(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】スラリー組成物及びセラミック焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/634 20060101AFI20240228BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20240228BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240228BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240228BHJP
【FI】
C04B35/634 200
C04B35/634 600
C08L29/14
C08K5/103
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2020116543
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山内 健司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 努
(72)【発明者】
【氏名】佐原 敬
(72)【発明者】
【氏名】水守 玲
【審査官】常見 優
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00- 35/84
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
H01G 4/00- 4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体を製造するためのスラリー組成物であって、
ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、沸点が60~250℃である有機溶剤及び無機微粒子を含有し、
前記エステル化合物は、炭素、酸素及び水素からなり、炭素/酸素の原子数比が2以下であり、下記式(1)で表される構造を有する、スラリー組成物。
【化1】
式(1)中、R
1及びR
5はそれぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基、R
2は炭素数1~3の炭化水素基、R
3はアセチル基、アセチルオキシ基、プロピオニル基、プロピオニルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メチルエステル基又はエチルエステル基、R
4は水素原子、アセチル基、アセチルオキシ基、プロピオニル基、プロピオニルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メチルエステル基又はエチルエステル基を示す。
【請求項2】
エステル化合物は、クエン酸、マロン酸、コハク酸、トリカルバリル酸、タルトロン酸、酒石酸及びリンゴ酸からなる群より選択される少なくとも1種の多価カルボン酸の誘導体である、請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
エステル化合物は、沸点が250℃以上である、請求項1又は2に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のスラリー組成物を用いるセラミック焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー組成物およびスラリー組成物を用いるセラミック焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミック粉末、ガラス粒子等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた組成物が、セラミックコンデンサー等の積層電子部品の生産に用いられている。
このようなセラミックコンデンサーは、一般に、次のような方法を用いて製造される。
まず、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、可塑剤、分散剤等の添加剤を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等を用いて均一に混合して無機微粒子分散組成物を得る。
得られた無機微粒子分散組成物を、ドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、SUSプレート等の支持体表面に流延成形し、有機溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗工し、これを複数枚積み重ね、加熱及び圧着して積層体を得る。
得られた積層体を加熱して、バインダー樹脂等の成分を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成することによって、内部電極を備えたセラミック焼結体を得る。
更に、得られたセラミック焼結体の端面に外部電極を塗布し、焼成することによって、積層セラミックスコンデンサーが完成する。
【0003】
積層セラミックスコンデンサーの小型化にともない、近年はセラミックスグリーンシートのバインダー樹脂にはポリビニルアセタール樹脂が用いられている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3322027号公報
【文献】特許第4552411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックス積層体は無機粉の酸化を防ぐため不活性雰囲気中で焼成するが、バインダーの焼結残渣が製品の信頼性に悪影響を及ぼすことが問題となる。
また、近年、積層セラミックスの製造技術を応用した全固体電池の検討が盛んに行われている。全固体電池は電解質にガラスやセラミックスを用いる電池であるが、同じくバインダーにはポリビニルアセタール樹脂等が用いられており、セラミックス電解質中のポリビニルアセタール起因の焼成残渣が電池信頼性への問題となる。
