(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】アルカリ加水分解に強化されたセパレーター
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20240228BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240228BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240228BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240228BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C25B13/02 302
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/68
(21)【出願番号】P 2020501271
(86)(22)【出願日】2018-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2018068515
(87)【国際公開番号】W WO2019011844
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-01-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-19
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】593194476
【氏名又は名称】アグフア-ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミューズ,ウィレム
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002389(JP,A)
【文献】特表2011-524606(JP,A)
【文献】特開2015-117417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体(10)、支持体の片側に隣接した第1多孔性ポリマー層(20)および 支持体の反対側に隣接した第2多孔性ポリマー層(30)を含んでなる
アルカリ水電解用のセパレーターであって、
第1多孔性ポリマー層
の最大孔径(PDmax(1))および第2多孔性ポリマー層
の最大孔径(PDmax(2))が互いに異なり、
PDmax(2)/PDmax(1)の比が1.25から10の間であり、
PDmax(1)は0.05μmから0.3μmの間であり、およびPDmax(2)は0.2μmから6.5μmの間であり、ここで、前記PDmax(1)および前記PDmax(2)はAS
TM F316試験方法に従う
バブルポイント試験法を用いて測定され、かつ、
第1及び第2多孔質ポリマー層が、膜ポリマーおよび親水性無機材料を含むことを特徴とする、
アルカリ水電解用のセパレーター。
【請求項2】
PDmax(2)/PDmax(1)の比が2から7.5の間である、請求項1に記載
のセパレーター。
【請求項3】
前記膜ポリマーが、ポリスルフォン(PS)またはポリエーテルスルホン(PES)である、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項4】
前記親水性無機材料が、TiO
2、BaSO
4およびZrO
2からなる群から
選択される、請求項1に記載のセパレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ加水分解に強化されたセパレーターおよびそのようなセパレーターを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、重要な未来のエネルギー担体であると考えられ、このことは水素がエネルギーを有用な形で貯蔵でき、そして送達できることを意味している。エネルギーは酸素を用いた発熱燃焼反応により放出され、これにより水を形成する。そのような燃焼反応中に、炭素を含む温室効果ガスは放出されない。
【0003】
エネルギー担体として、水素はエネルギー源自体にならず、様々なエネルギー転換工程により化石燃料、再生可能源、または原子力のような他のエネルギー源から生成され得るだけである。
【0004】
アルカリ水電解は、水素の重要な製造方法である。
【0005】
アルカリ水電解セル、所謂セパレーターまたは隔膜は、異なる極性の電極を分離して、これらの電子機器伝導部(電極)間の短絡を防ぎ、そしてガスの交差を回避することによりH2(カソードで形成される)とO2(アノードで形成される)の再結合を防止するために使用される。これらすべての機能を提供している間、セパレーターもカソードからアノードへのOH-イオンの輸送に関し、高度にイオン伝導性であるべきである。
