(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】軟質ポリウレタンフォーム
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20240228BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20240228BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20240228BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C08G18/00 F
C08G18/48 004
C08G18/40 009
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2020065278
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】宮村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】林 佑樹
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130998(WO,A1)
【文献】特開2011-184487(JP,A)
【文献】特開2018-062588(JP,A)
【文献】特開2016-204434(JP,A)
【文献】特開2012-167221(JP,A)
【文献】特開2019-014288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とイソシアネート成分と発泡剤を少なくとも含むポリウレタンフォーム用組成物を発泡、硬化させて得られる軟質ポリウレタンフォームであって、
前記ポリオール成分は、数平均分子量が2000以上4000以下であり、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の含有率が60%以上100%以下であるポリエーテルポリオール(1)と、
数平均分子量が2000以上4000以下であり、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の含有率が0%以上20%以下であるポリエーテルポリオール(2)とを含み、
前記ポリオール成分の合計量100質量部に対する前記ポリエーテルポリオール(1)と前記ポリエーテルポリオール(2)の含有比率は、ポリエーテルポリオール(1)/ポリエーテルポリオール(2)=75質量部以上85質量部以下/25質量部以上15質量部以下であり、
更に前記ポリウレタンフォーム用組成物は、ポリロタキサンを含み、前記ポリロタキサンは、環状分子と直鎖状分子と封鎖基を有し、前記環状分子はシクロデキストリンからなり、前記直鎖状分子はポリエチレングリコールからなり、前記封鎖基はアダマンタン基からなり、前記シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に2-ヒドロキシプロピル基が置換し、該2-ヒドキシプロピル基の水酸基にポリカプロラクトン鎖が置換し、該ポリカプロラクトン鎖末端の少なくとも一部が一級水酸基を有しており、前記ポリロタキサンの含有量は、前記ポリオール成分の合計量100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下であり、
前記イソシアネート成分におけるイソシアネートインデックスが、105以上125以下であ
り、
セル数が10個/25mm以上30個/25mm未満である、ことを特徴とする軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記ポリエーテルポリオール(1)と前記ポリエーテルポリオール(2)とを混合してなる混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率が、54%以上62%以下である請求項1に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記ポリエーテルポリオール(1)の平均官能基数が2以上4以下である請求項1又は2に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオール(2)の平均官能基数が2以上4以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項5】
JIS K 6400―7 B法(フラジール式通気量)に準拠して測定される通気量が、150mml/cm
2/sec以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項6】
