素Oと水素イオンH、電子eが反応し水HOが生成される。
以上の反応により、アノード電極層Aとカソード電極層Cとの間に起電力が発生する。この場合、アノード電極層AはSOFCの燃料極(アノード)として機能し、カソード電極層Cは空気極(カソード)として機能する。
【0069】
(電気化学素子Eの製造方法)
次に、電気化学素子Eの製造方法について説明する。
【0070】
(アノード電極層形成ステップ)
アノード電極層形成ステップでは、金属支持体1の表側面1aの複数の貫通孔2が設けられた領域より広い領域にアノード電極層Aが薄膜の状態で形成される。金属支持体1に対して複数の貫通孔2はレーザー加工等によって設けることができる。アノード電極層Aの形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属支持体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0071】
アノード電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まずアノード電極層Aの材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属支持体1の表側面1aに塗布する。そしてアノード電極層Aを圧縮成形し(アノード電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(アノード電極層焼成工程)。アノード電極層Aの圧縮成形は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、アノード電極層Aの焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。また、アノード電極層平滑化工程とアノード電極層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
なお、中間層yを有する電気化学素子Eを形成する場合では、アノード電極層平滑化工程やアノード電極層焼成工程を省いたり、アノード電極層平滑化工程やアノード電極層焼成工程を後述する中間層平滑化工程や中間層焼成工程に含めることもできる。
なお、アノード電極層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0072】
また、上述のアノード電極層Aの圧縮成形において、金属支持体1の表側面1aに塗布された材料ペーストの一部は、金属支持体1に形成された貫通孔2に適度な深さまで進入し、その進入した部分が、上述した挿入部Aa(図12参照)となる。
【0073】
(拡散抑制層形成ステップ)
上述したアノード電極層形成ステップにおける焼成工程時に、金属支持体1の表面に拡散抑制層xが形成される。なお、上記焼成工程に、焼成雰囲気を酸素分圧が低い雰囲気条件とする焼成工程が含まれていると元素の相互拡散抑制効果が高く、抵抗値の低い良質な拡散抑制層xが形成されるので好ましい。アノード電極層形成ステップを、焼成を行わないコーティング方法とする場合を含め、別途の拡散抑制層形成ステップを含めても良い。いずれにおいても、金属支持体1の損傷を抑制可能な1100℃以下の処理温度で実施することが望ましい。また、後述する中間層形成ステップにおける焼成工程時に、金属支持体1の表面に拡散抑制層xが形成されても良い。
【0074】
(中間層形成ステップ)
中間層形成ステップでは、アノード電極層Aを覆う形態で、アノード電極層Aの上に中間層yが薄層の状態で形成される。中間層yの形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属支持体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0075】
中間層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。
まず、中間層yの材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属支持体1の表側面1aに塗布する。そして中間層yを圧縮成形し(中間層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(中間層焼成工程)。中間層yの圧延は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing 、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、中間層yの焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。このような温度であると、金属支持体1の損傷・劣化を抑制しつつ、強度の高い中間層yを形成できるためである。また、中間層yの焼成を1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、中間層yの焼成温度を低下させる程に、金属支持体1の損傷・劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Eを形成できるからである。また、中間層平滑化工程と中間層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
なお、中間層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0076】
(電解質層形成ステップ)