【0006】
特許文献1は、有機布(organic fabric)をドープ溶液に含浸することにより調製したイオン透過性隔膜を開示し、これはガラスシートに適用される。転相後、次いで隔膜はガラスシートから取り出される。しかし特許文献1で開示された方法により調製されたセパレーターの両側の最大孔径の間に大きな差が存在する。
【0007】
特許文献2(VITO)は、イオン透過性ウェブ強化セパレーター膜の調製法を開示する。この方法は、対称的な特性を持つ膜を導く。この方法は、ウェブおよび適切なペーストを準備し、ウェブを垂直位置に導き、ウェブの両側をペーストで等しくコーティングしてペーストをコーティングしたウェブを生産し、そして対称的な表面細孔形成工程および対称的な凝析工程をペーストをコーティングしたウェブに適用して、ウェブ強化膜を生産する工程を含む。
【0008】
特許文献3(Agfa Gevaert)は、特許文献2に記載された対称的特徴を持つ膜を生産するための製造技術を開示する。
【0009】
上で言及した特許出願に開示されたセパレーターは、セパレーターの両側に同一孔サイズを有し、本明細書ではこれを対称的セパレーターと称する。
【0010】
ガスの交差(gas crossover)を回避することによるH2とO2との再結合を防止するために、セパレーターは「小さい」孔サイズを有することが好ましい。そのような「小さい」孔サイズを有する対称的セパレーターが不利な点は、所謂「バブルトラップ(bubble trap)」が発生する点である。電極で可溶化したガスは、セパレーターの内側の高温により電極から分離することが可能である。そのようなガスはセパレーターの両側の小さい孔によりセパレーターから出ることはできず、効率の損失をもたらす。
【0011】
一方で、カソードからアノードへのOH-イオンの効率的輸送を確実にするために、「より大きな」孔サイズが好適である。OH-イオンの効率的輸送には、セパレーターへの電解質の効率的浸透が必要である。
【0012】
対称的セパレーターでは、上に述べた効率的セパレーターの全ての要件、すなわち「バブルトラップ」の回避、ガス交差の回避およびOH-イオンの効率的輸送を確実にすることを達成することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第232923A号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1776490A号明細書
【文献】国際公開第2009/147084パンフレット
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は強化セパレーターを提供することであり、これはバブルトラップが発生しない十分なガスバリア特性、およびイオン伝導性を確実にするためにセパレーターへの電解質の十分な浸透を併せ持つ。
【0015】
この目的は請求項1に定めるセパレーターで実現される。
【0016】
本発明の別の目的は、そのようなセパレーターを生産するための製造法を提供することである。
【0017】
この目的は請求項7に定める製造法により実現される。
【0018】
本発明のさらなる目的は、これからの記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による強化セパレーターの態様を模式図で示す。
【
図2】本発明による強化セパレーターの製造法の模式図を図解で示す。
【
図3】本発明による強化セパレーターの製造法の別の態様を模式図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
アルカリ加水分解に強化されたセパレーター
本発明によるアルカリ加水分解に強化されたセパレーター(1)は、多孔性支持体(10)、支持体の片側に隣接した第1多孔性ポリマー層(20)および支持体の反対側に隣接した第2多孔性ポリマー層(30)を含んでなり、第1多孔性ポリマー層の外面の最大孔径(PDmax(1))および第2多孔性ポリマー層の外面の最大孔径(PDmax(2))が互いに異なり、そしてPDmax(2)/PDmax(1)の比が1.25から10の間であることを特徴とする。
【0021】
PDmax(2)/PDmax(1)の比は、好ましくは2から7.5の間、より好ましくは2.5から5の間である。
【0022】
PDmax(1)は、好ましくは0.05μmから0.3μmの間、より好ましくは0