JIS K 6400―4(繰返し圧縮残留歪試験、定変位法)に準拠して測定される繰返し圧縮残留歪が、0.1%以上1.0%以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具、家具等のクッション性材料等に用いられる軟質ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にベッドマットレス、クッションシート、枕、布団、ソファー等の寝具類、家具類等にはクッション性材料が用いられているが、このクッション性材料として従来から軟質ポリウレタンフォームが用いられている。軟質ポリウレタンフォームは身体との接触領域での体圧分散性に優れており、寝具類、家具類等におけるクッション性材料として好適なものである。しかし、従来の軟質ポリウレタンフォームにおいては、通気性が十分でなく、改善の余地があった。
【0003】
下記特許文献1には、吸湿性および放湿性が高いポリウレタンフォームの製造方法が開示されている。この製造方法により製造されたポリウレタンフォームは、寝具等に用いられ、吸湿性および放湿性が向上したものとなっているが、通気性が十分でないという欠点がある。
【0004】
一般に、ベッドマットレス、クッションシート等において、使用する際の蒸れを抑制できることが求められ、また吸湿された湿気を乾燥により放散するには良好な通気性が求められる。ポリウレタンフォームの通気性を向上させるために、ポリオール成分中のエチレンオキサイドの含有率を高める方法と、無膜加工を施す方法が知られている。しかし、ポリオール成分中のエチレンオキサイドの含有率を高める方法においては、エチレンオキサイドの含有率を高めることによってセル膜が連通し通気性が得られるが、セル径の大きさに過度なばらつきが生じ、十分な通気性を得ることができず、また小さなセルに水蒸気等が詰まってしまう虞があった。
【0005】
一方、無膜加工を施す方法においては、通気性を向上できるが、同様にフォームの持つセル径が小さいことに起因して十分な通気性を得ることは困難であるという問題がある。加えて、無膜加工で使用する燃焼ガスである水素と酸素の反応により水が生成し、ここにおいてエチレンオキサイドの含有率の高いポリオールを用いたポリウレタンフォームでは、エチレンオキサイドの含有率が高いことによって親水性が付与されるため、ポリウレタンフォーム内に水が付着し、水の除去が困難となる不具合が生じる。
【0006】
本発明者等は、ポリウレタンフォームに高い通気性を付与する技術を確立するため、ポリウレタンフォーム用組成物にポリロタキサンを添加することを検討した。下記特許文献2には、ポリロタキサンを含有するポリウレタンフォーム用組成物を用いて製造してなるポリウレタンフォームが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-2979号公報
【文献】WO2017/130998号再公表特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に記載されたポリウレタンフォームにおいて、ポリウレタンフォーム用組成成分としてポリロタキサンが含有されており、粘弾性特性、圧縮残留歪、耐久性等の向上がみられたことが同文献に記載されている。しかしながら、同文献に示されたポリウレタンフォームは通気性が十分でないという欠点がある。また耐久性についても十分でなく、いまだ改善の余地があった。
【0009】
本発明は上記従来の問題点に鑑みなされたもので、高い通気性と高い耐久性の両特性を備えた軟質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するための手段として、
(1)ポリオール成分とイソシアネート成分と発泡剤を少なくとも含むポリウレタンフォーム用組成物を発泡、硬化させて得られる軟質ポリウレタンフォームであって、
前記ポリオール成分は、数平均分子量が2000以上4000以下であり、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の含有率が60%以上100%以下であるポリエーテルポリオール(1)と、
数平均分子量が2000以上4000以下であり、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の含有率が0%以上20%以下であるポリエーテルポリオール(2)とを含み、
前記ポリオール成分の合計量100質量部に対する前記ポリエーテルポリオール(1)と前記ポリエーテルポリオール(2)の含有比率は、ポリエーテルポリオール(1)/ポリエーテルポリオール(2)=75質量部以上85質量部以下/25質量部以上15質量部以下であり、
更に前記ポリウレタンフォーム用組成物は、ポリロタキサンを含み、前記ポリロタキサンは、環状分子と直鎖状分子と封鎖基を有し、前記環状分子はシクロデキストリンからなり、前記直鎖状分子はポリエチレングリコールからなり、前記封鎖基はアダマンタン基からなり、前記シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に2-ヒドロキシプロピル基が置換し、該2-ヒドキシプロピル基の水酸基にポリカプロラクトン鎖が置換し、該ポリカプロラクトン鎖末端の少なくとも一部が一級水酸基を有しており、前記ポリロタキサンの含有量は、前記ポリオール成分の合計量100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下であり、
前記イソシアネート成分におけるイソシアネートインデックスが、105以上125以下であり、
