(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】トンネル覆工構造およびトンネル施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
E21D11/04 Z
(21)【出願番号】P 2020199293
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】植野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
(72)【発明者】
【氏名】板垣 賢
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214853(JP,A)
【文献】特開2007-321450(JP,A)
【文献】特開平08-210099(JP,A)
【文献】特開2017-031035(JP,A)
【文献】特開2001-090487(JP,A)
【文献】特開2016-142088(JP,A)
【文献】特開2003-227296(JP,A)
【文献】特開2004-324139(JP,A)
【文献】特開2022-021003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/04
E21D 11/08
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内面に沿って設けられたアーチ状のプレキャスト覆工と、
前記プレキャスト覆工と前記トンネル内面との間に充填された充填材と、
充填材注入時の圧力による前記プレキャスト覆工の変形を抑制する形状保持材と、を備え
るトンネル覆工構造であって、
前記形状保持材が、前記プレキャスト覆工の天端部において、前記プレキャスト覆工と前記トンネル内面との間に介設されたコンクリート製の柱状部材、または、内部に流体もしくはセメント系固化材が充填された袋体であり、
前記形状保持材の一端は鋼製支保工の内面に当接し、前記形状保持材の他端は前記プレキャスト覆工の外面に当接していることを特徴とする、トンネル覆工構造。
【請求項2】
前記プレキャスト覆工が、複数のプレキャストパネル同士を組み合わせることにより形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル覆工構造。
【請求項3】
前記充填材が高流動コンクリートであることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載のトンネル覆工構造。
【請求項4】
地山を掘削する掘削工程と、
地山の掘削により露出した地山面を支保工により閉塞する支保工程と、
前記支保工の内面に沿ってアーチ状のプレキャスト覆工を設置する覆工部材設置工程と、
前記プレキャスト覆工と前記地山面との隙間に充填材を充填する充填工程と、を備えるトンネル施工方法であって、
前記支保工程では、鋼製支保工を建て込むとともに吹付コンクリートを吹き付け、
前記覆工部材設置工程では、充填材注入時の圧力による前記プレキャスト覆工の変形を抑制する
コンクリート製の柱状部材からなる形状保持材を、一端を前記鋼製支保工の内面に当接させるとともに他端を前記プレキャスト覆工の外面に当接させた状態で配設することを特徴とする、トンネル施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工構造およびトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネルの施工では、掘削により露出した地山面を、吹付コンクリート、鋼製支保工およびロックボルト等を組み合わせた支保工により閉塞した後、支保工の内空側に所定厚さの覆工コンクリートを打設するのが一般的である。覆工コンクリートは、トンネル坑内にスライドセントル(型枠)を組み立てる作業と、スライドセントルと支保工との間にコンクリートを打設する作業とを繰り返すことにより、トンネル延長に沿って連続的に施工する。
前記従来のトンネル施工方法では、大規模なスライドセントルの移動、組立、解体を繰り返す必要があるため、作業に手間がかかる。また、所定厚さのコンクリートをすべて現場で打設するため、コンクリートの打ち込みおよび養生に時間がかかる。
スライドセントルに代えてプレキャスト部材を捨て型枠として使用すれば、型枠(スライドセントル)の移動、解体を省略することができ、施工性の向上を図ることができる。また、現場打ちコンクリートの打設量を削減することによる工期短縮化も図ることができる。ここで、特許文献1には、トンネルの既設覆工の内面に沿ってプレキャストパネルを設置し、プレキャストパネルと既設覆工との隙間に充填材を充填する施工方法が開示されている。