.08μmから0.25μmの間、最も好ましくは0.1μmから0.2μmの間である。PDmax(2)が好ましくは0.2μmから6.5μmの間、より好ましくは0.2μmから1.50μmの間、最も好ましくは0.2μmから0.5μmの間である。
【0023】
より小さいPDmax(1)は、H2およびO2の効率的な分離を確実にする一方、PDmax(2)はセパレーター中の電解質の良好な浸透を確実にして十分なイオン伝導性をもたらす。
【0024】
セパレーターの多孔性は、好ましくは30から70%の間、より好ましくは40から60%の間である。
【0025】
セパレーターの厚さは、好ましくは100から1000μmの間、より好ましくは250から750μmの間である。セパレーターの厚さが100μm未満である場合、その物理的強度は恐らく不十分であり、厚さが1000μmより高い場合、電解効率が下がる可能性がある。
【0026】
言及する最大孔径は、好ましくは以下のようなバブルポイントテスト法(Bubble
Point Test method)を使用して測定される。その方法は米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials Standard:ASMT)の方法F316に記載されている。
【0027】
多孔性支持体
多孔性支持体はセパレーターを強化してその機械的強度を確実にするために使用される。
【0028】
多孔性支持体は、多孔性の布、多孔性の金属板または多孔性のセラミック板を含む。
【0029】
多孔性支持体は、好ましくは多孔性の布、より好ましくは多孔性のポリマー布である。
【0030】
適切な多孔性のポリマー布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルホン(PS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド/ナイロン(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)、スルホン化ポリエーテル-エーテルケトン(s-PEEK)、モノクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレンとテトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミドおよびm-アラミドから調製される。
【0031】
セパレーターの温度限界(強アルカリ条件下での長期安定性)は、使用する多孔性支持体に依存する。
【0032】
例えば低温(<80℃)での応用に好適な多孔性支持体はポリプロピレンで作られ、一方、高温(<120℃)での応用に好適な多孔性支持体はエチレン-テトラフルオロ-エチレンコポリマーから、またはポリエーテル-エーテルケトンから調製される。
【0033】
多孔性ポリマー布は、織物または不織布である。
【0034】
多孔性支持体の開放面積は、電解質の支持体への良好な浸透を確実にするために、20から80%の間、より好ましくは40から70%の間である。
【0035】
多孔性支持体は、好ましくは100から1000μmの間、より好ましくは300から700μmの間の平均直径を有する、孔またはメッシュ開口を有する。
【0036】
支持体は、好ましくは100から750μmの間、より好ましくは125から300μmの間の厚さを有する。
【0037】
多孔性支持体は、特許文献2および特許文献3に開示されているような製造法を可能とし、そして以下に開示されるような連続的ウェブであることが好ましい。
【0038】
多孔性ポリマー層
第1および第2多孔性ポリマー層は、膜ポリマーとも呼ばれるポリマーを含んでなる。該ポリマーは、以下に記載のようにセパレーターの調製において転相工程の結果である三次元の多孔性ネットワークを形成する。
【0039】
膜ポリマーは、好ましくは、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0040】
PVDFおよびビニリデンフルオリド(VDF)-コポリマーは、それらの酸化/還元耐性およびフィルム形成特性から好適である。これらの中でもVDFのターポリマー、ヘキサンフルオロプロピレン(HFP)およびクロロトリフルオリロエチレン(CTFE)は、それらの優れた膨潤特性、耐熱性および電極への接着により好適である。
【0041】
特に好適な膜ポリマーは、例えば欧州特許出願公開第3085815号明細書の段落[0027]から[0032]に開示されているようなポリスルホンである。
【0042】
別の好適な膜ポリマーは、欧州特許出願公開第3085815号明細書の段落[0021]から[0026]に開示されているポリエーテルスルホン(PES)である。ポリエーテルスルホンは、これも欧州特許出願公開第3085815号明細書に記載されているようなポリスルホンと混合することができる。