電解質層形成ステップでは、アノード電極層Aおよび中間層yを覆った状態で、電解質層Bが中間層yの上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成されても良い。電解質層Bの形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属支持体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0077】
緻密で気密性およびガスバリア性能の高い、良質な電解質層Bを1100℃以下の温度域で形成するためには、電解質層形成ステップをスプレーコーティング法で行うことが望ましい。その場合、電解質層Bの材料を金属支持体1上の中間層yに向けて噴射し、電解質層Bを形成する。
【0078】
(反応防止層形成ステップ)
反応防止層形成ステップでは、反応防止層zが電解質層Bの上に薄層の状態で形成される。反応防止層zの形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属支持体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。なお反応防止層zの上側の面を平坦にするために、例えば反応防止層zの形成後にレベリング処理や表面を切削・研磨処理を施したり、湿式形成後焼成前に、プレス加工を施してもよい。
【0079】
(カソード電極層形成ステップ)
カソード電極層形成ステップでは、カソード電極層Cが反応防止層zの上に薄層の状態で形成される。カソード電極層Cの形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属支持体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0080】
以上の様にして、電気化学素子Eを製造することができる。
なお、電気化学素子Eにおいて、中間層y(挿入層)と反応防止層zとは、何れか一方、あるいは両方を備えない形態とすることも可能である。すなわち、アノード電極層Aと電解質層Bとが接触して形成される形態、あるいは電解質層Bとカソード電極層Cとが接触して形成される形態も可能である。この場合に上述の製造方法では、中間層形成ステップ、反応防止層形成ステップが省略される。なお、他の層を形成するステップを追加したり、同種の層を複数積層したりすることも可能であるが、いずれの場合であっても、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0081】
(電気化学モジュールM)
電気化学モジュールMは、図14に示すように、ガスマニホールド17、集電部材26、終端部材および電流引出し部を有する。複数積層された電気化学素子Eは、筒状支持体の一方の開口端部がガスマニホールド17に接続されて、ガスマニホールド17から気体の供給を受ける。供給された気体は、筒状支持体の内部を通流し、金属支持体1の貫通孔2を通ってアノード電極層Aに供給される。
【0082】
(エネルギーシステムZおよび電気化学装置Y)
図3に示すように、エネルギーシステムZは、電気化学装置Yと、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部としての熱交換器53とを有する。
電気化学装置Yは、電気化学モジュールMと、脱硫器31と外部改質器34とからなる燃料変換器を有し電気化学モジュールMに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部と、電気化学モジュールMから電力を取り出すインバータ38(電力変換器の一例)とを有する。
【0083】
電気化学装置Yは、脱硫器31、改質水タンク32、気化器33、外部改質器34、ブロア35、燃焼部36、インバータ38、制御部39、収納容器40および電気化学モジュールMを有する。
【0084】
脱硫器31は、都市ガス等の炭化水素系の原燃料に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器31を備えることにより、硫黄化合物による外部改質器34あるいは電気化学素子Eに対する影響を抑制することができる。気化器33は、改質水タンク32から供給される改質水から水蒸気を生成する。外部改質器34は、気化器33にて生成された水蒸気を用いて脱硫器31にて脱硫された原燃料を水蒸気改質して、水素を含む改質ガスを生成する。
【0085】
電気化学モジュールMは、外部改質器34から供給された改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを用いて、電気化学反応させて発電する。燃焼部36は、電気化学モジュールMから排出される反応排ガスと空気とを混合させて、反応排ガス中の可燃成分を燃焼させる。
【0086】
電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eとガスマニホールド17とを有する。複数の電気化学素子Eは互いに電気的に接続された状態で並列して配置され、電気化学素子Eの一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されている。電気化学素子Eは、ガスマニホールド17を通じて供給される改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを電気化学反応させて発電する。
【0087】
インバータ38は、電気化学モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧および同じ周波数にする。制御部39は電気化学装置YおよびエネルギーシステムZの運転を制御する。
【0088】
