(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ウェッジカム式ブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/22 20060101AFI20240228BHJP
F16D 55/2255 20060101ALI20240228BHJP
F16D 65/56 20060101ALI20240228BHJP
B61H 5/00 20060101ALN20240228BHJP
B61H 15/00 20060101ALN20240228BHJP
F16D 125/66 20120101ALN20240228BHJP
F16D 121/04 20120101ALN20240228BHJP
【FI】
F16D65/22
F16D55/2255 103F
F16D65/56 E
B61H5/00
B61H15/00
F16D125:66
F16D121:04
(21)【出願番号】P 2020202698
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】針貝 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】進藤 隆行
(72)【発明者】
【氏名】関根 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】森弘 元人
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143908(WO,A1)
【文献】特開2013-231458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B61H 1/00-15/00
F16D 125/66
F16D 121/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェッジカムが可逆的に螺合するスピンドルが、流体圧ピストンにより前記スピンドルの一端部を回転軸方向に押圧駆動されることによって、前記スピンドルの回転軸方向に沿って制動位置へ移動した前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部が拡開されて、それらの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキであって、
前記流体圧ピストンを駆動方向と反対の非制動位置へ付勢する弾性部材と、
回り止め機構を介してブレーキ本体側の静止部に固定された固定部材と、
前記スピンドルの他端部に対して相対回転不能及び回転軸方向に移動自在に係合する回転部材と、
前記固定部材と前記回転部材との間に設けられ、前記ウェッジカムを前記制動位置側へ移動させる方向のみに前記スピンドルの回転力を伝達するために一方向のみ回転を許容する機構と、
を備えるウェッジカム式ブレーキ。
【請求項2】
前記回り止め機構が、
前記固定部材に形成された係合凹部と、
前記ブレーキ本体側の静止部に設けられ、前記係合凹部に係合する係合位置と前記係合凹部から離脱する非係合位置とに切換え可能な係合ピンと、
を備える請求項1に記載のウェッジカム式ブレーキ。
【請求項3】
前記回転部材における回転軸方向と交差する方向に穿設された貫通孔に挿通された回転治具が、
前記スピンドルの他端部に当接して前記制動位置側への前記スピンドルの回転軸方向移動を規制することができる
請求項1又は2に記載のウェッジカム式ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェッジカム式ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキを搭載する車両、特に強力な制動力が要求される鉄道車両用のディスクブレーキでは、ウェッジカムのカム作用により一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキが知られている。
【0003】
これらのウェッジカム式ブレーキでは、パッドアッセンブリのパッドが摩耗すると、ブレーキが効き始める時期が遅れて制動距離が長くなるという問題があった。そこで、ブレーキアームに、パッドの摩耗に伴う過剰ストロークが発生することがないように、ウェッジカムが形成されたスピンドルの中間部に自動隙間調整機構が配設されている。