プレキャストパネルの背面に充填される充填材は、プレキャストパネルの脚部から上昇し、プレキャストパネルの天端において閉合される。そのため、充填材の注入時のプレキャストパネルには、充填材による側圧が作用することより天端付近に過大な曲げモーメントが作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プレキャスト部材を用いることにより施工時の手間を削減するとともに、プレキャスト部材に発生する断面力の緩和を図ることが可能なトンネル覆工構造およびトンネル施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明のトンネル覆工構造は、トンネル内面に沿って設けられたアーチ状のプレキャスト覆工と、前記プレキャスト覆工と前記トンネル内面との間に充填された充填材と、充填材注入時の圧力による前記プレキャスト覆工の変形を抑制する形状保持材とを備えている。前記形状保持材は、前記プレキャスト覆工の天端部において、前記プレキャスト覆工と前記トンネル内面との間に介設されたコンクリート製の柱状部材、または、内部に流体もしくはセメント系固化材が充填された袋体である。また、前記形状保持材の一端は鋼製支保工の内面に当接し、前記形状保持材の他端は前記プレキャスト覆工の外面に当接している。
また、本発明のトンネル施工方法は、地山を掘削する掘削工程と、地山の掘削により露出した地山面を支保工により閉塞する支保工程と、前記支保工の内面に沿ってアーチ状のプレキャスト覆工を設置する覆工部材設置工程と、前記プレキャスト覆工と前記地山面との隙間に充填材を充填する充填工程とを備えており、前記支保工程では鋼製支保工を建て込むとともに吹付コンクリートを吹き付け、前記覆工部材設置工程では充填材注入時の圧力による前記プレキャスト覆工の変形を抑制するコンクリート製の柱状部材からなる形状保持材を、一端を前記鋼製支保工の内面に当接させるとともに他端を前記プレキャスト覆工の外面に当接させた状態で配設する。
かかるトンネル覆工構造およびトンネル施工方法によれば、プレキャスト覆工を用いているため、スライドセントルなどの型枠を使用する場合に比べて、型枠の組立、脱型、移動等に要する手間を削減し、施工性の向上を図ることができる。また、所定の品質が確保されたプレキャスト覆工と充填材(例えば現場打ちコンクリート)との複合構造にすることで、覆工の薄肉化を図ることができる。さらに、形状保持材を配設しているため、充填材による側圧が作用した場合でも、プレキャスト覆工の天端付近における上方向への変位が抑制され、その結果、プレキャスト覆工に発生する曲げモーメントを緩和できる。
【0006】
なお、前記プレキャスト覆工は、複数のプレキャストパネル同士を組み合わせることにより形成するのが望ましい。施工スペースが限られたトンネル坑内において、取り扱いやすい形状および重量のプレキャストパネルを使用すれば、プレキャスト覆工の設置時の効率化を図ることができる。
また、形状保持材は、例えば、前記プレキャスト覆工の天端部において前記プレキャスト覆工と前記トンネル内面との間に介設された間詰部材を使用することができる。このような間詰部材には、コンクリート製のスペーサ、高さ調整可能なスペーサ、または、内部に流体もしくはセメント系固化材が充填された袋体を使用することができる。
また、より確実な充填性を確保する観点から、前記充填材には高流動コンクリートを使用するのが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のトンネル覆工構造およびトンネル施工方法によれば、プレキャスト部材を用いることにより施工時の手間を削減するとともに、プレキャスト部材に発生する断面力の緩和を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施形態のトンネル覆工構造の横断図である。
【
図2】第一実施形態のトンネル覆工構造の縦断図である。
【
図3】第一実施形態のトンネル施工方法のフローチャートである。
【
図4】覆工部材設置工程の概要を示す斜視図である。
【
図5】トンネル覆工構造の解析結果を示す図であって、(a)は実施例の変位図、(b)は比較例の変位図である。
【
図6】トンネル覆工構造の解析結果を示す図であって、(a)は実施例の曲げモーメント図、(b)は比較例の曲げモーメント図である。
【
図7】第二実施形態のトンネル覆工構造の横断図である。
