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特許7444743尿素SCRシステム用部品、キットおよび尿素SCRシステム用部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】尿素SCRシステム用部品、キットおよび尿素SCRシステム用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20240228BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240228BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240228BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240228BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240228BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B29C45/16
C08L77/06
C08K3/013
C08K5/092
C08K7/14
C08G69/26
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 400
B29C45/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020154103
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022048005
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
(72)【発明者】
【氏名】小林 政之
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-218665(JP,A)
【文献】特開2005-193650(JP,A)
【文献】特開2016-172322(JP,A)
【文献】特開2012-163624(JP,A)
【文献】特開2009-62841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16
C08L 77/06
C08K 3/013
C08K 5/092
C08K 7/14
C08G 69/26
B01D 53/94
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)から形成された成形品(A)と、
酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)から形成された成形品(B)とが、
一部において接合している尿素SCRシステム用部品であって、
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である、尿素SCRシステム用部品。
【請求項2】
前記キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミン55~100モル%およびパラキシリレンジアミン45~0モル%を含む、請求項1に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項3】
前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸および/またはセバシン酸を含む、請求項1または2に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項4】
前記強化フィラーがガラス繊維を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸変性高密度ポリエチレン樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項6】
前記成形品(A)と成形品(B)とが溶着により接合している、請求項1~5のいずれか1項に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項7】
前記尿素SCRシステム用部品がバルブである、請求項1~6のいずれか1項に記載の尿素SCRシステム用部品。
【請求項8】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)と、
酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)とを含む、
尿素SCRシステム用部品形成用キットであって、
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である、キット。
【請求項9】
前記樹脂組成物(a)から形成された成形品と前記樹脂組成物(b)から形成された成形品の溶着品を80℃の尿素水に1000時間浸漬したときの前記浸漬前後の引張強度保持率=[(浸漬前の引張強度-浸漬後の引張強度)/浸漬前の引張強度]×100(単位:%)が80%以上である(ここで、引張強度は、ISO527-1、2に従って測定された値である)、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
請求項8または9に記載のキットを用い、多色成形またはインサート成形することを含む、尿素SCRシステム用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素SCRシステム用部品、ならびに、尿素SCRシステム用部品を形成するためのキットおよび尿素SCRシステム用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の燃費削減の要請に伴い、乗用車等の車両の軽量化が求められており、その対応として金属から樹脂への材料の転換が検討されている。乗用車の車体の装備においては、NOx低減のための尿素SCRシステム(SCR:Selective Catalytic Reduction)に必要な尿素水(アドブルー)が常に循環している。このような尿素SCRシステムに用いられる部品について、特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-11432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
