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特許7444738方向変換部材および該方向変換部材を備えた窓ガラス昇降装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】方向変換部材および該方向変換部材を備えた窓ガラス昇降装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 11/48 20060101AFI20240228BHJP
   E05F 15/689 20150101ALI20240228BHJP
   B60J 1/17 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
E05F11/48 C
E05F15/689
B60J1/17 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020146181
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022041137
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住吉 祐司
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 英一
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-309842(JP,A)
【文献】特開2009-13668(JP,A)
【文献】特開2011-226171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 11/00-11/54
E05F 15/00-15/79
B60J 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部と、
前記駆動部によって駆動されるケーブルと、
前記ケーブルが接続される移動部材と、
方向変換部材と
を備え、
前記駆動部によって前記ケーブルが駆動されることで、前記移動部材に取り付けられた窓ガラスを昇降させる窓ガラス昇降装置であって、
前記方向変換部材は、前記窓ガラス昇降装置の上昇方向側に設けられ、
前記方向変換部材は、
前記ケーブルが掛け回され、グリスが塗布された溝と、
前記溝を間に挟むように設けられた第1フランジ部および第2フランジ部とを備え、
前記第2フランジ部は、前記第1フランジ部よりも、前記窓ガラス昇降装置によって昇降する窓ガラスに近くなるように配置される部位であり、
前記第2フランジ部は、前記窓ガラスの面に対して垂直な方向で見たときに、前記第2フランジ部の外周縁が前記第1フランジ部の外周縁に対して張り出した張出部を有している、窓ガラス昇降装置。
【請求項2】
前記第1フランジ部の外周縁および前記第2フランジ部の外周縁は、少なくとも前記ケーブルが掛け回された領域に対応した部分において部分円弧状に形成され、
前記張出部は、前記第1フランジ部の上端を含む前記第1フランジ部の外周円の所定領域に対応して前記第2フランジ部に部分的に設けられている、請求項1に記載の窓ガラス昇降装置。
【請求項3】
前記張出部は、前記溝の底部から前記第2フランジ部の外周縁まで傾斜して延びるように、前記溝と連続した傾斜壁部を有している、請求項1または2に記載の窓ガラス昇降装置。
【請求項4】
前記第2フランジ部は、前記窓ガラス昇降装置の下降方向側の端部において、前記第2フランジ部の径方向外側に突出する部分を有する請求項2に記載の窓ガラス昇降装置。
【請求項5】
前記第2フランジ部は、前記窓ガラスの面に対して垂直な方向において、薄肉部と肉厚部とを有し、前記薄肉部は、前記第2フランジ部の外周縁を含む上端側に設けられ、前記肉厚部は前記薄肉部に隣接し、前記第2フランジ部の下端側に設けられている請求項1に記載の窓ガラス昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向変換部材および該方向変換部材を備えた窓ガラス昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブル式のウインドレギュレータは、駆動部によって駆動されるケーブルの操作力によって、窓ガラスを昇降させる。