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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】家畜の初乳品質改善剤及び方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/174 20160101AFI20240228BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20240228BHJP
   A23K 50/20 20160101ALI20240228BHJP
   A23K 50/30 20160101ALI20240228BHJP
【FI】
A23K20/174
A23K50/10
A23K50/20
A23K50/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020105596
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021193979
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】592172574
【氏名又は名称】明治飼糧株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(72)【発明者】
【氏名】大谷 喜永
(72)【発明者】
【氏名】長岡 絵理
(72)【発明者】
【氏名】小原 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】岩下 有宏
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-192514(JP,A)
【文献】特開2017-158539(JP,A)
【文献】特開2018-174729(JP,A)
【文献】特表2012-527416(JP,A)
【文献】特開2016-096726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上であるビタミンK類を分娩予定前21日から分娩までの期間に家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の初乳に含まれる免疫グロブリン含量の増加及びN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)活性の向上及びラクトフェリン含量の増加、の少なくともひとつを改善する家畜の初乳品質改善方法。
【請求項2】
ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上であるビタミンK類を分娩予定前21日から分娩までの期間に家畜に乾乳期に通常給与する飼料とともに経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の初乳に含まれる免疫グロブリン含量の増加及びN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)活性の向上及びラクトフェリン含量の増加、の少なくともひとつを改善する家畜の初乳品質改善方法。
【請求項3】
家畜が、牛、豚、羊、山羊、馬から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上であるビタミンK類を1日当たり10~200mg/頭経口投与又は給与することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上であるビタミンK類が、精製物、粗製物、含有物から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の初乳品質改善剤、及びその方法に関する。詳細には、簡便且つ効果的に、家畜の初乳中における免疫グロブリン含量を増加させる及び/又はN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)活性を向上させる剤、及び/又はラクトフェリン含量を増加させる剤、飼料組成物、飼養方法等に関する。
特に、本発明は、家畜に対する剤、飼料組成物、飼養方法等のなかでも、初乳、すなわち、家畜の分娩直後の乳についての技術であることが中心的な特徴である。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、羊、山羊などの様に乳及び/又は肉等が商品となる家畜においては、飼育している個体の体調不良や病気等は、酪農農家や畜産農家にとって深刻且つ直接的な経営問題となる。しかし、生産性やコストなどを重視する点から、大規模・集約型の飼育環境を採用する場合も多くあり、このような飼育環境が原因による感染症等は予防が極めて困難である。