セル数が10個/25mm以上30個/25mm未満である、ことを特徴とする軟質ポリウレタンフォーム、
(2)前記ポリエーテルポリオール(1)と前記ポリエーテルポリオール(2)とを混合してなる混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率が、54%以上62%以下である前記(1)に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
(3)前記ポリエーテルポリオール(1)の平均官能基数が2以上4以下である前記(1)又は(2)に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
(4) 前記ポリエーテルポリオール(2)の平均官能基数が2以上4以下である前記(1)~(3)のいずれかに記載の軟質ポリウレタンフォーム、
(5)JIS K 6400―7 B法(フラジール式通気量)に準拠して測定される通気量が、150mml/cm2/sec以上である前記(1)~(4)のいずれかに記載の軟質ポリウレタンフォーム、
(6)JIS K 6400―4(繰返し圧縮残留歪試験、定変位法)に準拠して測定される繰返し圧縮残留歪が、0.1%以上1.0%以下である前記(1)~(5)のいずれかに記載の軟質ポリウレタンフォーム
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い通気性と高い耐久性の両特性を備えた軟質ポリウレタンフォームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明実施形態における軟質ポリウレタンフォームは、ポリオール成分とイソシアネート成分と発泡剤と添加剤としてのポリロタキサンを含むポリウレタンフォーム用組成物を用いてウレタン反応により製造されるものである。次に、ポリウレタンフォーム用組成物の組成成分について説明する。
【0013】
(ポリオール成分)
ポリオール成分は、ポリエーテルポリオール(1)とポリエーテルポリオール(2)とを含む。
【0014】
(ポリエーテルポリオール(1))
ポリエーテルポリオール(1)としては、数平均分子量が2000以上4000以下のものが好ましく、3000以上4000以下がより好ましい。本実施形態において用いられるポリエーテルポリオールにおいて、ポリオール中に含有されるエチレンオキサイドの含有率は、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の含有率(以下、エチレンオキサイド含有率という)として表すことができる。ポリエーテルポリオール(1)におけるエチレンオキサイド含有率は、60%以上100%以下であることが好ましく、70%以上80%以下がより好ましい。エチレンオキサイド含有率が60%未満であると、ポリエーテルポリオール(2)との含有比率によっては、ウレタン発泡時にセル膜の連通が十分でなく、高い通気性が得られない虞がある。
【0015】
(ポリエーテルポリオール(2))
ポリエーテルポリオール(2)としては、数平均分子量が2000以上4000以下のものが好ましく、3000以上4000以下がより好ましい。またポリエーテルポリオール(2)におけるエチレンオキサイド含有率は、0%以上20%以下であることが好ましく、0%以上15%以下がより好ましい。エチレンオキサイド含有率が20%を超えると、ポリエーテルポリオール(1)との含有比率によっては、ウレタン発泡時にセルが過度に粗大化し、良好なフォームが得られない虞がある。
【0016】
本実施形態におけるポリウレタンフォーム用組成物中のポリオール成分は、上記の如くエチレンオキサイド含有率の高いポリエーテルポリオール(1)と、エチレンオキサイド含有率がポリエーテルポリオール(1)よりも低いポリエーテルポリオール(2)との混合物であり、ポリエーテルポリオール(1)とポリエーテルポリオール(2)とを混合してなる混合ポリオールにおいて、上記ポリオール(1)と(2)の混合割合によって、エチレンオキサイド含有量を合計した全体量としての含有率(以下、「混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率」という)も区々となる。この混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率は、ポリエーテルポリオール(1)と(2)のそれぞれ有するエチレンオキサイド含有率と、ポリエーテルポリオール(1)と(2)の混合割合を基に計算により求めることができる。例えば、エチレンオキサイド含有率が72%のポリエーテルポリオール(1)と、エチレンオキサイド含有率が0%のポリエーテルポリオール(2)とを、ポリエーテルポリオール(1)/ポリエーテルポリオール(2)=75質量部/25質量部の混合割合で混合した場合の混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率は、54%となる。この混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率を特定の範囲に規定することにより、セルの粗大化を図っても、セル骨格を維持できるため、通気性を向上させるために、セルの過度な連通化を図ったとしても、フォームにコラップス(亀裂)が生じるのを防止できる。その結果、通気量を大きくでき、優れた通気性をフォームに付与できる。