このようなウインドレギュレータは、例えば特許文献1に示されるように、窓ガラスの移動方向に沿って配置されたガイドレールと、ガイドレールに沿って窓ガラスと共に移動するキャリアプレートと、モータの作動によって回転駆動されるドラムと、一端部がキャリアプレートに連結され、他端部がドラムに連結されたケーブルと、ガイドレールの上端においてケーブルが掛け回されてケーブルの方向を変える方向変換部材とを備えている。方向変換部材は、ケーブルが掛け回される溝を有しており、この溝にはケーブルの摺動性を向上させるためにグリスが塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-20183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、グリスを塗布する際に、全ての方向変換部材に対して、同じ塗布量、同じ塗布状態とすることは難しい。そのため、例えば、グリスの塗布量が多すぎると、グリスが溝の内部から方向変換部材の外周縁へとはみ出したり、塗布量が多くなくても塗布状態によっては、方向変換部材の外周縁にはみ出した状態となる場合もある。
【0005】
このような状態において、グリスが方向変換部材に塗布された後、例えばドア内で窓ガラスをキャリアプレートに組み付ける際に、窓ガラスに直接的または間接的に方向変換部材の外周縁にはみ出したグリスが接触し、窓ガラスにグリスが付着してしまう場合がある。窓ガラスにグリスが付着した状態で、ウインドレギュレータを動作させて窓ガラスを昇降させると、水切りモールによってグリスが延ばされて、窓ガラスや水切りモールの清掃が必要になる場合もある。
【0006】
そこで、本発明はグリスの塗布が容易で、窓ガラスへのグリスの付着を抑制することができる、窓ガラス昇降装置用の方向変換部材および窓ガラス昇降装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の方向変換部材は、ケーブルが摺動可能に掛け回される、窓ガラス昇降装置用の方向変換部材であって、前記方向変換部材は、前記ケーブルが掛け回され、グリスが塗布される溝と、前記溝を間に挟むように設けられた第1フランジ部および第2フランジ部とを備え、前記第2フランジ部は、前記第1フランジ部よりも、前記窓ガラス昇降装置によって昇降する窓ガラスに近くなるように配置される部位であり、前記第2フランジ部は、前記窓ガラスの面に対して垂直な方向で見たときに、前記第2フランジ部の外周縁が前記第1フランジ部の外周縁に対して張り出した張出部を有している。
【0008】
また、本発明の窓ガラス昇降装置は、駆動部と、前記駆動部によって駆動されるケーブルと、前記ケーブルが接続される移動部材と、上記方向変換部材とを備え、前記駆動部によって前記ケーブルが駆動されることで、前記移動部材に取り付けられた窓ガラスを昇降させる窓ガラス昇降装置であって、前記方向変換部材は、前記窓ガラス昇降装置の上昇方向側に設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方向変換部材および窓ガラス昇降装置によれば、グリスの塗布が容易で、窓ガラスへのグリスの付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の方向変換部材が設けられた窓ガラス昇降装置を示す正面図である。
図2図1の窓ガラス昇降装置の側面図である。
図3A】本発明の一実施形態の方向変換部材の正面図である。
図3B】本発明の一実施形態の方向変換部材の背面図である。
図3C】本発明の一実施形態の方向変換部材の平面図である。
図3D】本発明の一実施形態の方向変換部材の底面図である。
図3E】本発明の一実施形態の方向変換部材の右側面図である。
図3F】本発明の一実施形態の方向変換部材の左側面図である。
図4A】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した正面図である。
図4B】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した背面図である。
図4C】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した平面図である。
図4D】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した底面図である。
図4E】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した右側面図である。