そして、本発明においては、このような状況の中、下記するような特質を有する仔畜に着目し、特に仔畜に有効な初乳の品質を向上させることを目的とするものである。通常の成熟した個体への家畜用剤、飼料組成物、飼養方法等とは、技術分野が異なるものであると言える。
【0003】
すなわち、特に仔畜においては、出生後から離乳期にかけて免疫機能が未熟であり、且つ給与される飼料の変化、輸送や環境の変化によるストレスなどの影響を受け、下痢症、呼吸器疾患、各種感染症に罹りやすい。例えば、仔ウシの下痢症は、仔ウシ疾病の約75%を占める最も多い疾病であって、畜産農家にとって極めて大きな経済的損失の原因となっている。
【0004】
通常、仔畜の未熟な免疫機能を補うために、各母畜の初乳から免疫グロブリンなどの免疫物質を給与する。しかし、初乳に含まれる免疫物質含量は母畜によるバラツキが大きいことから、仮に初乳の給与量としては適切であっても必要十分な量の免疫物質を仔畜へ給与できないことがある。その場合、仔畜は自身の免疫機能が発達するまで、各種感染症などに罹患する危険性が非常に高くなる。
【0005】
仔畜の免疫機能発達がなされる前の時期の各種感染症予防において、初乳中の免疫物質の中でも免疫グロブリンが最も大きな役割を示す。上述のような背景技術において、当業界では、免疫グロブリン含量が高い、より良い品質の初乳を生産させる方法や、或いは仔畜の免疫グロブリン吸収能を高める方法が望まれている。
【0006】
初乳中の免疫グロブリン含量が高まった事例として、βカロテンが不足している黒毛和種牛母畜に対し、βカロテンが高いにんじんを給与したケースが報告されている(非特許文献1)。一方、仔畜の免疫グロブリン吸収能を高める方法として、仔牛に対し初乳と共にセレン化合物を給与することが知られている(特許文献1)。
【0007】
N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)は、細胞を構成する成分であるライソゾームに含まれる加水分解酵素で細菌の細胞壁構成成分であるN-アセチル-β-D-グルコサミニドを分解する機能を持つ。乳牛が乳房炎に感染した際、乳腺上皮細胞が細菌を貪食した際にNAGaseが細菌を分解する効果を発揮することが知られており、抗菌作用を有する。
【0008】
又、NAGase(Bifidbacterium longum subsp. Infantis ATCC 15697由来)は、初乳ホエイ中の糖タンパク質と反応させることで、腸管における有用菌を増やすなどの生理活性を有するN-結合型グリカンを効率的に生産する(非特許文献2)。
【0009】
初乳の定義については学術上明確なものはなく、分娩後最初の乳汁のみや、分娩後5日目まで、分娩後1週間以内、分娩後10日目までと様々な解釈がある。国内においては、分娩後5日までの乳汁を食品として流通させることは家畜種を問わず禁じられている。
本願においては、初乳とは、分娩5日目までのものをいうこととする。
【0010】
ビタミンK類は血液凝固因子や骨基質タンパク質の翻訳後修飾過程において必須の栄養成分とされており、例えば、天然にはビタミンK1(フィロキノン)とビタミンK2(メナキノン-4~14)、合成品としてビタミンK3(メナジオン)、ビタミンK4(メナジオール二リン酸ナトリウム)、ビタミンK5(4-アミノ-2-メチル-1-ナフトール)等が存在する。このうち、ヒトでの使用が認められているのはビタミンK1、ビタミンK2、ビタミンK4である。
【0011】
なお、ビタミンK3はヒトでの利用は禁止されているが、家畜用としての利用は許可され、例えば哺乳子ウシ用の飼料添加物として代用乳への添加などがされている。また、牛、羊、山羊などの反芻家畜に対し、ビタミンK3を給与することで免疫機能を賦活化することができるという報告もある(特許文献2)。しかし、ビタミンK類が家畜初乳中の免疫グロブリン含量に与える影響を調査したという報告等は、現状では見当たらない。
【0012】
マウスやヒトの免疫細胞では、ビタミンK3が酸化還元依存的な炎症反応及び免疫反応を抑制したこと(非特許文献3)や、ビタミンK3やビタミンK5が活性化T細胞における増殖応答を阻害し、アポトーシスを誘導することによってT細胞媒介性免疫を弱めること(非特許文献4)などの実験報告があり、いずれもビタミンK類の免疫機能抑制能が示唆されていると言える。
【0013】
【文献】特開2006-160661号公報
【文献】特開2018-174729号公報
【文献】Animal Science Journal (2017) 88, 653-658
【文献】Biotechnol Prog. 2015 Sep-Oct;31(5):1331-9.