【0043】
多孔性ポリマー層は、好ましくは親水性無機材料も含んでなる。
【0044】
親水性無機材料は、セパレーターを通るイオン伝導性をさらに改善することができる。
【0045】
親水性無機材料はTi02、HfO2、Al2O3、ZrO2、Zr3(PO4)4、Y2O3、SiO2、プロブスカイト酸化物、SiC、BaSO4およびC(Pt/Rh/Ru)からなる群から選択されることが好ましい。
【0046】
より好適な親水性無機材料は、金属酸化物および水酸化物である。
【0047】
大変好適な親水性無機材料は、TiO2、BaSO4およびZrO2である。
【0048】
アルカリ加水分解に強化されたセパレーターの製造
上記のアルカリ加水分解に強化されたセパレーターは、
-以下に記載するようなドープ溶液を支持体のいずれの表面にも適用し、
-適用したドープ溶液の転相を行い、これにより支持体の片側に第1多孔性ポリマー層を、そして支持体の反対側に第2多孔性ポリマー層を得る、
ことからなる工程を含んでなる製造法により調製されることが好ましく、ここで第1多孔
性ポリマー層の外面の最大孔径(PDmax(1))および第2多孔性ポリマー層の外面の最大孔径(PDmax(2))は互いに異なる。
【0049】
強化セパレーターの好適な製造法は、特許文献2(VITO)および特許文献3(Agfa Gevaert)に開示されている。それらの方法はウェブ強化型セパレーターをもたらし、ここでウェブ、すなわち多孔性支持体はセパレーターに良く埋め込まれ、セパレーターの表面にウェブは出現しない。
【0050】
しかし両出願とも、その製造法は対称的セパレーターをもたらす。
【0051】
本発明では同じ製造法であるが、セパレーターの各側で異なるドープ溶液を使用し、かつ/またはセパレーターの各側で異なる相分離工程、特に異なるVIPS工程を使用することが好ましい。そのような方法を用いて、上記のような非対称セパレーターを得ることができる。
【0052】
ドープ溶液
ドープ溶液は、上記のような膜ポリマー、上記のような親水性無機材料、および溶媒を含んでなることが好ましい。
【0053】
ドープ溶液の溶媒は、ここで膜ポリマーを溶解することができる有機溶媒が好ましい。さらに有機溶媒は好ましくは水混和性である。
【0054】
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリルおよびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0055】
ドープ溶液は、得られるポリマー層の特性、例えばそれらの多孔性およびそれらの外面での最大孔径、を至適化するために他の材料をさらに含んでなる場合がある。
【0056】
ドープ溶液は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセテート(PVAc)、メチルセルロースおよびポリエチレンオキシドのような細孔形成促進剤(pore forming promoting agent)を含んでなることが好ましい。これらの化合物は、最大孔径および/または多孔性ポリマー層の多孔性に影響を及ぼすことができる。
【0057】
ドープ溶液中のこのような細孔形成促進剤の濃度は、好ましくは0.1重量%から15重量%の間、より好ましくは0.5重量%から10重量%の間である。
【0058】
特に好適な態様では、ドープ溶液はグリセロールを含んでなる。グリセロールは多孔性ポリマー層の細孔形成にも影響を有する。
【0059】
グリセロールの濃度は、好ましくは0.1重量%から15重量%の間、より好ましくは0.5重量%から5重量%の間である。
【0060】
第1多孔性ポリマー層を調製するために使用されるドープ溶液は、第2多孔性ポリマー層を調製するために使用されるドープ溶液と同一でよく、あるいは両ポリマー層に使用するドープ溶液は互いに異なってもよい。
【0061】
第1多孔性ポリマー層を調製するために使用されるドープ溶液は、小さい最大孔径(P
Dmax(1))を得るために至適化される場合があり、一方、第2多孔性ポリマー層を調製するためのドープ溶液は、例えばドープ溶液中のグリセロールおよび/またはPVPの濃度を至適化することにより、より大きい最大孔径(PDmax(2))を得るために至適化される場合がある。
【0062】
ドープ溶液の適用
ドープ溶液は、任意のコーティングまたは流延技術により支持体の表面に適用する場合がある。
【0063】
好適なコーティング技術は、例えば押出しコーティングである。
【0064】
高度に好適な態様では、ドープ溶液は、2つのコーティングダイ(
図2および3、200および300)が多孔性支持体のいずれの側にも配置される、スロットダイコーティング技術により適用される。