図4F】本発明の一実施形態の方向変換部材の特徴部分を実線で示した左側面図である。
図5】本発明の一実施形態の方向変換部材を示す斜視図である。
図6図3AにおけるVI-VI線断面図である。
図7】従来の方向変換部材にグリスが塗布された状態を示す参考図である。
図8】本発明の一実施形態の方向変換部材にグリスが塗布された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の方向変換部材および窓ガラス昇降装置を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の方向変換部材および窓ガラス昇降装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1および図2に示されるように、本実施形態の窓ガラス昇降装置1は、駆動部2と、駆動部2によって駆動されるケーブル3と、ケーブル3が接続される移動部材4と、方向変換部材5とを備えている。本実施形態では、窓ガラス昇降装置1はさらに移動部材4を案内するガイドレール6を備えている。窓ガラス昇降装置1は、駆動部2によってケーブル3が駆動されることで、移動部材4に取り付けられた窓ガラスWを昇降させる。なお、本明細書において、窓ガラスWの昇降方向をD1とし、窓ガラスWの厚さ方向をD2とし、窓ガラスWの昇降方向D1および窓ガラスWの厚さ方向D2の両方に垂直な方向を幅方向D3と呼ぶ。
【0013】
図1および図2に示されるように、窓ガラス昇降装置1は、所定の取付対象に取り付けられ、窓ガラスWを昇降させる。以下の実施形態では、車両用の窓ガラス昇降装置(ウインドレギュレータ)を例に挙げて説明するが、本発明の窓ガラス昇降装置は、車両用に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態の窓ガラス昇降装置1は、取付対象であるドアパネルP(図2参照)に取り付けられる。ドアパネルPは、図2に示されるように、車外側のアウタパネルP1と車室側のインナパネルP2とを有している。窓ガラス昇降装置1はインナパネルP2にブラケット等の取付部材7を介して取り付けられている。
【0015】
なお、窓ガラス昇降装置1の構造は、後述する方向変換部材5を有しており、ケーブル3の駆動によって移動部材4に取り付けられた窓ガラスWを昇降させることができれば、特に限定されない。本実施形態では、窓ガラス昇降装置1は、駆動部2が昇降方向D1の下降方向側の端部(下端)に設けられているが、例えばガイドレール6の下端にも図示しないプーリ等の方向変換部材が設けられ、駆動部2が昇降方向D1で中央側に設けられていてもよい。
【0016】
窓ガラスWは、図1および図2に示されるように、移動部材4に取り付けられ、移動部材4が昇降方向D1に昇降することで移動部材4と共に昇降する。なお、窓ガラスWの昇降方向D1は、完全な鉛直方向であってもよいし、鉛直方向に対して傾斜していてもよい。窓ガラスWは、窓ガラス昇降装置1がドアパネルP等の取付対象に取り付けられた後、移動部材4に取り付けられる。具体的には、窓ガラスWをアウタパネルP1とインナパネルP2との間の隙間(図2における上側の隙間)から移動部材4に向かって移動させることによって、窓ガラスWが移動部材4に取り付けられる。なお、窓ガラスWが移動部材4に取り付けられる際、通常は、移動部材4がガイドレール6の下端側に配置された状態(図1および図2の二点鎖線参照)で取り付けられる。この場合、移動部材4がそれ以上下降しない位置にあることで安定して、窓ガラスWの取り付けが容易となる。
【0017】
駆動部2は、移動部材4を移動させるためにケーブル3を駆動する駆動源である。駆動部2は、電動でケーブル3を駆動するものであっても、手動でケーブル3を駆動するものであってもよい。本実施形態では、駆動部2は、図1および図2に示されるように、モータ21を備えている。モータ21は正逆回転可能に構成され、図示しない減速機構を有している。減速機構に連結された出力軸は図示しないドラムに連結され、モータ21によりドラムハウジング22内のドラムが正逆回転し、ケーブル3がドラムに巻き取りおよびドラムから繰り出しされる。本実施形態では、駆動部2は、窓ガラス昇降装置1の昇降方向D1の下端に設けられており、ガイドレール6の下端と接続されている。上述したように、駆動部2が設けられる位置は、駆動部2によってケーブル3を駆動することができれば、特に限定されない。
【0018】