尿素SCRシステムに使用される部品は、エンジンの近傍に設置されることが多い部品であり、また、尿素水を排気ガス中に噴射して、高温下で加水分解してアンモニアガスとしたりする。そのため、高温の尿素水(アドブルー)に対する耐性が高いことが求められる。特に、尿素SCRシステムに用いられる部品を樹脂で成形する場合、通常、樹脂部材同士が接合しているが、この接合の界面部分が高温の尿素水によってダメージを受けやすい。また、尿素SCRシステムに使用される部品は、通常、金属の代替品であるから、機械的強度も求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、高温の尿素水に長時間さらされても、部材界面の接合が容易に外れることが無く、かつ、機械的強度に優れた尿素SCRシステム用部品、ならびに、キットおよび尿素SCRシステム用部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、所定のポリアミド樹脂から形成された部材(成形品)と、所定のポリオレフィン樹脂から形成された部材(成形品)を用いて尿素SCRシステム用部品を成形することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)から形成された成形品(A)と、酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)から形成された成形品(B)とが、一部において接合している尿素SCRシステム用部品であって、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である、尿素SCRシステム用部品。
<2>前記キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミン55~100モル%およびパラキシリレンジアミン45~0モル%を含む、<1>に記載の尿素SCRシステム用部品。
<3>前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸および/またはセバシン酸を含む、<1>または<2>に記載の尿素SCRシステム用部品。
<4>前記強化フィラーがガラス繊維を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の尿素SCRシステム用部品。
<5>前記酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸変性高密度ポリエチレン樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の尿素SCRシステム用部品。
<6>前記成形品(A)と成形品(B)とが溶着により接合している、<1>~<5>のいずれか1つに記載の尿素SCRシステム用部品。
<7>前記尿素SCRシステム用部品がバルブである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の尿素SCRシステム用部品。
<8>キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)と、酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)とを含む、尿素SCRシステム用部品形成用キットであって、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である、キット。
<9>前記樹脂組成物(a)から形成された成形品と前記樹脂組成物(b)から形成された成形品の溶着品を80℃の尿素水に1000時間浸漬したときの前記浸漬前後の引張強度保持率=[(浸漬前の引張強度-浸漬後の引張強度)/浸漬前の引張強度]×100(単位:%)が80%以上である(ここで、引張強度は、ISO527-1、2に従って測定された値である)、<8>に記載のキット。
<10><8>または<9>に記載のキットを用い、多色成形またはインサート成形することを含む、尿素SCRシステム用部品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高温の尿素水に長時間さらされても、部材同士の界面の接合が容易に外れることが無く、かつ、機械的強度に優れた尿素SCRシステム用部品、ならびに、キットおよび尿素SCRシステム用部品の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0008】
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)から形成された成形品(A)(以下、「ポリアミド樹脂成形品(A)」と言うことがある)と、酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)から形成された成形品(B)(以下、「ポリオレフィン樹脂成形品(B)」と言うことがある)とが、一部において接合している尿素SCRシステム用部品であって、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、高温の尿素水に長時間さらされても、部材同士の接合が容易に外れることが無く、かつ、機械的強度に優れた尿素SCRシステム用部品が得られる。すなわち、尿素水は、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の界面に入り込んで強度を低下させるが、本実施形態の尿素SCRシステム用部品では、ポリアミド樹脂成形品(A)に含まれるアミノ基とポリオレフィン樹脂成形品(B)に含まれる酸基が作用し、界面で十分に接合しているため、強度保持率を高くできると推測される。特に、本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、高温の尿素水に長時間さらされても、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の接合が強い接合強度で保たれるため、接合面積の小さい尿素SCRシステム用部品であっても好適に利用できる。
以下、本実施形態の詳細について述べる。
【0009】
[ポリアミド樹脂成形品(A)]
本実施形態で用いるポリアミド樹脂成形品(A)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)から形成される。
【0010】
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、尿素水に対する耐性に優れる成形品が得られる。本実施形態で用いるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である。
反応モル比は、以下の式により表される値である。
反応モル比r = (1-cN-b(C-N))/(1-cC+a(C-N))
a: M1/2
b: M2/2
c: 18.015(水の分子量)
M1: ジアミンの分子量(g/mol)
M2: ジカルボン酸の分子量(g/mol)
N: 末端アミノ基濃度(当量/g)
C: 末端カルボキシル基濃度(当量/g)
反応モル比rの算出式については、アミド生成反応において化学量論的に導出できる。例えば、工業化学雑誌74巻7号(1971)165~166頁、「3・2 実験結果の解析」中、「3・2・1 2次反応式による解析」に基づいて導出できる。