【文献】Free Radical Research Vol.45, 975-985. (2011)
【文献】Life Science Vol. 99, 61-68 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、牛、豚、羊、山羊、馬などの家畜が生産する初乳の品質を高めることができるような栄養生理学的技術(経口投与又は給与成分、飼料組成物、飼養方法等)の提供を目的としてなされたものである。
そして、上記したように、仔畜は健康維持機能が未熟であり、また、死亡・病気になったときなどに特に経済的価値における損失が大きいこと等から、成熟した家畜におけるのと大きく異なる、特別な配慮・飼養が必要となる。本願発明は、この点を解決することに特化したものであり、そのために初乳の品質改善に着目したのである。よって、成熟した家畜についての剤・飼養等とは解決課題としても大きく異なるものである。
なお、仔畜、特に新生子牛については、疾病に対する抵抗力を持っていない。母牛の免疫は子牛が初乳を摂取することにより受動伝達される。母牛血中から初乳へ移行する免疫グロブリンの多くはIgGで子牛の腸管から吸収されて血中へ移行し、感染防御抗体として働く。また、血中移行抗体は腸管に再分泌され腸管局所の感染防御に作用する。良質な初乳摂取が不十分であると受動免疫伝達不全が起き、疾病発生率や死亡率が高くなると言われている。子牛が摂取したIgGの腸管から血中への移行は生後24時間で停止するため、最悪24時間以内できれば12時間以内望ましくは6時間以内に与える初乳の成分内容が重要となる。上述の通り初乳の成分の構成により、子牛の抵抗力・生存率等が大きく変わってくることとなるからである。したがって、本発明も、特に意義を有するのは、分娩直後から24時間以内できれば6時間以内の給与に用いる初乳の品質改善なのである、という言い方もできる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、家畜に有効成分としてビタミンK類、例えばビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)などを配合した飼料組成物等を家畜に経口投与又は給与することで、簡便且つ効果的に家畜が生産する初乳の免疫グロブリン含量を増加せしめ、且つNAGase活性を向上させること、そして更にラクトフェリン含量を増加せしめることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ビタミンK3などのビタミンK類を分娩(予定)前21日(前後)から分娩までの期間に家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の初乳品質改善方法。
本願技術分野の特性上、投与・給与期間については、母牛の状態や前年の気候等により、前後させてもよい。例えば、分娩予定前28日前後から開始してもよいし、分娩予定前30日前後から、分娩までの期間としても、本発明の効果を奏ることができる。また、乾乳期の60日間前後のすべての期間、投与・給与してもよい。
(2)ビタミンK3などのビタミンK類を分娩(予定)前21日(前後)から分娩までの期間に家畜に乾乳期に通常給与する飼料とともに経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の初乳品質改善方法。
(3)ビタミンK類が、ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)初乳の品質改善が初乳に含まれる免疫グロブリン含量の増加及びN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)活性の向上及びラクトフェリン含量の増加、の少なくともひとつであること、を特徴とする(1)~(3)のいずれかひとつに記載の方法。
(5)品質改善が、分娩3日目の免疫グロブリン濃度が(約)8.0g/L以上、7.9g/L以上であること、分娩3日目のNAGase活性が(約)55.0nmol/min/mL以上であること、分娩直後の免疫グロブリン濃度が116.4~163.6g/Lであること、分娩直後のラクトフェリン含量が70.3~172.5μg/mL、もしくはこれ以上であること、の少なくともひとつであること、を特徴とする(4)に記載の方法。
(6)家畜が、牛、豚、羊、山羊、馬から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)~(5)のいずれかひとつに記載の方法。