【0017】
混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率は、54%以上62%以下であることが好ましい。このエチレンオキサイド合計含有率が54%未満では、セルの粗大化が十分ではなく、通気性を増大できない。また62%を超えると、セルの粗大化が大きくなりすぎ、フォームにコラップス(亀裂)が生じる虞がある。ポリエーテルポリオール(1)の平均官能基数は、2以上4以下が好ましく、またポリエーテルポリオール(2)の平均官能基数も同様に、2以上4以下が好ましい。
【0018】
(水酸基価)
ポリエーテルポリオール(1)の水酸基価は、28mgKOH/g以上60mgKOH/g以下が好ましい。またポリエーテルポリオール(2)の水酸基価は、28mgKOH/g以上60mgKOH/g以下が好ましい。ここにおいて、水酸基価は、JIS K 1557 1に基づき測定することができる。
【0019】
(ポリエーテルポリオール(1)と(2)の含有比率)
ポリオール成分の合計量100質量部に対するポリエーテルポリオール(1)とポリエーテルポリオール(2)の含有比率は、ポリエーテルポリオール(1)/ポリエーテルポリオール(2)=75質量部以上85質量部以下/25質量部以上15質量部以下であることが好ましい。このような含有比率とすることにより、ポリオールにおけるエチレンオキサイド含有率が高まり、それによりセルの連通化が促進され、フォームの通気性を大きなものにすることができる。前記含有比率が、ポリエーテルポリオール(1)/ポリエーテルポリオール(2)=80質量部以上85質量部以下/20質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0020】
前記ポリエーテルポリオール(1)とポリエーテルポリオール(2)の含有比率において、ポリエーテルポリオール(1)の含有量が、75質量部未満であると(従って、ポリエーテルポリオール(2)の含有量が、25質量部を超えると)、ポリロタキサンと作用するエチレンオキサイド含有率の高いポリオールの量が十分でなく、ウレタン発泡後に樹脂が収縮してしまい、良好なフォームが得られない。またポリエーテルポリオール(1)の含有量が、85質量部を超えると(従って、ポリエーテルポリオール(2)の含有量が、15質量部未満であると)、ウレタン発泡時にセルが過度に連通して粗大化し、フォームにコラップス(亀裂)が生じ、良好なフォームが得られない。
【0021】
(その他のポリオール)
ポリオール成分として、上記したポリエーテルポリオール(1)、ポリエーテルポリオール(2)以外の第3のポリオール成分を含むことができる。この場合の第3のポリオール成分の含有量は、ポリオール成分全体量100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。前記含有量が10質量部を超えると、フォームの通気性が低下する虞がある。
【0022】
(ポリロタキサン)
本実施形態において、ポリウレタンフォーム用組成物にポリロタキサンが添加剤として配合される。ポリロタキサンは、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に包接され、直鎖状分子の両端に封鎖基が配置された構造を有する。環状分子としてシクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコール、封鎖基としてアダマンタン基等が挙げられる。ポリロタキサンの構造として、環状分子であるシクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に2-ヒドロキシプロピル基が置換し、該2-ヒドロキシプロピル基の水酸基にポリカプロラクトン鎖が置換し、該ポリカプロラクトン鎖末端の少なくとも一部が一級水酸基を有する構造が好ましい。封鎖基は、直鎖状分子から環状分子が脱離しないようにして直鎖状分子に環状分子が包接された状態を維持するものである。
【0023】
前記直鎖状分子としてのポリエチレングリコールの数平均分子量は、10000以上35000以下が好ましく、10000以上20000以下がより好ましく、10000が最も好ましい。環状分子であるシクロデキストリンとしては、α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンが挙げられ、それらの中から選択されることが好ましく、特に、α―シクロデキストリンが好ましい。
【0024】
前記の如く環状分子としてのシクロデキストリンは末端にポリカプロラクトン鎖を有し、このポリカプロラクトン鎖の末端の少なくとも一部に一級水酸基を有し、この末端水酸基はイソシアネート成分と反応してポリウレタンを生成する官能基として働く。ポリカプロラクトン鎖の末端水酸基の一部は不活性基で置換されていてもよい。不活性基としては、メチル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチルカルバモイル基、シクロヘキシルカルバモイル基等が挙げられ、なかでもブチルカルバモイル基が好ましい。このようにポリカプロラクトン鎖の末端水酸基の一部を不活性基で置換することにより、ポリロタキサンの極性の調整、ポリロタキサンとポリオールの相溶性の調整、反応基である水酸基の数の調整を行うことができる。