ところが、このような自動隙間調整機構を備えたウェッジカム式ブレーキにあっては、パッドアッセンブリにおけるパッドの摩耗量に比例して、応答時間(ブレーキロータの把持に要する時間)が伸びてしまうという問題があった。即ち、パッド摩耗量が増大すると、エアーシリンダに対するエアーピストン(流体圧ピストン)の相対位置が下方へ移動する。そこで、加圧するべきエアーシリンダのシリンダ容積が増大して加圧時間が増加するため、応答時間が伸びて応答性が悪化してしまう。そこで、下記特許文献1には、パッド摩耗量に係わらず常に一定の応答時間でブレーキを作動させるための自動位置調整機構を備えたウェッジカム式ブレーキが開示されている。
【0004】
このような自動隙間調整機構や自動位置調整機構が配設されたブレーキ用オートアジャスタ装置を備えたウェッジカム式ブレーキは、パッドが摩耗したパッドアッセンブリを新品のパッドアッセンブリと交換する際、ブレーキ用オートアジャスタ装置を解放してウェッジカムに対するスピンドルの軸方向の相対位置を初期位置に戻す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のブレーキ用オートアジャスタ装置を備えた従来のウェッジカム式ブレーキにあっては、スピンドルに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が煩雑であった。
即ち、アジャスタ解放のためには、先ず、車体に固定されたサポートからキャリパボディを取り外し、スピンドルを回り止めしている回転止め部材を外す必要がある。そして、スピンドルを戻し側へ回転してウェッジカムと共に回転部材をエアーピストン側へ螺進させた後、スピンドルが回転しないように押さえながら自動隙間調整機構のスリーブを叩き上げる動作を繰り返さなければならず、アジャスタ戻し作業が煩雑であった。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、スピンドルに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が容易なウェッジカム式ブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) ウェッジカムが可逆的に螺合するスピンドルが、流体圧ピストンにより前記スピンドルの一端部を回転軸方向に押圧駆動されることによって、前記スピンドルの回転軸方向に沿って制動位置へ移動した前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部が拡開されて、それらの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキであって、
前記流体圧ピストンを駆動方向と反対の非制動位置へ付勢する弾性部材と、
回り止め機構を介してブレーキ本体側の静止部に固定された固定部材と、
前記スピンドルの他端部に対して相対回転不能及び回転軸方向に移動自在に係合する回転部材と、
前記固定部材と前記回転部材との間に設けられ、前記ウェッジカムを前記制動位置側へ移動させる方向のみに前記スピンドルの回転力を伝達するために一方向のみ回転を許容する機構と、
を備えるウェッジカム式ブレーキ。
【0009】
上記(1)の構成のウェッジカム式ブレーキによれば、ブレーキ作動時、ブレーキ本体に対して軸方向に移動可能かつ相対回転不能に取り付けられたウェッジカムに可逆的に螺合している回転自在なスピンドルは、流体圧ピストンにより一端部が回転軸方向に押圧駆動されると、ウェッジカムを非制動位置側へ移動させる方向に回転しようとする。ここで、スピンドルの他端部に係合した回転部材とブレーキ本体側の静止部に固定された固定部材との間には、ウェッジカムを制動位置側へ移動させる方向のみにスピンドルの回転力を伝達する(換言すれば、ウェッジカムを非制動位置側へ移動させる方向にはスピンドルの回転力を伝達しない)ために一方向のみ回転を許容する機構(例えば、ワンウェイクラッチやラチェット機構など)が設けられている。そこで、ブレーキ作動時に流体圧ピストンにより一端部が押圧駆動されたスピンドルは、ウェッジカムに対してウェッジカムを非制動位置側へ移動させる方向に回転できず、回転軸方向に沿ってウェッジカムと伴に制動位置側へ移動する。そして、制動位置側へ移動したウェッジカムは、カム作用によりブレーキアームの基端部を拡開し、それらの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行うことができる。