(7)ビタミンK類を1日当たり10~200mg/頭経口投与又は給与することを特徴とする、(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)ビタミンK類が、精製物、粗製物、含有物から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)~(7)のいずれかひとつに記載の方法。
(9)ビタミンK3などのビタミンK類を有効成分とする家畜の初乳品質改善剤。
(10)初乳の品質改善が初乳に含まれる免疫グロブリン含量増加であること及びNAGase活性を向上させること及びラクトフェリン含量増加であること、の少なくともひとつであること、を特徴とする(9)に記載の剤。
(11)家畜が、牛、豚、羊、山羊、馬から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(9)又は(10)に記載の剤。
(12)ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)から選ばれる少なくとも1以上を有効成分とする、(9)~(11)に記載の剤。
(13)該有効成分が、精製物、粗製物、含有物から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(9)~(12)のいずれかに記載の剤。
(14)(9)~(13)のいずれかひとつに記載の剤を経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の初乳品質改善方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便且つ効果的に家畜の初乳中免疫グロブリン含量を増加させると同時にNAGase活性を向上させることができる。また、初乳中のラクトフェリン含量を増加させることもできる。このことにより良質な初乳を生産させることができるので、仔畜の疾病率を低下させ、酪農経営や畜産経営の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1における分娩3日目の乳汁中免疫グロブリン(IgG)濃度(g/L)を示す。白四角部は対照区、黒四角部はビタミンK3給与区を示す。
図2】実施例1における分娩3日目の乳汁中NAGase活性(p-ニトロフェノール nmol/min/mL)を示す。白四角部は対照区、黒四角部はビタミンK3給与区を示す。
図3】実施例1における分娩3日目の乳汁中ラクトフェリン濃度(μg/mL)を示す。白四角部は対照区、黒四角部はビタミンK3給与区を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、家畜の初乳品質改善を為す有効成分として、ビタミンK類を使用する。ビタミンK類としては、天然ビタミンKとしてビタミンK1(フィロキノン)及びビタミンK2(メナキノン-4~14)、合成ビタミンKとしてビタミンK3(メナジオン)、ビタミンK4(メナジオール二リン酸ナトリウム)、ビタミンK5(4-アミノ-2-メチル-1-ナフトール)が使用でき、また、ビタミンKに類似した化学構造を有する1,4-ナフトキノンや1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)なども使用できるが、特に、ビタミンK1、ビタミンK2(好ましくはメナキノン-4及び/又はメナキノン-7)、ビタミンK3から選ばれる1以上を使用するのが好適である。
【0021】
これらビタミンK類については、純品乾燥物を使用するのが好適であるが、その粗精製物(ペースト化物、希釈物、乳化物、懸濁物など)も使用可能である。また、デンプンやデキストリン等の賦形剤を加えて顆粒化したり、タブレットや液剤にしたりして製剤化したものも使用可能である。さらには、ルーメンで分解されないように油脂等でコーティングしたものも使用可能である。
【0022】
このビタミンK類を有効成分として、そのまま飼料添加物、飼料、飼料組成物、その他の剤として使用することができる。また、常用される飼料成分を添加、混合して、飼料添加物、飼料、飼料組成物を提供することも可能である。このような飼料組成物等とする場合には、飼料原料に加えて、他の栄養成分(タンパク質、脂質、ミネラル(カリウム、ナトリウム、マグネシウム等)、ビタミンK類以外のビタミン(ビタミンA、ビタミンE等))などを併用できる。さらには、これらを有効成分とする動物医薬製剤を提供することもできる。この場合は、動物医薬製剤の常法にしたがって製剤化すればよく、他の生理機能を有する有効成分を併用することもできる。
【0023】