まず、アミド化反応は、一般的に、各1つのアミノ基とカルボキシル基が反応し、1つのアミド基と1つの水分子が生成する縮合反応である。
~NH2+~COOH→~NHCO~+H2
ポリアミド樹脂は、アミノ基およびカルボキシル基を有する化合物が、上記アミド化反応にて生成するアミド基で繋がる繰り返しユニットを持つ縮合系ポリマーであり、ジアミン[n(NH2-Ra-NH2)]とジカルボン酸[n(HOOC-Rb-COOH)]とが縮合反応して、ポリアミド樹脂{H-[HN-Ra-NHCO-Rb-CO]n-OH}と水[(2n-1)H2O]が生成される。
n:繰り返しユニット数
Ra、Rb:任意の化合物構造式で示される基
これより、ある系で生成したポリアミド樹脂の質量Wは、化学量論的に下記の様に示される。
W=M1×1/2×n0(N)+M2×1/2×n0(C)-c×P×n0(N)
=M1×1/2×n0(N)+M2×1/2×n0(C)-c×P’×n0(C)…(1)
0(N):最初に系に存在するアミノ基モル数
0(C):最初に系に存在するカルボキシル基モル数
P:アミノ基反応率
P’:カルボキシル基反応率
ここで、工業化学雑誌74巻7号(1971)165頁の「3・2実験結果の解析」の「3・2・1 2次反応式による解析」に記載されている通り、下記(2)~(4)式が成立する。
r=P’/P=n0(N)/n0(C)…(2)
r:カルボキシル基とアミノ基のモル比(反応モル比rに相当)
(C)=(1-P’)n0(C)=(1-rP)n0(C)…(3)
(N)=(1-P)n0(N)=(1-P)r×n0(C)…(4)
(N):ポリアミド樹脂に存在するアミノ基のモル数
(C):ポリアミド樹脂に存在するカルボキシル基のモル数
また最初に系に存在するカルボキシル基1モル分を含んだポリアミド樹脂の質量をAとすると、下記式で示される。
A=W/n0(C)…(5)
ここで(5)式は、(1)式を代入すると下記式で表される。
A=(M1×1/2×n0(N)+M2×1/2×n0(C)-c×P×n0(N))/n0(C)
=M1×1/2×r+M2×1/2-c×P×r…(6)
ポリアミド樹脂のアミノ基濃度およびカルボキシル基濃度(末端基濃度)をN、Cとすると(3)、(4)、(5)式より下記式で示される。
C=n(C)/W=(1-rP)×n0(C)/W=(1-rP)/A…(7)
N=n(N)/W=(1-P)r×n0(C)/W=(1-P)r/A…(8)
(6)、(7)、(8)式を連立方程式として解くと下記式が得られる。
(7)、(8)式より
A=(1-rP)/C=(1-P)r/N…(9)
(9)式より
P=(rC-N)/r(C-N)…(10)
得られた(10)式を(9)式に代入して
A=(1-r)/(C-N)…(11)
(6)式に(10)、(11)式を代入するとrについて下記式が得られる。
r=(1-cN-M2×1/2(C-N))/(1-cC+M1×1/2(C-N))…(12)
すなわち、反応モル比r=(1-cN-b(C-N))/(1-cC+a(C-N))となる。
前記反応モル比を、下限値以上をすることにより、酸変性ポリオレフィン樹脂との反応性を向上させ、ポリオレフィン樹脂成形品(B)との界面強度を高くすることができる。また、前記上限値以下とすることにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の機械的強度を高くすることができ、得られるポリアミド樹脂成形品(A)の機械的強度を高くすることができる。
前記反応モル比は、1.007以上であることが好ましく、1.009以上であることがより好ましく、1.010以上であることがさらに好ましい。また、前記反応モル比は、1.014以下であることが好ましい。このような範囲とすることにより、アドブルー耐性がより向上する傾向にある。
【0011】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。また、ジアミン由来の構成単位中のキシリレンジアミン由来の構成単位の上限は、100モル%である。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。また、ジカルボン酸由来の構成単位中の炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位の上限は100モル%である。
【0012】
前記キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミンが好ましく、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことがより好ましく、キシリレンジアミンの55モル%以上(好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上)がメタキシリレンジアミンであることがさらに好ましい。前記キシリレンジアミンは、より好ましくは、55~100モル%(好ましくは60~100モル%)がメタキシリレンジアミンであり、45~0モル%(好ましくは40~0モル%)がパラキシリレンジアミンである。メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計は、原料ジアミンの100モル%以下であり、90~100モル%であることが好ましい。
【0013】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0014】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸および/またはセバシン酸がより好ましい。
【0015】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0016】
なお、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましい。
【0017】
本実施形態で用いるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、末端アミノ基濃度が90μeq/g以上であることが好ましく、95μeq/g以上であることがより好ましく、100μeq/g以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、高温の尿素水にさらされた後も、酸変性ポリオレフィンとの高い接合を効果的に維持できる傾向にある。前記末端アミノ基濃度は、また、140μeq/g以下であることが好ましく、135μeq/g以下であることがより好ましく、131μeq/g以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度をより高くすることができる。
本実施形態で用いるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、末端カルボキシ基濃度が18μeq/g以上であることが好ましく、20μeq/g以上であることがより好ましい。前記末端カルボキシ基濃度は、また、50μeq/g以下であることが好ましく、45μeq/g以下であることがより好ましい。前記範囲とすることにより、射出成形がより容易な溶融粘度とすることができる。