【0025】
ポリロタキサンの全体の数平均分子量は、500000以下が好ましく、400000以下がより好ましく、200000以下が更に好ましい。ポリロタキサンの水酸基価は、25mgKOH/g以上70mgKOH/g以下が好ましく、30mgKOH/g以上55mgKOH/g以下がより好ましく、35mgKOH/g以上45mgKOH/g以下が更に好ましい。ここにおいて、ポリロタキサンの水酸基価は、JIS 0070-1992に基づき測定した数値である。
【0026】
ポリウレタンフォーム用組成物におけるポリロタキサンの含有量は、ポリオール成分の合計量100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、0.3質量部以上5質量部以下がより好ましい。ポリロタキサンの含有量が0.1質量部未満では樹脂の架橋密度が低くなり、セルが小さくなり、十分な通気性が得られない。5質量部を超えると、セルが粗大化しフォームにコラップス(亀裂)が生じ、良好なフォームが得られない。ポリロタキサンの含有量を0.1質量部以上5質量部以下とすることにより、架橋密度が高くなり、セルが大きくなり、十分な通気性が得られる上、圧縮残留歪が小さくなる。
【0027】
(イソシアネート成分)
イソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられるが、トリレンジイソシアネート(TDI)が好ましい。イソシアネート成分におけるイソシアネートインデックスは、105以上125以下が好ましい。イソシアネートインデックスが105未満ではフォームにコラップス(亀裂)が生じ、良好なフォームが得られない。また125を超えると、繰返し圧縮残留歪が大きくなり、十分な耐久性が得られない。
【0028】
イソシアネートインデックスは、イソシアネート成分に含まれるイソシアネート基と、
ポリオール成分及び発泡剤の水等に含まれる活性水素の当量比を算出することで特定することができる。
【0029】
(発泡剤)
発泡剤としては、軟質ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを適用でき、例えば水が好適に用いられる。発泡剤の添加量は、軟質ポリウレタンフォームの用途に応じて適宜設定される。例えば、軟質ポリウレタンフォームをマットレスとして使用した際に、マットレスの密度や40%圧縮硬さを適切にする観点では、ポリオール成分100質量部に対して発泡剤としての水が1.5質量部以上3.0質量部以下となるように添加することが好ましい。
【0030】
本実施形態においてポリウレタンフォーム用組成物には、上記の成分以外に触媒、整泡剤を添加することができ、更にその他の各種の添加剤を添加することができる。
【0031】
(触媒)
触媒としては、トリエチレンジアミン(TEDA)、トリエチルアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチルモルホリン、ジメチルアミノメチルフェノール、イミダゾール等の3級アミン化合物等のアミン系触媒を用いることができる。また、スタナスオクトエート等の錫化合物、ニッケルアセチルアセトネート等のニッケル化合物等の金属系触媒を用いることもできる。これら触媒としては単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(整泡剤)
整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを適用でき、例えば、シロキサン-ポリエーテルブロック共重合体のシリコーン系化合物が好適に用いられる。
【0033】
(他の添加剤)
上記以外の他の添加剤としては、難燃剤、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、相溶化剤、着色剤、安定剤、紫外線吸収剤等軟質ポリウレタンフォームの製造に際して一般的に使用可能な添加剤を挙げることができる。これらの添加剤の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲内において適宜選択できる。
【0034】
本実施形態において、ポリオール成分にポリロタキサンが配合されていることによって、ウレタンポリマーとポリロタキサンとが、ポリロタキサンの環状分子を介して結合又は架橋した構造が得られる。また環状分子相互が架橋する態様もある。このように架橋点が増えるので強度特性が向上する。またポリロタキサンは、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に包接されており、環状分子は直鎖状分子上を自由に動くことができる構造となっており、それにより、環状分子の動きによって架橋点も移動することになる。従って、軟質ポリウレタンフォームに外力が加わった場合、ポリロタキサンの架橋点が動くことでフォームに伸縮性を付与できる上、局部的な応力集中を抑制できるのでフォームの耐久性を向上できと共に、圧縮残留歪を小さくできる。