【
図8】第二実施形態のトンネル覆工構造の一部を示す部分拡大図である。
【
図9】(a)および(b)は他の形態に係る形状保持材を示す横断図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、NATM等の山岳工法によりトンネルTを施工する場合について説明する。山岳工法では、地山Gを掘削してトンネルTの切羽K(トンネルTの先端部)を前進させる作業と、トンネルTの掘削により露出した地山Gを支保工2により閉塞する作業とを繰り返すことにより、所定延長のトンネルTを形成する。また、地山Gの掘削に起因するトンネルTの周辺地山の変形が収束したら、支保工2の内側(内空側)に覆工3を形成することで、トンネル覆工構造1を構築する。
図1に本実施形態のトンネル覆工構造1の横断図、
図2にトンネル覆工構造1の縦断図を示す。
図1に示すように、本実施形態のトンネル覆工構造1は、断面アーチ状を呈していて、支保工2と覆工3とを備えている。
支保工2は、トンネルTの掘削により露出した地山Gを早期に閉塞するものであって、
図1および
図2に示すように、地山Gに対して吹付けられた吹付コンクリート21と、トンネル軸方向に対して所定の間隔により建て込まれた鋼製支保工22と、地山Gに打設されたロックボルト23により構成されている。なお、支保工2の支保構造は、地山等級に応じて設定するものとし、良好な地山Gの場合には鋼製支保工22やロックボルト23を省略してもよい。また、軟弱な地盤の場合は、ロックボルト23に代えて、あるいはロックボルト23と併用して、先受工法(例えば、フォアポーリングやパイプルーフ等)や地盤改良工法等の補助工法を採用する場合もある。
【0010】
本実施形態の覆工3は、支保工2の内面に沿って形成されており、
図1および
図2に示すように、プレキャスト覆工4と、間詰部材5(形状保持材)と、充填材(裏込め材)6とを備えている。
プレキャスト覆工4は、アーチ状を呈していて、支保工2(トンネルT)の内面に沿って隙間をあけて設けられている。
プレキャスト覆工4は、複数のプレキャストパネル41同士を組み合わせることにより、アーチ状に形成されている。プレキャストパネル41は、トンネル断面形状に応じて断面弧状を呈した鉄筋コンクリート製のパネル(セグメント)である。プレキャストパネル41の端面には、ジョイントが設けられており、プレキャストパネル41の端面同士を突き合せる際にジョイントを係合することにより、プレキャストパネル41同士を連結する。本実施形態では、プレキャストパネル41のトンネル周方向のジョイントとしてくさび継手を採用する。プレキャスト覆工4は、プレキャストパネル41の継手部が回転バネとして機能することで、断面力を緩和する。また、本実施形態では、プレキャストパネル41のトンネル軸方向のジョイントとしてピン挿入継手を採用する。ピン挿入継手は、一方のプレキャストパネル41に埋め込んだ金具に、他方のプレキャストパネル41に突設された金具を差し込むことで嵌合する。
【0011】
間詰部材5は、充填材注入時の圧力によるプレキャスト覆工4の変形を抑制するための形状保持材であって、プレキャスト覆工4の天端部において、プレキャスト覆工4と支保工2(トンネル内面)との間に介設されている。間詰部材5は、
図2に示すように、トンネル軸方向に所定の間隔をあけて、複数設けられている。本実施形態の間詰部材5は、コンクリート製のスペーサである。間詰部材5は、プレキャスト覆工4の天端部におけるプレキャスト覆工4と支保工2との隙間と同等の高さを有している。間詰部材5の形状は限定されるものではなく、例えば、四角柱状や円柱状とする。
【0012】
充填材6は、プレキャスト覆工4と支保工2(トンネルT)の内面との隙間に充填された固化材(本実施形態では高流動コンクリート)である。充填材6は、プレキャスト覆工4を形成した後、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間にポンプ圧送により充填され、所定期間の養生を経て、覆工コンクリートとして必要な強度を発現する。なお、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間には、必要に応じて鉄筋を配筋してもよい。
【0013】
以下、トンネル施工方法について説明する。
図3に、本実施形態のトンネル施工方法のフローチャートを示す。本実施形態のトンネル施工方法は、掘削工程S1と、支保工程S2と、覆工部材設置工程S3と、充填工程S4とを備えている。
掘削工程S1では、地山Gを掘削して切羽Kを前進させる。地山Gの掘削方法は限定されるものではなく、機械掘削でもよいし、発破掘削でもよい。
