(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】壁材ユニット及び壁構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20240228BHJP
E04B 2/94 20060101ALI20240228BHJP
E04G 21/14 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
E04B2/56 642A
E04B2/56 642F
E04B2/94
E04G21/14
(21)【出願番号】P 2020168609
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-02-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 :鹿島建設株式会社中部支店 協力会社改善事例発表会 開催日 :令和2年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸口 秀一郎
(72)【発明者】
【氏名】森岡 勉
(72)【発明者】
【氏名】下村 淳二
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-214210(JP,A)
【文献】特開平08-296330(JP,A)
【文献】特開2016-223089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56-2/70,2/88-2/96
E04G 21/14-21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁材ユニットであって、
建築物の壁となる
平板状の複数の板材と、
前記複数の板材の荷重を支持する下側部材
であって、前記複数の板材から前記建築物の躯体側に突出する下側突出部を有する下側部材と、
少なくとも2つの貫通孔を有し、前記下側部材よりも上方に配置される上側部材
であって、前記複数の板材から前記建築物の躯体側に突出し前記貫通孔が形成された上側突出部を有する上側部材と、
前記上側部材と前記下側部材とに固定され、前記複数の板材の端部を補強する補強材と、
前記貫通孔に挿入された状態で前記下側部材
の前記下側突出部に着脱可能に取付けられ、前記貫通孔の上方から吊下げられて前記下側部材
と前記複数の板材の荷重を
平板状の前記複数の板材よりも前記建築物の躯体側において支持する少なくとも2つの仮設支持棒材と、を備える、
壁材ユニット。
【請求項2】
前記仮設支持棒材の上端には、前記仮設支持棒材を吊下げるための吊り具が挿入可能な環状部が設けられる、
請求項1に記載の壁材ユニット。
【請求項3】
平板状の複数の板材を建築物の躯体に取付けて前記建築物の壁を構築する壁構築方法であって、
前記複数の板材を支持する下側部材
であって前記複数の板材から一方の側に突出する下側突出部を有する下側部材と、少なくとも2つの貫通孔を有する上側部材
であって前記複数の板材から前記一方の側に突出し前記貫通孔が形成された上側突出部を有する上側部材とに、前記複数の板材の端部を補強する補強材を固定し、
平板状の前記複数の板材よりも前記一方の側において前記下側部材
と前記複数の板材の荷重を支持する少なくとも2つの仮設支持棒材を前記貫通孔に挿入した状態で前記下側部材
の前記下側突出部に着脱可能に取付け、
前記上側部材が前記下側部材よりも上方に配置されるように前記貫通孔の上方から前記仮設支持棒材を吊下げて前記下側部材を前記複数の板材と共に揚重し、
前記一方の側を前記躯体に向けて前記複数の板材を前記躯体に取付ける、