そして、ブレーキ作動に伴う通常ストローク(所定のストローク内)時には、ブレーキ動作が解除されると、弾性部材が流体圧ピストンを非制動位置へ付勢し、流体圧ピストンと供にスピンドルが非制動位置に復帰する。この際、スピンドルは、ウェッジカムとの螺合部の摩擦抵抗により、回転することなく軸方向に移動する。
一方、ブレーキ作動に伴い、パッド摩耗による過剰ストローク(所定のストローク以上)が生じた際には、ブレーキ動作が解除され、弾性部材の付勢力によりスピンドルが駆動方向に所定のストローク以上移動して戻る時、ウェッジカムとの螺合部の摩擦抵抗が小さくなる。そこで、ブレーキ解除時に流体圧ピストンと供にスピンドルが非制動位置に復帰する際、スピンドルはウェッジカムに対してウェッジカムを制動位置側へ移動させる方向に回転することができる。この時、固定部材と回転部材との間に設けられた上述の一方向のみ回転を許容する機構は、ウェッジカムを制動位置側へ移動させる方向のスピンドルの回転を許容する。その結果、ウェッジカムに対してスピンドルが回転して螺合が進むことにより、流体圧ピストンに対するウェッジカムの軸方向初期位置が調整され、パッド摩耗に対して自動的に隙間調整が行われる。従って、本構成のウェッジカム式ブレーキは、ブレーキ作動時に、パッド摩耗量に係わらず常に一定の応答時間でブレーキを作動させることができる。
また、摩耗したパッドを新品のパッドと交換する際には、回り止め機構による固定部材の固定を解除して上述の一方向のみ回転を許容する機構の動作をキャンセルする。そして、ウェッジカムが非制動位置側へ移動する方向へスピンドルを回転させるだけで、流体圧ピストンに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すことができる。従って、
スピンドルに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が容易となる。
【0010】
(2) 前記回り止め機構が、
前記固定部材に形成された係合凹部と、
前記ブレーキ本体側の静止部に設けられ、前記係合凹部に係合する係合位置と前記係合凹部から離脱する非係合位置とに切換え可能な係合ピンと、
を備える上記(1)に記載のウェッジカム式ブレーキ。
【0011】
上記(2)の構成のウェッジカム式ブレーキによれば、固定部材をブレーキ本体側の静止部に固定する回り止め機構が、固定部材の係合凹部と係合ピンとで簡単に構成され、固定部材の固定と非固定を容易に切換えることができる。
【0012】
(3) 前記回転部材における回転軸方向と交差する方向に穿設された貫通孔に挿通された回転治具が、
前記スピンドルの他端部に当接して前記制動位置側への前記スピンドルの回転軸方向移動を規制することができる上記(1)又は(2)に記載のウェッジカム式ブレーキ。
【0013】
上記(3)の構成のウェッジカム式ブレーキによれば、流体圧ピストンに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すために回転治具を用いてスピンドルを回転させる際、回転治具が制動位置側へのスピンドルの回転軸方向移動を規制する。そこで、回転治具により回転されたスピンドルは、螺合するウェッジカムの反力により制動位置側へ移動させられることなく、ウェッジカムを非制動位置側へ確実に螺進させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スピンドルに対するウェッジカムの軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が容易なウェッジカム式ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウェッジカム式ブレーキの全体構造を示す側面図である。
【
図2】
図1に示したウェッジカム式ブレーキのII―II断面矢視図である。
【
図3】
図2に示したウェッジカム式ブレーキにおけるスピンドル及びウェッジカムを示す断面図である。
【
図4】
図3に示したスピンドル及びウェッジカムを説明する分解斜視図である。
【
図5】
図2に示したウェッジカム式ブレーキにおける固定部材と回転部材との間に設けられ、スピンドルの一方向のみ回転を許容する機構を説明する分解斜視図である。
【
図6】