【0065】
スロットダイコーティング技術は、ドープ溶液を予め定めた温度に維持し、ドープ溶液を支持体上に均一に分配し、そして適用したドープ溶液のコーティング厚を調整することができる。
【0066】
スロットコーティングダイで使用される場合のドープ溶液の粘度は、コーティング温度および1s-1のせん断速度で、好ましくは1から500Pa.sの間、より好ましくは10から100Pa.sの間である。
【0067】
ドープ溶液は好ましくはずり減粘性(shear-thinning)である。100s-1のせん断速度での粘度に対する1s-1のせん断速度での粘度の比は、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも2.5、最も好ましく少なくとも5である。
【0068】
多孔性支持体は好ましくは連続的ウェブであり、これは
図2および3に示すようにスロットコーティングダイ(200,300)間を下に向かって輸送される。
【0069】
コーティング厚は、所望の厚さを有する第1および第2ポリマー層を得るために調整される。
【0070】
適用直後に、多孔性支持体はドープ溶液で含浸される。
【0071】
転相工程
転相工程は、所謂液体誘起相分離(Liquid Induced Phase Separation:LIPS)工程を含んでなり、そして好ましくは蒸気誘起相分離(Vapour Induced Phase Separation:VIPS)工程とLIPS工程の組み合わせを含んでなる。
【0072】
LIPSおよびVIPSは両方とも非溶媒誘起転相法である。
【0073】
LIPS工程では、ドープ溶液で両側をコーティングした多孔性支持体を、ドープ溶液の溶媒と混和性の非溶媒に接触させる。
【0074】
一般にこれは、両側をドープ溶液でコーティングした多孔性支持体を、凝析浴とも呼ばれる非溶媒浴に含浸することにより行われる。
【0075】
非溶媒は、好ましくは、水か、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミ
ド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルアセトアミド(DMAC)からなる群から選択される非プロトン性溶媒および水の混合物か、PVPまたはPVAのような水溶性ポリマーの水溶液か、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノールのようなアルコールおよび水の混合物かである。
【0076】
非溶媒は、最も好ましくは水である。
【0077】
水浴の温度は、好ましくは20から90℃の間、より好ましくは40から70℃の間である。
【0078】
コーティングしたポリマー層から非溶媒浴への移動、および、非溶媒のポリマー層への移動は、転相および三次元的な多孔性ポリマーネットワークを導く。
【0079】
好適な態様では、いずれの側もドープ溶液でコーティングされた連続ウェブ(100)は、
図2および3に示すように、垂直位置にある凝析浴(800)に向かって下に移動させられる。
【0080】
VIPS工程では、ドープ溶液でコーティングされた多孔性支持体が最初に加湿空気に暴露された後、凝析浴に含浸される。
【0081】
このようなシステムでは典型的であるが、水は非溶媒なので、加湿空気暴露工程に関係する水移動は相分離を導く。
【0082】
図2に示す製造法では、VIPSは、スロットコーティングダイ(200,300)と、凝析浴(800)中の非溶媒の表面との間の領域400で起こり、ここは、例えば熱的隔離金属板(500)で環境から遮蔽されている。
【0083】
VIPS工程での水移動の程度および速度は、空気の速度、相対湿度および空気の温度、ならびに暴露時間を調整することにより制御することができる。
【0084】
暴露時間は、スロットコーティングダイ(200,300)と凝析浴(800)中の非溶媒の表面との間の距離d、および/または細長いウェブ100がスロットコーティングダイから凝析浴に向かって移動する速度を変えることにより調整することができる。
【0085】
VIPS領域(400)の相対湿度は、凝析浴の温度、および環境および凝析浴からVIPS領域(400)の遮蔽により調整することができる。
【0086】
空気の速度は、VIPS領域(400)中の換気装置(420)の回転速度により調整することができる。
【0087】
第1多孔性ポリマー層を生じるセパレーターの一方の側で行われるVIPS工程、と、第2多孔性ポリマー層を生じるセパレーターの反対側で行われるVIPS工程とは、互いに同一でも異なってもよい。
【0088】
セパレーターのそれぞれの側(