壁構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材ユニット、及び壁構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁を、ALC(Autoclaved Lightweight Concrete)板等の板材を用いて構築することが提案されている。特許文献1には、予め構築された建築物の躯体にALC板を取付ける工法が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された取付け工法では、まず、地組み作業により複数のALC板を平面的に並べる。次に、複数のALC板に、躯体取付け用の通しアングルを固定して壁材ユニットを組立てる。次に、壁材ユニットを、地上に設けたユニットヤード内に移動させ、壁材ユニットにおけるALC板間の目地部のシーリング処理を行うと共にALC板の塗装作業を行う。その後、通しアングルの一端にワイヤを係合し、壁材ユニットを建築物の躯体(下地鉄骨または間柱)における外壁取付け位置まで揚重する。通しアングルを躯体に溶接により接合することにより、ALC板の取付けを完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された取付け工法では、通しアングルの一端にワイヤを係合し、壁材ユニットを揚重する。そのため、揚重時には、壁材ユニットは、通しアングルの一端を上にして保持される。この状態では、ALC板に自重による引張応力が生じてALC板が破損、落下するおそれがあり、壁材ユニットの揚重を慎重に行わなければならない。その結果、建築物における躯体へのALC板の取付けに多大な労力が必要となる。
【0006】
本発明は、建築物の躯体へ板材を安全かつ容易に取付けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、壁材ユニットであって、建築物の壁となる平板状の複数の板材と、複数の板材の荷重を支持する下側部材であって、複数の板材から建築物の躯体側に突出する下側突出部を有する下側部材と、少なくとも2つの貫通孔を有し、下側部材よりも上方に配置される上側部材であって、複数の板材から建築物の躯体側に突出し貫通孔が形成された上側突出部を有する上側部材と、上側部材と下側部材とに固定され、複数の板材の端部を補強する補強材と、貫通孔に挿入された状態で下側部材の下側突出部に着脱可能に取付けられ、上側部材の貫通孔の上方から吊下げられて下側部材と複数の板材の荷重を平板状の複数の板材よりも建築物の躯体側において支持する少なくとも2つの仮設支持棒材と、を備える。
【0008】
また、本発明は、平板状の複数の板材を建築物の躯体に取付けて建築物の壁を構築する壁構築方法であって、複数の板材を支持する下側部材であって複数の板材から一方の側に突出する下側突出部を有する下側部材と、少なくとも2つの貫通孔を有する上側部材であって複数の板材から一方の側に突出し貫通孔が形成された上側突出部を有する上側部材とに、複数の板材の端部を補強する補強材を固定し、平板状の複数の板材よりも一方の側において下側部材と複数の板材の荷重を支持する少なくとも2つの仮設支持棒材を貫通孔に挿入した状態で下側部材の下側突出部に着脱可能に取付け、上側部材が下側部材よりも上方に配置されるように上側部材の貫通孔の上方から仮設支持棒材を吊下げて下側部材を複数の板材と共に揚重し、一方の側を躯体に向けて複数の板材を躯体に取付ける。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、建築物の躯体へ板材を安全かつ容易に取付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る壁材ユニットを用いて構築された建築物の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図2】(a)は、本発明の第1実施形態に係る壁材ユニットを板材の裏面側(躯体への取付け側)から見た立面図であり、(b)は、壁材ユニットの平面図(見下げ図)であり、(c)は、
図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う立断面図であり、(d)は、
図2(a)に示すIID-IID線に沿う立断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る壁材ユニットの板材を建築物の躯体に取付けた状態を示す立断面図である。
【
図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係る壁材ユニットの揚重に用いられるトラバーサーを板材の裏面側(躯体への取付け側)から見た立面図であり、(b)は、
図4(a)に示すIVB-IVB線に沿う立断面図である。
【
図5】(a)は、本発明の第2実施形態に係る壁材ユニットを板材の裏面側(躯体への取付け側)から見た立面図であり、(b)は、壁材ユニットの平面図(見下げ図)であり、(c)は、