図2に示したウェッジカム式ブレーキのブレーキ作動状態を示す要部断面図である。
【
図7】
図2に示したウェッジカム式ブレーキの回り止め機構を説明するための要部断面図であり、(a)は係合ピンが係合凹部に係合する係合位置を示し、(b)は係合ピンが係合凹部から離脱する非係合位置を示す。
【
図8】回転治具が回転部材の貫通孔に挿通された状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のウェッジカム式ブレーキを実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
以下、
図1~
図5を用いて、本発明の一実施形態に係るウェッジカム式ブレーキの構造について説明する。
図1は、ウェッジカム式ブレーキを備えた鉄道車両用ディスクブレーキの全体構造を示し、ボディ1は、サポート2を介して車体側に固定され、サポート2の反対側には一対のブレーキアーム3,3の中間部がブレーキアーム軸4,4によってそれぞれ軸支される。
ブレーキアーム3,3の各開放端(サポート2の反対側)には、パッドホルダ5を介してパッドアッセンブリ6,6が装着されている。
【0018】
図2は、ブレーキが非作動の初期状態における
図1のウェッジカム式ブレーキのII―II断面を示しており、ブレーキアーム3、3の各基端部には、出力軸となるリンクロッド7、7の外側端が球面ブッシュ8により支持されており、このリンクロッド7、7の内側端は、球面ブッシュ9により、ローラアーム10、10に連結、支持されている。そして、ローラアーム10、10の下端は、ベアリング11、11を介してストラット12の両端部に軸支されて、リンク式倍力装置を構成している。
【0019】
図2において、スピンドル13の上方には、エアーシリンダ14が配設されており、ブレーキを作動させるため、エアーを供給口から導入して、エアーシリンダ14内部の空圧室に充填させると、エアーピストン(流体圧ピストン)16をチャンバスプリング(弾性部材)17の復元力に抗して下側に作動させる。
【0020】
即ち、本実施形態に係るウェッジカム式ブレーキは、ウェッジカム20が可逆的に螺合するスピンドル13が、エアーピストン16によりスピンドル13の一端部を回転軸方向に押圧駆動されることによって、スピンドル13の回転軸方向に沿って制動位置へ移動したウェッジカム20のカム作用によりブレーキアーム3、3の基端部が拡開されて、それらの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリ6、6をブレーキロータ100の両側から挟圧してブレーキ動作を行うものである。
【0021】
図3及び
図4に示すように、エアーピストン16の下面に配置されるスピンドル13は、一端部(図中、上端部)に配置されるスラスト軸受36を介して、スプリングシート32に対して回転軸方向にわずかに移動可能及び回転自在に支持されている。
即ち、スピンドル13の一端部により支持穴32aを貫通されたスプリングシート32は、スピンドル13の一端部側に形成されたフランジ13aに載置され、スピンドル13の他端部側(図中、下端部側)への移動が規制される。支持穴32aの内周面とスピンドル13の外周面との間には、滑り軸受であるブッシュ39が挿入される。更に、スピンドル13の一端部には、ワッシャ35及びウェーブワッシャ37とスラスト軸受36とが嵌挿され、スピンドル13の一端部における外周面に形成された環状溝13bに嵌装された止め輪34により抜け止めされる。従って、スピンドル13は、スプリングシート32に対して回転軸方向にわずかに移動可能及び回転自在に支持されている。特に、上側に作動されるスプリングシート32によりスピンドル13が回転軸方向へ引き上げられる際には、スラスト軸受36により回転抵抗が小さくされたスピンドル13がスプリングシート32に対して回転し易くなるように構成されている。
そして、スプリングシート32は、下側に作動するエアーピストン16の駆動力をスピンドル13に作用させる。
【0022】
スピンドル13の一端部側には、ナット部材38を介してウェッジカム20が可逆的に螺合されてスピンドル13と同軸に配置されている。スピンドル13の可逆ねじ50に螺合するナット部材38は、スピンドル13とウェッジカム20との間に介装される。ナット部材38は、外周面に配置された一対のキー40と、スペーサ33を介して上面に配置された止め輪34とにより、ウェッジカム20に対して回転軸方向に移動不能及び相対回転不能とされ、ウェッジカム20と一体に構成されている。