樹脂組成物(a)がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を2種以上含む場合、混合物が上記末端アミノ基濃度および末端カルボキシ基濃度を満たすことが好ましい。
【0018】
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、射出成形時の流動性を効果的に向上させることができる。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、75質量%以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0019】
また、本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂としては、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよく、脂肪族ポリアミド樹脂であることが好ましい。このような他のポリアミド樹脂を配合することにより、他のポリアミド樹脂の有益な性能を樹脂組成物(a)に付与することが可能になる。
【0020】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等が挙げられ、ポリアミド6および/またはポリアミド66が好ましく、ポリアミド66がより好ましい。
【0021】
一方、半芳香族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6I/6Tなどが例示される。
また、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落0011~0013の記載を参酌することができる。
【0022】
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂の含有量は、配合する場合、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態で用いる樹脂組成物(a)におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の含有量は、配合する場合、10質量%以下であることが好ましい。
本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸成分がアジピン酸を含む場合に、脂肪族ポリアミド樹脂として、ポリアミド66を含む態様が例示される。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0023】
<<強化フィラー>>
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む。強化フィラーを含むことにより、得られるポリアミド樹脂成形品(A)の機械的強度を向上させることができる。
強化フィラーは、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物(a)の機械的性質を向上させる効果を有するものであれば特に制限はなく、常用のプラスチック用強化材を用いることができる。
強化フィラーは、有機物であっても、無機物であってもよいが、無機物が好ましい。
強化フィラーは、好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の強化フィラーを用いることができる。また、強化フィラーは、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填剤等の強化フィラー;ガラスフレーク、マイカ、グラファイト等の鱗片状の強化フィラーを用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の強化フィラー、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。ガラス繊維としては、丸型断面形状または異型断面形状のいずれをも用いることができる。
強化フィラーは、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0024】
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Rガラス、Mガラス、Dガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
ガラス繊維とは、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状、多角形状で繊維状外観を呈するものをいう。
【0025】
本実施形態における樹脂組成物(a)に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や単繊維を複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0026】
また、本実施形態で用いるガラス繊維は、断面が円形であっても、非円形であってもよい。断面が非円形であるガラス繊維を用いることにより、得られる成形品の反りをより効果的に抑制することができる。また、本実施形態では、断面が円形であるガラス繊維を用いても、反りを効果的に抑制することができる。
【0027】
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)における強化フィラーの含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、20質量部以上であり、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、機械的強度がより向上する傾向にある。上限値については、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、150質量部以下であり、110質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下が一層好ましい。上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物(a)中のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量が多くなり、ポリオレフィン樹脂成形品(B)との溶着強度(引張強度)がより向上する傾向にある。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)における強化フィラーの含有量は、樹脂組成物の20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。上限値については、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、55質量%以下が一層好ましく、50質量%以下、45質量%以下であってもよい。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、強化フィラーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。なお、本実施形態における強化フィラーの含有量には、集束剤および表面処理剤の量を含める趣旨である。
