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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】油圧ショベルのキャビン構造
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/16 20060101AFI20240228BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20240228BHJP
   B62D 24/02 20060101ALI20240228BHJP
   B62D 21/18 20060101ALI20240228BHJP
   B66C 13/54 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
E02F9/16 A
B62D25/20 A
B62D24/02 B
B62D21/18 E
B66C13/54 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020152212
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046268
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】有地 毅成
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020687(JP,A)
【文献】特開2004-339901(JP,A)
【文献】実開平06-001139(JP,U)
【文献】特開2006-056325(JP,A)
【文献】特開2016-223224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0242093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/16
B62D 25/20
B62D 24/02
B62D 21/18
B66C 13/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ショベルのキャビンの床を構成するキャビンフロアは、平面状に形成され乗員用の座席が取り付けられるフロア一般面と、該フロア一般面の前部に下方に向けて形成された段差部またはスロープ部から成る前部フロア低床面とを備えており、
前記前部フロア低床面に、キャビンフレームの一部を構成するキャビンフロントクロスメンバが、その上面が前記前部フロア低床面より高く且つ前記フロア一般面より低くなるように取り付けられ、
前記キャビンフロントクロスメンバに、前記キャビンのフロントガラスと接するウェザーストリップが取り付けられている、ことを特徴とする油圧ショベルのキャビン構造。
【請求項2】
前記キャビンフレームの一部を構成する前記キャビンフロントクロスメンバの車幅方向の左右にキャビンフロントマウント取付孔が形成され、該キャビンフロントマウント取付孔の位置に合わせて前記前部フロア低床面にフロアフロント貫通孔が形成され、該フロアフロント貫通孔および前記キャビンフロントマウント取付孔に、前記キャビンフレームの下方に配置された旋回フレームに取り付けられたフロントマウントラバーのネジロッドが挿通され、該ネジロッドにナットが締め込まれることで前記キャビンフロントクロスメンバと前記前部フロア低床面とが共締めされ、
前記キャビンフレームの一部を構成するキャビンリヤクロスメンバの車幅方向の左右にキャビンリヤマウント取付孔が形成され、該キャビンリヤマウント取付孔の位置に合わせて前記フロア一般面の後部にフロアリヤ貫通孔が形成され、該フロアリヤ貫通孔および前記キャビンリヤマウント取付孔に、前記旋回フレームに取り付けられたリヤマウントラバーのネジロッドが挿通され、該リヤマウントラバーのネジロッドにナットが締め込まれることで前記キャビンリヤクロスメンバと前記フロア一般面とが共締めされている、ことを特徴とする請求項1に記載の油圧ショベルのキャビン構造。
【請求項3】