ケーブル3は、駆動部2の駆動力を移動部材4に伝達する。ケーブル3は、駆動力を伝達するために、駆動部2と移動部材4とを接続する。ケーブル3は、駆動部2の駆動力により移動部材4を移動させる。本実施形態では、ケーブル3は、第1のケーブル31と第2のケーブル32とを有している。第1のケーブル31および第2のケーブル32の一端側のケーブルエンド(図示せず)は、駆動部2のドラムに接続され、他端側のケーブルエンド31E、32E(図1参照)は、移動部材4に接続されている。
【0019】
本実施形態では、第1のケーブル31は上昇用ケーブルである。第1のケーブル31は、駆動部2から昇降方向D1で上昇方向に延びて、方向変換部材5によって方向変換されて、昇降方向D1で下降方向に延び、移動部材4に接続されている。また、本実施形態では、第2のケーブル32は下降用ケーブルである。第2のケーブル32は、駆動部2から昇降方向D1で上昇方向に延びて、移動部材4に接続されている。
【0020】
第1のケーブル31が駆動部2のドラムに巻き取られると、第2のケーブル32が繰り出され、移動部材4が第1のケーブル31によって上昇方向に引き上げられて上昇する。逆に、第2のケーブル32が駆動部2のドラムに巻き取られると、第1のケーブル31が繰り出され、移動部材4が第2のケーブル32によって下降方向に引き下げられて下降する。この移動部材4の昇降移動によって、移動部材4に取り付けられた窓ガラスWが昇降する。
【0021】
なお、ケーブル3は、公知のコントロールケーブルを用いることができる。たとえば、第1のケーブル31および第2のケーブル32は、コントロールケーブルのインナーケーブルとすることができる。
【0022】
ガイドレール6は、移動部材4と係合し、移動部材4を昇降方向D1に沿って摺動可能に案内するガイド部材である。ガイドレール6はドアパネルP等の取付対象に取り付けられる。本実施形態では、ガイドレール6の上端には、方向変換部材5が取り付けられ、ガイドレール6の下端には、駆動部2が取り付けられている。なお、ガイドレール6の形状および構造は、移動部材4を案内することができれば特に限定されない。また、ガイドレール6は本発明において必須の構成ではなく、窓ガラス昇降装置1に設けられていなくてもよい。
【0023】
方向変換部材5は、ケーブル3を方向変換する部材である。本実施形態では、方向変換部材5は、図1および図2に示されるように、昇降方向D1で窓ガラス昇降装置1の上昇方向側に設けられている。なお、方向変換部材5は、本実施形態では、窓ガラス昇降装置1の上昇方向側に1つのみ設けられているが、駆動部2が本実施形態とは異なる位置に設けられる場合など、異なる構造を有する窓ガラス昇降装置の下降方向側にも設けられていてもよい。方向変換部材5の詳細については後述する。
【0024】
移動部材4は、駆動部2により駆動されるケーブル3によって移動する。移動部材4には、窓ガラスWが直接または間接的に取り付けられる。移動部材4は、昇降方向D1に沿って移動することにより、窓ガラスWを昇降方向D1に移動させる。本実施形態では、移動部材4は、昇降方向D1に延びるガイドレール6に案内されることで、昇降方向D1に移動して、窓ガラスWを昇降方向D1に移動させる。
【0025】
移動部材4は、図1に示されるように、ケーブルエンド31E、32Eが接続されるケーブルエンド接続部41と、窓ガラスWの下端が取付けられる窓ガラス取付部42とを有している。窓ガラス取付部42は、図1に示されるように、移動部材4の昇降方向D1で上昇側となる移動部材4の端部に設けられている。窓ガラス取付部42は、本実施形態では、窓ガラスWを移動部材4に取り付けるためのボルト等の固定部材が挿入される取付孔H(図1参照)を有している。なお、窓ガラス取付部42は、窓ガラスWを移動部材4に取り付けることができればよく、ガラスホルダによって間接的に取り付けられてもよく、取付孔Hを有するものに限定されない。
【0026】
つぎに、方向変換部材5について説明する。
【0027】
方向変換部材5は、窓ガラス昇降装置1用の方向変換部材であり、ケーブル3が摺動可能に掛け回される。本実施形態では、方向変換部材5は、ケーブル3を掛け回す湾曲面を有する回転しないケーブルガイドであるが、方向変換部材は、ケーブル3を方向変換するために、ケーブル3を摺動可能に掛け回すことができれば、所定の軸周りに回転するプーリであってもよい。
【0028】