【0006】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、積層セラミックスコンデンサーの脱脂工程を2段階に分け、20℃から400℃では酸素濃度を1%未満の雰囲気で脱脂し、400℃から600℃では酸素濃度を1%以上に高める方法が開示されている。
また、特許文献2では、誘電体の焼結助剤としてガラス組成物、特にホウ素、ケイ素、マグネシウム、リチウムの酸化物を添加する方法が開示されている。特許文献2では、所定の焼結助剤を添加することで内部の残渣の焼成を促進し、誘電体層の信頼性を高めている。
【0007】
ポリビニルアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気で焼成した場合、300℃前後で分解を開始し、脱炭酸、脱水反応を起こしながら重量減少し、450℃で見かけ上の重量減少が停止する。この段階ではポリビニルアセタール樹脂は煤に構造変化しており、外部からの酸素がなければ分解しない。そこで、特許文献1では、供給ガスに酸素を導入し煤の分解を促している。
しかしながら、特許文献1の方法は、外部から酸素を導入するものであるため、セラミックス積層体内部に酸素が供給されず、残留炭素を充分に低減できないという問題がある。
また、特許文献2の方法では、焼結助剤を多量に添加する必要があり、誘電性能の維持が難しく、積層セラミックスコンデンサー等に適用できないという問題がある。
【0008】
本発明は、貯蔵安定性に優れるとともに、セラミック焼結体の製造に用いた際に、ポリビニルアセタール樹脂の脱脂を促進することができ、焼成後の残留炭素が少なく、焼結性に優れたスラリー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミック焼結体を製造するためのスラリー組成物であって、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、沸点が60~250℃である有機溶剤及び無機微粒子を含有し、前記エステル化合物は、炭素、酸素及び水素からなり、炭素/酸素の原子数比が2以下であり、下記式(1)で表される構造を有するスラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
【0011】
式(1)中、R1及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基、R2は炭素数1~3の炭化水素基、R3はアセチル基、アセチルオキシ基、プロピオニル基、プロピオニルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メチルエステル基又はエチルエステル基、R4は水素原子、アセチル基、アセチルオキシ基、プロピオニル基、プロピオニルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メチルエステル基又はエチルエステル基を示す。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリビニルアセタール樹脂と特定の構造を有するエステル化合物とを含有するスラリー組成物をセラミック焼結体の製造に用いた場合、ポリビニルアセタール樹脂の脱脂を促進して、焼結残渣を著しく減少させることができ、信頼性の高いセラミックス製品を生産できることを見出し、本発明を完成されるに至った。
【0013】
(エステル化合物)
本発明のスラリー組成物は、エステル化合物を含有する。
上記エステル化合物は、炭素、酸素及び水素からなり、炭素/酸素の原子数比が2以下であり、上記式(1)で表される構造を有する。
上記エステル化合物を含有することで、ポリビニルアセタール樹脂の脱脂を促進して、残留炭素を低減することができる。
【0014】
上記エステル化合物は、上記式(1)で表される構造を有する。
上記式(1)中、R1及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。
上記炭素数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、なかでも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0015】
上記式(1)中、R2は、炭素数1~3の炭化水素基を示す。
上記炭素数1~3の炭化水素基は、4価の炭化水素基である。具体的には、メチレン基(-CH2-)、メチルメチレン基(-CH(CH3)-)、ジメチルメチレン基(-C(CH3)2-)、エチレン基(-CH2-CH2-)、プロピレン基(-CH(CH3)-CH2-)、トリメチレン基(-CH2-CH2-CH2-)、ビニレン基(-CH=CH-)等の2価の炭化水素基から更に2個の水素原子を除去した基が挙げられる。
なかでも、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基から更に2個の水素原子を除去した基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基の同一の炭素から更に2個の水素原子を除去した基が更に好ましい。
【0016】
上記式(1)中、R3は、アセチル基(-COCH3)、アセチルオキシ基(-OCOCH3)、プロピオニル基(-COCH2CH3)、プロピオニルオキシ基(-OCOCH2CH3)、メトキシ基(-OCH3)、エトキシ基(-OCH2CH3)、メチルエステル基(-COOCH3)又はエチルエステル基(-COOCH2CH3)を示す。なかでも、アセチル基、アセチルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
上記のような分岐構造を有することで、組成物中の酸素比率を高くすることができ、高い酸素比率によってバインダーの脱脂を促進することができる。
【0017】