図5(a)に示すVC-VC線に沿う平断面図であり、(d)は、
図5(a)に示すVD-VD線に沿う立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る壁材ユニット及び壁構築方法について、図面を参照して説明する。
【0012】
<第1実施形態>
まず、
図1から
図4を参照して、本発明の第1実施形態に係る壁材ユニット100及び壁構築方法について説明する。ここでは、壁材ユニット100を用いて建築物の外壁を構築する場合について説明するが、本発明は、エレベータシャフト空間、パイプシャフト空間、電気シャフト空間及び階段シャフト空間等の竪穴を画定する内壁の構築にも適用可能である。
【0013】
図1は、本実施形態を用いて構築された建築物1の一部を拡大して示す斜視図である。建築物1は、例えば、柱及び梁等の躯体2に鋼材を使用した鉄骨造(S造)である。建築物1は、柱をコンクリート充填鋼管構造(CFT造)とし梁を鉄骨造としてもよく、柱及び梁を鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)としてもよく、柱及び梁をプレキャストコンクリート造(PCa造)としてもよい。
【0014】
建築物1の外壁は、平面的に並べられた複数の板材10によって形成される。以下において、板材10の面のうち建築物1の外部側を形成する面を板材10の表面とし、建築物1を構成する躯体2に対向する面を裏面とする。
【0015】
板材10は、例えば、セメント、珪石、生石灰、アルミ粉末を主原料として発泡させた軽量気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight aerated Concrete・・・ALC)板である。板材10は、セメント、けい酸質原料及び繊維質原料を主原料として押出成形により成形された押出成形セメント板(Extruded Cement Panel・・・ECP)であってもよい。
【0016】
板材10は、表裏面が長方形となるように予め成形されている。板材10は、躯体2の構築後、例えばクレーンや仮設エレベータ等の揚重機を用いて所定の取付け位置(階)まで揚重され、板材10の長手方向が建築物1の上下方向と一致するように躯体2に取付けられる。このような板材10の長手方向が建築物1の上下方向と一致するように躯体2に板材10を取付ける縦貼り工法だけでなく、後述する横貼り工法も存在する。隣り合う板材10の板間目地部には、不図示のシーリング材が充填される。また、板材10の表面及びシーリング材は、防水性塗料により塗装される。
【0017】
建築物1における外壁の構築において、板材10を1枚ずつ揚重し躯体2に取付ける場合には、その都度、高所作業が生じることになる。高所作業は物の飛来や作業者墜落の危険を伴うため、高所作業の削減が求められている。
【0018】
また、板材10がALC板やECP等のセメントを含む部材である場合には、板材10の引張強度は圧縮強度に比べて小さくなる。そのため、揚重時に板材10に過度な引張応力が生じると、板材10が破損、落下するおそれがある。このような理由から、揚重時に板材10に生じる引張応力を低減し、建築物1の躯体2へ板材10を安全かつ容易に取付けることが求められている。
【0019】
本実施形態では、予め複数の板材10を互いに固定して1つの壁材ユニット100(
図2参照)とし、壁材ユニット100をクレーン等の揚重機で揚重して躯体2に取付ける。そのため、複数の板材10が同時に躯体2に取付けられる。したがって、壁構築工事における高所作業を削減することができ、安全性を高めることができる。
【0020】
また、本実施形態では、板材10の荷重を下側から支持して、ユニットとして板材10を揚重する。そのため、板材10に生じる引張応力を低減することができ、躯体2に板材10を安全かつ容易に取付けることができる。板材10の荷重を下側から支持する構造について、
図2を参照して詳述する。
【0021】
図2(a)は、壁材ユニット100を板材10の裏面側(躯体2への取付け側)から見た立面図であり、
図2(b)は、壁材ユニット100の平面図(見下げ図)である。
図2(c)は、
図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う立断面図であり、