方向変換部材5は、図3C~3F、図5に示されるように、ケーブル3が掛け回され、グリスが塗布される溝51と、溝51を間に挟むように設けられた第1フランジ部52および第2フランジ部53とを備えている。方向変換部材5は、図2に示されるように、窓ガラスWの厚さ方向D2で第2フランジ部53が第1フランジ部52よりも窓ガラスWに近くなり、第1フランジ部52が第2フランジ部53よりも窓ガラスWから遠くなるように、窓ガラス昇降装置1に設けられている。方向変換部材5は、本実施形態では、ガイドレール接続部54(図3D参照)を介してガイドレール6に接続されている。ガイドレール接続部54は、方向変換部材5をガイドレール6に接続することができれば特に限定されないが、本実施形態では、図3Dに示されるように、ガイドレール6の端部を差し込み可能な凹部として形成されている。
【0029】
方向変換部材5は、本実施形態では、図3Aおよび図3Bに示されるように、厚さ方向D2で見たときに、略半円形状を有している。しかし、方向変換部材5の形状および構造は、溝51、第1フランジ部52および第2フランジ部53を有していれば、特に限定されない。
【0030】
溝51は、ケーブル3が掛け回される部位である。本実施形態では、溝51は、所定の曲率で湾曲して形成されている。溝51は、第1フランジ部52および第2フランジ部53の間に形成されている。溝51は、ケーブル3が溝51の形成方向に沿って案内されるように、第1フランジ部52の外周縁52aおよび第2フランジ部53の外周縁53aに対して凹んでいる。より具体的には、本実施形態では、溝51は、厚さ方向D2に延びる所定の軸Ax(図3A図3Bおよび図5参照)を中心に円弧状に形成された第1フランジ部52の外周縁52aに対して、軸Axに近付く方向に凹んだ領域となっている。
【0031】
溝51の形状は、ケーブル3を摺動可能に掛け回すことができれば、特に限定されない。本実施形態では、図3C図3Fに示されるように、溝51の、溝51を通るケーブル3の延在方向(溝51の延在方向)に対して垂直な断面における形状が、略V字状に形成されている。具体的には、溝51は、第1フランジ部52側となる第1壁部51aと第2フランジ部53側となる第2壁部51bとが略V字状となるように構成されている。上述したように、溝51には、ケーブル3を円滑に案内するためのグリスが塗布される。グリスは、溝51にケーブル3が掛け回される前に塗布されてもよいし、ケーブル3が掛け回された後に塗布されてもよい。
【0032】
第1フランジ部52は、溝51を画定するために溝51の厚さ方向D2で両側に隣接するフランジ部のうち、窓ガラスWから遠い側のフランジ部である。第1フランジ部52は、方向変換部材5において、ケーブル3が掛け回された領域の、厚さ方向D2で窓ガラスWから遠い側に設けられ、ケーブル3の溝51からの離脱を抑制する。
【0033】
第1フランジ部52は、溝51の底部Bから第1フランジ部52の外周縁52aまでの溝51の溝深さL1(図3E参照)が、ケーブル3を案内可能な所定の溝深さとなるように形成されている。なお、本実施形態では、第1フランジ部52の外周縁52aが、図3Aに示されるように、少なくともケーブル3が掛け回された領域に対応した部分において部分円弧状に形成されている。具体的には、第1フランジ部52の外周縁52aは、厚さ方向D2で見たときに略半円状に延びている。
【0034】
第2フランジ部53は、第1フランジ部51よりも、窓ガラス昇降装置1によって昇降する窓ガラスWに近くなるように配置される部位である。第2フランジ部53は、方向変換部材5において、ケーブル3が掛け回された領域の、厚さ方向D2で窓ガラスWに近い側に設けられ、ケーブル3の溝51からの離脱を抑制する。
【0035】
本実施形態では、第2フランジ部53の外周縁53aは、図3Aに示されるように、少なくともケーブル3が掛け回された領域に対応した部分において部分円弧状に形成されている。具体的には、第2フランジ部53の外周縁53aは、厚さ方向D2で見たときに略半円状に延びている。なお、第1フランジ部52の外周縁52aと第2フランジ部53の外周縁53aとは同じ曲率で湾曲していてもよいし、異なる曲率で湾曲していてもよい。
【0036】
第2フランジ部53は、図3A図3Eおよび図3Fに示されるように、窓ガラスWの面に対して垂直な方向(窓ガラスWの厚さ方向D2)で見たときに、第2フランジ部53の外周縁53aが第1フランジ部52の外周縁52aに対して張り出した張出部53bを有している。張出部53bは、詳細は後述するが、溝51に塗布されたグリスが第2フランジ部53の外周縁53aにはみ出すことを抑制し、窓ガラスWへのグリスの付着を抑制する。
【0037】