上記式(1)中、R4は、水素原子、アセチル基、アセチルオキシ基、プロピオニル基、プロピオニルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メチルエステル基又はエチルエステル基を示す。なかでも、水素原子、メチルエステル基、エチルエステル基が好ましい。
上記R3及びR4は、同一のものであってもよく、異なるものであってもよいが、異なるものであることが好ましい。
【0018】
上記エステル化合物は、化学式中、含有する炭素原子、酸素原子の原子数の比(炭素/酸素)が2以下である。
上記のような構造を有することで、組成物中の酸素比率を高くすることができ、バインダーの脱脂を促進することができる。
上記炭素/酸素の原子数比は1.8以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.6以下であることが更に好ましく、1.5以下であることが更により好ましい。なお、上記原子数比の下限は特に限定されないが1.2以上であることが好ましい。
【0019】
上記エステル化合物としては、多価カルボン酸の誘導体が挙げられる。
上記多価カルボン酸としては、クエン酸、マロン酸、コハク酸、トリカルバリル酸、タルトロン酸、酒石酸及びリンゴ酸等が挙げられる。なかでも、クエン酸、マロン酸、コハク酸、タルトロン酸又はリンゴ酸が好ましい。
上記多価カルボン酸の誘導体であることにより、酸素比率を高くして、バインダーの脱脂を促進することができる。
また、上記多価カルボン酸の誘導体は、カルボキシル基又は水酸基が、アセチル化、プロピオニル化、メトキシ化又はエトキシ化されたものが好ましい。
【0020】
上記エステル化合物としては、具体的には、メトキシマロン酸ジメチル、エトキシマロン酸ジメチル、メトキシマロン酸ジエチル、エトキシマロン酸ジエチル、2-アセチルマロン酸ジメチル、2-アセチルマロン酸ジエチル、2-プロピオニルマロン酸ジメチル、2-プロピオニルマロン酸ジエチル、アセチルオキシマロン酸ジメチル、アセチルオキシマロン酸ジエチル、プロピオニルオキシマロン酸ジメチル、プロピオニルオキシマロン酸ジエチル、メトキシコハク酸ジメチル、メトキシコハク酸ジエチル、エトキシコハク酸ジメチル、エトキシコハク酸ジエチル、アセチルコハク酸ジメチル、アセチルコハク酸ジエチル、アセチルオキシコハク酸ジメチル、アセチルオキシコハク酸ジエチル、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸トリエチル等が挙げられる。
なかでも、メトキシマロン酸ジメチル、エトキシマロン酸ジエチル、アセチルオキシマロン酸ジエチル、2-アセチルマロン酸ジエチル、アセチルコハク酸ジメチル、アセチルコハク酸ジエチル、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸トリエチルが好ましい。
【0021】
上記エステル化合物は、沸点が250℃以上であることが好ましい。
上記沸点とすることで、無機微粒子を分散させたスラリー組成物を塗工乾燥させた際に、溶媒とともに蒸発してしまうことがなく、バインダーの脱脂を促進することができる。
上記沸点は、260℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることが更に好ましく、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、320℃以下であることがさらに好ましい。また、上記エステル化合物の沸点が250℃以上(好ましくは270℃以上)であると可塑剤として機能することができる。
なお、上記エステル化合物は、空気雰囲気下では200℃未満で燃焼開始してしまうため、沸点の測定は減圧条件下で行うことが好ましい。減圧条件下での沸点の換算方法としてはScience of Petroleum, Vol.II. p.1281 (1938).等の方法を用いることができる。
【0022】
上記エステル化合物の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは10重量部以上、更に好ましくは15重量部以上、更により好ましくは20重量部以上、特に好ましくは25重量部以上であり、好ましくは100重量部以下、より好ましくは95重量部以下、更に好ましくは90重量部以下、更により好ましくは85重量部以下、特に好ましくは80重量部以下である。
上記範囲とすることで、得られるセラミックグリーンシートの取り扱い性が良好となる。
【0023】
(ポリビニルアセタール樹脂)
本発明のスラリー組成物はポリビニルアセタール樹脂を含有する。
ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましい下限が1000、好ましい上限が4000である。
上記重合度が1000以上であると、スラリー組成物を塗工して得られる塗膜の強度を充分に高めることができる。上記重合度が4000以下であると、焼結性を充分に高めることができる。
上記重合度は、より好ましい下限が1500、より好ましい上限が3000である。
このようなポリビニルアセタール樹脂を用いることで、充分な強度を有し、ハンドリング性に優れたセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール基量の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。
上記アセタール基量が50モル%以上であると、上記エステル化合物との相溶性を充分なものとして、焼結性を向上させることができる。上記アセタール基量が80モル%以下であると、シートアタックを防止することができる。
上記アセタール基量のより好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は80モル%である。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の好ましい下限は16モル%、好ましい上限は50モル%である。