【0028】
<<核剤>>
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、核剤を含んでいてもよい。
核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがより好ましい。核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0029】
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)における核剤の割合は、0.01~4質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、3質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0030】
<<離型剤>>
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、離型剤を含んでいてもよい。離型剤を含むことにより、金型からの離型性が向上する。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、ライトアマイドなどが挙げられる。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.01~3質量%であることが好ましく、0.05~0.8質量%であることがより好ましく、0.05~0.6質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
<<その他の成分>>
本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本実施形態で用いる樹脂組成物(a)は、各成分の合計が100質量%となるように、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、強化フィラー、さらには、他の添加剤の含有量等が調整される。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、強化フィラー、核剤、離型剤の合計が樹脂組成物(a)の99質量%以上を占める態様が例示される。
【0032】
[ポリオレフィン樹脂成形品(B)]
本実施形態で用いるポリオレフィン樹脂成形品(B)は、酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)から形成される。このようなポリオレフィン樹脂成形品(B)を用いることにより、ポリアミド樹脂成形品(A)と接合としたときに接合界面について、尿素水に対する耐性が高いものとすることができる。
【0033】
ポリオレフィン樹脂から形成されたタンクは配管との接続を容易にすることができる。
また、酸価が前記下限値以上のポリオレフィン樹脂を用いることにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の末端アミノ基と効果的に作用し、ポリアミド樹脂成形品(A)との接合強度に優れたポリオレフィン樹脂成形品(B)とすることができる。一方、酸価が前記上限値以下のポリオレフィン樹脂を用いることにより、射出成形がより容易な溶融粘度を確保しやすくなる傾向にある。
【0034】
前記酸価は、酸変性ポリオレフィン樹脂1g中の酸基を中和するのに必要な水酸化カリウムのmgを意味し、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、12.0mg/g以上であることが好ましく、15.0mg/g以上であることがより好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の酸価は、23.0mg/g以下であることが好ましく、23.0mg/g以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態において、酸変性ポリオレフィン樹脂の前駆体となるポリオレフィン樹脂は、その種類等特に定めるものではないが、ポリエチレン(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセンポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。それらの中でも、機械的強度、成形加工性、経済性に優れるという観点から、高密度ポリエチレン樹脂が好ましい。すなわち、本実施形態で用いる酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性高密度ポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0036】
本実施形態で用いる酸変性ポリオレフィン樹脂は、また、前駆体であるポリオレフィン樹脂を酸変性したものである。酸変性に用いられる酸は、不飽和カルボン酸またはその無水物でグラフト変性したものが挙げられる。不飽和カルボン酸またはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、クロロマレイン酸、ブテニルコハク酸、およびこれらの酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、マレイン酸および無水マレイン酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0037】
本実施形態で用いる酸変性ポリオレフィン樹脂(好ましくは酸変性ポリエチレン樹脂)の密度は、高密度であることが好ましく、具体的には、0.94~0.98g/cm3であることがより好ましく、0.95~0.97g/cm3であることがさらに好ましい。このような高密度の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、より高い強度を確保することが可能になる。
本実施形態で用いる酸変性ポリオレフィン樹脂は、メルトマスフローレイト(MFR)が1.0~5.0g/10分であることが好ましく、1.0~3.5g/10分であることがより好ましく、1.0~2.5g/10分であることがさらに好ましい。このようなMFRの酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、射出成形をより容易にすることができる。
【0038】