スピンドル13の他端部側には、断面矩形状の外周面を有するスリーブ70が固定されている。
【0023】
更に、ウェッジカム20は、ブレーキ本体側の静止部となるボディ1に対して支持されたスリーブ部材22に対して軸方向に移動可能かつ相対回転不能に取り付けられている。そして、ウェッジカム20の軸方向先端側(下側)への移動に伴い、ローラアーム10、10の上端に取り付けられたカムローラ18、18は、ウェッジカム20の傾斜面に乗り上げることになる。
【0024】
ウェッジカム20の傾斜面へのカムローラ18、18の乗上げによって、ローラアーム10、10は拡開方向に揺動して、ローラアーム10、10の略中間部に球面ブッシュ9、9により連結・支持されたリンクロッド7、7を梃子の原理によって倍力して外方(
図2中、左右方向)へ軸動させる。これによって、ブレーキアーム3、3の各基端部がブレーキアーム軸4、4を揺動中心として拡開方向に移動されて、ブレーキアーム3、3の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ6、6をブレーキロータ100(
図1参照)に挟圧させてブレーキ動作が行われる。
【0025】
更に、本実施形態に係るウェッジカム式ブレーキは、スピンドル13の他端部側(
図2中、下端部側)に、回り止め機構61を介してブレーキ本体側の静止部であるボディ1の下面に固定された固定部材45と、スピンドル13の他端部に対して相対回転不能及び回転軸方向に移動自在に係合する回転部材51と、固定部材45と回転部材51との間に設けられ、ウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向のみにスピンドル13の回転力を伝達するために一方向のみ回転を許容する機構であるワンウェイクラッチ65と、を備える。
【0026】
図2及び
図5に示すように、本実施形態に係る固定部材45は、ボディ1の下面に取り付けられてブレーキ本体側の静止部とされた固定ベース41に対して回り止め機構61を介して固定されている。固定ベース41は、略円筒形の固定部材45を回転自在に収容する円形の段付き開口部42と、係合ピン55を収容するピン収容部43とを有し、ボディ1の下面に締結固定されている。
【0027】
固定部材45は、外周面に沿って複数の係合凹部47が等間隔に形成されており、上面に形成された環状溝48にはOリング68が収容されてボディ1の下面との間を液密にシールする。固定部材45の中央開口46には、ワンウェイクラッチ65を介して略円筒形の回転部材51が嵌挿されている。中央開口46の内周面と回転部材51の外周面との間にはリップシール63が設けられ、液密にシールされている。
【0028】
回転部材51は、断面矩形状の開口52を有しており、スピンドル13の他端部側に固定されたスリーブ70が相対回転不能及び回転軸方向に移動自在に嵌合する。なお、スリーブ70が摺動する開口52の各内面には、摺動性を高める摺動プレート60が配置されている。摺動プレート60は、回転部材51の上方に配置されたワッシャ67により上方への移動が規制される。そこで、回転軸方向に移動するスリーブ70の摩耗が抑制され、ウェッジカム式ブレーキの耐久性が向上する。回転部材51の下端部には、防塵カバー71が装着される。
【0029】
本実施形態に係る回り止め機構61は、固定部材45に形成された複数の係合凹部47と、固定ベース41のピン収容部43に収容され、先端部が係合凹部47に係合する係合位置と係合凹部47から離脱する非係合位置とに切換え可能な係合ピン55と、ピン収容部43に収容された係合ピン55を係合位置に弾性付勢するコイルスプリング56と、を備える。
【0030】
回り止め機構61は、固定ベース41の段付き開口部42に回転自在に収容された固定部材45の係合凹部47に対して、固定ベース41のピン収容部43に収容された係合ピン55が係合することで、固定部材45を回り止めする。回り止めされた固定部材45は、固定ベース41に対して固定された状態となる。
係合ピン55は、コイルスプリング56を巻装してピン収容部43を貫通させた後端部に抜け止め57を固着することで、係合位置に弾性付勢された状態でピン収容部43に収容される。
【0031】