上記水酸基量が16モル%以上であると、シートアタックを防止することができ、50モル%以下であると、上記エステル化合物との相溶性を高めることができる。
上記水酸基量のより好ましい下限は20モル%であり、より好ましい上限は33モル%である。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、その他のエチレン性不飽和単量体を共重合することで得られる特殊変性ポリビニルアセタール樹脂を用いてもよい。
上記その他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0027】
上記特殊変性ポリビニルアセタール樹脂を用いる場合、上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量は、好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が10モル%である。
上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が0.1モル%以上であると、分散性や基材密着性等の官能基に由来する効果を充分に高めることができ、上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が10モル%以下であると、焼結性を充分なものとすることができる。
【0028】
本発明のスラリー組成物において、上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は2重量%、好ましい上限は8重量%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が2重量%以上であると、シート強度を充分に高めることができ、上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が8重量%以下であると、残留炭素を充分に低減することができる。
【0029】
(他のバインダー樹脂)
本発明のスラリー組成物は、ポリビニルアセタール樹脂以外の他のバインダー樹脂を含有していてもよい。
他のバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0030】
(有機溶剤)
本発明のスラリー組成物は、沸点が60~250℃である有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては、例えば、脂肪族アルコール類、グリコール類、テルペンアルコール類、芳香族アルコール類等のアルコール類、芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
上記脂肪族アルコール類としては、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
上記グリコール類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル等が挙げられる。
上記テルペンアルコール類としては、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等が挙げられる。
上記芳香族アルコール類としては、ベンジルアルコール等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素類としては、トルエン等が挙げられる。
上記エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸イソアミル、酪酸ブチル、乳酸ビチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート等が挙げられる。
上記ケトン類としては、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン等が挙げられる。
なかでも、アルコール類、芳香族炭化水素類が好ましく、ジヒドロテルピネオールアセテート、エタノール、トルエンがより好ましい。
なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の一実施態様において、有機溶剤は上記エステル化合物とは異なる。
【0031】
上記有機溶剤の沸点は、60℃以上250℃以下である。
上記有機溶剤の沸点が上記範囲であることで、表面が平滑なセラミックグリーンシートを得ることができる。
上記沸点は、70℃以上であることが好ましく、230℃以下であることが好ましい。
【0032】
本発明のスラリー組成物において、上記有機溶剤の含有量は20重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の一実施態様において、本発明のスラリー組成物は、沸点が60~250℃である有機溶剤以外の別の有機溶剤を含有してもよい。上記スラリー組成物における別の有機溶剤の含有量は、好ましくは0重量%以上であり、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。本発明の好適な実施態様においては、別の有機溶剤を実質的に含有しない。
【0034】
(無機微粒子)
本発明のスラリー組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子としては、例えば、ガラス粉末、セラミック粉末、蛍光体微粒子、ケイ素酸化物等、金属微粒子等が挙げられる。
【0035】
