(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】始動失敗判定・検知装置及び始動失敗判定・検知方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240228BHJP
F02M 1/08 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F02D45/00 360A
F02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2020211085
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】317019683
【氏名又は名称】三菱重工メイキエンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石山 明洋
(72)【発明者】
【氏名】成田 紘之
(72)【発明者】
【氏名】牧田 健太朗
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030499(JP,A)
【文献】特開2007-032500(JP,A)
【文献】特開2009-019535(JP,A)
【文献】実開昭57-092856(JP,U)
【文献】特公昭46-012852(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するように構成された取得部と、
前記温度計測値の
所定時間における温度勾配が第2閾値以下である場合に前記エンジンの始動失敗を検知するように構成された検知部と、
を備える始動失敗判定・検知装置。
【請求項2】
前記検知部は、
前記温度勾配が前記第2閾値以下であり、且つ、始動制御開始時における前記温度計測値である初期コイル温度からの前記温度計測値の温度変位
が第1閾値以上である場合に前記始動失敗を検知する
請求項1に記載の始動失敗判定・検知装置。
【請求項3】
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するように構成された取得部と、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジンの始動失敗を検知するように構成された検知部と、
を備え、
前記検知部は、始動制御開始時における前記温度計測値である初期コイル温度からの前記温度計測値の温度変位と前記温度計測値の所定時間における温度勾配とに基づいて前記始動失敗を検知し、
前記検知部は、前記温度変位が第1閾値以上であり、かつ前記温度勾配が第2閾値以下である場合に、前記始動失敗を検知す
る
始動失敗判定・検知装置。
【請求項4】
前記第1閾値は、1℃以上10℃未満の範囲内で設定された値であり、
前記第2閾値は、0.01℃/秒以上0.1℃/秒未満の範囲内で設定された値である
請求項3に記載の始動失敗判定・検知装置。
【請求項5】
前記エンジンの吸気通路に設けられたチョークバルブの開度を制御するように構成された開度制御部をさらに備え、
前記開度制御部は、前記検知部が前記始動失敗を検知した場合には、前記始動失敗を検知していない場合の始動時よりも前記チョークバルブの開度を大きくするように制御する
請求項1乃至4の何れか一項に記載の始動失敗判定・検知装置。
【請求項6】
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するように構成された取得部と、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジンの始動失敗を検知するように構成された検知部と、
を備え、
前記エンジンの吸気通路に設けられたチョークバルブの開度を制御するように構成された開度制御部をさらに備え、
前記開度制御部は、前記検知部が前記始動失敗を検知した場合には、前記始動失敗を検知していない場合の始動時よりも前記チョークバルブの開度を大きくするように制御し、
前記開度制御部は、点火コイルの温度勾配の変動回数に基づいてカウントされる始動失敗の回数に応じてチョーク開度を徐々に変動させるように制御す
る
始動失敗判定・検知装置。
【請求項7】
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するように構成された取得部と、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジンの始動失敗を検知するように構成された検知部と、
を備え、
前記エンジンの吸気通路に設けられたチョークバルブの開度を制御するように構成された開度制御部と、
前記点火コイルの温度と前記チョークバルブの開度との関係性を示す複数の関係情報を記憶するための記憶部と、
をさらに備え、
前記開度制御部は、前記検知部が前記始動失敗を検知しているか否かに応じて前記複数の関係情報のうち一つの前記関係情報を選択し、選択した前記関係情報に基づいて前記チョークバルブの開度を制御す
る
始動失敗判定・検知装置。
【請求項8】
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するステップと、
前記温度計測値の
所定時間における温度勾配が第2閾値以下である場合に前記エンジンの始動失敗を検知するステップと、