張出部53bは、厚さ方向D2で見たときに溝51の上縁に対応する位置にある第1フランジ部52の外周縁52aに対して、溝51の深さ方向で、溝51の底部Bから離れる方向で所定の長さで張り出すように構成されている。本実施形態では、第1フランジ部52の外周縁52aおよび第2フランジ部53の外周縁53aは、厚さ方向D2で見たときに略円形(略半円形)となっており、第2フランジ部53の外周縁53aの中心が、第1フランジ部52の外周縁52aの中心に対してシフトすることによって、張出部53bが形成されている。なお、張出部53bが形成されるように構成されていれば、例えば、第2フランジ部53の外周縁53aの外径が、第1フランジ部52の外周縁52aの外径よりも大きくなるように、方向変換部材5が構成されていてもよい。本実施形態では、第2フランジ部53のうち、第1フランジ部52の外周縁52aに対して第1フランジ部52の径方向外側に大きい部分が張出部53bを構成する。この場合、張出部53bが、図3Aに示されるように、厚さ方向D2で見たときに略扇状に第1フランジ部52の外周縁52aに対して張り出しており、ケーブル3の延在方向の所定範囲においてグリスのはみ出しが抑制される。なお、第1フランジ部52の外周縁52aおよび第2フランジ部53の外周縁53aは、円形に近い形であれば完全な円形である必要はない。なお、第2フランジ部53の張出部53bは、必ずしもケーブル3が掛け回された領域全体で第1フランジ部52の外周縁52aから張り出している必要はない。例えば、第2フランジ部53の張出部53bは、窓ガラス昇降装置1が取付対象に取り付けられた状態で、第1フランジ部52の上端Tを含む第1フランジ部52の外周縁52aの所定の領域(図3Aにおいて、第1フランジ部52の外周縁52aのうち、上端Tを含む左右の領域)に対応して設けられていればよい。
【0038】
なお、張出部53bの張出幅となる、溝51の深さ方向で溝51の底部Bから離れる方向での所定の長さL2(図3E参照)は、グリスのはみ出しを抑制することができれば、特に限定されない。張出部53bの張出幅の所定の長さL2は、例えば、方向変換部材5の昇降方向D1の上端部において、溝の深さL1の0.3~5倍、好ましくは、0.4~2.0倍、さらに好ましくは0.5~1.2倍とすることができる。
【0039】
張出部53bの形状および構造は、グリスのはみ出しを抑制することができれば、特に限定されない。本実施形態では、張出部53bは、図3Eおよび図3Fに示されるように、溝51の底部Bから第2フランジ部53の外周縁53aまで傾斜して延びるように、溝51と連続した傾斜壁部IWを有している。傾斜壁部IWは、溝51の底部Bから離れるに従って(図2および図3Eにおいて上に移動するにつれて)、窓ガラスWに近付くように傾斜している。より具体的には、傾斜壁部IWは、溝51の第2壁部51bの延長線上に延びている。
【0040】
上述したように、第2フランジ部53は、第2フランジ部53の外周縁53aが第1フランジ部52の外周縁52aに対して張り出した張出部53bを有している。これにより、溝51にグリスが塗布され、ケーブル3が溝51にガイドされた状態において、窓ガラスWに近い側となる第2フランジ部53の外周縁53aにグリスが付着しにくい。したがって、窓ガラスWを窓ガラス昇降装置1に取り付ける際に、グリスが窓ガラスWに付着することが抑制される。そして、第2フランジ部53の外周縁53aにグリスが付着しにくい構造となっているため、グリスの塗布が容易となる。
【0041】
以下、上記作用効果について、一実施形態の方向変換部材5を例に挙げて、より詳細に説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、以下の説明により本発明が限定されるものではない。
【0042】
まず、張出部を有していない方向変換部材500の場合について説明する。図7に示されるように、方向変換部材500は、同じ高さで突出した第1フランジ部520と第2フランジ部530とを有し、第1フランジ部520と第2フランジ部530との間に、溝510が設けられている。溝510にグリスGが所定量塗布されると、塗布量や塗布の仕方によって、溝510から溢れたグリスGは、第1フランジ部520の外周縁520aおよび第2フランジ部530の外周縁530aに付着する。その状態で、ケーブル3が方向変換部材500に掛け回されると、溝510内のグリスGはさらに第2フランジ部530の外周縁530a(および第1フランジ部520の外周縁520a)において、窓ガラスWに近付く方向へ広がる場合がある。