【0014】
支保工程S2では、地山Gの掘削により露出した地山面を支保工2により閉塞する。支保工程S2では、掘削により露出した地山Gに沿って鋼製支保工22を建て込むとともに、吹付コンクリート21を吹き付ける。吹付コンクリート21を吹き付けたら、ロックボルト23の打設を行う。なお、吹付コンクリート21は、鋼製支保工22の建て込みの前後に一次吹付けと二次吹付けとの2回に分けて吹付けてもよい。吹付コンクリート21の吹付け厚さや、吹付コンクリート21の配合等は、地山状況に応じて適宜変更することが可能である。同様に鋼製支保工22およびロックボルト23の仕様も地山状況(地山等級)に応じて決定する。
【0015】
覆工部材設置工程S3では、支保工2の内面に沿ってアーチ状のプレキャスト覆工4を設置する。プレキャスト覆工4は、複数のプレキャストパネル41を組み合わせることにより形成する。
図4は、プレキャスト覆工4の設置状況を示す図である。プレキャスト覆工4を組み立てる際には、
図4に示すようにトンネル内空側から、支持マシンMによりプレキャストパネル41を支持する。本実施形態では、支持マシンMとして、上下動可能なアームを有したいわゆるフォークリフトを使用する。支持マシンMは、プレキャストパネル41を支持するための支持架台M1を保持しており、支持架台M1により支持したプレキャストパネル41(プレキャスト覆工4)を所定の位置に配設する。
覆工部材設置工程S3では、プレキャスト覆工4の天端部において、プレキャスト覆工4と支保工2との間に間詰部材5を介設する。間詰部材5は、プレキャスト覆工4の天端部を構成するプレキャストパネル41に予め取り付けておくことで、所定の位置に配置してもよいし、プレキャスト覆工4を組み立てながら、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間に介設させてもよい。
【0016】
充填工程S4では、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間に充填材6を充填する。充填材6は、高流動コンクリートをポンプ圧送することにより、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間に注入する。また、充填材6を注入する際には、プレキャスト覆工4と支保工2の隙間の端面(プレキャスト覆工4の先端側)を妻板により塞いだ状態で行う。このとき、アーチ状に組み立てられたプレキャスト覆工4は自立している。
【0017】
本実施形態のトンネル覆工構造1およびトンネル施工方法によれば、プレキャスト覆工4を用いているため、スライドセントルなどの型枠を使用する場合に比べて、型枠の組立、脱型、移動等に要する手間を削減し、施工性の向上を図ることができる。
プレキャスト覆工4と充填材6との複合構造により、既往の覆工と同等以上の構造性能を確保できる。
また、プレキャスト製品であれば、場所打ちには適さないような高強度コンクリートを使用でき、さらには水中養生や蒸気養生を行うこともできるので、プレキャスト覆工4の品質を高め易い。そして、このような高品質のプレキャスト覆工4と充填材6(例えば現場打ちコンクリート)との複合構造にすることで、覆工の薄肉化を図ることができる。
さらに、プレキャスト覆工4の天端部に間詰部材5を配設しているため、充填材6による側圧が作用した場合でも、プレキャスト覆工4の天端付近における上方向への変位が抑制され、その結果、プレキャスト覆工4に発生する曲げモーメントを緩和できる。
また、複数のプレキャストパネル41同士を組み合わせてプレキャスト覆工4を形成するすることで、施工スペースが限られたトンネル坑内において、プレキャスト覆工4の設置時の効率化を図ることができる。
また、充填材6に高流動コンクリートを使用しているため、充填性に優れている。
【0018】
以下、本実施形態のトンネル覆工構造1について実施した解析結果を示す。本解析では、本実施形態のトンネル覆工構造1(実施例)を施工する際の荷重(充填材6(高流動コンクリート)の注入に伴うコンクリート圧)により発生するプレキャスト覆工4の断面力(変位および曲げモーメント)を算出した。また、比較例として、間詰部材5を設置しなかった場合に発生するプレキャスト覆工4の断面力も算出した。
図5(a)に解析により算出された実施例の変位量を示し、(b)に比較例の変位量を示す。また、
図6(a)に実施例の曲げモーメント図を示し、(b)に比較例の曲げモーメント図を示す。
【0019】