動物医薬製剤の場合には、種々の形態で経口投与される。その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与などをあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの動物医薬剤等の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。なお、ビタミンK類等の有効成分純品乾燥物をそのまま製剤として用いることも可能である。
【0024】
なお、このようにして製剤化したものは、動物医薬剤として使用できるだけでなく、この製剤自体を飼料添加物等として使用することも充分可能であって、それ自体を飼料組成物として直接家畜に給与することもできるし、これを飼料添加物として他の飼料原料等とともに添加、混合して飼料組成物とすることも可能である。
【0025】
本発明の対象となる動物は、その乳、肉などが商品となる家畜である。例えば、乳牛(特にホルスタイン種、ジャージー種など)、肉牛(和牛など)、豚、羊、山羊などがより好適な対象動物として例示される。けれども、水牛、ラクダ、ヤク、馬などを対象としても構わない。
【0026】
本発明の有効成分の家畜への経口投与又は給与量としては、例えば乳牛であれば、ビタミンK類は1日・頭の経口投与又は給与で10~200mg、好ましくは10~100mg、更に好ましくは10~50mgが好適である。そして、この量の経口投与又は給与を1日当たり2回程度に分けて行うのが好ましい。有効成分の経口投与又は給与量が当該範囲より多い場合、安全性やその効果という点において特段の問題はないが、コスト面などから上記範囲内の方が好ましい。また、当該範囲より少ない場合には、本発明の効果が十分発揮されない恐れがあるため好ましくない。
なお、他の家畜においても、その体重等を勘案して経口投与又は給与量を設定すれば良いが、乳牛も含め上記以外の経口投与又は給与量を完全に除外するものではない。
【0027】
そして、本願においては、上述した解決しようとする課題からも明らかなように、その給与時期が重要な要素となる。通常、特に牛においては、分娩により乳期がはじまり、次期分娩前概ね60日前程度まで続く。当該期においては、母牛に対し、総合ビタミン剤を給与し、安全・健康な分娩に備えさせる。
【0028】
次に、次期分娩概ね60日前から次期分娩までは乾乳期に入る。本願発明は、この乾乳期にビタミンK類を給与(投与)するものである。好適には例えば、この期の後半21日間または分娩(予定)21日前において、分娩後の初乳の品質を向上させるため、ビタミンK類を給与することが本願発明の中心的意義なのである。この期においては、通常、配合飼料やバイパス蛋白質、ビタミンA、C、E、メチオニン、リジン等を給与するのが通常である。本発明においては、当該期に、ビタミンK類を単独で給与してもよいし、上記通常の飼料とともに給与してもよい。
最後に、分娩し、その後5日間までの乳を、本願では初乳としている。
【0029】
本発明は、ビタミンK類の有効性(家畜の初乳中免疫グロブリン含量増加及びNAGase活性向上効果)を、実験室レベルだけでなく、実際の生産現場における家畜生体を用いて直接確認し、科学的立証がなされた極めて実用的なものであると言える。
【0030】
なお、本発明において家畜の「初乳品質改善効果」とは、家畜の初乳に含まれる免疫グロブリン含量の増加及びNAGase活性の向上及びラクトフェリン含量の増加の内の少なくともひとつの効果を改善・向上させることを意味する。
【0031】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0032】
4軒の酪農家から選んだ乾乳牛40頭を用いた。それらを対照区19頭、ビタミンK3給与区21頭に分け、対照区には慣用飼料を、ビタミンK3給与区には慣用飼料に分娩(予定)前3週からビタミンK3を1%含有する製剤を1日あたり5g(すなわちビタミンK3として1日50mg)給与し、分娩3日後に乳汁サンプルを採取した。乳汁サンプルについて、免疫グロブリン(IgG)濃度、ラクトフェリン含量及びNAGase活性を測定した。これらの測定方法は、それぞれ、ELISA法及び比色法にしたがって行った。
【0033】
結果(平均値)を図1図2及び図3に示した。ビタミンK3給与区において、分娩3日目における乳汁中の免疫グロブリン(IgG)濃度が有意に増加した(p<0.05)と同時に、NAGase活性も有意に向上した(p<0.05)。また、ラクトフェリン濃度も増加した。よって、乾乳牛に対してビタミンK3を給与することによって、初乳中の免疫グロブリン含量を増加させるとともにNAGase活性を向上させること及びラクトフェリン濃度も増加させることが明らかになった。
【0034】
すなわち、IgG濃度としては、対照区は約2~3g/Lであるのに対して、ビタミンK3給与区は約7~8g/Lであって、対照区の約3~4倍となっている。よって、当業者からみて本発明では9~10g/Lという高いIgG濃度を実現することも可能であると考えられる。