気化器33、外部改質器34、電気化学モジュールMおよび燃焼部36は、収納容器40内に収納される。そして外部改質器34は、燃焼部36での反応排ガスの燃焼により発生する燃焼熱を用いて原燃料の改質処理を行う。
【0089】
原燃料は、昇圧ポンプ41の作動により原燃料供給路42を通して脱硫器31に供給される。改質水タンク32の改質水は、改質水ポンプ43の作動により改質水供給路44を通して気化器33に供給される。そして、原燃料供給路42は脱硫器31よりも下流側の部位で、改質水供給路44に合流されており、収納容器40外にて合流された改質水と原燃料とが収納容器40内に備えられた気化器33に供給される。
【0090】
改質水は気化器33にて気化され水蒸気となる。気化器33にて生成された水蒸気を含む原燃料は、水蒸気含有原燃料供給路45を通して外部改質器34に供給される。外部改質器34にて原燃料が水蒸気改質され、水素ガスを主成分とする改質ガス(還元性成分を有する第1気体)が生成される。外部改質器34にて生成された改質ガスは、改質ガス供給路46を通して電気化学モジュールMのガスマニホールド17に供給される。
【0091】
ガスマニホールド17に供給された改質ガスは、複数の電気化学素子Eに対して分配され、電気化学素子Eとガスマニホールド17との接続部である下端から電気化学素子Eに供給される。改質ガス中の主に水素(還元性成分)が、電気化学素子Eにて電気化学反応に使用される。反応に用いられなかった残余の水素ガスを含む反応排ガスが、電気化学素子Eの上端から燃焼部36に排出される。
【0092】
反応排ガスは燃焼部36で燃焼され、燃焼排ガスとなって燃焼排ガス排出口50から収納容器40の外部に排出される。燃焼排ガス排出口50には燃焼触媒部51(例えば、白金系触媒)が配置され、燃焼排ガスに含有される一酸化炭素や水素等の還元性成分を燃焼除去する。燃焼排ガス排出口50から排出された燃焼排ガスは、燃焼排ガス排出路52により熱交換器53に送られる。
【0093】
熱交換器53は、燃焼部36における燃焼で生じた燃焼排ガスと、供給される冷水とを熱交換させ、温水を生成する。すなわち熱交換器53は、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部として動作する。
【0094】
なお、排熱利用部の代わりに、電気化学モジュールMから(燃焼されずに)排出される反応排ガスを利用する反応排ガス利用部を設けてもよい。反応排ガスには、電気化学素子Eにて反応に用いられなかった残余の水素ガスが含まれる。反応排ガス利用部では、残余の水素ガスを利用して、燃焼による熱利用や、燃料電池等による発電が行われ、エネルギーの有効利用がなされる。
【0095】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0096】
(1)電気化学モジュールMの他の実施形態を図15に示す。この電気化学モジュールMは、上述の電気化学素子Eを、セル間接続部材71を間に挟んで積層することで、電気化学モジュールMを構成する。
セル間接続部材71は、導電性を有し、かつ気体透過性を有さない板状の部材であり、表面と裏面に、互いに直交する溝72が形成されている。セル間接続部材71はステンレス等の金属や、金属酸化物を用いることができる。
図15に示すように、このセル間接続部材71を間に挟んで電気化学素子Eを積層すると、溝72を通じて気体を電気化学素子Eに供給することができる。詳しくは一方の溝72が第1気体流路72aとなり、電気化学素子Eの表側、すなわちカソード電極層Cに気体を供給する。他方の溝72が第2気体流路72bとなり、電気化学素子Eの裏側、すなわち金属支持体1の裏側の面から貫通孔2(図1参照)を通じてアノード電極層Aへ気体を供給する。
この電気化学モジュールMを燃料電池として動作させる場合は、第1気体流路72aに酸素を供給し、第2気体流路72bに水素を供給する。そうすると電気化学素子Eにて燃料電池としての反応が進行し、起電力・電流が発生する。発生した電力は、積層された電気化学素子Eの両端のセル間接続部材71から、電気化学モジュールMの外部に取り出される。
なお、図15に示す形態では、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに直交する溝72を形成したが、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに並行する溝72を形成することもできる。
【0097】
(2)上記の実施形態では、電気化学素子EをSOFCの単セルに用いたが、電気化学素子Eは、固体酸化物形電解セルや、固体酸化物を利用した酸素センサ等に利用することもできる。
すなわち、上記の実施形態では、燃料等の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換する効率を向上できる構成について説明した。
つまり、上記の実施形態では、電気化学素子E及び電気化学モジュールMを燃料電池として動作させ、アノード電極層Aに水素ガスが流通され、カソード電極層Cに酸素ガスが流通される。そうすると、カソード電極層Cにおいて酸素分子Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層Bを通ってアノード電極層Aへ移動する。アノード電極層Aにおいては、水素分子Hが酸素イオンO2-と反応し、水HOと電子eが生成される。以上の反応により、アノード電極層Aとカソード電極層Cとの間に起電力が発生し、発電が行われる。