図2(d)は、
図2(a)に示すIID-IID線に沿う立断面図である。
【0022】
以下において、上下は、壁材ユニット100を躯体2(
図1参照)に取付けた状態での向きであり、左右は、躯体2に取付けられた壁材ユニット100を板材10の裏面側から見た状態での向きである。
図2(c)及び(d)では、板材10の上端近傍及び下端近傍を拡大して図示している。
【0023】
図2(a)乃至(d)に示すように、壁材ユニット100は、複数の板材10と、複数の板材10の荷重を支持する下側部材20と、下側部材20よりも上方に配置される上側部材30と、下側部材20と上側部材30とに固定される補強材40と、下側部材20に取付けられる2つの仮設支持棒材50と、を備える。壁材ユニット100は、工事敷地内の地組みヤード等の、足場の安定した低所において、複数組立てられる。
【0024】
複数の板材10は、板材10の長手方向が建築物1の上下方向と一致するような向きで、左右方向に平面的に並べられる。隣り合う板材10の板間目地部には、不図示のシーリング材が充填される。また、板材10の表面及びシーリング材は、防水性塗料により塗装される。
図2に示す例では、4枚の板材10が並べられているが、板材10の数は、2枚又は3枚であってもよいし、壁材ユニット100としての目的を達する限りにおいてそれより多くてもよい。
【0025】
下側部材20は、複数の板材10の下端に沿って配置された下側通し材21と、下側通し材21に固定された下側留め具22及び下側吊りピース23と、を備えている。下側通し材21は、例えば鋼製のL型アングル材である。下側留め具22は、例えば鋼製のZ型金物(Zクリップ)であり、溶接により下側通し材21に固定される。下側吊りピース23は、例えば鋼製のL型アングルによる短材(ピース)であり、溶接により下側通し材21に固定される。下側吊りピース23は、2つ設けられる。
【0026】
図2(a)及び(c)に示すように、下側留め具22は、下側ボルト24を用いて板材10に締結されている。
図2(d)に示すように、下側吊りピース23には、上下方向に貫通する下側貫通孔23aが形成されている。
【0027】
図2(a)乃至(d)に示すように、上側部材30は、複数の板材10の裏面に沿って配置された上側通し材31と、上側通し材31に固定された上側留め具32と、を備えている。上側通し材31は、例えば鋼製のL型アングル材である。上側留め具32は、例えば鋼製のZ型金物(Zクリップ)であり、溶接により上側通し材31に固定される。
【0028】
図2(a)及び(c)に示すように、上側留め具32は、上側ボルト34を用いて板材10に締結されている。
図2(d)に示すように、上側通し材31には、上下方向に貫通する上側貫通孔33aが2つ形成されている。上側貫通孔33aの孔径は、後述する丸鋼51の軸径より多少のクリアランスを確保した孔径としており、同じく後述する環状部52の最大径よりは十分に小さく設定している。
【0029】
図2(a)及び(b)に示すように、補強材40は、左右に一対設けられる。一方の補強材40は、最も左に位置する板材10の左端角部に沿って配置され、他方の補強材40は、最も右に位置する板材10の右端角部に沿って配置される。この補強材40は、壁材ユニット100の揚重時及び躯体2(
図1参照)への壁材ユニット100の取付け時に、これらの板材10の左端及び右端の角部の損傷を防ぐ。また補強材40は、例えば鋼製のL型アングル材であり、溶接により下側通し材21及び上側通し材31に強固に固定されることで略四角形の枠体を形成し、壁材ユニット100の形状を保持する。
【0030】
図示を省略するが、複数の壁材ユニット100を互いに隣り合うように躯体2に取付けてもよいし、複数の壁材ユニット100を互いに間隔を空けて躯体2に取付けてもよい。複数の壁材ユニット100が互いに隣り合う場合には、補強材40同士が互いに隣接するが、複数の壁材ユニット100が互いに間隔を空けて配置される場合には、補強材40は、例えば建築物1における開口枠(AW)と隣接する。
【0031】
仮設支持棒材50は、上側貫通孔33aと下側貫通孔23aとに挿入される丸鋼51と、丸鋼51の上部に固定された環状部52と、丸鋼51の下部に螺合するナット53と、を備えている。環状部52は、例えば鋼製アイナットであり、丸鋼51の上部に螺合すると共に外れ防止のため丸鋼51に更に溶接により固定される。ナット53は、丸鋼51の下端から取外し可能である。