図3、400(1)および(2))で行われるVIPS工程について、上記パラメーターの至適化により、第1多孔性ポリマー層(PDmax(1))と、第2多孔性ポリマー層(PDmax(2))との外面の最大孔径が調整されて、互いに異なり、そして上記の値を有するようになる。
【0089】
転相工程後、好ましくは凝析浴中でのLIPS工程後、洗浄工程を行う場合がある。
【0090】
転相工程後、または場合により洗浄工程後、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0091】
図2および
図3は、本発明によるセパレーターを製造するための好適態様を模式図により具体的に説明する。
【0092】
多孔性支持体は、好ましくは連続的ウェブ(100)である。
【0093】
ウェブは、供給ローラー(600)から解かれ、そして2つのコーティングユニット(200)および(300)の間で下に向かって垂直位置に導かれる。
【0094】
これらのコーティングユニットを用いて、ドープ溶液がウェブのいずれの側にもコートされる。ウェブのいずれの側のコーティング厚も、ドープ溶液の粘度およびコーティングユニットとウェブ表面との間の距離を至適化することにより調整することができる。好適なコーティングユニットは、欧州特許第2296825B号明細書の段落[0043]、[0047]、[0048]、[0060]、[0063]および
図1に説明されている。
【0095】
ドープ溶液で両側をコーティングされたウェブは、次いで距離dを通って凝析浴(800)に向けて輸送される。
【0096】
凝析浴では、LIPS工程が行われる。
【0097】
VIPS工程は、VIPS領域の凝析浴に入る前に行われる。
図2では、VIPS領域(400)がコーティングされたウェブの両側で同一であるが、
図3ではコーティングされたそれぞれの側のVIPS領域(400(1))および(400(2))は異なる。
【0098】
VIPS領域中の相対湿度(RH)および空気温度は、熱的に隔離された金属板を使用して至適化することができる。
図2では、VIPS領域(400)はそのような金属板(500)で環境から完全に遮蔽されている。次いで空気のRHおよび温度は、主に凝析浴の温度により決定される。VIPS領域中の空気の速度は、換気装置(420)により調整することができる。
【0099】
図3では、VIPS領域(400(1))および(400(2))が互いに異なる。
図2ではコーティングされたウェブの片側のVIPS領域(400(1))は、VIPS領域(400)と同一である。コーティングされたウェブの反対側のVIPS領域(400(2))は、領域(400(1))とは異なる。VIPS領域(400(2))を環境から遮蔽する金属板は無い。しかし今や、VIPS領域(400(2))は、熱的に隔離された金属板(500(2))により凝析浴から遮蔽されている。さらにVIPS領域400(2)中に換気装置は存在しない。これにより他のVIPS領域(400(2))のRHおよび空気温度に比べて、より高いRHおよび空気温度を有するVIPS領域(400(1))を生じる。
【0100】
VIPS領域中の高いRHおよび/または高い空気速度は、一般により大きな最大孔径を生じる。
【0101】
一方のVIPS領域中のRHは、好ましくは85%より高く、より好ましくは90%より高く、最も好ましくは95%より高いが、他方のVIPS領域中のRHは、好ましくは80%未満、より好ましくは75%未満、最も好ましくは70%未満である。
【0102】
相分離工程後、次に乾燥した強化セパレーターは巻き上げシステム(700)に輸送される。
【0103】
セパレーターの片側にライナーが設けられる場合があり、その後セパレーターおよび提供されたライナーが巻き上げられる。
【実施例】
【0104】
材料
以下の実施例で使用するすべての材料は、別に特定しない限りアルドリッチケミカル社(ALDRICH CHEMICAL Co.)(ベルギー)およびアクロス(ACROS)(ベルギー)のような標準的な供給元から容易に入手可能であった。使用した水は脱イオン水であった。
【0105】
PPS-布のポリフェニレンスルフィド多孔性支持体(織物、厚さ=350μm、開放面積=60%)はエヌビーシー社(NBC Inc.)から販売されている。
【0106】
Zr02、E101型(0.658μmの平均粒子サイズ、22.26m2/gの比表面積、および0.140ml/gの細孔容積を有する二酸化ジルコニウム)は、エムイーエル ケミカルズ(MEL-Chemicals)から販売されている。
【0107】
Udel P1700 NT LCD、ポリスルホン膜ポリマーは、ソルベイ(SOLVAY)から市販されている。
【0108】