本実施形態で用いる酸変性ポリオレフィン樹脂は、上記の他、特開2019-189678号公報の段落0040~0044の記載、特開2019-131827号公報の段落0029~0037の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
なお、本実施形態で用いる樹脂組成物(b)は、酸変性ポリオレフィン樹脂が、樹脂組成物(b)の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
本実施形態で用いる樹脂組成物(b)は、酸変性ポリオレフィン樹脂を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
本実施形態で用いる樹脂組成物(b)は、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするものであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、強化フィラー、離型剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
[ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の接合]
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)とが、一部において接合している尿素SCRシステム用部品である。ここでの接合とは、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の一部が接していることをいい、その接合面積が0.1cm2以上であることが好ましく、また、400cm2以下であることが好ましい。
本実施形態における接合は、溶着であることが好ましい。特に、ポリオレフィン樹脂成形品(B)に、溶融状態の樹脂組成物(a)を適用し、ポリアミド樹脂成形品(A)の固化と、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の溶着を行うことが好ましい。この時の溶着温度は、ポリアミド樹脂の融点を基準に設定される。
【0041】
[尿素SCRシステム用部品]
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、尿素SCRシステムのいかなる部品に用いてもよいが、尿素水タンク、配管、バルブなどに好ましく用いられ、特に、バルブが好ましい。本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、機械的強度に優れ、高温の尿素水にさらされた後も、高い接合界面での強度を維持できるため、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の接合面積が小さいバルブなどにも好適に利用できる。
バルブは、ボールバルブ、ゲートバルブ、バタフライバルブ、チェックバルブ、ダイヤフラムバルブ、リリーフバルブ、コントロールバルブ等いずれのバルブであってもよい。
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、上述の通り、高温の尿素水にさらされた後も、高い接合界面での強度を維持できることから、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の接合面積が小さい部品にも用いることができる。例えば、接合面積が0.1~400cm2の部品(例えば、バルブ)、さらには、0.1~50cm2の部品にも用いることができる。
【0042】
[キット]
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、また、本実施形態のキットから製造されることが好ましい。尿素SCRシステム用部品は、例えば、本実施形態のキットを用い、多色成形(例えば、二色成形)またはインサート成形することを含む製造方法によって、製造される。多色成形またはインサート成形することにより、製造工程をより削減できる。また、振動溶着法、超音波溶着法、スピン溶着法、熱板溶着法、熱線溶着法、レーザー溶着法、高周波誘導加熱溶着法等によって製造してもよい。
本実施形態の尿素SCRシステム用部品は、ポリオレフィン樹脂成形品(B)を金型に配置し、樹脂組成物(a)を射出成形して、成形することによって、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)の溶着品である尿素SCRシステム用部品を製造することが好ましい。
【0043】
本実施形態のキットは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラー20~150質量部を含む樹脂組成物(a)と、酸価が10.0~25.0mg/gである酸変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物(b)とを含む、尿素SCRシステム用部品形成用キットであって、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上は、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比(反応したジアミン成分のモル数/反応したジカルボン酸成分のモル数)が1.005~1.015である。
上記キットにおける樹脂組成物(a)および樹脂組成物(b)は、上述の尿素SCRシステム用部品における樹脂組成物(a)および樹脂組成物(b)と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0044】
本実施形態のキットから形成される尿素SCRシステム用部品は、樹脂組成物(a)から形成されるポリアミド樹脂成形品(A)と、樹脂組成物(b)から形成されるポリオレフィン樹脂成形品(B)の接合強度を高くできる。
本実施形態のキットは、樹脂組成物(a)から形成された成形品と樹脂組成物(b)から形成された成形品の溶着品を80℃の尿素水に1000時間浸漬したときの前記浸漬前後の引張強度保持率=[(浸漬前の引張強度-浸漬後の引張強度)/浸漬前の引張強度]×100(単位:%)が80%以上である(ここで、引張強度は、ISO527-1、2に従って測定された値である)ことが好ましい。前記引張強度保持率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく94%以上であることがさらに好ましい。前記引張強度保持率の上限は、理想は100%であるが、99.9%以下でも実用レベルである。
また、本実施形態のキットは、前記樹脂組成物(a)から形成された成形品と前記樹脂組成物(b)から形成された成形品を80℃の尿素水に500時間浸漬したときの前記浸漬前後の引張強度保持率が80%以上であることが好ましい。前記引張強度保持率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。前記引張強度保持率の上限は、理想は100%であるが、99.9%以下でも実用レベルである。