上記ガラス粉末としては、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO-Al2O3-SiO2系、MgO-Al2O3-SiO2系、LiO2-Al2O3-SiO2系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、SnO-B2O3-P2O5-Al2O3混合物、PbO-B2O3-SiO2混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物、Bi2O3-B2O3-BaO-CuO混合物、Bi2O3-ZnO-B2O3-Al2O3-SrO混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3混合物、Bi2O3-SiO2混合物、P2O5-Na2O-CaO-BaO-Al2O3-B2O3混合物、P2O5-SnO混合物、P2O5-SnO-B2O3混合物、P2O5-SnO-SiO2混合物、CuO-P2O5-RO混合物、SiO2-B2O3-ZnO-Na2O-Li2O-NaF-V2O5混合物、P2O5-ZnO-SnO-R2O-RO混合物、B2O3-SiO2-ZnO混合物、B2O3-SiO2-Al2O3-ZrO2混合物、SiO2-B2O3-ZnO-R2O-RO混合物、SiO2-B2O3-Al2O3-RO-R2O混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物等も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素を示す。
特に、PbO-B2O3-SiO2混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物又はZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0036】
上記セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、フェライト、ジルコニア、ジルコン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ランタン、チタン酸ネオジウム、チタン酸ジルコン鉛、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、錫酸バリウム、錫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、フォルステライト等が挙げられる。
また、ITO、FTO、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステン、ランタンストロンチウムマンガナイト、ランタンストロンチウムコバルトフェライト、イットリウム安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、酸化ニッケル、ランタンクロマイト等も使用することができる。
【0037】
上記金属微粒子としては、例えば、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。
また、金属錯体の他、種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を使用してもよい。
【0038】
上記無機微粒子は、リチウム又はチタンを含有することが好ましい。具体的には例えば、LiO2・Al2O3・SiO2系無機ガラス等の低融点ガラス、Li2S-MxSy(M=B、Si、Ge、P)等のリチウム硫黄系ガラス、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiMnO4等のリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムジルコニウム複合酸化物、リチウムハフニウム複合酸化物、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、Li4/3Ti5/3O4、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2-SiS系ガラス、Li4GeS4-Li3PS4系ガラス、LiSiO3、LiMn2O4、Li2S-P2S5系ガラス・セラミクス、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、LiS-SiS2-Li4SiO4系ガラス、LiPON等のイオン導電性酸化物、Li2O-P2O5-B2O3、Li2O-GeO2Ba等の酸化リチウム化合物、LixAlyTiz(PO4)3系ガラス、LaxLiyTiOz系ガラス、LixGeyPzO4系ガラス、Li7La3Zr2O12系ガラス、LivSiwPxSyClz系ガラス、LiNbO3等のリチウムニオブ酸化物、Li-β-アルミナ等のリチウムアルミナ化合物、Li14Zn(GeO4)4等のリチウム亜鉛酸化物等が挙げられる。
【0039】
上記無機微粒子の平均粒子径は200nm以上1μm以下であることが好ましい。
上記範囲とすることで、積層セラミックス製品の特性を向上させることができる。なお、上記無機微粒子の平均粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡を用いて観察する方法や分散液の光散乱法によって測定することができる。
【0040】
本発明のスラリー組成物において、上記無機微粒子の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は90重量%である。10重量%以上とすることで、充分な粘度を有し、優れた塗工性を有するものとすることができ、90重量%以下とすることで、無機微粒子の分散性に優れるものとすることができる。
【0041】
(その他の添加剤)
本発明のスラリー組成物は、上記ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、有機溶剤、無機微粒子以外に、可塑剤、分散剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0042】
上記可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘキサノエート、アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
なかでも、非芳香族の可塑剤を使用することが好ましく、アジピン酸、トリエチレングリコール又はクエン酸に由来する成分を含有することがより好ましい。なお、芳香環を有する可塑剤は、燃焼して煤になりやすいため好ましくない。