初乳中のIgG濃度は分娩直後が最も高く、その後は急減するものである。ここに、本発明に係る分娩直後の初乳の品質改善効果の意義があるともいえる。
したがって、分娩3日目のIgG濃度は図1のとおりであるので、分娩直後のIgG濃度は、当業者からみて、きわめて高い、ということが認識される。事実、この点は実施例2において実証されている。
【0035】
また、NAGase活性としては、対照区はp-ニトロフェノール nmol/min/mLとして、約20~25であるのに対して、ビタミンK3給与区は約50~55であって、対照区の約2倍に上昇している。よって、当業者からみて本発明では58~63という高いNAGase活性を実現することも可能であると考えられる。そして、ラクトフェリン濃度についても、対照区は約150~200μg/mLであるのに対して、ビタミンK3給与区は約230~280μg/mLであって、対照区の約1.5倍に上昇している。よって、当業者からみても、本発明では300μg/mLという高いラクトフェリン濃度を実現することも可能であると考えられる。
【実施例2】
【0036】
2軒の酪農家から選んだ乾乳牛11頭を用いた。それらを対照区5頭、ビタミンK3給与区6頭に分け、対照区には慣用飼料を、ビタミンK3給与区には慣用飼料にビタミンK3を1%含有する製剤を1日あたり5g(すなわち、ビタミンK3として1日50mg)、表に示した期間の間(2019年)、それぞれ給与した。分娩時に乳汁サンプルを採取し、IgG濃度をそれぞれ測定した。結果を下記表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1(試験群に対し、分娩房の期間ビタミンK3製剤を給与(VK3として50mg/日))の結果から明らかなように、本発明によれば、ビタミンK類を投与することによって、初乳中の免疫グロブリン(IgG)含量を大幅に高めることができ、ビタミンK3を5~18日にわたって1日50mg投与(給与)した場合、分娩直後において100g/L以上という高いIgG含量が得られ、例えば、120~130g/LのIgG含量が得られ、更には、130~160g/LのIgG含量が得られ、163~164g/Lという高いIgG含量も実際に確認された。よって、当業者からみて本発明では170~180g/Lあるいはそれ以上の200g/Lという高いIgG含量を得ることも可能であると考えられる。
【0039】
ビタミンK3を投与した試験群(6頭)のIgG含量の平均値は、137.3g/Lであった。これに対して、ビタミンK3を投与しない対照群(5頭)のIgG含量の平均値は、79.3g/Lであった。したがって、対照群に比して試験群の方が、1.73倍という非常に高いIgG含量を達成できることが実証された。
【0040】
仔畜にとって初乳は非常に重要であるところ、上記からも明らかなように、本発明によって初乳の品質の改善、特にIgG含量を大幅に高めることに成功した。この効果は、実施例1及び2の結果から明らかなように、初乳を分娩後なるべくはやく生後6時間以内に仔畜に飲用させてやることにより、強く発揮されることが実証された。したがって、分娩後の初乳を時間をおかずになるべくはやく生後6時間以内に仔畜に投与(給与)することが推奨される。
その結果、仔畜の健全な成長が確保され、畜産農家にとっても経済的貢献となる。このように本発明は、特に仔畜をターゲットとする初乳に着目し、その品質の改善に特化し、それに成功したものであって、特徴的である。
【0041】
また、乳汁サンプルについて、ラクトフェリン含量も測定した。その測定方法は、ELISA法にしたがって行った。
当該ラクトフェリン含量についても、試験群(6頭)の平均値が248.5μg/mLであるのに対して、対照群(5頭)の平均値は122.0μg/mLであり、対照群に比して試験群の方が2.03倍という非常に高いラクトフェリン含量を達成できることが実証された。
【0042】
なお、本発明を要約すれば次のとおりである。
【0043】
すなわち、本発明は、牛、豚、羊、山羊、馬などの家畜が生産する初乳に含まれる免疫グロブリン含量の増加と、NAGase活性の向上と、ラクトフェリン含量の増加とを簡便且つ効果的に実現させることができるような栄養生理学的技術(経口投与又は給与成分、飼料組成物、飼養方法等)を提供することを目的とする。
【0044】
そして、有効成分としてビタミンK類、例えばビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)などを飼料組成物等に配合して反芻家畜に経口投与又は給与することで、家畜の初乳品質改善を実現することができる。


図1
図2
図3