前記旋回フレームは、前記リヤマウントラバーが取り付けられた部分と前記フロントマウントラバーが取り付けられた部分との間に、前記フロア一般面の高さと前記前部フロア低床面の高さの差を吸収するように、車長方向に傾斜された斜面部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の油圧ショベルのキャビン構造。
【請求項4】
前記キャビンフロアは、前記キャビン内に乗員が乗降するための開口部が設けられた側の前記フロア一般面の側部に、下方に向けて形成された段差部またはスロープ部から成る側部フロア低床面を更に備え、
該側部フロア低床面が設けられた側のサイドドアガラスの下端が、前記フロア一般面より下方に位置している、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の油圧ショベルのキャビン構造。
【請求項5】
前記旋回フレームは、前記フロア一般面の高さと前記側部フロア低床面の高さの差を吸収するように車幅方向に傾斜された斜面部を有する、ことを特徴とする請求項4に記載の油圧ショベルのキャビン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルのキャビン構造に係り、特に、前方下方の視界を広げた油圧ショベルのキャビン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に油圧ショベル1のバケット2の軌跡を示す。図示するように、油圧ショベル1は、ブーム3およびアーム4を下方に旋回させることでバケット2がグランドレベル5よりも相当深さ下方に移動するため、キャビン6内の乗員(オペレーター)にとっては前方下方の視界が重要となる。
【0003】
しかし、図2に示す油圧ショベル1の従来のキャビン構造7Jにおいては、図2のIIIa-IIIa線断面図である図3(a)に示すように、キャビン6の床を構成するキャビンフロア8Jが全体的に平板であり、キャビンフロア8Jの前部の上面に、キャビンフレーム9の一部を構成するキャビンフロントクロスメンバ10がキャビンフロア8Jから上方に突出するように取り付けられていたため、そのキャビンフロントクロスメンバ10が前方下方の視界拡大の妨げとなっていた。すなわち、キャビンフロア8Jに取り付けられた乗員用の座席S(図9参照)に座った乗員のアイポイントEからキャビン6のフロントガラス11を通じた前方下方の下限視線12Jが、キャビンフロア8Jの前部の上面から上方に突出されたキャビンフロントクロスメンバ10に装着されたウェザーストリップ13によって制限されていた。
【0004】
また、図2に示す油圧ショベル1のキャビン構造7Jにおいては、キャビン6を旋回させた際の安全確認等のため、キャビン6内の乗員にとって、サイドドアガラス14の下窓ガラス14bの下方視界が重要となる。
【0005】
しかし、油圧ショベル1の従来のキャビン構造7Jにおいては、図2のIIIb-IIIb線断面図である図3(b)に示すように、全体的に平板状に形成されたキャビンフロア8Jの上にキャビン6を組み付ける構造であり、サイドドアガラス14の下窓ガラス14b(図2参照)の下端14xをキャビンフロア8Jよりも下方に拡大することができず、側方下方の視界が制限されていた。すなわち、下窓ガラス14bの下部はサイドドア15の下桁部15xに接着剤16によって取り付けられており、その接着剤16が外部から見えないようにするため下窓ガラス14bの下部には黒色部14y(黒色セラミックコーティング)が施されており、その黒色部14yがキャビンフロア8Jに取り付けられた乗員用の座席S(図9参照)に座った乗員のアイポイントEから下窓ガラス14bを通じた側方下方の下限視線17Jとなるところ、キャビンフロア8Jが全体的に平板状に形成されていて下窓ガラス14bの下端14xがキャビンフロア8Jよりも上方となっているため、側方下方の視界が制限されていた。
【0006】
また、図4に示すように、乗員は、キャビン6に乗降する際、サイドドア15を開いてクローラー18の上に立ち、一方の足がクローラー18に乗った状態で他方の足をキャビン6内のキャビンフロア8Jに踏み入れ、クローラー18とキャビンフロア8Jとの段差を跨いで越える必要がある。この段差を小さくできれば乗降性の向上および乗降時安全性の向上に繋がる。
【0007】