【0043】
上記分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪族アミン、アルカノールアミド、リン酸エステルが好適である。また、シランカップリング剤等を配合してもよい。
上記脂肪酸としては特に限定されず、例えば、ベヘニン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、ヤシ脂肪酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、牛脂脂肪酸、ヒマシ硬化脂肪酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。なかでも、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好適である。
上記脂肪族アミンとしては特に限定されず、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アルキル(ヤシ)アミン、アルキル(硬化牛脂)アミン、アルキル(牛脂)アミン、アルキル(大豆)アミン等が挙げられる。
上記アルカノールアミドとしては特に限定されず、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、牛脂脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
上記リン酸エステルとしては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステルが挙げられる。
【0044】
本発明のスラリー組成物の粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定した場合の粘度の好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。
上記粘度を0.1Pa・s以上とすることで、ダイコート印刷法等により塗工した後、得られる無機微粒子分散シートが所定の形状を維持することが可能となる。また、上記粘度を100Pa・s以下とすることで、ダイの塗出痕が消えない等の不具合を防止して、印刷性に優れるものとすることができる。
【0045】
本発明のスラリー組成物を作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、有機溶剤、無機微粒子、その他必要に応じて添加される添加剤を混合してビーズミル等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明のスラリー組成物を、片面離型処理を施した支持フィルム上に塗工し、有機溶剤を乾燥させ、シート状に成形することで、無機微粒子分散シートを製造することができる。
上記無機微粒子分散シートは、厚みが0.5~20μmであることが好ましい。
【0047】
上記無機微粒子分散シートを製造する際に用いる支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有するとともに可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーター、ブレードコーター等によって支持フィルムの表面に無機微粒子分散スラリー組成物を塗布することができ、得られる無機微粒子分散シート形成フィルムをロール状に巻回した状態で保存し、供給することができる。
【0048】
上記支持フィルムを形成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレン等の含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等が挙げられる。
上記支持フィルムの厚みは、例えば、20~100μmが好ましい。
また、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましく、これにより、転写工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0049】
本発明のスラリー組成物を用いることでセラミック焼結体を製造することができる。
本発明のスラリー組成物を用いるセラミック焼結体の製造方法もまた本発明の1つである。
上記セラミック焼結体は、セラミック積層体であってもよく、セラミック単層体であってもよい。
上記セラミック積層体は、積層セラミックコンデンサー、積層セラミック基板、全固体電池等に用いることができ、セラミック単層体は、セラミックパッケージ、低温同時焼成セラミックス(LTCC)、アルミナ等の回路基板、窒化アルミ、窒化ケイ素等のセラミックス放熱基板、静電チャック、セラミックスカラム、温度センサー、圧電素子、各種機械部品等に用いることができる。
本発明のスラリー組成物、上記無機微粒子分散シートを、全固体電池の正極、固体電解質、負極の材料として使用することで全固体電池を製造することができる。また、本発明のスラリー組成物、上記無機微粒子分散シートを、誘電体グリーンシート、電極ペーストに用いることで積層セラミックコンデンサーを製造することができる。
【0050】
上記全固体電池の製造方法は、本発明のスラリー組成物を用いて無機微粒子分散シートを作製する工程、電極活物質及び電極活物質層用バインダーを含有する電極活物質層用スラリーを成形して電極活物質シートを作製する工程、前記電極活物質シートと上記無機微粒子分散シートとを積層して積層体を作製する工程、及び、前記積層体を焼成する工程とを有することが好ましい。
【0051】
上記積層セラミックコンデンサーの製造方法は、本発明のスラリー組成物を用いて無機微粒子分散シートを作製する工程、上記無機微粒子分散シートに導電ペーストを印刷、乾燥して、誘電体シートを作製する工程、及び、前記誘電体シートを積層する工程を有することが好ましい。
【0052】