【0035】
本実施形態は、ポリオール成分として、エチレンオキサイド含有率が60%以上100%以下であるポリエーテルポリオール(1)と、エチレンオキサイド含有率が0%以上20%以下であるポリエーテルポリオール(2)とを併用するものであり、このようにポリエーテルポリオール(1)と、ポリエーテルポリオール(2)とを併用することにより、セルを大きくすることができ、通気量を増大できる。またポリオール成分にポリロタキサンを配合しているので、ポリロタキサン添加によってもセルを大きくすることができ、通気量を増大できる。このように、ポリエーテルポリオール(1)と、ポリエーテルポリオール(2)とを併用するという特定のポリオール成分を用い且つポリロタキサンを添加成分として配合するという組成によって、セルを粗大化でき、それにより高い通気性を有し且つ高い耐久性を有するフォームを実現することができた。
【0036】
更に、ポリオール成分にポリロタキサンが配合されていることによって、上記の如く架橋点が増え、それによりセル骨格が強くなるという効果が生じる。その結果、セルが粗大化してもセルの過度な連通化やセルの崩壊が起こらず、それによりフォームにコラップス(亀裂)が発生するのを防止できる。しかしながら、セルが著しく過度に粗大化してしまうと、ポリロタキサン添加による上記効果によってもセルの過度な連通化やセルの崩壊を抑止できず、フォームにコラップス(亀裂)が発生してしまう。本実施形態はポリエーテルポリオール(1)と、ポリエーテルポリオール(2)とを併用するので、セルの粗大化を適切な大きさの範囲に止めることができ、相当程度セルを粗大化して通気量を増大するように形成しても、セルの過度な連通化やセルの崩壊は起こらず、フォームにコラップス(亀裂)が発生するのを防止できる。
【0037】
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、適度な硬さを維持したまま、高い通気性と高い耐久性を備えるものである。通気性は通気量の大きさによって評価することができ、また耐久性は各種の強度特性によって評価することができるが、なかでも繰返し圧縮残留歪の大きさによって評価することが好ましい。
【0038】
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、通気性および耐久性を向上したものとして、ベッドマットレス、クッションシート、枕、布団、ソファー等の寝具類、家具類等に好適に用いられる。
【0039】
(軟質ポリウレタンフォームの製造方法)
ポリオール、ポリロタキサン、発泡剤、触媒、整泡剤を混合して混合物を調製し、この混合物にイソシアネートを混合してポリウレタンフォーム用組成物を調製し、このポリウレタンフォーム用組成物をベルトコンベア上に吐出する。該ベルトコンベアを移動させ、常温、大気圧下において、上記混合物を自然発泡させウレタン反応を生じせしめることにより、長尺ブロック状の軟質ポリウレタンフォームを得ることができる。
【0040】
次に本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0041】
表1~表3に示すポリウレタンフォーム用組成物であるポリオール、イソシアネート、ポリロタキサン、発泡剤、触媒および整泡剤を用意した。ポリオールは表中に、ポリオールA、B、C、Dと表示されているように4種類用意した。ポリオールA(三井化学SKCポリウレタン株式会社製、商品名アクトコールEP-505S)は、エチレンオキサイド含有率が72%、数平均分子量が3366、平均官能基数が3であり、ポリエーテルポリオール(1)に相当する。ポリオールB(三井化学SKCポリウレタン株式会社製、商品名アクトコールT-3000)は、エチレンオキサイド含有率が0%、数平均分子量が3000、平均官能基数が3であり、ポリエーテルポリオール(2)に相当する。ポリオールC(三井化学SKCポリウレタン株式会社社製、商品名アクトコールGE-46E)
は、エチレンオキサイド含有率が約12%、数平均分子量が3914、平均官能基数が3であり、ポリエーテルポリオール(2)に相当する。ポリオールDはグリセリンに水酸化カリウムを触媒として用いてプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドをランダム付加させて得られ、エチレンオキサイド含有率が30%、数平均分子量が3000、平均官能基数が3であり、ポリエーテルポリオール(1)、(2)のいずれにも相当しない。
【0042】
イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)(三井化学SKCポ
リウレタン株式会社製、コスモネートT-80)を用意した。トリレンジイソシアネート(TDI)は、イソシアネートインデックスが、表1~表3に記載のように、それぞれ100,105,115,125,130となるようにした。
【0043】