グリセロール、細孔拡大剤(a pore widening agent)は、モーゼルマン(MOSSELMAN)から販売されている。
【0109】
NEP、N-エチル-ピロリドンは、ビーエーエスエフ(BASF)から販売されている。
【0110】
測定法
セパレーターの孔径は、所謂バブルポイント試験法を使用して測定した。
【0111】
バブルポイント試験法は、最も広く使用されている孔サイズの測定法である。これは所定の流体および一定の濡れの孔サイズについて、気泡を孔に通すために要する圧は、穴のサイズに逆比例するという事実に基づく。
【0112】
毛細管現象の理論では、毛細管中の水柱の高さは、毛細管の直径に反比例(indirectly propotional)する。
【0113】
表面張力は、毛細管中に水を保持し、そしてその直径が小さくなると、水柱の重量は高くなる。水は水柱の水と同じ同等の高さを有する圧で下に押し戻されることができる。したがって毛細管外の水を押すために必要な圧を測定することにより、毛細管の直径を算出することができる。
【0114】
実際に、フィルター要素(セパレーター)の孔サイズは、要素を流体で濡らし、そして泡の第1流が要素の上面から出る圧を測定することにより確立することができる。
【0115】
バブルポイント試験法の手順は、米国材料試験協会(ASMT)の方法F316に記載されている。
【0116】
フィルターの上部は液体に接し、底は空気に接するように配置し、フィルターホルダーは調節される圧源に連結される。空気圧が次第に上昇し、そして液体側でのバブルの形成が記録される。バブルポイント未満の圧では、ガスは拡散だけでフィルターを通過するが、圧が液体を孔から除くために十分高い場合、バルクフローが始まり、そしてバブルが見える。
【0117】
最初のバブルテスト圧は最大穴のサイズ(および場所)を決定し、オープンバブルポイント圧は、要素の平均孔サイズを決定する。
【0118】
バブルポイント、平均孔径、最大孔径、およびセパレーターのガス透過性は、ポロテック(POROTEC)から市販されているPOROLUX 1000を使用して測定した。
【実施例1】
【0119】
対称セパレーターS-SEPの調製
ドープ溶液は、表1の材料を混合することにより調製した。
【表1】
【0120】
セパレーターは、特許文献3、実施例2から5、および本件の
図2に開示されているように調製した。
【0121】
ドープ溶液を、1.7m幅のPPS-布の両側にスロットダイコーティング技術を使用して1m/分の速度でコーティングした。
【0122】
次いでコーティングした支持体を65℃に保った水浴(凝析浴、800)に向けて、輸送した。
【0123】
VIPS工程を行った後、閉鎖領域の水浴に入れた(400,d=7cm、RH=98%、換気なし)。
【0124】
次いでコーティングした支持体は、5分間、水浴に入れ、この間、液体誘起相分離(HIPS)が起こった。
【0125】
70℃でのインライン洗浄工程を水中で15分間行った後、得られたセパレーターを乾燥せずに巻き取り、その後、所望の形状に切断した。
【0126】
得られた対称セパレーターS-SEPは、500μmの全厚を有した。
【0127】
非対称セパレーターAs-SEPの調製
非対称セパレーターAs-SEPは、本出願の
図3に示す異なるVIPS工程を使用して上記のように調製した。
【0128】
異なるVIPS工程を、ドープ溶液(
図3,400(1)および400(2)、ここでd=7cm)をコーティングした多孔性支持体の各側で行った。
【0129】
VIPS領域400(2)は、環境に対して開放され、水浴の表面は熱的隔離金属板(500(2))で覆われていた。これにより70%のRHおよび25℃の空気温度を有するVIPS領域400(2)が生じた。
【0130】
VIPS領域400(1)は遮蔽版500(1)により環境から閉鎖され、そして水浴の表面は覆われていなかった。この領域中の換気(420)は1m/sであり、98%のRHおよび65℃の空気温度を生じた。
【0131】
S-SEPおよびAs-SEPの評価
セパレーターS-SEPおよびAs-SEPの両側のバブルポイント、平均孔径(PD
av)、最大孔径(PD
max)、およびガス透過性(5バールで測定)を、上記のように測定した。結果を表2に与える。
【表2】
【0132】
表2の結果から、非対称セパレーターAs-SEPについて、両面は異なる最大孔径およびバブルポイントを有することが明らかである。
【0133】
そのような非対称セパレーター(As-SEP)を対称セパレーター(S-SEP)に代えてアルカリ電解セルに使用して水素を生成した場合、以下が観察された。
-より高純度の水素および酸素が生成された。
-定常状態に達するために必要な時間が短い。
-より低い水解離電圧は、より効率的な方法であることを示している。