第2フランジ部530の外周縁530aに溢れ出たグリスGは、窓ガラスWを窓ガラス昇降装置1の移動部材4に向けて移動させる際に、窓ガラスWが第2フランジ部530の外周縁530aに接触した場合に、図7に示されるように、窓ガラスWに付着してしまう。特に窓ガラスWを閉鎖した時に車両のドアの開口部を塞ぐ部分にグリスGが付着してしまった場合、窓ガラスWを移動部材4に取り付けた後、窓ガラスWを上昇させたときに、ドアパネルに設けられた水切りモールによって窓ガラスWに付着したグリスGが窓ガラスWの表面上で延ばされてしまう。そのため、グリスGの窓ガラスWへの付着に起因する汚れによって、窓ガラスWや水切りモールの清掃が大変となる。
【0043】
一方、本実施形態では、図8に示されるように、溝51にグリスGが所定量塗布された後、ケーブル3が方向変換部材5に掛け回されると、溝51から溢れたグリスGは、第1フランジ部52の外周縁52aに溢れ出し、張出部53bの窓ガラスWには面しない面(傾斜壁部IW)に付着するが、第2フランジ部53の外周縁53aまでは到達しにくい。そして、本実施形態では、第1フランジ部52の外周縁52aが、第2フランジ部53の外周縁53aに対して、溝51の底部Bからの高さが低いため、グリスGは第2フランジ部53の外周縁53aに向かうよりも優先的に第1フランジ部52の外周縁52aへと移動しやすい。そのため、よりグリスGが第2フランジ部53の外周縁53aへと到達しにくい。また、第1フランジ部52は、第2フランジ部53に対して張り出していないため、第2フランジ部53の周囲よりも第1フランジ部52の周囲にスペースが確保される。また、本実施形態では、傾斜壁部IWが設けられていることにより、張出部53bの窓ガラスWには面しない面(第1フランジ部52に対向する側の面)が、窓ガラスWと略平行に延びている場合と比較して、溝51の上方の空間が上方に向かうにつれて徐々に広くなるので、溢れたグリスGは第2フランジ部53の外周縁53aにさらに到達しにくくなっている。
【0044】
このように、本実施形態の方向変換部材5では、張出部53bが設けられていることによって、第2フランジ部53の外周縁53aにグリスGが付着することが抑制される。そのため、窓ガラスWを移動部材4に取り付ける際に、安定しない窓ガラスWが移動の最中にふらついて方向変換部材5の第2フランジ部53の外周縁53aに接触した場合などに、窓ガラスWにグリスGが付着することが抑制される。また、グリスGを塗布する際に、グリスGの塗布具のノズルの先端などが溝51の位置に合っていない場合、張出部を有していない方向変換部材500の場合は、第2フランジ部53の外周縁53aに直接グリスGが塗布されてしまう。そのため、窓ガラスWにグリスGが付着しやすい。一方、本実施形態の方向変換部材5の場合、張出部53bが設けられていることによって、例えば、グリスGの塗布具のノズルの先端を張出部53bの傾斜壁部IWに当接させることなどによって、溝51へ位置合わせさせやすい。そのため、グリスGの塗布が容易となる。また、仮に溝51からずれた位置にグリスGが塗布されても、張出部53bの傾斜壁部IWにグリスGが塗布されるだけであり、第2フランジ部53の外周縁53aに直接グリスGが塗布されることが抑制される。したがって、窓ガラスWへのグリスGの付着がさらに抑制される。
【符号の説明】
【0045】
1 窓ガラス昇降装置
2 駆動部
21 モータ
22 ドラムハウジング
3 ケーブル
31 第1のケーブル
31E ケーブルエンド
32 第2のケーブル
32E ケーブルエンド
4 移動部材
41 ケーブルエンド接続部
42 窓ガラス取付部
5 方向変換部材
51 溝
51a 第1壁部
51b 第2壁部
52 第1フランジ部
52a 第1フランジ部の外周縁
53 第2フランジ部
53a 第2フランジ部の外周縁
53b 張出部
54 ガイドレール接続部
500 方向変換部材
510 溝
520 第1フランジ部
520a 第1フランジ部の外周縁
530 第2フランジ部
530a 第2フランジ部の外周縁
6 ガイドレール
7 取付部材
Ax 軸
B 溝の底部
D1 窓ガラスの昇降方向
D2 窓ガラスの厚さ方向
D3 幅方向
G グリス
H 取付孔
L1 溝深さ
L2 張出部の所定の長さ
P ドアパネル
P1 アウタパネル
P2 インナパネル
T 第1フランジ部の上端
W 窓ガラス
IW 傾斜壁部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8