【0032】
環状部52は、上側貫通孔33aの上方に配置される。環状部52は、クレーン等の揚重機で吊下げたワイヤ下端のフック等の吊り具を引掛け可能に形成される。ワイヤの下端に設けられた吊り具を環状部52に掛けた状態でクレーン等の揚重機を用いてワイヤを巻き上げると、仮設支持棒材50は、上側貫通孔33aの上方から吊下げられる。
【0033】
ナット53は、丸鋼51を上側貫通孔33a及び下側貫通孔23aに挿入した状態で下側貫通孔23aの下方で丸鋼51に螺合する。下側貫通孔23aの孔径は、ナット53の最大径よりも小さく設定されているため、ナット53は、下側貫通孔23aを通過不能である。そのため、クレーン等の揚重機を用いて仮設支持棒材50を吊下げると、下側部材20の荷重がナット53を介してに仮設支持棒材50よって支持される。
【0034】
このように、仮設支持棒材50は、上側貫通孔33aに挿入された状態で下側吊りピース23に取付けられ、上側貫通孔33aの上方から吊下げられて下側部材20の荷重を支持する。そのため、揚重時には、上側部材30が下側部材20よりも上方に位置するように複数の板材10が略鉛直に保持され、複数の板材10の荷重は、下側部材20によって受け止められる。したがって、板材10に生じる引張応力を低減することができ、板材10の破損、落下を防止することができる。これにより、建築物1の躯体2に複数の板材10を安全かつ容易に取付けることができる。
【0035】
ナット53を緩めて丸鋼51の下端から取外した状態では、下側貫通孔23a及び上側貫通孔33aから上方へ丸鋼51の抜出しが許容される。そのため、壁材ユニット100を建築物1の躯体2に取付けた後には、ナット53を緩めて丸鋼51の下端から取外すと共に丸鋼51を下側貫通孔23a及び上側貫通孔33aから抜出すことにより、壁材ユニット100から仮設支持棒材50を取外すことができる。したがって、別の壁材ユニット100を組立てる際に仮設支持棒材50を再利用(転用)することができる。
【0036】
図3は、板材10を建築物1の躯体2に取付けた状態を示す立断面図である。なお、
図3では、仮設支持棒材50を壁材ユニット100から取外した状態を示している。
【0037】
図3に示すように、建築物1の躯体2には、下地材3が固定され、下地材3に受金物4a,4bが固定される。下側通し材21には、受金物25が固定されており、受金物25が受金物4aに固定される。受金物4bに上側通し材31が固定される。つまり、板材10は、下側部材20、受金物4a及び下地材3を介して躯体2に取付けられると共に、上側部材30、受金物4b及び下地材3を介して躯体2に取付けられる。下地材3は、例えば溝形鋼による短材(ピース)である。受金物4a、4b、25は、例えば溝形鋼による短材(ピース)である。受金物25は、足場の安定した低所において、下側通し材21に固定される。
【0038】
図4(a)は、壁材ユニット100の揚重に用いられるトラバーサー(吊り治具)60を板材10の裏面側(躯体2への取付け側)から見た立面図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示すIVB-IVB線に沿う立断面図である。
図4(a)及び(b)に示すように、トラバーサー60には、複数の上側孔61と複数の下側孔62とが形成されている。
【0039】
上側孔61には上側シャックル61aが掛けられ、下側孔62には下側シャックル62aが掛けられる。上側シャックル61aには、不図示の揚重機から垂下されたワイヤ61bが掛けられる。下側孔62には、ワイヤ62bが掛けられ、ワイヤ62bの下端に設けられたフック62cが仮設支持棒材50の環状部52に掛けられる。なお、両外端側の下側孔62には、介錯ロープ64が垂下されてもよく、介錯ロープ64を引っ張ることでトラバーサー60の向きを変えたり、引き寄せたりすることができる。
【0040】
下側シャックル62aは、下側孔62から取外し可能であり、下側シャックル62a同士の間隔を変更可能である。そのため、環状部52同士の間隔と下側シャックル62a同士の間隔とを略一致させることができる。したがって、壁材ユニット100の横幅(板材10の枚数)に合わせて適した下側孔62同士の間隔を選択し、ワイヤ62bが上下方向に延びるように壁材ユニット100を揚重することができ、壁材ユニット100を安定して揚重することができる。