ワンウェイクラッチ65は、固定部材45に対する回転部材51の一方向のみ回転を許容する。この一方向の回転とは、可逆的に螺合しているウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向のスピンドル13の回転力を伝達するための方向の回転である。そこで、回転部材51の開口52に他端部が嵌合されたスピンドル13は、固定部材45に対してこの一方向のみ回転が許容される。
【0032】
図6は、
図2に示したウェッジカム式ブレーキのブレーキ作動状態を示す要部断面図である。
図6に示すように、ブレーキ非作動の初期状態から、エアーピストン16により、チャンバスプリング17の復元力に抗してスピンドル13を軸方向他方側(図面下側)に作動させる。すると、ブレーキ本体側のスリーブ部材22に対して軸方向に移動可能かつ相対回転不能に取り付けられたウェッジカム20に可逆的に螺合している回転自在なスピンドル13は、エアーピストン16により一端部が回転軸方向に押圧駆動されると、ウェッジカム20を非制動位置側へ移動させる方向に回転しようとする。
【0033】
ここで、スピンドル13の他端部に係合した回転部材51とブレーキ本体側の静止部であるボディ1の下面に固定された固定部材45との間には、ウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向のみにスピンドル13の回転力を伝達する(換言すれば、ウェッジカム20を非制動位置側へ移動させる方向にはスピンドル13の回転力を伝達しない)ために一方向のみ回転を許容するワンウェイクラッチ65が設けられている。そこで、ブレーキ作動時にエアーピストン16により一端部が押圧駆動されたスピンドル13は、ウェッジカム20に対してウェッジカム20を非制動位置側へ移動させる方向に回転できず、回転軸方向に沿ってウェッジカム20と伴に制動位置側へ移動する。即ち、スピンドル13は回転せず、スピンドル13に対するウェッジカム20の軸方向位置は変わらない。
【0034】
従って、ウェッジカム式ブレーキは、
図6に示すように、ブレーキ作動状態となり、制動位置側へ移動するウェッジカム20の傾斜面にカムローラ18、18が乗り上げる。
これによって、ストラット12の両端部のベアリング11、11に軸支された一対のローラアーム10、10がリンク式倍力装置として機能し、ベアリング11、11を軸支点として外側に拡開し、ローラアーム10、10の略中間部に球面ブッシュ9、9により連結・支持されたリンクロッド7、7を梃子の原理によって倍力されて外方(図面左右方向)へ軸動させる。このようにして、ブレーキアーム3、3の各基端部を、ブレーキアーム軸4を揺動中心として拡開方向に移動させて、その開放端部に配設されたパッドアッセンブリ6、6をブレーキロータ100に挟圧させてブレーキ動作が行われる。
【0035】
そして、ブレーキ作動に伴う通常ストローク(所定のストローク内)時には、ブレーキ動作が解除されると、チャンバスプリング17がスプリングシート32を介してエアーピストン16を非制動位置へ付勢し、エアーピストン16と供にスピンドル13が非制動位置に復帰する。この際、スピンドル13は、ウェッジカム20との螺合部の摩擦抵抗により、回転することなく軸方向に移動する。
【0036】
一方、ライニングが摩耗し、スピンドル13とスプリングシート32が所定以上動作した状態において、ブレーキ動作が解除され、チャンバスプリング17のばね力がスプリングシート32を介してスピンドル13に伝達される。可逆ねじを有するスピンドル13は、チャンバスプリング17のばね力によりウェッジカム20に対し回転し、ウェッジカム20とスピンドル13及びスプリングシート32の相対位置が変化する。スピンドル13の回転は、エアーピストン16がエアーシリンダ14に当接することでピストンの位置調整が完了する。そこで、ブレーキ解除時にエアーピストン16と供にスピンドル13が非制動位置に復帰する際、スピンドル13はウェッジカム20に対してウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向に回転することができる。この時、固定部材45と回転部材51との間に設けられた上述のワンウェイクラッチ65は、ウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向のスピンドル13の回転を許容する。その結果、ウェッジカム20に対してスピンドル13が回転して螺合が進むことにより、エアーピストン16に対するウェッジカム20の軸方向初期位置が調整され、パッド摩耗に対して自動的に隙間調整が行われる。従って、本構成のウェッジカム式ブレーキは、ブレーキ作動時に、パッド摩耗量に係わらず常に一定の応答時間でブレーキを作動させることができる。