しかし、油圧ショベル1の従来のキャビン構造7Jにおいては、図2のIIIb-IIIb線断面図である図3(b)に示すように、キャビンフロア8Jが全体的に平板状となっているため、クローラー18とキャビンフロア8Jとの間に一定の段差が生じており、段差の縮小が望まれていた。
【0008】
また、特許文献1の要約、図4には、運転室の前面の下部を形成するフレーム24(キャビンフロントクロスメンバ)が、運転室の床部材14(キャビンフロア)の前部に、床面と略同一又は下方に配設されたものが開示されている。
【0009】
しかし、文献1に記載されたものは、平板状のキャビンフロアの前部にキャビンフロントクロスメンバを面一に或いは下方に段差状に取り付けることで前方下方視界の向上を図ったものであり、キャビンフロア自体を下方に段差状或いはスロープ状に形成した本発明とは相違する。また、文献1のキャビンフロントクロスメンバは、キャビンフロア上に載っていないため、転倒時にフロントピラーが受ける荷重をキャビンフロアに効率よく伝えられず、ROPS(Roll-Over Protective Structure:転倒時保護構造)で定められた規格を満足することが困難である。また、文献1には、側方下方の視界、乗降性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-20687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の主たる目的は、転倒時に必要な強度を確保しつつ、前方下方の視界を広げられる油圧ショベルのキャビン構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、油圧ショベルのキャビンの床を構成するキャビンフロアは、平面状に形成され乗員用の座席が取り付けられるフロア一般面と、フロア一般面の前部に下方に向けて形成された段差部またはスロープ部から成る前部フロア低床面とを備えており、前部フロア低床面に、キャビンフレームの一部を構成するキャビンフロントクロスメンバが、その上面が前部フロア低床面より高く且つフロア一般面より低くなるように取り付けられ、キャビンフロントクロスメンバに、キャビンのフロントガラスと接するウェザーストリップが取り付けられている、ことを特徴とする油圧ショベルのキャビン構造が提供される。
【0013】
本発明に係る油圧ショベルのキャビン構造においては、キャビンフレームの一部を構成するキャビンフロントクロスメンバの車幅方向の左右にキャビンフロントマウント取付孔が形成され、キャビンフロントマウント取付孔の位置に合わせて前部フロア低床面にフロアフロント貫通孔が形成され、フロアフロント貫通孔およびキャビンフロントマウント取付孔に、キャビンフレームの下方に配置された旋回フレームに取り付けられたフロントマウントラバーのネジロッドが挿通され、ネジロッドにナットが締め込まれることでキャビンフロントクロスメンバと前部フロア低床面とが共締めされ、キャビンフレームの一部を構成するキャビンリヤクロスメンバの車幅方向の左右にキャビンリヤマウント取付孔が形成され、キャビンリヤマウント取付孔の位置に合わせてフロア一般面の後部にフロアリヤ貫通孔が形成され、フロアリヤ貫通孔およびキャビンリヤマウント取付孔に、旋回フレームに取り付けられたリヤマウントラバーのネジロッドが挿通され、リヤマウントラバーのネジロッドにナットが締め込まれることでキャビンリヤクロスメンバとフロア一般面とが共締めされていてもよい。
【0014】
本発明に係る油圧ショベルのキャビン構造においては、旋回フレームは、リヤマウントラバーが取り付けられた部分とフロントマウントラバーが取り付けられた部分との間に、フロア一般面の高さと前部フロア低床面の高さの差を吸収するように、車長方向に傾斜された斜面部を有していてもよい。
【0015】
本発明に係る油圧ショベルのキャビン構造においては、キャビンフロアは、キャビン内に乗員が乗降するための開口部が設けられた側のフロア一般面の側部に、下方に向けて形成された段差部またはスロープ部から成る側部フロア低床面を更に備え、側部フロア低床面が設けられた側のサイドドアガラスの下端が、フロア一般面より下方に位置していてもよい。
【0016】