【0041】
トラバーサー60は、例えばT字型の鋼材(カットT)であり、背骨63(カットTの刃)を有している。このように、トラバーサー60を板状鋼材ではなく背骨63を有するT字型の鋼材で構成することにより、トラバーサー60が上下方向に沿う軸周りに湾曲するのを防止することができ、壁材ユニット100をより安定して揚重することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る壁構築方法について説明する。
【0043】
まず、壁材ユニット100を組立てる。具体的には、工事敷地内に設けられた不図示の平置き地組み架台上に板材10を寝かせて並べる。次に、下側部材20を複数の板材10の下端に沿って配置し、下側ボルト24を用いて板材10に取付ける。次に、上側部材30を複数の板材10の裏面に沿って配置し、上側ボルト34を用いて板材10に取付ける。次に、補強材40を最も左に位置する板材10の左端角部に沿って配置すると共に別の補強材40を最も右に位置する板材10の右端角部に沿って配置し、補強材40を下側部材20と上側部材30とに溶接固定する。次に、仮設支持棒材50の丸鋼51を、上側貫通孔33aに挿入し、続けて下側貫通孔23aに挿入する。次に、丸鋼51の下端に下側からナット53を螺合し、仮設支持棒材50を下側部材20に取付ける。以上により、壁材ユニット100の組立が完了する。
【0044】
次に、壁材ユニット100を揚重する。具体的には、
図4に示すように、トラバーサー60から吊下げられたフック62cを仮設支持棒材50の環状部52に引っ掛け、クレーン等の揚重機を用いてトラバーサー60を吊上げる。これにより、上側貫通孔33aの上方から仮設支持棒材50が吊下げられ、下側部材20が複数の板材10を支持し、壁材ユニット100が揚重される。
【0045】
次に、工事敷地内に設けられた別の縦置き地組み架台(不図示)に、板材10の長手方向が縦置き地組み架台の上下方向と略一致するように壁材ユニット100を固定する。この縦置き地組み架台は、安定性を高めるために例えば山留主材を用いて構築される。また、壁材ユニット100の足元には、板材10の下端欠損防止のために角鋼管に桟木を組み付けたレールを設け、その上に下側通し材21を載せる(板材10は接地させない)ようにすることが好ましい。
【0046】
次に、壁材ユニット100を構成する隣り合う板材10の板間目地部にシーリング材を充填し(シーリング処理)、板材10の表面及びシーリング材を防水性塗料により塗装する(塗装処理)。シーリング処理及び塗装処理を、足場の安定した低所(地組みヤード)において行うことができるので、品質のばらつきを軽減することができる。
【0047】
シーリング処理及び塗装処理は、板材10が乾燥している状態で行う必要がある。板材10が雨に打たれる等して濡れている状態(過度に吸水した状態)でシーリング処理及び塗装処理を行うと、シーリング材の接着不良を引き起こすおそれがあると共に、塗料の付着性低下、ひび割れ、膨れ、剥がれを引き起こすおそれがある。
【0048】
このため、シーリング処理及び塗装処理を行うための縦置き地組み架台の上部には、仮設材で組んだ簡易屋根と、雨養生シートを組み込んでおくことが好ましい。降雨が予想される際には雨養生シートを簡易屋根上に広げて壁材ユニット100を覆うことにより、架台に固定された壁材ユニット100の板材10の雨打たれを防止することができる。また、これにより天候の影響を受けずに作業を進めることができ、降雨に基づく作業工程の遅延を防ぐことができる。
【0049】
次に、トラバーサー60を吊り上げて壁材ユニット100を揚重し、建築物1の躯体2への壁材ユニット100の仮固定を行う。具体的には、
図3に示すように、受金物25及び上側通し材31を躯体2に取付けられた受金物4a,4bにそれぞれ不図示のボルト等を用いて締結(仮固定)する。
【0050】
壁材ユニット100を取付け位置まで揚重するときには、トラバーサー60の背骨63が板材10の表面側に突出するようにトラバーサー60を向けてフック62cを仮設支持棒材50の環状部52に掛ける。これにより、壁材ユニット100を建築物1の躯体2に近づける際に背骨63が躯体2や取付け済の壁材ユニット100に接触するのを防止することができ、それらに傷をつけるのを防止することができる。
【0051】