上記導電ペーストは、導電粉末を含有するものである。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、インジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金等が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記導電ペーストを印刷する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0054】
上記積層セラミックコンデンサーの製造方法では、上記導電ペーストを印刷した誘電体シートを積層することで、積層セラミックコンデンサーが得られる。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れるとともに、セラミック焼結体の製造に用いた際に、ポリビニルアセタール樹脂の脱脂を促進することができ、焼成後の残留炭素が少なく、焼結性に優れたスラリー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0057】
(実施例1)
(ニッケルペースト組成物の作製)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコに、ポリビニルブチラール樹脂(「エスレックSV SV-12」、積水化学工業社製)100重量部、及び、有機溶剤としてジヒドロテルピネオールアセテート(DHTA、ヤスハラケミカル社製)410重量部を加えた。更に、エステル化合物としてメトキシマロン酸ジメチル90重量部を添加し、80℃の温度で4時間攪拌して溶解させて樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を3μmのカートリッジフィルターで処理し、未溶解樹脂やコンタミを取り除き、ポリビニルアセタール樹脂溶液を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液に分散剤としてオレイン酸、無機微粒子としてニッケル粉(「NFP201」、JFEミネラル社製)を表1の組成比となるように添加混合し、三本ロールに数回通してニッケルペースト組成物を得た。
【0058】
(スラリー組成物の作製)
ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(「エスレックB BH-3Z」、積水化学工業社製)、有機溶剤としてエタノール/トルエン(重量比1/1)混合溶液を用い、表1の組成比となるように混合した以外は、上記(ニッケルペースト組成物の作製)と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂溶液を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液に可塑剤としてトリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)(3GO)、無機微粒子としてチタン酸バリウム(「BT-02」、堺化学工業社製、平均粒子径0.2μm)を表1の組成比となるように混合し、ボールミルで48時間混合してスラリー組成物を得た。
【0059】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたスラリー組成物を、離型処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが1μmとなるように塗布し、常温で1時間風乾後、熱風乾燥機を用いて80℃で3時間、更に120℃で2時間乾燥させて、セラミックグリーンシートを得た。
【0060】
(セラミック焼結体の作製)
得られたセラミックグリーンシートの片面に、上記ニッケルペースト組成物を導電ペーストとして、乾燥後の厚みが1.5μmとなるようにスクリーン印刷法により塗布し、乾燥させて導電層を形成した。得られた導電層を有するセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚重ねて、70℃、圧力150kg/cm2の条件で10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。得られた積層体を窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、5時間保持することで脱脂し、更に昇温速度5℃/分で1000℃まで昇温し、10時間保持することによりセラミック焼結体を得た。
【0061】
(比較例1)
(ニッケルペースト組成物の作製)
エステル化合物としてコハク酸ジメチルを用いた以外は実施例1と同様にしてニッケルペースト組成物を得た。
【0062】
(スラリー組成物の作製)
エステル化合物としてコハク酸ジメチルを用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0063】
(セラミックグリーンシートの作製及びセラミック焼結体の作製)
得られたニッケルペースト組成物及びスラリー組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0064】
(実施例2~8)
エステル化合物として表1に示す化合物を用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0065】
(比較例2~4)
エステル化合物として表1に示す化合物を用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物を用いた以外は比較例1と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0066】
(実施例9)
(電解質ペースト組成物の作製)