本発明に係る油圧ショベルのキャビン構造においては、旋回フレームは、フロア一般面の高さと側部フロア低床面の高さの差を吸収するように車幅方向に傾斜された斜面部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る油圧ショベルのキャビン構造によれば、転倒時に必要な強度を確保しつつ、前方下方の視界を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】油圧ショベルのバケットの軌跡を示す説明図である。
図2】従来の油圧ショベルのキャビン構造の外観を示す斜視図である。
図3】(a)は図2のIIIa-IIIa線断面図、(b)は図2のIIIb-IIIb線断面図である。
図4】油圧ショベルのキャビンに乗員が乗降する様子を示す説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルのキャビン構造の概要を示す分解斜視図である。
図6】本実施形態に係る油圧ショベルのキャビン構造の外観を示す斜視図である。
図7】(a)は図6のVIIa-VIIa線断面図、(b)は図6のVIIb-VIIb線断面図である。
図8】(a)は図7(a)の斜視断面図、(b)は図7(b)の斜視断面図である。
図9】乗員のアイポイントから見た前方下方視界の拡大、側方下方視界の拡大を示す概要斜視図である。
図10】(a)は乗員のアイポイントから見た前方下方視界の拡大を示す断面図、(b)は乗員のアイポイントから見た側方下方視界の拡大を示す断面図である。
図11】キャビンフロアの変形例を示す斜視図である。
図12】(a)は変形例のキャビンフロアを備えた油圧ショベルのキャビン構造のフロント部分の斜視断面図、(b)は同キャビン構造のサイド部分の斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(油圧ショベル1のキャビン構造7の概要)
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る油圧ショベル1のキャビン構造7においては、油圧ショベル1のキャビン6の床を構成するキャビンフロア8は、平面状に形成され乗員(オペレーター)用の座席S(図9参照)が取り付けられるフロア一般面8aと、フロア一般面8aの前部に下方に向けて形成された段差部(前部段差部)から成る前部フロア低床面8bとを備えている。
【0021】
図6に本実施形態に係る油圧ショベル1のキャビン構造7の外観斜視図を示す。図6のVIIa-VIIa線断面図である図7(a)に示すように、前部フロア低床面8bには、キャビンフレーム9の一部を構成するキャビンフロントクロスメンバ10が、その上面10aが前部フロア低床面8bより高く且つフロア一般面8aより低くなるように取り付けられており、キャビンフロントクロスメンバ10に、キャビン6のフロントガラス11と接するウェザーストリップ13が取り付けられている。以下、この油圧ショベル1のキャビン構造7について詳細に説明する。
【0022】
(キャビンフレーム9)
図5に示すように、キャビンフロア8が取り付けられるキャビンフレーム9は、キャビンフロア8の前部に車幅方向に配置されたキャビンフロントクロスメンバ10と、キャビンフロア8の後部に車幅方向に配置されたキャビンリヤクロスメンバ19と、キャビンフロントクロスメンバ10の左右端部とキャビンリヤクロスメンバ19の左右端部とを接続する一対のサイドメンバ20と、キャビンフロントクロスメンバ10の左右端部から上方に延出された一対のフロントピラー21と、キャビンリヤクロスメンバ19の左右端部から上方に延出された一対のリヤピラー22と、フロントピラー21とリヤピラー22とを接続するルーフレール23とを備えている。
【0023】
(キャビンフロア8)
図5に示すように、キャビンフロア8は、キャビンフレーム9を構成するキャビンフロントクロスメンバ10の左右端部とキャビンリヤクロスメンバ19の左右端部とに、ネジ等の締結具によって固定されている。キャビンフロア8は、乗員(オペレーター)用の座席S(図9参照)が取り付けられる平面状のフロア一般面8aを有している。キャビンフロア8は、フロア一般面8aに前部に、下方に向けて形成された段差部(前部段差部)から成る前部フロア低床面8bを有している(図7(a)、図8(a)参照)。キャビンフロア8は、図5に示すように、キャビン6内に乗員が乗降するための開口部24が設けられた側のフロア一般面8aの側部に、下方に向けて形成された段差部(側部段差部)から成る側部フロア低床面8cを有している(図7(b)、図8(b)参照)。