次に、仮設支持棒材50のナット53を緩めて丸鋼51の下端から取外し、仮設支持棒材50(環状部52と一体化した丸鋼51)を吊り上げて下側貫通孔23a及び上側貫通孔33aから抜く。次に、建築物1の躯体2への壁材ユニット100の本固定を行う。具体的には、受金物25及び上側通し材31を受金物4a,4bにそれぞれ溶接により固定する。
【0052】
以降、この手順を繰り返すことで建築物1の外壁を完成させる。すなわち、建築物1の壁の構築に必要な分の壁材ユニット100を組立て、シーリング処理及び塗装処理を行い、壁材ユニット100を揚重して躯体2に取付けることにより、建築物1の外壁が完成する。
【0053】
上下の壁材ユニット100同士の間のシーリング処理及び塗装処理、及び壁材ユニット100と不図示の窓枠との間のシーリング処理及び塗装処理は、然るべき壁材ユニット100を躯体2に取付けた後に、仮設足場、高所作業車、又は、仮設若しくは本設のゴンドラ等で行うことができる。
【0054】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0055】
壁材ユニット100及び壁構築方法では、仮設支持棒材50は、上側貫通孔33aに挿入された状態で下側部材20に取付けられ、上側貫通孔33aの上方から吊下げられて下側部材20の荷重を支持する。そのため、揚重時には、上側部材30が下側部材20よりも上方に位置するように複数の板材10が略鉛直に保持され、複数の板材10の荷重は、下側部材20によって受け止められる。したがって、板材10に生じる引張応力を低減することができ、板材10の破損、落下を防止することができる。これにより、建築物1の躯体2に複数の板材10を安全かつ容易に取付けることができる。
【0056】
また、仮設支持棒材50の上端には、仮設支持棒材50を吊下げるためのフック62cを引掛け可能な環状部52が設けられる。そのため、仮設支持棒材50を上側貫通孔33aの上方から容易に吊下げることができる。
【0057】
<第2実施形態>
次に、
図5を参照して、本発明の第2実施形態に係る壁材ユニット200及び壁構築方法について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点を主に説明し、第1実施形態で説明した構成と同一の構成又は相当する構成については、図中に第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
壁材ユニット200は、板材10の長手方向が略水平となるように建築物1の躯体2に板材10を取付ける、いわゆる横貼り工法において用いられる。壁材ユニット200を用いて構築された壁は、
図1において板材10を横に倒したものと略同じであり、ここではその図示を省略する。
【0059】
図5に示すように、複数の板材10は、板材10の長手方向が建築物1の左右方向と一致するように上下方向に平面的に並べられている。
図5に示す例では、4枚の板材10が並べられているが、板材10の数は、2枚又は3枚であってもよいし、壁材ユニット100としての目的を達する限りにおいてそれより多くてもよい。
【0060】
下側部材220の下側通し材21は、最も下に位置する板材10の下端角部に沿って配置される。
【0061】
上側部材230の上側通し材31は、最も上に位置する板材10の上端角部に沿って配置される。上側部材230は、上側通し材31に固定された上側吊りピース233を備えている。上側吊りピース233は、例えば鋼製のL型アングル材による短材(ピース)であり、溶接により上側通し材31に固定される。
図5(d)に示すように、上側吊りピース233には、上下方向に貫通する上側貫通孔33aが形成されている。
【0062】
図5(a)及び(b)に示すように、補強材40は、左右に一対設けられる。一方の補強材40は、複数の板材10の左端角部に沿って配置され、他方の補強材40は、複数の板材10の右端角部に沿って配置される。
【0063】
補強材40には、横側留め具242が固定される。横側留め具242は、横側ボルト244を用いて板材10に締結される。横側留め具242は、例えば鋼製のZ型金物(Zクリップ)であり、溶接により補強材40に固定される。
【0064】