図5(b)に示すように、比較例では、コンクリート注入時の側圧により、プレキャスト覆工4の脚部において15.0mm、天端部において11.6mmの大きな変位が生じる結果となった。一方、実施例では、
図5(a)に示すように、プレキャスト覆工4の脚部では3.7mm、肩部では2.8mm、天端部では0mmと、変位量を大幅に削減することができた。
また、
図6(b)に示すように、比較例では、脚部において63.9kNm、天端部において-33.2kNmの曲げモーメントが生じたのに対し、実施例では、
図6(a)に示すように、脚部で39.8kNm、肩部で-20.0kNmであった。このように、曲げモーメントについても、脚部及びトンネル上半部において大幅に低減できる。
【0020】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、支保工2の内側(内空側)に覆工3を形成して、トンネル覆工構造1を構築することで、トンネルTを施工する場合について説明する。
図7に第二実施形態のトンネル覆工構造1を示す。
図7に示すように、第二実施形態のトンネル覆工構造1は、形状保持材としてプレキャストパネル41に取り付けれたスペーサ51を使用する点で、間詰部材5をプレキャスト覆工4と支保工2との間に介設する引用文献1のトンネル覆工構造1と異なっている。支保工2の詳細は、第一実施形態の支保工2と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0021】
第二実施形態の本実施形態の覆工3は、支保工2の内面に沿って形成されており、プレキャスト覆工4と、スペーサ51(形状保持材)と、充填材(裏込め材)6とを備えている。なお、充填材6の詳細は、第一実施形態の充填材6と同様なため、詳細な説明は省略する。
プレキャスト覆工4は、アーチ状を呈していて、支保工2(トンネルT)の内面に沿って隙間をあけて設けられている。
プレキャスト覆工4は、複数のプレキャストパネル41同士を組み合わせることにより、アーチ状に形成されている。
図8(a)に示すように、プレキャストパネル41には、内面にネジ加工(雌ネジ)が施されたボルト孔42が形成されている。ボルト孔42は、プレキャストパネル41を貫通している。ボルト孔42の内空側端部には、ボルト孔42の内径よりも大きな内径の凹部43が形成されている。
図8(b)に示すように、凹部43には、プレキャスト覆工4の内空側から蓋材44の取り付けが可能である。本実施形態では、各プレキャストパネル41にボルト孔42が1か所ずつ形成されているが、プレキャストパネル41に形成されるボルト孔の数および配置は限定されるものではない。この他のプレキャストパネル41(プレキャスト覆工4)の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0022】
スペーサ51は、充填材注入時の圧力によるプレキャスト覆工4の変形を抑制するための形状保持材であって、
図8(a)に示すように、プレキャストパネル41に形成されたボルト孔42に基端部が螺着されている。スペーサ51の先端には、スペーサ51の断面よりも大きな形状の板材52が固定されている。また、スペーサ51の基端面には、締付治具を係合するための多角形断面の係合孔53が開口している。スペーサ51は、係合孔53に締付治具54を挿入した状態で、締付治具を回転させることにより、プレキャストパネル41からの突出長を変化させて、板材52を支保工2に当接させる。
本実施形態では、トンネル周方向に複数のスペーサ51が設けられているが、スペーサ51の数および配置は限定されるものではなく、例えば、プレキャスト覆工4の頂部のみや、肩部のみに配設されていてもよい。また、スペーサ51は、必ずしも支保工2に当接させる必要はない。また、板材52は、省略してもよい。
【0023】
以下、第二実施形態のトンネル施工方法について説明する。本実施形態のトンネル施工方法は、第一実施形態と同様に、掘削工程S1と、支保工程S2と、覆工部材設置工程S3と、充填工程S4とを備えている。掘削工程S1、支保工程S2および充填工程S4の詳細は、第一実施形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