ポリロタキサンとしては、環状分子と直鎖状分子と封鎖基を有し、環状分子はシクロデキストリンからなり、直鎖状分子はポリエチレングリコールからなり、封鎖基はアダマンタン基からなり、シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に2-ヒドロキシプロピル基が置換し、該2-ヒドキシプロピル基の水酸基にポリカプロラクトン鎖が置換し、該ポリカプロラクトン鎖末端の少なくとも一部が一級水酸基を有しているもの(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、商品名SB1300P)を用意した。
【0044】
発泡剤としては水を用いた。
【0045】
触媒としては、トリエチレンジアミン(TEDA)(東ソー株式会社製、商品名TOYOCAT-TEDA L-33)を用意した
【0046】
整泡剤としては、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製、商品名SF-2904)を用意した。
【0047】
実施例1~16、比較例1~10
表1~表3に示すような配合量にてポリオール、ポリロタキサン、発泡剤、触媒および整泡剤の各成分を混合して混合物を調製した。表1、表2は実施例を示し、表3は比較例を示す。ポリオールの組成に関して、実施例1~15は、ポリオールAとポリオールBを表1、表2に示す配合割合にて混合したものを用い、実施例16は、ポリオールAとポリオールCを表2に示す配合割合にて混合したものを用いた。また比較例1~4および8~10は、ポリオールAとポリオールBを表3に示す配合割合にて混合したものを用い、比較例7は、ポリオールAとポリオールDを表3に示す配合割合にて混合したものを用い、比較例5は、ポリオールD単独のものを用い、比較例6は、ポリオールB単独のものを用いた。各実施例、比較例における混合ポリオールのエチレンオキサイド合計含有率は、表1~表3に、それぞれ「EO合計含有率」として示されている。
【0048】
前記混合物にイソシアネート成分を混合してポリウレタンフォーム用組成物を調製し、
このポリウレタンフォーム用組成物をベルトコンベア上に吐出した。該ベルトコンベアを移動させ、常温、大気圧下において、上記混合物を自然発泡させウレタン反応を生じせしめることにより、幅が1000mm、高さが約400mmである長尺ブロック状の軟質ポリウレタンフォームを得た。尚、表1~表3における各成分の配合量を示す数値は、質量部を表す。
【0049】
実施例1~16、比較例1~10で得られた軟質ポリウレタンフォームのフォーム形状(フォームの形成状態)、密度、硬さ(40%圧縮硬さ)、圧縮残留歪(75%70℃)、繰返し圧縮残留歪、セル数および通気量について評価を行った。結果を表1~表3に示す。
【0050】
評価方法は以下の通りである。
(フォーム形状)
得られたブロック状の軟質ポリウレタンフォームを所定長さに切り出し、この切り出した試験片を24時間放置した後、軟質ポリウレタンフォーム裁断面を目視により観察し、以下の通り評価した。
○:正常なフォームが形成されている。
△:フォームは形成されるが、セルの一部にコラップスが生じている。
×(1)独立気泡となるか、或いは一部が収縮しており、正常なフォームが得られなかった。
×(2):セルの安定化が不十分なため、フォームが形成される前にセルが崩壊し、コラップスが生じている。
【0051】
(密度)
軟質ポリウレタンフォームを、スキン層を除き、縦380mm×横380mm×厚み50mmの寸法に裁断してブロック体を作製した。このブロック体を用い、JIS K 7222:2005に準拠して、軟質ポリウレタンフォームの見掛け密度(Kg/m3)を測定した。
【0052】
(40%圧縮硬さ)
軟質ポリウレタンフォームの40%圧縮硬さ(N)は、JIS K 6400―2 A法に準拠して測定した。40%圧縮硬さは、50N以上100N以下が好ましい。
【0053】
(圧縮残留歪)
軟質ポリウレタンフォームを、スキン層を除き、縦50mm×横50mm×厚み25mmの寸法に裁断してブロック体を作製した。このブロック体を用い、JIS K 6400―4:2012に準拠し、温度を70℃、厚み方向の圧縮する比率を75%として、22時間放置し、その後、圧縮状態を解除して室内にて30分間回復させた後、厚み方向の寸法を測定し、軟質ポリウレタンフォームの圧縮残留歪を求めた。圧縮残留歪は、0.1%以上10%以下が好ましい。
【0054】
(繰返し圧縮残留歪)
軟質ポリウレタンフォームの繰返し圧縮残留歪は、JIS K 6400―4(繰返し圧縮残留歪試験、定変位法)に準拠して測定した。繰返し圧縮残留歪は、0.1%以上1.0%以下が好ましい。
【0055】
(セル数)
軟質ポリウレタンフォームのセル数は、JIS K 6400(附属書)に準拠して測定した。セル数は、10個/25mm以上30個/25mm未満が好ましい。
【0056】
(通気量)
軟質ポリウレタンフォームの通気性は、通気量(mml/cm2/sec)によって特定することができる。前記フォームの通気量は、JIS K 6400―7 B法(フラジール式通気量)に準拠して測定した。通気量は、150mml/cm2/sec以上が好ましい。
【0057】
【0058】
【0059】