を含む始動失敗判定・検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの始動失敗を検知するための始動失敗判定・検知装置及び始動失敗判定・検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの始動時にチョークバルブの開度を制御して空燃比を調整するように構成されたオートチョーク装置が提案されている。例えば、特許文献1には、エンジン始動時のエンジン温度を代表する温度情報を用いてチョークバルブの開度を決定するオートチョーク装置が開示されている。エンジン温度には、潤滑油温度、シリンダヘッド温度、冷却水温度等が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの始動では、始動に失敗してクランキングのみが繰り返される場合がある。特許文献1には、エンジンの始動失敗を検知するための構成や始動失敗を回避するように開度制御を実行するための構成が開示されていない。なお、エンジンの回転数に基づいてエンジンの始動失敗を検知する手法が知られている。しかし、このような手法では、高価なセンサと複雑な処理が必要となるため、構成が複雑となる。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示は、簡易な構成でエンジンの始動失敗を検知することが可能な始動失敗判定・検知装置及び始動失敗判定・検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る始動失敗判定・検知装置は、
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するように構成された取得部と、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジンの始動失敗を検知するように構成された検知部と、
を備える。
【0007】
本開示に係る始動失敗判定・検知方法は、
エンジンの点火コイルの温度を計測するための温度センサから温度計測値を取得するステップと、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジンの始動失敗を検知するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡易な構成でエンジンの始動失敗を検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置を備えるエンジンの全体構成を例示する概略図である。
【
図2】一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置が始動失敗を検知する場合のコイル温度と回転数の時間的変化の一例を示す概念図である。
【
図4】一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置が使用する関係情報を説明するための図である。
【
図5】一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
(エンジンの全体構成)
図1は、一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置100を備えるエンジン1の全体構成を例示する概略図である。エンジン1は、小型農機具、草刈り機、田植え機、耕運機等の作業機械のエンジンであってもよいし、車両のエンジンであってもよい。
図1に示すように、エンジン1のシリンダヘッドには、エンジン1に点火するための点火プラグ3と、吸気量及び排気量を調整するための吸気弁4及び排気弁5とが設けられる。エンジン1は、点火コイルの温度を計測するための温度センサ2を備える。
【0012】
吸気弁4が設けられた吸気管6には、気化器(キャブレター)7が接続される。気化器7は下流側に配置されたスロットルバルブ8と、その上流に配置されたチョークバルブ9とを備える。気化器7には空気と燃料(不図示)が供給される。エンジン1の吸気通路に設けられたチョークバルブ9は、ステッピングモータ11によって開閉駆動される。
【0013】
図1に示すように、エンジン1は、エンジン1で駆動されることによって交流を発生するように構成された発電機12に連結されていてもよい。エンジン1のクランク軸には手動始動のためのリコイルスタータ(図示せず)を連結されてもよい。
【0014】
始動失敗判定・検知装置100は、オートチョーク装置であってもよいし、オートチョーク装置と通信可能な装置であってもよい。幾つかの実施形態では、始動失敗判定・検知装置100は、ステッピングモータ11を駆動して、温度センサ2の温度に対応した適度な空燃比が得られるようにチョークバルブ9の開度を制御する。
【0015】
(始動失敗判定・検知装置の構成)
以下、始動失敗判定・検知装置100の構成について説明する。始動失敗判定・検知装置100は、例えば、プロセッサを含む中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、及びI/Oインターフェイス等を備え、マイクロコンピュータとして構成される。
【0016】