仮設支持棒材50は、上側貫通孔33aに挿入された状態で下側吊りピース23に取付けられ、上側貫通孔33aの上方から吊下げられて下側部材220の荷重を支持する。そのため、揚重時には、上側部材230が下側部材220よりも上方に位置するように複数の板材10が略鉛直に保持され、複数の板材10の荷重は、下側部材220によって受け止められる。したがって、板材10に生じる引張応力を低減することができ、板材10の破損、落下を防止することができる。これにより、建築物1の躯体2に複数の板材10を安全かつ容易に取付けることができる。
【0065】
次に、本実施形態に係る壁構築方法について説明する。
【0066】
まず、壁材ユニット200を組立てる。具体的には、工事敷地内に設けられた不図示の平置き地組み架台上に板材10を並べる。次に、補強材40を複数の板材10の左端角部に沿って配置すると共に別の補強材40を複数の板材10の右端角部に沿って配置し、横側ボルト244を用いて板材10に取付ける。次に、下側部材220を最も下に位置する板材10の下端角部に沿って配置すると共に補強材40に溶接により固定する。次に、上側部材230を最も上に位置する板材10の上端角部に沿って配置すると共に補強材40に溶接により固定する。次に、仮設支持棒材50の丸鋼51を、上側貫通孔33aに挿入し、続けて下側貫通孔23aに挿入する。次に、丸鋼51の下端に下側からナット53を螺合し、仮設支持棒材50を下側部材220に取付ける。以上により、壁材ユニット200の組立が完了する。
【0067】
次に、壁材ユニット200を揚重し、工事敷地内に設けられた別の縦置き地組み架台(不図示)に、板材10の長手方向が建築物1の左右方向と略一致するような向きで壁材ユニット200を固定する。次に、隣り合う板材10の板間目地部にシーリング材を充填し(シーリング処理)、板材10の表面及びシーリング材を防水性塗料により塗装する(塗装処理)。次に、壁材ユニット200を揚重し、建築物1の躯体2への壁材ユニット200を取付ける。この手順は前述の第1実施形態と同様である。
【0068】
以降、この手順を繰り返すことで建築物1の外壁を完成させる。すなわち、建築物1の壁の構築に必要な分の壁材ユニット100を組立て、シーリング処理及び塗装処理を行い、壁材ユニット100を揚重して躯体2に取付けることにより、建築物1の外壁が完成する。
【0069】
以上の実施形態においても、板材10に生じる引張応力を低減することができ、板材10の破損、落下を防止することができる。これにより、建築物1の躯体2に複数の板材10を安全かつ容易に取付けることができる。また、仮設支持棒材50の上端には、仮設支持棒材50を吊下げるためのフック62cを引掛け可能な環状部52が設けられるため、仮設支持棒材50を上側貫通孔33aの上方から容易に吊下げることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
上記実施形態では、丸鋼51を用いているが、丸鋼51に代えてワイヤを用いてもよい。この場合には、ワイヤ下端の輪(リング状の部分)にスイベルフック等のフックを取外し可能に設け、フックを下側貫通孔23aに引っ掛ければよい(この場合、フックを下側貫通孔23aに引っ掛けやすいように、下側吊りピース23を、第1及び第2実施形態における取付けの向きから90度回転させた状態で取り付けておくことが好ましい)。また、丸鋼51に代えてワイヤを用いる場合には、上側部材30,230の上側貫通孔33aを長孔形状とし、ワイヤ下端の輪(リング状の部分)を上側貫通孔33aに容易に通せるようにしておくことが好ましい。
【0072】
また、上記実施形態では、上側部材30,230に2つの上側貫通孔33aを設けると共に下側部材20,220に2つの下側貫通孔23aを設け、仮設支持棒材50を2つとしているが、左右方向における壁材ユニット100,200の横幅寸法が大きく2つの仮設支持棒材50では安定して揚重することができない場合には、仮設支持棒材50を3つ以上としてもよい。この場合には、上側部材30,230に3つ以上の上側貫通孔33aを設けると共に下側部材20,220にもそれに応じた3つ以上の下側貫通孔23aを設ければよい。
【符号の説明】
【0073】
1・・・建築物
2・・・躯体
10・・・板材
20・・・下側部材
30・・・上側部材
33a・・・上側貫通孔
40・・・補強材
50・・・仮設支持棒材
52・・・環状部
100・・・壁材ユニット
200・・・壁材ユニット
220・・・下側部材
230・・・上側部材