引張強度保持率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【実施例
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0046】
1.樹脂組成物(a)の原料
<製造例1-1:ポリアミド樹脂MXD6(実施例1、比較例4)の合成>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したアジピン酸15000g(102.6mol)、さらに次亜リン酸ナトリウム一水和物の配合量を30.28g(285.7mmol)および酢酸ナトリウムの配合量を15.94g(194.3mmol)になるよう入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。これにメタキシリレンジアミン14364g(105.5mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、実施例1および比較例4記載のポリアミド樹脂MXD6を得た。
【0047】
<製造例1-2:ポリアミド樹脂MXD6(実施例2)の合成>
製造例1-1において、メタキシリレンジアミンの滴下量を14329g(105.21mol)とした以外は製造例1と同様にして実施例2記載のポリアミドMXD6を得た。
【0048】
<製造例1-3:ポリアミド樹脂MXD6(実施例3)の合成>
製造例1-1において、メタキシリレンジアミンの滴下量を14259g(104.69mol)とした以外は製造例1と同様にして実施例3記載のポリアミドMXD6を得た。
【0049】
<製造例1-4:ポリアミド樹脂MXD6(比較例1)の合成>
製造例1-1において、メタキシリレンジアミンの滴下量を14189g(104.18mol)とした以外は製造例1と同様にして比較例1記載のポリアミドMXD6を得た。
【0050】
<製造例1-5:ポリアミド樹脂MXD6(比較例2)の合成>
製造例1-1において、メタキシリレンジアミンの滴下量を14161g(103.98mol)とした以外は製造例1と同様にして比較例2記載のポリアミドMXD6を得た。
【0051】
<製造例1-6:ポリアミド樹脂MXD6(比較例5)の合成>
製造例1-1において、メタキシリレンジアミンの滴下量を14483g(106.34mol)とした以外は製造例1と同様にして剛性を行った。ただ粘度が非常に低く、ストランドは発泡した状態となったためペレタイズはできず、発泡したストランドを回収し、粉砕することで比較例5記載のポリアミドMXD6を得た。
【0052】
<製造例2-1:ポリアミド樹脂MP6(M/Pモル比=7:3)(実施例4)の合成>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したたアジピン酸10000g(68.4mol)、さらに次亜リン酸ナトリウム一水和物の配合量を20.19g(190.5mmol)および酢酸ナトリウムの配合量を10.62g(129.5mmol)になるよう入れ、十分に窒素置換した後、窒素で0.4MPaに加圧し、撹拌しながら20℃から190℃に昇温して55分間でアジピン酸を均一に溶融した。次いでメタキシリレンジアミン6687.0g(49.10mol)とパラキシリレンジアミン2865.8g(21.04mol)の混合ジアミンを撹拌下で滴下した。この間、反応容器内温は275℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145~147℃の範囲に制御した。混合ジアミン滴下終了後、20分間攪拌を継続した後、0.4MPa/時間の速度で降圧し、30分間で常圧まで降圧した。この間に内温は282℃まで昇温した。その後0.002MPa/分の速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。0.08MPaでの反応時間は15分であった。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、実施例4記載のポリアミドMP6を得た。
【0053】
<製造例3-1:ポリアミド樹脂MP10(M/Pモル比=7:3)(実施例5)の合成>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したセバシン酸(伊藤製油製、セバシン酸TA)8950g(44.25mol)、次亜リン酸カルシウム12.54g(0.074mol)、酢酸ナトリウム6.45g(0.079mol)を秤量して仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.4MPaに加圧し、撹拌しながら20℃から190℃に昇温して55分間でセバシン酸を均一に溶融した。次いでメタキシリレンジアミン4324.5g(31.75mol)とパラキシリレンジアミン1853.3g(13.61mol)の混合ジアミンを撹拌下で滴下した。この間、反応容器内温は235℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145~147℃の範囲に制御した。混合ジアミン滴下終了後、20分間攪拌を継続した後、0.4MPa/時間の速度で降圧し、30分間で常圧まで降圧した。この間に内温は236℃まで昇温した。その後0.002MPa/分の速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。0.08MPaでの反応時間は15分であった。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、実施例5記載のポリアミドMP10を得た。
【0054】
<製造例3-2:ポリアミド樹脂MP10(M/Pモル比=7:3)(比較例3)の合成>
製造例3-1において、混合ジアミンの滴下量をメタキシリレンジアミン4248.5g(31.19mol)とパラキシリレンジアミン1820.8g(13.37mol)とした以外は製造例3-1と同様にして比較例3記載のポリアミドMXD10を得た。
【0055】
PA66:ポリアミド66、INVISTA Nylon Polymer社製、インビスタU4800
ガラス繊維:T-296GH、Eガラス、日本電気硝子社製
核剤:MW(ミクロンホワイト)5000A、タルク、林化成社製
離型剤:WH255、脂肪酸アマイドワックス、共栄社化学社製
【0056】
2.ポリアミド樹脂の物性
<末端アミノ基濃度および末端カルボキシ基濃度の測定>
ポリアミド樹脂ペレット0.3~0.5gを精秤し、フェノール/エタノール混合溶液(混合容積比4:1)30mLに室温で撹拌溶解した。完全に溶解した後、撹拌しつつ0.01モル/L塩酸水溶液で中和滴定して、末端アミノ基濃度([NH2])を求めた。
また、ポリアミド樹脂ペレット0.3~0.5gを精秤し、ベンジルアルコール30mLに窒素気流下、160~180℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、窒素気流下で50℃まで冷却し、撹拌しつつメタノールを10mL加え、0.01モル/L水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して末端カルボキシ基濃度([COOH])を測定した。