図2は、一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、始動失敗判定・検知装置100は、温度計測値を取得するように構成された取得部110と、エンジン1の始動失敗を検知するように構成された検知部120と、チョークバルブ9の開度を制御するように構成された開度制御部130と、複数の関係情報を記憶するための記憶部140と、を備える。
【0017】
取得部110は、エンジン1の点火コイルの温度を計測するための温度センサ2から温度計測値を取得する。検知部120は、取得部110が取得した温度計測値の時間的推移に基づいてエンジン1の始動失敗を検知する。開度制御部130は、エンジン1の始動時には、記憶部140に記憶されている関係情報を参照して、チョークバルブ9の開度を制御する。開度制御部130は、例えば、ステッピングモータ11への入力パルス数を制御することによってチョークバルブ9の開度を制御する。
【0018】
記憶部140が記憶する関係情報は、点火コイルの温度とチョークバルブ9の開度との関係性を示す情報である。関係情報は、マップであってもよいし、テーブルであってもよいし、関数であってもよい。
【0019】
記憶部140は、始動失敗判定・検知装置100が備えるROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリや、RAMなどの揮発性メモリであっても良いし、始動失敗判定・検知装置100に接続された外部記憶装置であっても良い。また、記憶部140は、後述する制御処理を実行するためのプログラムを記憶していてもよい。
【0020】
図3は、一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置100が始動失敗を検知する場合のコイル温度と回転数の時間的変化の一例を示す概念図である。曲線21は、コイル温度の時間的推移を示し、曲線22は回転数の時間的推移を示している。横軸は、始動制御開始時からの経過時間を示している。
【0021】
図示の例では、エンジン1の始動を行うための点火コイルの通電とクランキングが繰り返されている。そのため、曲線22が示すように、回転数が短時間において繰り返し上昇している。しかし、これらの回転数の上昇は、いずれも初爆に至らないクランキングであって始動に失敗していることを示している。そのため、回転数は、上昇後にすぐに下降している。このようなクランキングの繰り返しが続いても、エンジン1の始動ができないままとなるため、途中で始動失敗を検知する必要がある。
【0022】
ここで、点火プラグ3のコイル温度に着目すると、曲線21が示すように、コイル温度は、始動失敗によるクランキングが繰り返している間に、少しずつ上昇することがわかる。エンジン1の始動に成功した場合には、コイル温度はエンジン温度の上昇に伴って大きく上昇するが、始動に失敗する場合には、コイル温度は少ししか上昇しない。検知部120は、このようなコイル温度の温度上昇の挙動の違いを利用して始動失敗を検知する。リコイルスタータによる始動であっても、コイル温度は通常の始動制御の場合と同様に上昇するため、同様の原理で始動失敗を検知可能である。
【0023】
例えば、検知部120は、始動制御開始時における温度計測値である初期コイル温度からの温度計測値の温度変位と温度計測値の所定時間における温度勾配とに基づいて始動失敗を検知する。検知部120は、温度変位が第1閾値以上であり、かつ温度勾配が第2閾値以下である場合に、始動失敗を検知するように構成されてもよい。
【0024】
第1閾値及び第2閾値は、エンジン1の大きさ、搭載状態等に基づいて適正値に定められる。例えば、第1閾値は、2℃であり、所定時間は100秒間であり、第2閾値は、0.01℃/秒である。なお、第1閾値は、1℃以上10℃未満の範囲内の値に設定されることが好ましい。所定時間は10秒以上であることが好ましい。第2閾値は、0.01℃/秒以上0.1℃/秒未満の範囲内の値に設定されることが好ましい。例えば、
図3に示す例では、検知部120は、初期コイル温度T0に対して、温度勾配が第2閾値以上で温度変位が第1閾値TXとなったときの経過時間tのタイミングで始動失敗を検知する。
【0025】
図4は、一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置100が使用する関係情報を説明するための図である。例えば、
図4に示すように、記憶部140には、2種類の関係情報が記憶される。破線31は、通常の開度制御時に使用する関係情報を示し、実線32は、始動失敗判定・検知時の開度制御時に使用する関係情報を示している。これらの関係情報は、いずれも、コイル温度が低い場合には開度が小さく、コイル温度が高い場合には開度が大きくなり、全開状態(例えば、開度90%~100%の状態)に近づく関係性を示している。また、
図4に示す例では、通常の開度制御時に使用する関係情報では、チョークバルブ9の最低開度が全閉状態(例えば、開度0~10%の状態)の開度であるのに対し、始動失敗判定・検知時の開度制御時に使用する第2関係情報では、チョークバルブ9の最低開度が全閉状態の開度ではない。
【0026】
開度制御部130は、検知部120が始動失敗を検知した場合には、始動失敗を検知していない場合の始動時よりもチョークバルブ9の開度を大きくするように制御する。例えば、開度制御部130は、始動失敗判定・検知時に実線32が示す関係情報を使用することにより、通常時に使用する破線31が示す関係情報よりもチョークバルブ9の開度よりも開き気味に制御する。このような制御により、空気の流入量が増大して空燃比が下がるため、クランキングの繰り返しに伴って発生するかぶりを抑制できる。