覆工部材設置工程S3では、支保工2の内面に沿ってアーチ状のプレキャスト覆工4を設置する。プレキャスト覆工4は、複数のプレキャストパネル41を組み合わせることにより形成する。覆工部材設置工程S3では、プレキャスト覆工4の形成に伴い、スペーサ51の調整を行う。プレキャストパネル41のボルト孔42には、予めスペーサ51が取り付けられている。プレキャストパネル41を所定の位置に配設したら、内空側から締付治具54を介してスペーサ51の突出長を調節して、板材52を支保工2に当接させる。プレキャスト覆工4は、周方向に複数配設されたスペーサ51を支保工2に当接させることにより、充填材注入時の圧力に対して抵抗可能な反力を支保工2から確保した状態で組み立てられる。スペーサ51の調節が完了したら締付治具54を取り外して、凹部43に蓋材44を取り付ける。蓋材44は、ボルト孔42に螺合可能なネジ部45と、凹部43と同等の形状の蓋部46とを有していて、ネジ部45をボルト孔42に螺着することで、蓋部46によりボルト孔42(凹部43)を遮蔽する。このとき、必要に応じて蓋材44と凹部43との間に止水材を介設する。
この他の覆工部材設置工程S3の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0024】
第二実施形態のトンネル覆工構造1およびトンネル施工方法によれば、プレキャストパネル41からスペーサ51が突設されているため、充填材6による側圧が作用した場合でも、プレキャスト覆工4の変位が抑制され、その結果、プレキャスト覆工4に発生する曲げモーメントを緩和できる。
ボルト孔42は、蓋材44により遮蔽するため、地下水の浸透が抑制されている。
この他の第二実施形態のトンネル覆工構造1の作用効果は第一実施形態のトンネル覆工構造1と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
第一実施形態では、間詰部材5としてコンクリート部材を使用する場合について説明したが、間詰部材5を構成する部材は限定されるものではなく、例えば、高さ調整可能なスペーサであってもよい。間詰部材5が高さ調整可能であれば、施工誤差などによるプレキャスト覆工4と支保工2との隙間の大きさの変化に追従することができる。また、間詰部材5は、内部に充填材6が充填された袋体であってもよい。かかる間詰部材5によれば、プレキャスト覆工4と支保工2との隙間の大きさの変化に追従できるとともに、間詰部材5の設置が容易である。すなわち、先端に袋体が設けられた注入管を隙間に挿入し、所定の位置に袋体を設置した後、袋体内にセメント系固化材(充填材6と同じ材料でもよい)を充填することで、間詰部材5を形成できる。袋体に水等の流体の充填するようにすれば、プレキャスト覆工4の背面の所定の高さまで充填材6が注入された段階で、袋体内から流体を排出し、袋体を撤去することもできる。
【0026】
第二実施形態では、スペーサ51の基端面に形成された多角形断面の係合孔53に締付治具54を係合させて、スペーサ51の突出長を調整するものとしたが、係合孔53は、内面にネジ加工が施された雌ネジであってもよい。この場合には係合孔53に頭部を有した雄ボルトをプレキャストパネル41の内空側からねじ込んでおき、雄ボルトを回転させることで、スペーサ51の突出長を調整する。そして、充填材6の硬化後に、雄ボルトを係合孔53から抜き出すことで、トンネル内空側の突出部分を無くす。こうすることで、専用の締付治具を要することなく汎用性の高い雄ボルトによりスペーサ51を設置することができる。
【0027】
形状保持材は、前記各実施形態で示したもの(間詰部材5やスペーサ51)に限定されるものではなく、例えば、
図9(a)に示すように、プレキャスト覆工4の内面頂部に吊り下げられた錘55であってもよい。また、錘55は、
図9(b)に示すようにワイヤー56等を介して、ブレキャスト覆工4の頂部に下向きの力を作用するように設けられた錘55であってもよい。このように、プレキャスト覆工4の頂部に錘55を設置すれば、充填材注入時の側圧によりプレキャスト覆工4の頂部に生じる鉛直変位を抑制できる。
【0028】
前記実施形態では、トンネル坑内でプレキャストパネル41を組み立ててプレキャスト覆工4を形成するものとしたが、坑外で組み立てたプレキャスト覆工4をトンネル坑内に搬入してもよい。
覆工部材設置工程S3におけるプレキャスト覆工4を支持方法は、フォークリフトによるものに限定されるものではなく、例えば、その他の支持マシンMを使用してもよいし、架台等を設置してもよい。
充填材6の注入は、プレキャスト覆工4に形成された注入孔から行ってもよいし、プレキャスト覆工4の端面に設けられた妻板に形成された注入口等から注入してもよい。
プレキャストパネル41同士の継手構造は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 トンネル覆工構造
2 支保工
3 覆工
4 プレキャスト覆工
41 プレキャストパネル
5 間詰部材
6 充填材
G 地山
T トンネル