【0024】
(前部下方視界の向上)
図7(a)、図8(a)に示すように、前部フロア低床面8bには、キャビンフレーム9の一部を構成するキャビンフロントクロスメンバ10が、キャビンフロントクロスメンバ10の上面10aが前部フロア低床面8bより高く且つフロア一般面8aより低くなるように、取り付けられている。キャビンフロントクロスメンバ10には、キャビンのフロントガラス11と接するウェザーストリップ13が車幅方向(図7(a)の裏表方向)に沿って取り付けられている。
【0025】
この構成によれば、図9に示すように、キャビンフロア8のフロア一般面8aに取り付けられた乗員用の座席Sに座った乗員のアイポイントEからキャビン6のフロントガラス11を通じた前方下方の下限視線12は、図7(a)に示すように、キャビンフロア8の前部フロア低床面8bの上面から上方に突出されたキャビンフロントクロスメンバ10に装着されたウェザーストリップ13によって制限される。
【0026】
ここで、図3(a)に示すように、キャビンフロア8Jが全体的に平板状であり座席Sが取り付けられる高さが本実施形態のフロア一般面8aの高さとなっていた従来例と比べると、図10(a)に示すように、本実施形態においては、キャビンフロントクロスメンバ10の上面10aがフロア一般面8aより低いので、ウェザーストリップ13の位置が、キャビンフロントクロスメンバ10の上面10aがフロア一般面8aよりも高い従来例と比べて低くなり、前方下方の視界が拡大する。すなわち、図9に示す座席Sに座った乗員のアイポイントEからキャビン6のフロントガラス11を通じた前方下方の下限視線12が、図10(a)に示すように、従来の下限視線12Jよりも下方に広がり、前方下方の視界が拡大する。この結果、図1に示すように、バケット2を前方下方に移動させる際の作業性が向上する。
【0027】
(側部下方視界の向上)
図7(b)、図8(b)に示すように、フロア一般面8aの、キャビン6内に乗員が乗降するためのドアの開口部24(図5参照)が設けられた側の側部には、下方に向けて形成された段差部(側部段差部)から成る側部フロア低床面8cが形成されており、側部フロア低床面8cが設けられた側のサイドドアガラス14の下窓ガラス14b(図6参照)の下端14xが、フロア一般面8aより下方に位置している。図6に示すように、サイドドアガラス14は、上部の引違開閉タイプの上窓ガラス14aと下部のフィックスタイプの下窓ガラス14bとから成るところ、下窓ガラス14bを通じて側部下方の視界が得られる。
【0028】
図7(b)に示すように、サイドドアガラス14の下窓ガラス14bの下部はサイドドア15の下桁部15xに接着剤16によって取り付けられており、その接着剤16が外部から見えないようにするため下窓ガラス14bの下部には黒色部14y(黒色セラミックコーティング)が施されている。よって、その黒色部14yがキャビンフロア8のフロア一般面8aに取り付けられた乗員用の座席Sに座った乗員のアイポイントEから下窓ガラス14bを通じた側方下方の下限視線17となる(図9参照)。
【0029】
ここで、図3(b)に示すように、キャビンフロア8Jが全体的に平板状であり座席Sが取り付けられる高さが本実施形態のフロア一般面8aの高さとなっていた従来例と比べると、図10(b)に示すように、本実施形態においては、下窓ガラス14bの下端14xがフロア一般面8aより下方に位置しているので、黒色部14yの位置が、下窓ガラス14bの下端14xがフロア一般面8aより高い従来例と比べて低くなり、側方下方の視界が拡大する。すなわち、図9に示す座席Sに座った乗員のアイポイントEからキャビン6の下窓ガラス14bを通じた側方下方の下限視線17が、図10(b)に示すように、従来の下限視線17Jよりも下方に広がり、側方下方の視界が拡大する。この結果、図1に示す旋回ブーム3と反対側(ドア側)の側方下方の視界が向上し、キャビン6の旋回時の安全確認範囲を広げることができる。
【0030】