【0027】
図4には、2種類の関係情報のみが示されている。しかし、3種類以上の関係情報が使用されてもよい。3種類以上の関係情報を使用する構成では、例えば、コイル温度、回転数等の状態量等に応じて、関係情報が使い分けられてもよい。この場合において、開度制御部130は、検知部120が始動失敗を検知しているか否かに応じて複数の関係情報のうち一つの関係情報を選択し、選択した関係情報に基づいてチョークバルブ9の開度を制御してもよい。例えば、幾つかの関係情報は、
図4に例示する破線31に対する実線32の開度の補正量を変更したものであってもよい。
【0028】
始動失敗時の制御は、上記説明のようなチョークバルブ9の開度制御に限られない。例えば、始動失敗時の制御は、燃料供給量の制御であってもよい。すなわち、始動失敗判定・検知装置100は、チョークバルブ9以外の装置を制御して空燃比を調整し、始動失敗を回避するように構成されてもよい。始動失敗時の制御であっても始動成功時の制御であっても、始動が成功した後は、開度制御部130は、チョークバルブ9の開度を大きくして通常のエンジン1の運転状態の開度に制御する。
【0029】
始動失敗判定・検知装置100が使用する関係情報は、一つの関数であってもよく、始動失敗判定・検知装置100は、その関数に含まれる係数を適宜変更してもよい。始動失敗判定・検知装置100は、このような係数の変更により、複数の関係情報を使用する構成と実質的に同一の機能を実現してもよい。
【0030】
(処理の流れ)
以下、始動失敗判定・検知装置100が実行する処理の流れについて説明する。
図5は、一実施形態に係る始動失敗判定・検知装置100が実行する処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、エンジン1の始動時に実行される。エンジン1の始動制御開始時には、チョークバルブ9は、運転状態の開度すなわち全開状態となるように制御され、その開度から以降の処理において温度計測値に応じた開度に制御される。
【0031】
図5に示すように、始動失敗判定・検知装置100は、エンジン1の点火コイルの温度を計測するための温度センサ2から温度計測値を取得する(ステップS1)。具体的には、まず、始動失敗判定・検知装置100の取得部110は、初期コイル温度T0を取得及び記憶する。また、始動失敗判定・検知装置100の取得部110は、その後の温度計測値の時間的推移を取得する。なお、取得部110は、温度計測値の時系列データをまとめて取得してもよいし、温度計測値が得られるたびに最新の温度計測値を取得してもよい。
【0032】
始動失敗判定・検知装置100は、取得した温度計測値の時間的推移に基づいてエンジン1の複数始動失敗か否かを判定する(ステップS2)。例えば、始動失敗判定・検知装置100の検知部120は、コイル温度の変位と温度勾配を各々の閾値と比較して判別を行う。始動失敗であると判別した場合(ステップS2;Yes)、始動失敗判定・検知装置100の開度制御部130は、チョークバルブ9に対して始動失敗判定・検知時の開度制御を実行する(ステップS3)。一方、始動失敗でないと判別した場合(ステップS2;No)、始動失敗判定・検知装置100の開度制御部130は、チョークバルブ9に対して通常時の開度制御を実行する(ステップS4)。これらの開度制御は、記憶部140の関係情報を利用してもよい。
【0033】
なお、
図5に示す一例では、失敗時と通常時の2種類の開度制御を使い分けている。しかし、始動失敗判定・検知装置100の開度制御は、先に述べたように、3種類以上の開度制御を使い分けるものであってもよいし、関数のパラメータを適宜変更して実現されるものであってもよい。また、始動失敗判定・検知装置100は、開度制御を行う構成に限られない。始動失敗判定・検知装置100は、始動の失敗を検知し、その検知結果を他の装置に送信するように構成されてもよい。
【0034】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、複数の実施形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0035】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0036】
(1)本開示に係る始動失敗判定・検知装置(100)は、
エンジン(1)の点火コイルの温度を計測するための温度センサ(2)から温度計測値を取得するように構成された取得部(110)と、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジン(1)の始動失敗を検知するように構成された検知部(120)と、
を備える。
【0037】
通常のエンジン(1)では、エンジン(1)の始動に失敗してクランキングのみが繰り返される場合であっても、例えば、スタータモータやリコイル装置によって点火コイルに通電が行われる。そのため、エンジン(1)の始動失敗時においても点火コイルの温度が上昇する。しかし、このような始動失敗時の温度上昇は、始動成功時の温度上昇とは挙動(例えば、温度変位や温度勾配)が異なる。上記構成によれば、このような点火コイルの温度上昇の挙動の違いに着目しているため、エンジン(1)の始動失敗を検知することができる。また、温度計測値の時間的推移のみに基づいて始動失敗を検知するため、簡易な構成で実現することができる。