一方、電気化学素子E及び電気化学モジュールMを電解セルとして動作させる場合は、アノード電極層Aに水蒸気や二酸化炭素を含有するガスが流通され、アノード電極層Aとカソード電極層Cとの間に電圧が印加される。そうすると、アノード電極層Aにおいて電子eと水分子HO、二酸化炭素分子COが反応し水素分子Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。酸素イオンO2-は電解質層Bを通ってカソード電極層Cへ移動する。カソード電極層Cにおいて酸素イオンO2-が電子を放出して酸素分子Oとなる。以上の反応により、水分子HOが水素Hと酸素Oとに、二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
【0098】
水蒸気と二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は上記電気分解により電気化学素子E及び電気化学モジュールMで生成した水素及び一酸化炭素等から炭化水素などの種々の化合物などを合成する燃料変換器91を設けることができる。燃料供給部(図示せず)により、この燃料変換器91が生成した炭化水素等を本システム・装置外に取り出して別途燃料として利用することができる。また、燃料変換器91で水素や一酸化炭素を化学原料に変換して利用することもできる。
図16に示すエネルギーシステムでは、電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eとガスマニホールド17及びガスマニホールド171とを有する。複数の電気化学素子Eは互いに電気的に接続された状態で並列して配置され、電気化学素子Eの一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されており、他方の端部(上端部)がガスマニホールド171に固定されている。電気化学素子Eの一方の端部(下端部)におけるガスマニホールド17は、水蒸気及び二酸化炭素の供給を受ける。そして、電気化学素子Eの電気化学素子Eで上述の反応により生成した水素及び一酸化炭素等が、電気化学素子Eの他方の端部(上端部)と連通するマニホールド171によって収集される。
図16中の熱交換器90を、燃料変換器91で起きる反応によって生ずる反応熱と水とを熱交換させ気化する排熱利用部として動作させるとともに、図16中の熱交換器92を、電気化学素子Eによって生ずる排熱と水蒸気および二酸化炭素とを熱交換させ予熱する排熱利用部として動作させる構成とすることにより、エネルギー効率を高めることができる。
また、電力変換器93は、電気化学素子Eに電力を流通する。これにより、上記のように電気化学素子Eは、電解セルとして作用する。
よって、上記構成によれば、電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率を向上できる電気化学素子E等を提供することができる。
【0099】
(3)上記の実施形態では、アノード電極層Aの材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用い、カソード電極層Cの材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用いた。このように構成された電気化学素子Eは、アノード電極層Aに水素ガスを供給して燃料極(アノード)とし、カソード電極層Cに空気を供給して空気極(カソード)とし、SOFCの単セルとして用いることが可能である。この構成を変更して、アノード電極層Aを空気極とし、カソード電極層Cを燃料極とすることが可能なように、電気化学素子Eを構成することも可能である。すなわち、アノード電極層Aの材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用い、カソード電極層Cの材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いる。このように構成した電気化学素子Eであれば、アノード電極層Aに空気を供給して空気極とし、カソード電極層Cに水素ガスを供給して燃料極とし、電気化学素子EをSOFCの単セルとして用いることができる。
【0100】
(4)上記の実施形態では、電気化学素子Eとして主に平板型や円筒平板型の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いたが、円筒型の固体酸化物形燃料電池などの電気化学素子に利用することもできる。
【0101】
(5)上記の実施形態において、電気化学装置Yは、複数の電気化学素子Eを備える電気化学モジュールMを備えている。しかし、上記の実施形態の電気化学装置Yは1つの電気化学素子Eを備える構成にも適用可能である。
【0102】
(6)上記の実施形態では、電気化学素子Eは、金属支持体1の裏面にU字部材7が取り付けられており、金属支持体1とU字部材7との2部材で筒状支持体を形成する構成としたが、一部材を用いて金属支持体1とU字部材7とを一体的に形成して筒状支持体とする構成としても良く、また、3部材以上の部材を用いて筒状支持体を形成しても良い。
また、U字部材7を省略して金属支持体1によりアノード電極層A等を支持する構成としても良い。
【符号の説明】
【0103】
1 金属支持体
1a 表側面
1b 裏側面
2 貫通孔
2A,2At 第1傾斜貫通孔
2B、2Bt 第2傾斜貫通孔
91 燃料変換器
93 電力変換器
A アノード電極層(電極層)
Aa 挿入部
B 電解質層
C カソード電極層
E 電気化学素子
F ガス通流方向
L ガス流路
M 電気化学モジュール
Y 電気化学装置
Z エネルギーシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16