なお、図7(b)において、側部フロア低床面8cには断面L字状のサイドメンバ25が取り付けられており、サイドドア枠15の下桁部15xに取り付けられたウェザーストリップ26が、サイドドアを閉めたとき、サイドメンバ25に押し付けられるようになっている。
【0031】
(乗降性の向上)
図4に示すように、乗員がキャビン6に乗降する際、サイドドア15を開いてクローラー18の上に立った乗員は、一方の足がクローラー18に乗った状態で、他方の足を図7(b)に示すキャビン6内の側部フロア低床面8cに踏み入れ、キャビン6内に乗り込むことになる。ここで、本実施形態によれば、クローラー18からの最初のステップ(踏み板)がフロア一般面8aよりも低い側部フロア低床面8cとなるため、図10(b)に示すように、キャビンフロア8J全体がフロア一般面8aの高さであった従来例と比べると、クローラー18から最初のステップ(踏み板)までの段差(高さ)が低くなり、乗降性が向上すると共に乗降時の安全性が向上する。
【0032】
(キャビンフレーム9とキャビンフロア8との固定)
図5に示すように、キャビンフレーム9の一部を構成するキャビンフロントクロスメンバ10の車幅方向の左右には、キャビンフロントマウント取付孔27が形成され、キャビンフロントマウント取付孔27の位置に合わせて前部フロア低床面8bには、フロアフロント貫通孔28が形成されている。これらフロアフロント貫通孔28およびキャビンフロントマウント取付孔27には、キャビンフレーム9の下方に配置された旋回フレーム29に取り付けられたフロントマウントラバー30のネジロッド31が挿通され(図7(a)参照)、ネジロッド31にナット32が締め込まれることで、キャビンフロントクロスメンバ10と前部フロア低床面8bとが共締めされている。
【0033】
図7(a)に示すように、フロントマウントラバー30は、旋回フレーム29の上面に形成された孔33に差し込まれた状態で旋回フレーム29に固定されている。詳しくは、フロントマウントラバー30の側部にはフランジ34が設けられており、そのフランジ34が旋回フレーム29に溶接されたブラケット35にボルト36で締結されている。また、フロントマウントラバー30の上面には、ネジロッド31が設けられており、そのネジロッド31にフロアフロント貫通孔28およびキャビンフロントマウント取付孔27が挿通され、ナット32が締め込まれている。ナット32およびネジロッド31は、キャビンフロア8(フロア一般面8a、前部フロア低床面8b、側部フロア低床面8c)に敷設されたフロアマット37によって覆われている。
【0034】
また、図5に示すように、キャビンフレーム9の一部を構成するキャビンリヤクロスメンバ19の車幅方向の左右には、キャビンリヤマウント取付孔38が形成され、キャビンリヤマウント取付孔38の位置に合わせてフロア一般面8aの後部には、フロアリヤ貫通孔39が形成されている。これらフロアリヤ貫通孔39およびキャビンリヤマウント取付孔38には、フロント側と同様に、旋回フレーム29に取り付けられたリヤマウントラバー40のネジロッド41が挿通され、リヤマウントラバー40のネジロッド41にナット(図示省略)が締め込まれることで、キャビンリヤクロスメンバ19とフロア一般面8aとが共締めされている。
【0035】
(転倒時保護構造(ROPS)の剛性向上)
このように、キャビンフロア8の前部フロア低床面8bとフロア一般面8aとが、キャビンフレーム9を構成するキャビンフロントクロスメンバ10とキャビンリヤクロスメンバ19とに共締めされているので、キャビンフレーム9と一体化したキャビンフロア8が転倒時保護構造(ROPS)の剛性向上に寄与する。図5に示すように、キャビンフロア8は、平板状のフロア一般面8aに対して前部フロア低床面8bおよび側部フロア低床面8cが段差状に形成されているため、図3(a)、図3(b)に示すように、全体的に平板状に形成されていた従来のキャビンフロア8Jよりも剛性が向上し、かかるキャビンフロア8がキャビンフレーム9に共締めされることで、転倒時保護構造(ROPS)の剛性が向上する。また、キャビンフレーム9がキャビンフロア8と共に旋回フレーム29に共締めされているので、転倒時にキャビンフレーム9に加わる荷重を強固な旋回フレーム29に伝達でき、ROPS剛性が向上する。
【0036】