【0038】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、
前記検知部(120)は、始動制御開始時における前記温度計測値である初期コイル温度からの前記温度計測値の温度変位と前記温度計測値の所定時間における温度勾配とに基づいて前記始動失敗を検知する。
【0039】
点火コイルの温度勾配だけに着目した構成では、通電による温度勾配ではなく、外気温の変動による点火コイルの温度勾配が生じた場合であってもエンジン(1)の始動失敗と誤検知する虞がある。一方、点火コイルの温度変位だけに着目した構成では、エンジン(1)の始動が成功した場合であっても温度上昇が生じるため、エンジン(1)の始動失敗と誤検知する虞がある。上記構成によれば、初期コイル温度からの温度変位と時間的推移における温度勾配とに基づいてエンジン(1)の始動失敗を検知する。そのため、上記の誤検知の発生リスクを低減できる。
【0040】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の構成において、
検知部(120)は、温度変位が第1閾値以上であり、かつ温度勾配が第2閾値以下である場合に、始動失敗を検知する。
【0041】
上記構成によれば、温度変位と第1閾値との対比と、温度勾配と第2閾値との対比によって、エンジン(1)の始動失敗を容易に検知することができる。
【0042】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の構成において、
前記第1閾値は、1℃以上10℃未満の範囲内で設定された値であり、
前記第2閾値は、0.01℃/秒以上0.1℃/秒未満の範囲内で設定された値である。
【0043】
上記構成によれば、第1閾値及び第2閾値がエンジン(1)の始動失敗を判定するのに適した値に設定されているため、エンジン(1)の始動失敗を高精度に検知することができる。
【0044】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、
前記エンジン(1)の吸気通路に設けられたチョークバルブ(9)の開度を制御するように構成された開度制御部(130)をさらに備え、
前記開度制御部(130)は、前記検知部(120)が前記始動失敗を検知した場合には、前記始動失敗を検知していない場合の始動時よりも前記チョークバルブ(9)の開度を大きくするように制御する。
【0045】
上記構成によれば、エンジン(1)の始動失敗が検知された場合に、エンジン(1)の通常の始動時よりもチョークバルブ(9)の開度を大きくするように制御する。これにより、点火プラグ(3)のかぶりを抑制し、エンジン(1)の始動の成功率を向上させることが可能となる。
【0046】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の構成において、前記開度制御部(130)は、点火コイルの温度勾配の変動回数に基づいてカウントされる始動失敗の回数に応じてチョーク開度を徐々に変動させるように制御する。
【0047】
上記構成によれば、始動失敗の回数に応じたチョーク開度の制御が可能となる。
【0048】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の構成において、
前記エンジン(1)の吸気通路に設けられたチョークバルブ(9)の開度を制御するように構成された開度制御部(130)と、
前記点火コイルの温度と前記チョークバルブ(9)の開度との関係性を示す複数の関係情報を記憶するための記憶部(140)と、
をさらに備え、
前記開度制御部(130)は、前記検知部(120)が前記始動失敗を検知しているか否かに応じて前記複数の関係情報のうち一つの前記関係情報を選択し、選択した前記関係情報に基づいて前記チョークバルブ(9)の開度を制御する。
【0049】
上記構成によれば、エンジン(1)の始動失敗が検知されている場合には、エンジン(1)の始動失敗が検知されていない場合とは異なる関係情報を使用してチョークバルブ(9)の開度を制御する。これにより、エンジン(1)の始動の成功率を向上させることが可能となる。
【0050】
(8)本開示に係る始動失敗判定・検知方法は、
エンジン(1)の点火コイルの温度を計測するための温度センサ(2)から温度計測値を取得するステップと、
前記温度計測値の時間的推移に基づいて前記エンジン(2)の始動失敗を検知するステップと、
を含む。
【0051】
上記方法によれば、点火コイルの温度上昇の挙動の違いに着目しているため、エンジン(1)の始動失敗を検知することができる。また、温度計測値の時間的推移のみに基づいて始動失敗を検知するため、簡易な構成で実現することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 エンジン
2 温度センサ
3 点火プラグ
4 吸気弁
5 排気弁
6 吸気管
7 気化器
8 スロットルバルブ
9 チョークバルブ
11 ステッピングモータ
12 発電機
21,22 曲線
31 破線
32 実線
100 始動失敗判定・検知装置
110 取得部
120 検知部
130 開度制御部
140 記憶部