末端アミノ基濃度および末端カルボキシ基濃度の単位は、μeq/gで示した。
【0057】
<ポリアミド樹脂の反応モル比>
ポリアミド樹脂の反応モル比rは、次式により求めた。
r=(1-cN-b(C-N))/(1-cC+a(C-N))
式中、a:M1/2
b:M2/2
c:18.015
1:ジアミンの分子量(g/mol)
2:ジカルボン酸の分子量(g/mol)
N:末端アミノ基濃度(eq/g)
C:末端カルボキシ基濃度(eq/g)
【0058】
3.樹脂組成物(b)の原料
酸変性ポリオレフィン樹脂:無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン樹脂、アドマーHE810、三井化学社製、MFR=1.7g/10分、密度=0.96g/cm3、酸価19.0mg/g
未変性ポリオレフィン樹脂:酸未変性高密度ポリエチレン樹脂、ノバテックHD HJ360、日本ポリエチレン社製、MFR=5.5g/10分、密度=0.95g/cm3
【0059】
4.ポリオレフィン樹脂の物性の測定
<MFR(g/10分)>
メルトインデクサーを使用し、JIS K7210-1:2014に準拠して、190℃、2.16kgfの条件にて測定を行った。
メルトインデクサーは、東洋精機製作所製のものを用いた。
<酸価(mg/g)>
JIS K0070:1992に準拠して、中和滴定により測定を行った。ポリオレフィン樹脂1gを精秤し、キシレン100mLに約120℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、フェノールフタレイン溶液を加え、予め正確な濃度を求めた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を用いて中和滴定を行った。滴下量(T)、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター(f)、水酸化カリウムの式量56.11の1/10(5.611)、酸変性ポリオレフィン樹脂の質量(S)から以下の式(1)により酸価を算出した。
酸価=T×f×5.611/S・・・(1)
【0060】
実施例1~5、比較例1~5
<樹脂組成物(a)の製造>
後述する表1または表2に示す組成となるように、各成分をそれぞれ秤量し、ガラス繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した後で、ガラス繊維をサイドフィードしてペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、280℃とした。表1または表2における各成分は質量比で示している。ただし、比較例5はペレット化できなかった。
【0061】
<ポリアミド樹脂成形品(A)の製造>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(東芝機械社製、「EC75SX」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(縦125mm×横10mm×4mm厚)(成形品(A))を射出成形した。
ただし、比較例5はペレット化できなかったため、成形できなかった。
【0062】
<曲げ物性>
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0063】
<ノッチ有シャルピー衝撃強さ>
ISO179に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度でシャルピー衝撃強さ(ノッチ有り)の測定を行った。
単位は、kJ/m2で示した。
【0064】
<ポリオレフィン樹脂成形品(B)の製造>
酸変性ポリオレフィン樹脂ペレット(アドマーHE810)80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(東芝機械社製、「EC75SX」)にて、シリンダー温度180℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)(成形品(B))を射出成形した。
ただし、比較例4については、酸変性ポリオレフィン樹脂(アドマーHE810)の代わりに、未変性ポリオレフィン樹脂(ノバテックHD HJ360)を用いた。
【0065】
<アドブルー浸漬後の強度>
上記で得られたポリオレフィン樹脂成形品(B)を半分にカットし、カットした一方を、厚さ4mmのISO試験片成形用の金型にセットした。上記樹脂組成物(a)を射出温度300℃、金型温度80℃にて、前記金型に射出成形し、ポリオレフィン樹脂成形品(B)とポリアミド樹脂成形品(A)の溶着品を得た(接合領域は10mm×4mmの長方形であり、接合面積は40mm2である)。ただし、比較例4は溶着せず、溶着品が得られなかった。
得られた溶着品について、ISO527-1、2に従って引張試験を実施し、引張強度を測定した。
また、得られた溶着品を、尿素水(アドブルー)を入れた容器に浸漬し、80℃にて保管した。500時間後および1000時間後に溶着品を取り出し、上記と同様に引張試験をした。
引張強度保持率=[(浸漬前の引張強度-浸漬後の引張強度)/浸漬前の引張強度]×100(単位:%)
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
上記表2において、比較例4は、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)とが溶着しなかったため、アドブルー浸漬後の強度保持率を測定できなかった。また、比較例5は、ポリアミド樹脂合成のための重合後、ペレット化ができなかったため、曲げ強さ、曲げ弾性率、ノッチ有シャルピー衝撃強さ、アドブルー浸漬後の強度保持率を測定できなかった。
【0068】
上記表1および表2から明らかなとおり、本発明の尿素SCRシステム用部品は、高温の尿素水に長時間さらされても、部材同士の接合が容易に外れることが無く、かつ、機械的強度に優れたものであった(実施例1~5)。
これに対し、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比が本発明の範囲を下回る場合(比較例1、2、3)、アドブルー(80℃) 浸漬後の強度保持率が低かった。
また、酸変性ポリオレフィン樹脂の代わりに、未変性ポリオレフィン樹脂を用いた比較例4は、ポリアミド樹脂成形品(A)とポリオレフィン樹脂成形品(B)とが溶着しなかった。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の反応モル比が本発明の範囲を上回る場合(比較例5)、ポリアミド樹脂の原料モノマーの重合後、ペレット化できず、成形品等とすることができなかった。また、ペレット化条件等を駆使して成形品としても、機械的強度が格段に低かった。