(旋回フレーム29の応力集中防止)
図5に示すように、旋回フレーム29には、リヤマウントラバー40が取り付けられた部分29Rとフロントマウントラバー30が取り付けられた部分29Fとの間に、フロア一般面8aの高さと前部フロア低床面8bの高さの差を吸収するように、車長方向に傾斜された斜面部42が形成されている。これにより、旋回フレーム29の車長方向の剛性が滑らかに変化し、フロア一般面8aと前部フロア低床面8bとの高さ差に起因する剛性の急変を回避している。かかる旋回フレーム29によれば、転倒時にキャビンフレーム9を介して旋回フレーム29に荷重が加わった際、車長方向における応力集中を回避でき、必要な剛性を確保できる。
【0037】
同様に、図5に示すように、旋回フレーム29には、フロア一般面8aの高さと側部フロア低床面8cの高さの差を吸収するように、車幅方向に傾斜された別の斜面部43が形成されている。これにより、旋回フレーム29の車幅方向の剛性が滑らかに変化し、フロア一般面8aと側部フロア低床面8cとの高さ差に起因する剛性の急変を回避している。かかる旋回フレーム29によれば、転倒時にキャビンフレーム9を介して旋回フレーム29に荷重が加わった際、車幅方向における応力集中を回避でき、必要な剛性を確保できる。
【0038】
また、図5において、旋回フレーム29の高さ方向の寸法が小さくなって断面係数が小さくなる前部フロア低床面8bの部分29Fおよび側部フロア低床面8cの部分29Sは、それ以外の部分(29R等の部分)と比べて剛性が低くなるため、板厚を増したり閉断面化したり補強材を追加することで剛性を高め、それ以外の部分との剛性バランスを取るようにしてもよい。
【0039】
(変形例)
図11図12(a)、図12(b)に、キャビンフロア8の変形例を示す。このキャビンフロア8を備えた変形実施形態においては、キャビンフロア8のフロア一般面8aの前部に下方に向けて形成された前部フロア低床面8bを段差部ではなくスロープ部(前部スロープ部)から構成し、フロア一般面8aの側部(サイドドア15側の側部)に下方に向けて形成された側部フロア低床面8cを段差部ではなくスロープ部(側部スロープ部)から構成した点が前実施形態と相違し、その他は最初の実施形態と同様の構成となっている。
【0040】
図11に示すように、前部フロア低床面8bには、図7(a)に示すフロントマウントラバー30の上面に水平に着座する円形の窪み部44が形成されており、その窪み部44には、フロントマウントラバー30のネジロッド31が挿通されるフロアフロント貫通孔28が形成され、フロアフロント貫通孔28及びキャビンフロントマウント取付孔27に挿通されたネジロッド31にナット32が締め込まれ、キャビンフロア8とキャビンフレーム9とが共締めされるようになっている(図7(a)参照)。この変形実施形態に係る作用・効果は前実施形態と同様なので説明を省略する。
【0041】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、前方下方の視界を広げた油圧ショベルのキャビン構造に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 油圧ショベル
6 キャビン
8 キャビンフロア
S 座席
E アイポイント
8a フロア一般面
8b 前部フロア低床面
8c 側部フロア低床面
9 キャビンフレーム
10 キャビンフロントクロスメンバ
10a キャビンフロントクロスメンバの上面
11 フロントガラス
13 ウェザーストリップ
14b サイドドアガラスの下窓ガラス
14x 下端
19 キャビンリヤクロスメンバ
27 キャビンフロントマウント取付孔
28 フロアフロント貫通孔
29 旋回フレーム
29F フロントマウントラバーが取り付けられた部分
29R リヤマウントラバーが取り付けられた部分
29S 側部フロア低床面の部分
30 フロントマウントラバー
31 ネジロッド
32 ナット
38 キャビンリヤマウント取付孔
39 フロアリヤ貫通孔
40 リヤマウントラバー
41 ネジロッド
42 車長方向に傾斜された斜面部
43 車幅方向に傾斜された斜面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12