ポリビニルブチラール樹脂(「エスレックSV-12」、積水化学工業社製)、有機溶剤としてDHTA、エステル化合物としてメトキシマロン酸ジメチルを表1の組成比となるように混合して樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に乾燥させたモレキュラーシーブ(親水性ゼオライト)を添加し6時間放置後、ろ過フィルターを用いてモレキュラーシーブを除去し、ポリビニルアセタール樹脂溶液を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液に無機微粒子としてLLZ粉末(Li7La3Zr2O12、豊島製作所社製)を表1の組成比となるように混合し、不活性ガス雰囲気下でボールミルを用いて混合して電解質ペースト組成物を得た。
【0067】
(電極スラリー組成物の作製)
ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(「エスレックB BH-A」、積水化学工業社製)、エステル化合物として表1に示す化合物、有機溶剤としてトルエンを用いた。また、無機微粒子としてLLZ粉末、コバルト酸リチウム、リチウム酸化ニオブの混合粉末(LLZ粉末:コバルト酸リチウム:リチウム酸化ニオブ=7:2:1)を用いた。更に、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例1の(スラリー組成物の作製)と同様にして、電極スラリー組成物を得た。
【0068】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られた電極スラリー組成物を、ブレード塗工により、離型処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが1μmとなるように塗工し、80℃で30分間乾燥させた後、フィルムを剥離して、正極シートを得た。
得られた正極シート上に、得られた電解質ペースト組成物を乾燥後の厚みが1μmとなるように塗工し、100℃で10分間乾燥させて、正極-電解質積層体を得た。
得られた正極-電解質積層体をインジウム箔により厚み1μmとなるようにラミネートした。更に乾燥させることで導電層を形成してセラミックグリーンシートを得た。
【0069】
(セラミック焼結体の作製)
得られたセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚積み重ねて、70℃、圧力150kg/cm2の条件で10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。
得られた積層体を、窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、5時間保持して脱脂した後、昇温速度5℃/分で1000℃まで昇温し、10時間保持することにより、セラミック焼結体を得た。
【0070】
(比較例5)
(電解質ペースト組成物の作製)
エステル化合物として、アジピン酸ジメチルを用いた以外は実施例9と同様にして電解質ペースト組成物を得た。
【0071】
(電極スラリー組成物の作製)
エステル化合物としてアジピン酸ジメチルを用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例9と同様にして電極スラリー組成物を得た。
【0072】
(セラミックグリーンシート及びセラミック焼結体の作製)
得られた電解質ペースト組成物及び電極スラリー組成物を用いた以外は実施例9と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0073】
(実施例10~16)
エステル化合物として表1に示す化合物を用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例9と同様にして電極スラリー組成物を得た。
得られた電極スラリー組成物を用いた以外は実施例9と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0074】
(比較例6~8)
エステル化合物として表1に示す化合物を用い、ポリビニルアセタール樹脂、エステル化合物、可塑剤、有機溶剤及び無機微粒子を表1の組成比となるように混合した以外は実施例9と同様にして電極スラリー組成物を得た。
得られた電極スラリー組成物を用いた以外は比較例5と同様にしてセラミックグリーンシート及びセラミック焼結体を得た。
【0075】
【0076】
(評価)
得られたスラリー組成物、積層体、セラミック焼結体について以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0077】
(貯蔵安定性)
実施例及び比較例で得られたスラリー組成物の粘度を東機産業社製BH型粘度計で、No.5スピンドルを用いて、25℃、回転数10rpmの条件で測定した。
また、得られたスラリー組成物を1週間静置し、同様にして粘度を測定した。
分散直後と1週間静置後の粘度の変化率を算出し、変化率が100%未満を「〇」、100%以上を「×」として評価した。
【0078】
(脱バインダー性)
実施例2~8、10~16、比較例2~4、6~8について、450℃で脱脂した後の積層体を焼成炉から取り出し、高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法により得られたCO、CO2量から残留炭素の量を測定した。残留炭素が200ppm未満を「〇」、200ppm以上を「×」として評価した。
【0079】
(焼結性)
実施例及び比較例で得られたセラミック焼結体を常温まで冷却して、中央部を積層面に対し垂直方向に切断して、50層目付近のシート状態を電子顕微鏡で観察することにより、セラミック層と導電層との焼結状態を観察した。デラミネーション等の不具合が確認できない場合を「○」、気泡や層間のデラミネーションが確認できた場合を「×」として評価した。
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れるとともに、セラミック焼結体の製造に用いた際に、ポリビニルアセタール樹脂の脱脂を促進することができ、焼成後の残留炭素が少なく、焼結性に優れたスラリー組成物を提供することができる。