【0037】
また、摩耗したパッドを新品のパッドと交換する際には、回り止め機構61による固定部材45の固定を解除して上述のワンウェイクラッチ65の動作をキャンセルする。本実施形態の回り止め機構61は、固定部材45の係合凹部47と係合ピン55とで簡単に構成され、固定部材45の固定と非固定を容易に切換えることができる。
【0038】
即ち、固定部材45は、
図7の(a)に示すように、固定ベース41のピン収容部43に収容されてコイルスプリング56により係合位置に弾性付勢された係合ピン55は、先端部が係合凹部47に係合する係合位置では、後端部に固着された抜け止め57の突起部57aが固定ベース41の退避凹部44に没入された状態となっている。そこで、係合ピン55をコイルスプリング56の付勢力に抗して下方に引っ張り出し、所定角度(例えば90度)回転させることで、
図7の(b)に示すように、抜け止め57の突起部57aを固定ベース41の下面に当接させる。すると、係合ピン55は、先端部が係合凹部47から離脱する非係合位置に弾性付勢された状態となる。従って、固定部材45は、回り止め機構61による固定が解除され、ワンウェイクラッチ65の動作をキャンセルすることができ、スピンドル13は回転自在となる。
【0039】
そして、ウェッジカム20が非制動位置側へ移動する方向へスピンドル13を回転させるだけで、エアーピストン16に対するウェッジカム20の軸方向位置を隙間調整前に戻すことができる。従って、スピンドル13に対するウェッジカム20の軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が容易となる。
【0040】
本実施形態のウェッジカム式ブレーキは、
図8に示すように、回転部材51における回転軸方向と交差する方向に穿設された貫通孔53及び摺動プレート60に穿設された貫通孔62に挿通された回転治具80が、スピンドル13の他端部に当接して制動位置側(
図8中、下方側)へのスピンドル13の回転軸方向移動を規制することができる。
即ち、エアーピストン16に対するウェッジカム20の軸方向位置を隙間調整前に戻すために回転治具80を用いてスピンドル13を回転させる際、回転治具80が制動位置側へのスピンドル13の回転軸方向移動を規制する。そこで、回転治具80により回転されたスピンドル13は、螺合するウェッジカム20の反力により制動位置側へ移動させられることなく、ウェッジカム20を非制動位置側へ確実に螺進させることができる。従って、スピンドル13に対するウェッジカム20の軸方向位置を隙間調整前に戻すアジャスタ戻し作業が更に容易となる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、ウェッジカム20を制動位置側へ移動させる方向のみにスピンドル13の回転力を伝達するために一方向のみ回転を許容する機構としては、ラチェット機構等の種々の機構を用いることができる。
【0042】
その他、本発明の趣旨の範囲内で、ウェッジカムの形状、及びそのスピンドルとの可逆的な螺合形態(例えば、ナット部材38を介さずにウェッジカムに直接ねじを形成してもよい)、ウェッジカムとブレーキアーム基端部との関連構成等様々な変形例が考えられる。更に、流体圧ピストンは、エアーにより駆動されるエアーピストンに限らず、油圧により駆動される油圧ピストンでもよい。
また、上記実施形態では、鉄道車両用ブレーキを用いて説明したが、大型トラック等の自動車等にも本発明を適用できることは明らかである。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0044】
1 ボディ
2 サポート
3 ブレーキアーム
4 ブレーキアーム軸
5 パッドホルダ
6 パッドアッセンブリ
7 リンクロッド
10 ローラアーム
13 スピンドル
16 エアーピストン(流体圧ピストン)
17 チャンバスプリング(弾性部材)
20 ウェッジカム
22 スリーブ部材(静止部)
38 ナット部材
41 固定ベース
43 ピン収容部
45 固定部材
47 係合凹部
51 回転部材
55 係合ピン
56 コイルスプリング
61 回り止め機構
65 ワンウェイクラッチ(一方向のみ回転を許容する機構)